(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138742
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】密封装置および密封装置の装着方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230922BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230922BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230922BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/324
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130024
(22)【出願日】2023-08-09
(62)【分割の表示】P 2021527417の分割
【原出願日】2020-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019118996
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】首藤 雄一
(57)【要約】
【課題】回転する部材に与えるトルクを低減することができる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置は、相対的に回転する内側部材と外側部材とを備える転がり軸受の内側部材と外側部材との間に配置され、内側部材と外側部材との間の間隙を封止する。内側部材は円筒部分と円筒部分から径方向外側に広がるフランジを有する。密封装置は、転がり軸受の外側部材に取り付けられる取付け部と、取付け部から半径方向内側に延びる内側環状部分と、内側環状部分から転がり軸受の内側部材の円筒部分に向けて延びる弾性材料から形成されたグリースリップと、内側環状部分から転がり軸受の内側部材のフランジに向けて延びる弾性材料から形成されたサイドリップとを備える。グリースリップには潤滑剤としてのグリースがコーティングされていないが、サイドリップには、サイドリップと内側部材の摩擦を低減する潤滑剤としてのグリースがコーティングされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する内側部材と外側部材とを備え、前記内側部材は円筒部分と前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する転がり軸受の前記内側部材と前記外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記転がり軸受の前記外側部材に取り付けられる取付け部と、
前記取付け部から半径方向内側に延びる内側環状部分と、
前記内側環状部分から前記転がり軸受の前記内側部材の前記円筒部分に向けて延びる弾性材料から形成されたグリースリップと、
前記内側環状部分から前記転がり軸受の前記内側部材の前記フランジに向けて延びる弾性材料から形成されたサイドリップと
を備え、
前記グリースリップには潤滑剤としてのグリースがコーティングされておらず、
前記サイドリップには、前記サイドリップと前記内側部材の摩擦を低減する潤滑剤としてのグリースがコーティングされている
ことを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の内部を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば玉軸受のような転がり軸受は周知であり、例えば自動車のハブに使用されている。転がり軸受の内部を密封する密封装置としては、特許文献1に記載されたものがある。この密封装置は、転がり軸受の外輪に固定される環状体と、環状体から半径方向内側に延びるラジアルリップ(グリースリップ)と、環状体から側方に延びる2つのサイドリップとを備える。ラジアルリップは、軸受の内輪の外周面または内輪に固定される部品の外周面に接触して、軸受内部の潤滑剤(グリース)を密封する機能を有し、2つのサイドリップは、内輪のフランジに接触して、外部から水やダスト等の異物が軸受内部へ侵入しないように封止する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の密封装置については、回転する部材、例えばハブまたは内輪に与えるトルクができるだけ小さいことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、回転する部材に与えるトルクを低減することができる密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る密封装置は、相対的に回転する内側部材と外側部材とを備え、前記内側部材は円筒部分と前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する転がり軸受の前記内側部材と前記外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置である。密封装置は、前記転がり軸受の前記外側部材に取り付けられる取付け部と、前記取付け部から半径方向内側に延びる内側環状部分と、前記内側環状部分から前記転がり軸受の前記内側部材の前記円筒部分に向けて延びる弾性材料から形成されたグリースリップと、前記内側環状部分から前記転がり軸受の前記内側部材の前記フランジに向けて延びる弾性材料から形成されたサイドリップとを備える。前記グリースリップには潤滑剤としてのグリースがコーティングされていないが、前記サイドリップには、前記サイドリップと前記内側部材の摩擦を低減する潤滑剤としてのグリースがコーティングされている。
