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特開2023-138592変化幅の小さい引張応力領域を備える安全強化ガラス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138592
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】変化幅の小さい引張応力領域を備える安全強化ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230922BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20230922BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20230922BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20230922BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/097
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122537
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2021177086の分割
【原出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】202011193636.4
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521475495
【氏名又は名称】重慶▲シン▼景特種玻璃有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】覃 文城
(72)【発明者】
【氏名】胡 偉
(72)【発明者】
【氏名】談 宝権
(72)【発明者】
【氏名】姜 宏
(57)【要約】
【課題】変化幅の小さい引張応力領域を備える安全強化ガラスを提供する。
【解決手段】圧縮応力と引張応力の変化曲線が特定の関数関係を満たす化学強化ガラスで、0.45-0.85mmの範囲内で、応力分布は、応力曲線が、圧縮応力の上限Fmaxが式(1):Fmax=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、圧縮応力の下限Fminが式(2):Fmin=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たす、Log-PI関数範囲内にある、;又は、第1応力領域と第2応力領域とを含み、第1応力領域の第1区分で、応力範囲は、ガラスの厚さtが0-10μmである領域における応力差値で、最小値が1MPaより大きく;第2応力領域は第1応力領域より圧力差値が小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.45-0.85mmのガラスの厚さの範囲内で、応力分布は、
応力曲線が、
圧縮応力の上限Fmaxが式(1):Fmax=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fmaxはガラスの圧縮応力の最大値を表し、bの値は-81、aの値は1.11×10、wは1.985、cの値は-60.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、PIは定数の戻り値3.14159265358979であり、
圧縮応力の下限Fminが式(2):Fmin=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fminはガラスの圧縮応力の最小値を表し、bの値は-120.94、aの値は1.11×10、wは1.3、cの値は-72.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、
応力点の深さとはガラスの表面からガラスの中心に食い込む深さである、Log-PI関数範囲内にあり、
SiOとAlの総mol%含有量が80mol%より大きく、NaOはmol%基準で1.5-5%であり、LiOはmol%基準で5.5-12%であり、NaO+LiOはmol%基準で7-18%であり、
前記ガラスの単位長さ当たりの引張応力CT-LDは30000-60000MPa/mmであり、前記引張応力の領域の最高値CT-CVは100MPaより小さい、
条件を満たす化学強化ガラス。
【請求項2】
前記引張応力領域の最高値CT-CVは90MPaより小さい、
請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
製造原料はmol%基準で、
SiO 55-75%、Al 8-22%、B 0-5%、P 0-5%、MgO 1-8%、ZnO 0-2%、ZrO 0-2%、TiO 0-2%、NaO 0-5%、LiO 4-13%、KO 0-5%、SnO 0.1-2%である、比率の酸化物を含む、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
製造原料はmol%基準で、
SiO 61-70%、Al 10-19%、B 0%、P 0%、MgO 2-6%、ZnO 0-1%、ZrO 0.5-1%、TiO 0.5-1%、NaO 2-5%、LiO 5.5-12%、KO 1-2.8%、SnO 0.1-0.4%である、比率の酸化物を含む、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
MgOはmol%基準で2-7.5%である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
LiOはmol%基準で8-12%であり、
又は、NaO+LiOはmol%基準で10.5-14%であり、
又は、MgOはmol%基準で2.5-5%である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
製造原料は清澄剤として酸化スズ及び/又は塩化ナトリウムをさらに含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
前記清澄剤として酸化スズ及び/又は塩化ナトリウムの両者の含有量が0.4-1mol%である、請求項7に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
ビッカース硬さは負荷300gで圧力保持10sの条件下で、600-630である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
ヤング率は80GPa以上である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
