(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138392
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】中性電極と患者との電気的接続をチェックするための電気外科システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/16 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
A61B18/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023034477
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】22162783
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・マイヤー
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK27
4C160KK33
4C160KK63
(57)【要約】 (修正有)
【課題】中性電極と患者との電気的接続をチェックするための電気外科システムおよび方法を提供する。
【解決手段】電気外科システム15は、供給装置16と、供給装置に接続された中性電極23とを有する。測定信号は、複数の異なる測定周波数で印加され、それぞれの測定周波数に対して、その都度、1つのインピーダンス実際値が決定される。それから得られた複数のインピーダンス実際値は、インピーダンスの周波数依存推移を特徴付けるものであり、所定の周波数依存チェック基準によってチェックすることができる。そのチェックに基づいて、中性電極と患者との導電的接続が、チェック基準によって規定された仕様に準拠しているかどうかが認識される。特に、患者の組織21内部における中性電極の領域内の電流密度があまり高くならないように、中性電極の十分に大きい面積部分が患者に導電的に接続されているかどうかがチェックされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性接続部(18)を有する供給装置(16)と、前記中性接続部(18)に接続され、患者に導電的に接続される中性電極(23)とを備える電気外科システム(15)であって、
前記供給装置(16)は、前記中性接続部(18)に複数の異なる測定周波数(ω)で測定信号(US、IS)を供給し、測定周波数(ω)ごとに前記中性電極(23)のインピーダンス実際値(Zist(ω))を決定し、所定の周波数依存チェック基準に基づいて前記インピーダンス実際値(Zist(ω))をチェックする
電気外科システム。
【請求項2】
前記中性電極(23)は、導電性第1電極セクション(30)と、導電性第2電極セクション(31)とを含み、それらの電位は、互いに分離されている
請求項1に記載の電気外科システム。
【請求項3】
前記第1電極セクション(30)は、第1導体(25)を介して前記中性接続部(18)に電気的に接続され、前記第2電極セクション(31)は、第2導体(26)を介して前記中性接続部(18)に電気的に接続されている
請求項2に記載の電気外科システム。
【請求項4】
前記第1電極セクション(30)と前記第2電極セクション(31)とは、等しい大きさの面積および/または同一の形状を有する
請求項2または3に記載の電気外科システム。
【請求項5】
前記第1電極セクション(30)と前記第2電極セクション(31)とは、前記中性電極(23)を通る基準面(B)に対して対称に、互いに距離をとって配置されている
請求項2または3に記載の電気外科システム。
【請求項6】
前記中性電極(23)は、導電性第3電極セクション(32)を含み、その電位は、前記第1電極セクション(30)および前記第2電極セクション(31)の電位から分離されている
請求項2または3に記載の電気外科システム。
【請求項7】
前記第3電極セクション(32)は、前記第1電極セクション(30)および前記第2電極セクション(31)を取り囲んでいる
請求項6に記載の電気外科システム。
【請求項8】
前記チェック基準は、少なくとも1つの所定の周波数依存インピーダンス比較値(Zmax(ω)、Zmin(ω))に基づいている
請求項1に記載の電気外科システム。
【請求項9】
前記チェック基準は、周波数依存モデルインピーダンス(39)に基づいている
請求項1に記載の電気外科システム。
【請求項10】
前記チェック基準は、周波数依存モデルインピーダンス(39)に基づいている
請求項8に記載の電気外科システム。
【請求項11】
前記モデルインピーダンス(39)は、ワールブルグインピーダンス(40)を含む
請求項9または10に記載の電気外科システム。
【請求項12】
前記モデルインピーダンス(39)は、前記ワールブルグインピーダンス(40)と定位相要素(41)とが互いに並列に接続されている並列接続部(42)を含む
請求項11に記載の電気外科システム。
【請求項13】
前記供給装置(16)は、供給接続部(17)と、動作電極(22)を有し、かつ前記供給接続部(17)に電気的に接続されている器具(19)とを含み、前記供給装置(16)および/または前記器具(19)は、前記動作電極(22)に動作電圧(UA)および/または動作電流(IA)を供給する
請求項1または2に記載の電気外科システム。
【請求項14】
前記供給装置(16)は、前記動作電極(22)に動作電圧(UA)も動作電流(IA)も供給されていない場合のみ、前記中性接続部(18)に前記測定信号(US、IS)を印加する
請求項13に記載の電気外科システム。
【請求項15】
前記供給装置(16)は、前記動作電極(22)に動作電圧(UA)および/または動作電流(IA)が供給されると同時に前記中性接続部(18)に前記測定信号(US、IS)が供給される場合、前記動作電圧(UA)および/または前記動作電流(IA)の動作周波数と異なる前記測定信号(US、IS)の測定周波数(ω)を設定する
請求項13に記載の電気外科システム。
【請求項16】
中性電極(23)と患者との電気的接続をチェックするための方法であって、
前記中性電極(23)と前記患者との間に導電的接続が存在するように、前記中性電極(23)を前記患者に取り付けるステップと、
前記中性電極(23)に、複数の異なる測定周波数(ω)でそれぞれ1つの測定信号(US、IS)を印加するステップと、
測定信号(US、IS)の測定周波数(ω)ごとにインピーダンス実際値(Zist(ω))を決定するステップと、
前記インピーダンス実際値(Zist(ω))を所定のチェック基準に基づいてチェックするステップと、
前記チェックの結果に応じて処置を開始するステップとを含む
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性電極と患者との電気的接続をチェックするための電気外科システムおよび方法に関する。電気外科システムは、特に、その方法を実行することができる。電気外科システムは、特に、供給装置に接続されているか、または接続可能である、モノポーラ器具と中性電極とを有するシステムである。
