(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137787
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】送給ロールおよびワイヤ送給装置
(51)【国際特許分類】
B65H 51/08 20060101AFI20230922BHJP
B23K 9/133 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B65H51/08 C
B23K9/133 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044159
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】脇田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】清水 康隆
(57)【要約】
【課題】 ロールの相対回転を規制しつつ、より簡易な機構によりロールの脱着を行うことが可能な送給ロールおよびワイヤ送給装置を提供する。
【解決手段】 送給ロールA10は、ギヤ10、ボス30およびロール20を備える。ボス30は、回転規制部39と、ギヤ10に対して固定された基部31と、支持片32とを有する。支持片32は、基部31から軸心方向Nに延びている。ロール20は、ボス30を囲む内周面21と、内周面21から凹む溝24とを有する。回転規制部39の少なくとも一部は、溝24に収納されている。支持片32は、梁部321および爪部322を有する。爪部322は、軸心方向Nにおいて内周面21を基準としてギヤ10とは反対側に位置する。梁部321は、径方向rにおいて軸心nが位置する側にたわむ。爪部322は、径方向rにおいて内周面21を基準として軸心nが位置する側とは反対側に梁部321から突出している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向の回りに沿って複数の歯が設けられたギヤと、
前記ギヤから前記軸心方向に突出し、かつ前記ギヤと一体となって前記軸心方向の回りに回転可能とされたボスと、
前記ボスを前記軸心方向の回りに囲む内周面を有するとともに、前記ボスに装着されたロールと、を備え、
前記ボスは、前記ロールの前記軸心方向の回りの相対回転を規制する回転規制部と、前記ギヤに対して固定された基部と、前記基部につながり、かつ前記軸心方向に延びる支持片と、を有し、
前記ロールは、前記軸心方向に延び、かつ前記内周面から凹む溝を有し、
前記回転規制部の少なくとも一部が、前記溝に収容されており、
前記支持片は、前記内周面に対向する梁部と、前記梁部につながり、かつ前記軸心方向において前記内周面を基準として前記ギヤとは反対側に位置する爪部と、を有し、
前記梁部は、前記軸心方向に対して直交する径方向において前記ボスの軸心が位置する側にたわみ、
前記爪部は、前記径方向において前記内周面を基準として前記軸心が位置する側とは反対側に前記梁部から突出している、送給ロール。
【請求項2】
前記回転規制部は、前記ボスに設けられた突条を含み、
前記突条は、前記軸心方向に延び、かつ前記梁部よりも前記径方向において前記軸心から離れる側に突出している、請求項1に記載の送給ロール。
【請求項3】
前記回転規制部は、前記支持片を含む、請求項1に記載の送給ロール。
【請求項4】
前記ボスは、前記軸心方向に延び、かつ前記径方向において前記軸心が位置する側に凹む凹部を有し、
前記梁部の少なくとも一部が、前記凹部に収容されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の送給ロール。
【請求項5】
支持部材と、
前記支持部材に軸心方向の回りに回転可能に支持された請求項1ないし4のいずれかに記載の送給ロールと、
前記支持部材に前記軸心方向の回りに回転可能に支持された加圧ロールと、を備え、
前記送給ロールの前記ロールは、前記軸心方向に対して直交する径方向において前記内周面とは反対側を向く第1周面を有し、
前記加圧ロールは、前記第1周面に対向する第2周面を有し、
前記第1周面と前記第2周面との間にワイヤが挟まれており、
