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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137955
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ガス容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044416
(22)【出願日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/水素貯蔵効率向上に向けた水素タンクの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓大
(72)【発明者】
【氏名】小林 奨英
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD03
3E172DA36
3E172FA01
3E172FA08
3E172FA10
(57)【要約】
【課題】ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させ得る技術を提供すること。
【解決手段】
内部空間18を有するとともに、熱伝導材製の区画壁61により区画された複数の副空間62が配列するハニカム形状をなす収容部材60と、樹脂製の筒状をなし前記収容部材60の軸方向における一端部および他端部に各々連結されている2つのライナー分体13、14と、を有する容器本体10と、
前記ライナー分体13、14の少なくとも一方に装着され、前記内部空間18と前記容器本体10の外部とを連絡する口金20、30と、
前記副空間62に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材50と、を具備する、ガス容器。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するとともに、熱伝導材製の区画壁により区画された複数の副空間が配列するハニカム形状をなす収容部材と、樹脂製の筒状をなし前記収容部材の軸方向における一端部および他端部に各々連結されている2つのライナー分体と、を有する容器本体と、
前記ライナー分体の少なくとも一方に装着され、前記内部空間と前記容器本体の外部とを連絡する口金と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を具備し、
各々の前記ライナー分体の外周面は、前記収容部材の外周面に連なるガス容器。
【請求項2】
前記ライナー分体と前記収容部材とは互いに係合し一体化している、請求項1に記載のガス容器。
【請求項3】
前記ライナー分体と前記収容部材とはインサート成形により一体に成形されている、請求項1に記載のガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスなどのガスを貯蔵および放出するためのガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両や各種装置の燃料として、水素ガスや天然ガス等を用いる技術が提案されている。これらのガスを貯蔵および放出するためのガス容器についても盛んに検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に紹介されているガス容器は、その内部空間に、貯蔵材の一種である水素吸蔵合金を収容するものである。
貯蔵材は、貯蔵の対象となるガス(以下、必要に応じて充填ガスと称する)を物理的または化学的に吸蔵し、および、放出する。これら貯蔵材によると、内部空間に貯蔵可能なガスの量を増大させることができる。
【0004】
一方、貯蔵材は、充填ガスを吸蔵および放出する際に温度変化を伴う。
【0005】
例えば、特許文献1に紹介されているように、貯蔵材が水素吸蔵合金であれば、温度変化により貯蔵材の体積変化が生じる。このような場合、貯蔵材の温度変化量やその速度、すなわち貯蔵材の体積変化量やその速度が過大になると、ガス容器に変形等の機械強度の低下が生じる虞がある。
【0006】
さらに、貯蔵材による充填ガスの吸蔵及び放出に雰囲気の温度が深く関係することにより、貯蔵材への充填ガスの吸蔵、および、当該貯蔵材からの充填ガスの放出を円滑に行うためには、貯蔵材の温度を内部空間全体にわたって均一化することが肝要と考えられる。
【0007】
特許文献1に紹介されているガス容器における内部空間には、熱交換媒体の通路である熱媒管と、当該熱媒管から延出するフィン部とが配置されている。
