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特開2023-138145錯化ポリマー及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138145
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】錯化ポリマー及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/08 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
C08G61/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044688
(22)【出願日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】河田 碧
(72)【発明者】
【氏名】タルディフ オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 悟司
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA28
4J032CA67
4J032CA68
4J032CB04
4J032CC02
4J032CD02
4J032CE03
4J032CF03
4J032CG05
(57)【要約】
【課題】切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させたポリマーを提供する。
【解決手段】ジエン単位及び/又はオレフィン単位を含むポリマー鎖と、該ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖に結合した、酸素原子を含む官能基を2つ以上含み、前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、且つ、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化していることを特徴とする、錯化ポリマーである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン単位及び/又はオレフィン単位を含むポリマー鎖と、該ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖に結合した、酸素原子を含む官能基を2つ以上含み、
前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、且つ、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化していることを特徴とする、錯化ポリマー。
【請求項2】
前記金属イオンと前記官能基との結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上である、請求項1に記載の錯化ポリマー。
【請求項3】
前記金属イオンと前記官能基とが、配位結合で結合している、請求項1又は2に記載の錯化ポリマー。
【請求項4】
前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記金属イオンと結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項5】
前記酸素原子を含む官能基の少なくとも2つは、水酸基由来である、請求項1~4のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項6】
前記金属イオンが、周期表第4周期及び第5周期の元素の金属イオンから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項7】
前記金属イオンが、周期表7~12族の元素の金属イオンから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項8】
前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の錯化ポリマー。
【請求項9】
前記官能基が、前記ポリマー鎖中のモノマー単位に対して0.1~40mol%の量で結合している、請求項1~8のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項10】
前記金属イオンは、前記官能基が結合したポリマー鎖に、金属塩を添加することで錯化される、請求項1~9のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項11】
前記金属塩が、金属のハロゲン化物である、請求項10に記載の錯化ポリマー。
【請求項12】
前記金属塩が、金属の塩素化物である、請求項11に記載の錯化ポリマー。
【請求項13】
前記金属塩は、金属酸化物、炭酸金属塩、及び脂肪酸金属塩以外である、請求項10~12のいずれか一項に記載の錯化ポリマー。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の錯化ポリマーを含むことを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の錯化ポリマーの製造方法であって、
前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を反応させることを特徴とする、錯化ポリマーの製造方法。
【請求項16】
前記ポリマー鎖に結合した官能基と前記金属塩とのモル比(ポリマー鎖に結合した官能基/金属塩)が、4以上である、請求項15に記載の錯化ポリマーの製造方法。
【請求項17】
請求項14に記載のゴム組成物の製造方法であって、
前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を混錬することで錯化ポリマーを生成させること特徴とする、ゴム組成物の製造方法。
【請求項18】
前記金属塩の配合量が、前記官能基が結合したポリマー鎖100質量部に対して0.1~10質量部である、請求項17に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯化ポリマー及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済みのタイヤ等の加硫ゴム製品は、その多くが再利用されることなく廃棄処分されてきたが、昨今、環境問題、省資源化等の観点から、使用済み加硫ゴム製品のリサイクルが急務となってきている。
