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特開2023-137939ニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137939
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20230922BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230922BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20230922BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230922BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20230922BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20230922BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20230922BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20230922BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 X
H02J7/00 B
G01R31/389
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/382
G01R31/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044387
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 佑樹
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA41
2G216BA45
2G216BA51
2G216BA56
2G216BA61
2G216BB08
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503CB11
5G503CC02
5G503DA04
5G503DA07
5G503EA05
5G503GD03
5G503GD06
5H030AS08
5H030BB01
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】メモリー効果の生じたニッケル水素蓄電池の容量の低下を回復すること。
【解決手段】ニッケル水素蓄電池の回復方法は、あらかじめ回復対象となるニッケル水素蓄電池の複素インピーダンスを測定し、測定結果に基づき正確な満容量を取得する。この満容量に基づき、OCV-SOCカーブを取得する(S31)充電の必要があった場合は(S34:YES)、まず現在の電圧PV[V]を取得し(S35)、高SOC領域より低いSOCである場合は(S35:NO)、第1の充電レートであるハイレートの3[C]で充電を行う(S37)。高SOC領域であると判断された場合は(S38:YES)、第2の充電レートであるローレートの1/3[C]で充電を行う(S39)。充電が、上限電圧に達したら(S38:NO)、ただちに充電を終了する(S40)。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用されたニッケル水素蓄電池において、
当該ニッケル水素蓄電池を予め充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]としたとき、
前記ニッケル水素蓄電池を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、当該上限SOCを含んだ範囲まで設定された充電レートで充電することを特徴とするニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項2】
前記使用されたニッケル水素蓄電池のSOC100[%]の満容量の取得は、
測定用の交流電力の付与に基づいて測定対象とする二次電池の複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定工程と、
前記測定した複素インピーダンスのうち、拡散領域内にあり、かつ、測定角速度が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比からなるパラメータを算出するパラメータ算出工程と、
予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報と、前記パラメータ算出工程で算出したパラメータとに基づいて前記二次電池の容量を算出する容量算出工程とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項3】
前記ニッケル水素蓄電池のSOC100[%]を上限SOCとするとともに、
前記上限SOCより設定した値だけ低いSOC[%]を基準SOCとしたとき、
前記基準SOC以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、
前記基準SOCを超え、前記上限SOC以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項4】
前記基準SOCを、70~90[%]に設定したことを特徴とする請求項3に記載のニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項5】
前記充電レート若しくは第2の充電レートが、1/3[C]以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項6】
前記使用されたニッケル水素蓄電池の電池容量[Ah]の100[%]のときをSOC100[%]とし、SOC100[%]における電池電圧OCV[V]を上限電圧UL[V]とするとともに、
SOC100[%]より設定した値だけ低いSOC[%]における電池電圧OCV[V]を基準電圧RV[V]としたとき、
前記基準電圧RV[V]以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、
前記基準電圧RV[V]を超え、前記上限電圧UL[V]以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電する
ことを特徴とするニッケル水素蓄電池の回復方法。
【請求項7】
ニッケル水素蓄電池の充放電制御装置を備え、
前記充放電制御装置は、使用されたニッケル水素蓄電池の電池容量[Ah]の100[%]のときをSOC100[%]とし、SOC100[%]における電池電圧OCV[V]を上限電圧UL[V]とするとともに、
SOC100[%]より設定した値だけ低いSOC[%]における電池電圧OCV[V]を基準電圧RV[V]としたとき、
前記基準電圧RV[V]以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、
前記基準電圧RV[V]を超え、前記上限電圧UL[V]以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電する
ことを特徴とするニッケル水素蓄電池の回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置に係り、詳しくメモリー効果を効果的に解消することができるニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ニッケル水素蓄電池は、安全で大容量の電流を入出力可能であるため、電気自動車、ノートPCなどや、家庭や工場において深夜電力や太陽光発電した電力等を蓄電する用途など多様に用いられている。
【0003】
このようなニッケル水素蓄電池は様々な使用態様がある。例えば、充放電条件によっては、繰り返し充放電を行う事で電気化学的に不活性なニッケル酸化物(NiH)が生成することにより、電池抵抗の上昇や電池容量の低下を引き起こすことがある。
【0004】
そのため、特許文献1に開示された発明では、電流密度100[A/m]で充電率SOC(State Of Charge、以下単に「SOC」と略記することがある。)20~80[%]の範囲内で総電気量10[kAh]の充放電を実施した際に、NiHが規定量以下になるような電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-233423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者らは、ニッケル水素蓄電池を特許文献1に開示されたようにSOC20~80[%]のような中間SOC領域で部分充放電を繰り返し行う方法でも電池容量が減少する場合があるという問題点を見出した。このような原因として、いわゆるニッケル水素蓄電池のメモリー効果が生じたことが考えられる。
【0007】
メモリー効果は、正極活物質である水酸化ニッケルの充電のばらつきがその原因の一つとして考えられている。このような場合、メモリー効果を解消して電池容量を回復するいわゆるバッテリリフレッシュ方法がある。従来のバッテリリフレッシュ方法は、一旦SOC0[%]まで完全放電して充電された水酸化ニッケルがなくなった状態とする。そして、その状態から水酸化ニッケルの充電のばらつきが生じないように、低レートで充電していくことで、メモリー効果を解消することが当業者の技術常識であった。
【0008】
しかしながら、本発明者らの実験による解析によれば、電池容量が回復するといわれていた上記のような従来バッテリリフレッシュ方法でも、実際にはニッケル水素蓄電池の容量が低下するという問題点を見出した。
【0009】
本発明のニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置が解決しようとする課題は、ニッケル水素蓄電池のメモリー効果を効果的に解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のニッケル水素蓄電池の回復方法では、使用されたニッケル水素蓄電池において、当該ニッケル水素蓄電池を予め充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]としたとき、前記ニッケル水素蓄電池を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、当該上限SOCを含んだ範囲まで設定された充電レートで充電することを特徴とする。
【0011】
また、前記使用されたニッケル水素蓄電池のSOC100[%]の満容量の取得は、
測定用の交流電力の付与に基づいて測定対象とする二次電池の複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定工程と、前記測定した複素インピーダンスのうち、拡散領域内にあり、かつ、測定角速度が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の差と前記2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比からなるパラメータを算出するパラメータ算出工程と、予め設定された情報であって、前記二次電池の容量と前記パラメータとの関係を示す情報と、前記パラメータ算出工程で算出したパラメータと基づいて前記二次電池の容量を算出する容量算出工程とを備えることも好ましい。
