(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137781
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230922BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/46
H01M4/485
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044152
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 史也
(72)【発明者】
【氏名】木下 肇
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ16
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ19
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA08
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA17
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電池内の反応をさらに均一化し、充放電サイクル特性、レート特性及び寿命特性に優れた電池を製造することができる負極活物質層形成用組成物を提供することを目的とする。また、容量の急低下(二次劣化)の要因となる電池内の反応の偏在を評価できる方法を提供することも目的とする。
【解決手段】組成物の総量を100質量%として、負極活物質の含有量が96.6~99.9質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.01~1.4質量%、前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~2.0質量%であり、且つ、前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである、リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の総量を100質量%として、
負極活物質の含有量が96.6~99.9質量%、
カーボンナノチューブの含有量が0.01~1.4質量%、
前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~2.0質量%であり、且つ、
前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである、
リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項2】
組成物の総量を100体積%として、
負極活物質の含有量が93.38~99.98体積%、
カーボンナノチューブの含有量が0.02~2.18体積%、
前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~4.52体積%であり、且つ、
前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである、
リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項3】
前記負極活物質が、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である材料である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブである、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池における反応の偏在を低減するために用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項6】
カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を含有する、リチウムイオン二次電池用負極活物質層。
【請求項8】
カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層を備える、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項12】
充電率SOCを以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義し、
25℃及び3.0Cの条件でSOC100%の状態からSOC90%の状態まで放電した後に、10分間休止して休止中の電圧の上昇を測定し、
以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により算出される内部抵抗が1.0~19.0Ω・cm2である、請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
充電率SOCを以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義し、
0℃及び0.5Cの条件でSOC100%の状態からSOC90%の状態まで放電した後に、1分間休止して休止中の電圧の上昇を測定し、
以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により算出される内部抵抗が1.0~45.0Ω・cm2である、請求項11又は12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
カーシェアリング用の電気自動車に用いられる、請求項11~13のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)ビジネスは、その高エネルギー密度、高電圧、安全性素養等を活かし、携帯機器の小型・軽量化、高機能化(利便性の追求)等を目的とした絶え間ない技術開発により飛躍的伸長を成し遂げた。地球環境問題及び資源問題がクローズアップされる今、エコカーの普及促進、再生可能エネルギーへの転換等の政策が、今後もリチウムイオン電池市場成長を牽引していくと予想される。一方でこのまま、個人所有の電気自動車(EV)、定置用蓄電(再生可能エネルギーの平準化等)に向けリチウムイオン電池が適用される場合に必要になるリチウムイオン電池は2030年には凡そ2018年の10倍が必要となると計算され、資源の不足等による電池コストの急騰等経済性の観点から利用者にとり好ましくない状況も起こりうることから、一つの電池を如何に長くつかうかという観点でリユース、あるいは、資源回収の観点からリサイクルの研究開発も活発になってきており、電池の長寿命化はライフサイクルアセスメント(LCA)の見地からも有効である。
【0003】
また、EV等のモビリティーのあり方につき、新たな提案がなされてきており、よりユーザーの利便性の向上を目指したCASE、MaaS等が現実化してきており、今後、EV等のモビリティーが個人所有からシェアリングへ移行していく兆候がある。このような流れの中、将来市場に展開されると予想されるAIEV(Artificial Intelligence Electric Vehicle)は、AIを搭載したEVであり、運転は自動化され、車両はシェアリングされ、車は個人所有ではなく管理会社が管理し、管理会社が移動サービス(CASE)、及び、車両内ではユーザーが必要とする様々なサービスを提供する(MaaS)。また、運転制御及び充放電制御も管理会社が実施可能となることから、電池の寿命、安全等に考慮した運用も可能となる。さらに、車両のシェアリングによりユーザーの負担も個人所有に比べ1/5程度まで低減することもできることから経済性にも優れている。すなわち、将来的に、ガソリン車が主流である自家用車を、このAIEV(シェアリングカー)で代替することで、地球環境への貢献、交通事故及び交通渋滞の減少、高齢化及び過疎化地域の新交通手段、個人の費用負担の減少、移動時間の有効活用等が期待される。さらには、AIEVは、変動の大きな再生可能エネルギーで発電した電気を、管理会社の管理システムにより自動的に充電し、必要に応じて放電する、巨大蓄電システムとして機能することも可能となる。
【0004】
ただし、その実現には、現在主流であるリチウムイオン電池の開発方向性を見直す必要がある(