使用済み加硫ゴム製品の再生方法としては、例えば、2軸押出機を使用して、使用済み加硫ゴム製品に熱と剪断力を加えることにより再生を行う方法が知られている。しかしながら、加硫ゴム製品等のポリマーの架橋物は、過酷な条件下での処理を経て再生されるため、劣化せざるを得ず、例えば、再生ゴムを用いたゴム製品は、再生ゴムを用いていないゴム製品と比べて、切断時引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)等の物性が劣るという問題がある。
【0003】
一方、下記特許文献1には、特定構造のビシナルジオール単位及び特定構造のブタ-1-エン-1,4-ジイル単位を含むエラストマーが開示されており、該エラストマーは、強靭性に優れ、リサイクル性を有することが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-100718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1に記載のエラストマーは、ジオールの水素結合により架橋したエラストマーであり、該水素結合は、高温で解離し易く、切断時引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)等の物性を保持できないことが分かった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させたポリマー(ゴム等)及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかるポリマーを含み、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させたゴム組成物及びその製造方法を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0008】
本発明の錯化ポリマーは、ジエン単位及び/又はオレフィン単位を含むポリマー鎖と、該ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖に結合した、酸素原子を含む官能基を2つ以上含み、
前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、且つ、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化していることを特徴とする。
かかる本発明の錯化ポリマーは、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上している。
【0009】
本発明の錯化ポリマーの好適例においては、前記金属イオンと前記官能基との結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上である。この場合、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0010】
本発明の錯化ポリマーの他の好適例においては、前記金属イオンと前記官能基とが、配位結合で結合している。この場合、金属イオンと官能基との結合に十分な可逆性を付与できる。
【0011】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記金属イオンと結合していることが好ましい。この場合、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0012】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記酸素原子を含む官能基の少なくとも2つは、水酸基由来であることが好ましい。この場合、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0013】
本発明の錯化ポリマーの他の好適例においては、前記金属イオンが、周期表第4周期及び第5周期の元素の金属イオンから選択される。この場合、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0014】
本発明の錯化ポリマーの他の好適例においては、前記金属イオンが、周期表7~12族の元素の金属イオンから選択される。この場合、より高い強度の架橋を形成できる。
【0015】
ここで、前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、より強度の高い架橋構造を形成できる。
【0016】
本発明の錯化ポリマーの他の好適例においては、前記官能基が、前記ポリマー鎖中のモノマー単位に対して0.1~40mol%の量で結合している。この場合、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上し、また、十分なエラストマー性を有する錯化ポリマーが得られ易い。
【0017】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記金属イオンは、前記官能基が結合したポリマー鎖に、金属塩を添加することで錯化されることが好ましい。この場合、簡便に、錯化ポリマーを得ることができ、強度の高い架橋を形成できる。
【0018】
ここで、前記金属塩が、金属のハロゲン化物であることが好ましい。金属のハロゲン化物は、取り扱い易く、より簡便に高い強度の架橋を形成できる。
【0019】
また、前記金属塩が、金属の塩素化物であることが更に好ましい。金属の塩素化物は、取り扱い易く、より一層簡便に高い強度の架橋を形成できる。
【0020】
また、前記金属塩は、金属酸化物、炭酸金属塩、及び脂肪酸金属塩以外であることが好ましい。この場合、配位結合による架橋を更に形成し易くなる。
【0021】
また、本発明のゴム組成物は、上記の錯化ポリマーを含むことを特徴とする。かかる本発明のゴム組成物は、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上している。
【0022】
また、本発明の錯化ポリマーの製造方法は、上記の錯化ポリマーの製造方法であって、
前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を反応させることを特徴とする。
かかる本発明の錯化ポリマーの製造方法によれば、前記錯化ポリマーを簡便に得ることができる。
【0023】
本発明の錯化ポリマーの製造方法の好適例においては、前記ポリマー鎖に結合した官能基と前記金属塩とのモル比(ポリマー鎖に結合した官能基/金属塩)が、4以上である。この場合、金属塩由来の過剰の金属イオンを低減でき、金属イオンに起因する、錯化ポリマーの劣化を抑制できる。
【0024】
また、本発明のゴム組成物の製造方法は、上記のゴム組成物の製造方法であって、
