(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137728
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】導電性複合膜転写シート、導電性部材、それらの製造方法、及び導電膜
(51)【国際特許分類】
B32B 7/06 20190101AFI20230922BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230922BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230922BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20230922BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230922BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B32B7/06
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
H01B1/24 B
B32B7/025
H05B3/20 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044072
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】中山 由美
(72)【発明者】
【氏名】河本 憲治
(72)【発明者】
【氏名】石川 宏典
【テーマコード(参考)】
3K034
4F100
5G301
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
3K034AA05
3K034AA06
3K034AA09
3K034AA34
3K034JA01
4F100AD11B
4F100AJ04B
4F100AK18A
4F100BA02
4F100DG01B
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4F100JG01B
4F100JK14
4F100JL14A
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD08
5G301DE01
5G307GA02
5G307GB02
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】 導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜を簡便に転写することができる導電性複合膜転写シートを提供すること。また、導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜、及び、上記導電膜を具備する導電性部材を提供すること。
【解決手段】 本実施形態により、液体透過性シートからなる第1剥離シートと、上記第1剥離シートの第1主面に支持され、導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性複合膜前駆体とを具備する導電性複合膜転写シートが提供される。上記導電性複合膜転写シートにおいて、上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体は第1液体を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体透過性シートからなる第1剥離シートと、前記第1剥離シートの第1主面に支持され、導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性複合膜前駆体とを具備し、前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体が第1液体を含んでいる導電性複合膜転写シート。
【請求項2】
前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含まれる前記第1液体の合計質量が、前記第1剥離シートの質量に対して50質量%以上である請求項1に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項3】
前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含有される前記第1液体は、前記導電性複合膜前駆体の形成に用いられた前記導電性繊維と前記微細化セルロースを含有する分散液の分散溶媒である請求項1又は2に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項4】
前記第1液体は水又はアルコール類を含んでいる請求項1乃至3の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項5】
前記微細化セルロースとして、カチオン性基が導入されたカチオン変性微細化セルロース及び未変性微細化セルロースから選択される少なくとも1種を含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項6】
前記導電性繊維として少なくともカーボンナノチューブを含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブである請求項6に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項8】
前記第1剥離シートは、0.05μm乃至5μmの範囲の孔径を有する多孔質シートである請求項1乃至7の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項9】
前記第1剥離シートはポリテトラフルオロエチレンを含む請求項1乃至8の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項10】
第2剥離シートを更に具備し、前記導電性複合膜前駆体が前記第1剥離シートと前記第2剥離シートとの間に挟持され、前記第2剥離シートは第2液体を含有している請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項11】
前記第2液体は前記第1液体と同じである請求項10に記載の導電性複合膜転写シート。
【請求項12】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シートの製造方法であって、
前記第1剥離シートの前記第1主面上に、前記導電性繊維及び前記微細化セルロースが前記第1液体に分散された分散液を塗布することにより塗膜を形成すること、及び
前記第1剥離シートの前記第1主面の裏面である第2主面側から前記第1液体の一部を除去することにより前記導電性複合膜前駆体を形成すること、
を含む導電性複合膜転写シートの製造方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の導電性複合膜転写シートの製造方法であって、
前記第1剥離シートの前記第1主面上に、前記導電性繊維及び微細化セルロースが前記第1液体に分散された分散液を塗布することにより塗膜を形成すること、
前記第1剥離シートの前記第1主面の裏面である第2主面側から前記第1液体の一部を除去することにより前記導電性複合膜前駆体を形成すること、及び
前記導電性複合膜前駆体上に前記第2液体を含有する前記第2剥離シートを積層することにより、前記第1剥離シートと前記第2剥離シートの間に前記導電性複合膜前駆体を挟持すること
を含む導電性複合膜転写シートの製造方法。
【請求項14】
前記第1剥離シートの前記第2主面側からの前記第1液体の除去が、前記第2主面側を吸引することにより行われる請求項12又は13に記載の導電性複合膜転写シートの製造方法。
【請求項15】
基材と、前記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材であり、前記導電性複合膜は導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性部材。
【請求項16】
前記微細化セルロースとして、カチオン性基が導入されたカチオン変性微細化セルロース及び未変性微細化セルロースから選択される少なくとも1種を含む請求項15に記載の導電性部材。
【請求項17】
前記導電性繊維として少なくともカーボンナノチューブを含む請求項15又は16に記載の導電性部材。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブである請求項17に記載の導電性部材。
【請求項19】
基材と、前記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材であり、前記導電性複合膜は、請求項1乃至11の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シートが含む前記導電性複合膜前駆体の転写膜である導電性部材。
【請求項20】
前記基材と前記導電性複合膜とが、前記導電性複合膜転写シートから前記導電性複合膜前駆体を前記基材に転写する際の前記第1液体の除去により生じたファンデルワールス力により結合している請求項19に記載の導電性部材。
【請求項21】
前記導電性複合膜は、前記導電性繊維と前記微細化セルロースを、前記導電性繊維1質量部に対し、前記微細化セルロースを0.5乃至100質量部の配合比で含有し、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下である請求項15乃至20の何れか1項に記載の導電性部材。
【請求項22】
前記導電性複合膜の表面粗さは、算術平均高さが0.5μm以下である請求項15乃至21の何れか1項に記載の導電性部材。
【請求項23】
前記導電性複合膜は自立膜であり、前記基材に支持された領域と支持されていない領域を有する請求項15乃至22の何れか1項に記載の導電性部材。
