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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138761
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】膜電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20230922BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230922BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130438
(22)【出願日】2023-08-09
(62)【分割の表示】P 2019036941の分割
【原出願日】2019-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(72)【発明者】
【氏名】井村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 良文
(72)【発明者】
【氏名】川島 勉
(57)【要約】
【課題】燃料電池の発電性能を向上させる。
【解決手段】
カソード触媒層を有するカソードと、アノード触媒層を有するアノードと、カソードと前記アノードとの間に介在する電解質膜と、カソードおよび前記アノードの前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層された一対のガス拡散層と、を備えた膜電極接合体を用いる。カソード触媒層は、細孔径Dが0.01μm~1μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有し、カソードに積層されたガス拡散層は、細孔径Dが0.01μm~5μmの範囲において、対数微分細孔容積分布におけるピークを有する。カソード触媒層のピークにおける細孔径が、カソードに積層されたガス拡散層のピークにおける細孔径よりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒層を有するカソードと、
アノード触媒層を有するアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に介在する電解質膜と、
前記カソードおよび前記アノードの前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層された一対のガス拡散層と、を備え、
前記カソード触媒層は、粒子状導電部材と、繊維状導電部材と、前記粒子状導電部材および前記繊維状導電部材のうち少なくとも前記粒子状導電部材に担持された触媒粒子と、プロトン伝導性樹脂と、を含み、且つ細孔径Dが0.01μm~1μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有し、
前記カソードに積層された前記ガス拡散層は、粒子状導電性材料、繊維状導電性材料、および高分子樹脂を含み、
前記粒子状導電性材料は、カーボンブラック、球状黒鉛、および、活性炭からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記繊維状導電性材料は、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、および、カーボンナノファイバーからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記高分子樹脂は、フッ素樹脂を含み、
前記カソードに積層された前記ガス拡散層は、細孔径Dが0.01μm~5μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有し、且つ、細孔径が5μmを超える範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布にピークを有さず、
前記カソード触媒層の前記ピークにおける細孔径Dが、前記カソードに積層された前記ガス拡散層の前記ピークにおける細孔径Dよりも小さい、膜電極接合体。
【請求項2】
前記カソード触媒層の前記ピークにおける細孔径Dが0.05μm以上である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記カソードに積層された前記ガス拡散層は、導電性基材を有しない、請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソードに積層された前記ガス拡散層は、それぞれ、前記粒子状導電性材料を5質量%~35質量%、前記繊維状導電性材料を35質量%~80質量%、前記高分子樹脂を10質量%~40質量%の含有割合で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記粒子状導電性材料は、カーボンブラックを含み、
前記繊維状導電性材料は、カーボンナノチューブを含み、
前記高分子樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば、電解質膜およびそれを挟む一対の電極を有する膜電極接合体を備える。一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。
