(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138462
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸の新規用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7012 20060101AFI20230922BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230922BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230922BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230922BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K31/7012
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041537
(22)【出願日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2022041247
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム「大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構業務委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構業務委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】柴田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 英雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 礼士
(72)【発明者】
【氏名】奥田 郁乃
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真乃
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA23
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】 4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)の新規用途を提供すること。
【解決手段】 DEHを含有する神経成長因子(NGF)の活性促進用組成物によって達成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)を含有する神経成長因子(NGF)の活性促進用組成物。
【請求項2】
4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)を有効成分として含有し、神経変性疾患の治療及び/又は予防に用いられる医薬用組成物。
【請求項3】
前記神経変性疾患が、ポリグルタミン(PolyQ)病、パーキンソン病、パーキンソン症候群、脊髄小脳変性症、痙性対麻痺、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症及び皮質基底核変性症からなる群から選択される少なくとも一つである請求項2に記載の医薬用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)の新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
DEHは、アルギン酸由来の生理機能未知な希少糖であった。本発明者は、DEHについての製造方法を研究し、その一部を公開してきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DEHの生理活性や用途については、研究が進んでいなかった。そこで、本発明者は引き続き、DEHの生理機能についての研究を行った結果、本願発明を完成するに至った。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、DEHの新規用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための発明に係る神経成長因子(NGF)の活性促進用組成物は、4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)を含有することを特徴とする。
別の発明に係る医薬用組成物は、4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソセウロース・ウロン酸(4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid:DEH)を有効成分として含有し、神経変性疾患の治療又は予防に用いられることを特徴とする。このとき、神経変性疾患が、ポリグルタミン(PolyQ)病、パーキンソン病、パーキンソン症候群、脊髄小脳変性症、痙性対麻痺、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症及び皮質基底核変性症からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0006】
