(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138264
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/04 20060101AFI20230922BHJP
C08L 23/28 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230922BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230922BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230922BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L101/04
C08L23/28
C08K3/013
B32B15/08 101A
C09K3/00 P
F16F15/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154893
(22)【出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022041184
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 茂
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直弥
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 ゆり子
(72)【発明者】
【氏名】前田 大地
(72)【発明者】
【氏名】中尾 光宏
【テーマコード(参考)】
3J048
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AC03
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(57)【要約】 (修正有)
【課題】非拘束型制振材に用いることで、高い制振性を示す非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供することにある。
【解決手段】塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素化パラフィンと、無機フィラーとを含む非拘束型制振材用の樹脂組成物であって、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、基準温度が20℃のマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える条件における緩和弾性率G′′の値が1×107以上である非拘束型制振材用の樹脂組成物である。また、この非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振材料、基材10と、この非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振性樹脂層12と、を備える制振性積層体1である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素化パラフィンと、無機フィラーとを含む非拘束型制振材用の樹脂組成物であって、
せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、基準温度が20℃のマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′の値が1×107以上である非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項2】
前記マスターカーブにおける前記損失正接tanδの極大値を与える周波数が0.5Hz以上200Hz以下である請求項1に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対する、前記塩素化パラフィンの総量が、1000重量部以上5000重量部未満である請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーが、鱗片状である請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機フィラーが、マイカである請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機フィラーのアスペクト比が10以上である請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振材料。
【請求項8】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置され、請求項1又は2に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振性樹脂層と、を備える制振性積層体。
【請求項9】
前記基材は、金属を含む請求項8に記載の制振性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、制振材や遮音部材は、住宅、自動車、飛行機、船舶等の乗り物、OA製品筐体、家電製品等の筐体、配管等の輸送設備など、様々な分野において発生する振動、騒音を遮断、吸収させるために使用されている。制振材としては粘弾性を利用し、振動を効率よく熱に変換して吸収するような高分子材料を用いたものが用いられている。高分子材料の粘弾性を利用した制振材としては、粘弾性層を振動源に積層し、さらに振動源と接していない面に、金属等の弾性率の高い拘束層を積層した拘束型制振材がある。
