(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137975
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】部分放電検出装置及びノイズ除去方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20230922BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044440
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムンフバト メンデサイハン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩一
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA19
2G015CA01
2G015CA08
(57)【要約】
【課題】部分放電波形が小さい場合であっても、部分放電波形の検出を可能とする。
【解決手段】部分放電検出装置10は、コイルに流れる電流を示す電流信号62を取得する電流信号取得部100と、コイルの周囲ノイズを示す周囲信号64を取得する周囲信号取得部102とを含む。部分放電検出装置10は、電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルと周囲信号64のレベルとが同等となるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方のレベルを調整するレベル調整部104を含む。部分放電検出装置10は、ノイズ成分と周囲信号64との差分が小さくなるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方の位相を調整する位相調整部106を含む。部分放電検出装置10は、電流信号62から周囲信号64を減じることにより、電流信号62からノイズ成分を除去する除去部108を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに生ずる部分放電を検出する部分放電検出装置であって、
前記コイルに流れる電流を示す電流信号を取得する電流信号取得手段と、
前記コイルの周囲ノイズを示す周囲信号を取得する周囲信号取得手段と、
前記電流信号に含まれるノイズ成分のレベルと前記周囲信号のレベルとが同等となるように前記電流信号及び前記周囲信号の少なくとも一方のレベルを調整するレベル調整手段と、
前記レベル調整手段により前記少なくとも一方のレベルが調整された状態において前記ノイズ成分と前記周囲信号との差分が小さくなるように前記電流信号及び前記周囲信号の少なくとも一方の位相を調整する位相調整手段と、
前記位相調整手段により前記少なくとも一方の位相が調整された状態において前記電流信号から前記周囲信号を減じることにより、前記電流信号から前記ノイズ成分を除去する除去手段と、
を含む部分放電検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記レベル調整手段は、前記周囲信号から直流成分を取り除く取除手段と、前記取除手段により前記直流成分が取り除かれた前記周囲信号の振幅が、前記電流信号に含まれる前記ノイズ成分の振幅と同等となるように調整する振幅調整手段と、を有する、
部分放電検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の部分放電検出装置であって、
前記取除手段は、前記周囲信号から当該周囲信号の平均値を減算して前記周囲信号から前記直流成分を取り除き、前記振幅調整手段は、前記電流信号に含まれる前記ノイズ成分の標準偏差と前記周囲信号の標準偏差との比率に基づいて、前記周囲信号の振幅の大きさを調整する、
部分放電検出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の部分放電検出装置であって、
前記位相調整手段は、前記電流信号及び前記周囲信号のどちらか一方の位相をずらしながら前記差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得し、取得した前記ズレ量に応じて前記少なくとも一方の位相を調整する、
部分放電検出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の部分放電検出装置であって、
前記周囲信号取得手段は、前記コイルにインパルス信号を印加する前に前記周囲信号を取得する、
部分放電検出装置。
【請求項6】
コイルに生ずる部分放電を検出するためのノイズ除去方法であって、
前記コイルに流れる電流を示す電流信号を取得し、
前記コイルの周囲ノイズを示す周囲信号を取得し、
前記電流信号に含まれるノイズ成分のレベルと前記周囲信号のレベルとが同等となるように前記電流信号及び前記周囲信号の少なくとも一方のレベルを調整し、
前記少なくとも一方のレベルが調整された状態において前記ノイズ成分と前記周囲信号の差分が小さくなるように前記ノイズ成分と前記周囲信号の少なくとも一方の位相を調整し、
前記少なくとも一方の位相が調整された状態において前記電流信号から前記周囲信号を減じることにより、前記電流信号から前記ノイズ成分を除去する、
ノイズ除去方法。
【請求項7】
請求項6に記載の部分放電を検出するためのノイズ除去方法であって、
前記レベルを調整する際には、
前記周囲信号から直流成分を取り除き、
前記直流成分が取り除かれた前記周囲信号の振幅が、前記電流信号に含まれる前記ノイズ成分の振幅と同等となるように調整する、
ノイズ除去方法。
【請求項8】
請求項7に記載の部分放電を検出するためのノイズ除去方法であって、
前記周囲信号から前記直流成分を取り除く際には、前記周囲信号から当該周囲信号の平均値を減算して前記周囲信号から前記直流成分を取り除き、前記周囲信号の振幅が前記電流信号に含まれる前記ノイズ成分の振幅と同等となるように調整する際には、前記電流信号に含まれる前記ノイズ成分の標準偏差と前記周囲信号の標準偏差との比率に基づいて前記周囲信号の振幅の大きさを調整する、
