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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137924
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ガス容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044369
(22)【出願日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/水素貯蔵効率向上に向けた水素タンクの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓大
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD03
3E172DA36
3E172FA01
3E172FA08
3E172FA10
(57)【要約】
【課題】ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させ得る技術を提供すること。
【解決手段】
内部空間18を有する容器本体10と、
前記容器本体10の外部と前記内部空間18とを連絡する口金と、
前記内部空間18に配置され、熱伝導材製の区画壁61により区画された副空間62が複数配列するハニカム形状をなす収容部材60と、
前記副空間62に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材50と、を有し、
前記区画壁61の少なくとも一つは、隣り合う二つの前記副空間62を連絡する連絡口65を有する、ガス容器1。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有し、
前記区画壁の少なくとも一つは、隣り合う二つの前記副空間を連絡する連絡口を有する、ガス容器。
【請求項2】
複数の前記副空間の一部である空洞部は前記貯蔵材を収容せず、複数の前記副空間の残部である貯蔵部は前記貯蔵材を収容する、請求項1に記載のガス容器。
【請求項3】
前記貯蔵部の流路断面積の平均値を100%とした場合に、前記空洞部の流路断面積の平均値は、20~200%の範囲内である、請求項2に記載のガス容器。
【請求項4】
前記空洞部と前記貯蔵部との存在比率は、1:15~1:2の範囲内である、請求項2または請求項3に記載のガス容器。
【請求項5】
前記貯蔵部の流路断面積の和を100%とした場合に、前記空洞部の流路断面積の和は7~30%の範囲内である、請求項2~請求項4の何れか一項に記載のガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスなどのガスを貯蔵および放出するためのガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両や各種装置の燃料として、水素ガスや天然ガス等を用いる技術が提案されている。これらのガスを貯蔵および放出するためのガス容器についても盛んに検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に紹介されているガス容器は、その内部空間に、貯蔵材の一種である水素吸蔵合金を収容するものである。
貯蔵材は、貯蔵の対象となるガス(以下、必要に応じて充填ガスと称する)を物理的または化学的に吸蔵し、および、放出する。これら貯蔵材によると、内部空間に貯蔵可能なガスの量を増大させることができる。
【0004】
一方、貯蔵材は、充填ガスを吸蔵および放出する際に温度変化を伴う。
【0005】
例えば、特許文献1に紹介されているように、貯蔵材が水素吸蔵合金であれば、温度変化により貯蔵材の体積変化が生じる。このような場合、貯蔵材の温度変化量やその速度、すなわち貯蔵材の体積変化量やその速度が過大になると、ガス容器に変形等の機械強度の低下が生じる虞がある。
【0006】
さらに、貯蔵材による充填ガスの吸蔵及び放出に雰囲気の温度が深く関係することにより、貯蔵材への充填ガスの吸蔵、および、当該貯蔵材からの充填ガスの放出を円滑に行うためには、貯蔵材の温度を内部空間全体にわたって均一化することが肝要と考えられる。
【0007】
特許文献1に紹介されているガス容器における内部空間には、熱交換媒体の通路である熱媒管と、当該熱媒管から延出するフィン部とが配置されている。
当該ガス容器によると、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで、内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-281097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、既述したように、上記特許文献1に紹介されているガス容器では、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
しかし、この種のガス容器であっても、充填ガスの貯蔵放出性能に優れるとは言い難い。
