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特開2023-138360眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138360
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20230922BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G02C13/00
A61B3/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023177
(22)【出願日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2022041049
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】朝野 彰
【テーマコード(参考)】
2H006
4C316
【Fターム(参考)】
2H006DA05
4C316AA13
4C316FA14
4C316FC21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】視軸を基準とした正確なシミュレーションで、視力を低矯正とする場合でもシミュレーションが可能となる眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法を提供すること。
【解決手段】処方のレンズを使用して任意のある方向を注視した際の眼球モデル内の中心窩と節点を結ぶ視軸と同軸な主光線と、同主光線回りの視軸と最小錯乱円付近で交差する副光線を光線追跡によって求め、主光線及び副光線から算出した光学特性に基づいて第1の焦点距離を算出するとともに、処方のレンズの光学特性に基づいて第2の焦点距離を算出し、第1の焦点距離と第2の焦点距離との比に基づいて視軸上における第1の焦点距離の最小錯乱円が移動する位置を算出し、副光線が視軸上を移動した最小錯乱円を通るようにシミュレーションし、複数の光線が到達する網膜上の位置の中心窩からの離間距離に基づいて任意のある方向の視力を計算するようにした。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球モデル及び同眼球モデルの前方に配置されたレンズに対して光線を透過させるコンピュータ装置を利用した視力のシミュレーション方法であって、
処方のレンズを使用して任意のある方向を注視した際の前記眼球モデル内の中心窩と節点を結ぶ視軸と同軸な主光線と、同主光線回りの複数の副光線を光線追跡によって求め、
光線追跡による前記主光線及び前記副光線から算出した第1の光学特性に基づいて第1の焦点距離を算出するとともに、処方のレンズの第2の光学特性に基づいて第2の焦点距離を算出し、
処方のレンズを透過した後の複数の前記副光線の変位状態をシミュレーションし、そのシミュレーション結果と前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離との比に基づいて処方のレンズについて任意のある方向の前記第1の光学特性に基づく視力値を計算するようにしたことを特徴とする眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項2】
算出した前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離との比に基づいて前記視軸上における前記第1の焦点距離の最小錯乱円が移動した位置を求め、前記副光線が前記視軸上を移動した最小錯乱円を通るシミュレーションを実行し、複数の前記副光線が到達する網膜上の位置の中心窩からの離間距離に基づいて任意のある方向の視力値を計算するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第1の焦点距離は光線追跡で求めた等価球面度数に基づいて算出され、前記第2の焦点距離は処方のレンズの等価球面度数に基づいて算出されることを特徴とする請求項2に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記視軸の中心窩位置にある最小錯乱円を前記視軸上で移動させた位置は以下の式で求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【数1】
【請求項5】
前記視軸上において移動させる最小錯乱円の初期位置は網膜上の中心窩位置であることを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記視軸上において移動させる最小錯乱円の初期位置は網膜上の中心窩位置にないことを特徴とする請求項2又は3に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項7】
算出した前記第1の焦点距離及び前記第2の焦点距離との比と、処方のレンズを透過した後の複数の前記副光線の径方向の距離に基づいて光線追跡によって求めた網膜上のスポット径の形状データを求め、得られたスポット径の形状データに基づいて任意のある方向の視力値を計算するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項8】
得られた前記スポット径の形状データに光線追跡によって求めた乱視軸データを適用して任意のある方向の視力値を計算するようにしたことを特徴とする請求項7に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項9】
S度数方向とS+C度数方向の処方のレンズを透過した後の副光線間の距離に基づいてS度数方向とS+C度数方向の基準となるスポット径を求め、基準となるスポット径に基づいて主光線回りのスポット径の平均値を求めることを特徴とする請求項8に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項10】
光線追跡によって求めた複数の副光線の処方のレンズ透過後の変位量を取得し、その変位量に基づいたしきい値が所定の範囲内である場合に視力計算を実行するようにしたことを特徴とする請求項1~3、7~9のいずれかに記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記眼球モデルの眼軸上のデータを用いて前記眼球モデルの内の中心窩の位置データを算出することを特徴とする請求項1~3、7~9のいずれかに記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項12】
前記視軸の算出においては眼軸と前記視軸との軸方向の角度のズレに基づいて計算を行うことを特徴とする請求項10に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項13】
任意の視距離の二次元平面上に視軸を通過させる注視点を設定し、前記注視点を視線が通過する際に前記二次元平面上に軸線が通過する位置を交点とし、前記交点から眼回旋中心に向かう光線に基づいて眼回旋量を算出し、算出した前記眼回旋量に基づいて中心窩の位置データを算出するようにしたことを特徴とする請求項11に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項14】
