(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137730
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】インクセット及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230922BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044074
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】笹沢 幸生
(72)【発明者】
【氏名】戸田 正悟
【テーマコード(参考)】
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039BA04
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039BE24
4J039BE30
4J039BE32
4J039EA14
4J039EA19
4J039EA47
4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】色間にじみが極めて良好な印刷画像の提供を可能にするインクセット、そのインクセットを用いるインクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供する。
【解決手段】ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクのインクセットであり、前記カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセットとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクのインクセットであり、
前記カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、
ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、
ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、
ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセット。
【請求項2】
ブラック、シアン、マゼンタ、イエローからなる請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクセットと、印刷メディアとを含むインクメディアセット。
【請求項4】
上記印刷メディアが、インク難吸収性、又はインク非吸収性の印刷メディアである請求項3に記載のインクメディアセット。
【請求項5】
インクジェットの記録方法であって、
ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクのインクセットを用いて記録し、
前記カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、
ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、
ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、
ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクセット、及びそのインクセットを用いるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー印刷方法の中でも代表的方法の1つであるインクジェットプリンタによる印刷方法は、インクの小滴を発生させ、これを紙等の印刷メディアに付着させ印刷を行うものである。近年では産業用途としての需要が高まり、様々な印刷メディアに対して印刷ができるインクが求められている。
【0003】
印刷メディアの中でも、インク非吸収性メディア、及び、インク難吸収性メディア(以下、「インク非・難吸収メディア」ということがある。)に対しては、メディア上での濡れ広がりが良好なインクが要望されている。メディア上での濡れ広がりがよいと、同じ量のインク滴を使用したときに着色できる面積が広くなる(換言すると、インクのドット径が大きくなる)ため、インクの消費量を抑えることができるためである。しかし、インク非・難吸収メディアは、インクの吸収性が悪いメディアである。このため、インクがメディア中にしみ込みにくく、インク吸収性メディアと比較して、インクの濡れ広がりが悪いことから、一般的にインクのドット径が小さくなる。この理由から、その改善が要望されている。
【0004】
さらに、印刷画質に関しては、粒状性ができるだけ少ないことが要求される。水不溶性の着色剤を含有するインクは、インク自体が不均一な状態(溶液の状態ではなく、分散液の状態)にある。そのような不均一な状態のインクで印刷メディアにベタ印刷を行うと、印刷画像に濃淡の「粒」が散在しているように見え、均一な画像に見えないことがある。そのような印刷画像は「粒状性が認められる」と評価され、印刷品質を著しく悪化させる要因の1つである。このため、粒状性ができるだけ少ない印刷画像が得られるインクが、強く要望されている。例えば、特許文献1、2、3にあるように、特定の有機溶剤や界面活性剤を組み合わせたインク組成物が開示されており、インク非・難吸収メディア向けに濡れ広がりが良好なインクが開示されている。
【0005】
また、カラー印刷を行うときは、複数の色からなるインクセットが使用される。そのようなインクセットを使用してカラー印刷を行うときに、第1の色のインクの着弾位置と、第2の色のインクの着弾位置とが印刷メディア上で隣り合うことによって、第1の色と、第2の色との色間において、にじみが発生する場合のあることが知られている。この「色間のにじみ」は、印刷品質を著しく悪化させる要因の1つである。このため、この色間のにじみの解消が求められ、これを解決するためのインクセットも提案されている。
【0006】
特許文献4によれば、これら色間にじみを解消すべく、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートが含まれるインクが開示されており、インク非・難吸収メディア向けに色ムラ、色間にじみの少ない高品質な画像が得られるインクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-044188号公報
【特許文献2】特開2014-139004号公報
【特許文献3】国際公開2011/136000号