【0010】
本発明の発明者は、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させるべく、当該特許文献1に紹介されているような従来型のガス容器では充分な充填ガスの貯蔵放出性能が得られない理由を検討した。そして、鋭意研究の結果、当該従来型のガス容器においては、内部空間で依然として温度のムラが生じており、これにより、従来型のガス容器では、充填ガスの吸蔵放出量や速度が頭打ちになっているという着想を得た。
発明者は、この着想をさらに進めて、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のガス容器は、
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有し、
前記区画壁の少なくとも一つは、隣り合う二つの前記副空間を連絡する連絡口を有する、ガス容器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例のガス容器を模式的に説明する説明図である。
図2】実施例のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図である。
図3】実施例のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図である。
図4】実施例のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図である。
図5】実施例のガス容器における区画壁を説明する説明図を図5に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガス容器は、充填ガスを吸蔵および放出するための貯蔵材を有する。そして、当該貯蔵材を収容する容器本体の内部空間は、ハニカム形状をなす収容部材の区画壁により複数の副空間に区画され、貯蔵材は各副空間に収容保持されている。
したがって、本発明のガス容器における内部空間には、区画壁が張り巡らされているといい得る。
【0016】
既述したように、本発明の発明者は、内部空間に温度のムラがあるという着想を得た。そして発明者は、当該温度のムラを解消または緩和するために、ハニカム形状をなす収容部材を用いることに到達した。
【0017】
区画壁は、熱伝導材製であり熱伝導性に優れるために、熱交換器として機能する。
【0018】
このため本発明のガス容器においては、内部空間を熱的に均一または略均一にすることが容易であり、ひいては、当該内部空間に収容保持されている貯蔵材を熱的に均一または略均一にすることが容易である。そしてその結果、内部空間に収容された貯蔵材に対して、内部空間の全体にわたって満遍なく加熱および冷却を行うことが可能であり、当該貯蔵材に対して内部空間の全体にわたって満遍なく充填ガスを吸蔵および放出させることが可能である。
【0019】
これにより、本発明のガス容器によると、貯蔵材における充填ガスの吸蔵放出性能を充分に引き出すことができ、その結果、ガス容器全体としての充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることが可能である。
【0020】
さらに、本発明の発明者は、鋭意研究の結果、ガス容器における貯蔵材の性能を充分に引き出すために、内部空間を熱的に均一化することに加えて、充填ガスの濃度的にも均一化するという着想を得た。
【0021】
本発明のガス容器において、収容部材の区画壁の少なくとも一つは、隣り合う二つの副空間を連絡する連絡口を有する。
【0022】
当該隣り合う二つの副空間の一方に進入したガスは、当該連絡口を通じて、他方の副空間に移動可能である。このため、本発明のガス容器においては、当該収容部材が配置される内部空間を充填ガスの濃度的に均一または略均一にすることが可能である。そしてその結果、内部空間に収容された貯蔵材に対して内部空間の全体にわたって満遍なく充填ガスに曝すことや、貯蔵材から放出された充填ガスを内部空間の全体にわたって満遍なく回収することが可能である。
【0023】
これにより、本発明のガス容器によると、貯蔵材における充填ガスの吸蔵放出性能をさらに引き出すことができ、その結果、ガス容器全体としての充填ガスの貯蔵放出性能をさらに向上させることが可能である。
【0024】
以下、本発明のガス容器をその構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書 に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0025】
本発明のガス容器に収容する充填ガスの種類は特に限定せず、ガス容器内における当該充填ガスの圧力もまた特に限定しないが、本発明のガス容器は、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスを高圧で充填する所謂耐圧容器として具現化するのが特に好適である。
【0026】
本発明のガス容器は、容器本体、口金、収容部材および貯蔵材を有する。
【0027】