【請求項24】
基材と、前記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シートに含まれる前記導電性複合膜前駆体を前記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含有される前記第1液体を除去すること、及び
前記第1剥離シートを剥離すること
を含む導電性部材の製造方法。
【請求項25】
基材と、前記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
請求項10又は11に記載の導電性複合膜転写シートから前記第2剥離シートを剥離すること、
前記導電性複合膜前駆体を前記基材に接触させること、
加熱又は乾燥によりにより前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含有される前記第1液体を除去すること、及び
前記第1剥離シートを剥離すること
を含む導電性部材の製造方法。
【請求項26】
導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性複合膜。
【請求項27】
前記微細化セルロースとして、カチオン性基が導入されたカチオン変性セルロースナノファイバー及び未変性微細化セルロースから選択される少なくとも1種を含む請求項26に記載の導電性複合膜。
【請求項28】
前記導電性繊維として少なくともカーボンナノチューブを含む請求項26又は27に記載の導電性複合膜。
【請求項29】
前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブである請求項28に記載の導電性複合膜。
【請求項30】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シートが含む前記導電性複合膜前駆体の転写膜である導電性複合膜。
【請求項31】
前記導電性繊維と前記微細化セルロースを、前記導電性繊維1質量部に対し、前記微細化セルロースを0.5乃至100質量部の配合比で含有し、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下である請求項26乃至30の何れか1項に記載の導電性複合膜。
【請求項32】
前記導電性複合膜は、表面粗さが算術平均高さで0.5μm以下である請求項26乃至31の何れか1項に記載の導電性複合膜。
【請求項33】
基材と、前記基材上に導電膜とを具備する導電性部材であり、前記導電膜はカーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下であり、表面粗さが算術平均高さで0.5μm以下である導電性部材。
【請求項34】
前記導電膜は自立膜であり、前記基材に支持された領域と支持されていない領域を有する請求項33に記載の導電性部材。
【請求項35】
基材と、前記基材上に導電性繊維を含む導電膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電性複合膜転写シートに含まれる前記導電性複合膜前駆体を、前記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含有される前記第1液体を除去すること、
前記第1剥離シートを剥離すること、及び
前記微細化セルロースを除去すること
を含む導電性部材の製造方法。
【請求項36】
基材と、前記基材上に導電性繊維を含む導電膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
請求項10又は11に記載の導電性複合膜転写シートから前記第2剥離シートを剥離すること、
前記導電性複合膜前駆体を前記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により前記第1剥離シートと前記導電性複合膜前駆体に含有される前記第1液体を除去すること、
前記第1剥離シートを剥離すること、及び
前記微細化セルロースを除去すること
を含む導電性部材の製造方法。
【請求項37】
前記微細化セルロースの除去が、熱分解除去又は溶剤への溶解除去により行われる請求項35又は36に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項38】
カーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下であり、表面粗さが算術平均高さで0.5μm以下である導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合膜転写シート、導電性部材、それらの製造方法、及び導電膜に関する。ここで「導電膜」は導電性複合膜を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
透明導電性層は、静電防止層、透明面状発熱体、プラズマディスプレイパネル電極、液晶電極、有機エレクトロルミネッセンス(EL)電極、タッチパネル、電磁波遮蔽膜などとして用いることができる。
【0003】
現在、透明導電膜は主にスパッタリング法によって製造されている。スパッタリング法は、ある程度大きな面積のものでも、表面抵抗値の低い導電膜を形成できる点で優れている。しかし、装置が大掛かりで成膜速度が遅いという欠点がある。加えて真空装置中で導電材料を加熱して成膜するため、このような環境下に耐えうる材料に限られる。
【0004】
また、塗布法による透明導電膜の製造も試みられている。従来の塗布法では、導電性微粒子がバインダー溶液中に分散された導電性塗料を基板上に塗布し、乾燥し、硬化させて導電膜を形成する。塗布法は、大面積の導電膜を容易に形成しやすく、装置が簡便で生産性が高く、スパッタリング法よりも低コストで導電膜を製造できるという長所がある。塗布法では、導電性微粒子同士が接触することにより電気経路を形成し導電性が発現される。しかしながら、従来の塗布法で作製された導電膜ではバインダーの存在のために導電性微粒子同士の接触が不十分で、得られる導電膜の電気抵抗値が高い(導電性に劣る)という欠点があり、その用途が限られてしまう。
【0005】
塗布法において、導電性微粒子と比べて比較的接点の形成が容易なカーボンナノチューブのような導電性繊維を用いることも出来るが、一般的には導電膜を形成する際の塗膜の厚さや、形成後の膜強度の問題から少量のバインダーを混合して塗布するため、導電性が低下する。
【0006】
特許文献1には、透明導電膜を具備する透明導電性基板を、転写により製造する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、被転写体としての物体表面上に透明導電層を転写するための転写用導電性フィルムが開示されている。転写用導電性フィルムが具備する透明導電層は、導電性微粒子を圧縮することにより形成されたものである。
【0008】
特許文献3には、基材表面に導電層を有する導電性成形体の製造方法として、極細導電繊維を用いた複数種の方法が開示されている。その中の一つに剥離フィルム上に極細導電繊維の分散液を塗布し乾燥した層を、接着層を介して基材表面に圧着し、剥離フィルムを剥がして転写する方法が含まれているが、接着層に関する具体的な説明がないなど、当該転写方法に関する詳細な説明は記載されていない。
【0009】
特許文献4には、剥離フィルム上に、揮発性溶剤に樹脂バインダーを混ぜて増粘した極細導電繊維を含有する塗液を塗布し乾燥した導電層と、この導電層上に紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着層が積層されてなる転写用導電フィルムの製造方法が記載されている。
【0010】
非特許文献1には、カーボンナノチューブの導電フィルム製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6-103839号公報
【特許文献2】特開2002-347150号公報
【特許文献3】特許第3903159号公報
【特許文献4】特開2010-269569号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】表面化学、P587、Vol.64、No.11、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜を簡便に転写することができる導電性複合膜転写シートを提供することを目的とする。また、本発明は、導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜、及び、上記導電膜を具備する導電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、カーボンナノチューブと、微細化セルロースとを含有する分散液を液体透過性シートからなる剥離シート上に塗布し、分散液の分散溶媒の一部を含んだ状態の導電性複合膜転写シートを作製することで、被転写体である基材の材質や形状(曲面、平面など)を問わず、効率的かつ簡便に導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜を転写できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の第1側面によれば、液体透過性シートからなる第1剥離シートと、上記第1剥離シートの第1主面に支持され、導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性複合膜前駆体とを具備し、上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体が第1液体を含んでいる導電性複合膜転写シートが提供される。
【0016】
本発明の第2側面によれば、上記第1側面に係る導電性複合膜転写シートが第2剥離シートを更に具備し、上記導電性複合膜前駆体が上記第1剥離シートと上記第2剥離シートとの間に挟持され、上記第2剥離シートは第2液体を含有している導電性複合膜転写シートが提供される。
【0017】