【特許文献4】特開2012-136573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記手段によってにじみの少ない高品質な画像が得られるインクが考案されたが、更ににじみが少なく高画質な画像が得られるインクが求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、色間にじみが極めて良好な印刷画像の提供を可能にするインクセットそのインクセットを用いるインクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のインクセットが上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は以下の[1]~[5]に関する。
[1] ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクのインクセットであり、
前記カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、
ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、
ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、
ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセット。
[2] ブラック、シアン、マゼンタ、イエローからなる[1]に記載のインクセット。
[3] [1]又は[2]のいずれかに記載のインクセットと、印刷メディアとを含むインクメディアセット。
[4] 上記印刷メディアが、インク難吸収性、又はインク非吸収性の印刷メディアである[3]に記載のインクメディアセット。
[5] インクジェットの記録方法であって、
ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクのインクセットを用いて記録し、
前記カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、
ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、
ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、
ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、色間にじみが極めて良好な印刷画像の提供を可能にするインクセット、インクジェット印刷方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
[ブラックインク]
前記ブラックインクは、水、着色剤(1)、必要に応じてシリコン系界面活性剤を含有し、任意選択的にその他の成分をさらに含有していても良い。その他の成分としては、例えば、分散剤、浸透剤、粘度調整剤、並びにインク調製剤が挙げられる。
【0015】
(着色剤(1))
着色剤は、水不溶性の着色剤であれば特に限定されない。本願の明細書及び特許請求の範囲において、水不溶性の着色剤は、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下の着色剤を意味する。溶解度の下限は0gを含む。以下、特に断りのない限り「水不溶性の着色剤」を、単に「着色剤」とも称する。着色剤としては、例えば、公知の顔料、分散染料、溶剤染料、並びに、染料及び顔料等の着色剤により着色された水不溶性の樹脂等が使用できる。着色剤は、顔料であることが好ましい。
【0016】
ブラックインクに含まれる着色剤としては、例えばカーボンブラックが挙げられる。ブラックインクに含有させるカーボンブラックとしては、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、例えば、コロンビア・カーボン社製のRavenシリーズ;キャボット社製のMonarchシリーズ、Regalシリーズ、及びMogulシリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のColorBlackシリーズ、Printexシリーズ、SPECIALBLACKシリーズ、及びNeroxシリーズ;三菱化学株式会社製のMAシリーズ、MCFシリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300等が挙げられる。
【0017】
上記ブラックインクには、カーボンブラック以外の着色剤を含んでも良い。カーボンブラック以外の着色剤としては、有機顔料、体質顔料、分散染料が挙げられる。
【0018】
有機顔料として、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、及びキノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202、213等のイエロー;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272等のレッド;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73等のオレンジ;C.I.Pigment Green7、36、54等のグリーン;C.I.Pigment Black 1等のブラックの各色の顔料が挙げられる。
【0019】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、及びホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0020】
分散染料としては、公知の分散染料が挙げられる。それらの中ではC.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット;C.I.Disperse Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルーの各色の分散染料が挙げられる。
【0021】
前記ブラックインクの総質量に対する着色剤の含有量は、通常1~30%、好ましくは1~10%、より好ましくは2~7%である。ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、特に断りのない限り「%」及び「部」は質量基準で記載する。
また、着色剤の平均粒径は通常50nm~250nm、好ましくは60nm~200nmである。本願の明細書及び特許請求の範囲において平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0022】
