(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138445
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】太陽電池パネルからの有価物回収方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20230922BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230922BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230922BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20230922BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230922BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20230922BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20230922BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230922BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230922BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20230922BHJP
H01L 31/042 20140101ALI20230922BHJP
B09B 3/25 20220101ALN20230922BHJP
B09B 101/16 20220101ALN20230922BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B5/00 Z
B09B3/70
B09B3/80
C22B3/44 101Z
C22B11/00 101
C22B1/02
C22B7/00 G
C22B3/06
C22B3/22
H01L31/04 500
B09B3/25
B09B101:16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040132
(22)【出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022043212
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5F251
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004BA05
4D004CA12
4D004CA24
4D004CA34
4D004CC12
4K001AA01
4K001BA22
4K001CA02
4K001CA11
4K001DB05
4K001DB22
5F251AA02
5F251AA03
5F251EA17
5F251EA19
(57)【要約】
【課題】安全かつ効率的に、使用済み太陽電池パネルから銀やシリコンなどの有価物を回収する技術を提案する。
【解決手段】外枠およびカバーガラスが除去された状態の太陽電池パネルに対して加熱処理を行って、バックシートおよび封止材を構成する有機物を揮発させ、さらに目に見える金属分と残渣とに分離する加熱工程と、加熱工程において生成された残渣に酸を添加して加熱し、残渣に含まれる銀を酸に浸出させて水洗および吸引濾過する浸出工程と、浸出工程の後、得られたろ液中に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、得られた混合物を濾過して金属塩化物を抽出する抽出処理工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池パネルから有価物を回収する方法において、
外枠およびカバーガラスが除去された状態の前記太陽電池パネルに対して加熱処理を行って、バックシートおよび封止材を構成する有機物質を揮発させ、さらに目に見える金属分と残渣とに分離する加熱工程と、
前記加熱工程において生成された残渣に酸を添加して加熱し、前記残渣に含まれる銀を前記酸に浸出させて水洗および吸引濾過する浸出工程と、
前記浸出工程の後、得られたろ液中に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、得られた混合物を濾過して金属塩化物を抽出する抽出処理工程と、
を有することを特徴とする太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、不活性雰囲気ないし/あるいは還元性雰囲気中、かつ430℃~900℃の温度で行う、請求項1に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【請求項3】
前記浸出工程において用いる酸は硝酸である、請求項1または2に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【請求項4】
前記浸出工程において用いる硝酸は、水に対する前記硝酸の混合割合が3.0以上である、請求項3に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【請求項5】
