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特開2023-138302補正装置、システム、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138302
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】補正装置、システム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2055 20180101AFI20230922BHJP
【FI】
G01N23/2055 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191309
(22)【出願日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2022044391
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】吉元 政嗣
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA14
2G001BA18
2G001CA01
2G001GA01
2G001GA13
2G001KA08
(57)【要約】
【課題】全散乱データから算出した構造因子を補正できる補正装置、システム、方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】構造因子を補正する補正装置400であって、構造因子を取得する構造因子取得部410と、取得した構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出するPDF算出部420と、PDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、カットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する補正関数作成部430と、第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する補正量算出部440と、補正量を用いて構造因子を補正する構造因子補正部450と、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出するR値算出部460と、を備える。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造因子を補正する補正装置であって、
前記構造因子を取得する構造因子取得部と、
取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出するPDF算出部と、
前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する補正関数作成部と、
前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量を用いて前記構造因子を補正する構造因子補正部と、
前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出するR値算出部と、を備える補正装置。
【請求項2】
前記第1補正関数、および前記第2補正関数に基づいて密度を算出する密度算出部をさらに備え、
前記スケール因子は、前記密度算出部に算出された前記密度であり、
前記R値は、前記密度算出部に算出された前記密度の変化率を示すことを特徴とする請求項1記載の補正装置。
【請求項3】
前記密度算出部は、前記第1補正関数および前記第2補正関数の限定された範囲の値に基づいて制約項を算出し、
前記制約項に重み付けをする比率を算出する比率算出部をさらに備え、
前記密度は、前記制約項および前記比率の積を含み、
前記比率は、前記R値の増減に応じて増加または減少することを特徴とする請求項2記載の補正装置。
【請求項4】
前記スケール因子は、予め与えられた値であることを特徴とする請求項1記載の補正装置。
【請求項5】
前記PDFの最初のピーク位置r1stを決定するピーク位置決定部をさらに備え、
前記所定の範囲は0からr1stであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の補正装置。
【請求項6】
前記カットオフ関数は、前記カットオフ関数の定義域において1から0の値をとる単調減少関数であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の補正装置。
【請求項7】
試料の全散乱データを取得し、全散乱データの線源の種類、波長、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数に基づいて前記構造因子を算出する構造因子算出部をさらに備え、
前記構造因子取得部は、前記構造因子算出部が算出した前記構造因子を取得することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の補正装置。
【請求項8】
X線を発生させるX線発生部と、X線を検出する検出器と、試料の回転を制御するゴニオメータと、を備えるX線回折装置と、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の補正装置と、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項9】
構造因子を補正する方法であって、
前記構造因子を取得する構造因子取得ステップと、
取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出するPDF算出ステップと、
前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する補正関数作成ステップと、
前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する補正量算出ステップと、
前記補正量を用いて前記構造因子を補正する構造因子補正ステップと、
前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出するR値算出ステップと、を含む方法。
【請求項10】
構造因子を補正するプログラムであって、
前記構造因子を取得する処理と、
取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出する処理と、
前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する処理と、
前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する処理と、
前記補正量を用いて前記構造因子を補正する処理と、
前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造因子を補正する補正装置、システム、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
材料機能の深い理解には、3次元の構造情報が必要不可欠である。従来の材料の多くは結晶性材料であり、結晶構造の決定により目的を達成できていた。しかし、近年の電池やエレクトロニクス分野などの材料は、目的の機能の最大化のために、界面が制御され結晶性でないもの(非晶質)も多くなってきている。
【0003】
非晶質の構造特徴量を得るために構造モデリングは必須であり、モデリングに密度は必須項目である。それにもかかわらず前述した界面が制御された材料において、従来の方法(アルキメデス法など)では、密度の推定が困難である。そのため、モデリングスケールの密度推定技術が求められている。
【0004】