水不溶性の着色剤をインク中に分散するために、分散剤を使用することが好ましい。分散剤は特に制限されず、公知の分散剤を使用できる。分散剤としては、一般に樹脂等の高分子分散剤が用いられる。そのような樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマール酸、フマール酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホン化ビニルナフタレンのα,β-不飽和モノマー等のイオン性モノマー、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリルニトリル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、N-ブトキシメチルアクリルアミド等から誘導されたポリマー等が挙げられる。
【0023】
上記分散剤としての樹脂としては、例えば、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体等よりなる群の単量体から選択される、少なくとも2つの単量体(好ましくは、このうち少なくとも1つが親水性の単量体)から構成される共重合体が挙げられる。そのような共重合体としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。
これらの中ではスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく;(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がさらに好ましく;メタクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体が特に好ましい。
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において「(メタ)アクリル酸」の用語は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の両方を含む意味で用いる。「(メタ)アクリレート」も同様に、メタクリレート及びアクリレートの両方を意味する。
共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はそれらの塩等が挙げられる。
【0024】
上記分散剤としての樹脂は合成することも、市販品として入手することもできる。市販品の具体例としては、例えば、ジョンクリル62、67、68、678、及び687(BASF社製)等のスチレン-アクリル系共重合体;モビニールS-100A(ジャパンコーティングレジン社製の変性酢酸ビニル共重合体);並びにジュリマーAT-210(東亜合成社製のポリアクリル酸エステル共重合体)等が挙げられる。
合成により得られる共重合体としては、国際公開第2013/115071号に開示されたA-Bブロックポリマーが好ましく挙げられる。
【0025】
上記分散剤の酸価は通常90~200mgKOH/g、好ましくは100~150mgKOH/g、より好ましくは100~120mgKOH/gである。
分散剤の質量平均分子量は通常10000~60000、好ましくは10000~40000、より好ましくは15000~30000、さらに好ましくは20000~25000である。
分散剤のPDI(質量平均分子量/数平均分子量)は1.29~1.49程度である。上記のような範囲とすることにより、インクの分散性及び保存安定性を良好にできる。
【0026】
上記ブロック共重合体を用いて調製された着色剤の分散物を水に溶解させるために用いられる中和剤としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物及びアルカノールアミン化合物等が挙げられる。アンモニア及びアルカリ金属の水酸化物が好ましく、アンモニアが特に好ましい。中和剤の使用量は特に制限されない。その目安としては、分散剤の酸価の理論等量で中和したときを100%中和度として、通常30~300%中和度、より好ましくは50~200%中和度である。
【0027】
上記分散剤としての樹脂は、着色剤と混合した状態、又は、着色剤の表面の一部、若しくは全てを分散剤としての樹脂で被覆した状態のいずれでも使用することができる。また、これらの両方の状態を併用することもできる。
前記ブラックインクは、水不溶性の着色剤と分散剤としての樹脂を含有する分散液を調製した後、他の成分と混合して調製するのが好ましい。分散液の調製方法は、公知の方法を使用することができる。その一例としては、転相乳化法が挙げられる。すなわち、2-ブタノン等の有機溶剤に分散剤としての樹脂を溶解し、中和剤の水溶液を加えて乳化液を調製する。得られた乳化液に着色剤を加えて分散処理を行う。このようにして得られた液から有機溶剤と一部の水を減圧留去することにより、目的とする分散液を得ることができる。
分散処理は、例えば、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて行うことができる。一例として、サンドミルを用いるときは、粒子径が0.01mm~1mm程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を適宜設定して分散処理を行うことができる。
上記のようにして得られた分散液に対して、ろ過及び/又は遠心分離等の操作をすることができる。この操作により、分散液が含有する粒子の粒子径の大きさを揃えることができる。
分散液の調製中に泡立ちが生じるときは、公知のシリコン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量加えることができる。
上記以外の分散液の調製方法としては、酸析法、界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、及びスプレードライング法等が挙げられる。これらの中では酸析法、及び界面重合法が好ましい。
【0028】
分散液中における着色剤分散体の平均粒径(D50)は通常300nm以下、好ましくは30~280nm、より好ましくは40~270nm、さらに好ましくは50~250nmである。また、D90は通常400nm以下、好ましくは350nm以下、より好ましくは300nm以下である。下限は100nm好ましい。D10は通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、上限は100nmである。分散液中における着色剤の粒径が以上のような範囲であることにより、インク保存安定性を担保しつつ、インクジェットヘッドノズルを詰まらせること無く安定してインクを吐出するという効果がある。