図1)。
【0005】
特に、電気自動車に搭載される電池の飛躍的な長寿命化が必要不可欠である。AIEVを実現するには、車両を個人所有する場合と異なり、車両の通算走行距離は、例えば、50万km以上が必要とされ、電池の寿命が現状レベルであれば、複数回の電池交換が必要となり、経済性が損なわれ、資源問題も解決しない。必要とされる電池性能は、現在主流の要求事項であるエネルギー密度(走行距離)及び急速充電性よりも、寿命が重視され、具体的例として、エネルギー密度は単電池で400Wh/Lレベルを確保し、車両走行距離は20~30kWh搭載で200~300kmであるが、実運用寿命として現在の5倍以上を目標とする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで電池の長寿命化検討はいろいろ検討されてきたが、実運用寿命として現在の現在の5倍以上を目標とする場合、新たな観点からの検討が必要となる。本発明者らは、電池の劣化において、活物質・部材の酸化・還元による劣化、活物質へのリチウムイオンの挿入脱離に伴う劣化、電解液の分解等によるリチウムイオンの消費、電極の緩み等による劣化等、従来多くの検討がなされてきた劣化因子に対し、本発明では過電圧因子に着目した。
【0007】
本明者らは、「過電圧因子(電流×抵抗)による劣化」という新たな劣化メカニズムを定義することにより、低温劣化、二次劣化等の現象を説明してきた。過電圧因子による劣化は負荷電流及び電池抵抗(直流抵抗)により影響を受ける劣化因子と定義し、例えば、低温サイクル時の劣化は、低温下における抵抗上昇に起因すると説明でき、急速充電による劣化は負荷電流増大に起因すると説明できる。また、電池は劣化すると抵抗が増大し、更に、容量が劣化すると、初期と同じ電流を印加した場合、活きている活物質部分に対する負荷(見かけ負荷)は増大することとなる。更には、ガス等が極群内にたまると、ガスはイオンを透過しないため、ガスだまり以外の電極部、活物質に負荷がかかる。この観点から考えると、過電圧因子として寿命に影響を与えている1因子が、電極内での反応偏在があり、電極内で反応が均一に生じないと電極に用いられている活物質等には、電池の長期的な運用にあたり、一部の活物質等に負荷が蓄積していき、例えば負極の場合は、局所的な強還元化におかれることによるリチウムイオンの消費、最悪の場合、リチウム電析等を誘発するため、一定サイクルの充放電を繰り返すと、容量の急低下、抵抗の急激な上昇(二次劣化)が発生するケースがほとんどである。電極の反応を均一化し、電池内の反応の偏在を抑止することにより、この二次劣化(容量の急低下)が抑止可能であり、飛躍的に寿命をのばすことができる。このため、電池内の反応を均一化することが重要であるが、電池内の反応を均一化する取り組みは、ほとんど行われていないのが現状である。
【0008】
電池内の反応を均一化するためには、電極内のイオン移動を均一化することが可能な電極構造にすることが重要である。その手段として、電極の空隙率を大きくする、もしくは電極の目付重量を小さくするといった検討がこれまでなされてきたが、これらの手法はエネルギー密度(走行距離)の低下をともなう手法であるため、これらの手法だけでは、上記の400Wh/Lレベルを確保するという観点で限度がある。また、電極内においてイオンの移動を阻害し得る因子、具体的には、通常、電極に強度を付与するために用いられるバインダ、電極スラリーを安定させるために用いられる増粘剤、および分散剤等といった電極構成材料を排除することも電極内のイオン移動を均一化すること観点では有効であると考えられるが、これらの構成材料を低減する、もしくは無くすと電極の強度は著しく低下し、充放電にともなう電極の体積変化に追従できず、集電パスの欠如等により、寿命特性はむしろ低下する。
【0009】
また、電池内の反応を均一化するためには、負極活物質を小粒径化することも考えられる。負極活物質を小粒径化すると、反応面積が多くなるため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなり、寿命特性が向上することも想定される。しかしながら、本発明者らの研究によれば、単純に負極活物質を小粒径化しただけでは、反応面積が多くなることによる電解液の分解による劣化が加速すること、及び負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなり、電極の強度を維持するには多量のバインダ、増粘剤、分散剤等が必要となり、結果的に電池内の反応を均一化することができず、寿命特性は向上しない。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、電池内の反応をさらに均一化し、充放電サイクル特性、レート特性及び寿命特性に優れた電池を製造することができる負極活物質層形成用組成物を提供することを目的とする。また、容量の急低下(二次劣化)の要因となる電池内の反応の偏在を評価できる方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねてきた。その結果、負極活物質を小粒径化しつつ、ごく少量のカーボンナノチューブによって負極活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことで、電極内のイオンの移動を阻害し得るバインダ等の電極構成材料を含まないかごく少量とした場合であっても、電極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、リチウムイオンの移動を阻害しにくいため、電池内の反応を均一化し、充放電サイクル特性及びレート特性に優れることを見出した。また、本発明者らは、高負荷条件で放電した後の休止中に内部抵抗を算出することにより、電池の反応の偏在を評価することができることも見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0012】
項1.組成物の総量を100質量%として、
負極活物質の含有量が96.6~99.9質量%、
カーボンナノチューブの含有量が0.01~1.4質量%、
前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~2.0質量%であり、且つ、
前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである、
リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0013】
項2.組成物の総量を100体積%として、
負極活物質の含有量が93.38~99.98体積%、
カーボンナノチューブの含有量が0.02~2.18体積%、
前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~4.52体積%であり、且つ、
前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである、
リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0014】
項3.前記負極活物質が、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である材料である、項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0015】
項4.前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブである、項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0016】
項5.リチウムイオン二次電池における反応の偏在を低減するために用いられる、項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0017】
項6.カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物。
【0018】
項7.項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を含有する、リチウムイオン二次電池用負極活物質層。
【0019】
項8.カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層。
【0020】