前記抽出処理工程において用いる前記塩化物イオン含有物質はアルカリ金属塩化物である、請求項1または2に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【請求項6】
前記抽出処理工程を2回以上行う、請求項1または2に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネルからの有価物回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル(二酸化炭素削減)時代において、太陽エネルギーの利用技術は非常に重要であり、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電、すなわち太陽電池の位置づけは、今後ますます重要になってくることが予想される。
【0003】
日本における太陽電池パネルの需要は、2012年に固定価格買取制度が導入されて以来、拡大しており、今後も需要が増加すると予測される。一般的に、太陽電池パネルの製品寿命は20~30年程度と言われており、今現在のペースの需要量が続くと、2030年以降に廃棄量が極端に増加する見込みである。また、昨今の自然災害の増加(地震、豪雨、台風など)に伴い、製品寿命前でも廃棄量が増加する恐れもある。この場合は廃棄量がさらに前倒しで増加すると予想される。そこで、将来、太陽電池パネルが大量に廃棄された場合、廃棄された太陽電池パネルをどのように処理するかが課題となっている。
【0004】
ここで、太陽電池パネルの内訳は、全体重量に対して、それぞれ太陽電池パネル(太陽電池モジュールおよび外枠(アルミニウム(Al)製))が58%、パワーコンディショナーおよび接続箱が3%、架台が36%、配線材料が3%程度である。さらに太陽電池モジュールは、太陽電池セル(太陽電池用グレードのシリコン(Si))、カバーガラス、バックシート、封止材(エチレンビニルアセテート(EVA))および外枠(Al製)から構成され、その内訳はセルが3%、ガラスが62%、バックシートおよび封止材が18%、外枠が16%、配線材(銅(Cu)、はんだ)が1%である。更に、電極材には、銀(Ag)がわずかながら使用されている。
【0005】
上記の太陽電池パネルの構成材料を分離し、それぞれを有効活用する技術が重要となる。特に、バックシートおよび封止材と太陽電池セルとは強固に結合されているため、加熱処理などの手段を用いて有機物質で構成されたバックシートおよび封止材を除去したのちに、SiやAgなどの有価物を回収する技術が特に重要であり、この課題を達成するべく、様々な技術が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献1および特許文献2では、酸素ガスの存在下かつ半導体真性伝導域(500℃)で太陽電池パネルを加熱したのち、硝酸水溶液で溶解し、その後に塩酸を滴下して塩化銀(AgCl)、および残渣からSiも同時に回収する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、太陽電池モジュールに含まれる太陽電池素子の構成材料を回収する方法であって、少なくともセル部およびガラス基板と、これらに結合したEVA封止材を含む太陽電池素子を、炉内の酸素濃度を1.0体積%以上3.0体積%以下に保持した連続式熱処理炉に搬送し、300~400℃に設定された予備加熱分解部にてEVA分解ガスの一種である酢酸ガスを放出除去し、続いて400~500℃に設定された熱処理部にて酢酸以外のEVA分解ガスを脱離させて前記太陽電池素子からEVA封止材を除去して、セル部とガラス基板を分離する工程を含むことを特徴とする太陽電池素子構成材料の回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-190177号公報
【特許文献2】特開2016-93804号公報
【特許文献3】特開2014-108375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された技術は、酸素ガスの存在下で加熱を行うため、太陽電池セルを構成するSi、電極材を構成するAgも加熱により酸化されてしまう。酸化銀(Ag2O)や酸化ケイ素(SiO2)は比較的安定なため、その後の酸浸出などの湿式処理による分離が困難となる。また、Agの抽出に塩酸を使用するため、回収の安全性にも問題を有する。
【0010】
更に、特許文献3に開示された技術は、プラスチックなどの有機物質を除去するには有効な技術ではあるが、金属回収に関しては特許文献1および特許文献2と同様であり、1.0~3.0%という低濃度ではあるものの、酸素ガスが存在する領域にて加熱するため、太陽電池セルおよび電極を構成する材料の酸化が懸念される。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安全かつ効率的に、使用済み太陽電池パネルから銀やシリコンなどの有価物を回収する技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]太陽電池パネルから有価物を回収する方法において、
外枠およびカバーガラスが除去された状態の前記太陽電池パネルに対して加熱処理を行って、バックシートおよび封止材を構成する有機物質を揮発させ、さらに目に見える金属分と残渣とに分離する加熱工程と、
