(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138296
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】プレス金型の設計方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20230922BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20230922BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20230922BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10 100
G06F113:22
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189757
(22)【出願日】2022-11-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022042034
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA06
5B146DE12
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】短い時間で設計でき、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス金型の設計方法は、プレス成形荷重を低減できる方法であって、金型モデル作成工程S1と、金型モデル剛性分布設定工程S3と、プレス成形荷重取得工程S5と、プレス成形荷重判定工程S7と、プレス成形荷重判定工程S7において、所定のプレス成形荷重の範囲内であると判定されたときに、金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するプレス金型設計剛性決定工程S9と、を含むことを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法であって、
前記プレス金型の表面を非剛体の二次元要素によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成する金型モデル作成工程と、
前記二次元要素の境界条件を前記金型モデルの部位によって異ならせることによって前記金型モデルの剛性分布を設定する金型モデル剛性分布設定工程と、
該剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得工程と、
前記プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定するプレス成形荷重判定工程と、
該プレス成形荷重判定工程において、前記所定のプレス成形荷重の範囲内であると判定された場合は、前記設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定し、前記プレス成形荷重判定工程において前記所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合、該所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、前記金型モデル剛性分布設定工程における前記金型モデルの剛性分布を変更し、前記プレス成形荷重取得工程と、前記プレス成形荷重判定工程と、を繰り返し、前記所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、前記変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するプレス金型設計剛性決定工程と、を含むことを特徴とするプレス金型の設計方法。
【請求項2】
前記金型モデル剛性分布設定工程における前記境界条件を、変位拘束、弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせ、とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項3】
前記非剛性の二次元要素は、弾性又は弾塑性の二次元要素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス金型の設計方法。
【請求項4】
プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計装置であって、
前記プレス金型の表面を非剛体の二次元要素によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成する金型モデル作成部と、
前記二次元要素の境界条件を前記金型モデルの部位によって異ならせることによって前記金型モデルの剛性分布を設定する金型モデル剛性分布設定部と、
該剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得部と、
前記プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定するプレス成形荷重判定部と、
