(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137717
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法および過酸化水素水の精製方法
(51)【国際特許分類】
B01J 47/016 20170101AFI20230922BHJP
B01J 39/20 20060101ALI20230922BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20230922BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20230922BHJP
B01J 41/12 20170101ALI20230922BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20230922BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20230922BHJP
C01B 15/013 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B01J47/016
B01J39/20
B01J39/05
B01J41/05
B01J41/12
B01J47/04
B01D15/00 M
C01B15/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044053
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(72)【発明者】
【氏名】貫井 郁
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【テーマコード(参考)】
4D017
【Fターム(参考)】
4D017AA20
4D017BA03
4D017CA13
4D017CB01
(57)【要約】
【課題】相互汚染等の汚染を抑制し、金属含有量が低減された高純度の過酸化水素水を効率良く得ることができる混合床イオン交換体を提供する。
【解決手段】高純度の鉱酸溶液に、H形カチオン交換体を接触させることにより、精製されたH形カチオン交換体を得る工程と、精製されたH形カチオン交換体とOH形アニオン交換体とを混合し、混合床イオン交換体を調製する工程と、混合床イオン交換体に、二酸化炭素溶解水を接触させることにより、OH形アニオン交換体を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体に変換する工程とを有し、得られる過酸化水素水精製用混合床イオン交換体は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下である、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液に、H形カチオン交換体(C1)を接触させることにより、精製されたH形カチオン交換体(C2)を得るカチオン交換体調製工程と、
前記H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを混合し、混合床イオン交換体(MB1)を調製する混合床イオン交換体調製工程と、
前記混合床イオン交換体(MB1)に、二酸化炭素溶解水を接触させることにより、前記OH形アニオン交換体(A1)を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)に変換し、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を得るアニオン交換体変換工程と、を有し、
前記過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下であることを特徴とする、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項2】
前記鉱酸溶液および前記塩酸中の、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の金属含有量が、それぞれ200μg/L以下である、請求項1に記載の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項3】
前記アニオン交換体変換工程において、前記混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前の二酸化炭素溶解水の導電率に対する、前記混合床イオン交換体(MB1)に接触させた後の二酸化炭素溶解水の導電率の割合((接触後の導電率/接触前の導電率)×100)が90%以上である、請求項1または2に記載の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項4】
前記H形カチオン交換体(C1)が、ゲル型の母体を有する強酸性カチオン交換樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項5】
前記H形カチオン交換体(C1)が、1.6eq/L-R以上の交換容量を有する強酸性カチオン交換樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項6】
前記H形カチオン交換体(C1)が、0.1mm以上0.4mm以下の平均粒子径(調和平均径)を有するカチオン交換樹脂である、請求項1~5のいずれか一項に記載の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法。
【請求項7】
過酸化水素水をイオン交換体に接触させる工程を有する過酸化水素水の精製方法であって、前記イオン交換体として、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により調製された過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いることを特徴とする、過酸化水素水の精製方法。
【請求項8】
吸着剤、イオン交換樹脂、および微粒子除去フィルターからなる群より選択される2つ以上を組み合わせた精製処理に供された後の過酸化水素水を、前記過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いて、さらに精製する、請求項7に記載の過酸化水素水の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体および該混合床イオン交換体を用いた過酸化水素水の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素水は、紙やパルプの漂白、工業用酸化剤、排水処理、半導体の製造工程等における洗浄剤として、幅広い分野で利用されている。なかでも、半導体の製造工程におけるウエット洗浄の分野において、粒子状汚染を除去するアンモニア-過酸化水素水洗浄や、金属汚染をイオン化して除去する塩酸-過酸化水素水洗浄等の用途で、過酸化水素水は多量に利用されている。このような汚染の除去を行う際に用いられる超純水および試薬には、高純度化が求められており、過酸化水素水においても、種々の不純物を極力低減した品質が要求されている。過酸化水素水に含まれる金属成分を除去し、過酸化水素水を精製する方法としては、イオン交換樹脂に過酸化水素水を接触させる方法が知られている。ただし、高純度の過酸化水素水を得るためには、精製の際に用いられるイオン交換樹脂としても、含有金属成分の少ないイオン交換樹脂を用いる必要がある。
【0003】
過酸化水素水の精製に用いられるイオン交換樹脂中の金属含有量を規定した技術として、特許文献1には、ナトリウムの含有量を規定したカチオン交換樹脂を用いる過酸化水素水の精製方法が開示されている。また、特許文献2には、アルミニウム、鉄、カルシウムおよび亜鉛の各金属含有量を規定したイオン交換樹脂を用いる過酸化水素水の精製方法が開示されている。一方で、本出願人は、二酸化炭素溶解水を用いて、アニオン交換体を重炭酸イオン形/炭酸イオン形へ変換する工程を含む、アニオン交換体とカチオン交換体とからなる混合床の製造方法を提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-171508号公報
【特許文献2】特開平10-259008号公報
【特許文献3】国際公開第2015/098348号
【特許文献4】特開2007-117781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載の方法によれば、アニオン交換体とカチオン交換体とからなる混合床を分離することなく、過酸化水素水精製用樹脂を調製することができる。しかし、アニオン交換体およびカチオン交換体のいずれもが金属等の不純物を含有している場合、二酸化炭素溶解水を通水した際に、各樹脂に含まれる不純物が溶出し、溶出した不純物をお互いが取り合う相互汚染や、一方の樹脂から溶出した不純物が他方の樹脂へ捕捉される等の汚染が起こる懸念があった。特に、二酸化炭素溶解水は弱酸性であり、このような汚染が起こる可能性が高い。また、精製対象である過酸化水素水も弱酸性であるため、過酸化水素水の精製途中においても、同様の現象が起こることが考えられる。このような樹脂の汚染は、金属不純物濃度がng/Lレベルである高純度過酸化水素水の精製においては、深刻な課題である。