前記第1周面および前記ワイヤが前記第2周面に押しつけられる、ワイヤ送給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接に用いられるワイヤを送給するための送給ロールと、当該送給ロールを具備するワイヤ送給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送給ロールを構成する駆動ロールキャリアの一例が開示されている。当該駆動ロールキャリアは、ギヤと、ギヤから軸心方向に突出したハブとを具備する。ハブは、ギヤと一体となって軸心方向の回りに回転する。駆動ロールは、ハブに装着される。当該駆動ロールキャリアは、軸心方向に延びるラグをさらに具備する。ラグは、ハブから径方向に突出している。ラグの少なくとも一部は、駆動ロールの内周面から凹むスロットに収容されている。本構成をとることによって、ハブに対する駆動ロールの相対回転が規制されるため、駆動ロールの空転を防止できる。
【0003】
特許文献1に開示されている駆動ロールキャリアは、リテーナーをさらに具備する。リテーナーは、ハブに設けられた駆動ロールの脱着機構である。ここで、駆動ロールは、摩耗などにより定期的な交換が必要である。リテーナーの主たる構成要素は、ハブに組み込まれたボールである。ボールの一部は、径方向にハブから外部に露出する。ボールは、ばねの復元力により径方向に移動可能である。本構成をとることによって、工具を使用せずにハブから駆動ロールを脱着することと、ハブに装着された当該駆動ロールの軸心方向の移動の規制とが可能である。しかし、特許文献1に開示されているリテーナーの構造は複雑であるため、維持管理のしやすさなどの理由から、より簡易な構造が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑み、ロールの相対回転を規制しつつ、より簡易な機構によりロールの脱着を行うことが可能な送給ロールと、当該送給ロールを具備するワイヤ送給装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される送給ロールは、軸心方向の回りに沿って複数の歯が設けられたギヤと、前記ギヤから前記軸心方向に突出し、かつ前記ギヤと一体となって前記軸心方向の回りに回転可能とされたボスと、前記ボスを前記軸心方向の回りに囲む内周面を有するとともに、前記ボスに装着されたロールと、を備え、前記ボスは、前記ロールの前記軸心方向の回りの相対回転を規制する回転規制部と、前記ギヤに対して固定された基部と、前記基部につながり、かつ前記軸心方向に延びる支持片と、を有し、前記ロールは、前記軸心方向に延び、かつ前記内周面から凹む溝を有し、前記回転規制部の少なくとも一部が、前記溝に収容されており、前記支持片は、前記内周面に対向する梁部と、前記梁部につながり、かつ前記軸心方向において前記内周面を基準として前記ギヤとは反対側に位置する爪部と、を有し、前記梁部は、前記軸心方向に対して直交する径方向において前記ボスの軸心が位置する側にたわみ、前記爪部は、前記径方向において前記内周面を基準として前記軸心が位置する側とは反対側に前記梁部から突出している。
【0007】
本発明の実施において好ましくは、前記回転規制部は、前記ボスに設けられた突条を含み、前記突条は、前記軸心方向に延び、かつ前記梁部よりも前記径方向において前記軸心から離れる側に突出している。
【0008】
本発明の実施において好ましくは、前記回転規制部は、前記支持片を含む。
【0009】
本発明の実施において好ましくは、前記ボスは、前記軸心方向に延び、かつ前記径方向において前記軸心が位置する側に凹む凹部を有し、前記梁部の少なくとも一部が、前記凹部に収容されている。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供されるワイヤ送給装置は、支持部材と、前記支持部材に軸心方向の回りに回転可能に支持された本発明の第1の側面によって提供される送給ロールと、前記支持部材に前記軸心方向の回りに回転可能に支持された加圧ロールと、を備え、前記送給ロールの前記ロールは、前記軸心方向に対して直交する径方向において前記内周面とは反対側を向く第1周面を有し、前記加圧ロールは、前記第1周面に対向する第2周面を有し、前記第1周面と前記第2周面との間にワイヤが挟まれており、前記第1周面および前記ワイヤが前記第2周面に押しつけられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる送給ロールおよびワイヤ送給装置によれば、ロールの相対回転を規制しつつ、より簡易な機構によりロールの脱着を行うことが可能となる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる送給ロールの斜視図であり、ロールがボスから脱着された状態を示している。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態にかかる送給ロールの部分拡大断面図である。