前記加熱工程において生成された残渣に酸を添加して加熱し、前記残渣に含まれる銀を前記酸に浸出させて水洗および吸引濾過する浸出工程と、
前記浸出工程の後、得られたろ液中に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、得られた混合物を濾過して金属塩化物を抽出する抽出処理工程と、
を有することを特徴とする太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【0013】
[2]前記加熱工程は、不活性雰囲気ないし/あるいは還元性雰囲気中、かつ430℃~900℃の温度で行う、前記[1]に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【0014】
[3]前記浸出工程において用いる酸は硝酸である、前記[1]または[2]に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【0015】
[4]前記浸出工程において用いる硝酸は、水に対する前記硝酸の混合割合が3.0以上である、前記[3]に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【0016】
[5]前記抽出処理工程において用いる前記塩化物イオン含有物質はアルカリ金属塩化物である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【0017】
[6]前記抽出処理工程を2回以上行う、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の太陽電池パネルからの有価物回収方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安全かつ効率的に、使用済み太陽電池パネルから銀やシリコンなどの有価物を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明による太陽電池パネルからの有価物回収方法のプロセスフローの一例を示す図である。
【
図3A】実施例1における銀、銅、錫、鉛の抽出物、溶液、残渣中への存在割合の内訳を示す図である。
【
図3B】実施例2~4における銀、銅、錫、鉛の抽出物、溶液、残渣中への存在割合の内訳を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による太陽電池パネルからの有価物回収方法は、外枠およびカバーガラスが除去された状態の太陽電池パネルに対して加熱処理を行って、バックシートおよび封止材を構成する有機物を揮発させ、さらに目に見える金属分と残渣とに分離する加熱工程と、加熱工程において生成された残渣に酸を添加して加熱し、残渣に含まれる銀を酸に浸出させて水洗および吸引濾過する浸出工程と、浸出工程の後、得られたろ液中に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、得られた混合物を濾過して金属塩化物を抽出する抽出処理工程とを有することを特徴とする。
【0021】
一般に、太陽電池は、使用できる最小の単位である太陽電池セルをつなぎ合わせ、ガラスやポリマーで保護したものを「太陽電池モジュール」と呼び、太陽電池モジュールをAl製などの外枠にはめてパネル状にしたものを「太陽電池パネル」と呼んでいる。
【0022】
一般的な太陽電池パネルの構成図を
図1に示す。太陽電池セル3は、単結晶または多結晶のSiからなるp型のSiウェハーの上部にn型Si層を形成し、さらに電極等を配置したものである。太陽電池セル3は、金属のインター・コネクタ4により電極が相互に接続され、端子6を通して外部の電極に接続されている。また、太陽電池セル3の受光面側には、3mm~5mm程度の厚さのカバーガラス2が配置されている。
【0023】
上述のように相互接続された太陽電池セル3は、その周囲にEVA等のプラスチックの封止材5が充填され、密閉されている。一方、封止材5のカバーガラス2とは反対側の面にバックシート7が接着されている。このバックシート7は、様々な性能を有する有機物質で構成されている。そして、Al製などの外枠1が、有機物質である接着剤によって太陽電池モジュール8の外側に固定されている。このように、太陽電池パネル9が構成されている。
【0024】
本発明は、使用寿命を終えた太陽電池パネル9、災害や故障、または製造過程で不良品となり、使用不能となった太陽電池パネル9で、かつ外枠1を外し、上部のカバーガラス2を分離・除去した後の板状の太陽電池セル3、バックシート7および封止材5を含む混合物を、対象材料(スタートマテリアル)としている。換言すれば、対象材料は、カバーガラス2を除去した後の太陽電池モジュール8である。これは、Al製などの外枠1やカバーガラス2が付随した状態で加熱処理を行うと、SiやAgを十分に回収できないためである。なお、外枠1やカバーガラス2は、それぞれ単独でリサイクル可能であり、この段階で除去しておくことが好ましい。
【0025】
太陽電池パネル9から上記対象材料を得る方法としては、ブレードによる裁断など、任意の方法を用いることができる。更に、対象材料は、太陽電池パネル9からAl製などの外枠1を外し、上面のカバーガラス2を除去した後に、フレーク状に裁断したものを用いることが好ましい。その際、太陽電池パネルフレークの大きさは、特に限定されない。
【0026】