ここで、平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における小粒径側からの積算粒径の分布が50%となる粒径であり、D10は小粒径側からの積算粒径の分布が10%となる粒径であり、D90は小粒径側からの積算粒径の分布が90%となる粒径をいう。
【0029】
(シリコン系界面活性剤)
前記ブラックインクは、インク非・難吸収性メディア上での十分な濡れ性を有することが重要であり、濡れ性を付与するためには、界面活性剤を用いることが一般的である。濡れ性を付与するための界面活性剤として、シリコン系、フッ素系、アセチレン系など用途に合わせて様々な界面活性剤が広く知られている。中でもシリコン系界面活性剤は、その濡れ性を付与する能力に優れている。
【0030】
上記シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリエーテル変性シロキサンの具体例としては、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー社製)等が挙げられる。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの具体例としては、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-342、BYK-3420、BYK-3455(ビックケミー社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
上記ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の総含有量は、ブラックインクの総質量に対して通常0.24質量%以下、好ましくは0.1質量%~0.24質量%、より好ましくは0.1質量%~0.2質量%である。
【0032】
上記ブラックインクは、さらにインク調製剤を含んでいても良い。
(インク調製剤)
インク調製剤としては、例えば、バインダー、浸透剤、粘度調整剤、シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
ブラックインクの総質量に対して、バインダー、浸透剤、及び粘度調整剤を除くインク調製剤の総含有量は通常0~30%、好ましくは0.1~20%、より好ましくは0.5~10%程度である。
【0033】
(a)バインダー
バインダーは、ワックス及び(メタ)アクリル酸系ポリマーから選択される少なくとも1種類であることが好ましい。バインダーをインクに含有させることにより、印刷画像の耐擦過性を向上することができる。バインダーはエマルションの状態で含有されることが好ましく、中でも水系エマルションがより好ましい。
バインダーの平均粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するために50nm~5μmが好ましく、100nm~1μmがより好ましい。
ブラックインクがバインダーを含有する場合、インクの総質量に対するバインダーの含有量は固形分換算値として通常0.1~14%、好ましくは0.5~12%、より好ましくは2~10%、さらに好ましくは3~8%である。このような含有量のとき、印刷画像の耐擦過性をより良好にすることができる。
【0034】
ワックスとしては、天然ワックス及び合成ワックスを用いることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等;褐炭系ワックスであるモンタンワックス等;植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリアワックス等;動植物系ワックスである蜜蝋、ラノリン等のワックスを、水性媒体中に分散させたエマルジョン等が挙げられる。
合成ワックスとしてはポリアルキレンワックス(好ましくはポリC2-C4アルキレンワックス)、酸化ポリアルキレンワックス(好ましくは酸化ポリC2-C4アルキレンワックス)、及びパラフィンワックスが挙げられる。上記の中ではポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上のワックスが好ましく、酸化ポリエチレンワックスがより好ましい。
ワックスエマルジョンの市販品としては、例えば、ビックケミー社製のCERAFLOUR 925、929、950、991;AQUACER 498、515、526、531、537、539、552、1547;AQUAMAT 208、263、272;MINERPOL 221等;三井化学株式会社製の三井ハイワックス NL100、NL200、NL500、4202E、1105A、2203A、NP550、NP055、NP505等;三洋化学株式会社製のKUE-100、11等が挙げられる。
これらの中ではAQUACER 515、531、537、539、1547が好ましく、AQUACER 515、531、537、1547がより好ましい。
【0035】
バインダーとして使用する(メタ)アクリル酸系ポリマーは、上記の分散剤とは異なるポリマーである。(メタ)アクリル酸系ポリマーは、C1-C4アルキルメタクリレート、C6-C10アルキルアクリレート、メタクリル酸、及びアリルメタクリレートの4種類のモノマーから構成される(メタ)アクリル酸系ポリマーであることが好ましい。
C1-C4アルキルメタクリレートとしてはアルキル部分が直鎖又は分岐鎖が好ましく、直鎖がより好ましい。C1-C4アルキルメタクリレートは、C1-C3アルキルメタクリレートであることが好ましく、C1-C2アルキルメタクリレートであることがより好ましく、メチルメタクリレートであることがさらに好ましい。
C6-C10アルキルアクリレートとしてはアルキル部分が直鎖又は分岐鎖が好ましく、分岐鎖がより好ましい。C6-C10アルキルアクリレートは、C7-C9アルキルアクリレートであることが好ましく、C8アルキルアクリレートであることがより好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートであることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸系ポリマーにおけるC1-C4アルキルメタクリレート、C6-C10アルキルアクリレート、メタクリル酸、及びアリルメタクリレートの4種類のモノマーの含有量は、それぞれ質量基準で通常40~60%、38~58%、1~10%、及び1~5%であり、好ましくは45~55%、52~42%、2~4%、及び1~3%である。これらのモノマー含有量の範囲で、合計100%とするのが好ましい。
(メタ)アクリル酸系ポリマーの酸価(単位はmgKOH/g)は、通常-10~35、好ましくは-5~30、より好ましくは0~25である。
(メタ)アクリル酸系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、通常-20~30℃、好ましくは-15~25℃、より好ましくは-10~20℃である。
