(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137852
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、射出成形体および自動車内装部品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20230922BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20230922BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230922BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20230922BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/02
C08L23/08
C08L23/16
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044258
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中辻 亮
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛治
(72)【発明者】
【氏名】菅原 敬
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE053
4J002BB002
4J002BB052
4J002BB062
4J002BB111
4J002BP014
4J002CP035
4J002FD010
4J002FD140
4J002FD150
4J002GC00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】流動性および成形品の柔軟性に優れ、かつ成形品のべたつきが抑制できる熱可塑性エラストマー組成物などを提供する。
【解決手段】プロピレン系重合体(A)と、オレフィン系共重合体(B)と、軟化剤(C)とを含有し、前記(B)が、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)とを含有し、前記(B)中の前記(B1)の含有量が0~99質量%であり、前記(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、前記(A)の含有量が前記(B)100質量部に対し25~300質量部であり、かつ、前記(C)の含有量が前記(B)100質量部に対し120質量部より多く、300質量部以下である熱可塑性エラストマー組成物など。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体(A)と、
オレフィン系共重合体(B)と、
軟化剤(C)と、
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)が、
エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、
エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)と
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~300質量部であり、かつ、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、300質量部以下である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~95質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体の含有量(B2)が5~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、290質量部以下である、請求項1に熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
熱可塑性エラストマー組成物が、ブロック共重合体の水素添加物(D)をさらに含有する、請求項1または2に熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体の水素添加物(D)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、30~350質量部である、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~250質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記オレフィン系共重合体(B)の少なくとも一部が架橋されてなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む射出成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の射出成形体からなる自動車内装部品。
【請求項9】
プロピレン系重合体(A)と、
オレフィン系共重合体(B)と、
軟化剤(C)と、
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)が、
エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、
エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)と
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~300質量部であり、かつ、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、300質量部以下である熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、前記プロピレン系重合体(A)と、前記オレフィン系共重合体(B)と、前記軟化剤(C)とを、架橋剤(F)の存在下に、動的に熱処理をする工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性エラストマー組成物、当該熱可塑性エラストマー組成物を含む射出成形体および当該射出成形体からなる自動車内装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(PP)等のラジカル架橋性がない樹脂と、ラジカル架橋性エラストマーと、をラジカル開始剤の存在下、押出機中で溶融混練させながら架橋する、いわゆる動的架橋による熱可塑性エラストマー組成物は、内装表皮材などの自動車部品等に広く使用されている。
【0003】
このようなゴム系組成物として、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)を用いたオレフィン系エラストマー組成物等が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。また、水素添加ゴムを動的架橋させた組成物も知られている(特許文献3、特許文献4参照)。さらには、オレフィン系樹脂とビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体の水添物を用いた熱可塑性エラストマー組成物が開示されている(特許文献5、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-120127号公報
【特許文献2】特開平9-137001号公報
【特許文献3】特許第2737251号公報
【特許文献4】特開2004-67798号公報
【特許文献5】特開2001-49051号公報
【特許文献6】特開2005-89656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車内装表皮材に用いられる熱可塑性エラストマー組成物には、一般的に高い流動性が求められると同時に、成形品の柔軟性が高いことが求められる。成形品の柔軟性を損なわないようにしつつ組成物の流動性を高めるために軟化剤を多量に添加することが通常行われるところ、軟化剤を多量に添加すると成形品の表面にべたつきが生じ、触感が損なわれる傾向にあった。