このうち容器本体は、対象となる充填ガスを収容するための内部空間を有するものである。このような容器本体の材料としては、当該充填ガスを透過し難い所謂ガスバリア性を有する材料を選択するのが好適である。
【0028】
具体的には、容器本体の材料は、充填ガスの種類やガス容器を設置する環境等に応じて適宜適切に選択すれば良い。
【0029】
例えば充填ガスが水素ガスであれば、容器本体の材料として、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を用いるのが好適である。容器本体の内部を、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のガスバリア性に優れる材料でコートするのも好適である。
本発明のガス容器が住宅等に設置されるものである等、ガス容器の質量が多少大きくても良い場合等には、容器本体の材料としてアルミニウムやステンレススチール等の金属材料を選択しても良い。
【0030】
容器本体の形状は特に限定しないが、例えば円筒状や正多角形筒状等の、充填ガスに因る内圧が均一に分散する形状を有するのが好適である。
【0031】
容器本体は、口金に一体成形しても良いし、口金とは別体で形成しても良い。
例えば予め形成した口金をインサートとして、容器本体をインサート成形しても良い。または、予め形成した容器本体に口金を挿入することで、両者を一体化しても良い。
容器本体外部への充填ガスの漏出を抑制するため、口金と容器本体との間には、Oリング等のシール部材を介在させるのが好適である。
【0032】
口金の材料もまた特に限定しないが、口金にはある程度の剛性が要求されるため、当該口金用の材料としてはアルミニウム、アルミニウム合金又はステンレススチール等の金属材料を選択するのが好適である。
【0033】
口金は、容器本体の外部と容器本体に設けられた内部空間とを連絡し、充填ガスの出入り口として機能する。
【0034】
口金は、一つの容器本体に対して少なくとも一つあれば良いが、一つの容器本体に対して複数あっても良い。例えば、容器本体が円筒状である場合には、容器本体における軸方向の両端部に口金を一体化しても良い。
この場合、二つの口金の双方を、充填ガスの出入口として用いても良いし、一方の口金に栓をしても良い。また、後述する実施例のように、口金の一方を充填ガスの出入口として用い、他方を熱交換媒体の流通する熱交換器として利用しても良い。
勿論、本発明のガス容器は、口金とは別の熱交換器を有しても良い。
【0035】
本発明のガス容器を耐圧容器として用いる場合、容器本体の外部を補強層で被覆するのが好適である。
【0036】
補強層は、一般的な耐圧容器同様に、樹脂を含浸した高強度繊維(所謂FRP)で構成すれば良い。高強度繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を採用すれば良く、当該高強度繊維に含浸される樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を採用すれば良い。
【0037】
補強層を形成する方法としては一般的な方法を採用すれば良く、例えば、樹脂材料を含浸させた高強度繊維を容器本体に対して巻回してヘリカル層やフープ層を形成し、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用し得る。または、樹脂および高強度繊維を材料とする当該ヘリカル層やフープ層をシート状に形成したものを、容器本体に貼り付け、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用することも可能である。
【0038】
収容部材は、容器本体の内部空間に配置される。
【0039】
収容部材は、区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす。各副空間の形状は特に限定しないが、副空間に貯蔵材を収容保持する都合上、口金の延びる方向、すなわち、充填ガスの流通方向に沿って延びる柱状をなすのが好ましい。
【0040】
各々の副空間は、同一の形状であっても良いし、異なる形状であっても良いが、当該副空間を区画形成する区画壁の剛性を考慮すると、当該副空間の流路断面は、正六角形や正八角形等の正多角形状であるのが好適である。
各副空間の流路断面は、当該副空間の軸方向全体にわたって一定であっても良いし、一定でなくても良い。但し、充填ガスの圧力損失を考慮すると、副空間の軸方向長さの50%以上にわたって一定であるのが好ましく、当該軸方向長さの75%以上にわたって一定であるのがより好ましく、副空間の軸方向長さの全長にわたって一定であるのが特に好ましい。
【0041】
副空間を区画する区画壁は、副空間の形状に応じた形状であれば良い。
既述したように、区画壁は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。本明細書において、熱伝導材とは、25°の常温における熱伝導率が空気よりも高い材料を意味し、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される各種の金属、合金、セラミックス等を挙げることができる。