原子充填密度は0.531より大きい、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項12】
誘電率は5.5-7.5である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項13】
分枝閾値は化学強化ガラスのCT-LDmaxの60%以上であり、又は、帯状痕閾値は化学強化ガラスのCT-LDmaxの50%以上である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項14】
単位長さ当たりの引張応力CT-LDは35000より大きく、
60000MPa/mmを超えない、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項15】
単位長さ当たりの引張応力CT-LDは35000より大きく50000MPa/mmを超えない、請求項14に記載の化学強化ガラス。
【請求項16】
1段階強化であり、NaNOとKNOの混合物の塩浴を用い、前記混合物におけるKNOの質量含有量は30-95wt%であり、
前記混合物温度は390-460℃である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項17】
前記混合物におけるKNOの質量含有量は80-90wt%であり、
前記混合物の温度は400-450℃であり、5-10hのイオン交換を行うことである、請求項16に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項18】
多段階強化であり、第1段階の強化で、ガラスの拡大縮小率は総拡大縮小率の80%以上に達し、前記総拡大縮小率が最終段階の強化が終了した後の拡大縮小率である、請求項1-6のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変化幅の小さい引張応力領域を備える安全強化ガラスに関し、ガラス基材の引張応力領域で変化速度が緩やかで段階的であり、増加幅が大きくないため、引張応力領域は安全性を有し、使用中にガラスが安定的である。電子ディスプレイデバイスに適し、特に電子ディスプレイデバイスでカバーして保護すべき領域に適する。
【背景技術】
【0002】
化学強化ガラスは高温イオン交換プロセスで、高温の溶融塩中の大きいアルカリ金属イオンがガラス中の小さいアルカリ金属イオンを置換するイオン交換で体積差が生じて、ガラスの表層に漸次低減する引張応力が発生して、ガラスにおける微小亀裂の拡張を抑えて遅らせることで、ガラスの機械的強度が向上しているものである。
【0003】
化学強化ガラスの引張応力領域がガラスの安定性に影響を与え、ガラスが衝撃を受けると、内部の引張応力によりガラスが割れる恐れがあり、その変化幅が大きいと、小さな衝撃でもガラスが割れてしまい、ガラスの強度の安定性が損なわれる。その結果、ガラス製品の性能が不安定で、使い心地が損なわれ、大量生産も難しい。
【0004】
当節は化学強化ガラスの強化基準と安全性の判断については好適な方法がまだない。時には両者が相反する関係にあるため、一方的にガラスの強化向上を求めると、許容限界を超えてガラスが不安全になる可能性が高い。しかもガラスの特性が発揮できる最適な応力状態からずれてしまう。強化の程度が不十分であると、ガラスの最大強化が果たされずガラスの強度向上に余地が残る。
【0005】
化学強化ガラス自体の構造強度が不十分で、引張応力が大きすぎる場合に、わずかな衝撃でも爆発のように割れてしまい、自ら爆発することさえある。製品の信頼性と安全性が大きく損なわれる。引張応力と圧縮応力が同伴するようなもので、化学強化ガラスには高い機械的強度を保つためにある程度は圧縮応力が必要であるため、内部の引張応力が伴う。とはいえ、内部の応力はその分布により最適な状態にすることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の化学強化ガラスには高い機械的強度と適切な引張応力の両立ができず、強度の安定性が不十分で、強化の程度が不十分で、爆発を伴って割れやすいなどの問題がある。
【0007】
本発明は前記技術上の問題を解決するためになされたもので、変化幅の小さい引張応力領域を備える安全強化ガラスを提供することを目的とする。前記ガラスの深層の圧縮応力領域では応力が高いため、落下破損防止性能を効果的に高めることができ、しかも引張応力領域で変化幅が非常に小さいため、安定性と安全性に優れる。当該ガラスはより高い機械的強度を有し、特に落下破損防止性能を発揮できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明は以下の技術的解決手段を提供する。
本発明の一態様では、0.45-0.85mmの範囲内で、応力分布は、
応力曲線が、
圧縮応力の上限Fmaxが式(1):Fmax=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fmaxはガラスの圧縮応力の最大値を表し、bの値は-81、aの値は1.11×10、wは1.985、cの値は-60.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、PIは定数の戻り値3.14159265358979であり、
圧縮応力の下限Fminが式(2):Fmin=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fminはガラスの圧縮応力の最小値を表し、bの値は-120.94、aの値は1.11×10、wは1.3、cの値は-72.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、
応力点の深さとはガラスの表面からガラスの中心に食い込む深さである、前記Log-PI関数範囲内にある、前記条件を満たす化学強化ガラスが提供される。
【0009】
本発明の別の態様では、応力分布が、
第1応力領域と第2応力領域とを含み、第1応力領域は圧縮応力領域で、第2応力領域は引張応力領域であり、
第1応力領域の第1区分で、応力範囲は、ガラスの厚さtが0-10μmである領域における応力差値で、最小値が1MPaより大きく、好ましくは5MPaより大きく、より好ましくは10MPaより大きく、最大値が100MPaより小さいことで、前記応力差値は前0.5μmでの圧縮応力と後0.5μmでの圧縮応力(CS)との差の絶対値であり、第1応力領域の第2区分はガラスの厚さにおける0.03TからDOL-0-1で、DOL-0-2から0.97Tでの領域であり、前記領域の応力差値は0.4-5MPaであり、好ましくは0.5-3.5MPaであり、
第2応力領域は第1応力領域より圧力差値が小さく、前記第2応力領域が第1区分備え、前記第1区分はDOL-0-1から0.4Tで、0.6TからDOL-0-2での領域であり、前記領域の応力差値は1MPaより小さく、好ましくは0.8MPaより小さく、より好ましくは0.5MPaより小さく、且つ、前記第2応力領域が第2区分を備え、範囲は0.4T-0.6Tで、応力差値が0.2MPaより小さく、好ましくは0.1MPaより小さく、
