(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137858
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
B23C5/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044267
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉村 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英人
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK02
3C022KK06
3C022KK23
3C022KK28
(57)【要約】
【課題】工具先端部を使用する金型の底面などの工具回転軸に直交する平面の切削加工において、光沢性に優れた加工面が得られ、磨き工程の省略若しくは磨き加工工数を低減することができる仕上げ加工に好適なボールエンドミルを提供することを目的とする。
【解決手段】工具本体1の外周に、先端で開放され工具先端側から工具基端側に向かう複数の切り屑排出溝2が形成され、この切り屑排出溝2のすくい面3と前記工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部にそれぞれボール刃5が設けられ、工具先端部に前記工具本体1の工具回転軸aに対して直交する平面6が設けられ、この平面6と前記すくい面3との交差稜線部は前記ボール刃5に連設される中心側切れ刃7に構成されているボールエンドミル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の外周に、先端で開放され工具先端側から工具基端側に向かう複数の切り屑排出溝が形成され、この切り屑排出溝のすくい面と前記工具本体の先端逃げ面との交差稜線部にそれぞれボール刃が設けられたボールエンドミルであって、工具先端部に前記工具本体の工具回転軸に対して直交する平面が設けられ、この平面と前記すくい面との交差稜線部は前記ボール刃に連設される中心側切れ刃に構成されていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
請求項1記載のボールエンドミルにおいて、前記平面は、前記工具回転軸に対して180度回転対称に設けられた一対の前記ボール刃のそれぞれの前記先端逃げ面及びそれぞれの前記すくい面と連設していることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記中心側切れ刃は、前記工具回転軸付近まで設けられていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記平面は前記先端逃げ面と連設しており、また、この平面は、工具先端視において、前記工具回転軸を通る前記中心側切れ刃若しくは前記中心側切れ刃の延長線の垂線に対して、前記中心側切れ刃が連設する前記ボール刃側を正側とし、その反対側を負側とした場合、下記2の交点P2が、前記負側に存するか、若しくは下記1の交点P1と前記交点P2との前記中心側切れ刃に沿う方向での離隔距離が工具外径Dの0%以上10%以下となる前記正側に存するか、いずれかとなるように設けられていることを特徴とするボールエンドミル。
記1
交点P1:工具先端視において、中心側切れ刃若しくは中心側切れ刃の延長線と、工具回転軸を通る前記中心側切れ刃若しくは前記中心側切れ刃の前記延長線の垂線との交点
記2
交点P2:工具先端視において、平面と先端逃げ面とで形成される稜線のうちボール刃から遠い側の稜線と、このボール刃と該ボール刃に連設される中心側切れ刃を有する切り屑排出溝の先端の縁との交点
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記平面は、工具先端視において、前記平面と前記工具回転軸に対して180度回転対称に設けられた一対の前記ボール刃のそれぞれの前記先端逃げ面とで形成される二本の稜線の対向間隔を該平面の幅Wとし、この幅Wは以下の範囲に設定されていることを特徴とするボールエンドミル。
0.005mm≦W≦0.2D(Dは工具外径)
【請求項6】
請求項5記載のボールエンドミルにおいて、前記平面の幅Wは、以下の範囲に設定されていることを特徴とするボールエンドミル。
工具外径D>φ1.5mmの場合、0.01mm≦W≦0.3mm
工具外径D≦φ1.5mmの場合、0.01mm≦W≦0.2D
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールエンドミルは、金型加工や部品加工の分野において広く用いられ、工具先端に回転軌跡が半球状となる円弧状のボール刃を備えるものであり、すくい角や逃げ角が適宜に設計されたボール刃で複雑な形状の曲面や金型の抜き勾配面(傾斜平面)などを切削加工することで良好な加工面を得ることが可能である。
【0003】
しかしながら、ボールエンドミルの先端部分(円弧状ボール刃の頂部とその近傍)においてはボール刃の外周側部分に比べて切削性が劣り、金型の底面などの工具回転軸に直交する平面加工において良好な加工面を得ることが困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、これまで、特許文献1に示すような、金型の底面などの工具回転軸に直交する平面加工においても光沢のある良好な加工面を得ることを目的とした仕上げ用ボールエンドミルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のボールエンドミルは、2刃のボール刃が心上がりの位置に配され、かつ、2刃のボール刃の逃げ面で構成されるチゼルエッジのチゼル角が155度以上に設定され、若しくは、ボ-ル刃にギャッシュで形成された2刃のすくい面内縁の間隔とチゼルエッジ長さとの比が1/7~1/3に設定され、チゼルエッジによる切削作用により金型の底面などの工具回転軸に直交する平面を切削加工するものである。