【
図8】
図7に示す送給ロールの断面図であり、断面位置が
図7のVIII-VIII線である。
【
図9】
図7に示す送給ロールの断面図であり、断面位置が
図7のIX-IX線である。
【
図10】本発明の一実施形態にかかるワイヤ送給装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1~
図6に基づき、本発明の第1実施形態にかかる送給ロールA10について説明する。送給ロールA10は、ギヤ10、ロール20、ボス30、および2つの軸受40を備える。ここで、
図5は、理解の便宜上、ロール20を想像線(二点鎖線)で示している。
【0016】
送給ロールA10は、後述する送給装置Bの2つの第1支軸51のいずれかに回転可能に支持されている。送給ロールA10の説明においては、2つの第1支軸51が延びる方向を「軸心方向N」と呼ぶ。したがって、送給ロールA10は、軸心方向Nの回りに回転可能とされる。軸心方向Nは、ボス30の軸心nを通る。軸心方向Nに対して直交する方向を「径方向r」と呼ぶ。
【0017】
ギヤ10は、
図1および
図2に示すように、軸心方向Nの回りに沿って複数の歯11が設けられた平歯車である。ギヤ10は、金属製である。
図3および
図4に示すように、ギヤ10は、支持面12、2つの第1溝13、および2つの第2溝14を有する。
【0018】
図3および
図4に示すように、支持面12は、径方向rを向き、かつボス30の軸心n(以後、単に「軸心n」と呼ぶ。)を囲んでいる。支持面12に囲まれた領域は、空洞となっている。2つの第1溝13、および2つの第2溝14は、いずれも支持面12から径方向rに凹み、かつ軸心方向Nに延びている。2つの第1溝13は、径方向rにおいて軸心nを基準として互いに反対側に位置する。2つの第2溝14の各々は、軸心方向Nの回りにおいて2つの第1溝13の間に位置する。軸心方向Nの回りにおいて、2つの第2溝14の各々は、2つの第1溝13のいずれかに対して略90°に位置する。したがって、2つの第2溝14は、径方向rにおいて軸心nを基準として互いに反対側に位置する。
【0019】
送給ロールA10においては、ギヤ10は、支持面12、2つの第1溝13、および2つの第2溝14により規定された環状をなす。この他、ギヤ10は、支持面12、2つの第1溝13、および2つの第2溝14を有しない盤状でもよい。
【0020】
ロール20は、
図2~
図4に示すように、ボス30に装着されている。ロール20は、円環状である。
図2~
図4に示すように、ロール20は、内周面21、第1端面22、第1周面23、および2つの溝24を有する。
【0021】
図2~
図4に示すように、内周面21は、径方向rを向き、かつボス30を軸心方向Nの回りに囲んでいる。内周面21に囲まれた領域は、空洞となっている。ボス30は、当該空洞に軸心方向Nに挿通されている。
図6に示すように、第1端面22は、内周面21につながり、かつ軸心nを囲んでいる。第1端面22は、軸心方向Nにおいて内周面21を基準としてギヤ10とは反対側に位置する。第1端面22は、内周面21に対して傾斜している。第1端面22の傾斜の向きは、軸心方向Nにおいて内周面21から離れるほど、径方向rにおいて軸心nから離れる向きである。
【0022】
図2~
図4に示すように、第1周面23は、径方向rにおいて内周面21とは反対側を向き、かつ軸心方向Nの回りに延びている。第1周面23には、径方向rに凹み、かつ軸心方向Nの回りに延びる周溝231が設けられている。後述する送給装置Bにおいて、ワイヤWは、周溝231に保持される。
【0023】
図2および
図4に示すように、2つの溝24は、軸心方向Nに延び、かつ内周面21から凹んでいる。2つの溝24は、径方向rにおいて軸心nを基準として互いに反対側に位置する。2つの溝24の各々は、軸心方向Nの回りにおいて後述するボス30の2つの支持片32の間に位置する。軸心方向Nの回りにおいて、2つの溝24の各々は、2つの支持片32のいずれかに対して略90°に位置する。送給ロールA10においては、2つの溝24の各々の軸心方向Nの両側は、開口している。
【0024】
ボス30は、
図1、
図3および
図4に示すように、ギヤ10から軸心方向Nに突出している。ボス30は、ギヤ10と一体となって軸心方向Nの回りに回転可能とされている。ボス30は、樹脂製である。
図3および
図4に示すように、ボス30は、基部31、2つの支持片32、2つの凹部33、2つの突条34、軸孔35、および2つの支持部36を有する。
【0025】
図3および