PolyQ病とは、グルタミンをコードするCAG反復配列の異常伸長(40回以上)によりPolyQ鎖が形成され、これが凝集を起こす結果、神経変性を引き起こす遺伝性神経変性疾患の総称である。日本では1万人弱程度の患者がいると推定されているが、有効な治療法が見つかっていない。PolyQ病には、ハンチントン病、遺伝性脊髄小脳失調症(1、2、3、6、7、17型)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、球脊髄性筋萎縮症が含まれる。
【0007】
本発明者の検討によれば、DEHは、(1)腸管からの吸収が可能な希少糖であり、(2)血液脳関門(BBB)の通過が可能であり、(3)NGFの働きを助け、シナプス形成を促進することが分かった。そこで、DEHを投与することにより、脳を含む体内に吸収されて、NGFによるシナプス形成を促進するので、認知症の予防及び/又は治療、神経変性疾患の予防及び/又は治療に使用し得る。神経変性疾患とは、脳や脊髄にある神経細胞のなかで、ある特定の神経細胞群(例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する細胞)が徐々に障害を受けて脱落してしまう疾患を意味する。具体的には、ポリグルタミン病、パーキンソン病、パーキンソン症候群(多系統萎縮症,進行性核上性麻痺など)、脊髄小脳変性症、痙性対麻痺、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症などが例示される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、神経変性疾患の予防及び/又は治療用組成物としてのDEHを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Caco-2細胞を培養したときの顕微鏡写真図である。(A)には培養2日目、(B)には培養24日目の代表的な様子を示した。
【
図2】Caco-2細胞の単層膜の特性を調べるためのモデル装置の概要図である。(A)は単層膜のTEER値の測定用モデルを、(B)はルシファーイエローを用いた単層膜の透過性を評価するモデルをそれぞれ示した。
【
図3】DEH、アルギン酸不飽和オリゴ糖及びマンヌロン酸を使用した細胞毒性試験(MTT試験)の結果を示す折れ線グラフである。
【
図4】LC/MSのSIM測定により、膜透過したDEHを測定した結果を示すチャート図である。
【0010】
【
図5】(A)Control、(B)NGF添加、(C)NGF添加+DEH(50μM)添加したPC-12細胞の顕微鏡写真図である。
【
図6】無添加(Control)、DEH添加(10, 50, 100μM)、NGF添加、NGF添加+DEH添加(10, 50, 100μM)の各区分の細胞の神経突起の長さを調べた結果を示す棒グラフである。図中の「*」は、NGFに比べ、危険率5%で有意(p<0.05)であることを示す。
【
図7】NGF添加+DEH添加(50,60,70,80,90,100 μM)の各区分の神経突起の長さを調べた結果を示す棒グラフである。
【
図8】NGF添加+DEH添加(50,60,70,80,90,100 μM)の各区分の神経突起の数を調べた結果を示す棒グラフである。
【
図9】ニューロン死に対するDEHの抑制効果を調べた結果を示すグラフである。
【
図10】DAF-16の発現と活性化に対し、DEHの関与を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<試験1> Caco-2細胞単層膜を用いたDEHの膜透過性の確認
Caco-2細胞(ヒト結腸癌由来細胞株)は、多孔性メンブレンフィルター上に単層培養すると、腸管上皮様に分化する。この分化により、小腸の円柱上皮細胞に似た刷子縁やタイトジャンクション、ヒト小腸に存在する代謝酵素やトランスポーターを発現する。そこで、Caco-2細胞単層膜は、腸管からの吸収性を予測するモデルとして広く使われている。
Caco-2細胞単層膜を用い、DEHの膜透過性を確認した。
【0012】
(1)Caco-2細胞単層膜の調製
図1には、Caco-2細胞を培養したときの2日目(
図1(A))及び24日目(
図1(B))の顕微鏡写真図を示した。24日目には、刷子縁やタイトジャンクションを形成したことが確認された。
次に、
図2に示すモデル装置を使用し、単層膜が形成されたことをMilli-cell ESR2を用いた電気的抵抗値(transepithelial electrical resistance(TEER)値)の測定(
図2(A))と、ルシファーイエローを用いた透過性の測定(
図2(B))により評価した。TEER値として300Ω・cm
2以上、ルシファーイエローの透過率として0.3%~2%の数値を満たしたものを実験に使用した。
(2)MTT試験による細胞毒性の確認
MTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を用いた細胞毒性試験を行った。
図3には、DEH、アルギン酸不飽和オリゴ糖及びマンヌロン酸を使用した細胞毒性試験の結果を示した。全ての被験物質について、1000 μg/mLの濃度までの細胞の生存率は、ほぼ100%であり細胞毒性は確認されなかった。
【0013】
(3)膜透過性の確認
図4には、モデル装置を用いて、試験開始から30分後にAPからBLに透過したDEHを液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(LC/MS)の選択的イオンモニタリング(SIM:Selected Ion Monitoring)で測定したときの結果を示した。
頂側膜(AP:Apical、管腔)側に添加した物質の側底膜(BL:Basolateral、血管)側への透過性(吸収)または、BL側に添加した物質のAP側への透過性(排出)を評価した。
表1には、DEHの見かけの透過率(Papp)とEfflux ratio(ER)を示した。ER値については、2未満は腸管から吸収されることを、2以上は腸管から排出されることを意味している。表2には、Pappと腸管からの吸収率の相関を示した。これらの結果、DEHは、中程度(20%~70%)の吸収区分に相当する化合物であることが分かった。
【0014】
【0015】
【0016】
<試験2> ラット型キットを用いたDEHの脳内移行性(血液脳関門(BBB)透過性)の確認
次に、市販のBBBキット(血液脳関門 in vitro 再構成系モデル(RBT-24H:ファーマコセル社製))を用いて、DEHの透過性を評価した。このキットは、内皮細胞、ペリサイト及びアストロサイトにWistar rat由来の細胞が使われている。DEHの検出と定量には、前記のLC/MSのSIM測定を用いた。血管側に1000 μg/mLのDEH溶液を添加し、30分後に脳実質側の培養液を回収し、その中のDEH濃度を測定した。
試験後に脳実質側のDEH濃度を求め、DEHの透過性を計算したところ、Papp=14.62±6.86×10-6cm/sであった。表3には、各種の化合物について、脳内に移行する透過性区分を調べたデータをまとめたものを示した。この表によれば、DEHは「good」の透過性区分に相当する化合物であることが分かった。
【0017】
【0018】
<試験3> PC-12細胞を用いたDEHの神経突起伸長活性の確認
次に、PC-12細胞を用いて、DEHの特性を調べた。PC-12細胞は、ラット副腎髄質褐色腫より単離され、株化された細胞である。PC-12細胞の生存には、神経成長因子(NGF)を必要としないものの、NGFにより増殖を停止し神経線維を伸長し、交換神経節ニューロン様性質を持つようになる。この特性により、PC-12細胞は、神経分化モデルとして使われている。
PC-12細胞を培養し、無添加(Control)、DEH添加(10, 50, 100 μM)、NGF添加、NGF添加+DEH添加(10, 50, 100 μM)の8区分に分けて、神経突起の伸びを観察した。神経突起の長さの測定には、Image-Jを用いた。
図5には、各細胞を顕微鏡で観察した様子を示した写真図を、
図6には、各区分の神経突起の長さ(μm)を示した。各データは、三回試験の平均値±標準誤差で示した。t検定を用いて統計解析を行い、危険率5%未満(p<0.05)を有意差ありとした。DEHのみでは神経突起の伸びは見られなかったものの、NGFを添加した系では、DEHによって、有意に(p<0.05)NGFの働きを促進する活性があることが分かった。
NGF添加+DEH添加(50,60,70,80,90,100 μM)の6区分に分けて、神経突起の伸びと数を観察し
図7及び
図8に示した。各データは、三回試験の平均値±標準誤差で示した。神経突起の伸びと数について、いずれも70 μMの区分が最大であり、至適の濃度であることが分かった。
【0019】
<試験4> ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を用いたDEHの膜透過性の確認
ヒトiPS細胞を用い、DEHの膜透過性を確認した。ヒトiPS細胞から誘導された腸管上皮細胞は、<試験1>で用いた結腸癌由来のCaco-2細胞(大腸由来細胞)に比べ、よりヒト小腸細胞に近い性格を示す。このため、Caco-2細胞のモデル試験に比べると、よりヒトの生体に近い結果が得られる。
(1)ヒトiPS細胞由来腸管上皮単層膜の調製
CO2インキュベーターを用い(37℃、5%CO2)、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を13日間~20日間に渡って培養し、単層膜を調製した。
(2)膜透過性の確認
ヒトiPS細胞由来腸管上皮単層膜の膜透過性は、Milli-cell ESR2を用い、<試験1>に示す方法によって評価した。TEER値として150Ω・cm2以上のものを使用した。
AP側に添加した物質のBL側への透過性(吸収)または、BL側に添加した物質のAP側への透過性(排出)を評価した。DEHの検出と定量には、前記のLC/MSのSIM測定を用いた。表4には、DEHの見かけの透過率(Papp)とEfflux ratio(ER)を示した。表2を参照すると、DEHは、中程度(20%~70%)の吸収区分に相当する化合物であることが分かった。