前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を混錬することで錯化ポリマーを生成させること特徴とする。
かかる本発明のゴム組成物の製造方法は、ゴム組成物の製造(ゴム組成物の混練)中に錯化ポリマーを調製できるため、生産性に優れる。
【0025】
本発明のゴム組成物の製造方法の好適例においては、前記金属塩の配合量が、前記官能基が結合したポリマー鎖100質量部に対して0.1~10質量部である。この場合、ゴム組成物の切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上し、また、金属塩由来の過剰の金属イオンを低減でき、金属イオンに起因する、錯化ポリマーの劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させたポリマー及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、かかるポリマーを含み、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させたゴム組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の錯化ポリマー及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びその製造方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0028】
<錯化ポリマー>
本発明の錯化ポリマーは、ジエン単位及び/又はオレフィン単位を含むポリマー鎖と、該ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖に結合した、酸素原子を含む官能基を2つ以上含み、
前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、且つ、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化していることを特徴とする。
【0029】
本発明の錯化ポリマーは、ポリマー鎖と、酸素原子を含む官能基を2つ以上含み、該官能基の少なくとも2つが周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化している。
ここで、前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子がポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、即ち、本発明の錯化ポリマーにおいては、近接した位置に少なくとも2つの官能基が存在する。そのため、該少なくとも2つの官能基が、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化することで、水素結合に比べて高い強度で、ポリマー鎖を架橋することができ、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を向上させることができる。
従って、本発明の錯化ポリマーは、高い切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を有する。
【0030】
また、前記金属イオンと前記官能基との結合は、一般的な加硫ゴムのような硫黄による結合ではないため、容易に結合を解くことができ、例えば、加熱により流動して、再成型することができる。このように、容易に結合を解くことができるため、結合を解くために、錯化ポリマーを過酷な条件に曝す必要が無い。そして、金属イオンと官能基との結合を解くことで生成する酸素原子を含む官能基を有するポリマー鎖は、結合を解くために過酷な条件に曝す必要が無いため、ポリマー鎖の性能が維持されており、また、該官能基を有するポリマー鎖を金属イオンと錯化して、錯化ポリマーを再生させても、新品時と同等の性能を維持できる。従って、本発明の錯化ポリマーは、リサイクル可能でもある。
【0031】
(ポリマー鎖)
本発明の錯化ポリマーは、ジエン単位及び/又はオレフィン単位を含むポリマー鎖を含む。即ち、該ポリマー鎖は、ジエン単位又はオレフィン単位を含むか、ジエン単位及びオレフィン単位の両方を含む。ここで、ポリマー鎖の数は1つ以上である。ポリマー鎖が1つの場合、該錯化ポリマーは、分子内で、金属イオンを介して架橋構造を形成する。また、ポリマー鎖が2つ以上の場合は、分子内に加えて、分子間(ポリマー鎖間)でも、金属イオンを介して架橋構造を形成することができる。なお、前記錯化ポリマーは、架橋構造を形成するために、官能基を2つ以上有するが、2つ以上の官能基は、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
【0032】
前記ジエン単位は、共役したジエン単位(共役ジエン単位)でも、共役していないジエン単位(非共役ジエン単位)でもよい。
【0033】
前記共役ジエン単位とは、共役ジエン化合物に由来するモノマー単位である。モノマーとしての共役ジエン化合物は、炭素数が4~8であることが好ましい。かかる共役ジエン化合物として、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。そして、モノマーとしての共役ジエン化合物は、良好なエラストマー性の観点から、1,3-ブタジエン及び/又はイソプレンを含むことが好ましい。
【0034】
前記非共役ジエン単位とは、非共役ジエン化合物に由来するモノマー単位である。モノマーとしての非共役ジエン化合物としては、下記一般式(1):
【化1】
[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。]で表されるシクロオクタ-1,5-ジエン化合物が挙げられる。
一般式(1)のシクロオクタ-1,5-ジエン化合物としては、市販のものを使用してもよいし、公知の方法に従って合成したものを使用してもよい。入手容易性等の観点から、Rが、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基である化合物が好ましく、水素原子又はメチル基である化合物がより好ましく、水素原子である化合物が特に好ましい。一般式(1)のシクロオクタ-1,5-ジエン化合物として、具体的には、シクロオクタ-1,5-ジエン、1-クロロシクロオクタ-1,5-ジエン、1,5-ジクロロシクロオクタ-1,5-ジエン、1-メチルシクロオクタ-1,5-ジエン、1,5-ジメチルシクロオクタ-1,5-ジエン等が挙げられる。
【0035】