そのCT-LDが35000MPaより大きく、好ましくは帯状痕閾値と分枝閾値との間にある、前記特徴を有する応力分布を備える、前記条件を満たす化学強化ガラスが提供される。
【0010】
好ましくは、前記化学強化ガラスの製造原料はmol%基準で、
SiO 55-75%、Al 8-22%、B 0-5%、P 0-5%、MgO 1-8%、ZnO 0-2%、ZrO 0-2%、TiO 0-2%、NaO 0-5%、LiO 4-13%、KO 0-5%、SnO 0.1-2%である、前記比率の酸化物を含む。
【0011】
好ましくは、前記化学強化ガラスの製造原料はmol%基準で、
SiO 61-70%、Al 10-19%、B 0%、P 0%、MgO 2-6%、ZnO 0-1%、ZrO 0.5-1%、TiO 0.5-1%、NaO 2-5%、LiO 5.5-12%、KO 1-2.8%、SnO 0.1-0.4%である、前記比率の酸化物を含む。
【0012】
好ましくは、前記化学強化ガラスで、SiOとAlの総mol%含有量が80mol%より大きく、
又は、NaOはmol%基準で1.5-5%であり、
又は、LiOはmol%基準で5.5-12%であり、好ましくは8-12%であり、
又は、NaO+LiOはmol%基準で7-18%であり、好ましくは10.5-14%であり、
又は、MgOはmol%基準で2-7.5%であり、好ましくは2.5-5%である。
【0013】
好ましくは、前記化学強化ガラスの前記製造原料は清澄剤として酸化スズ及び/又は塩化ナトリウムをさらに含み、好ましくは両者の含有量が1mol%を超えず、より好ましくは0.4-1mol%である。
【0014】
好ましくは、前記化学強化ガラスのビッカース硬さは負荷300gで圧力保持10sの条件下で、600-630kgf/mmである。
【0015】
好ましくは、前記化学強化ガラスのヤング率は80GPa以上である。
【0016】
好ましくは、前記化学強化ガラスの原子充填密度は0.531より大きい。
【0017】
好ましくは、前記化学強化ガラスの誘電率は5.5-7.5である。
【0018】
好ましくは、前記化学強化ガラスの分枝閾値はそのCT-LDmaxの60%以上であり、又は、帯状痕閾値はそのCT-LDmaxの50%以上である。
【0019】
好ましくは、前記化学強化ガラスの拡大縮小率は総拡大縮小率の80%以上に達している。
【0020】
好ましくは、前記化学強化ガラスの単位長さ当たりの引張応力CT-LDは30000-60000MPa/mmであり、好ましくは35000-50000MPa/mmである。
【0021】
好ましくは、前記化学強化ガラスのCS-30は式:CS-30=a×exp(-T/b)+cを満たし、
CS-30は強化ガラスの表面から深さ30μmでの圧縮応力であり、
式中、aは-485、bは0.5、cは278+(+40/T又は-40T)であり、Tは強化ガラスの厚さで、単位はmmである。
【0022】
本発明の別の態様では、任意の前記化学強化ガラスの製造方法として、1段階強化又は多段階強化である製造方法が提供される。
【0023】
前記化学強化ガラスの製造方法で、前記1段階強化の場合はNaNOとKNO塩浴を用い、混合物におけるKNOの質量含有量は30-95wt%であり、好ましくは80-90wt%である。
【0024】
好ましくは、前記溶融混合物の温度は390-460℃であり、好ましくは400-450℃であり、5-10hのイオン交換が好ましい。
【0025】
好ましくは、前記化学強化ガラスの製造方法で、前記多段階強化は2段階の強化を含み、第1段階では75-100wt%のNaNO塩浴を用い、第1段階の温度は425-430℃が好ましく、3-7hのイオン交換が好ましく、第2段階では0-10wt%、好ましくは3-10wt%のNaNO塩浴を用い、第2段階の温度は430-440℃が好ましく、1-3hのイオン交換が好ましい。
【0026】
本発明の別の態様では、任意の前記製造方法で製造される化学強化ガラスが提供される。
【0027】
本発明の別の態様では、携帯電話のディスプレイスクリーン、タブレットコンピュータのディスプレイスクリーン、携帯型ゲーム機、携帯型デジタルデバイスのディスプレイスクリーンにおける任意の前記化学強化ガラスの用途が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の化学強化ガラスはその圧縮応力と引張応力の変化曲線が上述した特定の関数関係を満たしており、その深層の圧縮応力領域で応力が高く、引張応力領域で変化幅が非常に小さいため、当該ガラスは機械的強度に優れる一方、安定性と安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は本発明のガラスで圧縮応力が引張応力に変わるまではDOLが大きくなると圧縮応力が低減する変化特性を示す曲線図である。
図2図2は本発明の実施例6のガラスにおける応力点の深さに従う応力の変化を示す曲線図である。
図3図3は本発明のガラスにおける応力点の深さの変化に従う応力の変化規則の模式図である。
図4図4は本発明の実施例と比較例に係るガラスを圧裂した時に断面に帯状痕が生じた状態の模式図である。
図5図5は本発明の実施例と比較例に係る4点屈曲によるガラス耐屈曲試験の模式図である。
図6図6は本発明の実施例と比較例に係るガラス落下破損防止性能の測定方法の模式図である。
図7図7は本発明のガラスにおけるイオン交換の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は以下の応力特性を備える化学強化ガラスを提供し、当該化学強化ガラスは機械的強度に優れる一方、安定性と安全性が高い。
【0031】
応力曲線分布が下記の2つの条件のいずれかを満たし、好ましくは下記の2つの条件の両方を満たす化学強化ガラスであって、
(1)応力曲線が下記のLog-PI関数範囲にあり、
圧縮応力の上限Fmaxが式(1):Fmax=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fmaxはガラスの圧縮応力の最大値を表し、bの値は-81、aの値は1.11×10、wは1.985、cの値は-60.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmである。PIは定数の戻り値3.14159265358979である。
【0032】
圧縮応力の下限Fminが式(2):Fmin=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fminはガラスの圧縮応力の最小値を表し、bの値は-120.94、aの値は1.11×10、wは1.3、cの値は-72.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmである。
