(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138965
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子に特異性を有する最適化された操作されたヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/16 20060101AFI20230926BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104634
(22)【出願日】2023-06-27
(62)【分割の表示】P 2020555222の分割
【原出願日】2019-04-11
(31)【優先権主張番号】62/656,809
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508117721
【氏名又は名称】プレシジョン バイオサイエンシズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ジェームス,ジェファーソン
(72)【発明者】
【氏名】ラペ,ジャネル
(72)【発明者】
【氏名】リー,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ゲンシェル,ヨッヘン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】第1世代のTRC1-2メガヌクレアーゼよりも予想外に優れている、新規の第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼを提供する。
【解決手段】本発明は、ヒトT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子の第1エクソン内に存在する認識配列を認識かつ切断する、操作されたヌクレアーゼを包含する。操作されたメガヌクレアーゼは、第1世代のメガヌクレアーゼであるTRC1-2x.87EEと比較した場合、増強(すなわち増加)した特異性、または切断の効率などの少なくとも1つの最適化された特徴を示し得る。本発明はまた、遺伝子改変された細胞を作製するためのこうした操作されたヌクレアーゼを用いる方法、ならびに薬学的組成物において、および癌などの疾患を治療するための方法において、こうした細胞の使用を包含する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子内の配列番号5を含む認識配列を認識かつ切断する、操作されたメガヌクレアーゼであって、
前記操作されたメガヌクレアーゼが、第1のサブユニットと第2のサブユニットを含み、前記第1のサブユニットは、前記認識配列の第1の認識ハーフサイトと結合し、かつ第1の超可変(HVR1)領域を含み、前記第2のサブユニットは、前記認識配列の第2の認識ハーフサイトと結合し、かつ第2の超可変(HVR2)領域を含み、
更に前記HVR2は、
(a)配列番号7の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも81%の配列相同性、または、
(b)配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも86%の配列相同性、を有する、操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項2】
前記HVR2領域が、配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、68、70、75、および77に対応する残基を含む、請求項1に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項3】
前記HVR2領域が、配列番号7の残基48、50、71、72、および73に対応する残基を含む、請求項1または2に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項4】
前記HVR2領域が、配列番号8の残基48および50に対応する残基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項5】
前記HVR2領域が、配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、48、50、68、70、71、72、73、75、および77に対応する残基を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項6】
前記HVR2領域が、配列番号7または配列番号8の残基66に対応する残基にて、Y、R、K、またはDを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項7】
前記HVR2領域が、配列番号7または配列番号8の残基24~79を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項8】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項9】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基19に対応する残基にて、G、S、またはAを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項10】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基80に対応する残基にて、E、Q、またはKを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項11】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~10のいずれか一
項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項12】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項13】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基19に対応する残基にて、G、S、またはAを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項14】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基80に対応する残基にて、E、Q、またはKを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項15】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基80に対応する残基を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項16】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基139に対応する残基を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項17】