【0006】
したがって、本発明は、カチオン交換体とアニオン交換体とを含む混合床イオン交換体を用いて過酸化水素水を精製するにあたり、相互汚染等の汚染を抑制し、金属含有量が低減された高純度の過酸化水素水を効率良く得ることができる過酸化水素水精製用混合床イオン交換体を提供することを目的とする。また、本発明は、前記過酸化水素水精製用混合床イオン交換体を用いた高純度過酸化水素水の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、過酸化水素水の精製に用いるアニオン交換体とカチオン交換体とを混合し、混合床を形成する前に、少なくともカチオン交換体の含有金属不純物量を、高純度鉱酸溶液を用いて低減することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液に、H形カチオン交換体(C1)を接触させることにより、精製されたH形カチオン交換体(C2)を得るカチオン交換体調製工程と、
前記H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを混合し、混合床イオン交換体(MB1)を調製する混合床イオン交換体調製工程と、
前記混合床イオン交換体(MB1)に、二酸化炭素溶解水を接触させることにより、前記OH形アニオン交換体(A1)を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)に変換し、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を得るアニオン交換体変換工程と、を有し、
前記過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下であることを特徴とする、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法である。
【0009】
また、本発明は、過酸化水素水をイオン交換体に接触させる工程を有する過酸化水素水の精製方法であって、前記イオン交換体として、上記の調製方法により調製された過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いることを特徴とする、過酸化水素水の精製方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カチオン交換体とアニオン交換体とを含む混合床イオン交換体を用いて過酸化水素水を精製するにあたり、相互汚染等の汚染を抑制し、金属含有量が低減された高純度の過酸化水素水を効率良く得ることができる過酸化水素水精製用混合床イオン交換体が得られる。また、本発明によれば、このように高純度化された過酸化水素水精製用混合床イオン交換体を用いて過酸化水素水を精製することにより、より高純度の過酸化水素水が得られる。特に、過酸化水素水を通液する際における、通液初期の金属溶出が低減し、立ち上がりが早くなるため、金属を多く含有する通液初期の過酸化水素水の量を少なくすることができる。すなわち、本発明によれば、経済的かつ効率的な高純度の過酸化水素水の精製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例3~6の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<過酸化水素水精製用混合床イオン交換体の調製方法>
本発明に係る過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)(「混合床イオン交換体(MB2)」とも称する)は、H形カチオン交換体(C2)と、重炭酸イオン形アニオン交換体、または、重炭酸イオン形アニオン交換体と炭酸イオン形アニオン交換体(まとめて「重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)」または「アニオン交換体(A2)」とも称する)と、を含む混合床イオン交換体である。該過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、少なくとも以下の工程を有する方法により調製される:
含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5%以上の鉱酸溶液に、H形カチオン交換体(C1)を接触させることにより、精製されたH形カチオン交換体(C2)を得るカチオン交換体調製工程;
前記H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを混合し、混合床イオン交換体(MB1)を調製する混合床イオン交換体調製工程;
前記混合床イオン交換体(MB1)に、二酸化炭素溶解水を接触させることにより、該混合床イオン交換体(MB1)中の前記OH形アニオン交換体(A1)を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)に変換し、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を得るアニオン交換体変換工程。
このようにして得られる過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下であることを特徴とする。
以下、上記各工程について、詳細に説明する。
【0013】
[カチオン交換体調製工程]
本工程は、過酸化水素水の精製に先立ち、該精製に用いられるH形カチオン交換体の含有金属不純物量を低減し、精製されたH形カチオン交換体を得る工程、すなわち、H形カチオン交換体の前処理を行う工程である。
【0014】
(H形カチオン交換体)
H形(水素イオン形)カチオン交換体(C1)としては、H形のカチオン交換樹脂またはモノリス状カチオン交換体を用いることができる。イオン交換樹脂は粒状であるため、異なるイオン性の樹脂を容易に混合することができる。モノリス状イオン交換体は、薄く切断して重ねてもよいし、細断した後に混合してもよい。なお、カチオン交換体および後述するアニオン交換体のいずれか一方がイオン交換樹脂であり、他方がモノリス状イオン交換体であってもよく、両方ともがイオン交換樹脂またはモノリス状イオン交換体であってもよい。本発明において、H形カチオン交換体(C1)は、H形のカチオン交換樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明において用いるカチオン交換樹脂は、特に制限されるものではないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のカチオン交換樹脂が好ましい。母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。
【0016】
なお、本明細書において、「スチレン系樹脂」とは、スチレンまたはスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレンまたはスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよい。そのようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー;(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの中でも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0017】
また、本明細書において、「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上を単独重合または共重合した、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位、アクリル酸エステルに由来する構成単位およびメタクリル酸エステルに由来する構成単位から選ばれる構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。アクリル系樹脂としては、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、アクリル酸エステルの単独重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体、アクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、アクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等))との共重合体から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの中でも、メタクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体またはアクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0018】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、アクリル酸エステルがアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルであることが特に好ましい。
