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  • 特開-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138365
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230922BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025561
(22)【出願日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022040875
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK12
4F100AK12B
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100DE00
4F100DE00C
4F100DE01
4F100DE01B
4F100EJ37B
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100EJ94
4F100HB31
4F100JA12
4F100JA12B
4F100JB07
4F100JB07B
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】薄くても、溶剤による変形が少なく、搬送性に優れた積層体の提供。
【解決手段】積層体においては、基材層、溶剤遮蔽層及び表面層がこの順に積層されている。前記基材層、前記溶剤遮蔽層及び前記表面層が、いずれも熱可塑性樹脂フィルムである。前記溶剤遮蔽層が、非晶性樹脂と、平均粒子径が5μm以上の大径粒子と、を含有する。前記溶剤遮蔽層中の熱可塑性樹脂全体に対する前記非晶性樹脂の含有量が、20~100質量%である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、溶剤遮蔽層及び表面層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層、前記溶剤遮蔽層及び前記表面層が、いずれも熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記溶剤遮蔽層が、非晶性樹脂と、平均粒子径が5μm以上の大径粒子と、を含有し、
前記溶剤遮蔽層中の熱可塑性樹脂全体に対する前記非晶性樹脂の含有量が、20~100質量%である
積層体。
【請求項2】
前記非晶性樹脂が、ポリスチレン系樹脂を含む
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記積層体の厚みが、120μm以下である
請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記溶剤遮蔽層の厚みが、3.5μm以上20μm以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記溶剤遮蔽層が、延伸フィルムである
請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記表面層、前記溶剤遮蔽層、前記基材層、前記溶剤遮蔽層及び前記表面層がこの順に積層されている
請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記表面層が、30~70質量%のフィラーを含有する延伸多孔質フィルムである
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記フィラーの粒度分布において、粒子径0.1μm以下のフィラーの割合が20質量%以下、かつ、粒子径0.4μm以上のフィラーの割合が20質量%以下である
請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材層及び前記表面層中の熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂を含む
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂フィルムを用いた合成紙が、油性オフセット印刷等の印刷用紙として利用されている。印刷に用いられるインクのなかには、空気中の酸素と反応して乾燥する酸化重合型のインクがある。酸化重合型のインクは、インク中の溶剤が蒸発するか印刷用紙に浸透し、残った成分の酸化重合が進むことで乾燥する。
【0003】
酸化重合型のインクは、酸化重合する成分に対して比較的多量の溶剤を含むことが一般的である。このようなインクを、ポリオレフィンフィルムのような樹脂フィルムからなる合成紙に用いると、溶剤中の鉱油等によってポリオレフィンフィルムが膨潤し、印刷後3日程経過すると合成紙の表面に凹凸や波状のカール等の変形が生じることがある。
【0004】
そのため、下地に非晶性樹脂を用いることにより、上記のような変形が生じにくいフィルムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-036470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
印刷用紙には、冊子にしたときの1冊あたりのページ数を増やすため、薄手化の要求がある。また、環境保護に対する関心の高まりから、プラスチック廃棄物の減量化の要求があり、薄手化による樹脂量の削減も求められている。しかし、樹脂フィルムを薄くすると溶剤が浸透しやすくなり、上述した変形が生じやすくなる。
【0007】
樹脂フィルムが薄いと、樹脂フィルムの剛度も低下し、フィルム同士のブロッキングが生じやすくなる。ブロッキングにより、印刷装置において重送のようなトラブルが発生し、印刷用紙の搬送性が低下することがある。
【0008】
本発明は、薄くても、溶剤による変形が少なく、搬送性に優れた積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記のとおり、本発明を完成した。
【0010】
[1]基材層、溶剤遮蔽層及び表面層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層、前記溶剤遮蔽層及び前記表面層が、いずれも熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記溶剤遮蔽層が、非晶性樹脂と、平均粒子径が5μm以上の大径粒子と、を含有し、