【0033】
応力点の深さとはガラスの表面からガラスの中心に食い込む深さである。
【0034】
具体的には、前記条件を満たす応力曲線は図1に示すようなもので、横軸DOLはガラス製品の応力点の深さを表し、当該応力点の深さは一般にDOC(ガラス製品内で圧縮応力が引張応力に変わる箇所の深さ)より小さい。図1から分かるように、本発明のガラスの応力曲線で圧縮応力が引張応力に変わるまでは、応力下限変化曲線に比べて低減の勾配が低く、応力上限曲線に比べて高い。
【0035】
又は、(2)前記化学強化ガラスは次の特性を有する応力分布を備える。第1応力領域と第2応力領域とを含み、第1応力領域は圧縮応力領域で、第2応力領域は引張応力領域である。第1応力領域の第1区分で、応力範囲は、ガラスの厚さtが0-10μmである領域における応力差値で、最小値が1MPaより大きく、好ましくは5MPaより大きく、より好ましくは7MPaより大きく、さらに好ましくは10MPaより大きい。最大値が100MPaより小さい。
【0036】
前記応力差値は前0.5μmでの応力と後0.5μmでの応力(化学強化ガラスの表面圧縮応力、略称CS)との差の絶対値である。
【0037】
第1応力領域の第2区分はガラスの厚さにおける0.03TからDOL-0-1で、DOL-0-2から0.97Tでの領域であり、前記領域の応力差値は0.4-5MPaであり、好ましくは0.5-3.5MPaである。DOL-0は応力が0である時の深さである。ガラスは2つの面を有するため、応力曲線が2つで互いに対称であり、その一方(ガラスの半分を説明する。DOL-0-1は正面の応力分布の境界点で、DOL-0-2は背面の応力分布の境界点である。
【0038】
前記第1応力領域の第1区分は主にカリウム-ナトリウム交換で生じた応力で、圧縮応力(CS)は高いレベルに到達することができるが、低減が激しく、応力層が浅いため、表面の耐擦傷に効果はあるが、耐衝撃には不十分である。そのため、表面CSが非常に高いことは求めず、応力が均一に変化するのが好ましく、本発明の化学強化ガラスは応力差値を100MPaより小さくすることによって、化学強化で表面CSと内部の応力差値が大き過ぎると、微小亀裂が拡張しやすく、ガラスの耐衝撃と耐屈曲性能が低下することを緩和する。第1応力領域の第1区分をこのとおりに限定する。
【0039】
落下破損防止試験で破壊は砂利などの尖った物体の衝撃による破壊が主で、当該試験で衝撃の深さは一般に30-40μmで、先端で亀裂が広がり、引張応力領域まで広がると、亀裂が伸びることで割れやすい。ガラスの深層応力領域の応力の大きさと応力分布が落下破損防止試験で衝撃に耐える重要な要因である。ガラスの30μmでの応力CS-30の設定はとりわけ重要で、第1応力領域の第2区分で、CS-30に圧縮応力が高く、しかも応力差値の変化幅が小さいことが好ましく、これは先端の亀裂の広がりを抑えて、ガラスの落下破損防止性能を向上させるために役立つ。
【0040】
具体的には、本発明の化学強化ガラスの応力分布に係る好ましい実施形態は図2に示すとおりである。
【0041】
第2応力領域は引張応力領域で、当該領域が第1応力領域より範囲が大きいのは、亀裂の拡張を促す効果がある。そのため、最初から増加の段階までは、増加幅が一層小さく、応力差値が一層小さいのが好ましく、その緩やかな増加で、引張応力領域が備わるネットワーク構造が亀裂を抑えることに役立つ。しかも引張応力領域の応力が緩やかに増加し、急激に変わることはなく、応力の集中が起こらないので、耐衝撃性能と安定性の向上に一層役立つ。そのため、引張応力領域は下記の条件を満たすべきである。
【0042】
前記第2応力領域は第1応力領域より応力差値が小さい。
【0043】
前記第2応力領域が第1区分備え、前記第1区分はDOL-0-1から0.4Tまで、0.6TからDOL-0-2までのである。前記領域の応力差値は1MPaより小さく、好ましくは0.8MPaより小さく、より好ましくは0.5MPaより小さい。前記第2応力領域は第2区分を備え、範囲は0.4T-0.6Tで、応力差値が0.2MPaより小さく、好ましくは0.1MPaより小さい。
【0044】
0T-0.5T又はT-0.5Tでは、応力差値が漸次低減する。
【0045】
前記化学強化ガラスの単位長さ当たりの引張応力CT-LDは30000-60000MPa/mmであり、好ましくは35000-50000MPa/mmである。前記引張応力領域の最高値CT-CVは100MPaより小さく、好ましくは90MPaより小さい。CT-CVは引張応力領域CTの1つの測定値で、一般にはCTの最大値であり、ガラスの中心の引張応力であり、略称はCT-CVである。
【0046】
前記CSは500MPaより大きく、FSm-6000で測定したカリウム-ナトリウム交換で生じた応力の深さDOL-Tail(カリウム-ナトリウム交換で生じた応力の深さ)は6μmより小さい。
【0047】
カリウム-ナトリウム交換は主に2回目の強化で起こるため、カリウム-ナトリウムイオン交換が高度なものであると、ナトリウム-リチウム交換でガラス中の一部のナトリウムイオンが移動することで、1回目の交換で生じた深層応力が弱まり、ガラスの落下破損防止性能が損なわれる。そのため、前記強化ガラスの応力の深さDOL-Tailは6μmより小さい。カリウム-ナトリウム交換がさほど高度なものではない。
【0048】
前記化学強化ガラスのCS-30は式:CS-30=a×exp(-T/b)+cを満たし、CS-30は強化ガラスの表面から深さ30μmでの圧縮応力であり、
式中、aは-485、bは0.5、cは278+(+40/T又は-40T)であり、Tは強化ガラスの厚さで、単位はmmである。
【0049】
本発明者は、前記応力特性を満たす化学強化ガラスを得るために、以下のガラス基材成分とその特性を特定した。
ガラス基材成分は以下のとおりである。
【0050】
本発明者は前記ガラスを得るために、鋭意検討を経て、表1に記載のガラスの構成(成分はmol%基準)を提供する。
【表1】
【0051】
表1に記載のガラスの配合では、ネットワークを構成するのは主にはSiOとAlで、ガラスにネットワーク構造が多ければ架橋酸素の数量が増え、特にSiOが多いと、従来のリチウム-アルミニウム-ケイ素ガラスの誘電率を効果的に低減できる。しかもガラスにおけるネットワーク構造の強度を高めることができ、ネットワーク構造の強度が高いとイオン交換による応力緩和効果の低減に役立ち、イオン交換で高温、長時間などのため複合圧縮応力のうち深層応力が低減することが緩和され、これにより前記ガラスにはより少ないアルカリ金属イオン、含有量の低いアルカリ金属成分で、高温下で1回の二元イオン交換を行うことで、一定の深さを有し、単位長さ当たりの引張応力が高い複合圧縮応力を得ることは保証できよう。ネットワーク構造に遊離するアルカリ金属イオンの含有量の低減は誘電率の低減に役立つ。
【0052】
前記化学強化ガラスで、SiOとAlの総量は80mol%より大きい。
【0053】