【0007】
しかしながら、チゼルエッジを備えたボールエンドミル自体は従前から一般に広く用いられているものであり、このチゼルエッジはボール刃の逃げ面同士が大きな鈍角で交差する交差稜線であるため、そのすくい角は大きい負のすくい角をなし、加工面にむしれを発生させるため、上記特許文献1に開示されるようにチゼルエッジが配される角度(チゼル角)や長さを適宜の値に調整しても、磨き工程(仕上げ処理)を省くことができるほどの光沢性に優れた加工面(平面)を得ることは難しく、そのため、切削加工後に磨き工程(仕上げ処理)を行わなければならないのが現状である。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、工具先端部を使用する金型の底面などの工具回転軸に直交する平面の切削加工において、光沢性に優れた加工面が得られ、磨き工程の省略若しくは磨き加工工数を低減することができる仕上げ加工に好適なボールエンドミルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
工具本体1の外周に、先端で開放され工具先端側から工具基端側に向かう複数の切り屑排出溝2が形成され、この切り屑排出溝2のすくい面3と前記工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部にそれぞれボール刃5が設けられたボールエンドミルであって、工具先端部に前記工具本体1の工具回転軸aに対して直交する平面6が設けられ、この平面6と前記すくい面3との交差稜線部は前記ボール刃5に連設される中心側切れ刃7に構成されていることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
【0011】
また、請求項1記載のボールエンドミルにおいて、前記平面6は、前記工具回転軸aに対して180度回転対称に設けられた一対の前記ボール刃5のそれぞれの前記先端逃げ面4及びそれぞれの前記すくい面3と連設していることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
【0012】
また、請求項1,2いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記中心側切れ刃7は、前記工具回転軸a付近まで設けられていることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
【0013】
また、請求項1~3いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記平面6は前記先端逃げ面4と連設しており、また、この平面6は、工具先端視において、前記工具回転軸aを通る前記中心側切れ刃7若しくは前記中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、前記中心側切れ刃7が連設する前記ボール刃5側を正側とし、その反対側を負側とした場合、下記2の交点P2が、前記負側に存するか、若しくは下記1の交点P1と前記交点P2との前記中心側切れ刃7に沿う方向での離隔距離Xが工具外径Dの0%以上10%以下となる前記正側に存するか、いずれかとなるように設けられていることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
記1
交点P1:工具先端視において、中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8と、工具回転軸aを通る前記中心側切れ刃7若しくは前記中心側切れ刃7の前記延長線8の垂線9との交点
記2
交点P2:工具先端視において、平面6と先端逃げ面4とで形成される稜線10のうちボール刃5から遠い側の稜線10と、このボール刃5と該ボール刃5に連設される中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁との交点
【0014】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のボールエンドミルにおいて、前記平面6は、工具先端視において、前記平面6と前記工具回転軸aに対して180度回転対称に設けられた一対の前記ボール刃5のそれぞれの前記先端逃げ面4とで形成される二本の稜線10の対向間隔を該平面6の幅Wとし、この幅Wは以下の範囲に設定されていることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
0.005mm≦W≦0.2D(Dは工具外径)
【0015】
また、請求項5記載のボールエンドミルにおいて、前記平面6の幅Wは、以下の範囲に設定されていることを特徴とするボールエンドミルに係るものである。
工具外径D>φ1.5mmの場合、0.01mm≦W≦0.3mm
工具外径D≦φ1.5mmの場合、0.01mm≦W≦0.2D
【発明の効果】
【0016】