【0003】
拘束型制振材は、粘弾性層が基材(振動源)と拘束層との間で大きくせん断変形するため、高い損失正接を有する樹脂組成物を用いることで、高い制振性を得ることができる。例えば、特許文献1には、損失正接が3を超える制振材料、及び、この制振材料の作製に用いられる制振材料用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
拘束型制振材は、拘束層を有するため表面が曲面の対象物に対しては適応範囲が限られていた。そこで、施工面や曲面への追従性の点で、粘弾性層を振動源に積層するだけの非拘束制振材が用いられている。また、車両等においてはロボットによる吹付等が可能であることから非拘束型制振材が主に用いられている。
【0006】
本発明は上記のことに鑑み、非拘束型制振材に用いることで、高い制振性を示す非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素化パラフィンと、無機フィラーを含み、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、20℃におけるマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′の値を1×107以上とする事で高い損失係数を得られる事を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1]塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素化パラフィンと、無機フィラーとを含む非拘束型制振材用の樹脂組成物であって、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、基準温度が20℃のマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′の値が1×107以上である非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[2]前記マスターカーブにおける前記損失正接tanδの極大値を与える周波数が0.5Hz以上200Hz以下である[1]に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[3]前記塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対する、前記塩素化パラフィンの総量が、1000重量部以上5000重量部未満である[1]又は[2]に記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[4]前記無機フィラーが、鱗片状である[1]から[3]のいずれかに記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[5]前記無機フィラーが、マイカである[1]から[4]のいずれかに記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[6]前記無機フィラーのアスペクト比が10以上である[1]から[5]のいずれかに記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振材料。
[8]基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置され、[1]から[6]のいずれかに記載の非拘束型制振材用の樹脂組成物を含む制振性樹脂層と、を備える制振性積層体。
[9]前記基材は、金属を含む[8]に記載の制振性積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非拘束型制振材に用いることで、高い制振性を示す非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る制振性積層体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の非拘束型制振材用の樹脂組成物、制振材料、及び制振性積層体の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されない。また、本明細書において、数値範囲を表す「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0011】
[非拘束型制振材用の樹脂組成物]
本発明の非拘束型制振材用の樹脂組成物(以下、「制振材用の樹脂組成物」ということがある。)は、塩素含有熱可塑性樹脂と、塩素化パラフィンと、無機フィラーとを含む非拘束型制振材用の樹脂組成物であって、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散分散モードにより測定された、室温に相当する20℃相当のマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′の値が1×107以上である。
【0012】
(塩素含有熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる塩素含有熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂を構成する元素として塩素を含むものである。塩素含有熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、塩素原子を含有させたことによる効果を有効に発揮させるためには、塩素以外の構成元素との重量の差が大きいほうが好ましい。塩素含有熱可塑性樹脂としては、炭素、水素及び塩素から構成される樹脂が好ましく、具体的には、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂と塩化ビニリデン系樹脂の共重合体、塩素化ポリエチレン系樹脂、塩素化塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂と酢酸ビニル系樹脂の共重合体等が挙げられ、これらの中でも、塩素化ポリエチレン系樹脂がより好ましい。
