(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138098
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ガス拡散層及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20230922BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230922BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20230922BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230922BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230922BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 H
C25B11/032
H01M4/88 C
H01M4/96 H
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044598
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】山口 聡
(72)【発明者】
【氏名】林 大甫
【テーマコード(参考)】
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA03
4K011AA16
4K011DA01
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018EE05
5H018EE19
5H018HH03
5H126BB06
5H126DD04
(57)【要約】
【課題】液水の排出性能が高い新規なガス拡散層及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ガス拡散層は、基材と、前記基材の表面に形成されたカーボンナノチューブ膜とを備えている。前記基材は、導電性多孔物質からなる。前記カーボンナノチューブ膜は、面内配向しているカーボンナノチューブを含む。前記基材の厚さは、90μm以上250μm以下が好ましい。前記カーボンナノチューブ膜の厚さは、0.1μm以上30μm以下が好ましい。さらに、前記カーボンナノチューブ膜の表面の水の接触角は、40°以上140°以下が好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたガス拡散層。
(1)前記ガス拡散層は、
基材と、
前記基材の表面に形成されたカーボンナノチューブ膜と
を備えている。
(2)前記基材は、導電性多孔物質からなる。
(3)前記カーボンナノチューブ膜は、面内配向しているカーボンナノチューブを含む。
【請求項2】
前記基材の厚さは、90μm以上250μm以下である請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記基材は、撥水性物質Aを含む請求項1又は2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ膜の厚さは、0.1μm以上30μm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ膜の表面の水の接触角は、40°以上140°以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ膜は、撥水性物質Bを含まない請求項1から5までのいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ膜は、撥水性物質Bを含む請求項1から5までのいずれか1項に記載のガス拡散層。
【請求項8】
導電性多孔物質からなる基材の表面に、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜を形成する第1工程を備えたガス拡散層の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、撥水性物質Aを含む請求項8に記載のガス拡散層の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程の後に、前記カーボンナノチューブ膜の表面の親・疎水性を調整する処理を行う第2工程をさらに備えた請求項8又は9に記載のガス拡散層の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程は、
(a)前記カーボンナノチューブ膜を大気中で焼成する処理、又は、
(b)前記カーボンナノチューブ膜に撥水性樹脂Bを含む分散液を塗布又は含浸させ、前記カーボンナノチューブ膜を乾燥させる処理
