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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137789
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】熱処理炉および熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 11/00 20060101AFI20230922BHJP
   F27B 9/40 20060101ALI20230922BHJP
   F27B 9/02 20060101ALI20230922BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20230922BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230922BHJP
   F27B 9/24 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C21D11/00 102
F27B9/40
F27B9/02
F27D19/00 A
C21D9/00 G
F27B9/24 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044162
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】森 雅史
【テーマコード(参考)】
4K038
4K042
4K050
4K056
【Fターム(参考)】
4K038AA03
4K038BA01
4K038CA01
4K038CA02
4K038DA01
4K038EA01
4K038FA03
4K042AA14
4K042BA10
4K042DB06
4K042DB07
4K042DB08
4K042DC05
4K042DF01
4K042EA03
4K050AA02
4K050BA02
4K050CA13
4K050CD02
4K050CG04
4K050EA06
4K056AA09
4K056BB01
4K056CA02
4K056FA03
4K056FA13
(57)【要約】
【課題】負荷条件が変化した場合でも汎用性高く炉内温度を制御することができる熱処理炉を提供する。
【解決手段】熱処理炉1は、ゾーン22-1と、ゾーン22-1に設けられた温度センサ31及びバーナ35と、温度センサ31の出力に基づいてバーナ35に対するFB操作量MV1を調整するFB制御手段33と、被処理材Wがゾーン22-1に装入されたことによる温度低下を抑制するようにバーナ35に対するFF操作量MV2を算出し、FF操作量MV2をFB操作量MV1に加算するFF制御手段と、を備えている。FF制御手段は、被処理材Wの装入を検出することにより、FF操作量としての加算量を算出し出力する加算量算出部58と、被処理材Wが装入されたことにより下降勾配となったゾーン22-1の温度が上昇に転じたときの極値を検出することにより、FF操作量MV2としての加算量をゼロ値に収束させる第1の加算量収束部と、を備えている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御領域として加熱室内に設定されたゾーンと、
前記ゾーンに設けられた温度センサ及び加熱手段と、
前記ゾーンが所定温度になるよう前記温度センサの出力に基づいて前記加熱手段に対するフィードバック(以下、FBという)操作量を調整するFB制御手段と、
被処理材が前記ゾーンに装入されたことによる前記ゾーンの温度低下を抑制するように前記加熱手段に対するフィードフォワード(以下、FFという)操作量を算出し、該FF操作量を前記FB操作量に加算するFF制御手段と、
を備え、
前記FF制御手段は、
前記被処理材の装入を検出することにより、前記FF操作量としての加算量を算出し出力する加算量算出部と、
前記被処理材が装入されたことにより下降勾配となった前記ゾーンの温度が上昇に転じたときの極値を検出することにより、前記FF操作量としての加算量をゼロ値に収束させる第1の加算量収束部と、
を備えている、熱処理炉。
【請求項2】
前記加算量算出部は、負荷条件に基づいて決定された時定数および比例ゲインを用いて一次遅れ処理を施し、前記加算量を算出する、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記ゾーンに装入される被処理材の、搬送速度、材料径および材料本数から選択された少なくとも1つの項目を可変パラメータとして、前記時定数および比例ゲインが決定されている、請求項2に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記FF制御手段は、前記FF操作量を一次遅れによりゼロ値に収束させる、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記FF制御手段は、前記ゾーン内に装入された前記被処理材の経過時間情報に基づいて前記FF操作量をゼロ値に収束させる第2の加算量収束部を更に備えている、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項6】
