(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138270
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】ルートキーパーとその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A61C8/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166547
(22)【出願日】2022-10-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2022044246
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】菊池 永喜
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159AA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁石式義歯のルートキーパーにおいて、機械加工法から冷間プレス工法に変更して、大幅なコスト低減と、回転防止機能や耐摩耗性を向上する。
【解決手段】磁気特性と冷間成形性に優れたCr系磁性ステンレス鋼を採用して、蛇腹付きの細長いルートを持つルートキーパー2を成形する冷間プレス工法を開発したものである。同時に、冷間成形のままのルートキーパーを使用して、磁性アタッチメントの優れた吸着力を確保すると同時に、回転防止機能や吸着面の耐摩耗性など既存品の欠点を解消するものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ式の磁石構造体とルートキーパーとからなる磁性義歯アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、Cr系磁性ステンレス鋼からなるキャップと、そのキャップに内蔵されたNd-Fe-B磁石と、中央部のCr-Ni系ステンレス鋼磁石および外周部のCr-Ni系ステンレス鋼(非磁性)からなる円盤状の蓋部品と、前記蓋部品と前記キャップとを溶接した溶接部とを備え、
前記キャップと前記Cr-Ni系ステンレス磁石との間に前記Cr-Ni系ステンレス鋼(非磁性)からなる非磁性部が介在している構造を形成するとともに前記Nd-Fe-B磁石と前記Cr-Ni系ステンレス鋼磁石との複合磁石による起磁力の高い磁気回路を形成し、
前記ルートキーパーは、前記磁石構造体と磁力でもって吸着するCr系磁性ステンレス鋼からなる磁性キーパーであって、吸着面を有するキーパー本体および前記キーパー本体の下部に取り付けられたルート部よりなる一体部品で、
前記キーパー本体は、透磁率500以下の磁気特性を有し、吸着面の硬さはHv180~Hv280を有しており、その形状とサイズは、平均直径2mm~5mm、高さ0.3mm~0.8mmの略円盤状からなり、
前記ルート部は、前記キーパー本体の下面の中央部から長手方向に延伸し、谷部と山部が交互に形成される、長さ3mm~7mmの蛇腹構造であって、山部が丸形状と少なくとも1ケ所は方形形状からなり、谷部が丸形状からなり、
その蛇腹構造と前記キーパー本体とを結合するテーパーを有する付け根部からなることを特徴とするルートキーパー。
【請求項2】
請求項1に記載されているルートキーパーの製造方法において、
(1)Cr系磁性ステンレス鋼製の引張強さ50kg/mm2以下の軟質細線を製作する工程と、
(2)軟質細線は所定の寸法にスキンパス加工し、潤滑剤処理をして冷間鍛造用細線に仕上げた後に、所定の長さに切断し、冷間鍛造素材とする工程と、
(3)その素材を冷間鍛造にて、まずキーパー本体はプレス加工し、つぎにルート部は押し出し加工して、
(4)さらに押し出し加工されたルート部の前記付け根部に、丸形状および方形形状よりなる山部と丸形状よりなる谷部とからなる蛇腹構造を加工する工程を組み合わせた冷間鍛造工程と、
からなることを特徴とするルートキーパーの製造方法
【請求項3】
請求項2において、
(5)前記キーパー本体の吸着面を凹凸度1μm以下に研磨する研磨工程と、