前記眼軸を通り前記眼球モデルと交差する第3の交点に、算出した前記眼回旋量を適用して中心窩の位置データを算出するようにしたことを特徴とする請求項12に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項15】
前記眼回旋量を算出する際には回旋量に応じた回転行列を求め、前記回転行列に基づいて中心窩の位置データを算出するようにしたことを特徴とする請求項12に記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【請求項16】
前記眼軸と前記視軸との軸方向角度のズレに基づく計算では眼軸長に応じて異なるパラメータを使用して計算されるようにしたことを特徴とする請求項1~3、7~9のいずれかに記載の眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼球モデルと眼球モデルの前方に配置されたレンズからなる光学系に対して眼回旋を通る主光線を想定し、視力を計算するシミュレーションが従来から行われている。それは実際の視力はレンズの中央付近を通る視線における視力と比較してレンズの周縁を通る視線がレンズに対して角度がつくことからレンズの厚みやプリズムの影響によって得られる視力が異なってくるからである。そのため、実際にある眼鏡レンズで物体を見た際にどのように見えるかをシミュレーションすることは眼鏡レンズの設計において重要であるからである。
ここに眼回旋は眼球が回転する際の中心であり、「眼軸」が通過する点である。例えば特許文献1では入射瞳内で均等分割された各点について眼軸を通る主光線を中心とする網膜上のPSF分布を計算し、そのPSF分布を二次元ガウス関数で近似して得られる標準偏差をもとにして視力を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3919069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
視力を計算するシミュレーションにおいては従来からこの特許文献1のように眼軸上の主光線を想定して計算している。しかし、実際には物体を見る際の視線は眼回旋を通過せず、網膜上の中心窩を通過することとなる。実際に視線が通過する軸を「視軸」と称している。眼軸を計算の基準としたのは、主として眼球モデルの回転中心となる眼回旋点を原点として計算することができるため計算上有利であることであるが、それ以外にも視軸と眼軸の差がそれほど厳密には考えられていなかったため眼回旋点が視線上にあると仮定してもレンズ特性を取得する手法として十分であるとされてきたためである。しかし、近年の眼鏡レンズはユーザーの見え方に応じて様々にカスタマイズされるようになっており、レンズ設計において視力を計算するシミュレーションが正確に行われることが望まれている。
また、特許文献1では基本的にレンズは1.0以上の完全矯正を前提とした計算手法であり、例えば、0.7のような低矯正の視力を目的としたレンズの場合の視力のシミュレーションは前提としておらず、また、このような低矯正の正確な視力も計算ができない。
これらのことから、視軸を基準とした正確なシミュレーションで、視力を低矯正とする場合でもシミュレーションが可能となる眼鏡装用時の視力のシミュレーション方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段として、眼球モデル及び同眼球モデルの前方に配置されたレンズに対して光線を透過させるコンピュータ装置を利用した視力のシミュレーション方法であって、処方のレンズを使用して任意のある方向を注視した際の前記眼球モデル内の中心窩と節点を結ぶ視軸と同軸な主光線と、同主光線回りの複数の副光線を光線追跡によって求め、光線追跡による前記主光線及び前記副光線から算出した第1の光学特性に基づいて第1の焦点距離を算出するとともに、処方のレンズの第2の光学特性に基づいて第2の焦点距離を算出し、処方のレンズを透過した後の複数の前記副光線の変位状態をシミュレーションし、そのシミュレーション結果と前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離との比に基づいて処方のレンズについて任意のある方向の前記第1の光学特性に基づく視力値を計算するようにした。
これによって、光線追跡による中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する主光線と、主光線回りの副光線に基づいて、ある任意の方向を実際に注視した際の視力値を計算することができるため、ユーザーの実際の視力に基づいたより正確な眼鏡装用時の視力のシミュレーションが可能となる。また、シミュレーション結果に基づいて処方のレンズが予定された光学特性を備えているかどうかを視力値で客観的に示すことができる。
【0006】
ここで、副光線が網膜上に到達する際の中心窩からの到達位置と視力との関係について説明する。
視力は網膜上の視細胞によって光刺激が検出され、それが電気信号として脳に認識されることで発現する。中心窩位置には特に錐体細胞が集中している。錐体細胞は色覚の基礎となり視力の発現に寄与するが、個々の細胞は感度が低いため充分な光量を必要する。錐体細胞は図12に示すように中心窩を分布密度のもっとも高い位置として中心窩の周囲に広がっている。入射光が中心窩に集中する場合では錐体細胞全体の感度が上がることとなるため物体はよく見える。つまり、入射光が中心窩からズレているとそのズレ(変位)に応じてよく見えていないこととなる。処方のレンズを光線追跡した場合の第1の光学特性が、処方のレンズのS度数、C度数等に基づいた第2の光学特性とズレが生じることがあり、そのズレを視力値で客観的に示すことでレンズのある方向についてのよしあしを評価することができる。
尚、第2の焦点距離は完全矯正となっていなくともよい。例えば、低矯正視力で矯正する場合があるからである。
【0007】
「眼球モデル」は、例えば、グストランドの模型眼に代表される実測された眼のデータを用いてもよいし、簡易的に眼回旋中心をレンズ裏面から24~29mm程度離れた位置に設定してもよい。レンズ裏面から眼回旋中心までの距離は、軸性の近視のような場合には距離が長くなるし、鼻の高さによりレンズの位置が変化する場合などにも距離が変動するため、シミュレートする条件に合わせて設定することが好ましい。
「光学特性」とは、既存のレンズ評価において用いているレンズ性能のことを言い、例えば、S度数、C度数、等価球面度数(S+C/2)、乱視度数とその軸度、プリズム量とそのベース値、累進屈折力レンズにおける加入度、非点収差、歪曲収差、度数誤差(パワーエラー)等であって、これら性能を単独あるいは複数組み合わせて設計や評価に用いることができる。
「眼軸」は眼球の眼回旋中心と節点を通過する直線の軸である。
「視軸」は眼球の網膜上の中心窩と節点を通過する直線の軸である。
「主光線」は視軸と同軸に延出される光軸であり視軸を中心位置に有する光線である。
「副光線」は主光線の回りに配置される光線である。副光線はレンズの物体側において主光線と平行であることがよいが、平行でなくともよい。シミュレーションにおいてはレンズの物体側から射出された副光線は中心窩に向かう途中において最小錯乱円付近で交差する。その際に最小錯乱円が網膜上の中心窩位置にあれば完全矯正されている状態であり、副光線も中心窩位置に到達する。一方、最小錯乱円が中心窩位置になければ一点で交差せずに中心窩の前後どちらかに位置する最小錯乱円もしくはその周辺を通過する。その位置は副光線の位置によって一様ではない。