を含む請求項10に記載のガス拡散層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散層及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、液水の排出性能が高いガス拡散層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質からなる電解質膜の両面に電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。また、固体高分子形燃料電池において、触媒層の外側には、一般に、ガス拡散層が配置される。ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えたセパレータが配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層及びセパレータからなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池において、電解質膜が良好なプロトン伝導度を示すには、適度な含水率が必要である。そのため、発電時の燃料電池の温度が高い場合や供給ガス中に含まれる水分量が少ない場合には、電解質膜が乾燥し、性能が低下する。
一方、固体高分子形燃料電池を用いて発電を行うと、カソード側では電極反応により水が生成する。そのため、燃料電池の温度が低く、供給ガス中の水分量が多い場合には、カソード側のガス拡散層内において液水が発生しやすくなる。過剰の液水は、酸素輸送を阻害し、燃料電池の性能を低下させる原因となる。
【0004】
高加湿条件下における性能低下を抑制するためには、ガス拡散層は、高いガス透過性に加えて、高い撥水性を備えている必要がある。そのため、ガス拡散層には、一般に、カーボンペーパーなどの多孔質基材の表面に、マイクロポーラス層(導電性粒子と撥水性粒子とを含み、微細な気孔を持つ層)が形成されたものが用いられる。マイクロポーラス層は、一般に、導電性粒子及び撥水性粒子を含むペーストを多孔質基材の表面に塗布し、乾燥及び焼成することにより形成されている。しかしながら、ペーストを塗布し、乾燥させる方法は、工程が煩雑である。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブフィルムのみからなるガス拡散層を備えた膜電極接合体が開示されている。
同文献には、
(A)炭素繊維紙は炭素繊維の分布が不均一であるために、これをガス拡散層に用いると、均一に反応ガスを拡散させることができない点、及び、
(B)カーボンナノチューブフィルムは、均一に分布した微孔構造を有しているので、これをガス拡散層に用いると、均一に反応ガスを拡散させることができる点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、
(a)カーボンペーパーの表面に、Fe(2nm)/Ti(5nm)/Al(2nm)/Fe(1nm)の薄膜をこの順に堆積させて触媒スタックを形成し、
(b)CVD法を用いて、触媒スタックの表面にCNTマットを形成し、
(c)CNTマットが形成されたカーボンペーパーを、ポリテトラフルオロエチレンを含浸させたカーボンペーパーの上に載せる
ことにより得られる多層構造が開示されている。
【0007】
同文献には、
(A)このような方法により、実質的に互いに平行であり、炭素繊維系の支持体に対して垂直に配向しているカーボンナノチューブからなるCNTマットを形成できる点、及び
(B)このような多層構造は、固体高分子電解質の拡散層として使用できる点
が記載されている。
【0008】
特許文献1には、カーボンナノチューブフィルムのみからなり、導電性物質からなる基材を含まないガス拡散層が開示されている。しかし、カーボンナノチューブフィルムのみからなるガス拡散層を用いて燃料電池を作製した場合、燃料電池の全体を締結した時にMEAに加わる荷重のバランスが取れず、MEAの一部に応力が集中する。そのため、電解質膜が破れやすくなり、耐久性が低下するという問題がある。
【0009】
一方、特許文献2には、多層構造を備えた拡散層が開示されている。しかし、多層構造を備えた拡散層は、量産には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-117354号公報
【特許文献2】特開2019-079796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、液水の排出性能が高い新規なガス拡散層及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、量産に適した新規なガス拡散層及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係るガス拡散層は、以下の構成を備えている。
(1)前記ガス拡散層は、
基材と、
前記基材の表面に形成されたカーボンナノチューブ膜と
を備えている。
(2)前記基材は、導電性多孔物質からなる。
(3)前記カーボンナノチューブ膜は、面内配向しているカーボンナノチューブを含む。