前記第2のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基7~153を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項18】
前記HVR1領域が、配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項19】
前記HVR1領域が、配列番号7または配列番号8の残基215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、261、266および268に対応する残基を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項20】
前記HVR1領域が、配列番号7または配列番号8の残基257に対応する残基にて、Y、R、K、またはDを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項21】
前記HVR1領域が、配列番号7または配列番号8の残基215~270を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項22】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項23】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基210に対応する残基にて、G、S、またはAを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項24】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基271に対応する残基
にて、E、Q、またはKを含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項25】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基271に対応する残基を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項26】
前記第1のサブユニットが、配列番号7または配列番号8の残基198~344を含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項27】
操作された前記メガヌクレアーゼがリンカーを含み、前記リンカーが、前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットを共有結合的につなぐ、請求項1~26のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項28】
操作された前記メガヌクレアーゼが、配列番号7または配列番号8の前記アミノ酸配列を含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項29】
配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼと比較した場合、操作された前記メガヌクレアーゼが、向上した特異性、細胞中の維持時間の減少、および前記ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子の改変の効率の増強といった、最適化された特徴のうち少なくとも1つを示す、請求項1~28のいずれか一項に記載の操作されたメガヌクレアーゼ。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の操作された前記メガヌクレアーゼをコードしている核酸配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドがmRNAである、請求項30に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
前記mRNAが、請求項1~29のいずれか一項に記載の操作された前記メガヌクレアーゼおよび少なくとも1つの追加のポリペプチドまたは核酸をコードしているポリシストロニックmRNAである、請求項31に記載のポリヌクレオチド。
【請求項33】
請求項30に記載の前記ポリヌクレオチドを含む、組換えDNA構築物。
【請求項34】
前記組換えDNA構築物がウイルスベクターをコードする、請求項33に記載の組換えDNA構築物。
【請求項35】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項34に記載の組換えDNA構築物。
【請求項36】
前記ウイルスベクターが組換えAAVベクターである、請求項34または請求項35に記載の組換えDNA構築物。
【請求項37】
請求項30に記載の前記ポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクター。
【請求項38】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである、請求項37に記載のウイルスベクター。
【請求項39】
前記ウイルスベクターが組換えAAVベクターである、請求項37または請求項38に
記載のウイルスベクター。
【請求項40】
遺伝子改変された真核細胞の染色体中へと挿入される関心対象の外因性配列を含む、前記遺伝子改変された真核細胞を産生するための方法であって、前記方法が、
(a)請求項1~29のいずれか一項に記載の前記操作されたメガヌクレアーゼをコードしており、前記操作されたメガヌクレアーゼが、前記真核細胞にて発現されている第1の核酸と、
(b)関心対象の前記配列を含む、第2の核酸と、
を含む、1つまたは複数の核酸を、真核細胞中へと挿入することを含み、前記操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号5を含む認識配列にて、前記染色体中に切断部位を作製し、