前記溶剤遮蔽層中の熱可塑性樹脂全体に対する前記非晶性樹脂の含有量が、20~100質量%である
積層体。
【0011】
[2]前記非晶性樹脂が、ポリスチレン系樹脂を含む
上記[1]に記載の積層体。
【0012】
[3]前記積層体の厚みが、120μm以下である
上記[1]又は[2]に記載の積層体。
【0013】
[4]前記溶剤遮蔽層の厚みが、3.5μm以上20μm以下である
上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
【0014】
[5]前記溶剤遮蔽層が、延伸フィルムである
上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
【0015】
[6]前記表面層、前記溶剤遮蔽層、前記基材層、前記溶剤遮蔽層及び前記表面層がこの順に積層されている
上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
【0016】
[7]前記表面層が、30~70質量%のフィラーを含有する延伸多孔質フィルムである
上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
【0017】
[8]前記フィラーの粒度分布において、粒子径0.1μm以下のフィラーの割合が20質量%以下、かつ、粒子径0.4μm以上のフィラーの割合が20質量%以下である
上記[7]に記載の積層体。
【0018】
[9]前記基材層及び前記表面層中の熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂を含む
上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、薄くても、溶剤による変形が少なく、搬送性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の積層体について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0022】
(積層体)
本発明の積層体は、基材層、溶剤遮蔽層及び表面層がこの順に積層されている。基材層、溶剤遮蔽層及び表面層は、いずれも熱可塑性樹脂フィルムである。溶剤遮蔽層は、非晶性樹脂と、平均粒子径が5μm以上の大径粒子と、を含有する。溶剤遮蔽層中の熱可塑性樹脂全体に対する非晶性樹脂の含有量は、20~100質量%である。
【0023】
表面層上に印刷したとき、インク中の溶剤が表面層から基材層へと浸透し、凹凸やカール等の変形が生じることがある。この変形は溶剤アタックと呼ばれる。一方、冊子化にあたってのページ数増加のためや、プラスチック廃棄物の減量化のため、積層体を薄くすることが望まれている。通常、基材層は積層体に剛度を付与する支持体として厚く設計されるため、基材層を薄膜化することによって樹脂量の削減が可能である。
【0024】
積層体を薄くすると積層体の剛度が低下するため、溶剤による変形がより大きくなる傾向があるが、本発明の積層体においては、非晶性樹脂を溶剤遮蔽層に比較的多く配合して基材層へ浸透する溶剤量を減らすことで、積層体の変形を低減できるように設計されている。また本発明においては溶剤遮蔽層に5μm以上の大径粒子を配合し、積層体の表面に適度な粗さを付与している。積層体を薄くすると、積層体全体の剛度が下がり、積層体同士のブロッキングが生じやすくなるが、適度な表面粗さを有する積層体はブロッキングが生じにくい。よって、重送等の搬送トラブルが少なく、搬送性に優れた積層体を提供することができる。また大径粒子を含有する溶剤遮蔽層は表面層によって覆われるため、大径粒子の脱落も少なく、紙粉の発生を抑制することもできる。
【0025】
このように、本発明によれば、積層体の溶剤による変形を抑制し、印刷工程や加工工程での搬送性を維持しながら、積層体を薄膜化することが可能である。
【0026】
<厚み>
本発明の積層体の厚みは、搬送性向上の観点から、40μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、80μm以上がさらに好ましい。上記積層体の厚みは、樹脂量削減の観点から、120μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明の積層体は、表面層、溶剤遮蔽層、基材層、溶剤遮蔽層及び表面層がこの順に積層されることが好ましい。これにより、両面印刷可能な積層体を提供することができる。両面に印刷された場合も両面からの溶剤の浸透を抑えて変形を減らしつつ、優れた搬送性を得ることができる。両面印刷用の積層体は、パンフレットや地図等に用いられ、なかでも冊子用途が一般的である。冊子化する場合、薄手化によってページ数を増やすことが可能であり、同じ厚みの冊子と比較すると情報量を増やせるとともにコスト削減というメリットがある。
【0028】
図1は、両面印刷可能な積層体の一例を示す。
図1に例示する積層体10は、基材層1の一方の面に溶剤遮蔽層2及び表面層3がこの順に積層され、他方の面に溶剤遮蔽層2a及び表面層3aがこの順に積層されている。
以下、各層について説明する。
【0029】
((基材層))
基材層は、熱可塑性樹脂フィルムであり、積層体に剛度を付与する支持体として機能する。
【0030】
<熱可塑性樹脂>
基材層に使用できる熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリカーボネート樹脂等が挙げられる。フィルムの成形性又は機械的強度の観点から、基材層は、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂等が挙げられる。成形性又は機械的強度の観点からは、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えばプロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレン、又はシンジオタクティックホモポリプロピレン等のプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とし、これとエチレン、1-ブテン等のα-オレフィン等とを共重合させたプロピレン共重合体等が挙げられ、なかでもプロピレン単独重合体が好ましい。
【0032】
上記熱可塑性樹脂のうち、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
<フィラー>