非特許文献1は、PDF(Pair Distribution Function)の漸近的な振る舞いに注目し、PDFを自動的に修正するための基準を導入すること、およびその基準が開示されている。非特許文献2は、PDFによる密度の推定法を非晶質に拡張する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Peter F. Peterson, Emil S. Bozin, Thoms Proffen, Simon J. L. Billinge. J. Appl. Cryst. (2003), 36, p. 53-64
【非特許文献2】Georgios S.E. Antipas, Konstantinos T. Karalis, Method X (2019), 6, p. 601-605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2記載の方法は、PDFの短距離側のノイズに注目して構造因子を補正することを考慮していない。
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来法と比較して、PDFのより広範囲のデータを使用して密度を探査することで、構造因子を補正することができ、得られる密度の精度が高くなることを発見した。また、この方法を、密度が既知であるとして適用することで、構造因子のみを補正することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、全散乱データから算出した構造因子を補正することができる補正装置、システム、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の補正装置は、構造因子を補正する補正装置であって、前記構造因子を取得する構造因子取得部と、取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出するPDF算出部と、前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する補正関数作成部と、前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する補正量算出部と、前記補正量を用いて前記構造因子を補正する構造因子補正部と、前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出するR値算出部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
(2)また、本発明の補正装置は、前記第1補正関数、および前記第2補正関数に基づいて密度を算出する密度算出部をさらに備え、前記スケール因子は、前記密度算出部に算出された前記密度であり、前記R値は、前記密度算出部に算出された前記密度の変化率を示すことを特徴としている。
【0011】
(3)また、本発明の補正装置において、前記密度算出部は、前記第1補正関数および前記第2補正関数の限定された範囲の値に基づいて制約項を算出し、前記制約項に重み付けをする比率を算出する比率算出部をさらに備え、前記密度は、前記制約項および前記比率の積を含み、前記比率は、前記R値の増減に応じて増加または減少することを特徴としている。
【0012】
(4)また、本発明の補正装置において、前記スケール因子は、予め与えられた値であることを特徴としている。
【0013】
(5)また、本発明の補正装置は、前記PDFの最初のピーク位置r1stを決定するピーク位置決定部をさらに備え、前記所定の範囲は0からr1stであることを特徴としている。
【0014】
(6)また、本発明の補正装置において、前記カットオフ関数は、前記カットオフ関数の定義域において1から0の値をとる単調減少関数であることを特徴としている。
【0015】
(7)また、本発明の補正装置は、試料の全散乱データを取得し、全散乱データの線源の種類、波長、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数に基づいて前記構造因子を算出する構造因子算出部をさらに備え、前記構造因子取得部は、前記構造因子算出部が算出した前記構造因子を取得することを特徴としている。
【0016】
(8)また、本発明のシステムは、X線を発生させるX線発生部と、X線を検出する検出器と、試料の回転を制御するゴニオメータと、を備えるX線回折装置と、上記(1)から(7)のいずれかに記載の補正装置と、を備えることを特徴としている。
【0017】
(9)また、本発明の方法は、構造因子を補正する方法であって、前記構造因子を取得する構造因子取得ステップと、取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出するPDF算出ステップと、前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する補正関数作成ステップと、前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する補正量算出ステップと、前記補正量を用いて前記構造因子を補正する構造因子補正ステップと、前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出するR値算出ステップと、を含むことを特徴としている。
【0018】
(10)また、本発明のプログラムは、構造因子を補正するプログラムであって、前記構造因子を取得する処理と、取得した前記構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出する処理と、前記PDFのデータおよび前記PDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、前記カットオフ関数を含み、前記所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する処理と、前記第1補正関数、前記第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する処理と、前記補正量を用いて前記構造因子を補正する処理と、前記第1補正関数、および前記第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の方法でPDFのグラフから密度ρを求める方法を示すグラフである。
図2】全散乱データの一例を示すグラフである。
図3】構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。
図4】PDF G(r)の一例を示すグラフである。
図5図4のグラフにPDFの最初のピーク位置r1stを記したグラフである。
図6】第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)の一例を示すグラフである。
図7】補正量c(Q)の一例を示すグラフである。
図8】補正前の構造因子S(Q)および補正後の構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。
図9】構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。
図10】第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)の一例を示すグラフである。
図11】補正前の構造因子S(Q)および補正後の構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。
図12】X線回折測定のシステムの構成の一例を示す概念図である。
図13】制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図14】補正装置の構成の一例を示すブロック図である。
図15】補正装置の構成の変形例を示すブロック図である。
図16】補正装置の構成の変形例を示すブロック図である。
図17】補正装置の構成の変形例を示すブロック図である。