【背景技術】
【0002】
電気外科器具において、供給装置から器具の動作電極へ、そして動作電極から供給装置に戻る電気回路は、患者の処置中、閉じていなければならない。この目的のために、モノポーラ器具の場合には、中性電極として表される追加の電極が患者に取り付けられる。したがって、電流は、供給装置から動作電極、患者、および中性電極を介して供給装置に戻ることができる。
【0003】
中性電極における電流密度は、電気外科システムの動作中の内因性火傷を避けるために、あまり高くなってはならない。この理由により、中性電極の設けられた導電性接触面は、十分に大きい面積部分が低抵抗で電気的に接続している状態で患者に取り付けられている必要がある。接触面のうち患者に電気的に接続されている面積部分が小さすぎると、電流密度が増加し、それによって、中性電極の隣の組織に内因性火傷が生じ得る。そのため、最初に正しく中性電極を患者に取り付けることを考慮しなければならないだけでなく、患者への中性電極の正しい取付けを、電気外科システムの使用中もずっと維持しなければならない。
【0004】
特許文献1には、中性電極インピーダンスに応じた医療装置の制御について記載されている。インピーダンスは所定の閾値と比較され、中性電極のインピーダンスが所定の範囲内にある、例えば140オーム以下の大きさを有する場合にのみ、電気外科システムまたは処置器具の動作がそれぞれ可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2537479号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1289415号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0813387号明細書
【特許文献4】国際公開第03/060462号
【特許文献5】欧州特許出願公開第3496638号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第102019209333号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
閾値比較を用いたそのようなインピーダンス測定は、不十分である。中性電極の接触面のうち患者に接している面積部分が小さすぎるものは、そのようなインピーダンス測定によってすべての場合に認識できるわけではない。
【0007】
本発明は、中性電極のインピーダンス変化は、接触面のうち患者から剥がれている表面部分がある中性電極の位置と、接触面のうち依然として患者に導電的に接続されている表面積の位置がある中性電極の位置とに依存するという発見に基づく。現在までに知られている方法では(特許文献1)、中性電極と患者との電気的に不十分な接触がすべての場合に認識できるわけではないという危険性がある。
【0008】
したがって、中性電極と患者との電気的接続をチェックするための電気外科システムおよび方法を提供し、中性電極と患者との導電的接続のチェックが改善できることを、本発明の目的と考えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する電気外科システムと、請求項15の特徴を有する方法とによって達成される。
【0010】
本発明による電気外科システムは、中性電極が接続されている中性接続部を有する供給装置を備える。中性電極は、患者に導電的に接続されている。この目的のために、中性電極は、患者の皮膚に粘着接続するか、または他の方法で取り付けることができる。
【0011】
特に周期的に変化する測定信号を、供給装置によって中性電極用の中性接続部に印加することができる。測定信号は、交流電圧測定信号または交流電流測定信号にすることができる。交流電圧測定信号は、中性電極を流れる測定電流を引き起こす。交流電流測定信号は、中性電極に印加される測定電圧を引き起こす。測定電流または測定電圧は、供給装置の中性接続部で測定することができ、交流電圧測定信号および測定電流、または、交流電流測定信号および測定電圧に基づいて、中性電極についてインピーダンス実際値を決定することができる。
【0012】
好ましい実施形態において、インピーダンスの測定には、非線形の電圧依存インピーダンス部分を測定しないように、電流源の形態の交流電流測定信号の代わりに電圧源の形態の交流電圧測定信号が用いられる。
【0013】
本発明によれば、インピーダンス実際値は、測定信号(交流電圧測定信号または交流電流測定信号)の単一の測定周波数においてだけでなく、複数の異なる測定周波数に対して決定される。この目的のために、測定信号の測定周波数は、複数の測定周波数間で異なり、測定周波数ごとに1つのインピーダンス実際値がそれぞれ決定される。したがって、インピーダンス実際値は、周波数依存する。その際、周波数依存インピーダンスの推移は、例えば、少なくとも近似的に決定することができる。
【0014】
測定信号の測定周波数は、10Hz~1.0MHzの周波数範囲から選択できることが好ましい。例えば、測定周波数ごとに1つのインピーダンス実際値を、それぞれ最少10個、最少20個、または最少50個の異なる測定周波数に対して決定することができる。好ましくは、少なくとも1つの測定周波数は、10Hz~100Hzの範囲から選択することができる。さらに好ましくは、少なくとも1つの測定周波数は、100kHz~1.0MHzの範囲から選択することができる。選択された測定周波数のうちの2つは、可能な周波数範囲全体の限界と等しくすることができ、その結果、一例によれば、最低測定周波数を10Hzにすることができ、最高測定周波数を1.0MHzにすることができる。例えば、10Hzで始まる示した測定周波数範囲において、異なる大きさを有する、1桁当たり10個の測定周波数を選択することができる。2つの測定周波数間の周波数間隔は、等しくするか、または周波数と共に指数関数的に増加させることができる。
【0015】
交流電圧測定信号の振幅は、0.1V未満であることが好ましい。一実施形態において、交流電圧測定信号の振幅は、およそ10mVにすることができる。
【0016】
インピーダンス実際値は、所定の周波数依存チェック基準に基づいてチェックすることができる。したがって、チェック基準により、決定されたインピーダンス実際値の周波数依存評価が可能になる。測定周波数ごとに、決定されたインピーダンス実際値の評価を行うことができる。特に、それにより、インピーダンス実際値への容量性およびオームの影響をより容易に認識し、区別することができる。例えば、所望の周波数依存インピーダンス範囲をチェック基準として規定することができ、測定されたインピーダンス実際値は、そのチェック基準内になければならない。そのため、所望のインピーダンス範囲は、測定周波数に依存する線形または非線形の推移を有し得、特に一定ではない。
【0017】
