(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138037
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】真空脱ガス装置の下部槽における環流管の取付構造
(51)【国際特許分類】
C21C 7/10 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
C21C7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044520
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】寺田 庄吾
(72)【発明者】
【氏名】原田 滉平
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕一郎
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA07
4K013CE01
4K013CE09
4K013CF19
(57)【要約】
【課題】環流管を覆った鉄皮が熱変形によって傾斜してしまっている場合でも、敷部や環流管を多く切削等することなく、容易に、下部槽の敷部の下面に取り付けることができ、溶損した環流管の交換作業を容易に行うことが可能な下部槽への環流管の取付構造を提供する。
【解決手段】真空脱ガス装置の下部槽1においては、敷部3が環流管5,5との連通孔を穿設してなる肉厚な板状に形成されており、かつ、その敷部3の下面における環流管5,5との連通孔の周囲が凹型の球面状に形成されているとともに、各環流管5,5の上面が、敷部3の下面の凹型の球面と同一の曲率半径を有する凸型の球面状に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の下部槽の敷部に円筒状の2本の環流管が取り付けられており、それらの環流管が前記下部槽とともに鉄皮で覆われた真空脱ガス装置において、前記下部槽の敷部に環流管を取り付けるための取付構造であって、
前記敷部が、前記環流管との連通孔を穿設してなる肉厚な板状に形成されており、かつ、その敷部の下面における前記連通孔の周囲が凹型の球面状に形成されているとともに、
前記環流管の上端際の外周面が、前記敷部の下面の凹型の球面と同一の曲率半径を有する凸型の球面状に形成されていることを特徴とする真空脱ガス装置の下部槽における環流管の取付構造。
【請求項2】
前記下部槽の敷部が、プレキャストブロックを敷設することによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空脱ガス装置の下部槽における環流管の取付構造。
【請求項3】
前記環流管が、プレキャストブロックの一体品であることを特徴とする請求項1、または2に記載の真空脱ガス装置の下部槽における環流管の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼処理用の真空脱ガス装置の下部槽において敷部に環流管を取り付けるための取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼に脱ガス処理を施す真空脱ガス装置として、合金、副原料等を投入するための投入口および排気口を備えた上部槽と、有底の円柱状体の底部に2本の環流管を設置してなる下部槽と、溶鋼に浸漬させるための各環流管の下端に接続された浸漬管とからなるRH式の真空脱ガス装置が知られている。当該真空脱ガス装置の下部槽は、特許文献1の如く、有底の円筒状の鉄皮の内部に、耐火れんがを組み付けることによって、所定の厚みの側壁および敷部(底壁)が形成されており、敷部には、耐火れんがを組み付けてなる2本の円筒状の環流管が、敷部の板面を貫通するように設けられている。そして、それらの環流管の外周が鉄皮によって覆われた状態になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き真空脱ガス装置においては、一定の期間に亘って使用されると、環流管が溶損してしまうため、下部槽全体(鉄皮の内部の側壁および敷部)、あるいは、環流管のみを定期的に交換する必要がある。しかしながら、特許文献1の如き従来の真空脱ガス装置の下部槽においては、環流管を覆った鉄皮が熱変形によって傾斜してしまっている場合には、
