IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー・ファインケム株式会社の特許一覧

特開2023-138151トリアルキルアルミニウムの製造方法
<>
  • 特開-トリアルキルアルミニウムの製造方法 図1
  • 特開-トリアルキルアルミニウムの製造方法 図2
  • 特開-トリアルキルアルミニウムの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138151
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】トリアルキルアルミニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20230922BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20230922BHJP
   B01J 31/26 20060101ALI20230922BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C07F5/06 A
B01J31/02 102Z
B01J31/26 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044695
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 紗久良
(72)【発明者】
【氏名】松添 哲
【テーマコード(参考)】
4G169
4H039
4H048
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BB08A
4G169BB08B
4G169BC10A
4G169BC10B
4G169BC16A
4G169BD12A
4G169BD14A
4G169BD14B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CB02
4H039CA19
4H039CD20
4H048AA02
4H048AC90
4H048BA06
4H048BA37
4H048BA51
4H048VA80
4H048VB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トリアルキルアルミニウムの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、含窒素有機化合物の存在下、アルキルアルミニウムハロゲン化物を還元し、トリアルキルアルミニウムを製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素有機化合物の存在下、アルキルアルミニウムハロゲン化物を還元し、トリアルキルアルミニウムを製造する方法。
【請求項2】
前記還元を、還元剤としてアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属ならびにそれらの金属を含む合金を使用して行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、リチウム合金、ナトリウム合金、カリウム合金、マグネシウム合金、カルシウム合金、バリウム合金、ストロンチウム合金から成る群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルキルアルミニウムハロゲン化物がジメチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリドから成る群から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記含窒素有機化合物が、窒素原子を少なくとも1個含み、かつ5員環及び/または6員環骨格を有する共役複素環化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記共役複素環化合物が、ジメチルアルミニウムクロリドと錯体を形成することが可能であり、ここで当該含窒素有機化合物の窒素原子と当該窒素原子に対して最短距離に位置するジアルキルアルミニウムハロゲン化物のアルミニウム原子との結合距離が3.4Å未満であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記共役複素環化合物が、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、2,2-ビピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる、請求項6に記載の錯体。
【請求項8】
前記還元が、さらにハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物の存在下で行う、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物がヨウ素、塩化アルミニウム、ヨウ化マグネシウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ハロゲン単体がヨウ素である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの新規な製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