【0012】
また、前記ニッケル水素蓄電池のSOC100[%]を上限SOCとするとともに、前記上限SOCより設定した値だけ低いSOC[%]を基準SOCとしたとき、前記基準SOC以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、前記基準SOCを超え、前記上限SOC以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電することも好ましい。
【0013】
また、前記基準SOCを、70~90[%]に設定することも好ましい。
また、前記充電レート若しくは第2の充電レートが、1/3[C]以下であることも好ましい。
【0014】
また、ニッケル水素蓄電池の回復方法は、前記使用されたニッケル水素蓄電池の電池容量[Ah]の100[%]のときをSOC100[%]とし、SOC100[%]における電池電圧OCV[V]を上限電圧UL[V]とするとともに、SOC100[%]より設定した値だけ低いSOC[%]における電池電圧OCV[V]を基準電圧RV[V]としたとき、前記基準電圧RV[V]以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、前記基準電圧RV[V]を超え、前記上限電圧UL[V]以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電することができる。
【0015】
また、本発明のニッケル水素蓄電池の回復装置は、ニッケル水素蓄電池の充放電制御装置を備え、前記充放電制御装置は、使用されたニッケル水素蓄電池の電池容量[Ah]の100[%]のときをSOC100[%]とし、SOC100[%]における電池電圧OCV[V]を上限電圧UL[V]とするとともに、SOC100[%]より設定した値だけ低いSOC[%]における電池電圧OCV[V]を基準電圧RV[V]としたとき、
前記基準電圧RV[V]以下の領域である低SOC領域では、予め設定した第1の充電レートを上限に充電するとともに、前記基準電圧RV[V]を超え、前記上限電圧UL[V]以下の領域である高SOC領域では、前記第1の充電レートより低い第2の充電レートを上限に充電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置によれば、ニッケル水素蓄電池のメモリー効果を効果的に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】容量劣化のないニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCVとSOCとの関係示すOCV-SOCカーブである。
図2】容量が低下したニッケル水素蓄電池のOCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
図3】制御対象となる容量が低下したニッケル水素蓄電池におけるOCV-SOCカーブVと、SOCと充電レートの関係を示すグラフである。
図4】充電時と放電時の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
図5】ニッケル水素蓄電池の制御装置のブロック図である。
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御の手順を示すフローチャートである。
図7】充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1~7の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。
図8】ニッケル水素蓄電池の電池電気容量及び容量維持率を測定する測定装置の構成を示すブロック図である。
図9】本実施形態において、二次電池について測定した交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例をグラフにて示す図である。
図10】本実施形態において、交流インピーダンスの測定角速度の逆数と虚数成分との関係の一例をグラフにて示す図である。
図11】本実施形態において、交流インピーダンスの測定角速度と虚数成分との比からなるパラメータと電池電気容量との関係をグラフで示す図である。
図12】電池について測定した交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例を示す図である。
図13】本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御装置1によりニッケル水素蓄電池10の充放電制御(S4)の手順を示すフローチャートである。
図14】本実施形態と従来技術のリフレッシュによる電池容量の回復の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明のニッケル水素蓄電池の回復方法及び回復装置を、一実施形態であるニッケル水素蓄電池10の制御装置1による回復方法により、図1~13を参照して説明する。本実施形態のニッケル水素蓄電池10は、その用途は幅広く限定されないが、説明が容易なことから例えば特定の時刻になった場合に、SOC100[%]まで充電するような使用態様のものを例示する。例えば、家庭において電灯線の深夜電力を充電し、この電力を日中使用するような場合である。また、これ以外の充放電についてはないものと仮定して、説明を省略する。
【0019】
<本実施形態の技術背景>
従来技術で述べたとおり、NiHが生成すると、ニッケル水素蓄電池10の電池容量が下がる。このため、特許文献1に開示された発明では、電流密度100[A/m]でSOC20~80[%]の範囲内で総電気量10[kAh]の充放電を実施した際に、NiHが規定量以下になるような電池が提案されている。
【0020】
ところが、上述のとおりニッケル水素蓄電池10を上述のようなSOC20~80[%]のような中間SOC領域で部分充放電を繰り返し行うことでも、メモリー効果で電池容量が減少する場合がある。
【0021】
メモリー効果が生じて、ニッケル水素蓄電池10の満容量が低下すると、おなじOCV[V]でも、対応するSOC[%]が異なることになる。しかし、適切な充放電の制御のためには正確にSOC[%]を推定する必要がある。
【0022】
ここで、図1は、容量劣化のないニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCV(以下単に「OCV」と略記することがある。)とSOCとの関係示すOCV-SOCカーブVである。図1に示すように、対象となるニッケル水素蓄電池のOCVとSOCとの関係をOCV-SOCカーブVとして取得すれば、OCVからSOCを推定することができる。図1においては、SOC100[%]のときのOCV[V]は、V100[V]を示す。また、OCVがV80[V]のときは、SOCが80[%]であると推定できる。
【0023】
図2は、容量が低下したニッケル水素蓄電池のOCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブVである。ニッケル水素蓄電池などでは、上述のようなSOC20~80[%]のような中間SOC領域で部分充放電を繰り返し行うことで、電池容量が減少する場合がある。電池容量が減少すると、図2に示すように同じOCVでも、実際には当初のOCV-SOCカーブVよりも高いSOCとなっている場合がある。図1において、SOC80[%]のときのOCV[V]はOCV=V80である。しかしながら、ニッケル水素蓄電池の容量が低下した場合には、図2に示すOCV-SOCカーブVのように、OCV=V80[V]のときには、実際にはSOCは、80[%]を超す値になっている。
【0024】
従って、OCV=V80[V]のときに、そのときのSOC=80[%]と推定すると、実際にはSOC=80[%]より高いSOC[%]においてこのニッケル水素蓄電池を制御していることになる。このようにSOCの推定に誤差が生じると、SOCが80[%]を超す高SOC領域で使用されることともなり、場合によっては過充電となり、さらにNiHの生成要因となってしまう場合がある。このような場合、NiHが少量でも生成してしまうと電池の容量が減少するため、指定容量(Ah)を前提として継続使用された場合には実質的にSOCの推定誤差が拡大し、更なるNiHの生成を招く。結果、電池の繰り返し使用が不可能になる場合さえある。このようにSOCを正確に推定するには、メモリー効果を解消してニッケル水素蓄電池の容量の低下を回復する必要がある。
【0025】
<本実施形態のニッケル水素蓄電池のリフレッシュ方法>
そこで、本発明者らは、このような背景を鑑み、新たな方法でニッケル水素蓄電池の容量の低下が生じにくいニッケル水素蓄電池10の回復方法(いわゆる「リフレッシュ方法」)を開発した。この方法により、ニッケル水素蓄電池10の容量の低下を抑制する。ニッケル水素蓄電池の容量が一定な状態にすることでSOCの推定を正確にすることができる。その結果、そのときの正確なSOCに応じた適切な制御をすることができるため、継続して容量の低下を抑制することができる。
【0026】
<本実施形態のSOCの推定>
本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の前提として、制御の対象となる使用履歴のあるニッケル水素蓄電池のSOC[%]の劣化の正確な推定が必要となる。
【0027】
SOC[%]の厳密な測定には、例えば、X線光電子分光分析(XPS)などを用いて、正極板表面(数nmの深さ)に存在する正極活物質である水酸化ニッケルの化学結合状態を明らかすることで、推定することができる。しかしながら、専用の測定装置などが必要となったり、破壊検査が必要となったりするため、容易には分析できない。
【0028】
簡易な方法としては、電池電流[Ah]を積算して推定したり、OCV[V]の変化を分析したりする方法がある。これらの方法では、電流や電圧の測定により非破壊で検査できる。特に、電池電圧OCVからSOCを推定するには、前述のOCV-SOCカーブを用いれば簡単にSOCが推定できるため、OCV-SOCカーブからSOC100[%]の電圧を取得する方法もある。しかしながら、OCV-SOCカーブからSOC100[%]の電池電圧OCVを取得する方法では、その取得に時間が掛かる。さら取得したSOC100[%]の電池電圧OCVの精度は比較的低いという問題がある。本実施形態では、正確にSOC100[%]の容量を取得することで、効果的な制御ができるため、より迅速で正確な電池容量の取得が望まれる。
【0029】
そこで、本発明者らは、特開2018-040629号公報に開示されたように、複素インピーダンスの測定に基づいて作成したナイキスト線図を用いた容量の推定を行う技術を発明している。本発明においてこの方法を用いることで非破壊かつ迅速に、正確な電池容量を求めることができる。詳細については後述する。
【0030】
<本実施形態の回復方法の特徴>
本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法では、任意に放電を行い、一定の時刻になったらSOC100[%]まで充電するような使用態様を例示する。
【0031】
図3は、容量が低下したニッケル水素蓄電池における「上限SOC[%]」に対応する「上限電圧UL[V]」の関係を示すOCV-SOCカーブVと、SOC[%]と充電レート[C]の関係を示すグラフである。