太陽電池パネル9から太陽電池セル3の構成材料や高価なAgなどの有価物を回収する場合、バックシート7や封止材5を構成する有機物質の除去、および微量元素の効率的かつ簡便なプロセス条件での抽出がカギとなる。発明者らはこのコンセプトに基づき、使用済みの太陽電池パネル9からのAgの回収方法を誠意検討した。その結果、1000℃以下の比較的低温、不活性雰囲気および/または還元雰囲気中での加熱工程、硝酸水溶液による浸出工程、塩化物イオン含有物添加による抽出処理工程を含む回収方法を発明したのである。以下、各工程について説明する。
【0027】
図2は、本発明による太陽電池パネル9からの有価物回収方法のプロセスフローの一例を示している。本発明は、加熱工程、浸出工程および抽出処理工程に区分できる。
【0028】
<加熱工程>
まず、外枠1およびカバーガラス2が除去された状態の太陽電池パネル9に対して加熱処理を行って、バックシート7および封止材5を構成する有機物質を揮発させ、さらに目に見える金属分と残渣とに分離する(加熱工程)。加熱工程は、不活性雰囲気および/または還元雰囲気中で行うことが好ましい。ここで、「不活性雰囲気」とは、反応性の低いガスの雰囲気であり、具体的には、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気を指す。また、「還元雰囲気」とは、還元性を有するガスの雰囲気であり、具体的には一酸化炭素(CO)含有ガス雰囲気、水素含有ガス雰囲気、炭化水素含有ガス雰囲気を指す。
【0029】
また、発明者らがバックシート7や封止材5などを構成する有機物質の成分を調査したところ、酢酸や芳香族化合物(ベンゼン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルクロペンタシロキサン、安息香酸、ビフェニルアセチル安息香酸エチル、オクタベンゾン、イコセンなど)が主体であり、その沸点を調査すると、最も高いもので426℃であった。以上から、加熱工程における温度(雰囲気温度)は、これら有機物質が全て揮発する430℃以上とするのが好ましい。
【0030】
また、太陽電池パネル9が含有する金属には、CuおよびAgなどが含まれる。それぞれの融点は1080℃、980℃である。Cuは主に端子6などの配線材料として、Agは太陽電池セル(半導体)3同士を結合する配線材料として用いられている。Cuを固体として、分離回収した方が簡便であること、残渣中にAgを残して後工程の浸出工程、抽出処理工程で回収する方が効率的、確実に回収できることから、雰囲気温度の上限は900℃とすることが好ましい。雰囲気温度は、600℃~900℃とすることがより好ましい。
【0031】
なお、加熱時間については、バックシート7および封止材5が完全に揮発する時間であれば、特に限定されない。揮発した有機物質は、タールとして回収することができる。
【0032】
以上の処理の後、Cu、錫(Sn)、鉛(Pb)などの目に見える金属分と、Siを主成分とし、Agを含有する残渣とに分離する。分離方法については特に限定されず、例えば篩掛けや、比重分離、色彩選別などによって行うことができる。分離した金属分は、有価物として回収し、リサイクルすることができる。
【0033】
<浸出工程>
次いで、加熱工程において生成された残渣に酸を添加して加熱し、残渣に含まれるAgを酸に浸出させる(浸出工程)。浸出工程において用いる酸は、硝酸であることが好ましい。これにより、残渣中のAgを硝酸銀(AgNO3)として溶液に移行させることができる。
【0034】
酸として硝酸を用いる場合、残渣に添加する硝酸水溶液は、水に対する硝酸の割合が1.0(すなわち、硝酸:水=1:1の割合)以上であることが好ましく、水に対する硝酸の割合が3.0(すなわち、硝酸:水=3:1の割合)以上であることがより好ましい。これにより、残渣に含まれるAgをより良好に酸に浸出させることができる。
【0035】
上記硝酸水溶液を添加した残渣の加熱温度は、確実にAgをAgNO3として硝酸に溶解させることができることから、200℃以上とすることが好ましい。また、加熱時間については、硝酸の加熱による窒化ガスが全て消失する時間以上とすることが好ましく、具体的には30分以上とすることが好ましい。
【0036】
酸浸出処理後の残渣を水洗し、その後にろ紙などを用いて吸引濾過を行うことが好ましい。これにより、Agが溶解している溶液と残渣とに分離することができる。なお、残渣の主成分は、金属Siであるため、昇熱材や金属Si原料としてリサイクルすることができる。
【0037】
<抽出処理工程>
続いて、浸出工程の後の残渣を濾過し、得られたろ液中に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、得られた混合物を濾過して金属塩化物を抽出する(抽出処理工程)。抽出処理工程では、ろ液に塩化物イオン含有物質を添加して混合した後、混合物を濾過して金属塩化物を抽出する。Agを回収する場合、Agイオン(AgNO3)を塩素イオンと反応させてAgClとして抽出する。ここで、塩化物イオン含有物質としては、塩化水素水などの酸を用いてもよいが、塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどのアルカリ金属塩化物、もしくはアルカリ土類金属塩化物塩を用いるのが一般的であり、汎用性から見ても好ましい。
【0038】
