(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138271
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】熱成形用樹脂シート及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230922BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230922BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230922BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20230922BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230922BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/12
C08L23/06
C08K3/34
B29C51/14
B32B27/32 E
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168033
(22)【出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022043684
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396000422
【氏名又は名称】リスパック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 佳慶
(72)【発明者】
【氏名】早川 涼人
(72)【発明者】
【氏名】陸浦 至
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄祐
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F208
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA20
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4J002GG01
(57)【要約】
【課題】無機物の含有量が多く、且つ剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる熱成形用樹脂シート及び該シートを成形して得られる成形品を提供する。
【解決手段】本発明の熱成形用樹脂シートは、無機物及び熱可塑性樹脂を含む基層を有し、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~70):(55~30)であり、前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を含み、前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含み、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~55未満):(55~45超)において、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比が(75~0超):(25~100未満)であり、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(55~70):(45~30)において、前記カルシウム塩の含有量が、前記ケイ酸塩の含有量より多いことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物及び熱可塑性樹脂を含む基層を有し、
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~70):(55~30)であり、
前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を含み、
前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含み、
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~55未満):(55~45超)において、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比が(75~0超):(25~100未満)であり、
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(55~70):(45~30)において、前記カルシウム塩の含有量が、前記ケイ酸塩の含有量より多いことを特徴とする、
熱成形用樹脂シート。
【請求項2】
前記熱成形用樹脂シートの、JIS-K7171に準じて測定した曲げ弾性率が、3500MPa以上であり、且つJIS-K7124に準じて測定したデュポン衝撃強度が0.5J以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項3】