また、第1の焦点距離を算出するために用いられる副光線と視力を計算する際に用いられる副光線とは同じでもよく、異なっていてもよい。
「第1の焦点距離」は処方のレンズを装用したシミュレーションにおいて光線追跡によって求めた副光線の光学特性に基づく焦点距離であって、例えば等価球面度数で求めることがよい。
「第2の焦点距離」は処方のレンズの焦点距離であって、例えば等価球面度数で求めることがよい。
「第1の焦点距離と第2の焦点距離との比に基づいて」とは、光学特性において焦点距離の違いによってレンズを透過する副光線の変位状態が異なるため、2つの焦点距離の比に基づくことで副光線の変位状態を分析するようにするものである。
上記のようにある任意のある方向を注視して得た光線追跡による副光線に基づいて視力を計算するが、眼球モデル全体の視力計算はレンズ上のいたるところを注視点として同様にシミュレートする。得られた光学特性は必要に応じて補間計算をして補充する。
【0008】
また、第2の手段として、算出した前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離との比に基づいて前記視軸上における前記第1の焦点距離の最小錯乱円が移動した位置を求め、前記副光線が前記視軸上を移動した最小錯乱円を通るシミュレーションを実行し、複数の前記副光線が到達する網膜上の位置の中心窩からの離間距離に基づいて任意のある方向の視力値を計算するようにした。
これは、より具体的な視力値の計算手法を示したものである。このように、視力のシミュレーションにおいて主光線回りの複数の副光線を用いて視軸上を移動した最小錯乱円を通るシミュレーションを実行することで複数の副光線群の網膜上の中心窩を中心とした到達位置がわかるため、到達した副光線の中心窩からの位置に基づいて正確に視力を計算することができる。
ここで、第2の手段における副光線が網膜上に到達する際の中心窩からの到達位置と視力との関係について説明する。
最小錯乱円の位置がちょうど網膜上の中心窩に一致することがもっとも視力が矯正されている(完全矯正)状態である。一方、完全矯正でなければ最小錯乱円は網膜上の中心窩にはない。最小錯乱円の位置が視軸の軸方向に移動すると網膜上での入射光は拡散して中心窩のみならずその周囲にも入射光が及ぶこととなる。結果として全体の光量は同じでも錐体細胞の密度の低い領域が含まれることとなるため錐体細胞全体としての感度が下がるため視力が落ちることとなる。第2の手段では中心窩からの距離と錐体細胞の分布密度に負の相関関係があることを視力計算に利用するものである。
「最小錯乱円」は、レンズの水平軸上を通過して結んだ焦点を強主経線、垂直軸を通過して結んだ焦点を弱主経線とすると、強主経線の焦線が手前(前焦線)、弱主経線の焦線が奥側(後焦線)の位置関係にあり、前焦線と後焦線の間にある大小異なる集光円の内の最小サイズの円である。つまり、焦点あるいは結像点を想定した際の前焦線と後焦線の間にできる集光円のうち、最小となる集光円が最小錯乱円であり焦点や結像点となる位置である。乱視や収差がなければ最小錯乱円は点収束する。
【0009】
また、第3の手段として、前記第1の焦点距離は光線追跡で求めた等価球面度数に基づいて算出され、前記第2の焦点距離は処方のレンズの等価球面度数に基づいて算出されるようにした。
等価球面度数がレンズの焦点距離の計算のベースとして最適だからである。
また、第4の手段として、前記視軸の中心窩位置にある最小錯乱円を前記視軸上で移動させる量は以下の式で求めるようにした。つまり、第2の焦点距離に対応するレンズ裏面での主光線の通過位置と中心窩との間の距離に対する第1の焦点距離を第1の焦点距離と第2の焦点距離との比で示したものである。数1の式は最小錯乱円を視軸上で移動させるための具体的な一例である。
【0010】
【数1】
【0011】
また、第5の手段として前記視軸上において移動させる最小錯乱円の初期位置は網膜上の中心窩位置であるようにした。
この位置は視力を完全矯正している位置であり、視力として1.0以上を確保している領域である。この位置を基準としたシミュレーションを実行することで、完全矯正に対してどの程度の視力の変化があるかを判断することができる。
最小錯乱円が網膜上の中心窩位置に存在する場合が処方の度数である場合に、
1)遠視(プラス度数)レンズでは、処方より強度の場合には眼球モデルにおいて網膜より手前に最小錯乱円は移動し、処方より弱度の場合には網膜より奥側に最小錯乱円は移動する。
2)近視(マイナス度数)レンズでは、処方より弱度の場合には眼球モデルにおいて網膜より手前に最小錯乱円は移動し、処方より強度の場合には網膜より奥側に最小錯乱円は移動する。
また、第6の手段として、前記視軸上において移動させる最小錯乱円の初期位置は網膜上の中心窩位置にないようにした。
この手段は完全矯正していない視力として1.0未満の低矯正視力でのシミュレーションをする場合である。つまり、網膜より手前か奥かいズレかに最小錯乱円が移動している状態である。この位置を基準としたシミュレーションを実行することで、ユーザーが求める1.0未満の矯正視力であっても、どの程度の視力の変化があるかを判断することができる。
【0012】
また、第7の手段として、算出した前記第1の焦点距離及び前記第2の焦点距離との比と、処方のレンズを透過した後の複数の前記副光線の径方向の距離に基づいて光線追跡によって求めた網膜上のスポット径の形状データを求め、得られたスポット径の形状データに基づいて任意のある方向の視力値を計算するようにした。
これは、より具体的な視力値の計算手法を示したものである。このように、視力のシミュレーションにおいて網膜上のスポット径の形状データを求めることで、どの程度光線追跡によって求めた第1の光学特性が第2の光学特性に対してズレているかわかるため、そのズレに基づいて正確に視力を計算することができる。
「スポット径」は、網膜上の中心窩において視細胞密度が最も大きい位置にレンズの焦点が合っている状態(すなわち、該当方向の副光線を基に計算したレンズの度数が、処方度数と一致し、幾何学的に該当方向の副光線が前述位置で1点に結像している状態)をゼロとし、処方度数から度数がズレることで、副光線がどれだけ広がっているかを示す視標である。網膜上の主光線を挟んで対向する2つの点の距離がスポット径となる。処方度数から度数がズレることで副光線が主光線から離間する量(距離)は一様ではないため、スポット径は主光線回りの副光線の方向において同じにはならない。
また、第8の手段として、得られた前記スポット径の形状データに光線追跡によって求めた乱視軸データを適用して任意のある方向の視力値を計算するようにした。
レンズを透過した後のスポット径の形状データは乱視軸方向に歪むと考えられるため、乱視軸データを適用することがよいからである。具体的には例えば基準方向からの乱視軸方向の角度をパラメータとする回転行列を適用してスポット径の座標を変換することがよい。
また、第9の手段として、S度数方向とS+C度数方向の処方のレンズを透過した後の副光線間の距離に基づいてS度数方向とS+C度数方向の基準となるスポット径を求め、基準となるスポット径に基づいて主光線回りのスポット径の平均値を求めるようにした。
スポット径の楕円の長径、短径は、S度数方向とS+C度数方向となるため、楕円の長径、短径が求まることで楕円を定義することができる。楕円を定義することで主光線回りのあらゆる方向のスポット径に計算が容易となり、スポット径の平均値を求めやすくなる。