【0032】
図3に示す本実施形態では、ニッケル水素蓄電池10の電池容量の100[%]のときをSOC100[%]として「上限SOC」とする。また、上限SOCにおけるOCVを上限電圧UL[V]とする。これとともに、「上限SOC」より設定した値(例えば20[%])だけ低いSOC(すなわちSOC80[%])を「基準SOC」とする。また、基準SOCにおけるOCVを基準電圧RV[V]とする。「基準SOC」は、70[%]以上、90[%]以下が好ましい。基準SOCが低すぎると、全体として充電の効率が低下する。一方、基準SOCが高すぎると、正極活物質の充電の均一化が十分ではなくなる。そこで、「基準SOC」は、これに限定されないが70[%]以上、90[%]以下が望ましい。
【0033】
「基準SOC」以下の領域である「低SOC領域」では、予め設定した「第1の充電レートC」を上限に充電する。「第1の充電レートC」は、例えば3[C]のハイレートである。なお、第1の充電レートCが1[C]未満であると、全体として充電の効率が悪くなる。また、3[C]を超えると、局所的な過充電などが生じやすくなる。このため、これに限定されないが、第1の充電レートCは、1[C]以上、3[C]以下が望ましい。
【0034】
一方「基準SOC」を超え、「上限SOC」以下の領域である「高SOC領域」では、「第1の充電レートC」より低い「第2の充電レートC」を上限に充電する。「第2の充電レートC」は、例えば1/3[C]のローレートである。第2の充電レートCは、低ければ正極活物質の均一化のためには好ましいが、充電効率を考慮すると充電レートはある程度高い方が好ましい。そこで、これに限定されないが、本実施形態では、1/3[C]に設定している。
【0035】
さらに、本実施形態では、所定の時刻でなくてもニッケル水素蓄電池10の充放電をSOC0[%]を超えるように設定したSOCである「下限SOC」を下回らない充放電範囲で、充放電を行うようにする。「下限SOC」は、例えば、SOC20[%]である。下限SOCは、あまり低いと、急激な放電などに備えることができず、過放電などを生じるおそれがある。一方、あまり高すぎるとニッケル水素蓄電池の容量を十分に生かすことができない。そこで本実施形態では、これに限定されることはないが、20[%]を下限SOCとしている。
【0036】
<低SOC領域での充電>
「基準SOC」以下の領域である「低SOC領域」では、予め設定した「第1の充電レートC」を上限に充電する。本実施形態では、SOC100[%]時に、すべての正極活物質が均一に充電されている状態とする点に特徴がある。一方、この低SOC領域では、正極活物質が均一に充電されている状態とする必要はない。そのため、充電効率の高い、ハイレートの充電レートを許容することができる。このため、本実施形態の低SOC領域では、3[C]のハイレートでの充電を許容している。
【0037】
<高SOC領域での充電>
一方、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、この上限SOCを含んだ充放電範囲で行う。但し、SOC100[%]を超える充電はしない。SOC100[%]を超える過充電をすることで、酸素の発生の可能性が高くなり、NiHが生成される可能性が高まるからである。
【0038】
この「高SOC領域」における充電により正極活物質であるNi(OH)が、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に変化するが、このとき局所的にばらつきが無いように、例えば1/3[C]以下の低レートでゆっくり充電する。そのようなローレートでゆっくり充電することで、正極内での局所的な過充電などの発生を抑制しつつ、ちょうどSOC100[%]の上限SOCの時点ですべての正極活物質を均一に充電する。
【0039】
言い替えれば、本実施形態では、「SOC100[%]」とは、このようにすべての正極活物質に対し均一に充電を行い、正極において未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態である。すなわち、この時点で直ちに充電を完了する。これ以上充電すると、過充電となり正極において酸素(O)が発生しやすくなる。酸素(O)が発生しやすくなると、NiHが生成しやすい状態となる。そのため、このSOC100[%]の時点を正確に把握する必要がある。
【0040】
<ニッケル水素蓄電池の二段階充電反応>
ここで、ニッケル水素蓄電池の充電について図1を参照して説明する。図1に示すように、OCV-SOCカーブVは、概ね領域St1~St4の部分からなる。
【0041】
領域St1では、低いSOCにおいて未充電の水酸化ニッケルが徐々に充電され、容量が増加するとともにOCV[V]も上昇していく。ここでは、未充電の水酸化ニッケルが多いため、充電開始時にはOCVの上昇が速い。その後徐々にOCVの上昇の速度は落ちる。
【0042】
領域St2では、水酸化ニッケル(Ni(OH))からオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に最も変化しやすい電位となる。そのため、充電の電気エネルギーが、化学変化のエネルギーに費やされるため、電池容量[Ah]は増加するが、OCV[V]は上昇しにくく、水平に近いグラフとなる。
【0043】
領域St3では、未充電の水酸化ニッケルが減少し、容量の増加に伴って電池電圧OCVは上昇する。このとき、SOC80[%]のときの電池電圧OCVは、V80[V]を示す。また、領域St3の右端は、ちょうどSOC100[%]であり、このとき未充電の水酸化ニッケルがなくなる。このときの電池電圧OCV[V]は、V100[V]を示す。
【0044】
領域St4では、過充電の状態となり、充電電流は、水酸化ニッケルの充電には用いられず、酸素の発生のエネルギーとなる。このため、充電しても電池電圧OCVは、上昇しないため、再び水平なグラフとなる。
【0045】
ニッケル水素蓄電池の電池容量が減少していなければ、図1に示すようなOCV-SOCカーブVを得られるため、OCV[V]を測定すれば容易にSOC[%]を推定することができる。
【0046】
<低SOC時のNiHの生成について>
<NiH生成の条件1>
ここで、図4は、充電時と放電時の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【0047】
NiHの生成の1つ目の条件は、以下のとおりである。図4に示すように、低SOCで繰り返し充放電をするとメモリー効果が発生する。そうすると、充電時のニッケル水素蓄電池のOCV-SOCカーブLcが貴側(高い電位)にシフトするため、充電時は酸素Oが発生しやすい系となることである。
【0048】
一方で、放電時のOCV-SOCカーブLdは、卑側(低い電位)にシフトするため、放電時は低い正極電位で使用される系となる。正極の水酸化ニッケル界面で酸素が発生するとその酸素によって水酸化ニッケル粒子界面で局所的な液枯れ状態が発生する。この水が不足している状態で放電をすると、放電電圧が卑にシフトしている分、通常よりも低い正極電位へ滞在することでNiH生成電位に近づくことである。
【0049】
<NiH生成の条件2>
NiHの生成の2つ目の条件は、以下のとおりである。酸素が発生することで、局所的に不足している水を補おうとするために、βNiOOHから、HOとNiHが同時に生成する反応が促進することである。
【0050】
<NiH生成>
上記条件1及び条件2が重なり、NiHが加速的に生成する。その結果、容量低下を招いてしまう。
【0051】
<本実施形態のニッケル水素蓄電池10の容量の回復方法>
図2は、メモリー効果が発生して容量が低下したニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブVである。
【0052】
以上のようなNiHが加速的に生成するメカニズムに基づくと、初期の局所的な充放電がNiHの生成の主要因(起点)である。このため、これを防ぐ必要がある。2段階充電反応(≒酸素発生電圧)の開始時の充電電圧は未充電のNi(OH)粒子はほぼ存在しない。つまり、SOC100[%]の状態になった時点で充電を停止することですべてのNi(OH)粒子が充電されて、正極活物質が均一な状態となっている。そしてこの状態から放電すれば、メモリー効果の要因である正極活物質の不均一を解消することができ、ニッケル水素蓄電池10のリフレッシュが完了する。
【0053】
結果、初期のOCV-SOCカーブのズレを抑制できる。
<従来の領域St4における容量回復について>
図1において領域St4で示す範囲は、過充電であると説明した。従来、敢えてニッケル水素蓄電池を過充電の状態として容量を回復す方法があった(例えば特開2018-14270号公報)。
【0054】
その容量の回復の方法は、ニッケル水素蓄電池内の水素Hが外部に漏出して電池ケース内の水素分圧の平衡が崩れているという前提である。
この平衡を保つべく、水素漏出量に応じて負極の金属水素化物(MH)から水素が放出される。このように水素が電池モジュールの外部に排出されると、負極の放電リザーブが減少するという理由から放電容量が減少する。
【0055】
そこで、放電リザーブを増加させるために、電池モジュールの過充電を行う。過充電では、正極の未充電部分がなくなった後も充電が継続されるために、下記の半反応式(1)に示すように、電解液の水酸基が分解されて酸素が生じる。負極では、下記の半反応式(2)に示すように、負極活物質のうち未充電部分、すなわち水素吸蔵合金に水素が吸蔵される反応が進行する。また、下記の半反応式(3)に示すように、水素吸蔵合金に水素を吸蔵する反応と同時に、充電部分、すなわち水素を吸蔵した水素吸蔵合金では金属水素化物と酸素とが反応して、水が生成される反応が生じる。この際、金属水素化物(MH)は、水素吸蔵合金(M)に戻る。つまり、過充電時であって安全弁が開いていない場合には、負極において、未充電部分が充電される反応と、充電部分が未充電部分に戻る反応とが同時に生じることとなる。
【0056】
(正極)OH→1/4O+1/2HO+e…(1)
(負極)M+HO+e→MH+OH…(2)
MH+1/4O→M+1/2HO…(3)
一方、正極から酸素が発生して内部圧力が上昇し、内部圧力が開弁圧以上となると、安全弁が開いて、外部に酸素ガスが排出される。酸素ガスが排出されると、半反応式(3)で示す反応、すなわち充電部分が未充電部分に戻る反応が抑制される。そのため、水素を吸蔵した水素吸蔵合金は、水素を吸蔵した状態が維持され、負極の未充電部分がある場合には、半反応式(2)で示す反応が進行して放電リザーブが確保される。
【0057】
<本実施形態での領域St4における制御>
本実施形態では、ニッケル水素蓄電池内の水素Hが外部に漏出して電池ケース内の水素分圧の平衡が崩れているという前提はない。
【0058】
このため、正極から酸素が発生して内部圧力が上昇し、内部圧力が開弁圧以上となると、安全弁が開いて、外部に酸素ガスが排出されるが、開弁することにより電解液の絶対量が減少するなど、そのデメリットも大きい。
【0059】
さらに、本発明者らは、過充電により正極において酸素Oが発生することで、この酸素の発生に起因するNiHが生じることを、実験により確認している。
このような理由から、本実施形態では、SOCが100[%]を超える領域St4では、直ちに充電を停止する。
【0060】
<ニッケル水素蓄電池の制御装置1>