トリアルキルアルミニウム、例えばトリメチルアルミニウム(TMAL)はポリオレフィン合成の重合助触媒の原料として用いられており、近年では化合物半導体の原料としても注目を集めている。TMALは、メチルアルミニウムハロゲン化物を金属ナトリウムで還元することで得ることができ、工業的な合成も確立されている(A. V. Grosse, et.al., J. Org. Chem., 05, 2.106-121(非特許文献1)) (下記反応式1-1、1-2でその反応スキームを示す)。
2Al+3MeCl→Me2AlCl+MeAlCl2 (MeAlCl) (反応式1-1)
3Me3-xAlClx+3xNa→(3‐x)Me3Al+xAl+3xNaCl
(反応式1-2) (x=1または2)
【0003】
その他にも、DMAC(ジメチルアルミニウムクロリド)を金属マグネシウムで還元させる製法(米国特許5380898号(特許文献1))またはAl‐Mg合金とハロゲン化メチルを反応させて得る製法がある(反応式2)(米国特許2744127号(特許文献2)及び特開2018-135300号公報(特許文献3))。
Al2Mg3+6MeX→2Me3Al+3MgX2 (反応式2)
【0004】
従前のトリアルキルアルミニウムの製造方法は、安全面だけでなく、コストや工程数の面でも解決すべき課題を抱えていた。たとえば、トリアルキルアルミニウムの製造において、金属Naを使用してDMACを還元反応する場合、収率は85%程度である。その収率を改善する目的として、フッ化物(NaF,KF, CaF2)等を触媒として添加する例があるが(特開平4-273884号公報(特許文献4))、その場合にはフッ化物を使用することによる廃棄物処理や未反応金属Naの処理などが問題となる。また、マグネシウム粉末でDMACを還元する場合、最大径75μm以下の粉末を使用し、固体反応装置という専用装置で、かつ反応温度140~180℃といった高温条件で3~6時間以上反応させる必要がある(特許文献1)。同様にAl-Mg合金粉末で還元するには、さらに細かい微粒(平均粒径 D50=5~20 μm)を用い、かつ反応温度が130℃で24時間以上といった長時間を要する(特許文献3)。
【0005】
このように、金属Naで還元する方法では,収率改善等の目的で触媒を添加した例が報告されているが,マグネシウム粉末やAl-Mg合金などを使用した系では、触媒の添加により反応性の改善に成功した例の報告はない。金属Naに比べマグネシウム粉末やAl-Mg合金の方がはるかに取り扱い容易であるため、このような取り扱い容易な金属マグネシウム粉末等を使用した反応系の反応効率を高める手段の出現が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許5380898号
【特許文献2】米国特許2744127号
【特許文献3】特開2018-135300号公報
【特許文献4】特開平4-273884号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. V. Grosse, et.al., J. Org. Chem., 05, 2.106-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの新規な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、取り扱いが容易なAl-Mg合金やマグネシウム粉末を用いて行うDMACの還元反応において、含窒素有機化合物を触媒量添加することで、効率良くTMALを得られることを見出した。そして、その反応効率はハロゲン単体やハロゲン化合物を追加して使用することでさらに高めることができることも見出した。
なお、炭化水素溶媒にジアルキルアルミニウムクロリドを溶解させ、そこに所定の含窒素有機化合物を添加すると、当該溶媒に不溶な、単離可能な複合体が沈降分離することが見出され、1H-NMRで組成比を確認すると、その複合体は、当該ジアルキルアルミニウムクロリドと含窒素有機化合物とより、モル比にて2:1の比率で形成される錯体であるという知見を得ている。驚くべきことに、この錯体にAl-Mg合金及び/又はマグネシウム粉末などを添加することで、重合助触媒や有機半導体材料の製造に用いられる重要な物質であるトリアルキルアルミニウムを極めて効率よく生成できることが見出された。かかる知見に基づき、含窒素有機化合物の中でもとりわけアルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムに至る還元の際、アルキルアルミニウムハロゲン化物と錯体を形成できる含窒素有機化合物がその還元の効率を高める触媒として作用することがわかった。
【0010】
従って、本願は以下の発明を包含する。
(1)含窒素有機化合物の存在下、アルキルアルミニウムハロゲン化物を還元し、トリアルキルアルミニウムを製造する方法。
