IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 新潟大学の特許一覧 ▶ 学校法人立命館の特許一覧

<>
  • 特開-MEMSセンサ 図1
  • 特開-MEMSセンサ 図2
  • 特開-MEMSセンサ 図3
  • 特開-MEMSセンサ 図4
  • 特開-MEMSセンサ 図5
  • 特開-MEMSセンサ 図6
  • 特開-MEMSセンサ 図7
  • 特開-MEMSセンサ 図8
  • 特開-MEMSセンサ 図9
  • 特開-MEMSセンサ 図10
  • 特開-MEMSセンサ 図11
  • 特開-MEMSセンサ 図12
  • 特開-MEMSセンサ 図13
  • 特開-MEMSセンサ 図14
  • 特開-MEMSセンサ 図15
  • 特開-MEMSセンサ 図16
  • 特開-MEMSセンサ 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013852
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】MEMSセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/1627 20200101AFI20230119BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G01L5/1627
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118295
(22)【出願日】2021-07-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2021年3月1日付で、川崎 雄記、高橋 佑司、安部 隆、野間 春生、寒川 雅之らが、令和3年電気学会全国大会 講演論文集において公開。 2.2021年3月11日付で、川崎 雄記、高橋 佑司、安部 隆、野間 春生、寒川 雅之らが、令和3年電気学会全国大会において公開。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業・研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)試験研究タイプ「近接・触覚MEMSセンサの実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】寒川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】野間 春生
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雄記
【テーマコード(参考)】
2F051
3C081
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051AB09
3C081AA00
3C081BA21
3C081BA30
3C081BA32
3C081BA43
3C081BA44
3C081BA48
3C081CA03
3C081CA15
3C081CA23
3C081CA28
3C081CA29
3C081CA31
3C081CA32
3C081DA04
3C081DA10
3C081DA22
3C081DA27
3C081DA29
3C081EA01
3C081EA03
(57)【要約】
【課題】用途及び対象物に合わせて、接触部を容易に交換可能なMEMSセンサを提供する。
【解決手段】弾性樹脂2により封止されたセンサチップ3と、センサチップ3上に設けられた接触部4と、を備えるMEMSセンサ1であって、接触部4はセンサチップ3に取り外し可能に固定されることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性樹脂により封止されたセンサチップと、
前記センサチップ上に設けられた接触部と、
を備えるMEMSセンサであって、
前記接触部は前記センサチップに取り外し可能に固定されるMEMSセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMSセンサであって、前記センサチップはマイクロカンチレバーを有する、MEMSセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMEMSセンサであって、
前記接触部は粘着性接着剤により前記センサチップに取り外し可能に固定される、MEMSセンサ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のMEMSセンサであって、