からなることを特徴とするルートキーパーの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石式義歯に使用されるルートキーパーとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁石式義歯は、義歯に磁石構造体を装着し、支台歯の最上部に磁性キーパーを設置して、磁石構造体とキーパーの両者間に作用する磁力でもって義歯を維持固定する装置である。磁性キーパーを支台歯最上部に固定する方法として、鋳造法、接着剤固定法などが行われているが、本発明は接着剤方式に使用するルートキーパーとその製造方法に関する発明である。
【0003】
ルートキーパーは、吸着力を大きくできるCr系磁性ステンレス鋼で製作されており、その形状と大きさは、直径2mmから5mm程度、高さは0.8mmから1.2mm程度の円板状である。鋳接用キーパーに求められる機能としては、キーパー本体のCr系磁性ステンレス鋼の磁気性能、吸着面の耐摩耗性と支台歯のルート根内に接着剤で固定した時、ルートキーパーが抜けないことと回転しないように強固に固定されることである。
【0004】
ルートキーパーの磁気性能については、耐食性を考慮して18Cr系磁性ステンレス鋼を焼鈍処理(900℃、2時間)し、透磁率を2000程度の優れた透磁率性能を付与し、接着剤による固定力については、ルートに蛇腹構造を設けて、抜け防止を図っている。ルートキーパーの吸着面は治療や技工の現場で傷をつけられる心配はないので、その吸着力は工場の出荷品質が保たれる特徴を有している。
【0005】
しかし、義歯に装着されて使用中に磁石構造体との摩擦によって摩耗してくる。特にHv180未満と軟らかすぎると大きな摩耗の原因となってしまう。そこで、吸着面の耐摩耗性についてはTiNなど耐摩耗性改善表面処理を使用しているが、使用中に剥離が生じるなど、摩耗問題は残ったままである。なお、一般的には熱処理状態の硬さHv150程度の素材を機械加工によりルートキーパーを作製しており、吸着面の摩耗が問題であった。
【0006】
ルートキーパーのルート部の機能としては、接着固定して使用している際に、キーパー部とルート部の付け根で破損しないことである。しかし、ルート部の径が細いと破損してしまう。ルート部が抜けてこないことに対して、ルート部は長さ方向に蛇腹構造を有して抜けを防止している。しかし、使用中に回転揺れなどが生じないことに対しては既存のルートキーパーは十分な対策は取られておらず、接着剤の接着力に依存しているのが現状である。
【0007】
既存製品は、Cr系磁性ステンレス鋼の線材から、所定の寸法のルートキーパーを機械加工して製作している。つまり、直径4mmの丸棒から、キーパー本体と直径1mm程度の蛇腹構造を有するルート部を機械加工で精度高く製作しており、コストが高いという難点が伴っている。また、キーパー本体部の吸着面の摩耗が問題となっている。コスト、摩耗、回転などの問題を解決する製造方法を考案し、優れた磁気特性と耐摩耗性、接着剤固定後の長期安定固定および安価なコストを有するルートキーパーの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】2001-137260号公報
【特許文献2】2004-113509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ルートキーパーのコストを考慮した場合、機械加工から冷間プレス加工による製造方法の開発が考えられる。しかし、キーパー本体の直径4mmとルート部の直径1mm程度と大きく異なり、冷間プレス時の絞量が大きく割れが発生しやすいこと、ルート部に蛇腹構造が必要で成形技術の開発が難しいと思えることがあり、現時点ではプレス工法は採用されていない。
【0010】
冷間プレス製品は、
図3に示すように、熱処理状態の硬さHv150の素材について冷間加工度を高くしていくと硬さはHv180からHv280へと硬くなり、耐摩耗性の向上は可能となる。
しかし、
図4に示すように、冷間加工度を高くすると透磁率は3000程度から500以下へと激減するのでそのまま使用すると吸着力が低下すると予想される。
【0011】
透磁率の改善対策として、冷間プレス後に光輝熱処理をすると吸着面の硬さがHv150程度と低くなりすぎて摩耗して使用できなくなる。さらにコスト高となってプレス成形のメリットが薄まることなど数多くの問題が予想されて、冷間プレス技術はいまだに開発されていないのが現状であった。
