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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137705
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】開繊装置及び開繊方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20230922BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
D02G3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044023
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健一
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛裕
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036UA21
(57)【要約】
【課題】広幅に開繊した繊維束を安定的に得ること。
【解決手段】長尺の繊維束105を連続して繰り出す繰出機20と、繰出機20より繰り出される繊維束105を下流側に搬送する一対のフィードロール60と、搬送経路110における繰出機20とフィードロール60との間に複数が配置される開繊バー30と、搬送経路110における開繊バー30とフィードロール60との間に配置され、フィードロール60の周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、外周面44が繊維束105に接触する一対の増速弛緩ロール40と、を備え、一対の増速弛緩ロール40は、開繊バー30の下流側に配置される第1増速弛緩ロール41と、搬送経路110における第1増速弛緩ロール41とフィードロール60との間に配置され、繊維束105における第1増速弛緩ロール41が接触する面とは異なる面に接触する第2増速弛緩ロール42とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を集束剤により集束させた長尺の繊維束を連続して繰り出す繰出機と、
それぞれ円柱状に形成されて前記繰出機より繰り出される前記繊維束を双方の間に挟み込みながら互いに反対方向に回転することにより前記繊維束を前記繊維束の搬送経路における下流側に搬送する一対のフィードロールと、
棒状に形成されて前記搬送経路における前記繰出機と前記フィードロールとの間に複数が配置され、前記搬送経路における上流側から下流側に向かうに従って前記繊維束における異なる面に交互に接触する位置に配置される複数の開繊バーと、
それぞれ円柱状に形成されて前記搬送経路における前記開繊バーと前記フィードロールとの間に配置され、前記フィードロールの周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、外周面が前記繊維束に接触する一対の増速弛緩ロールと、
を備え、
一対の前記増速弛緩ロールは、
前記搬送経路における前記開繊バーの下流側に配置される第1増速弛緩ロールと、
前記搬送経路における前記第1増速弛緩ロールと前記フィードロールとの間に配置され、前記繊維束における前記第1増速弛緩ロールが接触する面とは異なる面に接触する第2増速弛緩ロールとを有することを特徴とする開繊装置。
【請求項2】
前記フィードロールと前記増速弛緩ロールの回転中心軸に沿う方向に前記フィードロールと前記増速弛緩ロールとを見た場合に、一対の前記フィードロールのそれぞれの前記回転中心軸を結ぶ線の中点と、一対の前記増速弛緩ロールのそれぞれの前記回転中心軸を結ぶ線の中点と、を繋ぐ直線を境界線として前記回転中心軸が同じ側に位置する前記フィードロールと前記増速弛緩ロールとは、前記フィードロールの回転方向に対して前記増速弛緩ロールの回転方向が反対方向である請求項1に記載の開繊装置。
【請求項3】
前記第1増速弛緩ロールと前記第2増速弛緩ロールとは、所定の間隔をあけて配置される請求項1または2に記載の開繊装置。
【請求項4】
円柱状に形成されて前記搬送経路における前記増速弛緩ロールと前記フィードロールとの間に配置されるガイドロールを備える請求項1~3のいずれか1項に記載の開繊装置。
【請求項5】
複数の前記開繊バーのうち、前記搬送経路における最も下流側に位置する前記開繊バーは、一対の前記増速弛緩ロールのそれぞれの回転中心軸を結ぶ線と平行な方向において、前記回転中心軸を結ぶ線の中点の位置に対して前記第2増速弛緩ロール寄りに配置される請求項1~4のいずれか1項に記載の開繊装置。
【請求項6】
前記増速弛緩ロールの回転中心軸に沿う方向に前記増速弛緩ロール見た場合に、前記繊維束が前記第1増速弛緩ロールと前記第2増速弛緩ロールとに対してS字状または逆S字状に掛け回されることにより、前記第1増速弛緩ロールと前記第2増速弛緩ロールとは、前記繊維束に対して互いに異なる面に接触する請求項1~5のいずれか1項に記載の開繊装置。
【請求項7】
炭素繊維を集束剤により集束させた長尺の繊維束を繰出機より連続して繰り出し、前記繰出機より繰り出される前記繊維束を互いに反対方向に回転する一対のフィードロールの間に挟んで前記繊維束の搬送経路における下流側に搬送しながら、前記搬送経路における前記繰出機と前記フィードロールとの間に複数が配置される棒状の開繊バーに対して前記搬送経路における上流側から下流側に向かうに従って前記繊維束における異なる面を複数の前記開繊バーに対して交互に接触させることにより前記繊維束の開繊を行う開繊方法であって、
前記搬送経路における前記開繊バーと前記フィードロールとの間に配置され、それぞれ円柱状に形成されて前記フィードロールの周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、前記搬送経路における前記開繊バーの下流側に配置される第1増速弛緩ロールと、前記搬送経路における前記第1増速弛緩ロールと前記フィードロールとの間に配置される第2増速弛緩ロールとを有する一対の増速弛緩ロールの外周面に対して前記繊維束を接触させ、
前記繊維束は、前記第1増速弛緩ロールと前記第2増速弛緩ロールとに対して異なる面を接触させることにより開繊を行う開繊方法。
【請求項8】
前記増速弛緩ロールは、前記フィードロールの周速に対して周速を200%以上650%以下となる範囲内で増速させる請求項7に記載の開繊方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開繊装置及び開繊方法に関し、特に、炭素繊維の繊維束の開繊を行う開繊装置及び開繊方法にする。
【背景技術】
【0002】
従来から炭素繊維の開繊方法として数多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には振動するバーを用いた炭素繊維の開繊方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、繊維束の搬送方向と直交する方向に延びる角部を有する開繊促進部材を備え、繊維束を開繊促進部材の角部に押し付けながら搬送することにより、繊維束を構成する繊維に幅方向のずれを生じさせ、繊維束の開繊を行う開繊装置が記載されている。また、特許文献2には、エアー供給器から繊維束にエアーを吹き付けることにより、繊維束をさらに開繊することが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、加熱される繊維束接触手段の表面に炭素繊維束を接触させて炭素繊維束を屈曲させながら繊維束接触手段に対して炭素繊維束を通過させることにより、油剤やサイジング剤(集束剤)を軟化させ、炭素繊維束を開繊させる開繊装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-163196号公報
【特許文献2】特開2014-129633号公報
【特許文献3】特開2017-203235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動するバーを用いて炭素繊維の繊維束の開繊を行った場合、繊維束に毛羽が発生することがあり、繊維束に発生する毛羽が原因となって、開繊工程の後工程にあるロールへ巻き付くことで歩留まり率が低下したり、繊維束毎の供給量に差が発生したりする可能性がある。また、開繊幅を広くするためにエアーを用いて開繊を行った場合、エアーにより繊維が飛散するため、集塵機や囲いを準備することで高コストになる可能性がある。このため、炭素繊維の繊維束を安定して広幅に開繊するのは大変困難なものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、広幅に開繊した繊維束を安定的に得ることのできる開繊装置及び開繊方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る開繊装置は、炭素繊維を集束剤により集束させた長尺の繊維束を連続して繰り出す繰出機と、それぞれ円柱状に形成されて前記繰出機より繰り出される前記繊維束を双方の間に挟み込みながら互いに反対方向に回転することにより前記繊維束を前記繊維束の搬送経路における下流側に搬送する一対のフィードロールと、棒状に形成されて前記搬送経路における前記繰出機と前記フィードロールとの間に複数が配置され、前記搬送経路における上流側から下流側に向かうに従って前記繊維束における異なる面に交互に接触する位置に配置される複数の開繊バーと、それぞれ円柱状に形成されて前記搬送経路における前記開繊バーと前記フィードロールとの間に配置され、前記フィードロールの周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、外周面が前記繊維束に接触する一対の増速弛緩ロールと、を備え、一対の前記増速弛緩ロールは、前記搬送経路における前記開繊バーの下流側に配置される第1増速弛緩ロールと、前記搬送経路における前記第1増速弛緩ロールと前記フィードロールとの間に配置され、前記繊維束における前記第1増速弛緩ロールが接触する面とは異なる面に接触する第2増速弛緩ロールとを有する。