図4に示すように、基部31は、軸心方向Nの回りにわたってギヤ10の支持面12に支持されている。基部31は、支持面12に対して強固に接している。これにより、基部31は、ギヤ10に固定されている。
【0026】
図3および
図4に示すように、2つの支持片32は、基部31につながり、かつ軸心方向Nに延びている。2つの支持片32は、径方向rにおいて軸心nを基準として互いに反対側に位置する。2つの支持片32と、ギヤ10の2つの第1溝13とは、いずれも同一断面に位置する。当該断面の面内方向は、軸心方向Nおよび径方向rである。
【0027】
図6に示すように、2つの支持片32の各々は、梁部321および爪部322を有する。梁部321は、ロール20の内周面21に対向している。梁部321の少なくとも一部は、内周面21に囲まれた領域に収容されている。梁部321は、基部31につながっている。梁部321は、内周面21に接している。爪部322は、梁部321につながり、かつ軸心方向Nにおいて内周面21を基準としてギヤ10とは反対側に位置する。爪部322は、径方向rにおいて内周面21を基準として軸心nが位置する側とは反対側に梁部321から突出している。爪部322は、対向面322Aを有する。対向面322Aは、ロール20の第1端面22に対向している。対向面322Aは、軸心方向Nに対して第1端面22と同じ向きに傾斜している。
【0028】
図6に示すように、梁部321は、基部31との境界を固定端とした片持梁をなす。梁部321に径方向rの外力が与えられると、梁部321は弾性変形をする。これにより、梁部321は、径方向rにおいて軸心nが位置する側にたわむことが可能である。径方向rにおいてロール20の内周面21を基準として軸心nが位置する側に爪部322の全体が移動しうる程度まで、梁部321は径方向rにたわむ。
図6において、梁部321がたわんだ状態を想像線で示す。
【0029】
図2および
図5に示すように、2つの凹部33は、軸心方向Nに延び、かつ径方向rにおいて軸心nが位置する側に凹んでいる。2つの凹部33は、径方向rにおいて軸心nを基準として互いに反対側に位置する。2つの凹部33には、2つの支持片32の各々の梁部321の少なくとも一部が個別に収容されている。
【0030】
図2、
図4および
図5に示すように、2つの突条34の各々の一部は、ロール20の2つの溝24に個別に収容されている。送給ロールA10においては、2つの突条34が回転規制部39に含まれる。ここで、回転規制部39は、ボス30に対する軸心方向Nの回りのロール20の相対回転を規制する。2つの突条34は、軸心方向Nに延び、かつ径方向rにおいて軸心nから離れる側に基部31から突出している。
図5に示すように、2つの突条34は、2つの支持片32の各々の梁部321よりも径方向rにおいて軸心nから離れる側に突出している。さらに2つの突条34の各々の一部は、ギヤ10の2つの第2溝14に個別に収容されている。
【0031】
図3および
図4に示すように、軸孔35は、軸心方向Nにボス30を貫通している。軸孔35には、後述する送給装置Bの2つの第1支軸51のいずれかが挿通される。
図4に示すように、2つの支持部36は、ボス30の軸心方向Nの両側から軸心方向Nに凹んでいる。2つの支持部36は、軸孔35につながっている。
【0032】
2つの軸受40は、
図4に示すように、ボス30の2つの支持部36に嵌め込まれている。2つの軸受40には、ボス30の軸孔35とともに、後述する送給装置Bの2つの第1支軸51のいずれかが挿通される。後述する送給装置Bにおいて、2つの軸受40は、軸心方向Nの回りに回転可能となるように2つの第1支軸51のいずれかに支持されている。
【0033】
次に、送給ロールA10の作用効果について説明する。
【0034】
送給ロールA10は、ギヤ10から軸心方向Nに突出し、かつギヤ10と一体となって軸心方向Nの回りに回転可能とされたボス30と、ボス30を軸心方向Nの回りに囲む内周面21を有するロール20とを備える。ボス30は、ロール20の軸心方向Nの回りの相対回転を規制する回転規制部39を有する。ロール20は、軸心方向Nに延び、かつ内周面21から凹む溝24を有する。回転規制部39の少なくとも一部が溝24に収容されている。本構成をとることにより、ボス30が回転すると軸心方向Nの回りにおいて回転規制部39が溝24に接触する。これにより、ロール20の軸心方向Nの回りの相対回転(ボス30に対する回転)が規制されるため、ロール20の空転を防止できる。
【0035】