抽出処理工程後に、溶液を十分に水洗して混合攪拌し、その後吸引濾過する工程を行うことが好ましい。この工程は1回でも構わないが、確実にAgを抽出するために、複数回行うのがより好ましい。この濾過により濾紙に残存するAgClを回収することによって、Agをろ液から分離することができる。言い換えれば、以上までの工程を経ることによって、効率的に太陽電池パネル9からAgを回収することができる。
【0039】
なお、抽出処理工程後のろ液にはCuが多く溶解しているため、さらに抽出処理、もしくは電気分解を行うことによって、Cuを回収することが好ましい。上記抽出処理は、具体的には、溶媒抽出や電気分解処理してCuを析出して回収することができる。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0041】
事前にAl製の外枠を外し、また金属ブレードを用いてカバーガラスを除去した後にフレーク状に裁断した太陽電池パネルに対して、Agの回収を行った。下記の実施例1~3では、加熱工程では雰囲気制御が可能な電気抵抗炉、浸出工程では硝酸水溶液を添加して加熱する方式、抽出処理工程ではアルカリ金属、もしくはアルカリ土類金属塩化物塩を添加する方式を適用した。
【0042】
(実施例1)
まず、加熱工程において、上述のように処理した太陽電池パネルに対して、天然ガス(CH4)雰囲気かつ1000℃の温度で加熱処理を行った。そして、篩掛けし、その後手動にて選別して、Cu、Sn、Pbを含む金属分とAgを含む残渣とに分離した。次いで、浸出工程において、酸として、硝酸と水とを1:1で混合した硝酸水溶液を用い、加熱工程において生成された残渣に上記硝酸水溶液を添加し、200℃に加熱して窒化ガスが出なくなるまで残渣に含まれるAgを硝酸水溶液に浸出させた(酸浸出処理)。そして、酸浸出処理後の残渣を水洗し、ろ紙を用いて吸引濾過した。続いて、抽出処理工程において、浸出工程で得られたろ液中に塩化ナトリウムを添加した後、水洗し、ろ紙を用いて吸引濾過を行って、AgClの抽出を行った。上記ろ液中への塩化ナトリウムの添加から吸引濾過までの処理を1回行った。こうして、太陽電池パネルからAgを回収した。実施例1の詳細を表1に示す。
【0043】
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様に、太陽電池モジュールからAgを回収した。ただし、加熱工程は、アルゴン雰囲気を用いて1200℃の雰囲気温度で行った。また、浸出工程において用いる酸としては、硝酸と水とを3:1で混合した硝酸水溶液を用いた。さらに、抽出処理工程では塩化カルシウムを添加し、ろ液中への塩化カルシウムの添加から吸引濾過までの処理を2回行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。実施例2の詳細を表1に示す。
【0045】
(実施例3)
実施例1と同様に、太陽電池モジュールからAgを回収した。ただし、加熱工程は、窒素雰囲気を用い、600℃の雰囲気温度で行った。また、浸出工程において用いる酸としては、硝酸と水とを3:1で混合した硝酸水溶液を用いた。さらに、抽出処理工程では、ろ液中への塩化ナトリウムの添加から吸引濾過までの処理を3回行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。実施例3の詳細を表1に示す。
【0046】
(実施例4)
実施例1と同様に、太陽電池モジュールからAgを回収した。ただし、加熱工程は、アルゴン雰囲気を用い、900℃の雰囲気温度で行った。また、浸出工程において用いる酸としては、硝酸と水とを3:1で混合した硝酸水溶液を用いた。さらに、抽出処理工程では、ろ液中への塩化ナトリウムの添加から吸引濾過までの処理を2回行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。実施例4の詳細を表1に示す。
【0047】
実施例1~4のそれぞれについて、抽出したAgの回収量(太陽電池単位重量あたりのAg回収量と定義する)、残渣中のAg、ろ液中のAgの割合を評価した。得られた結果を表2に示す。また、実施例1~4のそれぞれにおけるAg、Cu、Sn、Pbの抽出物、溶液、残渣中への存在割合の内訳を、
図3A(実施例1)および
図3B(実施例2~4)に示す。なお、
図3Aおよび
図3Bの各円グラフにおいて、残渣(a-1)は、浸出工程における酸浸出処理後の残渣を水洗して吸引濾過した際にろ紙の上に残ったもの、析出物(a-2)は、抽出処理工程において塩化物を添加し、水洗して吸引濾過した際にろ紙の上に残ったもの、ろ液(b-3)は、抽出処理工程において塩化物を添加し、水洗して吸引濾過した際にろ紙を通過した液体をそれぞれ指す。また、
図3Aおよび
図3Bの各円グラフにおいて、析出物(a-2)のデータは残渣(a-1)のデータの時計回りの方向に隣接しており、ろ液(b-3)のデータは析出物(a-2)のデータの時計回りの方向に隣接している。
【0048】
【0049】
実施例1~4のいずれにおいても、抽出処理工程においてAgをAgClとして回収することが確認できた。また、加熱工程を不活性雰囲気にして行っても、還元雰囲気にして行っても、相違なくAgを回収することができた。特に、加熱工程での加熱温度を430℃から900℃の範囲内の温度とし、浸出工程での酸として硝酸と水との割合が3:1の硝酸水溶液を用い、さらに抽出処理工程において塩化物添加とその後の吸引濾過を複数回行った実施例3および実施例4では、高いAgの回収量、極めて高い抽出割合でAgを回収することができた。