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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137813
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/06 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
C08F214/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044192
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】阿波 ゆりか
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AC03P
4J100AE02Q
4J100AG04Q
4J100AK32Q
4J100AL02Q
4J100AL09Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA39
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA21
4J100GC07
4J100GC26
4J100JA01
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定構造のアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含む混合物を懸濁重合する重合工程を有し、当該重合工程では、特定量のアルデヒドの添加量、および、特定温度の重合温度にて、懸濁重合を行う、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含む混合物を懸濁重合する重合工程を有し、
前記アルデヒドの添加量は、前記混合物100重量部に対して0.1重量部~4重量部であり、
前記重合工程における重合温度は、65℃~85℃である、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【化1】
(式中、Rは、2~4個の炭素原子を有する飽和アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるアルデヒドが、下記一般式(II)または(III)で表されるアルデヒドである、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【化2】
【化3】
【請求項3】
平均粒子径が50μm~400μmである塩化ビニル系重合体粒子を単離する単離工程を含む、請求項1または2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるアルデヒドが、連鎖移動剤として用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合工程において、前記混合物が、重合開始剤をさらに含み、
前記重合開始剤が、油溶性重合開始剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記油溶性重合開始剤が、(3,5,5,トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドまたは過酸化ベンゾイルである、請求項5に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系重合体は、優れた特性を有しているため、様々な分野で用いられており、その製造方法としては、現在までに、様々な方法が提案されている。溶媒に溶解させて用いる場合、溶液の低粘度化の要求に対応するため、塩化ビニル系重合体の低重合度化が検討されている。
【0003】
比較的重合度の低い塩化ビニル系重合体を得るために、重合時に連鎖移動剤を用いる方法が知られている。特許文献1には、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール等のメルカプト系化合物、チオ系化合物、またはアルデヒド類を使用できることが記載されている。また、特許文献2には、分子量の調節のために、重合調節物質としてプロピオンアルデヒドを使用した塩化ビニル単量体と酢酸ビニル単量体との混合物の重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2-25923号公報
【特許文献2】特表2006-519884公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、連鎖移動剤を用いた塩化ビニル系重合体の製造方法では、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率が低下するという問題があった。そのため、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、重合体の転化率の低下を改善する技術が望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、重合体の転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討した結果、低重合度の塩化ビニル系重合体を懸濁重合によって製造するときに、特定の構造のアルデヒドが特定の量だけ存在する条件下であって、特定の温度の条件下にて懸濁重合を行えば、転化率の低下を抑えられることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明の一態様は、以下の構成を含むものである。
【0008】
〔1〕