図18】補正装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図19】補正装置の動作の変形例を示すフローチャートである。
図20】補正装置の動作の変形例を示すフローチャートである。
図21】補正装置の動作の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
[原理]
PDF(Pair Distribution Function)とは、任意の原子中心に隣接する原子を記述する解析法である。PDFから直接得られる情報は、例えば、ピーク位置、ピーク面積、ピーク幅などがある。ピーク位置は隣接原子間距離を、ピーク面積は配位数に関連する情報を、ピーク幅は分布の程度を示す情報である。
【0022】
図1は、従来の方法でPDFのグラフから密度ρを求める方法を示すグラフである。図1に示されるように、従来技術では、PDFの最初のピーク位置r1st未満のデータを直線近似し、傾きから密度ρを算出していた。これは、理想的な状態では、最初のピーク位置未満には構造(構造のシグナル)はないと考えることができるためである。PDF G(r)は、以下の式(1)で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、ρ(r)は、局所密度(構造によるシグナル)を示し、ρは、系内の平均原子数密度を示す。最初のピーク未満では、PDFのシグナルは観測されないと仮定すると、r<r1stでは、ρ(r)=0であるため、以下のように書き直しができる。
【0025】
【数2】
【0026】
そのため、「最初のピーク位置未満には構造はない」ことが正しいとすると、PDFの最初のピーク位置r1st未満のデータを直線近似した傾きから算出した密度ρも正しい値となる。しかし、通常、PDFはノイズを含むため、PDFの短距離側のノイズを無視して直線近似する従来の方法では、算出される密度の精度が悪くなり、非晶質の物質ではその影響が顕著であった。
【0027】
PDFの短距離側のノイズは、元の全散乱データの測定誤差等の誤りや構造因子を算出する際の誤りに由来する。また、元来、構造因子は全散乱データから無限の範囲で算出されるものであるところ、構造因子およびそれから算出されるPDFは有限の範囲に限定せざるを得ない。そのため、打切り誤差を含み、本質的な意味で理想的な状態にはなり得ない。
【0028】
そこで、本発明の方法は、以下のようにする。式(2)の両辺をr1st未満の所定の範囲でフーリエ変換し、左辺をa(Q)、右辺をb’(Q)とすると、a(Q)、b’(Q)はそれぞれ以下のように表される。
【0029】
【数3】
【0030】
【数4】
【0031】
そして、b(Q)を以下の式(5)とすると、b’(Q)はb(Q)を用いて、式(6)のように表される。
【0032】
【数5】
【0033】
【数6】
【0034】
そして、a(Q)とb(Q)の残差が最小となるρを求める。全散乱データが理想的な状態でない場合、このように求めた値は、PDFの最初のピーク位置r1st未満のデータを直線近似した傾きから算出した密度よりも実際の密度に近いものとなる。また、a(Q)とb(Q)を用いて、構造因子を補正することもできる。
【0035】
また、本発明の異なる形態として、実際の密度、またはそれに近い値が分かっている場合、式(6)のρをその値αに固定する。そして、a(Q)とαb(Q)が所定の精度で一致するようにa(Q)を補正することで、構造因子を補正することができる。
【0036】
上記のように補正した構造因子は、これを元に算出したPDFの短距離側のノイズが小さくなっているため、補正された構造因子やPDFから得られる情報の精度が高くなる。本発明の詳しい補正方法は、実施形態で詳述する。
【0037】
[実施形態]
以下で、本発明の補正方法を詳細に説明する。以下では、X線回折装置で測定された全散乱データを用いて密度を推定しつつ構造因子を補正する方法、および密度が既知であると仮定して構造因子を補正する方法を説明する。しかし、本発明を適用できる全散乱データは、X線回折装置で測定した全散乱データに限られず、これに類似するプローブで測定された全散乱データに適用できる。具体的には、例えば、放射線による全散乱データや粒子線による全散乱データに対して適用することができる。また、本発明は、必ずしも全散乱データを取得する必要はなく、全散乱データから算出された構造因子を最初のデータとしてもよい。
【0038】
なお、本明細書の説明で、ρを密度と記載する場合があるが、実際には平均原子数密度を表すものとする。平均原子数密度ρ(atoms/Å)から通常の密度ρbulk(g/cm)への変換は、以下の式(7)で容易に行なうことができる。式(7)で、Mは、材料の組成式での式量(または、分子量、原子量)、nは、組成式中に含まれる原子の個数(Mとnは同一の組成式から算出された値)とする。
【0039】
【数7】
【0040】
(実施形態1)
実施形態1では、X線回折装置で測定された全散乱データを用いて密度を推定しつつ構造因子を補正する方法を説明する。最初に、全散乱データを取得する。全散乱データを最初のデータとする場合、全散乱データの線源の種類、波長、バックグラウンド、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数等、全散乱データに基づいて構造因子を算出するために必要な情報も取得することが好ましい。これらの情報は、あらかじめ記憶されたものであってもよいし、X線回折装置から取得したものであってもよい。また、ユーザに入力されたものでもよい。図2は、全散乱データの一例を示すグラフである。
【0041】
次に、全散乱データに基づいて構造因子S(Q)を算出する。構造因子S(Q)の算出は、全散乱データの線源の種類、波長、バックグラウンド、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数等に基づいて算出することが好ましい。図3は、構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。図3は、図2の全散乱データから算出した構造因子のグラフを表している。
【0042】
次に、構造因子S(Q)からPDF(Pair Distribution Function)G(r)を算出する。PDF G(r)の算出は、構造因子S(Q)の最小値Qminおよび最大値Qmaxを取得し、以下の式(8)により行なう。QminおよびQmaxは、構造因子S(Q)を算出した際に付随するものであるが、ユーザに入力されたものでもよい。図4は、PDF G(r)の一例を示すグラフである。
【0043】
【数8】
【0044】
次に、PDF G(r)の最初のピーク位置r1stを決定する。G(r)の最初のピーク位置r1stは、G(r)のピークサーチによって決定してもよいし、試料の種類等に基づいて、データベース等を参照して決定してもよい。また、r1stは、ユーザに入力された値であってもよい。なお、r1stは、構造因子S(Q)の補正によって大きく変化する可能性が小さいため、最初のループでのみピークサーチを実行してr1stを決定し、2回目以降のループでは、ピークサーチを実行しないでr1stを最初の値と同一とすることが好ましい。ピークサーチを実行してr1stを決定する場合、算出されたG(r)に即した範囲で、後述する第1補正関数a(Q)と第2補正関数b(Q)を作成できるので、補正の精度が高くなる。図5は、図4のグラフにPDFの最初のピーク位置r1stを記したグラフである。
【0045】
次に、カットオフ関数Φ(r)を決定する。カットオフ関数Φ(r)は、PDF G(r)の長距離側のデータをカットオフする関数である。カットオフ関数Φ(r)は、その定義域において1から0の値をとる単調減少関数である。シンプルなカットオフ関数Φ(r)は、ステップ関数である。しかし、実際のPDF G(r)にはノイズが含まれているため、カットオフ関数Φ(r)は、その定義域において1から0の値をとるC級の単調減少関数であることが好ましい。これにより、長距離側のデータをカットオフしたPDF G(r)のデータを滑らかに接続することができる。カットオフ関数Φ(r)は、シグモイド関数や指数型で表現される関数などでも代用可能である。