【0003】
ガス拡散層の構成として、特許文献1には、繊維多孔質基材にホウ素変性カーボンブラックを含む導電剤が充填されているガス拡散層であり、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布グラフにおいて、ピークを1つだけ有し、そのピークが細孔直径0.01~1μmの範囲に存在するものが開示されている。ガス拡散層の細孔径ピークが上記の範囲にあることにより、正極(カソード)で生成した水を内部に留め、固体高分子膜を湿潤に保つことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-108441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料電池の性能は、ガス拡散層のほか、例えば触媒層などの構成にも左右される。単にガス拡散層の細孔径ピークを0.01~1μmの範囲としただけでは、必要とされる性能を維持できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、カソード触媒層を有するカソードと、アノード触媒層を有するアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に介在する電解質膜と、前記カソードおよび前記アノードの前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層された一対のガス拡散層と、を備え、前記カソード触媒層は、細孔径Dが0.01μm~1μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有し、前記カソードに積層された前記ガス拡散層は、細孔径Dが0.01μm~5μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有し、前記カソード触媒層の前記ピークにおける細孔径Dが、前記カソードに積層された前記ガス拡散層の前記ピークにおける細孔径Dよりも小さい、膜電極接合体に関する。
【0007】
本開示の他の局面は、上記膜電極接合体を備えた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】燃料電池のガス拡散層について、水銀圧入法による対数微分細孔容積分布の測定例を示すグラフである。
図2】本開示の実施形態に係る燃料電池の単セルの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る燃料電池は、カソード触媒層を有するカソードと、アノード触媒層を有するアノードと、カソードとアノードの間に介在する電解質膜と、カソードおよびアノードの前記電解質膜と反対側の面にそれぞれ積層された一対のガス拡散層と、を備えた膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう)を有する。燃料電池は、例えば、カソードと接触する導電性のカソードセパレータと、アノードと接触する導電性のアノードセパレータとを、さらに有し得る。MEAと一対のセパレータにより、1つのセルが構成され得る。カソードセパレータとアノードセパレータとが隣接するように複数セルを積層することで、セル同士が直列接続されたスタックが形成され得る。
【0011】
カソード触媒層は、細孔径Dが0.01μm~1μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有している。一方、カソードに積層されるガス拡散層(以下、「カソード側ガス拡散層」ともいう)は、細孔径Dが0.01μm~5μmの範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布におけるピークを有している。カソード触媒層の上記ピークにおける細孔径Dは、カソード側ガス拡散層の上記ピークにおける細孔径Dよりも小さい(D<D)。D/Dは、例えば、1.1以上2.5以下であり、1.1以上1.7以下、もしくは1.1以上1.5以下であってもよい。D-Dは、例えば、5nm以上120nm以下であり、5nm以上60nm以下、もしくは10nm以上40nm以下であってもよい。
【0012】
燃料電池の発電時において、カソードでは水が生成される。生成された水は、カソード触媒層からガス拡散層を介し、ガス流路へ排出される。このとき、生成された水は、カソード触媒層からカソード側ガス拡散層に至るに従い、水滴が結合して大きくなって排出され得る。よって、カソード側ガス拡散層のピーク細孔径Dを、カソード触媒層のピーク細孔径Dよりも大きくすることで、生成水の排出をより効果的に行うことができる。加えて、生成水がガス拡散経路を塞ぐことが抑制され、反応に必要なガスが触媒まで拡散し易くなる。この結果、反応効率が向上し、燃料電池の性能を高め易くなる。
【0013】