【0036】
(b)浸透剤
前記ブラックインクは、水-オクタノール分配係数が0.00以上2.00未満の、グリコールエーテル、及びC4-C9アルカンジオールから選択される少なくとも1種類の有機溶剤を、浸透剤としてさらに含有することができる。これにより、インク非・難吸収メディア上において、インクの濡れ広がり、及び、インクの乾燥が良好になる傾向がある。
上記数値範囲内のClog Pを有する浸透剤としては、例えば、1,2-ペンタンジオール(-0.00)、エチレングリコールモノアリルエーテル(0.03)、イソプロピルアルコール(0.07)、イソプロピルグリコール(0.09)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(0.13)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(0.36)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(0.42)、ブチルトリグリコール(0.49)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(0.52)、1,2-ヘキサンジオール(0.53)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(0.54)、プロピルプロピレングリコール(0.62)、ブチルジグリコール(0.67)、ジプロピレングリコール n-プロピルエーテル(0.75)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(0.82)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(1.00)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(1.26)、1,2-オクタンジオール(1.58)、及びヘキシルジグリコール(1.72)、等が挙げられる。
上記インクが浸透剤を含有する場合、インクの総質量中における、これらの総含有量は通常0.1~30%、好ましくは0.2~20%、より好ましくは0.5~10%、さらに好ましくは2~8%、特に好ましくは4~6%である。
【0037】
(c)粘度調整剤
前記ブラックインクは、粘度調整剤をさらに含有することができる。産業用インクジェットプリンタは、搭載するプリンタヘッド(インクを吐出するヘッド)の仕様に基づき、通常は、吐出できるインクの粘度範囲が決まっている。このため、インクに粘度調整剤を加え、その粘度を適正な範囲に調整することができる。
粘度調整剤としては、インクの粘度を調整できる物質であれば特に制限されず、公知の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、水溶性有機溶剤(この中に上記浸透剤として挙げた「有機溶剤」は含まれない。)、糖類等が挙げられる。これらの中では、ClogPの数値が通常0.00未満、好ましくは-0.05以下、より好ましくは-0.08以下の、水溶性有機溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤のClog Pの数値の下限は特に限定されないが、通常-4.00以上、好ましくは-3.00以上、より好ましくは-2.00以上、さらに好ましくは-1.50以上である。
そのような水溶性有機溶剤としては、例えば、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(-0.02)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.03)、イソプロピルジグリコール(-0.08)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.16)、エタノール(-0.24)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(-0.24)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(-0.26)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.30)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(-0.33)、トリメチロールプロパン(-0.39)、N-メチル-2-ピロリドン(-0.40)、1,2-ブタンジオール(-0.53)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(-0.58)、1,5-ペンタンジオール(-0.64)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(-0.64)、ジプロピレングリコール(-0.69)、1,3-ブタンジオール(-0.73)、メチルジグリコール(-0.78)、メチルトリグリコール(-0.96)、2-ピロリドン(-0.97)、プロピレングリコール(-1.06)、1,4-ブタンジオール(-1.16)、ジエチレングリコール(-1.30)、エチレングリコール(-1.37)、トリエチレングリコール(-1.48)、グリセリン(-1.54)、ジグリセリン(-2.96)、青木油脂工業製のグリセレス-3(-3.49)、及びグリセレス-20(-5.42)等が挙げられる。
上記ブラックインクが水溶性有機溶剤を含有する場合、水溶性有機溶剤の総含有量は通常0%~55%、好ましくは5%~40%、より好ましくは10%~30%程度である。
【0038】
(d)シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤
上記シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤としては、アニオン、カチオン、両性、及びフッ素系の、各界面活性剤が挙げられる。
【0039】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、及びジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0040】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体及びポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0041】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、及びイミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0042】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。
