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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137814
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】半導体装置の信頼性試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20230922BHJP
【FI】
G01R31/26 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044193
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】514301727
【氏名又は名称】株式会社ケミトックス
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】須藤 正喜
(72)【発明者】
【氏名】石井 惇紀
【テーマコード(参考)】
2G003
【Fターム(参考)】
2G003AA02
2G003AB05
2G003AH04
2G003AH07
(57)【要約】
【課題】運用する電源を1台としても、精度の高い試験結果を安定的に得ることができる半導体装置の信頼性試験装置を提供する。
【解決手段】半導体装置の信頼性試験装置100は、電圧印加用の電源1と、電源1の正負電極と、複数の被試験対象である半導体装置2の端子D,S間と、をそれぞれ接続することで構成される複数の閉回路C1と、複数の閉回路C1内にそれぞれ設けられた第1抵抗31と、複数の閉回路C1内に第1抵抗31と直列にそれぞれ設けられた第2抵抗32と、第2抵抗32の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して設けられ、電流値を測定して記録する電流測定記録装置4と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧印加用の電源と、
前記電源の正負電極と、複数の被試験対象である半導体装置の端子間と、をそれぞれ接続することで構成される複数の閉回路と、
前記複数の閉回路内にそれぞれ設けられた第1抵抗と、
前記複数の閉回路内に前記第1抵抗と直列にそれぞれ設けられた第2抵抗と、
前記第2抵抗の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して設けられ、電流値を測定して記録する電流測定記録装置と、を備えていること
を特徴とする半導体装置の信頼性試験装置。
【請求項2】
前記第1抵抗は、前記第2抵抗よりも抵抗値が大きく設定されていること
を特徴とする請求項1に記載の半導体装置の信頼性試験装置。
【請求項3】
前記電流測定記録装置は、その内部に、増幅器、A/D変換器、電流測定器、及び記録装置を有すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の信頼性試験装置。
【請求項4】
前記電流測定記録装置は、その内部に、前記電流測定器で測定した電流値のデータを、その時間的変動速度に対して広域でサンプリング可能な広域データサンプリング装置を更に有すること
を特徴とする請求項3に記載の半導体装置の信頼性試験装置。
【請求項5】
前記広域データサンプリング装置は、電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードと、を有し、
前記低速データサンプリングモードと、前記高速データサンプリングモードとを切替可能とされていること
を特徴とする請求項4に記載の半導体装置の信頼性試験装置。
【請求項6】
前記広域データサンプリング装置は、前記低速データサンプリングモードと、前記高速データサンプリングモードとを切り替える複数種の切り替え条件を記憶し、これら複数種の切り替え条件のうち、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件に基づいて前記両モード間を自動で切り替える切替制御部を有すること
を特徴とする請求項5に記載の半導体装置の信頼性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の信頼性試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の信頼性を評価して確認する半導体装置の信頼性試験が行われている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
例えば、パワーデバイス、パワーモジュール、パワー半導体等と呼ばれる半導体装置(以下、単にパワーデバイスと言う。)の信頼性試験では、複数の試料である半導体装置を高温高湿環境中に置き、規定の試験電圧を数百~数千時間の長時間印加することで劣化を加速する、高温高湿バイアス試験が重要なものとして知られている。
【0004】
この高温高湿バイアス試験では、試料である半導体装置の性能及びその劣化を検出する方法として、試料である半導体装置由来のそれぞれの漏出電流を測定、記録する方法が一般的である。
【0005】
ここで、この高温高湿バイアス試験では、用いる試験装置の最低限の要求仕様は規定されているものの、具体的構成は、試験者が独自に構築する必要がある。
【0006】
この際、この高温高湿バイアス試験は、複数の試料である半導体装置を同時に供試する場合、試料である半導体装置毎に1台ずつ電圧印加用の電源を準備するよりも、1台の電源に複数の試料である半導体装置を接続して運用する方が、試験系構築のコスト縮減並びに試験装置の小型化のために好ましい。
