(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138883
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】高出力高寿命の新型静電発電機
(51)【国際特許分類】
H02N 1/08 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
H02N1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044785
(22)【出願日】2022-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】398055026
【氏名又は名称】酒井 捷夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198373
【弁理士】
【氏名又は名称】江畑 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 捷夫
(57)【要約】
【課題】非対称静電力駆動型の静電発電機において、その出力の大幅な増加と出力の長期安定性を実現できる装置構成を提供すること。
【解決手段】
回転移動する電荷搬送体円板上において、一定の角度ごとに、半径に比例した大きさで且つ10mm以下の電荷搬送体を異なる半径の円周上に配置し、該電荷搬送体円板を上下ではさむ一対の固定電極円板であって、該固定電極円板上に、一定の円周角度ごとに、半径に比例した大きさで且つ10mm以下の充電エレクトレット、駆動エレクトレット、回収電極を、異なる半径の円周上で、順次放射状に配置すること、及び、前記電荷搬送体円板上に、前記充電エレクトレットを摩擦帯電できるブラシを配置した静電発電機。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電エレクトレット、駆動エレクトレット、回収電極と電荷搬送体で構成され、該充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極が形成する電界によって付与される非対称静電力で電荷搬送体を駆動する静電応用機器において、各充電エレクトレット、駆動エレクトレット、回収電極及び電荷搬送体の大きさが、夫々10mm以下であることを特徴とする静電応用機器。
【請求項2】
請求項1の静電応用機器であって、各複数の充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極を固定する固定円板を有し、該充電エレクトレット、駆動エレクトレット及び回収電極は、該固定円板上の異なる半径の各円周上において、夫々円周方向に順次且つ放射状に固定され、且つ各円周上の各充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極は、夫々半径に比例する大きさであることを特徴とする静電応用機器。
【請求項3】
上下の固定円板上に夫々相対して設けられた充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極と、その間を、これら充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極が形成する電界によって付与される非対称静電力で回転移動する電荷搬送体を主要構成要素とする静電応用機器において、
前記上下固定円板間に、前記上下の充電エレクトレットに接触して回転し、該上下の充電エレクトレットと帯電系列が逆側の材質で形成される摩擦帯電部材を設けることを特徴とする静電応用機器。
【請求項4】
請求項3において、上下固定円板間において、複数の前記電荷搬送体を載せて回転する電荷搬送体円板を設け、該電荷搬送体円板上に前記摩擦帯電部材を載せたことを特徴とする静電応用機器。
【請求項5】
請求項3において、該前記摩擦帯電部材を前記充電エレクトレットと接離可能に形成し、該充電エレクトレットの電位が低下したときのみ接触させて回転させることを特徴とする静電応用機器。
【請求項6】