近年では自動車のデザインの観点から、自動車内装表皮材の表面のべたつきを抑えつつ、成形品の柔軟性および組成物の流動性を高めることが求められており、これらの要求性能をすべて十分に満足する熱可塑性エラストマー組成物の実現が望まれている。
【0006】
本開示は、上記現状に鑑み、流動性および成形品の柔軟性に優れ、かつ成形品のべたつきが抑制できる熱可塑性エラストマー組成物、当該組成物を含む射出成形品および当該射出成形体からなる自動車内装部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
プロピレン系重合体(A)と、
オレフィン系共重合体(B)と、
軟化剤(C)と、
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)が、
エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、
エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)と
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~300質量部であり、かつ、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、300質量部以下である、熱可塑性エラストマー組成物。
【0008】
[2]
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~95質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体の含有量(B2)が5~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、290質量部以下である、[1]に熱可塑性エラストマー組成物。
【0009】
[3]
熱可塑性エラストマー組成物が、ブロック共重合体の水素添加物(D)をさらに含有する、[1]または[2]に熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
[4]
前記ブロック共重合体の水素添加物(D)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、30~350質量部である、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[5]
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~250質量部である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[6]
前記オレフィン系共重合体(B)の少なくとも一部が架橋されてなる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む射出成形体。
【0014】
[8]
[7]に記載の射出成形体からなる自動車内装部品。
【0015】
[9]
プロピレン系重合体(A)と、
オレフィン系共重合体(B)と、
軟化剤(C)と、
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)が、
エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、
エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)と
を含有し、
前記オレフィン系共重合体(B)中の前記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%であり、前記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、
前記プロピレン系重合体(A)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~300質量部であり、かつ、
前記軟化剤(C)の含有量が、前記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、300質量部以下である熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、前記プロピレン系重合体(A)と、前記オレフィン系共重合体(B)と、前記軟化剤(C)とを、架橋剤(F)の存在下に、動的に熱処理をする工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、流動性および成形品の柔軟性に優れ、かつ成形品のべたつきが抑制できる熱可塑性エラストマー組成物、当該組成物を含む射出成形品および当該射出成形体からなる自動車内装部品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」および「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
さらに、「A及び/又はB」の記載は、Aの場合、Bの場合、および、AとBの両方の場合のいずれをも含む概念である。
【0018】
<プロピレン系重合体(A)>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つであるプロピレン系重合体(A)〔以下、「成分(A)」と呼称する場合がある。〕は、該重合体を構成する構成単位のうち、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上である重合体のことをいい、成分(A)中のプロピレンに由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明に係る成分(A)は、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のコモノマーとの共重合体であってもよい。
【0020】
本発明に係る成分(A)の構造は特に制限されず、例えば、プロピレン由来の構成単位部分は、アイソタクチック構造でも、シンジオタクチック構造でも、アタクチック構造でもよい。また、前記共重合体の場合、ランダム型〔ランダムPPとも呼称〕、ブロック型〔ブロックPP:bPPとも呼称〕、グラフト型のいずれであってもよい。
【0021】
前記コモノマーとしては、プロピレンと共重合可能な他のモノマーであればよく、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。コモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有量は、耐熱性や機械強度等の点から、好ましくは10モル%以下である。
【0022】
本開示に係る成分(A)は、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばサンアロマー(株)のポリプロピレン、(株)プライムポリマーのプライムポリプロ、日本ポリプロピレン(株)のノバテック、SCG Plastics社のSCG PP等が挙げられる。
【0023】
本開示に係る成分(A)は、結晶性の重合体であってもよく、また、非結晶性の重合体であってもよい。ここで、結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)において、融点(Tm)が観測されることを意味する。
本開示に係る成分(A)が結晶性の重合体である場合、その融点(JIS K 7121の測定方法に準拠)は、耐熱性等の点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0024】
本開示に係る成分(A)のMFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは0.1~50g/10分であり、さらに好ましくは0.1~5.0g/10分である。
本開示に係る成分(A)のMFRが前記範囲にあると、耐熱性、機械的強度、流動性、成形加工性に優れる組成物を容易に得ることができる。
【0025】
