(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138093
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電子回路および駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20230922BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044591
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】川井 秀介
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB09
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5J055GX01
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5J055GX06
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子のターンオン時に流れる電流のリンギングを抑制することができる電子回路を提供する。
【解決手段】本開示の電子回路は、第1のスイッチング素子の制御端子に駆動電流を供給し、第1のスイッチング素子の第1の端子または第2の端子に接続される第2のスイッチング素子に流れる電流が0になる第1の時刻に応じて、駆動電流を増加させる駆動回路を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスイッチング素子の制御端子に駆動電流を供給し、前記第1のスイッチング素子の第1の端子または第2の端子に接続される第2のスイッチング素子に流れる電流が0になる第1の時刻に応じて、前記駆動電流を増加させる駆動回路を備えた電子回路。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記第1の時刻を基準として、該第1の時刻の以前または以降の第1の期間において、前記第1のスイッチング素子の駆動電流を増加させ、
前記第1の期間は、前記第1のスイッチング素子の寄生容量と、前記第2のスイッチング素子の寄生容量と、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを接続する配線の寄生インダクタンスとに基づいて決定される、請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記第1の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をステップ状に増加させ、
前記駆動電流の目標値は、前記第1のスイッチング素子のドレイン寄生容量と、前記第1のスイッチング素子のゲート寄生容量と、前記第1のスイッチング素子のトランスコンダクタンスと、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを接続する前記配線の前記寄生インダクタンスと、前記第1の時刻における前記寄生インダクタンスの両端電圧とに基づいて決定される、請求項1または2に記載の電子回路。
【請求項4】
前記駆動回路は、前記第1の時刻と、前記第1のスイッチング素子に流れる電流の増加が始まる第2の時刻との間の第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流を減少させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子回路。
【請求項5】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をステップ状に減少させ、
前記駆動電流の目標値は、前記第1の時刻における前記寄生インダクタンスの両端電圧が、前記駆動電流を減少させない場合と比較して、所定の割合低下するような値である、請求項4に記載の電子回路。
【請求項6】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流を複数回に分けてステップ状に減少させる、請求項5に記載の電子回路。
【請求項7】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をステップ状に減少させる過程で、前記駆動電流を少なくとも1回ステップ状に増加させる、請求項5または6に記載の電子回路。
【請求項8】
第1のスイッチング素子の制御端子に駆動電流を供給し、前記第1のスイッチング素子の第1の端子または第2の端子に接続される第2のスイッチング素子に流れる電流が0になる第1の時刻と、前記第1のスイッチング素子に流れる電流の増加が始まる第2の時刻との間の第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の駆動電流を減少させる駆動回路を備えた電子回路。
【請求項9】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をステップ状に減少させ、
前記駆動電流の目標値は、前記第1の時刻における前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを接続する配線の寄生インダクタンスの両端電圧が、前記駆動電流を減少させない場合と比較して、所定の割合低下するような値である、請求項8に記載の電子回路。