【0046】
カットオフ関数Φ(r)は、例えば、以下の式(9)のような関数とすることができる。
【0047】
【数9】
【0048】
式(9)で、Rmax、Rminは、構造因子S(Q)およびPDF G(r)に基づいて定めることが好ましい。例えば、以下の式(10)~式(11)のように定めることができる。
【0049】
【数10】
【0050】
【数11】
【0051】
【数12】
【0052】
次に、PDF G(r)のデータおよびカットオフ関数Φ(r)を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数a(Q)と、カットオフ関数Φ(r)を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数b(Q)と、を作成する。このとき、所定の範囲は、0からr1stとすることが好ましい。なお、G(r)の最初のピーク位置r1stを1つの値に固定する場合、第2補正関数b(Q)も1つの関数に固定されることとなる。
【0053】
例えば、a(Q)およびb(Q)は、それぞれ以下の式(13)および式(14)のような関数とすることができる。式(13)および式(14)において、G(r)は、そのループにおける補正前のPDF G(r)を表している。図6は、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)の一例を示すグラフである。図6は、図4のPDF G(r)に対して、式(13)および式(14)で第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)を定義したときのa(Q)およびb(Q)のグラフを表している。
【0054】
【数13】
【0055】
【数14】
【0056】
次に、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)に基づいて、密度ρを算出する。算出したρを、後述する補正量c(Q)を算出する際のスケール因子とする。ρを算出する方法は、例えば、最小二乗法などを用いることができる。最小二乗法を用いて密度ρを求める場合、以下の式(15)のように求めることができる。式(15)において、a(Q)およびb(Q)は、構造因子の各測定点Qにおける第1補正関数および第2補正関数の値を表している。
【0057】
【数15】
【0058】
次に、第1補正関数a(Q)、第2補正関数b(Q)、およびスケール因子(本実施形態では、上記で求めたρ)を含む補正量c(Q)を算出する。このとき、各ループにおけるスケール因子をその都度上記のように求めた密度ρとすることで、算出される密度ρが補正され、精密化される。また、これに伴い、構造因子S(Q)も補正できる。例えば、c(Q)は、以下の式(16)のような式として定義することができる。図7は、補正量c(Q)の一例を示すグラフである。図7は、式(16)で補正量c(Q)を定義したときのc(Q)のグラフを表している。
【0059】
【数16】
【0060】
次に、補正量c(Q)を用いて、構造因子S(Q)を補正する。構造因子S(Q)の補正は、以下の式(17)のようにすることができる。式(17)において、Scor(Q)は補正後の構造因子S(Q)を、Sobs(Q)は補正前の構造因子S(Q)を表している。すなわち、S(Q)にc(Q)を加えた関数を新たな構造因子S(Q)とする。
【0061】
【数17】
【0062】
次に、第1補正関数a(Q)、および第2補正関数b(Q)を含み、補正の精度を示すR値を算出する。本実施形態の場合、R値は、算出された密度ρの変化率を示すことが好ましい。R値を算出された密度ρの変化率を示す値とする場合、例えば、以下の式(18)のように算出することができる。式(18)において、ρ(j)は、j回目のループで算出された密度ρを表している。なお、R値は、補正の精度または密度の変化率を示す値であればどのようなものであってもよく、式(18)に限られない。
【0063】
【数18】
【0064】
そして、R値が設定した条件を満たさない場合、補正した構造因子S(Q)から再度PDF G(r)を算出し、R値を算出するまでの処理を再び行う。一方、R値が設定した条件を満たす場合、必要に応じて補正した構造因子S(Q)、または密度ρを出力して終了する。図8は、補正前の構造因子S(Q)および補正後の構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。なお、R値の設定した条件は、例えば、通常は、0.05%以上0.1%以下の所定の値とすることができる。また、例えば、計算速度を優先する場合は、0.1%以上1%以下の所定の値とすることができる。また、例えば、密度の精度を優先する場合は、0.005%以上0.05%以下とすることができる。なお、R値は、その定義によっては1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。実施形態2および3においても、同様である。
【0065】
このようにして、本実施形態の方法では、全散乱データからスタートして、構造因子S(Q)を補正すると共に密度ρを補正することができる。
【0066】
(実施形態2)
実施形態2では、X線回折装置で測定された全散乱データを用いて密度を推定しつつ構造因子を補正する方法の変形例を説明する。多くの手順が実施形態1と同様であるため、異なる点のみを説明する。
【0067】
本実施形態は、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)を作成する工程までは、実施形態1と同様の工程で行うことができる。構造因子S(Q)を最初のデータとすることができる点も同様である。
【0068】
ここで、算出または取得した構造因子S(Q)が大きな歪みを含む場合を想定する。図9は、構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。図9は、Qの大きな値側で大きく歪んでいる構造因子S(Q)を示している。このような歪みの原因は様々考えられるが、例えば、不十分なコンプトン散乱強度の取得に由来する場合などがある。
【0069】
構造因子S(Q)が大きな歪みを含む場合、実施形態1の方法を用いると、補正された密度ρの精度があまりよくならないことがある。実施形態1の方法は、最終的にはa(Q)=ρb(Q)が成立することを仮定している。この仮定は、最終的なa(Q)とb(Q)から、どの点Qにおいても同一の密度ρが算出できることを意味する。一方、構造因子S(Q)が大きな歪みを含む場合、実施形態1の方法を用いて算出した密度ρは、歪みを反映した値として算出されるため、精度があまりよくならない。
【0070】
そこで、本実施形態では、構造因子S(Q)の全ての測定点Qでのa(Q)とb(Q)の値から密度を算出するだけでなく、a(Q)とb(Q)の一部限定された範囲のデータを重視する制約項を含むように密度を算出し、補正することとする。図9のように構造因子S(Q)がQの大きな値側で大きく歪んでいる場合、a(Q)とb(Q)の限定された範囲は、Qの小さな値側の範囲または点であることが好ましい。
【0071】
まず、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)に基づいて、仮の密度ρ’を算出する。仮の密度ρ’を算出する方法は、実施形態1の密度ρを算出する方法と同様の方法を用いることができ、例えば、最小二乗法などを用いることができる。最小二乗法を用いて仮の密度ρ’を求める場合、以下の式(19)のように求めることができる。式(19)において、a(Q)およびb(Q)は、構造因子の各測定点Qにおける第1補正関数および第2補正関数の値を表している。
【0072】
【数19】
【0073】
次に、a(Q)とb(Q)の限定された範囲のデータを重視する制約項dを算出する。限定された範囲をQの小さな値側の範囲または点とする場合、例えば、第2補正関数b(Q)の最初の極大値を与えるQ1stを求める。そのQ1stに対し、a(Q1st)およびb(Q1st)から、制約項dを以下の式(20)のように算出することができる。
