(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138749
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】腸溶性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/20 20060101AFI20230922BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230922BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230922BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230922BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230922BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230922BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K9/20
A61K9/16
A61K45/00
A61K47/32
A61K47/26
A61P43/00 111
A61P1/04
A61K31/454
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130193
(22)【出願日】2023-08-09
(62)【分割の表示】P 2018185150の分割
【原出願日】2018-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000228590
【氏名又は名称】日本ケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100217098
【弁理士】
【氏名又は名称】清 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124822
【弁理士】
【氏名又は名称】千草 新一
(72)【発明者】
【氏名】林 和矢
(72)【発明者】
【氏名】増田 年紀
(57)【要約】
【課題】腸溶性製剤における打錠時の腸溶層の破損が防止された腸溶性製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】腸溶性製剤において、薬剤を含有する腸溶性顆粒及び後末部に糖アルコール及び/又は二糖類を配合することにより腸溶層の破損が防止することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形製剤中、薬剤を含有する腸溶性顆粒及び後末部に糖アルコール及び/又は二糖類を含む固形製剤であって、腸溶性顆粒が腸溶性高分子及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含む腸溶性皮膜で被覆されて、後末部に糖アルコール及び/又は二糖類が固形製剤に対して40重量%~80重量%含有されたものである、固形製剤。
【請求項2】
糖アルコールがマンニトール、キシリトール、ソルビトール及びエリスリトールのいずれかである請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
糖アルコールがマンニトールである請求項1又は2に記載の固形製剤。
【請求項4】
二糖類がスクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロースのいずれかである請求項1~3のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項5】
二糖類がラクトースである請求項1~4のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項6】
腸溶性高分子が腸溶性のメタクリル酸コポリマー、腸溶性のセルロース系ポリマー又は腸溶性のビニルアルコール系ポリマーから選択される一種又は二種以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項7】
固形製剤が錠剤である請求項1~6のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項8】
錠剤が口腔内崩壊錠である請求項7に記載の固形製剤。
【請求項9】
薬剤が酸に不安定な薬剤である請求項1~8のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項10】
酸に不安定な薬剤がプロトンポンプ阻害剤である請求項9に記載の固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠時における腸溶層の破損が防止された腸溶性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸溶性製剤は、胃の中で分解する薬剤や胃障害を起こす薬剤あるいは腸へ薬物を移行させたい場合等に、胃では溶出せず腸に移行して初めて溶出するよう工夫された製剤である。技術的には、酸性の胃液では溶解せずアルカリ性の腸液中で溶解する皮膜を施したり、カプセルそのものを腸溶性にした内用固形製剤で、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル化したものが報告されている。
【0003】
この様な目的で使用される腸溶性製剤は、その有用性から種々の薬剤に適用されているが、一方、幾つかの問題点を有している。例えば、腸溶性皮膜で被覆された腸溶性顆粒の製造において、打錠時に腸溶層が破損し、その結果、内容成分が顆粒あるいはこの顆粒を含有する製剤中から染み出してしまい、内容成分の減少あるいは製剤化における打錠障害等の問題が挙げられる。そのため、打錠時に高い打錠圧をかけられないことから、得られた錠剤の硬度は充分なものではなく、錠剤運搬時の錠剤の破損などの問題が懸念される。また、胃の中で分解する薬剤においては、腸溶性皮膜が破損すれば、服用時に主薬が胃液で分解し、期待される薬効が不十分なものとなることも懸念される。