【0013】
塩素含有熱可塑性樹脂の塩素化度(全樹脂成分中の塩素含有量)は、20~80重量%であることが好ましく、25~75重量%であることがより好ましく、30~70重量%であることがさらに好ましい。塩素含有熱可塑性樹脂の塩素化度が20重量%以上であると、塩素含有熱可塑性樹脂の結晶が成長し難くなり、大きな損失正接tanδを与える事から緩和弾性率G′′の値が大きくなり、制振性能が向上する。また、塩素化度が80重量%以下であると、分子間力が強くなりすぎず、同様に大きな損失正接tanδを与える事から緩和弾性率G′′の値が大きくなり、制振性能が向上する。
【0014】
また、塩素含有熱可塑性樹脂には、塩素以外の置換基、例えば、シアノ基、水酸基、アセチル基、メチル基、エチル基、臭素、フッ素等が含まれていてもよい。このような塩素以外の置換基の割合は5重量%以下が好ましい。5重量%を越えると、制振性能が低下してしまう可能性がある。
【0015】
(塩素化パラフィン)
本発明で用いられる塩素化パラフィンは、特に限定されるものではないが、十分な制振性を得るため、塩素化度、及び、平均炭素数を以下の範囲とすることが好ましい。
本発明で用いられる塩素化パラフィンの塩素化度は、20~90重量%であることが好ましく、30~85重量%であることがより好ましく、40~80重量%であることがさらに好ましい。塩素化パラフィンの塩素化度が20重量%以上であると、塩素含有熱可塑性樹脂の結晶が成長し難くなる。また、塩素化度が90重量%以下であると、塩素含有熱可塑性樹脂の分子間力が強くなりすぎず、貯蔵弾性率G′が低くなる。従って、塩素化パラフィンの塩素化度を上記範囲とすることで、損失正接tanδの値が大きくなり、制振性能が向上する。
【0016】
炭素数が13以下の塩素化パラフィンは平成30年に化審法の第一種特定化学物質に指定されているなど安全上の問題がある事から好ましくない。また炭素数が大きすぎると塩素化パラフィン添加により粘性を十分付与する事する事が出来ない。以上の事から本発明で用いられる塩素化パラフィンの平均炭素数は、14~50であることが好ましく、14~28であることがより好ましい。
また炭素数、塩素化度のより高い塩素化パラフィンは損失正接tanδの極大値を与える周波数(以下、「tanδピーク周波数」ともいう。)がより低くなる事から炭素数、塩素化度の異なる二種類以上の塩素化パラフィンを用い、それらの配合比によってtanδピーク周波数を制御する事が出来る。
【0017】
本発明の制振材用の樹脂組成物に含まれる塩素化パラフィンの量は、塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対して1000重量部以上5000重量部未満であることが好ましく、1000重量部以上2500重量部未満であることがより好ましい。塩素化パラフィンの量が、塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対して1000重量部以上であると、大きな損失正接tanδを与えることが出来、制振性能が向上する。一方、塩素化パラフィンの量が塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対して5000重量部未満であると、得られる制振材料、及び制振性積層体を構成する制振性樹脂層の機械的強度が強くなり、形状を保持し易くなる。
【0018】
(無機フィラー)
本発明の制振材用の樹脂組成物は、無機フィラーを含有する。無機フィラーは、制振材用の樹脂組成物にある程度の硬さを付与するために用いられる。
本発明に用いられる無機フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、ガラスビーズ、黒鉛、アルミナ、酸化チタン、ワラストナイト、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ガラスファイバー、セルロースファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどが挙げられ、これらの中でもマイカを用いることが好ましい。
【0019】
本発明の制振材用の樹脂組成物に含まれる無機フィラーの量は、塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対して500~5000重量部が好ましく、1000~2500重量部がより好ましい。無機フィラーの量が、塩素含有熱可塑性樹脂100重量部に対して500重量部以上であると貯蔵弾性率G′を低くすることで制振性を向上させることができ、5000重量部以下であると基材に対しての塗布を容易に行うことができる。
【0020】
本発明に用いられる無機フィラーの形状は、特に限定されないが、鱗片状の板状フィラーであることが好ましい。
また、鱗片状の板状フィラーのアスペクト比は、10以上であることが好ましい。無機フィラーのアスペクト比は、無機フィラーの最大寸法(長径)及び最小寸法(短径)を測定し、最大寸法(長径)を最小寸法(短径)で除した値(長径/短径)をアスペクト比とする。無機フィラーのアスペクト比は、複数の無機フィラーの平均アスペクト比であることが好ましく、任意に選択した50個の各無機フィラーを電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、各無機フィラーの長径/短径の平均値を算出することにより求めることができる。なお、鱗片状の無機フィラーの場合は、無機フィラーの厚みが短径となる。