当該ガス容器によると、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで、内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-281097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、既述したように、上記特許文献1に紹介されているガス容器では、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
しかし、この種のガス容器であっても、充填ガスの貯蔵放出性能に優れるとは言い難い。
【0010】
本発明の発明者は、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させるべく、当該特許文献1に紹介されているような従来型のガス容器では充分な充填ガスの貯蔵放出性能が得られない理由を検討した。そして、鋭意研究の結果、当該従来型のガス容器においては、内部空間で依然として温度のムラが生じており、これにより、従来型のガス容器では、充填ガスの吸蔵放出量や速度が頭打ちになっているという着想を得た。
【0011】
本発明の発明者はさらなる鋭意研究を重ね、上記した内部空間における当該温度のムラを解消または緩和するために、内部空間にハニカム形状の収容部材を配置することに到達した。当該収容部材は、熱伝導材製の区画壁により区画形成された複数の副空間を有し、当該副空間には貯蔵材が収容保持される。
【0012】
当該収容部材における区画壁は、熱伝導材製であるため熱交換器として機能する。そして当該収容部材は、当該区画壁が張り巡らされることにより熱的に均一化され、当該区画壁により区画形成された副空間に収容保持された貯蔵材もまた熱的に均一化される。
これにより、当該ハニカム形状の収容部材を有するガス容器によると、充填ガスの貯蔵放出性能の向上を実現し得ると考えられる。
【0013】
ここで、本発明の発明者は、当該ハニカム形状の収容部材を有するガス容器に満足せず、充填ガスの貯蔵放出性能を更に向上させることを志向した。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ハニカム形状の収容部材を有するガス容器において、充填ガスの貯蔵放出性能を、より一層向上させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明のガス容器は、
内部空間を有するとともに、熱伝導材製の区画壁により区画された複数の副空間が配列するハニカム形状をなす収容部材と、樹脂製の筒状をなし前記収容部材の軸方向における一端部および他端部に各々連結されている2つのライナー分体と、を有する容器本体と、
前記ライナー分体の少なくとも一方に装着され、前記内部空間と前記容器本体の外部とを連絡する口金と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を具備し、
各々の前記ライナー分体の外周面は、前記収容部材の外周面に連なる、ガス容器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ハニカム形状の収容部材を有するガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を、より一層向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例のガス容器を模式的に説明する説明図である。
図2】実施例のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図である。
図3】実施例のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図である。
図4】実施例のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図である。
図5】実施例のガス容器における収容部材とライナー分体との連結部分を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のガス容器は、充填ガスを吸蔵および放出するための貯蔵材を有する。そして、当該貯蔵材を収容する容器本体の内部空間は、ハニカム形状をなす収容部材の区画壁により複数の副空間に区画され、貯蔵材は各副空間に収容保持されている。
したがって、本発明のガス容器における内部空間は、当該区画壁が熱交換器として機能することにより、熱的に均一化される。
【0019】
ここで、本発明の発明者は、ガス容器における内部空間の熱交換性能だけではなく、ガス容器における内部空間と外部との熱交換性能を向上させることで、ガス容器における貯蔵材を急速で加熱または冷却し、充填ガスの吸蔵放出量や速度を向上させるという着想を得た。