なお、カソード触媒層およびカソード側ガス拡散層の対数微分細孔容積dV/d(logD)分布は、水銀圧入法により測定される。ここで、対数微分細孔容積分布において、所定の細孔径の範囲に複数のピークが存在する場合、複数のピーク細孔径のうち主ピークを求める。主ピークとは、所定の細孔径の範囲における複数のピークのうちピーク面積(すなわち、細孔容積)が最も大きいものをいう。カソード触媒層において、対数微分細孔容積分布のピークが0.01μm~1μmの範囲に複数ある場合、複数のピーク細孔径のうち主ピークの細孔径が、ガス拡散層のピーク細孔径よりも小さければよい。同様に、カソード側ガス拡散層において、対数微分細孔容積分布のピークが0.01μm~5μmの範囲に複数ある場合、複数のピーク細孔径のうち主ピークの細孔径が、カソード触媒層の0.01μm~1μmの範囲におけるピーク細孔径よりも大きければよい。
【0014】
図1に、対数微分細孔容積分布の測定例を示す。図1において、実線で示すガス拡散層の対数微分細孔容積分布は、0.01μm~5μmの範囲において、1つのピークを有する(D=0.09μm)。一方、破線で示すガス拡散層の対数微分細孔容積分布には、0.01μm~5μmの範囲において、細孔径Dが0.04μmおよび0.2μmの位置において2つのピークが存在する。このうち細孔径Dがより小さい0.04μmのピークが、細孔径が大きな0.2μmのピークよりも、ピーク面積が大きい(すなわち、細孔容積が大きい)ため、細孔構造において支配的と考えられる。そこで、ガス拡散層のピーク細孔径として、ピーク面積のより大きな主ピークの細孔径D=0.04μmを採用する。
【0015】
カソード触媒層のピークにおける細孔径Dは、0.05μm以上であってもよい。この場合、ガス拡散層のピークにおける細孔径Dは、0.05μmより大きい。これにより、生成水が排出され易くなるとともに、ガス拡散性が向上する。
【0016】
ガス拡散層(カソード側ガス拡散層およびアノード側のガス拡散層の少なくとも一方)は、基材を用いずに作製されてもよい。ガス拡散層として、機械的強度を維持するため、カーボンクロスおよびカーボンペーパーなどの導電性多孔質シートの上に撥水層を形成した構成がある。一方で、触媒層との密着性がよく、膜厚および多孔度の制御がし易く、且つ、ガス拡散層上に流路を直接形成することもできることから、導電性材料と高分子樹脂とを主成分とし、導電性基材を有しない構成も試みられている。基材を有するガス拡散層の場合、対数微分細孔容積分布は、カーボン繊維織布およびカーボンペーパーの細孔構造に起因して5μmを超える範囲にピークを有し得る。これに対し、基材を有しないガス拡散層は、細孔径が5μmを超える範囲において、対数微分細孔容積dV/d(logD)分布にピークを有しない。
【0017】
以下、本実施形態に係る燃料電池の構造の一例を、図2を参照しながら説明する。図2は、一実施形態に係る燃料電池に配置される単セルの構造を模式的に示す断面図である。通常、複数の単セルは積層されて、セルスタックとして燃料電池に配置される。図2では、便宜上、1つの単セルを示している。
【0018】
単セル200は、電解質膜110と、電解質膜110を挟むように配置された第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bと、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bをそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置された第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bと、を有する膜電極接合体100を備える。また、単セル200は、膜電極接合体100を挟む第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bを備える。第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのうちの一方はアノードとして機能し、他方は、カソードとして機能する。電解質膜110は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bより一回り大きいため、電解質膜110の周縁部は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bからはみ出している。電解質膜110の周縁部は、一対のシール部材250A、250Bで挟持されている。
【0019】
第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのいずれか一方は、アノード触媒層であり、他方はカソード触媒層である。ここでは、第1触媒層120Aをカソード触媒層とし、第2触媒層120Bをアノード触媒層とする。この場合、第1ガス拡散層130Aがカソード側ガス拡散層に相当し、第1触媒層120Aの対数微分細孔容積分布と第1ガス拡散層130Aの対数微分細孔容積分布とが、上述の細孔径ピークの関係を満たしている。
【0020】
(ガス拡散層)
第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bは、基材層を有する構造でもよく、基材層を有さない構造でもよい。基材層を有さない構造がより好ましい。基材層を有さない構造としては、上述の導電性材料と高分子樹脂から形成される微多孔質シートを用いることができる。基材層を有する構造としては、例えば、基材層と、その触媒層側に設けられた微多孔層とを有する構造体が挙げられる。基材層には、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質シートが用いられる。微多孔層には、フッ素樹脂等の撥水性樹脂と、導電性炭素材料と、プロトン伝導性樹脂(高分子電解質)との混合物等が用いられる。