前記ポリマー鎖中のジエン単位の割合は、特に限定されず、0mol%でもよいが、0.1mol%以上であることが好ましく、1mol%以上であることが更に好ましく、また、100mol%であってもよい。上記割合が1mol%以上であると、エラストマー性に優れる錯化ポリマーが得られる。
【0036】
前記オレフィン単位とは、オレフィン化合物に由来するモノマー単位である。モノマーとしてのオレフィン化合物は、炭素数が2~10であることが好ましい。かかるオレフィン化合物として、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のα-オレフィン、ピバリン酸ビニル、1-フェニルチオエテン、N-ビニルピロリドン等のヘテロ原子置換アルケン化合物等が挙げられる。
【0037】
また、前記オレフィン化合物は、酸素原子を含む官能基を2つ以上有していてもよい。酸素原子を含む官能基を2つ以上有するオレフィン化合物としては、下記一般式(2):
【化2】
[式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。]で表される5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物が挙げられる。
一般式(2)の5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物としては、市販のものを使用してもよいし、公知の方法に従って合成したものを使用してもよい。入手容易性等の観点から、Rが、水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はエチル基である化合物が好ましく、水素原子又はメチル基である化合物がより好ましく、水素原子である化合物が特に好ましい。一般式(2)の5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物として、具体的には、5-シクロオクテン-1,2-ジオール等が挙げられる。
【0038】
前記ポリマー鎖中のオレフィン単位の割合は、特に限定されず、0mol%でもよいが、1mol%以上が好ましく、また、100mol%であってもよい。
【0039】
前記ポリマー鎖は、前記ジエン化合物及び/又は前記オレフィン化合物を重合又は共重合させて合成することができる。
【0040】
また、前記ポリマー鎖は、前記ジエン化合物及び/又は前記オレフィン化合物と共重合可能な他のモノマーに由来する単位を含んでもよい。かかる他のモノマーに由来する単位としては、芳香族ビニル単位等が挙げられる。ポリマー鎖中の他のモノマーに由来する単位の割合は、特に限定されず、0mol%でもよいが、一実施態様においては、1mol%以上が好ましく、また、50mol%以下が好ましい。
前記芳香族ビニル単位は、芳香族ビニル化合物に由来するモノマー単位である。該芳香族ビニル化合物とは、少なくともビニル基で置換された芳香族化合物を指す。モノマーとしての芳香族ビニル化合物は、炭素数が8~10であることが好ましい。かかる芳香族ビニル化合物として、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等が挙げられる。
【0041】
(官能基)
本発明の錯化ポリマーは、前記ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖に結合した、酸素原子を含む官能基を2つ以上含む。該官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子がポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子に結合しており、且つ、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化している。官能基が酸素原子を含み、周期表3~12族の元素の金属イオンと錯化することで、官能基と金属イオンとの結合が強くなる。また、1つの官能基中の酸素原子と、もう1つの官能基中の酸素原子とが、ポリマー鎖の主鎖及び/又は側鎖の隣り合う炭素原子にそれぞれ結合していることで、1つの金属イオンに2つの官能基が錯化し易く、強度の高い架橋を形成でき、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上する。
なお、前記ポリマー鎖は、複数の炭素原子が直接結合した部位を含み、前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が炭素原子(ポリマー鎖の複数の炭素原子が直接結合した部位の炭素原子)に結合しており、また、前記1つの官能基中の酸素原子と、もう1つの官能基中の酸素原子との間の炭素数が2であるとも言えるし、ビシナルな酸素原子を含む官能基を有するとも言える。
【0042】
本発明の錯化ポリマーにおいては、前記金属イオンと前記官能基との結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上であることが好ましく、200kJ/mol以上であることが更に好ましく、250kJ/mol以上であることがより一層好ましく、また、500kJ/mol以下であることが好ましい。該結合解離エネルギーが、100kJ/mol以上であると、より高い強度の架橋を形成でき、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。また、該結合解離エネルギーが、500kJ/mol以下であると、金属イオンと官能基との結合をより容易に解くことができ、錯化ポリマーをより容易にリサイクルできる。
【0043】
ここで、本発明において、金属イオンと官能基との結合解離エネルギーは、M06/6-31G(d,p)//B3PW91-D3/6-31G(d,p) レベルまたはM06/6-31G(d,p)レベル, 真空中で計算された値である。なお、金属イオンと官能基とは、イオン性の凝集体を形成しているものと考えられる。該結合解離エネルギーの計算には、Gaussian09やGRRM14を使用できる。
【0044】
本発明の錯化ポリマーにおいては、前記金属イオンと前記官能基とが、配位結合で結合していることが好ましい。配位結合であれば、金属イオンと官能基との結合に十分な可逆性を付与できる。また、配位結合であれば、金属イオンと官能基とが十分な強度の結合を形成し易く、また、加熱により錯化ポリマーを流動させ易く、再成型がより容易となり、錯化ポリマーのリサイクル性が更に向上する。
【0045】
前記酸素原子を含む官能基としては、水酸基、カルボキシル基、或いは、これらに由来する官能基が挙げられる。例えば、金属イオンと錯化する際に、水酸基やカルボキシル基は、プロトンが外れ、水酸基やカルボキシル基のまま存在しないことがある。従って、水酸基由来の官能基には、水酸基と、水酸基からプロトンが外れた状態の基が包含され、また、カルボキシル基由来の官能基には、カルボキシル基と、カルボキシル基からプロトンが外れた状態の基が包含される。