【0020】
つまり一般的なガス容器において、上記の内部空間は、長い筒状をなす樹脂製のライナーの内部に形成される。当該樹脂製のライナーは、ガスバリア性を有し、かつ、軽量であるために、例えばガス容器を車両用の燃料タンクとして用いる場合に非常に有用である。
しかしその反面、当該ライナーは、熱伝導性に劣る樹脂製であるために、内部空間と外部とを熱的に遮断する。これにより、一般的なガス容器においては、内部空間を充分な速度で加熱または冷却することが困難である。
【0021】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、上記した長い筒状をなす樹脂製のライナーにかえて、樹脂製の筒状をなす2つのライナー分体を用い、当該ライナー分体を収容部材の軸方向における一端部および他端部に各々連結して、各々のライナー分体の外周面が収容部材の外周面に連なるようにすることを想起し、本発明のガス容器を完成した。
【0022】
つまり、本発明のガス容器においては、2つのライナー分体およびハニカム形状をなす収容部材で構成される容器本体が、一般的なガス容器におけるライナーに相当する。2つのライナー分体の少なくとも一方には、口金が装着されているために、各ライナー分体の内部、および、収容部材の副空間が内部空間を構成する。
【0023】
上記した本発明のガス容器によると、収容部材自体が、内部空間と外部とを区画するライナーの一部としての機能を有する。収容部材は熱伝導材製であるため、内部空間と外部とを熱的に連絡する熱交換器としても機能する。これにより、本発明のガス容器によると、ガス容器における内部空間の加熱および冷却の効率を向上させることができ、当該内部空間に収容保持されている貯蔵材の加熱および冷却の効率をも向上させることができる。これにより、本発明ガス容器によると、ガス容器における貯蔵材を急速で加熱または冷却し、充填ガスの吸蔵放出量や速度を向上させることが可能である。
【0024】
さらに、本発明のガス容器では、収容部材自体をライナーの一部として用いることにより、ライナーのうち収容部材を径方向外側から覆う部分が不要になる。これにより、本発明のガス容器は、その構造を簡素化し、軽量化することが可能である。このため本発明のガス容器は、車両等の燃料タンクとして特に好適である。
【0025】
以下、本発明のガス容器をその構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0026】
本発明のガス容器に収容する充填ガスの種類は特に限定せず、ガス容器内における当該充填ガスの圧力もまた特に限定しないが、本発明のガス容器は、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスを高圧で充填する所謂耐圧容器として具現化するのが特に好適である。
【0027】
本発明のガス容器は、容器本体、口金、および、貯蔵材を有する。
【0028】
このうち容器本体は、既述したように、収容部材と2つのライナー分体とを有し、その内部に対象となる充填ガスを収容するための内部空間を有する。
【0029】
このうち収容部材は、区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす。各副空間の形状は特に限定しないが、副空間に貯蔵材を収容保持する都合上、口金に設けられたガス流路の延びる方向、すなわち、充填ガスの流通方向に沿って延びる柱状をなすのが好ましい。
【0030】
各々の副空間は、同一の形状であっても良いし、異なる形状であっても良いが、当該副空間を区画形成する区画壁の剛性を考慮すると、当該副空間の流路断面は、正六角形や正八角形等の正多角形状であるのが好適である。
各副空間の流路断面は、当該副空間の軸方向全体にわたって一定であっても良いし、一定でなくても良い。但し、充填ガスの圧力損失を考慮すると、副空間の軸方向長さの50%以上にわたって一定であるのが好ましく、当該軸方向長さの75%以上にわたって一定であるのがより好ましく、副空間の軸方向長さの全長にわたって一定であるのが特に好ましい。
【0031】
副空間を区画する区画壁は、副空間の形状に応じた形状であれば良い。
既述したように、区画壁は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。本明細書において、熱伝導材とは、25℃の常温における熱伝導率が空気よりも高い材料を意味し、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される各種の金属、合金、セラミックス等を挙げることができ、貯蔵すべき充填ガスを透過し難い所謂ガスバリア性を有する材料であるのが特に好ましい。