【0009】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る開繊方法は、炭素繊維を集束剤により集束させた長尺の繊維束を繰出機より連続して繰り出し、前記繰出機より繰り出される前記繊維束を互いに反対方向に回転する一対のフィードロールの間に挟んで前記繊維束の搬送経路における下流側に搬送しながら、前記搬送経路における前記繰出機と前記フィードロールとの間に複数が配置される棒状の開繊バーに対して前記搬送経路における上流側から下流側に向かうに従って前記繊維束における異なる面を複数の前記開繊バーに対して交互に接触させることにより前記繊維束の開繊を行う開繊方法であって、前記搬送経路における前記開繊バーと前記フィードロールとの間に配置され、それぞれ円柱状に形成されて前記フィードロールの周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、前記搬送経路における前記開繊バーの下流側に配置される第1増速弛緩ロールと、前記搬送経路における前記第1増速弛緩ロールと前記フィードロールとの間に配置される第2増速弛緩ロールとを有する一対の増速弛緩ロールの外周面に対して前記繊維束を接触させ、前記繊維束は、前記第1増速弛緩ロールと前記第2増速弛緩ロールとに対して異なる面を接触させることにより開繊を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る開繊装置及び開繊方法は、広幅に開繊した繊維束を安定的に得ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る開繊装置の模式図である。
図2図2は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、第1増速弛緩ロールが第2増速弛緩ロールの下側に配置される形態を示す模式図である。
図3図3は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対のフィードロールが第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図4図4は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対のフィードロールが第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図5図5は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対の増速弛緩ロールが第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図6図6は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対の増速弛緩ロールが第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図7図7は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対の増速弛緩ロールと一対のフィードロールがそれぞれ第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図8図8は、実施形態に係る開繊装置の変形例であり、一対の増速弛緩ロールと一対のフィードロールがそれぞれ第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。
図9図9は、評価試験を行った開繊装置の装置構成を示す模式図である。
図10図10は、評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る開繊装置及び開繊方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る開繊装置10の模式図である。なお、以下の説明では、互いに直交する第1方向X、第2方向Y、第3方向Zを用いて説明する。第1方向Xは、後述する繰出機20や増速弛緩ロール40、ガイドロール50、フィードロール60の回転中心軸が延びる方向になっている。第1方向Xは、開繊装置10を任意の設置場所に設置して通常の使用形態で使用する場合に、水平方向に延びる方向になっている。第2方向Yは、第1方向Xに対して直交する方向になっており、開繊装置10を任意の設置場所に設置して通常の使用形態で使用する際に、第1方向Xに対して水平方向において直交する方向になっている。第3方向Zは、第1方向Xと第2方向Yとの双方に対して直交する方向になっている。このため、第3方向Zは、開繊装置10を任意の設置場所に設置して通常の使用形態で使用する際における上下方向、或いは重力方向になっている。また、以下の説明では、開繊装置10を通常の使用形態で使用する際における重力方向における上側を開繊装置10の上側として説明し、重力方向における下側を開繊装置10の下側として説明する。
【0014】
<開繊装置10>
本実施形態に係る開繊装置10は、炭素繊維を集束剤により集束させた長尺の繊維束105を開繊することができる装置になっている。即ち、繊維束105は、樹脂材料等からなる集束剤によって炭素繊維を集束させた、炭素繊維の束になっており、開繊装置10は、このように構成される繊維束105を、厚みが薄く広幅の形状に開繊する装置になっている。
【0015】
開繊装置10は、繰出機20と、開繊バー30と、増速弛緩ロール40と、ガイドロール50と、フィードロール60とを備えている。これらの繰出機20と、開繊バー30と、増速弛緩ロール40と、ガイドロール50と、フィードロール60とは、第1方向Xにおける位置が全て同じ位置に配置されており、開繊装置10により開繊を行う繊維束105の搬送経路110上にそれぞれ配置されている。換言すると、繊維束105の搬送経路110は、長尺の繊維束105を、繰出機20、開繊バー30、増速弛緩ロール40、ガイドロール50、フィードロール60に掛け回したり接触させたりすることにより、繊維束105を搬送するための連続した経路として形成される。
【0016】
また、本実施形態では、繰出機20から繰り出された繊維束105を、繊維束105の搬送経路110に沿って繰出機20が位置する側からフィードロール60が位置する側に搬送をする。このため、本実施形態に係る開繊装置10においては、繊維束105の搬送経路110における繰出機20が位置する側が上流側となり、フィードロール60が位置する側が下流側となって、繊維束105の搬送を行う。
【0017】
<繰出機20>
繰出機20は、円柱状の形状で形成され、繊維束105が円筒状に巻き取られたロービング100が円柱の外周面側に取り付けられる。繰出機20は、円柱の軸心が回転中心軸となって回転可能になっており、回転中心軸が延びる方向が第1方向Xとなる向きで配置されている。繰出機20は、回転中心軸を中心として回転することにより、繰出機20に取り付けられるロービング100から繊維束105を連続して繰り出すことができる。
【0018】
また、繰出機20には、複数のロービング100を第1方向Xに並べて取り付けることができる。図1は、第1方向Xにおいて繰出機20に取り付けられた1つのロービング100が配置されている位置での模式図になっているが、開繊装置10には、複数の繊維束105が第1方向Xに並べて配置され、図1に示すような搬送経路110が、第1方向Xに複数形成される。
【0019】
<フィードロール60>
フィードロール60は、一対が設けられており、第2方向Yと第3方向Zとのうち少なくとも一方における位置が、繰出機20とは異なる位置に配置されている。本実施形態では、フィードロール60は、図1に示すように第3方向Zにおける位置は繰出機20と同じ位置で、第2方向Yにおける位置が、繰出機20とは異なる位置に配置されている。
【0020】
一対のフィードロール60は、それぞれ円柱状の形状で形成されており、回転中心軸67が延びる方向が第1方向Xとなる向きで配置され、それぞれ回転中心軸67を中心として回転可能になっている。円柱状の形状で形成されるフィードロール60は、直径が50mm~300mm程度であるのが望ましい。一対のフィードロール60は、繰出機20より繰り出される繊維束105を、一対のフィードロール60の双方の間に挟み込みながら互いに反対方向に回転することにより、繊維束105を繊維束105の搬送経路110における開繊装置10の下流側に搬送することができる。
【0021】
詳しくは、一対のフィードロール60は、第1フィードロール61と、第2フィードロール62とを有しており、第1フィードロール61は、外周面64が弾力性を有するゴム部材からなり、第2フィードロール62は、外周面64の表面粗さが梨地になっている。このうち、第1フィードロール61には、エアシリンダ66が連結されており、第1フィードロール61は、エアシリンダ66から付与される力によって第2フィードロール62に押し付けられている。また、第2フィードロール62には、駆動モータ65が連結されており、第2フィードロール62は、駆動モータ65から伝達される駆動力により、回転中心軸67を中心として回転可能になっている。
【0022】
なお、第1フィードロール61の外周面64を形成するゴム部材の硬さは、第1フィードロール61を第2フィードロール62に押し付ける際の力の大きさや、繊維束105の搬送速度等に応じて適宜設定するのが好ましい。また、第1フィードロール61に連結されて第1フィードロール61を第2フィードロール62に押し付ける駆動装置は、エアシリンダ66以外であってもよい。第1フィードロール61には、例えば油圧シリンダが連結され、第1フィードロール61は、油圧シリンダから付与される力により第2フィードロール62に押し付けられるように構成されていてもよい。
【0023】
第1フィードロール61は、エアシリンダ66からの力により外周面64が第2フィードロール62の外周面64に押し付けられるため、第2フィードロール62が駆動モータ65から伝達される駆動力によって回転することにより、第1フィードロール61も連れ回りによって回転する。つまり、第1フィードロール61は、第1フィードロール61の外周面64における第2フィードロール62に接触する部分が、第2フィードロール62の外周面64における第1フィードロール61に接触する部分と共に同じ方向に移動することにより、第1フィードロール61は回転する。これにより、第1フィードロール61は、回転中心軸67に沿った方向に見た場合における回転方向が、第2フィードロール62の回転方向の反対方向となって回転する。
【0024】
第1フィードロール61と第2フィードロール62の回転方向は、第1フィードロール61の外周面64と第2フィードロール62の外周面64とにおける、互いに対向する部分同士が、繊維束105の搬送経路110における上流側から開繊装置10の下流側に向かって移動する方向になっている。
【0025】