請求項3において、該摩擦帯電部材を前記充電エレクトレットと接離可能に形成し、該充電エレクトレットの電位が低下しないときは、軽く接触させて該充電エレクトレットの電位低下分を補うことを特徴とする静電応用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称静電力を駆動力とする電界駆動型静電力応用機器(発電機、モーター、加速器等)であって、高出力、高寿命化した静電力応用機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球の環境問題を解決する有力な手段として太陽光発電が用いられているのは、
図1に示すように、太陽はその周辺に絶えることなくエネルギーを放出続けているからである。一方、我々の周囲に無数に存在する電子も、同様に、その周囲に常時エネルギーを放出続けており、太陽と同様に大変有益なエネルギー源である。
【0003】
しかしながら、現在、太陽の放出エネルギーは有効に利用されているが、電子の放出エネルギーは、ほとんど利用されていない。電子のエネルギーと機械的エネルギーを組み合わせた静電発電機は発明されているが、複雑な構成で、ほとんど使用されていない。そのため、太陽光発電のように、電子の放出エネルギーのみで発電できる構成のシンプルな静電発電機が望まれている。
(旧型静電発電機)
【0004】
旧型静電発電は、通常、電位の低いところで電荷を集めて電荷搬送体に載せ、これを電位の高いところまで搬送して降ろすことで行われる。
そのとき、電位の高いところに向かう電荷搬送体には、これを押し戻す方向に静電力が働く。この静電力に抗して電荷搬送体を電位の高いところまで持ち上げるためには、より強い力が必要である。現在、静電発電機としてもっとも普及しているバンデグラフの静電発電機では、この力を電気モーターで得ている。
しかしながら、このとき、モーターで消費される電気エネルギーは、発生する電気エネルギーより大きいので、正確には発電機ではなく高電位発生器である。
(新型静電発電機)
【0005】
これに対して、出願人は、電子が発生するエネルギーのみで継続的に発電できる新型の静電発電機を考案した。電荷搬送体を搬送する力(以下駆動力ともいう)は、いわゆる非対称静電力である。
ここで、非対称静電力とは、電界の方向が反転する前後において、帯電した非球形の導体に作用する各静電力の差(絶対値)であって、該導体を電界の方向に駆動する力をいう。又、非球形とは、例えば、横置きした箱等、進行方向前後で非対称な縦断面を有する立体形状を言う。
(非対称静電力)
【0006】
従来、電界中に置かれた電荷(q)に作用する静電力は、全て
図2に示すクーロンの法則(F = qE)を用いて計算されている。
同図において、参照番号1は高圧電極、参照番号2は接地された第一対向電極、参照番号3は点電荷、参照番号4は点電荷に作用する静電力のベクトル、参照番号5は電界(電気力線)、及び参照番号6は、接地された第二対向電極を示している。
つまり、
図2の中央左側において、例えば、電界の強さが10
6 V/mで、点電荷の電荷量が10
-7Cのとき、点電荷に作用する静電力は0.100Nになる。
一方、
図2の中央右側のように、電界の方向が反転したとき、該点電荷に作用する静電力の方向も反転するが、その大きさ(絶対値)は0.100Nであり、変わらない。又、かかるクーロンの法則は、点電荷又は点電荷とみなせる球形の帯電体にしか適用できない。
(二次元差分法)
【0007】
従い、電界中に置かれ、帯電した非球形の導体に作用する静電力は、クーロンの法則(式)ではその計算ができないが、例えば、二次元差分法でシミュレーションすることで求められる。
そこで、
図3に示すように、参照番号7で示す帯電した導体の形状を非球形である横向きの樋型とし、その帯電量と電界の強さは
図2と各同じとして、二次元差分法で、該非対称形状の帯電した導体に作用する静電力を求めた。
その結果、電界が反転すると、帯電した非球形の導体に作用する静電力の絶対値は、0.083Nから0.038Nへと大きく変わることが分かった。つまり、非対称静電力の存在を確認した。その際、導体に作用する静電力が相対的に大きくなる
図3の中央左側部分の電界を「順電界」、該静電力が小さくなる右側部分の電界を「逆電界」と定義した。
この現象は、実験でも確認され(非特許文献[3])、理論的にも証明された(非特許文献[4])。
(電界駆動型静電発電機)