請求項1に記載の熱処理炉を用いた熱処理方法であって、
前記加熱室内の最も搬送方向上流側に位置する前記ゾーンでのFF操作量がゼロ値に収束し、かつ、温度偏差が所定範囲内になってから、次の被処理材を前記加熱室内に装入する、熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱処理炉および熱処理方法に関し、詳しくは新たな被処理材が装入された際の炉内温度の制御に特徴を有する熱処理炉および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理材を効果的に熱処理するための装置として、炉体の一端側から被処理材を装入して、ローラ上を搬送させながら加熱、均熱を連続的に行ない、他端側から抽出する連続熱処理炉がある。このような構造の連続熱処理炉では、定常時の炉内温度制御としてのフィードバック(以下単にFBと称する場合がある)制御が行われているが、例えば1000℃といった高温で温度制御された炉内に常温の被処理材が断続的に装入されるため、装入口に近い炉内の温度が急激に冷却される問題があった。
【0003】
このような問題に対応するため、定常時の制御としてのフィードバック制御に加えて、被処理材が炉内に装入されるタイミングで、バーナ等の加熱手段に対する操作量を予め加算して、炉内の温度低下を抑制する制御(フィードフォワード制御+フィードバック制御)が行われてきた(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5-27122号公報
【特許文献2】特開2020-21297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新たな被処理材が炉内に装入される事象に対し、加熱手段に対する操作量を加算するフィードフォワード(以下単にFFと称する場合がある)制御は、被処理材が炉内に装入されるタイミングで繰り返し実行されるため、次材が到達する前にFF制御の操作量および炉内における温度偏差を速やかに収束させ、次材に備える必要がある。このFF制御は既知の外乱に対する対応を想定したものであるため、FF制御の操作量を収束させるタイミングについても、事前に評価等を行い決定しておく必要がある(例えば下記特許文献2参照)。しかしながら、炉内に装入される被処理材の本数、材料径、搬送速度などの組み合わせに基づいて無数の負荷条件が存在する場合に、想定される全て負荷条件について適切な収束タイミングを予め評価しておくことは、現実的でなく汎用性に欠ける。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、負荷条件が変化した場合でも汎用性高く炉内温度を制御することができる熱処理炉および熱処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、被処理材が装入されたことによる炉内の温度低下が上昇に転じたときの極値を検出しFF制御の収束を行うことが、オーバーシュートの発生を抑制しつつ定常状態(温度偏差なく且つFB制御のみで制御されている状態)に復帰させるのに有効である、との知見を得た。この発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
而してこの発明の第1の局面の熱処理炉は次のように規定される。即ち、
温度制御領域として加熱室内に設定されたゾーンと、
前記ゾーンに設けられた温度センサ及び加熱手段と、
前記ゾーンが所定温度になるよう前記温度センサの出力に基づいて前記加熱手段に対するFB操作量を調整するFB制御手段と、
被処理材が前記ゾーンに装入されたことによる前記ゾーンの温度低下を抑制するように前記加熱手段に対するFF操作量を算出し、該FF操作量を前記FB操作量に加算するFF制御手段と、
を備え、
前記FF制御手段は、
前記被処理材の装入を検出することにより、前記FF操作量としての加算量を算出し出力する加算量算出部と、
前記被処理材が装入されたことにより下降勾配となった前記ゾーンの温度が上昇に転じたときの極値を検出することにより、前記FF操作量としての加算量をゼロ値に収束させる第1の加算量収束部と、
を備えている。
【0009】