【0007】
この場合、この高温高湿バイアス試験は、試験時間が長時間に及ぶため、複数の試料である半導体装置を同時に供試した場合、供試中の何れかの試料である半導体装置の劣化が進行して故障した場合、それ以上の劣化を防ぐために故障した試料である半導体装置への電圧印加を停止するのが好ましい。
【0008】
但し、試料である半導体装置の故障発生の度に試験全体が中断されることなく、故障していない試料である半導体装置の試験を自動的に継続できることが、試験期間の縮減の上で好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-203855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来では、この高温高湿バイアスを、複数の試料である半導体装置に対して、運用する電源を1台とした場合、上述した好ましい事項全ては満足できず、精度の高い試験結果を安定的に得られないのが実情であった。
【0011】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、運用する電源を1台としても、精度の高い試験結果を安定的に得ることができる半導体装置の信頼性試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、電圧印加用の電源と、前記電源の正負電極と、複数の被試験対象である半導体装置の端子間と、をそれぞれ接続することで構成される複数の閉回路と、前記複数の閉回路内にそれぞれ設けられた第1抵抗と、前記複数の閉回路内に前記第1抵抗と直列にそれぞれ設けられた第2抵抗と、前記第2抵抗の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して設けられ、電流値を測定して記録する電流測定記録装置と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、第1発明において、前記第1抵抗は、前記第2抵抗よりも抵抗値が大きく設定されていることを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、第1発明又は第2発明において、前記電流測定記録装置は、その内部に、増幅器、A/D変換器、電流測定器、及び記録装置を有することを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、第3発明において、前記電流測定記録装置は、その内部に、前記電流測定器で測定した電流値のデータを、その時間的変動速度に対して広域でサンプリング可能な広域データサンプリング装置を更に有することを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、第4発明において、前記広域データサンプリング装置は、電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードと、を有し、前記低速データサンプリングモードと、前記高速データサンプリングモードとを切替可能とされていることを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る半導体装置の信頼性試験装置は、第5発明において、前記広域データサンプリング装置は、前記低速データサンプリングモードと、前記高速データサンプリングモードとを切り替える複数種の切り替え条件を記憶し、これら複数種の切り替え条件のうち、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件に基づいて前記両モード間を自動で切り替える切替制御部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明~第6発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、電源の正負電極と、複数の被試験対象である半導体装置の端子間と、をそれぞれ接続することで構成される複数の閉回路を備えており、閉回路が他の閉回路に影響を及ぼさないため、運用する電源を1台としても、閉回路間で干渉し合うことなく、個々の被試験対象である半導体装置についての試験結果を安定的に得ることができる。さらに、第1発明~第6発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、半導体装置が故障し短絡した場合等も、第1抵抗に印加電圧の大部分が分圧されるので、短絡した半導体装置のそれ以上の劣化を防ぐために電圧印加を停止することができる。
【0019】
特に、第2発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、第2抵抗の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して、電流値を記録する電流測定記録装置を備えており、第1抵抗は、第2抵抗よりも抵抗値が大きく設定されているので、半導体装置が故障し短絡した場合等も、第1抵抗が保護用の抵抗として機能するので、第2抵抗及び電流測定記録装置には、過大な電流が流れず、保護され、故障するおそれをより確実に低減することができる。
【0020】
特に、第3発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、電流測定記録装置は、その内部に、増幅器、A/D変換器、電流測定器、及び記録装置を有するので、微小な電流も増幅器で増幅して処理されるため、より精度の高い試験結果を得ることができる。