下記一般式(I)で表されるアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含む混合物を懸濁重合する重合工程を有し、前記アルデヒドの添加量は、前記混合物100重量部に対して0.1重量部~4重量部であり、前記重合工程における重合温度は、65℃~85℃である、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、2~4個の炭素原子を有する飽和アルキル基を表す。)
【0011】
〔2〕
前記一般式(I)で表されるアルデヒドが、下記一般式(II)または(III)で表されるアルデヒドである、〔1〕に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【0012】
【化2】
【0013】
【化3】
【0014】
〔3〕
平均粒子径が50μm~400μmである塩化ビニル系重合体粒子を単離する単離工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【0015】
〔4〕
前記一般式(I)で表されるアルデヒドが、連鎖移動剤として用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【0016】
〔5〕
前記重合工程において、前記混合物が、重合開始剤をさらに含み、前記重合開始剤が、油溶性重合開始剤である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【0017】
〔6〕
前記油溶性重合開始剤が、(3,5,5,トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドまたは過酸化ベンゾイルである、〔5〕に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系重合体の製造方法について、詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系重合体の製造方法(以下、単に「製造方法」という)は、下記一般式(I)で表されるアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含む混合物を懸濁重合する重合工程を有し、前記アルデヒドの添加量は、前記混合物100重量部に対して0.1重量部~4重量部であり、前記重合工程における重合温度は、65℃~85℃である。
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、Rは、2~4個の炭素原子を有する飽和アルキル基を表す。)
【0024】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、このような構成により、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【0025】
<塩化ビニル系重合体>
本発明の一実施形態に係る製造方法では、塩化ビニル単量体と、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含む混合物を懸濁重合する。
【0026】
上記塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体は、限定されず、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル)、ビニルエーテル類(例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル)、アクリレート類(例えば、2-エチルへキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレート)、不飽和カルボン酸エステル類(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル)、不飽和カルボン酸およびその塩(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸)、及び、架橋性モノマー(例えば、ジアリルフタレート)からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。溶媒溶解時の溶液粘度を低下させるという観点から、これらの塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体の中では、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、および、ステアリン酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0027】
(塩化ビニル単量体)
混合物中の塩化ビニル単量体の含有量としては、混合物全体を100重量部とした場合に、50~98重量部が好ましく、70重量部~90重量部がより好ましく、75重量部~85重量部がさらに好ましい。混合物中の塩化ビニル単量体をこの範囲の含有量とすることで、得られる塩化ビニル系重合体の溶媒溶解時の溶液粘度が低下するという利点がある。
【0028】
(塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体)
混合物中の塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体の含有量としては、混合物全体を100重量部とした場合に、2重量部~50重量部が好ましく、10重量部~30重量部がより好ましく、15重量部~25重量部がさらに好ましい。混合物中の塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体をこの範囲の含有量とすることで、得られる塩化ビニル系重合体の溶媒溶解時の溶液粘度が低下するという利点がある。
【0029】
(他の単量体)