【0046】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記官能基の少なくとも2つは、当該官能基中の酸素原子が前記金属イオンと結合していることが好ましい。官能基中の酸素原子が金属イオンと結合していることで、より高い強度の架橋を形成でき、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0047】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記酸素原子を含む官能基の少なくとも2つは、水酸基由来であることが好ましい。水酸基由来の官能基は、金属イオンと錯化し易く、より強度の高い架橋を形成でき、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0048】
本発明の錯化ポリマーおいては、前記官能基が、酸素原子を含む官能基を有する化合物に由来することが好ましい。酸素原子を含む官能基を有する化合物としては、上記一般式(2)で表される5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物、チオグリセロール等が挙げられる。
【0049】
本発明の錯化ポリマーにおいては、前記官能基が、前記ポリマー鎖中のモノマー単位に対して0.1~40mol%の量で結合していることが好ましく、0.1~30mol%であることがより好ましい。官能基が、ポリマー鎖中のモノマー単位に対して0.1mol%以上の量で結合している場合、高い強度の架橋を形成でき、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。また、官能基が、ポリマー鎖中のモノマー単位に対して40mol%以下の量で結合している場合、十分なエラストマー性を有する錯化ポリマーが得られ易い。
【0050】
(金属イオン)
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記官能基と錯化する金属イオンは、周期表3~12族の元素の金属イオンである。
具体的には、周期表3族の元素としては、スカンジウム、イットリウム等が挙げられる。
また、周期表4族の元素としては、チタン、ジルコニウム等が挙げられる。
また、周期表5族の元素としては、バナジウム、ニオブ等が挙げられる。
また、周期表6族の元素としては、クロム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
また、周期表7族の元素としては、マンガン、レニウム等が挙げられる。
また、周期表8族の元素としては、鉄、ルテニルム、オスミウム等が挙げられる。
また、周期表9族の元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。
また、周期表10族の元素としては、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。
また、周期表11族の元素としては、銅、銀等が挙げられる。
また、周期表12族の元素としては、亜鉛等が挙げられる。
周期表3~12族の元素の金属イオンは、酸素原子を含む官能基との結合が強くなり易い。
なお、周期表3~12族の元素の金属イオンに関して、イオンの価数は特に限定されず、各元素の取り得る任意の価数をとることができる。
【0051】
前記金属イオンは、周期表7~12族の元素の金属イオンから選択されることが好ましい。金属イオンが、周期表7~12族の元素の金属イオンである場合、酸素原子を含む官能基との結合が更に強くなり易く、より高い強度の架橋を形成できる。
【0052】
前記金属イオンは、周期表第4周期及び第5周期の元素の金属イオンから選択されることが好ましい。周期表第4周期及び第5周期の元素の金属イオンは、酸素原子を含む官能基への配位力が高く、金属イオンと官能基との結合解離エネルギーが向上して、錯化ポリマーの切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。
【0053】
前記金属イオンは、鉄イオン、銅イオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。鉄イオン、銅イオン及び亜鉛イオンは、酸素原子を含む官能基との結合が特に強くなり易く、より強度の高い架橋構造を形成できる。なお、鉄イオンの価数は、2価(Fe2+)又は3価(Fe3+)であることが好ましい。
【0054】
本発明の錯化ポリマーにおいて、前記金属イオンは、前記官能基が結合したポリマー鎖に、金属塩を添加することで錯化されることが好ましい。この場合、簡便に、錯化ポリマーを得ることができ、強度の高い架橋を形成できる。なお、添加する金属塩の形態は、特に限定されず、例えば、水和物等であってもよい。また、金属塩の添加量は、ポリマー鎖100質量部に対して、0.1~10質量部の範囲が好ましく、0.1~5質量部の範囲がより好ましい。
【0055】
前記金属塩としては、金属のハロゲン化物、金属の硫酸塩、金属の硝酸塩、等が挙げられ、これらの中でも、金属のハロゲン化物が好ましい。金属のハロゲン化物は、取り扱い易く、より簡便に高い強度の架橋を形成できる。
【0056】
また、前記金属のハロゲン化物としては、金属のフッ化物、金属の塩素化物、金属の臭化物、金属のヨウ化物等が挙げられ、これらの中でも、金属の塩素化物が好ましい。金属の塩素化物は、取り扱い易く、より一層簡便に高い強度の架橋を形成できる。
【0057】
また、前記金属塩は、金属酸化物、炭酸金属塩、及び脂肪酸金属塩以外であることが好ましい。金属酸化物、炭酸金属塩、及び脂肪酸金属塩以外の金属塩は、酸素原子を含む官能基に更に配位結合し易い(更に錯化し易い)。そのため、これら以外の金属塩を使用することで、配位結合による架橋を更に形成し易くなる。
【0058】
前記金属塩として、具体的には、FeCl、FeCl・4HO、FeCl、FeCl・6HO、CuCl、CuCl・2HO、ZnCl等が挙げられる。また、金属塩は、1種のみでも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0059】
<錯化ポリマーの製造方法>
本発明の錯化ポリマーの製造方法は、上述した錯化ポリマーの製造方法である。
本発明の錯化ポリマーの製造方法は、前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を反応させることを特徴とする。