項9.項7又は8に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質層を備える、リチウムイオン二次電池用負極。
【0021】
項10.カーシェアリング用の電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池用である、項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【0022】
項11.項9又は10に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備える、リチウムイオン二次電池。
【0023】
項12.充電率SOCを以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義し、
25℃及び3.0Cの条件でSOC100%の状態からSOC90%の状態まで放電した後に、10分間休止して休止中の電圧の上昇を測定し、
以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により算出される内部抵抗が1.0~19.0Ω・cm2である、項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【0024】
項13.充電率SOCを以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義し、
0℃及び0.5Cの条件でSOC100%の状態からSOC90%の状態まで放電した後に、1分間休止して休止中の電圧の上昇を測定し、
以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により算出される内部抵抗が1.0~45.0Ω・cm2である、項11又は12に記載のリチウムイオン二次電池。
【0025】
項14.カーシェアリング用の電気自動車に用いられる、項11~13のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、負極活物質を小粒径化しつつ、ごく少量のカーボンナノチューブによって負極活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことで、電極内のイオンの移動を阻害し得るバインダ等の電極構成材料を含まないかごく少量とした場合であっても、電極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、リチウムイオンの移動を阻害しにくいため、電池内の反応を均一化し、電池内の反応をさらに均一化し、充放電サイクル特性、レート特性及び寿命特性に優れる。
【0027】
また、本発明によれば、高負荷条件で放電した後の休止中に内部抵抗を算出することにより、電池の反応の偏在を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】自動車の利用及び運用が大きく変化する世界観を念頭に置いたリチウムイオン電池の開発の方向性を示す概略図である。
【
図2】試験例2の交流インピーダンス測定における解析方法の概略を示すグラフである。
【
図3】試験例2の交流インピーダンス測定の結果を示すグラフである。
【
図4】試験例3の高負荷休止法における内部抵抗の解析方法の概略を示すグラフである。
【
図5】試験例3の高負荷休止法における室温(25℃)での内部抵抗の結果を示すグラフである。
【
図6】試験例3の高負荷休止法における低温(0℃)での内部抵抗の結果を示すグラフである。
【
図7】試験例4の限界負荷試験において過電圧負荷を徐々に大きくした場合の容量維持率を示すグラフである。
【
図8】試験例4の限界負荷試験において過電圧負荷に対する10サイクルの容量維持率を示すグラフである。
【
図9】試験例5の寿命特性の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0030】
また、本明細書において、「A~B」との表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0031】
1.リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物
一般に、負極中の負極活物質層には、負極活物質の他、バインダ等の負極活物質以外の負極構成材料が相当量含まれていることが多い。これら負極活物質以外の負極構成材料は、リチウムイオンを透過しない物質であるため、負極活物質以外の負極構成材料が相当量含まれていると、リチウムイオンの移動を阻害し、均一な充放電を行うことができない。リチウムイオンの移動が阻害されると、リチウムイオンの移動の阻害が少ない部分に反応が集中し、結果として、リチウム電析等を誘発する。一方、負極活物質以外の負極構成材料の量を単純に低減しても、負極の形状を維持できるだけの強度を保持できないため、充放電中に膨張収縮し、電極構造が壊れ、電極内導電性が低下する等の集電劣化により電池の寿命特性は低下する。このため、単純に負極活物質以外の負極構成材料の量を低減するだけでは、反応偏在の緩和と寿命特性の向上を両立させることはできない。正極では正極活物質以外の正極構成材料の量を低減しても機能し得るが、負極の場合は上記のとおり、負極構造が壊れ、負極内導電性が低下する等の集電劣化により電池の寿命特性は低下するため、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減することはできないのが技術常識であった。特に、本発明のように、負極活物質を小粒径化した場合は、負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるため、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減することはさらに困難であった。
【0032】
それに対して、本発明の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、負極活物質の含有量が96.6~99.9質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.01~1.4質量%、前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~2.0質量%であり、且つ、前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである。なお、本発明の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総量)が100質量%である。
【0033】
また、本発明の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、負極活物質の含有量が93.38~99.98体積%、カーボンナノチューブの含有量が0.02~2.18体積%、前記負極活物質及び前記カーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量が0~4.52体積%であり、且つ、前記負極活物質の平均粒子径が0.1~13.0μmである。なお、本発明の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総体積量)が100体積%である。
【0034】
このような構成を採用することにより、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しても、ごく少量のカーボンナノチューブによって負極活物質粒子間の集電や電極の形状維持等が可能となる結果、電極の形状を維持できるだけの強度を保持することができる。また、本発明では、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。つまり、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、リチウムイオン二次電池における反応の偏在を低減するために用いることができる。
【0035】
(1-1)負極活物質