一対のフィードロール60は、これらのように、駆動モータ65から伝達される駆動力により回転するため、繰出機20より繰り出される繊維束105を、第1フィードロール61と第2フィードロール62との間に挟み込んだ状態で回転することにより、繊維束105を繊維束105の搬送経路110における下流側に搬送することが可能になっている。即ち、第1フィードロール61は、外周面64が弾力性を有するゴム部材からなるため、第2フィードロール62との間に繊維束105が位置する部分では第1フィードロール61の外周面64が弾性変形をすることにより、第1フィードロール61と第2フィードロール62との間に繊維束105を挟み込むことができる。これにより、第1フィードロール61及び第2フィードロール62と、繊維束105とは、高い圧力で接触するため、第1フィードロール61と第2フィードロール62とが回転することにより、繊維束105は、第1フィードロール61や第2フィードロール62との間の摩擦力によって移動し、搬送される。
【0026】
繊維束105は、このように一対のフィードロール60によって搬送するため、繊維束105の搬送速度は、駆動モータ65から伝達される駆動力により回転する、フィードロール60の回転速度を調整することにより、調整することができる。
【0027】
繊維束105を繰り出す繰出機20は、一対のフィードロール60から繊維束105に付与する張力によって繰出機20が回転することにより、繊維束105を繰り出すことが可能になっている。繰出機20は、繰出機20から繰り出す繊維束105の進行方向とは逆方向の張力を発生する、いわゆるバックテンションロールとして設けられている。このため、繰出機20は、繰出機20から繰り出す繊維束105に対して、繊維束105がフィードロール60から付与される張力によって搬送経路110に沿って進む方向の反対方向の力を付与することが可能になっている。即ち、繰出機20は、繊維束105が繰出機20から繰り出される方向の反対方向の力を、繊維束105に対して付与することが可能になっている。
【0028】
<開繊バー30>
開繊バー30は、棒状に形成されて搬送経路110における繰出機20とフィードロール60との間に回転不可の状態で複数が配置されている。本実施形態では、複数の開繊バー30は、第2方向Yにおいて繰出機20とフィードロール60との間に配置されている。棒状に形成される複数の開繊バー30は、延在方向がそれぞれ第1方向Xとなる向きで配置される。複数の開繊バー30は、繰出機20とフィードロール60との間の位置において、繰出機20が位置する側からフィードロール60が位置する側に向かって、いわゆる千鳥状に配置されている。即ち、複数の開繊バー30は、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向かって千鳥状に配置されている。
【0029】
詳しくは、複数の開繊バー30は、繰出機20が位置する側からフィードロール60が位置する側に向かうに従って、第3方向Zにおける位置が一方向と他方向とに交互に変化して配置されている。つまり、複数の開繊バー30うち、最も繰出機20寄りに位置する開繊バー30に対して、フィードロール60が位置する側で隣り合う開繊バー30は、最も繰出機20寄りに位置する開繊バー30に対して、第3方向Zにおける位置が一方向にずれて配置されている。さらに、この開繊バー30に対して、フィードロール60が位置する側で隣り合う開繊バー30は、第3方向Zにおいて一方向にずれて配置される開繊バー30に対して、第3方向Zにおける位置が他方向にずれて配置されている。
【0030】
これにより、複数の開繊バー30は、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向かって第3方向Zにおける位置が交互にずれる千鳥状に配置されている。本実施形態では、開繊バー30は、3本が配置されており、3本の開繊バー30は、繰出機20とフィードロール60との間で第2方向Yに並びつつ、両端の2本の開繊バー30は、第3方向Zにおける位置が互いに近い位置に配置され、中央の開繊バー30は、両端の2本の開繊バー30に対して、第3方向Zにおける位置が異なる位置に配置されている。即ち、本実施形態では、第2方向Yに並ぶ3本の開繊バー30のうち、中央の開繊バー30は、両端の2本の開繊バー30に対して、第3方向Zにおける位置が上側に配置されている。
【0031】
繊維束105は、これらのように千鳥状に配置される複数の開繊バー30のそれぞれに掛け回されている。その際に、繊維束105は、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向かうに従って開繊バー30の配置位置が交互にずれる方向における、外側から開繊バー30に対して掛け回されている。即ち、複数の開繊バー30が、第2方向Yに並びつつ、第3方向Zにおける位置が交互にずれることにより千鳥状に配置される場合は、第3方向Zにおける位置が相対的に下側に位置する開繊バー30に対しては、繊維束105は開繊バー30に対して下側から掛け回され、第3方向Zにおける位置が相対的に上側に位置する開繊バー30に対しては、繊維束105は開繊バー30に対して上側から掛け回される。
【0032】
このため、複数の開繊バー30は、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向かうに従って、繊維束105における異なる面に交互に接触する。換言すると、複数の開繊バー30は、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向かうに従って、繊維束105における異なる面に交互に接触する位置に配置されている。
【0033】
これらのように配置される開繊バー30は、表面粗さが梨地になっている。また、開繊バー30は、加熱することが可能になっている。開繊バー30は、例えば、加熱装置(図示省略)で加熱した気体または液体の熱媒体を内部に通すことが可能になっており、開繊バー30の内部に流れた熱媒体から温度が伝達されることにより加熱することができる。これにより、開繊バー30は、開繊バー30に接触した繊維束105を加熱することができる。
【0034】
<増速弛緩ロール40>
増速弛緩ロール40は、繊維束105の搬送経路110における開繊バー30とフィードロール60との間に一対が配置されている。一対の増速弛緩ロール40は、それぞれ円柱状に形成されており、それぞれ外周面44の表面粗さが梨地になっている。円柱状に形成される一対の増速弛緩ロール40は、回転中心軸47が延びる方向が第1方向Xとなる向きで配置され、それぞれ回転中心軸47を中心として回転可能になっている。増速弛緩ロール40は、直径がフィードロール60の直径よりも大きくなっている。増速弛緩ロール40の直径は、例えば、100mm~300mm程度であるのが望ましい。
【0035】
一対の増速弛緩ロール40はそれぞれ、例えば、加熱装置(図示省略)で加熱した気体または液体の熱媒体を内部に通すことが可能になっており、増速弛緩ロール40の内部に流れた熱媒体から温度が伝達されることにより加熱することができる。これにより、増速弛緩ロール40は、増速弛緩ロール40に接触した繊維束105を加熱することができる。
【0036】
一対の増速弛緩ロール40は、第1増速弛緩ロール41と、第2増速弛緩ロール42とを有しており、第1増速弛緩ロール41は、繊維束105の搬送経路110における開繊バー30の下流側に配置されている。また、第2増速弛緩ロール42は、繊維束105の搬送経路110における第1増速弛緩ロール41とフィードロール60との間に配置されている。
【0037】
これらの第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、所定の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、第2方向Yにおける位置がほぼ同じ位置になっており、第3方向Zにおける第2増速弛緩ロール42の位置が、第1増速弛緩ロール41の下側に配置されている。このため、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、第3方向Zにおいて所定の間隔をあけて配置されている。第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間隔は、極力近い方が望ましく、例えば、1mm~50mm程度であるのが望ましい。ここでいう第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間隔は、詳細には、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とにおける対向する外周面44の間隔になっており、言い換えると、ロール隙間になっている。
【0038】
一対の増速弛緩ロール40には、駆動モータ45が連結されており、一対の増速弛緩ロール40には、駆動モータ45から伝達される駆動力により、それぞれ回転中心軸47を中心として回転可能になっている。本実施形態では、駆動モータ45は、第2増速弛緩ロール42に連結されており、駆動モータ45で発生された駆動力は、第2増速弛緩ロール42に伝達される。
【0039】
第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、ギヤ等からなる動力伝達機構(図示省略)を介して連結されており、駆動モータ45から第2増速弛緩ロール42に伝達された駆動力は、動力伝達機構を介して第1増速弛緩ロール41に伝達される。これにより、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、駆動モータ45から伝達される駆動力により、それぞれの回転中心軸47を中心としてそれぞれ回転可能になっている。
【0040】
その際に、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間で駆動力を伝達する動力伝達機構は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とで、回転方向が互いに反対方向となって回転させることができるように構成されている。これにより、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、駆動モータ45から伝達される駆動力により、それぞれの回転中心軸47を中心として、回転方向が互いに反対方向となってそれぞれ回転することができる。
【0041】
繊維束105は、繊維束105の搬送経路110における開繊バー30の下流側の位置で、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との双方に掛け回され、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とのそれぞれの外周面44が繊維束105に接触する。その際に、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対してそれぞれ異なる面が接触するように掛け回される。即ち、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに繊維束105を掛け回した際には、第2増速弛緩ロール42は、繊維束105における第1増速弛緩ロール41が接触する面とは異なる面に接触する。