図5は、ニッケル水素蓄電池10の制御装置1のブロック図である。図5に示す実線は、電気的に接続されていることを示す。また、破線は制御用の信号の接続を示す。本実施形態に例示されたニッケル水素蓄電池10は、家庭用の定置式電池である。例えば夜間単価の安い深夜電力を電灯線から満充電し、日中は必要な照明、冷暖房、家電製品などに電力を供給するために放電するようなものを想定している。
【0061】
もちろん、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの車両に用いることができる。そのほか、太陽光発電や風力発電などの小規模発電を行う家庭や工場でも用いることができる。その用途は、限定されない。ここでは、充放電の操作が単純で、本実施形態のニッケル水素蓄電池の基本的な制御方法の説明が理解しやすいため、家庭用の定置用電池を例に説明するものである。ここでは、その共通する基本構成のみを示す。
【0062】
制御装置1は、充放電制御装置2、電源装置3、電圧測定装置4、電流測定装置5、スイッチ6、負荷7を備える。
<充放電制御装置2>
充放電制御装置2は、電源装置3、電圧測定装置4、電流測定装置5、スイッチ6、負荷7を信号の遣り取りをする。電圧測定装置4、電流測定装置5からは、ニッケル水素蓄電池10のOCV[V]や電池電流[A]のデータを受信する。これらに基づいて、電源装置3からの電力供給量や、負荷7に供給する電力を供給する制御信号を送信することで、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法を実行する。
【0063】
充放電制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13を備える。さらに、例えばPROM(Programmable ROM)などからなる記憶装置14を備えたコンピュータとして構成される。ROM13や記憶装置14には、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法のプログラムが記憶されている。
【0064】
その他、電源装置やインタフェイス、タイマーなど周知のコンピュータとしての構成を備えている。
<電源装置3>
電源装置3は、ニッケル水素蓄電池10に電力を供給可能な装置である。本実施形態では、電灯線を介した深夜電力の供給装置が該当する。また、供給される電力は、例えば、電気自動車(EV)などでは、電灯線による充電機から供給される電力や回生電力である。またハイブリッド車(HV)などでは、原動機により発電された電力や回生電力が相当する。また、太陽光発電、風力発電、小規模水力発電を行っている家庭や工場では、太陽光パネルを含む発電施設などにより発電された電力となる。
【0065】
電源装置3は、供給する電力が適正となるような図示を省略したスイッチ、電圧調整器、電流調整器、インバータなどを有して、制御装置1により制御される。
<電圧測定装置4>
電圧測定装置4は、ニッケル水素蓄電池10の開放電池電圧であるOCV[V]を測定する。実際には、電源装置3や負荷7が接続されているが、OCVを実測又は推定できれば、その方法は限定されない。
【0066】
<電流測定装置5>
電流測定装置5は、ニッケル水素蓄電池10の電池電流[A]を測定する。実際には、電源装置3や負荷7が接続されているが、電池電流[A]を実測又は推定できれば、その方法は限定されない。
【0067】
<負荷7>
本実施形態での負荷7は、照明、冷暖房、家電など家庭内の電力消費をする機器が相当する。電気自動車やハイブリッド車の場合では、駆動用のモータジェネレータや、エアコンなどの機器が相当する。また、太陽光発電を行っている家庭や工場では、売電による送電なども相当する。また、単純に放電させることで、ニッケル水素蓄電池10のSOCの調整をするようなものも含まれる。
【0068】
また、負荷7に設けられたスイッチ6も図示を省略したが、開閉手段のみならず供給する電力が適正となるような図示を省略したスイッチ、電圧調整器、電流調整器、インバータなどを有して、充放電制御装置2により制御される。
【0069】
<本実施形態のニッケル水素蓄電池の回復の手順>
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復の手順を示すフローチャートである。
【0070】
前述のとおり本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復装置である制御装置1は、説明の単純化のため、家庭において夜間の一定の時刻に深夜電力を蓄電し、日中これを消費するものを例示した。そのため、実際には例外的な充放電の手順などが行われることがあるが、このフローチャートでは記載を省略している。以下この本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御装置1を用いた本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法を説明する。なお、その用途が電気自動車(EV)、ハイブリッド車用、太陽光発電、風力発電などの発電設備を備えた家庭や工場における定置用などにも用いられ、限定されるものではない。また、用途に応じて、その制御の手順が異なることは言うまでもなく、本実施例によっては限定されない。
【0071】
図6に示すように、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復の手順が開始されると、まず「複素インピーダンス測定(S1)」の手順において、複素インピーダンスの測定により、制御対象となるニッケル水素蓄電池10のナイキスト線図の取得がなされる。
【0072】
次に、取得したナイキスト線図に基づきSOC100[%]の満充電時の電池容量が推定されて取得される(S2)。
図3は、制御対象となる容量が低下したニッケル水素蓄電池におけるOCV-SOCカーブVと、SOC[%]と充電レート[C]の関係を示すグラフである。
【0073】
次に取得した満充電時の電池容量から、図3に示すOCV-SOCカーブVにより上限SOC=100[%]に対応する上限電圧UL[V]を特定する。また、同様に基準SOC=80[%]に対応する基準電圧RV[V]を特定する。また、下限SOC=20[%]に対応する下限電圧LL[V]を特定する。
【0074】
そして、「上限SOC[%]」に対応する「上限電圧UL[V]」、「基準SOC」に対応する「基準電圧RV[V]」、「下限SOC」に対応する「下限電圧LL[V]」などに基づきニッケル水素蓄電池10の充放電制御が行われる(S3)。
【0075】
<複素インピーダンスの測定(S1)>
以下、複素インピーダンスの測定(S1)について、詳細に説明する。ここでは、制御の対象となるニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスの測定による容量の推定について説明する。一般に、ニッケル水素二次電池は、負極に充電可能な電気量である電気容量を、正極に充電可能な電気量である電気容量よりも多くして、いわゆる正極規制になるように調整されている。このため、容量ずれが生じていなければ、通常、電池に充電可能な電気量である電池電気容量は正極電気容量に等しくなる。また、ニッケル水素蓄電池10は、使用開始の時点の状態である初期状態における電池電気容量に対して、使用開始後の状態である使用後の状態における電池電気容量が、劣化によって減少する傾向にある。そして初期状態における電池電気容量に対して、使用後の状態の電池電気容量の割合が「容量維持率」である。容量維持率は、ニッケル水素蓄電池10の電池電気容量が測定されると、その測定された電池電気容量に基づいて算出される。例えば、容量維持率は、ニッケル水素蓄電池10の充電状態(SOC:State of Charge)の算出に用いたり、劣化の判定に用いたり、電池の充放電制御に用いたりすることができる。
【0076】
<測定装置30>
図8は、ニッケル水素蓄電池10の電池電気容量[Ah]及び容量維持率[%]を測定する測定装置30の構成を示すブロック図である。
【0077】
図8に示すように、電池電気容量の測定対象としてのニッケル水素蓄電池10は、図示しない開閉器などを介して負荷や充電器等に接続されている。ニッケル水素蓄電池10は、開閉器が閉じられて負荷等に接続されることで充放電が行われ、充電量が変更される。一方、ニッケル水素蓄電池10は、複素インピーダンスが測定される際、開閉器が開かれて負荷等から切り離される。
【0078】
ニッケル水素蓄電池10の電極間には、ニッケル水素蓄電池10に交流電力としての交流電流を供給する測定用電源20が接続されている。また、ニッケル水素蓄電池10の電極間の電圧を測定する電圧測定器21と、測定用電源20とニッケル水素蓄電池10との間に流れる電流を測定する電流測定器22とが接続されている。
【0079】
測定用電源20は、所定の測定周波数の交流電流を生成し、この生成した交流電流をニッケル水素蓄電池10の電極間に出力する。また、測定用電源20は、交流電流の測定周波数を変化させることが可能である。測定用電源20は、出力電流と測定周波数の周波数範囲とが設定されており、この設定された出力電流の交流電流を、同じく設定された周波数範囲で変化する測定周波数として出力させる。設定される周波数の範囲としては、例えば、高周波数側としての100[kHz]から低周波数側としての1[mHz]までの範囲である。しかし、これに限られるものではなく、高周波数側が100[kHz]よりも高くなってもよいし、低周波数側が1[mHz]よりも低くなってもよい。
【0080】
<ナイキスト線図>
図12は、ニッケル水素蓄電池10について測定した交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例を示す図である。図12に示す「拡散領域d」のうちの「直線領域da」を目的とする周波数範囲、例えば、0.1[Hz]から0.01[Hz]までの範囲を出力するものであってもよい。また、「拡散領域d」のうちの相違する2つ以上の周波数、例えば、0.1[Hz]と0.01[Hz]との間にある周波数を出力するものであってもよい。なお、上でも述べたように、角速度と周波数とは「角速度=2π×周波数」の関係にあることが明らかであるから、説明の便宜上、角速度と周波数とを両方用いて説明する。
【0081】
測定用電源20は、出力している交流電流の設定値及び測定周波数の設定値に関する各信号を測定装置30に出力する。また、測定用電源20は、測定装置30から入力される出力開始の信号及び出力停止の信号に応じて交流電流の出力及び停止を切り替える。
【0082】
<電圧測定器21>
電圧測定器21は、ニッケル水素蓄電池10の電極間に対して測定した電圧に対応する電圧信号を測定装置30に出力する。
【0083】
<電流測定器22>
電流測定器22は、測定用電源20とニッケル水素蓄電池10との間において測定した電流に対応する電流信号を測定装置30に出力する。
【0084】
<測定装置30>
測定装置30は、ニッケル水素蓄電池10の電池電気容量及び電池容量維持率を測定する。測定装置30は、測定したニッケル水素蓄電池10の電池電気容量や電池容量維持率を表示したり、外部に出力したりしてもよい。例えば、外部の電池制御装置(図示略)は、測定装置30から出力されたニッケル水素蓄電池10の電池電気容量に応じた充放電制御をニッケル水素蓄電池10に対して行うようにしてもよい。
【0085】
測定装置30は、電圧測定器21から電圧信号を入力し、入力した電圧信号からニッケル水素蓄電池10の端子間の電圧を取得し、電流測定器22から電流信号を入力し、入力した電流信号から測定用電源とニッケル水素蓄電池10との間に流れる電流を取得する。測定装置30は、測定用電源20から入力する信号から交流電流の出力設定及び出力している測定周波数を取得する。