該プレス成形荷重判定部において、前記所定のプレス成形荷重の範囲であると判定された場合は、前記設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定し、前記プレス成形荷重判定部において前記所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合、該所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、前記金型モデル剛性分布設定部において前記金型モデルの剛性分布を変更し、プレス成形荷重取得部と前記プレス成形荷重判定部の処理を繰り返し、前記所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、前記変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するプレス金型設計剛性決定部と、を含むことを特徴とするプレス金型の設計装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項4に記載のプレス金型の設計装置として機能させることを特徴とするプレス金型の設計プログラム。
【請求項6】
プレス成形品の製造方法であって、
請求項1又は2に記載のプレス金型の設計方法によってプレス金型の設計剛性分布を取得するプレス金型設計剛性分布取得工程と、
取得したプレス金型の設計剛性分布に基づき実プレス金型を製造するプレス金型製造工程と、
該実プレス金型を用いてプレス成形を行うプレス成形工程を含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材のプレス加工に伴うプレス金型に作用するプレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法に関する。
ここで、金属部材とは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)を施した表面処理鋼板をはじめ、SUS、アルミニウム、マグネシウム等、各種金属類から構成される板でもよい。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費向上や衝突安全性向上等のニーズの高まりから、自動車車体における高張力鋼板の適用が拡大している。高張力鋼板はその延性の低さによる成形性の低下や、材料強度が高いことに起因する寸法精度の悪化が高張力鋼板を適用するための課題とされている。
【0003】
また、高張力鋼板をプレス成形する際にはプレス成形荷重が増加するため、プレスラインの変更や部品の分割が必要となり、このようなプレス成形荷重の増加についても高張力鋼板適用の阻害要因となっている。
そのため、プレスラインの変更や部品の分割をすることなくプレス成形荷重を低減できるプレス金型が求められている。
【0004】
この点、特許文献1には、プレス金型を分割可動させて逐次成形を行うことでプレス成形荷重を低減させる方法が開示されている。
【0005】
また、従来より、三次元構造物であるプレス金型の構造設計には三次元CADが用いられ、プレス金型の三次元モデリングにはソリッドモデル(三次元要素)が用いられてきた。金型モデルをソリッドモデルで作成することにより、プレス金型を構成する部品同士の接触も可能であり、型部品同士の連動を考慮したプレス金型設計が可能となる。非特許文献1にはプレス金型を弾性体としてプレス成形荷重を予測する手法が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大町 勝一郎、“3DSimSTAMPを使ったプレス成形CAEの荷重検討とその応用”、プレス技術、日刊工業新聞社、2015年三月、第53巻、3号、p.62-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、プレス金型を分割することでプレス成形荷重を低減する構造が提案されているが、プレス金型構造の検討方法は示されていない。
【0009】
非特許文献1では弾性体のソリッドモデル(三次元要素)を用いた金型モデルによる成形解析の事例が示されている。
プレス金型の構造として、プレス金型の剛性を設計する場合、弾性体のソリッドモデル(三次元要素)を用いて金型モデルを作成し、作成した三次元要素の金型モデルを用いてFEM解析を行い、プレス成形荷重を低減するように金型モデルの構造を変更し、プレス金型構造を設計する必要がある。
しかし、ソリッドモデル(三次元要素)を用いてプレス金型をモデル化したFEM解析計算は計算時間を要し、金型モデルの構造を変更するたびに金型モデルのモデリングが必要であり、金型設計に時間がかかる点が問題であった。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、短い時間で設計でき、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法、装置及びプログラムを提供することを目的としている。
さらに、設計されたプレス金型に基づいて製造された実プレス金型によって、プレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、有限要素法を用いたプレス成形解析を用いてプレス成形荷重を低減できるプレス金型の構造を設計する方法を検討するにあたり、まず、プレス成形荷重が大きくなる現象について検討した。
【0012】
プレス成形試験およびプレス成形解析による検討から、プレス成形荷重は、プレス成形下死点付近において急激に増加するが、プレス下死点付近の荷重にはプレス成形品(ブランク)の変形による反力だけでなく、対面するプレス金型が、ほぼ変形限界に到達したプレス成形品(ブランク)を介して接触することによるプレス金型の弾性変形を、プレス金型構造による剛性によって抑制する反力が含まれていることを突き止めた。
【0013】
そして、プレス成形荷重を低減するためには、プレス成形荷重(面圧)が作用する部位において、プレス金型の剛性を低下させてプレス金型の弾性変形を抑制する反力を低減させれば、該当部位のプレス成形荷重(面圧)を下げられる、との着想を得るに至った。