本発明は上述のように構成したから、工具先端部を使用する金型の底面などの工具回転軸に直交する平面の切削加工において、光沢性に優れた加工面が得られ、磨き工程の省略若しくは磨き加工工数を低減することができる仕上げ加工に好適なボールエンドミルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施例の要部を示す工具先端視の説明平面図である。
【
図2】本実施例の要部を示す(a)説明左側面図と(b)説明正面図である。
【
図3】本実施例における正側、負側、離隔距離X及び平面の幅Wを示す工具先端視の説明図である。
【
図4】本実施例における交点P2が正側及び負側に存する場合の工具先端視のイメージ図である。
【
図5】実験例3における本実施例と従来品のそれぞれの0°面の光沢性の評価結果を示す写真である。
【
図6】実験例3における本実施例と従来品のそれぞれにおける加工時間20分と60分の0°面の算術平均粗さRaの測定結果を示すグラフである。
【
図7】実験例3における本実施例と従来品のそれぞれにおける加工時間20分の0°面と45°面の算術平均粗さRaの測定結果を示すグラフである。
【
図8】本実施例の別例1の要部を示す工具先端視の説明平面図である。
【
図9】本実施例の別例1の要部を示す(a)説明左側面図と(b)説明正面図である。
【
図10】本実施例の別例2の要部を示す工具先端視の説明平面図である。
【
図11】本実施例の別例2の要部を示す(a)説明左側面図と(b)説明正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0019】
本発明は、工具先端部に工具本体1の工具回転軸aに対して直交する平面6が設けられているから、大きな負角のすくい角をもつチゼルエッジが存在せず、チゼルエッジの影響によるむしれの発生が可及的に防止される。
【0020】
また、本発明は、この平面6とすくい面3との交差稜線部がボール刃5に連設される中心側切れ刃7に構成されているから、この中心側切れ刃7がボール刃5と同様のすくい角となり、ボール刃5と同様の高い切削性を発揮し、工具回転軸aに直交する平面加工において、この中心側切れ刃7による高い切削性と、この平面6の切削面への摺接作用によるバニシング効果により、中心側切れ刃7による切削加工時の切削痕の発生が抑えられ、ボール刃5で切削加工した場合と同等若しくはそれ以上の光沢性に優れた加工面が得られる。
【実施例0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、工具本体1の外周に、先端で開放され工具先端側から工具基端側に向かう複数の切り屑排出溝2が形成され、この切り屑排出溝2のすくい面3と前記工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部にそれぞれボール刃5が設けられたボールエンドミルであって、工具先端部に前記工具本体1の工具回転軸aに対して直交する平面6が設けられ、この平面6と前記すくい面3との交差稜線部は前記ボール刃5に連設される中心側切れ刃7に構成されているものである。
【0023】
具体的には、本実施例は、本発明のボールエンドミルを、
図1,2に示すように、螺旋状の二条の切り屑排出溝2が設けられ、この切り屑排出溝2の先端部に形成される二つのすくい面3と工具本体1の先端逃げ面4との交差稜線部にそれぞれボール刃5が設けられた二枚刃ボールエンドミルに構成した場合である。
【0024】
より具体的には、本実施例は、切り屑排出溝2のすくい面3(工具回転方向前方側を向く壁面)の先端部に切り屑排出溝2の一部であるギャッシュ11を形成して工具回転方向前方側を向くギャッシュ面12を設け、このギャッシュ面12を工具先端部におけるすくい面3としている。なお、本実施例は、前記構成以外、例えば、
図8,9に示す別例1のように、直線状の切り屑排出溝2が設けられ、ギャッシュ11を設けず、すなわち、ギャッシュ面12を設けずに切り屑排出溝2の工具回転方向前方側を向く壁面を工具先端部におけるすくい面3として構成する、所謂、直刃形状のボールエンドミルに構成しても良い。
【0025】
また、本実施例は、工具先端視において、工具回転軸a近傍の中心側切れ刃7が、工具回転軸aに対して工具回転方向前方側に配される、所謂、心上がり形状に構成されている。
【0026】
具体的には、本実施例は、工具先端視において、先端で開放される切り屑排出溝2(ギャッシュ11)が、工具外周側から、工具回転軸a周りに芯部を残すように工具回転軸aに対して外方に離隔して設けられ、この切り屑排出溝2(ギャッシュ11)の先端の縁の工具回転軸a近傍に中心側切れ刃7が設けられる心上がり形状に構成されている。なお、この心上がり形状を構成する切り屑排出溝2(ギャッシュ11)は、工具先端視において、工具外周側から、工具回転軸aを越えて設けられていても良いし、工具回転軸aを越えずに設けられていても良い。
【0027】
また、本実施例は、前記構成、すなわち、
図1~4,8,9に示す心上がり形状の構成に限らず、例えば、
図10,11に示す別例2のように、工具先端視において、工具回転軸a近傍の中心側切れ刃7が、工具回転軸aに対して工具回転方向後方側に配される、所謂、心下がり形状に構成しても良い。
【0028】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0029】
本実施例の先端逃げ面4は、
図1,2に示すように、工具回転軸aに対して所定角度で傾斜する第一逃げ面4aと、第一逃げ面4aの工具回転方向後方側に設けられ第一逃げ面4aとは異なる角度で傾斜する第二逃げ面4bと、第二逃げ面4bの工具回転方向後方側に設けられ第二逃げ面4bとは異なる角度で傾斜する第三逃げ面4cとで構成されている。
【0030】