【0021】
特に、第4発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、電流測定記録装置は、その内部に、電流測定器で測定した電流値のデータを、その時間的変動速度に対して、広域でサンプリング可能な広域データサンプリング装置を更に有するので、信頼性評価試験時において、電流値のデータの時間的変動速度が大きい半導体装置、特にパワーデバイスの場合にも対応することができる。
【0022】
特に、第5発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、広域データサンプリング装置は、電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードと、を有し、低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを切替可能とされている。例えば、半導体装置がパワーデバイスの場合に、高温高湿逆バイアス試験を行うに当たって、データ変動が小さい、安定した長時間の電流データと、長時間の試験中に短時間だけ発生する、データ変動が大きい不安定な電流データが混在する場合に、安定した電流データは低速データサンプリングを行ってデータ蓄積量を削減し、不安定な電流データは高速データサンプリングを行って詳細なデータを取得するような、電流値のデータ取得の速度を変化させることが有効な半導体装置の信頼性評価試験に対応することができる。
【0023】
特に、第6発明に係る半導体装置の信頼性試験装置によれば、広域データサンプリング装置は、低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを切り替える複数種の切り替え条件を記憶し、これら複数種の切り替え条件のうち、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件に基づいて、前記両モード間を自動で切り替える切替制御部を有するので、より簡易に信頼性評価試験時における、電流値のデータのサンプリング速度の切り替えに対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置の概略構成を示す説明図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置における電流測定記録装置の概略構成を示す説明図である。
図3図3は、本発明の実施形態で用いられる広域データサンプリング装置の処理方法を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、図3の広域データサンプリング装置の処理方法を行った場合の試験データの一例を示すグラフである。
図5図5は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した1つ目のグラフである。
図6図6は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した2つ目のグラフである。
図7図7は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した3つ目のグラフである。
図8図8は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した4つ目のグラフである。
図9図9は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した5つ目のグラフである。
図10図10は、図4の試験データを得るための有効な切り替え条件を例示した6つ目のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用して例示した実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
[実施形態]
先ず、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置の構成について説明する。なお、本実施形態では、高温高湿逆バイアス試験を行う場合について説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置の概略構成を示す説明図であり、図2は、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置における電流測定記録装置の概略構成を示す説明図である。
【0028】
本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100は、図1に示すように、電圧印加用の電源1と、複数の閉回路C1と、第1抵抗31と、第2抵抗32と、電流測定記録装置4と、を備えている。
【0029】
電源1は、複数の閉回路C1において、その正極がパワーデバイスである半導体装置2のドレインDに接続され、その負極がソースSに接続され、電圧を印加する。なお、ここで例に取った半導体装置2はノーマリオフ型のFETであるので、逆バイアス試験を行うに当たり、半導体装置2のソースSとゲートGとの間は接続し、短絡させている。
【0030】
複数の閉回路C1は、半導体装置2と、第1抵抗31と、第2抵抗32とを直列に接続してそれぞれ構成されている。ここでは、複数の閉回路C1の構成をより簡易とするため、半導体装置2のソースSと電源1の負極との間に、隣り合う半導体装置2を配置し、複数の半導体装置2が並列となるようにしている。