はガラスの二次的ネットワーク構造で、それを加えるとガラスの高温溶融を促し、溶融しやすくすることができ、しかもBを加えるとガラスにおけるイオン交換速度を加速させることができ、ただしホウ素がネットワーク構造を弱める恐れがある。そのため、Bの添加量は0-5%とする。
【0054】
NaOはイオン交換に関与する主な成分で、表面に高い圧縮応力を生成させるための重要な交換イオンではあるが、ガラスの分枝閾値と帯状痕閾値を下げる一面もあり、ガラスのCT-Ldmaxの向上には好ましくないため、NaOの含有量はmol%で好ましくは0-5%で、より好ましくは1.5-5%で、さらに好ましくは3-5%である。
【0055】
LiOはイオン交換に関与する主な成分で、深層の圧縮応力を生成させるための重要な交換イオンである。LiOの含有量は好ましくは5.5-12%で、より好ましくは8-12%である。
【0056】
NaO、LiOがアルカリ金属酸化物で、ガラスの内部で遊離の状態であるため、余剰の酸素イオンで架橋酸素が切れて、ネットワーク構造が割れると、ガラスの誘電率が上昇し、しかも過剰のアルカリ金属原子数でガラスの誘電損失が増えるため、NaO+LiOは7-18%とし、好ましくは10.5-14%とする。
【0057】
Oはイオン交換に関与する主な成分で、ガラスの誘電率を効果的に調整することができ、カバーガラスのタッチ特性により誘電率が過度に低いのは好ましくなく、5G通信で誘電率が過度に高いのも望ましくないので、KOでガラスの誘電率を調整することが考えられ、少量の添加ではカリウム-ナトリウム、ナトリウム-リチウムイオン交換に影響はない。KOは0-5%とする。
【0058】
MgOはネットワーク中間体として、ガラスの高温粘度を下げ、ヤング率を増やす役割を有する。一方、アルカリ土類金属とアルカリ金属はガラスにおける電流の主なキャリアであるため、多く含めるとガラスの誘電率と誘電損失が格段と上がるため、しかも異なるアルカリ金属とアルカリ土類金属の導入でアルカリ又はアルカリ土類が混合して、ガラスの誘電特性を損なうため、MgOは好ましくは2-7.5%とし、より好ましくは2.5-5%とする。
【0059】
前記ガラス基材の製錬温度が1630-1700℃であるため、清澄剤は酸化スズ及び/又は塩化ナトリウムを使用し、両者の含有量は1mol%を超えない。
【0060】
前記配合のガラスの製錬温度は1630-1700℃であり、
ビッカース硬さは負荷300gで圧力保持10sの条件下で、600-630である。
【0061】
ビッカース硬さが高い方はガラスの耐擦傷特性の向上に役立ち、
前記化学強化ガラスのヤング率は80GPa以上である。
【0062】
前記化学強化ガラスの原子充填密度は0.531より大きく、原子充填密度は配合と化学強化ガラスの密度から計算される。
【0063】
前記化学強化ガラスの誘電率は5.5-7.5である。
【0064】
カバーガラスを使用する場合に、誘電率が過度に低いとタッチ性能が低下し、誘電率が過度に高いと5G通信信号に影響がある。
【0065】
リチウム-アルミニウム-ケイ素ガラスでは、ナトリウム-リチウム交換が塩浴中のリチウムイオンに高度に敏感で、わずかなリチウムイオンでもナトリウム-リチウム交換性能に深刻な影響があり、深層の圧縮応力とCT-LDmaxが低下し、その結果落下破損防止性能が弱まる。塩浴中のリチウムイオンの殆どがナトリウム-リチウム交換でガラスから取り出されたものである。
【0066】
関連の試験を重ねて、本発明のガラス基材におけるリチウムイオンの取り出し特性を次のとおりに確定した。前記ガラス基材は100%硝酸ナトリウム×440℃×5hの条件下で(100%硝酸ナトリウム塩浴で、強化温度440℃で5h強化することを意味する)、100kgの塩浴で、1平方メートル当たりナトリウム-リチウム交換で塩浴に放出したリチウムイオンが塩浴全体の質量で100ppmを超えない。
【0067】
前記ガラス基材(強化前)の分枝閾値はそのCT-LDmaxの60%以上であり、帯状痕閾値はそのCT-LDmaxの50%以上である。5%硝酸ナトリウム+95%硝酸カリウムの塩浴において、440℃で1h強化すると、FSm-6000で測定したCSは450MPa以上で、DOL-tailは3μmより大きい。
【0068】
前記ガラスが断裂する過程で、引張応力で断面に生じた破壊領域は帯状痕のように現れる。前記帯状痕閾値とは瞬時断裂させてガラスの断面に帯状痕が生じた時の、ガラスの単位長さ当たりの引張応力である。前記分枝閾値とは瞬時断裂させてガラスの断面に分枝が生じた時の、ガラスの単位長さ当たりの引張応力である。前記単位長さ当たりの引張応力(CT-LD)とはガラスの厚さ方向の断面における引張応力の積分と厚さの比の値である。
【0069】
前記特性を有する化学強化ガラスを得るために、以下の強化方法を用いる。
【0070】
本発明のガラスはリチウム-ケイ素-アルミニウムガラスで、K-Na、Na-Li二元イオン交換を行って複合圧縮応力層を形成させる。Liの半径が小さいため、ガラスのネットワーク構造において移動及び交換しやすい。イオン交換強化は例えば2段階で多段階として行ってもよいし、1段階で行ってもよい。
【0071】
多段階方式の場合は、第1段階の強化で、塩浴における硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの総量に前記硝酸ナトリウムの占めるモル比が、前記ガラス成分におけるNaO/LiO+NaO+KOのモル比の値より大きく、ガラスの拡大縮小率は総拡大縮小率の80%以上に達し、最終段階の強化で、塩浴における硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの総量に前記硝酸ナトリウムの占めるモル比が、前記ガラス成分におけるNaO/LiO+NaO+KOのモル比の値より小さく、ガラスの拡大縮小率は1.5-2‰とする。前記ガラス拡大縮小率とは、強化後にサイズが膨張する化学強化ガラスにおける、膨張量と膨張前サイズとの比の値である。
【0072】
具体的には、化学イオン交換強化は2段階の場合に次のとおり行わってもよい。(1)第1段階では、NaNO含有量(wt%)が30-100%であるNaNOとKNOからなる混合溶融塩においてイオン交換を行い、Na-Li交換が主で(ガラスからLiを取り出す)、DOL-0が>120μmと非常に深い。(2)第2段階では、NaNO含有量(wt%)が0-10%で、好ましくは3-10wt%であるNaNOとKNOからなる混合溶融塩においてイオン交換を行い、K-Na交換が主で(ガラスからNaを取り出す)、高い表面圧縮応力を得る。2段階の完了後、ガラスの表面には厚い複合圧縮応力層が形成される。
【0073】
