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特開2023-138481単一分子局在化顕微鏡法のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138481
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】単一分子局在化顕微鏡法のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230922BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20230922BHJP
   G06T 7/70 20170101ALI20230922BHJP
   G06V 10/141 20220101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N21/64 E
G02B21/00
G06T7/70 A
G06V10/141
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023042713
(22)【出願日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】63/321,152
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520493902
【氏名又は名称】ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】シュピーカー,ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ディークマン,ロビン
(72)【発明者】
【氏名】キンカブワラ,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ミルテニイ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】デブリーズ,アンソニー
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
5L096
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA09
2G043LA03
2G043MA01
2G043NA01
2H052AA08
2H052AA09
2H052AF21
2H052AF25
5L096AA06
5L096CA04
5L096CA17
5L096EA05
5L096FA23
5L096FA59
5L096FA60
5L096FA62
5L096FA69
5L096GA10
5L096GA51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ナノスケールトポグラフィにおける点蓄積(PAINT)の技術に基づく光学超解像イメージングのための単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)を提供する。
【解決手段】視野にわたる空間的および時間的に制御された照明パターンからなるパターン化照明で試料を照明し、視野を連続してモニタリングすることにより、パターン化照明を迅速に適応可能なエミッタの近似位置の識別が可能になり、この方法を「動的マスキング」と呼ぶ。動的マスキングにより、PAINTのための単一エミッタのより正確で効率的な局在化のために、単一蛍光分子エミッタの近似位置に関連付けられた焦点面にわたる複数の領域の、並行した(in parallel)増強照明(enhanced illumination)が可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一分子局在化顕微鏡法の目的で、解像限界のある対物レンズ(005)を有する光顕微鏡を使用して、一連の生体試料の画像を形成する方法であって、
少なくとも1つの第1の光源(029)からの励起光により、前記対物レンズの視野内でエミッタ(002)を並行して励起すること、
前記励起光の結果として前記エミッタから並行して放射された光を、少なくとも1つの第1の検出器(030)により検出して、画像を取得すること、
前記取得した画像に基づいて、前記エミッタの近似位置(022)を決定することと、
前記エミッタの前記近似位置に対応する領域であって、各領域(023)が、サブセット内の各エミッタに局在化され、かつ、各領域が、前記顕微鏡の前記解像限界に匹敵する特徴的な寸法を有する、領域を生成すること、
前記領域に基づいて、少なくとも1つの光源からの第1のパターン化照明(024)を適応させ、次の画像において複数のエミッタを並行して照明すること、及び