【0042】
区画壁は、板状の材料を、溶着または接着等により一体化することで製造しても良いし、セラミックスの原料スラリーを押出成形および焼成等することで製造しても良い。
【0043】
本発明のガス容器において、区画壁の少なくとも一つは、隣り合う二つの副空間を連絡する連絡口を有する。既述したように、当該隣り合う二つの副空間は、連絡口を通じて連絡し、当該二つの副空間において充填ガスは連絡口を通じて流通可能である。
【0044】
本発明のガス容器において、全ての区画壁が連絡口を有しても良いし、一部の区画壁のみが連絡口を有しても良いが、内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、区画壁の多くが連絡口を有するのが好ましい。
【0045】
具体的には、区画壁の30%以上、50%以上、または75%以上が連絡口を有するのが好適である。全ての区画壁が連絡口を有するのが特に好適である。
【0046】
各々の連絡口の形状や数は特に限定されない。連絡口の大きさは、副空間に収容保持される貯蔵材の移動を抑制できる程度であれば良く、貯蔵材の大きさ等に応じて適宜適切に設定すれば良い。
【0047】
具体的には、貯蔵材が一次粒子であるか、または、当該一次粒子が凝集した二次粒子である場合には、連絡口は、開口径50~500μm程度の小径の開口であるのが良い。貯蔵材が、当該一次粒子や二次粒子の貯蔵材を架橋または結着したペレット状をなす場合には、連絡口は、開口径1mm以上の比較的大径の開口であるのが良い。
【0048】
更には、当該大径の開口をメッシュ等の通気材で覆っても良い。具体的には、後述する実施例のガス容器のように、区画壁を、板状をなし貫通孔状の連絡口を有する主壁部と、当該主壁部に取り付けられたメッシュ状のフィルタ部と、の二層構造にしても良い。この場合には主壁部によって区画壁の剛性を確保することができ、収容部材の充填ガス流通性能と、耐久性とを両立させることが可能である。フィルタ部は主壁部の表面全体を覆っても良いし、連絡口およびその周縁部のみを覆っても良い。
なお、貯蔵材としてペレット状のものを用いる場合には、連絡口からの貯蔵材の漏出をさほど考慮しなくても良いために、フィルタ部としてメッシュが粗く剛性に優れるものを使用できる利点もある。
【0049】
上記したように副空間が柱状をなす場合には、副空間の軸方向長さの全体にわたって、連絡口を連続的または断続的に設けるのが好適である。
【0050】
本発明のガス容器において、少なくとも一部の副空間には、貯蔵材が収容保持される。貯蔵材の詳細については追って説明する。
【0051】
本発明のガス容器においては、複数の副空間の全てが貯蔵材を収容保持しても良いし、複数の副空間の一部が貯蔵材を収容保持せず、残部が貯蔵材を収容保持しても良い。本明細書では、必要に応じて、貯蔵材を収容保持する副空間を貯蔵部と称し、貯蔵材を収容保持しない副空間を空洞部と称する。
【0052】
内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、本発明のガス容器は、貯蔵材が収容保持されず、充填ガスの流路として機能する副空間、すなわち空洞部を有するのが好適である。
【0053】
空洞部と貯蔵部との存在比率や、流路断面積の比率等は特に限定しないが、充分な量の充填ガスを貯蔵および放出し、かつ、充填ガスの流路を十分に確保するためには、これらの比率に最適な範囲が存在する。
【0054】
具体的には、貯蔵部の流路断面積の平均値を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の平均値は、10~500%の範囲内、20~200%の範囲内、または、50~150%の範囲内であるのが好適である。
【0055】
また、空洞部と貯蔵部との存在比率(数比)は、1:50~1:1の範囲内、1:15~1:2の範囲内、または1:7~1:3の範囲内であるのが好適である。
【0056】
また、貯蔵部の流路断面積の和を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の和は、2~50%の範囲内、7~30%の範囲内、または、15~23%の範囲内であるのが好適である。
【0057】
貯蔵材は、副空間に収容保持され、充填ガスを吸蔵および放出する。このような貯蔵材としては、本発明のガス容器に貯蔵すべき充填ガスの種類に応じたものを適宜適切に選択すれば良い。
【0058】
例えば充填ガスが水素である場合、貯蔵材としては、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(所謂MOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物等を例示できる。
【0059】
各貯蔵材は種々の形状をなし得る。貯蔵材の充填ガス吸蔵放出性能を充分に引き出すためには、充填ガスに対する貯蔵材の接触面積を大きくするのが好ましく、比表面積の大きな一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を使用するのが好適である。