本発明のガラスに係る前記化学イオン交換強化は次のとおりに1段階で行ってもよい(以下、1段階方式又は1回方式という)。1段階の場合は、塩浴は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩浴で、塩浴における硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの総量に前記硝酸ナトリウムの占めるモル比が、前記ガラス成分におけるNaO/LiO+NaO+KOのモル比の値より小さく、且つNaOの全成分に占めるmol%より大きく、一般にはKNO含有量(wt%)が30-100%のNaNOとKNOの混合溶融塩においてイオン交換を行い、強化温度は390-460℃である。強化ガラスの拡大縮小率は1.5-2‰とする。
【0074】
前記方式の強化では、各段階の強化の塩浴において、リチウムイオンが塩浴の全アルカリ金属イオンに占めるモル比は0.25%未満である。これは塩浴中のリチウムイオンはカリウム-ナトリウム、ナトリウム-リチウム交換を阻止するイオンで、わずかな存在でもイオン交換を大幅に弱め、強化効果を損なうためである。
【0075】
前記化学強化を行う前には、300-400℃の予熱工程を行う必要があり、時間は10-30minで、多段階強化の各段階の間には350-500℃の熱移動工程を行う必要があり、時間は15-120minである。
【0076】
前記1段階強化又は多段階強化においては、各段階の塩浴においてバッチ単位で連続強化を行う場合、バッチの表面CSが最初の10-20%に低減すると、ガラスの強化を終了し、各段階の塩浴においてバッチ単位で連続強化する場合、バッチの表面CSが最初の5-20%に低減すると、強化を終了する。
【0077】
以下、実施例を用いて本発明の化学強化ガラスの製造方法及び本発明の化学強化ガラスの応力特性を詳細に説明する。
【0078】
具体的な操作例:
[実施例1]
1650℃下で、配合1の成分比率で各原料(産業用の通常原料)を白金製坩堝に取り合わせて溶融させた後、清澄剤として塩化ナトリウムを用いて消泡清澄処理を行った後、300℃に予熱した(一般に200-400℃に予熱してよい)ステンレス鋼金型に注入し、650℃のマッフル炉に入れて24hアニーリングした後、切断、CNC(computer numerical control、コンピュータ数値制御)下で工作機械による加工を行って、研磨して鏡のように滑らかな平面ガラスを得た。前記加工後の平面ガラスのサイズは50×50×0.7mmで、サンプルとした。
【0079】
続いて、音波を利用して前記サンプルのヤング率を測定し、装置は高温弾性率試験機IET-1600Pであった。
【0080】
誘電率試験機ITACA&AETを用いてその誘電率を測定した。
【0081】
上記のように加工した所定サイズのサンプルを、高ナトリウム含有塩に入れて強化させ、一定の時間が経つごとに取り出して応力を測定し、折原製作所製の屈折計型ガラス表面応力計FSM-6000LE、散乱光光弾性応力計SLP-1000を用いて強化サンプルの表面の高応力領域と内部の深層応力をそれぞれ測定した。そのCT値は放物線のように変化した。つまり早く最高点に上がったら、強化を続けると、徐々に低減していく。CT-LDの方もこのように変化し、最高点に対応する値はCT-LDmaxである。
【0082】
応力計SLP-1000を用いる測定では、光弾性係数及び屈折率を設定して表面圧縮応力、圧縮応力の深さ及び引張応力領域の最高値CT-CVの通常測定を行い、単位長さ当たりの引張応力は計算値であり、応力計SLP-1000で測定した引張応力の和をガラスの厚さで割る。
【0083】
表面圧縮応力(MPa)は次のとおりに定義する。ガラスの化学強化後、表面における半径の小さいアルカリ金属イオンが半径の大きいアルカリ金属イオンに置き換えられ、半径の大きいアルカリ金属イオンが詰め込まれると、ガラスの表面に圧縮応力が生じ、これを表面圧縮応力という。
圧縮応力の深さ(μm)とは、化学強化ガラスの表面から圧縮応力が0である位置までの距離である。
単位長さ当たりの引張応力CT-LDとは、SLP応力計で測定したガラスの厚さ方向の断面における引張応力の積分と厚さ的比の値である。図3に示すように、強化後のサンプルは図示の応力分布曲線を有し、引張応力の積分は引張応力領域の面積である。
【0084】
帯状痕閾値とは、瞬時断裂させてガラスの断面に帯状痕が生じた時のガラスのCT-LD値である。
【0085】
分枝閾値とは、瞬時断裂させてガラスの断面に分枝が生じた時のガラスのCT-LD値である。
【0086】
ガラスの限界試験で、強化時間が増すにつれて、その内部応力は大きくなる。具体的にはCT-LDが増えることである。CT-LDが所定値になったら、ビッカース硬さ基準の圧子で圧裂させて、断面には図4のような帯状痕が生じる。ガラスを圧裂させて断面にちょうど帯状痕が生じる時のCT-LDを帯状痕閾値という。
【0087】
サンプルに帯状痕が生じた後、強化を続けて応力を増やして、ビッカース硬さ基準の圧子で圧裂させた場合、接触箇所から亀裂が広がって、そして分枝する。ガラスを圧裂させて断面にちょうど亀裂の分枝が生じる時のCT-LDを分枝閾値という。
【0088】
前記限界試験の過程は次のとおりである。ガラスサンプルを用時調製した純粋な硝酸ナトリウム塩浴に入れて、430℃で強化し、30minごとにガラスを取り出して、温度が100℃以下に下がると、サンプルを室温の水で洗い、そして表面の水分を乾かし、SLP1000でそのCT-LDを測定してデータを記録し、データ測定が完了したら再び塩浴に入れて30min強化させて取り出して測定し、データの分布が逆U字状の放物線であることを確認したらフィッティングを行って、放物線の最高点はCT-LDmaxである。
【0089】
CT-LDが特定の値(帯状痕閾値)になると、断面に帯状痕が生じ、強化を続けると、CT-LDが増えて特定の値(分枝閾値)になったら、サンプルに分枝が生じる。
【0090】
上記の各性能測定を完了した後、上記のように得た厚さ0.7mmのガラスサンプルに対して、表2に記載の混合又は単一成分の溶融塩、イオン交換の各段階の温度、イオン交換時間でイオン交換を行って強化ガラスを得た。
【0091】
前記サンプルに2段階のイオン交換を行って、具体的には次のとおりである。
【0092】
IOX1(第1段階イオン交換)では、425℃×100wt%NaNO×6hとした(425℃の100wt%NaNO溶融塩において6h交換することで、本明細書では類似の記述がいずれも意味が似ている。このようにイオン交換に用いる溶融塩の温度、成分、イオン交換時間を記す)。
IOX2(第2段階イオン交換)では、430℃×97wt%KNO+3wt%NaNO×2h(430℃の97wt%KNOと3wt%NaNOの混合溶融塩において2h交換することである)。
【0093】
折原製作所製の屈折計型ガラス表面応力計FSM-6000LE、散乱光光弾性応力計SLP-1000を用いて強化サンプルの表面の高応力領域と内部の深層応力をそれぞれ測定した。強化の前後で、二次元画像測定機を用いてサイズの変化を測定して拡大縮小率を計算した。
【0094】