ボス30は、ギヤ10に対して固定された基部31と、基部31につながり、かつ軸心方向Nに延びる支持片32とを有する。支持片32は、梁部321および爪部322を有する。梁部321は、径方向rにおいて軸心nが位置する側にたわむ。本構成をとることにより、ロール20をボス30から引っ張ると、爪部322の対向面322Aにロール20の第1端面22が接触し、かつ爪部322に径方向rにおいて軸心nが位置する側を向く外力が作用する。これにより、梁部321が径方向rにおいて軸心nが位置する側にたわむため、支持片32の全体が径方向rにおいて内周面21を基準として軸心nが位置する側に移動する。この際、梁部321に復元力が作用するものの、爪部322がロール20の内周面21に接触するため、支持片32の径方向rにおける移動が規制される。したがって、ロール20をボス30から円滑に取り外すことができる。逆に、ロール20をボス30に差し込もうとすると、爪部322にロール20が接触し、かつ爪部322に径方向rにおいて軸心nが位置する側を向く外力が作用するため、ロール20をボス30から取り外す際と同様の機構によりロール20をボス30に円滑に取り付けることができる。以上より、ボス30に対するボス30の脱着を工具不要で行うことができる。
【0036】
ボス30の爪部322は、径方向rにおいてロール20の内周面21を基準として軸心nが位置する側とは反対側にボス30の梁部321から突出している。本構成をとることにより、ボス30に装着されたロール20が軸心方向Nに移動しようとすると、爪部322によりロール20の移動が規制される。送給ロールA10においては、ロール20の第1端面22が爪部322の対向面322Aに接触することによりロール20の移動が規制される。これにより、送給ロールA10が軸心方向Nの回りに回転する際、ボス30からロール20が脱落することを防止できる。以上より、送給ロールA10によれば、ロール20の相対回転を規制しつつ、より簡易な機構によりロール20の脱着を行うことが可能となる。
【0037】
送給ロールA10においては、回転規制部39は、ボス30に設けられた突条34を含む。突条34は、軸心方向Nに延び、かつ支持片32の梁部321よりも径方向rにおいて軸心nから離れる側に突出している。本構成をとることにより、回転規制部39の軸心方向Nに対する横断面積がより大きくなる。これにより、回転規制部39の曲げ剛性が増加するため、曲げ変形しにくい回転規制部39を得ることができる。さらに、軸心方向Nの回りにおける溝24に対する回転規制部39の接触面積がより大きくなる。これにより、ボス30からロール20に伝達される軸心方向Nの回りのトルクがより大きくなる。したがって、送給ロールA10からワイヤW(
図10参照)に作用するワイヤWの軸線方向の力の低下を抑制できる。
【0038】
ボス30は、軸心方向Nに延び、かつ径方向rにおいて軸心nが位置する側に凹む凹部33を有する。支持片32の梁部321の少なくとも一部が、凹部33に収容されている。本構成をとることにより、径方向rにおいて軸心nが位置する側に梁部321がたわむ際、梁部321がボス30の基部31などに接触することを回避できる。これにより、支持片32の全体が、径方向rにおいて内周面21を基準として軸心nが位置する側に確実に移動できる。
【0039】
〔第2実施形態〕
図7~
図9に基づき、本発明の第2実施形態にかかる送給ロールA20について説明する。これらの図において、先述した送給ロールA10と同一、または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図7の断面位置は、送給ロールA10を示す
図6の断面位置と同一である。
図8および
図9は、理解の便宜上、ロール20を想像線で示している。
【0040】
送給ロールA20においては、ロール20およびボス30の構成が、送給ロールA10の当該構成と異なる。さらに、送給ロールA20においては、ボス30は、2つの突条34を具備しない。
【0041】
図8および
図9に示すように、ロール20は、4つの溝24を有する。4つの溝24は、軸心方向Nの回りにおいて略90°の間隔で位置する。
【0042】
図7および
図8に示すように、ボス30の基部31は、4つの凸部311を含む。軸心方向Nに視て、4つの凸部311は、径方向rにおいてロール20の内周面21を基準として軸心nが位置する側とは反対側に突出している。4つの凸部311は、ロール20の4つの溝24に個別に収容されている。4つの凸部311の各々は、軸心nの周方向において互いに反対側を向く2つの第1側面311Aを有する。
【0043】
図7および
図9に示すように、ボス30は、4つの支持片32を有する。4つの支持片32の梁部321は、基部31の4つの凸部311に個別につながっている。さらに、4つの梁部321は、ロール20の4つの溝24に個別に収容されている。4つの梁部321の各々は、軸心nの周方向において互いに反対側を向く2つの第2側面321Aを有する。