混合物は、塩化ビニル単量体および塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体以外の単量体(以下、「他の単量体」という。)を含んでいてもよい。インクおよび塗料等に利用される塩化ビニル系重合体が得られることから、他の単量体としては、ヒドロキシ基またはカルボキシ基を有する単量体が好ましい。ヒドロキシ基を有する単量体としては、ヒドロキシアルキルアクリレートが好ましく、カルボキシ基を有する単量体としては、フマル酸が好ましい。
【0030】
(重合度)
重合度の指標として、K値が使用される。K値は、以下の方法によって算出される。本発明の一実施形態の製造方法によって製造される塩化ビニル系重合体をシクロヘキサンに溶解し、得られた溶液において25℃雰囲気下で毛細管粘度計にて流下時間を測定する。さらに、JIS K7367-2-1999の換算表により、粘度比(シクロヘキサノンに対する溶液の流下時間比:溶液の流下時間/シクロヘキサンの流下時間)に対応するK値を算出する。
【0031】
K値は、限定されないが、インクおよび塗料等に利用される塩化ビニル系重合体は、通常30~50であり、好ましくは35~45である。塩化ビニル系重合体のK値を当該数値範囲内とすることで、塩化ビニル系重合体を低重合度とすることができ、その結果、溶媒へ溶かした際に、溶液を低粘度化することができる。
【0032】
(転化率)
転化率は、以下の方法によって算出できる。本発明の一実施形態の製造方法によって製造される塩化ビニル系重合体のスラリーを乾燥して、未反応の塩化ビニル単量体を除去した塩化ビニル系重合体を秤量する。塩化ビニル系重合体の重量を塩化ビニル単量体の仕込み量で除することにより、転化率を算出する。
【0033】
転化率は、限定されないが、好ましくは60~100%であり、より好ましくは70~100%であり、より好ましくは80~100%であり、最も好ましくは85~100%である。塩化ビニル系重合体の転化率を当該数値範囲とすることで、安定した粒子形状の塩化ビニル共重合体が得られ、生産性に優れた重合法とすることができる。
【0034】
(溶媒溶解性)
溶媒溶解性は、以下の方法によって算出できる。本発明の一実施形態の製造方法によって製造される塩化ビニル系重合体の溶媒溶解性(粘度)は、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン(TOL)、および酢酸ブチル(BAC)からなる溶媒、酢酸エチル(EAC)からなる溶媒、あるいは、ブチセルアセテート(BGA)からなる溶媒に、塩化ビニル系重合体を溶解させて得られた溶液の25℃での粘度を、B型粘度計を用いて測定することにより、塩化ビニル系重合体の溶媒に対する溶解性を評価することができる。この粘度が低いほど、溶媒への溶解性が高いため、溶液を低粘度化することができる。
【0035】
溶液の粘度は、限定されないが、MEK/TOL/BAC溶媒にて固形分25%で溶解させた場合、好ましくは60mPa・S~100mPa・Sであり、より好ましくは70mPa・S~80mPa・Sである。EAC溶媒にて固形分20%で溶解させた場合、好ましくは20mPa・S~50mPa・Sであり、より好ましくは30mPa・S~40mPa・Sである。BGA溶媒にて固形分15%で溶解させた場合、好ましくは40mPa・S~70mPa・Sであり、より好ましくは50mPa・S~60mPa・Sである。溶液の粘度が当該範囲であると、本発明の一実施形態の製造方法によって製造される塩化ビニル系重合体を、インク用樹脂または塗料用樹脂として好適に使用することができる。
【0036】
<アルデヒド>
本発明の一実施形態に係る製造方法は、下記一般式(I)で表されるアルデヒド(以下、単に「アルデヒドI」という)の存在下で単量体の混合物を懸濁重合する。
【0037】
【化5】
【0038】
Rは、2~4個の炭素原子を有する飽和アルキル基である。
【0039】
Rとしては、例えば、エチル基、1-メチルエチル基、プロピル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0040】
アルデヒドIの存在下で単量体の混合物を懸濁重合することによって、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【0041】
また、アルデヒドIは、下記一般式(II)または(III)で表されるアルデヒド(以下、単に「アルデヒドII」または「アルデヒドIII」という。)であることが好ましい。アルデヒドIIは、ブチルアルデヒド(NBD)であり、アルデヒドIIIは、プロピオンアルデヒドである。
【0042】
【化6】
【0043】
【化7】
【0044】
アルデヒドIIまたはアルデヒドIIIを用いることによって、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が特に少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【0045】
本発明の一実施形態において、アルデヒドIは、連鎖移動剤として用いられることが好ましい。連鎖移動剤として用いられることで、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる。また、連鎖移動剤として用いられる場合、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が特に少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる観点から、アルデヒドIIまたはアルデヒドIIIであることが好ましい。
【0046】
<他の原料>
本発明の一実施形態において、塩化ビニル系重合体の製造時に懸濁重合される混合物は、単量体およびアルデヒドI以外の他の原料を含んでいてもよい。当該成分として、特に限定されないが、例えば、溶媒、分散剤、酸化防止剤、重合開始剤等が挙げられる。