中性電極のインピーダンスを複数の測定周波数で測定および評価するため、中性電極と患者との電気的接続の評価を改善できることが分かった。例えば、中性電極と患者との不十分な電気的接続は、中性電極のどの空間的表面積部分が患者に導電的に接続されていないかには依存せずに認識することができる。特に、中性電極と患者との不十分な電気的接触は、電気外科システムの動作中に中性電極が患者から剥がれる位置または空間的方向には依存せずに認識することができる。
【0018】
異なる測定周波数でのインピーダンスの測定はそれ自体、実際、例えばインピーダンス分光法から知られている。しかしながら、それにより、電気外科システムによって処置される組織タイプの区別が容易になる。例えば、そのような方法は、特許文献2に記載されている。処置に使用された器具によって、処置された組織に異なる周波数でチェック信号が印加され、測定されたインピーダンスに基づいて、処置された組織は、異なる組織タイプを認識するために特徴付けられる。
【0019】
特許文献3には、腫瘍を特徴付け、処置するための装置が開示されている。ここでもまた、器具によって処置された組織のインピーダンスが、異なる組織タイプの区別に用いられている。
【0020】
特許文献4から知られている方法では、電気パルスが組織に導入され、その反射が検出される。反射に基づいて、健康な組織がリアルタイムで悪性組織と区別される。
【0021】
さらに、特許文献5には、測定部を有する電気外科システムが記載されている。ここでは、処置された組織のインピーダンス測定が、測定装置によって異なる周波数で行われる。測定装置によって、測定信号を組織に印加することができる。スイッチング装置は、組織処置用電圧と、測定信号用電圧とを切り替える働きをする。測定信号によって、組織のインピーダンスが異なる周波数で決定される。
【0022】
生体組織の局所組織タイプを決定するための別の方法と、それぞれの電気外科システムとが、特許文献6に記載されている。組織決定のために、測定信号(交流電圧または交流電流)が組織に結合され、周波数は変化し得る。例えば、周波数に基づいて、インピーダンススペクトルを検出し、インピーダンススペクトルから組織タイプを導き出すことができる。
【0023】
供給装置と器具と患者と中性電極との間の電流回路において、インピーダンスは、多数のパラメータに応じて変化するため、中性電極と患者との電気的接触についての結論を出すことはできない。これとは異なり、本発明は、先行技術と比較して、中性電極と患者との電気的接続の評価を改善することができる。
【0024】
好ましい実施形態において、中性電極は、互いに直接電気的に接続されていない複数の、例えば2つまたは3つの電極セクションを含む。したがって、電極セクションは、短絡していない。よって、それらは、異なる電位を有することができる。中性電極内部では、電極セクションは、発生する電流および電圧に関して互いに電気的に絶縁されており、中性電極が患者に取り付けられている場合、患者を介して間接的にのみ電気的接続が存在することが好ましい。例えば、中性電極は、導電性第1電極セクションと、導電性第2電極セクションとを有することができる。
【0025】
存在する導電性電極セクションのうちの少なくとも2つは、導体によって供給装置の中性接続部に接続されていることが好ましい。例えば、第1電極セクションは、第1導体を介して中性接続部に電気的に接続することができ、第2電極セクションは、第2導体を介して中性接続部に接続することができる。2つの導体は、発生する電流および電圧について互いに電気的に絶縁されている。
【0026】
これは、第1電極セクションと第2電極セクションとが等しい表面積および/または同じ形状を有する場合、有利である。好ましい実施形態において、2つの電極セクションは、互いに距離をとって配置される。それらは、中性電極の非導電性ウェブによって互いに電気的に絶縁することができる。
【0027】
一実施形態において、第1電極セクションと第2電極セクションとは、基準面の両側に配置することができ、基準面に対して対称に配置することができる。基準面は、2つの電極セクションを互いに分けるウェブに沿って延在することができる。
【0028】
中性電極は、導電性第3電極セクションを含むことが好ましい。第3電極セクションは、中性電極内の発生する電流および電圧について、第1電極セクションおよび第2電極セクションに対して電気的に絶縁されている。2以上の電極セクション間の電気的接続は、中性電極が患者に取り付けられている場合、例えば、2以上の電極セクションと、患者などの導電性構造体との導電的接続によって、間接的にのみ確立することができる。
【0029】
第3電極セクションは、第1電極セクションおよび第2電極セクションを取り囲むことができる。第3電極セクションは、湾曲し、かつ/またはその延在方向に沿って複数のセクションに曲がることが好ましく、中断することなく構成されることがさらに好ましい。例えば、第3電極セクションは、U字形またはC字形の延長部を有することができる。第3電極セクションは、第1電極セクションおよび第2電極セクションをそれぞれ第1導体または第2導体に電気的に接触するための接続エリアが存在する単一の位置でのみ開いていることが好ましい。
【0030】
第3電極セクションの表面積は、第1電極セクションおよび/または第2電極セクションの表面積よりも小さくすることができる。好ましい実施形態において、好ましくは第1電極セクションおよび第2電極セクションの周りの、第3電極セクションの延在方向に沿った長さは、当該延在方向に直交するその最大幅の大きさ(長さ)よりも約10倍または20倍大きい大きさを有する。
【0031】
既に上に説明したように、チェック基準は、1以上の所定の周波数依存インピーダンス比較値に基づくことができる。例えば、1以上の決定されたインピーダンス実際値が比較される周波数依存インピーダンス上限値および/または周波数依存インピーダンス下限値を予め規定することができる。このチェックに基づいて、中性電極が十分に導電的に接触して、規定に従って患者に当接しているかどうかを判定することができる。
【0032】
好ましい実施形態において、チェック基準は、中性電極を特徴付けるモデルインピーダンスが予め規定されることに基づくことができる。このモデルインピーダンスは、インピーダンス実際値の複数の影響値またはパラメータへの依存性を表すことができる。これらのパラメータには、中性電極の接触面のうち低抵抗で患者に接続されている表面部分、または中性電極のうち十分に低い抵抗で患者に電気的に接続していない表面積部分の空間的依存性も関係する。したがって、例えば、患者から、中性電極がその縁部から剥がれる空間的方向を考慮することができる。
【0033】
モデルインピーダンスは、ワールブルグインピーダンスおよび/または定位相要素(CPE)を含むことが好ましい。
【0034】
ワールブルグインピーダンスは、モデルインピーダンスの一部として中性電極の挙動を特徴付けるための複数のパラメータ、例えば直流電圧抵抗および時定数を設けることができる。直流電圧抵抗および時定数は、シミュレーションによって、および/または経験的に決定することができ、中性電極のそれぞれの構成に依存し得る。
【0035】
