(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138734
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230922BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129872
(22)【出願日】2023-08-09
(62)【分割の表示】P 2022124586の分割
【原出願日】2018-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017249717
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(57)【要約】
【課題】Niの割合がLiを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上であるリチウム遷移金属酸化物を用いた場合において、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合は、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%~96モル%であり、前記層状構造のLi層には、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属の総モル量に対して、1モル%~2.5モル%の遷移金属が存在し、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を有し、
前記層状構造のLi層には、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属の総モル量に対して、1~2.5モル%の遷移金属が存在し、
X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のc軸長を示す格子定数cが、14.18Å<c<14.21Åの範囲である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記層状構造のLi層には、Ni、Co、Mnが含まれる、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属酸化物はAlを含む、請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数aが、2.872Å<a<2.875Åの範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属酸化物は、X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦500Åの範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極に用いられる正極活物質としては、例えば、以下のものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、組成式LiaNibCocMndO2(0.1≦a≦1.2、0.40≦b<1.15、0<c<0.60、0<d<0.60であって、1.00≦b+c+d≦1.15、0<c+d≦0.60の関係を有する)で表され、Li層の遷移金属占有率eが0.006≦e≦0.150の範囲である複合酸化物からなる正極活物質が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、[Li]3a[Ni1-x-yCoxAly]3b[O2]6c(但し、[ ]の添え字はサイトを表し、x、yは0<x≦0.20,0<y≦0.15なる条件を満たす)で表され、かつ層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル複合酸化物において、X線回折図形のリートベルト解析から得られる3aサイトのリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が3%以下であり、かつ一次粒子の平均粒径が0.1μm以上で、該一次粒子が複数集合して二次粒子を形成している正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-133262号公報
【特許文献2】特開2000-30693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本開示は、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記層状構造のLi層には、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属の総モル量に対して、1モル%~2.5モル%の遷移金属が存在し、X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のc軸長を示す格子定数cが、14.18Å<c<14.21Åの範囲であることを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を有する正極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、充放電サイクル特性の低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記層状構造のLi層には、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属の総モル量に対して、1モル%~2.5モル%の遷移金属が存在し、X線回折によるX線回折パターンの解析結果から得られる結晶構造のc軸長を示す格子定数cが、14.18Å<c<14.21Åの範囲であることを特徴とする。
【0012】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造は、Ni等の遷移金属層、Li層、酸素層が存在し、Li層に存在するLiイオンが可逆的に出入りすることで、電池の充放電反応が進行する。ここで、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質のように、層状構造のLi層に上記所定量の遷移金属が存在している場合には、電池の放電時に、Li層から多くのLiイオンが引き抜かれても、Li層に存在する所定量の遷移金属によりLi層が保持されるため、層状構造の安定化が図られ、充放電サイクル特性の低下が抑えられると推察される。なお、本開示のNi含有リチウム遷移金属酸化物において、層状構造のLi層に存在する遷移金属は、主にNiであるが、Ni含有リチウム遷移金属酸化物に含まれるNi以外の遷移金属もLi層に存在する場合がある。
【0013】
以下に、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質を用いた非水電解質二次電池の一例について説明する。
【0014】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。具体的には、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造を有する。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、非水電解質二次電池の形態としては、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などが例示できる。