【0047】
(溶媒)
本発明の一実施形態において用いられる溶媒としては、例えば、水性溶媒、および、水に不溶な有機溶媒を水に加えたものが挙げられる。
【0048】
水性溶媒としては、水に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコールなどの水と混合し得る有機溶媒を水に加えたものであってもよい。
【0049】
水に不溶の有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ハロゲン化炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類およびケトン類が挙げられる。ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、四塩化炭素が挙げられる。ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、ベンゼンおよびトルエンが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼンおよびトルエンが挙げられる。ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0050】
(分散剤)
本発明の一実施形態において用いられる分散剤としては、限定されず、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。
【0051】
重合安定性という観点から、上述した分散剤の中では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および、部分鹸化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0052】
(酸化防止剤)
本発明の一実施形態において用いられる酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、チオジプロピオン酸エステル、脂肪族サルファイド及びジサルファイド系の酸化防止剤、等が挙げられる。
【0053】
(重合開始剤)
本発明の一実施形態において用いられる重合開始剤としては、例えば、油溶性重合開始剤、および、水溶性重合開始剤が挙げられる。反応効率を高くする、また、スケーリングを少なくし生産性を向上させるという観点から、重合開始剤として、油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。
【0054】
油溶性重合開始剤としては、例えば、(3,5,5,トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジアシルパーオキサイド類(例えば、ジラウロイルパーオキサイド、ジ-3,5,5,トリメチルヘキサノイルパーオキサイド)、パーオキシジカーボネート類(例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート)、有機過酸化物系開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、パーオキシエステル類)、アゾ系開始剤(例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))を挙げることができる。重合遅延を抑制し、反応効率を良くするという観点から、油溶性重合開始剤は、(3,5,5,トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドまたは過酸化ベンゾイルであることが好ましい。
【0055】
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素水を挙げることができる。なお、水溶性重合開始剤を用いる場合には、必要に応じて還元剤(例えば、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート二水塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム)を併用してもよい。
【0056】
重合温度に対して、適正な半減期温度を示す重合開始剤を選択することが好ましい。
【0057】
<重合工程>
重合工程は、上述したアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含むビニル系単量体の混合物を懸濁重合(例えば、懸濁重合、微細懸濁重合、シード微細懸濁重合)する工程である。より具体的に重合工程は、重合器内において、上述したアルデヒドの存在下で、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体とを含むビニル系単量体の混合物を懸濁重合する工程である。懸濁重合を行うことにより、(1)特定の平均粒子径(例えば、50μm~400μm)を有する塩化ビニル系重合体粒子を容易に製造することができる、(2)乳化重合より生産性が高く、低コストで試作できるという利点を有する。
【0058】
重合工程における重合温度は、65℃~85℃である。当該範囲の重合温度であることによって、転化率の低下を少なくすることができる。転化率の低下を特に少なくできることから、重合温度は、75℃~85℃が好ましく、75℃~80℃がより好ましい。
【0059】
重合工程において、アルデヒドの添加量は、混合物100重量部に対して、0.1重量部~4重量部であり、0.5重量部~2重量部であることが好ましく、0.7重量部~1重量部であることがより好ましい。このような添加量であることによって、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が少ない塩化ビニル系重合体を製造することができる。