定位相要素は、特に0°~-90°の範囲の一定の位相シフトを、予め規定可能なパラメータとして規定する要素であり、容量性の影響を特徴付けることができる。定位相要素は、選択可能なパラメータによって規定された位相シフトの付与に応じて、オームのみの抵抗(位相シフト0°)、理想キャパシタ(位相シフト-90°)、またはそれらの組合せを特徴付けることができる。
【0036】
一実施形態において、モデルインピーダンスは、ワールブルグインピーダンスと定位相要素とが互いに並列に接続されている並列接続部を有する。
【0037】
さらに、モデルインピーダンスは、少なくとも1つの抵抗器を含むことができる。好ましい実施形態において、2つの抵抗器が存在する。一方の抵抗器は、並列接続部内部でワールブルグインピーダンスに直列に接続され、他方の抵抗器は、並列接続部に直列に接続され得る。したがって、モデルインピーダンスは、ランドルズ回路に相当し得る。
【0038】
インピーダンスの周波数依存性と、中性電極のうち患者に導電的に当接する面積部分の空間的配置とに関して中性電極を表すために、シミュレーションおよび/または測定によって規定することができる複数(例えば5つ)のパラメータまたは変数をモデルインピーダンスによって設けることができる。
【0039】
少なくとも1つの周波数依存インピーダンス比較値に基づくチェック基準に加え、またはその代替として、少なくとも1つの分類器を使用する分類も行うことができる。これにより、分類器は、決定されたインピーダンス実際値、ならびに/または、決定されたインピーダンス実際値および/もしくはモデルインピーダンスに基づいて決定された1以上の代理パラメータに直接適用することができる。そのような代理パラメータは、例えば、利用可能な変数またはパラメータのすべてが次元削減の方法によって1以上の代理パラメータに変換されることから取得することができる。次元削減の方法は、例えば、主成分分析(PCA)の形態で、または、t分布型確率的近傍埋込み(t-SNE)などの数学的もしくは統計的方法によって知られている。
【0040】
既知の分類器すべて、例えば、ベイズ分類器、サポート・ベクトル・マシン(SVM)、人工ニューラルネットワーク(例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN))、決定木、および/またはk近傍法(KNN)のうちの1以上を分類器として使用することができる。
【0041】
例えば、人工ニューラルネットワークは、インピーダンス実際値ごとに、すなわち所定の測定周波数ごとに、2つの入力ニューロンを含むことができ、その結果、それぞれのインピーダンス実際値の二次元(大きさ/位相または実数部/虚数部)を人工ニューラルネットワークの入力層内に供給することができる。人工ニューラルネットワークは、中性電極と患者との間に十分に導電性を有する接触が存在しない様々な状況を学習するように、訓練データに基づいて訓練することができる。訓練データは、実際の動作データ、ならびに/または、実験室でのシミュレーションおよび/もしくは実験から得ることができる。
【0042】
好ましい実施形態において、電気外科システムは、患者の組織を処置するための電気外科器具を接続することができる供給接続部を有する。供給装置は、器具用の動作電圧および/または動作電流を供給接続部に印加することができる。動作電圧または動作電流は、外科用途に応じて、例えば、器具で組織を凝結するか、切断するか、切除するか、または融合するかに応じて、供給装置によって予め設定することができる。
【0043】
器具は、動作電極を有する。動作電圧に基づいて、動作電極に電極電圧を印加することができ、かつ/または、動作電流に基づいて、電極電流が動作電極を通って、さらに処置対象の組織内に流れることができる。動作電圧は、電極電圧として用いることができ、かつ/または、動作電流は、電極電流として用いることができる。
【0044】
一実施形態において、器具は、供給接続部におけるそれぞれの動作電圧またはそれぞれの動作電流を要求する。この目的のために、器具の操作要素を信号ラインによって供給接続部に接続することができる。さらに、または代替として、供給接続部と動作電極との間の電流経路を、操作要素によって遮断解除するか、中断するか、または切り替えることができる。これにより、選択肢として、電極電圧および/または電極電流が動作電圧または動作電流と異なるように、供給接続部から動作電極への電気経路内において、供給される動作電圧または供給される動作電流を、例えばコンバータ回路によって修正することが可能である。そのような修正は、供給装置の外部で別の種類の動作を生じさせるために用いることもできる。
【0045】
一実施形態において、電気外科システムは、電極電圧が動作電極に印加されていない、かつ/または、電極電流が動作電極を通って組織内に流れていない場合、交流電圧測定信号を中性接続部、ひいては中性電極のみに印加することができる。したがって、交流電圧測定信号は、1以上のインピーダンス実際値を決定するために、処置期間と処置期間との間の1以上の期間中に中性接続部または中性電極に印加することができる。その際、測定電流は、動作電圧または動作電流によって影響を受けず、インピーダンス実際値の決定は、動作電圧および動作電流には依存しない。
【0046】
これに加えて、または代替として、少なくとも段階的に動作電極によって組織を処置する(電極電圧が動作電極に印加され、かつ/または、動作電流が動作電極を流れる)と同時に、交流電圧測定信号を中性接続部または中性電極に印加することも可能である。処置期間と交流電圧測定信号の印加とが重なる期間において、交流電圧測定信号の測定周波数は、動作電圧および/もしくは動作電流、ならびに/または、電極電圧および/もしくは電極電流の周波数と異なるように選択することができる。その際、交流電圧測定信号から生じる、中性電極を流れる測定電流は、例えば周波数の評価によって、電極電流および電極電流から発生する電流の流れと区別できることが保証される。この場合も、インピーダンス実際値を十分正確に決定することが可能である。
【0047】
本発明による、中性電極と患者との電気的接続をチェックするための方法において、中性電極は、患者への導電的接続を確立するために患者に取り付けられる。続いて、交流電圧測定信号または交流電流測定信号の形態の測定信号が、特に、上記実施形態のうちのいずれかによる電気外科システムの供給装置の中性接続部を介して、中性電極に印加されるか、または加えられる。その際、測定可能な測定電流または測定電圧が生じる。したがって、印加された交流電圧測定信号および測定電流、または、印加された交流電流測定信号および測定電圧に基づいて、インピーダンス実際値を決定することができる(オームの法則)。その後、測定信号(交流電圧測定信号または交流電流測定信号)は、特に、複数の異なる測定周波数で生成され、選択および設定された測定周波数ごとに1つのインピーダンス実際値がそれぞれ決定される。このようにして得られた、測定周波数によって規定された周波数範囲に及ぶインピーダンス実際値は、続いて、所定のチェック基準に基づいてチェックすることができる。このチェックにより、中性電極と患者との間に十分な電気的接続が存在するかどうかを示すチェック結果が得られる。