【0032】
区画壁は、板状の材料を、溶着または接着等により一体化することで製造しても良いし、セラミックスの原料スラリーを押出成形および焼成等することで製造しても良い。
【0033】
2つのライナー分体の内部もまた、収容空間の一部として機能する。したがって、このようなライナー分体の材料としても、ガスバリア性を有する材料を選択するのが好適である。2つのライナー分体の材料は、充填ガスの種類やガス容器を設置する環境等に応じて適宜適切に選択すれば良い。
【0034】
例えば充填ガスが水素ガスであれば、ライナー分体の材料として、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を用いるのが好適である。ライナー分体の内部を、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のガスバリア性に優れる材料でコートするのも好適である。
本発明のガス容器が住宅等に設置されるものである等、ガス容器の質量が多少大きくても良い場合等には、ライナー分体の材料としてアルミニウムやステンレススチール等の金属材料を選択しても良い。
【0035】
ライナー分体は筒状をなせば良く、その形状は特に限定しないが、例えば円筒状や正多角形筒状等の、充填ガスに因る内圧が均一に分散する形状を有するのが好適である。
【0036】
ライナー分体の少なくとも一方には口金が装着される。ライナー分体は、口金に一体成形しても良いし、口金とは別体で形成しても良い。
例えば予め形成した口金をインサートとして、ライナー分体をインサート成形することで、口金が装着されたライナー分体を製造しても良い。または、予め形成したライナー分体に口金を挿入することで、当該ライナー分体に口金を装着しても良い。
予め形成したライナー分体に口金を挿入する場合には、ライナー分体の外部への充填ガスの漏出を抑制するため、口金とライナー分体との間には、Oリング等のシール部材を介在させるのが好適である。
【0037】
口金の材料もまた特に限定しないが、口金にはある程度の剛性が要求されるため、当該口金用の材料としてはアルミニウム、アルミニウム合金又はステンレススチール等の金属材料を選択するのが好適である。
【0038】
口金は、ライナー分体に装着され、容器本体の外部と容器本体に設けられた内部空間とを連絡し、充填ガスの出入り口として機能する。
【0039】
口金は、一つの容器本体に対して少なくとも一つあれば良いが、一つの容器本体に対して複数あっても良い。例えば、2つのライナー分体の各々に口金を装着することで、容器本体における軸方向の両端部に口金を一体化しても良い。
この場合、二つの口金の双方を、充填ガスの出入口として用いても良いし、一方の口金に栓をしても良い。また、後述する実施例のように、口金の一方を充填ガスの出入口として用い、他方を熱交換媒体の流通する熱交換器として利用しても良い。
勿論、本発明のガス容器は、口金とは別の熱交換器を有しても良い。
【0040】
本発明のガス容器において、ライナー分体は収容部材の軸方向における一端部および他端部に各々連結される。本発明のガス容器において、ライナー分体と収容部材との連結部分の形状等は特に限定しないが、充填ガスに因る内圧が均一に分散する形状であるのが好ましく、各々のライナー分体の外周面と、収容部材の外周面と、が面一に連なるのが特に好適である。
【0041】
ライナー分体と収容部材との連結方法もまた特に限定しないが、ライナー分体および収容部材を安定的に連結するためには、何らかの方法でこれらを互いに固定するのが好適である。
【0042】
例えば、ライナー分体と収容部材とは、互いに係合しているのが好ましい。この場合、ライナー分体と収容部材とには各々係合部が設けられる。内部空間から外部への充填ガスの漏出を抑制するためには、ライナー分体と収容部材とは気密に連結されるのが好ましく、例えば、上記の係合部の近傍において、ライナー分体と収容部材との隙間にOリング等のシール部材を装着するのが好ましい。
【0043】
また例えば、ライナー分体は、インサート成形により収容部材と一体に成形されているのも好ましい。
この場合には、ライナー分体と収容部材に対して気密に一体化するのが容易である。
【0044】
本発明のガス容器を耐圧容器として用いる場合、容器本体の外部を補強層で被覆するのが好適である。
【0045】
補強層は、一般的な耐圧容器同様に、樹脂を含浸した高強度繊維(所謂FRP)で構成すれば良い。高強度繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を採用すれば良く、当該高強度繊維に含浸される樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を採用すれば良い。