また、プレス金型の剛性を低下させるには、有限要素法を用いたプレス成形解析するにあたり、プレス金型の剛性分布に着目して解析を行えばよいと考えた。
【0014】
さらに、プレス金型の剛性分布を付与するには、従来から行われているように、プレス金型をプレス金型構造のままソリッドモデル(三次元要素)化する必要はなく、プレス金型の表面を非剛体(弾性もしくは弾塑性)のシェルモデル(二次元要素)として仮想的な厚みを持たせてプレス金型をモデル化し、境界条件によって剛性を付与すればソリッドモデル化した場合とほぼ同程度のプレス荷重推定精度を得られ、計算時間も短縮できる、との知見をえた。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
【0015】
(1)本発明に係るプレス金型の設計方法は、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法であって、
前記プレス金型の表面を非剛体の二次元要素によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成する金型モデル作成工程と、
前記二次元要素の境界条件を前記金型モデルの部位によって異ならせることによって前記金型モデルの剛性分布を設定する金型モデル剛性分布設定工程と、
該剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得工程と、
前記プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定するプレス成形荷重判定工程と、
該プレス成形荷重判定工程において、前記所定のプレス成形荷重の範囲内であると判定された場合は、前記設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定し、前記プレス成形荷重判定工程において前記所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合、該所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、前記金型モデル剛性分布設定工程における前記金型モデルの剛性分布を変更し、前記プレス成形荷重取得工程と、前記プレス成形荷重判定工程と、を繰り返し、前記所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、前記変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するプレス金型設計剛性決定工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記金型モデル剛性分布設定工程における前記境界条件を、変位拘束、弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度のいずれか一つ又はこれらの組み合わせ、とすることを特徴とするものである。
【0017】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記非剛性の二次元要素は、弾性又は弾塑性の二次元要素であることを特徴とするものである。
【0018】
(4)本発明に係るプレス金型の設計装置は、プレス成形荷重を低減できるものであって、
前記プレス金型の表面を非剛体の二次元要素によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成する金型モデル作成部と、
前記二次元要素の境界条件を前記金型モデルの部位によって異ならせることによって前記金型モデルの剛性分布を設定する金型モデル剛性分布設定部と、
該剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するプレス成形荷重取得部と、
前記プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定するプレス成形荷重判定部と、
該プレス成形荷重判定部において、前記所定のプレス成形荷重の範囲であると判定された場合は、前記設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定し、前記成形荷重判定部において前記所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合、該所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、前記金型モデル剛性分布設定部において前記金型モデルの剛性分布を変更し、プレス成形荷重取得部と前記プレス成形荷重判定部の処理を繰り返し、前記所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、前記変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するプレス金型設計剛性決定部と、を含むことを特徴とするものである。
【0019】
(5)本発明に係るプレス金型の設計プログラムは、コンピュータを上記(4)に記載のプレス金型の設計装置として機能させることを特徴とするものである。
【0020】
(6)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載のプレス金型の設計方法によってプレス金型の設計剛性分布を取得するプレス金型設計剛性分布取得工程と、
取得したプレス金型の設計剛性分布に基づき実プレス金型を製造するプレス金型製造工程と、
該実プレス金型を用いてプレス成形を行うプレス成形工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の構造を短時間で設計できるようになる。