【請求項10】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流を複数回に分けてステップ状に減少させる、請求項8に記載の電子回路。
【請求項11】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をステップ状に減少させる過程で、前記駆動電流を少なくとも1回ステップ状に増加させる、請求項9または10に記載の電子回路。
【請求項12】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をランプ状に減少させ、前記第1の時刻において、前記駆動電流を一定値にする、請求項8に記載の電子回路。
【請求項13】
前記駆動電流の目標値は、前記第1の時刻における前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを接続する配線の寄生インダクタンスの両端電圧が、前記駆動電流を減少させない場合と比較して、所定の割合低下するような値である、請求項12に記載の電子回路。
【請求項14】
前記駆動回路は、前記第1の時刻以降に前記駆動電流をランプ状に増加させてから一定値にする、請求項13に記載の電子回路。
【請求項15】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流を複数回に分けてランプ状に減少させる、請求項12~14のいずれか一項に記載の電子回路。
【請求項16】
前記駆動回路は、前記第2の期間において、前記第1のスイッチング素子の前記駆動電流をランプ状に減少させる過程で、前記駆動電流を少なくとも1回ランプ状に増加させる、請求項12~15のいずれか一項に記載の電子回路。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の電子回路と、
前記電子回路の前記駆動回路に対して前記駆動電流の波形情報を提供する制御回路と
を備え、
前記駆動回路は、前記波形情報に基づいて前記駆動電流を生成する、駆動システム。
【請求項18】
前記制御回路は、
前記第1のスイッチング素子の動作状態を検知する検知回路と、
前記駆動電流の波形情報を複数記憶する記憶装置と、
前記検知回路によって検知される前記第1のスイッチング素子の動作状態に基づいて、前記記憶装置から前記駆動電流の波形情報のうちの1つを選択する選択回路と
を備える、請求項17に記載の駆動システム。
【請求項19】
前記第1のスイッチング素子を含む、請求項18に記載の駆動システム。
【請求項20】
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子によって構成されるアーム対を含む電力変換回路をさらに備える、請求項18に記載の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子回路および駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクスの分野では、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子が用いられている。これらのスイッチング素子を含む回路では、素子のスイッチング動作を高速化することにより、電力損失を低減することができる。しかしながら、素子のスイッチング動作を高速化すると、例えばターンオン時に流れる電流にリンギングが発生してしまう。このような電流のリンギングは、ノイズの原因となるだけでなく、素子の劣化を早める原因にもなる。
【0003】
シミュレーテッドアニーリングアルゴリズムに基づく最適化手法を用いて、スイッチング素子に流れる電流のリンギングや電力損失等を低減させる駆動電流の波形を求める技術が存在する。しかしながら、この技術では、求められた駆動電流の波形が大域的な最適解である保証はなく、またその定性的な意味を解釈することも困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】”General-Purpose Clocked Gate Driver IC with Programmable 63-Level Drivability to Optimize Overshoot and Energy Loss in Switching by a Simulated Annealing Algorithm”, Koutarou Miyazaki, et. al, IEEE Trans. on Industry Application, Vol. 53, No 3, May/June/ 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためのものであり、スイッチング素子のターンオン時に流れる電流のリンギングを抑制することができる電子回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示に係る第1のスイッチング素子の制御端子に駆動電流を供給し、第1のスイッチング素子の第1の端子または第2の端子に接続される第2のスイッチング素子に流れる電流が0になる第1の時刻に応じて、駆動電流を増加させる駆動回路を備える。
【0007】
また、本開示に係る電子回路は、第1のスイッチング素子の制御端子に駆動電流を供給し、第1のスイッチング素子の第1の端子または第2の端子に接続される第2のスイッチング素子に流れる電流が0になる第1の時刻と、第1のスイッチング素子に流れる電流の増加が始まる第2の時刻との間の第2の期間において、第1のスイッチング素子の駆動電流を減少させる駆動回路を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るモーター制御システムの構成を示す図。