ノイズ除去方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の部分放電を検出するためのノイズ除去方法であって、
前記位相を調整する際には、前記電流信号及び前記周囲信号のどちらか一方の位相をずらしながら前記差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得し、取得した前記ズレ量に応じて前記少なくとも一方の位相を調整する、
ノイズ除去方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の部分放電を検出するためのノイズ除去方法であって、
前記周囲信号を取得する際には、前記コイルにインパルス信号を印加する前に前記周囲信号を取得する、
ノイズ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分放電検出装置及びノイズ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、部分放電検出装置が示されている。
【0003】
この部分放電検出装置は、検出に関する精度を向上するために、部分放電波形の特徴量データを蓄積して予め統計データを形成する。
【0004】
測定対象の波形から部分放電波形を検出する際には、ハイパスフィルタ及びローパスフィルタを用いて測定対象の波形からノイズを除去する。そして、ノイズが除去された波形に含まれる部分放電波形の発生部位を統計データに基づいて特定して部分放電波形を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような部分放電検出装置においては、ハイパスフィルタ及びローパスフィルタを用いて測定対象の波形からノイズを除去する。
【0007】
このため、測定対象の波形に含まれる部分放電波形が小さい場合には、部分放電波形なのかノイズなのかの判別が難しくなるので、統計データを用いた特定が必要であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、部分放電波形が小さい場合であっても部分放電波形の検出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の部分放電検出装置は、コイルに生ずる部分放電を検出する部分放電検出装置であって、前記コイルに流れる電流を示す電流信号を取得する電流信号取得手段と、前記コイルの周囲ノイズを示す周囲信号を取得する周囲信号取得手段と、前記電流信号に含まれるノイズ成分のレベルと前記周囲信号のレベルとが同等となるように前記電流信号及び前記周囲信号の少なくとも一方のレベルを調整するレベル調整手段と、前記レベル調整手段により前記少なくとも一方のレベルが調整された状態において前記ノイズ成分と前記周囲信号の差分が小さくなるように前記電流信号及び前記周囲信号の少なくとも一方の位相を調整する位相調整手段と、前記位相調整手段により前記少なくとも一方の位相が調整された状態において前記電流信号から前記周囲信号を減じることにより、前記電流信号から前記ノイズ成分を除去する除去手段と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の部分放電検出装置によれば、コイルに流れる電流を示す電流信号に含まれるノイズ成分のレベルとコイルの周囲ノイズを示す周囲信号とのレベルが同等になるようにレベル調整した後、前記ノイズ成分と前記周囲信号との差分が小さくなるように位相調整し、電流信号から周囲信号を減じることで電流信号からノイズ成分を除去することができる。
【0011】
このため、電流信号に含まれるノイズをフィルタによって一律に除去する場合と比較して、電流信号に含まれた部分放電波形が小さい場合であっても、部分放電波形の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る部分放電検出装置で部分放電を検出する様子を示す説明図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る部分放電検出装置のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る部分放電検出装置の各部の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る測定対象のコイルに加えるインパルス信号の電圧の時間的変化を示す波形と、電流信号の波形とを示す線図である。
【
図5】
図5は、一実施形態の部分放電装置で取得した電流信号の波形と周囲信号の波形とを示す線図である。
【
図7】
図7は、
図6に対応する図であり、周囲信号から直流成分を取り除いた状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図6に対応する図であり、周囲信号の波形の振幅が電流信号に含まれるノイズ成分の波形の振幅と同等となるように調整した状態を示す図である。
【
図9】
図9は、
図6に対応する図であり、電流信号の波形と周囲信号の波形との位相の差が小さくなるように調整した状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図6に対応する図であり、電流信号から周囲信号を減じた状態を示す図である。
【
図11】
図11は、電流信号の波形とノイズが除去された検出用信号の波形とを示す図であり、検出用信号を電流信号の波形よりも全体的に下方へずらした状態を示す図である。
【
図12】
図12は、一実施形態に係る部分放電検出処理の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、一実施形態に係るノイズ除去処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る部分放電検出装置10で部分放電を検出する様子を示す説明図である。
【0015】