前記センサチップ上において前記弾性樹脂と、前記センサチップを保護する保護層により区画された穴部を備え、
前記接触部は、前記穴部に嵌合することにより前記センサチップに取り外し可能に固定される、MEMSセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のMEMSセンサであって、
前記センサチップ上のうち前記接触部が取り外し可能に固定される位置に基礎部を備えるMEMSセンサ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のMEMSセンサであって、
前記接触部に所定値以上のせん断力が加えられた場合、前記接触部が前記センサチップから外れる、MEMSセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSセンサの一例として、触覚センサは協働ロボット、遠隔操作等でその利用の期待が高まっている。触覚センサとしてはさまざまな技術が提案されているが、標準的な技術は未確立である。人が触る触覚との親和性を考慮すると、人間の皮膚のような柔軟な接触部を持つ触覚センサデバイスが求められ、それを実現する技術がいくつか提案されている(例えば特許文献1-3、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-128940号公報
【特許文献2】特開2006-208248号公報
【特許文献3】特開2006-201061号公報
【非特許文献1】H. Yokoyama et al., “Active Touch Sensing by Multi-axial Force Measurement Using High-Resolution Tactile Sensor with Microcantilevers,” IEEJ Trans. Sensors Micromachines, vol. 134, no. 3, pp. 58-63, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接触部の形状及び材質が触覚における摩擦及び表面凹凸の検出に大きく影響することは、発明者らも確認しており(例えば非特許文献1)、MEMSセンサの用途により接触部の最適化が必要である。例えば接触部が弾性体であり、センサチップ(検知部)を当該弾性体に封入した触覚センサにおいては、接触部の形状及び材質(例えば硬さ)がセンサの出力及び接触対象物の変形に大きな影響を及ぼすため、用途及び対象物の硬さに適合させた設計が必要である。しかしながら、従来技術においては接触部を一度形成するとその形状及び材質の変更は困難であり、用途又は対象物ごとにセンサを用意する必要があった。また、高い負荷により接触部が破損した場合、センサチップも同時に使用不可となってしまう課題があった。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、用途及び対象物に合わせて、接触部を容易に交換可能なMEMSセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、
弾性樹脂により封止されたセンサチップと、
前記センサチップ上に設けられた接触部と、
を備えるMEMSセンサであって、
前記接触部は前記センサチップに取り外し可能に固定されることを特徴とする。
【0007】
また本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、前記センサチップがマイクロカンチレバーを有することを特徴とする。
【0008】
また本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、前記接触部が粘着性接着剤により前記センサチップに取り外し可能に固定されることを特徴とする。
【0009】
また本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、前記センサチップ上において前記弾性樹脂と、前記センサチップを保護する保護層により区画された穴部を備え、
前記接触部は、前記穴部に嵌合することにより前記センサチップに取り外し可能に固定されることを特徴とする。
【0010】
また本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、前記センサチップ上のうち前記接触部が取り外し可能に固定される位置に基礎部を備えることを特徴とする。
【0011】