また、二枚のボール刃5(一対のボール刃5)は、各先端逃げ面4の第一逃げ面4aと工具回転方向前方側を向くすくい面3(ギャッシュ面12)との交差稜線部に設けられ、
図1に示すように、工具回転軸aに対して180度回転対称に設けられている。なお、本実施例は、上述の二枚刃ボールエンドミルの構成に限らず、前記二枚(一対)のボール刃5の他にもボール刃を設けて、三枚以上のボール刃を有する多刃ボールエンドミルに構成しても良い。
【0031】
また、平面6は、前述のとおり、工具先端部に工具回転軸aに対して直交し、二つの先端逃げ面4の間に、これらと連設する一つの平面として設けられている。なお、図中、符号Tを添えた矢印は工具回転方向を示している。
【0032】
具体的には、平面6は、前記二枚(一対)のボール刃5のそれぞれの第一逃げ面4a及びそれぞれのすくい面3と連設するように設けられ、さらに、この平面6と各ボール刃5のそれぞれのすくい面3との交差稜線部がボール刃5に連設され、ボール刃5と同様のすくい角の中心側切れ刃7となるように構成されている。
【0033】
また、本実施例では、平面6は、中心側切れ刃7が工具回転軸a付近まで設けられるように形成され、これにより、工具回転軸aに直交する平面加工において、むしれの少ない光沢性に優れた加工面が得られるように構成されている。
【0034】
具体的には、本実施例においては、平面6は、
図3に示すように、先端逃げ面4(第一逃げ面4a)と連設しており、また、この平面6は、工具先端視において、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、中心側切れ刃7が連設するボール刃5側を正側とし、その反対側を負側とした場合、交点P2(工具先端視において、平面6と先端逃げ面4とで形成される稜線10のうちボール刃5から遠い側の稜線10と、このボール刃5と該ボール刃5に連設される中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁との交点)が、負側に存するか、若しくは交点P1(工具先端視において、中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8と、工具回転軸aを通る前記中心側切れ刃7若しくは前記中心側切れ刃7の前記延長線8の垂線9との交点)と交点P2との中心側切れ刃7に沿う方向での離隔距離Xが工具外径Dの0%以上10%以下となる正側に存するように設けられており、これにより、中心側切れ刃7が工具回転軸a付近まで設けられる構成とされている。
【0035】
ここで、本実施例においては、
図3、
図4に示すように、中心側切れ刃7は、平面6と工具回転方向前方側を向くすくい面3(ギャッシュ面12)との交差稜線部に直線状に形成されている。この中心側切れ刃7は、その全域が直線状に形成されていても良いし、一部が直線状に形成されていても良く、例えば、中心側切れ刃7と連設するボール刃5との交点Q(平面6と先端逃げ面4(第一逃げ面4a)とで形成される稜線10のうち前記ボール刃5寄りの稜線10と、このボール刃5と該ボール刃5に連設される前記中心側切れ刃7を有する前記切り屑排出溝2の先端の縁との交点)から工具内方(ボール刃5と反対の方向、すなわち、負側)に向かう一部が直線状に形成されていても良い。後述する
図4(b)は、このように、一部が直線状となる態様の一例である。この場合、直線状の部分を捉えて、中心側切れ刃7の延長線8及び中心側切れ刃7に沿う方向を決定し、離隔距離Xを確認すれば良い。
【0036】
なお、
図4は、中心側切れ刃7が直線状に形成された本実施例の工具先端視において、交点P2が正側に存する場合及び負側に存する場合のイメージ図であり、(a),(b)は交点P2が正側に存する場合のイメージ図、(c),(d)は交点P2が負側に存する場合のイメージ図である。
【0037】
具体的には、
図4(a)及び(b)は、交点P2が、中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁にして、工具回転方向前方側を向く壁面(すくい面3)の先端の正側の縁に存する例であり、
図4(b)は、中心側切れ刃7が、この中心側切れ刃7と連設するボール刃5との交点Qから工具内方(ボール刃5と反対の方向、すなわち、負側)に向かう直線状の部分と、工具回転方向後方側を向く壁面の縁に連設される曲線状の部分とで形成されており、この曲線状の部分に交点P2が存する例である。
【0038】
また、
図4(c)は、交点P2が、中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁にして、工具回転方向前方側を向く壁面(すくい面3)と同一面の先端の負側の縁に存する例であり、
図4(d)は、交点P2が、中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁にして、負側に存する工具回転方向後方側を向く壁面の先端の縁に存する例である。
【0039】
本実施例における離隔距離Xは、前述のとおり、交点P2が正側に存する場合に用いられる発明要素(指標)の一つであるが、後述する実験例1及び実験例2の内容の理解を助けるため、
図4(c),(d)において、離隔距離Xに相当する部分を括弧を付して記載している。この場合、Xはマイナスの値をとる。
【0040】
さらに、中心側切れ刃7は直線状に限らず曲線状に形成されていても良い。例えば、
図3及び