【0013】
本発明に係るガス拡散層の製造方法は、導電性多孔物質からなる基材の表面に、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜を形成する第1工程を備えている。
【発明の効果】
【0014】
基材と、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜との2層構造を備えたガス拡散層を固体高分子形燃料電池に適用すると、フラッディングが抑制され、高加湿条件下での発電性能が向上する。これは、カーボンナノチューブ膜が適度な撥水性を有しているために、高加湿条件下において、触媒層から基材への水輸送が促進されるためと考えられる。さらに、このようなガス拡散層は、例えば、基材表面にカーボンナノチューブ膜を転写することにより製造することができる。そのため、ペーストの塗布・乾燥工程が不要になり、製造プロセスを簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】面内配向CNT膜のナノCT像の断面図である。
【
図2】実施例1~8の燃料電池の断面模式図である。
【
図3】カーボンナノチューブ膜表面の水の接触角と電流密度との関係を示す図である。
【
図4】カーボンナノチューブ膜の厚さと電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ガス拡散層]
本発明に係るガス拡散層は、
基材と、
前記基材の表面に形成されたカーボンナノチューブ膜と
を備えている。
【0017】
[1.1. 基材]
[1.1.1. 材料]
基材は、導電性多孔物質からなる。ここで、「導電性多孔物質」とは、電子伝導性を有し、かつ、ガスを拡散させることが可能な大きさの気孔を有する物質をいう。
本発明において、基材の材料は、導電性多孔物質である限りにおいて、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。基材の材料としては、例えば、炭素繊維不織布、カーボンペーパー、カーボンクロス、多孔質の金属焼結体などがある。
【0018】
[1.1.2. 撥水性物質A]
[A. 材料]
基材は、不織布、カーボンペーパー等の導電性多孔物質のみからなるものでも良く、あるいは、導電性多孔物質に加えて撥水性物質Aをさらに含むものでも良い。基材が撥水性物質Aを含む場合、ガス拡散層の液水の排水性能がさらに向上する場合がある。
基材が撥水性物質Aを含む場合、撥水性物質Aの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。撥水性物質Aとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などがある。
【0019】
[B. 含有量]
基材が撥水性物質Aを含む場合、撥水性物質Aの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、撥水性物質Aの含有量が多くなるほど、基材の撥水性が向上する。このような効果を得るためには、撥水性物質Aの含有量は、0mass%超が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、5mass%以上、さらに好ましくは、10mass%以上である。
一方、撥水性物質Aの含有量が過剰になると、基材のガス透過性及び/又は電子伝導性が低下する場合がある。従って、撥水性物質Aの含有量は、50mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40mass%以下、さらに好ましくは、30mass%以下である。
【0020】
[1.1.3. 厚さ]
基材の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、基材の厚さが薄くなりすぎると、バネ性が低下し、燃料電池に組み付ける際に組み付け不良が生じる場合がある。また、基材の厚さが薄くなりすぎると、フラッディングが増大する場合がある。これは、リブを通じた放熱が促進され、基材の温度が低下するためである。従って、基材の厚さは、90μm以上が好ましい。基材の厚さは、さらに好ましくは、100μm以上である。
一方、基材の厚さが厚くなりすぎると、液水の排水抵抗及びガス拡散抵抗が増大し、燃料電池の出力が低下する場合がある。従って、基材の厚さは、250μm以下が好ましい。基材の厚さは、さらに好ましくは、200μm以下である。
【0021】
[1.1.4. 空隙率]
基材の非圧縮状態の空隙率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な空隙率を選択することができる。
一般に、非圧縮状態の空隙率が小さくなりすぎると、放熱により温度が低下し、フラッディングの原因となる場合がある。従って、空隙率は、65%以上が好ましい。
一方、非圧縮状態の空隙率が大きくなりすぎると、基材の電気伝導性が不足する場合がある。従って、空隙率は、85%以下が好ましい。