【0015】
以下、実施形態の一例である非水電解質二次電池に用いられる正極、負極、非水電解質、セパレータについて詳述する。
【0016】
<正極>
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0017】
正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0018】
正極活物質は、層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を含む。当該リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合は、電池の高容量化、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、好ましくは91モル%~99モル%の範囲であり、より好ましくは91モル%~96モル%の範囲である。
【0019】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、結晶構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。
【0020】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、Alを含むことが好ましい。Alは、例えば、Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造内に均一に分散していてもよいし、層状構造内の一部に存在していてもよい。また、Ni含有リチウム遷移金属酸化物の製造段階において、層状構造内に含まれるAlの一部が、Ni含有リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に析出する場合があるが、この析出したAlも、Ni含有リチウム遷移金属酸化物に含まるAlである。
【0021】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、Al以外の元素を含んでいてもよく、例えば、以下の一般式で表される。
LizNixM1-x-yAlyO2 (1)
【0022】
上式においてNi含有リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合を示すxは、0.91≦x≦0.99を満たせばよいが、前述した通り、電池の高容量化、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、0.91≦x≦0.96を満たすことが好ましい。
【0023】
上式においてNi含有リチウム遷移金属酸化物中のAlの割合を示すyは、充放電サイクル特性の低下抑制等の点で、0.04≦y≦0.09を満たすことが好ましく、0.04≦y≦0.06を満たすことがより好ましい。yが0.04未満であると、yが上記範囲を満たす場合と比較して、充放電サイクル特性が低下する場合があり、yが0.09超の場合、yが上記範囲を満たす場合と比較して、Niの割合が低下して、非水電解質二次電池の容量が低下する場合がある。
【0024】
上式のMは、Li、Ni、Al以外の元素であれば特に制限されるものではなく、例えば、Co、Mn、Fe、Mg、Ti、Cr、Cu、Sn、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Zn、Ca及びBから選ばれる少なくとも1種の元素等が挙げられる。これらの中では、充放電サイクル特定の低下を抑制する点で、上式のMは、Co、W、Nb、Mg、Ti、Mn、Zr及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。
【0025】
上式においてNi含有リチウム遷移金属酸化物中のMの割合を示す(1-x-y)は0≦(1-x-y)である。
【0026】
上式においてNi含有リチウム遷移金属酸化物中のLiの割合を示すzは、0.95≦z≦1.10を満たすことが好ましく、0.97≦z≦1.03を満たすことがより好ましい。zが0.97未満の場合、zが上記範囲を満たす場合と比較して、容量が低下する場合がある。zが1.03超の場合、zが上記範囲を満たす場合と比較して、Li化合物をより多く添加することになるため、生産コストの観点から経済的ではない場合がある。
【0027】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0028】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、層状構造のLi層に遷移金属が存在している。そして、層状構造のLi層における遷移金属量は、充放電サイクル特性の低下を抑制する点で、層状構造中の遷移金属の総モル量に対して1モル%~2.5モル%であり、好ましくは1モル%~2モル%である。層状構造のLi層における遷移金属量が、1モル%未満の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Li層中のLiイオンが引き抜かれた状態での層状構造の安定性が低下し、充放電サイクル特性が低下する。また、層状構造のLi層における遷移金属量が2.5モル%を超える場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Li層中のLiイオンの拡散性が低下し、電池容量の低下、抵抗上昇による分極劣化が起こり易くなる。層状構造のLi層に存在する遷移金属は、主にNiであるが、好ましくは、Ni、Co、Mn等である。
【0029】
層状構造のLi層における遷移金属量は、Ni含有リチウム遷移金属酸化物のX線回折測定によるX線回折パターンのリートベルト解析結果から得られる。
【0030】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲;15-120°
スキャン速度;4°/min
解析範囲;30-120°
バックグラウンド;B-スプライン
プロファイル関数;分割型擬Voigt関数
束縛条件;Li(3a) + Ni(3a)=1
Ni(3a) + Ni(3b)=y
ICSD No.;98-009-4814
【0031】
また、X線回折パターンのリートベルト解析には、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク)が使用される。
【0032】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物において、上記X線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nは、充放電サイクル特性を抑制する点で、好ましくは0.30°≦n≦0.50°であり、より好ましくは0.30°≦n≦0.45°である。(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°未満の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Li層のLiイオンの束縛が強く、充放電サイクル特性が低下する。また、(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.50°を超える場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Ni含有Li遷移金属酸化物の結晶性が低下し、結晶構造の骨格が脆くなり、空間群R-3m等の結晶構造を保持できなくなるため、サイクル特性が低下する。