かかる本発明の錯化ポリマーの製造方法によれば、前記錯化ポリマーを簡便に得ることができる。
【0060】
ここで、前記ポリマー鎖に結合した官能基と前記金属塩とのモル比(ポリマー鎖に結合した官能基/金属塩)は、2以上であることが好ましい。ポリマー鎖に結合した官能基と金属塩とのモル比が2以上の場合、金属塩由来の過剰の金属イオンを低減でき、金属イオンに起因する、錯化ポリマーの劣化を抑制できる。ポリマー鎖に結合した官能基と金属塩とのモル比(ポリマー鎖に結合した官能基/金属塩)は、錯化ポリマーの劣化抑制の観点から、4以上が更に好ましく、また、金属イオンによる架橋構造を増加させる観点から、8以下が好ましい。
【0061】
前記ポリマー鎖又は官能基が結合したポリマー鎖は、重量平均分子量(Mw)が300~1,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることが更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が1,000以上であると、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上し、重量平均分子量(Mw)が1,000,000以下であると、加工性が向上する。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求める。
【0062】
また、前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩(金属イオン)との錯化反応において、温度、圧力、時間等の反応条件は、使用する前記官能基が結合したポリマー鎖や、金属イオンの種類、反応性に応じて、適宜選択することが好ましい。
【0063】
本発明の錯化ポリマーは、上記の通り、合成する等して、予め準備してもよいが、例えば、後述するゴム組成物の製造方法の項に記載の通り、ゴム組成物の製造過程(in situ)で生成させてもよい。
【0064】
--官能基が結合したポリマー鎖の第一の製造方法--
前記官能基が結合したポリマー鎖は、例えば、上述の一般式(1)で表されるシクロオクタ-1,5-ジエン化合物と、一般式(2)で表される5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物とを、開環メタセシス重合させて形成してもよい。一例として、一般式(1)で表される化合物として、シクロオクタ-1,5-ジエンを使用し、一般式(2)で表される化合物として、5-シクロオクテン-1,2-ジオールを使用した場合の開環メタセシス重合の反応スキームを以下に示す。
【化3】
【0065】
一般式(1)で表されるシクロオクタ-1,5-ジエン化合物と、一般式(2)で表される5-シクロオクテン-1,2-ジオール化合物とのモル比は、1:9~9:1の範囲が好ましく、目的に応じて適宜選択できる。
前記開環メタセシス重合においては、公知の触媒を使用することができ、例えば、チタン錯体、ジルコニウム錯体、モリブデン錯体、ルテニウム錯体、タンタル錯体、タングステン錯体、レニウム錯体等の遷移金属錯体が挙げられる。これらの中でも、遷移金属-カルベン錯体、例えば、グラブス第一世代触媒、グラブス第二世代触媒、Hoveyda-Grubbs触媒等の触媒が好ましい。なお、グラブス第二世代触媒は、下記構造式:
【化4】
で表され、市販品を利用することができる。触媒の使用量は、例えば、原料のモノマー1モルに対して、0.001~10モル%が好ましく、0.01~1モル%が更に好ましく、0.01~0.1モル%が特に好ましい。
【0066】
前記開環メタセシス重合においては、反応温度は、-50℃~180℃が好ましく、-20~100℃が更に好ましく、-10~80℃がより一層好ましい。また、反応時間は、1~24時間が好ましく、反応圧力は、加圧、減圧、大気圧のいずれでもよいが、大気圧が好ましい。また、反応雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
前記開環メタセシス重合は、溶媒中で行ってもよく、溶媒としては、反応に不活性な溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましい。
【0067】
--官能基が結合したポリマー鎖の第二の製造方法--
また、前記官能基が結合したポリマー鎖は、ポリマー鎖に、酸素原子を含む官能基を有する化合物を反応させて、形成してもよい。ここで、ポリマー鎖は、前記ジエン化合物及び/又は前記オレフィン化合物を重合又は共重合させて合成することができる。
また、前記酸素原子を含む官能基を有する化合物は、硫黄原子を含む官能基を有することが好ましい。酸素原子を含む官能基と、硫黄原子を含む官能基とを有する化合物は、ポリマー鎖に容易に付加できる。
【0068】
前記硫黄原子を含む官能基としては、チオール基(「メルカプト基」とも呼ばれる。)、スルフィド基(「チオエーテル基」とも呼ばれる。)等が挙げられ、チオール基が好ましい。酸素原子を含む官能基を有する化合物が、硫黄原子を含む官能基としてチオール基を有する場合、ポリマー鎖に更に付加し易くなる。
【0069】
前記酸素原子を含む官能基を有する化合物は、酸素原子を含む官能基として、水酸基を2つ以上有することが好ましい。また、該水酸基を2つ以上有する化合物は、当該化合物中の少なくとも2つの水酸基が隣り合う炭素原子に結合していることが好ましい。即ち、水酸基を2つ以上有する化合物は、硫黄原子を含む官能基を有するビシナルジオールであることが好ましい。少なくとも2つの水酸基が隣り合う炭素原子に結合していることで、1つのポリマー鎖に付加した水酸基を有する化合物の水酸基と、他のポリマー鎖に付加した水酸基を有する化合物の水酸基とが、近接した位置で金属イオンとの結合を複数形成し、架橋構造の強度がより向上する。
【0070】
前記水酸基を2つ以上有する化合物としては、1-メルカプト-1,2-エタンジオール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(「チオグリセロール」又は「α-チオグリセロール」とも呼ばれる。)、2-メルカプト-1,2-プロパンジオール、1-メルカプト-1,2-プロパンジオール、3-メルカプト-2-メチル-1,2-プロパンジオール、3-メルカプト-2-エチル-1,2-プロパンジオール、1-メルカプト-2-メチル-1,2-プロパンジオール、1-メルカプト-2-エチル-1,2-プロパンジオール等が挙げられる。これらの中でも、チオグリセロールが好ましい。
【0071】
--官能基が結合したポリマー鎖のその他の製造方法--
前記官能基が結合したポリマー鎖は、上述の第一の製造方法、第二の製造方法に限られず、その他の製造方法で、形成してもよい。例えば、エポキシ基を有するポリマー鎖を合成し、該エポキシ基を開環(加水分解)することで、2つの水酸基が隣り合う炭素原子に結合しているポリマー鎖を得ることができる。