【0031】
第1抵抗31及び第2抵抗32は、これらの抵抗値が、被試験対象である半導体装置2の漏出電流量に応じ、漏出電流を精度よく測定するに十分な電位差が第2抵抗32に発生し、且つ被試験対象である半導体装置2が故障して短絡した時に、試験電圧の大部分が第1抵抗31に分圧するように設定されている。すなわち、第1抵抗31は、第2抵抗32よりも抵抗値が大きく設定されている。
【0032】
例えば、試験中、0.1μA~10μAの範囲の漏出電流を生じるような被試験対象である半導体装置2に対して、電源1で出力電圧DC1000Vを印加するバイアス試験を実施する場合、第1抵抗31を1MΩ、第2抵抗32を10kΩとする。試験中、被試験対象である半導体装置2が故障し、短絡状態に陥った場合、第1抵抗31が存在しない状況下では、第2抵抗32に出力電圧の全てが印加され、第2抵抗32及び電流測定記録装置4に多大な電流が流れ、いずれも破壊されるおそれがある。しかし、第1抵抗31を取り付けることで、被試験対象である半導体装置2の故障時、出力電圧は第1抵抗31と第2抵抗32に直列に分圧される。この時、第1抵抗31に分圧される電圧は、出力電圧に(1MΩ/(1MΩ+10kΩ))で表される係数を乗じた、出力電圧の大部分を占める値となり、これにより第2抵抗32及び電流測定記録装置4を保護することができる。また、第1抵抗31は、被試験対象である半導体装置2の故障の後、出力電圧の大部分がこの第1抵抗31に分圧されることで、被試験対象である半導体装置2へのそれ以上の電圧印加を抑制する役割も同時に果たす。換言すると、故障した被試験対象である半導体装置2への試験電圧印加を停止することができる。
【0033】
電流測定記録装置4は、図1に示すように、第2抵抗32の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して設けられ、第2抵抗32両端部の電圧を測定し、増幅し、電流値に変換し、変換した電流値を測定して記録する。
【0034】
なお、電流測定記録装置4は、被試験対象である半導体装置2の故障前と後とで、第2抵抗32に流れる漏出電流を測定可能なA/D分解能と測定レンジを持たなくてはならない。この場合、電流測定記録装置4はA/D分解能を16ビット(65,536)とし、測定レンジを10Vと設定すれば、試験中の被試験対象である半導体装置2の故障前後での計測が可能となる。
【0035】
また、被試験対象である半導体装置2の故障前、漏出電流が0.1μA~10μAの範囲で生じる場合、漏出電流0.1μAを検出する場合の電流測定記録装置4の計測値は(0.1μA×10kΩ×65,536/10V)=6となり、漏出電流10μAを検出する場合の電流測定記録装置4の計測値は(10μA×10kΩ×65,536/10V)=655となる。
【0036】
また、被試験対象である半導体装置2の故障後、短絡電流値は(1,000V/(1MΩ+10kΩ))=0.0009901Aとなり、第2抵抗32の両端の電位差は(0.0009901A×10kΩ)=9.901Vとなり、電流測定記録装置4の計測値は(0.0009901A×10kΩ×65,536/10V)=64,887となる。
【0037】
以上のような第1抵抗31、第2抵抗32及び電流測定記録装置4の定数は一例である。被試験対象である半導体装置2の漏出電流特性や、試験系全体の回路性質に合わせて、定数を調整する必要がある。例えば、漏出電流の測定の際に生じる、熱雑音(サーマルノイズ)の発生を考慮すべきである。熱雑音は第2抵抗32の定数が大きくなる程増大するが、漏出電流の測定精度を向上させるには、第2抵抗32の定数を大きくするのが効果的でもある。また、第2抵抗32の定数を変更した場合は、第1抵抗31の定数も、抵抗比を考慮して変更する必要がある。目標とする漏出電流の測定精度を鑑みた上で、試験回路を構成する各要素の定数を決定するのが望ましい。
【0038】
なお、電源1の電力容量は、接続した全ての試料である半導体装置2が故障し短絡した場合に、回路全体で発生する電力量を許容する値でなくてはならない。よって、例えば、試料である半導体装置2を20台同時に供試し、それぞれに第1抵抗31として1MΩを、第2抵抗32として10kΩを使用し、全ての半導体装置2が試験中に故障し短絡した場合、試験回路全体の合成抵抗値は(20/1.01MΩ)の逆数で表される0.05MΩとなる。この時、試験回路全体に流れる電流量は、(1,000V/0.05MΩ)=20mAとなり、試験回路全体で消費する電力量は(20mA×1,000V)=20Wとなる。ここで、許容電流量21mA、許容電力量21Wの汎用の耐圧試験機をベースに用い、1台の電源1を使用して、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100を組み立てて、20台の試料である半導体装置2を同時に試験することが可能であることを確認した。
【0039】
さらに、より具体的には、電流測定記録装置4は、図2に示すように、その内部に、増幅器5、A/D変換器6、電流測定器7、広域データサンプリング装置70、及び記録装置8を有する。
【0040】
増幅器5は、第2抵抗32を流れる電流を、電流と第2抵抗32の抵抗値の積で表される電圧として測定し、その電圧を増幅してA/D変換器6へ送る。
【0041】
A/D変換器6は、増幅器5から送られてきた電圧のデータを、アナログデータからデジタルデータに変換して電流測定器7へ送る。
【0042】