また本開示の一実施形態に係るMEMSセンサは、前記接触部に所定値以上のせん断力が加えられた場合、前記接触部が前記センサチップから外れることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態に係るMEMSセンサによれば、用途及び対象物に合わせて、接触部を容易に交換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例に係るMEMSセンサの概略構成を示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係るMEMSセンサの概略構成を示す図である。
図3】本開示の一実施形態に係るマイクロカンチレバーの概略構成を示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係る接触部の固定態様を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る基礎部の概略構成を示す図である。
図6】接触部が接着された状態のMEMSセンサを示す図である。
図7】基礎部及び接触部の断面拡大図である。
図8】本開示の一実施形態に係るMEMSセンサによる外力の検出原理を示す図である。
図9】外力に対する応答の比較結果を示す図である。
図10】本実施形態に係るMEMSセンサの接触部に水平方向に変位を加えていった場合のセンサの応答を示す図である。
図11】第1の変形例における固定の態様を示す図である。
図12】第1の変形例に係るMEMSセンサの概要構成を示す図である。
図13】第1の変形例に係るMEMSセンサの垂直荷重印加時及び除荷時の応答を示す図である。
図14】第1の変形例に係るMEMSセンサのせん断荷重印加時及び除荷時の応答を示す図である。
図15】第2の変形例に係るMEMSセンサの接触部の固定態様を示す図である。
図16】第2の変形例に係るMEMSセンサの概要構成を示す図である。
図17】第2の変形例に係るMEMSセンサの応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同一符号は、同一または同等の構成要素を示す。本実施形態のMEMSセンサは、一例として触覚計測用のセンサ(触覚センサ)である場合について説明する。
【0015】
まず比較のために、図1に示すデバイスの概要構成及び写真を参照して、比較例に係るMEMSセンサ401、501、及び601の構成例を説明する。
【0016】
図1に示すように、比較例に係るMEMSセンサ401、501、及び601は、エラストマ(例えばPoly-dimethyl-siloxane(PDMS))等の弾性樹脂402、502、及び602により封止されたMEMS構造を有するセンサチップ403、503、及び603と、センサチップ403、503、及び603上に設けられた接触部404、504、及び604と備える。接触部404、504、604はそれぞれ対象物と接触する。接触部404、504、及び604の頂部に外力が作用すると接触部404、504、及び604と弾性樹脂402、502、及び602とが変形し、その変形に引っ張られて同時にMEMS構造が変形する。このMEMS構造の変形を電気的に計測して、計算機内部で外力を算出する。ここでセンサチップ403、503、及び603と接触部404、504、及び604との接着には、硬化前のPDMSが用いられる。PDMSが硬化した後は、センサチップ403、503、及び603を封止しているPDMSと一体化してセンサチップ403、503、及び603上に固定される。
【0017】
接触部404、504、及び604の形状及び材質は用途毎に相違する。例えば接触部404は円柱形状のPDMSである。また接触部504は半球形状のPDMSである。また接触部604は、円柱形状のアクリルである。このように、比較例に係るMEMSセンサ401、501、及び601では、用途に応じた接触部をセンサチップ上に形成していた。しかしながら、上述のように接触部404、504、及び604は、センサチップ403~603上において、センサチップ403~603を封止する弾性樹脂402、502、及び602と一体化して固定されている。そのため接触部404、504、及び604をセンサチップ403、503、及び603上に一度形成すると、別の形状又は材質の接触部に変更する場合、接触部404、504、及び604を切断するしか方法が無い。また、切断時のせん断応力でセンサチップ403、503、及び603が破壊されたり、切断部に凹凸が生じたりするため、接触部404、504、及び604を再接着して再使用することは困難である。このように、比較例に係る技術では、用途又は対象物に応じた接触部の変更が困難であり、用途又は対象物に応じて、それぞれMEMSセンサを用意する必要がある。
【0018】
他方で本開示の実施形態に係るMEMSセンサ1は、用途又は対象物が異なる場合でも接触部の交換が柔軟に行えることを特徴とする。まず本実施形態に係るMEMSセンサ1の概要について説明し、詳細については後述する。MEMSセンサ1はSi基板上に微小構造(MEMS構造)を有し、全体がエラストマ(例えばPoly-dimethyl-siloxane(PDMS))でカバーされた突起構造を有する。エラストマの頂部に外力が作用するとエラストマ全体が変形し、その変形に引っ張られて同時にMEMS構造が変形する。このMEMS構造の変形を電気的に計測して、計算機内部で外力を算出することができる。この際、エラストマ部分に関し、MEMS構造をカバーする部分と上部の突起構造とは別個に製作され、これらが取り外し可能に接着される。これによって設計変更にコストのかかるMEMS構造を同一製品としながら上部の構造の形状を変えることで安価かつ簡便にセンサの特性を変更できる。また、過度の外力がかかると突起構造が外れるようにすることで、MEMS構造の破損を防ぐ効果が得られる。以下、本開示の実施形態に係るMEMSセンサ1の詳細について、図面を参照して説明する。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0019】
図2を参照して、本実施形態に係るMEMSセンサ1の構成を説明する。図2(a)は、本実施形態に係るMEMSセンサ1の斜視図である。図2(b)は、本実施形態に係るMEMSセンサ1の写真である。本実施形態に係るMEMSセンサ1は、弾性樹脂2により封止されたセンサチップ3と、接触部4とを備える。
【0020】
図2に示す通り、センサチップ3は弾性樹脂2により封止されることにより保護されている。弾性樹脂2は例えばエラストマ(例えばPoly-dimethyl-siloxane(PDMS))である。以下本実施形態では、弾性樹脂2がPDMSであるとして説明する。
【0021】
センサチップ3は、プリント基板5上に設けられている。センサチップ3はMEMS構造を含む。本実施形態においてセンサチップ3に含まれるMEMS構造は、ひずみゲージの搭載された3つのマイクロカンチレバー(微小カンチレバー)31~33である。マイクロカンチレバー31~33は、力の大きさ及び方向を検出するために傾斜構造をしている。センサチップ3のサイズは5mm角の正方形である。マイクロカンチレバー31~33は、センサチップ3のチップ中央から直径1mmの円内に,先端が120度回転した方向を向くように配置されている。
【0022】
図3を参照して、マイクロカンチレバー31~33の作成手順及び概略構成を示す。マイクロカンチレバー31~33の作製には、支持基板311、BOX層312、及び活性層313の3層構造からなるSilicon on Insulator(SOI)ウェハが使用される。ここで支持基板311はSiからなる。BOX層312はSiO2からなる。活性層313はSiからなる。作製の前準備としてSOIウェハには予めアセトン超音波洗浄および希フッ酸による自然酸化膜除去の成膜前処理が行われる。
【0023】
まずSOIウェハ上に絶縁層314としてSi3N4をLPCVD法により、ひずみゲージ315としてNiCr、及び配線部316としてAuがスパッタリング法によりそれぞれ成膜され、フォトリソグラフィ法とエッチングによってパターニングされる。続いてマイクロカンチレバーを傾斜させるための膜317としてCrが電子ビーム蒸着法により成膜され、リフトオフ法によってパターニングされる。その後、選択的にエッチングをすることで中空構造を作製する方法(以下、犠牲層エッチングともいう。)を用いて、BOX層312を犠牲層としマイクロカンチレバーが形成される。
【0024】
フォトリソグラフィ法によるパターニング後において、活性層313をエッチングしマイクロカンチレバー形状が残される。ここで犠牲層エッチングを均一かつ効率的に行うため、マイクロカンチレバー31~33にはBOX層312が露出した孔が複数配置される。続いてマイクロカンチレバー31~33となる活性層313を支持基板311から離すため、バッファードフッ酸(Buffered Hydrogen Fluoride, BHF)を用いてBOX層312が選択的にエッチングされる。バッファードフッ酸として例えばステラケミファ株式会社のNH4F濃度20%の製品を用いることができる。ここで活性層313が基板から離れ中空構造となる際に、膜317(Cr)と活性層313(Si)の線膨張係数の差による引張応力によってマイクロカンチレバー31~33は自律的に傾斜構造となる。犠牲層エッチング後はセンサチップ3を純水で洗浄し、また純水の表面直力によってマイクロカンチレバーが支持基板311に張り付くスティッキングを防ぐためエタノール置換を行う。その後、真空乾燥を行いセンサチップ3が完成する。