【0012】
本発明の第1の課題は、冷間プレス工法を採用することで、ルートキーパーのコストを大幅に低減することである。併せて、耐摩耗性と吸着力の両特性を確保することである。
【0013】
また、本発明の第2の課題は、既製品のルートキーパーは、回転防止機構が無いこと、吸着面の耐摩耗性が不十分なことなどの欠点がある。これらの欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、透磁率に及ぼす冷間加工度の影響に加えて吸着力との関係を調査した。試験方法は、直径1mmの18Crステンレス鋼線材を長さ2mmに切断して、硬さ、透磁率および吸着力に及ぼす冷間加工率の影響を調べた。
その結果、
図5に示すように、熱処理状態(冷間加工率0%)において透磁率は3000程度、吸着力は780gから、冷間加工率5%において透磁率は500と大幅に減少しているが、吸着力は790gへと微増している。さらに、冷間加工率を17%~39%と高めると透磁率は100に減少しているにもかかわらず、吸着力はさらに800gに微増している。さらに冷間加工率を76%と高めると、790gへと微減している。
すなわち、透磁率は冷間加工により激減しているが、吸着力に対してほとんど影響していないというこれまでの常識とは異なる結果を得た。この結果は、吸着力と耐摩耗性の両特性を同時に改善できることを示唆したものであった。
【0015】
この発見に基づいて、18%Cr-1%Moステンレス鋼よりなる機械加工品と冷間プレス品およびそれを熱処理した製品の3種類の直径4mmφのキーパー12を製作して、キャップ型タイプの磁石構造体11を使って吸着力テストを行った。3種類のキーパーは、ルート部のプレス加工度を、0%、5%、39%として製作したもので、3種類のキーパーの硬さは、それぞれHv170,Hv210,Hv150で、透磁率特性はそれぞれ、510、100、3000であった。
テストの結果は、吸着力は、それぞれ780g、790g、800gで、3種類ともほぼ同じ吸着力800gを示した。このことは冷間プレス品の吸着力が大幅に低下するという常識とは全く異なる結果であった。
【0016】
なお、磁石構造体11として、
図1に示すように、キャップ111はCr系磁性ステンレス鋼、磁石はNd-Fe-B系磁石112、およびシールドプレート部品にCr-Ni系ステンレス磁石113を活用した起磁力の高い磁気回路を有する磁性義歯アタッチメント1を使用した。
また、磁性義歯アタッチメント1は口腔内の腐食環境下で使用されることから、Nd-Fe-B系磁石113は耐食性に優れたCr系磁性ステンレス鋼からなるキャップ111、中央部のCr-Ni系ステンレス鋼磁石113および外周部のCr-Ni系ステンレス鋼(非磁性)114からなる円盤状の蓋部品12に囲まれており、そして蓋部品12とキャップ111との境界は溶接された溶接部115で 完全に腐食環境から防御されている。
【0017】
透磁率が大きく異なるにもかかわらず、吸着力が略同じであるとの結果であった理由として、従来の磁性義歯アタッチメントと比較して、磁気回路設計が異なる点が考えられる。
本発明は、Nd-Fe-B磁石とCr-Ni系ステンレス鋼磁石との複合磁石を採用して、起磁力の高い磁気回路となっており、吸着力は従来品(蓋部品に磁性ステンレス鋼を採用)に比べて50%程度大きくなっており、キーパー部の磁気抵抗の多少の変化の影響が打ち消されたのではないかと考えられる。さらに、磁気回路の磁気抵抗は、キーパー素材の有効透磁率および吸着面の隙間が影響を及ぼす。キーパー素材の有効透磁率は、磁石構造体とキーパー吸着面とが磁力で吸着した状態においては、N極とS極が1mm程度と近接しており、反磁界係数が大きな状態となっている。この場合には素材の透磁率が3000から100に変化しても有効透磁率はいずれも20程度の値を取り、多少低下する程度であるにすぎないと考えられるからである。
【0018】
さらに、
図5を詳細にみると、熱処理材よりも、冷間加工して硬さが大きく透磁率が低い材料の方が少し吸着力は高くなっている。その理由は、吸着面の硬さが大きいほど研磨が容易で、吸着面凹凸度である平坦度が良くなって、その結果吸着力が少し改善していると考えられる。さらに加工度を大きくすると、有効透磁率の低下の影響で、すこし吸着力が低下するようである。