【0033】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの結果から得られる結晶構造のa軸長を示す格子定数aが2.872Å<a<2.875Åの範囲であり、c軸長を示す格子定数cが14.18Å<c<14.21Åの範囲であることが好ましい。上記格子定数aが2.872Å以下である場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、電池の充放電サイクル特性が低下する場合がある。また、上記格子定数aが2.875Å以上である場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の出力特性が低下する場合がある。また、上記格子定数cが14.18Å以下である場合、結晶構造中の原子間距離が狭く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の充放電サイクル特性が低下する場合がある。また、上記格子定数cが14.21Å以上である場合、結晶構造中の原子間距離が広く不安定な構造になり、上記範囲を満たす場合と比較して、電池の充放電サイクル特性が低下する場合がある。
【0034】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦500Åであることが好ましい。Ni含有リチウム遷移金属酸化物の上記結晶子サイズsが400Åより小さい場合、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶性が低下して、電池の充放電サイクル特性が低下する場合がある。また、Ni含有リチウム遷移金属酸化物の上記結晶子サイズsが500Åを越える場合、上記範囲を満たす場合と比較して、Liの拡散性が悪くなり、電池の出力特性が低下する場合がある。シェラーの式は、下式(2)で表される。
【0035】
s=Kλ/Bcosθ (2)
式(2)において、sは結晶子サイズ、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。
【0036】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の含有量は、例えば、電池の容量を向上させることや充放電サイクル特性の低下を効果的に抑制すること等の点で、非水電解質二次電池用正極活物質の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態の非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni含有リチウム遷移金属酸化物以外に、その他のリチウム遷移金属酸化物を含んでいても良い。その他のリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、Ni含有率が0モル%~91モル%未満のリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0038】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の製造方法の一例について説明する。
【0039】
Ni含有リチウム遷移金属酸化物の製造方法は、例えば、Ni及び任意の金属元素を含む複合酸化物を得る第1工程と、第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物とを混合する第2工程と、当該混合物を焼成する第3工程と、を備える。最終的に得られるNi含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造のLi層における遷移金属量、(208)面の回折ピークの半値幅n、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズs等の各パラメータは、例えば、第2工程における原料の混合割合、第3工程における焼成温度や時間等を制御することにより調整される。
【0040】
第1工程において、例えば、Ni及び任意の金属元素(Co、Al、Mn等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~11.5)に調整することにより、Ni及び任意の金属元素を含む複合水酸化物を析出(共沈)させ、当該複合水酸化物を焼成することにより、Ni及び任意の金属元素を含む複合酸化物を得る。Niと任意の金属元素との配合割合は、Niの割合が91モル%~99モル%の範囲となるように適宜決定されればよい。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、500℃~600℃の範囲である。
【0041】
第2工程において、第1工程で得られた複合酸化物と、Li化合物とを混合して、混合物を得る。第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物との混合割合は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整することを容易とする点で、例えば、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.15の範囲となる割合とすることが好ましい。第2工程では、第1工程で得られた複合酸化物とLi化合物とを混合する際、必要に応じて他の金属原料を添加してもよい。他の金属原料は、第1工程で得られた複合酸化物を構成する金属元素及びLi以外の金属元素を含む酸化物等である。
【0042】
第3工程において、第2工程で得られた混合物を所定の温度及び時間で焼成し、本実施形態に係るNi含有リチウム遷移金属酸化物を得る。第3工程における混合物の焼成は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整することを容易とする点で、例えば、2段階焼成が好ましい。1段階目の焼成温度は、例えば450℃~680℃の範囲であることが好ましい。また、2段階目の焼成温度は、1段階目の焼成温度より高い温度とすることが好ましく、例えば、700℃~800℃の範囲であることが好ましい。1段階目及び2段階目の焼成時間は、例えば、3~10時間であることが好ましい。第2工程で得られた混合物の焼成は、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0043】
第3工程の焼成時間について、1段階目の焼成温度を上回る時間は、10時間以下が好ましい。1段階目の焼成温度を上回る時間には、1段階目の焼成終了後、2段階目の焼成温度への昇温開始から、2段階目の焼成終了後1段階目の焼成温度を下回るまでの時間が含まれる。1段階目の焼成温度と2段階目の焼成温度の差は40℃以上300℃以下が好ましい。
【0044】
以下に、正極活物質層に含まれるその他の材料について説明する。
【0045】