【0044】
図7に示すように、ロール20は、4つの溝24に個別につながる第2端面25を有する。第2端面25は、軸心方向Nにおいて4つの溝24を基準としてギヤ10とは反対側に位置する。第2端面25は、4つの支持片32の爪部322の対向面322Aに対向している。第2端面25は、軸心方向Nに対してロール20の第1端面22と同じ向きに傾斜している。
【0045】
送給ロールA20においては、基部31の4つの凸部311と、4つの支持片32の梁部321とが回転規制部39に含まれる。ここで、ロール20がボス30に対して軸心方向Nの回りの相対回転をしようとすると、凸部311の2つの第1側面311Aが、ロール20の4つの溝24のいずれかを規定する面に接触する。あわせて、梁部321の2つの第2側面321Aが、4つの溝24のいずれかを規定する面に接触する。これにより、ボス30に対する軸心方向Nの回りのロール20の相対回転を規制されるため、4つの凸部311と、4つの梁部321とが回転規制部39としての機能を果たす。したがって、送給ロールA20においては、回転規制部39は、4つの支持片32を含むこととなる。
【0046】
次に、送給ロールA20の作用効果について説明する。
【0047】
送給ロールA20は、ギヤ10から軸心方向Nに突出し、かつギヤ10と一体となって軸心方向Nの回りに回転可能とされたボス30と、ボス30を軸心方向Nの回りに囲む内周面21を有するロール20とを備える。ボス30は、ロール20の軸心方向Nの回りの相対回転を規制する回転規制部39を有する。ロール20は、軸心方向Nに延び、かつ内周面21から凹む溝24を有する。回転規制部39の少なくとも一部が溝24に収容されている。したがって、送給ロールA20によっても、ロール20の軸心方向Nの回りの相対回転が規制される。
【0048】
ボス30は、ギヤ10に対して固定された基部31と、基部31につながり、かつ軸心方向Nに延びる支持片32とを有する。支持片32は、梁部321および爪部322を有する。梁部321は、径方向rにおいて軸心nが位置する側にたわむ。爪部322は、径方向rにおいてロール20の内周面21を基準として軸心nが位置する側とは反対側にボス30の梁部321から突出している。したがって、送給ロールA20によっても、ロール20の相対回転を規制しつつ、より簡易な機構によりロール20の脱着を行うことが可能となる。
【0049】
送給ロールA20においては、回転規制部39は、支持片32を含む。このため、支持片32は、ロール20を支持する機能に加えて、回転規制部39の機能も具備する。本構成をとることにより、ロール20の溝24の個数が支持片32の個数に一致するため、支持片32の数を増加させるほど、ボス30からロール20に伝達される軸心方向Nの回りのトルクが、ロール20の軸心方向Nの回りにわたってより分散される。したがって、送給ロールA20からワイヤW(
図10参照)に作用するワイヤWの軸線方向の力の経時変動をより小さくすることができる。
【0050】
送給ロールA20においても、ボス30に装着されたロール20が軸心方向Nに移動しようとすると、爪部322によりロール20の移動が規制される。送給ロールA20においては、ロール20の第2端面25が、支持片32の爪部322の対向面322Aに接触することによりロール20の移動が規制される。
【0051】
〔ワイヤ送給装置〕
次に、
図10に基づき、本発明のワイヤ送給装置(以後、単に「送給装置B」と呼ぶ。)について説明する。本図において、先述した送給ロールA10と同一、または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。送給装置Bは、ガスシールドアーク溶接に使用されるワイヤWをトーチに送給する。
【0052】
送給装置Bの説明においては、便宜上、送給装置Bによってトーチに送給されるワイヤWの軸線方向を「水平方向H」と呼ぶ。軸心方向Nおよび水平方向Hに対して直交する方向を「鉛直方向V」と呼ぶ。
【0053】
送給装置Bは、支持部材50、送給ロールA、追加の送給ロールA'、加圧ロール61および追加の加圧ロール62を備える。送給ロールAの構成は、先述した送給ロールA10および送給ロールA20のいずれかの構成と同一である。追加の送給ロールA'の構成は、送給ロールAの構成と同一である。追加の加圧ロール62の構成は、加圧ロール61の構成と同一である。
【0054】
支持部材50は、送給ロールA、追加の送給ロールA'、加圧ロール61および追加の加圧ロール62の各々を軸心方向Nの回りに回転可能に支持するとともに、送給ロールAおよび追加の送給ロールA'を回転させる。