【0046】
補強層を形成する方法としては一般的な方法を採用すれば良く、例えば、樹脂材料を含浸させた高強度繊維を容器本体に対して巻回してヘリカル層やフープ層を形成し、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用し得る。または、樹脂および高強度繊維を材料とする当該ヘリカル層やフープ層をシート状に形成したものを、容器本体に貼り付け、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用することも可能である。
【0047】
貯蔵材は、容器本体のうち、区画壁により区画形成された副空間に収容保持される。当該貯蔵材は、充填ガスを吸蔵および放出する。このような貯蔵材としては、本発明のガス容器に貯蔵すべき充填ガスの種類に応じたものを適宜適切に選択すれば良い。
【0048】
例えば充填ガスが水素である場合、貯蔵材としては、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(所謂MOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物等を例示できる。
【0049】
各貯蔵材は種々の形状をなし得る。貯蔵材の充填ガス吸蔵放出性能を充分に引き出すためには、充填ガスに対する貯蔵材の接触面積を大きくするのが好ましく、比表面積の大きな一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を使用するのが好適である。
また、貯蔵材ひいては本発明のガス容器の取り扱い性を考慮すると、当該一次粒子および/または二次粒子の貯蔵材を架橋剤により架橋するか、またはバインダにて結着して、ペレット状にするのが好適である。本明細書においては、必要に応じて、ペレット状の貯蔵材を貯蔵材ペレットと称する。貯蔵材ペレットの形状としては、当該貯蔵材ペレットを収容保持する副空間と概略一致する形状であるのが特に好適である。
【0050】
本発明のガス容器は、区画壁の少なくとも一つに、隣り合う二つの副空間を連絡する連絡口を有しても良い。この場合、当該隣り合う二つの副空間は、連絡口を通じて連絡し、当該二つの副空間において充填ガスは連絡口を通じて流通可能である。したがってこの場合には、各副空間が熱的に均一化され、当該副空間に収容保持されている貯蔵材もまた熱的に均一化される。これにより、当該態様のガス容器では、貯蔵材をより急速で加熱または冷却することが可能であり、充填ガスの吸蔵放出量や速度をより向上させることが可能である。
【0051】
本発明のガス容器において、全ての区画壁が連絡口を有しても良いし、一部の区画壁のみが連絡口を有しても良いが、内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、区画壁の多くが連絡口を有するのが好ましい。
【0052】
具体的には、区画壁の30%以上、50%以上、または75%以上が連絡口を有するのが好適である。全ての区画壁が連絡口を有するのが特に好適である。
【0053】
各々の連絡口の形状や数は特に限定されない。連絡口の大きさは、副空間に収容保持される貯蔵材の移動を抑制できる程度であれば良く、貯蔵材の大きさ等に応じて適宜適切に設定すれば良い。
【0054】
具体的には、貯蔵材が一次粒子であるか、または、当該一次粒子が凝集した二次粒子である場合には、連絡口は、開口径50~500μm程度の小径の開口であるのが良い。貯蔵材が、当該一次粒子や二次粒子の貯蔵材を架橋または結着したペレット状をなす場合には、連絡口は、開口径1mm以上の比較的大径の開口であるのが良い。なお、当該大径の開口を、メッシュ等の通気材で覆っても良い。
【0055】
本発明のガス容器においては、複数の副空間の全てが貯蔵材を収容保持しても良いし、複数の副空間の一部が貯蔵材を収容保持せず、残部が貯蔵材を収容保持しても良い。以下必要に応じて、貯蔵材を収容保持する副空間を貯蔵部と称し、貯蔵材を収容保持しない副空間を空洞部と称する場合がある。
【0056】
内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、本発明のガス容器は、貯蔵材が収容保持されず、充填ガスの流路として機能する副空間、すなわち空洞部を有するのが好適である。
【0057】
空洞部と貯蔵部との存在比率や、流路断面積の比率等は特に限定しないが、充分な量の充填ガスを貯蔵および放出し、かつ、充填ガスの流路を十分に確保するためには、これらの比率に最適な範囲が存在する。
【0058】
具体的には、貯蔵部の流路断面積の平均値を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の平均値は、10~500%の範囲内、20~200%の範囲内、または、50~150%の範囲内であるのが好適である。