図7に示すように、傾斜した鉄皮を挿通させた環流管を、敷部の挿通孔に挿通させることができない。そのため、(環流管を敷部の挿通孔に奥深く挿通させるために)敷部の一部を切削するともに、環流管の上部を切削して、敷部との間に形成された大きな隙間に不定形耐火物を充填しなければならないため、環流管の交換作業に多大な手間が掛かってしまう。
【0005】
本発明の目的は、上記従来の真空脱ガス装置の下部槽が有する問題点を解消し、環流管を覆った鉄皮が熱変形によって傾斜してしまっている場合でも、敷部や環流管を切削したりすることなく、容易に、下部槽の敷部の下面に取り付けることができ、環流管の交換作業を容易に行うことが可能な下部槽における環流管の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、真空容器の下部槽の敷部に円筒状の2本の環流管が取り付けられており、それらの環流管が前記下部槽とともに鉄皮で覆われた真空脱ガス装置において、前記下部槽の敷部に環流管を取り付けるための取付構造であって、前記敷部が、前記環流管との連通孔を穿設してなる肉厚な板状に形成されており、かつ、その敷部の下面における前記連通孔の周囲が凹型の球面状に形成されているとともに、前記環流管の上端際の外周面が、前記敷部の下面の凹型の球面と同一の曲率半径を有する凸型の球面状に形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において 前記下部槽の敷部が、プレキャストブロックを敷設することによって形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において 前記環流管が、プレキャストブロックの一体品であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載のRH脱ガス装置の下部槽における環流管の取付構造(以下、単に、環流管の取付構造という)によれば、溶損した環流管を新しいものに取り替える際に、環流管を覆う鉄皮が熱変形によって傾斜してしまっている場合でも、環流管を傾斜した鉄皮内に奥深く挿入させることができ、上端際の外周面の凸型の球面を敷部の連通孔の周囲の凹型の球面に接合させることができる。したがって、請求項1に記載の環流管の取付構造によれば、敷部や環流管を、多く切削したり、多くの(充填のための)不定形耐火物を用いたり、鉄皮の変形を復元したりすることなく、容易に、敷部3の下面に取り付けることができる。
【0010】
請求項2に記載の環流管の取付構造は、下部槽の敷部がプレキャストブロックを敷設することによって形成されたものであるため、下部槽の敷部の連通孔の周囲を容易に凹型の球面形状に成型することができ、環流管の交換時の現場での作業量を大幅に軽減することができる。また、(小さな耐火れんがを大量に施工する場合と比較して、)多くのモルタルを用いる必要がないため、環流管の交換後に短時間で乾燥させることができるので、乾燥に要する消費電力を軽減することができる。
【0011】
請求項3に記載の環流管の取付構造は、環流管がプレキャストブロックの一体品であるため、環流管の上面を容易に凸型の球面形状に成型することができ、環流管の交換時の現場での作業量をより一層軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】下部槽(RH脱ガス装置の下部槽)を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図2】下部槽の底板に環流管が取り付けられている様子を示す説明図(斜視図)である。
【
図3】下部槽の底板に環流管が取り付けられている様子を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図4】鉄皮が傾斜している下部槽の底板に環流管を取り付ける様子を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図5】環流管の取付構造の変更例を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図6】環流管の取付構造の変更例を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図7】従来の環流管の取付構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る真空脱ガス装置における環流管の取付構造の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
<環流管の取付構造>