前記基層の片側又は両面にポリオレフィン層が積層されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された熱成形用樹脂シートを熱成形して得られることを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物の含有量が多く、且つ剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる熱成形用樹脂シート及び該シートを成形して得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂は、物理的特性に優れることから、各種成形品、例えば、飲食品用容器として広く使用されている。これに対して近年、プラスチック廃棄問題が社会的に注目を集めている。かかる問題に対処するため、無機充填材を高濃度で熱可塑性樹脂に混合することにより、熱可塑性樹脂の使用量を低減することが行われている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂に無機充填材を混合すると、熱可塑性樹脂の機械的物性及び衝撃強度が低くなる傾向にある。この点に関して、特許文献1には、特定の物性を有するプロピレンブロック共重合体と2種の無機充填剤を使用することにより、剛性と耐衝撃性とのバランスに優れた樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、タルク粉末と炭酸カルシウム粉末とを乾式で高速撹拌して均一に混合粉砕してなる合成樹脂成形用複合フィラーにより、ポリプロピレンの剛性と衝撃強度のバランスを改良することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3396099号公報
【特許文献2】特開2002-80631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、無機充填材を高濃度で含有する熱可塑性樹脂において、機械的物性及び衝撃強度のバランスに優れていることが求められる。しかし、特許文献1記載の樹脂組成物では、曲げ弾性率が28000~31300kg/cm2(2745~3068MPa)であり(実施例参照)、剛性において十分な物性であるとは言い難い。また、特許文献2では、フィラー充填量が10~40%と低い。
【0006】
本発明は、無機物の含有量が多く、且つ剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる熱成形用樹脂シート及び該シートを成形して得られる成形品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱成形用樹脂シートは、無機物及び熱可塑性樹脂を含む基層を有し、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~70):(55~30)であり、前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を含み、前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含み、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~55未満):(55~45超)において、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比が(75~0超):(25~100未満)であり、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(55~70):(45~30)において、前記カルシウム塩の含有量が、前記ケイ酸塩の含有量より多いことを特徴とする。
【0008】
本発明の成形品は、本発明の熱成形用樹脂シートを熱成形することにより得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱成形用樹脂シート及び成形品は、無機物の含有量が多いことから、樹脂量を低減することができ、その結果、燃焼時の発熱量が樹脂単体の時に比べ低く、環境負荷の低減に貢献できる。また、本発明の熱成形用樹脂シート及び成形品は、無機物の含有量が多いにもかかわらず、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の容器たわみの測定方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(1)熱成形用樹脂シート
本実施形態に係る熱成形用樹脂シート(以下、「本シート」という。)は、無機物及び熱可塑性樹脂を含む基層を有し、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~70):(55~30)であり、前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を含み、前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含み、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~55未満):(55~45超)において、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比が(75~0超):(25~100未満)であり、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(55~70):(45~30)において、前記カルシウム塩の含有量が、前記ケイ酸塩の含有量より多いことを特徴とする。