電流測定器7は、A/D変換器6から送られてきたデジタルデータの電圧データを、第2抵抗32の抵抗値で除することで電流値に変換し、測定し、記録する。
【0043】
広域データサンプリング装置70は、電流測定器7で測定した電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードと、を有し、さらに、低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを、後述の複数種の切り替え条件(Trigger)を記憶し、これらの複数種の切り替え条件(Trigger)のうち、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件(Trigger)に基づいて、両モード間を自動で切り替える切替制御部70aで切替可能とされている。なお、広域データサンプリング装置70の処理方法の詳細については後述する。
【0044】
記録装置8は、時計9から得た時間データと紐付けられた、広域データサンプリング装置70でサンプリングされた電流値のデータを記録する。なお、記録装置8には、波形を階層的に記憶可能なウェーブメモリ等が好適に使用される。
【0045】
そして、電流測定記録装置4の全体を制御する中央演算処理装置CPU(Central Processing Unit)10から、不図示のパーソナルコンピュータ等の端末に送られた時間データと紐付けられた電流値のデータに基づいて、この端末により、試験結果が処理され、出力される。
【0046】
次に、図3に基づいて、広域データサンプリング装置70の処理方法の詳細について説明する。
【0047】
広域データサンプリング装置70では、上述したように、電流測定器7で測定した電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件(Trigger)に基づいて両モード間を自動で切り替える切替制御部70aで切替可能とされ、図3に示したように具体的な処理が行われる。
【0048】
被試験対象である半導体装置2の漏出電流の変動が小さいデータ安定期には低速データサンプリングモードで低速サンプリングを行う(ステップS1)。
【0049】
被試験対象である半導体装置2の劣化が進行し、漏出電流の変動が大きくなり、単一或いは複数の低速から高速切り替え条件(Trigger)を満たした場合にはデータ変動期と判定され、高速データサンプリングモードで高速サンプリングを行う(ステップS2)。低速から高速切り替え条件(Trigger)を一つも満たさない場合には、低速データサンプリングモードで低速サンプリングを継続する(ステップS1)。
【0050】
また、データ変動期にあって、複数の高速から低速切り替え条件(Trigger)を全て満たした場合にはデータ安定期と判定され、低速データサンプリングモードで低速サンプリングを行う(ステップS1)。高速から低速切り替え条件(Trigger)を一つでも満たさない場合は、高速データサンプリングモードで高速サンプリングを継続する(ステップS2)。
【0051】
また、データ安定期とデータ変動期のいずれにあっても、規定の電流量の超過や規定の試験時間の経過を以て測定を停止する条件を設定し、停止条件の満足を以て測定を自動的に終了する。
【0052】
このようにして測定を行った場合、横軸を試験経過時間、縦軸を漏出電流値とする図4のような試験データを一例として得ることができる。
【0053】
ここで、図4の電流データ(1)においては、試験開始直後は被試験対象である半導体装置2の漏出電流の変動が小さく、データ安定期にあるので、例えば1秒以上の周期を用いて漏出電流値を記録する。
【0054】
また、電流データ(1)において、漏出電流値が階段状に急増するデータ変動期にあっては、高速データサンプリングモードで高速サンプリングを行うことで、被試験対象である半導体装置2の劣化に伴う電流値挙動を細かく記録する。漏出電流値の急増後、一時的なデータ安定期にあっては、低速データサンプリングモードによる低速サンプリングに復する。更にその後、データ変動期が発生した場合は、再度高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを行う。
【0055】
また、電流データ(2)においても同様に、ノイジーなデータ変動期においてのみ、高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを行う。
【0056】
また、電流データ(1)及び(2)のいずれも、特定の停止条件を満たすことで試験を終了する。
【0057】
ここで、被試験対象である半導体装置2が、数百~数千時間のバイアス試験を必要とするパワーデバイスである場合、その劣化及び故障は、長時間の試験時間の中で突発的かつ瞬間的な漏出電流値の変動という形で出現することが多い。そのため、試験データの大部分はデータ安定期に属し、データ変動期の時間は短い。データ安定期には1秒以上の周期の低速データサンプリングモードによる低速サンプリングを行い、データ変動期にのみ例えば1GHz(1ナノ秒)~10GHz(0.1ナノ秒)の周期の高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを行うことで、効率的な試験の運用が可能となる。
【0058】
図4に示すような精妙なデータ取得を可能とするには、適切な低速データサンプリングモードによる低速サンプリングと高速データサンプリングモードによる高速サンプリングの切り替え条件(Trigger)の設定が必要である。よって、いくつかの有効な切り替え条件(Trigger)を以下に例示する。