被処理材が装入され下降勾配となったゾーンの温度は、ある程度の時間経過後に上昇勾配に転じる。この時、FF操作量を速やかに低下させなければ、熱処理炉のようなむだ時間の長いシステムでは瞬く間にオーバーシュートに至り、ハンチングを発生させる。これによって、次材の装入が遅延し結果的に、生産性の低下につながる。
この第1の局面の熱処理炉では、ゾーンの温度が下に凸となるポイント(極値)を検出することにより、FF操作量を収束させる動作を実行する。このようなタイミングで収束動作を実行することで、オーバーシュートの発生を抑制しつつ制御対象のゾーンを定常状態に復帰させることができ、次材の装入待ち時間を短縮することができる。
このように極値の検出に基づいてFF制御(FF操作量)の収束を実行する構成であれば、想定される全ての負荷条件について適切な収束タイミングを予め評価しておく必要はなく、汎用性高く炉内温度を制御することができる。
【0010】
この発明の熱処理炉では、前記加算量算出部が、負荷条件に基づいて決定された時定数及び比例ゲインを用いて一次遅れ処理を施し、前記加算量を算出するように構成することができる(第2の局面)。このようにすれば、装入される被処理材の仕様が変わり負荷条件が変化した場合であっても、より適正なFF操作量を算出することができる。
【0011】
この場合、前記ゾーンに装入される被処理材の、搬送速度、材料径および材料本数から選択された少なくとも1つの項目を可変パラメータとして、前記時定数および比例ゲインを決定することができる(第3の局面)。
【0012】
またこの発明の熱処理炉では、前記FF操作量を一次遅れ処理によりゼロ値に収束させることができる(第4の局面)。このようにすれば、FF操作量が徐々に収束することとなり、FB制御手段に対し外乱(急激な温度変化)を与える状況を回避することができる。
【0013】
またこの発明の熱処理炉では、前記ゾーンに装入された前記被処理材の経過時間情報に基づいて前記FF操作量をゼロ値に収束させる第2の加算量収束部を更に設けておくことができる(第5の局面)。このようにすれば、温度の極値が検出できなかった場合に第2の加算量収束部で規定した条件によりFF操作量をゼロ値に収束させることができる。
【0014】
この発明の第6の局面の熱処理方法は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の熱処理炉を用いた熱処理方法であって、前記加熱室内の最も搬送方向上流側に位置する前記ゾーンでのFF操作量がゼロ値に収束し、かつ、温度偏差が所定範囲内になってから、次の被処理材を前記加熱室内に装入する。
このようにすることで、新たな被処理材が装入される度に生じる温度低下を、その都度新たに加算されるFF操作量に基づいて良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のローラハース式の熱処理炉の概略全体構成を示した図である。
図2図1の熱処理炉における第1ゾーンの温度制御に関わる要素を示した概略図である。
図3】同第1ゾーンの温度制御系のブロック線図である。
図4】(A)は加算量算出部から出力された操作量を示した図、(B)は減算量算出部から出力された操作量を示した図、(C)は(A)の操作量から(B)の操作量を減算して得たゼロ値に収束するFF操作量を示した図である。
図5】温度極値検出部の動作説明図である。
図6】経過時間判定部の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は本発明の一実施形態の熱処理炉の概略全体構成を示している。同図において、1はローラハース式の熱処理炉である。熱処理炉1は略筒状の炉体2を備えており、被処理材としての棒鋼Wを連続的に熱処理する。
【0017】
この熱処理炉1の搬送方向上流側には装入用コンベア装置4が設けられており、装入用コンベア装置4により上流側の棒鋼Wが炉体2内に装入される。炉体2の内部にはそれぞれ独立駆動するローラ群5a,5b,5cが搬送方向に沿って配設されており、炉体2内に装入された棒鋼Wは、ローラに載せられた状態で、矢印で示す図中右方向に移動しながら連続的に熱処理される。
【0018】
炉体2の図中左側には装入用の入口7が形成され、また炉体2の図中右側には抽出用の出口8が形成されている。これら入口7および出口8には、それぞれ開閉装置10により開閉駆動される扉11および扉12が設けられている。これら入口7および出口8の近傍には棒鋼(被処理材)Wを検出するための被処理材検出センサ13および14が配設されている。
【0019】
炉体2の内部は、前室(予熱室)20に続いて、温度制御された加熱室21が形成されている。本例では、加熱室21が搬送方向に沿って複数のゾーン22(ここでは第1ゾーン22-1~第6ゾーン22-6までの6つのゾーン)に区画されている。各ゾーンの搬送方向上流側の領域端はそれぞれ1z~6zとされ、被処理材検出センサ13から各ゾーンの領域端1z~6zまでの距離が、後述する制御装置50の記憶部に登録されている。