従って、このような腸溶性製剤の製造時における腸溶層の破損が抑制された、安定な腸溶性製剤の開発が望まれている。
【0004】
これらに関連する先行技術として、腸溶性のコーティング剤で被覆されたデュロキセチン塩酸塩を含有する被覆顆粒及びデンプン又は其の誘導体を混合した混合末を打錠して製造された錠剤が耐酸性効果を有することが開示されている。
また特許文献2には、腸溶層の破損防止用の被覆用組成物として、D-マンニトール及びポリエチレングリコールを含む被覆用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、打錠時の腸溶層の破損が防止された腸溶性製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、腸溶性製剤における腸溶層の破損抑制技術について種々検討を行った結果、薬剤を含有する腸溶性顆粒及び後末部に糖アルコール及び/又は二糖類を含む腸溶性製剤において、打錠時における腸溶層の破損が防止されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)固形製剤中、薬剤を含有する腸溶性顆粒及び後末部に糖アルコール及び/又は二糖類を含む固形製剤に関する。
(2)また本発明は、 糖アルコールがマンニトール、キシリトール、ソルビトール及びエリスリトールのいずれかである前記(1)記載の固形製剤に関する。
(3)また本発明は、糖アルコールがマンニトールである前記(1)又は(2)記載の固形製剤に関する。
(4)また本発明は、二糖類がスクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロースのいずれかである前記(1)~(3)記載の固形製剤に関する。
(5)また本発明は、二糖類がラクトースである前記(1)~(4)記載の固形製剤に関する。
(6)また本発明は、固形製剤中、後末部に糖アルコール及び/又は二糖類が40重量%~80%含有されたものである前記(1)~(5)記載の固形製剤に関する。
(7)また本発明は、腸溶性顆粒が腸溶性高分子で被覆されている前記(1)~(6)記載の固形製剤に関する。
(8)また本発明は、腸溶性顆粒が腸溶性高分子及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含む腸溶性皮膜で被覆されている前記(1)~(7)記載の固形製剤に関する。
(9)また本発明は、腸溶性高分子が腸溶性のメタクリル酸コポリマー、腸溶性のセルロース系ポリマー又は腸溶性のビニルアルコール系ポリマーから選択される一種又は二種以上である前記(1)~(8)記載の固形製剤に関する。
(10)また本発明は、固形製剤が錠剤である前記(1)~(9)記載の固形製剤に関する。
(11)また本発明は、錠剤が口腔内崩壊錠である前記(10)記載の固形製剤に関する。
(12)また本発明は、薬剤が酸に不安定な薬剤である前記(1)~(11)記載の固形製剤に関する。
(13)また本発明は、酸に不安定な薬剤がプロトンポンプ阻害剤である前記(12)記載の固形製剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の腸溶性顆粒を含有する固形製剤は、腸溶層の破損による主薬成分の含量低下や打錠障害などが改善されるため、腸溶性製剤の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1-2の錠剤中の腸溶性顆粒を走査型電子顕微鏡(SEM)での観察結果を示す図である。
【
図2】実施例1-3の錠剤中の腸溶性顆粒を走査型電子顕微鏡(SEM)での観察結果を示す図である。
【
図3】比較例1-1錠剤中の腸溶性顆粒を走査型電子顕微鏡(SEM)での観察結果を示す図である。
【
図4】比較例1-2の錠剤中の腸溶性顆粒を走査型電子顕微鏡(SEM)での観察結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明において後末とは、錠剤中の腸溶性顆粒以外の添加剤部分をいう。
本発明で用いられる糖アルコールとしては、一般公知のアルドースやケトースのカルボニル基が還元され生成する糖の一種をいい、例えば、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、トレイトール、アラビニトール、アラビニトール、イジトール、ガラクチトール、ボレミトール、ペルセイトール、D-エリトロ-D-ガラクトオクチトール、イノシトール、クエルシトール、グリセリン、脂肪酸エステル等が挙げられるが、例えば室温で固体状態のものが好ましく、このような糖アルコールにおいては、好ましくはソルビトール、マンニトール、エリスリトール、グリセリン、脂肪酸エステル、特に好ましくはソルビトール、マンニトール、エリスリトールが挙げられる。これらの糖アルコールはD体とL体が存在し、いずれも使用することができるが、D体が好ましい。
【0013】
本発明で用いられる二糖類としては、一般公知の単糖が2つ結合した化合物をいい、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、および、これらに置換基が付いた誘導体等が挙げられるが、好ましくはスクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロースが挙げられ、特に好ましくはラクトースが挙げられる。
【0014】
本発明で用いられる糖アルコール及び/又は二糖類は、後末中に錠剤に対し40重量%~80重量%配合することができ、好ましくは40重量%~70重量%、より好ましくはし45重量%~65重量%、さらに好ましくは50重量%~65重量%の範囲である。