【0022】
[1.2. カーボンナノチューブ膜]
[1.2.1. 材料]
基材の表面には、カーボンナノチューブ膜が形成されている。
本発明において、「カーボンナノチューブ膜」とは、面内配向しているカーボンナノチューブ(CNT)を含む膜をいう。CNTが面内配向しているカーボンナノチューブ膜は、種々の方法により作製することができる。カーボンナノチューブ膜は、1回の作製工程で得られた単一の膜からなるものでも良く、あるいは、1回の作製工程で得られた膜を複数枚積層することにより得られる積層膜でも良い。
【0023】
「面内配向」とは、CNTの長手方向が膜の表面に対してほぼ平行に配列していることをいう。この場合、CNT同士は、必ずしも互いに平行に配列している必要はない。また、各CNTの長手方向は、膜の表面に対して完全に平行である必要はなく、傾いていても良い。但し、CNTの平均傾斜角(CNTの長手方向と膜の平面方向とのなす角の平均値)が大きくなりすぎると、CNT層の表面凹凸が大きくなるために触媒層やガス拡散層基材との密着性が悪くなり、電子抵抗が増加する場合がある。従って、平均傾斜角は、10°以下が好ましい。平均傾斜角は、さらに好ましくは、5°以下、さらに好ましくは、3°以下である。
【0024】
カーボンナノチューブ膜を構成するCNTの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。例えば、CNTは、単層CNTであっても良く、あるいは、多層CNTであっても良い。
また、CNTの直径及び長さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。CNTの直径は、具体的には、10nm以上40nm以下が好ましい。また、CNTの長さは、具体的には、100μm以上2mm以下が好ましい。
【0025】
[1.2.2. 撥水性物質B]
[A. 材料]
カーボンナノチューブ膜は、CNTのみからなるものでも良く、あるいは、CNTに加えて撥水性物質Bをさらに含むものでも良い。カーボンナノチューブ膜が撥水性物質Bを含む場合、ガス拡散層の液水の排水性能がさらに向上する場合がある。
カーボンナノチューブ膜が撥水性物質Bを含む場合、撥水性物質Bの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。また、基材が撥水性物質Aを含む場合、撥水性物質Bは、撥水性物質Aと同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。撥水性物質Bに関するその他の点については、撥水性物質Aと同様であるので、説明を省略する。
【0026】
[B. 含有量]
カーボンナノチューブ膜が撥水性物質Bを含む場合、撥水性物質Bの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、撥水性物質Bの含有量が多くなるほど、カーボンナノチューブ膜の撥水性が向上する。このような効果を得るためには、撥水性物質Bの含有量は、0mass%超が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、3mass%以上、さらに好ましくは、5mass%以上である。
一方、撥水性物質Bの含有量が過剰になると、カーボンナノチューブ膜のガス透過性及び/又は電子伝導性が低下する場合がある。従って、撥水性物質Bの含有量は、40mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、30mass%以下、さらに好ましくは、20mass%以下である。
【0027】
[1.2.3. 厚さ]
カーボンナノチューブ膜の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、カーボンナノチューブ膜の厚さが薄くなりすぎると、ガス拡散層の基材が電解質膜に刺さり、電解質膜の耐久性を低下させる場合がある。従って、カーボンナノチューブ膜の厚さは、0.1μm以上が好ましい。厚さは、さらに好ましくは、1μm以上、さらに好ましくは、3μm以上である。
一方、カーボンナノチューブ膜の厚さが厚くなりすぎると、カーボンナノチューブ膜のガス透過性が低下する場合がある。従って、カーボンナノチューブ膜の厚さは、30μm以下が好ましい。厚さは、さらに好ましくは、15μm以下である。
【0028】
[1.2.4. 接触角]
製造直後のカーボンナノチューブ膜に含まれるCNTの表面は、通常、撥水性である。このカーボンナノチューブ膜に対し、各種の処理を施すと、その表面を親水性とし、あるいは、その表面の撥水性をさらに高めることができる。
【0029】
カーボンナノチューブ膜の撥水性の程度、あるいは、親水性の程度は、カーボンナノチューブ膜の表面の水の接触角で表すことができる。接触角が小さくなりすぎると、液水がカーボンナノチューブ膜内に滞留しやすくなるために、液水の排水性能が低下する。従って、接触角は、40°以上が好ましい。接触角は、さらに好ましくは、45°以上、さらに好ましくは、50°以上である。