(2)前記還元を、還元剤としてアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属ならびにそれらの金属を含む合金を使用して行うことを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)前記還元剤が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、リチウム合金、ナトリウム合金、カリウム合金、マグネシウム合金、カルシウム合金、バリウム合金、ストロンチウム合金から成る群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を用いる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記アルキルアルミニウムハロゲン化物がジメチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリドから成る群から選ばれる、(1)~(3)に記載の方法。
(5)前記含窒素有機化合物が、窒素原子を少なくとも1個含み、かつ5員環及び/または6員環骨格を有する共役複素環化合物である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記共役複素環化合物が、ジメチルアルミニウムクロリドと錯体を形成することが可能であり、ここで当該含窒素有機化合物の窒素原子と当該窒素原子に対して最短距離に位置するジアルキルアルミニウムハロゲン化物のアルミニウム原子との結合距離が3.4Å未満であることを特徴とする、(5)に記載の方法。
(7)前記共役複素環化合物が、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、2,2-ビピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる、(6)に記載の錯体。
(8)前記還元が、さらにハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物の存在下で行う、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記ハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物がヨウ素、塩化アルミニウム、ヨウ化マグネシウムである、(8)に記載の方法。
(10)前記ハロゲンがヨウ素である、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
従前のトリアルキルアルミニウムの製造方法は、安全面だけでなく、コストや工程数の面でも解決すべき課題を抱えていた。アルキルアルミニウムハロゲン化物の還元を触媒として使用する含窒素有機化合物の存在下で行う本発明により、従前知られている方法に比べ、より安全かつ効率的にトリアルキルアルミニウムを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】DMAC・ピリジン複合体によるTMALへの変換。
図2】DMAC・2,6-tert-ブチルピリジン複合体によるTMALへの変換。
図3】各種含窒素有機化合物/DMAC錯体(1:1)の密度汎関数法(DFT)による構造最適化とN-Al結合距離。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの新規な製造方法を提供する。トリアルキルアルミニウムには、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が含まれ、工業的に特に有用なのはトリメチルアルミニウムである。
【0014】
出発材料としてのアルキルアルミニウムハロゲン化物としては、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジプロピルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、メチルエチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、プロピルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、イソブチルアルミニウムセスキクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムフロリド、ジエチルアルミニウムフロリド、ジプロピルアルミニウムフロリド、ジイソプロピルアルミニウムフロリド、ジブチルアルミニウムフロリド、ジイソブチルアルミニウムフロリド、メチルエチルアルミニウムフロリド、メチルアルミニウムセスキフロリド、エチルアルミニウムセスキフロリド、プロピルアルミニウムセスキフロリド、イソプロピルアルミニウムセスキフロリド、ブチルアルミニウムセスキフロリド、イソブチルアルミニウムセスキフロリド、メチルアルミニウムジフロリド、エチルアルミニウムジフロリド、プロピルアルミニウムジフロリド、イソプロピルアルミニウムジフロリド、ブチルアルミニウムジフロリド、イソブチルアルミニウムジフロリド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジプロピルアルミニウムブロミド、ジイソプロピルアルミニウムブロミド、ジブチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムブロミド、メチルエチルアルミニウムブロミド、メチルアルミニウムセスキブロミド、エチルアルミニウムセスキブロミド、プロピルアルミニウムセスキブロミド、イソプロピルアルミニウムセスキブロミド、ブチルアルミニウムセスキブロミド、イソブチルアルミニウムセスキブロミド、メチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジブロミド、プロピルアルミニウムジブロミド、イソプロピルアルミニウムジブロミド、ブチルアルミニウムジブロミド、イソブチルアルミニウムジブロミド、ジメチルアルミニウムヨージド、ジエチルアルミニウムヨージド、ジプロピルアルミニウムヨージド、ジイソプロピルアルミニウムヨージド、ジブチルアルミニウムヨージド、ジイソブチルアルミニウムヨージド、メチルエチルアルミニウムヨージド、メチルアルミニウムセスキヨージド、エチルアルミニウムセスキヨージド、プロピルアルミニウムセスキヨージド、イソプロピルアルミニウムセスキヨージド、ブチルアルミニウムセスキヨージド、イソブチルアルミニウムセスキヨージド、メチルアルミニウムジヨージド、エチルアルミニウムジヨージド、プロピルアルミニウムジヨージド、イソプロピルアルミニウムジヨージド、ブチルアルミニウムジヨージド、イソブチルアルミニウムジヨージド、等が挙げられるがそれらに限定されるものではない。本発明で特に好ましいのはジメチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリドである。
【0015】
本発明において有効な含窒素有機化合物は窒素原子を一つ以上含有している化合物をいい、特に限定されるものではないが、含窒素有機化合物としてアミン化合物が挙げられる。アミン化合物は窒素原子を含む複素環化合物及び、アミド化合物の総称である。これらの含窒素有機化合物は2つ以上のものを併用しても良い。
【0016】
アミン化合物としては、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、を挙げることができる。脂肪族アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンのような第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジアミルアミン、ジシクロヘキシルアミンのような第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエタノールアミン、トリシクロヘキシルアミン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミンのような第3級アミンを挙げることができる。芳香族アミン化合物は、アニリン、N,N‐ジメチルアニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等が挙げられる。
【0017】
窒素原子を含む複素環式化合物としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン、のような飽和複素環式化合物、及びピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾールのような不飽和複素環式化合物が挙げられる。
【0018】
本発明において特に好ましい含窒素有機化合物は、窒素原子を少なくとも1個含み、かつ5員環及び/または6員環骨格を有する共役複素環化合物である。特に好ましい共役複素環化合物は、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、2,2-ビピリジン、1-メチルイミダゾール等であるが、それらに限定されるものではない。
【0019】
冒頭で述べた通り、アルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムに至る還元の際、含窒素有機化合物として特にアルキルアルミニウムハロゲン化物と錯体を形成できる含窒素有機化合物を触媒として使用すれば、その還元効率を促進させることができる。従って、本発明のトリアルキルアルミニウムの製造方法における還元触媒として特に有用な含窒素有機化合物は、ジアルキルアルミニウムハロゲン化物と錯体を形成することができ、その際に当該含窒素有機化合物の窒素原子と当該窒素原子に対して最短距離に位置するジアルキルアルミニウムハロゲン化物のアルミニウム原子との結合距離(N-Al距離)が3.4Å未満となる条件を満たすものである。本願実施例において確認されたとおり、特に好ましくはこのN-Al距離は最大で2.2Åであり、さらに好ましくはその範囲は2.0~2.2Åである。理論上、当該結合距離が3.4Å未満であれば、含窒素有機化合物はジアルキルアルミニウムハロゲン化物と錯体を形成することが可能であり、その結果、形成された錯体は、アルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムへの効率的な還元に有効活用できうる。
【0020】
上記N-Al距離は、例えば密度汎関数法(DFT)による量子化学計算を実施し、N原子(ルイス塩基性)とDMACのAl原子(ルイス酸性)間の結合距離として算出することができる。
【0021】
DFT計算は例えば以下の当業界において周知の手段及び設定条件を用いることで実施できる:
・計算ソフトウェア
Gaussian R 03 W (version 6.1)
・分子モデリングソフトウェア (結合距離の算出と構造描写)
GaussView 4.1
DFT計算で使用する関数
・相関交換汎関数: B3LYP
・基底関数: 6-31G (double-zeta基底)
・分極基底関数: d, p
【0022】