【0072】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、上記の錯化ポリマーを含むことを特徴とする。かかる本発明のゴム組成物は、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上している。
【0073】
本発明の一実施態様のゴム組成物は、ゴム成分として、上記の錯化ポリマーを含む。なお、本発明のゴム組成物は、上記の錯化ポリマー以外のゴム成分を含んでもよく、かかるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、合成ジエン系ゴム、非ジエン系ゴム等が挙げられる。また、該合成ジエン系ゴムとしては、合成イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられ、非ジエン系ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
また、ゴム組成物のゴム成分は、上記錯化ポリマーの割合が10質量%以上であることが好ましく、上記錯化ポリマーの割合が100質量%であってもよい。
【0074】
なお、前記錯化ポリマーは、ポリマー鎖がオレフィン単位を含み、ジエン単位を含まない場合は、樹脂成分となる。この場合、ゴム組成物のゴム成分としては、任意のゴムを使用することができ、該ゴム成分としては、上記の天然ゴム(NR)、合成ジエン系ゴム、非ジエン系ゴム等を利用できる。
【0075】
本発明のゴム組成物には、上述した錯化ポリマー、ゴム成分の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)、軟化剤、ワックス、ステアリン酸、老化防止剤、シランカップリング剤、亜鉛華(酸化亜鉛)、加硫促進剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、本発明のゴム組成物は、硫黄、過酸化物を少量(例えば、3質量部以下)含む、又は、含まないことが好ましい。ここで、硫黄を少量含む、又は含まない場合においても、本発明のゴム組成物は、加硫促進剤を含んでいても良く、また、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤としては、スルフェンアミド系の加硫促進剤を含むことが好ましい。
【0076】
本発明のゴム組成物の一実施態様においては、ゴム組成物中の硫黄量が、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることが更に好ましく、該硫黄量は、0質量部であってもよい。かかるゴム組成物は、硫黄量が少ないため、一度形成されると開裂が難しい硫黄由来の架橋構造(S-S結合、C-S結合等)が少なく、リサイクルし易い。
【0077】
また、本発明のゴム組成物の他の一実施態様においては、ゴム組成物中の過酸化物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることが更に好ましく、該過酸化物の含有量は、0質量部であってもよい。かかるゴム組成物は、過酸化物の含有量が少ないため、一度形成されると開裂が難しい過酸化物に起因する架橋構造(C-C結合等)が少なく、リサイクルし易い。
【0078】
また、本発明のゴム組成物の他の一実施態様においては、ゴム組成物中の硫黄量が、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下で、且つ、ゴム組成物中の過酸化物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、また、ゴム組成物中の硫黄量が、0.3質量部以下で、且つ、ゴム組成物中の過酸化物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.3質量部以下であることが更に好ましい。かかるゴム組成物は、硫黄量、及び過酸化物の含有量が少ないため、硫黄由来、及び過酸化物に起因する架橋構造(S-S結合、C-S結合、C-C結合等)が少なく、リサイクルし易い。
【0079】
前記ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。該ワックスの含有量は、特に制限はなく、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0080】
前記ステアリン酸の含有量は、特に制限はなく、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.5~4質量部がより好ましい。
【0081】
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)等が挙げられる。該老化防止剤の含有量は、特に制限はなく、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0082】
前記亜鉛華(酸化亜鉛)の含有量は、特に制限はなく、ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~5質量部がより好ましい。
【0083】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。前記加硫促進剤の含有量は、特に制限はなく、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~3質量部の範囲が更に好ましい。
【0084】
本発明のゴム組成物は、種々のゴム製品に利用できる。例えば、ゴム製品としては、タイヤ、ゴムクローラ、免震ゴム等が挙げられる。
【0085】
<ゴム組成物の製造方法>
本発明のゴム組成物の製造方法は、上述の錯化ポリマーを含むゴム組成物の製造方法である。なお、錯化ポリマーは、ゴム組成物の製造過程で生成させてもよい。
【0086】
本発明の一実施態様のゴム組成物の製造方法は、前記官能基が結合したポリマー鎖と、周期表3~12族の元素を含む金属塩と、を混錬することで錯化ポリマーを生成させる。
かかるゴム組成物の製造方法は、ゴム組成物の製造(ゴム組成物の混練)中に錯化ポリマーを調製できるため、生産性に優れる。
なお、混錬においては、上述したような、任意の配合剤を同時に配合してもよい。
【0087】