図1は、溶鋼に脱ガス処理を施すための真空脱ガス装置の下部槽を示したものであり、下部槽1は、中空円筒状に形成された側壁2、肉厚な円板状に形成された敷部(底壁)3、当該敷部3の下面に取り付けられた2本の環流管5,5、および、それらの側壁2、敷部3、環流管5,5の外周を覆う鉄皮4等によって構成されている。
【0015】
鉄皮4は、有底の円筒状に形成されており、底板4dには、環流管5,5を挿通させるための2つの円筒状の挿通部4c,4cが、下向きに突出するように設けられている。そして、鉄皮4の上端には、図示しない上部槽と接続するためのフランジ4aが外向きに突出するように設けられており、各挿通部4c,4cの下端には、それぞれ、図示しない浸漬管と接続するためのフランジ4bが形成されている。
【0016】
また、側壁2は、円筒状の鉄皮4の内部において、アルミナ系の耐火材(たとえば、70~95質量%のアルミナと5~30質量%のマグネシアとからなるもの)によって所定の形状(扁平な円筒体を中心軸に対する放射方向に分割した形状等)に形成された複数のプレキャストブロックを組み付けることによって、所定の厚みの中空円筒状に形成されている。そして、組み付けられた側壁2と鉄皮4との間には、図示しない不定形耐火物(キャスタブル材)が充填されている。
【0017】
一方、
図2は、敷部3を示したものであり、敷部3は、側壁2と同じアルミナ系の耐火材によって形成された複数のプレキャストブロックを組み付けることによって所定の厚みの円板状に形成されている。また、敷部3には、環流管5,5を挿通させるための2つの円形の挿通孔(連通孔)3a,3aが、各中心を敷部3の直径方向に並べて配置させる態様で穿設されている。そして、その挿通孔3a,3aの穿設部分に、環流管5,5が取り付けられている。
【0018】
図3は、敷部3における各環流管5,5の取付構造を示したものである。敷部3に穿設された各挿通孔3a,3aの周囲(内周面)は、挿通される環流管5,5の中心軸C上の所定の点Pを中心とした曲率半径r(すなわち、環流管5の外径の1/2)の球面状(凹型の球面状)に形成されている(球面3S)。また、点Pは、鉄皮4の底板4dの上面と環流管5の中心軸Cとの交点になっている。
【0019】
一方、各環流管5,5は、側壁2および敷部3と同じアルミナ系の耐火材によって一体的に形成されたプレキャストブロックであり、所定の厚みを有する扁平な円筒状に形成されている。そして、各環流管5,5の上端際の外面(外周面)は、中心軸C上の所定の点Pを中心とした曲率半径r(すなわち、環流管5の外径の1/2)の球面状(凸型の球面状)に形成されている(球面5S)。そして、各環流管5,5は、上端際の外面を、敷部3の各挿通孔3a,3aの周囲(内周面)に嵌め込んだ状態で、不定形耐火物(キャスタブル材)によって固着されている。
【0020】
<環流管の取付構造の作用>
上記の如く構成された真空脱ガス装置の下部槽1は、鉄皮4の上端際のフランジ4aを利用して上部槽(図示せず)と固着し、鉄皮4の各挿通部4c,4cの下端際に設けられたフランジ4bを利用して浸漬管(図示せず)と接続した状態で、溶鋼の脱ガス処理を行う真空脱ガス装置として使用される。そして、真空脱ガス装置が一定の期間使用されて、環流管5,5が溶鋼の熱により損傷した場合には、同一形状の新しい環流管5,5に取り替える必要が生じる。
【0021】
そのように溶損した環流管5,5を新しいものに交換する際には、一定期間の使用によって鉄皮4が熱により変形して、底板4dに対して傾斜していることが多い。そのような場合でも、各環流管5,5は、上端際の外周面が凸型の球面状に形成されているため、
図4の如く、傾斜した鉄皮4の挿通部4c内に深く挿入させて、上端際の外周面5Sを、敷部3の挿通孔3aの周囲の凹型の球面状の周面3Sに当接させる(接着可能な距離まで近づける)ことができる。したがって、新しい環流管5,5を取り付ける際に、敷部3や環流管5,5の外周を切削したり、多くの(充填のための)不定形耐火物を用いたり、鉄皮4の変形を復元したりする必要がない。
【0022】
<環流管の取付構造による効果>
下部槽1における環流管5,5の取付構造は、上記の如く、敷部3が環流管5,5と連通した挿通孔3a,3aを穿設してなる肉厚な板状に形成されており、かつ、その敷部3の下面における挿通孔3a,3aの周囲が凹型の球面状に形成されているとともに、各環流管5,5の上端際の外周面が、敷部3の下面の凹型の球面と同一の曲率半径を有する凸型の球面状に形成されている。それゆえ、かかる環流管5,5の取付構造によれば、溶損した環流管5,5を新しいものに取り替える際に、環流管5,5を覆う鉄皮4が熱変形によって傾斜してしまっている場合でも、環流管5,5を傾斜した鉄皮4内に奥深く挿入させることができ、上端際の外周面の凸型の球面5Sを敷部3の挿通孔3a,3aの周囲の凹型の球面3Sに接合させることができる。したがって、環流管5,5の取付構造によれば、敷部3や環流管5,5を、多く切削したり、多くの(充填のための)不定形耐火物を用いたり、鉄皮4の変形を復元したりすることなく、容易に、敷部3の下面に取り付けることが可能となる。