以上述べたような複合磁石を採用した磁性義歯アタッチメントにおいて、吸着力と冷間加工による硬度の関係を発見して本発明に至った。
【0019】
次に、冷間プレスの課題については、できるだけ軟質で冷間成形性に優れたCr系磁性ステンレス鋼製の冷間鍛造用細線を準備し、ルート部の強加工に耐えることができる素材とする。次にキーパー本体の直径4mmとルート部の直径1mm程度と直径が異なる点については、キーパー本体はプレス加工で直径を拡げて、ルート部は付け根部にテーパーを付けて滑らか押し出すことにより解決できる。
【0020】
ルート部に蛇腹構造と方形形状(方形部)を取り付ける加工方法は、割り型金型で両方からプレス加工を施すことで解決できる。これによって直径1mm程度のルート部に0.1mm~0.3mm程度の凹凸部設計を可能にし、かつルート部の太径箇所を方形形状に成形することが可能となる。この金型でルート部をプレスした後、金型を割って、プレスしたルートキーパーを取り出す。金型設計としては、ルート先端部を自由面として、成形時の内部応力の増加を抑制する設計を採用する。
【0021】
素材の機械的性質は、引っ張り強さ48kg/mm2、硬さHv150で、冷間プレスを容易にし、冷間プレス後の硬さをHv180~Hv280程度として、吸着面の耐摩耗性が確保できる。
【0022】
機械加工で製作している既存製品の場合、ルート部に蛇腹構造を形成するのは容易であるが、その一部に回転防止機能を付与するための方形部を加工することは容易ではない。対して、ルート部を両側からプレス加工する場合は、蛇腹構造の部位に丸形状と方形部を成形することは可能である。この点は、機械加工よりも冷間プレス工法の方が優れている点である。
【0023】
またコスト的には、冷間プレスで成形し、そのまま使用する本発明の方が、機械加工で製作する方式に比べて、大幅なコスト削減が可能となり、圧倒的に有利である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、冷間プレス法で製作してそのまま使用するルートキーパーで、優れた吸着力、耐食性と耐摩耗性を提供し、かつ根面部に接着剤で固定された時に抜け防止と回転防止の機能を有し、かつ安価なキーパーを提供することができて、磁石式義歯アタッチメントの普及にとって、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】吸着力テスト用の磁石構造体を示す図である。
【
図2】ルートキーパーの側面図(a)および下面図(b)である。
【
図4】冷間加工度と透磁率との関係を示す図である。
【
図5】冷間加工度と透磁率および吸着力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1の実施形態は、
キャプ式の磁石構造体とルートキーパーとからなる磁性義歯アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、Cr系磁性ステンレス鋼からなるキャップと、そのキャップに内蔵されたNd-Fe-B磁石と、中央部のCr-Ni系ステンレス鋼磁石および外周部のCr-Ni系ステンレス鋼(非磁性)からなる円盤状の蓋部品と、前記蓋部品と前記キャップとを溶接した溶接部とを備え、
前記キャップと前記Cr-Ni系ステンレス磁石との間に前記Cr-Ni系ステンレス鋼(非磁性)からなる非磁性部が介在している構造を形成するとともにNd-Fe-B磁石とCr-Ni系ステンレス鋼磁石との複合磁石による起磁力の高い磁気回路を形成し、
前記ルートキーパーは、前記磁石構造体と磁力でもって吸着するCr系磁性ステンレス鋼からなる磁性キーパーであって、吸着面を有するキーパー本体および前記キーパー本体の下部に取り付けられたルート部よりなり一体部品で、
前記キーパー本体は、透磁率500以下の磁気特性を有し、吸着面の硬さはHv180~Hv280を有しており、その形状とサイズは、平均直径2mm~5mm、高さ0.3mm~0.8mmの略円盤状からなり、
前記ルート部は、前記キーパー本体の下面の中央部から長手方向に延伸し、谷部と山部が交互に形成される、長さ3mm~7mmの蛇腹構造であって、山部が丸形状と少なくとも1ケ所は方形形状からなり、谷部が丸形状からなり、
その蛇腹構造と前記キーパー本体とを結合するテーパーを有する付け根部からなることを特徴とするルートキーパーである。