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルであることが特に好ましい。
【0019】
また、カチオン交換樹脂の母体は、樹脂の有する細孔の径が小さく透明なゲル型および細孔の径が大きいマクロポアを有するマクロリテキュラー型(MR型)またはマクロポーラス型(ポーラス型、ハイポーラス型とも呼ばれる)のいずれであってもよい。ただし、金属除去性能の観点からは、カチオン交換樹脂は、ゲル型の母体を有することが好ましい。
【0020】
カチオン交換体としては、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換体およびカルボン酸基を有する弱酸性カチオン交換体が挙げられる。H形のカチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標) IRN99H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、商品名、デュポン社製)、アンバージェット(登録商標) 1060H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、オルライト(登録商標) DS-1(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、オルライト(登録商標) DS-4(マクロポーラス型の強酸性カチオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)等が挙げられる。H形カチオン交換体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属除去性能の観点からは、H形カチオン交換体は、強酸性カチオン交換樹脂であることが好ましく、ゲル型の母体を有する強酸性カチオン交換樹脂であることがより好ましい。
【0021】
本発明において用いるH形カチオン交換体(C1)が、粒状のカチオン交換樹脂である場合、該カチオン交換樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~1.0mmであることができる。カチオン交換樹脂として、比表面積の大きい小粒径の樹脂を用いることで、イオン交換の効率が上がり、金属除去性能をさらに向上させることができる。特に、反応性の高い過酸化水素水は低温で通液処理することが多いため、金属不純物イオンの拡散性が、常温の液体や加温した液体と比べて低い場合がある。そのため、金属除去性能の観点からは、比表面積の大きい小粒径の樹脂を用いることが効果的である。具体的に、カチオン交換樹脂の平均粒子径が、好ましくは0.1~0.4mm、より好ましくは0.2~0.4mmである場合、上記小粒径の樹脂を用いた場合の効果が得られやすい。なお、小粒径の樹脂を用いることは、金属不純物の除去効率の向上に加え、該樹脂の再生の際に使用する薬液量を低減できる点や、過酸化水素水の精製時における流速を上げることができる点、そして、精製時のイオン交換体収納容器をコンパクト化できるという点においても有利である。ここで、本明細書において、平均粒子径は、調和平均径を意味する。
【0022】
過酸化水素水は酸化剤としても使用されており、イオン交換樹脂の母体を劣化させやすい薬液である。また、使用後のイオン交換樹脂を再生して繰り返し使用する場合は、膨潤収縮により樹脂の劣化が進行しやすい。そのため、繰り返し使用における樹脂の劣化を抑制する観点からは、カチオン交換樹脂として、高架橋樹脂を用いることが好ましい。高架橋樹脂は、架橋部分に導入される官能基の数が多いため、交換容量が大きいことが特徴である。具体的に、過酸化水素水の精製には、交換容量が1.6eq/L-R以上である強酸性カチオン交換樹脂を用いることが好ましい。このような高架橋のカチオン交換樹脂によれば、十分な薬液耐性と交換容量を備えるため、繰り返し使用時においても、樹脂の劣化を抑制し、効率良く、過酸化水素水の精製を行うことができる。なお、交換容量(eq/L)は、一般的に、イオン交換樹脂の体積あたりの官能基の数を当量で表す。例えば、イオン形を完全に再生形(HまたはOH)に変換した後、HまたはOHよりも選択性の高いイオンを含む水溶液を接触させ、その際にイオン交換されて放出されたHまたはOHイオンを滴定等によって測定することで算出できる。また、樹脂の架橋度は、水分保有能力とも相関を有する。ここで、水分保有能力(%)とは、25℃で相対湿度100%の大気に、30分以上接触させて得られる水分飽和状態の樹脂の質量と、その水分飽和状態の樹脂を、恒温乾燥器で105℃にて16時間乾燥させて得られる乾燥状態の樹脂の質量から求めることができる。すなわち、水分保有能力(%)は、「((乾燥前の水分飽和状態のイオン交換樹脂の質量-乾燥状態のイオン交換樹脂の質量)/乾燥前の水分飽和状態のイオン交換樹脂の質量)×100」の式により求められる。具体的に、水分保有能力が高いことは、水分を保持するだけの隙間が樹脂中に多く存在することを意味し、すなわち、水分保有能力が高い樹脂は、架橋度が低い傾向を示す。本発明において、繰り返し使用における樹脂の劣化を抑制する観点からは、カチオン交換樹脂の水分保有能力は、60%以下が好ましい。なお、後述するように、本発明に係る混合床イオン交換体(MB2)は、ポリッシャーとして好適に用いられる。ポリッシャーは、通常、再利用されず、使い捨てされるため、樹脂の劣化を考慮する必要はない。したがって、本発明に係る混合床イオン交換体(MB2)をポリッシャーとして使用する場合においては、該混合床イオン交換体中のカチオン交換樹脂の架橋度(交換容量や水分保有能力)は問題とならない。また、上述したように、カチオン交換樹脂として、金属不純物の除去性能の観点からは小粒径のものが好適に用いられるが、小粒径のカチオン交換樹脂を含む、本発明に係る混合床イオン交換体(MB2)をポリッシャーとして使用する場合においては、該小粒径のカチオン交換樹脂は低架橋であっても高架橋であってもよい。すなわち、該小粒径のカチオン交換樹脂について、交換容量や水分保有能力は制限されない。
【0023】
なお、本発明においては、カチオン交換体調製工程に供される、精製前のH形カチオン交換体をH形カチオン交換体(C1)と称し、カチオン交換体調製工程において精製された後のH形カチオン交換体をH形カチオン交換体(C2)と称する。
【0024】
カチオン交換体調製工程においては、特許文献4に記載されるように、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度(質量基準)が5%以上の鉱酸溶液にH形カチオン交換体(C1)を接触させることにより、H形カチオン交換体(C1)に含まれる金属不純物を除去、低減し、精製されたH形カチオン交換体(C2)を得る。これにより、濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が5mg/L-R以下、好ましくは3mg/L-R以下であるH形カチオン交換体(C2)を得ることができる。なお、前記濃度3%(質量基準)の塩酸に含まれる金属不純物量は、分析精度を上げる目的から、1mg/L以下であることが好ましいが、その限りではない。含有金属不純物量が極めて少ない鉱酸溶液にH形カチオン交換体(C1)を接触させることにより、確実かつ効果的にカチオン交換体に含有される金属不純物量を低減することができ、溶出金属不純物量の少ないH形カチオン交換体(C2)を得ることができる。そして、このように精製されたH形カチオン交換体(C2)を含む混合床イオン交換体(MB2)を用いて、被処理液である過酸化水素水の精製を行うことにより、含有金属不純物量の少ない高純度の過酸化水素水を得ることができる。なお、H形カチオン交換体(C1)を鉱酸溶液に接触させた後に、純水または超純水により鉱酸溶液を洗浄し、除去することが好ましい。
【0025】
精製に用いる鉱酸溶液中の含有金属不純物量は1mg/L以下であり、0.5mg/L以下であることが好ましく、0.2mg/L以下であることがより好ましい。また、鉱酸溶液の濃度は、5%以上であるが、10%以上であることが好ましい。鉱酸溶液の濃度が5%未満である場合、十分なイオン交換体内の金属不純物低減効果を得ることができない。なお、鉱酸溶液に含まれる金属不純物とは、金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)等が挙げられる。鉱酸溶液としては、水溶液が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。「鉱酸溶液にH形カチオン交換体(C1)を接触させる」とは、H形カチオン交換体(C1)に鉱酸溶液を通過させることのほか、H形カチオン交換体(C1)を鉱酸溶液中に浸漬すること等も含む。
【0026】