【0007】
この態様においては、サイドリップはグリースでコーティングされている一方で、グリースリップにはグリースはコーティングされていない。したがって、グリースリップの気密性は高くなく、サイドリップとグリースリップとの間の空間が負圧になっても、空間には、グリースリップの外側の空間から空気が流入することができる。したがって、空間の圧力が高まり、サイドリップは、過剰に内側部材に引き付けられた状態から適度に内側部材に接触する状態に遷移する。このようにして、リップが内側部材に与えるトルクを低減することができる。この明細書で、「コーティング」とは、刷毛、スプレー、その他の手段で意図的にグリースをリップに付着させることを意味しており、「コーティングされていない」とは意図的にはグリースがリップに与えられていないことを意味する。
【0008】
前記内側部材は、螺旋溝状の加工痕を有してもよい。
【0009】
螺旋溝状の加工痕が内側部材に存在する場合には、回転する部材の回転方向によっては、サイドリップとグリースリップとの間の空間から流体が送り出されて、この空間が負圧になりやすく、内側部材に対するサイドリップの接触圧が高まることがある。しかし、空間には、グリースリップの外側の空間から空気が流入することができる。したがって、空間の圧力が高まり、サイドリップは、過剰に内側部材に引き付けられた状態から適度に内側部材に接触する状態に遷移する。このようにして、リップが内側部材に与えるトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例の部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図3】転がり軸受に装着された
図2の密封装置の部分断面図である。
【
図4】実施形態の変形例に係る密封装置の部分断面図である。
【
図5】実施形態の他の変形例に係る密封装置の部分断面図である。
【
図6】実施形態の他の変形例に係る密封装置の部分断面図である。
【
図7】実施形態の他の変形例に係る密封装置の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例である自動車用のハブ軸受を示す。但し、本発明の用途はハブ軸受には限定されず、他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、以下の説明では、ハブ軸受は、玉軸受であるが、本発明の用途は玉軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、ころ軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、自動車以外の機械に使用される転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0013】
このハブ軸受1は、スピンドル(図示せず)が内部に挿入される孔2を有するハブ(内側部材)4と、ハブ4に取り付けられた内輪(内側部材)6と、これらの外側に配置された外輪(外側部材)8と、ハブ4と外輪8の間に1列に配置された複数の玉10と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数の玉12と、これらの玉を定位置に保持する複数の保持器14,15とを有する。
【0014】
外輪8が固定されている一方で、ハブ4および内輪6は、スピンドルの回転に伴って回転する。
【0015】
スピンドルおよびハブ軸受1の共通の中心軸線Axは、
図1の上下方向に延びている。
図1においては、中心軸線Axに対する左側部分のみが示されている。詳細には図示しないが、
図1の上側は自動車の車輪が配置される外側(アウトボード側)であり、下側は差動歯車などが配置される内側(インボード側)である。
図1に示した外側、内側は、それぞれ半径方向の外側、内側を意味する。
【0016】
ハブ軸受1の外輪8は、ハブナックル16に固定される。ハブ4は、外輪8よりも半径方向外側に張り出したアウトボード側フランジ18を有する。アウトボード側フランジ18には、ハブボルト19によって、車輪を取り付けることができる。
【0017】
外輪8のアウトボード側の端部の付近には、外輪8とハブ4との間の間隙を封止する密封装置20が配置されており、外輪8のインボード側の端部の内側には、外輪8と内輪6との間の間隙を封止する密封装置21が配置されている。これらの密封装置20,21の作用により、ハブ軸受1の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止されるとともに、外部からハブ軸受1の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)およびダストを含む)の流入が防止される。
図1において、矢印Fは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0018】
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8との間に配置され。ハブ4と外輪8との間の間隙を封止する。
【0019】
図2および
図3に示すように、密封装置20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aと、ハブ軸受1のハブ4の玉10の近傍の円筒部分の外周面4Aと、ハブ4の外周面4Aよりも外側に広がるフランジ面4Bと、外周面4Aとフランジ面4Bとを連結する円弧面4Cとで囲まれた空間内に配置される。フランジ面4Bはアウトボード側フランジ18のインボード側の表面である。密封装置20は環状であるが、