【0008】
そして出願人は、かかる非対称静電力を駆動力とする電界駆動型静電発電機を提案した。(特許文献[1][2][3][4][5])(非特許文献[1][2][5][6])
【0009】
かかる非対称静電力を電荷搬送体の駆動力とする電界駆動型静電発電機では、電位0Vで、電荷搬送体を静電誘導によって帯電させ、該電荷搬送体を、先ず、順電界中において強い静電力で十分加速させたのち、逆電界に入れる。
該逆電界では、その非対称形状故に該電荷搬送体に働く進行逆方向の静電力は弱く、且つ該電荷搬送体の電位が0Vに戻ったとき、該電荷搬送体に余剰の運動エネルギーが残っている。
その結果、当該電荷搬送体は、当該逆電界において更に高い電位迄上ることができる。なお、実際の装置で、このとき時働く静電力のシミュレーション結果は後述する。
【0010】
図4は、かかる電界駆動型静電発電機の基本ユニットの正面図である。
図中、参照番号8は電荷注入電極を、参照番号9は電荷搬送体駆動用高電位源(例えば、高電圧が印加された電極、高電位のエレクトレット、高電位の強誘電体、以下同様)を、参照番号11は電荷搬送体を、参照番号10は電荷回収電極を、参照番号12は電荷回収電極10に接続された回収部コンデンサーを、参照番号13及び15は、これら両電極8及び10並びに高電位源(強誘電体も含むエレクトレット、以下同様)を支持する上下一対の絶縁性支持体を示している。
尚、参照番号4及び5は、
図2及び
図3と同じく、電荷搬送体11に加わる静電力と電界(電気力線)を示している。
【0011】
ここで、駆動用高電位源エレクトレット9は、例えば、0.1mC/m2 の表面電荷密度を有し、その電位は、例えば、+2000Vである。一方、電荷注入電極8の電位は0Vで、電荷回収電極10の電位は、例えば、-200Vである。
この結果、電荷注入電極8とエレクトレット9の間には、負極性に帯電される前記電荷搬送体11に対して、順電界が形成される。
一方、エレクトレット9と回収電界10の間には、同電荷搬送体11に対して逆電界が形成される。
【0012】
上記の通り、電荷搬送体11は、横向きにした樋型であるから、その縦断面横方向中央における、電界の方向又は電荷搬送体11の移動方向に直角な垂線に対し、左右非対称形であり、よって、移動方向に前後非対称な形状を有する。
該電荷搬送体11は、軽い導体、例えばアルミで形成されていて、絶縁性の電荷搬送体保持体14に保持されている。その結果、電気的にフロートである。
【0013】
該電荷搬送体11は、非対称な静電力4で駆動されて、
図4中、左から右に移動して、上下一対の電荷注入電極8、駆動手段たる高電位源9、及び上下一対の電荷回収電極10を順次通り抜ける。
具体的には、先ず、該電荷搬送体11が、上下一対の電荷注入電極8を抜ける時、接地されたアルミフォイル又は導電糸等の材料からなる導電性端子が、電荷搬送体11に接触し、静電誘導によって、例えば負極性の電荷が該電荷搬送体11に注入される。
そして、該電荷搬送体11が上下一対の電荷回収電極10に奥深く入ったとき、該電荷回収電極10に繋がる搬送電荷回収用の導電性端子が接触して、該電荷搬送体11が有する前記注入電荷は回収される。
【0014】
即ち、順電界中においては、強い静電力によって電荷搬送体11を加速運動させ、電荷搬送体11が逆電界に入り、減速運動になっても、それが受ける逆方向の静電力は弱いので、十分な速度を持って電荷回収電極10に到達させられる。
【0015】
しかしながら、静電誘導によって電荷搬送体11に充電される電荷量は十分でなく、これを大幅に増やすために、出願人は、以下の新しい充電方法を提案した(非特許文献[5])。
即ち、所定の電位を有する充電電界形成電位源(例えば、電位を有する電極又はエレクトレット)18と電荷搬送体11を近接させ、両者間で一時的にコンデンサーを形成し、電荷搬送体11を接地したときに、当該コンデンサーに流れ込む電荷で当該電荷搬送体11を充電することで帯電する(非特許文献[5])。以下、該充電方法を、充電式帯電方法という。
(充電式帯電方法)
【0016】
図5は、かかる充電式帯電方法で電荷搬送体11へ電荷を注入する電界駆動型静電発電機における電荷注入部分の拡大図である。