【0013】
また、第10の手段として、光線追跡によって求めた複数の副光線の処方のレンズ透過後の変位量を取得し、その変位量に基づいたしきい値が所定の範囲内である場合に視力計算を実行するようにした。
副光線の処方のレンズ透過後の変位量が大きすぎる場合には、処方度数での予定した見え方と大きな差があると考えられる。例えば、非球面レンズではなく単なる球面レンズである場合では差が大きくなる傾向である。そのため、シミュレーションを継続するかどうかをこのようなしきい値に基づいて判断することができる。
【0014】
また、第11の手段として、前記眼球モデルの眼軸上のデータを用いて前記眼球モデルの内の中心窩の位置データを算出するようにした。
位置情報として明確な眼軸上のデータを用いて中心窩の位置データを正確に算出することができるため、算出された中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する光線に基づいて前記レンズの光学性能を取得できるようになり、従来面倒であった視軸を基準としたシミュレーションが可能となり、より正確なレンズの光学性能を取得することができるからである。
また、第12の手段として、前記視軸の算出においては眼軸と前記視軸との軸方向の角度のズレに基づいて計算を行うようにした。
視軸と眼軸はいズレも節点を通過するが、眼軸は眼回旋中心を通過するものの視軸は眼回旋中心を通過しない。そのため、両者の角度の違いに応じて眼軸上の座標を適用することで中心窩の位置データを算出することが可能となる。眼軸に対する視軸の角度は耳側と下側にそれぞれズレており、耳側の角度の方がズレは大きい。そのため少なくとも耳側の角度を考慮して計算を行うことがよい。
また、第13の手段として、任意の視距離の二次元平面上に視軸を通過させる注視点を設定し、前記注視点を視線が通過する際に前記二次元平面上に軸線が通過する位置を交点とし、前記交点から眼回旋中心に向かう光線に基づいて眼回旋量を算出し、算出した前記眼回旋量に基づいて中心窩の位置データを算出するようにした。
より具体的な中心窩の位置データを算出するための手法である。つまり、眼軸に基づいたデータであれば座標が明確となるため、視軸を通過させる注視点を二次元平面上に設定し、視軸に対応した眼軸が二次元平面上に結ぶ交点を用いるという手法である。これによって、注視線に視軸が向かう際の眼球モデルの回転量を眼軸を基準とした眼回旋量を適用して計算することが可能となる。
「交点から眼回旋中心に向かう光線」は軸線と一致し、レンズがなければ直線となり、レンズがある場合にはレンズ面で屈折して眼回旋中心に向かう。
また、第14の手段として、前記眼軸を通り前記眼球モデルと交差する第3の交点に、算出した前記眼回旋量を適用して中心窩の位置データを算出するようにした。
第3の交点は網膜上の点を仮想している。中心窩も網膜上の点であるため、眼軸上の第3の交点を眼軸と視軸のズレの角度に応じて眼回旋量を与えることで正確な視軸上の中心窩を算出することができる。
【0015】
また、第15の手段として、前記眼回旋量を算出する際には回旋量に応じた回転行列を求め、前記回転行列に基づいて中心窩の位置データを算出するようにした。
三次元的な座標移動となる眼回旋量を算出する手法としては回転行列を求めることがもっともよい。これによって、眼軸上の座標の移動量を視軸上の座標に適用することが可能となる。回転行列としては眼球モデルは眼回旋中心を通過する眼軸を回転軸とするため、例えば「ロドリゲスの回転行列」を用いて眼回旋量の計算を効率化することがよい。
また、第16の手段として、前記眼軸と前記視軸との軸方向角度のズレに基づく計算では眼軸長に応じて異なるパラメータを使用して計算されるようにした。
眼軸長によって眼軸と視軸のなす角度は異なるため、眼軸長をパラメータとして角度を計算することがよい。特に耳側への眼軸に対する視軸のズレ角が大きいため、そのズレ角を調整することがよい。
例えば下記数2や数3の式を用いて眼軸長を考慮して補正した角度を使用することがよい。式2においてはLが平均的な眼軸長でありΔが眼軸長の変化量である。式3のSRは、装用者の処方球面度数であり、オートレフやフォロプターなどの検眼器で得られた測定値を参照する。なお、眼軸長をパラメータとする式2を適用する方が、単に処方球面度数を考慮するだけの式3に比べて、個人の眼球モデルをより考慮できるためよい。
【0016】
【数2】
【0017】
【数3】
本発明では例えば、眼鏡メーカーの設計者が設計を行い、また担当者(作業者)がシミュレーション操作を実行する。
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材とてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本願発明では、光線追跡による中心窩の位置データと節点を結ぶ視軸を通過する主光線と、主光線回りの副光線に基づいて、ある任意の方向を実際に注視した際の視力値を計算することができるため、ユーザーの実際の視力に基づいたより正確な眼鏡装用時の視力のシミュレーションが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1の電気的構成を説明するためのブロック図。
図2】実施の形態1のシミュレーションにおいてスクリーン上の指定注視点に向かう視軸とその際に眼軸が向かうスクリーン上の交点を説明する説明図。
図3】実施の形態1のシミュレーションにおいて交点を求める際の計算条件について説明する説明図。
図4】リスティングの法則による眼球モデルの回旋運動を説明するための模式図。
図5】(a)及び(b)は実施の形態のシミュレーションにおいて、正面視から指定注視点の方向を向いた際の眼軸の回旋状態を説明する説明図。
図6】実施の形態1のシミュレーションにおいて眼軸と交点と指定注視点の関係を説明する説明図。
図7】実施の形態1のシミュレーションにおいて視軸が指定注視点に向いているときの中心窩位置を求める際の光線の方向を説明する説明図。
図8】実施の形態1のシミュレーションにおいて主光線周りの円周上に副光線の出発点を所定角度で複数配置することを説明する説明図。
図9】実施の形態1のシミュレーションにおいて視軸がレンズを透過して中心窩に到達する際の各種パラメータを図示して説明する説明図。
図10】実施の形態1のシミュレーションにおいて光線追跡で求めた等価球面度数の視軸上の最小錯乱円の結像位置を例示して説明する説明図。
図11】実施の形態1のシミュレーションにおいて主光線の回りの副光線の光跡を例示して説明する説明図。
図12】中心窩付近の視細胞(錐体細胞)の分布状態を説明するグラフ。
図13】実施の形態3のシミュレーションにおいて光線追跡で求めた副光線が視軸上の網膜の中心窩の周囲に達している状態を説明する説明図。
図14】実施の形態3のシミュレーションにおいて副光線の距離の定義を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、具体的な実施の形態の説明をする。
(実施の形態1)
図1は本発明のシミュレーション方法を実現するための一例としての演算用コンピュータ装置1の概略ブロック図である。演算用コンピュータ装置1には表示手段あるいは出力手段としてのモニター2とプリンタ3、キーボードやマウス等の入力装置4が接続されている。