本発明の第3側面によれば、上記第1側面に係る導電性複合膜転写シートの製造方法であって、上記第1剥離シートの上記第1主面上に、上記導電性繊維及び上記微細化セルロースが上記第1液体に分散された分散液を塗布することにより塗膜を形成すること、及び
上記第1剥離シートの上記第1主面の裏面である第2主面側から上記第1液体の一部を除去することにより上記導電性複合膜前駆体を形成すること、
を含む導電性複合膜転写シートの製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第4側面によれば、上記第2側面に係る導電性複合膜転写シートの製造方法であって、上記第1剥離シートの上記第1主面上に、上記導電性繊維及び上記微細化セルロースが上記第1液体に分散された分散液を塗布することにより塗膜を形成すること、
上記第1剥離シートの上記第1主面の裏面である第2主面側から上記第1液体の一部を除去することにより上記導電性複合膜前駆体を形成すること、及び
上記導電性複合膜前駆体上に上記第2液体を含有する上記第2剥離シートを積層することにより、上記第1剥離シートと上記第2剥離シートの間に上記導電性複合膜前駆体を挟持すること、
を含む導電性複合膜転写シートの製造方法が提供される。
【0019】
本発明の第5側面によれば、基材と、上記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材であり、上記導電性複合膜は、導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性部材が提供される。
【0020】
本発明の第6側面によれば、基材と、上記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
上記第1側面に係る導電性複合膜転写シートに含まれる上記導電性複合膜前駆体を上記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体に含有される上記第1液体を除去すること、及び
上記第1剥離シートを剥離すること
を含む導電性部材の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の第7側面によれば、基材と、上記基材上に導電性複合膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
上記第2側面に係る導電性複合膜転写シートから上記第2剥離シートを剥離すること、 上記導電性複合膜前駆体を上記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体に含有される上記第1液体を除去すること、及び
上記第1剥離シートを剥離すること
を含む導電性部材の製造方法が提供される。
【0022】
本発明の第8側面によれば、導電性繊維と微細化セルロースとを含む導電性複合膜が提供される。
【0023】
本発明の第9側面によれば、基材と、上記基材上に導電膜とを具備する導電性部材であり、上記導電膜はカーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下であり、表面粗さが算術平均高さで0.5μm以下である導電性部材が提供される。
【0024】
本発明の第10側面によれば、基材と、上記基材上に導電性繊維を含む導電膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
上記第1側面に係る導電性複合膜転写シートに含まれる上記導電性複合膜前駆体を、上記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体に含有される上記第1液体を除去すること、
上記第1剥離シートを剥離すること、及び
上記微細化セルロースを除去すること
を含む導電性部材の製造方法が提供される。
【0025】
本発明の第11側面によれば、基材と、上記基材上に導電性繊維を含む導電膜とを具備する導電性部材の製造方法であって、
上記第2側面に係る導電性複合膜転写シートから上記第2剥離シートを剥離すること、 上記導電性複合膜前駆体を上記基材に接触させること、
加熱又は乾燥により上記第1剥離シートと上記導電性複合膜前駆体に含有される上記第1液体を除去すること、
上記第1剥離シートを剥離すること、及び
前記微細化セルロースを除去すること
を含む導電性部材の製造方法が提供される。
【0026】
本発明の第12側面によれば、カーボンナノチューブを含み、表面抵抗値が0.1乃至10000Ω/cm2の範囲であり、厚さが10μm以下であり、表面粗さが算術平均高さで0.5μm以下である導電膜が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜を簡便に転写することができる導電性複合膜転写シート、導電性、平滑性及び膜強度に優れた導電膜、及び、上記導電膜を具備する導電性部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る導電性複合膜転写シートの一例を概略的に示す断面図。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る導電性複合膜転写シートの一例を概略的に示す断面図。
【
図3】本発明の第3実施形態に係る導電性部材の一例を概略的に示す断面図。
【
図4】本発明の第4実施形態に係る導電性部材の一例を概略的に示す断面図。
【
図5】例1で製造した導電性部材が備える導電性複合膜を電子顕微鏡観察した画像。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る導電性複合膜転写シートの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す導電性複合膜転写シート10は、液体透過性シートからなる第1剥離シート1と、第1剥離シート1の一方の主面(以下において、「第1主面」という。)1aに支持され、導電性繊維2と微細化セルロース3を含む導電性複合膜前駆体4aとを具備し、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aは液体(以下において、「第1液体」という。)(図示せず)を含有している。
【0031】
第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体は、導電性複合膜前駆体4aの形成に用いられた導電性繊維と微細化セルロースの分散液(以下において、「複合分散液」ともいう。)の分散溶媒であり、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aは第1液体により湿潤している。この第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体は、被転写体に対する導電性複合膜前駆体4aの転写性に重要な役割を果たす。詳細は後述するが、転写時の加熱又は乾燥により第1液体が導電性複合膜転写シート10から除去されることにより生じるファンデルワールス力により、被転写体と導電性複合膜とが強固に貼合される。
【0032】
第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体の量は、導電性複合膜前駆体4aの製膜性、並びに、被転写体に対する導電性複合膜前駆体4aの転写性などの観点から適宜設定される。一形態において、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体の合計質量は、第1剥離シートの質量に対して50質量%以上であることが好ましく、50質量%以上200質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上180質量%以下であることが更に好ましく、120質量%以上170質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
(導電性複合膜前駆体)
導電性複合膜前駆体4aは、導電性繊維と微細化セルロースと第1液体を含んでいる。導電性複合膜前駆体4aは、導電性繊維と微細化セルロースが第1液体に分散された複合分散液からなる塗膜から第1液体の一部を除去することにより形成される。第1液体の除去は、第1剥離シート1の第1主面1aの裏面(以下において、「第2主面」という。)1b側から第1液体を吸引することにより行われる。導電性複合膜前駆体4aの膜厚に特に制限はなく、導電性複合膜前駆体4aの用途などに応じて適宜調整される。一形態において、導電性複合膜前駆体4aの膜厚は、転写膜である後述する導電性複合膜4bの膜厚が10μm以下となるよう適宜設定される。なお、導電性複合膜前駆体4aの膜厚は、複合分散液の塗布量や、複合分散液中の導電性繊維と微細化セルロースの濃度などにより調整することができる。
【0034】
(導電性繊維)
本実施形態において使用される導電性繊維としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルの炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンの金属ナノチューブやナノワイヤーの金属繊維、酸化亜鉛の金属酸化物ナノチューブや金属酸化ナノワイヤーの金属酸化物繊維等を挙げることができる。導電性繊維の直径は、例えば0.3nm乃至100nmであることが好ましく、長さは、例えば0.1μm乃至20μmであることが好ましく、0.1μm乃至10μmであることがより好ましい。これらの導電性繊維のなかでも、カーボンナノチューブは、直径が0.3~80nmと極めて細く、アスペクト比も大きい。そのため、光透過を阻害することが極めて少ないため、透明な導電性複合膜を得る観点から好ましい。さらに、カーボンナノチューブは導電性に優れるため、導電性複合膜の表面抵抗値も小さくすることができる。本実施形態において、導電性繊維として1種を使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0035】