【
図3】第1のスイッチング素子のターンオン時の等価回路。
【
図4】第1のスイッチング素子のターンオン時の動作を説明するタイミングチャート。
【
図5】
図3の共振ループが形成された時の等価回路。
【
図6A】
図5の等価回路を重ね合わせの理を用いた分割した一方の等価回路。
【
図6B】
図5の等価回路を重ね合わせの理を用いた分割した他方の等価回路。
【
図7】リンギングを抑制する第1の方法を説明するタイミングチャート。
【
図8】リンギングを抑制する第1の方法を説明する図。
【
図9】リンギングを抑制する第2の方法を説明するタイミングチャート。
【
図10】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図11】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図12】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図13】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図14】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図15】リンギングを抑制する第1の方法の変形例を説明するタイミングチャート。
【
図16A】本開示における「ステップ状」の定義を説明する図。
【
図16B】本開示における「ランプ状」の定義を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。図面において同一又は対応する要素には同じ参照符号を付して、詳細な説明は適宜省略する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1に係るモーター制御システム100の構成を示す図である。モーター制御システム100は、負荷としての三相交流モーター1と、直流電源Vdcと、三相のインバータ回路20を構成するスイッチング素子21~26と、スイッチング素子21~26をそれぞれ駆動する駆動回路10a~10fとを備えている。また、モーター制御システム100は、駆動回路10a~10fを制御する制御回路30と、アナログ/ディジタル(A/D)変換器31とを備えている。
【0011】
スイッチング素子21およびスイッチング素子22はNチャネル型のMOSFETであり、第1の端子としてのドレイン端子と、第2の端子としてのソース端子と、制御端子としてのゲート端子とを有している。スイッチング素子21およびスイッチング素子22によって、インバータ回路20のU相のアーム対が構成される。駆動回路10aは、スイッチング素子21の駆動電流としてのゲート電流を制御することによって、スイッチング素子21のスイッチング動作、すなわちターンオンおよびターンオフを制御する。駆動回路10bは、スイッチング素子22のゲート電流を制御することによって、スイッチング素子22のスイッチング動作を制御する。
【0012】
同様に、スイッチング素子23およびスイッチング素子24はNチャネル型のMOSFETである。スイッチング素子23およびスイッチング素子24によって、インバータ回路20のV相のアーム対が構成される。駆動回路10cは、スイッチング素子23のゲート電流を制御することによって、スイッチング素子23のスイッチング動作を制御する。駆動回路10dは、スイッチング素子24のゲート電流を制御することによって、スイッチング素子24のスイッチング動作を制御する。
【0013】
同様に、スイッチング素子25およびスイッチング素子26はNチャネル型のMOSFETである。スイッチング素子25およびスイッチング素子26によって、インバータ回路20のW相のアーム対が構成される。駆動回路10eは、スイッチング素子25のゲート電流を制御することによって、スイッチング素子25のスイッチング動作を制御する。駆動回路10fは、スイッチング素子26のゲート電流を制御することによって、スイッチング素子26のスイッチング動作を制御する。
【0014】
A/D変換器31は、モーター1のU相、V相、W相の各電流値をディジタル信号に変換し、制御回路30に出力する。制御回路30は、A/D変換器31から受信されるモーター1の各相の電流値に基づいて、スイッチング素子21~26の各駆動回路10a~10fに対して、スイッチング素子21~26の駆動電流としてのゲート電流の波形情報をそれぞれ提供する。
【0015】
図2は、制御回路30の内部の構成を示す図である。制御回路30は、検知回路30aと、複数のルックアップテーブル(LUT_1~LUT_N)を含む記憶回路30bと、選択回路30cとを備えている。検知回路30aは、A/D変換器31から受信されるモーター1のU相、V相、W相の各電流値に基づいて、スイッチング素子21~26の動作状態を検知する。代替的には、検知回路30aは、モーター1に内蔵される図示しない温度センサーから受信される温度情報に基づいて、スイッチング素子21~26の動作状態を検知してもよい。また、検知回路30aは、A/D変換器31に加えて、あるいはA/D変換器31に代えて、図示しない制御用のマイクロコンピュータから受信される信号に基づいて、スイッチング素子21~26の動作状態を検知してもよい。
【0016】