「動的マスキング」プロセス(013)を構成する上記のステップを連続して繰り返し、前記取得した画像の視野内の前記個々のエミッタの出現および消失に基づいて、前記パターン化照明を更新すること
を含む方法。
【請求項2】
前記エミッタの前記近似位置に対応する前記領域内に増強照明からなるパターン化照明を作り出すことをさらに含み、増強照明の前記領域が、前記視野の残りの部分よりも多くの励起光を受け取り、前記領域が、複数のエミッタを並行して照明するように配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の光源に個々の光源のアレイを使用することと、
前記個々の光源の強度を変化させることによってパターン化照明を作り出すことと
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
空間光変調器(SLM、031)を使用して前記第1の光源からの光を変調して、前記パターン化照明を確立することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記エミッタから前記SLM上への前記放射光を撮像し、次に、前記第1の検出器を使用して、その後に変調された放射光を検出することと、それにより、
前記第1の光源から前記試料上への光を変調する前記SLMの画素の同じサブセットにより、前記エミッタからの前記検出光を変調し、検出画像からの前記SLMの残りの画素による非合焦光の排斥によって、前記エミッタの共焦点検出を可能にすることと
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記SLMにより排斥された前記非合焦光を、前記第1の検出器および第2の検出器の表面の未使用の領域のうちの少なくとも1つの上に前記光を撮像することによって、検出することと、
前記検出された非合焦光のスケーリングされたサブトラクションによって、残存非合焦光を共焦点画像から除去することと
をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エミッタにわたる前記パターン化照明の時間変調および空間変調のうちの少なくとも一方により、各エミッタの点拡がり関数を並行してサンプリングすることをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記顕微鏡の前記対物レンズの後焦点面(040)を、中心を外れて(041)照明することによって、前記エミッタの各々の上に光軸に対する傾斜光円錐(039)を作り出すことをさらに含む、請求項3または4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールトポグラフィにおける点蓄積(PAINT)の技術に基づく光学超解像イメージングのための単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)に関する。
【背景技術】
【0002】
PAINTでは、蛍光色素分子標識プローブを含む溶液が、生体試料に塗布される。その後、PAINTを用いるSMLMが、試料の一連の顕微鏡画像を記録することによって実現される。遊離プローブの濃度が十分に低い場合、プローブの一時的な結合事象は、迅速に拡散する遊離プローブから生じる、バックグラウンド上に個別の回折限界スポットとして検出することができる。PAINTは、遊離プローブバックグラウンドと、焦点が大きく外れたエピトープに一時的に結合するプローブにより生成されるさらなるバックグラウンドとによって基本的に制限される。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、現況技術の広視野顕微鏡法または共焦点顕微鏡法と比較して、より高いシグナル対バックグラウンド比および/または取得速度で、従来の方法で載置された試料内の相当な深さにおいて、PAINTを使用して単一分子局在化を実現することである。
【0004】
従来の方法で載置された試料の、ある深さにおけるSMLMが、広視野検出を使用するPAINTを用いて可能であるが、バックグラウンド光からの汚染を制限するために、非常に疎らな検出が必要であり、それにより取得の速度が制限される。回転円板またはプログラム可能なアレイ顕微鏡(PAM)を使用する共焦点光学セクショニングにより、非合焦背景光を大幅に除去して、より高速な取得を可能にすることができる。しかしながら、これらの手法によるバックグラウンドの低減またはシグナルの増強のさらなる改善により、局在化のためのシグナル対バックグラウンドをさらに高くすることができ、PAINTのための、従来の方法で載置された試料内のある深さにおけるより高速な取得が可能になる。
【0005】