上記のカーボンナノチューブには、多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotube;MWNT)と単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube;SWNT)がある。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較して抵抗値が低く、より好ましい。
【0036】
多層カーボンナノチューブ(MWNT)は、中心軸の周りで閉じた直径が異なる多数の円筒状のカーボン壁からなるチューブを同心的に備えている。カーボン壁は六角網目構造に形成されている。ある多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が渦巻き状になって多層となっている。本実施形態において使用し得る多層カーボンナノチューブは、一例においてカーボン壁が2乃至30層重なったものであり、他の例においてカーボン壁が2~15層重なったものである。通常、多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの1本ずつがお互いに分離して分散している。また、2~3層のカーボンナノチューブが、束を形成して上記のように分散している場合もある。
【0037】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、中心軸の周りに円筒状に閉じた単層のカーボン壁を備えている。単層カーボンナノチューブは、上述した通り、多層カーボンナノチューブと比較して抵抗値が低くより好ましい。このカーボン壁は六角網目構造に形成されている。この単層カーボンナノチューブは、1本ずつで分散することは困難である。2本以上のチューブが束を形成し、その束がお互いに絡み合っている。しかしながら、これらの束は凝集することがなく、あるいはお互いが複雑に絡み合ってもいない。束は、お互いが単純に交差し、その交点で接触し、表面にて均一に分散している。好ましい単層カーボンナノチューブの束は、10~50本集まったものである。しかし、単層カーボンナノチューブが互いに分離して1本ずつ分散しているものも本実施形態において好適に使用することができる。
【0038】
(微細化セルロース)
本実施形態において使用される微細化セルロースは、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーであるセルロースを示し、その原料や調製方法については特に限定されない。通常、微細化セルロースは、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状を有し、セルロースナノファイバー(CNF)を含む概念である。微細化セルロースは、一形態において、セルロースナノファイバーであることが好ましく、その平均繊維径は、一例によれば1nm乃至1000nmであり、他の例によれば1nm乃至200nmであり、平均繊維長は、一例によれば100nm乃至10mmであり、他の例によれば100nm乃至3000nmであり、更に他の例によれば100nm乃至1000nmである。ここで、平均繊維径及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて各繊維(測定サンプル数20)を観察した結果から得られる繊維径(繊維幅)及び繊維長を平均することによって得ることができる。
【0039】
微細化セルロースは、カーボンナノチューブ等の導電性繊維が含まれる複合分散液中で均一に分散し、これにより導電性繊維が凝集することを抑制しつつ、3次元的に導電性繊維同士が接触することを可能とする。その結果、この複合分散液から形成された導電性複合膜前駆体4aの転写膜である後述する導電性複合膜は、導電性繊維の単独膜と比べ、平滑性が改善され優れた外観を有し、また、導電性繊維の配合比よりも微細化セルロースの配合比の方が高い条件でも導電性に優れる。
【0040】
微細化セルロースは、分子内の1以上の水酸基に変性基が導入された変性微細化セルロースであってもよし、分子内の水酸基に変性基が導入されていない未変性の微細化セルロースであってもよい。変性微細化セルロースにおいて導入される変性基としては、カチオン性基、アニオン性基、及び疎水性基などが挙げられる。本実施形態において、微細化セルロースとして変性微細化セルロース及び未変性微細化セルロースから選択される1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
変性基であるカチオン性基は、例えば、その基内にアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムなどのオニウムを含む基であってよく、通常は分子量が10000以下程度の基である。カチオン性基として具体的には、1級アンモニウム、2級アンモニウム、3級アンモニウム、4級アンモニウムなどのアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、またはこれらのいずれかを含む基が挙げられる。微細化セルロースに上記カチオン性基が導入されることにより、水への分散性が更に向上する。微細化セルロースは、例えば、上述したカチオン性基から選択される少なくとも1つが分子内の1以上の水酸基に導入されたカチオン変性セルロースナノファイバーであってよい。
【0042】
変性基であるアニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸エステル基、又はこれらの誘導体から選択される基等が挙げられる。微細化セルロースに上記アニオン性基が導入されることにより、水中でこれらアニオン性基が反発しあうことで、水への分散性が更に向上する。カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸エステル基は、酸型であっても、塩型であってもよい。誘導体の具体例としては、例えば、カルボキシル基から誘導される基として、アルデヒド基、エステル基、又は-COO-NR2(Rは、水素原子、アルキル基、ベンジル基、フェニル基、ヒドロキシアルキル基等を表し、2つのRは同一でも異なっていてもよい。)で表されるアミド基等が挙げられる。微細化セルロースは、例えば、上述したアニオン性基から選択される少なくとも1つが分子内の1以上の水酸基に導入されたアニオン変性セルロースナノファイバーであってよい。
【0043】
微細化セルロースの原料であるセルロースとしては、例えば、針葉樹や広葉樹から得られる木材パルプ、古紙パルプ、コットン等を使用することができる。未変性微細化セルロース及び変性微細化セルロースは、公知の方法により製造することができる。
【0044】
未変性微細化セルロースは、例えば、パルプ等のセルロース原料に対し、ブレンダーやグラインダーなどの公知の機械的な高せん断力を用いた機械解繊により得ることができる。この方法により平均繊維径が10nm乃至50nmの範囲、平均繊維長が1μm乃至10mmの範囲に及ぶ未変性セルロースナノファイバーが得られたことが報告されている。
【0045】
変性微細化セルロースは、例えば、セルロース原料に対する化学変性処理によりカチオン性基、アニオン性基等の変性基を導入して微細化しやすい状態にした後、家庭用ミキサー程度の低エネルギーの機械解繊処理により得ることができる。セルロースに含まれる水酸基にアニオン性基又はカチオン性基が導入されることにより、セルロースミクロフィブリル構造間に浸透圧効果で溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化に要するエネルギーを大幅に減少することができる。
【0046】
変性微細化セルロースは、一形態において、TEMPO酸化セルロースナノファイバーであってよい。TEMPO酸化セルロースナノファイバーとは、比較的安定なN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化する方法(TEMPO酸化反応)で得られるカルボキシル基含有セルロースナノファイバーである。TEMPO酸化反応は、水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能であり、木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
【0047】
このTEMPO酸化セルロースナノファイバーは、他の製法で得られたアニオン変性微細化セルロースと比較し、分解温度が低いことが知られている。すなわち、他の製法で得られたアニオン変性セルロースナノファイバーは、分解温度が約300℃程度であるのに対し、TENPO酸化セルロースナノファイバーは、260℃から分解が開始する。よって、転写膜である導電性複合膜に含有される変性微細化セルロースを熱分解除去することにより、後述する
図4の第4実施形態に係る導電性部材40が備える導電膜4cを得る必要がある場合などには、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを使用することが好ましい。
【0048】
微細化セルロースの平均繊維径と平均繊維長は、上述した機械解繊処理及び/又は化学変性処理により調整することができる。変性微細化セルロースは、上述したように変性基の導入により微細化しやすい状態にした後(すなわち、化学変性処理後)に機械解繊処理が施されるため、平均繊維径を例えば3nm乃至4nmまで微細化することができる。このためカチオン性基又はアニオン性基が導入された変性微細化セルロースナノファイバーは、未変性微細化セルロースナノファイバーと比較しより分散性に優れる。このため変性微細化セルロースを使用した複合分散液を用いて形成される導電性複合膜は、未変性微細化セルロースを使用した導電性複合膜と比較し、平滑性及び導電性により優れる。また、アニオン性基を導入したアニオン変性微細化セルロースを使用した場合は、導電性が更に改善される。これはアニオン性基が電子供与体の役割を果たし、導電性繊維の導電性を安定して保つことができるためと推測している。
【0049】