【0021】
基材レスのガス拡散層は、例えば、導電性材料と高分子樹脂とを含む。高分子樹脂は、導電性材料と高分子樹脂との合計100質量部に対して、10~40質量部が好ましい。導電性材料は、粒子状材料を含み、更に繊維状材料を含ませてもよい。
【0022】
粒子状材料としては、カーボンブラック、球状黒鉛、活性炭などが挙げられる。中でも、導電性が高く、細孔容積が大きい点で、カーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどが使用できる。繊維状材料としては、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0023】
導電性材料には、粒子状材料と繊維状材料とを含ませてもよく、更に板状材料を含ませてもよい。板状材料は、ガス拡散層の面方向(厚み方向に垂直な方向)に沿って配向するように、ガス拡散層内に設けられ得る。板状材料は、ガス拡散層の面方向へのガス拡散性を高める作用を奏する。板状材料は、巨視的に見ると粒子状であるが、微視的に見ると板状粒子で構成されている。板状材料の具体例としては、鱗片状黒鉛、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物、グラフェンなどが挙げられる。中でも、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物やグラフェンは、ガス拡散層の面方向に配向しやすく、ガス拡散層を薄く形成するのに有利であり、かつガス拡散層の面方向におけるガス拡散性を高めるのに適している。
【0024】
高分子樹脂は、導電性材料同士を結着するバインダとしての機能を有する。ガス拡散層内の細孔での水の滞留を抑制する観点から、高分子樹脂の50質量%以上、更には90質量%以上が撥水性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVdF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(ポリフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。中でも、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から、フッ素樹脂はPTFEであることが好ましい。
【0025】
ガス拡散層は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、導電性材料と、高分子樹脂と、界面活性剤と、分散媒とを含む混合物を調製する。混合装置には、混練機もしくはミキサーを用いればよい。このとき、混合装置に、導電性材料、界面活性剤および分散媒を投入して導電性材料を分散媒に均一に分散させた後、高分子樹脂を添加して更に分散させることが好ましい。高分子樹脂には、適度なせん断力を付与して、高分子樹脂をフィブリル化させることが好ましい。分散媒としては、例えば、水、アルコール、グリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0026】
次に、得られた混合物を押し出し成形などの成形方法でシートに成形する。得られたシートを更に圧延してもよい。圧延には、ロールプレス機を使用することができる。ロールプレスの条件は、特に限定されないが、線圧0.001ton/cm~4ton/cmで圧延することで強度の高いガス拡散層を得やすくなる。
【0027】
次に、シートを焼成して界面活性剤および分散媒が除去された焼成シートとする。焼成温度は、高分子樹脂が劣化せず、かつ界面活性剤や分散媒が分解もしくは揮発する温度であればよい。高分子樹脂としてPTFEを用いる場合、焼成温度は280~340℃が好ましい。焼成雰囲気は、不活性雰囲気であればよく、例えば窒素、アルゴンなどの雰囲気や、減圧雰囲気が好ましい。界面活性剤および分散媒は、その大半がシートから除去されればよく、必ずしも完全に除去する必要はない。
【0028】
(触媒層)
第1触媒層120A(カソード触媒層)は、例えば、導電性材料と、触媒粒子と、プロトン伝導性樹脂を含む。触媒粒子は、導電性材料に担持されている。導電性材料は、粒子状導電部材、および/または、繊維状導電部材を含む。繊維状導電部材を含ませることで、触媒層のガス拡散性を高めることができる。
【0029】
(繊維状導電部材)
繊維状導電部材としては、例えば、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状炭素材料が挙げられる。繊維状導電部材の直径Dについては、特に限定されないが、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上170nm以下である。この場合、触媒層中に占める繊維状導電部材の体積割合を小さくしながら、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性を高めることができる。繊維状導電部材の直径Dは、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより求められる。直径は、繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0030】