あるいは、スイッチング素子21、23、25の各ソース端子の寄生インダクタンスの電圧からモーター1の各相の電流値を検知し、これに基づいてスイッチング素子21~26の動作状態を検知してもよい。あるいは、スイッチング素子21、23、25の各ドレイン端子に電流検知用のトランスを設けてモーター1の各相の電流値を検知し、これに基づいてスイッチング素子21~26の動作状態を検知してもよい。すなわち、
図1に記載されているスイッチング素子21~26の動作状態の検知方法はあくまで一例であり、スイッチング素子21~26の動作状態は他の様々な方法によっても検知することができる。
【0017】
記憶回路30bの各ルックアップテーブルには、スイッチング素子21~26のゲート電流の波形情報がそれぞれ記憶されている。選択回路30cは、検知回路30aによって検知されるスイッチング素子21~26の動作状態に基づいて、記憶回路30bからゲート電流の波形情報のうちの1つを選択する。選択回路30cによって選択されたゲート電流の波形情報は、スイッチング素子21~26の各駆動回路10a~10fにそれぞれ提供される。代替的には、記憶回路30bの各ルックアップテーブルは、駆動回路10a~10eの内部に設けられてもよい。
【0018】
本開示では、スイッチング素子のターンオン時に流れる電流のリンギングを抑制することを目的としている。以降の説明では、スイッチング素子21に注目し、当該スイッチング素子21をターンオンさせる際の駆動回路10aの動作について詳細に説明する。ただし、以降の説明は、他のスイッチング素子22~26と駆動回路10b~10fについても、同様に成立する。
【0019】
これ以降、スイッチング素子21を「第1のスイッチング素子」と称することにする。また、第1のスイッチング素子体21と対になってU相のアーム対を構成するスイッチング素子22を「第2のスイッチング素子」と称することにする。
【0020】
図3は、
図1の第1のスイッチング素子21のターンオン時の等価回路である。
図1で第1のスイッチング素子21がターンオンする時、第2のスイッチング素子22はオフ状態である。
図3では、オフ状態の第2のスイッチング素子22がダイオードDioと寄生キャパシタCdioとによって表されている。
【0021】
インダクタLloadは、負荷であるモーター1のインダクタンスを表している。インダクタLdは、第1のスイッチング素子21のドレイン端子と第2のスイッチング素子22のドレイン端子とを接続する配線の寄生インダクタンスを表している。
【0022】
第1のスイッチング素子21は、ゲート-ソース間の寄生キャパシタCgsと、ゲート-ドレイン間の寄生キャパシタCgdと、ドレイン-ソース間の寄生キャパシタCdsとを有している。駆動回路10aからは、第1のスイッチング素子21の駆動電流としてのゲート電流Igが出力される。
【0023】
図3の等価回路に基づいて、駆動回路10aによって駆動される第1のスイッチング素子21のターンオン時の動作を説明すると以下のようになる。この際、
図4のタイムチャートも併せて参照されたい。なお、
図4を含む以降のタイムチャートでは、ドレイン電圧は一点破線で示されている。
【0024】
図4の左端の初期状態において、駆動回路10aから出力されるゲート電流Igは0であり、第1のスイッチング素子21のゲート電圧も0である。したがって、第1のスイッチング素子21はオフ状態であり、ドレイン電流Idは0、図中に一点破線で示されるドレイン電圧VdはダイオードDioのアノード側の電圧Vdioに等しい。
【0025】
時刻t1において、駆動回路10aは、ゲート電流Igをステップ状にIg0まで増加させる。これにより、第1のスイッチング素子21のゲート-ソース間の寄生キャパシタCgsの充電が開始され、第1のスイッチング素子21のゲート電圧がランプ状に上昇していく。
【0026】
時刻t2において、第1のスイッチング素子21のゲート電圧が閾値電圧を上回ると、チャネルが形成されてドレイン電流Idが流れ始める。ドレイン電流Idは、ゲート電圧の上昇に伴って増加していく。このとき、ダイオードDioはオン状態であり、そのアノード側の電圧Vdioは変化せずに一定である。その一方で、ドレイン電流Idが流れることにより、インダクタLdの両端に電圧が発生し、ドレイン電圧Vdは低下していく。
【0027】
時刻t3において、ドレイン電流IdがインダクタLloadに流れる直流電流Idcと等しくなると、ダイオードDioがオフ状態になり、そのアノード側の電圧Vdioが低下していく。このとき、
図3に示されるような共振ループが形成され、ドレイン電流Idのリンギングが発生する。
図3の共振ループが形成された時の等価回路は、
図5に示されるようになる。
【0028】
図5の等価回路において、左側の電流源Ig0は、時刻t3におけるゲート電流を表している。電流Id(t)は、第1のスイッチング素子21のドレイン電流である。電圧Voは、時刻t3の共振開始時におけるインダクタLdの両端電圧であり、
図3の時刻t3におけるダイオード電圧Vdioと第1のスイッチング素子21のドレイン電圧Vdとの差に等しい。また、
図5の上側の定電流源Idcは、
図3のインダクタLloadに充電されている電流を表しており、下側の定電流源Ichは、第1のスイッチング素子21のチャネル電流を表している。
【0029】
図5の等価回路では、第1のスイッチング素子21のチャネル電流Ichは、当該第1のスイッチング素子21のトランスコンダクタンスgmと、ゲート-ソース間の寄生キャパシタCgsの電圧Vgと、電流Idcとを用いて、以下のように書ける。
【0030】
【0031】
上式は、寄生キャパシタCgsの電圧Vg=(Ig0/Cgs)tであることを用いて、以下のようにも書ける。
【0032】