【0013】
前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含む。前記ケイ酸塩は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。前記カルシウム塩は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。前記ケイ酸塩として具体的には、例えば、フィロケイ酸塩鉱物(タルク、雲母等)、ケイ酸カルシウム、ガラスビーズ、ベントナイト、ガラスフレーク、及びガラス繊維が挙げられる。前記カルシウム塩として具体的には、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムが挙げられる。
【0014】
前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩の組み合わせには特に限定はなく、上記で例示した前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩を適宜組み合わせることができる。前記ケイ酸塩及びカルシウム塩の組み合わせとして好ましくは、タルク及び炭酸カルシウムが挙げられる。
【0015】
前記無機物は、前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩のみでもよく、あるいは、剛性及び耐衝撃性を著しく損なわない範囲(例えば、前記基層中、0を超えて1重量%以下、好ましくは0を超えて0.1重量%以下、更に好ましくは0を超えて0.05重量%以下)で、他の無機物を含んでいてもよい。
【0016】
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~55未満):(55~45超)において、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比は、(75~0超):(25~100未満)である。上記要件を満たす限り、前記カルシウム塩及び前記ケイ酸塩の具体的な含有量及び配合割合には特に限定はない。前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩の質量比として具体的には、例えば、前記ケイ酸塩と前記カルシウム塩との質量比は(75~10):(25~90)、好ましくは(75~15):(25~85)、更に好ましくは(75~20):(25~80)、より好ましくは(75~25):(25~75)とすることができる。前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩の質量比として具体的には、例えば、1:(0.2~5)、好ましくは1:(0.25~4)、更に好ましくは1:(0.25~4)、より好ましくは1:(0.3~3)、又は1:(1.1~5)、1:(1.2~4)若しくは1:(1.2~3.5)とすることができる。
【0017】
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(55~70):(45~30)において、前記基層中の前記カルシウム塩の含有量は、前記ケイ酸塩の含有量より多い(前記カルシウム塩>前記ケイ酸塩)。前記カルシウム塩及び前記ケイ酸塩の具体的な含有量及び配合割合は、前記カルシウム塩の含有量が前記ケイ酸塩の含有量より多い限り特に限定はない。前記ケイ酸塩及び前記カルシウム塩の質量比として具体的には、例えば、1:(1.1~5)、好ましくは1:(1.2~4.9)、更に好ましくは1:(1.3~4.8)又は1:(1.2~4)、更に好ましくは1:(1.2~3.5)とすることができる。
【0018】
前記カルシウム塩の含有量は、前記基層中、5~55重量%、好ましくは10~50重量%又は20~55重量%、更に好ましくは25~50重量%とすることができる。前記ケイ酸塩の含有量は、前記基層中、5~45重量%、好ましくは10~40重量%又は5~30重量%、更に好ましくは10~25重量%とすることができる。
【0019】
前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン(PP)系樹脂及びポリエチレン(PE)系樹脂を含む。「実質的にホモPPからなるPP系樹脂」とは、前記PP系樹脂がホモPPのみを含む態様と、剛性及び耐衝撃性を著しく損なわない範囲で、ホモPP以外のPP系樹脂(以下、「他のPP系樹脂」という。)を含有する態様が含まれる。例えば、本シートでは、前記PP系樹脂中、0を超えて1重量%以下、0を超えて0.1重量%以下、0を超えて0.01重量%以下のブロックPP等の他のPP系樹脂を含んでいてもよい。
【0020】
前記PP系樹脂の物性には特に限定はない。例えば、前記PP系樹脂として、MFR値が0.2~2.0g/10分、あるいは0.3~1.0g/10分であるPP系樹脂を用いることができる。尚、本書面において、MFR値は、JIS K7210の方法に基づいて、測定温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定された値である。
【0021】