図2および
図3においては、その左側部分のみが示されている。
【0020】
密封装置20は、弾性環24および剛性環26を有する複合構造である。弾性環24は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環26は、剛体材料、例えば金属から形成されており、弾性環24を補強する。剛性環26の一部は、弾性環24に埋設されており、弾性環24に密着している。
【0021】
弾性環24は、外側円筒部分24A、内側環状部分24B、連結部分24C、およびリップ32,34,36を有する。外側円筒部分24Aは、外輪8の端部8Aの内周面に締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。内側環状部分24Bは、外側円筒部分24Aの半径方向内側に配置されている。連結部分24Cは、外側円筒部分24Aと内側環状部分24Bを連結する。リップ32,34,36は、内側環状部分24Bからハブ軸受1のハブ4に向けて延びる。
【0022】
外側円筒部分24Aの外周面には、半径方向外側に突出して、外輪8の端部8Aの内周面に接触する突出環状壁部分24Dが形成されている。弾性環24が外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられると、突出環状壁部分24Dは端部8Aの内周面により、半径方向内側に圧縮されて弾性変形する。
図2は、端部8Aを仮想線で示し、圧縮されていない状態の突出環状壁部分24Dを示す。
図3は、密封装置20がハブ軸受1に装着されて、圧縮された状態の突出環状壁部分24Dを示す。
【0023】
連結部分24Cは、円環状であって、外側円筒部分24Aの一端からハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように半径方向内側に向けて延びている。
【0024】
この実施形態では、内側環状部分24Bは、連結部分24Cから半径方向内側かつインボード側に向けて斜めに延び、屈曲して、さらにハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように半径方向内側に向けて延びている。
【0025】
リップ32,34,36の各々は、弾性材料のみから形成されており、内側環状部分24Bから延びる薄板状の円環であって、それぞれの先端はハブ4に接触する。密封装置20が固定された外輪8に取り付けられている一方、ハブ4は回転するので、リップ32,34,36はハブ4に対して摺動する。
【0026】
リップ32は、グリースリップまたはラジアルリップと呼ばれ、内側環状部分24Bの最も内側の縁部から延び、ハブ4の玉10の近傍の円筒部分の外周面4Aに接触する。グリースリップ32は、半径方向内側かつインボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤(ハブ軸受1の玉10などの潤滑剤であるグリース)の流出を低減または阻止する役割を担う。
【0027】
リップ34,36は、内側環状部分24Bから側方(アウトボード側)、かつ半径方向外側に向けて延びる。リップ34は、サイドリップまたはアキシャルリップと呼ばれ、ハブ4のフランジ面4Bに接触する。リップ36は、中間リップと呼ばれ、円弧面4Cに接触する。中間リップ36もサイドリップと呼ぶことができる。リップ34,36は、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担う。中間リップ36は、サイドリップ34をすり抜けて流入した異物を阻止するバックアップ機能を有する。
【0028】
リップ34,36の半径方向内側の面(すなわち、密封装置20がハブ軸受1に装着されると、ハブ4に対向する面)34A,36AはグリースGでコーティングされている。グリースGは、リップ34,36とハブ4の摩擦を低減するための潤滑剤として使用されている。リップにコーティングされるグリースGの種類は、ハブ軸受1の内部にあってグリースリップ32で密封される潤滑剤であるグリースの種類と同じでもよいが、異なっていてもよい。また、面34A,36Aにコーティングされるグリースの種類は、互いに同じでもよいが、異なっていてもよい。グリースは、全面コーティングまたはスポットコーティングによって、リップにコーティングされてよい。いずれの手法でリップにグリースをコーティングしても、リップ34,36はハブ4に対して摺動するので、結果的に、グリースは、面34A,36Aに全周にわたってコーティングされることになる。
【0029】
しかし、グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていない。
【0030】
図2は、ハブ軸受1に装着されない初期の形状のリップ32,34,36を示し、
図3は、ハブ軸受1に装着されて変形させられたリップ32,34,36を示す。リップ32,34,36は、ハブ4に接触することにより、ハブ4によって変形させられる。
【0031】
剛性環26は、円筒部分26A、円環部分26B、連結部分26C、および円環部分26Dを有する。円筒部分26Aは、外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられる。円環部分26Bは、円筒部分26Aの半径方向内側に配置され、ハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するよう配置されている。連結部分26Cは、円筒部分26Aと円環部分26Bを連結する。剛性環26が外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられると、円筒部分26Aは端部8Aにより、半径方向内側に圧縮されて弾性変形する。