基材層は、フィラーを含有することができる。使用できるフィラーとしては、例えば無機フィラー及び有機フィラー等が挙げられ、樹脂量削減の観点からは好ましくは無機フィラーである。フィラーにより積層体の白色度又は不透明度を調整することができる。またフィラーを含有する熱可塑性樹脂フィルムの延伸により、フィラーを起点として多数の空孔がフィルム内部に形成され、より樹脂量の削減が可能であるとともに上記白色度又は不透明度の調整が容易となる。
【0034】
無機フィラーとしては、例えば炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、タルク、ルチル型二酸化チタン等の酸化チタン、又は硫酸バリウム等の無機粒子が挙げられる。なかでも、炭酸カルシウムは、空孔の成形性が良好であり、好ましい。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、又は軽質炭酸カルシウムが挙げられ、重質炭酸カルシウムが好ましい。なお、分散性改善等の目的から、無機フィラーの表面は脂肪酸等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0035】
上記フィラーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、2種以上の場合は無機フィラーと有機フィラーの組み合わせであってもよい。
【0036】
不透明度又は白色度を高くする観点からは、基材層中のフィラーの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。基材層の成形の均一性を高める観点からは、上記フィラーの含有量は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0037】
フィラーの平均粒子径は、空孔の形成の容易性の観点から、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.10μm以上であることがさらに好ましい。引裂き耐性等の機械的強度を付与する観点からは、上記フィラーの平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
無機フィラーの平均粒子径は、粒子計測装置、例えばレーザー回折式粒子径分布測定装置(マイクロトラック、株式会社日機装製)により測定した体積累積で50%にあたる体積平均粒子径(累積50%粒径)である。また、有機フィラーの平均粒子径は、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散したときの平均分散粒子径である。平均分散粒子径は、有機フィラーを含有する熱可塑性樹脂フィルムの切断面を電子顕微鏡で観察し、少なくとも10個の粒子の最大径を測定し、その平均値として求めることができる。
【0039】
<その他添加剤>
基材層は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、滑剤、並びに帯電防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0040】
基材層中の添加剤の含有量は、添加剤の十分な効果を得つつ本発明の効果を妨げない範囲で、通常、添加剤の種類ごとに独立して0.001~3質量%とすることができる。
【0041】
<層構成>
基材層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、層ごとに異なる機能を付与することができる。各層を形成する樹脂組成物の種類及び含有量等は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
基材層は、無延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。積層体の剛度を高める観点からは、基材層は、少なくとも1軸方向に延伸されたフィルムであることが好ましく、2軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0043】
<厚み>
基材層の厚みは、積層体の搬送性の観点からは、20μm以上が好ましく、40μm以上であることがより好ましい。積層体の樹脂量削減の観点からは、基材層の厚さは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。
【0044】
((溶剤遮蔽層))
溶剤遮蔽層は、表面層と基材層の間に設けられる熱可塑性樹脂フィルムである。溶剤遮蔽層は、表面層に吸収されたインクの溶剤成分の基材層への浸透を遮蔽し、溶剤によって積層体が変形する溶剤アタックを抑制する。
【0045】
遮蔽層中の熱可塑性樹脂の含有量は、空孔を抑えて溶剤遮蔽性を高める観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。表面に粗さを付与するための大径粒子等を配合する観点から、上記含有量は、99%以下が好ましい。
【0046】
溶剤遮蔽層は、熱可塑性樹脂として溶剤の遮蔽性に優れた非晶性樹脂を含有する。上述のように、溶剤遮蔽層中の非晶性樹脂の含有量は、溶剤遮蔽層中の熱可塑性樹脂全体に対して20質量%以上と比較的多い。溶剤の遮蔽性の観点から、上記含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。上記含有量は、100質量%であってもよいが、成形性の観点からは、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
<非晶性樹脂>
本明細書において、非晶性樹脂は、配向した分子鎖部分(結晶部分)を有しないか、該結晶部分を有していてもその量が極めて少ない樹脂をいう。樹脂が結晶性を有する程度に結晶部分を有しているか否かは、当該樹脂が融点を有するか否か、すなわち、一定速度で昇温した示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)で明瞭な融解ピークを有するか否かで判断することができる。本明細書では、DSCで融解ピークのピーク面積が20J/g以下であった場合、明瞭な融解ピークを有していないと判断し、非晶性樹脂と解釈する。
【0048】
非晶性樹脂はその分子鎖同士が不規則に絡まった構造を有する。これにより、非晶性樹脂は、鉱油のような成分と接触した際に分子鎖同士の隙間に当該成分を取り込み、基材層への浸透を阻むことができると考えられる。非晶性樹脂は、実質的に結晶化した部分を有さない樹脂であり、通常は結晶化度が10%以下であり、好ましくは5%以下であり、より好ましくは1%であり、さらに好ましくは0%である。