得られたH形カチオン交換体(C2)について、「体積比25倍量」の塩酸とは、カチオン交換体の体積に対して25倍の体積の塩酸(濃度3%)を通過させることを意味する。また、単位「/L-R」は、「水湿潤状態におけるカチオン交換体の体積1L当たり」を意味する。なお、水湿潤状態とは、イオン交換体が水に浸漬された状態を指す。水湿潤状態の体積は、水に浸漬された状態のイオン交換体の体積をメスシリンダー等の測定器具を用いて測定することができる。ここで、水湿潤状態のイオン交換体は、イオン交換体を、25℃で相対湿度100%の大気に15分間以上接触させることにより得られる。
【0027】
前記濃度が5%以上の鉱酸溶液中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。これら金属不純物の含有量が少ない鉱酸溶液をイオン交換体に接触させることにより、確実かつ効果的に、イオン交換体内のNa、Mg、CaおよびFeの含有量を低減させることができる。同様に、前記濃度3%の塩酸中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。
【0028】
溶出する金属不純物が、Na、Mg、CaおよびFeから選択される1つ以上の金属を含んでいてもよい。精製後のH形カチオン交換体(C2)において、これらの金属を含む全金属不純物溶出量を5mg/L-R以下、好ましくは3mg/L-R以下とすることにより、H形カチオン交換体(C2)を含む混合床イオン交換体(MB2)を被処理液の精製に用いた場合の、H形カチオン交換体(C2)から被処理液中へのこれら金属不純物の溶出量を低減することができる。
【0029】
[混合床イオン交換体調製工程]
本工程では、前記カチオン交換体調製工程において得られる、精製されたH形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを混合し、H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床イオン交換体(MB1)を調製する。なお、H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床には、例えば、(i)H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合物により1つの床が形成されている混床と、(ii)H形カチオン交換体(C2)層とOH形アニオン交換体(A1)層とを含む複層床と、が含まれる。
【0030】
(OH形アニオン交換体)
OH形アニオン交換体(A1)としては、OH形のアニオン交換樹脂またはモノリス状アニオン交換体を用いることができる。イオン交換樹脂は粒状であるため、異なるイオン性の樹脂を容易に混合することができる。モノリス状イオン交換体は、薄く切断して重ねてもよいし、細断した後に混合してもよい。また、イオン交換樹脂にモノリス状イオン交換体を混合してもよい。本発明において、OH形アニオン交換体(A1)は、OH形アニオン交換樹脂であることが好ましい。
【0031】
本発明において用いるアニオン交換樹脂は、特に制限されるものではないが、カチオン交換樹脂と同様、有機高分子を母体とする有機高分子系のアニオン交換樹脂が好ましい。母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。
【0032】
アニオン交換体としては、4級アンモニウム基を官能基として有し、該4級アンモニウム基の窒素原子に結合する基がアルキル基のみである強塩基性I型アニオン交換体、4級アンモニウム基を官能基として有し、該4級アンモニウム基の窒素原子に結合する基がアルキル基及びアルカノール基である強塩基性II型アニオン交換体、第1~第3級アミノ基を官能基として有する弱塩基性アニオン交換体が挙げられる。これらの中でも、強塩基性I型アニオン交換体が好ましい。OH形アニオン交換樹脂としては、例えば、オルライト(登録商標) DS-2(ゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、DS-6(MR型の弱塩基性アニオン交換樹脂、商品名、オルガノ(株)製)、ダイヤイオン(登録商標) WA30(ハイポーラス型の弱塩基性アニオン交換樹脂、商品名、三菱ケミカル(株)製)等が挙げられる。OH形アニオン交換体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明において用いるアニオン交換体が、粒状のアニオン交換樹脂である場合、該アニオン交換樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~1.0mmであることができる。カチオン交換樹脂と同様、アニオン交換樹脂として、比表面積の大きい小粒径の樹脂を用いることで、イオン交換の効率が上がり、金属除去性能をさらに向上することができる。そのため、金属除去性能の観点からは、比表面積の大きい小粒径の樹脂を用いることが効果的である。具体的に、アニオン交換樹脂の平均粒子径が、好ましくは0.1~0.4mm、より好ましくは0.2~0.4mmである場合、上記小粒径の樹脂を用いた場合の効果が得られやすい。ここで、本明細書において、平均粒子径は、調和平均径を意味する。
【0034】
本発明においては、後述する過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)について、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下となるのであれば、OH形アニオン交換体について、H形カチオン交換体のように鉱酸溶液を用いて精製する必要はない。ただし、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)の含有金属不純物量が、上記規定する範囲内となるように、必要に応じて、OH形アニオン交換体について公知の方法により精製を行ってもよい。なお、OH形アニオン交換体の精製を、鉱酸溶液を用いて行う場合、精製後に、水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液を通液してOH形に再生する手順が必要である。また、その際の金属の混入も懸念されるため、十分な金属汚染防止対策が求められる。OH形アニオン交換体として、市販されている精製品を用いることもできる。また、OH形アニオン交換体とH形カチオン交換体の混床として市販されている精製品を用いてもよい。市販の精製品としては、例えば、オルライトDSシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)、アンバーライトシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)、ダイヤイオンシリーズ(商品名、三菱ケミカル(株)製)、UltraCleanシリーズ、NRWシリーズ(いずれも商品名、ピュロライト(株)製)、Muromac HGシリーズ(商品名、室町ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0035】
[アニオン交換体変換工程]
過酸化水素水の精製を、塩基性のアニオン交換体であるOH形アニオン交換体(A1)を用いて行うと、OH形アニオン交換体(A1)との接触中に過酸化水素の分解が起こる。そのため、本発明においては、混合床イオン交換体(MB1)中のOH形アニオン交換体(A1)を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)に変換して得られる、H形カチオン交換体(C2)とアニオン交換体(A2)とを含む混合床イオン交換体(MB2)を過酸化水素水の精製に用いる。具体的に、本工程では、前記H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床イオン交換体(MB1)に対して、二酸化炭素溶解水を接触させることにより、前記OH形アニオン交換体(A1)を、重炭酸イオン形アニオン交換体、または、重炭酸イオン形アニオン交換体および炭酸イオン形アニオン交換体(A2)(アニオン交換体(A2))に変換し、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を得る。このように、精製されたH形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを混合し、混合床とした後に、二酸化炭素溶解水を用いてアニオン交換体のイオン形を重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)へ変換することにより、イオン交換体間における相互汚染を抑制する観点から、高い効果を得ることができる。
【0036】