【0025】
作製されたセンサチップ3はプリント基板5上にエポキシ接着剤を用いて接着される。エポキシ接着剤として、例えばエスコ株式会社の超速エポキシ接着剤を用いることができる。またセンサチップ3は配線接続部34によりプリント基板5と電気的に接続される。配線接続部34は例えば金細線(φ25μm)により構成され、センサチップ3とプリント基板5とはワイヤボンディングにより接続される。
【0026】
ここでセンサチップ3は、マイクロカンチレバー31~33及び配線接続部34の保護のために上述の弾性樹脂2により封止される。具体的には、スピンコータを用いてセンサチップ3上にPDMSが厚さ数十μmで塗布される。PDMSとして、例えばDow Corning Toray社の SILPOT184(ショアA硬さ: 50)を用いることができる。PDMSは、90℃で30分ベークさせることで硬化させられる。
【0027】
また配線接続部34は弾性樹脂2に加えて保護層35により封止される。保護層35は例えばUV硬化樹脂である。なお保護層35は、接触部4の設置時に配線接続部34への接触による断線を防ぐために形成されるものであり、必須の構成ではない。本実施形態においては、保護層35を設けるものとして説明する。保護層35(以下ではUV硬化樹脂)により配線接続部34を封止する手順は以下の通りである。
【0028】
弾性樹脂2により封止されたセンサチップ3が接着されているプリント基板5をアクリル容器に入れ、アクリル容器の内部をUV硬化樹脂で浸す。保護層35の厚さは、アクリル容器に投入するUV硬化樹脂の量により調節できる。これにより配線接続部34が露出することを防ぐことができる。次に真空デシケータを用いて脱気を30分行いUV硬化樹脂内部の気泡が取り除かれる。脱気後にUV硬化樹脂にはフォトマスクを通して紫外線が露光される。これにより配線接続部34を覆うUV硬化樹脂は選択的に硬化される。マスクアライメント装置を使用してフォトマスクの遮光部を精密に位置合わせすることで、マイクロカンチレバーが設けられた部分は硬化させず、配線接続部34のみが選択的に硬化される。マスクアライメント装置として、例えばミカサ株式会社のM-1S型を用いることができる。続いて未硬化のUV硬化樹脂はアセトンにより溶解除去され、プリント基板5が真空乾燥される。
【0029】
図4に示すように、上述の手順で弾性樹脂2により封止されたセンサチップ3上には接触部4が接着される。接触部4は対象物と接触する部位である。接触部4の形状及び材質は、対象物の性質及び用途に応じて適宜定められる。対象物の性質は、対象物の硬度、柔軟性、脆性、耐久性、耐摩耗性等を含む。例えば対象物が柔軟であるかどうか、対象物が壊れやすいか否かに応じて、接触部4の硬度、及び対象物との接触面積が適宜調整され得る。例えば接触部4の形状は半球形、円柱形、楕円柱形、角柱形、三角錐形等である。接触部4の形状はこれに限られず、突起状の形状であれば任意の形状を採用可能である。接触部4の材質は、例えばPDMS、アクリル等である。接触部4の材質はこれに限られず、任意の材料を採用可能である。接触部4は、対象物との接触個所を限定し、またセンサチップ3への荷重を中心方向に集中させる役割を果たす。
【0030】
次に接触部4のセンサチップ3への固定手順について説明する。本実施形態にかかるMEMSセンサ1において、接触部4は、センサチップ3に取り外し可能に固定される。本開示において取り外し可能とは、剥離可能であること、脱着可能であること等を含む。例えば接触部4はセンサチップ3に、再剥離が可能な粘着性接着剤6により取り外し可能(剥離可能)に固定される。粘着性接着剤6として、例えばセメダイン株式会社の液状粘着剤BBXを用いることができる。このように接触部4はセンサチップ3から取り外し可能であるため、本実施形態にかかるMEMSセンサ1は、様々な用途及び対象物に合わせた形状又は材質の接触部4を適宜交換して用いることができる。
【0031】