一方、接触角が大きくなりすぎると、触媒層内で生成した水がカーボンナノチューブ膜を透過しにくくなるために、かえって液水の排水性能が低下する。従って、接触角は、140°以下が好ましい。接触角は、さらに好ましくは、135°以下、さらに好ましくは、120°以下である。
【0030】
[2. ガス拡散層の製造方法]
本発明に係るガス拡散層の製造方法は、導電性多孔物質からなる基材の表面に、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜を形成する第1工程を備えている。
本発明に係るガス拡散層の製造方法は、第1工程の後に、前記カーボンナノチューブ膜の表面の親・疎水性を調整する処理を行う第2工程をさらに備えていても良い。
【0031】
[2.1. 第1工程]
まず、導電性多孔物質からなる基材の表面に、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜を形成する(第1工程)。
【0032】
[2.1.1. 基材の調製]
基材は、導電性多孔物質のみからなるものでも良く、あるいは、撥水性物質Aをさらに含むものでも良い。
基材が撥水性物質Aを含む場合、基材への撥水性物質Aの添加方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
撥水性物質Aの添加方法としては、例えば、撥水性物質Aを溶媒に分散させた分散液を基材表面に塗布し、あるいは、基材内に分散液を含浸させ、基材を乾燥させる処理(撥水化処理)を施す方法がある。この場合、分散液の濃度、乾燥温度等の処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
【0033】
[2.1.2. 基材表面へのカーボンナノチューブ膜の形成]
基材表面へのカーボンナノチューブ膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
カーボンナノチューブ膜の形成方法としては、例えば、
(a)CNT成長用基板上に成長させたCNTアレイからCNTを引き剥がすことにより、カーボンナノチューブが面内配向しているカーボンナノチューブ膜を作製し、これを導電性多孔物質からなる基材の表面に転写する方法、
(b)CNT分散液を導電性多孔物質からなる基材の表面に塗布し、乾燥させる方法、
などがある。
【0034】
[2.2. 第2工程]
本発明に係るガス拡散層の製造方法は、第1工程の後に、前記カーボンナノチューブ膜の表面の親・疎水性を調整する処理を行う第2工程をさらに備えていても良い。
カーボンナノチューブ膜の表面の親・疎水性を調整する方法には、種々の方法がある。本発明においては、いずれの処理方法を用いても良い。
【0035】
親・疎水性を調整する処理としては、例えば、
(a)前記カーボンナノチューブ膜を大気中で焼成する処理、
(b)前記カーボンナノチューブ膜に撥水性物質Bを含む分散液を塗布又は含浸させ、前記カーボンナノチューブ膜を乾燥させる処理
などがある。
【0036】
[2.2.1. 焼成処理]
親・疎水性を調整する処理は、カーボンナノチューブ膜を大気中で焼成する処理であっても良い。カーボンナノチューブ膜を大気中で焼成すると、CNT表面に酸素含有官能基が導入され、親水性が高くなる。
【0037】
焼成温度は、カーボンナノチューブ膜の表面の水の接触角(すなわち、撥水性の程度又は親水性の程度)に影響を与える。一般に、焼成温度が低すぎると、カーボンナノチューブ膜が過度に撥水性となり、液水の排水性能が低下する場合がある。従って、焼成温度は、200℃以上が好ましい。焼成温度は、さらに好ましくは、250℃以上である。
一方、焼成温度が高すぎると、カーボンナノチューブ膜が過度に親水性となり、液水の排水性能が低下する場合がある。従って、焼成温度は、350℃以下が好ましい。焼成温度は、さらに好ましくは、300℃以下である。
【0038】
[2.2.2. 含浸処理]
親・疎水性を調整する処理は、カーボンナノチューブ膜に撥水性物質Bを含む分散液を塗布又は含浸させ、カーボンナノチューブ膜を乾燥させる処理でも良い。この場合、分散液の濃度、乾燥温度等の処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
【0039】
[3. 作用]
基材と、面内配向しているカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ膜との2層構造を備えたガス拡散層を固体高分子形燃料電池に適用すると、フラッディングが抑制され、高加湿条件下での発電性能が向上する。これは、カーボンナノチューブ膜が適度な撥水性を有しているために、高加湿条件下において、触媒層から基材への水輸送が促進されるためと考えられる。さらに、このようなガス拡散層は、例えば、基材表面にカーボンナノチューブ膜を転写することにより製造することができる。そのため、ペーストの塗布・乾燥工程が不要になり、製造プロセスを簡略化することができる。