微細化セルロースは、市販品を使用することができる。未変性セルロースナノファイバーとしては、例えば、大王製紙(株)製のELLEX(登録商標)-Sシリーズ、ダイセルミライズ(株)製のセリッシュ(登録商標)シリーズ等を使用することができる。また、変性微細化セルロースとしては、例えば、カルボキシル基含有セルロースナノファイバーとして、日本製紙(株)製のTEMPO酸化セルロースナノファイバー「セレンピア」(登録商標)、スルホン酸基含有セルロースナノファイバーとして、丸住製紙(株)製「ステラファイン」(登録商標)等を使用することができる。また、第4級基含有セルロースナノファイバーとして、Cellulose Lab Inc.から販売されているカチオン性型セルロースナノフィブリル等を使用することができる。
【0050】
カチオン変性微細化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、例えば、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。上限は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。ここで、カチオン置換度は、元素分析による窒素含有量により測定することができる。
【0051】
アニオン変性微細化セルロースにおけるアニオン性基の導入量は、一例によれば、0.1乃至3.5mmol/gの範囲であることが好ましい。製造のしやすさという観点からは、1.0乃至2.0mmol/gの範囲であることがより好ましい。ここで、変性基の導入量は、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により測定することができる。
【0052】
導電性複合膜前駆体4aに含有される導電性繊維と微細化セルロースの配合比は、導電性複合膜の導電性を10,000Ω/cm2以下とするために、導電性繊維1質量部に対し微細化セルロースは100質量部以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの単独膜である導電膜と同等の表面抵抗値を保つ観点からは、導電性繊維1質量部に対し微細化セルロースは20質量部以下であることがより好ましい。また、平滑性及び転写性の観点からは、導電性繊維1質量部に対し、微細化セルロースは0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。
【0053】
(第1液体)
第1液体としては、導電性繊維及び微細化セルロースを分散できる溶媒であれば特に制限はなく、いずれも使用することができる。本実施形態において、導電性繊維としてカーボンナノチューブを使用する場合、第1液体としては、水、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、これらから選択される2種以上の混合溶媒であってもよい。中でも水又はアルコールが好ましく、これらの混合溶媒であってもよい。アルコールとしては極性の高いものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0054】
(導電性助剤)
本実施形態において、導電性複合膜前駆体4aは、導電性の向上や、膜強度の向上を目的として、導電性助剤を含有してよい。このような導電助剤としては、PEDOT/PSS、ポリピロール、ポリアニリンのような導電性ポリマーや、金、銀、銅の微粒子もしくはファイバーのような導電性金属などが挙げられる。金属ファイバーとしては、例えば、銀ナノワイヤー等が挙げられる。導電性助剤を使用する場合、導電性複合膜前駆体4a中の導電性助剤の配合比は導電性繊維の配合比を超えないことが好ましい。導電性助剤の配合比が導電性繊維の配合比より多くなると、転写の際に第1剥離シートから膜が剥がれず、転写できない可能性がある。
【0055】
(界面活性剤)
本実施形態において、導電性複合膜転写シートから第1液体を除去する際に、第1液体と共に除去できることを前提として、導電性複合膜前駆体4aは界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤が転写膜としての導電性複合膜中に残っていると、導電性が低下する可能性がある。界面活性剤を第1液体と共に除去することで、導電性繊維の導電性を引き出すことが可能である。一形態において、予め界面活性剤で分散された導電性繊維の分散液に微細化セルロース分散液を混合し、超音波処理等を施すことで、導電性繊維と微細化セルロースが均一に分散した複合分散液を得ることができる。
【0056】
界面活性剤の具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウム;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のNa塩(花王株式会社製「デモールN」、「デモールRN」、「マイテイ150」)、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のNH3塩(花王株式会社製「デモールAS」)等のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩;メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のNa塩(花王株式会社製「デモールMS」)等のメチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩;ブチルナフタレン/ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のNa塩(花王株式会社製「デモールSNB」);ナフトールメチレンスルホン酸ホルマリン縮合物のNa塩(花王株式会社製、「デモールSSL」);クレオソート油スルホン酸ホルマリン縮合物のNa塩(花王株式会社製、「デモールC」)等が挙げられる。また、天然系の重縮合系スルホン酸塩であるリグニンスルホン酸塩類が挙げられる。また、重合系の芳香族系界面活性剤としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸Na塩(東洋ソーダ株式会社製「ポリスチレンスルホン酸ソーダPS-1、PS-35、PS-50、PS-100」)等が挙げられる。
【0057】
(第1剥離シート)
第1剥離シート1は、液体透過性シートである。本実施形態において使用できる液体透過性シートとしては、導電性繊維及び微細化セルロースの複合分散液から導電性繊維及び微細化セルロースをシート上に残したまま第1液体を除去できる透過性を有するものであればよく、具体例としては、各種多孔質メンブレンフィルターや不織布フィルターなどが挙げられる。第1剥離シート1の孔径は、上記観点から適宜設定され、例えば、導電性繊維の長さなどに応じて好適な孔径を有する液体透過性シートを選択すればよい。本実施形態において、第1剥離シートの孔径は、例えば、0.05μm~5.0μmであることが好ましく、0.1μm~2.0μmであることがより好ましい。ここで孔径は、JIS K3832に規定されているバブルポイント試験法に準じた方法で測定される値である。
【0058】
第1剥離シート1の材質としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PVDC(ポリビニリデンクロライド)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、セルロース、セルロースアセテート、ポリカーボネート等が挙げられ、中でもPTFE、PVDF、セルロースが好ましく、PTFEがより好ましい。第1剥離シート1は、これらから選択される1種単独の素材からなるシートであってもよいし、2種以上の混合物からなるシートであってもよい。
第1剥離シート1の厚さとしては、特に制限はなく、例えば、10~200μmのものを使用することができる。
【0059】
(製造方法)
図1に示す第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、第1剥離シート1の第1主面1a上に、導電性繊維2と微細化セルロース3が第1液体に分散された複合分散液を塗布することにより、複合分散液の塗膜を得る。複合分散液の調製は、例えば、第1液体を分散溶媒とする導電性繊維の分散液に、均一な分散状態を保ちながら、第1液体を分散溶媒とする微細化セルロース分散液を加えることにより行うことができる。複合分散液における導電性繊維の濃度は、例えば、0.001質量%乃至0.5質量%の範囲内であってよく、微細化セルロースの濃度は、例えば、0.001質量%乃至0.5質量%の範囲内であってよく、導電性繊維と修飾セルロースが上述した配合比となるよう2種の分散液が混合される。複合分散液の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、複合分散液を第1主面1a上に直接注いでもよいし、スプレー噴霧など公知の塗布方法を使用することができる。
【0060】
次いで、複合分散液の塗膜が形成された第1剥離シート1の第1主面1aの裏面である第2主面1b側から、第1液体の一部を除去することにより、任意の厚さの導電性複合膜前駆体4aを形成する。第1剥離シート1の第2主面1b側から第1液体の一部を除去することにより、導電性繊維2間、導電性繊維2と微細化セルロース3間、及び微細化セルロース3間が密着性を得、第1剥離シート1上に導電性複合膜前駆体4aを得ることができる。このとき、第1剥離シート1及び導電性複合膜前駆体4aは、除去されずに残された第1液体により湿潤状態にある。これら部材が湿潤状態になく乾燥している場合や、含まれる第1液体の量が少なすぎる場合は、導電性複合膜前駆体4aの転写ができない、または一部転写不良が起こるなどの不具合が生じ得る。第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体の合計質量の好ましい範囲は、上述した通りである。
【0061】