【0042】
具体的には、増速弛緩ロール40の回転中心軸47に沿う方向に増速弛緩ロール40見た場合に、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対して、S字状または逆S字状に掛け回される。即ち、繊維束105における、開繊バー30に掛け回されている位置から第1増速弛緩ロール41に向かう部分は、第1増速弛緩ロール41に対しては、第2増速弛緩ロール42が位置する側の反対側から第1増速弛緩ロール41に掛け回される。繊維束105はさらに、第1増速弛緩ロール41に掛け回されている位置から、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間を通って第2増速弛緩ロール42が位置する側の向かい、第2増速弛緩ロール42に掛け回される。これにより、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対して、S字状または逆S字状に掛け回される。
【0043】
その際に、繊維束105における、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間に位置する部分から見て、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41に掛け回される部分と、第2増速弛緩ロール42に掛け回される部分とで、異なる面が第1増速弛緩ロール41や第2増速弛緩ロール42に接触して掛け回される。これにより、繊維束105が掛け回される第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、繊維束105に対して互いに異なる面に接触する。
【0044】
このように第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、繊維束105に対しては互いに異なる面に接触するが、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、駆動モータ45から伝達される駆動力により回転をする際には、回転方向が互いに反対方向となって回転する。このため、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、それぞれ外周面44における繊維束105に接触している部分が、繊維束105の搬送方向における上流側から下流側に移動する方向に回転をする。
【0045】
その際に、増速弛緩ロール40は、フィードロール60の周速に対して、周速が650%以下となる範囲内で増速して回転する。即ち、増速弛緩ロール40を回転させる駆動モータ45は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とを、周速がフィードロール60の周速に対して650%以下となる範囲内で、フィードロール60の周速に対して増速させて回転させる。具体的には、一対の増速弛緩ロール40のそれぞれは、フィードロール60の周速に対して、周速が200%以上650%以下となる範囲内でフィードロール60に対して増速して回転する。
【0046】
増速弛緩ロール40は、周速をフィードロール60の周速よりも増速して回転させ、回転速度が設定した回転速度に達したら、その速度を保って一定回転させることにより、繊維束105の張力を弛緩させて繊維束105の開繊を行うことが可能になっている。フィードロール60の周速に対して増速させて回転させる増速弛緩ロール40の周速は、フィードロール60の周速とは個別に変更することが可能になっている。即ち、駆動モータ45から伝達される駆動力により回転をする増速弛緩ロール40の回転速度は、フィードロール60の回転速度とは個別に変更することができる。
【0047】
増速弛緩ロール40とフィードロール60とは、それぞれ回転可能になっているが、一対の増速弛緩ロール40と一対のフィードロール60とは、回転方向が異なって回転をする。詳しくは、増速弛緩ロール40同士の間とフィードロール60同士の間を繋ぐ線を境界線70とする場合に、境界線70に対して回転中心軸47、67が同じ側に位置するフィードロール60と増速弛緩ロール40とは、フィードロール60の回転方向に対して増速弛緩ロール40の回転方向が反対方向になっている。
【0048】
この場合における境界線70は、一対のフィードロール60のそれぞれの回転中心軸67を結ぶ線68の中点68aと、一対の増速弛緩ロール40のそれぞれの回転中心軸47を結ぶ線48の中点48aと、を繋ぐ直線になっている。フィードロール60と増速弛緩ロール40とは、このように定義される境界線70に対して、回転中心軸47、67が同じ側に位置するフィードロール60と増速弛緩ロール40とで、回転方向が互いに反対方向になっている。
【0049】
つまり、本実施形態では、境界線70に対して、第1増速弛緩ロール41の回転中心軸47と第1フィードロール61の回転中心軸67とが同じ側に位置し、第2増速弛緩ロール42の回転中心軸47と第2フィードロール62の回転中心軸67とが同じ側に位置している。このため、一対の増速弛緩ロール40と一対のフィードロール60とは、第1増速弛緩ロール41と第1フィードロール61との回転方向が互いに反対方向になっており、第2増速弛緩ロール42と第2フィードロール62との回転方向が互いに反対方向になっている。
【0050】
<ガイドロール50>
ガイドロール50は、繊維束105の搬送経路110における増速弛緩ロール40とフィードロール60との間に配置されている。ガイドロール50は、円柱状の形状で形成されており、外周面の表面粗さが梨地になっている。ガイドロール50は、回転中心軸が延びる方向が第1方向Xとなる向きで配置され、外部から入力される力に応じて回転中心軸を中心として回転可能なフリーロールになっている。ガイドロール50は、直径が30mm~100mm程度であるのが望ましい。
【0051】
ガイドロール50は、繊維束105の搬送経路110における増速弛緩ロール40とフィードロール60との間に配置されるため、ガイドロール50には、繊維束105の搬送経路110における増速弛緩ロール40とフィードロール60との間で繊維束105が掛け回される。即ち、ガイドロール50は、一対の増速弛緩ロール40のうち、繊維束105の搬送経路110において相対的に下流側に位置する第2増速弛緩ロール42の下流側の位置で、ガイドロール50に対して繊維束105が掛け回される。
【0052】
本実施形態では、ガイドロール50は、増速弛緩ロール40同士の間とフィードロール60同士の間を繋ぐ線を境界線70に対して、第2増速弛緩ロール42が位置する側に配置され、ガイドロール50の外周面の一部の位置が、境界線70の近傍に位置する位置に配置されている。このため、ガイドロール50は、ガイドロール50に掛け回された繊維束105を、繊維束105の搬送経路110におけるガイドロール50の下流側では境界線70に沿って搬送される位置に位置させることができる。
【0053】
<増速弛緩ロール40の繊維束105への接触範囲>
第2増速弛緩ロール42の下流側にはガイドロール50が配置され、第1増速弛緩ロール41の上流側には開繊バー30が配置されているが、ガイドロール50や開繊バー30は、増速弛緩ロール40に対して、繊維束105を増速弛緩ロール40の周方向における1/2以上の範囲で接触させることのできる位置に配置されている。
【0054】
つまり、第2増速弛緩ロール42の下流側に配置されるガイドロール50は、ガイドロール50の外周面の一部の位置が、増速弛緩ロール40同士の間とフィードロール60同士の間を繋ぐ線を境界線70の近傍に位置する位置に配置されている。このため、ガイドロール50は、第2増速弛緩ロール42の掛け回される繊維束105を、第2増速弛緩ロール42の下流側の部分では第2増速弛緩ロール42に対して、第2増速弛緩ロール42の周方向において極力広い範囲に接触させることができる。これにより、ガイドロール50は、第2増速弛緩ロール42に掛け回される繊維束105を、第2増速弛緩ロール42の周方向における1/2以上の範囲で接触させることが可能になっている。
【0055】
また、第1増速弛緩ロール41における繊維束105の接触範囲を増やすことのできる開繊バー30は、第1増速弛緩ロール41の上流側に配置される複数の開繊バー30のうち、搬送経路110における最も下流側に位置する開繊バー30になっている。複数の開繊バー30のうち、最も下流側に位置する開繊バー30は、一対の増速弛緩ロール40のそれぞれの回転中心軸47を結ぶ線48と平行な方向において、回転中心軸47を結ぶ線48の中点48aの位置に対して、第2増速弛緩ロール42寄りに配置されている。このため、開繊バー30は、第1増速弛緩ロール41の掛け回される繊維束105を、第1増速弛緩ロール41の上流側の部分では第1増速弛緩ロール41に対して、第1増速弛緩ロール41の周方向において極力広い範囲に接触させることができる。これにより、最も下流側に位置する開繊バー30は、第1増速弛緩ロール41に掛け回される繊維束105を、第1増速弛緩ロール41の周方向における1/2以上の範囲で接触させることが可能になっている。
【0056】
なお、複数の開繊バー30のうち最も下流側に位置する開繊バー30は、第1増速弛緩ロール41の周方向における1/2以上の範囲で繊維束105を接触させることが可能な位置に配置されつつ、第1増速弛緩ロール41との距離は、第1増速弛緩ロール41に極力近い位置に配置されるのが好ましい。複数の開繊バー30のうち最も下流側に位置する開繊バー30は、第1増速弛緩ロール41に対して極力近い位置に配置されることにより、開繊バー30で加熱することにより温度を上昇させた繊維束105の温度を維持したまま、繊維束105を第1増速弛緩ロール41に搬送することができる。
【0057】
<開繊装置10の作用>
本実施形態に係る開繊装置10は、以上のような構成を含み、以下、その作用について説明する。開繊装置10によって繊維束105の開繊を行う際には、繊維束105が円筒状に巻き取られたロービング100を繰出機20に取り付け、ロービング100から繊維束105を引き出して開繊バー30、増速弛緩ロール40、ガイドロール50に掛け回し、一対のフィードロール60の間に通す。これにより、繊維束105を、繊維束105の搬送経路110に沿って配置する。
【0058】