繊維状導電部材の長さLについても、特に限定されないが、好ましくは0.2μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上10μm以下であるとよい。この場合、繊維状導電部材の少なくとも一部が触媒層の厚み方向に沿って配向し、ガス拡散経路を確保しやすい。繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の繊維状導電部材の繊維長さとは、略直線状の繊維状導電部材の場合、繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。
【0031】
繊維状導電部材は、内部に中空の空間(中空部)を有していてもよい。この場合、触媒層内において、繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口していてもよい。繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口しているとは、当該開口により中空部と外部とが連通していることを意味する。すなわち、繊維状導電部材の両端の開口は、電解質膜およびガス拡散層のいずれによっても塞がれておらず、ガスが両端から出入り可能である。
中空部を有する繊維状導電部材の側壁には、中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられてもよい。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に配し、固定化することができる。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように側壁に担持された触媒粒子は、反応ガスとの接触がより効率的に行われ、触媒層の反応効率を大幅に高められる。
【0032】
(粒子状導電部材)
粒子状導電部材としては特に限定されないが、導電性に優れる点で、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。その粒径(あるいは、複数の連結した一次粒子で構成されたストラクチャーの長さ)は特に限定されず、従来、燃料電池の触媒層に用いられるものを使用することができる。
【0033】
(触媒粒子)
触媒粒子としては特に限定されないが、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、ランタノイド系列元素やアクチノイド系列の元素の中から選ばれる合金や単体といった触媒金属が挙げられる。例えば、アノードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Ru合金等が挙げられる。カソードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Co合金等が挙げられる。触媒粒子の少なくとも一部は、粒子状導電部材に担持されている。触媒粒子は、粒子状導電部材に加えて、繊維状導電部材に担持されていることが好ましい。触媒粒子がガスに接触し易くなり、ガスの酸化反応あるいは還元反応の効率が高まるためである。
【0034】
触媒粒子の固定化の観点から、触媒粒子の直径Xは、好ましくは1nm以上10nm以下であり、より好ましくは2nm以上5nm以下である。Xが1nm以上である場合、触媒粒子による触媒効果が十分に得られる。Xが10nm以下である場合、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に担持させ易い。
【0035】
触媒粒子の直径Xは、以下のようにして求められる。
触媒層のTEM画像で観察される任意の1個の触媒粒子について、当該粒子を球状と見なした際の粒径を算出する。これを、TEM画像で観察される100~300個の触媒粒子に対して行い、それぞれの粒径を算出する。これらの粒径の平均値を触媒粒子の直径Xとする。
【0036】
(プロトン伝導性樹脂)
プロトン伝導性樹脂としては特に限定されないが、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子、炭化水素系高分子等が例示される。なかでも、耐熱性と化学的安定性に優れる点で、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子等が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子としては、例えばNafion(登録商標)が挙げられる。プロトン伝導性樹脂は、粒子状導電部材、繊維状導電部材、および/または、触媒粒子の少なくとも一部を被覆している。
【0037】
第2触媒層120B(アノード触媒層)は、公知の材質および公知の構成を採用できる。アノード触媒層は、カソード触媒層と同様、導電性材料と、導電性材料に担持される触媒粒子と、プロトン導電性樹脂と、を含み得る。また、導電性材料は、粒子状導電部材および/または繊維状導電部材を含み得る。
【0038】
アノード触媒層は、カソード触媒層ほど高い酸化性の環境にさらされることはないが、反応で水が生成されないため、カソード触媒層よりも低湿の環境になり易い。この結果として、プロトン伝導性が低下し易い。カソード触媒層よりも高いプロトン伝導性が得られるように、粒子状導電部材、繊維状導電部材、および、プロトン導電性樹脂の各組成および含有割合は変更され得る。