【0048】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項、図面および明細書から導かれる。以下に、添付の図面に基づいて、好ましい実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、供給装置と、中性電極と、器具とを備える電気外科システムの一実施形態の概略ブロック図のような図である。
【
図2】
図2は、中性電極の一実施形態の概略基本図である。
【
図3】
図3は、
図2の中性電極における電極表面間の遷移抵抗の概略基本図である。
【
図4】
図4は、中性電極の利用可能な総接触面積のうち患者と導電的に接触している面積部分に依存した、
図2および
図3による中性電極における総抵抗の例示的な主な変化である。
【
図5】
図5は、
図1および
図2による中性電極を特徴付けるモデルインピーダンスのブロック図である。
【
図6】
図6は、
図1による電気外科システムの実施形態のブロック図である。
【
図7】
図7は、
図1および
図2による中性電極の複数の決定されたインピーダンス実際値に基づいた例示的なインピーダンス推移である。
【
図8】
図8は、利用可能な接触面積のうち患者に導電的に接続され、2つの主成分に依存した面積部分を規定する、単なる例として概略的に示したフィールドの図である。
【
図9】
図9は、動作電圧および複数の可能な交流電圧測定信号の例示的な時間依存推移の図である。
【
図10】
図10は、動作電流および測定電流のスペクトルを非常に概略的に示した図である。
【
図11】
図11は、本発明による方法の一実施形態におけるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
電気外科システム15の一実施形態における基本図を
図1に示す。電気外科システム15は、供給接続部17と、中性接続部18とを有する供給装置16を有する。供給接続部17は、器具19を供給装置16に電気的に接続する働きをする。その電気的接続は、単極または多極接続にすることができる。したがって、接続は、単極または多極ケーブル20を介して確立することができる。
【0051】
器具19は、患者の生体組織21を電気外科処置するためのものである。組織21は、人間または動物の体の生体組織である。組織21を処置するために、器具19は、少なくとも1つまたは正確に1つの動作電極22を有する。組織21を処置するために、動作電極22と組織21との間に導電的接続を確立することができる。
【0052】
図1による電気外科システム15において、器具19は、モノポーラ器具として構成される。供給装置16と、器具19の動作電極22との間、そして再び供給装置16に戻る電流回路は、器具19を介してだけでなく、さらに患者に導電的に取り付けられている別個の電極を介して確立されている。この追加電極は、中性電極23として表すことができる。中性電極23は、例による多極ケーブル24を介して供給装置16の中性接続部18に電気的に接続されている。例えば、ケーブル24は、図示した実施形態(
図2)において、少なくとも2つのリードまたは導体と、第1導体25と、第2導体26とを有する。
【0053】
供給装置16は、動作電極22用の動作電圧UA(
図9)を供給接続部17に印加することができる。動作電極22と組織21との間に確立された導電的接触により、動作電流IAが、動作電極22を通って、さらに組織21を通って中性電極23へ、そして、中性電極23から供給装置16の中性接続部18へ流れる。電流回路は閉じている。
【0054】
動作電圧UAは、組織21を処置するために器具19に供給される高周波電圧であり、実施形態において、電極電圧として動作電極22に印加することができる。選択肢として、供給接続部17において供給される動作電圧UAは、インバータ回路または別の修正回路によって適切な電極電圧に変換することができる。実施形態では、供給接続部17における動作電圧UAは、ケーブル20の信号ラインを介して器具19によって要求することができる。その後、
図9に概略的に示すように、供給接続部17にて、動作電圧UAが処置期間P中に動作電極22に印加される。
【0055】
中性電極23の一実施形態を
図2に示す。中性電極23は、例による複数の導電性電極セクションを有し、好ましい実施形態において、導電性第1電極セクション30と、導電性第2電極セクション31と、導電性第3電極セクション32とを有する。電極セクション30、31、32は、互いに距離をとって配置され、各電極セクション30、31、32が異なる電位を有することができるように、発生する電圧および電流について互いに電気的に絶縁されている。電極セクション30、31、32は、患者に取り付けられた状態で、患者を介して間接的にのみ互いに電気的に接続されている。例えば、電極セクション30、31、32は、中性電極23の非導電性キャリア上に互いに距離をとって配置することができる。
【0056】
電極セクション30、31、32は、患者に面する側のみ導電性接触面34として構成され、それぞれの反対側では、中性電極23のキャリア材料または他の絶縁材料によって電気的に絶縁されている。
【0057】
第1電極セクション30および第2電極セクション31は、同じ面積および同じ形状を有する。中性電極23を通る基準面Bに対して、第1電極セクション30と、第2電極セクション31とは、対称に配置されている。基準面Bは、中性電極23の横方向Qに直交して延在する。基準面Bと平行な長手方向Lにおいて、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間に非導電性ウェブ33が延在する。
【0058】
第1電極セクション30および第2電極セクション31は、患者と当接する略半円の接触面34をそれぞれ含むことができる。第1電極セクション30および第2電極セクション31は、それぞれの接触面34のストリップ導体状の延在部によって実現される接続エリア35をそれぞれ含む。各接続エリア35は、接触面34から始まり、実質的に長手方向Lに延在することができる。接続エリア35において、第1電極セクション30は、第1導体25に電気的に接続され、第2電極セクション31は、第2導体26に電気的に接続されている。
【0059】
第3電極セクション32は、供給装置16に電気的に接続されていない。したがって、その電位は、供給装置16によって規定されない。
【0060】
第3電極セクション32は、接続エリア35以外の、第1電極セクション30および第2電極セクション31の周囲全体に延在する。第3電極セクション32の面積は、第1電極セクション30および第2電極セクション31の面積よりも小さいことが好ましい。第3電極セクション32の長さは、第3電極セクション32の延在方向に沿って、または第1電極セクション30および第2電極セクション31の周方向において、その絶対値が、延在方向に直交する方向から見た幅の絶対値よりも著しく大きいものである。したがって、第3電極セクション32は、ライン状またはストリップ導体状にすることができる。接続エリア35は別として、第3電極セクション32は、途切れることなく連続的に構成される。