【0049】
なお、樹脂の結晶化度は、DSC(示差走査熱量計)により測定した当該樹脂の融解熱量Hm(J/g)と、当該樹脂が完全結晶体(結晶化度100%)である場合の融解熱量Hp(J/g)とから、下記式(a)より導くことができる。
結晶化度(%)=Hm/Hp×100 ・・・(a)
【0050】
式(a)中のHpは各樹脂に固有の理論値として求められ、ポリプロピレン単独重合体のHpは209(J/g)であり、高密度ポリエチレンのHpは293(J/g)である。また、Hmは、樹脂の融点を30℃超える温度まで、昇温速度10℃/分及び窒素流量100mL/分の条件下で当該樹脂を加熱し20℃/分で冷却した後、上記と同条件で再加熱した際の融解ピーク面積として測定及び算出される。
【0051】
非晶性樹脂としては、ガラス転移温度が140℃以下の非晶性樹脂が好ましく、120℃以下がより好ましい。ガラス転移温度が上記上限以下であれば、非晶性樹脂が溶剤を十分に吸収、保持し、基材層への溶剤の浸透を抑えやすい。一方で、非晶性樹脂のガラス転移温度は60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。上記下限以上であれば、ローラーへの張り付き等が減って成形性が向上しやすい。なお、溶剤遮蔽層を有する積層体を製造する際には、延伸時の温度を非晶性樹脂のガラス転移温度より10℃以上高い温度にすることが好ましい。
【0052】
非晶性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、アタクチックポリスチレン、石油樹脂、ポリカーボネート、又はアクリル系樹脂等が挙げられる。これらのうち、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、油性オフセット印刷用のインクに使用される鉱油等の高沸点石油系溶剤の遮蔽性に優れることから、ポリスチレン系樹脂又は環状オレフィン系樹脂が好ましく、ポリスチレン系樹脂がより好ましい。
【0053】
<<ポリスチレン系樹脂>>
ポリスチレン系樹脂は、スチレン由来の構成単位を主に有する重合体であり、スチレン系単量体の単独重合体又は他の単量体成分との共重合体である。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。
【0054】
共重合体における他の単量体成分としては、例えば、オレフィンを用いることができる。オレフィンとしては、αオレフィン及びジエン系単量体等が挙げられる共重合体は、単量体成分が2元系でも3元系以上の多元系でもよく、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
また、共重合体における他の単量体成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はアクリロニトリル等を用いてもよい。
【0055】
上記ポリスチレン系樹脂の具体的な例としては、スチレン単独重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン共重合体等が挙げられ、なかでもスチレン単独重合体が好ましい。
【0056】
溶剤の遮蔽性の観点からは、上記ポリスチレン系樹脂中のスチレン由来の構成単位の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0057】
<<環状オレフィン系樹脂>>
環状オレフィン系樹脂としては、例えば環状オレフィン系モノマーから誘導される開環重合体、その水素化物、及び環状オレフィン系モノマーとエチレンの付加重合体等が挙げられる。
【0058】
<非晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂>
非晶性樹脂と併用する非晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、上述した基材層中の熱可塑性樹脂と同様の樹脂が使用可能である。なかでも、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましく、プロピレン単独重合体がさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
溶剤遮蔽層が非晶性樹脂とともにポリオレフィン系樹脂を含有すると、非晶性樹脂とポリオレフィン系樹脂の各相によって海島構造が形成される。さらに溶剤遮蔽層が延伸フィルムである場合、海島構造を構成する各相が延伸により引き伸ばされて層状構造が形成されやすい。このような層状構造によって、インク中の溶剤、特に鉱油等の高沸点石油系溶剤が基材層へ浸透することをより遮蔽しやすくなり、溶剤アタックの抑制効果が高まると考えられる。
【0060】
溶剤遮蔽層に用いられるポリオレフィン系樹脂は、融点(DSC曲線のピーク温度)が130~210℃であることが好ましい。なかでも、融点(DSC曲線のピーク温度)が155~174℃であり、メルトフローレート(JIS K7210:2014年)が0.5~10g/10分であるプロピレン単独重合体がより好ましい。
【0061】
溶剤遮蔽層がポリオレフィン系樹脂を含む場合、溶剤遮蔽層中のポリオレフィン系樹脂の含有量は、溶剤遮蔽中の熱可塑性樹脂全体に対して、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。上記含有量が上記下限以上であれば、層間(相間)強度の低下を抑制しやすい。一方、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、溶剤アタックを抑制する観点から、75質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
【0062】
<熱可塑性エラストマー>
溶剤遮蔽層は、熱可塑性エラストマーを含有することができる。熱可塑性エラストマーは、非晶性樹脂と非晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂との相溶性を高め、各樹脂の界面剥離を抑えて成形性を高めることができる。
【0063】