関心対象の前記配列は、前記切断部位にて前記染色体中へと挿入されている、方法。
【請求項41】
前記第2の核酸が、前記切断部位に隣接する配列に相同な配列を更に含み、関心対象の前記配列が、相同組換えによって前記切断部位に挿入されている、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、遺伝子改変された前記細胞では低下している、請求項40または請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記真核細胞がヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
関心対象の前記配列が、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
少なくとも前記第1の核酸が、mRNAによって前記真核細胞中へと導入される、請求項40~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
少なくとも前記第2の核酸が、ウイルスベクターによって前記真核細胞中へと導入される、請求項40~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記ウイルスベクターが組換えAAVベクターである、請求項47または請求項48に記載の方法。
【請求項50】
遺伝子改変された真核細胞の染色体中へと挿入される関心対象の外因性配列を含む、遺伝子改変された前記真核細胞を産生するための方法であって、前記方法は、
(a)請求項1~29のいずれか一項に記載の前記操作されたメガヌクレアーゼを、真核細胞に導入することと、
(b)前記真核細胞へと関心対象の前記配列を含む核酸を導入することと、を含み、
前記操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号5を含む認識配列にて、前記染色体中に切断部位を作製し、
関心対象の前記配列は、前記切断部位にて前記染色体中へと挿入されている、方法。
【請求項51】
前記核酸が、前記切断部位に隣接する配列に相同な配列を更に含み、関心対象の前記配列が、相同組換えによって前記切断部位に挿入されている、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された細胞では低下している、請求項50または請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記真核細胞がヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記関心対象の配列が、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む、請求項50~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する、細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記の核酸が、ウイルスベクターによって前記真核細胞中へと導入される、請求項50~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記ウイルスベクターが、組換えAAVベクターである、請求項55または請求項56に記載の方法。
【請求項59】
遺伝子改変された真核細胞の染色体のターゲット配列を破壊することによって遺伝子改変された前記真核細胞を産生するための方法であって、前記方法は、
請求項1~29のいずれか一項に記載の前記操作されたメガヌクレアーゼをコードしている核酸配列を、真核細胞に導入することを含み、前記操作されたメガヌクレアーゼは前記真核細胞で発現されており、
前記操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号5を含む認識配列にて前記染色体中に切断部位を作製し、前記ターゲット配列は、前記切断部位にて非相同末端結合することで破壊されている、方法。
【請求項60】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された細胞では低下している、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記真核細胞が、ヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である、請求項59または請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記核酸が、mRNAによって前記真核細胞中へと導入される、請求項59~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
遺伝子改変された真核細胞の染色体のターゲット配列を破壊することによって遺伝子改変された前記真核細胞を産生するための方法であって、前記方法は、
請求項1~29のいずれか一項に記載の前記操作されたメガヌクレアーゼを真核細胞に
導入することを含み、
前記操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号5を含む認識配列にて前記染色体中に切断部位を作製し、前記ターゲット配列は、前記切断部位にて非相同末端結合することで破壊されている、方法。
【請求項64】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された細胞では低下している、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記真核細胞が、ヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である、請求項63または請求項64に記載の方法。
【請求項66】
請求項40~58のいずれか一項に記載の前記方法によって調製されている、遺伝子改変された真核細胞。
【請求項67】
前記細胞が、配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼと比較した場合、操作された前記メガヌクレアーゼによるオフターゲット効果の低下、前記真核細胞中の操作された前記メガヌクレアーゼの維持時間の減少、またはその両方を含む、請求項66に記載の遺伝子改変された真核細胞。
【請求項68】
請求項59~65のいずれか一項に記載の前記方法によって調製された、遺伝子改変された真核細胞。
【請求項69】