【0086】
また、測定装置30は、ニッケル水素蓄電池10の現在の電池電気容量の測定に関する算出処理を行う処理部40と、ニッケル水素蓄電池10の電池電気容量の算出処理に用いられる情報を保持する記憶部50とを備える。
【0087】
<記憶部50>
記憶部50は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置であり、各種データを保持する。本実施形態では、記憶部50は、電池電気容量を算出するために必要とされるパラメータと容量との相関データ51と、算出用データ52とが保持されている。算出用データ52としては、ニッケル水素蓄電池10の初期状態の電池電気容量等が設定されている。
【0088】
<処理部40>
処理部40は、CPUやROM、RAM等で構成されたマイクロコンピュータを含んで構成される。処理部40は、例えばROMやRAMに保持された各種プログラムをCPUで実行することにより処理部40における各種処理を実行する。本実施形態では、処理部40は、電池電気容量を算出する処理や電池容量維持率を算出する処理を行う。また、処理部40は、測定装置30が取得した電圧、電流、測定周波数等を利用できる。また、処理部40は、記憶部50との間でデータの授受が可能である。
【0089】
処理部40は、複素インピーダンスZを測定するインピーダンス測定部41と、ナイキスト線図を作成するナイキスト線図作成部43と、パラメータを算出するパラメータ算出部44と、電池電気容量や電池容量維持率を算出する容量算出部45とを備える。
【0090】
<インピーダンス測定部41>
インピーダンス測定部41では、ニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスZを測定する処理(インピーダンス測定工程)が行われる。インピーダンス測定部41は、測定用電源20に測定の開始や終了を指示する。インピーダンス測定部41は、測定の開始から終了までの間に取得した電圧及び電流に基づいてニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスZを測定する。複素インピーダンスZの単位は[Ω](オーム)である。複素インピーダンスZは、そのベクトル成分である実数成分Zr[Ω]及び虚数成分Zi[Ω]によって式(1)のように示される。なお、「j」は虚数単位である。以下、単位[Ω]は省略する。
【0091】
【数1】
【0092】
<ナイキスト線図作成部43>
ナイキスト線図作成部43は、複数の測定周波数における複素インピーダンスZに基づいて、それらのベクトル成分である実数成分Zrと虚数成分Ziとから、ナイキスト線図を作成する。
【0093】
図9は、本実施形態において、二次電池について測定した交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例をグラフにて示す図である。例えば、図9に示すように、ナイキスト線図作成部43は、ナイキスト線図として、横軸が実数軸、縦軸が虚数軸である複素平面にインピーダンス曲線L21やインピーダンス曲線L22を作成する。なお、インピーダンス曲線L21は、初期状態のニッケル水素蓄電池10に対応するナイキスト線図の一例であり、インピーダンス曲線L22は、使用後の状態のニッケル水素蓄電池10に対応するナイキスト線図の一例である。各インピーダンス曲線L21,L22は、複素インピーダンスZの実数成分Zr及び虚数成分Ziの大きさが複素平面にプロットされたものである。このインピーダンス曲線L21,L22は、測定用電源20からニッケル水素蓄電池10に供給される交流電流の測定周波数を変化させて測定された複素インピーダンスZによるものである。
【0094】
<インピーダンス曲線L21,L22>
図9において、インピーダンス曲線L21,L22中のドットや円の表示は1つの測定周波数を示している。測定周波数は、図2において下側が高周波数側であり、上側が低周波数側である。インピーダンス曲線L21,L22は、ニッケル水素蓄電池10のSOCや電池温度によって変化する。また、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池といった電池種別によって変化する。さらに同じ電池種別でもセル数や容量等が異なる場合には変化する。
【0095】
ここで、図9及び図12を参照して、ニッケル水素蓄電池10の各インピーダンス曲線L21,L22について詳述する。
<領域a~dについて>
図9に示すように、ニッケル水素蓄電池10の各インピーダンス曲線L21,L22は、ニッケル水素蓄電池10の特性に対応する複数の領域に区分される。複数の領域は、測定周波数の高周波数側から低周波数側に向けて、「領域a」「領域b」「領域c」及び「拡散領域d」に分けられる。「領域a」は、回路抵抗に対応する回路抵抗領域である。「領域b」は、溶液抵抗に対応する溶液抵抗領域である。「領域c」は、反応抵抗に起因する複素インピーダンスに対応する反応抵抗領域である。「拡散領域d」は、略直線状の拡散抵抗に対応する領域である。回路抵抗は、活物質や集電体内の接触抵抗などからなる配線等のインピーダンス等である。溶液抵抗は、セパレータ内の電解液内のイオンが移動する際の抵抗等の電子の移動抵抗である。反応抵抗は、電極反応における電荷移動の抵抗等である。拡散抵抗は、物質拡散が関与したインピーダンスである。
【0096】
なお、各抵抗は相互に影響を及ぼし合うため、各領域a、b、c、dを各抵抗のみの影響を受ける部分のみに区分することは困難である。しかしながら、少なくともインピーダンス曲線L21,L22の各領域a、b、c、dは、それぞれが最も大きな影響を受ける抵抗成分によってその曲線の大まかな挙動が定まる。例えば、「領域c」は負極の態様の影響を大きく受け、「拡散領域d」は正極の態様の影響を大きく受ける。
【0097】
<インピーダンス曲線の解析>
大まかに説明すると、ニッケル水素蓄電池10のインピーダンス曲線L21,L22は、正極のインピーダンスと負極のインピーダンスとの合成により得られる曲線である。例えば、「拡散領域d」に対応する周波数範囲においては、正極のインピーダンスは大きく変化する一方、負極のインピーダンスの変化は小さい。つまり、インピーダンス曲線L21,L22の「拡散領域d」は、正極のインピーダンスの影響が大きい領域であって、正極の状態が反映されていると言える。これに対し、「領域c」に対応する周波数範囲においては、負極のインピーダンスは大きく変化する一方、正極のインピーダンスの変化は小さい。つまり、インピーダンス曲線L21,L22の「領域c」は、負極のインピーダンスの影響が大きい領域であって、負極の状態が反映されていると言える。
【0098】
インピーダンス曲線L21,L22によれば、「拡散領域d」に対応する周波数範囲は0.1[Hz]以下であり、図2では0.01[Hz]までが示されている。また、「領域c」に対応する周波数範囲は0.1[Hz]より大きく100[Hz]以下である。ちなみに、「領域b」に対応する周波数範囲は100[Hz]及びその近傍、「領域a」に対応する周波数範囲は100[Hz]よりも高い。なお、「拡散領域d」は、「領域c」よりも低い周波数域であれば0.1[Hz]以下より大きくても小さくてもよい。
【0099】
<拡散領域d>
また、図12に示すように、「拡散領域d」は、「直線領域da」、「垂直領域dc」及び「領域db」を含む。「直線領域da」は、実数成分の変化量に対する虚数成分の変化量の割合が「1」に近い所定の値の範囲にある領域である。つまり、図において、45°の角度に近い範囲であって、換言すると、複素インピーダンスの実数成分に対する虚数成分の変化率の絶対値が0.5以上、かつ、2以下である範囲である。よって、「直線領域da」は虚数成分と実数成分との間に相関がある。「垂直領域dc」は、実数成分に対して虚数成分のみが大きく変化するため図においてグラフが略垂直に変化する領域である。つまり、図において、90°の角度に近い範囲である。「領域db」は、「直線領域da」から「垂直領域dc」へ変化する境目とその周辺の領域である。
【0100】
ところで、ニッケル水素蓄電池10は、ニッケル水素二次電池の特性と測定値の実用性とから、複素インピーダンスの測定が「直線領域da」で終了することが一般的である。また、ニッケル水素二次電池は、「垂直領域dc」が生じる測定周波数が、リチウムイオン二次電池で「垂直領域dc」が生じる周波数よりも低い傾向にある。また、ニッケル水素蓄電池10の「垂直領域dc」をより確実に測定しようとすると、電池の温度を上げるなど、測定環境を整え、かつ、測定周波数を0.01[Hz]よりももっと低周波数であって測定に時間を要する周波数にする必要がある。また、「垂直領域dc」が生じる測定周波数を予め知ることができないことから、測定に要する無駄時間が長時間にもなりかねない。そして、「垂直領域dc」の値を測定しようとするとき、測定に要する時間の想定が困難であることは、使用中のニッケル水素蓄電池10に対して「垂直領域dc」の値を測定しようとを現実的ではないものとしている。
【0101】
<パラメータ算出部44>
図8に示す、パラメータ算出部44は、「拡散領域d」内にあり、かつ、測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの測定加速度の差と、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差との比を算出する(パラメータ算出工程)。ここで、2つの複素インピーダンスを「Z1」,「Z2」、複素インピーダンス「Z1」の虚数成分を「Zi1」、測定周波数を「f1」とし、複素インピーダンス「Z2」の虚数成分を「Zi2」、測定周波数を「f2」とする。
【0102】
詳述すると、パラメータ算出部44は、2つの値の差を算出する。一つは、ニッケル水素蓄電池10の2つの複素インピーダンス「Z1」、「Z2」を測定したときの2つの複素インピーダンスの測定角速度の差(変化量)「Δω=2π×(f1-f2)」である。もう一つは、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差(変化量)「ΔZi=Zi1-Zi2」である。
【0103】
図10は、本実施形態において、交流インピーダンスの測定角速度の逆数と虚数成分との関係の一例をグラフにて示す図である。図10に示すように、2つの複素インピーダンスの測定角速度の逆数の差「Δ(ω-1)」と、2つの複素インピーダンスの虚数成分の差を「ΔZi」とに基づいてパラメータ「Q」を算出する。論理的には、パラメータ「Q」は、式(2)に示すよう求められる。つまり、式(2)は、「Δ(ω-1)」に対する「ΔZi」の割合について、その逆数がパラメータ「Q」であることを示している。なお、パラメータ「Q」を正の値として算出することが好ましいことから、必要に応じて、「Δ(ω-1)」や「ΔZi」を絶対値としてもよい。
【0104】
【数2】
【0105】
上述したように、パラメータ「Q」は、理論的には式(2)から算出できるが、式(2)が変形された式(3)に基づいて算出することもできる。例えば、パラメータ算出部44は、パラメータを式(3)の右辺に示される式を用いて演算するように設定されている。つまり、式(3)は、測定周波数が相違する2つの複素インピーダンスの測定角速度の逆数の差「Δ(ω-1)」の2つの複素インピーダンスの虚数成分の差「ΔZi」に対する割合がパラメータ「Q」であることを示している。
【0106】
【数3】
【0107】