図4(a)に示すように、交点P2が正側に存する場合において、これらの図では、交点Qと交点P2に端点を有する直線状に形成された中心側切れ刃7が示されているが、中心側切れ刃7は工具回転方向前方側若しくは工具回転方向後方側に湾曲する曲線状に形成されていても良いし、波線状に形成されていても良い。この場合、交点Qと交点P2とを結ぶ仮想直線を中心側切れ刃7とみなし、中心側切れ刃7の延長線8及び中心側切れ刃7に沿う方向を決定し、離隔距離Xを確認すれば良い。
【0041】
さらに、本実施例の平面6は、
図3に示すように、工具先端視において、平面6と工具回転軸aに対して180度回転対称に設けられた一対のボール刃5のそれぞれの先端逃げ面4(第一逃げ面4a)とで形成される二本の稜線10の対向間隔をこの平面6の幅Wとし、本実施例の平面6は、この幅Wが、0.005mm≦W≦0.2D(Dは工具外径)となるように形成されている。
【0042】
具体的には、より好ましい仕様として後述するように、本実施例の平面6は、工具外径Dがφ1.5mmより大きい場合、幅Wが、0.01mm≦W≦0.3mmとなるように形成され、工具外径Dがφ1.5mm以下の場合、幅Wが、0.01mm≦W≦0.2Dとなるように形成されている。
【0043】
以上のように構成される本実施例の作用効果について以下に説明する。
【0044】
本実施例は、工具先端部に工具本体1の工具回転軸aに対して直交する平面6が設けられ、この平面6とすくい面3との交差稜線部がボール刃5に連設される中心側切れ刃7に構成されているから、中心側切れ刃7はボール刃5と同様のすくい角となり、ボール刃5と同様、高い切削性を発揮するものとなり、この中心側切れ刃7による良好な切削作用と、中心側切れ刃7により切削された切削面への平面6の摺接作用によるバニシング効果によって、中心側切れ刃7による切削加工時の切削痕の発生が抑えられ、工具回転軸aに直交する平面加工においても光沢性に優れた加工面が得られる。
【0045】
また、本実施例は、平面6は先端逃げ面4(第一逃げ面4a)と連設しており、また、この平面6は、工具先端視において、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、中心側切れ刃7が連設するボール刃5側を正側とし、その反対側を負側とした場合、交点P2(工具先端視において、平面6と先端逃げ面4とで形成される稜線10のうちボール刃5から遠い側の稜線10と、このボール刃5と該ボール刃5に連設される中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁との交点)が、負側に存するか、若しくは交点P1(工具先端視において、中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8と、工具回転軸aを通る前記中心側切れ刃7若しくは前記中心側切れ刃7の前記延長線8の垂線9との交点)と交点P2との中心側切れ刃7に沿う方向での離隔距離Xが工具外径Dの0%以上10%以下となる正側に存するように設けられているから、中心側切れ刃7が工具回転軸a付近まで設けられ、これにより、工具回転軸aに直交する平面加工において、むしれの少ない加工面が得られる。
【0046】
また、本実施例は、平面6の幅Wが、0.005mm≦W≦0.2Dとなるように形成されている。さらに、より好ましい仕様として、工具外径Dがφ1.5mmより大きい場合、幅Wが、0.01mm≦W≦0.3mmとなるように形成され、工具外径Dがφ1.5mm以下の場合、幅Wが、0.01mm≦W≦0.2Dとなるように形成されているから、切削抵抗の増加によるむしれの発生や切り屑の溶着が抑制されると共に、平面6の摩耗の進行が抑制され、ボール刃5で仕上げた場合と同等若しくはそれ以上の光沢性に優れた加工面が得られる。
【0047】
このように、本実施例は、工具先端部を使用する金型の底面などの工具回転軸aに直交する平面の切削加工において、光沢性に優れた加工面が得られ、磨き工程の省略若しくは磨き加工工数を低減することができる仕上げ加工に好適なボールエンドミルとなる。
【0048】
次に、本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0049】
<実験例1>
実験例1は、平面6の適正な形成範囲を、平面6を設けたことにより形成される中心側切れ刃7の位置に基づいて確認するためのものであり、
図3に示すような、工具先端視において、中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8と、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9との交点P1と、平面6と先端逃げ面4(第一逃げ面4a)とで形成される稜線10のうちボール刃5から遠い側の稜線10と、このボール刃5と該ボール刃5に連設される中心側切れ刃7を有する切り屑排出溝2の先端の縁との交点P2との中心側切れ刃7に沿う方向での離隔距離Xを変更することで中心側切れ刃7の位置を変更したサンプルを作製し、各サンプルを用いて下記加工条件で被削材を切削加工した際の加工面の光沢性を評価した。
【0050】
具体的には、工具仕様を、工具外径D:φ6mm、シャンク径:φ6mm、有効長:30mmとした場合と、工具外径D:φ3mm、シャンク径:φ6mm、有効長:12mmとした場合において、それぞれ加工時間を20分と60分として、工具回転軸aに直交する平面を工具先端部で加工した場合の加工面の光沢性を外観目視により評価した。なお、実験例1における工具仕様に関し、工具外径Dをφ6mmとした場合は、平面6の幅W(