演算用コンピュータ装置1はCPU(中央処理装置)5及び記憶装置6等の周辺装置によって構成される。CPU5は入力装置4からの命令により各種プログラムに基づいて処理を実行する。記憶装置6にはCPU5の動作を制御するためのプログラム、複数のプログラムに共通して適用できる機能を管理するOA処理プログラム(例えば、日本語入力機能や印刷機能等)等の基本プログラムが格納されている。
また、レンズの形状データに基づいて視軸による裏面光線追跡や透過光光線追跡のシミュレーションを実行するシミュレーションプログラム、光線追跡の結果として得られた光学性能データに基づいて視力のシミュレーションを実行するシミュレーションプログラムが格納されている。
また、CPU5は記憶装置6内には設計対象となるレンズについての形状データ、形状データのあるレンズに対する裏面光線追跡や透過光光線追跡のシミュレーションを実行した結果、算出した光学性能データ等が格納される。
また、光学性能データに基づいて実行した視力のシミュレーション結果が格納される。
また、CPU5は記憶装置6内に記憶された演算プログラムに従ってシミュレーションを実行した結果、得られたデータに基づいて平均度数分布図、非点収差分布図、プリズム分布図、歪曲収差分布図等を作成し、モニター2やプリンタ3から出力させる。
【0021】
1.光線追跡による主光線と副光線のシミュレーション(第1段階のシミュレーション)
次に、演算用コンピュータ装置1のシミュレーションソフトによって実行される視軸の計算及び視軸を通る光線追跡によるシミュレーションの具体的な一例について図2図8に基づいて具体的に説明する。以下の計算においては必ずしも単一の演算用コンピュータ装置1で実行しなくともよく、一の演算用コンピュータ装置1で計算した結果に基づいて他の一の演算用コンピュータ装置1で実行させるようにしてもよい。
尚、実際には視軸と眼軸のズレ角はごくわずかであるが、以下の図を用いた説明においては、理解を容易にするために視軸と眼軸のズレ角を誇張して表現している。
ここでは単焦点レンズでのシミュレーションとし、無限遠方(例えば10m)の中央を、眼鏡レンズを通して両眼で見ることを想定する。
A.指定注視点に対する交点の算出
図2に示すように、本実施の形態1では視軸が向かう方向として、まず任意の視距離の位置に想定したスクリーン上に指定注視点Tを設定する(想定する)。視軸が指定注視点Tに向かうとするとスクリーン上にその視軸に対応した眼軸も通過することになるため、シミュレーションにおいては左右の眼軸とスクリーンとの交点(Pr,Pl)を求めるものとする。
(1)計算条件について
図3に基づいて計算条件について説明する。この段階では「レンズ無し」を想定して計算する。光線進行方向をX座標とし、これと直交する上下方向をY方向とし、スクリーンの左右方向をZ座標とする。
図2に示すように指定注視点T=(Z0,Y0)とおく(単位はmm)。視距離(瞳孔間中点~指定注視点Tまで距離)=D[mm]で固定値とする。瞳孔間中点を基準とし、各眼における眼回旋点のZ座標(Kz)を、L眼をKz=-PD/2[mm]、R眼が Kz=+PD/2[mm]とする(PDは指定した瞳孔間距離)。眼回旋点Kは瞳孔間中点を含む水平線上にある点と仮定する。
【0022】
(2)計算方法(R眼とL眼で計算方法は同様)
a)眼回旋についてはリスティングの法則、すなわち「ある第3眼位(斜め方向)に視線を向けた際の眼球の回旋は、第1眼位(正面)と第3眼位の視線を含む平面(リスティング平面)に垂直な眼回旋軸(リスティング回転軸)を回転させることにより唯一に決まる。」という法則に従う。(図4に示すように、)リスティングの法則によるリスティング平面においては第1眼位ベクトルを正面視方向とし、第3眼位ベクトルを眼回旋方向とする。第1眼位ベクトルはG1(1,0,0)となり、第3眼位ベクトルはG3(qx、qy、qz)となる。これらは単位ベクトルである。
リスティングの法則によるリスティング回転軸のベクトルIはG1とG3の外積として計算できる。すなわち、
I=G1×G3
このようなリスティング回転軸の眼回旋角θiは、下記数4の式で計算される。
【0023】
【数4】
【0024】
この眼回旋角θiを用いてリスティングの法則に従った眼回旋行列としてロドリゲスの回転行列Lを求める。回転行列Lは下記数5の式で示される。数5の式はベクトルIの要素を(dx,dy,dz)として示している。
【0025】
【数5】
【0026】
b)図3の正面視に基づき節点Nの三次元座標をN=(Nx, Ny, Nz)とおく。原点となる眼回旋中心から節点までを、例えば5.6mmとすれば節点NはN=(5.6,0,0) となる。節点Nを原点とした眼軸とスクリーンの交点T0=(D-Nx, 0, 0)を定め 眼軸に対する視軸のズレ角(α,β)を基に、αのY軸回転、βのZ軸回転で、T0'へと座標変換する。そして、図5(a)(b)に示すように、点T0 と 点T0'のZ座標、Y座標の差分(ΔZ, ΔY)を求める。ΔY、ΔZ及びT0'は数6の式で定義される。視軸があらゆる注視点を向く際、スクリーン上の視軸と眼軸のズレ量は、常にΔY、ΔZと仮定する。但し、本仮定が不成立の場合が想定される際は、その不成立分を適宜補正することを可能とする。
指定注視点T=(Z0,Y0)、差分(ΔZ,ΔY) より下記数7の式に基づいて眼回旋点を原点とした視軸が注視点Tを向く際の、眼軸とスクリーンの交点P(Pr,Pl)=(Px,Py,Pz)が求まる。
尚、α,β、ΔZ,ΔY、Z0,Y0、Py,Pzなどの座標の符号は、図5の座標系の取り方で適宜変更される。
【0027】
【数6】
【0028】
【数7】
【0029】
B.図6に示すように、眼回旋中心から交点に向かう眼軸の方向、つまり第3眼位ベクトルが明確である。第3眼位ベクトルはY座標では(Y0-ΔY)/D、Z座標では((Z0-Kz)-ΔZ) /Dとなる。図6ではZ座標側の眼軸と視軸の関係を図示している。ここで、眼軸が交点を向く際のレンズ裏面からの射出光線に基づくリスティングの法則に従い、節点をN→N'へと座標変換する。左右眼に設計対象あるいは評価対象となるレンズを装用した状態で、A.で座標が算出された交点(Pr,Pl)から眼回旋に向かう射出光線を想定し、正面視時の第1眼位ベクトルG1と、レンズ裏面からの射出光線に基づく第3眼位ベクトルG3から眼回旋量を回転行列Lとして取得する。ここでは、上記の数4の式に基づいて改めてθiを求め、眼回旋を原点とする三次元空間における任意座標Pを第3眼位方向に回旋させた後の座標P'へと変換させる。つまり、下記数8の式である。回転行列Lは上記の数4のロドリゲスの回転行列Lである。
【0030】
【数8】
【0031】
C.B.で求めた回転行列Lを用いて初期の中心窩(Fr, Fl)を座標変換する。これにより、左右眼の視軸が注視点Tに向いているときの中心窩(Fr', Fl')が決定される。この変換は以下のように計算される。ここではR眼を例にとって計算する。
a)第1眼位の方向、つまり正面視を想定し、節点を原点とした眼軸上の点F0(16.5,0,0)を考える。ここでx座標は、節点から網膜までの距離16.5mmを意味する。但し、数2の式を適用する場合は、装用者の標準眼軸長に対するズレΔを考慮するため、それに合わせて、点F0(16.5+Δ,0,0)と定義する。
b)図2に示すように、耳側のズレ角α、下側のズレ角βだけ、F0を座標変換し、初期の中心窩位置Fを求める。初期の中心窩位置Fが第3の交点に相当する。この計算は下記の数9の式による。