<オレフィン系共重合体(B)>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つであるオレフィン系共重合体(B)〔以下「成分B」と呼称する場合がある。〕は、下記エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)とを含有し、当該オレフィン系共重合体(B)中のエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%、好ましくは0~95質量%、より好ましくは0~85質量%、さらに好ましくは0~75質量%であり、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%、好ましくは5~100質量%、より好ましくは15~100質量%、さらに好ましくは25~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕である。
【0026】
成分(B)は、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)単独でもよいが、成分(B)がエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)を含むと、得られる熱可塑性エラストマー組成物はべたつき、および、流動性により優れる。
【0027】
〈エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)〉
本開示に係わるオレフィン系共重合体(B)に含まれる成分の一つであるエチレン・α-オレフィン共重合体(B1)〔以下、「成分(B1)」と呼称する場合がある。〕は、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位とを含むエチレン・α-オレフィン共重合体である。
【0028】
本開示に係る成分(B1)は、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィンを少なくとも共重合させることで得ることができる。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらの中で、柔軟性付与の観点から、炭素数3~12のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-オクテンがより好ましく、1-オクテンがさらに好ましい。
【0029】
本開示に係る成分(B1)は、通常、エチレンから導かれる単位が70~99モル%、好ましくは80~97モル%の範囲、および炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位が1~30モル%、好ましくは3~20モル%の範囲〔但し、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位との合計量を100モル%とする。〕にある。エチレンから導かれる単位の含有比率は前記範囲内であることで、機械特的強度に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得るうえで好ましい。
【0030】
本開示に係る成分(B1)は、通常、MFR(ASTM D1238 荷重2.16kg、温度190℃)が、0.1~20g/10分であり、好ましくは0.3~10g/10分の範囲にある。
本開示に係る成分(B1)を上記範囲内のMFRとすることで、流動性と機械的強度のバランス特性がより優れた熱可塑性エラストマー組成物とすることができる。
本開示に係る成分(B1)は、通常、密度が0.8~0.9g/cm3の範囲にある。
【0031】
本開示に係る成分(B1)は、たとえば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム系触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒を用いて製造することができる。重合方法としても特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。また、これらの共重合体は、本発明の効果を奏する限り限定されず、市販品としても入手可能である。市販品としては、たとえば、ダウ・ケミカル社製の商品名エンゲージ8842〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、エクソンモービル社製のVistalon(登録商標)、住友化学(株)社製のエスプレン(登録商標)、タフマーP(登録商標)、タフマーA(登録商標)などが挙げられる。
【0032】
〈エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)〉
本開示に係わるオレフィン系共重合体(B)に含まれる成分の一つであるエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)〔以下、「成分(B2)」と呼称する場合がある。〕は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと非共役ポリエンとを共重合してなる。
本開示に係わる成分(B2)は、エチレン由来の構成単位、炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位、および非共役ポリエン由来の構成単位を有する共重合体である。
本開示に係わる成分(B2)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0033】
本開示に係わる成分(B2)を構成する炭素数3~20のα-オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセンおよび12-エチル-1-テトラデセンなどが挙げられる。
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、炭素数3~12のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンがより好ましく、さらにプロピレンが好ましい。
炭素数3~20のα-オレフィンは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
本開示に係わる成分(B2)を構成する非共役ポリエンとしては、具体的には、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、および7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-イソブテニル-2-ノルボルネン、シクロペンタジエンおよびノルボルナジエン等の環状非共役ジエン;8-メチル-4-エチリデン-1,7-ノナジエン、4-エチリデン-1,7-ウンデカジエン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエンなどが挙げられる。なかでも、5-エチリデン-2-ノルボルネンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンが好ましい。
これらの非共役ポリエンは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0035】
本開示に係わる成分(B2)としては、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネンランダム共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネンランダム共重合体などを例示することができる。
本開示に係わる成分(B2)は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとのモル比(エチレン/α-オレフィン)、言い換えるとエチレン由来の構成単位と、炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位とのモル比が、通常は50/50~90/10であり、好ましくは50/50~85/15である。
【0036】
本開示に係わる成分(B2)は、非共役ポリエン由来の構成単位を、通常は1.0~25.0質量%、好ましくは3.0~20質量%、より好ましくは4.0~15質量%の範囲内で含む。
【0037】
本開示に係わる成分(B2)のヨウ素価は、好ましくは1~50g/100gであり、より好ましくは3.0~40.0g/100gであり、さらに好ましくは5.0~35.0g/100gである。ヨウ素価が前記範囲内にあると、架橋密度が大きい架橋体を得ることができ、熱可塑性エラストマー組成物のオイル保持性を高めることができるため好ましい。