使用できる熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、又はエステル系エラストマーが挙げられる。ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂を併用する場合、スチレン系エラストマーが、両者の相溶性を高めやすく好ましい。
【0064】
スチレン系エラストマーとしては、例えばスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、これらの水添物、又は水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。なかでも、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂の相溶性を高める観点からは、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
【0065】
溶剤遮蔽層中の熱可塑性エラストマーの含有量は、成形性の観点からは、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.2質量%以上がさらに好ましい。一方、非晶性樹脂とそれ以外の熱可塑性樹脂により海島構造を形成し、溶剤の遮蔽性を高める観点からは、上記含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0066】
<大径粒子>
溶剤遮蔽層は大径粒子を含有し、積層体の表面に適度な凹凸を付与する。
【0067】
大径粒子の平均粒子径は5μm以上であり、7μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また上記平均粒子径は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。
上記平均粒子径が上記下限以上であれば、ブロックキングを減らし、積層体の搬送性が向上する。エンボス加工等によっても積層体の表面に粗さを付与することができるが、加工工程が増える。大径粒子によれば、工程を増やすことなく搬送性を向上させることができる。上記平均粒子径が上記上限以下であれば、大径粒子を起点とする表面層の裂けが減少しやすい。また溶剤遮蔽層を延伸した際、大径粒子を起点として形成される空孔が連通しにくくなる。連通孔は溶剤が基材層まで浸透するのを促進してしまうため、この連通孔を減らすことで溶剤の遮蔽性をより高めることができる。
【0068】
大径粒子の平均粒子径は、溶剤遮蔽層の厚み以上に大きいことが好ましい。このような大径粒子によれば、溶剤遮蔽層上の多孔質層の表面に粗さを付与しやすくなる。なお、大径粒子の平均粒子径の測定方法は、0038段落で述べた無機フィラーの平均粒子径の測定方法と同様である。
【0069】
大径粒子の粒度分布はある程度シャープであることが好ましい。具体的には、粒子径5μm以下の大径粒子が溶剤遮蔽層の大径粒子全体に占める割合は、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また、粒子径20μm以上の大径粒子が溶剤遮蔽層の大径粒子全体に占める割合は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。粒度分布が上記の範囲内であれば、溶剤遮蔽層の溶剤アタック抑制性と強度が得られやすい。
【0070】
大径粒子としては、上記基材層中のフィラーとして挙げた無機粒子又は有機粒子を使用することができ、溶剤遮蔽層とフィラーの親和性が高まり空孔を抑制できる観点や粒度分布の調整のしやすさの観点から、有機粒子が好ましい。無機粒子としては、コストの観点から炭酸カルシウムが好ましい。有機粒子としては、ポリスチレン(ポリスチレンビーズ)が油性インクの乾燥性及び溶剤の遮蔽性に優れ、好ましい。無機粒子と有機粒子は併用することもできる。
【0071】
溶剤遮蔽層中の大径粒子の含有量は、積層体の搬送性向上の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。引裂き耐性及び溶剤の遮蔽性の観点からは、上記大径粒子の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましく、4.5質量%以下が特に好ましい。
【0072】
<層構成>
溶剤遮蔽層は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。溶剤の遮蔽効果を高める観点からは単層構造が好ましい。
【0073】
溶剤遮蔽層は、無延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。積層体の剛度を高める観点からは、延伸フィルムが好ましく、延伸によって形成される空孔を介して浸透する溶剤を遮蔽する観点から、1軸延伸フィルムが好ましい。
【0074】
<厚み>
溶剤遮蔽層の厚みは、溶剤の遮蔽性の観点から、3.5μm以上であることが好ましく、4.0μm以上がより好ましい。溶剤遮蔽層の厚みは、積層体に適度な粗さを付与する観点から、大径粒子の平均粒子径以下であることが好ましく、具体的には20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0075】
溶剤遮蔽層の空孔率は、空孔を介して基材層に到達する溶剤、特に鉱油等の高沸点石油系溶剤を減らす観点から、5%以下であることが好ましく、3%以下がより好ましい。溶剤遮蔽層は、溶剤の遮蔽性の観点から、空孔を形成してしまうフィラーはあまり含有しない方がよいが、空孔率が5%以下の範囲であれば、溶剤遮蔽層はフィラーを含有してもよい。
【0076】
上記空孔率は、電子顕微鏡で観察した各層の断面の一定領域において、空孔が占める面積の比率として求めることができる。具体的には、フィルムの任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いてフィルムの面方向に垂直に切断し、その切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付ける。観察面に金又は金-パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍~3000倍の拡大倍率)において空孔を観察し、観察した領域を画像データとして取り込む。得られた画像データを画像解析装置にて画像処理し、各層の空孔部分の面積率を求めて空孔率を得ることができる。各層はその外観の違いから判断することができる。この場合、任意の10箇所以上の観察における測定値を平均して、空孔率とすることができる。
【0077】
((表面層))