正極活物質層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
正極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
<負極>
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材、増粘材等を含む。
【0048】
負極は、例えば、負極活物質、増粘材、結着材を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0049】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金形成可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0050】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合材スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0051】
負極活物質層に含まれる増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0053】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0054】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0055】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0056】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0057】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよく、セパレータの表面にアラミド樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。セパレータと正極及び負極の少なくとも一方との界面には、無機物のフィラーを含むフィラー層が形成されてもよい。無機物のフィラーとしては、例えばチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)の少なくとも1種を含有する酸化物、リン酸化合物またその表面が水酸化物等で処理されているものなどが挙げられる。フィラー層は、例えば当該フィラーを含有するスラリーを正極、負極、又はセパレータの表面に塗布して形成することができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
共沈法により得られた[Ni0.955Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni及びAlを含む複合酸化物(Ni0.955Al0.045O2)を得た。LiOHとNi及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni及びAlの総量とのモル比が0.98:1になるように混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、710℃で3時間焼成し、水洗により不純物を除去し、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。1段階目の焼成終了後、2段階目の焼成温度への昇温開始から、2段階目の焼成終了後1段目の焼成温度に達するまでの時間は約4時間であった。ICP発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、上記得られたNi含有リチウム遷移金属の組成を測定した結果、組成はLi0.97Ni0.955Al0.045O2であった。これを実施例1の正極活物質とした。
【0060】
<実施例2>
LiOHと実施例1のNi及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni及びAlの総量とのモル比が1:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.955Al0.045O2であった。これを実施例2の正極活物質とした。
【0061】
<実施例3>
LiOHと実施例1のNi及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni及びAlの総量とのモル比が1.03:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.955Al0.045O2であった。これを実施例3の正極活物質とした。
【0062】
<実施例4>
共沈法により得られた[Ni0.955Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni及びAlを含む複合酸化物(Ni0.955Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni及びAlを含む複合酸化物とSiOとを、Liと、Ni、Al及びSiの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.952Al0.045Si0.003O2であった。これを実施例4の正極活物質とした。
【0063】
<実施例5>
共沈法により得られた[Ni0.94Co0.015Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni、Co及びAlの総量とのモル比が0.98:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.97Ni0.94Co0.015Al0.045O2であった。これを実施例5の正極活物質とした。
【0064】
<実施例6>
LiOHと実施例5のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni、Co及びAlの総量とのモル比が1:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.94Co0.015Al0.045O2であった。これを実施例6の正極活物質とした。
【0065】
<実施例7>
LiOHと実施例5のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni、Co及びAlの総量とのモル比が1.03:1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.94Co0.015Al0.045O2であった。これを実施例7の正極活物質とした。
【0066】
<実施例8>
共沈法により得られた[Ni0.94Co0.015Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とSiOとを、Liと、Ni、Co、Al及びSiの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合した。上記以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.937Co0.015Al0.045Si0.003O2であった。これを実施例8の正極活物質とした。