【0061】
実施形態では、第3電極セクション32は、基準面Bを通って延在する唯一の電極セクションである。第3電極セクション32は、好ましくは直線接続セクションを介して互いに接続されることが好ましい2つの弧状、特に円弧状の端部セクションを有することができる。
【0062】
図2に示す中性電極は、患者に取り付けられている動作位置にて、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間に、(長手方向Lおよび横方向Qにおける位置に依存する)空間的位置に応じて変化する様々な電気的な遷移抵抗R
k(k=1、2、…、n)を有する。遷移抵抗R
k(k=1、2、…、n)は、接触面34、または遷移抵抗R
kが間で測定される電極セクション30、31の位置に応じて変化する。
図3による基本概略図では、例として、6つの遷移抵抗R
1~R
6を示す。ウェブ33に隣接しておらず、ウェブ33の反対側に面する電極セクション30、31の縁部間で有効な遷移抵抗(例では:R
1、R
5およびR
6)は、ウェブ33に直接隣接している電極セクション30、31の端部間の遷移抵抗(例では:R
2、R
3およびR
4)よりも著しく大きい。これにより、以下のようにほぼ仮定することができる。
【0063】
【0064】
第1電極セクション30と第2電極セクション31との間の総抵抗Rgesは、大きさが異なるこれらの遷移抵抗RaおよびRiから生じ、接触面34のうち実際患者に導電的に取り付けられている面積が減少した場合に、接触面34のその面積部分に応じて変化するだけでなく、この面積部分が中性電極23上に位置する場所に応じて、すなわち、例えば、中性電極が患者から長手方向Lに剥がれたか、または横方向Qに剥がれたかに応じて変化する。
【0065】
図4には、横方向Q(
図4の連続線)および長手方向L(
図4の破線)における中性電極23の剥離についての測定値を単なる一例として概略的に示す。
図4から、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間の総抵抗R
gesによって、接触面34のうち実際患者に導電的に接続されている面積率について容易に結論付けできることが明らかである。ここで、組織21を介した第1導体25と第2導体26との電気的接続におけるインピーダンスの実数部が、総抵抗R
gesとして決定される。
【0066】
本発明によれば、中性電極23と患者との電気的接続の監視が改善される。このため、異なる測定周波数ωにおける交流電圧測定信号USまたは交流電流測定信号ISによって、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間のインピーダンスZを決定することが規定される。例えば、インピーダンスZから、複数のインピーダンス実際値Z
istの周波数依存インピーダンス推移を決定することができる。
図7には、ナイキスト線図として測定周波数ωに依存した、インピーダンス実際値Z
istと、インピーダンス実際値Z
istの実数部Re(Z)および虚数部Im(Z)とを示す(測定周波数ωは、横座標との交点から増加する)。
【0067】
図7からさらに明らかなように、周波数依存インピーダンス推移または個々のインピーダンス実際値Z
istは、許容範囲内にあるかどうかをチェックすることができる。このチェック基準に基づいて、中性電極23と患者との間に十分に良好な電気的接触が存在しているかどうか、ひいては、電極セクション30、31の利用可能な接触面34の十分に大きい面積部分が患者に導電的に当接しているかどうかを決定することができる。したがって、
図7による実施形態では、チェック基準は、測定されたインピーダンス実際値Z
istと、1以上の周波数依存インピーダンス比較値との比較である。例えば、インピーダンス比較値として、インピーダンス上限値Z
maxおよび/またはインピーダンス下限値Z
minを予め規定することができる。測定されたインピーダンス実際値Z
istのうちの1以上が所定の範囲内にないと判定された場合、中性電極23と患者との電気的接続は正しくないと結論付けることができる。
【0068】
第1電極セクション30と第2電極セクション31との、または、第1の導体25と第2導体26とのそれぞれの電気的接続である中性電極電流回路のインピーダンスZを、異なる測定周波数ωにおける交流電圧測定信号USまたは交流電流測定信号ISを用いて評価することによって、中性電極23が、少なくとも1つの接触面34の十分に大きい面積部分で患者に密に当接しているかどうか、ひいては、電気的接続が要件に一致しているかどうかを、中性電極23の空間的位置には依存せずに、より正確に判定することができる。本発明による評価では、例えば、中性電極23が、患者から長手方向Lに剥がれているか、横方向Qに剥がれているか、またはこれらの方向に対して斜めに剥がれているかは作用しない。すべての状況において、電気的接続の質を十分な精度で評価することができる。
【0069】
本発明は、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間の中性電極電流回路のインピーダンスは、ブロック図の形態の
図5および
図6に示すモデルインピーダンス39によって特徴付けることができるという発見に基づく。モデルインピーダンス39は、例によるワールブルグインピーダンス40を含む。ワールブルグインピーダンスは、周波数依存インピーダンス値W(ω)を有する。
【0070】
【0071】
上式において、AWは、ワールブルグインピーダンス40のワールブルグ係数であり、ωは、角周波数である。ワールブルグ係数AWは、測定および/またはシミュレーションによって決定することができ、特に、中性電極23の寸法および/または形状に依存し得る。
【0072】
モデルインピーダンス39は、ワールブルグインピーダンス40に加えて、定位相要素41(CPE)を含む。定位相要素41は、0°~-90°の範囲の位相シフトを有する構成要素である。したがって、定位相要素41は、理想キャパシタ、オーム抵抗器、またはそれらの組合せに相当し得る。
【0073】
図5および
図6に示すように、モデルインピーダンス39は、並列接続部42と、並列接続部42に直列の第1抵抗器43とを含む。並列接続部42内では、定位相要素41は、ワールブルグインピーダンス40と並列に接続されている。並列接続部内では、第2抵抗器44を、ワールブルグインピーダンス40に直列に接続することができる。
【0074】
したがって、実施形態において、モデルインピーダンス39は、ランドルズ回路に相当する。
【0075】
モデルインピーダンス39は、中性電極23の挙動を十分に良好な近似または正確さで表している。
【0076】
インピーダンス実際値Z
