(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138552
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】防食塗料組成物、当該組成物を用いたマグネシウム合金成形物の防食方法、及び塗装成形物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20230922BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20230922BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C23F11/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120696
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2019178782の分割
【原出願日】2019-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうち革新的マグネシウム材の鉄道車両および自動車構造部材への適用技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康人
(72)【発明者】
【氏名】西川 昂志
(57)【要約】
【課題】特にマグネシウム合金製の材料に対して、水や酸素などの錆を誘発するような因子のバリア性を確保できながらも、不測の塗膜欠陥が生じても塗膜と金属との付着性を確保して腐食を広げないような十分な防食効果を発現できるとともに、例えば高速輸送車両などの大型の構造部材に対しても常温で乾燥・硬化ができて塗装作業性が良い防食塗料組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する防食塗料組成物であり、重量平均分子量が470~900であるとともに、エポキシ当量が180~1,000g/eq.であるビスフェノール型エポキシ樹脂(A-1)と、重量平均分子量が10,000~100,000である高分子型エポキシ樹脂(A-2)と、アミン系硬化剤(B)とを含有し、これら(A-1)成分及び(A-2)成分の質量比は、固形分換算で(A-1):(A-2)=10:90~90:10であることを特徴とする防食塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する防食塗料組成物であり、
重量平均分子量が470~900であるとともに、エポキシ当量が180~1,000g/eq.であるビスフェノール型エポキシ樹脂(A-1)と、重量平均分子量が10,000~100,000である高分子型エポキシ樹脂(A-2)と、アミン系硬化剤(B)とを含有し、
これら(A-1)成分及び(A-2)成分の質量比は、固形分換算で(A-1):(A-2)=10:90~49.94:50.06であり、
前記アミン系硬化剤(B)は、脂肪族ポリアミン及び/又はポリアミドアミンを含むことを特徴とする防食塗料組成物。
【請求項2】
前記(A-2)成分は、その水酸基価が100~350mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
さらに、(C)リン酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、リン酸アルミニウム及びカルシウムイオン交換シリカからなる群から選択される1種又は2種以上の防錆剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
さらに、アミノ基を有するシランカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
前記アミン系硬化剤(B)における活性水素当量と、前記(A-1)成分のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が1/0.8~1/1.2であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
100℃以下で硬化するものであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項7】
マグネシウム合金を含む成形物に塗布して使用されるものであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項8】
マグネシウム合金を含む成形物に、少なくとも、請求項1~7のいずれかに記載の防食塗料組成物を塗装して、前記成形物の表面に塗膜を形成することを特徴とするマグネシウム合金成形物の防食方法。
【請求項9】