【0038】
本開示に係わる成分(B2)は、通常、135℃、デカリン中で測定される極限粘度〔η〕が好ましくは0.5~7.0dl/gであり、より好ましくは1.0~5.0dl/g、さらに好ましくは1.0~4.0dl/gである。極限粘度が前記範囲内にあると物性と加工性のバランスが良好であるため好ましい。
【0039】
本開示に係わる成分(B2)としては、市販されているものを用いてもよく、重合を行い得られた重合体を用いてもよい。
【0040】
《エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の製造方法》
本開示に係わる成分(B2)は、特開平9-71617号公報、特開平9-71618号公報、特開平9-208615号公報、特開平10-67823号公報、特開平10-67824号公報、特開平10-110054号公報などに記載されているような従来公知の方法により調製することができ、特に限定されないが、たとえば、以下の製法により製造することが好ましい。
【0041】
本開示に係わる成分(B2)は、下記一般式(I-a)又は下記一般式(I-b)で表わされるバナジウム化合物および下記一般式(II)で表わされる有機アルミニウム化合物を主成分として含有する触媒の存在下に、重合温度30~60℃、特に好ましくは30~59℃、重合圧力0.4~5.0MPa、特に好ましくは0.5~4.0MPa、非共役ポリエンとエチレンとの供給量のモル比(非共役ポリエン/エチレン)0.01~0.2の条件で、エチレンと、炭素原子数3~20のα-オレフィンと、非共役ポリエンとをランダム共重合することにより得られる。共重合は、炭化水素媒体中で行なうのが好ましい。
【0042】
〔バナジウム化合物〕
バナジウム化合物は、重合反応系の炭化水素媒体に可溶性の成分であり、具体的には、
VO(OR)aXb・・・(I-a)または
V(OR)cXd・・・(I-b)
(式中、Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦a+b≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦c+d≦4)
で表わされるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与体付加物を代表例として挙げることができる。
【0043】
より具体的には、VOCl3、VO(OC2H5)Cl2、VO(OC2H5)2Cl、VO(O-iso-C3H7)Cl2、VO(O-n-C4H9)Cl2、VO(OC2H5)3、VOBr3、VCl4、VOCl3、VO(O-n-C4H9)3、VCl3・2OC6H12OHなどを例示することができる。
【0044】
〔有機アルミニウム化合物〕
有機アルミニウム化合物は、下記一般式(II)で表わされる化合物である。
R’mAlX’3-m・・・(II)
(式中、R’は炭化水素基であり、X’はハロゲン原子であり、mは1~3である。)
【0045】
有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシド;エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシド等のアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;R1
0.5Al(OR1)0.5などで表わされる平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のジアルキルアルミニウムハライド;エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミド等のアルキルアルミニウムセスキハライド、エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミド等のアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリド等のジアルキルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリド等のアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウムなどを挙げることができる。
【0046】
本開示において、上記化合物(I-a)のうち、VOCl3で表わされる可溶性バナジウム化合物と、上記化合物(II)のうち、Al(OC2H5)2Cl/Al2(OC2H5)3Cl3とのブレンド物(ブレンド比(モル比)は1/5以上)を触媒成分として使用すると、ソックスレー抽出(溶媒:沸騰キシレン、抽出時間:3時間、メッシュ:325)後の不溶解分が1%以下である前記共重合体ゴム(A)が得られるので好ましい。
【0047】
また、上記共重合の際に使用する触媒として、いわゆるメタロセン触媒、たとえば特開平9-40586号公報または特開2010-241897号公報に記載されているメタロセン系触媒を用いても差し支えない。さらに上記共重合の際に使用する触媒としては、非メタロセン触媒、例えばWO2006/121086号公報に記載されている遷移金属錯体触媒を用いてもよい。
【0048】
<軟化剤(C)>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つである軟化剤(C)〔以下、「成分(C)」と呼称する場合がある。〕は、特に限定されないが通常ゴムに使用される可塑剤を用いることができる。上記プロピレン系重合体(A)およびエチレン・α―オレフィン共重合体(B)などとの相溶性の観点から、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の炭化水素からなるプロセスオイルが好ましい。これら成分(C)の中でも耐候性や着色性の観点からはパラフィン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましく、相溶性の観点からはナフテン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましい。熱及び光安定性の観点から、プロセスオイル中の芳香族系炭化水素の含有量は、ASTM D2140-97に規定する炭素数比率で、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
【0049】
<ブロック共重合体の水素添加物(D)>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つであるブロック共重合体の水素添加物(D)〔以下、「成分(D)」、あるいは「水添物(D)」と呼称する場合がある。〕は、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックと、ビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックとをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である。
本開示に係る成分(D)は、共役ジエン単量体に由来する単量体単位の、少なくとも一部が水素添加(以下、「水添」と呼称する場合がある。)されてなる。
【0050】
ここで、「ビニル芳香族単量体単位」とは、単量体であるビニル芳香族化合物を重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、置換ビニル基に由来する置換エチレン基の二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。また、「共役ジエン単量体単位」とは、単量体である共役ジエンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、共役ジエン単量体に由来するオレフィンの二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。
【0051】
本開示に係る成分(D)において、「主体とする」とは、共重合体ブロック中、共役ジエン単量体(又はビニル芳香族単量体)に由来する単量体単位を当該共重合体ブロック中に50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上含むことをいう。例えば、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックとは、共役ジエン単量体に由来する単量体単位を当該ブロック中に50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上含むことを意味する。