この改善は、視野にわたる空間的および時間的に制御された照明パターンからなるパターン化照明で試料を照明することによって実現することができる。視野を連続してモニタリングすることにより、パターン化照明を迅速に適応可能なエミッタの近似位置の識別が可能になり、この方法を「動的マスキング」と呼ぶ。動的マスキングにより、PAINTのための単一エミッタのより正確で効率的な局在化のために、単一蛍光分子エミッタの近似位置に関連付けられた焦点面にわたる複数の領域の、並行した(in parallel)増強照明(enhanced illumination)が可能になる。
【0006】
パターン化照明は、視野にわたる高い空間分解能を必要とするため、現在の現況技術の解決策は、パターン化照明を生成するための空間光変調器(SLM)に相当する。
【0007】
加えて、SLMが共役像面の励起経路および放射経路の両方に位置する場合、領域に対応する画素が共焦点ピンホール(回転円板共焦点に類似)として機能することができるため、共焦点セクショニングを実現することができ、シグナル対バックグラウンド比をさらに増加させる。
【0008】
さらに、これらの領域の外側からの放射光が集められて、別の非共役像を生成する場合、共役像からの適切にスケーリングされた非共役像のサブトラクションを使用して、ノイズ制限に合わせて非合焦バックグラウンドを除去し(PAMに類似)、シグナル対バックグラウンド比をさらに増加させることができる。
【0009】
例えば、エミッタのエアリ円板を動的にサンプリングして、追加の局在化情報を生成することにより、増強照明の領域を、重心推定を超える他の局在化モダリティについて、さらに最適化することができ、それにより、全体的な精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】異なる量の軸方向セクショニングに基づくSMLMの一般的な構成を示す図である。
図2】軸方向セクショニング、動的マスキング、および共役像からの非共役像のサブトラクションによる、ノイズ制限に合わせたバックグラウンドの低減を可能にする、PAMにより可能なシグナル対バックグラウンドの増加を示す図である。
図3】動的マスキングプロセスの概略図である。
図4】その後に取得した画像、エミッタ位置の決定、ならびにエミッタの出現および消失により変化する、照射される照明パターンを示すことにより、動的マスキングプロセスを示す図である。
図5】広視野顕微鏡法およびTIRF顕微鏡法の一般的な単一分子局在化画像と、所与の画像からの増強照明の領域の構成とを示す図である。
図6】広視野顕微鏡の励起経路にあるSLM(031)に基づく、動的マスキングのための装置を示す図である。
図7】SLM(031)が蛍光顕微鏡の励起経路および検出経路の両方に位置することにより共焦点顕微鏡を作り出す、動的マスキングのための装置を示す図である。
図8】SLM(031)が蛍光顕微鏡の励起経路および検出経路の両方に位置することにより共焦点顕微鏡を作り出し、加えて、非合焦光が単に捨てられるのではなく、第2のカメラによって記録され、再構成された光学セクショニング画像から非合焦バックグラウンドをさらに良好に除去することができる、動的マスキングのための装置を示す図である。
図9】SLM(031)によって作り出された増強照明パターンとモニタリング励起光(032)とが別個に生成され、ビームスプリッタ/コンバイナ(033)を使用して励起経路で結合される、動的マスキングのための装置を示す図である。
図10】ホログラフィックSLMが使用される、動的マスキングのための装置を示す図である。
図11】局所傾斜マイクロシートの概念を示す図であり、(A)は対物レンズから出る傾斜光円錐、(B)は対物レンズの後焦点面の中心を外れた照明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、動的パターン化照明を使用する、一時的プローブを含む対応する領域の迅速な増強励起と組み合わせた、視野にわたる蛍光プローブの動的出現のモニタリングに基づいて、PAINTのためのシグナル対バックグラウンドを向上させる方法について説明する。本発明は、少なくとも、PAINTに関する従来の広視野手法または共焦点手法と比較して、シグナル対バックグラウンド、したがって取得速度を数倍向上させる。
【0012】
方法の説明において、以下の用語が使用される。
SMLM:単一分子局在化顕微鏡法;超解像顕微鏡法の一形態であり、個々の蛍光分子が、非常に疎らに分散されていることにより個別に撮像され、非常に高い精度および正確度の局在化を可能にする。複数のフレームにわたる多くのそのような分子のその後のイメージングは、従来の光学顕微鏡法によって可能なものよりも高い解像度を持つ画像の構築を可能にする。異なる形態のSMLMは、取得シーケンス全体の間に視野全体のサンプリングを可能にしながら、各フレーム内で十分な稀薄性/分離性(sparsity/isolation)を実現する別の方法に依拠する。
PAINT:ナノスケールトポグラフィにおける点蓄積;SMLMの一形態であり、蛍光分子エミッタの分離および密集が、エミッタを試料に一時的に化学結合することによって実現される。