この状態で、増速弛緩ロール40とフィードロール60とをそれぞれ回転させる。これにより、繊維束105は、第1フィードロール61と第2フィードロール62とに挟み込まれた状態で、これらのフィードロール60が回転することにより、繊維束105の搬送経路110における上流側から下流側に向けて引っ張られる。即ち、繊維束105は、搬送経路110における上流側から下流側に向かう方向の張力が作用する。繊維束105は、このようにフィードロール60によって付与される張力により、ロービング100が取り付けられる繰出機20から連続して繰り出される。
【0059】
その際に、繰出機20は、繊維束105に対して、繊維束105の進行方向とは逆方向に張力を発生させるバックテンションロールとして設けられている。このため、フィードロール60で発生する張力により繰出機20から繰り出される繊維束105は、フィードロール60により付与される張力とは反対方向に張力を繰出機20から付与されながら、繰出機20から連続して繰り出される。即ち、搬送経路110で搬送される繊維束105は、張力が付与された状態で搬送される。
【0060】
繊維束105に作用する張力は、このように、フィードロール60による、繊維束105を下流側に向けて引っ張る力と、繰出機20によって繊維束105に付与する繊維束105の進行方向とは逆方向の張力によって発生する。このため、繊維束105に作用する張力は、繰出機20のバックテンションロールによる張力の強弱を調整することにより、繊維束105に作用する張力の大きさを調整することができる。
【0061】
繰出機20から繰り出された繊維束105は、まず、繰出機20の下流に配置される開繊バー30の位置に到達して開繊バー30に接触する。開繊バー30は、内部に熱媒体が通ることにより加熱することが可能になっているため、開繊バー30に接触した繊維束105は、開繊バー30から温度が伝達されることにより加熱される。開繊バー30により加熱された繊維束105は、炭素繊維を集束させる集束剤も加熱されることにより集束剤が揮発する。これにより、集束剤により集束されていた炭素繊維が自由に動き易くなり、繊維束105は変形し易くなる。
【0062】
また、開繊バー30に接触する繊維束105は、開繊バー30に対して掛け回されることにより、開繊バー30の位置で進行方向が変化している。一方で、繊維束105は張力を付与されながら搬送されるため、開繊バー30の位置で進行方向が変化する繊維束105は、開繊バー30に押し付けられる状態になる。即ち、搬送経路110に沿って搬送される繊維束105は、回転不可の状態で配置される開繊バー30に接触して開繊バー30に押し付けられながら、開繊バー30の位置を通過する。
【0063】
このため、炭素繊維が動き易くなった繊維束105は、開繊バー30に押し付けられる際に、開繊バー30に押し付けられる方向、例えば、棒状に形成される開繊バー30の径方向における厚みが薄くなる方向に形状が変形する。即ち、繊維束105は、第1方向Xにおける幅が大きくなる方向に形状が変形し、これにより、開繊バー30の位置を通過する繊維束105は、開繊バー30により開繊される。
【0064】
また、開繊バー30は複数が配置されており、繊維束105は、複数の開繊バー30に対して繊維束105の異なる面が接触しながら開繊バー30に押し付けられ、開繊バー30の位置を通過する。このため、繊維束105は、開繊バー30に接触する両側の面から加熱され、開繊バー30に押し付けられることにより開繊するため、バランス良く開繊する。なお、本実施形態では、複数の開繊バー30は千鳥状に配置されているが、繊維束105をバランス良く開繊することができれば、開繊バー30は千鳥配置のような規則正しい配置に限定されず、適宜調整可能である。
【0065】
開繊バー30によって開繊された繊維束105は、搬送経路110に沿って搬送されることにより、増速弛緩ロール40の位置に到達する。増速弛緩ロール40は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との一対が設けられているため、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とのうち、相対的に上流側に位置する第1増速弛緩ロール41の位置に到達する。
【0066】
繊維束105が掛け回されることにより繊維束105が接触する増速弛緩ロール40は、フィードロール60の周速に対して周速を650%以下となる範囲内で増速して回転させ、回転速度が設定した回転速度に達したら、その速度を保って一定回転させる。一方で、繊維束105は、フィードロール60から付与される張力により搬送経路110に沿って移動するため、繊維束105の移動速度は、実質的にフィードロール60の周速と同じ速度になっている。
【0067】
このため、フィードロール60の周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して一定回転する増速弛緩ロール40は、増速弛緩ロール40に掛け回される繊維束105に対して、外周面44が滑りながら回転する。即ち、開繊バー30から搬送された繊維束105が掛け回される第1増速弛緩ロール41は、繊維束105に対して外周面44が滑りながら繊維束105に接触する。
【0068】
第1増速弛緩ロール41が滑りながら繊維束105に接触することによって第1増速弛緩ロール41から繊維束105が受ける力は、繊維束105に対しては、搬送経路110に沿った進行方向に繊維束105を押し進める方向の力として作用する。これにより、第1増速弛緩ロール41に掛け回される繊維束105は、周速がフィードロール60の周速に対して650%以下となる範囲内で増速して回転する第1増速弛緩ロール41により、搬送経路110に沿った進行方向に僅かに押し進められながら搬送される。
【0069】
第1増速弛緩ロール41が繊維束105に対して滑りながら接触することにより、繊維束105が搬送経路110における進行方向に押し進められた場合、繊維束105に作用する張力が低減して繊維束105は弛緩する。つまり、繊維束105には、フィードロール60によって搬送経路110における上流側から下流側に向けて引っ張られ、繰出機20によって、繊維束105がフィードロール60により引っ張られる方向の反対方向の力が付与されることにより、張力が作用する。即ち、繊維束105には、繊維束105の進行方向の反対方向の力が繰出機20によって付与されることにより、張力が作用する。
【0070】
このように張力が作用する繊維束105に対し、第1増速弛緩ロール41が繊維束105に対して滑りながら接触することによって繊維束105が進行方向に押し進められた場合、第1増速弛緩ロール41に掛け回されている部分では、繊維束105に作用する、繊維束105の進行方向の反対方向に向けた力が低減することになる。これにより、繊維束105における、第1増速弛緩ロール41に掛け回されている部分では、繊維束105に作用する張力が低減して繊維束105は弛緩するため、繊維束105は、張力の低減に伴って、張力が作用する方向に直交する方向への大きさが大きくなり易くなる。
【0071】
つまり、繊維束105に、繊維束105の延在方向の大きな張力が作用する状態では、繊維束105は張力によって延在方向に伸び易くなり、これに伴い、繊維束105の延在方向に直交する方向の大きさは小さくなり易くなる。このように繊維束105に作用する張力が低減した場合、繊維束105は、張力が作用していた方向である、繊維束105の延在方向への伸びは小さくなり、繊維束105は、張力が低減することにより自由な形状になり易くなるため、張力が作用している状態では小さくなり易くなっていた、繊維束105の延在方向に直交する方向の大きさが大きくなり易くなる。
【0072】
ここで、繊維束105に対して滑りながら接触することにより、繊維束105を搬送経路110に沿った進行方向に繊維束105を押し進めて繊維束105の張力を低減する第1増速弛緩ロール41は、内部に熱媒体が通ることにより加熱することが可能になっている。このため、第1増速弛緩ロール41は、接触する繊維束105を加熱することができ、繊維束105の集束剤を揮発させることにより、炭素繊維が自由に動き易い状態を維持することができる。これにより、第1増速弛緩ロール41は、繊維束105が変形し易い状態を維持しながら搬送することができる。
【0073】
また、繊維束105における第1増速弛緩ロール41に掛け回されている部分では、第1増速弛緩ロール41に掛け回されることにより、繊維束105の進行方向が第1増速弛緩ロール41により変えられ、第1増速弛緩ロール41に押し付けられる状態になっている。このため、炭素繊維が自由に動き易い状態となり、また、張力が作用している状態と比較して自由な形状になり易くなった繊維束105は、第1増速弛緩ロール41に押し付けられる方向、即ち、第1増速弛緩ロール41の径方向における厚みが薄くなり、第1方向Xにおける幅が大きくなる方向に形状が変形する。
【0074】
これにより、第1増速弛緩ロール41が滑りながら接触することにより、張力が低減しながら第1増速弛緩ロール41の位置を通過する繊維束105は、第1増速弛緩ロール41により開繊される。即ち、第1増速弛緩ロール41の位置を通過する繊維束105は、第1増速弛緩ロール41によって張力が低減し、張力が作用する方向に直交する方向への大きさの自由が高められると共に、第1増速弛緩ロール41が押し付けられることにより第1方向Xにおける幅が大きくなり、開繊される。
【0075】
また、本実施形態では、繊維束105は、複数の開繊バー30のうち最も下流側に位置する開繊バー30によって、第1増速弛緩ロール41に対して第1増速弛緩ロール41の周方向における1/2以上の範囲で接触する状態で掛け回されている。このため、繊維束105は、比較的長い距離で第1増速弛緩ロール41に接触するため、第1増速弛緩ロール41によって長い距離に亘って加熱されながら張力が低減され、開繊される。
【0076】
第1増速弛緩ロール41の下流側には、第2増速弛緩ロール42が配置されているため、第1増速弛緩ロール41により開繊された繊維束105は、第2増速弛緩ロール42の位置に到達する。第2増速弛緩ロール42も第1増速弛緩ロール41と同様に、周速がフィードロール60の周速に対して650%以下となる範囲内で増速して一定回転するため、第2増速弛緩ロール42も繊維束105に対して外周面44が滑りながら接触する。このため、第2増速弛緩ロール42に掛け回される繊維束105は、第2増速弛緩ロール42によって搬送経路110に沿った進行方向に僅かに押し進められながら搬送される。
【0077】