マグネシウム合金を含む成形物の表面に、少なくとも、請求項1~7のいずれかに記載の防食塗料組成物が塗装されてなる塗装成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食用の塗料組成物に関するものであり、より詳しくは、マグネシウム合金製の材料を好適に防食することができると共に、乾燥性、塗装作業性及び耐洗浄液性などにも優れて、特に、高速輸送車両や建設機械やバス等の大型のマグネシウム合金製材料にも塗装可能な防食塗料組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、実用構造金属材料中最も低密度であってアルミニウム合金よりも軽く、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とほぼ同じ密度を有し、また、強度にも優れ、リサイクル性もよく、資源も豊富に存在することから、家電製品、OA機器、モバイル機器、自動車部品等に適用されている。近年においては、マグネシウム合金の欠点の一つであった易発火性の問題についても、カルシウムの添加によって発火温度を上昇させた難燃性マグネシウム合金が開発されており、大型構造部材、特に、新幹線等の高速輸送車両の部材への展開が検討されている(例えば特許文献1~3、非特許文献1を参照)。
【0003】
このような難燃性のマグネシウム合金を輸送車両等へ展開するに際しては、マグネシウム合金のもう一つの課題として従来から認識されてきた腐食性の問題に対応することが必要となる。マグネシウム合金は他の金属に比べて化学的活性が高く耐食性に乏しい上に、カルシウムの添加によって更に腐食が進みやすいことが明らかとなっていることから、耐食性を確保するためには表面処理(化成処理膜、陽極酸化処理、塗装等)を行うことが必要となるが、これまでの実績としては、その殆どが室内仕様の小物製品を対象としており、大型の部材を処理するとなると、従来からの複雑な処理槽方式での化成処理法は適用し難く、塗装方法及びそれに好適な塗料が求められることとなる。従来の熱による硬化作業は、設備上、作業工程上の理由から困難が生じることから、比較的低温度、好ましくは常温で乾燥・硬化が可能な塗料が求められる。
【0004】
ここで、主に家電製品や自動車のホイールなどの小型物品を対象として、従来からマグネシウム合金用の塗料及びそれを用いた塗装方法がいくつか提案されており、特に、ビスフェノール型などのエポキシ樹脂を硬化剤などと共に用いる方法が提案されている(特許文献4~7)。これら特許文献4~7に開示されたように、特に、ビスフェノール型のエポキシ樹脂を用いることにより、塩水噴霧や付着性の試験に対して良好な結果を示すとしているものの、後述するように、本発明者らの検証によれば、塗膜が水や酸素などの侵入を防止するバリア性を有していたとしても、例えば、何らかの不測の事態によって塗膜にピンホールなどの欠陥ができてしまうと、そのような欠陥から塗膜と金属との間に水や酸素などが浸透し、さびを水平方向に広げてしまう現象を確認した。特に、マグネシウム合金においては、アルミニウム合金のような強固な酸化皮膜を有しないことから、塗膜の欠陥に起因する水や酸素の浸透による影響が大きくなることが判明した。これとともに、本願の発明者らは、塗膜の透水性等を減ずるだけでは、逆に侵入した水分などが滞留しやすくなって、それにより塗膜のフクレ等を生じる結果となることも確認した。
【0005】
すなわち、特許文献4~7に開示されたように、ビスフェノール型のエポキシ樹脂を用いることによって水や酸素などに対する塗膜のバリア性を向上させたとしても防食性は十分とは言い難く、特に、強固な酸化皮膜を有さず且つ腐食しやすいマグネシウム合金の防食性を高めるためには、不測の塗膜欠陥などにも対処する必要があり、欠陥部分からの腐食の進行を防ぐことができるような塗膜と金属との付着性も備えることが必要であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-78184号公報
【特許文献2】特開2017-159345号公報
【特許文献3】特開2017-159346号公報
【特許文献4】特開平7-204577号公報
【特許文献5】特開2001-11672号公報
【特許文献6】特開2003-82277号公報
【特許文献7】特開2017-105221号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ISMA REPORT No.3、「難燃性新マグネシウム合金で高速鉄道の車両製作に挑む」、2016年6月、新構造材料技術研究組合(ISMA)発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、このような状況の下、マグネシウム合金製の材料に対して、水や酸素などの錆を誘発するような因子のバリア性を確保できながらも、不測の塗膜欠陥が生じても塗膜と金属との付着性を確保して腐食を広げないような十分な防食効果を発現でき、しかも、今後展開されるような高速輸送車両などの大型の構造部材に対しても常温で乾燥・硬化ができて塗装作業性が良いような防食塗料について、本願の発明者らが鋭意検討した結果、意外なことには、これまで使用されてきたようなビスフェノール型のエポキシ樹脂に対して、特定の高分子型の変性エポキシ樹脂を特定の割合で配合することにより、それらの課題を解決できるような防食塗料が得られることを新たに見出して、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、特に、腐食が起こりやすいマグネシウム合金金属に対しても、十分なバリア性を有すると共に、不測の欠陥が起きた場合においても塗膜と金属との間で腐食を進行させ難くするような十分な付着性を備えた防食塗膜を形成でき、しかも、常温でも乾燥が可能で塗装作業性にも優れた防食塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する防食塗料組成物であり、