図10は、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)の一例を示すグラフである。図10は、a(Q1st)およびb(Q1st)の位置を記している。式(20)では、制約項dは、a(Q1st)およびb(Q1st)から推定される密度を表している。
【0074】
【数20】
【0075】
なお、制約項dは、a(Q)とb(Q)の限定された範囲のデータを重視するための値であるため、Qの限定された範囲または点でのa(Q)とb(Q)から推定される密度を表す値であれば、どのようなものであってもよい。例えば、式(19)のQを所定の範囲内に含まれるものに限定して算出した値をdとしてもよい。
【0076】
算出された仮の密度ρ’および制約項dに基づいて、密度ρを算出する。算出された密度ρを、実施形態1と同様に補正量c(Q)を算出する際のスケール因子とする。各ループにおけるスケール因子をその都度上記のように求めた密度ρとすることで、構造因子S(Q)の歪みの影響を低減しつつ、算出される密度ρが補正され、精密化される。また、これに伴い、構造因子S(Q)も補正できる。
【0077】
密度ρは、例えば、以下の式(21)のように算出することができる。式(21)において、制約項dに重み付けをする比率wの初期値は、0より大きく1未満の範囲で任意に設定できる。例えば、wの初期値は、0.5とすることが好ましい。wの初期値は、ユーザに入力された値であってもよい。なお、仮の密度ρ’および制約項dに基づいて、密度ρを算出する方法は、式(21)に限られない。
【0078】
【数21】
【0079】
補正量c(Q)の算出、構造因子S(Q)の補正、およびR値の算出は、実施形態1と同様であるため省略する。本実施形態の場合も、R値は、算出された密度ρの変化率を示すことが好ましい。
【0080】
j回目のループにおけるR値をR(j)とする。R値が設定した条件を満たさない場合、R(j-1)の値に対するR(j)の値の増減に応じて、wの値が増加または減少するようにwの値を更新する。例えば、R(j)<R(j-1)が満たされる場合、元のwをwold、更新されたwをwnewとして、wold<wnewとなるように更新する。また、R(j)<R(j-1)が満たされない場合、wold>wnewとなるように更新する。
【0081】
R(j)<R(j-1)が満たされる場合、wの更新は、例えば、0<p<1を満たす定数pを用いて、以下の式(22)のようにすることができる。また、R(j)<R(j-1)が満たされない場合、wの更新は、例えば、1<pを満たす定数pを用いて、以下の式(23)のようにすることができる。pおよびpは、あらかじめ与えられていてもよい。また、ユーザに入力された値であってもよい。なお、wを更新する方法は、式(22)および式(23)に限られず、例えば、wから所定の定数を減じるまたは加える方法等であってもよい。
【0082】
【数22】
【0083】
【数23】
【0084】
wの更新後、補正した構造因子S(Q)から再度PDF G(r)を算出し、R値を算出するまでの処理を再び行う。一方、R値が設定した条件を満たす場合、必要に応じて補正した構造因子S(Q)、または密度ρを出力して終了する。R値の設定した条件は、実施形態1と同様に規定することができる。
【0085】
図11は、補正前の構造因子S(Q)および補正後の構造因子S(Q)の一例を示すグラフである。図11に示されるように、本実施形態の方法は、構造因子S(Q)の大きな歪みを含む範囲を適切に補正することができる。なお、比率wの値を0とし、wの更新を行わない場合、本実施形態の方法は実施形態1の方法と同一の結果となるため、本実施形態は、実施形態1を含むといってよい。
【0086】
このようにして、本実施形態の方法では、全散乱データからスタートして、構造因子S(Q)の歪みの影響を低減しつつ、構造因子S(Q)を補正すると共に密度ρを補正することができる。
【0087】
(実施形態3)
実施形態3では、X線回折装置で測定された全散乱データを用いて、密度が既知であると仮定して構造因子を補正する方法を説明する。多くの手順が実施形態1と同様であるため、異なる点のみを説明する。
【0088】
本実施形態も、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)を作成する工程までは、実施形態1と同様の工程で行なうことができる。構造因子S(Q)を最初のデータとすることができる点も同様である。
【0089】
本実施形態では、試料の密度は既知のものと仮定しているため、第1補正関数a(Q)および第2補正関数b(Q)に基づいて、密度ρを算出する必要はない。一方、補正量c(Q)を算出する際のスケール因子を定数αとする。この値αは、あらかじめ与えられた値であることが好ましい。この値αは、試料の種類等に基づいて、データベース等を参照して決定してもよいし、ユーザに入力された値としてもよい。本実施形態の方法では、この値αを既知の密度として与えると、構造因子を密度に基づいて補正することができる。
【0090】
次に、第1補正関数a(Q)、第2補正関数b(Q)、およびスケール因子(本実施形態では、上記で与えた定数α)を含む補正量c(Q)を算出する。例えば、c(Q)は、以下の式(24)のような式として定義することができる。
【0091】
【数24】
【0092】
各ループにおけるスケール因子は、定数αとして固定されているため、a(Q)をαb(Q)に近づくように補正すると、構造因子S(Q)もαに基づいて補正することができる。なお、G(r)の最初のピーク位置r1stを1つの値に固定することで第2補正関数b(Q)が1つの関数に固定される場合、補正量c(Q)は、第1補正関数a(Q)の変化に伴い変化する関数であるといってよい。
【0093】
構造因子S(Q)の補正は、実施形態1と同様の方法で行なうことができる。次に、第1補正関数a(Q)、および第2補正関数b(Q)を含み、補正の精度を示すR値を算出する。本実施形態の場合、R値は、a(Q)とαb(Q)の一致度を示す値であることが好ましい。R値をa(Q)とαb(Q)の一致度を示す値とする場合、例えば、以下の式(25)のように求めることができる。式(25)において、b’(Q)はαb(Q)を表している。また、a(Q)およびb’(Q)は、構造因子の各測定点Qにおける第1補正関数および第2補正関数の値を表している。なお、R値は、補正の精度またはa(Q)とαb(Q)の一致度を示す値であればどのようなものであってもよく、式(25)に限られない。
【0094】
【数25】
【0095】
そして、R値が設定した条件を満たさない場合、補正した構造因子S(Q)から再度PDF G(r)を算出し、R値を算出するまでの処理を再び行う。一方、R値が設定した条件を満たす場合、必要に応じて補正した構造因子S(Q)を出力して終了する。なお、本実施形態においても、R値の設定した条件は、例えば、通常は、0.05%以上0.1%以下の所定の値とすることができる。また、例えば、計算速度を優先する場合は、0.1%以上1%以下の所定の値とすることができる。また、例えば、補正の精度を優先する場合は、0.005%以上0.05%以下とすることができる。
【0096】
このようにして、本実施形態の方法では、全散乱データからスタートして、スケール因子に基づいて構造因子S(Q)を補正することができる。
【0097】
[全体のシステム]
図12は、X線回折測定のシステム100の構成の一例を示す概念図である。システム100は、X線回折装置200、制御装置300、および補正装置400を有している。X線回折装置200は、X線を試料に入射させ、試料から生じた回折X線を検出する光学系を構成し、光学系にはゴニオメータを有する。なお、図12に示す構成は一例であり、その他様々な構成が採られうる。
【0098】