このため、繊維束105における第2増速弛緩ロール42に掛け回されている部分では、第1増速弛緩ロール41に掛け回されている部分と同様に、繊維束105に作用する張力が低減して繊維束105は弛緩する。また、第2増速弛緩ロール42も第1増速弛緩ロール41と同様に、内部に熱媒体が通ることにより加熱することが可能になっている。このため、第2増速弛緩ロール42は、接触する繊維束105を加熱することができ、繊維束105の集束剤を揮発させることにより、炭素繊維が自由に動き易い状態を維持することができる。これにより、第2増速弛緩ロール42は、繊維束105が変形し易い状態を維持しながら搬送することができる。
【0078】
さらに、繊維束105における第2増速弛緩ロール42に掛け回されている部分では、繊維束105の進行方向が第2増速弛緩ロール42により変えられ、第2増速弛緩ロール42に押し付けられる状態になっている。このため、繊維束105における第2増速弛緩ロール42に掛け回されている部分では、第1増速弛緩ロール41に掛け回される部分と同様に、第2増速弛緩ロール42の径方向における厚みが薄くなり、第1方向Xにおける幅が大きくなる方向に形状が変形する。
【0079】
これにより、第2増速弛緩ロール42が滑りながら接触することにより、張力が低減しながら第2増速弛緩ロール42の位置を通過する繊維束105は、第2増速弛緩ロール42により開繊される。即ち、第2増速弛緩ロール42の位置を通過する繊維束105は、第2増速弛緩ロール42によって張力が低減し、張力が作用する方向に直交する方向への大きさの自由が高められると共に、第2増速弛緩ロール42が押し付けられることにより第1方向Xにおける幅が大きくなり、開繊される。
【0080】
また、本実施形態では、繊維束105は、ガイドロール50によって、第2増速弛緩ロール42に対して第2増速弛緩ロール42の周方向における1/2以上の範囲で接触する状態で掛け回されている。このため、繊維束105は、比較的長い距離で第2増速弛緩ロール42に接触するため、第2増速弛緩ロール42によって長い距離に亘って加熱されながら張力が低減され、開繊される。
【0081】
また、これらのように繊維束105の開繊を行う第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42は、繊維束105に対してそれぞれ異なる面が接触する。このため、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42は、繊維束105に対して、異なる面から加熱しながら、第1増速弛緩ロール41や第2増速弛緩ロール42を押し付けて繊維束105の開繊を行うため、バランス良く開繊することができる。
【0082】
増速弛緩ロール40は、これらのように、繊維束105に対して滑りながら接触することにより繊維束105の張力を低減させ、繊維束105の開繊をさせるため、増速弛緩ロール40の回転速度は、必要とする繊維束105の開繊幅に応じて設定するのが好ましい。即ち、増速弛緩ロール40の回転速度は、周速がフィードロール60の周速に対して650%以下となる範囲内で増速させる回転速度で、必要とする繊維束105の開繊幅に応じて設定するのが好ましい。
【0083】
また、繊維束105を加熱する際における増速弛緩ロール40の温度は、繊維束105に使用されている集束剤の熱分解温度、若しくは集束剤の熱分解させたい量に応じて調整するのが好ましい。
【0084】
増速弛緩ロール40によって開繊された繊維束105は、搬送経路110に沿って搬送されることにより、増速弛緩ロール40の下流側に配置されるガイドロール50の位置に到達する。繊維束105は、ガイドロール50に掛け回されることにより、ガイドロール50によって進行方向が変えられるが、ガイドロール50はフリーロールであるため、ガイドロール50の位置に到達した繊維束105は、繊維束105の移動に伴ってガイドロール50が回転することにより、滑らかに進行方向が変化する。
【0085】
ガイドロール50により進行方向が変えられる繊維束105は、第1フィードロール61と第2フィードロール62との間の部分に繊維束105を向かわせる方向に、進行方向が変えられる。即ち、ガイドロール50に掛け回される繊維束105は、ガイドロール50により、一対のフィードロール60のそれぞれの回転中心軸67を結ぶ線68に対して直交する方向に進行方向を変えられる。
【0086】
ガイドロール50によって進行方向を変えられた繊維束105は、ガイドロール50の下流側に配置されるフィードロール60の位置に到達する。その際に、繊維束105は、ガイドロール50によって、進行方向を変えられているため、フィードロール60の位置に到達する繊維束105は、フィードロール60が有する第1フィードロール61と第2フィードロール62との間の部分に到達する。これにより、繊維束105は、第1フィードロール61と第2フィードロール62とに対してほぼ同時に接触し、回転する第1フィードロール61と第2フィードロール62との間に挟まれながら、開繊装置10の下流側に移動する。開繊装置10は、これらのように繊維束105の開繊を行い、開繊された繊維束105、開繊装置10の下流側の工程に搬送する。
【0087】
<実施形態の効果>
以上の実施形態に係る開繊装置10は、フィードロール60の周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転し、繊維束105に接触する増速弛緩ロール40を備えるため、繊維束105の張力を増速弛緩ロール40によって低減しながら開繊することができる。また、増速弛緩ロール40は、第1増速弛緩ロール41と、繊維束105における第1増速弛緩ロール41が接触する面とは異なる面に接触する第2増速弛緩ロール42とを有するため、繊維束105の両側から、繊維束105をバランス良く開繊することができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0088】
また、一対のフィードロール60のそれぞれの回転中心軸67を結ぶ線68の中点68aと、一対の増速弛緩ロール40のそれぞれの回転中心軸47を結ぶ線48の中点48aと、を繋ぐ境界線70に対して、同じ側に位置するフィードロール60と増速弛緩ロール40とは、回転方向が反対方向であるため、繊維束105に対して張力を低減させる方向の力を付与する増速弛緩ロール40を、効率良く配置することができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることのできる開繊装置10の、装置全体の小型化を図ることができる。
【0089】
また、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、所定の間隔をあけて配置されるため、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とによって繊維束105を挟み込むことなく、第1増速弛緩ロール41から第2増速弛緩ロール42に向けて繊維束105を搬送することができる。これにより、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とのそれぞれで、繊維束105の張力を低減させて繊維束105を開繊させることができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0090】
また、繊維束105の搬送経路110における増速弛緩ロール40とフィードロール60との間にガイドロール50が配置されるため、繊維束105をフィードロール60に対して、第1フィードロール61と第2フィードロール62との間の部分に適切に到達させることができる。これにより、繊維束105を、第1フィードロール61と第2フィードロール62とによって適切に挟み込むことができ、繊維束105に対して張力を付与することができる。従って、繊維束105を搬送経路110の搬送方向における上流側から下流側にすることができると共に、繊維束105に対して張力を付与することにより、繊維束105を開繊バー30や増速弛緩ロール40に押し付ける力を発生させることができ、繊維束105の開繊を促すことができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0091】
また、搬送経路110における最も下流側に位置する開繊バー30は、一対の増速弛緩ロール40のそれぞれの回転中心軸47を結ぶ線48と平行な方向において、当該線48の中点48aの位置に対して第2増速弛緩ロール42寄りに配置されるため、第1増速弛緩ロール41に掛け回される繊維束105を、第1増速弛緩ロール41の周方向における1/2以上の範囲で接触させることができる。これにより、第1増速弛緩ロール41に掛け回される繊維束105を、比較的長い距離で第1増速弛緩ロール41に接触させることができ、第1増速弛緩ロール41によって長い距離に亘って加熱させながら、張力を低減して開繊させることができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0092】
また、増速弛緩ロール40の回転中心軸47に沿う方向に増速弛緩ロール40見た場合に、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対してS字状または逆S字状に掛け回されるため、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とを、繊維束105に対して効率良く互いに異なる面に接触させることができる。即ち、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対して繊維束105をS字状または逆S字状に掛け回すことにより、繊維束105に対して第1増速弛緩ロール41を接触させた直後の下流側で、繊維束105における第1増速弛緩ロール41が接触した面の反対側の面に、第2増速弛緩ロール42を接触させることができる。これにより、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とを、繊維束105の異なる面にそれぞれ接触させる際に、繊維束105の搬送経路110を短くすることができるので、増速弛緩ロール40周りの小型化を図ることができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることのできる開繊装置10の、装置全体の小型化を図ることができる。
【0093】
また、開繊バー30、増速弛緩ロール40、第2フィードロール62は、表面粗さが梨地になっているため、表面にメッキが施される場合と比較して、表面の摩擦を軽減することができる。これにより、繊維束105の毛羽の発生を抑制することができる。つまり、開繊バー30、増速弛緩ロール40、第2フィードロール62の表面にメッキが施された場合、表面が平坦になることにより、繊維束105が接触した際に、繊維束105の接触面積が大きくなる。この場合、これらの部材と繊維束105との間の摩擦力が大きくなるため、これらの部材に繊維束105が押し付けられた際に、大きな摩擦力により、繊維束105の表面に毛羽が発生し易くなる虞がある。