同図において、参照番号18は低電圧が印加された充電電界形成源(例えば、電極またはエレクトレット)、参照番号9は駆動高電位源(例えば、電極またはエレクトレット)、参照番号11は電荷搬送体、参照番号23は接地された注入用端子を示している。
この充電電界形成電極18は、それ自体に低電圧が印加され、高電圧が印加された駆動電極9とで加速電界を形成する。
即ち、該充電電界形成電極18と駆動電極9間で順電界を形成し、その方向に作用する非対称静電力で電荷搬送体11を加速する加速電界が形成される。充電電界形成電極18は、又、接地されつつ通過する電荷搬送体11との間で専用の電界を形成し、該電荷搬送体11に電荷を充電する。
【0017】
具体的には、
図5に示すように、上下一対の充電電界形成電極18と、電荷搬送体11の上下の水平板112は、夫々空気層を挟んで、上下一対のコンデンサーを形成している。そのため、電荷搬送体11が、固定された注入用端子23を介して接地されると、上記上下の水平板112に電荷が注入される。
(充電式ベンチモデル)
【0018】
ここで、該充電式帯電方法を使用した充電式ベンチモデルである電界駆動型静電発電機の概略縦断面を
図6に、その概略横断面を
図7に示す。尚、図中、
図4及び
図5と同一の参照番号が付された部材は、
図4及び
図5と同一の部材を示す。又、簡略化のため、以下、充電電界形成源(例えば、電極またはエレクトレット)は、充電エレクトレット、駆動高電位源(例えば、電極またはエレクトレット)は駆動エレクトレットという。
即ち、参照番号18は充電エレクトレット、参照番号9は駆動エレクトレット、参照番号10は回収電極であり、参照番号14は電荷搬送体保持円板、参照番号16はステンレス製の回転軸(例えば柱)、参照番号23は注入用端子、及び参照番号24は回収用端子である。又、参照番号17は、電荷搬送体保持円板14のセンターに固定され、固定回転軸16の周りを回転するベアリングである。
【0019】
図6及び
図7に示されるように、上記充電エレクトレット18、駆動エレクトレット9、及び回収電極10、並びに電荷搬送体11は、垂直(紙面上下)に形成され、固定されている。そして、充電エレクトレット18、駆動エレクトレット9、及び回収電極10は、各半径方向で内外一対の垂直板部分を有し、その間を、電荷搬送体11が、順次軸周りに回転して通り抜けるように構成されている。
又、
図7に示されるように、充電エレクトレット18、駆動エレクトレット9、及び回収電極10は各々2個あり、合計6個が60度間隔で配置されている。又、電荷搬送体11も6個あり、電荷搬送体保持円板14に60度間隔で吊り下げられている。
【0020】
かかる構成において、電荷搬送体11は、先ず、充電エレクトレット18で帯電し、駆動エレクトレット9を通り抜けて回収電極10に入り、電荷の大部分を回収電極10に放出する。電荷搬送体11は、回収電極10を抜けて更に回転し、次の充電エレクトレット18に入り、帯電と電荷放出を繰り返す。つまり、前記非対称静電気力により電界駆動型の発電を行う。
【0021】
ここで、回収電極10は、
図4に示すように、外部コンデンサー12と接続されていて、その表面電位は、表面電位計(シシド静電気株式会社製の表面電位計:FLATIRON-DZ 3)で測定することができる。
そこで、試作機で測定したところ、回収コンデンサーの表面電位の変化は、
図8に示すとおりであった。つまり、その電位は、時間とともに、すなわち、帯電した電荷搬送体11が回収電極10を通過するごとに上昇しており、発電が行われていることが分かる。
【0022】
次に、帯電した電荷搬送体11が、電荷注入位置から電荷回収位置まで移動する際に、該電荷搬送体11に作用する静電力を、二次元差分法でシミュレーションした。その結果を
図9に示す。
つまり、この間に、順電界中で電荷搬送体が受けるエネルギーは16.81μJであり、逆電界中で失うエネルギーは6.27μJであり、その差は、10.54μJもある。ゆえに、理論上、電荷搬送体円板は、常に連続回転し、発電を続ける。
【0023】
しかしながら、試作機においては、電荷搬送体円板14は連続回転に至らない場合があった。そこで、出願人は、実験の再現性を高めるべく、電界駆動型静電発電機の充電電位源、駆動高圧電位源、及び回収電極の夫々の幅と、それら間の間隔、及びその電位を特定した。([非特許文献6])
【0024】