【0015】
本発明の腸溶性顆粒及び固形製剤には、必要により結合剤、崩壊剤、賦形剤、コーティング基剤、界面活性剤等の製剤化における助剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜組み合わせて必要量配合することができる。
【0016】
本発明で用いることができる結合剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、部分けん化ポリビニルアルコール、プルラン、部分α化デンプン、デキストリン、キサンタンガム、アラビアゴム末等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドンである。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0017】
本発明で用いることができる崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、部分α化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、好ましくはクロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドンであり、さらに好ましくはクロスポビドンである。さらに本発明に用いられるクロスポビドンとしては、ポリプラスドン(登録商標)XL、 ポリプラスドン(登録商標)XL-10、ポリプラスドン(登録商標)INF-10(以上、Ashland社製)、コリドン(登録商標)CL、コリドン(登録商標)CL-F、コリドン(登録商標)CL-SF、コリドン(登録商標)CL-M等が挙げられ、好ましくはコリドンCL、コリドンCL-F、コリドンCL-SF、コリドンCL-M(以上、BASFジャパン社製)であり、特に好ましくはコリドンCL-Fである。用いられる崩壊剤の配合量は、核粒子中5~30質量%が好ましく、さらに好ましくは5~15質量%である。また、口腔内崩壊錠に配合する場合には、後末中1~10質量%が好ましく、さらに好ましくは2~6質量%である。
【0018】
本発明では、特許請求の範囲記載の糖アルコール及び二糖類以外の賦形剤を合わせて後末中に用いることができ、例えば結晶セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース等)等のセルロース類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチなどのデンプン類、グリセリン脂肪酸エステル、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩が用いられる。該賦形剤は、固形製剤中10~70質量%配合することができる。
【0019】
本発明で用いられる腸溶性高分子としては、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS(例えば、Eudragit(登録商標) L100、Eudragit(登録商標) S100、Evonik社製)、メタクリル酸コポリマーLD(例えば、Eudragit(登録商標) L100-55、Eudragit(登録商標)L30D-55、Evonik社製)、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸コポリマー(例えば、Eudragit(登録商標)FS30D、Evonik社製)等の腸溶性のメタクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(信越化学社製)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(信越化学社製)及びカルボキシメチルエチルセルロース(フロイント産業株式会社製)等の腸溶性のセルロース系ポリマー及びポリビニルアルコールアセテートフタレート(カラコン社製)等の腸溶性のビニルアルコール系ポリマーが挙げられ、好ましくはメタクリル酸コポリマーが挙げられ、その中でも好ましくはメタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、メタクリル酸コポリマーLDが挙げられる。これらのコーティング基剤は1種又は2種以上を配合して用いることもできる。これらの腸溶性高分子の使用は、一種でもよく、また二種以上を配合してもよいが、好ましくは一種である。
さらに腸溶性皮膜の破損防止の観点から、腸溶性高分子とアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーが配合された腸溶性皮膜がより好ましい。
本発明で用いられるアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーとしては市販のものを用いることができ、例えばEudragit(登録商標) NE30D(Evonik社製)を用いることができる。
腸溶性高分子とアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーの配合比は、質量比で6:1~1:1の範囲で配合することができるが、好ましくは5:1~1:1、より好ましくは4:1~1:1の範囲である。
該腸溶性皮膜の含有量は、被覆層中の高分子固形分重量に対し、約30~約80重量%、好ましくは約40~約70重量%、より好ましくは約45~約65重量%である。
【0020】
本発明に用いることができる界面活性剤としては、ビス-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(ドクセートナトリウム)、臭化アルキルトリメチルアンモニウム(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(セトリミド))のような陽イオン剤、特にポリオキシエチレンソルビタン(例えばツウィーン(TweenTM20、40、60、80または85)のような非イオン性剤、および他のソルビタン(例えば、スパンSpanTM20、40、60、80また85)が挙げられる。