【0060】
アルデヒドIは、重合工程において混合物へ添加してもよく、予め塩化ビニル単量体および/または塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体に添加していてもよい。
【0061】
重合工程における重合時間(具体的に、重合温度に到達した時点から、重合を終了させた時点までの時間)は、限定されず、除熱能力に応じて、設定することができる。上記重合工程における重合時間は、好ましくは240分間~420分間である。
【0062】
重合工程では、単量体のうち、重合速度が最も遅い単量体を重合器内に一括して初期仕込みし、重合速度が最も速い単量体を重合器内に分割して仕込むことが好ましい。重合工程では、単量体として塩化ビニル単量体および塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体のみを使用する場合、重合速度が遅い方の単量体Aを重合器内に一括して初期仕込みし、重合速度が速い方の単量体Bを重合器内に分割して仕込むことが好ましい。ここで、塩化ビニル単量体、および、塩化ビニル単量体と重合可能な単量体のうち、一方が単量体Aに相当し、他方が単量体Bに相当する。当該構成であれば、重合速度が速い単量体Bが優先的に重合することを防止することができ、これによって、単量体Aと単量体Bとの含有比率が所望の比率である共重合体を、効率よく製造することができる。なお、本明細書において「初期仕込み」とは、「重合器の内温を重合温度に調節する為に加温を開始する時点までに、重合器内に単量体を添加する」ことを意図する。
【0063】
単量体を分割して重合器内に仕込む場合、当該単量体の仕込みのタイミングは、限定されない。例えば、当該単量体の一部を重合器内に初期仕込みし、その後に(好ましくは、重合温度到達後に)、当該単量体の残りを一括または分割して重合器内に仕込んでもよい。
【0064】
「重合速度が最も遅い単量体」、「重合速度が最も速い単量体」、「重合速度が遅い方の単量体」および「重合速度が速い方の単量体」は、塩化ビニル系重合体の製造に使用される単量体の種類によって変化するため、限定されない。「重合速度が最も速い単量体」および「重合速度が速い方の単量体」としては、例えば、塩化ビニル単量体を挙げることができる。この場合、「重合速度が最も遅い単量体」および「重合速度が遅い方の単量体」としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、および、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル類を挙げることができる。
【0065】
重合工程に用いる重合器は、限定されず、塩化ビニル系重合体の製造において通常用いられる合成缶を用いればよい、当該重合器の容積の下限値は、限定されず、例えば、1L以上、10L以上、100L以上、または、1000L以上であり得る。重合器の容積の上限値は、限定されず、例えば、1.0×10Lであり得る。
【0066】
<他の工程>
本発明の一実施形態に係る製造方法は、重合工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0067】
(原料供給工程)
原料供給工程は、各原料を重合器内に供給する工程であり、重合工程の前に、例えば、アルデヒドI、溶媒、分散剤および重合開始剤等を投入して脱酸素した重合器内に、混合物を投入する工程である。混合物は、例えば、スラリーの状態にて投入され得る。原料の投入順番は、特に限定されない。
【0068】
(脱水工程)
脱水工程は、重合工程で得られた塩化ビニル系重合体がスラリーの状態である場合に、スラリーから溶媒を脱水する工程であり、重合工程後に行われる。例えば、吸引ろ過により、塩化ビニル系重合体のスラリーを、塩化ビニル系重合体と、ろ液とに分けて、脱水した塩化ビニル系重合体を得る。
【0069】
(乾燥工程)
乾燥工程は、脱水工程の後、重合器から塩化ビニル系重合体を取り出し、乾燥機で乾燥させる工程である。
【0070】
乾燥温度としては、例えば、40℃以上100℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましく、40℃以上60℃以下であることがさらに好ましい。
【0071】
乾燥時間としては、例えば、1時間以上16時間以下であることが好ましく、1時間以上10時間以下であることがより好ましい。
【0072】
(単離工程)
本発明の一実施形態に係る製造方法は、重合工程後、脱水工程後、または、乾燥工程後に、平均粒子径が50μm~400μmである塩化ビニル系重合体粒子を単離する単離工程を含み得る。
【実施例0073】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0074】
[実施例1~2]
撹拌翼および外部ジャケットを備えたステンレス製の重合器に、溶媒としてイオン交換水、分散剤としてポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製)、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(日油株式会社製)、および(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油株式会社製)を仕込んだ。
【0075】
続いて、重合器内を真空ポンプで脱酸素した。その後、撹拌を開始し、重合器内に、酢酸ビニル単量体、塩化ビニル単量体、および連鎖移動剤としてブチルアルデヒド(NBD)(東京化成工業株式会社製、CAS番号:123-72-8、分子量72.1)またはプロピオンアルデヒド(東京化成工業株式会社製、CAS番号:123-38-6、分子量58.08)を仕込んだ(初期仕込み)。
【0076】