図2は、圧縮されていない状態の円筒部分26Aを示す。
図3は、圧縮された状態の円筒部分26Aを示す。
【0032】
剛性環26の円筒部分26Aと弾性環24の外側円筒部分24Aは、外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられる取付け部38を構成する。剛性環26の連結部分26Cは、弾性環24の外側円筒部分24Aに密着し、円環部分26Bは、弾性環24の連結部分24Cに密着している。
【0033】
円環部分26Dは、弾性環24の内側環状部分24Bに密着している。円環部分26Dは、屈曲した内側環状部分24Bの形状にほぼ相似する屈曲した形状を有する。
【0034】
密封装置20をハブ軸受1に装着する時、密封装置20の取付け部38は外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられ、リップ32,34,36はハブ4の外周面4A、円弧面4Cおよびフランジ面4Bに押し付けられる。この瞬間、サイドリップ34と中間リップ36との間の空間(リップ間空間)A、および中間リップ36とグリースリップ32との間の空間(リップ間空間)Bの内部の圧力が一時的に急上昇させられ、リップ間空間A,Bから空気が逃げ出す。したがって、リップ32,34,36は、
図3に示す所望の変形状態よりも、ハブ4に向けて引き付けられてしまう。
【0035】
密封装置20をハブ軸受1に装着した後は、リップ32,34,36をハブ4に押し付ける力は解除される。しかし、ハブ4に対するリップ32,34,36の気密性が高い場合、この力が解除されたとしても、リップ32,34,36が所望の変形状態よりもハブ4に引き付けられた変形状態が維持される。つまり、力が解除されたことにより、今度は、気密なリップ間空間A,Bの内部が負圧になってしまう。特に、リップ間空間Bの圧力上昇時にリップ間空間Bで中間リップ36が押されて変形してしまうことによって、リップ間空間Aは、力が解除されたことにより、顕著に負圧になってしまうおそれがある。
【0036】
このようにリップ間空間A,Bが負圧なまま(リップ32,34,36がハブ4に引き付けられたまま)、スピンドルがハブ4とともに回転すると、リップ32,34,36がハブ4およびスピンドルに与えるトルクが高い。
【0037】
ハブ4の外周面4A、フランジ面4Bおよび円弧面4Cは、機械加工(例えば旋盤を用いた切削加工および研磨加工)によって成形され、これらの面に加工痕が残されることがある。例えば旋盤を用いた切削加工または研磨加工においては、ハブ4が回転させられるため、残された加工痕は、微小な複数の螺旋溝である。
【0038】
螺旋状の加工痕が残った状態で、リップがこれらの面に接触し、ハブ4が中心軸線Axを中心として回転すると、リップが接触する加工痕が送りねじとして機能する。したがって、リップ間空間Aからサイドリップ34の外側に流体(例えば空気および面34aにコーティングされたグリース)が送り出されることがある。
【0039】
流体の移動は、加工痕の螺旋の方向およびハブ4の回転方向に依存する。例えば、ある自動車の右車輪側に装着された密封装置20では、自動車の前進時にリップ間空間Aの外部と内部では流体は移動せず、自動車の後退時に流体がリップ間空間Aから送り出され、同じ自動車の左車輪側に装着された密封装置20では、自動車の前進時に流体がリップ間空間Aから送り出され、自動車の後退時にリップ間空間Aの外部と内部では流体は移動しないというようにである。
【0040】
リップ間空間Aからサイドリップ34の外側に流体が送り出される時には、リップ間空間Aがさらに負圧になる。この場合、負圧によって、サイドリップ34が
図3の状態からアウトボード側(すなわちフランジ面4B側)に引き付けられ、ハブ4に対するサイドリップ34の接触圧が高まる。このため、ハブ4に与えられるトルクが高まってしまう。
【0041】
しかし、この実施形態では、サイドリップ34および中間リップ36(中間リップ36もサイドリップと呼ぶことができる)の面34A,36AはグリースGでコーティングされている一方で、グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていない。したがって、グリースリップ32の気密性は高くなく、中間リップ36とグリースリップ32との間のリップ間空間Bが負圧になっても、リップ間空間Bには、グリースリップ32の外側(玉10側)の空間から空気が流入することができる。したがって、リップ間空間Bの圧力が高まり、中間リップ36は、過剰にハブ4に引き付けられた状態から適度にハブ4に接触する状態に遷移する。
【0042】
中間リップ36にはグリースGがコーティングされているが、リップ間空間Bの圧力が高まれば、リップ間空間Bからリップ間空間Aに空気が流入することができる。したがって、リップ間空間Aの圧力が高まり、サイドリップ34は、過剰にハブ4に引き付けられた状態から適度にハブ4に接触する状態に遷移する。
【0043】
このようにして、この実施形態では、リップ32,34,36がハブ4およびスピンドルに与えるトルクを低減することができる。
【0044】
グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていないが、グリースリップ32の本来の機能であるハブ軸受1の内部のグリースの封止機能については、大きく低下することはない。ハブ軸受1の使用の間に、ハブ軸受1の内部のグリースおよび/または中間リップ36の面36aにコーティングされたグリースGが、飛散してグリースリップ32に付着する。したがって、ハブ軸受1を使用し続けることにより、グリースリップ32は、ハブ軸受1の内部からの潤滑剤(ハブ軸受1の玉10などの潤滑剤であるグリース)の流出を低減または阻止することができる。
【0045】
図4は、実施形態の変形例に係る密封装置50の部分断面図である。
図4以降の図面において、すでに説明した構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0046】
密封装置50は中間リップ36を有していない。密封装置50では、サイドリップ34の面34AはグリースGでコーティングされている一方で、グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていない。したがって、グリースリップ32の気密性は高くなく、サイドリップ34とグリースリップ32との間のリップ間空間Sが負圧になっても、リップ間空間Sには、グリースリップ32の外側(玉10側)の空間から空気が流入することができる。したがって、リップ間空間Sの圧力が高まり、中間リップ36は、過剰にハブ4に引き付けられた状態から適度にハブ4に接触する状態に遷移する。
【0047】
このようにして、密封装置50では、リップ32,34がハブ4およびスピンドルに与えるトルクを低減することができる。
【0048】
図5は、実施形態の他の変形例に係る密封装置60の部分断面図である。密封装置60の剛性環26は、折り重なった筒状の部分26Eを有し、折り重なった筒状の部分26Eのうち外側の筒状の部分が外輪8の端部8Aに嵌め入れられている。したがって、筒状の部分26Eは、外輪8の端部8Aに取り付けられる取付け部を構成する。また、剛性環26は、外輪8の端部8Aの端面に対向する円環部分26Fを有する。
【0049】
密封装置60の弾性環24は、折り重なった筒状の部分26Eに充填された部分と、円環部分26Fの両面に密着する部分を有する。
【0050】
また、弾性環24は、アウトボード側に延びている補助リップ37を有する。補助リップ37は、ハブ4のアウトボード側フランジ18に形成されたフランジ面4Dに向けて延びる。アウトボード側フランジ18は、フランジ面4Bよりも凹んだフランジ面4Dと、フランジ面4B,4Dを接続する傾斜面4Eをさらに有する。
【0051】
補助リップ37は、外部から到来する異物を跳ね返し、サイドリップ34に到達する異物を最小限にすることができる。補助リップ37はアウトボード側フランジ18のフランジ面4Dには接触せず、補助リップ37の先端縁とフランジ面4Dとの間に環状かつラビリンス状の間隙39が設けられている。但し、補助リップ37はフランジ面4Dに接触し、フランジ面4Dに対して摺動してもよい。
【0052】
図6は、実施形態の他の変形例に係る密封装置70の部分断面図である。密封装置70の剛性環26は、外輪8の端部8Aの端面に対向し、端面に接触する円環部分26Fを有する。また、剛性環26は、円環部分26Fの外側に、折り重なった筒状の部分26Gを有し、折り重なった筒状の部分26Gのうち内側の筒状の部分に外輪8の端部8Aが嵌め入れられている。したがって、筒状の部分26Gは、外輪8の端部8Aに取り付けられる取付け部を構成する。
【0053】
図7は、実施形態の他の変形例に係る密封装置80の部分断面図である。密封装置80の剛性環26は、外輪8の端部8Aの端面に対向し、端面に接触する円環部分26Fを有する。また、剛性環26は、円環部分26Fの外側に、円筒部分26Hを有し、円筒部分26Hに外輪8の端部8Aが嵌め入れられている。したがって、円筒部分26Hは、外輪8の端部8Aに取り付けられる取付け部を構成する。
【0054】
密封装置60,70,80においても、サイドリップ34の面34AはグリースGでコーティングされている一方で、グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていない。したがって、リップ32,34がハブ4およびスピンドルに与えるトルクを低減することができる。
【0055】
密封装置60,70,80においても、中間リップ36を設けなくてもよい。密封装置に設けられるサイドリップと呼ぶことができるリップの数は、上記の実施形態および変形例に限定されない。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0057】
上記の実施形態および変形例では、内側部材であるハブ4および内輪6が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。
【0058】
上記の実施形態および変形例では、各密封装置に単一の剛性環26が設けられている。しかし、密封装置が、半径方向において互いに分離した外側剛性環と内側剛性環とを有していてもよい。
【0059】
本発明の用途は、ハブ軸受1の密封に限定されない。例えば、自動車の差動歯車機構またはその他の動力伝達機構、自動車の駆動シャフトの軸受またはその他の支持機構、ポンプの回転軸の軸受またはその他の支持機構などにも本発明に係る密封装置または密封構造を使用することができる。
【0060】
前記の実施の形態および変形例は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 ハブ軸受(転がり軸受)
4 ハブ(内側部材)
4A 円筒部分の外周面
4B フランジ面
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