なお、複合分散液に替えて、混合前の導電性繊維分散液と微細化セルロース分散液を別々に使用した場合について言及しておく。すなわち、第1剥離シート1上にまず導電性繊維分散液を塗布して塗膜を形成し、次いでこの塗膜上に微細化セルロース分散液を塗布して塗膜を形成した場合と、複合分散液を使用する本実施形態とを比較した場合、本実施形態の方が特に転写性と平滑性に優れている。つまり、複合分散液を使用し、導電性繊維2と微細化セルロース3を含有する導電性複合膜前駆体4aを形成することにより、転写性及び平滑性が向上する(後掲の例1及び参考例2参照)。また、2種の分散液を塗布する順序を逆にした場合、転写不良が生じやすく、転写膜を得ることが困難である(後掲の参考例3参照)。
【0062】
第1剥離シート1の第2主面1b側からの第1液体の除去は、第1液体を吸引することにより一気に行うことが適当である。吸引の手段としては、例えば、アスピレーター等を用いた減圧吸引や、第2主面1b面に吸水性もしくは吸油性の材料を接触させて第1液体を吸収する方法などが挙げられる。
【0063】
導電性複合膜転写シート10を用いた転写では、被転写体によっては導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体との親和性が悪く、転写ができない、または一部転写不良が起こるなどの不具合が生じる可能性がある。この場合は、導電性複合膜転写シート10の第1剥離シート1及び導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体を、被転写体との親和性が良好な液体に置換することで対処することができる。導電性複合膜転写シート10に含まれる第1液体の他の液体への置換は、例えば、以下のように行うことができる。
【0064】
ここでは、被転写体との親和性が良好な「他の液体」が、第1液体と相溶する液体(以下において、「第2液体」という。)である場合について説明する。ここで、「相溶する」とは、第1液体と第2液体を混合した場合に、双方が分離せず、界面が形成されないことを意味する。
【0065】
導電性複合膜転写シート10に含まれる第1液体を、第1液体と相溶する第2液体に置換する方法としては、まず、上述した方法で得られた第1液体を含む導電性複合膜転写シート10に対し、第2液体を導電性複合膜前駆体4a上に塗布する。第2液体の導電性複合膜前駆体4a上への塗布は、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体を第2液体で洗い流し、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体を第2液体で置換できるような形態で行われる。次いで、第1剥離シート1の第2主面1b側から第2液体の一部を除去する。これにより、導電性複合膜転写シート10に含まれる第1液体が第2液体に置換され、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aが第2液体で湿潤している導電性複合膜転写シート10を得ることができる。ここで、第2液体の塗布は、上述した分散液の塗布方法と同様の方法で行うことができ、第1剥離シート1の第2主面1b側からの液体の除去は、上述した第1液体の除去と同様の方法で行うことができる。
【0066】
[第2実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態に係る導電性複合膜転写シートの一例を概略的に示す断面図である。
図2に示す導電性複合膜転写シート20は、
図1に示す第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10が更に第2剥離シート5を具備するものであり、導電性複合膜前駆体4aが第1剥離シート1と第2剥離シート5の間に挟持されている。
【0067】
第2剥離シート5は、第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aが含有する第1液体と同じ液体を含有している。導電性複合膜転写シート20において、第2剥離シート5は、長時間の安定した転写性を維持するため、導電性膜転写シートの乾燥を防ぐことを目的として、導電性複合膜前駆体4aを第1剥離シート1と共に挟持するよう配置されたものである。これにより導電性膜転写シート20の保存安定性を確保し利便性が向上する。
【0068】
第2剥離シート5の材質としては、導電性複合膜前駆体4aと張り合わせたときに、第1液体を含有する導電性複合膜前駆体4aを乾燥させないよう第1液体と同じ液体を十分吸収保持できるものであれば、特に制限はない。例えば、導電性繊維2と微細化セルロース3を分散させるための分散溶媒(第1液体)として水を用いる場合、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、寒天、カラギーナンなどの吸水性ゲルシートや、吸水紙などを用いることができる。分散溶媒(第1液体)としてアルコールを用いる場合は、そのアルコールを吸収保持する各種吸油性ポリマーシート等を用いることができる。
【0069】
なお、導電膜転写用シート20において、第1剥離シート1及び導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体が上述した方法により第2液体に置換される場合は、第2剥離シート5に含有させる液体としても、置換後の液体である第2液体と同じ液体が用いられる。
【0070】
図2に示す導電性複合膜転写シート20は、上述した方法により得られた
図1に示す導電性複合膜転写シート10に対し、予め第1液体を十分に含ませた第2剥離シート5を、導電性複合膜前駆体4aの第1剥離シート1が接触していない側の面上に積層することにより得られる。第2剥離シート5は、上述の通り、導電性複合膜転写シートの転写層としての導電性複合膜前駆体4aを被転写体に転写するまでの間に、乾燥、固着させないことを目的として用いられるものであるから、第2剥離シート5の導電性複合膜前駆体4a上への積層においては、導電性複合膜前駆体4aが湿潤状態を保ったまま貼り合わせることが肝要である。
【0071】
なお、導電性複合膜転写シート20においては、第2剥離シート5を剥離したときの第1剥離シート1及び導電性複合膜前駆体4aに含まれる第1液体の合計質量が、第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10において説明した第1液体の含有量の合計質量と同程度であることが好ましい。すなわち、第1剥離シート1の質量に対して50質量%以上200質量%以下であってよく、100質量%以上180質量%以下であってよく、120質量%以上170質量%以下であってよい。
【0072】
また、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートは、実施形態1及び実施形態2のいずれにおいても、第1剥離シート1及び導電性複合膜前駆体4aの湿潤状態を維持するために、使用時まで完全に密封できるアルミラミネートパウチなどの保存袋や密封ケースなどに入れて保管することが望ましい。
【0073】
[第3実施形態]
図3は、本発明の第3実施形態に係る導電性部材の一例を概略的に示す断面図である。
図3に示す導電性部材30は、被転写体としての基材6と、基材6上に本実施形態に係る導電性複合膜転写シート10又は20からの転写膜である導電性複合膜4bとを具備している。導電性複合膜4bは、導電性繊維2と微細化セルロース3を含有している。
【0074】
図3に示す導電性部材30は、例えば、以下のようにして得られる。
導電性複合膜転写シートが第2実施形態に係る導電性複合膜転写シート20である場合には、まず、導電性複合膜転写シート20から第2剥離シート5を剥離する。次に導電性複合膜前駆体4aの、第2剥離シート5が剥離された側の面を基材6に接触させる。このとき、基材6と導電性複合膜前駆体4aとの間に気泡が入らないよう圧着させることが好ましい。次に加熱又は乾燥により第1剥離シート1と導電性複合膜前駆体4aに含有される第1液体を除去する。第1液体の除去により生じたファンデルワールス力により基材6と導電性複合膜4bとが強固に貼合される。加熱手段としては、例えば、第1剥離シート1の第2主面1b側にドライヤーなどにより熱風をあてて加熱してもよいし、下部よりヒーターなどで加熱してもよい。第1液体を除去した後、第1剥離シート1を剥離することにより基材6への導電性複合膜4bの転写が完了し、導電性部材30を得ることができる。
【0075】
このように、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートは転写性に優れ、特殊な装置を用いることなく、シートに含有される液体をドライヤーなどの熱風で蒸発させることで簡便に導電性複合膜4bを転写できるため、基材6が耐熱性の低い基材であるにも導電性複合膜4bを容易に形成できる。
【0076】
本実施形態において、導電性複合膜4bの膜厚は、10μm以下であることが好ましく、100nm以上10μm以下であることがより好ましく、100nm以上1μm以下であることが更に好ましい。
【0077】
本実施形態に係る導電性複合膜は、導電性繊維と微細化セルロースの複合膜であるにも関わらず、カーボンナノチューブ単独膜と同等の表面抵抗値を達成する領域もあり、導電性に優れる。一形態において、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートにより、表面抵抗値が0.1乃至10,000Ω/cm2の導電性複合膜が得られる。このような導電性の高い導電性複合膜を備える導電部材は、静電防止体、透明面発熱体、プラズマディスプレイパネル電極、液晶電極、有機EL電極、タッチパネル、電磁波遮蔽膜などとして用いることができ、本実施形態によれば、このような導電性部材を簡便な方法で得られる。
【0078】
本実施形態に係る導電性複合膜は、平滑性にも優れる。一形態において、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートにより、表面粗さが算術平均高さ(Sa)で0.5μm以下の導電性複合膜を得ることができる。
【0079】