部分放電検出装置10は、測定対象12のコイルに生ずる部分放電を検出する装置である。コイルを有する測定対象12としては、電磁ソレノイド、発電機、変圧器、モータが挙げられる。
【0016】
本実施形態では、測定対象12が三相モータである場合を例に挙げて説明する。また、測定対象12のコイルは、三相モータのステータに巻かれたコイルとする。
【0017】
ここで、部分放電とは、絶縁材で分離された導体間を部分的に橋渡し、隣接する導体間に生ずる放電のことを言う。この部分放電の有無を監視することで、ステータに巻かれたコイルの劣化状況、又はコイルが損傷する虞等を知ることができる。
【0018】
この部分放電は、例えば、測定対象12である三相モータのいずれかの相のコイルにインパルス信号を印加した際に発生する放電であり、部分放電の発生は、コイルに流れる電流波形に現れる。
【0019】
具体的に説明すると、コイルに部分放電が発生した際には、コイルに流れる電流波形の一部に、周波数の高い部分放電波形が重畳して現れる。このため、コイルに流れる電流波形に、周波数の高い部分放電波形が部分的に現れたか否かによって、部分放電の有無を検出することができる。
【0020】
しかしながら、測定する電流波形には、測定現場の放射ノイズが重畳され得る。このため、重畳された放射ノイズによって部分放電を示す部分放電波形が埋もれてしまい、部分放電の検出精度が低下する。
【0021】
そこで、本実施形態の部分放電検出装置10は、測定した電流波形から放射ノイズに起因したノイズ成分を低減して除去することで、部分放電の検出精度の向上を図る。
【0022】
図1に示すように、部分放電検出装置10は、第一高速AD変換器20と第二高速AD変換器22とを備える。第一高速AD変換器20には、第一カレントプローブ24が接続されている。第一カレントプローブ24は、測定対象12のコイルに流れる電流を測定する第一検出部26を備える。
【0023】
第二高速AD変換器22には、第二カレントプローブ28が接続されている。第二カレントプローブ28は、測定対象12のコイルの周囲の放射ノイズである周囲ノイズを測定する第二検出部30を備える。
【0024】
部分放電検出装置10を用いて部分放電を検出する際には、測定対象12のコイルにインパルス信号を印加するインパルス信号印加源32が用いられる。
【0025】
インパルス信号印加源32については、インパルス信号印加源32の正極線34が、測定対象12のコイルの一方の端子に接続される。また、インパルス信号印加源32の負極線36が、測定対象のコイルの他方の端子に接続される。
【0026】
そして、部分放電検出装置10の第一カレントプローブ24における第一検出部26がインパルス信号印加源32の負極線36に装着される。これにより、部分放電検出装置10は、第一カレントプローブ24が接続された第一高速AD変換器20を介して、測定対象12のコイルに流れる電流信号を測定する。
【0027】
また、部分放電検出装置10の第二カレントプローブ28における第二検出部30を、測定対象12の周囲であって、インパルス信号印加源32の負極線36に装着された第一検出部26の近傍に配置する。
【0028】
これにより、部分放電検出装置10は、第二カレントプローブ28が接続された第二高速AD変換器22を介して、測定対象12のコイルの周囲ノイズを示す周囲信号を取得する。
【0029】
(ハードウエア構成)
図2は、一実施形態に係る部分放電検出装置10のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【0030】
部分放電検出装置10は、コンピュータを構成するプロセッサ40を中心に構成されている。このプロセッサ40には、第一測定部42と、第二測定部44と、記憶部46と、入力部48と、表示部50と、報知部52と、時計部54と、通信部56とが接続されている。
【0031】
第一測定部42は、第一高速AD変換器20と、第一高速AD変換器20に接続された第一カレントプローブ24とで構成される(
図1参照)。第一測定部42は、第一カレントプローブ24の第一検出部26を用いて測定した測定結果をプロセッサ40に送る(
図1参照)。
【0032】
第二測定部44は、第二高速AD変換器22と、第二高速AD変換器22に接続された第二カレントプローブ28とで構成される(
図1参照)。第二測定部44は、第二カレントプローブ28の第二検出部30を用いて測定した測定結果をプロセッサ40に送る(
図1参照)。
【0033】
記憶部46は、部分放電検出装置10を制御する制御プログラムを格納する。記憶部46は、情報処理装置としての機能を実現する為のプログラムを記録するとともに、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体として機能する。
【0034】
記憶部46は、不揮発性メモリ(ROM;Read Only Memory)、及び揮発性メモリ(RAM;Random Access Memory)等によって構成される。
【0035】
記憶部46は、上記の制御プログラムを実行する際に使用するデータ等を読み出し可能に記憶する。また、記憶部46は、第一測定部42及び第二測定部44の測定結果を読み出し可能に記憶して保存する。
【0036】
入力部48は、利用者の入力操作を受け付ける入力インターフェースで構成される。入力部48は、一例として、複数の操作ボタン及び数値等のデータを入力する為のテンキー等を備える。
【0037】
入力部48により、利用者は、一例として、測定結果を保存するトリガ機能を使用する際に、測定結果の保存タイミングを規定する閾値を入力することができる。この閾値を用いることにより、部分放電検出装置10は、第一測定部42又は第二測定部44の測定結果が閾値を超えた際に、一定期間の測定結果をサンプリングサイクル毎に取得して記憶部46に保存することができる。
【0038】
なお、本実施形態の部分放電検出装置10は、トリガ機能に加えてプリトリガ機能を有する。プリトリガ機能では、第一測定部42又は第二測定部44の測定結果が閾値を超えた際に、閾値を超えた後の測定結果をトリガ後データとして記憶部46に保存する。これに加えて、プリトリガ機能では、閾値を超える前の一定期間の測定結果をトリガ前データとして記憶部46に保存する。