その結果としてプレス機の加圧能力に応じた適切なプレス成形荷重となる実プレス金型を用いてプレス成形品の製造を行うことができるようになる。これにより、プレス金型への過剰な加圧によるプレス金型の寿命の低下を抑えることができ、プレス成形品のバリ等の発生を抑止して製造効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態1に係るプレス金型の設計方法のフローチャートである。
【
図2】実施の形態2に係るプレス金型の設計装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例で成形対象とした部品形状の説明図である。
【
図4】実施例において発明例の各工程に対応したプレス金型形状の説明図である。
【
図5】実施例において比較例の各工程に対応したプレス金型形状の説明図である。
【
図6】発明例及び比較例の各プレス金型におけるプレス成形荷重を示すグラフである。
【
図7】発明例及び比較例の所要時間を示すグラフである。
【
図8】実施の形態3に係るプレス成形品の製造方法のフローチャートである。
【
図9】実プレス金型の厚みの決定方法の説明図である。
【
図10】実施例1の金型モデルc(シェル)における設計剛性分布43を示す図である。
【
図11】
図10のプレス金型の設計剛性分布43に基づいて製造した実プレス金型47の説明図であり、
図11(a)は成形面を示し、
図11(b)は金型の下面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態1]
本実施の形態は、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の設計方法であって、
図1に示すように、金型モデル作成工程(S1)と、金型モデル剛性分布設定工程(S3)と、プレス成形荷重取得工程(S5)と、プレス成形荷重判定工程(S7)と、プレス金型設計剛性決定工程(S9)とを備えたものである。
以下、各構成を説明する。
【0024】
<金型モデル作成工程>
金型モデル作成工程S1は、プレス金型の表面を非剛体の二次元要素(シェル要素)によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成する工程である。
ここで非剛体とは、弾性体もしくは弾塑性体を指し、非剛体の二次元要素(シェル要素)は、弾性又は弾塑性の二次元要素を用いればよい。
なお、シェル要素に仮想的な厚みを持たせること自体は通常の成形解析でシェル要素を使用する際の手順の一つである。
【0025】
<金型モデル剛性分布設定工程>
金型モデル剛性分布設定工程S3は、二次元要素の境界条件を金型モデルの部位によって異ならせることによって金型モデルの剛性分布を設定する工程である。
ここで、境界条件とは、変位拘束や弾性係数、板厚、密度、質量あるいは降伏強度でもよい。
例えば、境界条件を変位拘束とする場合、プレス金型のある特定範囲を高剛性とする場合には、高剛性とする部位の二次元要素の変位を拘束して変形しないように境界条件を設定すればよい。
同様に、境界条件を弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度とする場合、プレス金型のある特定範囲を高剛性とする場合には、高剛性とする部位の二次元要素の弾性係数、板厚、密度、質量、降伏強度を大きくして変形しにくく境界条件を設定すればよい。
【0026】
<プレス成形荷重取得工程>
プレス成形荷重取得工程S5は、剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得する工程である。
取得するプレス成形荷重は、プレス金型全体にかかる荷重であっても、プレス金型の面圧分布であってもよい。
【0027】
<プレス成形荷重判定工程>
プレス成形荷重判定工程S7は、プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定する工程である。
所定のプレス成形荷重の範囲とは、プレス成形機の最大荷重や、プレス金型の損耗を低減するための荷重制約や、プレス金型の振動を低減するための荷重制約などである。
【0028】
<プレス金型設計剛性決定工程>
プレス金型設計剛性決定工程S9は、プレス成形荷重判定工程S7において、所定のプレス成形荷重の範囲内であると判定された場合は、設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定する。
また、プレス成形荷重判定工程S7において前記所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合には、所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、金型モデル剛性分布設定工程S3における金型モデルの剛性分布を変更し、プレス成形荷重取得工程S5と、プレス成形荷重判定工程S7と、を繰り返し、所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定する。
【0029】
決定した設計剛性分布をプレス金型に反映するには、たとえば剛性の強弱にあわせて肉厚を変更する、ヤング率の異なる部材を使用するなどが挙げられる。
【0030】
本実施の形態においては、プレス金型の表面を非剛体(弾性もしくは弾塑性)のシェルモデル(二次元要素)として仮想的な厚みを持たせてプレス金型をモデル化し、境界条件によって剛性を付与しているので、プレス成形荷重を取得するFEM解析計算に時間がかからず、また剛性分布設定の変更に際して金型モデルのモデリングを都度行う必要もないので、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の構造を短時間で設計できるようになる。