【0052】
本開示に係る成分(D)における、ビニル芳香族単量体は、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等のビニル芳香族化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0053】
本開示に係る成分(D)における、共役ジエン単量体は、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から、ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
本開示に係る成分(D)における各ブロックの配置は、特に限定されず、適宜好適なものを採用することができる。例えば、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックをSで表示し、共役ジエン単量体単位の少なくとも一部が水添された単位からなる重合体ブロックをBで表す場合、このブロック共重合体の水添物は、SB、S(BS)n1(ここで、n1は1~3の整数を表す。)、S(BSB)n2(ここで、n2は1~2の整数を表す。)等で表されるリニアブロック共重合体や、(SB)n3X(ここで、n3は3~6の整数を表す。Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ、ポリエポキシ化合物等のカップリング剤残基を表す。)で表される共重合体が挙げられる。これらの中でも、SBの2型(ジブロック)、SBSの3型(トリブロック)、SBSBの4型(テトラブロック)のリニアブロック共重合体が好ましい。
【0055】
ここで、重合体ブロックBは、共役ジエン単量体単位のみからなる重合体ブロックであっても、共役ジエン単量体単位を主体として含み、かつビニル芳香族単量体単位を含む(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位が共重合した)重合体ブロックであってもよく、いずれの重合体ブロックも共役ジエン単量体単位の少なくとも一部は水添されてなる。
【0056】
本開示に係る成分(D)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により測定することができる。
本開示に係る成分(D)中のビニル芳香族単量体単位ブロックの含有量は、機械的強度の観点から、10質量%以上であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。ここで、成分(D)中のビニル芳香族化合物重合体ブロックの含有量は、四酸化オスミウムを触媒として水添前の共重合体をtert-ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I. M. Kolthoff,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法、以下、「四酸化オスミウム分解法」ともいう。)により得たビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量(ここで、平均重合度が約30以下のビニル芳香族化合物重合体は除かれている)を用いて、下記式で定義される。
ビニル芳香族化合物重合体ブロックの含有量(質量%)=(水添前の共重合体中のビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量/水添前の共重合体の質量)×100
【0057】
本開示に係る成分(D)中に重合体ブロックが複数存在している場合には、各々の分子量や組成等の構造は同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、成分(D)中に、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む水添共重合体ブロックと、共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロックとが存在してもよい。各ブロックの境界や端部は必ずしも明瞭に区別される必要はない。各重合体ブロック中のビニル芳香族単量体単位の分布の態様は、特に限定されず、均一に分布していてもよいし、テーパー状、階段状、凸状、あるいは凹状に分布していてもよい。また、重合体ブロック中に、結晶部が存在していてもよい。
【0058】
本開示に係る成分(D)中における各重合体ブロック中の共役ジエン単量体単位のビニル単位の分布の態様は、特に限定されず、例えば、分布に偏りがあってもよい。ビニル単位の分布を制御するための方法としては、重合中にビニル化剤を添加する方法や、重合温度を変化させる方法等が挙げられる。また、共役ジエン単量体単位の水添率の分布に偏りがあってもよい。水添率の分布は、ビニル単位の分布の状況を変更する方法や、イソプレンとブタジエンを共重合した後に、後述される水添触媒を用いて水添し、イソプレン単位とブタジエン単位の水添速度の差を利用する方法等により制御することができる。
【0059】
本開示に係る成分(D)は、耐熱性、耐老化性及び耐候性の観点から、水添前の共役ジエン単量体単位中に含まれる不飽和結合のうち、好ましくは75モル%以上が、より好ましくは85モル%以上が、更に好ましくは97モル%以上が水添されている。
水添に用いる水添触媒は特に限定されず、従来から公知である。
(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、
(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、
(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒を用いることができる。
【0060】
具体的な水添触媒としては、特公昭42-008704号公報、特公昭43-006636号公報、特公昭63-004841号公報、特公平01-037970号公報、特公平01-053851号公報、特公平02-009041号公報等に記載された水添触媒を使用することができる。これらの中でも、好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物等の還元性有機金属化合物が挙げられる。
【0061】
チタノセン化合物としては、例えば、特開平08-109219号公報に記載された化合物が使用でき、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上有する化合物等が挙げられる。
還元性有機金属化合物としては、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0062】
本開示に係る成分(D)における上記水添前のブロック共重合体の重合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することもできる。例えば、特公昭36-019286号公報、特公昭43-017979号公報、特公昭46-032415号公報、特公昭49-036957号公報、特公昭48-002423号公報、特公昭48-004106号公報、特公昭56-028925号公報、特開昭59-166518号公報、特開昭60-186577号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0063】
必要に応じて、成分(D)は、極性基を有してもよい。極性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、チオカルボン酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、アルコキシケイ素基、ハロゲン化スズ基、ボロン酸基、ホウ素含有基、ボロン酸塩基、アルコキシスズ基、フェニルスズ基等が挙げられる。
【0064】