表面層は、溶剤遮蔽層上に設けられる熱可塑性樹脂フィルムである。表面層上には、印刷によってインク組成物からなる印刷層が形成され得る。
【0078】
表面層は、フィラーを含有する延伸多孔質フィルムであることが好ましい。フィラーを含有する延伸フィルムは、延伸によってフィラーを起点とする多数の微細な空孔が内部に形成され、多孔質層となる。通常、積層体を薄くするとインクの吸収量が減り、インクの乾燥性が低下する傾向があるが、多孔質化した表面層を積層体の表面に配置することにより、その空孔内にインク中の溶剤を吸収することができる。よって、薄くした場合でもインクの乾燥性に優れた積層体を提供することができる。
【0079】
<熱可塑性樹脂>
表面層には、上述した基材層と同様の熱可塑性樹脂を使用することができ、好ましい熱可塑性樹脂の種類も基材層と同じである。
【0080】
表面層中の熱可塑性樹脂の含有量は、成形性の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。空孔形成のためフィラーを多めに配合する観点から、上記含有量は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0081】
<酸変性樹脂>
表面層は、フィラーの脱落抑制等の観点から、酸変性樹脂を含有することが好ましい。酸変性樹脂としては、酸変性ポリオレフィンが好ましい。なかでもマレイン酸変性ポリオレフィンは、フィラー、特に炭酸カルシウムのような無機フィラーの脱落を抑えやすいため、好ましく、マレイン変性ポリプロピレンがより好ましい。
【0082】
フィラーの脱落抑制の観点からは、酸変性樹脂の含有量は、表面層中の熱可塑性樹脂の全質量を基準として、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。空孔の形成性又は成形性の観点からは、酸変性樹脂の含有量は、表面層中の熱可塑性樹脂の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0083】
<熱可塑性エラストマー>
表面層は、熱可塑性エラストマーを含有することができる。熱可塑性エラストマーは、フィルムの表面強度を向上させ、延伸成形時の裂け等を抑える。
【0084】
表面層には、上述した溶剤遮蔽層と同様の熱可塑性エラストマーを使用することができる。表面層が熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含有する場合は、相溶性の観点から、オレフィン系エラストマーが好ましく、プロピレン系エラストマーがより好ましい。
【0085】
オレフィン系エラストマーとしては、例えばエチレンプロピレン共重合体(EPM)、エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)とのブレンド、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマー等が挙げられる。
【0086】
表面強度の観点からは、表面層中の熱可塑性エラストマーの含有量は、0.5質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。インク乾燥性の観点からは、上記熱可塑性エラストマーの含有量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0087】
<フィラー>
表面層には、上述した基材層と同様のフィラーを使用することができる。好ましいフィラーの種類も基材層と同じであるが、表面層におけるインクの吸収量を増やして速乾性を高める観点から、フィラーの平均粒子径又は含有量は基材層とは好ましい範囲が異なる。
【0088】
表面層においてフィラーの平均粒子径は、通常0.01μm以上であり、0.10μm以上がより好ましく、0.20μm以上がさらに好ましい。上記平均粒子径は、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.6μm以下がさらに好ましい。
上記平均粒子径が0.01μm以上であると、微細な空孔が多数形成されやすく、インクの吸収量が増えて速乾性が向上しやすい。上記平均粒子径が2μm以下であると、表面強度が高まりやすい。
【0089】
表面層においてフィラーの粒度分布は、ある程度シャープであることが好ましい。具体的には、粒子径0.1μm以下のフィラーが表面層のフィラー全体に占める割合は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また、粒子径0.8μm以上のフィラーが表面層のフィラー全体に占める割合は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。粒度分布が上記の範囲内であると、空孔が形成されるタイミングが揃って空孔のサイズが均一化されやすく、フィルムの面方向に連通する微細な空孔が形成される傾向がある。これにより、インク中の溶剤の吸収量が増えてインクの乾燥性が向上するとともに、溶剤は面方向に広がって基材層への溶剤の浸透が少なくなる傾向がある。
【0090】
多数の空孔を形成する観点からは、表面層中のフィラーの含有量(無機フィラーと有機フィラーを併用する場合はその合計量)は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさら好ましい。表面層の成形の均一性を高める観点からは、上記フィラーの含有量は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0091】
<空孔率>
表面層の空孔率は、インクの乾燥性の観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。機械的強度の観点からは、空孔率は、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0092】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は特に限定されず、例えば表面層、溶剤遮蔽層及び基材層の各層の熱可塑性樹脂フィルムを成形し、これらを積層することにより製造することができる。熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて延伸され得る。
【0093】
((フィルム成形))