容量算出部45は、記憶部50に予め設定されている情報であるパラメータと容量との相関データ51と、パラメータ算出部44で算出したパラメータ「Q」とに基づいて、ニッケル水素蓄電池10の電池電気容量を算出する(容量算出工程)。
【0108】
<パラメータと容量との相関データ51>
図11は、本実施形態において、交流インピーダンスの測定角速度と虚数成分との比からなるパラメータと電池電気容量との関係をグラフで示す図である。図11を参照して、パラメータと容量との相関データ51について説明する。パラメータと容量との相関データ51は、ニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスZについて「拡散領域d」内におけるパラメータ「Q」とニッケル水素蓄電池10の電池電気容量との関係を示す情報である。
【0109】
図11には、パラメータと容量との相関データ51の一例である検量線としてのグラフL41が示されている。具体的には、グラフL41は、パラメータ「Q」(=(ΔZi/Δ(ω-1))-1)とニッケル水素蓄電池10の電池電気容量[Ah]との関係を示す。グラフL41は、測定対象としてのニッケル水素蓄電池10と同じ仕様で製造されたニッケル水素蓄電池10について、予め測定して得られた複素インピーダンスとそのときの電池電気容量に基づいて作成されたものである。なお、グラフL41は、測定値から作成されてもよいし、測定値に理論や経験を併せて作成されたものであってもよいし、理論や経験に基づいて作成された情報であってもよい。また、グラフL41は、温度毎に変化するものであることから、所定の温度毎に設定されてもよい。所定の温度毎に異なるグラフL41を有するようにすれば、二次電池の容量をより好適に算出し、測定することができる。
【0110】
つまり、図8の記憶部50に保持されているパラメータと容量との相関データ51は、記憶部50に予め設定されている情報である。そしてこれは、ニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスの「拡散領域d」内における複素インピーダンスZに関連するパラメータ「Q」とニッケル水素蓄電池10の電池電気容量との関係を示す情報である。
【0111】
<電池電気容量が算出できる理由>
図9図11を参照して、本実施形態でニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスの「拡散領域d」内における複素インピーダンスに関するパラメータ「Q」から電池電気容量が算出できる理由について説明する。
【0112】
ニッケル水素蓄電池10を電源として利用するとき、そのSOCを正確に算出する必要があるが、ニッケル水素蓄電池10の劣化の影響を考慮して算出するとよりよい。そこで、従来技術は、「拡散領域d」において、より低周波数側の「垂直領域dc」での虚数成分の値に基づいて二次電池の劣化度を測定する。このとき、電池の温度が40[℃]以上70[℃]以下になるように温度管理することで「垂直領域dc」を生じさせているが、このような温度管理を使用中の電池に行うことは困難である。また、従来技術では、測定周波数を10[mHz]未満、好ましくは3[mHz]未満にする必要がある。このような測定周波数では測定に、10[mHz]で約1.7[分]、3[mHz]で約5.6[分]を要するため、SOCが変化する使用中のニッケル水素蓄電池10の測定には適していなかった。
【0113】
そこで、発明者らは、電池の温度による影響の少ない電池電気容量の算出方法について鋭意研究を行い、本実施形態に示す技術を見出した。この技術によれば、2つの複素インピーダンスの差を用いることで電池の温度による影響を抑えることができた。また、この技術は、容量維持率を算出するための領域を、リチウムイオン二次電池でも生じづらく、ニッケル水素二次電池ではなおさら生じづらい、「垂直領域dc」にする必要がないものにできた。これにより、測定に要する時間を実用的な長さ、例えば、「約1.7分」よりも短くすることができた。
【0114】
図9には、上述したように、初期状態のニッケル水素蓄電池10に対応するインピーダンス曲線L21のナイキスト線図の一例と、使用後の状態のニッケル水素蓄電池10に対応するインピーダンス曲線L22のナイキスト線図の一例が示されている。ここで例えば、使用後の状態とは、初期状態のニッケル水素蓄電池10を45℃の環境下にて、SOC40%~80%の範囲内での充放電を1000サイクル繰り返し行った後の状態である。
【0115】
ここで、インピーダンス曲線L21とインピーダンス曲線L22とを比較してみると、インピーダンス曲線L21に対してインピーダンス曲線L22は、「拡散領域d」で実数成分Zrに対する虚数成分Ziの変化量が小さくグラフの傾きが小さい。
【0116】
図10には、「拡散領域d」における測定角速度の逆数「ω-1」と複素インピーダンスの虚数成分「Zi」との関係を示すグラフL31,L32が示されている。グラフL31は、初期状態のニッケル水素蓄電池10に対応するグラフであり、グラフL32は、使用後の状態のニッケル水素蓄電池10に対応するグラフである。このとき、グラフL31に対してグラフL32は、測定角速度の逆数「ω-1」に対する虚数成分Ziの変化量「ΔZr/Δ(ω-1)」が大きく、グラフにおいて傾きが大きい。よって、変化量「ΔZr/Δ(ω-1)」の逆数として得られるパラメータ「Q」は、グラフL31に対してグラフL32は小さくなる。つまり、パラメータ「Q」は、ニッケル水素蓄電池10の初期状態に対して使用後の状態が小さくなる。
【0117】
そして、図11に示すように、複素インピーダンスと電池電気容量の関係として、グラフL41が、パラメータ「Q」(=(ΔZi/Δ(ω-1))-1)とニッケル水素蓄電池10の電池電気容量との関係で示されるようになる。
【0118】
<容量維持率の演算処理>
本実施形態の測定装置30の容量維持率の演算処理についてその動作とともに説明する。
【0119】
まず、記憶部50にはパラメータと容量との相関データ51として、図11に示されるグラフL41に対応する情報が予め保持される。
それから、測定装置30は、インピーダンス測定部41でニッケル水素蓄電池10の複素インピーダンスを測定する。このとき、ナイキスト線図に「拡散領域d」が生じるように測定周波数の範囲が設定される。例えば、2つの測定周波数f1、f2を0.1Hzから0.01Hzの間の2点とする。例えば、測定周波数f1>測定周波数f2であるものとする。
【0120】
<ナイキスト線図作成部43>
ナイキスト線図作成部43は、インピーダンス測定部41が測定した複素インピーダンスとそのときの測定周波数とに基づいてナイキスト線図を作成する。また、ナイキスト線図作成部43は、作成したナイキスト線図から「拡散領域d」を特定し、特定した「拡散領域d」に含まれる2つの測定周波数「f1」,「f2」にそれぞれ対応する複素インピーダンスの虚数成分「Zi1」,「Zi2」を取得する。
【0121】
パラメータ算出部44は、ナイキスト線図作成部43から2つの測定周波数「f1」,「f2」及びそれぞれに対応する複素インピーダンスの虚数成分「Zi1」,「Zi2」を取得する。そして、測定角速度の差「Δω=2π×(f1-f2)」と虚数成分の差「ΔZi=Zi1-Zi2」とを算出する。そして、算出した測定角速度の差の逆数「Δ(ω-1)」及び虚数成分の差「ΔZi」を、式(2)又は式(3)に適用してパラメータ「Q」を算出する。
【0122】
容量算出部45は、パラメータ算出部44が算出したパラメータ「Q」を取得するとともに、取得したパラメータ「Q」を記憶部50に保持されたグラフL41(パラメータと容量との相関データ51に関する情報)に適用して、電池電気容量を取得する。パラメータ「Q」が大きければ電池電気容量は大きく、パラメータ「Q」が小さければ電池電気容量は小さい。このようにして、測定装置30ではニッケル水素蓄電池10の電池容量が測定される。
【0123】
また、容量算出部45は、取得した電池電気容量を、算出用データ52に設定されているニッケル水素蓄電池10の初期状態の電池電気容量と比較して、初期状態の電池電気容量に対する容量維持率を算出する。例えば、容量算出部45は、「(取得した電池電気容量/初期状態の電池電気容量)×100」[%]を容量維持率として算出する。このようにして、測定装置30ではニッケル水素蓄電池10の電池容量が測定される。
【0124】
「満充電容量を推定(S2)」では、以上のような手順で、満充電容量[Ah]を正確に推定する。
<充放電制御(S3)の手順>
図13は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御装置1によりニッケル水素蓄電池10の充放電制御(S3)の手順を示すフローチャートである。「満充電容量を推定(S2)」の手順で、満充電容量[Ah]を正確に推定したら、ニッケル水素蓄電池10の充放電制御(S3)の手順を実施する。
【0125】
ニッケル水素蓄電池10の充放電制御(S3)の手順は、ニッケル水素蓄電池10の制御装置1により、図13に示すフローチャートの手順が実施される。以下、図13を参照して本実施形態のニッケル水素蓄電池10の充放電制御(S3)の手順を説明する。
【0126】
<OCV-SOCカーブの取得(S31)>
「満充電容量を推定(S2)」で満充電容量[Ah]を正確に推定したら、次に、OCV-SOCカーブV図3参照)を取得する。これは、「上限SOC[%]」に対応する「上限電圧UL[V]」、「基準SOC」に対応する「基準電圧RV[V]」、「下限SOC」に対応する「下限電圧LL[V]」などを取得するためである。
【0127】
制御装置1は、制御対象となるニッケル水素蓄電池10のOCV-SOCカーブVを取得する。OCV-SOCカーブVは、SOC0[%]の完全放電の状態から、1/3以下の低レートで充電し、充電電流を積算して満充電容量[Ah]からSOCを推定しながら、そのときのOCVを記録する。このOCV-SOCカーブVにおいて満充電容量[Ah]を充電したSOC100[%]のときのOCVを読み取り、これを「上限電圧UL[V]」として記憶する。また、このOCV-SOCカーブにおいて、「基準SOC」に対応する「基準電圧RV[V]」、「下限SOC」に対応する「下限電圧LL[V]」などを取得して、記憶する。
【0128】
<SOC100[%]のOCVを上限電圧UL[V]として設定(S32)>
そして、ニッケル水素蓄電池の制御装置1は、「OCV-SOCカーブの取得(S31)」の手順において取得したSOC100[%]時のOCVを「上限電圧UL[V]」として設定する。また、同様に、「基準電圧RV[V]」、「下限電圧LL[V]」を設定する。
【0129】
<ニッケル水素蓄電池の制御開始(S33)>
以上の準備段階が完了したら、ニッケル水素蓄電池10の制御装置1により、充放電制御を行う(S33)。
【0130】
<充電か?(S34)>
ニッケル水素蓄電池10の制御装置1は、充電すべきか否かを判断する(S34)。本実施形態で例示するのは、毎日一定の時刻において充電を行う態様である。従って、充電すべき時刻か否かを判断する。もし、充電すべきでない場合には(S34:NO)では、充電すべき時まで待機のループとなる。そして、充電すべき時刻となったら(S34:YES)、現在の電圧PV[V]を取得する(S35)。
【0131】
<現在の電圧PV[V]の取得(S35)>
ニッケル水素蓄電池10の制御装置1は、電圧測定装置4(図5)により、現在のニッケル水素蓄電池10のOCVを取得する(S35)。そして、CPU11では、現在のニッケル水素蓄電池10のOCVである電圧PV[V]からOCV-SOCカーブVにより現在のニッケル水素蓄電池10のSOC[%]を推定する。