本開示に係る成分(D)中の水添前のブロック共重合体における共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、柔軟性及び耐傷性の観点から、5モル%以上が好ましく、生産性、破断伸び性及び耐傷性の観点から、70モル%以下が好ましい。共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、10~50モル%がより好ましく、10~30モル%が更に好ましく、10~25モル%がより更に好ましい。
ここでいう、ビニル結合含有量とは、水添前の共役ジエンの1,2-結合、3,4-結合及び1,4-結合の結合様式で組み込まれているうちの、1,2-結合及び3,4-結合で組み込まれているものの割合を意味する。ビニル結合含有量は、NMRによって測定することができる。
【0065】
架橋する前の成分(D)の重量平均分子量は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、好ましくは5万以上であり、成形流動性の観点から、好ましくは40万以下であり、より好ましくは5万~30万である。分子量分布(Mw/Mn:重量平均分子量/数平均分子量)は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、1に近い値であることが好ましい。重量平均分子量及び数平均分子量は、溶媒に、テトラヒドロフラン(1.0mL/分)を使用し、オーブン温度40℃の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;島津製作所製、装置名「LC-10」)、カラム:TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm、2本)により求めることができる。重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算分子量として算出される。
【0066】
<ポリオルガノシロキサン(E)>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物に含まれてよい成分の一つであるポリオルガノシロキサン(E)〔以下、「成分(E)」と呼称する場合がある。〕の構造としては、特に限定されないが、耐摩耗性や手触り感の観点から、直鎖状、分岐状、又は架橋構造のポリマー構造をとることが好ましい。
【0067】
本開示に係る成分(E)は、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。好ましいポリオルガノシロキサンとしては、アルキル基、ビニル基、アリール基等の置換基を有するシロキサン単位を含むポリマーであり、これらの中でも特に、アルキル基を有するポリオルガノシロキサンが好ましく、メチル基を有するポリオルガノシロキサンがより好ましい。
【0068】
メチル基を有するポリオルガノシロキサンの具体例としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。これらの中でも、ポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0069】
本開示に係る成分(E)は、その動粘度は、特に限定されないが、耐摩耗性および耐傷性の観点から、JIS Z8803に規定する動粘度(25℃)は5000センチストークス(cSt)以上であることが好ましい。また、得られる熱可塑性エラストマー組成物における成分(E)の分散性が向上する傾向にあり、外観に優れ、溶融押出時の品質安定性も一層向上する傾向にある観点から、成分(E)の動粘度は300万cSt未満であることが好ましい。成分(E)の動粘度は、1万cSt以上300万cSt未満であることがより好ましく、5万cSt以上300万cSt未満であることが更に好ましい。
【0070】
≪熱可塑性エラストマー組成物≫
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、上記プロピレン系重合体(A)と、上記オレフィン系共重合体(B)と、上記軟化剤(C)とを含有し、上記オレフィン系共重合体(B)が、上記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)と上記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)を含有し、上記オレフィン系共重合体(B)中の上記エチレン・α-オレフィン共重合体(B1)の含有量が0~99質量%であり、上記エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体(B2)の含有量が1~100質量%〔ただし、(B1)と(B2)の含有量の合計を100質量%とする。〕であり、上記プロピレン系重合体(A)の含有量が、上記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、25~300質量部、好ましくは25~250質量部、より好ましくは30~230質量部、さらに好ましくは35~200質量部および、上記軟化剤(C)の含有量が、上記オレフィン系共重合体(B)100質量部に対し、120質量部より多く、300質量部以下、好ましくは120より多く290質量部以下、より好ましくは120より多く270質量部以下、さらに好ましくは120より多く250質量部以下の範囲で含む熱可塑性エラストマー組成物である。
【0071】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)と、上記成分(B)と、上記成分(C)を、上記範囲で含むので、流動性、柔軟性、触感に優れた組成物が得られる。
【0072】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分に加え、上記ブロック共重合体の水素添加物(D)を含むと、耐傷付き性に優れた組成物が得られる。
本開示の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(D)を含む場合は、成分(D)の含有量は、成分(B)100質量部に対し、好ましくは30~350質量部、より好ましくは40~330質量部、さらに好ましくは50~300質量部の範囲である。
【0073】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分に加え、上記ポリオルガノシロキサン(E)を含むと、耐摩耗性に優れた組成物が得られる。
本開示の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(E)を含む場合は、ポリオルガノシロキサンとしての組成物中の含有量は好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%、さらに好ましくは1~4質量%の範囲である。
【0074】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて架橋剤(F)〔以下、「成分(F)」と呼称する場合がある。〕を含むことが好ましい。
本開示に係る成分(F)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を動的に熱処理することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分である成分(A)と成分(B)および成分(D)の架橋開始剤等として働く。成分(F)としてはフェノール樹脂系架橋剤を使用してもよく、有機過酸化物系架橋剤を使用してもよいが、好ましくは有機過酸化物系架橋剤である。
【0075】
〈有機過酸化物〉
有機過酸化物系架橋剤として使用し得る有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウリレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0076】
これら成分(F)の中でも、熱分解温度及び架橋性能等の観点から、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0077】
本開示に係る成分(F)は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
本開示の熱可塑性エラストマー組成物が成分(F)を含む場合は、その含有量は、成分(B)100質量部に対して、成形流動性の観点から、好ましくは2~10質量部、より好ましくは2~8質量部含む。
本開示の熱可塑性エラストマー組成物が成分(F)を含む場合は、下記架橋助剤(G)を併用することができる。