PAM:プログラム可能なアレイ顕微鏡;光学セクショニング顕微鏡法の一形態であり、プログラム可能なアレイ、すなわち空間光変調器を使用して、パターン化された光を試料上に投影することによって、光学セクショニングが実現される。
TIRF:全内部反射顕微鏡法;顕微鏡法の一形態であり、顕微鏡スライドの境界層の非透過エバネッセント波領域においてのみ蛍光が励起されることにより、すべての蛍光をこの小さい領域に制限する。
SLM:空間光変調器;入射光の透過または反射の空間変調を可能にするデバイス、例えば、LCDスクリーンの液晶アレイ。
DMD:デジタルマイクロミラーデバイス;2つの別個の方向に反射することができる小さいミラーから画素が構成される、空間光変調器デバイス。
LCoS:液晶オンシリコン;画素が入射光の偏光状態を2つの向きに回転させることができる空間光変調器デバイス。
PSF:点拡がり関数;点光源に対する撮像システムの機械応答関数。
【0013】
図面において、以下の参照番号を使用して、下記の特徴を示す。様々な図面において同様の参照番号を使用して、同様または同一の機能を果たす部品を指す。
【0014】
001 生体試料
002 蛍光分子エミッタ
003 遊離拡散蛍光分子エミッタ
004 合焦蛍光分子エミッタ
005 対物レンズ
006 試料チャンバ
007 通常容積の試料チャンバ
008 小容積の試料チャンバ
009 TIRFによりキャプチャされた試料チャンバ容積
010 光学セクショニング顕微鏡法によりキャプチャされた試料チャンバ容積
011 光円錐
012 共焦点光学セクション
013 動的マスキングプロセス
014 エミッタ位置の決定
015 領域の生成
016 照明の制御
017 画像取得
018 パターン化照明
019 モニタリング照明により観察された、新しく出現したエミッタ
020 増強照明により撮像されたエミッタ
021 消失したエミッタ
022 エミッタの近似位置
023 エミッタの近似位置の周囲の領域
024 視野に照射されるパターン化照明
025 カバーガラス
026 主ダイクロイック
027 チューブレンズ
028 レンズ
029 光源
030 カメラ
031 空間光変調器(例えば、デジタルマイクロミラーデバイス)
032 照明ユニット
033 ビームコンバイナ
034 共役光学経路
035 非共役光学経路
036 中間像面
037 光活性化のための光源
038 ホログラフィック波面整形SLM
039 局所傾斜マイクロシート
040 後焦点面/入射瞳
041 照明断面
【0015】
図1は、PAINTのための一般的なSMLMの構成を示す図であり、顕微鏡の対物レンズ(005)と、蛍光エミッタ(002)が一時的に結合された検査中の試料(001)と、遊離蛍光分子エミッタ(003)を含むバッファー容積(007)を有する試料チャンバ(006)を示す。バックグラウンド低減の方法は、バッファの高さ(008)の低減、および全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡法または光シート顕微鏡法を使用した軸方向の照明の低減を含む。TIRF顕微鏡法では、カバースリップガラス(009)の約100nm以内に検出が制限される。光シート顕微鏡法では、試料深部での検出および励起光(010)の波長の約半分のオーダーでのセクショニングが可能であるが、2つの直交する近接並置された対物レンズからなるより複雑な光学構成の焦点に試料を配置する、非標準的で簡単ではない試料載置を必要とする。
【0016】
試料の均一な照明により、視野全体にわたって出現する一時的な蛍光分子エミッタの認識が可能になる。しかしながら、蛍光分子エミッタを含む領域外で得られる情報がないとしても、均一な照明は、バックグラウンドの励起および退光の原因にもなる。本明細書に記載の新規な方法は、増強照明を照射して、一時的な合焦蛍光分子エミッタを含む領域のみを照明することにより、遊離拡散プローブと非合焦エピトープに結合したプローブとからなる非合焦蛍光分子エミッタの不要な励起を防ぐことからなる。
【0017】
SMLMのためのシグナル対バックグラウンド比の向上は、視野にわたって空間的および時間的に制御可能なパターン化照明で試料を照明可能な顕微鏡装置を使用して実現することができる。図2は、本明細書に開示された方法のための試料の照明を示す。空間的に制御されたパターン化照明は、生体試料(001)の光学セクション(012)内にある合焦エミッタ(004)のセットに焦点が合わせられる。結果として得られるパターン化照明は、対応するエミッタを中心とする光円錐(011)のセットからなる。このパターン化照明により、単一蛍光分子エミッタの位置に関連した焦点面にわたる複数の領域の並行した増強照明が、適応的および非常に動的な方法で可能になる。パターン化照明を、本明細書で導入された「動的マスキング」と呼ばれる方法に基づいて使用することができ、これにより、合焦蛍光分子エミッタを含まない領域がマスクされて、試料の全体的な照明を低減させ、バックグラウンドを低減させる。このようにして、SMLMに有用な情報を含む領域が優先的に照明されるように、試料は非常に効率的な方法で照明される。結果として、個々の蛍光エミッタを含む一連の画像が、最適な単一分子局在化のために、より高いシグナル対バックグラウンドで検出されると共に、全体的な退光も最小限に抑えられる。