【0059】
図5に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値が、直前の値に比較して特定の相対値以上となった場合に、データ変動期と判定して高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを開始し、例えば、特定の相対値10倍以上の場合とする。
【0060】
すなわち、図5に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、データ安定期からデータ変動期への切り替わりにおける漏出電流値の変化の大きさや、変化後の漏出電流値は、個々のパワーデバイスによって異なるので、判定直前の電流値を基準とした相対値を判定基準に用いることで、個々のパワーデバイスのデータのレンジに応じた、急激なデータ変動の判定ができるようになる。
【0061】
図6に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値が、特定の絶対値を超えた場合に、データ変動期と判定して高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを開始する。
【0062】
すなわち、図6に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、特定の絶対値を、試験対象となるパワーデバイスが、明らかに故障したと判断されるような異常電流値として用いれば、図示した急激なデータ変動だけでなく、漏出電流値が比較的緩やかに異常電流値に到達した場合等でも、データ変動期として検出することが可能である。
【0063】
図7に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値の移動平均値が、直前の値に比較して特定の相対値以上となった場合に、データ変動期と判定して高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを開始し、例えば、特定の相対値10倍以上の場合とする。
【0064】
すなわち、図7に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流値のデータのノイズが大きく、変動が判定しにくい場合でも、移動平均値を判定基準に用いることで、ノイズを抑制し、適切な判定を行うことができる。また、移動平均値の相対値を用いることで、個々のパワーデバイスの漏出電流データのレンジに応じた判定を行うことができる。
【0065】
図8に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値の限定された小範囲内の最大値及び最小値が、特定の相対値を超えた場合に、データ変動期と判定して高速データサンプリングモードによる高速サンプリングを開始する。また、図8に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値の限定された小範囲内の最大値及び最小値が、特定の相対値の範囲内に収まった場合に、データ安定期と判定して、低速データサンプリングモードによる低速サンプリングを開始することもできる。すなわち、この図8に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、波形(a1)、移動平均値(a2)、最大値及び最小値(a3)とすると、これらの乱れ検出を以て判定を行うものである。
【0066】
すなわち、この図8に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、データ変動期においては、漏出電流値の乱れを生じることが多く、移動平均値を用いると、漏出電流の計測値の限定された小範囲との兼ね合いで有意な差を生じず、乱れを判定できない場合があるが、最大値及び最小値(a3)を用いて判定できる場合がある。
【0067】
図9に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値が、直前の値に比較して特定の相対値の範囲以内に一定数収まった場合に、データ安定期と判定して低速データサンプリングモードによる低速サンプリングを開始し、例えば、特定の相対値10倍以上の場合とする。
【0068】
すなわち、この図9に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、判定直前の電流値を基準とした相対値を判定基準に用いることで、個々のパワーデバイスのデータのレンジに応じた、急激なデータ変動の判定ができるようになる。
【0069】
図10に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流の計測値の移動平均値が、直前の値に比較して特定の相対値の範囲以内に一定数収まった場合に、データ安定期と判定して低速データサンプリングモードによる低速サンプリングを開始し、例えば、特定の相対値10倍以上の場合とする。
【0070】
すなわち、この図10に例示した有効な切り替え条件(Trigger)では、漏出電流値のデータのノイズが大きく、変動が判定しにくい場合でも、移動平均値を判定基準に用いることで、ノイズを抑制し、適切な判定を行うことができるとともに、移動平均値の相対値を用いることで、個々のパワーデバイスの漏出電流データのレンジに応じた判定を行うことができる。
【0071】