【0039】
トリガ前データの保存期間は、周囲信号に含まれる周囲ノイズの波形の周期より十分長い期間とする。
【0040】
表示部50は、利用者に検出結果等を表示により報知する。表示部50は、一例として、LCD(Liquid Crystal Display)等の液晶表示パネルで構成される。
【0041】
報知部52は、利用者にガイド又は警告音等を報知する。報知部52は、一例としてスピーカで構成される。
【0042】
時計部54は、現在の年月日及び時刻をプロセッサ40に出力する。時計部54から出力される時刻は、一例として、試験を行った日時の記録に用いられる。
【0043】
通信部56は、データを送受信するためのインターフェースを構成する。通信部56は、プロセッサ40と外部装置との間でデータの送受信を可能とする。外部装置としては、一例として、検出結果を利用するコンピュータ装置が挙げられる。通信部56は、例えばUSB(universal serial bus)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)、無線LAN等を用いて通信を行う。
【0044】
プロセッサ40は、一例として、中央演算処理装置(CPU;Central Processing Unit)で構成される。プロセッサ40は、記憶部46に格納されたプログラムを読み出すとともに、読み出したプログラムを中央演算処理装置で実行することで、部分放電検出装置10の各部を制御する。
【0045】
(機能ブロック)
図3は、一実施形態に係る部分放電検出装置10の各部の機能の一例を示す機能ブロック図である。
図4は、一実施形態に係る測定対象12のコイルに加えるインパルス信号60の電圧の時間的変化を示す波形と、電流信号62の波形とを示す線図である。
図5は、一実施形態の部分放電検出装置10で取得した電流信号62の波形と周囲信号64の波形とを示す線図である。
【0046】
図3に示すように、部分放電検出装置10は、電流信号取得手段を構成する電流信号取得部100と、周囲信号取得手段を構成する周囲信号取得部102と、レベル調整手段を構成するレベル調整部104とを備える。また、部分放電検出装置10は、位相調整手段を構成する位相調整部106と、除去手段を構成する除去部108と、判定部110とを備える。
【0047】
レベル調整部104、取除手段を構成する取除部112と、振幅調整手段を構成する振幅調整部114とを備える。
【0048】
(電流信号取得部)
電流信号取得部100は、測定対象12のコイルに流れる電流の大きさを示す電流信号62を取得する(
図5参照)。電流信号62を取得する方法としては、一例として、第一測定部42から送られた測定結果を取得する方法、及び記憶部46から第一測定部42の測定結果を取得する方法が挙げられる(
図2参照)。
【0049】
本実施形態では、電流信号取得部100が記憶部46から第一測定部42の測定結果である電流信号62を取得する場合を例に挙げて説明する。
【0050】
電流信号取得部100は、測定対象12のコイルにインパルス信号60を印加する前の周囲信号64を取得し、インパルス信号60を印加する前の電流信号62を用いてノイズ除去処理を行う(
図4及び
図5参照)。
【0051】
【0052】
図6に示すように、電流信号取得部100は、記憶部46に記憶された第一測定部42の測定結果のうちのトリガ前データを取得する。また、電流信号取得部100は、取得したトリガ前データのうち値が一定の範囲内に収まる期間116(
図5参照)の安定データを、処理対象とする電流信号62としてノイズ除去処理を行う。
【0053】
(周囲信号取得部)
図3に示すように、周囲信号取得部102は、測定対象12のコイルの周囲ノイズを示す周囲信号64(N1)を取得する(
図6参照)。周囲信号64を取得する方法としては、一例として、第二測定部44から送られた測定結果を取得する方法、及び記憶部46から第二測定部44の測定結果を取得する方法が挙げられる。
【0054】
本実施形態では、周囲信号取得部102が記憶部46から第二測定部44の測定結果を、処理対象とする周囲信号64として取得する場合を例に挙げて説明する。
【0055】
周囲信号取得部102は、測定対象12のコイルにインパルス信号60を印加する前の周囲信号64(N1)を取得し、インパルス信号60を印加する前の周囲信号64(N1)を用いてノイズ除去処理を行う。
【0056】
図6に示すように、周囲信号取得部102は、記憶部46に記憶された第二測定部44の測定結果のうちのトリガ前データを得る。また、周囲信号取得部102は、トリガ前データのうち値が一定の範囲内に収まる期間116(
図5参照)の安定データを、処理対象とする周囲信号64としてノイズ除去処理を行う。
【0057】
ここで、電流信号取得部100及び周囲信号取得部102において、トリガ前データとして取得するデータの数は、除去したいノイズ成分の周波数帯の下限周波数の一周期分をカバーできる数とする。
【0058】
(レベル調整部)
図3に示すように、レベル調整部104は、電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルと周囲信号64のレベルとが同等となるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方のレベルを調整する。
【0059】
[取除部]
レベル調整部104が有する取除部112は、周囲信号64から直流成分を取り除く。
【0060】
具体的に説明すると、取除部112は、周囲信号64から当該周囲信号64の平均値を減算して周囲信号64から直流成分を取り除く。
【0061】
例えば、周囲信号64をN1とし、周囲信号64の平均値をNavとし、周囲信号64(N1)から当該周囲信号64(N1)の直流成分を示す平均値Navを取り除いた周囲信号64をN2とすると、N2は式1で示される。
【0062】
N2=N1-Nav ・・・ (式1)
【0063】
図7は、
図6に対応する図であり、周囲信号64から直流成分を取り除いた状態を示す図である。
【0064】