【0132】
<低SOC領域か?(S36)>
現在の電圧PE[V]と基準電圧RV[V]を比較する。現在の電圧PE[V]が基準電圧RV[V]より低ければ、現在のSOCが80[%]以下で低SOC領域であることがわかる(S36:YES)。
【0133】
<3[C]で充電(S37)>
現在のSOCが80[%]以下で低SOC領域であるときは(S36:YES)、低SOC領域であるので、ハイレートである第1の充電レート3[C]で充電する(S37)。
【0134】
<PV≦上限電圧UL[V]か?(S38)>
現在の電圧PE[V]と基準電圧RV[V]を比較する。現在の電圧PE[V]が基準電圧RV[V]より高ければ、現在のSOCが80[%]を超える高SOC領域であることがわかる。つまり、低SOC領域ではないことがわかる(S36:NO)。
【0135】
次に電圧PV[V]が上限電圧UL[V]を超えていなければ(S38:YES)、ローレートである第2の充電レート1/3[C]で充電を継続する(S39)。
<充電終了(S40)>
電圧PV[V]が上限電圧UL[V]を超えた場合は(S38:NO)、SOCが100%を超えることになるので、直ちに充電を終了する(S40)。なお、本実施形態のニッケル水素蓄電池の回復方法は、充電が終了(S40)した時点で完了する。
【0136】
<3[C]以下で放電許容(S41)>
充電が終了したら(S40)、3[C]以下で放電を許容する(S41)。なお、このフローチャートでは、原則的な作用のみを説明している。例えば、急激なOCVの低下による緊急的な充電や、通常の充電以外の充電などは説明していないが、そのような手順を含めてよいことは言うまでもない。
【0137】
<終了か?(S42)>
ニッケル水素蓄電池の運用自体が終了する場合(S42:YES→終了)を除き、ニッケル水素蓄電池の運用が終了しなければ(S42:NO)、S34の充電の待機状態に戻り、S35~S42の手順が繰り返される。
【0138】
<本実施形態のリフレッシュにより電池容量の回復>
図14は、本実施形態と従来技術のリフレッシュによる電池容量の回復の比較を示すグラフである。このグラフには、リフレッシュ前のニッケル水素蓄電池10の電池容量割合CR[%]を示す。また、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法のリフレッシュを行ったニッケル水素蓄電池10の電池容量割合CR[%]を示す。そして、従来の方法のリフレッシュを行ったニッケル水素蓄電池10の電池容量割合CR[%]を示す。
【0139】
ここで、本願において「電池容量割合CR[%]」とは、未使用のニッケル水素蓄電池10の電池容量[Ah]を100[%]としたときに、測定するニッケル水素蓄電池10の電池容量[Ah]の割合[%]を示す。従って、その時点でのニッケル水素蓄電池10の満充電に対する相対的な充電率であるSOC[%]とは異なる概念である。「電池容量割合CR[%]」とは、以下に定義される。すなわち、測定対象となるニッケル水素蓄電池10の満充電の電池容量[Ah]の絶対値を、基準となる未使用のニッケル水素蓄電池10の満充電の電池容量[Ah]の絶対値と比較した割合の値である。
【0140】
まず、使用履歴のあるニッケル水素蓄電池10では、使用条件を付けなかった使用により、電池容量割合CR[%]が、未使用のニッケル水素蓄電池10に対して70[%]まで低下している。ここでは、メモリー効果が生じて電池容量割合CR[%]が低下していると推定される。
【0141】
次に、このような使用履歴のあるニッケル水素蓄電池10を、SOC0[%]まで放電レート1/3Cの低レートで完全放電して、従来技術のリフレッシュを一回だけ行った後のニッケル水素蓄電池の電池容量[%]を示す。グラフに示すように、この従来のリフレッシュ方法によるリフレッシュにより、電池容量割合CR[%]は、80[%]まで回復している。
【0142】
そして、本実施形態のリフレッシュ後のニッケル水素蓄電池の電池容量割合CR[%]を示す。ここでは、上述と同じように電池容量割合CR[%]が未使用のニッケル水素蓄電池10に対して70[%]まで低下しているニッケル水素電池に対し、図13に示すフローチャートに沿ったリフレッシュを一回だけ行った。具体的には、SOC80[%]になるまでは1Cで充電し、SOC100[%]になるまで1/3Cの低レートで充電し、充電を終了している。図14に示すグラフのように、この従来のリフレッシュ方法によるリフレッシュにより、電池容量割合CR[%]は、85[%]まで回復している。本実施形態では、SOC100[%]になるまで1/3Cの低レートで充電し、充電を終了している。
【0143】
このように、本実施形態のリフレッシュ方法によれば、電池容量が低下したニッケル水素蓄電池10を効果的に回復できることを実験を通じて実証することができた。
(本実施形態の実験例)
図7は、充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1~7の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池10の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。実験は、指定されたSOCの範囲で、充放電のレートを1/3[C]で繰り返し充放電を行った。
【0144】
<実験例1>
図7に示す実験例1は、上記した本実施形態の総放電電気量[Ah]と、電池容量[Ah]の関係を示す。ここに示すように、充放電のSOCの範囲を100~20[%]とし、その範囲をΔSOC=80[%]とした。ここで、「ΔSOC」とは、SOC[%]の最大値と最小値の差を表す。そして、充電時には上限電圧UL[V]まで充電し、必ずSOC100[%]となるようにした。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0145】
<実験例2>
次に、実験例2では、充放電のSOCの範囲を100~40[%]とする。そして、その範囲をΔSOC=60[%]と小さくした場合、同様に充電時には必ずSOC100[%]となるようにする。このような場合は、製造当初の電池容量であるおよそ3.9[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0146】
<実験例3>
さらに、実験例3では、充放電のSOCの範囲を100~60[%]として、ΔSOC=40[%]とさらに小さくする。このような場合でも、充電時には必ずSOC100[%]となるようにした場合は、製造当初の電池容量であるおよそ2.6[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0147】
<実験例4>
実験例4では、実験例1と同様に、ΔSOC=80[%]としたが、SOC90[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC90[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。図7に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ4.8[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が4000[Ah]には、およそ4.2[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が6000[Ah]には、およそ3.5[Ah]まで低下した。そして、総放電電気量[Ah]が8000[Ah]には、およそ3.2[Ah]まで低下した。このことから、SOC100[%]までの充電を含まない充放電は、使用するに伴って、電池容量[Ah]が減少することが確認できた。
【0148】
<実験例5>
実験例5では、実験例1と同様に、ΔSOC=80[%]としたが、SOC80[%]を上限値とし、SOC0[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC80[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。図7に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、一挙におよそ2.6[Ah]まで低下した。このことから、SOC100[%]までの充電を含まない充放電は、使用するに伴って、電池容量[Ah]が減少することが確認できた。特に、実験例4と比較しても、電池容量が大きく減少した。
【0149】
本発明者らが特に着目したのは、実験例5がSOC0[%]を含む範囲で充放電が行われていることである。従来、ニッケル水素蓄電池10のリフレッシュは、SOC0[%]まで完全放電させて、そこから低い充電レートでゆっくり充電することでできるものと思われていた。
【0150】
しかしながら、本発明者らは、上述したとおり図7に示すように、当業者においてメモリー効果解消に効果があると考えられていたSOC0[%]を経由しても電池容量が大きく減少することを見出した。
【0151】
<実験例6>
実験例6では、実験例2と同様に、ΔSOC=60[%]としたが、SOC70[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC70[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ3.8[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。図7に示すように、当初およそ3.8[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ4.8[Ah]まで低下した。
【0152】
<実験例7>
実験例7では、実験例3と同様に、ΔSOC=40[%]としたが、SOC50[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC50[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ2.6[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。図7に示すように、当初およそ2.6[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ1.1[Ah]まで低下した。
【0153】
<実験のまとめ>
(a)実験例1、2、3から導かれるように、SOC100[%]を上限とする充放電範囲で、充電時に必ずSOC100[%]となるまで充電した場合は、充電範囲であるΔSOCが80~40[%]と異なる。それにも拘わらず、いずれも電池容量[Ah]の劣化が生じなかった。つまり、少なくとも、いわゆるメモリー効果が生じていない。つまり、リフレッシュ効果が認められる。
【0154】
また、同時にNiHが生成されることもなかったことがわかる。つまり、この実験では、充電時に必ずSOC100[%]になった瞬間に充電を停止し、放電を開始する。このことで、酸素の発生しやすい過充電の状態を回避することで、NiHが生成されることもなかったものと推定できる。
【0155】
(b)一方、実験例4、6、7から導かれるように、SOC100[%]より低いSOCを上限とする充放電範囲では、充電範囲であるΔSOCに拘わらず、電池容量[Ah]の劣化が生じた。
【0156】