ここでセンサチップ3には、接触部4が固定される位置に基礎部36が設けられてもよい。つまりセンサチップ3を封止する弾性樹脂2のうち、接触部4が固定される位置に基礎部36が設けられてもよい。図5は、基礎部36の概要構成を示す。図5(a)に示すように、基礎部36は円柱状の部材である。例えば基礎部36は直径及び高さがそれぞれ2mm、高さ1mmである。図5(b)に示すように、基礎部36は、センサチップ3上の接触部4が設けられる位置に設けられる部材である。基礎部36の材料はPDMSであり、センサチップ3を封止する弾性樹脂2の上に、未硬化のPDMSを用いて接着される。このように基礎部36の底面(弾性樹脂2と対向する面)は、弾性樹脂2と同一材料により一体に形成されている。換言すると基礎部36は、弾性樹脂2のうち接触部4が設けられる位置に設けられた突出部分である。センサチップ3に基礎部36が設けられている場合、接触部4は、基礎部36の上面(弾性樹脂2と対向する面と反対の面)に粘着性接着剤6により取り外し可能(剥離可能)に固定される。接触部4が接着された状態のMEMSセンサ1を図6に示す。基礎部36は、接触部4を設置する土台部分として機能する。センサチップ3上に基礎部36を設けることにより、接触部4の固定位置の位置ずれを防止することができる。
【0032】
図7は基礎部36及び接触部4の断面拡大図である。図7に示すように、基礎部36及び接触部4の直径はいずれも2mmであり同一である。また接触部4の高さは2mmである。したがって接触部4と基礎部36とを合計した高さは3mmである。接触部4及び基礎部36の大きさ(ここでは高さ及び直径)は、接触する対象物に応じて適宜調整され得る。
【0033】
図8は、センサチップ3による外力の検出原理の概要を示す。図8に示されるように、外力が接触部4に加えられると、マイクロカンチレバー31~33が変形する。接触部4に当該外力が加わると、接触部4の変形に伴いマイクロカンチレバー31~33のたわみ量が変化する。マイクロカンチレバー31~33上のひずみゲージ315の電気抵抗の変化を測定することによって、加えられた力の大きさの推定を行うことができる。図2及び図3にて示したようにセンサチップ3上の3つのマイクロカンチレバー31~33は傾斜構造をしており、それぞれ異なる角度で配置されている。例えば、図8(a)に示すように接触部4に垂直力(垂直荷重)が印加された場合、PDMSは非圧縮性のため水平方向に逃げるように移動し水平方向に膨張する。つまりこの場合、全てのマイクロカンチレバー31~33のたわみ量が増加し、ひずみゲージ315の電気抵抗は一様に減少する。他方で、図8(b)に示すように、せん断力(せん断荷重)が印加された場合、せん断荷重の方向によってマイクロカンチレバー31~33はそれぞれ異なる動きを示す。またひずみゲージ315の電気抵抗の変化も同様に異なる応答を示す。従って、あらかじめ各マイクロカンチレバー31~33の荷重に対する感度特性を測定しておくことにより、印加された力の大きさ及び方向の推定を行うことができる。
【0034】
図9は、本実施形態に係るMEMSセンサ1と、比較例に係るMEMSセンサ401との外力(ここでは垂直荷重)に対する応答の比較結果を示す。図9において、「PDMSのみ」は比較例に係るMEMSセンサ401の結果を示す。また「PDMS(+接着剤)」及び「アクリル(+接着剤)」は、それぞれ本実施形態に係るMEMSセンサ1において、接触部4がPDMS及びアクリルのそれぞれの場合における結果を示している。図9に示すように、本実施形態に係るMEMSセンサ1と比較例に係るMEMSセンサ401とも概ね同一の応答が得られた。また図9に示すように、接触部4の材質はPDMS及びアクリルのいずれであっても、概ね同一の応答が得られた。なおここでは外力が垂直力である結果を示したが、外力がせん断力である場合も同様に概ね同一の応答が得られた。このように本実施形態に係るMEMSセンサ1は、比較例に係るMEMSセンサ401とほぼ同様の線形性、ヒステリシス、及び感度を示しており、センサとして十分高い精度にて使用可能である。ここでヒステリシスは印加・除荷の過程で前の変化の影響が残ることにより発生する現象である。またここでの感度は、印加時垂直荷重では1N、せん断荷重では0.001Nに達した際の抵抗変化率とした。
【0035】
以上に説明したように、本実施形態に係るMEMSセンサ1は、比較例のMEMSセンサ同様のセンサ精度を有する。さらに本実施形態に係るMEMSセンサ1は、外力を受ける接触部4がセンサチップ3に取り外し可能に固定されている。したがって、本実施形態のMEMSセンサ1によれば、様々な用途及び対象物に合わせて、接触部を容易に交換することができる。このため、本実施形態のMEMSセンサ1によれば用途又は対象物ごとにセンサを用意する必要がなく、コストの低減化、工数の削減を実現することができる。また、本実施形態のMEMSセンサ1によれば、繰り返しの使用により接触部4が摩耗、劣化等した場合にも、接触部4のみを剥離することにより外して、新たな接触部4を固定すればよい。このように安価かつ簡便にMEMSセンサ1の保守、メンテナンスを実施することができる。