重量平均分子量が470~900であるとともに、エポキシ当量が180~1000g/eq.であるビスフェノール型エポキシ樹脂(A-1)と、重量平均分子量が10,000~100,000である高分子型エポキシ樹脂(A-2)と、アミン系硬化剤(B)とを含有し、
これら(A-1)成分及び(A-2)成分の質量比は、固形分換算で(A-1):(A-2)=10:90~90:10であることを特徴とする防食塗料組成物である。
【0011】
また、本発明は、マグネシウム合金を含む成形物に、少なくとも、上記の防食塗料組成物を塗装して、前記成形物の表面に塗膜を形成することを特徴とするマグネシウム合金成形物の防食方法である。
【0012】
さらに、本発明は、マグネシウムを含む成形物の表面に、少なくとも、上記の防食塗料組成物が塗装されてなる塗装成形物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、腐食が起こりやすい基材、特に、マグネシウム合金に対しても、十分なバリア性を有すると共に、不測の欠陥が起きた場合においても塗膜と金属との間で腐食を進行させ難くするような十分な付着性を備えた防食塗膜を形成でき、しかも、常温でも乾燥が可能で塗装作業性にも優れた防食塗料組成物を提供することができる。このような本発明の防食塗料組成物は、特に、高速輸送車両や建設機械やバス等の大型のマグネシウム合金製材料の下塗り塗料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、以下の例示以外についても、本発明の主旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0015】
本発明において、塗装の対象となる素材(基材)は、本発明の目的の範囲内、すなわち、防食を目的とする素材であれば限定されるものではないが、特に、マグネシウム合金を対象とする。マグネシウム合金の組成としては、特に限定されないが、軽量性や強度の理由から、マグネシウムを85質量%以上含有するものが対象となり得る。他の元素としては、アルミニウム(「A」で表記)を1質量%以上10質量%以下、亜鉛(「Z」で表記)を1質量%以上5質量%以下含有してもよく、また、難燃性を付与する目的から、カルシウム(「X」で表記)を0.5質量%以上2.5質量%以下で配合したものであってもよい。それ以外の元素としては、例えば、ジルコニウム、マンガン(「M」で表記)、イットリウム、希土類等が含有されたものであってもよい。具体例としては、マグネシウムを主成分とし、アルミニウム(A)が約6質量%、亜鉛(Z)が約1質量%配合されたAZ61、アルミニウム(A)が約9質量%、亜鉛(Z)が約1質量%配合されたAZ91、アルミニウム(A)が約3質量%、亜鉛(Z)が約1質量%、カルシウム(X)が約1質量%配合されたAZX311、AZX311のカルシウムが約2質量%に変更されたAZX312、アルミニウム(A)が約6質量%、亜鉛(Z)が約1質量%及びカルシウム(X)が約1質量%配合されたAZX611、AZX611のカルシウムが約2質量%に変更されたAZX612、アルミニウム(A)が約9質量%、亜鉛(Z)が約1質量%、カルシウム(X)が約1質量%配合されたAZX911、AZX911のカルシウムが約2質量%に変更されたAZX912、或いは、マグネシウムを主成分としアルミニウム(A)が約6質量%及びカルシウム(X)が約1質量%配合されたAMX601、AMX601のカルシウムが約2質量%に変更されたAMX602などが挙げられる。使用する形態としては、上記組成を有するマグネシウム合金の鋳造材や、その鋳造材を圧延や鍛造などにより加工した展伸材のような成形物のいずれも用いることができ、これを例えば、家電製品やモバイル機器等のような小物部材としたものや、自動車、高速輸送車両及び航空機などのボディや産業機械や建設機械などの大型の部材にも用いることができる。本発明の防食塗料組成物については、特に、従来には行われていない高速輸送車両など断面径が3mを超えるようなかなり大型の部材を対象とすることもできる。
【0016】
本発明の防食塗料組成物は、以下に述べるA-1及びA-2の各エポキシ樹脂と、アミン系硬化剤(B)を少なくとも含んでなるものである。以下、それぞれについて具体的に説明する。
【0017】
<ビスフェノール型エポキシ樹脂(A-1)>
本発明の防食塗料組成物に使用される当該A-1成分としては、一般的なビスフェノール型のエポキシ樹脂を用いることができ、ビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型などを使用することができ、後述するアミン系硬化剤(B)に対して主剤として使用されるものである。
【0018】