負極活物質としては、特に制限されるわけではなく、リチウムイオン二次電池において負極活物質として使用できる材料、つまり、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である材料を使用することができるが、天然黒鉛、人造黒鉛、アモルファスカーボン等の炭素材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Si合金、Sn合金、Al合金等、リチウムとの合金化が可能な金属材料;SiOx(0<x<2)、SnOx(0<x<2)、Si、Li2TiO3、バナジウム酸化物等、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる金属酸化物;Si-C複合体、Sn-C複合体等のように金属材料と炭素材料を含む複合材料等が挙げられる。これらの負極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、負極活物質として炭素材料等の導電性材料を使用した場合は、負極活物質を導電材としても機能させ、リチウムイオンの移動を阻害する物質の含有量を特に低減させやすい。
【0036】
負極活物質の形状は、特に制限はなく、球状、鱗片状、塊状、繊維状、ウィスカー状、破砕状等様々なものを採用することができる。また、複数の形状の負極活物質を組合せて用いることもできる。なお、球状とは、真球状であってもよいし、楕円形状等であってもよい。
【0037】
また、負極活物質の平均粒子径は、0.1~13.0μm、好ましくは0.5~10.0μm、より好ましくは1.0~8.0μmである。負極活物質の平均粒子径が0.1μm未満では、凝集が避けられず、かえって単位面積あたりのリチウムイオンのフラックスが増大し、寿命特性が劣化する。一方、負極活物質の平均粒子径が13.0μmをこえると、特に低温における反応の均一化には改善の余地がある。なお、負極活物質の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により粒子径を測定する。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しても、ごく少量のカーボンナノチューブによって負極活物質粒子間の集電や電極の形状維持等が可能となる結果、負極の形状を維持できるだけの強度を保持することができる。また、本発明では、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。このため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、現行の負極活物質層形成用組成物と比較すると負極活物質の含有量が大きい。このため、本発明の第1の態様では、負極活物質の含有量は、96.6~99.9質量%、好ましくは97.6~99.8質量%、より好ましくは98.2~99.7質量%である。なお、複数の負極活物質を用いる場合は、その総量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。なお、本発明の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総量)が100質量%である。
【0039】
また、同様の理由により、本発明の第2の態様では、負極活物質の体積比率は、93.38~99.98体積%、好ましくは95.00~99.70体積%、より好ましくは96.00~99.50体積%である。なお、複数の負極活物質を用いる場合は、その総体積量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。なお、本発明の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総体積量)が100体積%である。
【0040】
(1-2)カーボンナノチューブ
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減しても負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。カーボンナノチューブもリチウムイオンの移動を阻害する物質ではあるが、少量であれば、リチウムイオンの移動を阻害せず、つまり、電池内の反応を均一に保ったうえで、電極の形状を維持できるほどの強度を有することができる。
【0041】
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面又は単層のグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。壁構造が一枚の黒鉛シート(単層のグラフェンシート)でチューブ状に閉じた形状のカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブと呼ばれている。一方、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているカーボンナノチューブは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれも採用できるが、負極の形状を維持できるほどの強度を有しやすく、負極活物質間の集電をしやすく、リチウムイオンの移動を阻害しにくいため、電池内の反応を均一化しやすく、電池を長寿命化しやすい観点から、単層カーボンナノチューブが好ましい。
【0042】
このようなカーボンナノチューブは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0043】
体積あたりのカーボンナノチューブの本数を増大させやすく、負極の形状を維持するためのカーボンナノチューブの含有量を少なくすることができ、リチウムイオンの移動を阻害しにくい観点からは、カーボンナノチューブの平均外径は小さいことが好ましい。このため、カーボンナノチューブの平均外径は、0.43~20nmが好ましく、0.43~10nmがより好ましい。カーボンナノチューブの平均外径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。このような平均外径を有するカーボンナノチューブは、平均外径に応じて平均内径が設定される。
【0044】
カーボンナノチューブの平均長さは、長いほど電極の形状を維持できるほどの強度を有しやすく、負極活物質間の集電をしやすい一方、分散性を向上させやすく、リチウムイオンの移動を阻害しくい観点からは、カーボンナノチューブの平均長さは短いほうが好ましい。そのため、カーボンナノチューブの平均長さは、0.5~200μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。カーボンナノチューブの平均長さは、電子顕微鏡(SEM)観察により測定する。
【0045】
上述のカーボンナノチューブの平均長さと平均外径の比として定義されるカーボンナノチューブの平均アスペクト比は、高いほど少ないカーボンナノチューブの含有量で電極の形状を維持できるほどの強度を有しやすく、負極活物質間の集電をしやすく、リチウムイオンの移動を阻害しにくいため、電池内の反応を均一化しやすく、電池を長寿命化しやすい観点から、25~200000が好ましく、100~50000がより好ましい。
【0046】
本発明において、カーボンナノチューブは、1本ずつ独立しているものを使用することもできるし、束として強度を発現しやすいために複数のカーボンナノチューブがバンドル化したカーボンナノチューブ集合体を使用することもできる。いずれを使用した場合であっても、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や負極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質以外の負極構成材料の量も低減することができ、この結果、負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、リチウムイオンの移動を阻害しにくいため、電池内の反応を均一化し、電池を長寿命化することができる。
【0047】