【0018】
図3は、動的マスキング方法(013)の概略を示す。動的マスキングは、照明された視野の連続的な(またはストロボの)ビデオレートモニタリング(017)を使用して、蛍光分子エミッタの位置を見つけ(014)、続いて、オンザフライ画像処理を行って、エミッタの近似位置の周囲の領域を迅速に生成する(015)。次に、領域は、照明の空間制御および時間制御(016)に適用されて、一時的な蛍光分子エミッタの励起を局所的に増強する増強照明の領域からなるパターン化照明(018)を構築し、それにより、生体試料(001)内の単一分子局在化のための検出のシグナル対バックグラウンドを増加させる。パターン化照明は、迅速に連続して更新されて、視野全体にわたる単一分子の出現および消失の両方を考慮する。
【0019】
図4は、動的マスキング処理ステップを詳細に示す。実験の開始時に、規定レベルの均一な照明を使用して、視野がモニタリングされる。その後の画像が解析され、現況技術の画像処理アルゴリズムを使用して、推定蛍光分子エミッタ(019)の近似位置(022)を決定する。次に、顕微鏡の解像限界によって決定されるサイズの領域(023)が、蛍光分子エミッタの近似位置においてパターン化照明(024)内に作り出され、試料の全照明を最小限に抑えながら、増強励起を可能にする。
【0020】
分子エミッタの位置がその後に取得した画像の各々について決定されるため、検出された画像シーケンスにおけるエミッタ(019)の出現は、視野(024)にわたるパターン化照明の適応につながり、そのエミッタの位置(022)に対応する増強照明(023)の新しい領域を追加し、そのエミッタ(020)からの蛍光放射を増強する。一方、蛍光分子エミッタ(021)の消失は、増強照明の対応する領域の除去につながる。エミッタの近似位置の決定は、画像シーケンスの複数の画像を使用して、動的マスキングプロセスの応答時間を最適化し、分子点滅および検出のシグナル対ノイズを含む様々な効果を考慮することができる。したがって、動的マスキングプロセスにより決定されたパターン化照明は、非合焦局在化および遊離拡散蛍光分子エミッタから生じる上記のバックグラウンドを低減させる。加えて、試料照明の最小化は、蛍光分子エミッタの全プールの全体的な退光率を低下させる。
【0021】
パターン化照明は、蛍光分子エミッタの近似位置の外側の連続モニタリングを使用して、または蛍光分子エミッタを含む領域上で増強照明と交互に生じる短いモニタリングスナップショットにより、一時的な蛍光分子エミッタの出現および消失を考慮して動的に更新される。
【0022】
視野にわたるモニタリングおよびパターン化照明の更新は、一時的な結合、点滅、および/または光退色などの要因によって制限され得る蛍光プローブの視認性の時間スケールに合わせた速度で動的に行うことができる。
【0023】
図5は、PAINTを使用するSMLM実験の一般的な例を示す。パネルAには、ホルムアルデヒド固定血球に結合された個々のCD44fab-Vio667(Miltenyi Biotec)プローブの広視野画像を示す(連続取得からの単一の代表的なフレーム)。パネルBには、TIRF顕微鏡法を使用した、同じ試料の代表的なフレームを示す。パネルCには、単純な閾値に続いて拡張(dilation)をパネルBに適用して、SMLMにより局在化される蛍光分子エミッタを含む、視野にわたる領域を作り出した。この一般的な例においてこれらの領域により覆われる領域は、視野の1.8%のみに相当する。その後の画像において増強照明をこれらの領域に制限することによって、単一分子局在化のために、より高いシグナル対バックグラウンドイメージングを実現することができる。
【0024】
[実施形態1]
本発明の一実施形態において、広視野蛍光顕微鏡の励起経路にSLMを追加することにより、動的マスキングが実施される。
【0025】
図6は、顕微鏡の励起経路においてデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)をSLMとして使用する本実施形態の例を示し、一方の向きのマイクロミラーが励起光を試料上で反射し、他方の向きのマイクロミラーが励起光をビームダンプに廃棄する。LCoSなどの異なるSLMをDMDの代わりに使用してもよく、この場合、機能性は同じままであるが、光学経路の全体的な配置が異なる。簡単のために、DMDを使用する例を図面に示す。
【0026】