このようなビスフェノール型エポキシ樹脂としては、溶液の粘度が塗装に適するとの観点から、その重量平均分子量が470~900であることがよい。また、基材への付着性や防食性の観点から、エポキシ当量が180~1,000g/eq.、好ましくは230~600g/eq.であることがよい。
【0019】
また、このようなA-1成分のエポキシ樹脂の含有量は、基材への付着性および乾燥塗膜の物性の観点から、固形分換算で、組成物中2~19質量%とすることが好ましく、より好ましくは5~15質量%とすることがよい。
【0020】
このような本発明におけるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂として三菱ケミカル(株)製のjER825、jER827、jER828、jER834、jER834X90(90%溶液品)、jER1001、jER1001X70(70%溶液品)、jER1001X75(75%溶液品)jER1001T75(75%溶液品)等、アデカ(株)製のアデカレジンEP-4100等、新日鉄住金化学(株)製のエポトートYD-128等が挙げられる。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、三菱ケミカル(株)製のjER806、jER806H、jER807等、DIC(株)製のEPICLON830、EPICLON835等が挙げられる。これらのビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。2種以上を混合して用いる場合には、1分子の分子鎖(繰り返し単位)の異なる複数のビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂をそれぞれ混合してもよく、或いは、複数のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び複数のビスフェノールF型エポキシ樹脂を、本発明の目的の範囲内で、任意に混合することもできる。
【0021】
<高分子型エポキシ樹脂(A-2)>
本発明の防食塗料組成物においては、上記A-1成分の加えて、塗膜とした際の付着性(塗膜に不測の欠陥等が生じた場合においても、塗膜と金属との間において腐食の進行を抑制できるような付着性)を付与するために、さらに、高分子型のエポキシ樹脂を配合する。この高分子型のエポキシ樹脂は、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を変性剤によって高分子量化するとともに、前記変性剤に起因する特定の官能基を付与したものである。このA-2成分については、前記A-1成分とは異なり、硬化剤を用いることなく、ラッカー乾燥(溶剤の揮発)のみで1液で塗膜硬度が上がり、皮膜特性を発現することができるタイプの樹脂であり、配合形態としては、前記A-1成分とともに主剤として配合してもよく、或いは、A-1成分や後述のアミン系硬化剤(B)とは別配合として、第三の成分とした上で、最終的にこれらA-1成分やアミン系硬化剤(B)とともに混合して本発明の防食塗料組成物として形成させることも可能である。好ましくは、製品管理やユーザーの利便性の理由から、A-1成分と共に配合して主剤として使用することが好ましい。
【0022】
ここで、当該A-2成分については、上記したA-2成分特有の付着性の発現のために、その重量平均分子量が10,000~100,000とする必要があり、好ましくは、20,000~60,000であることがよい。
【0023】
ここで、当該A-2成分における前記変性剤としては、アルキルグリシジルエーテル、t-アルカンカルボン酸のグリシジルエステル、ε-カプロラクトン、酸無水物、塩化プロピオニル、塩化アシル等を用いることができる。
【0024】
このようなA-2成分については、その水酸基価が100~500mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは、100~350mgKOH/gであるものを用いることがよい。これにより、形成された塗膜と基材(金属)との接着性が良好となるため好ましい。
【0025】
また、このようなA-2成分のエポキシ樹脂の含有量は、基材に対して十分な付着性を確保する観点から、固形分換算で、組成物中3~20質量%とすることが好ましく、より好ましくは5~15質量%とすることがよい。
【0026】
そして、このようなA-2成分の具体例としては、例えば、EPICLON H304-40、H-401-45、H403-45、H408-40(以上、DIC株式会社)、モデピクス401、402等、アラキード9201N、9203N、9205、9208、KA-1439A(以上、荒川化学工業株式会社)、エポキー813、814、818、863(以上、三井化学株式会社)等を挙げることができる。これらについては、本発明の目的の範囲内において、1種だけの使用でもよく、また、2種以上を混合して使用することも可能である。
【0027】
ここで、前記A-1成分のエポキシ樹脂とA-2成分のエポキシ樹脂との配合量については、質量基準の固形分換算でA-1:A-2=10:90~90:10とする必要あり、好ましくはA-1:A-2=30:70~70:30、より好ましくはA-1:A-2=40:60~60:40とすることがよい。A-1成分が10未満(A-2成分が90超過)の場合には、高温高湿度の環境下での塗膜の膨れといった問題が発生する虞があり、一方で、A-1成分が90超過(A-2成分が10未満)である場合には、基材に対する付着性に劣るといった問題が発生する虞がある。