含窒素有機化合物の添加量は特に制限されないが、アルキルアルミニウムハロゲン化物1molに対して、0.001mol以上、0.5mol以下の範囲が好ましく、0.05mol以上、0.3mol以下の範囲がさらに好ましく、0.01mol以上、0.2mol以下の範囲がより好ましい。
【0023】
アルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムに至る還元には、アルカリ金属やアルカリ土類金属、ならびにそれらの金属を含む合金が還元剤として使用できる。このような還元剤の具体例には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、それらの金属を含む合金、例えばリチウム合金、ナトリウム合金、カリウム合金、マグネシウム合金、カルシウム合金、バリウム合金、ストロンチウム合金、などといった還元剤が挙げられる。その他にも、周期表にある銅、銀、金等の11属金属、亜鉛、カドミウム、水銀等の12属金属も使用できる。特に好ましいのはマグネシウムやマグネシウム合金であり、マグネシウム合金としてはとりわけアルミニウム-マグネシウム合金が好ましい。アルミニウム-マグネシウム合金を使用する場合、例えば、マグネシウムを20~99重量%含有する合金であることができ、マグネシウム含有量は30~99重量%であることがより好ましく、35~99重量%がさらに好ましい。
【0024】
使用する上記金属還元剤の量は、特に制限されないが、アルキルアルミニウムハロゲン化物1molに対して、例えば、0.1mol以上、10mol以下の範囲とすることができ、0.5mol以上、5mol以下の範囲であることがより好ましい。
【0025】
使用する上記金属還元剤の形状や粒径は特に限定されるものではないが、粉末状の場合、粒径は例えばメジアン径で1μm~1000μm程度であることが好ましく、10~500μmがさらに好ましく、20~300μmがもっとも好ましく、金属箔状の場合、その最大の厚みが1μm~150μm程度であることが好ましく、10~100μmがさらに好ましく、5~50μmがもっとも好ましい。金属還元剤の粉砕処理については、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の従来から知られている一般的な粉砕処理の方法で粉砕すればよい。
【0026】
アルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムに至る還元反応は無溶媒でもよく、反応生成物であるトリメチルアルミニウムを溶媒として利用することもできるが、有機溶媒中で行うのが好ましい。使用できる有機溶媒の種類に関して特に制限はないが、例えば、炭化水素溶媒を用いることができる。炭化水素溶媒は、疎水性かつ反応性の乏しい炭化水素溶媒であることが好ましく、そのような有機溶媒としては、例えば炭素数4~18の飽和炭化水素溶媒や炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒が使用できる。例えば、飽和炭化水素溶媒及び芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
炭素数4~18の飽和炭化水素溶媒の具体例としては、n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、デカヒドロナフタレン、パラフィン類Cn2n+2、イソパラフィン類Cn2n+2などが例示できる。特にn-ドデカンが好ましい。
【0028】
炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が例示できる。芳香族炭化水素は、無置換であるか、または炭素数1から8のアルキル基、炭素数3から8のシクロアルキル基及び炭素数2から8のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基を有してもよい。芳香族炭化水素の置換基である炭素数1から8のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、tert-ヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、tert-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、ネオオクチル、tert‐オクチル基が挙げられる。芳香族炭化水素の置換基である炭素数3から8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基が挙げられる。芳香族炭化水素の置換基である炭素数2から8のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン基が挙げられる。
【0029】
上記芳香族炭化水素の具体例としては、クメン、o-クメン、m-クメン、p-クメン、プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、1-フェニルペンタン、1-フェニルヘプタン、1-フェニルオクタン、1,2-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、メシチレン、1,3-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,4-ジ-tert-ブチルベンゼン、ジ-n-ペンチルベンゼン、トリ-tert-ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリンが挙げられる。