また、カーボンナノチューブのグラフェン構造に欠陥が少ないこと、つまりはラマンスペクトルにおいてG/D比が高いことは、カーボンナノチューブと電解液との反応性が抑制される観点から好ましいと考えられる。このため、本発明において、カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいてG/D比が1~200であることが好ましく、50~150であることがより好ましい。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減しても負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。このため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物において、カーボンナノチューブの含有量は少量である。このため、本発明の第1の態様では、カーボンナノチューブの含有量は、0.01~1.4質量%、好ましくは0.1~1.2質量%、より好ましくは0.2~1.0質量%である。なお、複数のカーボンナノチューブを用いる場合は、その総量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。カーボンナノチューブもリチウムイオンの移動を阻害する物質ではあるが、1.4質量%以下程度であれば、負極活物質の粒径が小さいことも相まってリチウムイオンの移動を阻害しにくく、また、負極活物質の粒径が小さいにも関わらず電池内の反応を均一に保ったうえで電極の形状を維持できるほどの強度を有することができる。なお、本発明の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総量)が100質量%である。
【0049】
また、同様の理由により、本発明の第2の態様では、カーボンナノチューブの体積比率は、0.02~2.18体積%、好ましくは0.20~2.00体積%、より好ましくは0.40~1.75体積%である。なお、複数のカーボンナノチューブを用いる場合は、その総体積量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。なお、本発明の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総体積量)が100体積%である。
【0050】
(1-3)負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減しても負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。
【0051】
なお、本発明において、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料は、負極活物質や負極集電体との接着性を有する物質(結着剤)の他、カーボンブラックのようなカーボンナノチューブ以外の導電材や、分散剤等のように、カーボンナノチューブ以外のリチウムイオンの移動を阻害する物質(リチウムイオン移動阻害物質)を総称する概念である。
【0052】
このような本発明における負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料としては、例えば、導電材として、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;鱗片状黒鉛;グラフェン;有機物を熱処理して得られるアモルファスカーボン等が挙げられ、結着剤、増粘剤又は分散剤として、フッ素系ポリマー(ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、ポリオレフィン系樹脂(スチレンブタジエン共重合体樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂等)、合成ゴム(スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等)、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ポリウレタン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。これらの負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物は、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減しても負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。このため、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料は含まないか、含むとしてもその含有量は少量である。このため、本発明の第1の態様では、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料の含有量は、0~2.0質量%、好ましくは0~1.2質量%、より好ましくは0~0.8質量%である。なお、複数の負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料を用いる場合は、その総量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料はリチウムイオンの移動を阻害する物質ではあるが、2.0質量%以下程度であれば、負極活物質の粒径が小さいことも相まってリチウムイオンの移動を阻害しにくく、また、負極活物質の粒径が小さいにも関わらず電池内の反応を均一に保ったうえで電極の形状を維持できるほどの強度を有することができる。なお、本発明の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総量)が100質量%である。
【0054】
また、同様の理由により、本発明の第2の態様では、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料の体積比率は、0~4.52体積%、好ましくは0~2.00体積%、より好ましくは0~1.20体積%である。なお、複数の負極活物質を用いる場合は、その総体積量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。なお、本発明の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物においては、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量(組成物の総体積量)が100体積%である。
【0055】
(1-4)リチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物において、負極活物質と、カーボンナノチューブと、負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料とを混合してリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用ペースト組成物とする場合は、水や、アルコール(メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等)、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒のうち1種又は2種以上を含ませることでペースト状とすることも可能である。この場合、各成分の含有量については、負極活物質と、カーボンナノチューブと、電極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料との合計量、つまり、固形分の総量を100質量%又は100体積%とした数値である。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物の製造方法は、特に制限されない。例えば、上記した各成分を常法により混合することで、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を製造することができる。混合は、全ての成分を同時に混合することもできるし、逐次的に混合することも可能である。
【0057】
2.リチウムイオン二次電池用負極活物質層
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を含有する。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層の厚みは、特に制限されないが、リチウムイオンの浸透と電気伝導度を確保して反応を均一化させやすい点では薄いほうがよい一方で、本発明はリチウムイオンの移動を阻害する要因を低減して電池の反応を均一化して寿命を向上させようとしているため、電極あたりのエネルギー密度のために厚くすることも可能である。このため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層の厚みは、1~300μmが好ましく、10~150μmがより好ましく、50~100μmがさらに好ましい。