【0094】
これに対し、開繊バー30、増速弛緩ロール40、第2フィードロール62の表面粗さが梨地になっている場合は、これらの部材に接触した繊維束105との間の接触面積を低減することができる。これにより、開繊バー30、増速弛緩ロール40、第2フィードロール62と、繊維束105との間の摩擦力を低減することができ、繊維束105の毛羽の発生を抑制することができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0095】
また、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との間隔は、1mm~50mm程度の極力近い間隔にすることにより、第1増速弛緩ロール41から第2増速弛緩ロール42に繊維束105を搬送する際に、第1増速弛緩ロール41により加熱した繊維束105の温度を維持したまま、第2増速弛緩ロール42に搬送することができる。これにより、第2増速弛緩ロール42によって繊維束105の開繊を行う際に、繊維束105の集束剤が揮発することにより変形し易い状態が維持された繊維束105の開繊を行うことができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0096】
また、実施形態に係る開繊方法では、フィードロール60の周速に対して周速が650%以下となる範囲内で増速して回転する増速弛緩ロール40を繊維束105に接触させるため、繊維束105の張力を増速弛緩ロール40によって低減しながら開繊することができる。また、繊維束105は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とに対して異なる面を接触させるため、繊維束105の両側から、繊維束105をバランス良く開繊させることができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0097】
また、増速弛緩ロール40は、フィードロール60の周速に対して周速を200%以上650%以下となる範囲内で増速させるため、増速弛緩ロール40の上流側での繊維束105の不具合を抑制しつつ、増速弛緩ロール40によって繊維束105を開繊させることができる。つまり、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速が、200%未満である場合は、増速弛緩ロール40の周速が遅過ぎるため、増速弛緩ロール40に掛け回される繊維束105の張力を増速弛緩ロール40によって効果的に低減させ難くなる虞がある。この場合、繊維束105の開繊を増速弛緩ロール40によって効果的に行い難くなる虞がある。また、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速が、650%を超える場合は、増速弛緩ロール40の周速が速過ぎるため、増速弛緩ロール40によって繊維束105の進行方向に繊維束105を押し進める方向の力が大きくなり過ぎる虞がある。この場合、増速弛緩ロール40の上流側での繊維束105の張力が大きくなり過ぎる虞があり、大きな張力によって繊維束105が開繊バー30に対して大きな力で押し付けられ、繊維束105における開繊バー30に接触する面に毛羽が発生する等の不具合が発生し易くなる虞がある。
【0098】
これに対し、増速弛緩ロール40を、フィードロール60の周速に対して周速を200%以上650%以下となる範囲内で増速させる場合は、増速弛緩ロール40の上流側の位置での繊維束105の張力が大きくなり過ぎることを抑えつつ、増速弛緩ロール40に掛け回される繊維束105の張力を効果的に低減させることができる。これにより、増速弛緩ロール40の上流側における繊維束105の毛羽等の不具合を抑制しつつ、増速弛緩ロール40によって繊維束105を開繊させることができる。この結果、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができる。
【0099】
[変形例]
なお、上述した実施形態に係る開繊装置10では、開繊バー30、増速弛緩ロール40、ガイドロール50、フィードロール60の配置構成について一例を示して説明したが、これらの配置構成は、上述した実施形態以外の配置であってもよい。
【0100】
図2は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、第1増速弛緩ロール41が第2増速弛緩ロール42の下側に配置される形態を示す模式図である。増速弛緩ロール40は、例えば、図2に示すように、第1増速弛緩ロール41が第2増速弛緩ロール42に対して第3方向Zにおける下側に配置され、第2増速弛緩ロール42が第1増速弛緩ロール41の上側に配置されていてもよい。この場合、複数の開繊バー30のうち最も下流側に位置する開繊バー30から増速弛緩ロール40に搬送される繊維束105は、一対の増速弛緩ロール40のうち相対的に下側に位置する第1増速弛緩ロール41に搬送される。
【0101】
さらに、第1増速弛緩ロール41に搬送された繊維束105は、第1増速弛緩ロール41から上側に位置する第2増速弛緩ロール42に搬送され、第2増速弛緩ロール42からガイドロール50に向けて搬送される。このように、一対の増速弛緩ロール40は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との相対的な上下方向における位置に関わらず、繊維束105が開繊バー30から第1増速弛緩ロール41に搬送され、第1増速弛緩ロール41から第2増速弛緩ロール42に搬送されるように構成されていればよい。
【0102】
また、増速弛緩ロール40に駆動力を供給する駆動モータ45は、図2に示すように、第1増速弛緩ロール41に連結されていてもよい。この場合、駆動モータ45で発生した駆動力は第1増速弛緩ロール41に伝達され、第1増速弛緩ロール41に伝達された駆動力は動力伝達機構を介して第2増速弛緩ロール42に伝達される。これにより、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、駆動モータ45から伝達される駆動力により、それぞれの回転中心軸47を中心としてそれぞれ回転する。
【0103】
また、上述した実施形態では、一対のフィードロール60が第3方向Zに並んで配置されているが、一対のフィードロール60が並ぶ方向は、第3方向Z以外の方向であってもよい。図3は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対のフィードロール60が第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。図4は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対のフィードロール60が第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。一対のフィードロール60は、例えば、図3図4に示すように、第1フィードロール61と第2フィードロール62が第2方向Yに並んで配置されていてもよい。この場合、第1フィードロール61と第2フィードロール62は、繊維束105を第2方向Yにおける両側から挟み込み、第3方向Zに向けて搬送することになる。このため、ガイドロール50からフィードロール60に向けて搬送される繊維束105は、一対のフィードロール60によって繊維束105を第2方向Yにおける両側から挟み込めるように、フィードロール60に搬送される繊維束105は、第3方向Zに沿って搬送される。
【0104】
図3図4に示す変形例では、ガイドロール50は第3方向Zにおけるフィードロール60の上側に配置され、ガイドロール50からフィードロール60に向けて搬送される繊維束105は、第3方向Zにおける上側からフィードロール60に向けて搬送される。これにより、フィードロール60は、開繊バー30や増速弛緩ロール40によって開繊された繊維束105を、第3方向Zにおける下側に向けて搬送する。
【0105】
また、第1フィードロール61と第2フィードロール62と、第2方向Yに並べて配置する場合は、増速弛緩ロール40は、図3に示すように、第1増速弛緩ロール41を上側に配置して第2増速弛緩ロール42を下側に配置してもよく、図4に示すように、第1増速弛緩ロール41を下側に配置して第2増速弛緩ロール42を上側に配置してもよい。
【0106】
また、上述した実施形態では、一対の増速弛緩ロール40が第3方向Zに並んで配置されているが、一対の増速弛緩ロール40が並ぶ方向は、第3方向Z以外の方向であってもよい。図5は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対の増速弛緩ロール40が第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。図6は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対の増速弛緩ロール40が第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。一対の増速弛緩ロール40は、例えば、図5図6に示すように、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42が第2方向Yに並んで配置されていてもよい。
【0107】
この場合、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とは、例えば、図5に示すように、開繊バー30から繊維束105が搬送される第1増速弛緩ロール41が、第2方向Yにおけるフィードロール60寄りに配置され、第1増速弛緩ロール41の下流側に配置される第2増速弛緩ロール42が、第2方向Yにおける繰出機20寄りに配置されていてもよい。または、図6に示すように、開繊バー30から繊維束105が搬送される第1増速弛緩ロール41が、第2方向Yにおける繰出機20寄りに配置され、第1増速弛緩ロール41の下流側に配置される第2増速弛緩ロール42が、第2方向Yにおけるフィードロール60寄りに配置されていてもよい。
【0108】