このようなA-1成分及びA-2成分は、固形分換算で、A-1及びA-2のエポキシ樹脂が合計で組成物中に5~25質量%配合されることが好ましく、より好ましくは10~20質量%であることがよい。
【0028】
なお、本発明の防食塗料組成物においては、前述のA-1及びA-2成分であるエポキシ樹脂以外にも、本発明の目的の範囲内、特に、難燃性のマグネシウム合金材料に適用する目的の範囲内において、その他の樹脂成分が含まれることが排除されるものではなく、本発明のA-1成分やA-2成分とは反応性を持たないような樹脂成分、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、硝化綿樹脂、ポリエステル樹脂などを含むことができる。
【0029】
<アミン系硬化剤(B)>
本発明の防食塗料組成物において、前記A-1成分の硬化剤として用いられる当該B成分については、アミン系、すなわち、少なくともアミノ基を含むものであって、A-1成分のエポキシ基に対して付加反応を行って硬化を進行させるものである。好ましくは、前記A-1成分のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が、好ましくは1/0.8~1/1.2となるアミン系硬化剤を選択することが好ましい。
【0030】
このようなアミン系硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミドアミン等のポリアミン化合物類やその変性物などを挙げることができるが、常温での使用が可能であって、また、硬化乾燥性や塗装作業性の観点から、好ましくは、脂肪族ポリアミン、ポリアミドアミンが挙げられ、これら1種か、又は2種以上を配合して用いることができる。また、これら脂肪族ポリアミン又はポリアミドアミンを、それぞれエポキシ樹脂と反応させて得られるエポキシアダクト変性物のアミン系樹脂を使用することもできる。脂肪族ポリアミンは耐光性に優れ、また、ポリアミドアミンには基材と塗膜界面の水平方向への錆の広がりを防止できる効果があると推測している。これらのアミン系樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
脂肪族ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、及びこれらの変性ポリアミン等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしては、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン及びこの変性ポリアミン等が挙げられる。ポリアミドアミンとしては、ダイマー酸(不飽和脂肪酸の重合物)またはその他のポリカルボン酸類とポリアミン類とを反応させることで得られるポリアミドアミン等の生成物及びこの変性ポリアミドアミン等が挙げられる。
【0032】
<防錆剤(C)>
本発明の防食塗料組成物においては、主に腐食の広がり等を効果的に抑制する目的において、更に、防錆剤(C)を含むことが好ましい。この防錆剤(C)としては、本発明の目的の範囲内、特に、難燃性マグネシウム合金材料に適用する目的の範囲内であれば公知のものが広く使用できるが、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸ジルコニウム、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム等のリン酸塩や、ケイ酸ストロンチウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸チタニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩や、マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等を使用することができる。特に、防食性に優れることから、リン酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、リン酸アルミニウム及びカルシウムイオン交換シリカを好適に使用することができる。その中でもリン酸マグネシウムがより好適であり、具体的には、BannerChemicals社のピグメンタン465M、ピグメンタンE等が挙げられる。当該防錆剤(C)の含有量は、組成物中において1~10質量%が好ましく、より好ましくは3~5質量%とする。配合形態としては、前記A-1、A-2及びアミン系硬化剤(B)と共に用いるか、或いは、これらとは別封で第三の成分として配合することができるが、混合工程短縮の理由から、好ましくは、予め前記A-1、A-2と共に配合しておくことが良い。
【0033】