【0039】
触媒層の厚みは、燃料電池の小型化、および、プロトン抵抗を低く維持し、高出力を得る観点から、可能な限り薄いことが望ましい。一方で、強度の観点から、過度に薄くないことが好ましい。一般に、繊維状導電部材の配合割合が多くなると、触媒層の厚みは厚くなり易い。
【0040】
カソード触媒層の厚みTは、例えば、4μm以上15μm以下である。アノード触媒層の厚みTは、例えば、2μm以上12μm以下である。触媒層の厚みTおよびTは、平均厚みであり、触媒層の断面における任意の10箇所について、一方の主面から他方の主面まで、触媒層の厚み方向に沿った直線を引いたときの距離を平均化することにより、求められる。
【0041】
触媒層における繊維状導電部材の配合割合については、アノード触媒層およびカソード触媒層ともに、繊維状導電部材が、質量基準で粒子状導電部材に対して20%以上含まれていることにより、ガス拡散性を高めることができる。一方で、繊維状導電部材の配合量を高めると、触媒層の膜厚が厚くなり易く、プロトン移動抵抗が増大し易くなる。また、触媒層にクラックが生じ易くなる。プロトン移動抵抗の増大を抑制し、クラックを抑制する観点から、繊維状導電部材の配合量は、アノード触媒層および/またはカソード触媒層において、質量基準で粒子状導電部材に対して50%以下であってもよい。
【0042】
触媒層は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、触媒粒子および粒子状導電部材を、分散媒(例えば、水、エタノール、プロパノール等)中で混合する。次いで、得られた分散液を撹拌しながら、プロトン伝導性樹脂および繊維状炭素材料を順次添加して、触媒分散液を得る。プロトン伝導性樹脂は、2回以上に分けて添加してもよい。この場合、プロトン伝導性樹脂の2回目以降の添加は、繊維状炭素材料と共に行ってもよい。その後、得られた触媒分散液を、電解質膜または適当な転写用基材シートの表面に均一な厚さで塗布し、乾燥させることにより、触媒層が得られる。
【0043】
塗布法としては、慣用の塗布方法、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、および、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの各種コーターを利用するコーティング法等が挙げられる。転写用基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンなどの平滑表面を有するシートを用いることが好ましい。転写用基材シートを用いる場合、得られた触媒層は、後述する電解質膜またはガス拡散層に転写される。
【0044】
触媒層の電解質膜またはガス拡散層への転写は、触媒層の転写用基材シートに対向していた面を、電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより行われる。触媒層の平滑な面を電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより、触媒層との界面抵抗が減少し、燃料電池の性能が向上する。電解質層に直接、触媒分散液を塗布してもよい。
【0045】
(電解質膜)
電解質膜110として、高分子電解質膜が好ましく用いられる。高分子電解質膜の材料としては、プロトン伝導性樹脂として例示した高分子電解質が挙げられる。電解質膜の厚みは、例えば5~30μmである。
【0046】
(セパレータ)
第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bは、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料等が好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に打ち抜き、表面処理を施すことにより、第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bが得られる。
【0047】
本実施形態においては、第1セパレータ240Aの第1ガス拡散層130Aと当接する側の面には、ガス流路260Aが形成されている。一方、第2セパレータ240Bの第2ガス拡散層130Bと当接する側の面には、ガス流路260Bが形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、ストレート型、サーペンタイン型等に形成すればよい。
【0048】
(シール部材)
シール部材250A、250Bは、弾性を有する材料であり、ガス流路260A、260Bから燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材250A、250Bは、例えば、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材250A、250Bとしては、それぞれ、公知の材質および公知の構成を採用できる。
【0049】
以下、本開示を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例]
(1)カソード触媒層用の分散液の調製