フィルムの成形方法としては、例えばスクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイ等により溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等が挙げられる。
【0094】
各層の熱可塑性樹脂フィルムの積層方法としては、例えばフィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス(共押出)方式、及び複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられ、各方法を組み合わせることもできる。
【0095】
((延伸))
延伸方法としては、例えばロール群の周速差を利用した縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次2軸延伸法、又は圧延法等が挙げられる。
【0096】
複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸してもよい。
【0097】
延伸温度は、各層の組成、例えば熱可塑性樹脂の融点等を考慮して設定することができる。例えば、延伸温度は、熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましく、融点よりも2~20℃低い温度の範囲内であることがより好ましい。使用する熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合の延伸温度は、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合の延伸温度は、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましく、具体的には熱可塑性樹脂の融点よりも2~60℃低い温度が好ましい。
【0098】
延伸速度は、特に限定されるものではないが、安定した延伸成形の観点から、20~350m/分の範囲内であることが好ましい。
また、延伸倍率についても、使用する熱可塑性樹脂の特性等を考慮して適宜決定することができる。 例えば、プロピレンの単独重合体又はその共重合体を含む熱可塑性樹脂フィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、好ましくは1.2倍以上であり、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは4倍以上である一方、好ましくは12倍以下であり、より好ましくは10倍以下である。一方、2軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは10倍以上である一方、好ましくは60倍以下であり、より好ましくは50倍以下である。
上記延伸倍率の範囲内であれば、目的の空孔率が得られて不透明性が向上しやすい。また、熱可塑性樹脂フィルムの破断が起きにくく、安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0099】
((表面処理))
各層の熱可塑性樹脂フィルムは、隣接する層との密着性を高める観点から、表面処理が施されてもよい。
表面処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理等が挙げられ、これら処理は組み合わせることができる。なかでも、コロナ処理が好ましい。
【0100】
((印刷))
本発明の積層体は、例えばオフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の各種印刷方式に対応することができる。オフセット印刷に使用される酸化重合型の油性インクは溶剤を含むが、本発明の積層体は溶剤アタックが生じにくく、特にオフセット印刷に適している。油性インクに限らず、蒸発乾燥型成分、浸透乾燥型成分等が少ない合成紙用のインク、紫外線硬化型インク等に対しても、本発明の積層体は優れた印刷適性及びインク乾燥性を有する。すなわち、本発明の積層体は、上述の各種印刷方式のインクに対応することができ、インクの汎用性が高い。
【実施例0101】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0102】
表1は、実施例及び比較例に使用した材料の一覧である。
【表1】
【0103】
(実施例1)
(I)ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体、商品名:ノバテックPP MA3、日本ポリプロ社製、MFR(230℃、2.16kg荷重):11g/10分)75質量部、及びフィラー(重質炭酸カルシウム微細粉末、商品名:ソフトン1800、備北粉化工業社製)25質量部を混合した樹脂組成物(BL)を、270℃に設定した押出機で溶融混練した。これをシート状に押し出して冷却ロールにより冷却し、無延伸シートを得た。当該無延伸シートを150℃にまで再度加熱した後、ロール間の速度差を利用してシート流れ方向に4.8倍の延伸を行って、縦延伸樹脂フィルムを得た。
【0104】
(II)ポリプロピレン系樹脂(商品名:ノバテックPP MA3Q、日本ポリプロ社製、MFR(230℃、2.16kg荷重):10g/10分)38質量部、酸変性樹脂(無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂、商品名:モディックP908、三菱ケミカル社製、融点:155~165℃)1.5質量部、熱可塑性エラストマー(プロピレン系エラストマー、商品名:タフマーPN2060、三井化学社製)3.5質量部、及びフィラー(軽質炭酸カルシウム、平均粒子径:0.23μm、粒度分布:フィラー全体に対して、粒子径0.1μm以下が10質量%以下かつ粒子径0.4μm以上が10質量%以下)52.5質量部を混合した樹脂組成物(DL)を、高速ミキサーで混合した。その後、シリンダー温度を210℃に設定した2軸混練押出機を用いて、ベント孔で脱気しながら回転数600rpmで溶融混練した。
【0105】
一方、ポリプロピレン系樹脂(商品名:ノバテックPP MA3)47.9質量部、非晶性樹脂(ホモポリスチレン、MFR(測定条件:200℃、5kgf):7.5g/min、密度:1.05g/cm、ビカット軟化温度(測定条件:50℃/hr、50N):94℃)47.9質量部、熱可塑性エラストマー(水添スチレン系エラストマー、商品名:タフテックP2000、旭化成社製)1.4質量部、及び大径粒子(ポリスチレンビーズ、平均粒子径:12μm、粒度分布:大径粒子全体に対して、粒子径5μm以下が10質量%以下かつ粒子径20μm以上が10質量%以下)2.3質量部を混合した樹脂組成物(ML)を、270℃に設定した押出機で溶融混練した。