【0059】
このような本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層は、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を層状に成形することで製造することができる。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物をリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用ペースト組成物とする場合は、当該ペースト組成物を常法により乾燥させて層状に成形することができる。
【0060】
3.リチウムイオン二次電池用負極
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層を備えているものであるが、具体的には、負極集電体及び前記負極集電体上に配置された本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層を備えていることが好ましい。
【0061】
負極集電体は、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、炭素材料等の使用する電位において電気化学的に安定であり、高い電子導電性を有する材料からなることが好ましい。この負極集電体は、例えば、箔状、メッシュ状等の部材とすることができる。
【0062】
このような本発明のリチウムイオン二次電池用負極を製造する場合は、負極集電体上に、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を層状に成形することで製造することができる。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物をリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用ペースト組成物とする場合は、負極活物質に対して、当該ペースト組成物を常法により乾燥させて層状に成形し、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を製造することができる。
【0063】
4.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用負極を備えている。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極以外に、公知のリチウムイオン二次電池に適用される正極、電解液及びこれらを収納するための容器を備えることができる。
【0064】
正極としては、リチウムイオンを負極に供給できる物であればよく、周知の正極を使用することができる。
【0065】
正極を構成する正極集電体として、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、炭素材料等の使用する電位において電気化学的に安定であり、高い電子導電性を有する材料を例示することができる。
【0066】
また、正極を構成する正極活物質としては、通常、リチウムイオン吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[Lix1Niγ1Mnβ1Co(1-x1-γ1-β1)]O2(0≦x1<0.5、0≦γ1≦1、0≦β1≦1、0≦γ1+β1≦1)、Li[Lix2Niγ2Coβ2Al(1-x2-γ2-β2)]O2(0≦x2<0.5、0≦γ2≦1、0≦β2≦1、0≦γ2+β2≦1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、Lix3Mn2O4(0.9≦x3<1.5)、Lix4Niγ4Mn(2-γ4)O4(0.9≦x4<1.5、0≦γ4≦2)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの正極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。上記正極活物質としては、これらの中でも、高エネルギー密度化の観点から上記リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0067】
正極を構成する正極活物質以外の正極構成材料としては、上記した負極における負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料と同様のものを使用することができ、その含有量も負極における負極活物質及びカーボンナノチューブ以外の負極構成材料と同様とすることができる。
【0068】
また、電解液は、非プロトン性有機溶媒に塩を溶解した電解液であって、正極と負極との間に配置されており、例えば、正極と負極との短絡を防止するための不織布等からなるセパレータに含浸されて保持されていることが好ましい。
【0069】
なお、上述の電解液を構成する非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル等のエステル類;テトラヒドロフランや2-メチルテトラヒドロフラン等のフラン類;ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;アセトニトリル等が挙げられる。これらの非プロトン性有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0070】
一方、このような非プロトン性有機溶媒に溶解される塩は、例えば、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、6フッ化リン酸リチウム、6フッ化砒酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等のリチウム塩が挙げられる。これらの塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0071】
このような本発明のリチウムイオン二次電池は、負極に本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を用いているため、ごく少量のカーボンナノチューブによって活物質粒子間の集電や電極の形状維持等を行うことができる結果、負極活物質を小粒径化していることから負極活物質粒子間の界面が多くなるために構造崩壊の起点が多くなるにも関わらず、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減しても負極の形状を維持できるほどの強度を有するとともに、負極活物質を小粒径化して反応面積が多くなっているため、単位面積あたりのリチウムイオンフラックスが小さくなり、特に、高負荷条件や長期使用においてリチウム析出のリスクが少なくなるうえに、負極活物質以外の負極構成材料の量を著しく低減しているため、寿命特性が著しく向上する。このため、このリチウムイオン二次電池は、将来市場に展開されると予想され、今後さらなる長寿命化が要求されるカーシェリング用の電気自動車用途、特に、AIEV(Artificial Intelligence Electric Vehicle)用途に有効に使用することができる。
【0072】
5.リチウムイオン二次電池の内部抵抗及び反応の偏在を評価する方法
一般的には、電池の反応の抵抗は、交流インピーダンス測定によって測定することが通常である。しかしながら、交流インピーダンス測定によれば、バインダ量を変えても、カーボンナノチューブ量を変えても、電池の反応の抵抗はほとんど同じ値である。つまり、交流インピーダンス測定によって測定される反応抵抗は、反応の偏在による影響を包含しない指標であり、反応の偏在の大小を評価することはできない。このように、バインダ量を増大させても電池の反応の抵抗はほとんど同じ値であり、反応の偏在を評価することができなかったため、従来は電極強度のために負極活物質中にバインダを相当量含ませており、バインダ量をさらに低減する動機付けもない。
【0073】
一方、高負荷条件では、反応の偏在が生じやすい。このため、高負荷条件における内部抵抗を測定することで、バインダによる反応阻害や、リチウムイオン移動の阻害を評価することができる。