【0031】
[実施の形態2]
実施の形態1で説明したプレス金型の設計方法は、予め設定されたプログラムをコンピュータに実行させることで実現できる。そのような装置の一例であるプレス金型の設計装置を本実施の形態で説明する。
本実施の形態に係るプレス金型の設計装置1は、
図2に示すように、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータによって構成され、表示装置3、入力装置5、記憶装置7、作業用データメモリ9及び演算処理部11を有している。
そして、表示装置3、入力装置5、記憶装置7及び作業用データメモリ9は、演算処理部11に接続され、演算処理部11からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、
図3に示すプレス成形品31を解析対象とし、本実施の形態に係るプレス金型の設計装置1の各構成について説明する。
【0032】
≪表示装置≫
表示装置3は、解析結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0033】
≪入力装置≫
入力装置5は、ブランクやプレス成形品31等の表示指示や操作者の条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0034】
≪記憶装置≫
記憶装置7は、金型CADデータ、ブランク及びプレス成形品31の形状ファイル等の各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0035】
≪作業用データメモリ≫
作業用データメモリ9は、演算処理部11で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0036】
≪演算処理部≫
演算処理部11は、
図2に示すように、金型モデル作成部13と、金型モデル剛性分布設定部15と、プレス成形荷重取得部17と、プレス成形荷重判定部19と、プレス金型設計剛性決定部21と、を有し、CPU(中央演算処理装置)によって構成される。
これらの各部は、CPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
演算処理部11における上記の各部の機能を以下に説明する。
【0037】
金型モデル作成部13は、プレス金型の表面を非剛体の二次元要素によって仮想的な厚みを持たせた金型モデルを作成するものであり、実施の形態1において説明した金型モデル作成工程S1を実行する。
【0038】
金型モデル剛性分布設定部15は、二次元要素の境界条件を金型モデルの部位によって異ならせることによって金型モデルの剛性分布を設定するものであり、実施の形態1において説明した金型モデル剛性分布設定工程S3を実行する。
【0039】
プレス成形荷重取得部17は、剛性分布を設定した金型モデルを用いてプレス成形解析を行い、プレス成形荷重を取得するものであり、実施の形態1において説明したプレス成形荷重取得工程S5を実行する。
【0040】
プレス成形荷重判定部19は、プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲内かどうかを判定するものであり、実施の形態1において説明したプレス成形荷重判定工程S7を実行する。
【0041】
プレス金型設計剛性決定部21は、プレス成形荷重判定部19において、所定のプレス成形荷重の範囲であると判定された場合は、前記設定した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定し、プレス成形荷重判定部19において所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された場合、該所定のプレス成形荷重の範囲を満たすまで、金型モデル剛性分布設定部15において前記金型モデルの剛性分布を変更し、プレス成形荷重取得部17とプレス成形荷重判定部19の処理を繰り返し、前記所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、前記変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するものであり、実施の形態1において説明したプレス金型設計剛性決定工程S9を実行する。
【0042】
本実施の形態に係るプレス金型の設計装置1によれば、実施の形態1と同様に、プレス成形荷重を低減できるプレス金型の構造を短時間で設計できる。
【0043】
なお、上述したように、本実施の形態のプレス金型の設計装置1における金型モデル作成部13、金型モデル剛性分布設定部15、プレス成形荷重取得部17、プレス成形荷重判定部19及びプレス金型設計剛性決定部21は、CPUが所定のプログラムを実行することで実現されるものである。
したがって、本発明に係るプレス金型の設計プログラムは、コンピュータを、金型モデル作成部13、金型モデル剛性分布設定部15、プレス成形荷重取得部17、プレス成形荷重判定部19及びプレス金型設計剛性決定部21として機能させるもの、と特定することができる。
【0044】
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係るプレス成形品の製造方法は、本実施の形態1で説明したプレス金型の設計方法によって取得しプレス金型の設計剛性分布に基づいて実プレス金型を製造し、該実プレス金型を用いてプレス成形品の製造するものである。
図8に示すように、プレス金型設計剛性分布取得工程S11と、プレス金型製造工程S13と、プレス成形工程S15と、を含む。
【0045】
<プレス金型設計剛性分布取得工程>
プレス金型設計剛性分布取得工程S11は、前述した本実施の形態1のプレス金型の設計方法によってプレス金型の設計剛性分布を取得する工程である。