【0067】
<実施例9>
共沈法により得られた[Ni0.94Co0.015Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とTi(OH)2・α型とを、Liと、Ni、Co、Al及びTiの総量とのモル比が1.03:1となる量で混合した。上記以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.935Co0.015Al0.045Ti0.005O2であった。これを実施例9の正極活物質とした。
【0068】
<実施例10>
LiOHと実施例9のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とTi(OH)2・α型とを、Liと、Ni、Co、Al及びTiの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.935Co0.015Al0.045Ti0.005O2であった。これを実施例10の正極活物質とした。
【0069】
<実施例11>
LiOHと実施例9のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とLi3MoO4とを、Liと、Ni、Co、Al及びMoの総量とのモル比が1.075:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.935Co0.015Al0.045Mo0.005O2であった。これを実施例11の正極活物質とした。
【0070】
<実施例12>
共沈法により得られた[Ni0.94Co0.015Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.94Co0.015Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とMnO2とを、Liと、Ni、Co、Al及びMnの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合した。上記以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.93Co0.015Al0.045Mn0.01O2であった。これを実施例12の正極活物質とした。
【0071】
<実施例13>
LiOHと実施例12のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とMnO2とを、Liと、Ni、Co、Al及びMnの総量とのモル比が1.08:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.93Co0.015Al0.045Mn0.01O2であった。これを実施例13の正極活物質とした。
【0072】
<実施例14>
LiOHと実施例12のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とLiNbO3とを、Liと、Ni、Co、Al及びNbの総量とのモル比が1.08:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.93Co0.015Al0.045Nb0.01O2であった。これを実施例14の正極活物質とした。
【0073】
<実施例15>
LiOHと実施例12のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とLiNbO3とを、Liと、Ni、Co、Al及びNbの総量とのモル比が1.10:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.93Co0.015Al0.045Nb0.01O2であった。これを実施例15の正極活物質とした。
【0074】
<実施例16>
共沈法により得られた[Ni0.91Co0.045Al0.045](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.91Co0.045Al0.045O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とを、Liと、Ni、Co及びAlの総量とのモル比が1.03:1となる量で混合した。上記以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi1.03Ni0.91Co0.045Al0.045O2であった。これを実施例16の正極活物質とした。
【0075】
<実施例17>
LiOHと実施例12のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とTi(OH)2・α型とを、Liと、Ni、Co、Al及びTiの総量とのモル比が1.10:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.91Co0.015Al0.045Ti0.03O2であった。これを実施例17の正極活物質とした。
【0076】
<比較例1>
LiOHとNiOとを、LiとNiとのモル比が1.03:1となる量で混合し、当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、750℃で3時間焼成し、水洗により不純物を除去し、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。1段階目の焼成終了後、2段階目の焼成温度への昇温開始から、2段階目の焼成終了後1段目の焼成温度に達するまでの時間は約5時間であった。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni1.0O2であった。これを比較例1の正極活物質とした。
【0077】
<比較例2>
LiOHと実施例5のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、LiとNi、Co及びAlの総量とのモル比が1.03:1となる量で混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、750℃で3時間焼成して、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.94Co0.015Al0.045O2であった。これを比較例2の正極活物質とした。
【0078】
<比較例3>
LiOHと実施例12のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とMnO2とを、LiとNi、Co、Al及びMnの総量とのモル比が1.1:1となる量で混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、800℃で3時間焼成して、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。1段階目の焼成終了後、2段階目の焼成温度への昇温開始から、2段階目の焼成終了後1段目の焼成温度に達するまでの時間は約6時間であった。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.93Co0.015Al0.045Mn0.01O2であった。これを比較例3の正極活物質とした。