また、貯蔵材ひいては本発明のガス容器の取り扱い性を考慮すると、当該一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を架橋剤により架橋するか、またはバインダにて結着して、ペレット状にするのが好適である。ペレットの形状としては、当該ペレットを収容保持する副空間と概略一致する形状であるのが特に好適である。
【0060】
以下、具体例を挙げて本発明のガス容器を説明する。
【0061】
(実施例)
実施例のガス容器は、車両に搭載され、充填ガスの一種である水素ガスを貯蔵および放出するため耐圧容器である。
実施例のガス容器を模式的に説明する説明図を図1に示す。実施例のガス容器における要部の軸方向断面を模式的に表す説明図を図2に示す。実施例のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図を図3に示す。実施例のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図を図4に示す。実施例のガス容器における区画壁を説明する説明図を図5に示す。
以下、軸方向、径方向とは各図に示す方向を指すものとする。
【0062】
図1図3に示すように、実施例のガス容器1は、容器本体10、口金20、口金30、補強層40、貯蔵材50、収容部材60、および、連結部70を有する。
【0063】
容器本体10は、ポリエチレン樹脂製であり、軸方向の両端部が縮径した略円筒状をなす、所謂樹脂ライナーである。
図2に示すように、略筒状をなす容器本体10の内部には、内部空間18が形成されている。
【0064】
容器本体10は、4つの分体(第1分体11、第2分体12、第3分体13、第4分体14)が溶着され一体化されたものである。当該4つの分体は容器本体10が軸方向に直交する方向に四分割されたものといい得る。
【0065】
第1分体11および第2分体12は同型の円筒状をなし、第3分体13および第4分体14は同型のドーム状をなす。
各分体は、軸方向に沿って、第3分体13、第1分体11、第2分体12、第4分体14の順に配列している。
【0066】
容器本体10の軸方向の両端部は各々開口している。当該開口の一方を第1開口部15と称し、他方を第2開口部16と称する。第1開口部15は第3分体13に設けられ、第2開口部16は第4分体14に設けられている。
第1開口部15および第2開口部16には、各々、Oリングを介して、金属製の口金(口金20、口金30)が装着されている。
【0067】
口金20は熱交換媒体が循環する熱交換流路21を一体に有する。
口金30には、図略のバルブおよびガス供給管が取り付けられている。
口金30は、当該ガス供給管およびバルブを介して、充填ガスである水素ガスが出入りする、充填ガス出入口として機能する。なお、口金20は実質的に目詰めされ、充填ガス出入口としては機能しないが、熱交換器として機能する。
【0068】
図1に示すように、容器本体10の外面は、FPR製の補強層40で覆われている。
GPa程度である。
【0069】
図2に示すように、容器本体10の内部空間18には、収容部材60が配置されている。
【0070】
図3および図4に示すように、収容部材60は、区画壁61によって区画された副空間62が複数配列するハニカム形状をなす。
図4に示すように、各副空間62は、軸方向に延び、径方向すなわち軸方向と直交する方向に配列している。各副空間62は同型状であり、各副空間62の径方向断面は正六角形であり、かつ、当該径方向断面は軸方向において一定である。
【0071】
区画壁61は、図5に示すように、ステンレススチールの一種であるSUS316L製であり板状をなす主壁部63に、同じくSUS316L製でありメッシュ状をなすフィルタ部64が重ねられた二層構造をなす。主壁部63には複数の連絡口65が設けられている。当該連絡口65は、主壁部63をその厚さ方向に貫通する貫通穴状をなす。区画壁61の厚さは1.1mmであり、このうち主壁部63の厚さは0.1mm、フィルタ部64の厚さは1mmである。
【0072】
図2および図3に示すように、収容部材60の中心部は中空であり、当該中心部には筒状をなす連結部70が一体化されている。連結部70は、区画壁61と同じ材料からなり、口金20に向けて軸方向に延びている。
【0073】
図5に示すように、各連絡口65は、軸方向に沿って略均等に配置されている。また各連絡口65はフィルタ部64によって覆われている。実施例のガス容器1では、各副空間62を区画する6つの区画壁61の2つに連絡口65が設けられ、各々の副空間62は当該連絡口65を介して、任意の副空間62に隣り合う6つの副空間62のうち2つに連絡するといい得る。
【0074】
図4に示すように、複数の副空間62の一部である空洞部67には貯蔵材50が収容されず、複数の副空間62の残部である貯蔵部68には貯蔵材50が収容されている。
貯蔵材50は、多孔性の炭素系材料が架橋剤で架橋されたペレット状をなす。貯蔵材50の形状は内部空間18の形状と概略同じである。
【0075】
図4に示すように、空洞部67と貯蔵部68とは同型状であり、空洞部67の数は16個であり、貯蔵部68の数は88個であった。