【実施例0040】
(実施例1~8、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 基材]
ガス拡散層の基材には、
(a)SGL社製、29BA(以下、これを「基材A」という)、又は、
(b)SGL社製、39BA(以下、これを「基材B」という)
を用いた。
【0041】
基材A、Bは、それぞれ、表面にマイクロポーラス層(撥水層)を形成することなく試験に供した。但し、一部の基材Aについては、ポリテトラフルオロエチレンを分散させた分散液を含浸させた後、大気中で乾燥させ、溶媒を揮発させる処理(撥水化処理)を行った。以下、撥水化処理が施された基材Aを「撥水処理基材A」という。
【0042】
[1.2. カーボンナノチューブ膜]
垂直配向カーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブを引き剥がすことにより、カーボンナノチューブが面内配向しているカーボンナノチューブ膜(以下、これを「面内配向CNT膜」ともいう)を作製した。
図1に、面内配向CNT膜のナノCT像の断面図を示す。
図1中、白い部分がCNTである。
図1より、面内配向CNT膜の厚さは、3μmであることが分かった。このような面内配向CNT膜を、基材A又は基材Bの表面に圧着し、接合した後、必要な処理を施した。また、一部の試料については、基材表面に2層、3層、又は、10層の面内配向CNT膜を接合した。
【0043】
以下、基材の表面に接合された、無処理の単層の面内配向CNT膜を「CNT膜」ともいう。また、基材の表面に接合された、無処理の2層又は3層の面内配向CNT膜を、それぞれ、「CNT膜2重」又は「CNT膜3重」ともいう。さらに、基材の表面に接合された、無処理の10層の面内配向CNT膜を「CNT膜30μm」ともいう。
【0044】
一部の面内配向CNT膜については、基材表面に接合した後に、大気雰囲気下において所定の温度(200℃~350℃)で1時間焼成する処理(親水化処理)を行った。以下、親水化処理が施された面内配向CNT膜を「焼成CNT膜」ともいう。
さらに、他の一部の面内配向CNT膜については、基材表面に接合した後に、ポリテトラフルオロエチレンを分散させた分散液を含浸させた後、大気中で乾燥させ、溶媒を揮発させる処理(撥水化処理)を行った。以下、撥水化処理が施された面内配向CNTを「撥水処理CNT膜」ともいう。
【0045】
[1.3. 燃料電池セル]
[1.3.1. 実施例1~8]
図2に、実施例1~8の燃料電池セルの断面模式図を示す。ナフィオン(登録商標)膜の両面に触媒層を塗布し、MEAを作製した。カソード側ガス拡散層には、無処理、親水化処理、又は、撥水化処理後の面内配向CNT膜と、基材との接合体を用いた。アノード側ガス拡散層には、市販の撥水層(マイクロポーラス層)付きガス拡散層を用いた。MEAの両面を、それぞれ、カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層で挟み、その外側にセパレータ(図示せず)を配置した。セパレータは、樹脂含浸黒鉛材から作製した。
【0046】
[1.3.2. 比較例1~3]
カソード側ガス拡散層として、基材Aのみ(比較例1)、基材Bのみ(比較例2)、又は、単層の面内配向CNT膜のみ(比較例3)を用いた以外は実施例1~8と同様にして、燃料電池セルを作製した。
【0047】
[2. 試験方法]
[2.1. 接触角]
カーボンナノチューブ膜上に水滴を垂らし、その接触角を測定した。
[2.2. 発電性能]
燃料電池セルを用いて、電流電圧特性を取得した。発電条件は、セル温度を40℃とし、カソード供給ガスを21%O2(N2バランス)ガス、相対湿度120%RHとし、流量300cm3/minで供給した。各燃料電池セルの発電性能は、電圧が0.1Vであるときの電流密度で評価した。
【0048】
[3. 結果]
[3.1. 発電性能]
表1に、実施例1~8及び比較例1~3で得られた燃料電池セルの発電性能を示す。
図3に、カーボンナノチューブ膜表面の水の接触角と電流密度との関係を示す。
図4に、カーボンナノチューブ膜の厚さと電流密度との関係を示す。表1及び
図3~4より、以下のことが分かる。
【0049】
(1)カーボンナノチューブ膜の親・疎水性、及び厚さを特定の範囲に制御することで、性能の向上が確認された。これは、カーボンナノチューブ膜がO
2の拡散を阻害することなく、触媒層からの排水を促進することで、フラッディングが抑制された結果と考えられる。
(2)カーボンナノチューブ膜の接触角は、40°~140°が好ましく、さらに好ましくは、45°~135°、さらに好ましくは、50°~120°である(
図3参照)。
(3)面内配向CNT膜の厚さは、0.1μm以上30μm以下が好ましく、さらに好ましくは、1μm以上17μm以下である(
図4参照)。
【0050】
【0051】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。