図3において、平面6と一対のボール刃5のそれぞれの先端逃げ面4(第一逃げ面4a)とで形成される二本の稜線10の対向間隔)を0.02mmとし、工具外径Dをφ3mmとした場合は、平面6の幅Wを0.01mmとした。ただし、工具の作製上、工具外径Dに対する離隔距離Xの径比率X/D(以下、単に「径比率X/D」という。)=0、すなわち、離隔距離X=0.00とするものは、工具外径Dをφ6mmとした場合はW=0.1mm、工具外径Dをφ3mmとした場合はW=0.05mmとし、また、径比率X/D=-0.01とするものは、工具外径Dをφ6mmとした場合はW=0.2mm、工具外径Dをφ3mmとした場合はW=0.1mmとした。
【0051】
[工具外径Dをφ6mmとした場合の加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:13,000min-1
送り速度:1,500mm/min
軸方向の切込み量:0.05mm
径方向の切込み量:0.1mm
クーラント:水溶性切削液
【0052】
[工具外径Dをφ3mmとした場合の加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:19,000min-1
送り速度:950mm/min
軸方向の切込み量:0.05mm
径方向の切込み量:0.05mm
クーラント:水溶性切削液
【0053】
[結果]
下表1は、工具外径Dをφ6mmとした場合の各サンプルの仕様(離隔距離X、径比率X/D)及び光沢性の評価結果を示したものであり、また、下表2は、工具外径Dをφ3mmとした場合の各サンプルの仕様(離隔距離X、径比率X/D)及び光沢性の評価結果を示したものである。なお、下表1,2の離隔距離Xに関し、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、交点P2が負側に存する場合をマイナスで表した。また、交点P2と交点P1が一致する場合の離隔距離Xを0.00で表した。また、光沢性の評価結果に関しては、いずれもボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性であったものを◎、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性であったものを○、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面と同等の光沢性であったものを×で示した。
【0054】
なお、本実験例1において、ボール刃5で仕上げた加工面は、工具回転軸aに対して45°傾斜した平面とした。
【0055】
【0056】
【0057】
表1,2に示すように、工具外径Dをφ6mmとした場合と、工具外径Dをφ3mmとした場合のいずれにおいても、径比率X/Dが0.1よりも大きくなる仕様、すなわち、離隔距離Xが工具外径Dの10%よりも大きい値となる仕様では、加工時間が20分、60分のいずれも、従来品のチゼルエッジで仕上げた場合と同等の光沢性となることが確認された。これは、離隔距離Xが工具外径Dの10%よりも大きい値となることで、切削性の高い中心側切れ刃7が工具回転軸aから離れた位置に存在し、それよりも工具回転軸a側の領域では平面6と先端逃げ面4(第一逃げ面4a)との稜線10が大きい負のすくい角をなす切れ刃として作用して加工面にむしれを発生させ、その後の平面6の切削面への摺接作用によっても十分なバニシング効果が得られなかったためと考える。
【0058】
また、径比率X/Dが0.1以下となる仕様、すなわち、離隔距離Xが工具外径Dの10%以下となる仕様では、加工時間が20分、60分のいずれも、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性となることが確認された。特に、径比率X/Dが0.08以下となる仕様、すなわち、離隔距離Xが工具外径Dの8%以下となる仕様では、ボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性となることが確認された。
【0059】
以上、実験例1により、中心側切れ刃7が工具回転軸a付近まで設けられる構成となるように平面6を設けることで、光沢性に優れた加工面が得られることが確認された。具体的には、工具先端視において、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、中心側切れ刃7が連設するボール刃5側を正側とし、その反対側を負側とした場合、前記交点P2が、負側に存するか、若しくは前記交点P1と前記交点P2との中心側切れ刃7に沿う方向での離隔距離Xが工具外径Dの0%以上10%以下(0.1D以下)、好ましくは0%以上8%以下(0.08D以下)となる正側に存するか、いずれかとなるように平面6を設けることで、光沢性に優れた加工面が得られることが確認された。
【0060】
<実験例2>
実験例2は、平面6の適正な形成範囲を、平面6の幅Wに基づいて確認するためのものであり、
図3に示すような、工具先端視において、平面6と一対のボール刃5のそれぞれの先端逃げ面4(第一逃げ面4a)とで形成される二本の稜線10の対向間隔を平面6の幅Wとし、この平面6の幅Wを変更したサンプルを作製し、各サンプルを用いて下記加工条件で被削材を切削加工した際の加工面の光沢性を評価した。
【0061】
具体的には、工具仕様を、工具外径D:φ6mm、シャンク径:φ6mm、有効長:30mmとした場合と、工具外径D:φ3mm、シャンク径:φ6mm、有効長:12mmとした場合と、工具外径D:φ1.5mm、シャンク径:φ4mm、有効長:6mmとした場合において、それぞれ加工時間を20分と60分として、工具回転軸aに直交する平面を工具先端部で加工した場合の加工面の光沢性を外観目視により評価した。なお、実験例2における工具仕様に関し、離隔距離Xは下表3~5に示すようにサンプル毎で適宜な値に設定した。