【0033】
図5の等価回路から、第1のスイッチング素子21のターンオン時のドレイン電流Id(t)の時間波形を求めることを考える。ここでは、重ね合わせの理を用いて、
図5の等価回路を
図6Aの等価回路と
図6Bの等価回路とに分けて考えることにする。
【0034】
まず、
図6Aの等価回路について、ドレイン電流Id(t)の方程式は、以下の式(3)のようになる。ここで、インダクタLdの両端電圧は、インダクタLdに流れる電流Id(t)の微分値にインダクタンスLdを乗じたものに等しいことを用いた。また、式(4)と式(5)は、方程式(3)の初期条件である。
【0035】
【0036】
上式の解は、以下の式(6)のようになる。
【0037】
【0038】
上記の式(6)において、右辺第1項は、共振開始時のインダクタLdの両端電圧Voによって決まる共振電流を表しており、その振幅はインダクタLdの共振開始時の両端電圧Voに比例し、角周波数ωとインダクタンスLdに反比例する。また、右辺第2項は、インダクタLdを流れる直流電流を表しており、これは共振には寄与しない。
【0039】
次に、
図6Bの等価回路について、ドレイン電流Id(t)の方程式は、以下の式(9)のようになる。また、式(10)と式(11)は、方程式(9)の初期条件である。
【0040】
【0041】
上式の解は、以下の式(12)のようになる。ただし、式中のωおよびCtotは、式(7)および式(8)と同じである。
【0042】
【0043】
上記の式(12)において、右辺第1項は、共振開始時のゲート電流Ig0によって発生する共振電流を表しており、その位相は、上記の式(6)の右辺第1項の位相と180度ずれている。また、右辺第2項は寄生キャパシタCdioに流れる共振に寄与しない電流を表している。
【0044】
図6Aの等価回路の解である式(6)と、
図6Bの等価回路の解である式(12)とを足し合わせることによって、
図5の等価回路の解、すなわち第1のスイッチング素子21のターンオン時のドレイン電流Id(t)の時間波形が求められる。
【0045】
【0046】
上記の式(13)の右辺を観察すると、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生するドレイン電流Id(t)のリンギングは、右辺第2項と第3項の共振電流に起因するものであることが分かる。特に、右辺第2項は、共振開始時のインダクタLdの両端電圧Voによって決定される共振電流であり、その振幅はインダクタLdの共振開始時の両端電圧Voに比例し、角周波数ωとインダクタンスLdに反比例する。
【0047】
したがって、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生するドレイン電流Id(t)のリンギングを抑制する第1の方法としては、
図4の時刻t3の共振開始時におけるインダクタLdの両端電圧Voを小さくすることが考えられる。
【0048】
これを実現するために、本実施の形態1に係る駆動回路10aは、
図7に示されるように、共振が開始される時刻t3の直前にゲート電流Igをステップ状に減少させることにより、第1のスイッチング素子21のドレイン電流Idの増加率を低下させ、インダクタLdに流れる電流の変化率を減少させることにより、時刻t3の共振開始時おけるインダクタLdの両端電圧Voを低下させる。これにより、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生する共振電流の振幅を低減させることができる。
【0049】
なお、上記において、共振が開始される時刻t3の「直前」にゲート電流Igをステップ状に減少させると述べたが、より一般的には、第2のスイッチング素子22に流れる電流が0になって共振ループが形成される第1の時刻(t3)と、第1のスイッチング素子21のドレイン電流Idの増加が始まる第2の時刻(t2)との間の期間において、ゲート電流Igを減少させればよい。
【0050】
また、ゲート電流Igの減少量は、多ければ多いほど共振電流の振幅が低減されるが、一方においてスイッチング動作時の損失が増加してしまう。そのため、ゲート電流Igを減少させる際の目標値は、例えば、ドレイン電流Idのリンギングに起因して実験的に観測されるノイズのピーク値が所望量減少するような電流値として決定してもよい。詳細には、上述したように、式(13)の右辺第2項の共振電流の振幅は、共振が開始される第1の時刻(t3)における寄生インダクタLdの両端電圧Voに比例する。また、
図8に示されるように、ノイズのピーク値を例えば0.45dB減少させるためには、電圧Voを0.45dB減少させればよい。また、電圧Voを0.45dB減少させると、
図7において、電圧Voの真値(ボルト値)は、ゲート電流Igを減少させない場合の電圧Viと比較して、約5パーセント低下している。
【0051】
したがって、ゲート電流Igを減少させる際の目標値は、例えば、第1の時刻(t3)における寄生インダクタンスLdの両端電圧Voが、ゲート電流Igを減少させない場合(Vi)と比較して、5パーセント低下するような値である、
【0052】
次に、上記の式(13)の右辺第2項と第3項とを見比べると、両者は位相が180度ずれた関係にある。したがって、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生するドレイン電流Id(t)のリンギングを抑制する第2の方法としては、
図4の時刻t3の共振開始時におけるゲート電流Igをステップ状に増加させて、右辺第2項の振幅と右辺第3項の振幅とを等しくすることにより、両者を相殺することが考えられる。