本実施形態に係る導電性複合膜は、透過率の調整が容易なため、用途に応じて所望とする透過率を有する導電性複合膜とすることができる。例えば、微細化セルロースとしてカチオン変性微細化セルロース又はアニオン変性微細化セルロースを使用する、あるいは導電性繊維の配合比を多くすることにより、透過率の高い導電性複合膜を得ることができる。透過率の高い導電性複合膜を透明フィルム又は透明ガラスなどに転写することにより、透明伝導フィルム又は透明導電ガラスとして各種ディスプレイ等に利用が可能である。また、微細化セルロースとして未変性微細化セルロースを使用することにより透過率の低い導電性複合膜を得ることができる。透過率の低い導電性複合膜は、導電膜、表面電極材、面上発熱体、または光散乱を利用する用途に適用することが可能である。
【0080】
また、本実施形態に係る導電性複合膜は、導電性繊維と微細化セルロースを含むため、ITOや酸化スズのような無機導電膜と比べ繰り返しの曲げなどの変形にもつよく、フレキシブルな導電体としての利用が可能である。
【0081】
[第4実施形態]
図4は、本発明の第4実施形態に係る導電性部材の一例を概略的に示す断面図である。
図4に示す導電性部材40は、被転写体としての基材6と、基材6上に本実施形態に係る導電性複合膜転写シートからの転写膜である導電膜4cとを具備している。導電膜4cは、導電性繊維2を含有しているが、微細化セルロースは含有していない。
【0082】
図4に示す導電性部材40は、例えば、
図3に示す第3実施形態に係る導電性部材30が備える導電性複合膜4bから微細化セルロース3を除去することにより得られる。電性複合膜4bからの微細化セルロース3の除去は、公知の方法を用いることができる。例えば、導電性部材30を微細化セルロース3の熱分解温度まで加熱することにより、微細化セルロース3を熱分解除去する方法が挙げられる。この場合、微細化セルロースとして上述したTEMPO酸化セルロースナノファイバーのような分解温度の低い変性微細化セルロースを使用することにより、被転写体である基材6の制限を緩和することができる。電性複合膜4bから微細化セルロース3を除去する方法の他の例としては、導電性部材30を所定の溶剤(例えば、硝酸水溶液等)に浸漬させることにより、微細化セルロース3を溶解除去する方法が挙げられる。
【0083】
本実施形態に係る導電性部材40が備える導電膜4cは、上述した第3実施形態に係る導電性部材30が備える導電性複合膜4bに対し、導電性、透過率、平滑性及び膜強度においてほぼ同等の性能を有し、上述した様々な分野での利用が可能である。
【0084】
このように、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートによれば、被転写体としての基材の材質や種類を問わず、曲面、凹凸などの基材の形状に合わせて転写シートを密着させることにより、多種多様な形状の基材に導電性の高い導電膜を形成することができる。 また、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートから得られる導電膜は、膜強度が高く、支持体がなくても膜としての形状を保つことが可能な自立膜である。このため被転写体が、中央部が空洞の基材や額縁状の基材である場合にも、本実施形態に係る導電性複合転写シートを適用することができる。そのような基材に導電性複合膜を転写することにより、一部、もしくは大部分が基材に接触していない導電膜を得ることができ、単体の導電膜としての利用が可能である。例えば、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートにより保護膜等を製造することも可能である。更に、本実施形態に係る導電膜の用途は、導電性が必要とされる用途に限定されるものではない。このように、本実施形態に係る導電性複合膜転写シートは様々な分野での利用が可能である。
【実施例0085】
以下に試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
[TEMPO酸化CNF分散液の調製]
微細化セルロースとして、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(カルボキシル基含有セルロースセルロースナノファイバー)分散液を以下のようにして調製した。
【0086】
(1)改質工程
針葉樹晒クラフトパルプ30gを蒸留水1800gに懸濁した懸濁液を調製した。一方、蒸留水200gに、0.3gの2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)と、3gの臭化ナトリウムを溶解させた溶液を調製し、この溶液を上述の懸濁液に加え、20℃に調温した。この懸濁液に、1NのHCl水溶液によりpH10に調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度2mol/L、密度1.15g/mL)を220g滴下し、酸化反応を開始し、セルロースにカルボキシル基を導入した。系内の温度は20℃に維持した。また、反応中にpHが低下するが、その際には、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、pHを10に維持した。
【0087】
セルロース1gに対して、水酸化ナトリウムの消費量が2.5mmolになったところで、所望量のカルボキシ基が導入されたものと判断し(予め作製した検量線に基づく。)、充分量のエタノールを添加して反応を停止させた。その後、pH3になるまで塩酸を添加し、ついで蒸留水で洗浄を繰り返し、改質セルロースを得た。
【0088】
なお、改質セルロースを固形分質量として0.1g秤量し、1質量%濃度となるように、水分散させるとともに、塩酸を加えてpHを3とした。ついで、この液に対して0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法によりカルボキシ基量を求めたところ、1gの改質セルロース(表面がカルボキシ基で修飾されたセルロース)あたり1.6mmol、すなわち、1.6mmol/gであった。
【0089】
(2)微細化工程
上記(1)改質工程で得られた改質セルロース4gを396gの蒸留水に分散させ、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH10に調整した。ついでミキサーによりこの液を60分間微細化処理し、TEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液(TEMPO酸化セルロースナノファイバーの濃度1質量%)を得た。
【0090】
この分散液中のTEMPO酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基は、塩型(ナトリウム)である。また、分散液(A)に含まれるTEMPO酸化セルロースナノファイバーの平均繊維径(繊維幅)は3.5nm、平均繊維長は800nmであった。ここで、平均繊維径及び平均繊維長は、測定サンプル数20についての原子間力顕微鏡(AFM)観察による平均値である。
【0091】
[例1]
<第1実施形態に係る導電性複合膜転写シートの作製>
導電性繊維2として、市販の直径1~3nmの単層カーボンナノチューブ(CNT)の0.2質量%水分散液を、0.02質量%に水で希釈した分散液(A)を用意した。微細化セルロース3として、上掲で調製したTEMPO酸化セルロースナノファイバー分散液を0.02質量%に水で希釈した分散液(B)を用意した。これら分散液(A)と(B)を、カーボンナノチューブとTEMPO酸化セルロースナノファイバーの質量比(CNT:CNF)が1:10になるように混合した。このとき、超音波処理を1分ほど行い、均一な複合分散液(C)を調整した。
【0092】
次いで、この複合分散液(C)をノズル径0.3mmのエアブラシを用いて、PTFEシート(第1剥離シート1;直径47mmφ、膜厚65μm、シートの孔径0.2μm)上に噴霧し、裏面をアスピレーターで吸引して水の一部を除去することにより、PTFEシート上に導電性複合膜前駆体4aを備えた導電性複合膜転写シート10を得た。得られた導電性複合膜転写シート10の式(1)で表される液体含有率は、160質量%であった。
【0093】
[(第1剥離シート及び導電膜に含有される液体の合計質量)/第1剥離シートの質量]×100(% )・・・式(1)
【0094】
<第3実施形態に係る導電性部材の作製>
得られた導電性複合膜転写シート10の導電性複合膜前駆体4aの面を、厚さ約100μmのPETフィルム6に、気泡を噛まないよう適度な圧力で貼り合わせた。次に得られた積層体のPETフィルム側を約90℃のホットプレートに接触させ充分に水分を乾燥させた。次いで、PTFEシートを端からゆっくり剥離することにより、PETフィルム6上に転写物である導電性複合膜4bを備えた導電性部材30を得た。
図5は、ここで得られた導電性部材30が備える導電性複合膜4bを電子顕微鏡観察した画像である。
【0095】
[例2]
微細化セルロースとして、例1で使用したTEMPO酸化セルロースナノファイバーを化学変性処理されていない未変性微細化セルロースに変更した以外は、例1と同様の条件で導電性部材30を作製した。ここで、上記未変性セルロースナノファイバーとして、市販のセルロースナノファイバーの水分散液(ELLEX-S(機械パルプ)、大王製紙(株)製)を、0.02質量%に希釈したものを使用した。この未変性セルロースナノファイバーの繊維幅は20nm~最大数百nmであった(商品表示値)。
【0096】
[例3]
微細化セルロースとして、例1で使用したTEMPO酸化セルロースナノファイバーをカチオン変性セルロースナノファイバーに変更した以外は、例1と同様の条件で導電性部材30を作製した。ここで、上記カチオン変性セルロースナノファイバーは、市販の第4級アンモニウム基含有セルロースナノファイバーの水分散液(カチオン変性セルロースナノフィブリル、Cellulose Lab.Inc製)を、0.02質量%に希釈したものを使用した。このカチオン変性セルロースナノファイバーの繊維幅は50nm、繊維長は数百μmであった(商品表示値)。
【0097】
[例4]
<第2実施形態に係る導電性複合膜転写シートの作製>