【0059】
また、空洞部と貯蔵部との存在比率(数比)は、1:50~1:1の範囲内、1:15~1:2の範囲内、または1:7~1:3の範囲内であるのが好適である。
【0060】
また、貯蔵部の流路断面積の和を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の和は、2~50%の範囲内、7~30%の範囲内、または、15~23%の範囲内であるのが好適である。
【0061】
以下、具体例を挙げて本発明のガス容器を説明する。
【0062】
(実施例)
実施例のガス容器は、車両に搭載され、充填ガスの一種である水素ガスを貯蔵および放出するため耐圧容器である。
実施例のガス容器を模式的に説明する説明図を図1に示す。実施例のガス容器における要部の軸方向断面を模式的に表す説明図を図2に示す。実施例のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図を図3に示す。実施例のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図を図4に示す。実施例のガス容器における収容部材とライナー分体との連結部分を説明する説明図を図5に示す。
以下、軸方向、径方向とは各図に示す方向を指すものとする。
【0063】
図1図3に示すように、実施例のガス容器1は、容器本体10、口金20、口金30、補強層40、貯蔵材ペレット50、および、連結部70を有する。
【0064】
容器本体10は、収容部材60および2つのライナー分体(第1分体13、第2分体14)が一体化されてなる。
図2に示すように、略筒状をなす容器本体10の内部には、内部空間18が形成されている。
【0065】
図2および図3に示すように、第1分体13および第2分体14は、ドーム状、すなわち、軸方向の一端部が縮径した短円筒状をなす。第1分体13および第2分体14は、ポリエチレン樹脂製であり、略同形状である。
【0066】
第1分体13のうち縮径した部分を第1開口部15と称する。第2分体14のうち縮径した部分を第2開口部16と称する。
【0067】
第1分体13は収容部材60における軸方向の一端部に連結され、第2分体13は収容部材60における軸方向の他端部に連結されている。つまりこれらは、第1分体13、収容部材60、第2分体14の順に並んでいる。第1分体13は第1開口部15を軸方向の外側に向け、第2分体14は第2開口部16を軸方向の外側に向けている。換言すると、第1分体13、収容部材60および第2分体14を有する容器本体10において、その軸方向の両端部は各々開口している。
【0068】
第1開口部15および第2開口部16には、各々、Oリングを介して、金属製の口金(口金20、口金30)が装着されている。口金20および口金30については追って詳説する。
【0069】
図3および図4に示すように、収容部材60は、区画壁61によって区画された副空間62が複数配列するハニカム形状をなす。
図4に示すように、各副空間62は、軸方向に延び、径方向すなわち軸方向と直交する方向に配列している。各副空間62は同型状であり、各副空間62の径方向断面は正六角形であり、かつ、当該径方向断面は軸方向において一定である。
【0070】
区画壁61は、図5に示すように、ステンレススチールの一種であるSUS316L製であり板状をなす。区画壁61の厚さは0.1mmである。
【0071】
図2および図3に示すように、収容部材60の中心部は中空であり、当該中心部には筒状をなす連結部70が一体化されている。連結部70は、区画壁61と同じ材料からなり、口金20に向けて軸方向に延びている。
【0072】
図4に示すように、副空間62には貯蔵材ペレット50が収容されている。
貯蔵材ペレット50は、多孔性の炭素系材料からなる貯蔵材が架橋剤で架橋されたペレット状をなす。貯蔵材ペレット50の形状は内部空間18の形状と概略同じである。
【0073】
口金20は熱交換媒体が循環する熱交換流路21を一体に有する。
口金30には、図略のバルブおよびガス供給管が取り付けられている。
口金30は、当該ガス供給管およびバルブを介して、充填ガスである水素ガスが出入りする、充填ガス出入口として機能する。なお、口金20は実質的に目詰めされ、充填ガス出入口としては機能しないが、熱交換器として機能する。
【0074】
図1に示すように、容器本体10の外面は、FPR製の補強層40で覆われている。
【0075】
以下、実施例のガス容器1を製造する方法を説明する。
【0076】
先ず、第1分体13および第2分体14を各々射出成形した。図5に示すように、