前記PE系樹脂は、エチレン単独重合体であることが好ましいが、エチレンと1種以上の他の単量体、例えばα-オレフィン(1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン)との共重合体でもよい。前記PE系樹脂が共重合体の場合、エチレン単位の割合は80重量%以上、90質量%以上、あるいは95質量%以上とすることができる。前記PE系樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE;密度0.910~0.930)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE;密度0.910~0.925)、高密度ポリエチレン(HDPE;密度0.94g/cm3以上、好ましくは0.942~0.970g/cm3)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。また、前記PE系樹脂は結晶性であることが好ましい。前記PE系樹脂として、結晶性樹脂の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることができる。
【0022】
前記PE系樹脂の含有量は、前記基層中、10~35重量%、好ましくは15~30重量%とすることができる。また、前記基層中の前記PP系樹脂と前記PE系樹脂の質量比は、(0.4~3):1、好ましくは(0.4~2.5):1又は(0.5~3):1、更に好ましくは(0.5~2.5):1とすることができる。
【0023】
前記熱可塑性樹脂は、前記PP系樹脂とPE系樹脂に限らず、その他の熱可塑性樹脂(以下、単に「他の熱可塑性樹脂」という。)を含んでいてもよい。前記他の熱可塑性樹脂は、1種単独でもよく、2種以上を含んでもよい。前記他の熱可塑性樹脂として具体的には、例えば、ポリスチレン、A-PET、ポリ乳酸等の樹脂が挙げられる。
【0024】
前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比は、(45~70):(55~30)、好ましくは(45~65):(55~35)である。前記質量比が前記範囲内であると、無機物を高濃度で配合したことによる機械的物性及び衝撃強度の低下を抑制すると共に、樹脂量を低減でき、その結果、燃焼時の発熱量を抑制して環境負荷を低減することができるので好ましい。
【0025】
本シートの一実施形態として、例えば、無機物及び熱可塑性樹脂を含む基層を有し、前記基層中の前記無機物と前記熱可塑性樹脂との質量比が(45~70):(55~30)、好ましくは(45~65):(55~35)であり、前記熱可塑性樹脂は、実質的にホモポリプロピレン樹脂からなるポリプロピレン系樹脂を含み、前記無機物は、ケイ酸塩及びカルシウム塩を含み、且つ前記カルシウム塩の含有量が、前記ケイ酸塩の含有量より多いことを特徴とする、熱成形用樹脂シートが挙げられる。
【0026】
本シートの層構造には特に限定はない。本シートは前記基層のみの単層構造でもよく、前記基層及び1以上の他の層を有する積層シートでもよい。前記他の層が2以上ある場合、前記他の層はそれぞれ同じ層でもよく、種類又は物性が異なる層でもよい。前記他の層の種類には特に限定はない。前記他の層として具体的には、例えば、表層に加飾印刷されたラミネートフィルム層、ガスバリア層、層間を接着する接着層が挙げられる。
【0027】
前記積層シートとして具体的には、例えば、前記基層の片側面又は両面に積層されたポリオレフィン(PO)層を有する積層シートが挙げられる。前記PO層は、前記基層の表面に直接積層されていてもよく、接着層等の他の層を介して前記基層の表面側に積層されていてもよい。
【0028】
前記PO層は、PO系樹脂のみでもよく、あるいは、他の樹脂を含んでいてもよい。前記PO系樹脂として具体的には、例えば、PE樹脂(例えば、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレン);PP樹脂;ポリスチレン樹脂;エチレン又はプロピレンと他の単量体との共重合体(例えば、プロピレン-エチレン共重合体樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂)が挙げられる。前記PO系樹脂は1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。
【0029】
前記PO系樹脂として、PP系樹脂を用いる場合、前記基層に含まれる前記PP系樹脂と同じ樹脂でもよく、異なる性質の樹脂、例えばMFRが異なる樹脂でもよい。例えば、前記PO系樹脂として、前記基層に含まれる前記PP系樹脂よりもMFRが大きいPP系樹脂を用いることができる。より具体的には、例えば、前記PO系樹脂として、MFRが2.0以上のPP系樹脂を用い、前記基層に含まれるPP系樹脂として、MFRが1.0以下のPP系樹脂を用いることができる。
【0030】
前記積層シートの製造方法に限定はない。前記積層シートは、共押出法、射出成形法、及び加熱成形等の一般的な積層成形法により製造することができる。共押出法では、任意の単軸押出機及び二軸押出機を使用できる。前記共押出法では、前記基層及び前記他の層をダイスより押し出す直前に、これらの層を溶融状態で積層する方法であれば、具体的手法に限定はない。共押出法として具体的には、例えば、前記基層及び前記他の層の原料を押出機で溶融混錬した後、ダイス内で積層するマルチマニホールド方式が挙げられる。前記ダイスは、T型ダイス、コートハンガー型、又は環状ダイスのいずれも使用できる。共押出法において、ダイスより押し出された樹脂積層シートは、公知の方法、例えばポリシングロール、エアーナイフ、又はマンドレル等により冷却固化される。その後、巻き取り機にて巻き取られ、又は裁断機にて所定の寸法にカットされる。