【0021】
(その他添加成分)
本発明の制振材用の樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じてその他の添加成分を含有させることができる。その他の添加成分としては、制振材料に粘着性を付与するためロジン系化合物等を含有させることができる。ロジン系化合物は、ロジン金属塩、ロジンエステル等が使用できる。
【0022】
また、制振材用の樹脂組成物の成形の際の熱安定剤として、錫系安定剤を含有させることができる。錫系安定剤は、特に限定されず、ジアルキル錫マレート、ジアルキル錫ビス(モノアルキルマレート)、ジブチル錫マレートポリマー、ジアルキル錫ラウレート、ジアルキル錫メルカプト、ジアルキル錫ビス(メルカプト脂肪酸エステル)、ジアルキル錫サルファイド、ジオクチル錫マレートポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
また、その他必要に応じて、可塑剤、充填材、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤などを含有させることができる。
【0024】
(制振材用の樹脂組成物の物性値)
〔緩和弾性率〕
本発明の制振材用の樹脂組成物は、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、基準温度が20℃のマスターカーブにおいて、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′の値が1×107以上である。損失係数は制振材用の樹脂組成物の緩和弾性率G′′と相関がある事が知られている事から、損失正接tanδの極大値を与える周波数における緩和弾性率G′′を1×107以上とすることで、本発明の制振材用の樹脂組成物は、優れた制振性を発揮することができる。緩和弾性率G′′は、2×107Pa以上であることが好ましい。上限値については、特に制限はないが、基材の弾性率に対してあまり高すぎると振動による変形が抑制されるため、通常5×1010Pa以下であることが好ましい。
【0025】
〔損失正接tanδの極大値を与える周波数〕
本発明者らは、本発明の非拘束型制振材用の樹脂組成物において、損失係数の極大値を持つ周波数が、粘弾性の周波数分散のマスターカーブにおけるtanδピーク周波数の約100倍の周波数である事を見出した。
このことから、本発明の制振材用の樹脂組成物は、せん断型動的粘弾性装置の周波数分散モードにより測定された、基準温度が20℃のマスターカーブにおける損失正接tanδの極大値を与える周波数(tanδピーク周波数)を0.5Hz以上200Hz以下の範囲内とすることが好ましく、tanδピーク周波数を0.5Hz以上100Hz以下の範囲内とすることがより好ましい。上記範囲とすることで、損失係数の極大値をtanδピーク周波数の100倍の周波数である50Hz以上20000Hz以下の間、より好ましくは、50Hz以上10000Hz以下の間に与える事が出来きる。損失係数の極大値を上記範囲とすることで、本発明の制振材用の樹脂組成物は、優れた制振性を発揮することができる。なお、マスターカーブを得る方法としてはWLF式によりシフトファクターを決めても良いし、測定装置の制御プログラム等でカーブフィッテングにより求めてもよい。
【0026】
[制振材料]
本発明の制振材料は、上記の制振材用の樹脂組成物を賦形することにより得られる。制振材料の形状は特に限定されず、シート状、板状、棒状、ブロック状であってもよいが、シート状である制振シートが好ましい。なお、「シート」とは、厚みに基づく厳密な意味に拘泥されるものではなく、通常「フィルム」と呼ばれる薄手のものや、「プレート」と呼ばれる厚手のものも含むものとする。制振シートの厚みは特に限定されるものではないが、薄すぎると制振効果が小さくなる可能性があり、厚すぎると振動の発生源等に施工する際の取扱いが不便になる可能性があり、0.05~50mmが好ましい。
【0027】
[制振性積層体]
次に、本発明の実施形態に係る制振性積層体について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る制振性積層体を示す断面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る制振性積層体1は、基材10と、基材10の一方の面に配置された制振性樹脂層12を有する。制振性樹脂層12は、上記制振材用の樹脂組成物を含んで構成される。
【0028】
制振性積層体1の厚みは任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると重量が重くなり施工性が悪くなるので、1mm~50mmであることが好ましく、2mm~40mmであることがより好ましく、3mm~30mmであることがさらに好ましい。
【0029】
(基材)
基材10は、高い弾性率を有する材料であれば、特に限定されない。基材10としては、例えば、鉛、鋼材(ステンレス鋼を含む)、銅、アルミニウム等の金属材料;コンクリート、石膏ボード、大理石、スレート、砂、ガラス等の無機材料などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種類以上併用されてもよい。
【0030】
基材10の厚みは、任意であってよいが、薄すぎると十分な制振性を得ることができず、厚すぎると重量が重くなり施工性が悪くなるので、50μm~50mmであることが好ましく、100μm~40mmであることがより好ましく、200μm~30mmであることがさらに好ましい。
【0031】
(制振性樹脂層)