【0020】
【0021】
<試験5> カニクイザル型キットを用いたDEHの脳内移行性(血液脳関門(BBB)透過性)の確認
市販のBBBキット(血液脳関門 in vitro 再構成系モデル(MBT-24H:ファーマコセル社製))を用いて、DEHの透過性を評価した。このキットは、内皮細胞にカニクイザル由来の細胞が使われている。このモデルを用い、DEHの透過性を評価した。
カニクイザル型BBB再構成モデルは、<試験2>に比べ、よりヒトのBBBに近い構成を備えていることから、DEHがヒトBBBを透過するか否かを評価するためのより良いモデルであると考えられた。
試験後に脳実質側のDEH濃度を求め、DEHの透過性を計算した。表5には、DEHの見かけの透過率(Papp)とEfflux ratio(ER)を示した。
【0022】
【表5】
表3によれば、DEHは「low」の透過性区分に相当する化合物であることが分かった。<試験2>の結果に比べると、DEHの透過性区分は下がったものの、DEHはヒトBBBを透過することが可能であり、脳内に移行する化合物であることが分かった。
【0023】
<試験6> ニューロン死に対するDEHの抑制効果の確認
PolyQ病モデルであるC. elegans HA759株のニューロン死に及ぼす影響を調べた。HA759株(rtIs11[osm-10p::GFP+osm-10p::HtnQ150+dpy-20(+)])は、ASHニューロンからのシグナルを受けてosm-10遺伝子下流でHtn-Q150(ヒトハンチンチン由来のPolyQ)と蛍光タンパク質GFPを発現する線虫株である。HA759株は、培養時間が長くなるに連れて、PolyQの蓄積による進行性の神経変性により、ASHニューロンの死を引き起こす。
同調処理により年齢を揃えたHA759株をmNGM培地を用いて培養した。評価群(サンプル)として、Control(DEH-)、25 mM DEH及び50 mM DEHを用いた。線虫のエサとして、E. coli OP50-1を用いた。
【0024】
HA759株の培養開始直後及び24、48、72、120時間後に10匹ずつの線虫を顕微鏡で観察し、神経細胞の生死を確認した(n=30)。
図9には、各サンプルを含む培地でのC. elegans HA759株のニューロン死の割合を調べた結果を示した。各データは、平均値±標準誤差で示した。培養開始後120時間の時点で、Control に対して、25 mM DEH処理群では 20.3%、50 mM DEH処理群では 46.4%ニューロン死を抑制した。このように、DEHは濃度依存的にHA759株のPolyQによるニューロン死を抑制した。DEHは、PolyQ凝集とそれらによる神経細胞死を抑制することから、不随意運動や認知症といったPolyQ病のもつ症状の治療及び/または予防を行い得ることが分かった。
【0025】
<試験7> DAF-16の発現と活性化へのDEHの作用確認
FOXO遺伝子daf-16とは、寿命、代謝、ストレス応答など多くの生物学的プロセスを制御しているインスリン/IGF-1 シグナル伝達経路の構成要素の一つである。DAF-16が核に局在化すると、ストレス耐性の促進や病原体からの保護などの調節に関与する多数の遺伝子の転写を活性化させることが知られている。そこで、C. elegans TJ356株を用いて、daf-16の活性化についてのDEHの関与を調べた。
TJ356株(zls356 [daf-16p::daf-16a/b::GFP + rol- 6(su1006)])は、daf-16プロモーターに蛍光タンパク質GFPが挿入された線虫であり、daf-16遺伝子活性化による核移行をGFPの蛍光により観察できる。
同調処理により年齢を揃えたTJ356株をmNGM培地を用いて、20℃にて72時間培養した。評価群(サンプル)として、Positive Control(72時間培養終了後に37℃で30分間熱処理した群)、Control(DEH-)、25 mM DEH及び50 mM DEHを用いた。線虫のエサとして、E. coliOP50-1を用いた。
TJ356株の培養終了後に各群15匹ずつを顕微鏡で観察し、DAF-16タンパク質(GFP蛍光)の核局在の有無を確認した(n=60)。
【0026】
図10には、各サンプルを含む培地でのC. elegans TJ365株のDAF-16の核局在率を調べた結果を示した。各データは、平均値±標準誤差で示した。Controlの核局在率が2.2%であるのに対し、25 mM DEH処理群では40.0%、50 mM DEH処理群では51.1%の核局在率を示した。またControlの中間局在率24.4%に対し、25 mM DEH処理群では35.6%、50 mM DEH処理群では31.1%の中間局在率を示した。このように、DEHは、Controlと比較すると、DAF-16の核内局在割合が上昇した。DEHは、DAF-16の核内への局在化を促進することにより、ストレス応答や寿命に関わる遺伝子群を活性化させることが分かった。
このように本実施形態によれば、神経変性疾患の予防及び/又は治療用組成物としてのDEHを提供できた。