【0027】
また、蛇腹構造は、2回~4回の蛇腹からなり、細い径の谷部は直径1mm~1.5mm、太い山部は谷部の直径より0.1mm~0.3mmの太めよりなるルートキーパーである。
細い谷部の直径および太い谷部の直径は、2回~4回の蛇腹ごとに異なる直径としてもよい。
【0028】
図2に示す一つの実施例を参考に本発明について説明する。
図2の(a)はルートキーパーの側面図を示し、(b)はルートキーパーの下面図を示す。
ルートキーパー2は、Cr系磁性ステンレス鋼よりなるキーパー本体21とルート部22からなり、両者は冷間加工による成形品で一体品となっている。
【0029】
冷間加工によりCr系磁性ステンレス鋼は加工硬化して、キーパー本体21の上面の硬さはHv180~Hv280となって、優れた耐摩耗性が得られる。また、成形一体品とすることによりコストの低減を図ることができる。
【0030】
キーパー本体21は、平均直径2mm~5mm、高さ0.3mm~0.8mmよりなる略円盤状である。キーパー本体21の上面の形状は、円形が最も一般的であるが楕円形、正方形や長方形の方形状など支台歯の形に合わせて各種形状のものがある。ここでは、上面の大きさを同じ面積となる平均直径に換算して略円盤状と表記する。
【0031】
キーパー本体21の上面は、磁石構造体と吸着する吸着面は平坦度が求められており、その凹凸度は1μm以下が好ましい。ルートキーパー2の冷間加工工程によりキーパー本体21の上面の凹凸度が1μmを超えるような場合には研磨により平坦度の改善が求められる。これにより、吸着力の低下が防止できる。
【0032】
ルート部22は、キーパー本体21の下側の中央部から長手方向に延伸する蛇腹構造よりなり、その長さは3mm~7mmである。
蛇腹構造とすることにより抜け防止力を発生させることができ、3mm未満と短すぎると十分なルート部12の固定力を得ることができない。他方7mmを超える長さとすると支台歯の根面の穴部に装着できない。
【0033】
蛇腹構造は、細い径の谷部223と太い径の山部222が丸形状にて交互にあり、山部222の少なくとも1ケ所は方形形状とする。山部222の太い径が異なる場合において、方形形状が1ケ所の場合には最も太い径の山部に有することが好ましい。
これにより、ルート部22の回転の防止、すなわちルートキーパー2の回転を防止することができる。なお、回転防止力と加工性を考慮して2ケ所以上ないし全ての山部を方形形状としてもよい。
【0034】
蛇腹構造のサイズは、ルート部22の直径である谷部223の細い径は1mm~1.5mmである。1mm未満とすると破断の危険があり、1.5mmを超えると小さな根面の場合には装着できない。なお、ルート部22の付け根部221は、ルート部22より太めとして滑らかにキーパー本体21の底面に接続している。
【0035】
また、ルート部22の長手方向の蛇腹構造において、谷部223の細い径と山部222の太い径との差異である凹凸度合いは、0.1mm~0.3mmである。0.1mm未満の場合には、抜け防止力が小さくなって抜け事故が生じる危険が高くなる。一方0.3mmを超える場合には、ルート部22の冷間プレス成形が難しい。
【0036】
また、蛇腹構造における蛇腹部の数は2~4回で十分な抜け防止力を得ることができる。1回の場合は抜け防止力が十分ではない。5回以上は、ルート部の冷間プレス成形が難しいので、好ましくない。
【0037】
冷間成形したルートキーパー2の磁気特性は、成形加工によって固有透磁率は2000から200程度へと大きく低下するが、吸着力の変化はほとんど見られない。これは、磁性アタッチメントの磁気回路においては、有効透磁率としては両者ともに20程度となっていると考えられる。
【0038】
第2の実施形態は、第1実施形態に記載されているルートキーパー2の製造方法に関する。
第1ステップは、Cr系磁性ステンレス鋼製の引張強さ50kg/mm2以下の軟質細線を製作する工程と、
第2ステップは、軟質細線は所定の寸法にスキンパス加工し、潤滑剤処理をして冷間鍛造用細線に仕上げた後に、所定の長さに切断し、冷間鍛造素材とする工程と
第3ステップは、その素材を冷間鍛造にて、キーパー本体はプレス加工し、ルート部は押し出し加工する工程と、
第4ステップは、押し出し加工されたルート部の付け根部に、丸形状および方形形状よりなる山部と丸形状よりなる谷部とからなる蛇腹構造を加工する冷間鍛造工程と、