図7に示すように、周囲信号64は直流成分が取り除かれ、周囲信号64の波形の振幅中心と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の振幅中心とが合わせられる。
【0065】
[振幅調整部]
図3に示すように、レベル調整部104が有する振幅調整部114は、直流成分が取り除かれた周囲信号64(N2)の振幅が、電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように調整する(
図7参照)。
【0066】
振幅調整部114は、電流信号62に含まれるノイズ成分の標準偏差と周囲信号64の標準偏差との比率に基づいて、周囲信号64(N2)の振幅の大きさを調整する(
図7参照)。
【0067】
例えば、直流成分を取り除いた周囲信号64をN2とし、電流信号62の標準偏差をIσとし、周囲信号64の標準偏差をNσとし、振幅の大きさが調整された周囲信号64をN3とすると、N3は式2で示される。
【0068】
N3=N2×(Iσ/Nσ) ・・・ (式2)
【0069】
図8は、
図6に対応する図であり、周囲信号64(N3)の波形の振幅が電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の振幅と同等となるように調整した状態を示す図である。
【0070】
図8に示すように、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の波形の上側の上ピーク値と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の上側の上ピーク値とが合わせられる。また、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の波形の下側の下ピーク値と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の下側の下ピーク値とが合わせられる。
【0071】
(位相調整部)
図3に示すように、位相調整部106は、レベル調整部104によってレベルが調整された状態において、電流信号62のノイズ成分と周囲信号64(N3)の差分が小さくなるように電流信号62及び周囲信号64(N3)の少なくとも一方の位相を調整する。
【0072】
具体的に説明すると、位相調整部106は、電流信号62及び周囲信号64(N3)のどちらか一方の位相をずらしながら、電流信号62と周囲信号64(N3)との差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得する。そして、位相調整部106は、取得したズレ量に応じて少なくとも一方の位相を調整する。
【0073】
本実施形態において、位相調整部106は、次に示す式3を用いて、位相のズレ量を取得する。なお、前述した安定データにおいて、電流信号62及び周囲信号64(N3)のサンプリングポイントは、0からnまでとする。
【0074】
【0075】
式3において、iは、安定データにおいて電流信号62及び周囲信号64(N3)の大きさを取得したサンプリングポイントを示す。Aは、電流信号62の各サンプリングポイントの値を示す。Bは、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の各サンプリングポイントの値を示す。tの範囲は、-10≦t≦10とする。
【0076】
tの範囲として示した、-10≦t≦10は、一例であり、このtの範囲は、この範囲に限定されるものではない。例えば、電流信号62と周囲信号64(N3)とにおいて、位相のずれる範囲が大きいと予想される場合には、tの範囲を、広げてもよい。
【0077】
この式3では、iが示す10からn-10までの各サンプリングポイントにおいて、電流信号62の値から振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の値を減算した値の絶対値を取得し、各絶対値を順次加えて合計値Sを算出する。
【0078】
位相調整部106は、この合計値Sの計算を、t=-10からt=10の範囲で行い、各合計値Stのうち合計値Sが最も小さな値となるtを位相差とする。そして、位相調整部106は、この位相差t分、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)におけるサンプリングポイントをずらして、位相調整された周囲信号64(N4)を得る。
【0079】
図9は、
図6に対応する図であり、電流信号62の波形と周囲信号64(N4)の波形との位相の差が小さくなるように調整した状態を示す図である。
【0080】
図9に示すように、位相調整された周囲信号64(N4)の波形は、電流信号62の波形に重なる。
【0081】
なお、式3では、iが示す10からn-10までの各サンプリングポイントにおいて合計値Sを算出したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。例えば、合計値Sを算出するサンプリングポイントの数は、除去したいノイズ成分の周波数帯において、周波数帯域の下限周波数の一周期分を十分にカバーできる数とすればよい。
【0082】
また、本実施形態では、式3を用いて位相のズレ量を取得する場合を例に挙げて説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。
【0083】
例えば、位相調整部106は、次に示す式4の相互相関関数を用いて位相のズレ量を取得してもよい。
【0084】
【0085】
また、位相調整された周囲信号64(N4)の波形のピーク位置と、電流信号62の波形のピーク位置とが一致するように、位相調整された周囲信号64(N4)の波形又は電流信号62の波形の位相をずらして、位相調整を行ってもよい。
【0086】
(除去部)
図3に示すように、除去部108は、位相調整部106により少なくとも一方の位相が調整された状態において、電流信号62から周囲信号64(N4)を減じることにより、電流信号62からノイズ成分を除去する。
【0087】