【0030】
本発明の還元方法において溶媒の使用は必須ではないが、溶媒を使用する場合、その量は特に限定されないが、1molのアルキルアルミニウムハロゲン化物に対して、例えば、0.1mol以上、100mol以下の範囲とすることができ、0.5mol以上、10mol以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明の反応において、含窒素有機化合物に加えて、驚くべきことに、ハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物の存在下で行うことで、還元の効率を更に向上させることができる。金属アルミニウムからアルキルアルミニウムへの転化の際にヨウ素などが触媒として作用することは知られているが、アルキルアルミニウムハロゲン化物からトリアルキルアルミニウムに至る還元にヨウ素などが触媒として作用することは知られておらず、含窒素有機化合物の存在下で使用することではじめて見出された知見である。ハロゲン単体としては、ヨウ素、臭素などが使用でき、ヨウ素が特に好ましい。ハロゲン化合物としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、臭化メチル、1,2-ジブロモエタン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、アルキルアルミニウムセスキクロライド、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、ジアルキルアルミニウムヨージド等が挙げられる。特に好ましいのはヨウ化マグネシウムである。
【0032】
ハロゲン単体及び/又はハロゲン化合物の添加量は、アルキルアルミニウムハロゲン化物1molに対して、0.01mol以上、0.3mol以下の範囲が好ましく、0.05mol以上、0.15mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0033】
反応の温度は、反応が進行する温度であれば何度でも構わない。20℃~200℃が好ましく、50℃~170℃がさらに好ましい。反応の時間は使用する含窒素有機化合物や金属還元剤など、様々な条件に応じて変動するものであり、特に制限されるものではないが、0.1~48時間が好ましく、0.5~24時間がさらに好ましく、1~12時間がより好ましい。
【0034】
反応方法は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよく、特に制限なく実施することができる。反応装置としては、縦型または横型の耐圧反応容器を用いることができる。例えば、耐圧性の撹拌器付オートクレーブを用いることができる。用いる撹拌翼としては、一般に知られているどのようなものでも良い。例えばプロペラ、タービン、パドル(ピッチドパドル)大型翼等が挙げられる。さらに、ホモジナイザーなども使用できる。
【0035】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0036】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0037】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0038】
1.含窒素有機化合物の還元触媒効果の検討
<実施例1>
ピリジン誘導体(2,6-ジメチルピリジン)を添加した反応例
(含窒素有機化合物触媒として2,6-ジメチルピリジンを使用)
窒素置換を行った100mlのシュレンク管に、Al‐Mg合金(D50:30.4μm)を7.09g(Al:3.01g、0.112mol、Mg:4.08g、0.168mol)、n‐ドデカン26.55g(0.156mol)、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)5.38g(0.058mol)、2,6-ジメチルピリジン0.726g(0.007mol、DMAC 1molに対して0.117mol)を投入して130℃で3時間、1200rpmで攪拌し、反応を行った。経時変化を1H-NMR分析により追跡し、DMACのピークが完全に消失した点を反応終点とした。反応終点の1H-NMR分析より、トリメチルアルミニウムクロライド(TMAL)が2.47g(0.03mol)生成したことを確認した。反応収率は理論値の97%であった。
【0039】
<実施例2>
ピリジン誘導体(2,6-ジメチルピリジン)を添加した反応例
(含窒素有機化合物触媒として2,6-ジメチルピリジン、ハロゲン単体触媒としてヨウ素を使用)
窒素置換を行った100mlのシュレンク管に、Al‐Mg合金(D50:30.4μm)を7.18g(Al:3.05g、0.113mol、Mg:4.13g、0.170mol)、n-ドデカン26.67g(0.157mol)、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)5.37g(0.058mol)、ヨウ素1.59g(0.006mol、DMAC 1molに対して0.108mol)及び2,6‐ジメチルピリジン0.624g(0.006mol、DMAC 1molに対して0.103mol)を投入して130℃で1時間、1200rpmで攪拌し、反応を行った。TMALが2.31g(0.032mol)生成したことを確認し、反応収率は理論値の93%であった。