【0036】
なお接触部4が摩耗、劣化等した場合の交換時期の判断は、接触部4を目視することにより行ってもよく、あるいは定期的な性能試験を行うことにより行ってもよい。
【0037】
また本実施形態によれば、接触部4がセンサチップ3に取り外し可能に固定されているため、所定値以上の外力が加わった場合に、接触部4が外れることでセンサチップ3の破損を防止することができる。特にマイクロカンチレバー31~33は過度な負荷により破損する恐れがあるため、接触部4が外れることにより、マイクロカンチレバー31~33の破損を防止することができる。
【0038】
図10は、本実施形態に係るMEMSセンサ1の接触部4に水平方向に変位を加えていった場合のセンサの応答を示す。変位の増大に応じて接触部4に働くせん断荷重が増大し、それに伴ってひずみ抵抗が変化している。そして接触部4とセンサチップ3の接着箇所の接着強度を超えると粘着性接着剤6による接着部分が剥離してせん断荷重が開放される。その後ひずみ抵抗は変位を加える前の値に戻り、センサチップ3には破損等が発生しない。なお、接触部4のサイズ及び形状の少なくとも一方を変更することによって、粘着性接着剤6による接着部分の剥離が生じる外力の大きさ(上記の所定値)は変わり得る。例えば接触部4のサイズ(接触部4が円柱形状である場合は、直径及び高さ)を変更することで、所定値が変わり得る。同様に接触部4の形状を円柱形状、半球形状等、楕円柱形状、角柱形状、三角錐形状に変更することで、所定値が変わり得る。このように、接触部4のサイズ及び形状を変更することにより、所定値を調整してもよい。また、接触部4の底面(基礎部36に接着される面)のサイズ及び形状を変更することによって、接着部分の剥離が生じる外力の所定値が変わり得る。例えば接触部4の形状が円柱形状である場合において、接触部4の底面の直径が上面の直径よりも小さくてもよい。換言すると接触部4の底部の直径が、接触部4の底部以外の直径よりも小さくてもよい。このようにすることで、接触部4の底部において応力集中が生じ、接着箇所での剥離をより確実にすることができる。接触部4の形状及びサイズ、並びに接触部4の底部に応力集中を生じさせる態様はこれに限られず任意の方法を採用可能である。例えば接触部4は、上部から底部にわたりテーパー構造を有していてもよい。あるいは接触部4は、底部においてくびれ部分、溝、孔、段等を有してもよい。換言すると、接触部4の底部のサイズ及び形状の少なくとも一方を接触部4の他部分と異ならせることにより、接着箇所で応力集中を起こし、接着箇所での剥離をより確実にすることができる。
【0039】
なお、MEMSセンサ1の接触部4に垂直力が加わった場合にも、センサチップ3の破損等を防止するようにしてもよい。例えば所定以上の垂直力が加えられた場合に、センサチップ3が後退する退避機構を備えてもよい。このようにすることで、センサチップ3の破損を防止することができる。
【0040】
なお、本実施形態ではMEMSセンサ1が触覚センサである場合について説明したがこれに限られない。MEMSセンサ1は触覚センサ以外であってもよく、例えば圧力センサ、流量センサ等のセンサであってもよい。あるいはMEMSセンサ1は、近接覚センサであってもよい。このような場合においても、本実施形態にかかる構成により、MEMSセンサ1と対象物との接触部に係る同様の課題を解決することができる。
【0041】
また本実施形態ではセンサチップ3がマイクロカンチレバー31~33を含む例を説明したがこれに限られない。センサチップ3は、マイクロカンチレバーに加えて、或いはマイクロカンチレバーの代わりに任意の機械構成部品を含んでもよい。
【0042】
(第1の変形例)
本実施形態では、MEMSセンサが基礎部36を備えるものとして説明したがこれに限られない。例えばMEMSセンサは基礎部36を備えずに、接触部4がセンサチップ3上に取り外し可能に固定されてもよい。以下、基礎部36を備えないMEMSセンサ(第1の変形例に係るMEMSセンサ)について説明する。図11は、第1の変形例に係るMEMSセンサ101の概要構成及び固定態様を示す。図11に示すように、MEMSセンサ101は、弾性樹脂102に封止されたセンサチップ103が、プリント基板105上に設けられている。センサチップ103とプリント基板105とを接続する配線接続部134は、弾性樹脂102及び保護層135により保護されている。接触部104は、平坦に形成された弾性樹脂102上に粘着性接着剤106により接着される。具体的には接触部104の底面(センサチップ103と対向する面)には、再剥離が可能な粘着性接着剤106が塗布される。接触部104は粘着性接着剤106により、センサチップ103を覆う弾性樹脂102上に接着される。接触部104が接着された状態のMEMSセンサ101を図12に示す。接触部104の直径及び高さは、それぞれ例えば2mm及び3mmである。