制御装置300は、X線回折装置200に接続され、X線回折装置200の制御および取得されたデータの処理、記憶を行なう。補正装置400は、構造因子の補正を行なう。制御装置300および補正装置400は、CPUおよびメモリを備える装置であり、PC端末であってもよいし、クラウド上のサーバであってもよい。また、全体の装置だけでなく、一部の装置や装置内の一部の機能がクラウド上に設けられてもよい。入力装置510は、例えばキーボード、マウスであり、制御装置300や補正装置400への入力を行なう。表示装置520は、例えばディスプレイであり、構造因子やPDFなどを表示する。
【0099】
このようなシステム100を使用することにより、全散乱データを測定し、全散乱データから算出された構造因子を補正することができる。また、密度を算出し、補正することができる。
【0100】
なお、図12では、制御装置300と補正装置400を同一のPCとして記載している。しかし、上記の説明のように、本発明の方法は、X線回折装置200や制御装置300とは無関係に、全散乱データまたは構造因子を取得して、補正を行なうことができるため、補正装置400は、制御装置300とは異なる装置として構成されていてもよい。以下では、制御装置300と補正装置400は異なる装置として構成されている場合を説明する。
【0101】
[X線回折装置]
X線回折装置200は、X線焦点すなわちX線源からX線を発生するX線発生部210と、入射側光学ユニット220と、ゴニオメータ230と、試料を設置する試料台240と、出射側光学ユニット250と、X線を検出する検出器260と、を含んで構成される。X線回折装置200を構成するX線発生部210、入射側光学ユニット220、ゴニオメータ230、試料台240、出射側光学ユニット250、および検出器260は一般的なものであればよいので、説明は省略する。
【0102】
[制御装置]
図13は、制御装置300の構成の一例を示すブロック図である。制御装置300は、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。制御装置300は、X線回折装置200に接続され情報を受け取る。
【0103】
制御装置300は、制御部310、装置情報記憶部320、測定データ記憶部330、および表示部340を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。入力装置510および表示装置520は適宜のインターフェースを介してCPUに接続されている。
【0104】
制御部310は、X線回折装置200の動作を制御する。装置情報記憶部320は、X線回折装置200から取得した装置情報を記憶する。装置情報には、装置名、線源の種類、波長、バックグラウンド等のX線回折装置200に関する情報が含まれる。その他、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数等、全散乱データに基づいて構造因子を算出するために必要な情報が含まれてもよい。
【0105】
測定データ記憶部330は、X線回折装置200から取得した測定データを記憶する。測定データには、全散乱データが含まれる。全散乱データと合わせて、線源の種類、波長、バックグラウンド、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数等、全散乱データに基づいて構造因子を算出するために必要な情報が含まれてもよい。なお、バックグラウンドが低い場合は、構造因子を算出するために必要な情報に、バックグラウンドを含めなくてもよい。表示部340は、測定データを表示装置520に表示させる。これにより、測定データをユーザが確認することができる。また、ユーザが測定データに基づいて制御装置300、補正装置400等に指示、指定をすることができる。
【0106】
[補正装置]
図14は、補正装置400の構成の一例を示すブロック図である。補正装置400は、CPU、ROM、RAM、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。補正装置400は、制御装置300を介してX線回折装置200に接続されてもよい。
【0107】
補正装置400は、構造因子取得部410、PDF算出部420、補正関数作成部430、補正量算出部440、構造因子補正部450、およびR値算出部460を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。補正装置400と制御装置300が別の構成である場合、入力装置510および表示装置520は適宜のインターフェースを介して補正装置400のCPUにも接続されている。この場合、入力装置510および表示装置520は、制御装置300に接続されるものとは異なっていてもよい。
【0108】
構造因子取得部410は、全散乱データから算出された構造因子を取得する。構造因子取得部410は、X線回折装置200から直接または制御装置300を介して取得した全散乱データに基づく構造因子を取得してもよいし、データベース等にあらかじめ保存してある構造因子を取得してもよい。
【0109】
PDF算出部420は、構造因子取得部410が取得した構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出する。
【0110】
補正関数作成部430は、第1補正関数および第2補正関数を作成する。第1補正関数は、PDF算出部が算出したPDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した関数である。また、第2補正関数は、第1補正関数と同一のカットオフ関数を含み、第1補正関数と同一の所定の範囲でフーリエ変換した関数である。カットオフ関数は、あらかじめ記憶しておく。または、ユーザが関数形、所定の範囲等を選択することで任意に設定できる構成としてもよい。
【0111】
カットオフ関数は、カットオフ関数の定義域において1から0の値をとる単調減少関数である。カットオフ関数は、カットオフ関数の定義域において1から0の値をとるC級の単調減少関数であることが好ましい。これにより、PDFのデータを滑らかに接続することができる。カットオフ関数は、シグモイド関数や指数型で表現される関数などでも代用可能である。
【0112】
補正量算出部440は、補正関数作成部430が作成した第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する。
【0113】
構造因子補正部450は、補正量算出部440が算出した補正量を用いて、構造因子を補正する。
【0114】
R値算出部460は、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する。R値は、第1補正関数と第2補正関数の一致度を示す値であってもよい。なお、R値は、その定義によっては1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。また、補正装置400が後述する密度算出部435を備える構成であって、R値が密度の変化率を示す場合、1回目のループにおけるR値を算出するデータまたは比較対象として、試料に応じて推定される密度を使用することができる。また、2回目以降のループにおけるR値を算出するデータまたは比較対象として、密度算出部435に算出された密度を使用することができる。推定される密度は、ユーザに入力されたものであってもよい。
【0115】
図15図16および図17は、補正装置400の構成の変形例を示すブロック図である。図15から図17に示されるように、補正装置400は、密度算出部435(密度算出部435-1または密度算出部435-2)を備えていることが好ましい。密度算出部435-1は、第1補正関数、および第2補正関数に基づいて密度を算出する。これにより、補正装置400は、構造因子に基づいて算出される密度を第1補正関数、および第2補正関数に基づいて補正することができる。
【0116】
密度算出部435-2は、第1補正関数および第2補正関数の限定された範囲の値に基づいて制約項を算出する。密度算出部435-2は、第1補正関数、第2補正関数、および制約項に基づいて密度を算出する。これにより、補正装置400は、構造因子から算出される密度を第1補正関数、第2補正関数、および制約項に基づいて補正することができる。この場合、算出される密度は、制約項および制約項に重み付けをする比率の積を含むことが好ましい。