例1と同じ条件により、PTFEシート(第1剥離シート1)上に導電性複合膜前駆体4aが形成された第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。次に市販のセルロース製の定性濾紙(直径50mmφ、膜厚0.5mm)を純水中に浸漬させ充分に水分を含んだ状態で取り出し、これを第2剥離シート5として導電性複合膜前駆体4aの上から貼り合わせて第2実施形態に係る導電性複合膜転写シート20を作製した。なお、この第2実施形態に係る導電性複合膜転写シート20は、シートの乾燥を防ぐためチャック付きのアルミラミネート袋で保存した。表1の「転写までの時間」に記載の時間後にアルミラミネート袋から取り出し、以下の転写試験において転写シートとして使用した。
【0098】
<第3実施形態に係る導電性部材の作製>
所定時間後、アルミラミネート袋から導電性複合膜転写シート20を取り出した。次に第2剥離シート5を剥がし、導電性複合膜前駆体4aの面を、厚さ100μmのPETフィルム6に気泡を噛まないよう適度な圧力で貼り合わせた。次に得られた積層体のPETフィルム6側を約90℃のホットプレートに接触させ充分に水分を乾燥させた。次いで、第1剥離シートであるPTFEシート1を端からゆっくり剥離することにより、PETフィルム6上に転写物である導電性複合膜4bを備えた導電性部材30を得た。
【0099】
[例5]
<第2実施形態に係る導電性複合膜転写シートの作製>
例1と同じ条件により、PTFEシート(第1剥離シート1)上に導電性複合膜前駆体4aが形成された第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。次に導電性複合膜前駆体4a上にエタノールをエアブラシで噴霧し、PTFEシート1の裏面1bをアスピレーターで吸引しながら余分なエタノールを除去することで、導電性複合膜前駆体4aとPTFEシート1に含まれる水分をエタノールで完全に置換した第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。
【0100】
次に市販のセルロース製の定性濾紙(直径50mmφ、膜厚0.5mm)をエタノールに浸漬させ、充分にエタノールを含んだ状態で取り出し、これを第2剥離シート5として導電性複合膜前駆体4aの上から貼り合わせて第2実施形態に係る導電性複合膜転写シート20を作製した。この導電性複合膜転写シート20は、シートの乾燥を防ぐため例4と同じチャック付きのアルミラミネート袋で保存した。
【0101】
<第3実施形態に係る導電性部材の作製>
表1の「転写までの時間」に記載の時間後にアルミラミネート袋から取り出した導電性複合膜転写シートを用いて例4と同じ条件で導電性部材30を製造した。
【0102】
[例6]
<第2実施形態に係る導電性複合膜転写シートの作製>
例1で調製したカーボンナノチューブとカルボキシル基含有セルロースナノファイバーを含有する複合分散液(C)に、銀ナノワイヤー(平均直径:50nm)の0.02質量%水分散液を、カーボンナノチューブ:セルロースナノファイバー:銀ナノワイヤーの質量比が1:10:1になるように加え、均一な複合分散液(D)を調製した。
【0103】
次いで、この複合分散液(D)をノズル径0.3mmのエアブラシを用いて、上記PTFEシート1上に噴霧し、裏面1bをアスピレーターで吸引して水の一部を除去することにより、PTFEシート1上にカーボンナノチューブとカルボキシル基含有セルロースナノファイバーと銀ナノワイヤー(図示せず)を含有する導電性複合膜前駆体4aを備えた第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。
【0104】
次に例4と同様の方法で第2剥離シート5として水分を含んだセルロース製の定性濾紙を導電性複合膜前駆体4aの上から貼り合わせることにより、第2実施形態に係る導電性複合膜転写シート20を作製した。この導電性複合膜転写シート20は、シートの乾燥を防ぐため例4と同じチャック付きのアルミラミネート袋で保存した。
【0105】
<第3実施形態に係る導電性部材の作製>
表1の「転写までの時間」に記載の時間後にアルミラミネート袋から取り出した導電性複合膜転写シートを用いて例4と同じ条件で導電性部材30を製造した。
【0106】
[例7]
PTFEシート1を大きさ3cm×3cmのPTFEシートに変更したこと以外は、例1と同様の方法で第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。第4実施形態に係る導電性部材40の作製においては、被転写体6としてPETフィルムに替えてガラス板(4cm×4cm、厚さ0.7mm)を使用したこと以外は例1と同様の方法により導電性複合膜4bを転写し、第3実施形態に係る導電性部材30を得た。次いで、得られた導電性部材30を260℃で30分間焼成することにより、カルボキシル基含有セルロースナノファイバーを除去した。これによりカーボンナノチューブからなる導電膜4cを備えた第4実施形態に係る導電性部材40を得た。
【0107】
[例8]
PTFEシート1を大きさ3cm×3cmのPTFEシートに変更したこと以外は、例1と同様の方法で第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。第4実施形態に係る導電性部材40の作製においては、被転写体6としてPETフィルムに替えてガラス板(4cm×4cm、厚さ0.7mmm)を使用したこと以外は例1と同様の方法により導電性複合膜4bを転写し、第3実施形態に係る導電性部材30を得た。次いで、得られた導電性部材30を60℃の3M硝酸水溶液に30分浸漬させることにより、カルボキシル基含有セルロースナノファイバーを除去し、カーボンナノチューブからなる導電膜4cを備えた第4実施形態に係る導電性部材40を得た。なお、硝酸水溶液に浸漬させた後は、エタノールで洗浄後、乾燥させた。
【0108】
[例9]
PTFEシート1を大きさ3cm×3cmのPTFEシートに変更したこと以外は、例1と同様の方法で第1実施形態に係る導電性複合膜転写シート10を得た。第3実施形態に係る導電性部材30の作製においては、被転写体6として、PETフィルムに替えて中央部に約10mmφの穴のあるガラス板(4cm×4cm、厚さ0.7mm)を使用し、例1と同様の方法により導電性複合膜4bを転写することにより、中央部に導電性複合膜4bからなる単体膜が形成された導電性部材30を得た。
【0109】
[比較例1]
例1と同様の方法で作製した導電性複合膜転写シートを室温で3時間放置した。目視で転写シートを確認したところ乾燥していた。この導電性複合膜転写シートを例1と同様に転写試験を行ったところ、PETフィルムに導電性複合膜はまったく転写されなかった。
【0110】
[参考例1]
例1に対し、カーボンナノチューブとカルボキシル基含有セルロースナノファイバーを含有する分散液(C)に替えて、分散液(C)の調製において使用した単層カーボンナノチューブを0.02質量%の濃度で含有する分散液(A)を使用したこと以外は、例1と同様の方法で導電性複合膜転写シートを作製した。この導電性複合膜転写シートを使用して例1と同様の方法で導電性部材を得た。
【0111】
[参考例2]
例1に対し、カーボンナノチューブとカルボキシル基含有セルロースナノファイバーを含有する複合分散液(C)に替えて、PTFEシート上に混合前のカーボンナノチューブ分散液(A)とカルボキシル基含有セルロースナノファイバー分散液(B)をこの順序で別々に噴霧したこと以外は、例1と同様の方法で転写シートを作製し、次いで導電性部材を作製した。
【0112】
[参考例3]
参考例2に対し、PTFEシート上にカーボンナノチューブ分散液(A)とカルボキシル基含有セルロースナノファイバー分散液(B)を噴霧する順序を逆にしたこと以外は、参考例2と同様の方法で転写シートを作製し、次いで導電性部材を作製した。
【0113】
<評価>
各導電性部材が備える導電性複合膜又は導電膜について、表面抵抗値、透過率、及び表面粗さを下記方法で測定し、また転写性については下記基準に基づき評価した。結果を表1に示す。なお、例1乃至例9で得られた導電膜の膜厚は、何れも100nm乃至500nmの範囲内であった。
【0114】
(表面抵抗値の測定方法)
表面抵抗の測定は、抵抗率計 ロレスターGP MCP-T610(三菱化学アナリテック社)を用いて4端子法にて測定した。
【0115】
(透過率の測定方法)
透過率は分光光度計U-4100(日立ハイテクノロジーズ社)を用いて導電性複合膜とPET基材を含めた550nm波長の光線透過率を測定した。
【0116】
(表面粗さ(Sa)の測定方法)
表面粗さ(Sa)は、表面の平均面に対して、各点の高さの絶対値の平均値であり、ISO25178表面性状(面粗さ測定)で規定される算術平均高さ(Sa)を意味している。表面粗さ(Sa)の測定は、3D測定レーザー顕微鏡OLS4000(オリンパス株式会社製)を用いて行った。
【0117】
(膜厚の測定方法)
走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察を行い、膜厚を測定した。
【0118】
(転写性)
A:完全に転写できた。(転写可能領域の100%)
B:ほぼ完全に転写できた。(転写可能領域の90%以上100%未満)
C:半分以上が転写できた。(転写可能領域の50%以上90%未満)
D:一部分が転写できた。(転写可能領域の0%超50%未満)
E:全く転写されなかった。(転写可能領域の0%)
【0119】
【0120】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
1・・・第1剥離シート、1a・・・第1主面、1b・・・第2主面、2・・・導電性繊維、3・・・微細化セルロース、4a・・・導電性複合膜前駆体、4b・・・導電性複合膜、4c・・・導電膜、5・・・第2剥離シート、6・・・基材(被転写体)、10・・・導電性複合膜転写シート(第1実施形態)、20・・・導電性複合膜転写シート(第2実施形態)、30・・・導電性部材(第3実施形態)、40・・・導電性部材(第4実施形態)