ズレ角αを考慮したY軸を回転させる座標変換(回転行列Y(α) )で、F0を耳側に回転させ、その後、ズレ角βを考慮したZ軸を回転させる座標変換(回転行列Z(β) )で、F0を網膜下側に回転させる。これは節点を基準に、眼軸に対して中心窩が、耳側にα、下側にβ、だけズレているためである。
尚、L眼の場合は、ズレ角αが負になり、回転行列Z(α)におけるsin(α)の符号が変わることとなる。
【0032】
【数9】
【0033】
c)図7に示すように、回転行列Lで、上記b)の初期の中心窩位置F(Fr, Fl)を、指定の第3眼位方向へと座標変換させ視軸が注視点Tに向いているときの中心窩位置F'(Fr', Fl')を求める。つまり、下記数10の式を用いる。回転行列Lは上記の数5のロドリゲスの回転行列Lである。このとき、節点から眼回旋点へと原点を変えるため、座標変換前の中心窩位置Fにおけるx座標において節点から眼回旋点までの距離(実施の形態では5.6mmで固定)を引く。
【0034】
【数10】
【0035】
D.C.によって左右眼の視線が注視点Tに向いているときの、中心窩(Fr', Fl')の位置が求められたので、左右眼に設計対象あるいは評価対象となるレンズを装用した状態で、注視点Tから中心窩(Fr', Fl')に向かう主光線を考え、注視点Tを見たときの、各眼におけるレンズ度数(S,C,AX,Prism/Base等)を計算する。
より、具体的には
a)主光線は注視点Tからレンズを透過して、中心窩(Fr', Fl')に到達する。主光線の入射角度(注視点からレンズ表面への入射角度)を計算する。その際レンズの表・裏面における屈折を考慮して、中心窩に到達するよう入射角度を調整する。
b)主光線の注視点の位置から半径1.5mm(つまり瞳孔径分)だけ離れた位置に副光線を2度間隔で設定し、上記a)の入射角度で主光線と同様にレンズを透過させる。
c)主光線、1対の副光線、がレンズ裏面に到達して最接近する位置までの距離(焦点距離f:単位mm)を計算して、レンズパワーを求める。最大レンズパワーがS度数、最小レンズパワーがS+C度数となる。
【0036】
(3)具体的な計算
上記a)~c)の内容について具体的な計算例でより詳しく説明する。
処方のS度数、 C度数、 中心厚、 表カーブを基に、レンズの裏面カーブを下記数11の式で計算する。以下、数式において裏面側はUra、表面側はOmoteと表す。C度数があるためカーブの方向を直交する2方向とする。以下のベクトルによる計算においてはX軸方向は一定で、Y軸方向とZ軸方向とのみが変化する。
【0037】
【数11】
【0038】
次に、ある方向に視軸が向く際のレンズを通過後の中心窩を通る主光線を求める。
ここで、レンズの表面を通過後における光線の屈折後ベクトルは下記数12のベクトル関数の式で、レンズの裏面を通過後における光線の屈折後ベクトルは下記数13のベクトル関数の式で計算される。この式においてレンズ通過後に中心窩を通るよう、主光線のレンズ表面に対する入射ベクトルを調整する。
【0039】
【数12】
【0040】
【数13】
【0041】
ここで、屈折後のベクトルを返す上記ベクトル関数に代入する法線ベクトルを考える。法線ベクトルをE=(1,Ey,Ez)と表す。法線ベクトルは光線の通過点におけるサグと、通過点から微小変化(ΔY,ΔZ)させた点のサグとの差(変化量)を基に計算している。数14と数15に示すようにベクトル要素Ey,Ezを表すことができる。
表面通過後の屈折後ベクトルQ0moteを計算時に参照する、
数14中のレンズ表面におけるサグ計算式は数16の式で表される。また、裏面通過後の屈折後ベクトルQuraを計算時に参照する、数15中のレンズ裏面におけるサグ計算式は数17の式で表される。
【0042】
【数14】
【0043】
【数15】
【0044】
【数16】
【0045】
【数17】
【0046】
次いで、上記で得られた裏面通過後の屈折後ベクトルQuraと裏面通過点をもとに主光線と副光線についてそれぞれ光線追跡を実行する。
具体的には例えば次のように実行する。
i)図8のように、主光線周りの半径rの円周上に、副光線の出発点を角度θ間隔で複数配置する。例えば、r=1.5mm、θ=2度とする。ここでは副光線は主光線の入射ベクトルと同じ(すなわち主光線に対して平行)にし、その後の度数計算を容易にしている。
ii)あるθ方向の副光線と、それと180度対向する副光線について、レンズ裏面通過点、レンズ裏面で屈折後のベクトルを、光線追跡で求め、主光線のレンズ裏面通過点、レンズ裏面で屈折後のベクトルも用いて、下記の式18によって焦点距離を計算し、度数を求める。三次元空間上で光線追跡をするため、光線同士がねじれて、焦点距離の計算精度が悪くならないよう、2つの副光線に加えて主光線も考える。
【0047】
【数18】
【0048】
iii)上記ii)を各θについて実行し、θ毎の度数を求める。そして、最大度数をS度数、最小度数をS+C度数、度数が最大となるθを乱視軸とする。
【0049】
2.視力のシミュレーション(第2段階のシミュレーション)
<最小錯乱円に基づく視力(視力値)の算出>
(1)最小錯乱円位置の算出
上記の光線追跡のシミュレーションで得られたS度数、C度数に基づく等価球面度数(S+C/2)から主光線の第1の焦点距離を算出する。また、処方のS度数、C度数に基づいて第2の焦点距離を算出する。第2の焦点距離は処方のS度数、C度数に基づく矯正が完全矯正状態(視力1.0以上)であり、最小錯乱円LCtが網膜上の中心窩位置にある状態である。第1の焦点距離と第2の焦点距離をパラメータとする数1の式に基づいて、光線追跡で得られた等価球面度数(S+C/2)に従った結像位置となる最小錯乱円LCtの位置を算出する。数1においてLura-fovは視軸上におけるレンズ裏面通過点から中心窩までの距離である。数1の式によれば最小錯乱円LCtの位置は完全矯正状態では図9のように網膜上の中心窩の位置となるが、第1の焦点距離と第2の焦点距離の比に応じて視軸上において移動し、例えば図10のようにΔLfovだけ網膜から視軸上でズレた位置となる。尚、図10のΔLfovのズレ量は誇張して表示されている。
(2)副光線を用いたしきい値の算出
改めて、中心窩からΔLfovズレた最小錯乱円LCtに到達する主光線周りの副光線を複数考える。この副光線は上記の光線追跡で使用した副光線をすべて含んでいても、すべて含んでいなくても、あるいは新たに設定した副光線を含んでいてもよい。図11に示すように、本実施の形態1では視軸を通過する主光線のレンズ表面到達点を中心とした半径rの円周上の位置とし、例えば、半径rが1.5mmであり、θ=2度の角度刻みで、180度対向するように配置する。
そして、全副光線について最小錯乱円LCtに垂直な平面内における、レンズ通過後の到達位置(Yi,Zi)を光線追跡で求め、最小錯乱円LCtから到達位置(Yi,Zi)までの距離の平均値を中心とした正規分布を仮定し、その分布における標準偏差σを計算する。最小錯乱円LCtから各副光線までの距離は数19で算出する。数19における「i」は副光線の数(順番)である。すべての副光線について数19に基づいて距離Lを求め、それらの標準偏差σを求める。レンズを透過した後の各副光線の屈折量は一様ではないため、図11のように最小錯乱円LCtに垂直な平面内において各副光線の到達位置(Yi,Zi)を結んだ線分は必ずしも円にはならない(図11では楕円イメージで示す)。
【0050】
【数19】
【0051】
主光線のレンズ裏面通過点を基準とした視軸上における最小錯乱円LCt位置は、