具体的に説明すると、除去部108は、電流信号62から位相調整された周囲信号64(N4)を減算する。
【0088】
図10は、
図6に対応する図であり、電流信号62から周囲信号64(N4)を減じた状態を示す図である。
【0089】
図10に示すように、第一測定部42で取得した電流信号62から周囲信号64(N4)が示す周囲ノイズを除去して、部分放電を検出する為の検出用信号120を取得する。
【0090】
このノイズ成分の除去は、電流信号62のトリガ後データに対しても行う。これにより、後述する部分放電の検出を容易とする。
【0091】
(判定部)
図3に示すように、判定部110は、検出用信号120に基づいて部分放電が検出されたか否かを判定する。
【0092】
具体的に説明すると、判定部110は、検出用信号120の波形に部分放電を示す波形が含まれているか否かを判定する。
【0093】
具体的に説明すると、判定部110は、ノイズ成分が除かれた検出用信号120をハイパスフィルタ(HPF)に通す。そして、判定部110は、ハイパスフィルタを通過した信号の波形について、予め設定されたスレッショルドレベルを適用し、このスレッショルドレベル以上の波形が存在するか否かによって部分放電波形の有無を判定する。
【0094】
図11は、電流信号62の波形とノイズが除去された検出用信号120の波形とを示す図であり、検出用信号120の波形を電流信号62の波形よりも全体的に下方へずらした状態を示す図である。なお、
図11中、括弧内の数値は、検出用信号120の値を示す。
【0095】
図11に示すように、ノイズ成分が除かれた検出用信号120の波形に周期の短い部分放電波形122が含まれるか否かによって部分放電の有無を判定することができる。
【0096】
そして、判定部110は、部分放電の有無に応じて測定対象12の合否を定める。
【0097】
本実施形態において、部分放電検出装置10の各部の機能は、プロセッサ40が記憶部46から読み出したプログラムを実行することで実現される。
【0098】
(動作説明)
次に、部分放電検出装置10の動作を、プロセッサ40が実行する処理手順に従って説明する。
【0099】
図12は、一実施形態に係る部分放電検出処理の動作の一例を示すフローチャートである。
図13は、一実施形態に係るノイズ除去処理の一例を示すフローチャートである。
【0100】
図12に示すように、部分放電検出装置10のプロセッサ40が部分放電検出処理を実行すると、プロセッサ40は、ノイズ除去処理を実行する(ステップS1)。このノイズ除去処理によってノイズ除去方法が実施される。
【0101】
図13に示すように、ノイズ除去処理において、プロセッサ40は、記憶部46に記憶された記憶データから第一測定部42の測定結果を得ることによって電流信号62を取得する。また、プロセッサ40は、記憶部46に記憶された記憶データから第二測定部44の測定結果を得ることによって周囲信号64を取得する(ステップSB1)。
【0102】
そして、プロセッサ40は、取得した電流信号62及び周囲信号64からトリガ前データを抽出する(ステップSB2)。
【0103】
次に、プロセッサ40は、トリガ前データを用いて周囲信号64から直流成分を取り除く(ステップSB3)。
【0104】
具体的に説明すると、プロセッサ40は、周囲信号64(N1)から当該周囲信号64(N1)の平均値を減算することで、周囲信号64(N1)から直流成分が取り除かれた周囲信号64(N2)を取得する(
図6及び
図7)。
【0105】
そして、プロセッサ40は、周囲信号64(N2)の波形の振幅中心と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の振幅中心とを合わせる(
図7参照)。
【0106】
また、プロセッサ40は、直流成分が取り除かれた周囲信号64(N2)の振幅が電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように、周囲信号64(N2)の振幅幅を調整する(ステップSB4)。
【0107】
具体的に説明すると、プロセッサ40は、電流信号62の標準偏差(Iσ)を周囲信号64の標準偏差(Nσ)で除算して除算値を求める。そして、プロセッサ40は、この除算値を、直流成分が取り除かれた周囲信号64(N2)に乗算し、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)を取得する(
図8参照)。
【0108】
なお、本実施形態では、周囲信号64から直流成分を取り除く処理(ステップSB3)と、周囲信号64(N2)の振幅幅を調整する処理(ステップSB4)とを分けて実施したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。例えば、直流成分を取り除く処理と、周囲信号64(N2)の振幅幅を調整する処理とを、一ステップで行ってもよい。
【0109】
次に、プロセッサ40は、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の波形の上側の上ピーク値と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の上側の上ピーク値とを合わせる。また、プロセッサ40は、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の波形の下側の下ピーク値と、電流信号62に含まれるノイズ成分の波形の下側の下ピーク値とを合わせる(
図8参照)。
【0110】
そして、プロセッサ40は、電流信号62に含まれるノイズ成分と振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)との差分が小さくなるように電流信号62及び周囲信号64(N3)の少なくとも一方の位相を調整する(ステップSB5)。
【0111】
具体的に説明すると、プロセッサ40は、前述した式3を用いることで、電流信号62に対して周囲信号64(N3)の位相をずらしながら、電流信号62に含まれるノイズ成分と周囲信号64(N3)との差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得する。そして、プロセッサ40は、取得したズレ量に応じて周囲信号64(N3)の位相を調整する。