【0021】
本発明で用いることができる矯味剤としては、糖アルコール、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、ソーマチン、アセスルファムカリウム、スクラロース等が挙げられる。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0022】
本発明で用いることができる着色剤としては、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色102号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄(赤色)、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、オレンジエッセンス、カラメル、タルク、緑茶末等が挙げられる。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0023】
本発明で用いることができる香料としては、ミント、レモン香料、オレンジコートン、パイナップルフレーバー、l-メントール、ブラックティーミクロン等が挙げられる。これらは単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0024】
本発明において、薬物層に配合される成分は特には制限されないが、好ましくは胃において分解あるいは胃に障害・負担を与えるなど、腸で製剤が崩壊し放出されることが好ましい成分が挙げられ、例えばプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾール等)、鎮痛薬(アスピリン等)、デュロキセチン塩酸塩、サラゾスルファピリジン等の医薬品、魚油、ニンニク、乳酸菌、ビフィズス菌などの健康食品等に供する成分が挙げられる。
【0025】
本発明における腸溶性顆粒は、少なくとも結晶セルロース又は乳糖を含有する核に、(1)薬物等を含む薬物層、(2)腸溶性高分子又は腸溶性高分子及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを含む腸溶層からなる2層構造を有し得るが、必要に応じてさらに異なる薬物等を含む薬物層、溶出制御層や各層の間を遮断するバリア層を有する多層構造を有することができる。腸溶性皮膜での被覆は多層構造における最外層に行うのが好ましい。
本発明の腸溶性顆粒の製造は一般公知の方法により行うことができるが、例えば転動流動層造粒、流動造粒等の流動造粒法、遠心転動造粒法等の転動造粒法、撹拌造粒法等により顆粒を製造した後、腸溶性皮膜液で被覆し乾燥することでできる。
本発明で用いられる腸溶性皮膜液は、腸溶性高分子又は腸溶性高分子及びアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマーを溶媒に添加し、必要に応じて溶媒を除去する方法等によって調製することができる。使用される溶媒としては、水あるいはメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール系溶媒あるいはこれらの混合液などが挙げられる。必要に応じ、結合剤、可塑剤、被覆基剤、界面活性剤、賦形剤等の添加剤を適宜配合することができる。溶媒の量は特には制限されないが、溶解物の全量(腸溶性高分子、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー及び添加剤)に対し3~10倍量用いることができる。
本発明の腸溶性皮膜の膜厚については特には制限されないが、薄すぎると本発明の効果を十分に発揮できず、また必要以上に厚みがあると、顆粒の粒子径が大きくなり、錠剤硬度の低下や口腔内で崩壊させたときにざらつきとして不快感が出る可能性があることから、好適な膜厚としては10~100μm、好ましくは45~90μm、より好ましくは50~80μmである。
【0026】
本発明の腸溶性製剤は、例えば錠剤、口腔内崩壊錠、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等の固形製剤、懸濁化剤などの液剤が挙げられる。取り扱いの容易さ等の点からは、錠剤や口腔内崩壊錠が好ましい。また、これらの固形製剤は、必要に応じてコーティングを施すことができる。
【0027】
本発明の口腔内崩壊錠は、一般公知の方法、例えば本発明の腸溶性顆粒および添加剤(賦形剤、崩壊剤等)を溶媒の存在又は非存在下混合し、成形し、必要に応じて乾燥することにより製造することができる。混合は、V型混合機、万能練合機、流動層造粒機、タンブラー混合機等の装置を用いて行うことができる。
本発明の固形製剤が錠剤、口腔内崩壊錠における成形は、例えばロータリー式打錠機等を用いて打錠することにより行うことができる。
乾燥は、例えば真空乾燥、流動層乾燥など製剤一般の乾燥に用いられる何れの方法によってもよい。
【0028】
本発明の腸溶性顆粒及び腸溶製剤の製造は、例えば以下の工程により行うことができる。
(工程1:顆粒コーティング1・2工程)
結晶セルロースを転動流動層造粒機に入れ、エソメプラゾール懸濁液(精製水、エソメプラゾールマグネシウム三水和物、ヒプロメロースおよびポリソルベート80)をスプレーしレイヤリングを行う。続いて乾燥を行う。その後、コーティング液(精製水、ヒプロメロース、D-マンニトールおよびタルク)をスプレーし、コーティングを行う。続いて乾燥を行う。
(工程2:顆粒コーティング3・分級工程)
工程1で製造した顆粒を転動流動層造粒機に入れ、コーティング液(精製水、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、クエン酸トリエチル、ポリソルベート80およびモノステアリン酸グリセリン)をスプレーし、コーティングを行う。続いて乾燥を行った後、篩に通して分級を行う。