istを測定するために、測定信号(交流電圧測定信号USまたは交流電流測定信号IS)が、供給装置16の中性接続部18に印加されるか、または加えられ、ケーブル24を介して中性電極23に供給される。測定信号US、ISは、このようにして、第1導体25と第2導体26、ひいては中性電極23の第1電極セクション30と第2電極セクション31との間で有効である。患者に取り付けられた中性電極23を介して、第1電極セクション30と第2電極セクション31との間の電流回路が閉じている。交流電圧測定信号USにより、測定電流IMが中性電極23を流れるか、または交流電流測定信号ISにより、測定電圧UMが中性接続部18に生じる。この測定電流IMまたはこの測定電圧UMは、供給装置16、例えば供給装置16の測定部45において検出することができる(
図6)。交流電圧測定信号USおよび測定電流IM、または、交流電流測定信号ISおよび測定電圧UMに基づいて、測定信号US、ISのそれぞれ実際に設定された測定周波数ωに対して、インピーダンスまたはそれぞれのインピーダンス実際値Z
istを決定することができる。
【0077】
さらに
図6に示すように、供給装置16を、外部エネルギー供給部、例えばグリッド電圧源46に接続することができる。測定部は、グリッド電圧源46の供給電圧から測定信号US、ISを生成することができる。
【0078】
図6による等価回路では、器具19と、動作電極22と、動作電極22から組織21までの遷移部とによって形成されたインピーダンスを第1インピーダンス48で示す。第1インピーダンス48に直列に、第2インピーダンス49が、動作電極22と組織21との接触位置から中性電極23までのインピーダンスと、組織21と中性電極23との間の遷移インピーダンスとを示している。
【0079】
既に説明したように、器具19用の動作電圧UAおよび/または動作電流IAは、供給接続部17に供給される。
図6に示した例において、動作電圧UAは、電極電圧として動作電極22に印加される。動作電圧UAは、例えばグリッド電圧源46の供給電圧から、供給装置16のインバータ回路50によって供給することができる。さらに、または代替として、それぞれの処置に適した動作電圧UAに基づいた電極電圧を生成するために、器具19内に、または供給接続部17と動作電極22と間の別の適切な位置に、インバータ回路を配置することも可能である。
【0080】
動作電圧UAは、動作電位と、基準電位、例えばグラウンドGNDとの電位差に相当する。
【0081】
図9には、動作電圧UAおよび測定信号US、ISの時間依存推移を概略的かつ例示的に示し、区別のために、第1測定信号M1および第2測定信号M2を
図9に導入する。この区別は、以下に説明する可能性を互いにより良好に区別することができるよう明確にするためだけのものである。
【0082】
ここで第1測定信号M1として表す測定信号US、ISは、動作電極22による組織21の処置が行われていない場合にのみ、中性接続部17または中性電極23に印加される。したがって、第1測定信号M1は、処置期間P以外で印加される。その際、動作電圧UAまたは動作電流IAと、第1測定信号M1または第1測定信号M1から生じる測定電流との相互作用はないことが保証される。
【0083】
第1測定信号M1については、
図9から、続く2つの処置期間Pの間の期間において、測定周波数ωを一定にするか、または変更することもできることが分かる。図示した例では、検討された期間において、第1測定信号M1の4つの異なる測定周波数ω1、ω2、ω3、およびω4を示す。用いる測定周波数ωの数は、変更することができ、用途に応じて選択することができる。用いる測定周波数は、10Hz~1.0MHzの周波数範囲から選択される。
【0084】
交流電圧測定信号USの振幅(ピークまたは極大値)は、特に、0.1V未満または50mV未満である。実施形態では、10mVの振幅が用いられている。交流電流測定信号ISの振幅(ピークまたは極大値)は、特に、1.0mA未満または100μA未満である。
【0085】
不変の測定周波数ωで測定信号US、ISが印加される期間または期間の数を変更してもよい。この期間は、印加された交流電圧測定信号USおよび測定電流IMからオームの法則によってインピーダンス実際値Zistを決定することができるように、測定信号USから生じる測定電流IM、または測定信号ISから生じる測定電圧UMを検出するのに十分なだけの時間にする必要がある。
【0086】
さらに、または代替として、測定信号US、ISは、中性接続部18または中性電極23に、1以上の処置期間P中の時間区間に少なくとも印加することができ、これは、
図9において、第2測定信号M2として表した測定信号US、ISによって示す。この場合、処置期間P中に用いられる測定周波数ωは、動作電圧UAおよび/または動作電流IAの動作周波数と十分異なるように選択される。この手段により、交流電流測定信号ISまたは生じる測定電流IMと、動作電流IAとを区別することができ、その結果、十分な精度でインピーダンス実際値Z
istの決定を行うことができる。
【0087】
それ以外は、第1測定信号M1と同じことが第2測定信号M2に当てはまる。
【0088】
時間領域の評価に加えて、またはその代替として、周波数領域の評価も行うことができる。
図10には、動作電流IAのスペクトルFAを連続線で非常に概略的に示し、また、測定電流IMのスペクトルFMを破線で示したスペクトル線によって非常に簡略化して示す。時間領域において、動作電圧UAおよび交流電圧測定信号US、ならびに/または、動作電流IAおよび交流電流測定信号ISもしくは測定電流IMを重ねることができる。これにより、時間領域における測定信号US、ISの信号推移を、交流電流測定信号ISまたは測定電流IMのスペクトルFMのスペクトル線が動作電流IAのスペクトルFAのスペクトル線に隣接して位置するように選択することができ、その結果、周波数領域において信号分離が可能であり、ひいては、動作電圧UAまたは動作電流IAから実質的に影響を受けずにインピーダンス実際値を決定することができる。
【0089】
上で説明したように、決定されたインピーダンス実際値Zistは、予め設定されたインピーダンス比較値によってチェックすることができる。さらに、または代替として、他のチェック基準またはチェック方法も用いることができる。例えば、インピーダンス実際値から電気的接続(例えば、利用可能な接触面34のうち実際患者に導電的に取り付けられている部分)の質を決定するために、分類器をインピーダンス実際値に適用することができる。この目的のために、ベイズ分類器、SVM(サポート・ベクトル・マシン)、人工ニューラルネットワーク、決定木、または、他の数学的もしくは統計的方法などの分類器を使用することができる。
【0090】
例えば、インピーダンス実際値Zistの虚数部Im(Z)および実数部Re(Z)、あるいは、インピーダンス実際値Zistの絶対値および位相は、全周波数範囲(例えば10Hz~1MHz)内の規定された測定周波数ωごとの入力ニューロンとして人工ニューラルネットワークに送ることができる。これにより、規定された測定周波数ごとにニューラルネットワークの入力ニューロンが2つ導き出される。人工ニューラルネットワークは、訓練データによって訓練され得、その訓練データに基づいて、中性電極23と患者との間の許容できない不十分な電気的接続を認識することができる。
【0091】
例えば1以上の測定されたインピーダンス実際値Z