【0078】
〈架橋助剤(G)〉
本開示に係る架橋助剤(G)は、種々公知の架橋助剤、具体的には、単官能単量体や多官能単量体が挙げられる。かかる架橋助剤は架橋反応速度を制御することができる。
単官能単量体としては、例えば、ラジカル重合性のビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体、アクリル酸単量体、メタクリル酸単量体、無水マレイン酸単量体、N-置換マレイミド単量体等が挙げられる。
【0079】
単官能単量体の具体例として、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシスチレン、tert-ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水1,2-ジメチルマレイン酸、無水エチルマレイン酸,無水フェニルマレイン酸、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-セチルマレイミド等が挙げられる。これらの中でも、反応容易性と汎用性の観点から、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-メチルマレイミド等が好ましい。これらの単官能単量体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0080】
多官能単量体は、官能基としてラジカル重合性の官能基を複数有する単量体であり、ビニル基を有する単量体が好ましい。多官能単量体の官能基の数は2個又は3個が好ましい。
多官能単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2-ポリブタジエン等が好ましく、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。 これらの多官能単量体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0081】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物が架橋助剤(G)を含む場合は、成分(F)100質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは1~30質量部である。
【0082】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法と物性>
本開示の熱可塑性エラストマー組成物を動的架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(A)および成分(B)、必要に応じてさらに成分(D)を含む場合は、当該成分の少なくとも一部が架橋される。動的架橋を行う際には、前記成分(F)の存在下、あるいは前記成分(F)と前記架橋助剤の存在下に、動的に熱処理するのがよい。
【0083】
本開示において、「動的に熱処理する」とは、溶融状態で混練することをいう。
なお、本開示の熱可塑性エラストマー組成物に対し、動的に熱処理する前の組成物を「組成物1」とも呼び、動的に熱処理されてなる組成物を「組成物2」とも呼ぶ場合がある。
【0084】
本開示における動的な熱処理は、非開放型の装置中で行うことが好ましく、また窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理の温度は、成分(A)の融点から300℃以下の範囲であり、通常、150~270℃、好ましくは170~250℃である。混練時間は、通常1~20分間、好ましくは1~10分間である。また、加えられる剪断力は、剪断速度で表すと通常10~50,000s-1、好ましくは100~10,000s-1の範囲にある。
【0085】
組成物2のショアA硬度(10秒値)(JIS K 6253の測定方法に準拠)は、好ましくは50以上、より好ましくは50~80である。
組成物2のショアA硬度(10秒値)が前記範囲にあると、触感や高級な外観などの意匠性、耐傷性を備えた成形体を容易に形成することができる。
前記ショアA硬度(10秒値)は具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0086】
組成物2のメルトフローレート(JIS K 7210の測定方法に準拠、230℃、1.2kg荷重)は、成形性に優れる組成物となる等の点から、好ましくは30g/10分以上、より好ましくは55g/10分以上である。
【0087】
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)などに加え、無機フィラー、可塑剤、その他の添加剤を加えてもよい。
無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、カーボンブラック、ガラス繊維、酸化チタン、クレー、マイカ、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸エステル等が挙げられる。
【0088】
その他の添加剤としては、例えば、カーボンブラックや二酸化チタン又はフタロシアニンブラック等の有機・無機顔料;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールやn-オクタデシル-3-(3,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の熱安定剤;トリスノニルフェニルフォスファイトやジステアリルペンタエリストールジホスファイト等の酸化防止剤;2-(2’-ヒドロキシ-5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾールや2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;ビス-[2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル]セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート等の光安定剤;ポリリン酸アンモニウムやトリオクチルホスフェート及び水酸化マグネシウム等の難燃剤;ジメチルシリコンオイルやメチルフェニルシリコンオイル等のシリコンオイル;ステアリン酸アミドやエルカ酸アミド等のアンチブロッキング剤;重炭酸ナトリウムやN,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の発泡剤;パルミチン酸モノグリセライドやステアリン酸モノグリセライド等の帯電防止剤;銀イオン担持ゼオライトやチオサルファイト銀錯体等の抗菌剤等が挙げられる。
【0089】
≪成形体≫
本開示に係る成形体は、本開示の熱可塑性エラストマー組成物を含めば特に制限されず、用途に応じて、任意の既知の成形法を用いて成形された成形体である。成形法の例としては、例えば、プレス成形、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、中空成形法、真空成形法、圧縮成形法が挙げられる。生産性や複雑な形状を容易に形成できるという観点から、射出成形法を用いて成形した射出成形体であることが好ましい。
本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、要求性能を満足する硬度を有しながら耐傷性に優れており、特に用途が限定されるものではなく、例えば、成形体として、自動車部品、土木・建材用品、電気・電子部品、衛生用品、フィルム・シート、発泡体、人造皮革など種々公知の用途に好適であり、特に自動車内装部品などの自動車部品、人造皮革などの表皮材に好適に用い得る。
【0090】
〈自動車部品〉
本開示に係る成形体の使用し得る自動車部品としては、例えば、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、カップホルダー、サイドブレーキグリップ、シフトノブカバー、シート調整ツマミ、フラッパードアシール、ワイヤーハーネスグロメット、ラックアンドピニオンブーツ、サスペンションカバーブーツ、ガラスガイド、インナーベルトラインシール、ルーフガイド、トランクリッドシール、モールデッドクォーターウィンドガスケット、コーナーモールディング、グラスエンキャプシュレーション、フードシール、グラスランチャンネル、セカンダリーシール、各種パッキン類、バンパー部品、ボディパネル、サイドシールド、グラスランチャンネル、インストルメントパネル表皮、ドア表皮、天井表皮、ウェザーストリップ材、ホース、ステアリングホイール、ブーツ、ワイヤーハーネスカバー、シートアジャスターカバー等を例示でき、中でも、本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【0091】