(工程3:顆粒コーティング4・分級工程)
工程2で製造した分級品を転動流動層造粒機に入れ、コーティング液(精製水、メタクリル酸コポリマーLD、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、クエン酸トリエチル、三二酸化鉄、水酸化ナトリウム、無水クエン酸、ポリソルベート80およびモノステアリン酸グリセリン)をスプレーし、コーティングを行う。続いて乾燥を行った後、篩に通して分級を行う。
(工程4:混合工程)
工程3で製造した分級品をV型混合機に入れ、そこにD-マンニトール、クロスポビドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびアスパルテームを入れ混合する。その後、ステアリン酸マグネシウムを入れ混合する。
(工程5:打錠工程)
工程4で製造した混合顆粒をロータリー打錠機を用いて打錠する。
【実施例0029】
以下に実施例、比較例および試験例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1-1)
工程:腸溶性顆粒の製造
球形結晶セルロースを転動流動層造粒機(フロイント産業社製、SFC-MINI)に入れ、エソメプラゾールマグネシウム三水和物、ヒプロメロースおよびポリソルベート80を水に溶解・分散させた液を噴霧しながらコーティングした。得られた薬物層被覆粒子を乾燥後、ヒプロメロース、タルクおよびD-マンニトールを水に溶解・分散させた液を噴霧しながらコーティングした。得られた中間層被覆粒子を乾燥後、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー分散液(固形分30%)、クエン酸トリエチル、モノステアリン酸グリセリンおよびポリソルベート80を水に溶解・分散させた液を噴霧しながらコーティングした。得られた溶出制御層被覆粒子を乾燥後、メタクリル酸コポリマーLD(固形分30%)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液(固形分30%)、クエン酸トリエチル、モノステアリン酸グリセリン、ポリソルベート80、水酸化ナトリウム、無水クエン酸、および三二酸化鉄を水に溶解・分散させた液を噴霧しながらコーティングした。得られた腸溶層被覆粒子を乾燥、分級し、平均粒子径300μmの被覆微粒子を得た。
処方は表1にまとめた。
【0031】
【0032】
(実施例1-2)
工程:錠剤の製造
(実施例1-1)で得られた腸溶性顆粒に後末としてD-マンニトール、クロスポビドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを添加し、混合し打錠用粉末を得た。ロータリー型打錠機(VELA5)にて打錠圧12kNで打錠し、直径8.0mmの錠剤を得た。
【0033】
(実施例1-3)
工程:錠剤の製造
(実施例1-1)で得られた腸溶性顆粒に後末として乳糖、クロスポビドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを添加し、混合し打錠用粉末を得た。ロータリー型打錠機(VELA5)にて打錠圧12kNで打錠し、直径8.0mmの錠剤を得た。
【0034】
本発明の効果を確認するため、後末として汎用されている結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムを用い錠剤を作成した。
(比較例1-1)
工程:錠剤の製造
(実施例1-1)で得られた腸溶性顆粒に後末として結晶セルロース、クロスポビドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを添加し、混合し打錠用粉末を得た。ロータリー型打錠機(VELA5)にて打錠圧12kNで打錠し、直径8.0mmの錠剤を得た。
【0035】
(比較例1-2)
工程:錠剤の製造
(実施例1-1)で得られた腸溶性顆粒に後末として無水リン酸水素カルシウム、クロスポビドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを添加し、混合し打錠用粉末を得た。ロータリー型打錠機(VELA5)にて打錠圧12kNで打錠し、直径8.0mmの錠剤を得た。
【0036】
(実施例1-2)、(実施例1-3)、(比較例1-1)および(比較例1-2)の錠剤の処方は表2にまとめて示す。
【0037】
【0038】
(試験例1)
(実施例1-2)、(実施例1-3)、(比較例1-1)および(比較例1-2)により得られた錠剤について、溶出試験第1液(pH1.2)による溶出性を確認した。その結果を表3に示す。
【0039】
【0040】
D-マンニトールを添加した(実施例1-2)および乳糖を添加した(実施例1-3)において、耐酸性が良好な結果であり、打錠による腸溶性皮膜の破損を軽減できることが判明した。対して、結晶セルロースを添加した(比較例1-1)および無水リン酸水素カルシウムを添加した(比較例1-2)において、10%以上溶出しており、打錠による腸溶性皮膜の破損が予想された。
【0041】
(試験例2)
(実施例1-2)、(実施例1-3)、(比較例1-1)および(比較例1-2)により得られた錠剤について、錠剤中の腸溶性顆粒を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。その結果を
図1~4に示す。
【0042】
D-マンニトールを添加した(実施例1-2)および乳糖を添加した(実施例1-3)では、腸溶性顆粒の破損は観察されなかった。対して、結晶セルロースを添加した(比較例1-1)および無水リン酸水素カルシウムを添加した(比較例1-2)では、腸溶性顆粒の破損が確認された。
【0043】
以上の結果より、薬剤を含有する腸溶性顆粒及び後末部に糖アルコール及び/又は二糖類を含む腸溶性製剤において、腸溶層の破損が防止されることを見出した。