励起光源(029)は、顕微鏡の対物レンズ(005)およびチューブレンズ(027)により規定された共役像面に位置するDMD(031)を照明する。DMDからのパターン化された励起光が、主ダイクロイック(026)を使用して対物レンズ内に標準落射蛍光配置で結合され、顕微鏡の対物レンズ(005)を通して、カバースリップガラス(025)に載置された生体試料(001)上に投影される。蛍光は、カメラ(030)により、標準広視野放射経路で撮像される。
【0027】
本実施形態において、DMDを使用して、モニタリング照明および増強照明の領域の両方を確立する。所与のDMD画素が光を試料に反射している時間の割合を、その画素のデューティサイクルと呼ぶ。試料のモニタリングは、DMDの対応する画素にわたって、低デューティサイクルパターンを実行することにより実現され、増強照明は、高デューティサイクルパターンを実行することにより実現される。
【0028】
増強照明の平均面積は、視野の約1%であると予想される。新しい分子の出現のための視野のモニタリングに必要な励起を含めると、広視野励起Bと動的マスキングBDMとから予想されるバックグラウンド光の量について以下の関係が得られる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、fは、増強照明が照射される視野の面積の割合であり、mは、増強された領域の強度と比較したモニタリング照明強度の相対励起線量である。f=0.01およびm=0.04の一般的な値について、バックグラウンド励起の20分の1への低減が実現される。
【0031】
[実施形態2]
本発明の一実施形態において、独立して強度が変調され得る個々の光源のアレイからなる光源によって、パターン化照明が直接作り出される。このような光源は、SLMを不要にする。図6に示す前述した実施形態において、このような光源のアレイは、顕微鏡の像面においてDMD(031)の位置に配置される。
【0032】
[実施形態3]
第1の実施形態の改良版において、SLMは、励起経路の共役像面に位置するだけでなく、放射経路の共役像面にも位置する。このような光学配置は、回転円板共焦点顕微鏡に類似して、SLMの画素が共焦点ピンホールとして機能することにより、試料からの非合焦バックグラウンド蛍光のかなりの部分を排斥(reject)することを可能にする、共焦点イメージングデバイスを作り出す。共役像面に位置し動的マスキングを使用するSLMにより、検出のシグナル対バックグラウンド比が、回転円板により得られるものよりも
【数2】

だけ増加する。
【0033】
図7は、DMDをSLMとして使用する本実施形態の例を示す。ここでは、DMD(031)は、励起経路および放射経路の両方に位置し、励起光と放射光とを分離するダイクロイックミラー(026)が、DMDとカメラ(030)との間に配置されている。顕微鏡の対物レンズ(005)からの放射光が、最初にチューブレンズ(027)を使用してDMD上に撮像され、次に、リレーレンズ(028)のセットを使用してカメラに撮像される。
【0034】
[実施形態4]
上記の実施形態のさらなる改良において、非共役非合焦光が、単に廃棄されるのではなく、検出器によってキャプチャされる。
【0035】
図8は、DMDをSLMとして使用する本実施形態の例を示す。ここでは、DMD(031)によって反射された非共役非合焦光が、PAMの光学配置に類似して、既存の共役経路(034)に対して追加の非共役経路(035)で、第2のカメラによって撮像される。
【0036】
視野にわたる並列化した共焦点検出は、非合焦バックグラウンドを増加させる共焦点画素間の相当なクロストークにつながることがある。これは、回転円板共焦点顕微鏡に共通する制限であり、厚みのある試料または高密度に標識された試料を撮像するときに特に顕著である。排斥された非共役光のカメラによる検出は、非合焦バックグラウンド蛍光の空間画像をもたらし、共役像の残存バックグラウンドの指標として機能し得る。共役像からの非共役像の重み付けサブトラクションにより、光学セクションニング画像の残存バックグラウンドをノイズ限界まで除去することが可能になる。
【0037】
動的マスキング方法をPAMに適用すると、増強照明の領域を形成するDMDの画素は、非合焦バックグラウンドの適切なサブトラクションを可能にするために、50%のデューティサイクルを使用することが好ましい。しかしながら、最大強度のために、増強照明の領域について100%のデューティサイクルを使用することができる。この場合でも、周囲の領域において正確な光学セクショニングが保証される。しかしながら、100%のデューティサイクルを有する増強照明の領域の場合、これらの領域について光が非共役検出器に投影されないため、非合焦バックグラウンドの直接の局所的な測定値が非共役像から得られない。それでも、いくつかの追加の画像処理により、非共役像の隣接する画素に基づいて、局所的な非共役推定値を導き出すことができ、増強照明の領域からの非合焦バックグラウンドの近似寄与率のサブトラクションが可能になる。