【0040】
<実施例3>
ピリジン誘導体(2,6-ジメチルピリジン)を添加した反応例
(含窒素有機化合物触媒として2,6-ジメチルピリジン、ハロゲン化合物触媒としてヨウ化マグネシウムを使用)
窒素置換を行った100mlのシュレンク管に、Al‐Mg合金(D50:30.4μm)を7.23g(Al:3.0g、0.114mol、Mg:4.16g、0.171mol)、n-ドデカン26.72g(0.157mol)、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)5.40g(0.058mol)、ヨウ化マグネシウム1.55g(0.006mol、DMAC 1molに対して0.096mol)及び2,6-ジメチルピリジン0.606g(0.006mol、DMAC 1molに対して0.097mol)を投入して130℃で1時間、1200rpmで攪拌し、反応を行った。TMALが2.29g(0.032mol)生成したことを確認した。反応収率は理論値の92%であった。
【0041】
<実施例4>
実施例1と実質的に同じ条件で、その他の含窒素有機化合物、具体的にはピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、2,2-ビピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2、4、6-トリメチルピリジン、1-メチルイミダゾール、キノリン、イソキノリンの存在下でジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)の還元を行ったところ、同様に高い効率でTMALへ変換が確認された。従って、2,6-ジメチルピリジンに限らず、各種含窒素有機化合物がアルキルアルミニウムハロゲン化物の還元の触媒として有効に働くことが確認された。
【0042】
2.還元触媒として有効な含窒素有機化合物触媒の検討
<実施例5>
DMAC・ピリジン複合体
窒素置換を行った300 mlのガラス容器にn-ドデカン68.2 gを加えて、その後、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)22.0g、 0.24 molを混ぜて混合溶液とした。200 ml の分液漏斗にその混合液全量を加え、ピリジン(Py) 2.0g、0.025molを滴下した。滴下を始めてから直ちに2層に分離し、下層成分のみを抽出した。収量は7.3 gであった。1H-NMRで組成解析をした結果、DMAC : Py =2:1の組成であることが判明し、DMACとピリジンによる錯体の形成が確認された。1H-NMR (500 MHz、 THF-d8、 293K): 8.72(d、 2H)、 8.14(t、 1H)、 7.70(t、 2H)、 -0.76(s、 12H)
【0043】
<実施例6>
DMAC・2,6-ジメチルピリジン複合体
実施例4とほぼ同等の方法で実施。窒素置換を行った300mlのガラス容器にn-ドデカン57.1gを加え、その後、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)33.0g、0.24molを混ぜて混合溶液とした。200ml の分液漏斗にその混合液全量を加え、2,6-ジメチルピリジン(Lu) 2.0g、0.019molを滴下した。滴下を始めてから直ちに2層に分離し、下層成分のみを抽出した。収量は7.9gであった。1H-NMRで組成解析をした結果、DMAC : Lu=2:1の組成であることが判明し、DMACと2,6-ジメチルピリジンによる錯体の形成が確認された。1H-NMR(500 MHz、 THF-d8、 293K): 7.43(t、 1H)、 7.01(t、 2H)、 2.45(s、 6H)、 -0.79(s、 12H)
【0044】
<実施例7>
実施例5と実質的に同じ条件で、その他の含窒素有機化合物、具体的には2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2、4、6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、1-メチルイミダゾール、2、2-ビピリジンについてもDMACと混合したところ、同様に2層に分離し、DMACとの各含窒素有機化合物による錯体の形成が確認された。
【0045】
<比較例1>
DMAC・2,6-ジ-tert-ブチルピリジン混合物
実施例5とほぼ同等の方法で実施。窒素置換を行った300mlのガラス容器にn-ドデカン57.1gを加え、その後、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)33.0 g、 0.2 molを混ぜて混合溶液とした。200mlの分液漏斗にその混合液全量を加え、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン2.0g、 0.010 molを滴下したが、層分離の現象は認められず、錯体形成は確認できなかった。
【0046】
<複合体→トリメチルアルミニウム(TMAL)の変換反応について>
<実施例8>