【0079】
<比較例4>
LiOHと実施例9のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とTi(OH)2・α型とを、LiとNi、Co、Al及びTiの総量とのモル比が1.1:1となる量で混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、710℃で3時間焼成して、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.935Co0.015Al0.045Ti0.005O2であった。これを比較例4の正極活物質とした。
【0080】
<比較例5>
LiOHと実施例5のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、LiとNi、Co及びAlの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、710℃で3時間焼成して、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.94Co0.015Al0.045O2であった。これを比較例5の正極活物質とした。
【0081】
<実施例18>
共沈法により得られた[Ni0.88Co0.09Al0.03](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物(Ni0.88Co0.09Al0.03O2)を得た。LiOHと上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とを、LiとNi、Co及びAlの総量とのモル比が1.03:1となる量で混合した。当該混合物を酸素気流中にて670℃で5時間焼成した後、750℃で3時間焼成して、水洗により不純物を除去し、Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。1段階目の焼成終了後、2段階目の焼成温度への昇温開始から、2段階目の焼成終了後1段目の焼成温度に達するまでの時間は約5時間であった。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2であった。これを実施例18の正極活物質とした。
【0082】
<比較例7>
LiOHと実施例18のNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、LiとNi、Co及びAlの総量とのモル比が1.05:1となる量で混合したこと以外は、実施例18と同様にNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。上記得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物の組成はLi0.99Ni0.88Co0.09Al0.03O2であった。これを比較例7の正極活物質とした。
【0083】
実施例1~18及び比較例1~5、7のNi含有リチウム遷移金属酸化物(正極活物質)に対して、既述の条件で粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。実施例及び比較例の全てのX線回折パターンから、層状構造を示す回折線が確認された。
【0084】
各実施例及び各比較例のX線回折パターンから、Li層における遷移金属量、(208)面の回折ピークの半値幅、格子定数a、格子定数c、結晶子サイズsを求めた。その結果を表1及び2にまとめた。測定方法は既述の通りである。
【0085】
【0086】
【0087】
実施例1~18及び比較例1~5、7のNi含有リチウム複合酸化物(正極活物質)を用いて、以下のように試験セルを作製した。
【0088】
[正極の作製]
実施例1の正極活物質を91質量部、導電材としてアセチレンブラックを7質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合した。当該混合物を混練機(T.K.ハイビスミックス、プライミクス株式会社製)を用いて混練し、正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔に塗布し、塗膜を乾燥してアルミニウム箔に正極活物質層を形成した。これを実施例1の正極とした。その他の実施例及び比較例も同様にして正極を作製した。
【0089】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0090】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、リチウム金属箔からなる負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、これを巻回して、電極体を作製した。次いで、電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製の外装体に挿入し、試験セルを作製した。その他の実施例及び比較例も同様にして試験セルを作製した。
【0091】
[充放電サイクル特性における容量維持率の測定]
環境温度25℃の下、各実施例及び各比較例の試験セルを0.2Cの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流充電した後、電流値が0.05mAになるまで4.3Vで定電圧充電し、0.2Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電した。この充放電サイクルを20サイクル行い、以下の式により、各実施例及び各比較例の試験セルの充放電サイクルにおける容量維持率を求めた。この値が高いほど、充放電サイクル特性の低下が抑制されていることを示している。
容量維持率=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0092】
表3及び4に、各実施例及び各比較例の試験セルの充放電サイクルにおける容量維持率の結果を示す。
【0093】
【0094】
【0095】
実施例1~17及び比較例1~5の正極活物質はいずれも、層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物を有し、前記リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合が、Liを除く金属元素の総モル数に対して91モル%以上である。これらの中で、リチウム遷移金属酸化物中のNiの割合が91モル%~99モル%であり、前記層状構造のLi層には、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属の総モル量に対して、1~2.5モル%の遷移金属が存在し(すなわち、Li層における遷移金属量が1~2.5モル%)、前記リチウム遷移金属酸化物のX線回折によるX線回折パターンの(208)面の回折ピークの半値幅nが、0.30°≦n≦0.50°である実施例1~17は、Niの割合、Li層における遷移金属量、(208)面の回折ピークの半値幅nのいずれかが上記範囲を満たしていない比較例1~5と比べて、容量維持率が高く、充放電サイクル特性の低下が抑制された。また、実施例18は、比較例1~5、7と比べて、容量維持率が高く、充放電サイクル特性の低下が抑制された。