上記のとおり、本発明は、精製後のカチオン交換体(C2)と、OH形アニオン交換体(A1)とを混合した後に、該アニオン交換体(A1)のイオン形の変換を行い、得られる混合床イオン交換体(MB2)を過酸化水素水の精製に用いるものである。ただし、例えば、任意にOH形アニオン交換体の金属低減処理を行った後、該OH形アニオン交換体を単床として、二酸化炭素溶解水を用いて重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)へ変換し、その後、カチオン交換体(C2)と、重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)のアニオン交換体(A2)を混合してもよい。このようにして得られる混合床イオン交換体もまた、本発明に係る混合床イオン交換体(MB2)と同様に、過酸化水素水の精製に好適に用いることができる。ただし、この場合においては、イオン交換体を混合する際に、十分な金属汚染防止対策や品質管理が求められる。あるいは、前記MB2の前段にさらにC2またはA2を接触させる工程を設けてもよい。すなわち、精製対象である過酸化水素水に含まれる低減対象となる不純物のうち、カチオン成分が多ければ前段にC2を、アニオン成分が多ければ前段にA2を設けることで、より効率良くイオン性不純物を低減することができる。一方で、カチオン成分が著しく少ない場合は、A2のみを用いて過酸化水素水の精製を行ってもよいし、アニオン成分が著しく少ない場合は、C2のみを用いて過酸化水素水の精製を行ってもよい。このように、低減対象となるイオン性不純物の組成に合わせて適宜最適化することができる。
【0037】
(二酸化炭素溶解水)
アニオン交換体変換工程において用いる二酸化炭素溶解水は、純水または超純水に炭酸ガスを溶解させて得られたものである。純水または超純水は、原水からイオンおよび非イオン性物質を除去する純水製造装置または超純水製造装置により原水を処理して得られる純水又は超純水である。具体的には、抵抗率1.0MΩ・cm以上の純水が好ましく、抵抗率10MΩ・cm以上の超純水がより好ましく、抵抗率18MΩ・cm以上の超純水がさらに好ましい。二酸化炭素溶解水中の二酸化炭素の溶解濃度は、純水または超純水中に炭酸ガスが溶解できる濃度であれば特に制限されないが、好ましくは1~2000mg/L、より好ましくは20~2000mg/Lである。二酸化炭素の溶解濃度が高いほど、短時間での処理が可能となり、使用水量も低減させることができる。
【0038】
二酸化炭素溶解水を得る方法、すなわち、純水または超純水に炭酸ガスを溶解する方法は、特に制限されず、電子部品部材類の洗浄用途向けに利用されている機能水の製造方法が挙げられる。例えば、中空糸膜を用いて炭酸ガスを溶解させる方法、配管内に直接炭酸ガスをバブリングする方法、炭酸ガスを注入後にスタティックミキサーなどの分散手段を用いて溶解させる方法、ガス溶解槽に超純水を供給するポンプの上流側に炭酸ガスを供給し、ポンプ内の撹拌によって溶解させる方法等が挙げられる。二酸化炭素を飽和濃度まで効率良く溶解させるために、中空糸膜を用いて炭酸ガスを溶解させる方法が好ましい。炭酸ガスを供給するためにガスボンベを用いる場合、ガス供給配管中に、0.5μm以下の微粒子を除去するための微粒子除去フィルターを設けることが好ましく、0.2μm以下の微粒子を除去するための微粒子除去フィルターを設けることがより好ましい。二酸化炭素溶解水の調製において、純水または超純水に溶解させる炭酸ガスの供給量は、ガス用マスフローコントローラーにより制御される。また、二酸化炭素濃度は、導電率計を用いることにより、連続的に監視される。
【0039】
混合床イオン交換体(MB1)に対し、二酸化炭素溶解水を接触させる際の温度は、低温であればある程、二酸化炭素の溶解度が高くなるため好ましい、ただし、エネルギー消費の観点から、該温度は、5~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。また、混合床イオン交換体(MB1)が充填されているイオン交換塔に、二酸化炭素溶解水を通水する場合は、ワンパスでイオン交換塔に二酸化炭素溶解水を供給してもよいが、純水または超純水の使用量を低減するため、循環用のタンクおよびポンプをイオン交換塔の後段に設け、使用後の水を再び二酸化炭素溶解水の調製用の原水として循環利用することができる。また、使用する水を循環させて利用する場合は、導電率計の値をフィードバックし、炭酸ガス供給量を制御することで、炭酸ガス供給量を削減することができる。
【0040】
アニオン交換体変換工程を行うことにより、H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床イオン交換体(MB1)中の該OH形アニオン交換体(A1)の対アニオンの全部または一部が重炭酸イオン(-HCO3)または炭酸イオン(-CO3)に交換されて、重炭酸イオン形アニオン交換体を含む過酸化水素水精製用混合床イオン交換体、または、重炭酸イオン形アニオン交換体と炭酸イオン形アニオン交換体とを含む過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)が得られる。
【0041】
アニオン交換体変換工程後に得られるアニオン交換体(A2)は、重炭酸イオン形(-HCO3)を有するアニオン交換体であるか、または重炭酸イオン形(-HCO3)と炭酸イオン形(-CO3)とを有するアニオン交換体、すなわち、対アニオンが重炭酸イオン(-HCO3イオン)であるアニオン交換基を有するアニオン交換体、または対アニオンが重炭酸イオン(-HCO3イオン)であるアニオン交換基と対アニオンが炭酸イオン(-CO3イオン)であるアニオン交換基とを有するアニオン交換体である。なお、本明細書においては、重炭酸イオン形(R-HCO3)、炭酸イオン形(R-CO3)との表記をしているが、実際の使用状況においては、重炭酸イオン形はR-HCO3
-と、炭酸イオン形はR-CO3
2-と解離している。
【0042】
アニオン交換体変換工程後に得られるアニオン交換体(A2)において、アニオン交換体の総交換容量に対する重炭酸イオン形および炭酸イオン形の交換容量の合計の割合は、特に制限されない。ただし、アニオン交換体中に存在する全アニオン交換基のうち、重炭酸イオン形または炭酸イオン形に変換されるアニオン交換基の数が多い程、性能が高くなる。そのため、アニオン交換体(A2)において、アニオン交換体の総交換容量に対する重炭酸イオン形および炭酸イオン形の交換容量の合計の割合は、好ましくは50当量%以上、より好ましくは60当量%以上、さらに好ましくは70当量%以上、さらに好ましくは80当量%以上、さらに好ましくは95当量%以上、さらに好ましくは99当量%以上、特に好ましくは100当量%である。すなわち、アニオン交換体変換工程においては、アニオン交換体の総交換容量に対する重炭酸イオン形および炭酸イオン形の交換容量の合計の割合が、上記好ましい値となるまで、H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床イオン交換体(MB1)に対して、二酸化炭素溶解水を接触させることが好ましい。
【0043】
アニオン交換体変換工程後に得られるアニオン交換体(A2)において、重炭酸イオン形および炭酸イオン形の交換容量の合計に対する重炭酸イオン形の交換容量の割合は、好ましくは70当量%以上、より好ましくは75当量%以上、さらに好ましくは80当量%以上である。重炭酸イオン形は、炭酸イオン形よりも選択係数が低いため、特に選択性が低い陰イオンや、低濃度のイオン交換負荷に対する処理性能の向上において効果がある。そのため、アニオン交換体(A2)中の重炭酸イオン形の割合が大きい程、過酸化水素水の精製性能が高くなる。
【0044】
アニオン交換体変換工程においては、例えば、H形カチオン交換体(C2)とOH形アニオン交換体(A1)とを含む混合床イオン交換体(MB1)を、二酸化炭素溶解水の供給管と排出管が付設されている容器に入れて、該容器内に二酸化炭素溶解水を供給しながら、容器内の水を容器外へ排出すること等により、連続的に、混合床イオン交換体(MB1)に、二酸化炭素溶解水を接触させることができる。ここで、二酸化炭素溶解水の供給管と排出管のそれぞれに導電率計を設置する等により、混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前後の二酸化炭素溶解水の導電率を測定し、混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前の二酸化炭素溶解水の導電率に対する、混合床イオン交換体(MB1)に接触させた後の二酸化炭素溶解水の導電率の割合((接触後の導電率/接触前の導電率)×100))が、好ましくは90%以上となるまで、より好ましくは95%以上となるまで、二酸化炭素溶解水を接触させる。混合床イオン交換体(MB1)への接触前後の二酸化炭素溶解水の導電率の比を測定しながら、混合床イオン交換体(MB1)に二酸化炭素溶解水を接触させることにより、アニオン交換体変換工程の終了時点を把握しやすくなる。
【0045】
なお、アニオン交換体変換工程では、混合床イオン交換体(MB1)への二酸化炭素溶解水の接触を開始してから、しばらくの間は、OH形アニオン交換体の重炭酸イオン形または炭酸イオン形へのイオン交換に、二酸化炭素溶解水中の二酸化炭素(二酸化炭素が水に溶解して生成する重炭酸イオンまたは炭酸イオン)の大部分が消費される。そのため、二酸化炭素溶解水中の重炭酸イオンまたは炭酸イオンの濃度が非常に低くなる。その結果、混合床イオン交換体への二酸化炭素溶解水の接触を開始した後、しばらくの間は、混合床イオン交換体に接触後の二酸化炭素溶解水の導電率は非常に低くなる。その後、重炭酸イオン形または炭酸イオン形へのイオン交換を続けて、アニオン交換体中に、重炭酸イオン形または炭酸イオン形にイオン交換されたアニオン交換基が多くなってくると、重炭酸イオン形または炭酸イオン形へのイオン交換のために消費される二酸化炭素の量が徐々に減ってくる。そのため、混合床イオン交換体(MB1)に接触後の二酸化炭素溶解水中の重炭酸イオンまたは炭酸イオンの濃度が徐々に高くなるので、混合床イオン交換体(MB1)に接触後の二酸化炭素溶解水の導電率は徐々に高くなる。そして、混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前の二酸化炭素溶解水の導電率に対する混合床イオン交換体(MB1)に接触させた後の二酸化炭素溶解水の導電率の割合((接触後の導電率/接触前の導電率)×100))が上記範囲となった時点で、アニオン交換体(A1)中のアニオン交換基の大部分が重炭酸イオン形または炭酸イオン形に変換された、すなわち、アニオン交換体(A2)が得られたと判断できる。なお、本発明においては、混合床イオン交換体(MB1)に対して、ある程度の時間、二酸化炭素溶解水を接触させた後に、ほとんど変動がなくなり、ほぼ一定となったときの導電率を、アニオン交換体変換工程における混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前の二酸化炭素溶解水の導電率とする。