触媒粒子(Pt-Co合金)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)100質量部を添加し、撹拌することにより、カソード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0051】
(2)アノード触媒層用の分散液の調製
触媒粒子(Pt)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)120質量部を添加し、撹拌することにより、アノード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0052】
(3)ガス拡散層の作製
粒子状導電性材料(カーボンブラック)、繊維状導電性材料(カーボンナノチューブ、繊維径50nm~300nm、繊維長1μm~50μm)、界面活性剤、および分散媒を攪拌装置に投入し、攪拌、混練して、材料を均一に分散させた。その後、さらに高分子樹脂としてPTFEを投入し、均一に分散させて混練物を得た。次に、混練物を押し出してシート状に引き伸ばして乾燥させた。得られたシートを310℃で焼成し、界面活性剤および分散媒を除去し、ガス拡散層を得た。
【0053】
ガス拡散層に占める粒子状導電性材料、繊維状導電性材料、および高分子樹脂の含有量は、それぞれ、粒子状導電性材料が5質量%~35質量%、繊維状導電性材料が35質量%~80質量%、高分子樹脂が10質量%~40質量%の範囲で調節された。これにより、細孔構造の異なる5種類のガス拡散層A1~A5を作製した。
【0054】
(4)単セルの作製
2枚のPETシートを準備し、スクリーン印刷法を用いて、一方のPETシートの平滑な表面に、得られたカソード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布し、他方のPETシートの平滑な表面に、得られたアノード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、2つの触媒層を形成した。カソード触媒層の膜厚は6μmであり、アノード触媒層の膜厚は4.5μmであった。
【0055】
カソード触媒層の細孔径分布を水銀圧入法により測定したところ、細孔径Dが80nmにおいて対数微分細孔容積dV/dlogDがピークを有していた。
【0056】
厚さ15μmの電解質膜の両方の主面に得られた触媒層をそれぞれ転写して、電解質膜の一方の表面にカソードを、他方の表面にアノードを形成した。その後、ガス拡散層A1~A5をそれぞれ2枚準備し、2枚のうち一方をアノードに、他方をカソードに、それぞれ当接させ、5組の膜電極接合体を作製した。
【0057】
次に、アノードおよびカソードを囲むように枠状シール部材を配置した。ガス拡散層に接する部分にガス流路を有する一対のステンレス鋼製平板(セパレータ)で全体を挟持して、ガス拡散層A1を用いる試験用単セルX1、ガス拡散層A2を用いる試験用単セルX2、ガス拡散層A3を用いる試験用単セルX3、ガス拡散層A4を用いる試験用単セルX4、および、ガス拡散層A5を用いる試験用単セルX5をそれぞれ完成させた。
【0058】
<評価>
単セルを80℃に加熱し、相対湿度100%の燃料ガスをアノードに、相対湿度100%の酸化剤ガス(空気)をカソードに供給した。燃料ガス、および、酸化剤ガスは、各電流密度において、セル入口ガス圧力70~90kPaに加圧して供給した。そして、電流が一定に流れるように負荷制御装置を制御し、アノードおよびカソードの電極面積に対する電流密度を変化させながら、単セルの電圧(初期電圧)および抵抗値を測定した。
【0059】
単セルX1~X5のそれぞれについて、最大出力密度Wを評価した。表1に評価結果を示す。表1では、最大出力密度Wについて、単セルX5における最大出力密度Wの測定値を100とした相対値が示されている。また、表1には、単セルX1~X5で用いたガス拡散層A1~A5について、0.01μm~5μmの範囲において、対数微分細孔容積分布が主ピークをとる細孔径Dが併せて示されている。
【0060】
表1から分かるように、ガス拡散層A1~A4の主ピークにおける細孔径Dは、いずれもカソード触媒層の細孔径ピークD(80nm)よりも大きい。これに対し、単セルX5においては、ガス拡散層A5の主ピークにおける細孔径Dは、カソード触媒層の細孔径ピーク(80nm)よりも小さい。単セルX1~X4では、カソードで生成された水の排水性が良くなっており、最大出力密度がセルX5から向上している。
【0061】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示に係る燃料電池は、定置型の家庭用コジェネレーションシステム用電源や、車両用電源として、好適に用いることができる。本開示は、高分子電解質型燃料電池への適用に好適であるが、これに限定されるものではなく、燃料電池一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100:膜電極接合体、110:電解質膜、120:触媒層、120A:第1触媒層、120B:第2触媒層、130A:第1ガス拡散層、130B:第2ガス拡散層、200:燃料電池(単セル)、240A:第1セパレータ、240B:第2セパレータ、250A,250B:シール部材、260A,260B:ガス流路
図1
図2