又、電荷に作用する静電力で電荷搬送体11を駆動する静電発電機において、
二次元差分法によるシミュレーションでは、電荷搬送体11を加速する順方向の静電力は、これを減速させる逆方向静電力の2倍以上もあり、空気抵抗を考慮しても、理論上、電荷搬送体たる円板14を常に継続して回転させられる。
しかしながら、試作機においては、継続回転に至る確率が低く、その原因としては、例えば、上記シミュレーションでは、充電電極18、駆動電極9、及び回収電極10を一直線に並べているが、実際の装置たる電界駆動型の静電発電機では、これら三電極を円周上に配置していることに起因することが考えられる。そこで、実験で、電荷搬送体円板14に加わる静電力を実測した。
【0025】
尚、電荷搬送体円板14を駆動する微小なトルクの測定は、電荷搬送体円板14の回転持続時間の測定で代用する。具体的には、先ず、電荷搬送体円板14を10秒間エアーフローで強制回転させたのちの、自由回転時間を測定する。その結果、無電界中での継続時間よりも長時間回転続ければ、電荷搬送体円板14には加速する静電力が加わっていることになり、逆に継続回転時間が短くなれば、減速する静電力が加わっていることになる。加速静電力が十分強ければ、電荷搬送体円板14は、止まることなく何時までも回転続ける。
【0026】
電荷搬送体円板14の継続回転時間を測定する実験装置の横断面を
図10に示す。
即ち、電荷搬送体円板14に吊り下げられて回転する電荷搬送体11を挟むように、互いに対向する一対の充電電極18と、その上流で、互いに対向する一対の回収電極10が立設され該回収電極10から約180度回転した位置に、互いに対向する一対の駆動電極9が立設される。又、駆動電極9の上流に、新たに、互いに対向する一対の第一接地電極20、又駆動電極9の下流に、互いに対向する一対の第二接地電極21が立設され追加される。
この配置で、充電電極18を通過した時ときに、帯電された電荷搬送体11に対し、接地電極20と駆動電極9間では、順方向故に静電加速力が、駆動電極9と接地電極21の間では逆方向故に静電減速力が作用する。
【0027】
実験の結果、
図10に示す第一接地電極20と駆動電極9の間の距離d1を短くして加速電界を強くし、また第二接地電極21と駆動電極9の間の距離d2を長くして減速電界を弱くするほど、電荷搬送体円板14の受ける静電エネルギーは大きくなり、その継続回転時間は長くなることが分かった。
従い、加速電界を形成する電極間距離をできるだけ短く、逆に、減速電界を形成する電極間距離をできるだけ長くしたことで、電荷搬送体は常に連続的に回転するようになった。すなわち、実験の再現性は非常に改善された。
【0028】
又、この実験機で、駆動電極9に-5.0kVを印加し、電荷搬送体円板14をエアースプレイで一吹きしたところ、回転始め、次第に速度を上げて、100rpm前後で定常回転になり、回り続けて、回収電極10のコンデンサー12の表面電位は60秒後に-0.76kVになった。
そこで、該コンデンサーをアースしてその電荷を消去し0kVにしたところ、20秒後には-0.36kVになった。アースするごとに、同様の動作が繰り返された。その経時的な電位変化を
図11に示す。
【0029】
以上の結果、非対称静電力を電荷搬送体の駆動力とする新型静電発電機の原理的な問題は解決された。
しかしながら、該実験機の出力は数十μWであり、市販機にはより大きな出力が必須である。
【0030】
例えば、上記実験機の構成では、空間の利用効率が悪い。つまりその中心部の空洞はなんの役にも立っていない。
そこで、
図12と
図13で示すとおり、空間の利用効率を改善するために、電荷搬送体円板に吊り下げられていた樋型電荷搬送体を水平に置き換える。
図12は電荷搬送体11を載せた電荷搬送体円板14の斜視図であり、
図13は装置全体の斜視図である。
両図において、参照番号18は充電エレクトレット、9は駆動エレクトレット、及び11は電荷搬送体を示しており、10は回収電極、14は電荷搬送体11を載せた回転可能な電荷搬送体円板、及び13と15は、向かい合わせの同じ位置に、充電エレクトレット18と駆動エレクトレット9と回収電極10が設置され固定された固定電極円板を示しており、16は回転軸である。以下この1組の装置を1ユニットとする。
【0031】
さらに、