【0074】
ただし、充電過程における高負荷条件においては、負極においてリチウムの電析が生じる懸念があり、抵抗を正確に測定することが困難であるため、放電過程における高負荷条件における内部抵抗を測定する必要がある。
【0075】
このため、本発明では、充電率SOCを以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義し、-10~30℃の所定温度(例えば、0℃、25℃等)及びその温度条件に適した反応偏在の生じやすい放電レート条件でSOC100%の状態からSOC90%の状態まで放電した後に、休止して休止中の電圧の上昇を測定する。そのうえで、以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により内部抵抗を算出する。
【0076】
放電レートは、上記のとおり、反応の偏在が生じやすい条件とすることで、反応の偏在を評価しやすくなるため、例えば、25℃の場合は、高負荷条件である2.5C以上(好ましくは2.7~10.0C)、0℃の場合は、高負荷条件である0.3C以上(好ましくは0.4~4.0C)に設定している。
【0077】
また、放電開始のSOCを100%としているのは、負極内にリチウムイオンを十分に吸蔵することにより、測定前の状態を反応偏在が生じていない状態とすることが目的である。
【0078】
これらの条件で放電した後、反応を休止することにより、電圧が上昇する。休止時間は電圧の上昇が飽和する時間に設定し、休止中の電圧の上昇を測定することにより、以下の式(2):
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇(V)/放電時の電流値(A))× 正負極の対向面積(cm2) (2)
により内部抵抗を算出することができる。なお、休止時間は、温度条件及び放電レート条件により、飽和するまでの時間が異なり、例えば、放電レートが0.5Cの場合は1分、3.0Cの場合は10分と設定することができる。
【0079】
この結果、内部抵抗の値が大きい場合は反応の偏在が大きく寿命は短いと評価することができ、内部抵抗の値が小さい場合は反応の偏在が小さく長寿命化できていると評価することができる。
【0080】
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を用いた場合、25℃において、3.0Cの条件で上記のようにして算出した内部抵抗は、1.0~19.0Ω・cm2が好ましく、1.0~18.0Ω・cm2がより好ましく、1.0~17.0Ω・cm2がさらに好ましい。なお、内部抵抗の下限値は、上記のとおり、1.0Ω・cm2が好ましいが、2.0Ω・cm2や3.0Ω・cm2等を下限値とすることも可能である。
【0081】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質層形成用組成物を用いた場合、0℃において、0.5Cの条件で上記のようにして算出した内部抵抗は、1.0~45.0Ω・cm2が好ましく、1.0~40.0Ω・cm2がより好ましく、1.0~38.0Ω・cm2がさらに好ましい。つまり、本発明によれば、内部抵抗が増大しやすい低温条件においても、十分に内部抵抗を低減し、反応を均一化することが可能である。なお、内部抵抗の下限値は、上記のとおり、1.0Ω・cm2が好ましいが、2.0Ω・cm2や3.0Ω・cm2等を下限値とすることも可能である。
【0082】
なお、上記したSOCを100%にするための充電過程では、上記のとおり、高負荷条件である3.0Cで充電を行うと、負極におけるリチウムの電析が生じる懸念があるため、高負荷条件での充電は行わないことが好ましい。また、温度条件は、内部抵抗が小さくなる、20℃以上とすることが好ましい。また、負極内にリチウムイオンを十分に吸蔵することにより、測定前の状態を反応偏在が生じていない状態とすることが目的であるため、上記したSOC100%にするための充電過程では、SOC100%相当の上限電圧まで定電流定電圧充電(CCCV充電)で充電を行うことが好ましい。また、充電レートは0.01~1.0Cが好ましく、0.01~0.75Cがより好ましい。なお、充電レートの下限値は、上記のとおり、0.01Cが好ましいが、0.02Cや0.03C等を下限値とすることも可能である。
【実施例0083】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0084】
比較例1及び3
表1に示す組成で、負極活物質として黒鉛粒子と、その他の負極構成材料としてカルボメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエン(SBR)と、適量の水を加え混錬し、スラリーとした。銅箔(10μm)上にこのスラリーをドクターブレードで乾燥後の負極活物質層の単位面積あたりの重量が10.3~10.9mg/cm2となるように塗布し、60℃で乾燥した後、負極活物質層の密度が1.3g/cm3となるようにロールプレスし、120℃で減圧乾燥し、負極を得た。なお、黒鉛粒子としては、被覆天然黒鉛(平均粒子径17.0μm)、又は被覆天然黒鉛(平均粒子径5.0μm)を使用した。
【0085】
実施例1~2及び比較例2
表1に示す組成で、負極活物質として黒鉛粒子と、単層カーボンナノチューブ(バンドル化した単層CNT集合体;単層CNT1本あたり、平均外径2nm、平均長さ>5μm、G/D:80~150)と、適量のN-メチルピロリドン(NMP)とを加えて混練し、スラリーとした。上記の銅箔上にこのスラリーをドクターブレードで乾燥後の負極活物質層の単位面積当りの重量が10.3~10.9mg/cm2となるように塗布し、100℃で乾燥した後、負極活物質層の密度が1.3g/cm3となるようにロールプレスし、170℃で減圧乾燥し、負極を得た。なお、黒鉛粒子としては、被覆天然黒鉛(平均粒子径17.0μm)、被覆天然黒鉛(平均粒子径12.0μm)、又は被覆天然黒鉛(平均粒子径5.0μm)を使用した。
【0086】
実施例3~5
表1に示す組成で、負極活物質として黒鉛粒子と、上記の単層CNTと、その他の負極構成材料としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と、適量の水とを加えて混練し、スラリーとした。上記の銅箔上にこのスラリーをドクターブレードで乾燥後の負極活物質層の単位面積当りの重量が10.3~10.9mg/cm2となるように塗布し、60℃で乾燥した後、負極活物質層の密度が1.3g/cm3となるようにロールプレスし、120℃で減圧乾燥し、負極を得た。なお、黒鉛粒子としては、被覆天然黒鉛(平均粒子径5.0μm)を使用した。
【0087】
各実施例及び比較例の組成を表1及び2に示す。なお、表1では質量比率、表2では体積比率を示している。
【0088】
【0089】
【0090】
製造例:リチウムイオン二次電池の製造
負極としては、実施例1~5及び比較例1~3で得られた負極を用いた。
【0091】
正極組成物の全質量に対して、正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA;平均粒子径6μm)を92.0質量%と、その他の正極構成材料としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を4.0質量%、アセチレンブラックを4.0質量%と、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを加えて混練し、スラリーとし、アルミニウム箔(厚み17μm)上にこのスラリーをドクターブレードで乾燥後の正極活物質層の単位面積当りの質量が20.05~21.29mg/cm2となるように塗布し、100℃で乾燥した後、正極活物質層の密度が3.0g/cm3となるようにロールプレスし、170℃で減圧乾燥し、正極を得た。
【0092】
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)を体積比3:7で混合したもの、塩として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)からなる電解液を用いた。この電解液を、セパレータであるポリエチレン多孔質フィルムに含浸させた。
【0093】
上記の負極、正極、電解液及びセパレータで構成したリチウムイオン二次電池を作製した。また、作製したリチウムイオン二次電池の正負極の対向面積は2.8cm2とした。