【0053】
これを実現するために、本実施の形態1に係る駆動回路10aは、
図9に示されるように、共振が開始される時刻t3においてゲート電流Igをステップ状に増加させる。この際のゲート電流の目標値Igsorは、式(13)の右辺第2項と第3項の両振幅が等しくなるように、以下の式(14)を満たすように決定される。
【0054】
【0055】
上式を目標値Igsorについて解くと、以下の式(15)が得られる。
【0056】
【0057】
上記のようにして、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生する共振電流が相殺される。なお、ゲート電流Igをステップ状に増加させるタイミングは、正確に時刻t3に一致していることが最も好ましいが、例えば時刻t3を中心として前後に若干の誤差があってもよい。通常、第2のスイッチング素子22に流れる電流が0になって共振ループが形成される第1の時刻(t3)を基準として、当該第1の時刻(t3)の以前または以降の特定の期間、一例として、共振周波数の周期T=2π/ωの0.25倍以下の期間において、ゲート電流Igを目標値Igsorまで増加させることができれば、十分な効果が期待できる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態1に係るスイッチング素子の駆動回路10aは、第1のスイッチング素子21のドレイン端子に接続される第2のスイッチング素子22に流れる電流が0になる第1の時刻(t3)に応じて、第1のスイッチング素子21のゲート電流Ig電流を増加させる。
【0059】
詳細には、駆動回路10aは、第1の時刻(t3)の以前または以降の第1の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igを増加させる。第1の期間は、上記の式(7)と式(8)によって決定される角周波数ωから求められる、共振周波数の周期T=2π/ωの0.25倍以下の期間であることが好ましい。
【0060】
上記の特徴により、本実施の形態1に係るスイッチング素子の駆動回路10aでは、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生する共振電流が相殺されるため、ドレイン電流Idのリンギングが抑制される。
【0061】
好適には、駆動回路10aでは、上記の第1の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igをステップ状に増加させ、その目標値Igsorは、上記の式(15)によって決定される。ただし、厳密に式(15)と等しくなくても、式(15)の0.25倍から1.25倍程度の範囲内に収まっていれば、十分な効果が期待できる。
【0062】
また、本実施の形態1に係るスイッチング素子の駆動回路10aは、第1のスイッチング素子21のドレイン端子に接続される第2のスイッチング素子22に流れる電流が0になる第1の時刻(t3)と、第1のスイッチング素子21のドレイン電流Idの増加が始まる第2の時刻(t2)との間の第2の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igを減少させる。これにより、第1のスイッチング素子21のターンオン時に発生する共振電流の振幅を低減することができるため、ドレイン電流Idのリンギングがさらに抑制される。
【0063】
好適には、駆動回路10aでは、上記の第2の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igをステップ状に減少させ、その目標値は、例えば、第1の時刻(t3)における寄生インダクタンスLdの両端電圧Voが、ゲート電流Igを減少させない場合(Vi)と比較して、所定の割合(例えば、5パーセント)低下するような値である、
【0064】
なお、上記の第2の期間において、
図10に示されるように、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igを複数回に分けてステップ状に減少させてもよい。また、
図11に示されるように、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igをステップ状に減少させる過程で、ゲート電流Igを少なくとも1回ステップ状に増加させてもよい。増加後のゲート電流Igの値は、第2の期間の開始時の値よりも大きくてもよい。このように複数の減少や増加の段階を設けることによって、第1の時刻(t3)においてゲート電流Igを増加させるタイミングを細かく調整することができる。
【0065】
また、上記の第2の期間において、
図12に示されるように、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igをランプ状に減少させ、第1の時刻(t3)において、ゲート電流Igを一定値にしてもよい。これにより、第1の時刻(t3)における寄生インダクタLdの両端電圧Voを、ほとんど0にすることができる。結果として、共振電流の振幅を大幅に低減させることができる。なお、このようにゲート電流Igをランプ状に減少させた際に流れるドレイン電流Id(t)の波形は、上記の式(13)で表される波形とは厳密には異なるものとなるが、シミュレーションによって解析した結果、このような振る舞いが確かめられた。したがって、ゲート電流Igをランプ状に減少させることにより、ドレイン電流Idのリンギングを抑制することができる。また、ゲート電流Igを減少させる際の目標値については、上述した第2の方法の場合と同様の議論が成立する。