【0062】
[工具外径Dをφ6mmとした場合の加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:13,000min-1
送り速度:1,500mm/min
軸方向の切込み量:0.05mm
径方向の切込み量:0.1mm
クーラント:水溶性切削液
【0063】
[工具外径Dをφ3mmとした場合の加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:19,000min-1
送り速度:950mm/min
軸方向の切込み量:0.05mm
径方向の切込み量:0.05mm
クーラント:水溶性切削液
【0064】
[工具外径Dをφ1.5mmとした場合の加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:20,000min-1
送り速度:400mm/min
軸方向の切込み量:0.015mm
径方向の切込み量:0.03mm
クーラント:水溶性切削液
【0065】
[結果]
下表3は、工具外径Dをφ6mmとした場合の各サンプルの仕様(平面6の幅W、工具外径Dに対する平面6の幅Wの径比率W/D(以下、単に「径比率W/D」という。)、離隔距離X)及び光沢性の評価結果を示したものであり、また、下表4は、工具外径Dをφ3mmとした場合の各サンプルの仕様(平面6の幅W、径比率W/D、離隔距離X)及び光沢性の評価結果を示したものであり、また、下表5は、工具外径Dをφ1.5mmとした場合の各サンプルの仕様(平面6の幅W、径比率W/D、離隔距離X)及び光沢性の評価結果を示したものである。なお、下表3~5の離隔距離Xに関し、工具回転軸aを通る中心側切れ刃7若しくは中心側切れ刃7の延長線8の垂線9に対して、交点P2が負側に存する場合をマイナスで表した。また、光沢性の評価結果に関しては、いずれもボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性であったものを◎、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性であったものを○、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面と同等の光沢性であったものを×で示した。
【0066】
なお、本実験例2において、ボール刃5で仕上げた加工面は、工具回転軸aに対して45°傾斜した平面とした。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表3~5に示すように、工具外径Dをφ6mmとした場合、工具外径Dをφ3mmとした場合及び工具外径Dをφ1.5mmとした場合のいずれにおいても、平面6の幅Wが0.002mmとなる仕様では、加工時間が20分、60分のいずれも、むしれが発生し従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面と同等の光沢性となることが確認されたが、平面6の幅Wが0.005mmとなる仕様では、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性となることが確認された。これは、平面6の幅Wが0.005mm未満の場合、平面6の摺接作用によるバニシング効果が小さくなるためと考える。
【0071】
また、表3及び表4に示すように、工具外径Dをφ6mmとした場合及び工具外径Dをφ3mmとした場合において、平面6の幅Wが0.01mm以上で、且つ径比率W/Dが0.2以下(すなわち、平面6の幅Wが工具外径Dの20%以下)となる仕様では、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性となることが確認された。特に、加工初期(加工時間が20分)の場合の上述の幅Wの仕様、及び加工時間が60分の場合であり平面6の幅Wが0.01mm以上0.3mm以下となる仕様では、ボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性となることが確認された。
【0072】
また、表5に示すように、工具外径Dをφ1.5mmとした場合において、平面6の幅Wが0.01mm以上で、且つ径比率W/Dが0.2以下(すなわち、平面6の幅Wが工具外径Dの20%以下、よって、平面6の幅Wが0.3mm以下)となる仕様では、加工時間が20分、60分のいずれも、ボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性となることが確認された。
【0073】
また、工具外径Dをφ6mmとした場合、工具外径Dをφ3mmとした場合及び工具外径Dをφ1.5mmとした場合のいずれにおいても、径比率W/Dが0.2よりも大きくなる仕様、すなわち、平面6の幅Wが工具外径Dの20%よりも大きい値となる仕様では、加工初期(加工時間が20分)では従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性となることが確認されたが、加工時間が60分では、光沢性が低下し、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面と同等の光沢性となることが確認された。これは、平面6の幅Wが工具外径Dの20%よりも大きい値となることで、切削抵抗が増加し加工初期からむしれが発生したり切り屑の溶着を誘発してしまい、その後の平面6の切削面への摺接作用によっても十分なバニシング効果が得られなかったためと考える。