図10に示すように、支持部材50は、2つの第1支軸51、2つの第2支軸52、2つの第3支軸53、第1アーム54、第2アーム55、駆動ギヤ56および案内部57を有する。
【0055】
図10に示すように、2つの第1支軸51は、水平方向Hにおいて互いに離れて位置する。送給ロールAおよび追加の送給ロールA'は、2つの第1支軸51に個別に回転可能に支持されている。2つの第2支軸52は、水平方向Hにおいて互いに離れて位置し、かつ鉛直方向Vにおいて2つの第1支軸51から離れて位置する。加圧ロール61は、2つの第2支軸52のうち送給ロールAから最も近くに位置する第2支軸52に回転可能に支持されている。追加の加圧ロール62は、2つの第2支軸52のうち追加の送給ロールA'から最も近くに位置する第2支軸52に回転可能に支持されている。
【0056】
図10に示すように、2つの第3支軸53は、水平方向Hにおいて互いに離れて位置し、かつ鉛直方向Vにおいて2つの第2支軸52を基準として2つの第1支軸51とは反対側に位置する。
【0057】
図10に示すように、第1アーム54は、2つの第3支軸53のうち加圧ロール61から最も近くに位置する第3支軸53に軸心方向Nの回りに回転可能に支持されている。2つの第2支軸52のうち加圧ロール61を支持する第2支軸52は、第1アーム54に支持されている。これにより、第1アーム54を軸心方向Nの回りに回転させると、加圧ロール61が鉛直方向Vに移動する。
【0058】
図10に示すように、第2アーム55は、2つの第3支軸53のうち追加の加圧ロール62から最も近くに位置する第3支軸53に軸心方向Nの回りに回転可能に支持されている。2つの第2支軸52のうち追加の加圧ロール62を支持する第2支軸52は、第2アーム55に支持されている。これにより、第2アーム55を軸心方向Nの回りに回転させると、追加の加圧ロール62が鉛直方向Vに移動する。
【0059】
図10に示すように、駆動ギヤ56は、送給ロールAのギヤ10と、追加の送給ロールA'のギヤ10とに噛み合っている。駆動ギヤ56は、モータなどの駆動源により軸心方向Nの回りに駆動する。これにより、送給ロールAおよび追加の送給ロールA'は、同一向きに回転する。
【0060】
図10に示すように、案内部57は、水平方向Hに延び、かつ鉛直方向Vにおいて2つの第1支軸51と2つの第2支軸52との間に位置する。案内部57には、案内部57を水平方向Hに貫通する挿通孔571が設けられている。ワイヤWは、挿通孔571に挿通されている。
【0061】
図10に示すように、加圧ロール61は、送給ロールAのロール20の第1周面23に対向する第2周面611を有する。第1周面23と第2周面611との間にワイヤWが挟まれている。第1アーム54が送給ロールAに向けて軸心方向Nの回りに回転すると、加圧ロール61が送給ロールAに接触し、かつ第1周面23およびワイヤWが第2周面611に押しつけられる。あわせて、第2アーム55が追加の送給ロールA'に向けて軸心方向Nの回りに回転すると、追加の加圧ロール62が追加の送給ロールA'に接触し、かつ追加の送給ロールA'の第1周面23とワイヤWとが、追加の加圧ロール62の第2周面611に押しつけられる。
【0062】
上述の状態を保持したまま送給ロールAおよび追加の送給ロールA'が回転すると、加圧ロール61および追加の加圧ロール62が、送給ロールAと同じ向きに従動回転する。さらに、送給ロールA、追加の送給ロールA'、加圧ロール61および追加の加圧ロール62から水平方向Hの力がワイヤWに作用する。これにより、ワイヤWが水平方向Hに移動することが可能となる。
【0063】
本発明は、先述した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0064】
A10,A20:送給ロール、B:送給装置、10:ギヤ、11:歯、12:支持面、13:第1溝、14:第2溝、20:ロール、21:内周面、22:第1端面、23:第1周面、231:周溝、24:溝、25:第2端面、30:ボス、31:基部、311:凸部、311A:第1側面、32:支持片、321:梁部、321A:第2側面、322:爪部、322A:対向面、33:凹部、34:突条、35:軸孔、36:支持部、39:回転規制部、40:軸受、50:支持部材、51:第1支軸、52:第2支軸、53:第3支軸、54:第1アーム、55:第2アーム、56:駆動ギヤ、57:案内部、571:挿通孔、61:加圧ロール、611:第2周面、62:追加の加圧ロール、A:送給ロール、A':追加の送給ロール、n:軸心、W:ワイヤ