【0066】
また、
図13に示されるように、第1の時刻(t3)以降にゲート電流Igをランプ状に増加させてから一定値にしてもよい。第1の時刻(t3)以降にゲート電流Igをステップ状に増加させることに代えて、ランプ状に増加させた場合には、上記の式(13)の右辺第3項に相当する共振電流が発生しなくなることが、シミュレーションによって確かめられた。したがって、第2の期間においてゲート電流Igをランプ状に減少させて共振電流の振幅が十分に低減された場合には、第1の時刻(t3)以降にゲート電流Igをステップ状に増加させることに代えて、ランプ状に増加させることが有効になる。
【0067】
また、
図14に示されるように、第2の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igを複数回に分けてランプ状に減少させてもよい。また、
図15に示されるように、第2の期間において、第1のスイッチング素子21のゲート電流Igをランプ状に減少させる過程で、ゲート電流Igを少なくとも1回ランプ状に増加させてもよい。増加後のゲート電流Igの値は、第2の期間の開始時の値よりも大きくてもよい。
(変形例)
上記の実施の形態1では、スイッチング素子21~26によって三相のインバータ回路20を構成していた。そのため、第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子は、ともにNチャネル型のMOSFETであった。これに代えて、例えば、コンバータ回路を構成する場合には、第1のスイッチング素子はNチャネル型のMOSFETであり、第2のスイッチング素子はダイオードとなる。
【0068】
また、スイッチング素子21~26は、MOSFETに限定されるものではない。例えば、スイッチング素子21~26は、IGBTであってもよい。この場合、スイッチング素子21~26は、Nチャネル型のIGBTであり、第1の端子はコレクタ端子であり、第2の端子はエミッタ端子であり、制御端子はゲート端子である。
【0069】
また、スイッチング素子21~26は、BJT(Bipolar Junction Transistor)であってもよい。この場合、スイッチング素子21~26は、npn型のBJTであり、第1の端子はコレクタ端子であり、第2の端子はエミッタ端子であり、制御端子はベース端子である。
【0070】
また、スイッチング素子21~26を構成する半導体としては、Si(Silicon)、SiC(Silicon Carbide)、またはGaN(Gallium Nitride)等の様々な材料を用いることができる。
【0071】
最後に、本開示における「ステップ状」と「ランプ状」の定義について説明する。
図16Aに示されるように、ステップ状の波形とは、電流が変化する時刻1と時刻2との間の区間において、電流の傾きが0になる期間を含むような波形である。
図16Bに示されるように、ランプ状の波形とは、電流が変化する時刻1と時刻2との間の区間において、電流の傾きが0になる期間を含まないような波形である。ステップ状の波形は、電流が変化する時刻1と時刻2との間の区間において、電流の傾きが0になる期間が所定の期間以上である波形であり、ランプ状の波形は、電流が変化する時刻1と時刻2との間の区間において、電流の傾きが0になる期間が所定の期間未満である波形としてもよい。また、電流の傾きが0とは、厳密に0だけでなく、スイッチング素子の駆動上0とみなせる範囲の傾きを含むものとする。
【0072】
本開示の幾つかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は例として提示したものであり、開示の範囲を限定することは意図していない、これらの実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、開示の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施の形態やその変形は、開示の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された開示とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0073】
1 モーター
10a 駆動回路
10b 駆動回路
10c 駆動回路
10d 駆動回路
10e 駆動回路
10f 駆動回路
20 インバータ回路
21 スイッチング素子(第1のスイッチング素子)
22 スイッチング素子(第2のスイッチング素子)
24 スイッチング素子
25 スイッチング素子
26 スイッチング素子
27 スイッチング素子
30 制御回路
30a 検知回路
30b 記憶回路
30c 選択回路
31 A/D変換器
Cdio 第2のスイッチング素子の寄生キャパシタ
Cds ドレイン-ソース間の寄生キャパシタ
Cgd ゲート-ドレイン間の寄生キャパシタ
Cgs ゲート-ソース間の寄生キャパシタ
Dio ダイオード
gm トランスコンダクタンス
Ich チャネル電流
Idc インダクタLloadに流れる直流電流
Ig ゲート電流(駆動電流)
Id ドレイン電流
Ld 第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子とを接続する配線の寄生インダクタンス
Lload モーターのインダクタンス
Vd ドレイン電圧
Vdc 直流電源
Vdio ダイオードのアノード側の電圧
Vg 寄生キャパシタCgsの電圧
Vo 共振開始時の寄生インダクタLdの両端電圧