【0020】
本例の熱処理炉1は、区画された各ゾーン22-1~22-6毎に温度制御されるように構成されており、各ゾーンにはそれぞれ温度センサ31や加熱手段としてのバーナ35が配設されている。
【0021】
図2は、第1ゾーン22-1の温度制御に関与する構成要素を示した概略図である。以下、この第1ゾーン22-1を例に温度制御に関与する構成要素について説明するが、他の第2ゾーン22-2~第6ゾーン22-6についても同様の構成とされている。
同図で示すように、第1ゾーン22-1には、温度センサ31、温度調節計33、加熱手段としてのバーナ35、バーナ制御器42が設けられている。温度調節計33、バーナ制御器42については制御装置50に接続されている。また被処理材検出センサ13についても制御装置50に接続されている。
【0022】
温度センサ31は、配設されたゾーン内の温度を検出し、その温度情報を温度調節計33に送信する。温度センサ31の種類については特に限定されないが、検出可能範囲や応答性等を考慮して公知の熱電対や放射温度計などを用いることができる。
【0023】
温度調節計33は、温度センサ31にて検出された監視対象ゾーンの温度を数値表示するとともに、検出した温度PVと設定温度(目標温度)SVとを比較してバーナ35に対する操作量(FB操作量)MV1を調整し、制御装置50に送信する。この温度調節計33は、本発明におけるFB制御手段に相当する。
【0024】
バーナ35は、燃料ガスとエアとの混合ガスを燃焼させることによりゾーン内を加熱可能とされ、バーナ35には燃料ガスとエアが供給されている。燃料ガスの供給流路36上には、バーナ35に供給するガスの流量を制御するための流量制御バルブ37が設けられ、またエアの供給流路38上には、バーナ35に供給するエアの流量を制御するための流量制御バルブ39が設けられている。これら流量制御バルブ37,39は、バーナ制御器42からの制御信号にもとづいてその開度が制御されている。
なお加熱室21内に導入され燃焼したガスの一部は、前室20に流入した後に排気ファン23によって外部に排出される(図1参照)。
【0025】
制御装置50は、被処理材検出センサ13、温度調節計33およびバーナ制御器42に接続されており、被処理材検出センサ13からの検出信号および温度調節計33からのFB操作量MV1に基づいて算出されたバーナ35に対する操作量MV3を、バーナ制御器42に向けて出力する。
制御装置50は、例えば、データ処理部、記憶部、および通信I/F部等を備えたPLC(Programmable Logic Controller)よって実現することができる。制御装置50の記憶部には、処理される棒鋼Wの寸法、搬送速度、同時装入される材料本数、ヒートパターン(各ゾーンの設定温度)、被処理材検出センサ13から各ゾーンの領域端までの距離等に関する情報が記憶されている。
【0026】
制御装置50には、棒鋼Wが装入されたことによるゾーンの温度低下を抑制するためのFF操作量MV2を算出し、このFF操作量MV2をFB操作量MV1に加算するFF制御を実現するための各種機能部が設けられている。以下、図3に基づいて制御装置50の機能部について説明する。
【0027】
目標温度設定部52は、処理対象の棒鋼Wに対して設定されたヒートパターンに基づいて、第1ゾーン22-1における設定温度SVを特定し、第1ゾーン22-1の温度調節計33に向けて設定温度SVを送信する。
【0028】
FF制御開始判定部54は、炉体2の入口近傍に配置された被処理材検出センサ13からの検出信号と、搬送速度の情報に基づいて、棒鋼Wの先端Waの位置を推定する。そして、図2で示すように、制御対象の第1ゾーン22-1への装入が推定されるタイミング、即ち、棒鋼Wの先端Waが第1ゾーン22-1の上流側の領域端1zに到達したと推定されるタイミングで、FF制御開始信号をセット/リセット部56に向けて出力する。これによりセット/リセット部56は、調整用タイマ55における設定時間(初期設定値0s)経過後にセット状態となって、FF制御開始のためのステップ信号を加算量算出部58に向けて出力する。
【0029】
加算量算出部58は、前記ステップ信号が入力されると、一次遅れ処理が施された所定ゲインのFF操作量を算出し出力する。
ここで一次遅れ系の伝達関数の基本式は、比例ゲインをK、時定数をTとしたとき、
G(s)=K/(1+Ts)で表される。本例では、ゾーン22-1に装入される棒鋼Wにおける搬送速度、材料径、および、ゾーン22-1に同時装入される材料本数から選択された少なくとも1つの項目を可変パラメータとして、上記基本式における比例ゲインKおよび時定数Tを決定している。より具体的には下記式(1)で示す一次遅れ系の伝達関数に基づいてFF操作量としての加算量を算出し出力する。