また、一対の増速弛緩ロール40が並ぶ方向と一対のフィードロール60が並ぶ方向との双方が、それぞれ第3方向Z以外の方向であってもよい。図7は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対の増速弛緩ロール40と一対のフィードロール60がそれぞれ第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。図8は、実施形態に係る開繊装置10の変形例であり、一対の増速弛緩ロール40と一対のフィードロール60がそれぞれ第2方向Yに並んで配置される形態を示す模式図である。一対の増速弛緩ロール40が並ぶ方向と一対のフィードロール60が並ぶ方向とは、図7図8に示すように、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42が第2方向Yに並んで配置され、第1フィードロール61と第2フィードロール62が第2方向Yに並んで配置されていてもよい。
【0109】
この場合、図7に示すように、開繊バー30から繊維束105が搬送される第1増速弛緩ロール41が、第2方向Yにおいて繰出機20が位置する側の反対側に配置され、第1増速弛緩ロール41の下流側に配置される第2増速弛緩ロール42が、第2方向Yにおける繰出機20寄りに配置されていてもよい。または、図8に示すように、開繊バー30から繊維束105が搬送される第1増速弛緩ロール41が、第2方向Yにおける繰出機20寄りに配置され、第1増速弛緩ロール41の下流側に配置される第2増速弛緩ロール42が、第2方向Yにおいて繰出機20が位置する側の反対側に配置されてもよい。
【0110】
これらのように、開繊バー30、増速弛緩ロール40、ガイドロール50、フィードロール60の配置構成は、上述した実施形態以外の配置であってもよく、配置構成は、開繊装置10が配置される位置や配置される環境等に基づいて、適宜設定されるのが好ましい。
【0111】
また、上述した実施形態では、増速弛緩ロール40は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とが動力伝達機構を介して連結され、1つの駆動モータ45で発生する駆動力によって第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との双方が回転するが、駆動モータ45は、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42とのそれぞれに設けられていてもよい。
【0112】
同様に、フィードロール60は、第1フィードロール61と第2フィードロール62とが動力伝達機構を介して連結され、1つの駆動モータ65で発生する駆動力によって第1フィードロール61と第2フィードロール62との双方が回転するが、駆動モータ65は、第1フィードロール61と第2フィードロール62とのそれぞれに設けられていてもよい。
【0113】
また、上述した実施形態では、増速弛緩ロール40は第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42との2本が用いられているが、増速弛緩ロール40は、2本以外であってもよく、増速弛緩ロール40は3本以上であってもよい。フィードロール60の周速に対して周速が増速して回転する増速弛緩ロール40は、2本以上であれば、その数は問わない。
【0114】
また、上述した実施形態では、開繊バー30は3本が設けられているが、開繊バー30は3本以外であってもよい。開繊バー30は、繊維束105にかかる張力や、開繊バー30に繊維束105が掛け回される際の開繊バー30の対する繊維束105の接触角、開繊バー30による繊維束105の加熱時間等に応じて、配置する開繊バー30の本数を設定するのが好ましい。
【0115】
また、上述した実施形態では、繊維束105に作用する張力は、繰出機20のバックテンションロールによる張力の強弱を調整することによって、繊維束105に作用する張力の大きさを調整しているが、繊維束105に作用する張力は、これ以外の手法で調整してもよい。繊維束105に作用する張力は、例えば、開繊バー30の本数や開繊バー30の直径、開繊バー30に掛け回される繊維束105の角度等を変更することによって、繊維束105に作用する張力の大きさを調整してもよい。
【0116】
<開繊装置10による繊維束105の開繊の試験>
発明者らは、開繊装置10によって繊維束105の開繊を行う際における開繊量についての試験を行った。次に、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速と、繊維束105の開繊量との関連性についての評価試験について説明する。
【0117】
図9は、評価試験を行った開繊装置10の装置構成を示す模式図である。繊維束105の開繊量についての評価試験は、図9に示すように、開繊バー30は5本が設けられ、第1増速弛緩ロール41と第2増速弛緩ロール42は第2方向Yに並んで配置され、第1フィードロール61と第2フィードロール62も第2方向Yに並んで配置される開繊装置10を用いて行った。評価試験は、繊維束105には、三菱ケミカル株式会社製の炭素繊維トウ・TR50S15L(フィラメント数15,000本、フィラメント径7μm)を使用し、当該繊維束105を、図9に示す開繊装置10に複数取り付けて開繊装置10によって開繊した際の繊維束105の開繊状態を判定することにより行った。
【0118】
繊維束105の開繊量の評価試験は、開繊装置10での繊維束105の搬送速度を5m/minに設定し、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速を異ならせて繊維束105の開繊を行うことにより行った。評価試験による評価は、このように開繊装置10によって繊維束105の開繊を行う際における、繊維束105の開繊量と繊維束105の張力をそれぞれ計測し、繊維束105に発生する毛羽の有無を判定することにより行った。
【0119】
図10は、評価試験の結果を示す図表である。繊維束105の開繊量は、繊維束105が第1増速弛緩ロール41に掛け回されている位置を第1開繊幅測定位置S1とし、繊維束105が第2増速弛緩ロール42に掛け回されている位置を第2開繊幅測定位置S2とし、それぞれの位置で第1方向Xにおける繊維束105の開繊幅を測定する。このように測定した第2開繊幅測定位置S2での繊維束105の開繊幅から、第1開繊幅測定位置S1での繊維束105の開繊幅を減算した値を、本評価試験における、増速弛緩ロール40によって開繊した繊維束105の開繊量とする。
【0120】
また、繊維束105の張力は、繊維束105の搬送経路110における開繊バー30と第1増速弛緩ロール41との間の位置を第1張力測定位置T1とし、ガイドロール50とフィードロール60のとの間の位置を第2張力測定位置T2とし、それぞれの位置での繊維束105の張力を、ハンディタイプの張力計により測定する。このように測定した第1張力測定位置T1での繊維束105の張力から、第2張力測定位置T2での繊維束105の張力を減算した張力差を、増速弛緩ロール40によって低減した繊維束105の張力とする。
【0121】
これらのように測定する繊維束105の開繊量は、開繊装置10に取り付けられる複数の繊維束105のうち、3本の開繊量の平均値、即ち、パスライン3つの開繊量の平均値を算出することにより評価を行った。繊維束105の張力差についても同様に、パスライン3つの張力差の平均値を算出することにより評価を行った。
【0122】
また、繊維束105の毛羽の有無は、開繊装置10によって開繊を行った際における開繊バー30を通過した繊維束105を目視することにより、毛羽の発生の有無を判定した。
【0123】
これらのように行う評価試験では、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速の比率である周速比を異ならせた実施例である実施例1~6と、これらの実施例と比較する比較例1~3との9つの条件で試験を行った。このうち、実施例1は、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速の比率である周速比が、150%になっており、実施例2は、周速比が200%になっており、実施例3は、周速比が250%になっており、実施例4は、周速比が400%になっており、実施例5は、周速比が600%になっており、実施例6は、周速比が650%になっている。これに対し、比較例1は、周速比が50%になっており、比較例2は、周速比が100%になっており、比較例3は、周速比が700%になっている。
【0124】
これらの条件で繊維束105を開繊させる試験を行った結果、繊維束105の開繊量と、繊維束105の張力差と、開繊バー30での繊維束105の毛羽の発生の有無について、図10に示すような結果を得ることができた。
【0125】
即ち、比較例1のように、フィードロール60の周速に対して増速弛緩ロール40の周速が低いか、比較例2のように周速が同じ速度である場合は、増速弛緩ロール40によって繊維束105の張力を低減し難いため、繊維束105の開繊量を効果的に大きくし難くなっている。また、比較例3のように、フィードロール60の周速に対して増速弛緩ロール40の周速が650%を超える場合は、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速が速過ぎるため、増速弛緩ロール40の上流側での繊維束105の張力が大きくなり過ぎる虞がある。この場合、繊維束105は、開繊バー30の位置を通過する際に、開繊バー30に対して大きな力で擦られるため、開繊バー30の位置で毛羽が発生し易くなる。
【0126】
これに対し、実施例1~6のように、フィードロール60の周速に対する増速弛緩ロール40の周速が、650%以下の範囲内で増速する場合は、繊維束105の張力を増速弛緩ロール40によって効果的に低減することができるため、増速弛緩ロール40によって繊維束105の開繊量を大きくすることができることが確認された。つまり、この試験では、搬送経路110における開繊バー30とフィードロール60との間に一対の増速弛緩ロール40を配置し、フィードロール60の周速に対して650%以下となる範囲内で周速を増速させて増速弛緩ロール40を回転させることにより、広幅に開繊した繊維束105を安定的に得ることができることが確認された。
【符号の説明】
【0127】
10…開繊装置、20…繰出機、30…開繊バー、40…増速弛緩ロール、41…第1増速弛緩ロール、42…第2増速弛緩ロール、44…外周面、45…駆動モータ、47…回転中心軸、50…ガイドロール、60…フィードロール、61…第1フィードロール、62…第2フィードロール、64…外周面、65…駆動モータ、66…エアシリンダ、67…回転中心軸、70…境界線、100…ロービング、105…繊維束、110…搬送経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10