また、本発明の防食塗料組成物においては、腐食の要因となる水を塗膜中に呼び込まないためや素材に対する塗膜の付着性を維持するために、シランカップリング剤(D)を、更に含むことが好ましい。このようなシランカップリング剤(D)としては、本発明の目的の範囲内、特に、難燃性マグネシウム合金材料に適用する目的の範囲内であれば公知のものが使用できるが、特に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等のアミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが、素材への付着性を改善する観点において好ましい。当該シランカップリング剤(D)の含有量は、組成物中において0.1~5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.3~2.0質量%とする。配合形態としては、前記C成分と同様に、前記A-1、A-2及びアミン系硬化剤(B)と共に用いるか、或いは、これらとは別封で第三の成分として配合することができるが、混合工程短縮の理由から、好ましくは、予めアミン系硬化剤(B)と共に配合しておくことが良い。
【0034】
なお、前記C~D成分については、それぞれ、1種単独で添加してもよく、又は2種以上を添加することもでき、それぞれ、本発明の目的の範囲内で適宜選択して添加されることが好ましい。
【0035】
<添加剤>
更に、本発明の防食組成物においては、本発明の目的の範囲内、特に、難燃性マグネシウム合金材料に適用する目的の範囲内であれば、必要応じて、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、着色顔料、体質顔料、増粘剤、pH調整剤、分散剤、表面調整剤、ダレ止め剤、消泡剤、沈降防止剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、有機溶剤等など、塗料一般で使用される種々の添加剤を更に含むことができる。
【0036】
<調製・塗装方法>
本発明の防食塗料組成物については、このような配合成分を用いて調製されるものであるが、好ましくは、粗撹拌、媒体を使用した顔料分散、ミルベースと樹脂との溶解のような手順を経て調製することが好ましい。調製された本発明の防食塗料組成物は、前述の通り、金属基材全般に使用することができるが、特に、大型の難燃性マグネシウム合金製の成形物と対象とする。塗装方法としては、対象とする部材の大きさや形状などを勘案して公知の塗装方法を適宜選択することができ、例えば、スプレー塗装、シャワー塗装、静電塗装、電着塗装、粉体塗装、浸漬塗装、ロールコーティング、カーテンフローコーティング、スピンコーティング、刷毛塗りなどを挙げることができる、高速輸送車両のボディなど大型の部材の場合には、乾燥炉や処理槽を用いる方法では設備的な制約を受けることから、このような大型の部材の塗装としては、スプレー塗装、刷毛塗が好適を好適に用いることができる。塗布量としては、適宜調整して、乾燥後の膜厚が50~100μm程度となるように皮膜を形成することが好ましい。
【0037】
上記のような塗装方法の制約などから、本発明の防食塗料組成物は、低温焼付により硬化されるものであることが好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは常温乾燥が可能であることがよい。ここで、常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により異なるが、通常は23℃を指し、強制的な加熱や冷却などの温度操作を行なわないことを指す。
【0038】
本発明の防食塗料組成物については、使用する目的や用途等に応じて、対象とする基材(金属)に対して直接塗布することや、或いは、その前処理として、化成処理膜(例えば、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム、ジルコニウムなどの皮膜)を設ける処理を行ってもよく、例えば、リン酸やフッ酸などの強酸に浸漬する処理やシャワー塗布によってマグネシウム合金を処理する方法が挙げられる。また、脱脂処理やエッチング処理などの前処理を行う場合もある。本発明の防食塗料組成物によって形成される防食塗膜については、その塗膜物性として、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム、ジルコニウム、リン酸鉄であることが好ましい。
【0039】
他方、本発明の防食塗料組成物を下塗りとして、これに対してさらに中塗りや上塗りなどの塗装を重ねることも可能である。本発明の組成物に重ねて塗装する場合には、その目的及び用途などで適宜変更できるものであるが、例えば、車両用の場合にはポリエステルパテやウレタン樹脂系塗料が用いられ、それ以外にも、フッ素樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、硝化綿樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む塗料を、好ましくは1~5回塗装して、塗膜を形成することが好ましい。加飾を目的として、各種エナメル又はクリア塗料等の従来から公知の上塗り塗料も利用可能である。また、目的や用途などにより適宜選択されるものであり限定されないが、好ましくは、形成する塗膜厚の合計は100~200μm以上とすることがよい。