【数1】
ここでkは比例帯(初期値:100)、zは時定数(初期値:180s)、Wは材料本数(1~15)、SPDは材料の搬送速度(m/min)、Dは材料径(mm)、αは材料本数寄与率(調整用の定数)、βは材料搬送速度寄与率(調整用の定数)、γは材料径寄与率(調整用の定数)、sはラプラス演算子である。このようにして加算量算出部58からは図4(A)で示す加算量が出力される。
【0030】
次に、温度極値検出部61および減算量算出部64は、上記加算量算出部58より出力されたFF操作量としての加算量をゼロ値に収束させるため操作量を算出し出力する。即ち、温度極値検出部61および減算量算出部64は、本発明の第1の加算量収束部を構成する。
【0031】
温度極値検出部61は、FF操作量を収束させるタイミングとしての温度の極値(下降勾配となった温度が上昇に転じたときの極値)を検出する。図5は、棒鋼Wが第1ゾーン22-1内に装入されたタイミングでFF操作量が加算された場合のゾーン温度の変化の一例を示している。ゾーン温度はFF操作量が加算されたことにより若干上昇した後、第1ゾーン22-1内に装入された棒鋼Wの影響で下降し、その後再び上昇に転じる。温度極値検出部61は、セット/リセット部56がセット状態になった際の出力信号を受けた後、制御対象の第1ゾーン22-1の検出温度を所定の間隔(例えば60秒間隔)でサンプリングし、直近5箇所(P1~P5)の検出ポイントを抽出して、隣接するポイント間での温度変化を求めて、2回連続して温度が下降した後、2回連続して温度が上昇した場合、極値を検出したと判断し、検出信号を出力する。なお、温度極値検出部61からの検出信号は、調整用タイマ62(初期設定値0s)を経てOR回路63に送られ、OR回路63からは減算量算出開始のためのステップ信号が出力される。
【0032】
減算量算出部64は、ステップ信号が入力されると、一次遅れ処理が施された所定ゲインの操作量を算出し、図4(B)で示す減算操作量が出力される。この場合における比例ゲインKおよび時定数Tは、加算量算出部58の場合と同様に、ゾーンに装入される棒鋼Wにおける搬送速度、材料径および材料本数から選択された少なくとも1つの項目を可変パラメータとして決定されている。
【0033】
減算部66は、図4(A)のFF操作量における加算量から、図4(B)の減算量を減算して、図4(C)で示すゼロ値に収束するFF操作量MV2を出力する。
【0034】
続く加算部67は、温度調節計33から出力されたFB操作量MV1に、減算部66から出力されたFF操作量MV2を加算して、操作量MV3(MV3=MV1+MV2)を出力する。
【0035】
上下限フィルタ部68は、加算部67から出力された操作量MV3が所定の下限値を下回る場合に下限値に修正し、また操作量MV3が所定の上限値を上回る場合に上限値に修正する。そして上下限フィルタ部68からはフィルタ処理された操作量がバーナ制御器42に向けて出力される。
【0036】
次に、経過時間判定部70は、温度極値検出部61とは異なる基準で収束タイミングを決定するための機能部で、第1ゾーン22-1内に装入された棒鋼Wの経過時間情報に基づいてFF操作量をゼロ値に収束させるための信号を出力する。具体的には被処理材検出センサ13からの検出信号と搬送速度に基づいて棒鋼Wの後端Wbが、図6(A)で示すように、第1ゾーン22-1の先端側の領域端1zを通過するタイミングで、収束動作実行のための信号を出力する。また、場合によっては、図6(B)で示すように、棒鋼Wの先端Waが第1ゾーン22-1の終端側の領域端2zを通過するタイミングで、収束動作実行のための信号を出力するように構成することや、図6(C)で示すように、棒鋼Wの後端Wbが第1ゾーン22-1の終端側の領域端2zを通過するタイミングで、収束動作実行のための信号を出力するように構成することも可能である。そして経過時間判定部70からの信号は、OR回路63に送られ、OR回路63からは減算量算出開始のためのステップ信号が出力される。
本例では、この経過時間判定部70と減算量算出部64が、ゾーン内に装入された棒鋼Wの経過時間情報に基づいてFF操作量をゼロ値に収束させる第2の加算量収束部を構成している。
【0037】
また、図3で示されたゼロ値検出部72は、減算部66から出力されたFF操作量MV2がゼロ値に収束したことを検出する。ゼロ値検出部72は、FF操作量MV2がゼロ値に収束し、かつ、温度偏差(検出した温度PVと設定温度SVの偏差)が所定範囲内(例えば5℃以内)になったことを検出すると、セット/リセット部56をリセット状態に戻すとともに、上流側の装入用コンベア装置4(図1参照)により次材を装入させる。
なお、リセット状態に戻すとともに、次材の装入が可能であることを通知するようにしておき、当該通知を確認してから次材の装入が行われるようにしてもよい。