【0076】
したがって、貯蔵部68の径方向断面すなわち流路断面積の平均値を100%とした場合の、空洞部67の流路断面積の平均値は100%であった。
また、空洞部67と貯蔵部68との存在比率は、1:5.5であった。
さらに、貯蔵部68の流路断面積の和を100%とした場合に、空洞部67の流路断面積の和は18.2%であった。
【0077】
以下、実施例のガス容器1を製造する方法を説明する。
【0078】
先ず、容器本体10を構成する4つの分体(第1分体11、第2分体12、第3分体13、第4分体14)を各々射出成形した。
このうち第3分体13(図3参照)の第1開口部15に、Oリングとともに口金20を装着した。また、第4分体14の第2開口部16にも、Oリングとともに口金20を装着した。
【0079】
ハニカム構造の主壁部63(図5参照)を準備し、当該主壁部63にフィルタ部64を取り付けることで、主壁部63に形成されている連絡口65がフィルタ部64で覆われた収容部材60を得た。フィルタ部64は、主壁部63の内面すなわち副空間62側の面に配置された。
【0080】
このようにして得られた収容部材60における貯蔵部68に、ペレット状の貯蔵材50を挿入し、当該貯蔵材50を区画壁61に接着した。
【0081】
口金30に対して固定した収容部材60を、第2分体12および第1分体11に挿入し、第1分体11、第2分体12および第4分体14を溶着して、一体化した。
さらに、収容部材60に一体化した連結部70を口金20接触させつつ、収容部材60を口金20に対して固定した。そして、第1分体11、第2分体12および第4分体14の一体品と第3分体13とを溶着して、容器本体10を得た。
【0082】
このようにして得られた容器本体10の表面に、FRP製の補強層を形成し、実施例のガス容器1を得た。
【0083】
実施例のガス容器1の作用について以下に説明する。
【0084】
実施例のガス容器1において、容器本体10の内部空間18には、貯蔵材50を収容保持する収容部材60が配置されている。
【0085】
収容部材60は、区画壁61が張り巡らされたハニカム構造をなし、貯蔵材50は、区画壁61の間に形成されている副空間62に収容されている。区画壁61は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。このような区画壁61が存在することで、内部空間18はその全体にわたって熱的に均一化され、当該内部空間18に収容されている貯蔵材50の温度もまた均一化されている。
【0086】
さらに、区画壁61は、連結部70を介して口金20に接触し、当該口金20に熱的に連絡されている。口金20には熱交換媒体が循環する熱交換流路21が一体に設けられているため、区画壁61は当該熱交換媒体と間接的に熱交換する。
【0087】
これにより内部空間18は効率良くかつ迅速に温度調節され、当該内部空間18にある貯蔵材50もまた効率良くかつ迅速に温度調節される。したがって、実施例のガス容器1では、当該内部空間18において、貯蔵材50への充填ガスの吸蔵、および、貯蔵材50からの充填ガスの放出が円滑に行われる。
【0088】
ガス容器1において、充填ガスが図略のバルブおよび口金30を経て容器本体10の内部空間18へ供給されると、当該充填ガスは、内部空間18に配置されている収容部材60の軸方向端面69(図2参照)を経て収容部材60の各副空間62に流入する。
【0089】
副空間62のうち貯蔵部68に流入した充填ガスは、当該貯蔵部68に収容保持されている貯蔵材50に徐々に吸蔵されつつ、口金30側から口金20側に流通する。副空間62のうち空洞部67に流入した充填ガスは、当該空洞部67を口金30側から口金20側に流通する。
【0090】
ここで、各副空間62は区画壁61に設けられている連絡口65を通じて隣り合う副空間62に連絡している。このため貯蔵部68に流入した充填ガスの一部は、当該連絡口65を通じて隣り合う他の貯蔵部68または空洞部67に流入する。同様に、空洞部67に流入した充填ガスの一部は、連絡口65を通じて隣り合う他の空洞部67または貯蔵部68に流入する。
【0091】
これにより、実施例のガス容器1においては、内部空間18はその全体にわたってガス濃度的に均一化される。
【0092】
さらに、実施例のガス容器1は、複数の副空間62の一部として、貯蔵材50を収容していない空洞部67を有する。当該空洞部67は、専ら充填ガスの流路として機能する。このため、実施例のガス容器1では内部空間18の全体に充填ガスが行き渡り、当該充填ガスが同じく内部空間18にある貯蔵材50に満遍なく接触する。
【0093】
以上により、実施例のガス容器1によると、貯蔵材50の吸蔵放出性能を充分に引き出すことができ、ガス容器1としての充填ガスの貯蔵放出性能が向上する。
【0094】
尚、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1:ガス容器 10:容器本体
18:内部空間 20:口金
30:口金 50:貯蔵材
60:収容部材 61:区画壁
62:副空間 65:連絡口
67:空洞部 68:貯蔵部
図1
図2
図3
図4
図5