上記ブラックインクがシリコン系界面活性剤以外の界面活性剤を含有する場合、シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤のインク中の含有量は、0.1~2.0%であることが好ましい。
【0043】
(e)防腐剤
防腐剤としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。防腐剤の市販品の具体例としては、アーチケミカル社製のプロクセル GXL(S)、及びXL-2(S)等が挙げられる。
【0044】
(f)防黴剤
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、及び1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0045】
(g)pH調整剤
pH調整剤としては、調製されるインクに悪影響を及ぼさずに、そのpHを5~11に調整できれば、任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びN-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム及び酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;並びにリン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0046】
(h)キレート剤
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
(i)防錆剤
防錆剤としては、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0048】
(j)水溶性紫外線吸収剤
水溶性紫外線吸収剤の例としては、スルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0049】
(k)酸化防止剤
酸化防止剤の例としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。上記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0050】
[水]
インク組成物は上記の各成分、及び、必要に応じてインク調製剤を含有し、残部は水である。インクに使用する水は、イオン交換水及び蒸留水等の、例えば金属イオンのような不純物の含有量の少ないものが好ましい。
【0051】
上記ブラックインクのpHは通常7~11、好ましくは8~10である。インク組成物の表面張力は通常10~50mN/m、好ましくは20~40mN/mである。インク組成物の粘度は通常2~30mPa・s、好ましくは3~20mPa・sである。
インク組成物のpH及び表面張力は、pH調整剤、界面活性剤、及び水溶性有機溶剤等を使用することにより調整できる。
【0052】
上記インクブラックは、各種の印刷において使用することができる。例えば、筆記具、各種の印刷、情報印刷、捺染等に好適であり、インクジェット印刷に用いることが特に好ましい。
【0053】
[カラーインク]
上記カラーインクは、水、着色剤(2)、シリコン系界面活性剤を含有し、任意選択的にその他の成分をさらに含有していても良い。その他の成分としては、例えば、分散剤、浸透剤、粘度調整剤、並びにインク調製剤が挙げられる。シリコン系界面活性剤、及びその他の成分としては、上記ブラックインクと同様のものを用いることができ、シリコン系界面活性剤を除く各成分のカラーインクにおける含有量も、ブラックインクについて説明した好ましい範囲の量とすることができる。カラーインクは、シアン、マゼンタ、イエロー、グリーン、オレンジ、レッド、及びバイオレットを含む群から選択されるあることが好ましい。中でもシアン、マゼンタ、イエローが選択されることが特に好ましい。
【0054】
(着色剤(2))
カラーインクに含まれる着色剤(2)としては、水不溶性の着色剤であれば特に限定されない。本願の明細書及び特許請求の範囲において、水不溶性の着色剤は、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下の着色剤を意味する。溶解度の下限は0gを含む。以下、特に断りのない限り「水不溶性の着色剤」を、単に「着色剤」とも称する。着色剤としては、例えば、公知の顔料、分散染料、溶剤染料、並びに、染料及び顔料等の着色剤により着色された水不溶性の樹脂等が使用できる。
着色剤は、顔料であることが好ましい。顔料としては無機顔料、有機顔料、及び体質顔料等が挙げられる。
【0055】
無機顔料としては、例えば酸化チタン、金属酸化物、水酸化物、硫化物、フェロシアン化物、及び金属塩化物等が挙げられる。
【0056】
有機顔料として、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、及びキノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202、213等のイエロー;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272等のレッド;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73等のオレンジ;C.I.Pigment Green7、36、54等のグリーン;C.I.Pigment Black 1等のブラックの各色の顔料が挙げられる。
【0057】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、及びホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0058】
分散染料としては、公知の分散染料が挙げられる。それらの中ではC.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット;C.I.Disperse Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルーの各色の分散染料が挙げられる。
【0059】
(シリコン系界面活性剤)
前記カラーインクは、インク非・難吸収性メディア上での十分な濡れ性を有することが重要であり、濡れ性を付与するためには、界面活性剤を用いることが一般的である。濡れ性を付与するための界面活性剤として、シリコン系、フッ素系、アセチレン系など用途に合わせて様々な界面活性剤が広く知られている。中でもシリコン系界面活性剤は、その濡れ性を付与する能力に優れている。