【0031】
上記のように、本シートは、無機物の含有量が多く、且つ剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる。具体的には、例えば、JIS-K7171に準じて測定した曲げ弾性率が3500MPa以上であり、且つJIS-K7124に準じて測定したデュポン衝撃強度が0.5J以上とすることができる。尚、前記曲げ弾性率は、MD及びTDのいずれか一方が上記範囲であればよく、好ましくは、MD及びTDの両方が上記範囲である。
【0032】
本シートの具体的形状には特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。よって、前記「シート」の用語には、フィルム状も含まれる。本シートの厚みは、例えば、0.1~3mm、あるいは0.3~2mmとすることができる。
【0033】
本シートは、剛性及び耐衝撃性を著しく損なわない範囲で、シート又は成形品を得る際に発生する耳ロス、スケルトンなどの製造工程内ロスや、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分として具体的には、例えば、公知の樹脂シートに用いられている添加剤、例えば、難燃剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、及び抗菌剤が挙げられる。上記のように、本シートが積層シートである場合、前記他の成分は、前記積層シートを構成する各層の全てに含まれていてもよく、いずれかに含まれていてもよい。
【0034】
本シートの具体的用途には特に限定はない。後述のように、本シートは、種々の成形法により、容器等の成形品を得るために用いることができる。
【0035】
(2)成形品
本実施形態に係る成形品(以下、「本成形品」という。)は、本シートを熱成形することにより得ることができる。該成形としては通常、熱成形が挙げられる。該熱成形の具体的方法には特に限定はなく、公知の熱成形方法、例えば、熱盤成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、両面真空成形、プラグ成形、又はプレス成形を用いることができる。また、熱成形の条件も特に限定はない。成形条件は必要に応じて適宜決定することができる。
【0036】
本成形品の具体的用途には特に限定はない。該用途としては、包装用容器等の容器、例えば、飲食品用容器が挙げられる。
【0037】
本成形品の形状及び寸法には特に限定はなく、適宜設定することができる。本成形品が容器である場合、前記容器の形状として具体的には、胴部及び該胴部の一端側に形成された底部を有し、前記胴部の他端側には開口部を有する容器が挙げられる。前記開口部は更にフランジ部を有していてもよい。尚、前記「容器」は、容器全体だけでなく、容器の一部も含む。例えば、前記「容器」には、容器の本体のみならず、容器の蓋体も含まれる。よって、前記「容器」は容器本体のみでもよく、容器の蓋体のみでもよい。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0039】
(1)熱成形用樹脂積層シートの製造
原料として、以下の各成分を用いた。
<カルシウム塩>
(A)重質炭酸カルシウム(平均粒子径1.5μm)
<ケイ酸塩含有ポリオレフィン樹脂>
(B)タルクマスターバッチ:三協化学工業社製「HFS60-5R」(高密度ポリエチレン40.0重量部及びタルク60.0重量部を含む。)
<ポリプロピレン樹脂(表層用)>
(C-1)ホモポリプロピレン:日本ポリプロ社製「FY6C」(MFR 2.4g/10分)
<ポリプロピレン樹脂(中間層用)>
(C-2)ホモポリプロピレン:日本ポリプロ社製「EA9」(MFR 0.5g/10分)
(C-3)ブロックポリプロピレン:日本ポリプロ社製「EC9GD」(MFR 0.5g/10分)
<ポリエチレン樹脂>
(D)高密度ポリエチレン:京葉ポリエチレン社製「B5803」(MFR:0.3g/10分)
【0040】
(A)重質炭酸カルシウム、(B)タルクマスターバッチ、(C-2)ホモPP又は(C-3)ブロックPP、及び(D)高密度ポリエチレンを表1の割合(重量基準)で配合し、中間層用組成物を調製した。表層用組成物として(C-1)ホモPPを用いた。表層用組成物及び中間層組成物を表1に示す割合でドライブレンドして、各押出機に供給した。それぞれの押出機(中間層用組成物;二軸押出機、表層用組成物;単軸押出機)で、ドライブレンドされた原料を加熱溶融し、溶融混合した樹脂を、フィードブロックで合流後、Tダイスから放流し冷却ロールで冷却することにより、実施例及び比較例の熱成形用樹脂積層シートを得た(厚み:0.40mm、積層構造(層構成):表層/中間層(基層)/表層、層比 2/96/2)。
【0041】
【0042】
(2)熱成形用樹脂積層シートの性能評価
以下の方法により、実施例及び比較例の熱成形用樹脂積層シートの性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0043】
<シートデュポン衝撃強度>