【0117】
補正装置400が密度算出部435-2を備える構成の場合、図16および図17に示されるように、補正装置400は、比率算出部437を備えていることが好ましい。比率算出部437は、制約項に重み付けをする比率wの算出または更新をする。j回目のループにおけるR値をR(j)とする。比率算出部437は、R(j-1)の値に対するR(j)の値の増減に応じて、wの値が増加または減少するようにwの値を更新することが好ましい。これにより、制約項の密度算出への関与の度合いを変更できる。比率の値の更新は、R値が設定した条件を満たさない場合に行うことが好ましい。図17において、密度算出部435が制約項を使用しない密度算出部435-1である場合、補正装置400は、比率算出部437を備えなくてもよい。
【0118】
補正装置400が密度算出部435(密度算出部435-1または密度算出部435-2)を備える構成の場合、R値算出部460に算出されるR値は、密度算出部435に算出された密度の変化率を示すことが好ましい。これにより、密度算出部435に算出される密度の精度を高くすることができる。
【0119】
図17に示されるように、補正装置400は、構造因子算出部405を備えていることが好ましい。構造因子算出部405は、試料の全散乱データを取得し、全散乱データの線源の種類、波長、バックグラウンド、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数に基づいて構造因子を算出する。なお、バックグラウンドが低い場合は、これを使用しないで構造因子を算出してもよい。このとき、構造因子取得部410は、構造因子算出部405が算出した構造因子を取得する。これにより、補正装置400は、試料の全散乱データに基づいて構造因子を算出し、構造因子を補正することができる。
【0120】
図17に示されるように、補正装置400は、ピーク位置決定部425を備えていることが好ましい。ピーク位置決定部425は、PDFの最初のピーク位置r1stを決定する。このとき、所定の範囲は0からr1stとすることができる。これにより、PDF算出部420に算出されたPDFに応じて所定の範囲を決定することができ、補正関数作成部430により作成される第1補正関数、および第2補正関数の精度を高くすることができる。
【0121】
[測定方法]
X線回折装置200に試料Sを設置し、制御装置300の制御に基づいて、所定の条件で回転軸の移動とX線の投影を繰り返す。これにより、X線を試料に照射し、回折データを取得する。X線回折装置200は、装置情報等および取得された回折データを測定データとして制御装置300に送信する。
【0122】
[補正方法]
(構造因子のみ補正する場合のフローの説明)
図18は、補正装置400の動作の一例を示すフローチャートである。図18は、構造因子のみ補正する場合の動作の一例を示している。まず、補正装置400は、構造因子を取得する(ステップS1)。次に、取得した構造因子からPDF(Pair Distribution Function)を算出する(ステップS2)。次に、PDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、カットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する(ステップS3)。
【0123】
次に、第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する(ステップS4)。次に、補正量を用いて構造因子を補正する(ステップS5)。次に、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する(ステップS6)。
【0124】
そして、R値が設定した条件を満たさない場合(ステップS7-NO)、ステップS2に戻り、補正した構造因子からPDFを算出し、ステップS6までの処理を再び行う。一方、R値が設定した条件を満たす場合(ステップS7-YES)、必要に応じて補正した構造因子を出力して、終了する。なお、R値は、その定義によっては1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。このようにして、スケール因子に基づいて構造因子を補正することができる。
【0125】
(密度を算出する場合のフローの説明)
図19は、補正装置400の動作の変形例を示すフローチャートである。図19は、構造因子を補正すると共に密度を算出する場合の動作の一例を示している。まず、補正装置400は、構造因子を取得する(ステップT1)。次に、取得した構造因子からPDFを算出する(ステップT2)。
【0126】
次に、PDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、カットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する(ステップT3)。
【0127】
次に、第1補正関数、第2補正関数を使用して密度を算出する(ステップT4)。次に、第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する(ステップT5)。このとき、スケール因子は、密度算出部435-1に算出された密度とすることが好ましい。次に、補正量を用いて構造因子を補正する(ステップT6)。次に、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する(ステップT7)。このとき、R値は、算出された密度の変化率を示すことが好ましい。
【0128】
そして、R値が設定した条件を満たさない場合(ステップT8-NO)、ステップT2に戻り、補正した構造因子からPDFを算出し、ステップT7までの処理を再び行う。一方、R値が設定した条件を満たす場合(ステップT8-YES)、必要に応じて補正した構造因子、または密度を出力して、終了する。なお、R値が算出された密度の変化率を示すとき、1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。また、試料に応じて推定される密度やユーザに入力された値をR値算出のデータとしたり、比較対象としたりしてもよい。このようにして、構造因子を補正すると共に密度を補正することができる。
【0129】
(密度を算出する場合の変形例のフローの説明)
図20は、補正装置400の動作の変形例を示すフローチャートである。図20は、構造因子が大きな歪みを含む場合に、構造因子を補正すると共に密度を算出する場合の動作の一例を示している。まず、補正装置400は、構造因子を取得する(ステップU1)。次に、取得した構造因子からPDFを算出する(ステップU2)。
【0130】
次に、PDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、カットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する(ステップU3)。
【0131】
次に、第1補正関数および第2補正関数の限定された範囲または点の値を用いて制約項を算出する。次に、第1補正関数、第2補正関数、および制約項に基づいて密度を算出する(ステップU4)。算出する密度は、制約項と制約項に重み付けをする比率wの積を含むことが好ましい。
【0132】
次に、第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する(ステップU5)。このとき、スケール因子は、密度算出部435-2に算出された密度とすることが好ましい。次に、補正量を用いて構造因子を補正する(ステップU6)。次に、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する(ステップU7)。このとき、R値は、算出された密度の変化率を示すことが好ましい。