前記細胞が、配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼと比較した場合、操作された前記メガヌクレアーゼによるオフターゲット効果の低下、前記真核細胞中の操作された前記メガヌクレアーゼの維持時間の減少、またはその両方を含む、請求項68に記載の遺伝子改変された真核細胞。
【請求項70】
請求項66または請求項67に記載の、複数の遺伝子改変された前記真核細胞を含む、遺伝子改変された真核細胞の集団。
【請求項71】
少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または最大100%の前記集団中の細胞が、請求項66または請求項67に記載の前記遺伝子改変された真核細胞である、請求項70に記載の集団。
【請求項72】
前記遺伝子改変された真核細胞が、遺伝子改変されたヒトT細胞、または遺伝子改変されたヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、または遺伝子改変されたNK細胞から誘導された細胞である、請求項70または請求項71に記載の集団。
【請求項73】
前記関心対象の配列が、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む、請求項70~72のいずれか一項に記載の集団。
【請求項74】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項73に記載の集団。
【請求項75】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した
場合、前記遺伝子改変された真核細胞では低下している、請求項70~74のいずれか一項に記載の集団。
【請求項76】
請求項68または請求項69に記載の、複数の前記遺伝子改変された真核細胞を含む、遺伝子改変された真核細胞の集団。
【請求項77】
少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または最大100%の前記集団中の細胞が、請求項68または請求項69に記載の前記遺伝子改変された真核細胞である、請求項76に記載の集団。
【請求項78】
前記遺伝子改変された真核細胞が、遺伝子改変されたヒトT細胞、または遺伝子改変されたヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、または遺伝子改変されたNK細胞から誘導された細胞である、請求項76または請求項77に記載の集団。
【請求項79】
前記遺伝子改変された真核細胞が、細胞表面キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体を含む、請求項76~78のいずれか一項に記載の集団。
【請求項80】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項79に記載の集団。
【請求項81】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された真核細胞では低下している、請求項76~80のいずれか一項に記載の集団。
【請求項82】
治療の必要がある対象において、疾患の治療に有用である薬学的組成物であって、前記薬学的組成物が、薬学的に許容される担体および治療有効量の請求項66もしくは請求項67に記載の前記遺伝子改変された真核細胞、または請求項70~75のいずれか一項に記載の前記遺伝子改変された真核細胞の集団を含む、薬学的組成物。
【請求項83】
遺伝子改変された前記真核細胞または前記集団が、遺伝子改変されたヒトT細胞、または遺伝子改変されたヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、または遺伝子改変されたNK細胞から誘導された細胞から成る、請求項82に記載の薬学的組成物。
【請求項84】
前記関心対象の配列が、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む、請求項82または請求項83に記載の薬学的組成物。
【請求項85】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項84に記載の薬学的組成物。
【請求項86】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された真核細胞では低下している、請求項82~85のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項87】
治療の必要がある対象において、疾患の治療に有用である薬学的組成物であって、前記薬学的組成物が、薬学的に許容される担体および治療有効量の請求項68もしくは請求項
69に記載の前記遺伝子改変された真核細胞、または請求項76~81のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核細胞の前記集団を含む、薬学的組成物。
【請求項88】
遺伝子改変された前記真核細胞または前記集団が、遺伝子改変されたヒトT細胞、または遺伝子改変されたヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、または遺伝子改変されたNK細胞から誘導された細胞から成る、請求項87に記載の薬学的組成物。
【請求項89】
前記遺伝子改変された真核細胞が、細胞表面キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体を含む、請求項87または請求項88に記載の薬学的組成物。
【請求項90】
前記キメラ抗原受容体または前記外因性T細胞受容体が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項89に記載の薬学的組成物。
【請求項91】
内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、前記遺伝子改変された真核細胞では低下している、請求項87~90のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項92】
治療の必要がある対象において疾患を治療する方法であって、前記方法が、前記対象に、治療有効量の請求項66~69のいずれか一項に記載の前記遺伝子改変された真核細胞または請求項70~81のいずれか一項に記載の遺伝子改変された真核細胞の前記集団を投与することを含む、方法。
【請求項93】
前記方法が、前記対象に、請求項82~91のいずれか一項に記載の前記薬学的組成物を投与することを含む、請求項80に記載の方法。
【請求項94】