ここで、前記ゴム組成物の製造においては、前記金属塩の配合量が、前記官能基が結合したポリマー鎖100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることが更に好ましい。金属塩の配合量が、前記官能基が結合したポリマー鎖100質量部に対して0.1質量部以上であると、金属イオンによる架橋構造が増加して、ゴム組成物の切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が更に向上する。また、金属塩の配合量が、前記官能基が結合したポリマー鎖100質量部に対して10質量部以下であると、金属塩由来の過剰の金属イオンを低減でき、金属イオンに起因する、錯化ポリマーの劣化を抑制できる。
【0088】
本発明のゴム組成物の製造方法は、上述の方法に限定されない。例えば、本発明の他の一実施態様のゴム組成物の製造方法は、混練の第一段階において、ポリマー鎖と、酸素原子を含む官能基を有する化合物と、を混練することで、官能基が結合したポリマー鎖を形成する。また、本発明の他の一実施態様のゴム組成物の製造方法は、混練の第二段階以降において、金属塩を添加し、混練することで、前記官能基が結合したポリマー鎖を錯化して、錯化ポリマーを形成する。かかるゴム組成物の製造方法は、ゴム組成物の製造(ゴム組成物の混練)中に錯化ポリマーを調製できるため、生産性に優れる。
【0089】
また、本発明の他の一実施態様のゴム組成物の製造方法は、前記錯化ポリマーを予め形成し、予め形成しておいた該錯化ポリマーを混練時に配合する。かかるゴム組成物の製造方法によっても、上記の錯化ポリマーを含むゴム組成物を簡便に製造でき、また、生産性にも優れる。
【0090】
また、本発明の他の一実施態様のゴム組成物の製造方法は、官能基が結合したポリマー鎖を予め調製し、混練の第一段階において、該官能基が結合したポリマー鎖と、任意の配合剤と、を混練し、混練の第二段階以降において、金属塩を添加し、混練することで、前記官能基が結合したポリマー鎖を錯化して、錯化ポリマーを形成する。かかるゴム組成物の製造方法によっても、上記の錯化ポリマーを含むゴム組成物を簡便に製造でき、また、生産性にも優れる。
【実施例0091】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
<官能基が結合したポリマー鎖の合成方法>
モノマーとして、シクロオクタ-1,5-ジエンと、5-シクロオクテン-1,2-ジオールを使用し、macromolecules 2020,53,4121に従って、開環メタセシス重合を行い、水酸基を有するポリマーを合成した。
合成した水酸基を有するポリマーは、ポリマーの全構成単位に対して、シクロオクタ-1,5-ジエン単位の割合が80モル%であり、5-シクロオクテン-1,2-ジオール単位の割合が20モル%である。
【0093】
<ゴム組成物の製造>
表1、表2及び表3に示す配合処方で混練して、ゴム組成物を製造した。なお、混練第一段階、第二段階の順に混練を行い、実施例においては、混練の第二段階で、塩化鉄(II)4水和物を加え、錯化ポリマーを形成した。混練第一段階は、110℃で3分間行い、混練第二段階は、80℃で1分30秒間行った。得られたゴム組成物に対し、下記の方法で切断時引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)を測定した。
【0094】
なお、比較例2及び比較例3については、混錬してもゴム組成物がまとまらず、切断時引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)の測定を行えなかった。
また、比較例4については、官能化ポリマー単独であるため、混錬を行わなかった。
また、実施例1及び実施例2で製造したゴム組成物中の錯化ポリマーに関して、鉄イオンと酸素含有官能基(水酸基)との結合解離エネルギーは、約218kJ/molである。
【0095】
(1)TB及びEBの測定方法
ゴム組成物からJIS 7号ダンベル状試験片を作製し、JIS K6251に準拠して、室温(23℃)及び高温(100℃)で引張試験を行うことによって、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を測定した。表1においては、比較例1の室温(23℃)での切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を100として、それぞれ指数表示した。また、表2においては、比較例4の室温(23℃)及び高温(100℃)での切断時引張強さ(TB)を100として、それぞれ指数表示した。また、表3においては、比較例1の室温(23℃)での切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)を100として、それぞれ指数表示した。指数値が大きい程、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が大きいことを示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
*1 水酸基を有するポリマー: 上記の方法で合成した水酸基を有するポリマー
*2 ブタジエンゴム: 旭化成株式会社製、商品名「タフデン(登録商標)2000R」
*3 ステアリン酸: 花王社製、商品名「ルナックS-70V」
*4 ワックス: 精工化学社製、商品名「サンタイトA」
*5 老化防止剤6PPD: N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
*6 FeCl・4HO: 富士フイルム和光純薬社製
*7 亜鉛華: 富士フイルム和光純薬社製
*8 加硫促進剤DPG: 1,3-ジフェニルグアニジン、住友化学社製、商品名「ソクシノールD」
*9 加硫促進剤CBS: N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、三新化学工業社製、商品名「サンセラーCM-G」
*10 加硫促進剤DM: ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーDM-P」
*11 硫黄: 富士フイルム和光純薬社製
*12 α-チオグリセロール: 東京化成工業社製
【0100】
表1及び表3から、本発明に従う実施例のゴム組成物は、一般的な硫黄架橋のゴム組成物(比較例1)に比べて、切断時引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)が向上していることが分かる。
また、表2から、本発明に従う実施例のゴム組成物は、ジオールの水素結合により架橋したエラストマー(比較例4)に比べて、室温及び高温での切断時引張強さ(TB)が向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の錯化ポリマー及びゴム組成物は、タイヤ、ゴムクローラ、免震ゴム等の種々のゴム製品に利用できる。