強化完了後はサンプルの4点屈曲試験及びサンドペーパー衝撃落下試験を行った。1つのサンプルだけでは試験結果に偏りが出かねないため、当該実施例では4点屈曲試験及びサンドペーパー衝撃落下試験を行う時には、20枚を1バッチとして、その平均値と安定性で強度を表す。測定方法の詳細は次のとおりである。耐屈曲強度測定の方式は4点屈曲試験で、4点屈曲試験とは具体的には、強化ガラスサンプルに対して図5のとおりに耐屈曲試験を行った。耐屈曲強度は式:δ=3F(L2-L1)/2bhで計算し、式中、Fは下向き圧力で、L1は上側の点の間隔、L2は下側の点の間隔で、bはガラスの幅、hはガラスの厚さである。
【0095】
図6は落下破損防止強度測定方法の模式図である。図6に示すように、落下破損防止強度測定方法は、具体的には、重さ200gの金型と前記強化ガラスサンプルを両面テープで密着させて、ガラスサンプルが表面を120メッシュのサンドペーパーで覆った大理石板に落下し、ガラスサンプルが割れない最高の点を落下破損防止強度とした。
【0096】
各性能パラメータの測定結果は表3に示すとおりである。
【0097】
[実施例2-6、比較例1]
実施例1と同じ条件で操作し、ただし表2に記載のガラス基材の製造に使用する各ガラスの配合、及び表3に記載のガラス基材にイオン交換を行う強化条件、最終的な強化ガラスの性能パラメータに違いがある。
【表2】
【0098】
表2から、本発明の配合から得たガラス基材のヤング率は83GPaより大きく、誘電率は7未満で、CT-Ldmaxは56000MPa/mmより大きく、分枝閾値は43000MPa/mmより大きく、帯状痕閾値は38000MPa/mmより大きいことが分かった。
【表3a】

【表3b】

【表3c】

【表3d】

注:表中応力単位はいずれもMPaであった。
【0099】
表3では、前記応力差値はガラスの表面0μmから厚さの中心まで0.5μmの厚さごとに応力点の深さとして測定して計算した応力の差値である。即ち、前0.5μmでの圧縮応力と後0.5μmでの圧縮応力(CS)との差の絶対値である。上表で各応力差値範囲とは、測定対象となる各厚さ区間における最小応力差値から最大応力差値までの範囲である。
【0100】
表3では、本発明の実施例1-5と従来製品の比較例1を比較した。実施例はケイ素とアルミニウムの含有量が比較例1より高く、アルカリ金属(NaO+LiO+KO)が比較例より少ないことから、本発明の製品は従来製品に比べてより多くのネットワーク構造を備える。具体的には、本発明の実施例のサンプルは比較例1よりヤング率が高く、ヤング率が高くなるのはガラスの変形防止性能の向上を示す。そしてアルカリ金属が低減するのはガラスの誘電率に有利で、5G携帯電話に用いる場合はカバーガラスの信号に対する減衰を軽減できる。
【0101】
さらに、強度に関しては、ガラスの強度は固有のネットワーク構造と応力状態に関係がある。本発明では、ケイ素とアルミニウムの比率を高めることによって緻密なネットワーク構造が得られ、またナトリウム、リチウム成分を抑えることによってリチウム含有量を高めながらナトリウムの含有量を大幅に減らす。これはナトリウム-リチウム交換に役立ち、深層の圧縮応力が一層高くなり、これに対応する特性としてその応力状態を示すCT-LDは従来製品の比較例1を大幅に上回っている。そのため最終の強化後、本発明の実施例1-5は比較例1よりCT-LDが高く、落下破損防止強度、即ち耐衝撃強度は従来製品をはるかに上回る。しかもヤング率が高く、表面CSが低いため、応力差値が100MPaに制限され、応力の変化が引き起こす表面の微小亀裂が減少し、4点屈曲による耐屈曲強度の方も比較例1を上回り、しかも1つのバッチでは結果が安定的であった。比較例1では応力差値が過度に高く、1000MPaものCSであるものの、表面の微小亀裂が多く、バッチ間で差が大きく、値が上下することで耐屈曲強度が低かった。
【0102】
安全性に関しては、ネットワーク構造の強化がガラスの内部に耐えられる内部応力が増え、具体的に言えば、ガラスの分枝閾値が比較例より高い。応力が高い方は割れると砕け散らずに済む。しかも本発明の実施例では強化後のCT-LDがいずれも分枝閾値以内に抑えられ、強度と割れる時の安全性の両方に配慮ができた。
【表4a】

【表4b】
【0103】
表4では、前記応力差値はガラスの表面0μmから厚さの中心まで0.5μmの厚さごとに応力点の深さとして測定して計算した応力の差値である。即ち、前0.5μmでの圧縮応力と後0.5μmでの圧縮応力(CS)との差の絶対値である。上表で各応力差値範囲とは、測定対象となる各厚さ区間における最小応力差値から最大応力差値までの範囲である。
【0104】
表4から分かるように、応力曲線分布範囲はサンプルの表面CS、深層応力CS-50、引張応力のCT値、及びその変化幅を最適な範囲に制限する役割を果たし、これにより本発明のガラスのネットワーク構造の特性とその応力状態を発揮させて、最良の落下破損防止性能と安全性を得られる。前記配合3では標準的な強化が行われず、応力分布が式の範囲内にないのは、比較例2及び3であった。比較例2の方は応力曲線分布の上限にあるため、その深層応力が不十分で、CS-50とCT-LDが実施例3に比べて低いから、落下破損防止強度の低下が深刻であった。比較例3の方は応力曲線分布の下限まで来ているため、深層応力が十分に大きく分枝閾値を超えており、ガラスのネットワーク構造ではその内部応力を制御できなくなり、しかも応力が非常に高いと内部の欠陥が大きくなる。そのため、落下破損防止強度こそ高い方であるが、同じバッチでも結果にばらつきがあり、低い値が出やすい。ガラスサンプルが割れたら1mm未満の小さな破片になり、周りに散りばめるため安全性が低かった。
【表5a】

【表5b】
【0105】
表5では、前記応力差値はガラスの表面0μmから厚さの中心まで0.5μmの厚さごとに応力点の深さとして測定して計算した応力の差値である。即ち、前0.5μmでの圧縮応力と後0.5μmでの圧縮応力(CS)との差の絶対値である。上表で各応力差値範囲とは、測定対象となる各厚さ区間における最小応力差値から最大応力差値までの範囲である。
【0106】
表5から分かるように、本発明のガラスの異なる厚さのサンプルは、強化を受けた後、0.45-0.85mmまでは図1の応力曲線分布模式図に示す特性によく合致し、CT-LDが分枝閾値の近くで安定的であった。
【0107】
(付記)
(付記1)
0.45-0.85mmの範囲内で、応力分布は、
応力曲線が、
圧縮応力の上限Fmaxが式(1):Fmax=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fmaxはガラスの圧縮応力の最大値を表し、bの値は-81、aの値は1.11×10、wは1.985、cの値は-60.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、PIは定数の戻り値3.14159265358979であり、
圧縮応力の下限Fminが式(2):Fmin=b+(2×a/PI)×(w/(4×(x-c)^2+w^2))を満たし、
式中、Fminはガラスの圧縮応力の最小値を表し、bの値は-120.94、aの値は1.11×10、wは1.3、cの値は-72.64であり、xは応力点の深さで、単位はμmであり、