DMAC・ピリジン複合体とアルミニウム-マグネシウム合金の反応
窒素置換を行った100mlのガラス製シュレンク管にn-ドデカン15.7 g、アルミニウム-マグネシウム合金(3.59g、 Al:Mg=42.5:57.5 (wt%))を加えて懸濁液とした。 次いで、DMAC・ピリジン複合体2.8 gを滴下し、130℃で5時間加熱攪拌を行った。反応温度を室温まで下げて、1H-NMR測定を実施すると、複合体のシグナルは消費され、新たにTMALのシグナルのみを観測した。その結果を図1に示す。TMALの反応収率は95%であり、従前の方法に比べ、極めて高い効率でTMALへの変換が達成された。
【0047】
<実施例9>
DMAC・2,6-ジメチルピリジン複合体とアルミニウム-マグネシウム合金の反応
実施例6で調製したDMAC・2,6-ジメチルピリジン(ルチジン)複合体について、実施例7と同様にして、TMALの変換反応について検討した。TMALの反応収率は96%であり、従前の方法に比べ、極めて高い効率でTMALへの変換が達成された。
【0048】
<比較例2>
DMAC・2,6-ジ-tert-ブチルピリジン混合物とアルミニウム-マグネシウム合金の反応
窒素置換を行った100mlのガラス製シュレンク管にn-ドデカン15.7 g、アルミニウム-マグネシウム合金(3.59g、 Al:Mg=42.5:57.5 (wt%))を加えて懸濁液とした。 次いで、DMAC・2,6-ジ-tert-ブチルピリジン混合物6.2 gを滴下し、130℃で5時間加熱攪拌を行ったが、DMACからTMALへの変換は認められなかった。その結果を図2に示す。
【0049】
実施例8~9及び比較例2の結果から、DMACと錯体形成可能な含窒素有機化合物は、DMACからTMALへの変換に有効活用できることがわかった。
【0050】
<考察>
以上のとおり、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2、4、6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、1-メチルイミダゾール、2、2-ビピリジンといった含窒素有機化合物についてはDMACとの混合で錯体を形成でき、DMACからTMALへの効率的な変換に有効活用できるのに対し、2,6-ジ-tert-ブチルピリジンはDMACと錯体形成できず、DMACからTMALへの変換には有効活用できない。
そこで、上記錯体形成に有効な含窒素有機化合物の共通的な物理化学的性質を検討した。ピリジン等の含窒素有機化合物はDMACと錯体形成するのに対して、含窒素有機化合物でありながらも2,6-ジ-tert-ブチルピリジンは錯体を形成しなかった。含窒素有機化合物がDMACと錯体形成するにはその窒素原子周りの配位環境が重要であると推察される。詳しくは、錯体形成が可能か否かは、錯体が形成された場合において理論的に想定される含窒素有機化合物のN原子(ルイス塩基性)とDMACのAl原子(ルイス酸性)の結合距離により決定されるものと推測する。そこで、汎用の密度汎関数法(DFT)による量子化学計算を実施し、錯体形成可能な含窒素有機化合物について、N原子(ルイス塩基性)とDMACのAl原子(ルイス酸性)間の結合距離を算出した。
【0051】
DFT計算は以下の手段を用いた。
・計算ソフトウェア
Gaussian R 03 W (version 6.1)
・分子モデリングソフトウェア (結合距離の算出と構造描写)
Gaussview 4.1
DFT計算で使用した関数
・相関交換汎関数: B3LYP
・基底関数: 6-31G (double-zeta基底)
・分極基底関数: d、 p
【0052】
なお、DFT計算に要する時間を短縮(計算負荷を低減)するため、結合距離の算出は形成錯体がDMAC: 含窒素有機化合物の1:1の錯体と仮定して実施した。
【化1】
【0053】
その結果を図3に示す。錯体形成可能な含窒素有機化合物により形成された錯体における算出されたN-Al間の結合距離は2.0~2.2Åの範囲であった。一方、錯体形成のできない含窒素有機化合物、ジ-tert-ブチルピリジンの場合、DFTによる計算が収束せず、結合距離の算定はできなかった。したがって、N原子、Al原子のファンデルワールス半径の和から算定すると、仮にジ-tert-ブチルピリジンとDMACが錯体形成したならば、その結合距離は3.4Å程度と推測される。
よって、錯体形成可能な含窒素有機化合物により形成された錯体における算出されたN-Al間の結合距離が3.4Å未満であれば、錯体形成が達成され、その結果DMACからTMALへの変換に有効活用できるものと期待できる。
【0054】
以上の知見から、含窒素有機化合物の中でもとりわけアルキルアルミニウムハロゲン化物のトリアルキルアルミニウムに至る還元の際、アルキルアルミニウムハロゲン化物と錯体を形成できる含窒素有機化合物がその還元の効率を高める触媒として作用することがわかった。
【0055】
3.窒素以外のヘテロ原子を持つ添加剤(トリフェニルホスフィン(PPh3)、ジイソプロピルエーテル)による還元触媒効果の確認
リンを有するPPh3又は酸素を有するジイソプロピルエーテルをそれぞれ添加し、アルキルアルミニウムハロゲン化物の還元反応を行ったが、両者共に反応は進行しなかった。どちらの反応系においても添加前後のAl濃度変化が無かったことから、アルキルアルミニウムハロゲン化物との複合体を形成せず、反応が進行しなかったと考えられる。
図1
図2
図3