この場合、酸素の発生するSOC100[%]を超すようなSOCではない。
また、充放電のレートは、いずれも1/3[C]であり、10[%]という低SOCにおいてハイレートの充放電を行っているわけでもない。そのため、電池容量[Ah]の劣化は、NiHの生成に起因するとは考えにくい。
【0157】
そうであるので、本発明らが提案した充電時にSOC100[%]を必ず到達することによるリフレッシュ効果が発揮できなかったと推定できる。
(c)さらに、実験例5から導かれるように、少なくとも本実験の条件では、SOC0[%]まで完全放電させて、そこから1/3[C]という低い充電レートでゆっくり充電しても、電池容量[Ah]の劣化が生じている。つまり、従来SOC0[%]まで完全放電させて、正極活物質である水酸化ニッケルを完全に未充電の状態にして、正極活物質間のばらつきを解消する。その後低い充電レートで充電することでメモリー効果が解消するリフレッシュを行うことができるという当業者の技術常識と思われていたことが、必ずしも成立しないということがわかり、画期的な結果を得ることができた。
【0158】
(本実施形態の作用)
本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法では、以下のような作用を奏する。
・本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法では、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、この上限SOCを含んだ充放電範囲で行う。但し、SOC100[%]を超える充電はしない。SOC100[%]を超える過充電をすることで、酸素の発生によりNiHが生成される可能性を抑制するという作用がある。
【0159】
・この「高SOC領域」における充電により正極活物質であるNi(OH)が、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に変化するが、このときばらつきが無いように、例えば1/3[C]以下の低レートでゆっくり充電する。そのような低レートでゆっくり充電することで、正極内での局所的な過充電などの発生を抑制しつつ、ちょうどSOC100[%]の上限SOCの時点ですべての正極活物質を均一に充電するという作用がある。つまり、ニッケル水素蓄電池10をリフレッシュするという作用がある。
【0160】
・「基準SOC」以下の領域である「低SOC領域」では、例えば3[C]に設定した「第1の充電レートC」を上限に充電する。このため、迅速な充電を行うことができるという作用がある。
【0161】
・また、下限SOCを下回らない範囲で充放電を管理するため、過放電や極端な低SOCの状態を回避する。
・なお、複素インピーダンスを測定することで、制御の前提となるニッケル水素蓄電池の満容量を非破壊で迅速かつ正確に取得することができるため、正確な制御をすることができるという作用がある。
【0162】
・正確な制御をすることで、ニッケル水素蓄電池10の容量の低下を抑制することができる。
・ニッケル水素蓄電池10の容量の低下を抑制することができるため、正確なSOCの推定が可能となる。
【0163】
・そのため、正確なニッケル水素蓄電池の満容量に基づいた正確な制御を継続して行うことができる。
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池10の回復方法及び回復装置によれば、ニッケル水素蓄電池10の容量の低下を効果的に回復することができるという効果がある。
【0164】
(2)本実施形態では、低SOC領域では、ハイレートの第1の充電レートCを上限に充電することで、迅速充電することができるという効果がある。
(3)一方、高SOC領域では、ローレートの第2の充電レートCを上限に上限SOCまで充電するため、正極活物質の充電状態が均一になる。正極活物質の充電状態が均一になることで、ニッケル水素蓄電池10がリフレッシュされて容量の低下を効果的に回復することができるという効果がある。
【0165】
(4)上限SOC、つまりSOC100[%]を超える充電はしない。このため、過充電によるNiHが生成しやすい領域での充電を回避することができるという効果がある。
【0166】
(5)ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC0[%]を超えるように設定したSOC[%]である下限SOCを下回らない充放電範囲で制御する。このため、過放電や著しく低いSOCとすることが回避でき、ニッケル水素蓄電池を円滑に制御することができるという効果がある。
【0167】
(6)基準SOCを、70~90[%]に設定した。このため、ローレート充電を行う高SOC領域での正極活物質の均一化を十分に行うことができる。また、ハイレート充電をおこなう低SOC領域を十分にとることで、充電の効率化を図ることができるという効果がある。
【0168】
(7)第2の充電レートCを1/3[C]以下とした。このため、高SOC領域での正極活物質の均一化を十分に行うことができるという効果がある。
(6)あらかじめ複素インピーダンスの測定に基づくニッケル水素蓄電池10の満容量を正確に推定しているため、制御対象となるニッケル水素蓄電池10の特性を正確に特定することができるという効果がある。
【0169】
(7)複素インピーダンスの測定に基づいて取得したニッケル水素蓄電池10の満容量に基づき、OCV-SOCカーブを取得するため、正確なOCV-SOCカーブとすることができるという効果がある。
【0170】
(8)正確なOCV-SOCカーブに基づいて、測定したOCVから、正確にSOCを推定することができるという効果がある。
(9)正確に取得したSOCに基づいて、正確な制御を行うことができるという効果がある。
【0171】
(10)正確に取得したSOCに基づいて、正確な制御を行うことで、ニッケル水素蓄電池10の容量を回復することができるという効果がある。
(11)ニッケル水素蓄電池10の容量を回復することで、正確な電池容量に基づいて、正確な制御を継続して行うことができる。
【0172】
(別例)
本発明は、実施形態に限定されず以下のように実施することができる。
図13のフローチャートに示す手順は、常時行う必要はなく、例えば、通常はSOC40~80[%]で充放電を行い、任意に図13のフローチャートに示す手順を行ってもよい。あるいは、一定の基準を満たした充電があった場合に実施してもよい。さらに、定期的に実施するような態様でもよい。
【0173】
○本実施形態では、OCV[V]に応じた制御を行っているが、推定したSOC[%]、電流[A]とその積算値[Ah]、温度[℃]など他のパラメータにより、あるいはこれらを参照して制御することもできる。
【0174】
○本実施形態では、深夜電力により夜間充電する家庭における定置用のニッケル水素蓄電池10の回復方法を例示したが、動作が単純であることから説明の単純化のため例示したものである。本発明では、ニッケル水素蓄電池10の用途は実施形態に限定されない。例えば、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHV)、ハイブリッド(HV)などの車両の駆動用の電池として適用できる。もちろん航空機や船舶用としても適用できる。また、太陽光発電施設、風力発電施設、小規模水力発電施設を備えた家庭や工場の定置用の電池としても適用できる。さらに、コンピュータやオーディオ機器用の電源においてのニッケル水素蓄電池10のリフレッシュを目的として実施することもできる。
【0175】
○本実施形態では、SOC80以下の低SOC領域と、SOC80[%]を超える高SOC領域とに分け、それぞれ第1の充電レートC、第2の充電レートCで充電する。しかし、これに限定せず、例えばSOC80[%]を超えて、90[%]未満を「中SOC領域」とする。また、SOC90[%]を超えてSOC100[%]までを高SOC領域とする。そして、中SOC領域では、中程度の充電レート、例えば1[C]として、3段階で制御するようにすることもできる。
【0176】
○充電は、一定の充電レートに限定されず、例えば、断続的に充電の休止時間を設けて、正極活物質の充電の均一化をはかるようにしてもよい。
○また、SOC100[%]に近づくにつれて漸次充電レート[C]を連続的に低下させてもよい。
【0177】
○本実施形態では、SOC80[%]以下の低SOC領域では、一律放電レート3[C]での放電を許容している。しかし、例えば、SOC20~50[%]のSOCが低い領域では、メモリー効果が生じやすいために、例えば放電レートを1[C]以下に制限するように制御することもできる。
【0178】
○また、従来技術のように、一旦SOC0[%]まで例えば1/3[C]のローレートの放電レートで完全放電させて、そこから例えば1/3[C]のローレートの充電レートでゆっくり充電するような従来のリフレッシュ方法を併せて実施することを妨げない。
【0179】
○充放電におけるSOC[%]の実測、推定は、その方法はOCV-SOCカーブによる取得に限定されず、SOC[%]の実測、推定ができればいかなる方法でもよい。
○実施形態における図1~4に示すOCV-SOCカーブや、図7に示す容量劣化のグラフは例示であり、対象となるニッケル水素蓄電池10の特性により変化するものである。
【0180】
○本実施形態のニッケル水素蓄電池10の満容量の推定は、複素インピーダンスを測定し、その結果をナイキスト線図により解析して求めたが、OCV-SOCの実測で求めることも排除するものではない。
【0181】
○実施形態における下限SOC[%]、下限電圧LL[V]、基準電圧RV[V]、充電レート[C]、第1又は第2の放電レート[C]などは、例示である。したがって、これらの数値に限定されず、当業者において、ニッケル水素蓄電池10の特性に合わせて適宜最適化される。
【0182】
図5図8に示すブロック図は、本実施形態の説明のための図であり、本発明は、ニッケル水素蓄電池10を制御するため、異なる構成の制御装置1を用いることができる。
図6図13に示すフローチャートは、制御の手順の一例を示すものであり、その手順を付加し、削除し、変更して実施することができる。
【0183】
○その他、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、本発明は当業者によりその構成を付加し、削除し、変更して実施することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0184】
1…ニッケル水素蓄電池の制御装置
2…充放電制御装置
3…電源装置
4…電圧測定装置
5…電流測定装置
6…スイッチ
7…負荷
10…ニッケル水素蓄電池
11…CPU
12…RAM
13…ROM
14…記憶装置
20…測定用電源
21…電圧測定器
22…電流測定器
30…測定装置
40…処理部
41…インピーダンス測定部
43…ナイキスト線図作成部
44…パラメータ算出部
45…容量算出部
50…記憶部
51…相関データ
52…算出用データ
a,b,c,d…領域
Z…複素インピーダンス
f1,f2…測定周波数
L21,L22,L51…インピーダンス曲線
L31,L32,L41…グラフ
,V…OCV-SOCカーブ
OCV…電池電圧
UL…上限電圧[V]
LL…下限電圧[V]
RV…基準電圧[V]
PV…現在の電圧[V]
…第1の充電レート[C]
…第2の充電レート[C]
図1
図2
図3
図4
図5
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