【0094】
試験例1:初期充放電特性
作製した各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池において、初期の充放電容量を確認することを目的とし、充放電試験を行った。
【0095】
充放電は、上限電圧4.0Vまで充電レート0.1Cで電流値が0.05Cになるまで定電流定電圧充電(CCCV充電)を行い、10分間休止した後に、下限電圧2.7Vまで放電レート0.1Cで放電を行い、その後、10分間休止した。初期充放電特性の結果を表3に示す。
【0096】
負極活物質を小粒径化した場合や、負極活物質及び単層カーボンナノチューブ以外の総量が2.0質量%以下(4.52体積%以下)と少ない場合においても、負極活物質が大きい場合や、負極活物質及び単層カーボンナノチューブ以外の総量が多い場合と比較しても、初期特性に対する影響はほとんどなく、同等の初期充放電特性を有していた。
【0097】
試験例2:反応抵抗の測定
各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池において、黒鉛負極活物質の充放電反応:
【0098】
【0099】
に対する抵抗を測定することを目的とし、反応抵抗の一般的な測定方法である交流インピーダンス測定を実施した。
【0100】
反応抵抗は、Nyquist PlotにおけるZ’軸の最も小さい切片をバルク抵抗とし、円弧終端抵抗値からバルク抵抗を減じた値を反応抵抗として解析した。測定条件としては、25℃において、セル電圧を基準にしてSOC(State of Charge)が100%の条件下で、振幅を10mVとして、周波数を500kHzから0.1Hzまで実施した。なお、交流インピーダンス測定における解析方法の概略を
図2に示す。
【0101】
交流インピーダンス測定の結果を表3及び
図3に示す。この結果、負極活物質の粒径や、負極活物質以外の負極構成材料の量の違いによる反応抵抗の差は若干見られ、負極活物質を小粒径化し、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減したほうが、反応抵抗が低減する傾向が見られる。ただし、一般に評価される反応抵抗は、反応の偏在による影響を含まない指標であり、一般的な電極抵抗の測定により反応の偏在を評価することは困難であると想定される。
【0102】
試験例3:高負荷条件下における内部抵抗
各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池において、反応偏在の程度を確認することを目的とし、室温(25℃)のおける高負荷休止法による内部抵抗の測定及び低温(0℃)における高負荷休止法による内部抵抗の測定を実施した。
【0103】
室温(25℃)のおける高負荷休止法による内部抵抗の測定について、具体的には、各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池について、室温(25℃)において、充電レート0.5Cの条件で、カット電流0.05Cとして、SOC100%に相当する上限電圧4.0Vまで定電流定電圧充電(CCCV充電)した。次に、10分間休止した後に、放電レート3.0Cの条件で、SOC90%まで(2分間)放電し、その後、10分間休止した。充電率SOCは、以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義される。
【0104】
そのうえで、以下の式:
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇「ΔV(10min)」/放電時の電流値「3.0C電流値」)×正負極の対向面積「2.8cm
2」
により内部抵抗を算出した。なお、高負荷休止法における解析方法の概略を
図4に示す。
【0105】
また、低温(0℃)のおける高負荷休止法による内部抵抗の測定について、具体的には、各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池について、室温(25℃)において、充電レート0.5Cの条件で、カット電流0.05Cとして、SOC100%に相当する上限電圧4.0Vまで定電流定電圧充電(CCCV充電)した。次に、温度を0℃に変更し、180分間休止した後に、放電レート0.5Cの条件で、SOC90%まで(12分間)放電し、その後、1分間休止した。充電率SOCは、以下の式(1):
SOC(%)=残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100 (1)
と定義される。
【0106】
そのうえで、以下の式:
内部抵抗=(休止中の電圧の上昇「ΔV(1min)」/放電時の電流値「0.5C電流値」)×正負極の対向面積「2.8cm2」
により内部抵抗を算出した。
【0107】
これらの高負荷休止法の結果を表3及び
図5~6に示す。
【0108】
この結果、負極活物質の粒径や、負極活物質以外の負極構成材料の量の違いによる反応抵抗の差は若干しか見られなかったにも関わらず、負極活物質を小粒径化し、負極活物質以外の負極構成材料の量を低減することで、高負荷条件下における内部抵抗が低減、つまり、電極の反応偏在が抑制されることが確認できた。この傾向は、内部抵抗が大きくなりやすい低温において特に顕著に見られ、内部抵抗が大きくなりやすい過酷な条件において、本発明の効果が著しく見られることが理解できる。
【0109】
【0110】
試験例4:限界負荷特性
実施例2及び比較例1~3のリチウムイオン二次電池に対して、表5に示すように、条件1から条件12まで、徐々に過電圧負荷を増加させながら充放電サイクル試験を行った。なお、各条件について10サイクル、合計120サイクルの充放電を行った。また、各充電サイクルは、上限電圧4.0Vまで定電流充電(CC充電)を行い、10分間休止した後に、下限電圧2.7Vまで放電を行い、その後10分間休止した。
【0111】
その後、以下の式:
過電圧負荷(mV)=1Cの場合の電流値(mA)×充放電レート(C)×直流抵抗(Ω)
により算出した。そのうえで、各条件における10サイクルの充放電において、容量維持率が初めて99.0%を下回る過電圧負荷を、限界過電圧負荷として評価した。
【0112】
実施例2及び比較例1~3のリチウムイオン二次電池の温度別の直流抵抗を表4に、充放電サイクルの条件及びその際の過電圧負荷の結果を表5に、限界過電圧負荷の結果を表6に、充放電サイクル時の容量維持率の結果を
図7に、過電圧負荷に対する10サイクルの容量維持率の結果を
図8に示す。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
以上の結果、負極活物質を小粒径化した場合も、カーボンナノチューブを少量添加して負極活物質以外の負極構成材料の量を低減した場合も、単独では、いずれの温度においても過電圧負荷を十分に低減することはできず、充放電サイクル特性及びレート特性も十分ではないことが理解できる。それに対して、負極活物質を小粒径化し、且つ、カーボンナノチューブを少量添加して負極活物質以外の負極構成材料の量を低減した本発明においては、いずれの温度においても過電圧負荷を十分に低減することができ、充放電サイクル特性及びレート特性を向上させることができることが理解できる。なお、実施例2では、条件12まで過電圧負荷を高くしても、10サイクルでの容量維持率は99%を下回らなかったので、表7における限界過電圧負荷の値は、条件12における過電圧負荷である195mVより大きいことが理解できるため、195以上としている。
【0117】
試験例5:寿命特性
実施例2、比較例1及び比較例3のリチウムイオン二次電池に対して、25℃において充放電サイクル試験を実施した。充放電の条件は、上限電圧4.0Vまで充電レート0.5Cで電流値が0.05Cになるまで定電流定電圧充電(CCCV充電)を行い、10分間休止した後に、下限電圧2.7Vまで放電レート0.5Cで放電を行い、その後、10分間休止した。これらの充放電の工程を1サイクルとして、充放電サイクル試験を実施した。
【0118】
【0119】
【0120】
この結果、負極活物質を小粒径化し、且つ、カーボンナノチューブを少量添加して負極活物質以外の負極構成材料の量を低減した本発明においては、過電圧負荷を十分に低減することができ、充放電サイクル特性及びレート特性を向上させることができることが理解できる。