【0046】
ここで、二酸化炭素溶解水への接触前のアニオン交換体(A2)中の全アニオン交換基のうち、重炭酸イオン形または炭酸イオン形でないアニオン交換基の交換容量は、接触前にアニオン交換体の分析をすれば求められるため、供給された二酸化炭素の全てがイオン交換に用いられるとした場合における、二酸化炭素の必要供給量を算出することは可能である。しかし、実際は、供給された二酸化炭素の全てがイオン交換に使用されることはなく、アニオン交換基の変換を行う際には、確実にアニオン交換基の変換が行われるように、かなり過剰の二酸化炭素溶解水を供給しなければならない。しかしながら、上記のように、混合床イオン交換体(MB1)に接触させる前後の二酸化炭素溶解水の導電率を測定し、その導電率の割合の推移を観察して、好ましくは90%以上となるまで、より好ましくは95%以上となるまで、二酸化炭素溶解水を供給すれば、アニオン交換体中のアニオン交換基の総交換容量に対する重炭酸イオン形および炭酸イオン形の交換容量の合計の割合が上記好ましい範囲(例えば、80当量%以上や95当量%以上)となる時点を把握することができる。OH形アニオン交換体(A1)中のOH基が多く残っていると、精製中に過酸化水素が分解され、内圧上昇の恐れがあるため、アニオン交換体のOH基の割合は低い方が好ましい。
【0047】
上記方法によれば、OH形アニオン交換体(A1)中のOH基を重炭酸イオン形または炭酸イオン形に変換するために、炭酸塩または炭酸水素塩水溶液の代わりに、二酸化炭素溶解水を用いる。そのため、アニオン交換体と共に存在しているH形カチオン交換体中の水素イオンが、炭酸塩または炭酸水素塩のカチオンで交換されることがない。すなわち、カチオン交換体との混合床の状態でアニオン交換体のイオン形を変換することができるため効率的である。また、イオン形の変換に用いる二酸化炭素溶解水は、純水または超純水に炭酸ガスを溶解させて得られたものであり、該二酸化炭素溶解水中の含有金属量は非常に少ない。そのため、上記方法は、本工程による金属不純物のコンタミネーションを抑制することができる点においても好ましい。
【0048】
アニオン交換体変換工程後に得られる、H形カチオン交換体(C2)と、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)と、を含む過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下である。なお、金属不純物量は、例えば、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて測定することができる。
【0049】
[含有金属不純物量の管理]
上述したように、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)中の含有金属不純物量は、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量を測定する方法により求める(特許文献4参照)。この方法を用いて過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)に含まれる含有金属不純物量を求めて管理することにより、安定して高純度精製を行うことが可能な混合床イオン交換体を提供できる。
【0050】
ここで、前記方法を用いて、H形カチオン交換体(C2)と、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)と、を含む混合床イオン交換体(MB2)のサンプルを分析する場合、炭酸イオンや重炭酸イオンが塩酸中のClイオンと交換し、塩酸中に気泡が発生する。そのため、カラム等を用いたカラム式によって塩酸の通液処理を行った場合、カラム内に溜まった気泡が塩酸通液中のショートパスの原因となる可能性がある。すなわち、カラム内に溜まった気泡の影響により、塩酸が樹脂内を通らずに通過してしまい、樹脂内の金属が塩酸中に効率良く溶出しない可能性がある。その結果、混合床イオン交換体中の含有金属不純物量を正確に測定することが困難となる。したがって、前記方法による混合床イオン交換体(MB2)中の含有金属不純物量の管理は、二酸化炭素溶解水の通水により、アニオン交換体のイオン形を重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)に変換する前に行うことが好ましい。ただし、二酸化炭素溶解水の通水後であっても、気泡の発生が問題とならないバッチ式によって塩酸を接触させる方法であれば、アニオン交換体のイオン形を変換後においても分析管理が可能である。ただし、その場合、バッチ式による塩酸との接触は大気開放状態で行う必要がある。
【0051】
なお、イオン形の変換に用いる二酸化炭素溶解水は、上述したように、純水または超純水に炭酸ガスを溶解させて得られるものであり、該二酸化炭素溶解水中の金属不純物濃度は、超純水と同等の低い値を維持することができる。そのため、アニオン交換体変換工程における金属不純物の混入の可能性は極めて低く、アニオン交換体のイオン形を重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)に変換する前において、「含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下」であるように管理された混合床イオン交換体(MB1)は、アニオン交換体のイオン形変換後においても、「含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下」を満たすものといえる。
【0052】
以上のように、本発明において、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)中の含有金属不純物量の管理は、アニオン交換体のイオン形を変換する前の段階において行うことが好ましい。すなわち、混合床イオン交換体(MB1)について、「含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下」であることを以て、アニオン交換体のイオン形変換後の過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)が「含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%(質量基準)の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が3mg/L-R以下」であると判断することができる。
【0053】
<過酸化水素水の精製方法>
本発明に係る過酸化水素水の精製方法は、上記本発明に係る調製方法によって調製した過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いることを特徴とする。含有金属不純物量が低減された混合床イオン交換体を用いて精製を行うことにより、極めて高純度の過酸化水素水を得ることができる。
【0054】
[過酸化水素水]
本発明において精製に供される被処理液としての過酸化水素水(「粗過酸化水素水」とも称する)としては、アントラキノン法などにより工業的に製造された過酸化水素水を用いることができる。ただし、工業用過酸化水素水をイオン交換樹脂や逆浸透プロセス等を使用して粗精製した過酸化水素水を用いる方が、より純度の高い過酸化水素水を得ることができる。被処理液としての過酸化水素水の濃度は、特に制限されないが、通常は1~65質量%、好ましくは1~40質量%である。
【0055】
過酸化水素水に含まれる不純物である金属成分としては、例えば、アルミニウム、カルシウム、クロム、鉄、カリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ナトリウム、ニッケル、錫、チタン、銀、バリウム、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、コバルト、銅、ガリウム、リチウム、鉛、アンチモン、ストロンチウム、タリウム、バナジウム、亜鉛、ジルコニウム、ヒ素等を挙げることができる。上記以外の他の金属成分が含まれていてもよい。
【0056】