【0023】
また、下部槽1における環流管5,5の取付構造は、敷部3がプレキャストブロックを敷設することによって形成されたものであるため、敷部3の連通孔3a,3aの周囲を容易に凹型の球面形状に成型することができ、環流管5,5の交換時の現場での作業量を大幅に軽減することができる。また、多くのモルタルを用いる必要がないため、環流管5,5の交換後に短時間で乾燥させることができるので、乾燥に要する消費電力を軽減することも可能となる。
【0024】
さらに、下部槽1における環流管5,5の取付構造は、環流管5,5がプレキャストブロックの一体品であるため、環流管5,5の上端際の外周面を容易に凸型の球面形状に成型することができ、環流管の交換時の現場での作業量をより一層軽減することができる。
【0025】
<環流管の取付構造の変更例>
本発明に係る環流管の取付構造は、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、下部槽、環流管、鉄皮等の材質、形状、大きさ等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0026】
たとえば、本発明に係る環流管の取付構造は、上記実施形態の如く、敷部の連通孔(挿通孔)の周囲を、鉄皮の底板の上面と環流管の中心軸との交点を中心とした環流管の外径の1/2の曲率半径の凹型の球面状とし、環流管の上端際の外周面を、凹型の球面と同じ点(すなわち、鉄皮の底板の上面と環流管の中心軸との交点)を中心とした凹型の球面と同じ曲率半径(すなわち、環流管の外径の1/2の曲率半径)の凸型の球面状としたものに限定されず、敷部の連通孔の周囲に付与する凹型の球面、および、環流管の上端際の外周面に付与する凸型の球面の形状を、必要に応じて適宜変更することができる。
【0027】
たとえば、
図5の如く、敷部の連通孔の周囲を、鉄皮の底板の上面と環流管の中心軸との交点より下側の位置P’を中心とした環流管の外径の1/2の曲率半径rの凹型の球面状とし、環流管の上端際の外周面を、凹型の球面と同じ位置P’を中心とした凹型の球面と同じ曲率半径rの凸型の球面状とすることによって、敷部の連通孔の上端際に鉛直な円筒状部分を形成するとともに鉄皮の挿通部内に敷部の一部を突出させたものや、
図6の如く、敷部の連通孔の周囲を、鉄皮の底板の上面と環流管の中心軸との交点より下側の位置P”を中心とした環流管の外径の1/2より大きい曲率半径r’の凹型の球面状とし、環流管の上端際の外周面を、凹型の球面と同じ位置P”を中心とした凹型の球面と同じ曲率半径r’の凸型の球面状としたもの等でも良い。
【0028】
加えて、本発明に係る環流管の取付構造は、上記実施形態の如く、敷部の連通孔の周囲に付与する凹型の球面、および、環流管の上端際の外周面に付与する凸型の球面を、厳密に同一の曲率半径を有するものとする必要はなく、敷部の連通孔の周囲の凹型の球面に環流管の上端際の外周面の凸型の球面を固着させる際の接着剤の厚み等を考慮して、敷部の連通孔の周囲に付与する凹型の球面の曲率半径を、環流管の上端際の外周面に付与する凸型の球面よりわずかに(5%以下となるように)大きくすることも可能である。
【0029】
また、本発明に係る環流管の取付構造は、上記実施形態の如く、側壁、敷部が、同じアルミナ系の耐火材からなるプレキャストブロックを組み付けることによって形成されており、環流管が側壁、敷部と同じアルミナ系の耐火材からなるプレキャストブロックであるものに限定されず、側壁、敷部、環流管の形成材料を必要に応じて適宜変更することができ、側壁の一部あるいは全部、敷部、環流管の一部を耐火れんがや不定形耐火物で代替することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る環流管の取付構造は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、真空脱ガス装置の下部槽を製造、補修する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・真空脱ガス装置の下部槽
2・・側壁
3・・敷部
3a・・挿通孔(連通孔)
3S・・凹型の球面
4・・鉄皮
5・・環流管
5S・・凸型の球面