第5ステップは、キーパー本体の吸着面を凹凸度1μm以下に研磨する研磨工程と、
からなる。
【0039】
第1ステップにおいて、母材となる軟質細線はCr系磁性ステンレス鋼よりなり、その化学組成の主成分は18Cr-1MoにてC+N量を0.03%以下とし、Si、Mn、Niなどの不純物成分を極力小さくしたものが好ましい。この素材を900℃~950℃の焼鈍熱処理を施すと、引張り強さが50kg/mm2以下になって、優れた冷間成形性を有する細線を使用することにする。
【0040】
第2ステップにおいて、5%程度のスキンパスを行い、寸法精度を高めて、冷間母材の重量バラツキを押さえることにする。潤滑剤処理は、冷間成形時のプレス金型との摩擦を低減し焼き付きを防止し、成形を容易にする処理である。この工程は通常の工程と言える。
【0041】
第3ステップにおいて、本発明の最も重要な工程で、ルート部の押出加工には大きな圧力が負荷されるので、素材の引張強さを50kg/mm2以下に保つことと潤滑材処理の品質レベルが重要な役割を果たす。成形時に、素材の流動が不十分な場合、ルート部の根っこで破断が生じる。
次に第4ステップにおいて、
硬化したルート部に蛇腹加工と方形部加工を施す際には、割り型金型でもって行う。プレス工程において、ルート先端の自由面を活用して、内部応力の増加を抑制する。
なお、押出加工後に付け根部に軽切削加工を行ってもよい。ルート部の押出加工への負荷の軽減が可能となる。
【0042】
第5ステップにおいて、キーパー吸着面を研磨してその平坦度を改善する工程である。これはプレス面の仕上がり程度、および吸着力の低下の許容度とコストの関係で、研磨程度を調整する工程である。極端な場合、最初から凹凸度が1μm以下となっている場合には研磨を省略することも可能である。
【0043】
キーパー本体の吸着面は磁石構造体の吸着面と擦りあうので、硬さをHv180~Hv280に保ち、耐摩耗性を付与することが重要である。機械加工製のルートキーパーの場合、吸着面の硬さはHv150程度で耐摩耗性の点では不十分であった。
【0044】
本発明のルートキーパー2の吸着力については、機械加工で製作したルートキーパーと同じであった。これは、固有透磁率は熱処理した状態の透磁率2000から200程度に大幅に減少するが、磁気回路の中で意味のある有効透磁率は20程度で、両者はほとんど同じとなるからである。
【実施例0045】
図2を参照して、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
実施例1に係るルートキーパー2は、18%Cr-1%Mo系磁性ステンレス鋼よりなり、C+N量は0.02%、Si、Mn、Niなどの不純物成分はいずれも0.2%以下である。
【0046】
キーパー本体21の直径は4.0mm、高さは0.8mmである。
また、ルートキーパー2の吸着面の硬さはHv180で、優れた耐摩耗性を有していた。
【0047】
ルート部22は、長さ5mm、ルート部22の直径である谷部(ルートという。)の細い径(直径)223は上から1.2mm、1.1mm、1.05mmの異径とした。ルートは使用中破断することはなかった。また、ルートとキーパー本体21の接続箇所が破断することもなかった。
【0048】
長手方向の蛇腹構造において、その凹凸度合いは、0.05mm~0.2mmとした。太い蛇腹の部位は全てを方形部122に成形した。一辺の長さは上から1.25mm、1.35mm、1.20mm、1.10mmである。
その結果、使用時に抜けが発生したりすることはなく、回転の発生もなかった。また、ルート部の冷間成形も容易にできた。
【0049】
成形したルートキーパー2の磁気特性は、成形加工によって固有透磁率は2000から200程度に大きく低下した。しかし、磁性アタッチメントの磁気回路において、有効透磁率として両者はともに20程度となって、吸着力の変化はほとんど見られない。このときの吸着面の凹凸度は1μm以下であった。
【0050】
[実施例2]
実施例2に係るルートキーパー2は、実施例1と同じ組成の18%Cr-1%Mo系磁性ステンレス鋼よりなり、C+N量は0.02%、Si、Mn、Niなどの不純物成分はいずれも0.2%以下である。
【0051】
キーパー本体21の直径は4.0mm、高さは0.4mmである。