前記方法が、治療の必要がある対象において癌を治療するための免疫療法であり、前記遺伝子改変された真核細胞は、遺伝子改変されたヒトT細胞、または遺伝子改変されたヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、または遺伝子改変されたNK細胞から誘導された細胞であり、前記遺伝子改変された真核細胞が、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、細胞表面キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体を含み、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、内因性T細胞受容体の細胞表面発現が、前記遺伝子改変された真核細胞で低下している、請求項92または請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記癌が、細胞腫、リンパ腫、肉腫、芽腫、および白血病といった癌から成る群から選択される、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記癌が、B細胞起源の癌、乳癌、胃癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、肺癌、黒色腫、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、卵巣癌、横紋筋肉腫、白血病、およびホジキンリンパ腫から成る群から選択される、請求項94または請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記B細胞起源の癌が、B細胞系急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ性白血病、B細胞非ホジキンリンパ腫、および多発性骨髄腫から成る群から選択される、請求項96に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍学、癌免疫療法、分子生物学および組換え核酸技術の分野に関する。特に、本発明は、ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子における認識配列に対する特異性を有する、最適化された操作されたヌクレアーゼに関する。本発明は更に、遺伝子改変T細胞を産生するための方法、および対象において、癌を含む疾患を治療するためのかかる細胞を使用する方法における、かかる組換えメガヌクレアーゼの使用に関する。
【0002】
EFS-WEBを介してテキストファイルとして提出された配列表への参照
本出願は、EFS-WEBを介してASCII形式で提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。2019年4月11日に作成された当該ASCIIコピーは、P109070028WO00-SEQという名称であり、サイズは2700バイトである。
【背景技術】
【0003】
T細胞養子免疫療法は、癌治療にとって有望なアプローチである。この戦略は、特定の腫瘍関連抗原に対する特異性を高めるために遺伝子改変された、単離されたヒトT細胞を利用する。遺伝子改変は、T細胞に抗原特異性を移植するためのキメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体の発現を含み得る。外因性T細胞受容体とは対照的に、キメラ抗原受容体は、モノクローナル抗体の可変ドメインから特異性を引き出す。したがって、キメラ抗原受容体を発現するT細胞(CAR T細胞)は、主要組織適合遺伝子複合体を制限しない方法で腫瘍免疫活性を誘導する。T細胞養子免疫療法は、B細胞悪性腫瘍(例えば、急性リンパ芽球性白血病、B細胞非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、および慢性リンパ性白血病)、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、神経膠芽細胞腫、進行性神経膠腫、卵巣癌、中皮腫、黒色腫、前立腺癌、膵臓癌などを含む、多くの癌に対する臨床療法として利用されてきた。
【0004】
癌治療としてのその潜在的な有用性にもかかわらず、CAR T細胞による養子免疫療法は、細胞表面上での内因性T細胞受容体の発現によって、部分的にではあるが制限されてきた。内因性T細胞受容体を発現するCAR T細胞は、同種異系患者への投与後に大多数のおよび微量の組織適合性抗原を認識する可能性がある。これは移植片対宿主病(GVHD)の発症につながり得る。結果として、臨床試験は、患者のT細胞を分離し、キメラ抗原受容体を組み込むように遺伝子改変されてからその後に同じ患者に再注入するといった、主に自家CAR T細胞の使用に焦点を合わせている。自家アプローチは、投与されたCAR T細胞に免疫寛容を提供する。ただし、このアプローチは、患者の癌が診断された後、患者固有のCAR T細胞を産生するために必要な時間と費用の両方によって制約される。
【0005】
したがって、内因性T細胞受容体の発現を低下させ、投与時にGVHDを発症しない、第三者の健康なドナーからのT細胞を使用して調製された「既製の」CAR T細胞を開発することは有利であろう。かかる産物は、診断に先立っての生成および検証が可能であり、必要に応じてすぐに患者の利用が可能である。したがって、GVHDの発生を防ぐために、内因性T細胞受容体を欠く同種異系CAR T細胞の開発が必要である。
【0006】
ゲノムDNAの遺伝子改変は、目的の遺伝子座のDNA配列を認識するように操作された、部位特異的でレアカッティングであるエンドヌクレアーゼを使用して行うことができる。ホーミングエンドヌクレアーゼは、植物や真菌のゲノムに一般的に見られる15~4
0塩基対の切断部位を認識する、天然に存在するヌクレアーゼのグループである。それらは、グループ1の自己スプライシングイントロンやインテインなどの寄生DNA因子に関連していることが多い。それらは、染色体に二本鎖切断を生じさせることにより、宿主ゲノムの特定の位置での相同組換えまたは遺伝子挿入を自然に促進し、細胞のDNA修復機構を動員する(非特許文献1)。ホーミングエンドヌクレアーゼは、一般に、LAGLIDADG(配列番号2)ファミリー、GIY-YIGファミリー、His-Cysボックスファミリー、およびHNHファミリーの4つのファミリーに分類されている。これらのファミリーは、触媒活性と認識配列に影響を与える構造モチーフによって特徴付けられている。例えば、LAGLIDADG(配列番号2)ファミリーのメンバーは、保存されたLAGLIDADG(配列番号2)モチーフの1つまたは2つのコピーを有することを特徴としている(非特許文献2を参照されたい)。LAGLIDADG(配列番号2)モチーフの単一コピーを有するLAGLIDADG(配列番号2)ホーミングエンドヌクレアーゼはホモ二量体を形成するが、LAGLIDADG(配列番号2)モチーフの2つのコピーを有するメンバーは単量体として確認される。