【0074】
以上、実験例2により、平面6の幅Wが、0.005mm≦W≦0.2Dとなるように平面を形成することで、光沢性に優れた加工面が得られることが確認された。
【0075】
さらに、好ましくは、工具外径Dがφ1.5mmより大きい場合、平面6の幅Wが、0.01mm≦W≦0.3mmとなるように平面6を形成し、また、工具外径Dがφ1.5mm以下の場合、平面6の幅Wが、0.01mm≦W≦0.2Dとなるように平面6を形成することで、より光沢性に優れた加工面が得られることが確認された。
【0076】
なお、表3~5には示されていないが、上記の実験例2を実施する過程で、平面6の幅Wが、上述のボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性(◎評価)となることが確認された仕様であっても、工具先端視において、平面6の回転軌跡となる円の直径が工具外径Dの35%よりも大きい値となることで、必ずしも、ボール刃5で仕上げた加工面と同等若しくはそれ以上の優れた光沢性(◎評価)となるとは限らず、従来品のチゼルエッジで仕上げた加工面よりも良好な光沢性(○評価)となる場合もあることが確認された。
【0077】
これは、平面6の回転軌跡となる円の直径が工具外径Dの35%よりも大きい値となることで、切削抵抗が増加して良好な切削面が得られなかったため、その後の平面6の切削面への摺接作用によっても優れた光沢性を有する加工面を得られるほどの十分なバニシング効果が得られなかったためと考える。
【0078】
以上より、工具先端視において、平面6の回転軌跡となる円の直径が工具外径Dの35%以下となるように、すなわち、平面6の回転軌跡となる最大の円の半径となる、工具回転軸aと平面6の外縁の最長距離が工具外径Dの17.5%以下となるように平面6を形成することが好ましい。
【0079】
<実験例3>
実験例3は、本実施例と従来品(工具先端部にチゼルエッジを有する先端形状のボールエンドミル)との比較評価であり、本実施例は、平面6の幅Wを0.025mm、離隔距離Xを0.005mmとした。本実施例と従来品とは、工具先端部に平面6を有するか、またはチゼルエッジを有するかという違いがあるだけであり、すなわち、ボール刃5その他の部分は同じ仕様である。この仕様の本実施例と従来品を用いて下記加工条件で被削材を切削加工した際の加工面の光沢性と表面粗さを評価した。
【0080】
具体的には、本実施例、従来品ともに工具仕様は、工具外径D:φ3mm、シャンク径:φ6mm、有効長:12mmとし、工具回転軸aに直交する平面(以下、「0°面」という。)を工具先端部で、また、工具回転軸aに対して45°傾斜した平面(以下、「45°面」という。)をボール刃5で、20分加工した場合と、60分加工した場合のそれぞれの加工面の光沢性を外観目視(反射像の見え方)により行い、また、表面粗さの評価については、算術平均粗さRaの測定により行った。
【0081】
[加工条件]
被削材:プリハードン鋼(30HRC)
回転速度:19,000min-1
送り速度:950mm/min
軸方向の切込み量:0.05mm
径方向の切込み量:0.05mm
クーラント:水溶性切削液
【0082】
[結果]
図5は、本実施例と従来品のそれぞれの0°面の光沢性の評価結果を示したものである。具体的には、図中上部のスケール(金尺)の裏面には複数の明瞭な○印がスケール(金尺)の長手方向に繰り返し配置されており、この○印が繰り返し配置された面をそれぞれの加工面(0°面)上にかざして、この加工面(0°面)に映った○印(反射像)の見え方を比較評価したものである。この
図5に示すように、0°面に関しては、本実施例は、加工時間20分、60分のいずれにおいても、鮮明な反射像(○印)が目視にて確認されるほどの優れた光沢性の加工面が得られたのに対し、従来品は、反射像(○印)が確認できず光沢の無い加工面であった。なお、45°面(ボール刃5での加工面)に関しては、加工時間を20分として本実施例と従来品を比較した結果、ボール刃5については同一仕様であることから両者の間に差異は見られず、図示しないが、両者ともに鮮明な反射像が目視にて確認されるほどの優れた光沢性の加工面が得られることが確認された。
【0083】
また、
図6は、本実施例と従来品のそれぞれにおける加工時間20分と60分の0°面の算術平均粗さRaの測定結果を示すグラフであり、
図7は、本実施例と従来品のそれぞれにおける加工時間20分の0°面と45°面の算術平均粗さRaの測定結果を示すグラフである。
【0084】
図6に示すように、本実施例は、従来品に比べて加工面の算術平均粗さRaの値が小さくなることが確認された。
【0085】
また、
図7に示すように、一般的には、従来品のように、工具先端部のチゼルエッジで加工する0°面はボール刃で加工した45°面よりも表面粗さが大きくなるが、本実施例は、
図7に示すように、45°面と0°面は両者ともに良好な表面粗さとなっており、さらには、ボール刃5で加工した45°面よりも平面6を有する工具先端部で加工した0°面の方が、より良好な表面粗さとなっていることが確認された。
【0086】
以上、実験例3より、本実施例は、工具先端部に中心側切れ刃7が工具回転軸a付近まで設けられる構成となるように平面6を設けることで、この工具先端部を使用した工具回転軸aに直交する平面加工においても、ボール刃5を使用した加工面と同等若しくはそれ以上の光沢性に優れた加工面が得られることが確認された。
【0087】
なお、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。