図14に示すように、該ユニットを多段に重ね、1個のボールベアリングで回転させることで、空間の利用効率は大幅に向上し、単位体積あたりの出力は10倍以上になる。
しかしながら、尚、市販機に必要な出力には及んでおらず、さらなる出力アップが必要である。
【0032】
ここで、汎用の発電機としては、出力の大きさのみならず、その安定性も必要である。
発電機で用いるエレクトレットの寿命は、約100年であり、その間の表面電位の低下も小さい。そのため、一般的な用途には、エレクトレットの表面電位の経時による出力の低下は問題にならないが、特殊用途では、出力の安定が必要な場合がある。例えば、太陽圏外に飛行する宇宙船の電源は、目的地にもよるが、100年や200年間、出力の安定が必要である。特に、宇宙空間では、宇宙線によるエレクトレット電荷の消耗が激しく、この対策が必要である。
従い、非対称静電力駆動型の静電発電機において、その出力の大幅な増加と出力の長期安定性が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
[特許文献1] 特開2009-232667号公報
[特許文献2] 特許第6136050号公報
[特許文献3] 特許第6286767号公報
[特許文献4] 特開2018-029425号公報
[特許文献5] 特開2022-002436号公報
【非特許文献】
【0034】
[非特許文献1][Asymmetric Electrostatic Forces and a New Electrostatic Generator], Nova Science Publishers, New York, 2010
[非特許文献2]2017年米国静電気学会年次大会予稿集 A-3
[非特許文献3][Asymmetric Electrostatic Force], K. Sakai, Journal of Electromagnetic Analysis and Applications, 2014,6
[非特許文献4][Theory of Asymmetric Electrostatic Force], K. Sakai, Journal of Electromagnetic Analysis and Applications,2017,9
[非特許文献5]2019年米国静電気学会年次大会予稿集 A-4
[非特許文献6][A new electrostatic generator driven by only an electric field of an electret], K. Sakai, Journal of Electromagnetic Analysis and Applications,2021,12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明が解決しようとする課題は、非対称静電力駆動型の静電発電機において、その出力の大幅な増加と出力の長期安定性を実現できる装置構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記発明が解決しようとする課題を、電荷搬送体円板上において、異なる半径の各円周上で、該半径に比例した大きさの電荷搬送体を、一定の角度ごとに放射状に配置し、且つ該電荷搬送体円板を上下ではさむ一対の固定電極円板の対向面夫々において、異なる半径の各円周上で、該半径に比例した大きさの充電エレクトレット、駆動エレクトレット、及び回収電極を、一定の角度ごとに順次、夫々放射状に配置すること、及び該電荷搬送体円板対向面に、該充電エレクトレットを摩擦帯電できるブラシを配置することで達成した。
【発明の効果】
【0037】
上記非対称静電力駆動型の静電発電機によれば、出力は大幅に増加し、出力の安定性は長期にわたって維持された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は太陽と電子のエネルギー放出を示す模式図である。
【
図2】
図2はクーロンの法則を説明する模式図である。
【
図3】
図3は横向きで樋型の導体を用いた非対称静電力を説明する模式図である。
【
図4】
図4は電界駆動型静電発電機の基本ユニットの縦断面図である。
【
図5】
図5は電荷を充電方法で注入する本発明の電界駆動型静電発電機における電荷注入部分の拡大図である。