また、ルートキーパー2の吸着面の硬さはHv240で、優れた耐摩耗性を有していた。
【0052】
ルート部22は長さ5mm、ルート部22の直径である谷部の細い径(直径)223は上から1.25mm、1.15mm、1.05mmの異径とした。ルートは使用中破断することはなかった。また、ルートとキーパー本体21の接続箇所が破断することもなかった。
【0053】
長手方向の蛇腹構造において、その凹凸度合いは、0.05mm~0.2mmとした。太い蛇腹の部位は全てを方形部122に成形した。一辺の長さは上から1.25mm、1.35mm、1.20mm、1.10mmである。
その結果、使用時に抜けが発生したりすることはなく、回転の発生もなかった。また、ルート部の冷間成形も容易にできた。
【0054】
成形したルートキーパー2の磁気特性は、成形加工によって固有透磁率は2000から200程度に大きく低下した。しかし、磁性アタッチメントの磁気回路において、有効透磁率として両者はともに20程度となって、吸着力の変化はほとんど見られない。このときの吸着面の凹凸度は1μm以下であった。
【0055】
[実施例3]
実施例3は、実施例1及び実施例2に記載されているルートキーパーの製造方法に関する。
第1ステップにおいて、母材となる軟質細線はCr系磁性ステンレス鋼で、その化学組成の主成分は18%Cr-1%Moで、C+N量を0.02%、Si、Mn、Niなどの不純物成分は0.2%以下であった。この素材に900℃焼鈍熱処理を施した結果、引張り強さが40kg/mm2となり、優れた冷間成形性を有する細線を得た。
【0056】
第2ステップにおいて、引抜率5%のスキンパスを行い、寸法精度を高めて、冷間母材の重量バラツキを押さえた。潤滑剤処理は、冷間成形時のプレス金型との摩擦を低減し焼き付きを防止し、成形を容易にする処理である。この工程は通常の工程と言える。
【0057】
第3ステップにおいて、本発明の最も重要な工程で、ルート部の押出加工には大きな圧力が付加されるので、素材の引張強さを40kg/mm2とすることにより冷間成形性を容易にした。ルート部の根っこで破断は生じなかった。
第4ステップにおいて、硬化したルート部に蛇腹加工と方形部加工を施す際には、ルート先端の自由面を活用して、内部応力の増加を抑制する工夫をすることによって、金型が割れるのを防いだ。
【0058】
第5ステップにおいて、キーパー吸着面を研磨してその平坦度を改善する工程である。本実施例では、凹凸度が2μmと大きかったので、研磨によって1μm以下に平坦化した。
【0059】
吸着面は磁石構造体と擦りあうので、硬さをHv250として、優れた耐摩耗性を付与した。なお、機械加工製のルートキーパーの場合、吸着面の硬さはHv170程度で耐摩耗性の点では不十分であった。
【0060】
本発明のルートキーパー2の吸着力については、機械加工製のルートキーパーと同じ800gであった。その理由は、固有透磁率は熱処理した状態の透磁率2000から200程度に大幅に減少するが、磁気回路の中で意味のある有効透磁率は20程度で、両者はほとんど同じとなると考えられる。
本発明のルートキーパー2は、冷間プレス加工工法で製作したもので、既存機械加工キーパーに対して、回転防止機能や耐摩耗性を改善した上に、高い吸着力を維持し、かつコストを大幅に抑制することを可能にした発明で、磁石式義歯の普及にとって大きく貢献すると期待されている。
透磁率が大きく異なるにもかかわらず、吸着力が略同じであるとの結果であった理由として、従来の磁性義歯アタッチメントと比較して、磁気回路設計が異なる点が考えられる。
本発明は、Nd-Fe-B磁石とCr-Ni系ステンレス磁石との複合磁石を採用して、起磁力の高い磁気回路となっており、吸着力は従来品(蓋部品に磁性ステンレス鋼を採用)に比べて50%程度大きくなっており、キーパー部の磁気抵抗の多少の変化の影響が打ち消されたのではないかと考えられる。さらに、磁気回路の磁気抵抗は、キーパー素材の有効透磁率および吸着面の隙間が影響を及ぼす。キーパー素材の有効透磁率は、磁石構造体とキーパー吸着面とが磁力で吸着した状態においては、N極とS極が1mm程度と近接しており、反磁界係数が大きな状態となっている。この場合には素材の透磁率が3000から100に変化しても有効透磁率はいずれも20程度の値を取り、多少低下する程度であるにすぎないと考えられるからである。