プレス金型設計剛性分布取得工程S11において取得するプレス金型の設計剛性分布は、前述したプレス金型設計剛性決定工程S9において、所定のプレス成形荷重の範囲になったときに、変更した金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定したものである。
【0046】
<プレス金型製造工程>
プレス金型製造工程S13は、プレス金型設計剛性分布取得工程S11において取得したプレス金型の設計剛性分布に基づき実プレス金型を製造する工程である。
プレス金型製造工程S13では、プレス金型の設計剛性分布に基づいて、例えば、二次元要素の変形を拘束して変形しないように境界条件を設定した高剛性とする部位にリブ(補強部材)を配置し、それ以外の部位は、たわみ量が金型モデルと同じになるように実プレス金型の厚みを決定する。
【0047】
以下、実プレス金型の厚みの決定方法の考え方を、
図9に基づいて説明する。
図9は、金型表面の弾性変形を単純梁の変形と考えて図示したものであり、
図9(a)は実プレス金型の厚みt(mm)、弾性係数E(MPa)の場合であり、
図9(b)が金型モデルの仮想的な厚みをtc(mm)、弾性係数Ec(MPa)の場合を示している。
このように考えると、
図9(a)の実プレス金型のたわみ量δと
図9(b)の金型モデルのたわみ量δcが同じとなる実プレス金型の厚みtを、式(1)で決定できる。
t=(Ec/E)
1/3・tc・・・(1)
【0048】
<プレス成形工程>
プレス成形工程S15は、プレス金型製造工程S13で製造した実プレス金型を用いて、実際にプレス成形を行い、プレス成形品を製造する工程である。
【0049】
以上、本実施の形態3に係るプレス成形品の製造方法においては、プレス機の加圧能力に応じた適切なプレス成形荷重となる実プレス金型を用いてプレス成形品の製造を行うことができる。これにより、プレス金型への過剰な加圧によるプレス金型の寿命の低下を抑えることができ、プレス成形品のバリ等の発生を抑止して製造効率を向上することができる。
【実施例0050】
本発明の効果を確認するため具体的なプレス金型の設計を行ったので、以下説明する。
図3に実施例の対象とする部品形状を示す。部品の材質は冷延1180MPa級高張力鋼板、板厚1.6mmである。当該部品のプレス成形に際しては、プレス機械の機械的な制約から、冷間プレス荷重を最大荷重245ton以下に抑える必要がある。そこで、本発明のプレス金型の設計方法における成形荷重判定工程における所定のプレス成形荷重をプレス成形機の最大荷重245tonとした。
【0051】
図4に上記実施の形態を実施した発明例における各工程により得られたプレス金型の形状を、各工程の流れに沿って表示した。
発明例の各工程を、参照する
図4を示しながら説明する。
【0052】
1.最初にプレス金型の金型CADデータを作成した(
図4(A))。
2.次にプレス金型のメッシュを作成して剛体のソリッドモデル(三次元要素)による金型モデルa(ソリッド)を作成した(
図4(B))。
3.金型モデルa(ソリッド)を用いたFEM解析により、
図3に示す部品形状のプレス成形品31のプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した。
4.次に金型モデルa(ソリッド)のプレス成形荷重が、最大荷重245ton以下かどうか、プレス成形荷重判定を実施した。
その結果、プレス成形荷重は338tonであり、最大荷重245tonを38.0%も上回っていたので、さらなるプレス成形荷重の低減が必要と判定された。
そこで、以降の5~13において、本実施の形態に係るプレス金型の設計方法及び装置を用いて、プレス成形荷重を低減できるプレス金型を設計した。
5.プレス金型の表面を弾性(非剛性)のシェル要素(二次元要素)によって仮想的な厚みを持たせた金型モデル(シェル)を作成した(
図4(C)、金型モデル作成工程)
6.そして、プレス金型の高剛性とする部位は、その範囲の金型モデル(シェル)の変位を拘束して変位しないように設定し、それ以外の範囲の金型モデル(シェル)の変位は拘束せずに、境界条件を金型モデル(シェル)の部位によって異ならせることにより金型モデル(シェル)の剛性分布を設定し、金型モデルb(シェル)を作成した(
図4(D)、金型モデル剛性分布設定工程)。
7.剛性分布を設定した金型モデルb(シェル)を用いたFEM解析によるプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した(プレス成形荷重取得工程)。
8.金型モデルb(シェル)のプレス成形荷重がプレス成形機の最大荷重245ton以下を満たすかどうかを判定した。取得した金型モデルb(シェル)のプレス成形荷重は250tonで最大荷重245tonを超えており、さらなるプレス成形荷重低減が必要であり、所定のプレス成形荷重の範囲を満たさないと判定された(プレス成形荷重判定工程)。
9.金型モデルb(シェル)で設定した金型モデル(シェル)の変位を拘束する部位を金型モデルb(シェル)よりも狭くなるように変更し、金型モデルの剛性分布を変更した金型モデルc(シェル)を作成した(
図4(E)、プレス金型設計剛性決定工程において繰返し行う、金型モデル剛性分布設定工程)。
10.剛性分布を変更した金型モデルc(シェル)を用いたプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した(プレス金型設計剛性決定工程において繰返し行う、プレス成形荷重取得工程)。
11.取得した金型モデルc(シェル)のプレス成形荷重が、最大荷重245ton以下を満たすかどうかを判定した(プレス金型設計剛性決定工程において繰返し行う、プレス成形荷重判定工程)。