【0043】
図13は、第1の変形例に係るMEMSセンサ101の垂直荷重印加時及び除荷時の応答を示す。また図14は、第1の変形例に係るMEMSセンサ101のせん断荷重印加時及び除荷時の応答を示す。図13及び図14に示すように、基礎部を設けない場合、荷重印加時と除荷時で、特にせん断荷重印加時に大きなヒステリシスが見られる。これは接着箇所が荷重印加によりずれることによるものと考えられ、上述の実施形態において基礎部を設けることの重要性を示している。換言すると上述の実施形態に係るMEMSセンサ1において、基礎部36を設けることにより、荷重に係るヒステリシスを低減することができる。なお基礎部36を設けない場合にはこのように荷重に係るヒステリシスが生じるものの、より簡易な構成でデバイスを構成することができる。例えばヒステリシスの影響が少ない条件下、又は無視できる条件下においては、第1の変形例に係るMEMSセンサ101によりセンシングを行ってもよい。
【0044】
(第2の変形例)
また本実施形態では、接触部4はセンサチップ3に粘着性接着剤6により取り外し可能に固定される場合を説明したがこれに限られない。例えば接触部4はセンサチップ3に両面テープにより取り外し可能に固定されてもよい。あるいは接触部4はセンサチップ3に、異なる方法で取り外し可能に固定されてもよい。以下、センサチップ3と接触部4とが異なる方法で取り外し可能に固定されるMEMSセンサ(第2の変形例に係るMEMSセンサ)について説明する。図15は、第2の変形例に係るMEMSセンサ201の概要構成及び固定の態様を示す。図15に示すように、MEMSセンサ201は、弾性樹脂202に封止されたセンサチップ203が、プリント基板205上に設けられている。センサチップ203とプリント基板205とを接続する配線接続部234は弾性樹脂202及び保護層235により保護されている。
【0045】
図15に示すように、第2の変形例に係るMEMSセンサ201において、接触部204は、弾性樹脂202と保護層235とにより区画された穴部207に嵌合することによりセンサチップ3上に脱着可能に固定される。換言すると接触部204は、穴部207に嵌め込みにより固定される。ここで接触部204と弾性樹脂202とは接触している。このため接触部204は、所定以上の力で引っ張る、又は所定以上のせん断力が加わることにより穴部207から外れる。図16は、第2の変形例に係るMEMSセンサ201の概要構成を示す。図16に示すように、第2の変形例に係るMEMSセンサ201の接触部204と、穴部207の直径は同一であり、ここではいずれも2.5mmである。また図16に示すように、接触部204の高さは3mmである。接触部204は穴部207に嵌合するため、接触部204はセンサチップ3に粘着性接着剤6により接着されなくてよい。あるいは接触部204の固定の強度を高めるために、接触部204はセンサチップ3に粘着性接着剤6により接着されてもよい。また、穴部207の底部に基礎部が設けられてもよい。この場合、接触部204は基礎部に接触又は接着される。
【0046】
図17は、第2の変形例に係るMEMSセンサ201の垂直力に対する応答を示す。図17に示すように、第2の変形例に係るMEMSセンサ201も、本実施形態のMEMSセンサ1と同様の線形性、ヒステリシス、及び感度を示しており、センサとして十分高い精度にて使用可能である。
【0047】
本開示を諸図面及び実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各部材に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、101、201、401、501、601 MEMSセンサ
2、102、202、402、502、602 弾性樹脂
3、103、403、503、603 センサチップ
31、32、33 マイクロカンチレバー
311 支持基板
312 BOX層
313 活性層
314 絶縁層
315 ひずみゲージ
316 配線部
317 膜
34、134、234 配線接続部
35、135、235 保護層
36 基礎部
4、104、204、404、504、604 接触部
5、105、205 プリント基板
6、106 粘着性接着剤
207 穴部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17