なお、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100では、図5図10に例示した複数種の有効な切り替え条件(Trigger)のデータを、広域データサンプリング装置70の切替制御部70aに記憶させておき、これらの有効な切り替え条件(Trigger)を適宜用いて制御が行われる。
【0072】
以上説明した本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、電源1の正負電極と、複数の被試験対象である半導体装置2の端子D,S間と、をそれぞれ接続することで構成される複数の閉回路C1を備えているので、閉回路C1が他の閉回路C1に影響を及ぼさないため、運用する電源1を1台としても、精度の高い試験結果を安定的に得ることができる。さらに、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、第2抵抗32の両端部間にその測定端部をそれぞれ接続して設けられ、電流値を測定して記録する電流測定記録装置4を備えているので、半導体装置2の端子D,S間が短絡した場合等も、第1抵抗31及び第2抵抗32の存在により大電圧が印加され、電流測定記録装置4には、過大な電流が流れず、保護され、故障するおそれはほとんどない。
【0073】
また、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、第1抵抗31は、第2抵抗32よりも抵抗値が大きく設定されているので、半導体装置2の端子D,S間が短絡した場合等も、第1抵抗31が保護用の抵抗として機能するので、第2抵抗32及び電流測定記録装置4には、過大な電流が流れず、保護され、故障するおそれをより確実に低減することができ、そのうえ、故障した被試験対象である半導体装置2への電圧印加も抑制することができる。
【0074】
また、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、電流測定記録装置4は、その内部に、増幅器5、A/D変換器6、電流測定器7、及び記録装置8を有するので、微小な電流も増幅器5で増幅して処理されるため、より精度の高い試験結果を得ることができる。
【0075】
また、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、電流測定記録装置4は、その内部に、電流測定器7で測定した電流値のデータを、その時間的変動速度に対して広域でサンプリング可能な広域データサンプリング装置70を更に有するので、信頼性評価試験時における電流値のデータの時間的変動速度が大きい半導体装置2にも対応することができるため、上述したように半導体装置2がパワーデバイスの場合に、高温高湿逆バイアス試験のような長時間測定時に発生する電流値のデータの時間的変動速度が大きい短時間現象を捉えるのに特に有効である。更に言えば、本発明の実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100は、回路機能の高速動作を可能とするGaN-HEMTを代表とする次世代型パワーデバイスの高温高湿逆バイアス試験等の信頼性試験にも有効である。
【0076】
また、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、広域データサンプリング装置70は、電流値のデータの時間的変動速度に適した低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードと、を有し、低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを切替可能とされているので、簡易に信頼性評価試験時における電流値のデータの時間的変動速度が大きい半導体装置2に対応することができる。
【0077】
さらに、この実施形態に係る半導体装置の信頼性試験装置100によれば、広域データサンプリング装置70は、低速データサンプリングモードと、高速データサンプリングモードとを切り替える図5図10に例示したような複数種の切り替え条件(Trigger)を記憶し、これら複数種の切り替え条件(Trigger)のうち、電流値の変動傾向に応じた切り替え条件(Trigger)に基づいて両モード間を自動で切り替える切替制御部70aを有するので、より簡易に信頼性評価試験時における電流値のデータの時間的変動速度が大きい半導体装置2に対応することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0079】
例えば、被試験対象である半導体装置2は、パワーデバイスに限定されず、その他の半導体装置であってもよい。
【0080】
また、半導体装置の信頼性試験装置100は、上述したノーマリオフ型のFETを例に取った試験回路構成に限定されず、ノーマリオン型のFETを例に取った試験回路構成等で実施してもよい。また、半導体装置の信頼性試験装置100は、コレクタCとエミッタEで表現されるような試験回路構成を持つIGBTや、アノードとカソードで表現されるような試験回路構成を持つDIODE等、その他の試験回路構成等で実施してもよい。
【符号の説明】
【0081】
100 半導体装置の信頼性試験装置
1 電源
2 半導体装置
D (半導体装置の)ドレイン(端子)
S (半導体装置の)ソース(端子)
31 第1抵抗
32 第2抵抗
4 電流測定記録装置
5 増幅器
6 A/D変換器
7 電流測定器
70 広域データサンプリング装置
70a 切替制御部
8 記録装置
9 時計
10 CPU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10