【0112】
より具体的に説明すると、プロセッサ40は、前述した式3において、iが示す10からn-10の各サンプリングポイントにおいて、電流信号62の値から振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)の値を減算した値の絶対値を取得する。そして、プロセッサ40は、取得した各絶対値を順次加算して合計値Sを算出する。
【0113】
また、プロセッサ40は、この合計値Sの計算を、t=-10からt=10までの範囲で行い、各合計値Stのうち合計値Sが最も小さな値となるtを位相差とする。そして、プロセッサ40は、この位相差t分、振幅の大きさを調整した周囲信号64(N3)における各サンプリングポイントをずらして、位相調整された周囲信号64(N4)を得る(
図9参照)。
【0114】
次に、プロセッサ40は、位相調整された周囲信号64(N4)の波形が電流信号62の波形に重なるようにする(
図9参照)。
【0115】
そして、プロセッサ40は、電流信号62から位相調整された周囲信号64(N4)を減算することにより、電流信号62からノイズ成分を除去する。このノイズ成分の除去は、電流信号62のトリガ後データに対しても行う。
【0116】
これにより、第一測定部42で取得した電流信号62から周囲信号64(N4)が示す周囲ノイズを除去して(
図10参照)、部分放電を検出する為の検出用信号120を取得する(ステップSB6)。
【0117】
図12に示すように、プロセッサ40は、部分放電処理へ戻るとともに、検出用信号120に基づいて部分放電が検出されたか否かを判断する(ステップS2)。
【0118】
具体的に説明すると、プロセッサ40は、検出用信号120の波形に部分放電を示す部分放電波形122が含まれているか否かを判断する(
図11参照)。
【0119】
ここで、部分放電波形122は、周期が短い。このため、プロセッサ40は、ノイズ成分が除かれた検出用信号120が示す波形に短い周期の波形が含まれるか否かによって部分放電の有無を判定する。
【0120】
例えば、検出用信号120に短い周期のノイズ成分が含まれる場合、このノイズ成分を、ハイパスフィルタによって取り出すことができる。このハイパスフィルタを用いた処理を例に挙げて、ステップS2の判断を説明する。
【0121】
ステップS2において、プロセッサ40は、ハイパスフィルタを通過する信号が検出できないか判断する。
【0122】
このステップS2の判断において、プロセッサ40は、ハイパスフィルタを通過する信号を検出できない場合、部分放電が無いと判断する。部分放電が無いと判断した場合、プロセッサ40は、例えば記憶部46に確保された合格フラグをセットすることで測定対象12が合格であることを示して(ステップS3)、部分放電検出処理を終了する。
【0123】
一方、ステップS2の判断において、プロセッサ40は、ハイパスフィルタを通過する信号を検出した場合、部分放電が有ると判断する。部分放電が有ると判断した場合、プロセッサ40は、例えば記憶部46に確保された合格フラグをクリアすることで、測定対象12が不合格であることを示し(ステップS4)、部分放電検出処理を終了する。
【0124】
なお、本実施形態では、合格フラグのセット/リセットによって検査対象の合否を示したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。例えば、プロセッサは、表示部に合否を表示したり、報知部から合否を音声で報知したりしてもよい。
【0125】
(作用及び効果)
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0126】
本実施形態における部分放電検出装置10は、コイルに生ずる部分放電を検出する部分放電検出装置10である。部分放電検出装置10は、コイルに流れる電流を示す電流信号62を取得する電流信号取得部100と、コイルの周囲ノイズを示す周囲信号64を取得する周囲信号取得部102とを含む。部分放電検出装置10は、電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルと周囲信号64のレベルとが同等となるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方のレベルを調整するレベル調整部104を含む。部分放電検出装置10は、レベル調整部104により少なくとも一方のレベルが調整された状態においてノイズ成分と周囲信号64との差分が小さくなるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方の位相を調整する位相調整部106を含む。部分放電検出装置10は、位相調整部106により少なくとも一方の位相が調整された状態において電流信号62から周囲信号64を減じることにより、電流信号62からノイズ成分を除去する除去部108を含む。
【0127】
本実施形態におけるノイズ除去方法は、コイルに生ずる部分放電を検出するためのノイズ除去方法である。ノイズ除去方法は、コイルに流れる電流を示す電流信号62を取得し、コイルの周囲ノイズを示す周囲信号64を取得する。ノイズ除去方法は、電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルと周囲信号64のレベルとが同等となるように電流信号62及び周囲信号64の少なくとも一方のレベルを調整する。ノイズ除去方法は、少なくとも一方のレベルが調整された状態においてノイズ成分と周囲信号64の差分が小さくなるようにノイズ成分と周囲信号64の少なくとも一方の位相を調整する。ノイズ除去方法は、少なくとも一方の位相が調整された状態において電流信号62から周囲信号64を減じることにより、電流信号62からノイズ成分を除去する。
【0128】