【0038】
従来のPAM構成を使用するSMLM取得と比較すると、PAMにおける動的マスキングの使用は、
【数3】

の、上記の比較と同様のバックグラウンド励起の低減を生じさせるだろう。
【0039】
[実施形態5]
別の実施形態において、モニタリング照明は、SLMとは異なる位置で生成され、SLMは、増強照明の領域を生成するためだけに使用される。
【0040】
図9は、DMDをSLMとして使用する本実施形態の例を示す。この例は、図6に示す広視野顕微鏡構成と同様であるが、2つのさらなる要素(032)および(033)が追加されている。モニタリング照明(032)が、DMD(031)およびその対応する光源(029)とは異なる位置で生成される。次に、両方の照明が、ビームコンバイナ(033)を使用して顕微鏡の励起経路で結合される。このビームコンバイナは、モニタリング照明とDMDからの増強照明との特定の比を提供するように選択することができる。あるいは、結合されたビームは、偏光ビームコンバイナもしくはダイクロイックビームコンバイナを使用するように、異なる偏光を有していても、またはスペクトル的にシフトされていてもよい。
【0041】
[実施形態6]
図9に示す上記実施形態の改良版において、モニタリング(032)は、回転円板共焦点、スリット走査共焦点、または構造化照明などの光学セクショニング方法を使用して実行されるが、増強照明は、SLMを使用して別個に生成され、適切なビームコンバイナを使用して励起経路内に結合される。
【0042】
[実施形態7]
本発明の別の実施形態において、個々の蛍光分子エミッタの追加の軸方向情報を得るために、光学素子がSLMと検出器との間の放射光経路に追加される。このような軸方向情報は、例えば、円筒形レンズまたは回折素子を追加して、粒子のPSFを予測可能な方法で歪ませることにより、焦点面の上または下の位置の情報をもたらすことによって生成することができる。増強照明を使用する動的マスキングは、原則として、これらの方法によって生じる歪みに適合する。これは、粒子を囲む領域が、個々のエミッタからのシグナルを増加させるだけで、軸方向決定の基になる歪み自体を著しく変化させることがないほど、十分に大きいからである。別の選択肢は、画像スプリッタ素子を使用して、複数の画像を検出器の異なる焦点面に形成することであろう。
【0043】
これらの光学素子を、実施形態4のバックグラウンドサブトラクション能と組み合わせてもよい。軸方向情報光学素子が、共役光路および非共役光路の両方に含まれて、共役像と同様に非共役像において、非合焦光に同等の歪みを生じさせることが好ましい。非共役検出器の前に軸方向情報光学素子を配置することは、それほど正確である必要はない。これは、非共役像が非合焦光のみを記録し、わずかにずれた軸方向情報光学素子による非合焦光の正確な歪みは重要ではないからである。
【0044】
[実施形態8]
本発明の別の実施形態において、増強照明の対応する各領域のサイズ、形状、および位置を調節することによる、蛍光分子エミッタの個々のPSFの動的サブサンプリングによって、パターン化照明内の増強照明の領域が、重心推定を超える他のSMLM局在化様式に最適化される。
【0045】
例えば、蛍光分子の中心に対して照明領域の中心をわずかに変位させることにより、分子のPSFを動的にサンプリングすることができる。これにより、異なる照明位置の相対強度に基づく三角測量の形態で、追加の局在化情報が生成される。変位は、三角測量情報の増加がシグナルの減少よりも大きくなるように選択する必要があり、これにより、局在化の精度の向上が保証される。
【0046】
同様に、試料内での焦点の変位により、または、個々の焦点スポットの深さが変化し得るデジタルホログラムを形成するSLMを使用することにより、深さのわずかな変位を追加することによって、3次元(3D)の三角測量を実行してもよい。このような3D三角測量は、エミッタの軸方向位置の抽出をさらに可能にするだろう。
【0047】
[実施形態9]
前述した実施形態のほとんどにおいて、SLMは、ホログラフィック位相ベースのSLMであってもよい。この手法は、励起光をより効率的に使用することができ、それにより、増強照明の領域により高い強度を与えることができる。
【0048】
図10は、励起光(029)が、対物レンズの後焦点面に共役する面にほぼ位置するホログラフィックSLM(038)によって変調される、本実施形態の例を示す。
【0049】
SLMにより導入される位相マスクが、像面または像面に共役する面(036)で照明パターンを生成し、これはフーリエ変換または他のアルゴリズムを使用して計算することができる。SLMを共役面から除去して、0次光が焦点面に集束されないことを確認することも合理的であり得る。あるいは、SLMに拡散光を照明して、0次光を焦点面から除去してもよい。0次光をモニタリング光として使用して全視野を照明し、1次光を、分子を局在化するためのパターン化照明として使用することも想定できる。対物レンズの後焦点面に共役する位置にSLMを置く利点は、解析すべき分子の位置に光のパワーを集中させることができることである。したがって、SLMを照明するのに必要な全強度は、対象の全視野が照明され、個々の位置のみにスイッチオンする場合に対して桁違いに低くなり得る。