Dura-fov=Lura-fov+ΔLfov
となる。
このとき最小錯乱円LCtのX座標XLCtは、視軸に沿う主光線の裏面射出タンジェント角(θy, θz)を基に、数20の式を用いて得られる。
【0052】
【数20】
【0053】
なお、最小錯乱円LCtのY,Z座標は、例えば数21の式を用いて得られる。
【0054】
【数21】
【0055】
本実施の形態1ではしきい値として、0.25Dを用いる。レンズの度数の処方においては0.25Dステップで設定するため、度数差が0.25Dより大きい場合はレンズの周辺を見ている状態であり、網膜網像に影響があるからである。
その副光線による等価球面度数と処方等価球面度数との差が0.25Dより小さい場合にはその光線は必ず所定最小錯乱円位置を通過する。
一方、その副光線による等価球面度数と処方等価球面度数との差が0.25Dより大きい場合には、
該当副光線について、最小錯乱円LCtに垂直な平面内におけるレンズ通過後の到達位置(Yi,Zi)を光線追跡で求め、最小錯乱円LCtから到達位置(Yi,Zi)までの距離を計算し、前述距離が最大3σ以内に収まるよう、該当副光線におけるレンズ表面への入射角を調整する。ここで、入射角の調整回数に応じて、前述距離のしきい値を1σ⇒2σ⇒3σと段階的に緩めていく。しきい値が緩くなるほど、すなわち入射角の調整回数が多いほど、余分な乱視の影響でピントが合いづらくなることを示す。但し、入射角を調整した結果、レンズ表面通過時もしくはレンズ裏面通過時の屈折後光線が全反射した場合は、次の(3)のステップには進まない。
【0056】
(3)視力の算出
前ステップの(2)で求めた最小錯乱円位置に到達する各副光線について、Y座標とZ座標について網膜上の到達位置(Yretina,Zretina)を求め、視力関数f_VA(ΔY,ΔZ)に代入して視力を計算する。視力関数f_VA(ΔY,ΔZ)は中心窩からの距離と視力とをパラメータとした関数である。図12に示すように錐体細胞が中心窩を分布密度のもっとも高い位置として中心窩の周囲に同心円状に広がっているとし、網膜上で各副光線の網膜上の到達位置(Yretina,Zretina)が中心窩からどの位置にあるかで視力値を算出するようにしている。網膜上の到達位置(Yretina,Zretina)は次の数22の式で求めることができる
ここで、(Q_uraY,Q_uraZ)は、(2)で求めた各副光線におけるレンズ裏面通過後の屈折タンジェントベクトルである。但し、全反射した副光線については除く。
【0057】
【数22】
【0058】
視力関数f_VAの動径方向における分布は、公知の1次元の視細胞密度分布に従い、3次元スプライン補間で周方向を滑らかに接続することで同心円状に2次元的分布する。
ここで、(ΔY,ΔZ)は、光線追跡で求めた中心窩位置と副光線の網膜上到達位置のズレ量であり、ΔY=Yretina-Yfov(Yfov:中心窩のY座標)、ΔZ=Zretina-Zfov(Zfov:中心窩のZ座標)となる。
(ΔY,ΔZ)=(0,0) であれば、副光線の網膜上の到達位置が中心窩と一致するため、視力は1.0以上の完全矯正の状態である。
視力値VAt=f_VA(ΔY,ΔZ)は(ΔY,ΔZ)が大きくなるほど、視力値は小さくなる。つまり、網膜位置に到達した副光線群がなす中心窩を含むスポットサイズが大きくなるほど((ΔY,ΔZ)が大きくなるほど)副光線群が中心窩に集中しなくなるため、視力値は小さくなる。この関係は数23の式で示される。
本実施の形態1では下記数24の全副光線における視力計算値の平均を、その視線方向における処方のレンズでの視力として定義する。Nは想定した副光線の総数である。
【0059】
【数23】
【0060】
【数24】
【0061】
(実施の形態2)
実施の形態1は1.0以上の完全矯正でのシミュレーションを想定していたが、実施の形態2では低矯正(視力1.0未満)の場合のシミュレーションについて説明する。実施の形態1の第1段階のシミュレーション工程は実施の形態2でも同様であるためその説明は省略する。
実施の形態1では基本的に網膜上の中心窩に最小錯乱円があることを前提としていたのに対して、実施の形態2では視軸上においては最小錯乱円は中心窩から離れることが前提となる。つまり、任意の矯正視力とすることで最小錯乱円は中心窩から離れた位置となる。以下では、初期位置を任意の低矯正位置とする手法についてまず説明する。
(1)ΔLfov=0の状態(すなわち最小錯乱円LCtが中心窩に位置する)を出発点として、任意ステップd(mm)で、ΔLfov+dでΔLfovを更新しながら以下のa)b)の手順を実施する。
a)上記数21の式を用いて、ΔLfov+dで中心窩からずらした最小錯乱円LCtのY座標、Z座標を求める。
b)「(2)副光線を用いたしきい値の算出」と同様に、LCtの座標(XLCt,YLCt,ZLCt)に到達する主光線周りの副光線を考え「(3)視力の算出」と同様の方法で視力値VAtを計算する。
ここで、単焦点レンズであれば、無限遠方(10m)の正面を両眼視した状態を考えるため、基本的に処方等価球面度数に対するズレが0.25D以下になり、しきい値を考えなくてよい。
c)上記a)~b)を、視力値VAtが狙い視力VAidea 近くになるまで繰り返す。度数のステップ以下となるまで、つまり|VAt-VAidea|<0.025、となるまで繰り返す。
例えば、矯正視力が0.70であればVAidea=0.70となる。
(2)最終的なΔLfovを初期値としてこれを「ΔLfov-LCt」と定義する。あらゆる両眼視線方向で、実施の形態1の(1)~(3)と同様にシミュレーションを実施し分布を得る。尚、その際「(2)副光線を用いたしきい値の算出」おける計算ではΔLfov にΔLfov-LCtを加算する。つまり、ΔLfovの代わりに「ΔLfov+ΔLfov-LCt」を使用して値を算出する。
【0062】
(実施の形態3)
<スポット径に基づく視力(視力値)の算出>
実施の形態3は実施の形態1及び2とは異なり、上の中心窩からズレた位置に焦点を結ぶ副光線のスポット径に基づいてく視力(視力値)を算出する例である。実施の形態1の第1段階のシミュレーション工程は実施の形態3でも同様であるためその説明は省略する。
図13に示すように、処方レンズの後方に眼球が配置され処方レンズを透過して中心窩に主光線が達する完全矯正のモデルをシミュレーションすることを考える。このとき、処方のS度数とC度数に基づいた完全矯正の眼球においては主光線も副光線も中心窩に焦点が合うこととなる。一方、光学追跡の結果、処方とのズレがあると図13の破線のように副光線は主光線の回りに拡がることとなる。このときの網膜上の主光線を挟んで対向する2つの点の距離がスポット径dである。スポット径dは処方レンズ裏面のサグを基準とする副光線間の距離uと次の数25のような関係にある。つまり、光線追跡の焦点を頂点とし、スポット径d又は副光線間の距離uを底辺とする二等辺が相似形状となることに基づく。尚、図13では光線追跡の焦点位置は誇張して網膜の手前側に表示されている。
副光線間の距離 とは、対になる2本の各副光線におけるレンズ裏面の到達座標(3次元座標で表し、光線進行方向のx座標は、レンズ裏面のサグ値)の間の距離である。図14に示すように、各副光線の座標を(X+, Y+, Z+)、(X-, Y-, Z-)とすると、一般的に数26の式で示される。特に「処方のC度数が0でない場合」と「処方のC度数は0だが、レンズ周辺を見たときに余分なC度数が付く場合」は、副光線の方向によって、副光線間の距離uは変わる。