18 アウトボード側フランジ
20,50,60,70,80 密封装置
32 グリースリップ(ラジアルリップ)
34 サイドリップ(アキシャルリップ)
36 中間リップ(サイドリップ)
38 取付け部
26E,26G 筒状の部分(取付け部)
26H 円筒部分(取付け部)
A リップ間空間
B リップ間空間
G グリース
【手続補正書】
【提出日】2023-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する内側部材と外側部材とを備え、前記内側部材は円筒部分と前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する転がり軸受の前記内側部材と前記外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記転がり軸受の前記外側部材に取り付けられる環状の部材である剛性環と、
弾性材料から形成された、前記剛性環に着けられた環状の弾性環とを備え、
前記弾性環は、前記内側部材の前記円筒部分に向けて延びるグリースリップと、前記内側部材の前記フランジに向けて延びるサイドリップとを有しており、
前記グリースリップによる気密性は、前記サイドリップによる気密性よりも低い、
密封装置。
【請求項2】
前記グリースリップは、前記内側部材の前記円筒部分に接触しており、
前記サイドリップは、前記内側部材の前記フランジに接触している、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記サイドリップと、前記内側部材の前記フランジとの間には、流動性を有する部材が介在し、
前記グリースリップと、前記前記内側部材の前記円筒部分との間には、前記流動性を有する部材が介在しない、
請求項1又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記グリースリップと、前記内側部材の前記円筒部分との間には、前記流動性を有する部材が介在しなく、前記グリースリップと前記内側部材の前記円筒部分との間から、空気が流入可能になる、
請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記流動性を有する部材は、潤滑剤としてのグリースである、
請求項3又は4に記載の密封装置。
【請求項6】
前記サイドリップには、前記グリースがコーティングされており、
前記グリースリップには、前記グリースがコーティングされていない、
請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記サイドリップは、前記剛性環側から、前記グリースリップから離れる方向に延びている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項8】
前記弾性環は、前記内側部材の前記フランジに向けて延びる他のサイドリップを有しており、
前記他のサイドリップは、前記サイドリップと前記グリースリップとの間に設けられている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項9】
相対的に回転する内側部材と外側部材とを備える転がり軸受の前記内側部材と前記外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置を装着する方法であって、
前記内側部材は、
円筒状の外周面と、
前記外周面よりも径方向外側に広がるフランジ面と、
前記外周面と前記フランジ面とを連結する円弧面とを有し、
前記密封装置は、
前記転がり軸受の外側部材に取り付けられる取付け部と、
前記取付け部から半径方向内側に延びる内側環状部分と、
前記内側環状部分から前記内側部材の前記外周面に向けて延びる弾性材料から形成されたグリースリップと、
前記内側環状部分から前記内側部材の前記円弧面又は前記フランジ面に向けて延びる弾性材料から形成されたサイドリップとを備え、
前記グリースリップには潤滑剤としてのグリースがコーティングされておらず、前記サイドリップには、前記サイドリップと前記内側部材との摩擦を低減する潤滑剤としてのグリースがコーティングされており、前記グリースリップによる気密性は、前記サイドリップによる気密性よりも低くなっており、
前記密封装置を前記転がり軸受に装着する時に、
前記サイドリップを前記円弧面又は前記フランジ面に押し付けるとともに、前記グリースリップを前記外周面に押し付けて、前記グリースリップと前記サイドリップとの間にある空間の内部の空気を前記空間の外部へ逃がし、
前記サイドリップと前記グリースリップとを押し付ける力を解除して、前記グリースリップの外側から前記空間の内部へ空気を流入させる
ことを特徴とする密封装置の装着方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8との間に配置され、
ハブ4と外輪8との間の間隙を封止する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
密封装置50は中間リップ36を有していない。密封装置50では、サイドリップ34の面34AはグリースGでコーティングされている一方で、グリースリップ32にはグリースGはコーティングされていない。したがって、グリースリップ32の気密性は高くなく、サイドリップ34とグリースリップ32との間のリップ間空間Sが負圧になっても、リップ間空間Sには、グリースリップ32の外側(玉10側)の空間から空気が流入することができる。したがって、リップ間空間Sの圧力が高まり、サイドリップ34は、過剰にハブ4に引き付けられた状態から適度にハブ4に接触する状態に遷移する。