〈土木・建材用品〉
本開示に係る成形体の使用し得る土木・建材用品としては、例えば、地盤改良用シート、上水板、騒音防止壁等の土木資材や建材、土木・建築用各種ガスケット及びシート、止水材、目地材、建築用窓枠などを例示でき、中でも、本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【0092】
〈電気・電子部品〉
本開示に係る成形体の使用し得る電気・電子部品としては、例えば、電線被覆材、コネクター、キャップ、プラグ等の電気・電子部品などを例示でき、中でも、本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【0093】
〈生活関連用品〉
本開示に係る成形体の使用し得る生活関連用品としては、スポーツシューズソール、スキーブーツ、テニスラケット、スキー板のビンディング、バットグリップなどのスポーツ用品、ペングリップ、歯ブラシグリップ、ヘアブラシ、ファッションベルト、各種キャップ、靴インナーソールなどの雑貨用品などを例示でき、中でも、本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【0094】
〈フィルム・シート〉
本開示に係る成形体の使用し得るフィルム・シートとしては、例えば、輸液バッグ、医療容器、自動車内外装材、飲料ボトル、衣装ケース、食品包材、食品容器、レトルト容器、パイプ、透明基板、シーラントなどを例示でき、中でも、本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【0095】
〈人造皮革〉
本開示に係る成形体の使用し得る人造皮革としては、例えば、椅子表皮、鞄、ランドセル、陸上競技用シューズやマラソンシューズ、ランニング用シューズなどのスポーツ用シューズ、ジャンバー、コートなどのウェア、帯、襷、リボン、手帳カバー、ブックカバー、キーホルダー、ペンケース、財布、名刺入れ、定期入れなどを例示でき、中でも本開示の熱可塑性エラストマー組成物は、皮革に風合いや触感をよくすることができるので、特に好ましい。
【実施例0096】
以下、本開示を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において特に断りのない限り、数値は質量基準である。
実施例および比較例で用いた重合体を以下に示す。
【0097】
〔プロピレン系重合体(A)〕
(1)プロピレン系重合体(A)として、230℃、2.16kg荷重条件におけるMFRが2.0g/10分のプロピレン単独重合体(A-1)〔サンアロマー社製 商品名 サンアロマー(登録商標) PL400A〕を用いた。
【0098】
〔オレフィン系共重合体(B1)〕
(1)エチレン・α-オレフィン共重合体(B1-1)として、エチレン・1-オクテン共重合体(ダウ・ケミカル社製、商品名「エンゲージ8842」)を用いた。共重合体のエチレンの含有量は55質量%であり、オクテンの含有量は45質量%、190℃、2.16kg荷重条件におけるMFRは1.0g/10分である。
【0099】
〔エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(B2)〕
(1)エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(B2-1)として、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)共重合体を用いた。この共重合体のエチレンの含有量は70質量%であり、ENBの含有量は4.9質量%である。
【0100】
〔軟化剤(C)〕
(1)軟化剤(C-1)として、パラフィン系オイル(出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイル PW-100」)を用いた。
【0101】
〔ブロック共重合体の水素添加物(D)〕
(1)ブロック共重合体の水素添加物(D-1)として、水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製、S.O.E.商品名 S1605)を使用した。
(2)ブロック共重合体の水素添加物(D-2)として、水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製、S.O.E.商品名 S1606)を使用した。
【0102】
〔ポリオルガノシロキサン(E)〕
ポリオルガノシロキサン(E-1)として、ジメチルシロキサンを50質量%とポリプロピレン50質量%とからなるマスターバッチ(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社製、商品名「MB50-001」))を使用した。
【0103】
〔有機過酸化物(F)〕
有機過酸化物(F-1)として、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、商品名「パーヘキサ25B」)を用いた。
【0104】
〔架橋助剤(G)〕
(1)架橋助剤(G-1)としてジビニルベンゼン(和光純薬社製)を用いた。
【0105】
〔実施例1~5、比較例1~5〕
押出機として、バレル中央部にオイル注入口を有した二軸押出機(30mmφ、L/D=74;神戸製鋼所製、「KTX-30」)を用いた。スクリューとしては注入口の前後に混練部を有した2条スクリューを用いた。表1に記載した軟化剤(C-1)以外の重合体などを表1に示した質量部で一括混合したのち、二軸押出機(シリンダー温度200℃)に定量フィーダーで導入し、引き続き、押出機の中央部にある注入口より表1に示した量の軟化剤(C-1)をポンプにより注入し、溶融押出混練を行い、動的に熱処理された熱可塑性エラストマー組成物を得た。
得られた熱可塑性エラストマー組成物の物性を、以下の方法で評価した。
結果を表1に示す。
【0106】
〔熱可塑性エラストマー組成物の流動性〕
熱可塑性エラストマー組成物の流動性は、メルトフローレート(MFR)で評価した。MFRの測定は、JIS K7210に準拠して、230℃で1.2kg荷重で測定した。測定結果を下記基準で評価した。
(評価基準)
◎:55g/10分以上
〇:30g/10分以上55g/10分未満
×:30g/10分未満
【0107】
〔柔軟性(ショア硬度測定)〕
JIS K6253に準拠して、熱可塑性エラストマー組成物から厚さ2mmのプレスシートを作製し、このプレスシートを3枚重ねて得られた厚み6mmの積層されたシートをショアA硬度計により測定し、10秒後の値(10s値)をショア硬度として求めた。
ショア硬度が50~80であれば、柔軟性に優れるものと判断した。
【0108】
〔べたつき(動摩擦係数(μk)〕
縦15cm×横9cmの大きさを有し、皮シボ加工が施された平板金型を用いて、熱可塑性エラストマー組成物の射出成形を行った。射出成形機は、株式会社名機製作所製「M150CL-DM」を用いた。成形条件は、樹脂温度220℃、金型温度40℃で実施した。
成形体の動摩擦係数は下記に示す測定法により評価した。静・動摩擦測定機(トリニティラボ社製、製品名「TL201Ts」)を用いて、摺動速度100mm/秒、垂直荷重50gf、摺動距離60mmの条件にて、触覚接触子を成形サンプルに接触させることにより、当該サンプル表面の動摩擦係数を測定した。測定結果を下記基準で評価した。
(評価基準)
◎:0.60μk以下
〇:0.60μk超0.80μk以下
×:0.80μk超
【0109】
【0110】
【0111】
表1に示すように、実施例1~5の熱可塑性エラストマー組成物は、流動性、柔軟性、表面の触感に優れており、本発明の表皮材としての要求性能を十分に満足することが確認され、総合判定も良好であった。
一方、比較例1、3、5では、べたつきが強く触感に優れる成形品が得られなかった。比較例2、4ではMFRが低く、表皮材に要求される高い流動性を満足しなかった。以上のことから、比較例1~5の組成物は流動性と触感の両立を実現することが出来ず、総合判定も不良であることが分かった。