【0063】
【数25】
【0064】
【数26】
【0065】
ここで、改めて主光線の回りに配置されている副光線を考える。副光線は図8に示すように主光線周りの半径rの円周上に角度θ間隔で複数配置されている。このとき、主光線の回りに配置されている副光線の内、S度数の方向、つまり度数が最も強い方向とS+C度数の方向、つまり度数が最も弱い方向のスポット径dについて数25を変形した数27の式で求める。数27において、dzは度数が最も強い方向のスポット径d、dyは度数が最も弱い方向のスポット径dを示し、uzは度数が最も強い方向の副光線間の距離u、uyは度数が最も弱い方向の副光線間の距離uを示す。求めたdz、dyは網膜上のスポット径dにおける楕円形状の長辺と短辺に相当する。
【0066】
【数27】
【0067】
数27から求まるdz、dy及び光線追跡で求めた乱視軸Atを基に、数28の式によって楕円上における各点(Δz,Δy)を求め、視力関数f_VAに代入して視力値を計算する。副光線の角度θに応じて各方向における視力値を計算し、その平均値を求めることで実施の形態1と同様に視力計算値を得ることができる。
【0068】
【数28】
【0069】
(実施の形態4)
実施の形態4は実施の形態3のバリエーションである。実施の形態1に対する実施の形態2と同様に低矯正(視力1.0未満)の場合のシミュレーションの例である。以下、実施の形態4について実施の形態3との違いを主に説明する。
(1)初期値dz=dy=0の状態(光線追跡で得たS度数とC度数が処方度数と0.01ディオプター程度の差で一致する)を出発点として、任意ステップd(mm)で、上式で示したdzとdyを、dz+d,dy+dと更新しながら以下のa)b)の手順を実施する。
a)中心窩の位置で、レンズのスポット径dがdz+d,dy+dと広がった状態を考える。
b)上記で示した同様の方法(数28に従い、処方の乱視軸で回転座標変換後、各θ方向における視力値の平均を計算)で視力値VAtを計算する。
c)上記a)~b)を、視力値VAtが狙い視力VAidea 近くになるまで繰り返す。度数のステップ以下となるまで、つまり|VAt-VAidea|<0.025、となるまで繰り返す。例えば、矯正視力が0.70であればVAidea=0.70となる。
(2)最終的なdz+d,dy+dを初期値として、あらゆる両眼視線方向で、上記で示した方法と同様にシミュレーションを実施し分布を得る。
【0070】
上記のように構成することで、実施の形態1及び2の方法では次のような効果が奏される。
(1)座標的に不明な中心窩(Fr', Fl')の位置を眼軸を通過する座標的に明確な交点(Pr,Pl)や節点や眼回旋点とズレ角に基づいて求めるようにしたため、本来の見え方である視軸を使用して光線追跡が可能となり、より正確にユーザーの目視状態を検証することができる。そして、その結果より本来の中心窩から見た実際の視力に近いシミュレーションが可能となる。
(2)実施の形態1及び2では、視力と最小錯乱円LCtの位置(つまり副光線の網膜上の到達位置)には負の相関関係があるため、これを利用して低矯正の場合の視力のシミュレーションも正確に行うことができる。
(3)実施の形態3及び4では、視力とスポット径dには負の相関関係があるため、これを利用して低矯正の場合の視力のシミュレーションも正確に行うことができる。
【0071】
上記実施例は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態は一例である。計算においては上記以外の順番で算出するようにしてもよい。
・副光線の数や位置について上記は一例であって、上記以外の数や位置の副光線を用いて計算をするようにしてもよい。
・上記では単焦点レンズでのシミュレーションの例で説明したが、累進屈折力レンズを装用するシミュレーションも可能である。その場合には遠用矯正視力と近用矯正視力を基に、遠用EPと近用EPのそれぞれにおいて、矯正視力を実現するための最小錯乱円位置を単焦点と同様の方法で求めるようにする。例えばここで、近用矯正視力が1.0未満の場合、近用EPにおける最小錯乱円位置を求める際は、視距離30cm~40cmを想定して実施の形態2をする(遠用矯正視力が1.0未満の場合は、実施の形態2と同じ方法に従って(視距離10mを想定)、遠用EPにおける最小錯乱円位置を求める)。
そして、以下の条件の下、単焦点と同様の方法で、各両眼視線方向における累進屈折力レンズの視力値を計算する。
a)視距離は、遠用EPから近用EPに掛けて徐々に近くなる(例えば10m~30cmへと徐々に変化)。
但し、遠用EPより上側は10m、近用EPより下側は30cm、と一定の視距離であると仮定する。
b)ΔLfovを計算時に参照する「第2の焦点距離」に対応する処方度数は、その累進屈折力レンズの
加入度曲線に従い、遠用EP~近用EPに掛けて連続的に変化すると仮定する。また、遠用EPより上側、近用EPより下側は、視距離を仮定した際と同様に、遠用EPより上側は遠用処方度数で一定、近用EPより下側は近用処方度数(遠用処方度数+加入度数)で一定とする。
【0072】
・上記実施の形態1で網膜に到達した副光線群の位置を求める方法について例示したが、上記以外に以下のような手法でもよい。
網膜上で各副光線の網膜上の到達位置(Yretina,Zretina)が中心窩からどの位置にあるかで視力値を算出するようにしていた。到達位置(Yretina,Zretina)を求める手法の他の例として数25の式を挙げる。網膜が眼回旋を中心とした球面であると仮定した算出手法である。Vは、回旋点から網膜頂点までの距離(標準値:12.0mm)であり、球面と仮定した網膜の半径とする。この例では眼回旋を中心とした球面を仮定したが、節点を中心とすることも可能である。
【0073】
【数29】
【0074】
・上記で実施の形態1ではしきい値を1σ⇒2σ⇒3σと段階的に緩めていったが、連続的に緩めるようにしてもよい。つまり、しきい値は徐々に裕度を持たせるように調整していくことがよい。
・上記では節点や眼回旋点等の光学的な意味のある点を直接使用して計算するようにしていたが、間接的に節点や眼回旋点等を求めて計算するようにしてもよい。
・交点(Pr,Pl)を求めるために上記実施の形態では一例として、正面視を想定した計算方法を挙げたが、指定注視点Tを基準とした計算で求めるようにしてもよい。
・シミュレーションにおいて装用する設計対象あるいは評価対象となるレンズは眼鏡レンズとして使用されるものであればなんでもよい。例えば、球面レンズ、非球面レンズ、累進屈折力レンズ等を用いることができる。
・上記では計算を簡便化するため、ズレ角α、βは平均的な角度を用いたが、装用者の眼軸長を想定して適宜ズレ角α、βを変更してシミュレーションするようにしてもよい。
・上記実施の形態1及び2では、副光線のレンズ透過後の変位量を取得し、その変位量に基づいたしきい値として、最小錯乱円LCtに垂直な平面内におけるレンズ通過後の到達位置(Yi,Zi)を光線追跡で求め、最小錯乱円LCtから到達位置(Yi,Zi)までの距離を計算し、前述距離が最大3σ以内に収まるよう、該当副光線におけるレンズ表面への入射角を調整するようにしたが、これは一例である。また、実施の形態3や4においても例えばスポット径の長さをしきい値として用いるようにしてもよい。
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