縦50mm×横50mmの試験片を作成し、23℃の環境下で24時間保管した後、JIS K7124に従い、この試験片について(株)マイズ試験機のデュポン衝撃試験機を用いて、その環境下で50%破壊エネルギーE50(J)を測定した。
【0044】
<シート曲げ弾性率>
(株)島津製作所製「オートグラフAGS-X」を用いて、JIS(日本工業規格)K7171に準じて、支点間距離:30mm、曲げ速度:20mm/分の測定条件にて測定した。JIS-K7203に準拠して23℃で測定した。
【0045】
(3)容器の製造方法
真空圧空成形装置(浅野研究所製)を使用し、実施例及び比較例の熱成形用樹脂積層シートを真空圧空成形法により熱成形して、該胴部の一端側に底部が形成され、他端側に開口部を有する容器を製造した(長側175mm×短側120mm×深さ38mm)。
【0046】
(4)容器の性能評価
以下の方法により、実施例及び比較例の熱成形用樹脂積層シートから製造された容器の性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0047】
<容器成形性>
得られた容器の外観を目視で観察し、以下の基準により、容器成形性を評価した。
「〇」:問題なく容器が成形できた。
「×」:容器に不良(シワが入る、偏肉、賦形不良)が発生した。
【0048】
<容器座屈強度>
(株)島津製作所製「オートグラフAGS-X」を用いて、圧縮試験台に対して容器の開口部が下になるように、サンプル容器をセットした。次いで、容器に対して上から加圧し、10m/分の速度で圧縮を行って、容器側面が変形した際の荷重(座屈強度;kgf)を測定した。
【0049】
<容器たわみ>
容器に250gの食材を入れ、別途熱成形して得た蓋体(長側175mm×短側120mm×深さ30mmの矩形形状を被せ、電子レンジにて1400Wで50秒加熱した際の容器のたわみ量を測定した。たわみ量は、容器本体の短辺側を治具に60mm挟み込み(片手持ち状態)、電子レンジ加熱前後の高さの変位量を測定することにより求めた(
図1参照)。たわみ量の判断基準は以下の通りである。
「〇」:たわみ量が容器深さの50%未満
「×」:たわみ量が容器深さの50%以上
【0050】
<容器落下割れ>
容器に250gのおもりを入れ、別途熱成形して得た蓋体(長側175mm×短側120mm×深さ30mmの矩形形状を被せ、23℃の環境下で24時間保管した。その後、その雰囲気下で、容器を高さ1mから落下させ(n=20)、容器の割れを目視にて確認
し、割れた個数を数えた。
【0051】
【0052】
(5)結果
表1及び2より、中間層のPPとしてホモPPを用い、且つ無機物の合計が45%~55%未満において、タルクと炭酸カルシウムとの質量比が(75~25):(25~75)である実施例1~6は、曲げ弾性率が3625~4971MPa(MD)及び3525~4470MPa(TD)であり、且つデュポン衝撃強度が0.51~1.14Jであった。また、実施例1~6の容器は、容器成形性に優れ、座屈強度が14.17~18.03kgfであり、たわみ量も少なく、落下割れも認められなかった。
【0053】
また、表1及び2より、中間層のPPとしてホモPPを用い、且つ無機物の合計が55%~60%において、炭酸カルシウムの含有量が、タルクの含有量より多い実施例7~9は、曲げ弾性率が3581~3924MPa(MD)及び3506~3625MPa(TD)であり、且つデュポン衝撃強度が0.58~1.01Jであった。また、実施例7~9の容器は、容器成形性に優れ、座屈強度が13.14~14.77kgfであり、たわみ量も少なく、落下割れも認められなかった。
【0054】
以上の結果は、実施例1~9のシート及び容器は、無機物の含有量が多い(45~60重量%)にもかかわらず、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れていることを示している。
【0055】
一方、無機物として炭酸カルシウムのみを含む比較例2は、実施例1~9と比べて、シートの曲げ弾性率及び容器の座屈強度が低く、たわみ量が多かった。また、無機物としてタルクのみを用いた比較例5は、実施例1~9よりも無機物含有量が少ない(30重量%)にもかかわらず、デュポン衝撃強度が低く、落下試験での容器の割れが多かった。
【0056】
一方、無機物として炭酸カルシウムのみを含む比較例2は、実施例1~9と比べて、シートの曲げ弾性率及び容器の座屈強度が低く、たわみ量が多かった。無機物の合計が45%~55%未満において、実施例1~6とは逆に、タルクと炭酸カルシウムとの質量比が(75~25):(25~75)から外れた範囲である比較例1では、容器成形時にシワ等の不良が発生した。また、無機物の合計が55%~60%において、実施例7~9とは逆に、炭酸カルシウムの含有量が、タルクの含有量と同等又は少ない比較例3及び4では、曲げ弾性率が高い反面、デュポン衝撃強度が低く、落下試験で全ての容器が割れていた。尚、無機物としてタルクのみを用いた比較例5は、実施例1~9よりも無機物含有量が少ない(30重量%)にもかかわらず、デュポン衝撃強度が低く、落下試験での容器の割れが多かった。
【0057】
また、中間層のPPとしてブロックPPを用いた比較例6及び7では、実施例1~9と同様に、タルクと炭酸カルシウムとの質量比が(75~25):(25~75)であるにもかかわらず、曲げ弾性率が低く、たわみ量が多く、実施例1~9と比べて剛性及び耐衝撃性のバランスに劣ることが分かる。