制振性樹脂層12は、上述した制振材用の樹脂組成物により形成される。制振性樹脂層12の形成方法は、特に限定されず、例えば押出成形法、カレンダー成形法、溶剤キャスト法等の一般的なシート成形方法であってよいが、共押出連続生産が可能なマルチマニホールド法又はフィードブロック法による押出成形法が、生産性の観点から好ましい。制振性樹脂層12は、基材10に制振材用の樹脂組成物を塗布して成型してもよく、制振材用の樹脂組成物を成型した後、基材10を配置してもよい。
【0032】
制振性樹脂層12の厚みは、基材10の厚みに対して0.5~5倍である事が好ましく、1~3倍である事が好ましい。制振性樹脂層12の厚みが上記範囲内であることで、制振性を発揮することができ、振動の吸収又は低減を良好に行うことができる。なお、制振性樹脂層12の厚みは、制振性積層体1内において全て同じである必要はなく、上記範囲内であれば制振性積層体1内において異なる厚みを有していてもよい。
【0033】
なお、
図1に示す実施形態の制振性積層体1は、基材10の一方の面にのみ制振性樹脂層12が配置されているが、本発明はこれに限定されず、基材10の両方の面に制振性樹脂層12が配置された構成としてもよい。
【0034】
<制振性積層体の使用要領>
制振性積層体1の使用要領について説明する。制振性積層体1は、対象となる部材(以下「施工部材」という)に粘弾性樹脂を用いて貼着一体化させて用いられる。本発明の制振性積層体は、非拘束型制振材として用いられるため、施工部材と反対側の面が制振性樹脂層12とすることが好ましい。すなわち、基材10の一方の面に制振性樹脂層12が配置されている場合は、基材10と施工部材が貼り付けられて用いられる。基材10の両方の面に制振性樹脂層12が配置されている場合は、制振性樹脂層12と施工部材が貼り付けられて用いられる。施工部材としては、特に限定されず、例えば、自動車、鉄道、船舶及び航空機などの輸送機器の構成部材、建築物の構成部材(例えば、外壁部材、内装部材、天井部材など)、産業機械などの産業機器の構成部材、コンピューターなどのOA機器の構成部材、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品の構成部材などが挙げられる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、以下の材料及び測定方法を用いた。
【0036】
[塩素含有熱可塑性樹脂]
塩素含有熱可塑性樹脂として塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、品番「SDM―451B」、(塩素含有量45重量%))を用いた。
[塩素化パラフィン]
塩素化パラフィンとして、商品名「トヨパラックスA50」(東ソー社製(平均炭素数25、塩素含有量50重量%))、商品名「エンパラ70」(味の素ファインテクノ社製(平均炭素数26、塩素素含有量71.5重量%))を単体あるいは組み合わせて用いた。
[粘着付与剤]
粘着付与剤としてはロジンエステル(荒川化学工業社製、品番「KE-359」)を用いた。
[安定剤]
安定剤としては錫系の安定剤(日東化成社製、品番「TVS#8570」)を用いた。
[無機フィラー]
無機フィラーとしては表1に記載のものを用いた。
【0037】
【0038】
[樹脂組成物]
表2及び表3に示された配合比に従ってPE製のカップ中に各材料を秤量して140℃でロール機で混錬して実施例1~10及び比較例1、2の制振材用の樹脂組成物を得た。
【0039】
[測定方法]
(粘弾性評価)
実施例1~10及び比較例1、2の制振材用の樹脂組成物を、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートの間に挟み、熱プレスによって1.5mm厚のシート状樹脂組成物に成型した。このシート状樹脂組成物の貯蔵弾性率(G′)、緩和弾性率(G′′)及び損失正接(tanδ)を、粘弾性測定器(Acton Paar社製 MCR102)を用いて、温度10℃、20℃、30℃で周波数1~100Hz、ひずみ0.05%の条件で測定した。これを20℃に対する測定結果を基準に、連続したカーブを得られるように10℃、30℃に対する測定結果の時間軸をシフトさせる事で基準温度20℃のマスターカーブを得た。
当該マスターカーブにおいて損失正接(tanδ)が極大となる周波数を求め、その周波数における貯蔵弾性率(G′)、緩和弾性率(G′′)、及び損失正接(tanδ)の極大値を求めた。
【0040】
(損失係数測定)
70℃に加熱した幅10mm、長さ250mm、厚み1.5mmの鋼板(Fe基材)またはアルミ板(AL基材)の上に同型のシート状樹脂組成物をのせ、離型紙を介して手で軽く押さえて損失係数評価用試験片を作製した。これを、JIS K7391に基づいて、中央加振法により1次共振周波数から5次共振周波数における損失係数を算出した。
【0041】
【0042】
表2の記載から明らかなように、実施例1から実施例8の制振材用の樹脂組成物から得られた損失係数評価用試験片(制振積層体)は、損失正接tanδの極大値を与える周波数での緩和弾性率G′′の値が1×107以上であり、比較例1、2の制振材用の樹脂組成物から得られた損失係数評価用試験片と比較して高い損失係数を示しており、良好な制振性を示した。
特に鱗片状フィラーを用いた実施例1~5はより高い損失係数を示した。
【0043】
【0044】
表3の記載に示されたように、炭素数、塩素化度の異なる塩素化パラフィンを組み合わせた場合、それぞれの塩素化パラフィンの配合比によって樹脂組成物の損失正接tanδの極大値を与える周波数を制御する事が出来、損失正接tanδの極大値を与える周波数の約100倍の周波数(実施例9の一次共振、実施例10の二次共振、実施例11の四次共振)における損失係数が極大となる事が示された。この事から損失正接tanδの極大値を与える周波数が0.5Hz以上200Hz以下であれば50Hzから20000Hzの可聴域の範囲に損失係数の極大があり、制振材として望ましいことが確認できた。