これらの構成によれば、コイルに流れる電流を示す電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルとコイルの周囲ノイズを示す周囲信号64とのレベルが同等になるようにレベル調整した後、前記ノイズ成分と前記周囲信号64との差分が小さくなるように位相調整し、電流信号62から周囲信号64を減じることで電流信号62からノイズ成分を除去することができる。
【0129】
このため、電流信号62に含まれるノイズをフィルタによって一律に除去する場合と比較して、電流信号62に含まれた部分放電波形が小さい場合であっても、部分放電波形の検出が可能となる。
【0130】
これにより、部分放電波形の検出精度を向上するために、部分放電波形の特徴量データを蓄積して統計データを予め形成しなければならない場合と比較して、統計データを形成する為の事前処理が不要となり、利便性が向上する。
【0131】
また、本実施形態における部分放電検出装置10において、レベル調整部104は、周囲信号64から直流成分を取り除く取除部112を有する。レベル調整部104は、取除部112により直流成分が取り除かれた周囲信号64の振幅が、電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように調整する振幅調整部114を有する。
【0132】
本実施形態におけるノイズ除去方法において、レベルを調整する際には、周囲信号から直流成分を取り除き、直流成分が取り除かれた周囲信号64の振幅が、電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように調整する。
【0133】
これらの構成によれば、周囲信号64から直流成分を取り除くことによって、交流として現れるノイズ成分が抽出される。
【0134】
そして、直流成分が取り除かれた周囲信号64の振幅が、電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように調整することで、周囲信号64が示す周囲ノイズと電流信号62に含まれるノイズ成分との大きさを合わせることができる。
【0135】
また、部分放電検出装置10は、周囲信号64から直流成分を取り除くとともに、周囲信号64の振幅を調整する。このため、部分放電に起因した部分放電波形122が重畳される電流信号62を調整対象とする場合と比較して、部分放電の検出精度に与える影響を抑制することができる。
【0136】
また、本実施形態における部分放電検出装置10において、取除部112は、周囲信号64から当該周囲信号64の平均値を減算して周囲信号64から直流成分を取り除く。振幅調整部114は、電流信号62に含まれるノイズ成分の標準偏差と周囲信号64の標準偏差との比率に基づいて、周囲信号64の振幅の大きさを調整する。
【0137】
本実施形態におけるノイズ除去方法において、周囲信号64から直流成分を取り除く際には、周囲信号64から当該周囲信号64の平均値を減算して周囲信号64から直流成分を取り除く。また、周囲信号64の振幅が電流信号62に含まれるノイズ成分の振幅と同等となるように調整する際には、電流信号62に含まれるノイズ成分の標準偏差と周囲信号64の標準偏差との比率に基づいて周囲信号64の振幅の大きさを調整する。
【0138】
これらの構成によれば、周囲信号64から当該周囲信号64の平均値を減算することで、周囲信号64から直流成分が取り除かれる。そして、周囲信号64の振幅の大きさは、電流信号62に含まれるノイズ成分の標準偏差と周囲信号64の標準偏差との比率に基づいて調整される。
【0139】
これにより、電流信号62に含まれるノイズ成分と周囲信号64とのレベル調整を演算によって行うことができる。
【0140】
また、本実施形態における部分放電検出装置10において、位相調整部106は、電流信号62及び周囲信号64のどちらか一方の位相をずらしながら差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得し、取得したズレ量に応じて少なくとも一方の位相を調整する。
【0141】
本実施形態におけるノイズ除去方法において、位相を調整する際には、電流信号62及び周囲信号64のどちらか一方の位相をずらしながら差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得し、取得したズレ量に応じて少なくとも一方の位相を調整する。
【0142】
これらの構成によれば、電流信号62及び周囲信号64のどちらか一方の位相をずらしながら、ノイズ成分と周囲信号64との差分が最も小さくなるときの位相のズレ量を取得する。そして、このズレ量に応じて少なくとも一方の位相を調整することによって、電流信号62に含まれるノイズ成分のレベルと周囲信号64のレベルとが同等となるように調整することができる。
【0143】
また、本実施形態における部分放電検出装置10において、周囲信号取得部102は、コイルにインパルス信号60を印加する前に周囲信号64を取得する。
【0144】
本実施形態におけるノイズ除去方法において、周囲信号64を取得する際には、コイルにインパルス信号60を印加する前に周囲信号64を取得する。
【0145】
これらの構成によれば、コイルの周囲ノイズを示す周囲信号64は、コイルにインパルス信号60を印加する前に取得される。このため、インパルス信号60の影響を受けない周囲信号64に基づいて、電流信号62又は周囲信号64のレベル調整、位相調整、並びに電流信号からのノイズ成分の除去を行うことができる。
【0146】
これにより、インパルス信号60の影響を受けた周囲信号64を用いてノイズ成分を除去する場合と比較して、除去結果に与えるインパルス信号60の影響を排除することができる。
【0147】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0148】
10 部分放電検出装置
40 プロセッサ
42 第一測定部
44 第二測定部
46 記憶部
60 インパルス信号
62 電流信号
64 周囲信号
100 電流信号取得部
102 周囲信号取得部
104 レベル調整部
106 位相調整部
108 除去部
112 取除部
114 振幅調整部
120 検出用信号
122 部分放電波形