次いで、重合器外部ジャケットを使用して内用液を昇温した。重合器内の温度が75℃に到達した時点を重合開始時間とし、残りの塩化ビニル単量体を連続して仕込んだ(追加仕込み)。重合器内の温度を76℃に保持し、重合開始時間から6.5時間経過した時点で重合終了とした(重合温度:76℃)。得られたスラリーを80℃で1時間撹拌し、未反応の酢酸ビニル単量体、塩化ビニル単量体、およびアルデヒドを除去した後、得られたスラリーを乾燥させ、塩化ビニル系重合体を得た。各原料の仕込み量は、表1に従った。
【0077】
[比較例1]
連鎖移動剤を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で塩化ビニル系重合体を得た。
【0078】
[比較例2~3]
連鎖移動剤として、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル(EHTG)(東京化成工業株式会社製、CAS番号:7659-86-1、分子量204.1)またはメルカプトプロピオン酸-2-エチルヘキシル(EHMP)(東京化成工業株式会社製、CAS番号:50448-95-8、分子量218.4)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で塩化ビニル系重合体を得た。
【0079】
【表1】
【0080】
得られた塩化ビニル系重合体のK値、転化率、溶媒溶解性(粘度)、および酢酸ビニル単量体含量を下記の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0081】
(転化率)
得られた塩化ビニル系重合体の重量を秤量した。塩化ビニル系重合体の重量を塩化ビニル単量体の仕込み量で除することにより、転化率を算出した。
【0082】
(K値)
得られた塩化ビニル系重合体0.25gをシクロヘキサノン50mLに溶解し、得られた溶液において25℃雰囲気下で毛細管粘度計にて流下時間を測定した。さらに、JIS K7367-2-1999の換算表により、粘度比(シクロヘキサノンに対する溶液の流下時間比:溶液の流下時間/シクロヘキサンの流下時間)に対応するK値を算出した。
【0083】
(溶媒溶解性)
3種類の溶媒に対する溶媒溶解性を算出した。
【0084】
MEK/TOL/BAC溶媒
塩化ビニル系重合体50部を、MEK30部、TOL30部、およびBAC90部に、30℃で20分間、2000rpmで撹拌して溶解させた。得られた溶液の25℃での粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
【0085】
EAC溶媒
塩化ビニル系重合体20部を、EAC80部に、30℃で20分間、2000rpmで撹拌して溶解させた。得られた溶液の25℃での粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
【0086】
BGA溶媒
塩化ビニル系重合体15部を、BGA(CAS番号:112-07-2)85部に、50℃で120分間、2000rpmで撹拌して溶解させた。得られた溶液の25℃での粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
【0087】
(塩化ビニル系重合体における酢酸ビニル単量体の含有量)
塩化ビニル系重合体における酢酸ビニル単量体の含有量は、FT-IR(日本分光株式会社製のFT/IR4700)測定により算出した。5%テトラヒドロフラン(THF)溶液を用いて、KBr板上にキャストフィルムを作製し、当該キャストフィルムを120℃で乾燥した後、FT-IRを測定した。C-H、C=Oの吸収比に基づいて、塩化ビニル系重合体における酢酸ビニル単量体の含有量を算出した。
【0088】
(平均粒子径の測定)
実施例1~2、比較例1~3にて得られた塩化ビニル系重合体を篩(株式会社サンポー社製の商品ステンレスふるい 200Φ×60)にかけて、平均粒子径が50μm~400μmの塩化ビニル系重合体粒子の取得を試みた。
【0089】
得られた塩化ビニル系重合体粒子の平均粒子径を、JIS K-6721の方法にしたがって測定した。42、60、80、100、120、145、及び200メッシュの篩を使用し、篩振とう器にて篩分けを行い、50重量%通過径をもって平均粒子径とした。また粒度分布は、各メッシュに残留した塩化ビニル系重合体の重量を測定し、百分率にて表示した。このうち42メッシュ上に残留した重合体の量を粗粒分とし、200メッシュを通過した量をパス分とした。
【0090】
その結果、実施例1~2では、平均粒子径が50μm~400μmの塩化ビニル系重合体粒子を多く取得することができた。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示すように、比較例1~3と比較して、実施例1および2では、K値の値が小さかった。つまり、比較例1~3と比較して、実施例1および2では、より低重合度である塩化ビニル系重合体を製造することができた。
【0093】
表2に示すように、連鎖移動剤としてチオ系化合物を用いた比較例2および3では、転化率の値が小さかった。一方、実施例1および2では、転化率の値が大きかった。実施例1および2における転化率は、連鎖移動剤を用いなかった比較例1の転化率と同様に、大きな値であった。
【0094】
つまり、本発明の一実施形態に係る製造方法は、低重合度の塩化ビニル系重合体の重合において、転化率の低下が小さい塩化ビニル系重合体を製造することができることがわかった。
【0095】
更に、表2に示すように、比較例1~3と比較して、実施例1および2では、溶媒溶解性(換言すれば、粘度)の値が小さかった。このことは、本発明の一実施形態に係る製造方法は、様々な用途(例えば、インク用樹脂、塗料用樹脂)に利用できる塩化ビニル系重合体を製造できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、インクおよび塗料等に利用することができる。