粗過酸化水素水中の含有金属濃度は、特に制限されないが、逆浸透膜により粗精製された過酸化水素水の場合は1~100質量ppt程度であり、工業用過酸化水素水の場合、ナトリウムは10質量ppm程度であり、他の金属は多いもので数百質量ppb存在する場合もある。本発明は、いずれの粗過酸化水素水にも適用可能である。
【0057】
本発明に係る過酸化水素水の精製方法は、過酸化水素水をイオン交換体に接触させる工程を有し、該イオン交換体として、前記本発明に係る調製方法によって得られた過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いる。具体的には、例えば、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)が充填されているイオン交換塔に、粗過酸化水素水を通液して、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)に粗過酸化水素水を接触させることにより精製を行うことができる。また、バッチ式により、過酸化水素水を混合床イオン交換体(MB2)に接触させてもよい。
【0058】
過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)に、粗過酸化水素水を接触させる際の温度は、過酸化水素水の分解を抑制する観点から、好ましくは-10~25℃、より好ましくは-5~20℃である。また、過酸化水素水の精製において、イオン交換塔へ通液する粗過酸化水素水の空間速度(SV)は特に限定されないが、好ましくは1~30h-1、より好ましくは1~15h-1である。他の通液条件についても特に限定されず、一般的な方法を適宜調整して用いることができる。
【0059】
[ポリッシャーとしての使用]
過酸化水素水の精製を行うにあたり、公知の過酸化水素水の精製方法と、本発明に係る過酸化水素水の精製方法とを組み合わせることができる。すなわち、吸着剤、イオン交換樹脂、および微粒子除去フィルターからなる群より選択される2つ以上を組み合わせた精製処理に供された後の過酸化水素水に対し、上記本発明に係る調製方法によって調製された過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)をポリッシャーとして配置することも本発明の好ましい態様である。吸着剤としては、有機不純物を吸着除去することが可能な公知の合成吸着剤等を用いることができる。例えば、アンバーライトXAD(商品名、オルガノ(株)製)、ダイヤイオンHPシリーズ、セパビーズSP800シリーズ、セパビーズSP70、セパビーズSP700、セパビーズSP207、ダイヤイオンHP2MGL、小粒径合成吸着剤のダイヤイオンHP20SS、セパビーズSP20SS、セパビーズ207SS(いずれも商品名、三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。イオン交換樹脂としては、一般的な純水製造用イオン交換樹脂であるアニオン交換樹脂を炭酸形に変換したものとカチオン交換樹脂とを組み合わせたものを用いることができる。微粒子除去フィルターとしては、メンブレンフィルターが一般的である。ただし、官能基を有するイオン吸着膜やイオン吸着膜とメンブレンフィルターとを組み合わせたものを用いてもよい。
これらの中から選択される2つ以上を組み合わせた精製処理を経て、過酸化水素水中の各金属不純物濃度を1ppb~1桁ppt程度まで低減した後、さらに金属不純物量を低減する仕上げ用ポリッシャーとして、本発明を用いて調製した過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いることが好ましい。
【0060】
ポリッシャーとして用いられる、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、本発明に係る方法により調製した後、精製に用いられるまでの間、必要に応じて、金属溶出が低減されたフッ素樹脂製の容器またはフッ素樹脂で内面被覆処理を施された容器に充填して保管することが好ましい。なお、これら容器は、カラム状タイプでもよく、容器ごとに交換利用が可能なボンベタイプやカートリッジタイプでもよい。なお、ポリッシャーとして一度使用した混合床イオン交換体は、通常、再生されずに廃棄される。
【0061】
[重炭酸アンモニウムの精製用樹脂としての適用]
本発明に係る過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)は、主として過酸化水素水の精製に用いられるものであるが、重炭酸アンモニウムの精製に用いることもできる。一般的に、炭酸イオン形または重炭酸イオン形のアニオン交換樹脂は、OH形アニオン交換樹脂に重炭酸アンモニウム溶液を通液することによって調製される。その際に使用される重炭酸アンモニウム溶液中の金属不純物量は十分に低減されることが好ましい。なぜなら、重炭酸アンモニウム溶液中に、金属不純物が酸化物や錯イオン等としてアニオン形態で存在する場合、そのようなアニオン性金属不純物が、アニオン交換樹脂のイオン形変換を行う際に、該アニオン交換樹脂の汚染源となる可能性があるためである。そこで、二酸化炭素溶解水を用いて調製した本発明に係る混合床イオン交換体(MB2)を用いて、イオン形変換に使用される重炭酸アンモニウム溶液を精製することにより、該溶液中の炭酸濃度および重炭酸濃度やpH変化を抑え、かつ混合床イオン交換体からの金属不純物の溶出なく、重炭酸アンモニウム溶液に含まれるアニオン性金属不純物量を低減することができる。なお、重炭酸アンモニウム溶液としては、炭酸イオン形または重炭酸イオン形のアニオン交換樹脂の調製に通常用いられる重炭酸アンモニウム溶液を適用することができる。
【0062】
[検量線作成用溶液としての適用]
本発明に係る過酸化水素水の精製方法を用いて精製された過酸化水素水は、高純度過酸化水素水中の含有金属不純物量の測定をICP-MSを用いて行う際の、検量線作成用溶液として適用することができる。ICP-MSを用いた測定においては、検量線作成用溶液中の不純物を低減することにより、試料溶液中の測定対象物をより低濃度まで測定できることや分析精度が向上することが知られている。特に、検量線作成用溶液には、試料溶液と同じ液性(薬液の種類や濃度)を有し、測定対象金属濃度が十分に低いことが求められている。そのため、試料溶液として本発明の方法により精製された過酸化水素水を用いる場合における検量線作成用溶液としても、本発明に係る過酸化水素水の精製方法によって得られる高純度の過酸化水素水を用いることで、効率的かつ高精度の分析が可能となる。
【0063】
[混合床イオン交換体の再生]
H形カチオン交換体(C2)と、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体(A2)と、を含む混合床イオン交換体(MB2)を用いて、被処理液(過酸化水素水等)の精製を続けると、該混合床イオン交換体に含まれるアニオン交換体(A2)中の重炭酸イオンが、被処理液中の不純物アニオンに交換される。そのため、ある程度、被処理液の精製を続けた後は、不純物アニオンでイオン交換されたアニオン交換体を、重炭酸イオン形または重炭酸イオン形と炭酸イオン形アニオン交換体に再生する必要がある。不純物アニオンによりイオン交換されたアニオン交換体の再生は、該アニオン交換体を再度、前記アニオン交換体変換工程に供することによって行われる。なお、再生方法としては、使用後の混合床イオン交換体(MB2)に対し、混合床のまま二酸化炭素溶解水を接触させる方法でもよく、使用後の混合床イオン交換体(MB2)をカチオン交換体とアニオン交換体に分け、それぞれをH形カチオン交換体とOH形カチオン交換体になるようイオン変換した後に両者を混合し、二酸化炭素溶解水と接触させる方法でもよい。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明の効果を説明するが、これら実施例は単なる例示であって、本発明を制限するものではない。
【0065】
[実施例1、比較例1]
(混合床イオン交換体調製工程)
イオン交換体として、以下のカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を用意した。そして、以下に示す組み合わせで、Mix AおよびMix Bの混床(混合床イオン交換体(MB1))を調製した。なお、混床Mix Aについて、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-Rよりも多く、混床Mix Bについて、前記全金属不純物量は3mg/L-R以下であった。
[樹脂]
・カチオン交換樹脂A:特級塩酸(含有金属不純物量:1mg/Lよりも多い、濃度:36%)を用いて精製した、スチレン系樹脂、ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は5mg/L-Rよりも多い。
・カチオン交換樹脂B:高純度塩酸(含有金属不純物量:1mg/L以下、濃度:36%)を用いて精製した、スチレン系樹脂、ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-R以下。
・アニオン交換樹脂C:スチレン系樹脂、ゲル型、OHイオン形の強アニオン交換樹脂、高純度精製品、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-R以下。