【0050】
[実施形態10]
本発明の別の実施形態において、分子は傾斜光円錐で照明される。
【0051】
図11は、試料上への傾斜光円錐(パネルA)と、対物レンズの後焦点面における必要な照明領域(パネルB)とを示す。これは、様々な方法で実現することができる。一例として、SLM上で照明される領域は、後焦点面(040)の中心ではなく、中心を外れて(041)撮像される。その後、結果として得られるパターン化照明は、物体面に対して傾斜した光ビームから構成される。傾斜角度は、物体面法線に対して30度から約90度とすることができる。かくして、標的とする蛍光分子エミッタは、焦点面において傾斜光円錐(039)によって照明される。これにより、局所セクショニングおよびバックグラウンド強度の低減が既にもたらされる。物体面にない蛍光分子エミッタは、傾斜方向に沿って焦点から横方向に変位した場合にのみ励起されるため、認識することができる。
【0052】
単一分子局在化顕微鏡法の目的で、解像限界のある対物レンズ(005)を有する光顕微鏡を使用して、生体試料の一連の画像を形成する方法について説明する。この方法は、少なくとも1つの第1の光源(029)からの励起光により、対物レンズの視野内でエミッタ(002)を並行して励起することと、次に、励起光の結果としてエミッタから並行して放射された光を、少なくとも1つの第1の検出器(030)により検出して、画像を取得することとを含むことができる。次に、取得した画像に基づいて、エミッタの近似位置(022)を決定することができる。エミッタの近似位置に対応する領域を生成することができ、各領域(023)は、サブセット内の各エミッタにおいて局在化され、顕微鏡の解像限界に匹敵する特徴的な寸法を有する。少なくとも1つの光源からの第1のパターン化照明(024)を領域に基づいて適応させ、その後の画像において複数のエミッタを並行して照明してもよい。上記のステップの連続した繰返しは、「動的マスキング」プロセス(013)を構成し、パターン化照明は、取得した画像の視野内の個々のエミッタの出現および消失を考慮して更新されてよい。
【0053】
この方法は、エミッタの近似位置に対応する領域内に増強照明からなるパターン化照明を作り出すことをさらに含んでいてもよく、増強照明の領域は、視野の残りの部分よりも多くの励起光を受け取ってもよく、領域は、複数のエミッタを並行して照明するように配置されてもよい。
【0054】
上記の方法について、個々の光源のアレイを第1の光源に使用してもよく、個々の光源の強度を変化させることによってパターン化照明を作り出すことができるだろう。
【0055】
この方法は、空間光変調器(SLM、031)を使用して第1の光源からの光を変調して、パターン化照明を確立することも含んでいてもよい。
【0056】
この方法は、エミッタからSLM上への放射光を撮像し、次に、第1の検出器を使用して、その後に変調された放射光を検出することを含んでいてもよい。このようにして、第1の光源から試料上への光を変調するSLMの画素の同じサブセットによりエミッタからの検出光を変調することは、検出画像からのSLMの残りの画素による非合焦光の排斥によって、エミッタの共焦点検出を可能にするだろう。
【0057】
共焦点検出を使用する上記の方法は、SLMにより排斥された非合焦光を、第1の検出器および第2の検出器の表面の未使用の領域のうちの少なくとも1つの上にその光を撮像することによって、検出することをさらに含んでいてもよい。この方法は、検出された非合焦光のスケーリングされたサブトラクションによって、残存非合焦光を共焦点画像から除去することをさらに含んでいてもよい。
【0058】
上記の方法は、エミッタにわたるパターン化照明の時間変調および空間変調のうちの少なくとも一方により、各エミッタの点拡がり関数(PSF)を並行してサンプリングすることも含んでいてもよい。
【0059】
方法は、顕微鏡の対物レンズの後焦点面(040)を、中心を外れて(041)照明することによって、エミッタの各々の上に光軸に対する傾斜光円錐(039)を作り出すことも含んでいてもよい。
【0060】
上記で概説した例示的な実施形態と併せて様々な詳細について説明したが、公知であるかまたは現在予測できない、様々な代替、修正、変形、改良、および/または実質的な均等物が、上記の開示を検討すると明らかになり得る。したがって、前述した例示的な実施形態は、説明のためのものであり、限定的なものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【外国語明細書】