次いで、上記樹脂組成物(DL)及び(ML)を1台の多層ダイに供給してダイ内部で積層した。この積層体をダイからシート状に共押出しし、上記(I)の工程で得られた縦延伸樹脂フィルムの一方の面上に、樹脂組成物(DL)の層が外側となるように積層し、3層構造の積層シートを得た。
【0106】
(III)上記(II)とは別の押出機2台を用いて、上記(II)と同様の手順で樹脂組成物(DL)及び(ML)をそれぞれ溶融混練した。これを上記(II)とは別の多層ダイに供給してダイ内部で積層してダイからシート状に共押出しし、上記(II)の工程で得られた3層構造の積層シートの縦延伸樹脂フィルム側(樹脂組成物(BL)の層側)の面上に、樹脂組成物(DL)の層が外側となるように積層した。これにより、表面層(樹脂組成物(DL)の層)/溶剤遮蔽層(樹脂組成物(ML)の層)/基材層(樹脂組成物(BL)の層)/溶剤遮蔽層(樹脂組成物(ML)の層)/表面層(樹脂組成物(DL)の層)の順に積層された5層構造の積層シートを得た。
【0107】
(IV)得られた5層構造の積層シートを60℃にまで冷却した後、再び150℃にまで再加熱して、テンターを用いてシート幅方向に9倍延伸し、次いで165℃でアニーリング処理した。再び60℃にまで冷却した後、耳部をスリットして、実施例1の積層体を得た。実施例1の積層体は、5層構造(各層の延伸軸数:1軸/1軸/2軸/1軸/1軸)、全体の厚み:95μm、各層の厚み:(DL)/(ML)/(BL)/(ML)/(DL)=8μm/4μm/71μm/4μm/8μm)であった。
【0108】
(実施例2~4)
樹脂組成物(ML)中の各成分の配合割合を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~4の積層体を得た。
【0109】
(比較例1)
樹脂組成物(ML)に大径粒子を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の積層体を得た。
【0110】
(比較例2)
樹脂組成物(DL)に大径粒子としてさらに炭酸カルシウム(商品名:CUBE18BHS、丸尾カルシウム社製、平均粒子径:1.8μm)2.4質量部を加え、樹脂組成物(ML)に大径粒子を配合せずに、溶剤遮蔽層の厚みを3μmに変更した以外は、実施例3と同様にして比較例2の積層体を得た。
【0111】
(評価)
各積層体の両面に油性オフセット印刷を施して以下の評価を行った。
((印刷))
積層体を636mm×469mmのサイズにカットし、これを印刷用紙として、油性オフセット印刷を行った。印刷には、オフセット印刷機(機器名:SM102-6-PLX,ハイデルベルグ社製)、及び酸化重合型油性オフセットインク(商品名:スーパーテックGT M墨、藍、紅、黄、T&K Toka 社製)を用いた。
【0112】
<印刷条件>
印刷には、PS版(商品名:XP-F、富士フィルム社製)、ブランケット(商品名:バルカンフォリオ、ガデリウスフォールディングス社製)、パウダー(商品名:ニッカリコ・ミニパック M、ニッカ社製)、湿し水(H液(商品名:アストロマーク3、日研化学研究所製)を1.5%及びIPA代替AG-U2を8%含有)を用いた。
また、印刷は、印刷室内の温度25℃、相対湿度50RH%の条件下で行い、墨、藍、紅、黄の色順に転写し、印刷速度は8000枚/時間とした。墨、藍、紅、黄の各色の単色ベタ印刷部及び墨、藍、紅、黄の全色が印刷される400%ベタ印刷部が印刷用紙の搬送方向に並ぶように絵柄を印刷した。墨、藍、紅、黄の単色ベタ印刷部の濃度がそれぞれ1.75、1.45、1.35、1.00となるようにインク転移量を調整し、湿し水は地汚れが発生しないレベルで極力少なくした。
【0113】
((溶剤アタック抑制性))
上記印刷条件により200枚印刷後、順次下から重ねて保存し、印刷物を積み重ねた状態で1か月間、室温で保管した。
保管後、積み重ねた束の上から50枚目の印刷物を目視で観察し、溶剤アタック抑制性を下記のように評価した。
A(良):紙面に波打ちがない、又は波打ちが発生しているが極わずかで問題ない
B(可):紙面に波打ちがわずかに発生しているが実用上問題ない
C(不可):紙面に波打ちが発生
【0114】
((搬送性))
上記印刷条件により1000枚の印刷を実施し、その印刷状況を観察して下記のように評価した。
A(良):8000枚/時間の速度で安定して印刷できる
B(可): 8000枚/時間よりも速度を落とすか、又はフィーダー部の調整を調整すれば、安定して印刷できる
C(不可):重走トラブル又は用紙の暴れにより印刷機が自動停止し、全く印刷ができない
【0115】
((紙粉抑制性))
上記印刷条件により1000枚印刷後、ブランケットを目視にて観察して下記のように評価した。
A(良):紙粉の付着がない
B(可):紙粉が一部に付着している
C(不可):紙粉が全面に付着している
【0116】
((インク乾燥性))
上記印刷条件により200枚印刷後、順次下から重ねて保存した。200枚を印刷し終わった時刻を開始時刻として、1時間ごとに、重ねられた印刷物束の上部から50枚目の印刷物を抜き出してインクが乾燥した否かを確認した。具体的には、印刷物の印刷面に直接人差し指を3秒間軽く押し付けた後、人差し指をすぐに離して印刷物の余白部に押し付けた。この余白部にインク移りが見られない場合、乾燥したと判断した。乾燥までに要した時間によってインク乾燥性を以下の基準で評価した。
A(良):ベタ印刷部が6時間以内にインク移りしなくなり、乾燥した
B(可):ベタ印刷部が6時間を超えて12時間以内にインク移りしなくなり、乾燥した
C(不可):ベタ印刷部が12時間以内に乾燥しなかった
【0117】
表2は、評価結果を示す。なお、各実施例及び比較例の積層体において、基材層の一方の面に積層される溶剤遮蔽層及び表面層は他方の面に積層される各層と成分及びその配合量が同じである。
【表2】
【0118】
表2に示すように、基材層が80μm以下に薄くした場合でも、実施例1~4は溶剤アタックを効果的に抑制できており、搬送性も良好である。紙粉も少なく、インクの乾燥性も高い。
【0119】
一方、溶剤遮蔽層に大径粒子がない比較例1は搬送性が低下している。溶剤遮蔽層ではなく表面層に大径粒子を含む比較例2は、搬送性は良好であるが、紙粉が発生している。
【符号の説明】
【0120】
10 積層体
1 基材
2,2a 溶剤遮蔽層
3,3a 表面層

図1