istおよび/またはモデルインピーダンス39の利用可能なパラメータから導き出された、予め処理された値または代理パラメータに、指定された分類器を適用することもできる。例えば、ここで用いられるモデルインピーダンスから、モデルインピーダンス39を規定する複数の変数またはパラメータが生じる。
図5による実施形態において、これは、5つのパラメータ、すなわち、抵抗器43、44の絶対値と、定位相要素41の位相位置と、ワールブルグインピーダンス40の直流抵抗と、ワールブルグインピーダンス40の時定数にすることができる。任意選択の次元削減によって、分類器を適用するパラメータの数を減らすことができる。
【0092】
単なる一例として、
図6は、2つの代理パラメータに、すなわち、主成分分析(PCA)によってモデルインピーダンス39のパラメータに基づいて決定される第1主成分HK1および第2主成分HK2に、分類器が適用されることを示す。残りの代理パラメータの数は、モデルインピーダンス39のパラメータの数よりも少なく、また、
図8の図と異なって2つよりも多いか、または少なくすることもできる。
【0093】
例として、接触面34のうち実際患者に導電的に接続されているパーセンテージ部分を示しているフィールドを
図8に示す。パーセンテージ部分から、分類器を適用することによって、中性電極23と患者との間の十分な電気的接続と不十分な電気的接続とを決定することができる。
【0094】
図11には、中性電極23と患者との電気的接続をチェックすることができる方法60における一実施形態のフロー図を示す。
【0095】
第1方法ステップ61では、中性電極23が中性接続部18に接続され、患者に取り付けられる。
【0096】
第2方法ステップ62では、第1測定周波数が選択され、選択された測定周波数で測定信号US、ISが中性接続部18に印加される。測定信号USから生じる測定電流IM、または測定信号ISから生じる測定電圧UMが検出され、その結果、第1測定周波数に対して第1インピーダンス実際値Zistを決定することができる(第3ステップ63)。
【0097】
第4方法ステップ64では、追加の測定周波数ωに対してインピーダンス値の決定を行うかどうかがチェックされる。例えば、インピーダンス実際値は、最少10個の測定周波数、最少20個の測定周波数、またはそれよりも多くの測定周波数に対して決定することができる。インピーダンス実際値の決定が、規定された測定周波数すべてに対して行われていない場合(第4方法ステップ64から分岐OK)、インピーダンス実際値がこれまでに決定された1以上の測定周波数とは異なる追加の測定周波数が選択される。第5方法ステップ65の後、方法は、第2方法ステップ62に続く。
【0098】
そうでない場合(第4方法ステップ64から分岐NOK)、方法は、第6方法ステップ66に続く。
【0099】
第6方法ステップ66では、異なる測定周波数ωで決定されたインピーダンス実際値Zistが、予め設定されたチェック基準と比較される。例えば、チェック基準は、複数の予め設定された周波数依存インピーダンス比較値との比較を含むことができる。さらに、または代替として、決定されたインピーダンス実際値および/またはそれらから導き出されたパラメータに1以上の分類器を使用することを含めることができる。
【0100】
第6方法ステップ66で決定されたチェック結果は、中性電極23と患者との導電的接続が、仕様に一致しているか、または、不十分であるために、そのことから、中性電極23の範囲内の許容されない高い電流密度が組織21内部に生じ得るかを示している。これは、組織21内部の内因性火傷を招き得るであろう。
【0101】
第7方法ステップ67では、チェック結果に応じて処置が開始される。例えば、中性電極23と患者との電気的接続が仕様に準拠しているかどうかの通知を、例えば供給装置16上のインタフェースを介して、操作者に出力することができる。通知は、また、電気的接続の質に関する情報を含むこともでき、例えば、利用可能な全接触面34のうち患者に導電的に接続されている部分の特徴にすることができる。
【0102】
中性電極23と患者との電気的接触が不十分であるために、第7方法ステップ67で火傷の危険性がある場合、これ以上の動作電流IAが動作電極を介して組織21に流れ込むことができないように、器具19の動作を停止することができる。例えば、動作電圧UAまたは動作電流IAの生成および供給接続部17への印加を阻止することができる。
【0103】
本発明は、電気外科システム15と、電気外科システム15の動作中に用いることができる方法60とに関する。電気外科システム15は、供給装置16と、供給装置16に接続された中性電極23とを有する。交流電圧測定信号USを中性電極23に印加するか、または中性電極23に流れ込む交流電流測定信号ISを加えることができ、それらの測定信号US、ISから生じる中性電極電流回路のインピーダンス実際値Zistを決定することができる。測定信号(交流電圧測定信号USまたは交流電流測定信号IS)は、複数の異なる測定周波数ωで印加されるか、または加えられ、それぞれの測定周波数ωに対して、その都度、1つのインピーダンス実際値Zistが決定される。それから得られたインピーダンス実際値は、インピーダンスの周波数依存推移を特徴付けるものであり、所定の周波数依存チェック基準でチェックすることができる。そのチェックに基づいて、中性電極23と患者との導電的接続が、チェック基準によって規定された仕様に準拠しているかどうかが判定される。特に、患者の組織21内部における中性電極23の範囲内の電流密度があまり高くならないように、中性電極23の十分に大きい面積部分が患者に導電的に接続されているかどうかがチェックされる。
【符号の説明】
【0104】
15 電気外科システム
16 供給装置
17 供給接続部
18 中性接続部
19 器具
20 器具用ケーブル
21 組織
22 動作電極
23 中性電極
24 中性電極用ケーブル
25 第1導体
26 第2導体
30 第1電極セクション
31 第2電極セクション
32 第3電極セクション
33 ウェブ
34 接触面
35 接続エリア
39 モデルインピーダンス
40 ワールブルグインピーダンス
41 定位相要素
42 並列接続部
43 第1抵抗器
44 第2抵抗器
45 測定部
46 グリッド電圧源
48 第1インピーダンス
49 第2インピーダンス
50 インバータ回路
60 方法
61 第1方法ステップ
62 第2方法ステップ
63 第3方法ステップ
64 第4方法ステップ
65 第5方法ステップ
66 第6方法ステップ
67 第7方法ステップ
ω 測定周波数
AW ワールブルグインピーダンスのワールブルグ係数
B 基準面
GND グラウンド
HK1 第1主成分
HK2 第2主成分
IM 測定電流
IS 交流電流測定信号
L 長手方向
M1 第1測定信号
M2 第2測定信号
P 処置期間
Q 横方向
UA 動作電圧
UM 測定電圧
US 交流電圧測定信号
Z インピーダンス
Zist インピーダンス実際値
Zmax インピーダンス上限値
Zmin インピーダンス下限値
【外国語明細書】