【0060】
上記シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリエーテル変性シロキサンの具体例としては、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー社製)等が挙げられる。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの具体例としては、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-342、BYK-3420、BYK-3455(ビックケミー社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0061】
上記カラーインクがシリコン系界面活性剤を含有するとき、界面活性剤の総含有量は、インクの総質量に対して通常0.2質量%以上であり、0.3質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.3質量%~1.5質量%、であり、さらに好ましくは0.3質量%~1.2質量%であり、殊更好ましくは0.3質量%~0.9質量%である。
【0062】
上記ブラックインクにおけるシリコン系界面活性剤の含有量と、上記カラーインクにおけるシリコン系界面活性剤の含有量は、特定の関係になるように決定する。すなわち、ブラックインク中にシリコン系界面活性剤を含まない、あるいは含む場合、含有量が0.24質量%以下であり、ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上0.9質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.7質量%以下であり、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない関係となることが好ましい。ブラックインク中にシリコン系界面活性剤を含まない、あるいは含む場合、含有量が0.24質量%以下であり、ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上である場合、高速で印刷したとしてもにじみが少なく高画質な画像が得られる。ここでいう「高速」とは、例えば25.4m/minの速度である。
【0063】
<インクセット>
上記インクセットは、水、着色剤(1)、必要に応じてシリコン系界面活性剤を含有するブラックインクと、水、着色剤(2)、シリコン系界面活性剤を含有するカラーインクからなる。組み合わせるカラーインクの数は特に限定されない。上記インクセットはブラックインク、及びカラーインクとしてシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクで構成されることが好ましい。
【0064】
上記インクセットによれば、色間にじみが極めて良好な印刷画像を実現することができる。上記インクセットは、各種の印刷、特にインクジェット印刷の用途に極めて有用である。
【0065】
すなわち上記インクジェットの記録方法において、カラーインクはいずれも少なくとも顔料とシリコン系界面活性剤を含み、ブラックインクは少なくとも顔料を含み、シリコン系界面活性剤を含んでも良く、ブラックインクがシリコン系界面活性剤を含む場合、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量は0.24質量%以下であり、ブラックインクとカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量の差が0.2質量%以上であり、ブラックインク中のシリコン系界面活性剤の含有量がカラーインク中のシリコン系界面活性剤の含有量より少ない、シングルパス式インクジェット印刷用インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であることが好ましい。
【0066】
<インクジェット記録方法>
インクジェット記録方法としては、上記インクセットを用いるインクジェット記録方法であって、第1のインク組成物の液滴を吐出して、印刷メディアに付着させて第1の画像を形成する工程と、第2のインク組成物の液滴を吐出して、前記第1の画像が形成された印刷メディア上に付着させて第2の画像を形成する工程とを含む。第1の画像を形成する工程及び第2の画像を形成する工程は、インクジェット方式を用いて行うことができる。
上記インクジェット記録方法においては、第1のインク組成物がブラックインクであり、第2のインク組成物がカラーインクであることが好ましい。また、カラーインクを2つ以上含むインクセットの場合には、第2の画像を形成する工程の後に、第3の画像を形成する工程、第4の画像を形成する工程等、第3以降の画像を形成する工程を含む。
【0067】
インクジェット方式としては、公知の方式が使用できる。インクジェット方式の具体例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド(圧力パルス)方式、音響インクジェット方式、及びサーマルインクジェット方式等が挙げられる。
また、インクジェット方式には、インク中の着色剤の含有量が少ないインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方式、実質的に同じ色相で、インク中の着色剤の濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、及び、無色透明のインクを用いることにより、着色剤の定着性を向上させる方式等も含まれる。
【0068】
<印刷メディア>
印刷メディアは、上記インクセットが有するインクが付着できる物質を意味する。印刷メディアの一例としては、例えば、紙、フィルム等、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。
印刷メディアは、インク受容層を有するものと、有さないものとに大別することができる。上記インクセットは、いずれの印刷メディアにも適用することができるが、インク受容層を有さない印刷メディアに好適に用いることができる。
インク受容層を有する印刷メディアは、通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙等と呼ばれる。その代表的な市販品の例としては、キヤノン社製のプロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、光沢ゴールド及びマットフォトペーパー;セイコーエプソン株式会社製の写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢)、及びフォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード株式会社製のアドバンスフォト用紙(光沢);並びに富士フィルム株式会社製の画彩写真仕上げPro等が挙げられる。