【
図6】
図6は試作した電界駆動型静電発電機の概略縦断面図である。
【
図7】
図7は試作した電界駆動型静電発電機の概略横断面図である。
【
図8】
図8は、電荷搬送体である円板の回転に伴って回収電極コンデンサーの表面電位が上昇する実験結果を示すグラフある。
【
図9】
図9は、電荷搬送体の位置と作用する静電力をシミュレーションで求めた結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、電荷搬送体である円板の継続回転時間を測定する装置の概略横断面図である。
【
図11】
図11は、実験再現性を確実にした改良実験機において、電荷搬送体である円板の回転に伴って、回収電極コンデンサーの表面電位が上昇する実験結果を示すグラフある。
【
図12】
図12は、樋型電荷搬送体を水平に置き換えて載せた電荷搬送体円板の斜視図である。
【
図15】
図15は、電荷搬送体と充電エレクトレットの間隔、電荷搬送体前面の長さ、及び電荷搬送体横方向の長さを夫々1/100とした充電エレクトレット部の概略を示す略縦断面図である。
【
図16】
図16は、同一サイズの部品を、電極円板上において、外周から2列配置したときの概略を示す略横断面図である。
【
図17】
図17は、中心からの距離に比例したサイズの部品を、電極円板上で、外周から5列配置したときの概略を示す略横断面図である。
【
図18】
図18は、中心からの距離に比例したサイズの電荷搬送体を、電荷搬送体円板上において、外周から5列配置した時の略横断面図である。
【
図19】
図19は、1個の電荷搬送体を、先端にナイロンがある帯電棒に置き換え、該ナイロン部分が強くエレクトレットに接触している状態の概略を示す略縦断面図である。
【
図20】
図20は、帯電棒が90度回転されて、ナイロン部分がエレクトレットに接触していない状態の概略を示す略縦断面図である。
【
図21】
図21は、帯電棒が少し回転されて、ナイロン部分がエレクトレットに弱く接触している状態の概略を示す略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0039】
以上の技術的背景より、発電機の出力を高めるためには、電荷搬送体の帯電量を増やし、且つ電荷搬送体の移動速度を上げる必要がある。以下、その具体的な方法を実験機を元に説明する。
先ず、移動速度を上げる。ボールベアリング17の最高回転速度は30,000rpmであるが、電荷搬送体円板14は、現状100rpmでしか回転しない。その原因は、電荷搬送体11に加わる空気抵抗であると思われる。
そこで、該実験装置内を真空にすれば、その回転速度は大幅に向上し、例えば10,000rpmになると思われる。その結果、同一時間内に搬送される電荷量は100倍になり、出力電流も100倍になる。
【0040】
次に、電荷搬送体の帯電量を増やす。
ここで、充電エレクトレット18内で、接地された電荷搬送体11に充電される電荷量は、材料たる充電エレクトレットの電荷密度に比例し、空気コンデンサーを形成する充電エレクトレット18と電荷搬送体上部平板112との間隔に逆比例する。これは、該空気コンデンサーの充電量は、その間の電位差に比例し、該空気コンデンサーの厚さに逆比例するからである。
しかるに、本実験装置においては、
図15(1)に示すように、外周と内周の充電コンデンサーの間隔は25mmで、その間を通過する電荷搬送体11の前面の幅は10mmである。そのため、該空気コンデンサーの厚さは7.5mmもある。
なお、実験装置内を真空にすることで、充電エレクトレット18の電荷密度も数倍にすることができる。空気中で高電位にすると、コロナ放電が発生しやすいが、真空中ではコロナ放電は起こらないからである。
【0041】
この様に、外周と内周の充電コンデンサーの間隔が広いのは、実験装置は手作りであり、各部品の精度が良くないためである。
つまり、6個の電荷搬送体11は、水平に回転する電荷搬送体円板14に垂直に吊り下げるべきであるが、垂直とならず、その先端では、該円板14の円周より数mm膨らんで、外周側充電エレクトレット18に接近する。
また、電荷搬送体円板14も、厳密には水平に回転しない。よって、これら、手作りで生じた誤差を吸収するために、内外周充電エレクトレット18の間隔は25mmとなった。