[混床]
・Mix A(樹脂Aと樹脂Cを体積比1:1で混合):比較例1
・Mix B(樹脂Bと樹脂Cを体積比1:1で混合):実施例1
【0066】
(アニオン交換体変換工程)
本工程は、特許文献3の実施例1に記載の方法に準じて行った。調製した混床Mix AおよびMix Bを、それぞれ、下部にPFAメッシュを備えたPFA製イオン交換塔(内径:16mm、高さ:300mm)に36mL充填した。次いで、超純水と、ガス用マスフローを用いて炭酸ガスとを、ガス溶解用中空糸膜に供給し、炭酸ガスを超純水に溶解させて、二酸化炭素溶解水を得た。次いで、得られた二酸化炭素溶解水を、各イオン交換塔内に供給し、混床に二酸化炭素溶解水を通液した。その際、イオン交換塔での通液流速を1.5L/時間とし、塔入口の導電率が38μS/cmとなるように、ガス溶解用中空糸膜への炭酸ガスの供給量を調節した。そして、塔出口の導電率が塔入口の導電率と同等(38μS/cm)となるまで、二酸化炭素溶解水の通液を続け(約90分間)、二酸化炭素溶解水を通水し、アニオン交換樹脂のイオン形を重炭酸イオン形(および炭酸イオン形)に変換した。このようにして、混床Mix AおよびMix Bのそれぞれについて、過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を得た。なお、イオン交換塔への二酸化炭素溶解水の供給を開始してからしばらくの間は、塔入口の二酸化炭素水の導電率が上下に少し変動していたものの、供給開始後45分程度経過した後は、38μS/cmで一定となった。
【0067】
含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量をICP-MSで分析する方法(塩酸溶離法)によって、上記二酸化炭素溶解水通液後のMix AおよびMix B(混合床イオン交換体(MB2))に含まれる各金属含有量(mg/L-R)を分析した。なお、分析は、カラムに混合床イオン交換体を充填して、カラム式により行った。この際、気泡に注意して分析を行った。ICP-MSは、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、Agilent製)を用いた。分析結果を表1に示す。表1に示すように、高純度塩酸を用いて精製したカチオン交換樹脂Bを含むMix Bに係る混合床イオン交換体(実施例1)の金属含有量は、Mix Aに係る混合床イオン交換体(比較例1)と比べて、より低減されたことが分かった。
【0068】
【0069】
[実施例2、比較例2]
(過酸化水素水の精製)
実施例1および比較例1で得られた、各過酸化水素水精製用混合床イオン交換体(MB2)を用いて、過酸化水素水の精製試験を行った。精製対象の過酸化水素水としては、35質量%過酸化水素水(商品名:TAMAPURE-AA-10、多摩化学工業株式会社製)に、標準液としての汎用混合標準液(商品名:XSTC-13、SPEX社製)を添加し、各金属元素が約100ppt含まれるように調製した模擬液を用いた。精製試験の処理条件は以下のとおりである。
[処理条件]
通液量:10BV
流速:SV5、ポンプ送液
温度:模擬液およびカラム処理液は全て16℃以下
【0070】
精製前の模擬液(原液)および精製後の模擬液(処理液)について、ICP-MS(商品名:Agilent 8900、Agilent製)を用いて、各金属含有量(ng/L)を測定した。結果を表2に示す。なお、処理液について「BV2.5~5」とは、処理液を2.5BV通液した時点から~5BV通液した時点まで(通液初期)の平均の金属含有量を意味する。同様に、「BV7.5~10」とは、処理液を7.5BV通液した時点から~10BV通液した時点までの平均の金属含有量を意味する。
【0071】
【0072】
金属含有量が低減されたMix Bに係る混合床イオン交換体を用いて精製を行った実施例2においては、通液初期から金属除去性能が高く、特にKの除去性能は顕著であった。Feについても、実施例2と、金属含有量が低減されていないMix Aに係る混合床イオン交換体を用いて精製を行った比較例2とを比較すると、通液初期(BV2.5~5)において、除去性能の大きな差がみられた。このように、本発明によれば、精製に用いるイオン交換体自体の金属含有量を低減することで、さらなる過酸化水素水の高純度化を達成し得ることが分かった。また、本発明に係る過酸化水素水精製用混合床イオン交換体を用いることにより、特に通液初期において金属濃度を低減させることが可能であり、立ち上がりが良くなることが確認できた。すなわち、本発明によれば、廃棄される通液初期の含有金属不純物量が多い処理液の量を少なくすることが可能であり、経済的かつ効率的に、高純度の過酸化水素水を得ることができる。
【0073】
[実施例3~6]
母体の違いおよび粒径の違いが、過酸化水素水からの金属除去性能に与える影響を確認するために、金属不純物を含有する過酸化水素水を用いて、以下のとおり、バッチ浸漬試験を行った。
【0074】
(混合床イオン交換体調製工程)
イオン交換体として、前記カチオン交換樹脂B、前記アニオン交換樹脂C、ならびに、以下のカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を用意した。そして、以下に示す組み合わせで、Mix B~Mix Eの混床(混合床イオン交換体(MB1))を調製した。なお、Mix Bは、実施例1で使用した混床と同じものであり、混床Mix B~Mix Eについて、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、いずれも3mg/L-R以下であった。各混床に用いたカチオン交換樹脂の調和平均径、交換容量、および水分保有能力を表3に示す。
[樹脂]
・カチオン交換樹脂D:高純度塩酸(含有金属不純物量:1mg/L以下、濃度:36%)を用いて精製した、スチレン系樹脂、マクロポーラス型の強酸性カチオン交換樹脂、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-R以下。
・カチオン交換樹脂E:高純度塩酸(含有金属不純物量:1mg/L以下、濃度:36%)を用いて精製した、スチレン系樹脂、ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-R以下。
・カチオン交換樹脂F:高純度塩酸(含有金属不純物量:1mg/L以下、濃度:36%)を用いて精製した、スチレン系樹脂、ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は3mg/L-R以下。
[混床]
・Mix B(樹脂Bと樹脂Cを体積比1:1で混合):実施例3
・Mix C(樹脂Dと樹脂Cを体積比1:1で混合):実施例4
・Mix D(樹脂Eと樹脂Cを体積比1:1で混合):実施例5
・Mix E(樹脂Fと樹脂Cを体積比1:1で混合):実施例6
【0075】
(アニオン交換体変換工程)
上記各混床に対し、実施例1と同様の方法により、アニオン交換体変換工程を実施し、アニオン交換樹脂のイオン形を変換することにより、各実施例に係る混合床イオン交換体(MB2)を得た。なお、得られた各実施例に係る混合床イオン交換体(MB2)について、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度3%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、いずれも3mg/L-R以下であった。
【0076】
(過酸化水素水の精製)
得られた、各混合床イオン交換体(MB2)を用いて、過酸化水素水の精製試験を行った。精製対象の過酸化水素水としては、30質量%過酸化水素水(関東化学(株)製)に、標準液としての汎用混合標準液(商品名:XSTC-13、SPEX社製)を添加し、各金属元素が約10ppb含まれるように調製した模擬液を用いた。精製試験の処理条件は以下のとおりである。攪拌終了後の上澄み液中の金属含有量(μg/L)を、ICP-MS(商品名:Agilent 8900、Agilent製)を用いて分析した。得られた金属含有量と、精製前の模擬液中の金属含有量とから、各金属について金属除去率(%)を算出した。結果を表3および
図1に示す。
[処理条件]
液量:5BV、バッチ浸漬
攪拌時間:15分間以上
温度:25℃
【0077】
【0078】
表3に示すように、混床に含まれるカチオン交換樹脂の母体がゲル型である実施例3、5および6における金属除去率は、母体がマクロポーラス型である実施例4における金属除去率よりも高かった。したがって、過酸化水素水の精製に用いられる混合床イオン交換体は、カチオン交換体として、ゲル型のカチオン交換体を含むことが好ましい。
また、実施例3、5および6で用いたゲル型のカチオン交換樹脂のうち、実施例5および6で用いたカチオン交換樹脂は、調和平均径が0.2~0.4mmの小粒径品である。小粒径品においては、水分保有能力や交換容量の違いに関わらず、一般的な粒径を有するカチオン交換樹脂を用いた実施例3と同等の性能であった。ただし、小粒径品は、表面積が大きいことが特徴であるため、金属不純物の除去効率の向上に加え、再生の際に使用する薬液量を減らすことや、精製時における流速を上げることができること、そして、精製時のイオン交換体収納容器をコンパクト化できる点において有利である。