その結果、金型モデルc(シェル)のプレス成形荷重は234tonであり、最大荷重245tonを4.5%下回るまで低減できたので、所定のプレス成形荷重の範囲内であると判定された(プレス金型設計剛性決定工程において繰返し行う、プレス成形荷重判定工程)。
12.金型モデルc(シェル)のプレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲になったので、金型モデルc(シェル)の剛性分布を、
図3に示す部品形状のプレス成形品31のプレス金型の設計剛性分布として決定した。
13.これによって、検討が終了した。
上述の9~12で示した工程は、プレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲になるまで、さらに、プレス成形荷重を低減すべく、金型モデル(シェル)の剛性分布を変更し、プレス成形荷重取得工程と、プレス成形荷重判定工程と、を繰り返し、シェルモデルによる金型モデルの剛性分布をプレス金型の設計剛性分布として決定するという、本発明のプレス金型設計剛性決定工程に相当する。
【0053】
比較例として、金型CADデータ作成とソリッドモデルによる金型モデルの作成を繰り返す方法の各工程の流れを
図5に示す。
比較例の各工程を、参照する
図5を示しながら説明する。なお、比較例の1~4の各工程は、発明例と同じである。
【0054】
1.最初にプレス金型の金型CADデータを作成した(
図5(a))。
2.次にプレス金型のメッシュを作成して剛体のソリッドモデル(三次元要素)による金型モデルa(ソリッド)(発明例の金型モデルaと同じ)を作成した(
図5(b))。
3.金型モデルa(ソリッド)を用いたFEM解析により、
図3に示す部品形状のプレス成形品31のプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した。
4.次に金型モデルa(ソリッド)のプレス成形荷重が、最大荷重245ton以下かどうか、プレス成形荷重判定を実施した。
このときプレス成形荷重は、発明例で説明したのと同様に338tonであり、最大荷重245tonを38.0%も上回っていたので、さらなるプレス成形荷重低減が必要と判定された。
5.プレス金型構造を再検討し、プレス金型構造を変更したプレス金型の金型CADデータを作成した(
図5(c))。
6.プレス金型構造を変更したプレス金型の金型CADデータより、プレス金型のメッシュを作成して剛体のソリッドモデルによる金型モデルb(ソリッド)を作成した(
図5(d))。
7.作成した金型モデルb(ソリッド)を用いたFEM解析によるプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した。
8.金型モデルb(ソリッド)のプレス成形荷重は248tonであり、最大荷重245tonよりわずかではあるが1.2%上回っており、さらなるプレス成形荷重低減が必要と判定された。
9.プレス成形荷重をさらに低減すべく、プレス金型構造を再検討し、プレス金型構造を再度変更したプレス金型の金型CADデータを作成した(
図5(e))。
10.プレス金型構造を再度変更したプレス金型の金型CADデータより、プレス金型のメッシュを作成して剛体のソリッドモデルによる金型モデルc(ソリッド)を作成した(
図5(f))。
11.作成した金型モデルc(ソリッド)を用いたFEM解析によるプレス成形解析を実施し、プレス成形荷重を取得した。
12.金型モデルc(ソリッド)のプレス成形荷重は228tonであり、最大荷重245tonを6.9%下回るまで低減できたので、プレス成形荷重判定はOKとなった。
13.金型モデルc(ソリッド)のプレス成形荷重が所定のプレス成形荷重の範囲になったので、金型モデルc(ソリッド) の剛性分布を、
図3に示す部品形状のプレス成形品31のプレス金型の設計剛性分布として決定した。
14.これによって、検討が終了した。
【0055】
図6に金型モデルa(ソリッド)、本発明によるシェル要素の金型モデルb(シェル)、及び金型モデルc(シェル)を用いたプレス成形解析によるプレス成形荷重と、比較例により求めたソリッド要素の金型モデルb(ソリッド)及び金型モデルc(ソリッド)のプレス成形荷重を比較して示す。これより、シェル要素の金型モデルb(シェル)、金型モデルc(シェル)と、ソリッド要素の金型モデルb(ソリッド)、金型モデルc(ソリッド)は、ほぼ同程度のプレス荷重推定精度であることが示された。
【0056】
発明例、比較例における所要時間(モデリング時間、計算時間)を比較したものを
図9に示す。
図7に示すように、比較例におけるモデリング時間は60min、計算時間が200minで合計260minであった。これに対し、実施例におけるモデリング時間は5min、計算時間が130minで合計135minであり、比較例の48%の計算時間を短縮できた。
【0057】
以上のように、本発明を適用することで、精度を阻害することなく設計時間を短縮できることが実証された。
【0058】
なお、上記の実施例における発明例は、まず金型CADデータを作成し、これに基づく金型モデルa(ソリッド)を作成し、金型モデルa(ソリッド)のプレス成形荷重を取得するという工程を経ているが、金型CADデータや金型モデルa(ソリッド)は既に存在する場合もあるので、その場合にはそれらのデータを用いて本発明を適用すればよい。すなわち、本発明では金型CADデータや金型モデルa(ソリッド)の作成は必須ではない。
実プレス金型47を用いてプレス成形品31をプレス成形したときの、実際のプレス成形荷重は、プレス機械の機械的な制約による最大荷重(245ton)を2.1%下回る240tonであった。これより、本発明により、プレス機の加圧能力に応じた適切なプレス成形荷重となる実プレス金型47により、プレス成形品31を製造できることが示された。