このうち第1分体13(図3参照)の第1開口部15に、Oリングとともに口金20を装着した。また、第2分体14の第2開口部16にも、Oリングとともに口金20を装着した。
【0077】
板状の区画壁61をハニカム構造に形成することで、収容部材60を得た。当該収容部材60における副空間62に、貯蔵材ペレット50を挿入し、当該貯蔵材ペレット50を区画壁61に接着した。
【0078】
収容部材60における軸方向の一端部に第2分体14を挿入し、当該収容部材60を口金30に対して固定した。さらに、収容部材60に一体化した連結部70を口金20に接触させつつ、収容部材60における軸方向の他端部に第1分体13を挿入し、収容部材60を口金20に対して固定した。これにより第1分体13、収容部材60および第2分体14が連結された容器本体10を得た。
【0079】
なお、図5に示すように、収容部材60には凹凸形状の収容部材側第1係合部63が設けられ、第1分体13には当該収容部材側第1係合部63と係合する分体側第1係合部11が設けられている。収容部材側第1係合部63と分体側第1係合部11とが係合することで、収容部材60と第1分体13とは安定的に一体化される。また、収容部材側第1係合部63と分体側第1係合部11の隙間には、Oリング75が装着され、当該隙間をシールしている。これにより、収容部材60と第1分体13とは気密に一体化される。
【0080】
図示しないが、収容部材60には、さらに、凹凸形状の収容部材側第2係合部が設けられ、第2分体14には当該収容部材側第2係合部と係合する分体側第2係合部が設けられている。そして、収容部材側第2係合部と分体側第2係合部とが係合し、両者の隙間が図略のOリングでシールされることにより、収容部材60と第2分体14ともまた安定的かつ気密に一体化される。
【0081】
このようにして得られた容器本体10の表面に、FRP製の補強層40を形成し、実施例のガス容器1を得た。
【0082】
実施例のガス容器1の作用について以下に説明する。
【0083】
実施例のガス容器1において、容器本体10の内部空間18には、貯蔵材ペレット50を収容保持する収容部材60が配置されている。
【0084】
収容部材60は、区画壁61が張り巡らされたハニカム構造をなし、貯蔵材ペレット50は、区画壁61の間に形成されている副空間62に収容されている。区画壁61は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。このような区画壁61が存在することで、内部空間18はその全体にわたって熱的に均一化され、当該内部空間18に収容されている貯蔵材ペレット50の温度もまた均一化されている。
【0085】
さらに、区画壁61は、連結部70を介して口金20に接触し、当該口金20に熱的に連絡されている。口金20には熱交換媒体が循環する熱交換流路21が一体に設けられているため、区画壁61は当該熱交換媒体と間接的に熱交換する。
【0086】
さらに、実施例のガス容器では、収容部材60の外周面が容器本体10における外周面の一部を構成している。収容部材60を構成する区画壁61は熱伝導材製であり、容器本体10の外部と、容器本体10の内部すなわち内部空間18とを熱交換する。
【0087】
これにより内部空間18は効率良くかつ迅速に温度調節され、当該内部空間18にある貯蔵材ペレット50もまた効率良くかつ迅速に温度調節される。したがって、実施例のガス容器1では、当該内部空間18において、貯蔵材ペレット50を構成する貯蔵材への充填ガスの吸蔵、および、貯蔵材からの充填ガスの放出が円滑に行われる。
【0088】
ガス容器1において、充填ガスが図略のバルブおよび口金30を経て容器本体10の内部空間18へ供給されると、当該充填ガスは、内部空間18に配置されている収容部材60の軸方向端面69(図2参照)を経て収容部材60の各副空間62に流入する。
【0089】
副空間62に流入した充填ガスは、当該副空間62に収容保持されている貯蔵材に徐々に吸蔵されつつ、口金30側から口金20側に流通する。これにより、副空間62に流入した充填ガスは、貯蔵材ペレット50に徐々に吸蔵されつつ、口金30側から口金20側に流通する。これにより、実施例のガス容器1は、充填ガスを貯蔵する。
【0090】
以上により、実施例のガス容器1によると、貯蔵材の吸蔵放出性能を充分に引き出すことができ、ガス容器1としての充填ガスの貯蔵放出性能が向上する。
【0091】
尚、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1:ガス容器 10:容器本体
13:第1分体(ライナー分体) 14:第2分体(ライナー分体)
18:内部空間 20:口金
30:口金 50:貯蔵材
60:収容部材 61:区画壁
62:副空間 65:連絡口
図1
図2
図3
図4
図5