応力点の深さとはガラスの表面からガラスの中心に食い込む深さである、Log-PI関数範囲内にある、条件を満たす化学強化ガラス。
【0108】
(付記2)
応力分布が、
第1応力領域と第2応力領域とを含み、第1応力領域は圧縮応力領域で、第2応力領域は引張応力領域であり、
第1応力領域の第1区分で、応力範囲は、ガラスの厚さtが0-10μmである領域における応力差値で、最小値が1MPaより大きく、好ましくは5MPaより大きく、より好ましくは10MPaより大きく、最大値が100MPaより小さく、前記応力差値は前0.5μmでの圧縮応力と後0.5μmでの圧縮応力(CS)との差の絶対値であり、第1応力領域の第2区分はガラスの厚さにおける0.03TからDOL-0-1へ、DOL-0-2から0.97Tへの領域であり、前記領域の応力差値は0.4-5MPaであり、好ましくは0.5-3.5MPaであり、
第2応力領域は第1応力領域より圧力差値が小さく、前記第2応力領域が第1区分を備え、前記第1区分はDOL-0-1から0.4Tへ、0.6TからDOL-0-2への領域であり、前記領域の応力差値は1MPaより小さく、好ましくは0.8MPaより小さく、より好ましくは0.5MPaより小さく、且つ、前記第2応力領域が第2区分を備え、範囲は0.4T-0.6Tで、応力差値が0.2MPaより小さく、好ましくは0.1MPaより小さく、
CT-LDが35000MPaより大きく、好ましくは帯状痕閾値と分枝閾値との間にある、特徴を有する応力分布を備える、条件を満たす化学強化ガラス。
【0109】
(付記3)
製造原料はmol%基準で、
SiO 55-75%、Al 8-22%、B 0-5%、P 0-5%、MgO 1-8%、ZnO 0-2%、ZrO 0-2%、TiO 0-2%、NaO 0-5%、LiO 4-13%、KO 0-5%、SnO 0.1-2%である、比率の酸化物を含む、付記1又は2に記載の化学強化ガラス。
【0110】
(付記4)
製造原料はmol%基準で、
SiO 61-70%、Al 10-19%、B 0%、P 0%、MgO 2-6%、ZnO 0-1%、ZrO 0.5-1%、TiO 0.5-1%、NaO 2-5%、LiO 5.5-12%、KO 1-2.8%、SnO 0.1-0.4%である、比率の酸化物を含む、付記1又は2に記載の化学強化ガラス。
【0111】
(付記5)
SiOとAlの総mol%含有量が80mol%より大きく、
又は、NaOはmol%基準で1.5-5%であり、
又は、LiOはmol%基準で5.5-12%であり、好ましくは8-12%であり、
又は、NaO+LiOはmol%基準で7-18%であり、好ましくは10.5-14%であり、
又は、MgOはmol%基準で2-7.5%であり、好ましくは2.5-5%である、付記1-4のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0112】
(付記6)
前記製造原料は清澄剤として酸化スズ及び/又は塩化ナトリウムをさらに含み、好ましくは両者の含有量が1mol%を超えず、より好ましくは0.4-1mol%である、付記1-5のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0113】
(付記7)
ビッカース硬さは負荷300gで圧力保持10sの条件下で、600-630である、付記1-6のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0114】
(付記8)
ヤング率は80GPa以上である、付記1-7のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0115】
(付記9)
原子充填密度は0.531より大きい、付記1-8のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0116】
(付記10)
誘電率は5.5-7.5である、付記1-9のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0117】
(付記11)
分枝閾値はそのCT-LDmaxの60%以上であり、又は、帯状痕閾値はそのCT-LDmaxの50%以上である、付記1-10のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0118】
(付記12)
ガラス拡大縮小率は総ガラス拡大縮小率の80%以上に達している、付記1-11のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0119】
(付記13)
単位長さ当たりの引張応力CT-LDは30000-60000MPa/mmであり、好ましくは35000-50000MPa/mmである、付記1-12のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0120】
(付記14)
CS-30は式:CS-30=a×exp(-T/b)+cを満たし、
CS-30は強化ガラスの表面から深さ30μmでの圧縮応力であり、
式中、aは-485、bは0.5、cは278+(+40/T又は-40T)であり、Tは強化ガラスの厚さで、単位はmmである、付記1-13のいずれか1つに記載の化学強化ガラス。
【0121】
(付記15)
1段階強化又は多段階強化である、付記1-14のいずれか1つに記載の化学強化ガラスの製造方法。
【0122】
(付記16)
前記1段階強化の場合はNaNOとKNO塩浴を用い、混合物におけるKNOの質量含有量は30-95wt%であり、好ましくは80-90wt%であり、
好ましくは、前記溶融混合物の温度は390-460℃であり、好ましくは400-450℃であり、5-10hのイオン交換が更に好ましい、付記15に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【0123】
(付記17)
前記多段階強化は2段階の強化を含み、第1段階では75-100wt%のNaNO塩浴を用い、第1段階の温度は425-430℃が好ましく、3-7hのイオン交換が好ましく、第2段階では0-10wt%、好ましくは3-10wt%のNaNO塩浴を用い、第2段階の温度は430-440℃が好ましく、1-3hのイオン交換が好ましい、付記16に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【0124】
(付記18)
付記15-17のいずれか1つに記載の製造方法で製造した化学強化ガラス。
【0125】
(付記19)
携帯電話のディスプレイスクリーン、タブレットコンピュータのディスプレイスクリーン、携帯型ゲーム機、携帯型デジタルデバイスのディスプレイスクリーンにおける付記1-14のいずれか1つに記載の化学強化ガラス又は付記18に記載の強化ガラスの用途。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7