【0042】
そこで、前記実験機の外周と内周の充電コンデンサー、6個の電荷搬送体11、水平に回転すべき電荷搬送体円板14を、手作りに替えて機械で正確に作製する。
その場合には、充電エレクトレット18と、電荷搬送体上部水平板112の間隔は、例えば、
図15(2)に示されるように、0.075mmまで詰める。つまり、装置内には空気がなく、電荷搬送体円板14は略厳密に水平回転するから可能となる。よって、空気コンデンサーの厚さが、1/100になったので、電荷搬送体への充電電荷量は100倍になる。
【0043】
更に、電荷搬送体11の前面の幅10mmは、かかる充電に無関係である。
そこで、この幅も1/100の0.1mmにして、且つ
図15(3)に示すように、25mmの内外周充電エレクトレット間に、例えば約100個(5個のみ図示)並べる。この結果、内外周充電エレクトレット18が形成する体積内に含まれる充電電荷量は100倍になる。
尚、並べる電荷搬送体の具体的な数は、固定電極円板13、15の厚さを考慮して決めることになる。
【0044】
ここで、電荷搬送体11の前面の幅のみを1/100の0.1mmとし、横の幅を10mmのままにしておくと、加速電界で前面に集まる電子の数が少なくなり、該電荷搬送体11を十分加速できない場合がある。
そこで、
図15(4)に示されるように、横の幅も1/100の0.1mmにする。
また、電荷搬送体11の長さが65mmのままでは、後で述べるように電荷搬送体円板14の設計が難しくなるので、同様に、1/100の0.65mmにするのがよい。
また、電荷搬送体11のかかるダウンサイズに対応して、他の部品もすべて1/100にダウンサイズする。
【0045】
尚、鏡像力駆動型であって方式は異なるが、各部品を1/100にダウンサイズした固定電極円板13,15の構成は、先願(
【特許文献5】)に記載されており、概ね採用できる。つまり、先願の発明では、円板上において、同一サイズの部品を同一間隔で、外周から中心に向けて配置している。但し、この部品配置方法を本発明で実施すると、
図16に示すような配置関係になり(その第一周と第二周のみ図示)、第一周の駆動エレクトレット9と、第二周の充電エレクトレット18間に強い電界が形成されて、第一周の加速電界が無くなる。この場合、第一周と第二周の間隔を広げればよいが、使用できる電荷搬送体の数は半減し、出力も半減する。
【0046】
そこで、
図17に示すように、固定電極円板13,15上に中心点から外周に伸びる放射線上に、中心点からの距離に比例したサイズの充電エレクトレット18、駆動エレクトレット9及び回収電極10を各順次配置した。この結果、半径が異なる各周に形成される電界が、他周の部品の影響を受ける問題は解決された。
また、
図18に示すように、回転移動する電荷搬送体円板14上に、中心点からの距離、つまり半径に比例したサイズの電荷搬送体11を配置した。この構成によって、ダウンサイジングによる高出力化が実現できる。
【0047】
以上の高出力化方法をすべて組み合わせて実施すると、計算上は、10cm立方の発電装置の出力は、数kWに達する。この点、用途によっては、1/100にダウンサイジングしなくても良いと考えられるが、実用機としては、すくなくとも、1/10程度にダウンサイジングする必要があると考えられる。つまり、すべての部品の大きさを、10mm以下にすべきである。
又、上記の実施例は、充電エレクトレット18及び駆動エレクトレット9ともに、負帯電のテフロン(登録商標)であり、電荷搬送体11に正電荷を注入し、駆動エレクトレット9の負電界で駆動するシステムである。
しかしながら、電荷搬送体11に負電荷を注入し、駆動エレクトレット9の負電界で駆動することも可能である。例えば、充電エレクトレット18として、テフロン(登録商標)に替えてPETを使用し、先端にテフロン(登録商標)球のある別の帯電棒25で摩擦帯電することができる。
この場合、駆動エレクトレットのテフロン(登録商標)をテフロン(登録商標)球が摩擦し、また充電エレクトレットPETをナイロン球が摩擦することにもなるが、摩擦帯電系列が同じなのでこれらが摩擦帯電されることはない。また、除電されることもほとんどない。
尚、ナイロンは抵抗が少し低く、電位の減衰が速いのでPETの方が相応しい。