【0038】
次に、第1ゾーン22-1を例に熱処理炉1の動作を説明する。
制御対象の第1ゾーン22-1がFB制御されている状態で、次材の棒鋼Wが入口7近傍で検出された後、前室20を通過して第1ゾーン22-1に接近すると、棒鋼Wの先端Waが、第1ゾーン22-1の領域端1zに到達したタイミング(図2参照)で、図3のFF制御開始判定部54がFF制御開始信号を出力する。これを受けて加算量算出部58は1次遅れ処理が施されたFF操作量としての加算量を算出し出力する。以降はFB操作量MV1にFF制御に基づく加算量MV2が加算された操作量MV3がバーナ制御器42に送られ、実際にゾーン内の温度低下が生じる前からバーナ35の熱量が高められる。これによりゾーン内に温度の低い棒鋼Wが装入されたことによるゾーン温度の低下が抑制される。
【0039】
そして棒鋼Wが装入されたことにより下降勾配となったゾーン温度は、ある程度の時間経過後に上昇勾配に転じる。熱処理炉1は、その際の下向きに凸のピークである極値を温度極値検出部61により検出することにより、減算量算出部64にて1次遅れの減算量が出力され、以降FF操作量はゼロ値に向けて収束する。これにより第1ゾーン22-1の制御は定常状態におけるFB制御に戻り、次材の装入が可能となる。
【0040】
以上のように構成された本実施形態の熱処理炉1では、ゾーン22の温度が下に凸となるポイント(極値)を検出し、FF制御の収束を実行する。このようにすることで、オーバーシュートの発生を抑制しつつ制御対象のゾーン22を定常状態に復帰させることができ、次材の装入待ち時間を短縮することができる。このように極値の検出に基づいてFF制御(FF操作量)の収束を実行する構成であれば、想定される全ての負荷条件について適切な収束タイミングを予め評価しておく必要はなく、汎用性高く炉内温度を制御することができる。
【0041】
本実施形態の熱処理炉1では、ゾーンに装入される棒鋼Wの、搬送速度、材料径および材料本数から選択された少なくとも1つの項目を可変パラメータとして、時定数Tおよび比例ゲインKを決定し、これら時定数及び比例ゲインを用いて一次遅れ処理を施し、FF制御における加算量を算出するように構成されており、装入される棒鋼Wの仕様が変わり負荷条件が変化した場合であっても、より適正なFF操作量を算出することができる。
【0042】
ここで本実施形態の熱処理炉1では、FF操作量MV2を一次遅れ処理によりゼロ値に収束させており、FF操作量MV2が徐々に収束することとなり、FB制御手段に対し外乱(急激な温度変化)を与える状況を回避することができる。
【0043】
また本実施形態の熱処理炉1では、ゾーン22に装入された棒鋼Wの経過時間情報に基づいてFF操作量MV2をゼロ値に収束させる第2の加算量収束部が更に設けられており、温度の極値が検出できなかった場合に第2の加算量収束部で規定した条件によりFF操作量MV2をゼロ値に収束させることができる。
【0044】
また本実施形態の熱処理炉1を用いた熱処理方法であっては、炉体2内の最も搬送方向上流側に位置する第1ゾーン22-1でのFF操作量MV2がゼロ値に収束し、かつ、温度偏差が所定範囲内になってから、次の棒鋼Wを加熱室21内(より具体的には第1ゾーン22-1内)に装入するため、新たな棒鋼Wが装入される度に生じる温度低下を、その都度新たに加算されるFF操作量MV2に基づいて良好に抑制することができる。
【0045】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。例えば上記実施形態では、加熱手段としてバーナを用いていたが、これに代えてラジアントチューブバーナや電気ヒータを加熱手段として用いることも可能である。また上記実施形態は棒鋼を被処理材とした例であったが、本発明の熱処理炉は断面矩形状の鋼材の熱処理に適用することも可能である。この場合はFF操作量を算出するための可変パラメータとして、材料径πDに代えて鋼材断面の周長を用いることができる。また本発明は連続式以外のバッチ式の熱処理炉にも適用可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 熱処理炉
13 被処理材検出センサ
21 加熱室
22(22-1,22-2,22-3,22-4,22-5,22-6) ゾーン
31 温度センサ
33 温度調節計(FB制御手段)
35 バーナ(加熱手段)
58 加算量算出部
61 温度極値検出部(第1の加算量収束部)
64 減算量算出部
70 経過時間判定部(第2の加算量収束部)
K 比例ゲイン
MV1 FB操作量
MV2 FF操作量
MV3 加算された操作量
T 時定数
W 棒鋼(被処理材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6