インク受容層を有さない印刷メディアとしては、グラビア印刷、及びオフセット印刷等の用途に用いられるコート紙、及びアート紙等の各種の用紙;並びにラベル印刷用途に用いられるキャストコート紙等が挙げられる。インク受容層を有さない印刷メディアを用いるときは、着色剤の定着性等を向上させる目的で、印刷メディアに対して表面改質処理を施すことも好ましく行われる。表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理及びフレーム処理等の、公知の方法が挙げられる。
【0069】
<インクメディアセット>
インクメディアセットは、上記インクセットと、上記印刷メディアとを含むセットである。
【0070】
上記した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
また、特に断りのない限り上記した全ての成分等は、そのうちの1種類を単独で使用することができるし、2種類以上を併用することもできる。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
実施例において、各種の液が含有する着色剤の含有量(固形分)の測定が必要なときは、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて、乾燥重量法により、着色剤のみの換算値として算出した。
【0072】
[調製例1]:ブラック分散液の調製
国際公開第2013/115071号の合成例3に記載のブロック共重合体を調製し、得られたブロック共重合体(6部)をメチルエチルケトン20部に溶解させ、均一な溶液とした。この液に、水酸化ナトリウム(0.45部)を水(53.55部)に溶解させた混合液を加えた後、カーボンブラック(ORION ENGINEERED CARBONS社製 Nerox 605)20部を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行い、液を得た。得られた液に水(100部)を加えた後、この液をガラスろ紙GA-100を用いてろ過する事により、凝集物等を取り除き、ろ液を得た。得られたろ液を、エバポレーターを用いて、ろ液中のメチルエチルケトン、及び水の一部を減圧蒸留し、ろ液中の顔料含有量が12.0%となるようにすることで、ブラック分散液を得た。
【0073】
[調製例2]:シアン分散液の調製。
調製例1で使用したカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Blue 15:4(大日精化株式会社製、Chromofine blue 4851)を用いる以外は調整例1と同様にして、顔料含有量が12.0%のシアン分散液を得た。
【0074】
[調製例3]:イエロー分散液の調製
調製例1で使用したカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Yellow 74(クラリアント社製HANSA Yellow 5GX01)を用いる以外は調製例1と同様にして、顔料含有量が12.0%のイエロー分散液を得た。
【0075】
[調製例4]:マゼンタ分散液の調製
調製例1で使用したカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Red 122(クラリアント社製Inkjet Magenta E02VP2621)を用いる以外は調製例1と同様にして、顔料含有量が12.0%のマゼンタ分散液を得た。
【0076】
[調製例7]:樹脂エマルションの調製。
国際公開2015/147192号の調製例4を追試する事により、酸価6KOHmg/g、固形分が25%の樹脂エマルションを調製した。これを樹脂1とする。
【0077】
[実施例1~7及び比較例1~4:インク組成物の調製例]
下記表1、2に記載の各成分を混合した後、3μmのメンブランフィルターで濾過することにより、評価試験用の各インク組成物を得た。
【0078】
下記表2及び表3中の略号等は、以下を表す。
PG:プロピレングリコール。
1,2HD:1,2-ヘキサンジオール。
TEA:トリエタノールアミン。
AQ515:AQUACER515。(ビックケミー・ジャパン社製;固形分35%)
樹脂1:調製例7で得た樹脂エマルション。
DW:イオン交換水。
【0079】
[色間にじみの評価]
(1)試験片1の作製
実施例1~6及び比較例1~6のインクセットを用い、ブラックインク組成物により記録された100%のベタ画像(ブラック画像)の上に直行して重なるように、カラーインク組成物により記録された100%、線幅1.0mmの設定で直線状の画像(カラー画像)1本を印刷し、印刷画像を得た。印刷は、京セラ株式会社製のインクジェットヘッドであるKJ4Bを2ヘッド備えた印刷冶具を用い、ブラックインク組成物、カラーインク組成物の順で、周波数10kHz、3値(微小滴及び中滴の併用)の条件で、王子製紙社製の「OKトップコート+」を印刷メディアとして行った。2つのインクジェットヘッドは、印刷媒体の送り方向の上流側から、ブラックインク組成物、カラーインク組成物の順に印刷評価装置に備える。この時、ブラックインク組成物、カラーインク組成物を充填したそれぞれのインクジェットヘッドの間隔は90mmに設定した。得られた印刷画像を70℃設定の恒温槽の中に静置して2分間、乾燥することにより、試験片1を得た。試験片1の線幅を測定し、下記の膨張率算出式に従って膨張率を算出した。この膨張率をにじみと呼ぶ。線幅の測定には、QEA社製の印刷画像評価装置PIAS-IIを用いた。印刷速度は25.4m/minである。
(膨張率算出式)膨張率(%)=ブラック画像上のカラー画像の線幅 ÷ブラック画像上に重なっていないカラー画像の線幅×100
(2)評価
膨張率を以下の評価基準表に示す評価基準に基づいて評価した。評価は第1の線幅の比率は小さい方が、色間にじみの性能が優れる。
【0080】
【0081】
下記表2及び3から明らかなように、実施例1~7のインクセットは、にじみが○であった。よって、実施例1~6のインクセットは、色間にじみを抑える性能に優れていることが示された。
【0082】
【0083】
【0084】
本発明により、色間にじみが極めて良好な印刷画像の提供を可能にするインクセット、これを用いるインクジェット印刷方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することができる。本発明のインクセットは、各種の印刷、特にインクジェット印刷の用途に極めて有用である。