【実施例0040】
<下塗り塗料の調製>
防食塗料組成物である下塗り塗料を、表1及び表2に示す配合に基づき、各種原料をディスパーで混合して製造例1~17を調製した。
なお、表1及び表2で使用した成分のうち、エポキシ樹脂(A-1)、エポキシ樹脂(A-2)及びアミン系硬化剤(B)についての物性は以下の通りである。※1及び※2は分析値を示し、以下に分析方法を示した。それ以外の数値はカタログ値である。
<エポキシ樹脂(A-1)>
・jER834X90〔固形分90質量%、重量平均分子量470、エポキシ当量230~270g/eq.、三菱ケミカル(株)製〕
・jER1001X70〔固形分70質量%、重量平均分子量900、エポキシ当量450~500g/eq.、三菱ケミカル(株)製〕
<エポキシ樹脂(A-2)>
・エピクロンH403-45[固形分45質量%、重量平均分子量22,000(※1)、水酸基価200mgKOH/g、DIC(株)製]
・エピクロンH304-45〔固形分45質量%、重量平均分子量30,000、水酸基価200mgKOH/g、DIC(株)製〕
・アラキード9201N〔固形分40質量%、重量平均分子量50,000、水酸基価245mgKOH/g、荒川化学工業(株)製〕
・エポキー863〔固形分45質量%、重量平均分子量14,000(※1)、水酸基価250mgKOH/g(※2)、三井化学(株)製〕
(※1に係る重量平均分子量の測定)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量。
(※2に係る水酸基価の測定)
樹脂1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を定量し、樹脂固形分の水酸基価を求めた。
<アミン系硬化剤(B)>
・ダイトクラール HD-Q〔脂肪族ポリアミン、固形分60質量%、理論活性水素当量415g/eq.、アミン価125mgKOH/g、大都産業(株)製〕
・トーマイド TXP-696〔ポリアミドアミン、固形分80質量%、活性水素当量95g/eq.、アミン価330mgKOH/g、(株)T&K TOKA製〕
【0041】
【0042】
【0043】
<上塗り塗料の調製>
以下の表3に示す配合に基づき、各種原料をディスパーで混合し、上塗り主剤を調製した。また、表4に示す配合に基づき、各種原料をディスパーで混合し、上塗り硬化剤を調製した。その後、上塗り主剤中のワニス由来の水酸基と上塗り硬化剤中のイソシアネート樹脂由来のイソシアネート基との当量比が1:1となるように混合し、上塗り塗料を調製した。
【0044】
【0045】
【0046】
<試験片の作成>
マグネシウム合金(三協マテリアル社製のAZX611)を、150mm×70mm×厚さ3mmに切り、基材を作成した。その後、上記で調製した各製造例の下塗り塗料を、乾燥膜厚が50μmになるようにエアスプレーで塗装し、23℃で16時間乾燥させて、下塗り塗膜を形成した。
その後、形成した下塗り塗膜に対して、上記で調製した上塗り塗料を、乾燥膜厚が50μmになるようにエアスプレーで塗装し、23℃で7日間乾燥させて、上塗り塗膜を形成し、各試験片とした。
このようにして得られた各試験片を用いて、塗膜の付着性及び防食性等を後述の方法を用いて評価した。
【0047】
<付着性>
JIS K 5600-5-6(付着性クロスカット法)に従い、塗装直後の初期付着性と、JIS K 5600-6-2(耐液体性水浸漬法)の条件で実施した40℃温水浸漬試験後の付着性を、下記の基準で評価した。
◎:塗膜がカットからはがれがない。及び/又ははがれの範囲は5%未満。
○:塗膜がカットの縁に沿ってはがれている。その範囲は5%以上15%未満。
△:塗膜がカットの縁に沿ってはがれている。その範囲は15%以上35%未満。
×:塗膜がカットの縁に沿ってはがれている。その範囲は35%以上。
【0048】
<塩水噴霧試験>
JIS K 5600-7-1(耐中性塩水噴霧性)に従い、480時間後の塗膜表面の様子を目視で確認した。
◎:クロスカットからの塗膜のフクレ、剥がれが2mm以内、かつ糸錆の発生なし。
○:クロスカットからの塗膜のフクレ、剥がれが2mm以内、かつ糸錆の発生3本以下。
△:クロスカットからの塗膜のフクレ、剥がれが5mm以内、かつ糸錆の発生6本以下。
×:クロスカットからの塗膜のフクレ、剥がれまたは糸錆の発生が著しい。
【0049】
<耐湿試験>
JIS K 5600-7-2(耐湿性連続結露法)に従い、480時間後の塗膜表面の様子を目視で確認した。
◎:塗膜表面に異常なし。
○:塗膜表面にフクレ無し、かつ若干の艶引けが発生した。
△:塗膜表面に5個以上のフクレ、かつ艶引けが発生した。
×:塗膜表面全体にフクレが発生した。
【0050】
<塗装作業性(常温硬化性)>
エアスプレーにより規定の膜厚塗装し、常温で7日間乾燥した塗膜をJIS K 5600-3-6(不粘着乾燥性)に従い、評価した。
○:常温で乾燥後、完全に硬化し、耐湿試験槽内温度(50℃)で軟化しない。
△:常温で乾燥後、塗膜に粘着性残らないが、耐湿試験槽内温度(50℃)で軟化する。
×:常温で乾燥後、塗膜に粘着性が残る。
【0051】
<評価結果>
評価結果を表5、表6に示す。
【0052】
【0053】