【0133】
次に、R値が設定した条件を満たさない場合(ステップU8-NO)、wの値の更新をする(ステップU9)。wの値の更新は、R値の増減に応じてwの値を増加または減少させることが好ましい。そして、ステップU2に戻り、補正した構造因子からPDFを算出し、ステップU7までの処理を再び行う。
【0134】
一方、R値が設定した条件を満たす場合(ステップU8-YES)、必要に応じて補正した構造因子、または密度を出力して、終了する。なお、R値が算出された密度の変化率を示すとき、1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。また、試料に応じて推定される密度やユーザに入力された値をR値算出のデータとしたり、比較対象としたりしてもよい。このようにして、構造因子の歪みの影響を低減しつつ、構造因子を補正すると共に密度を補正することができる。
【0135】
(密度を算出する場合の変形例のフローの説明)
図21は、補正装置400の動作の変形例を示すフローチャートである。図21は、構造因子を補正すると共に密度を算出する場合の動作の変形例を示している。まず、補正装置400は、全散乱データを取得する(ステップV1)。次に、取得した全散乱データから構造因子を算出する(ステップV2)。このとき、全散乱データの線源の種類、波長、バックグラウンド、試料の形状、配置、構成元素の種類、組成、および吸収係数に基づいて構造因子を算出することが好ましい。
【0136】
次に、算出した構造因子を取得する(ステップV3)。次に、取得した構造因子からPDFを算出する(ステップV4)。次に、PDFの最初のピーク位置r1stを決定する(ステップV5)。PDFの最初のピーク位置r1stは、PDFのピークサーチによって決定してもよいし、データベース等を参照して決定してもよい。また、r1stは、ユーザに入力されたものであってもよい。
【0137】
次に、PDFのデータおよびPDFの長距離側のデータをカットオフするカットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第1補正関数と、カットオフ関数を含み、所定の範囲でフーリエ変換した第2補正関数と、を作成する(ステップV6)。このとき、所定の範囲は、0からr1stとすることが好ましい。
【0138】
次に、第1補正関数、第2補正関数を使用して密度を算出する(ステップV7)。次に、第1補正関数、第2補正関数、およびスケール因子を含む補正量を算出する(ステップV8)。このとき、スケール因子は、密度算出部435-1または密度算出部435-2に算出された密度とすることが好ましい。次に、補正量を用いて構造因子を補正する(ステップV9)。次に、第1補正関数、および第2補正関数を含み、補正の精度を示すR値を算出する(ステップV10)。このとき、R値は、算出された密度の変化率を示すことが好ましい。
【0139】
そして、R値が設定した条件を満たさない場合(ステップV11-NO)、制約項に重み付けをする比率wの値の更新をする(ステップV12)。wの値の更新は、R値の増減に応じてwの値を増加または減少させることが好ましい。そして、ステップV4に戻り、補正した構造因子からPDFを算出し、ステップV10までの処理を再び行う。なお、スケール因子を制約項を含まない密度とする場合、wの値を0として、wの値の更新を行わなくてもよい。一方、R値が設定した条件を満たす場合(ステップV11-YES)、必要に応じて補正した構造因子、または密度を出力して、終了する。なお、R値が算出された密度の変化率を示すとき、1回目のループで算出できない場合や比較対象が存在しない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。また、試料に応じて推定される密度やユーザに入力された値をR値算出のデータとしたり、比較対象としたりしてもよい。このようにして、全散乱データからスタートして、構造因子の歪みの影響を低減しつつ、構造因子を補正すると共に密度を補正することができる。
【0140】
全散乱データを取得するステップ、全散乱データから構造因子を算出するステップ、およびPDFの最初のピーク位置r1stを決定するステップは、構造因子のみ補正する方法または制約項を用いないで構造因子および密度を補正する方法に適用することもできる。
【0141】
[実施例1]
上記のように構成されたシステム100を用いて、SiOガラスの全散乱データを測定した。これを用いて、構造因子およびPDFを算出した。そして、本発明の実施形態1の方法を用いて、平均原子数密度を算出した。その値は、0.06376atoms/Åであった。なお、この値になったときのR値は、0.01%以下であった。また、ループの繰り返しは、11回であった。
【0142】
同一のPDFに対し、従来法を用いてPDFの最初のピーク位置r1st未満のデータを直線近似した傾きから平均原子数密度を算出した。その値は、0.05995atoms/Åであった。一方、バルク体の平均原子数密度を算出したところ、0.06613atoms/Åであった。
【0143】
よって、本発明の方法で算出した平均原子数密度のほうが従来の方法で算出した平均原子数密度よりも実際の平均原子数密度に近いことが確かめられた。なお、上記の平均原子数密度(atoms/Å)から通常の密度(g/cm)に変換をすると、それぞれ2.12g/cm、1.99g/cm、2.20g/cmとなる。
【0144】
[実施例2]
次に、上記システム100を用いて、グラッシーカーボン、グラファイト、ケイ素、ダイアモンド、LiMn、およびLiCoOの全散乱データを測定した。これらを用いて、それぞれの試料の構造因子およびPDFを算出した。そして、本発明の実施形態1の方法を用いて、それぞれの試料の平均原子数密度を算出した。また、それぞれの試料のバルク体の平均原子数密度を算出した。バルク体の平均原子数密度に対して、本発明の方法で算出された平均原子数密度は、いずれの試料も±10%の範囲に入っていた。よって、本発明の方法は、実際の密度に十分に近い値を算出することができることが確かめられた。
【0145】
[実施例3]
次に、上記システム100を用いて、Qの大きな値側で大きな歪みを含むSiOガラスの構造因子S(Q)を最初のデータとして、PDFを算出した。そして、本発明の実施形態1の方法および実施形態2の方法を用いて、それぞれ平均原子数密度を算出した。実施形態2の方法では、wの初期値を0.5とし、pを0.8、pを1.05とした。
【0146】
実施形態1の方法で算出した平均原子数密度は、0.0574atoms/Åであった。これに対し、実施形態2の方法で算出した平均原子数密度は、0.0701atoms/Åであった。バルク体の平均原子数密度は、0.06613atoms/Åであった。これにより、構造因子S(Q)が大きく歪んでいるときは、実施形態2の方法を用いるほうが密度推定の結果が良くなることが確かめられた。なお、上記の平均原子数密度(atoms/Å)から通常の密度(g/cm)に変換をすると、それぞれ1.91g/cm、2.33g/cm、2.20g/cmとなる。
【0147】
以上の結果により、本発明の補正装置、システム、方法およびプログラムは、構造因子を補正でき、また、密度を補正できることが確認された。
【符号の説明】
【0148】
100 システム
200 X線回折装置
210 X線発生部
220 入射側光学ユニット
230 ゴニオメータ
240 試料台
250 出射側光学ユニット
260 検出器
300 制御装置
310 制御部
320 装置情報記憶部
330 測定データ記憶部
340 表示部
400 補正装置
405 構造因子算出部
410 構造因子取得部
420 PDF算出部
425 ピーク位置決定部
430 補正関数作成部
435、435-1、435-2 密度算出部
437 比率算出部
440 補正量算出部
450 構造因子補正部
460 R値算出部
510 入力装置
520 表示装置
図1
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