【0007】
I-Crel(配列番号1)は、藻類であるクラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)の葉緑体染色体における22塩基対の認識配列を認識しかつ切断する、ホーミングエンドヌクレアーゼのLAGLIDADG(配列番号2)ファミリーのメンバーである。野生型I-Crel切断部位の優先性を改変するため、遺伝子セレクション技術が用いられている(非特許文献3~6)。
より最近では、I-Crelおよび他のホーミングエンドヌクレアーゼを包括的に再設計し、哺乳動物、酵母、植物、細菌、およびウイルスのゲノム中の部位を含む、幅広く多岐にわたるDNA部位を標的とすることができる、モノ-LAGLIDADG(配列番号2)ホーミングエンドヌクレアーゼを合理的に設計する方法が記載されている(特許文献1)。
【0008】
特許文献2に最初に記載されているように、I-Crelおよびその操作された誘導体は通常二量体であるが、第1のサブユニットのC末端を第2のサブユニットのN末端に結合する短いペプチドリンカーを使用して、単一のポリペプチドに融合することができる(非特許文献7~8)。したがって、機能的な「一本鎖」メガヌクレアーゼは、単一の転写物から発現させることができる。
【0009】
小ヘアピンRNA、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタヌクレアーゼ(TALEN)、メガTAL、およびCRISPRシステム(例えば、非特許文献9~10、特許文献3~4)の使用を含む、内因性TCRの発現を破壊するためのヌクレアーゼの使用が開示されている。
【0010】
ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子のDNA標的を切断するための、操作されたメガヌクレアーゼの特定の使用もこれまでに開示されている。例えば、特許文献5は、TCRアルファ定常領域遺伝子のエクソン1内の認識配列(特許文献5の配列番号3)を標的とするように操作された、I-Onulメガヌクレアーゼのバリアントを開示していた。特許文献5は、キメラ抗原受容体がTCRノックアウト細胞で発現され得ることを論じているが、著者らは、メガヌクレアーゼ切断部位へのCARコード配列の挿入を開示していない。
【0011】
更に、特許文献6および特許文献7において、出願人は、TCRアルファ定常領域遺伝子のエクソン1の認識配列に特異性を有する、操作されたメガヌクレアーゼを開示した。これらには、エクソン1のTRC1-2認識配列(配列番号5)に特異性を有する、「TRC1-2メガヌクレアーゼ」が含まれていた。特許文献6および特許文献7の出版物は、CARコード配列または外因性TCRコード配列を、TCR1~2メガヌクレアーゼの
切断部位に標的挿入する方法も開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2007/047859号公報
【特許文献2】国際公開第2009/059195号公報
【特許文献3】米国特許第8,956,828号公報
【特許文献4】米国特許公開公報第2012/0321667号公報
【特許文献5】国際公開第2014/191527号公報
【特許文献6】国際公開公報第2017/062439号公報
【特許文献7】国際公開公報第2017/062451号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Stoddard(2006),Q.Rev.Biophys.38:49-95
【非特許文献2】Chevalier et al.(2001),Nucleic Acids Res.29(18):3757-3774
【非特許文献3】Sussman et al.(2004),J.Mol.Biol.342:31-41
【非特許文献4】Chames et al.(2005),Nucleic Acids Res.33:e178
【非特許文献5】Seligman et al.(2002),Nucleic Acids Res.30:3870-9
【非特許文献6】Arnould et al.(2006),J.Mol.Biol.355:443-58
【非特許文献7】Li et al.(2009),Nucleic Acids Res.37:1650-62
【非特許文献8】Grizot et al.(2009),Nucleic Acids Res.37:5405-19
【非特許文献9】Osborn et al.(2016),Molecular Therapy 24(3):570-581
【非特許文献10】Eyquem et al.(2017),Nature543:113-117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明において、出願人は、先行技術で教示されたヌクレアーゼおよび方法を改良した。広範囲の実験を通じて、出願人は、残基のユニークで予測不可能な組合せを含み、特許文献6および特許文献7で教示された第1世代のTRC1-2メガヌクレアーゼよりも予想外に優れている、新規の第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼを生成した。例えば、本発明の第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼは、向上した(すなわち増加した)特異性および低下したオフターゲット切断を有し、mRNAからの発現後、細胞における維持時間の減少を示し、CAR T細胞(例えば、増強/増加したTCRノックアウト、増強/増加したCARノックイン、増強/増加したCAR Tの増殖、向上したCAR T細胞表現型など)を生成するのに使用される場合、およびインビトロにて機能的に優れ、かつ実物大のCAR T細胞製造プロセスにて使用される場合、向上したCAR T細胞集団を産生する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、ヒトT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子(配列番号3)の第1エクソン内に存在する認識配列を認識かつ切断する、操作されたメガヌクレアーゼを提供する。かかるメガヌクレアーゼは、TCRアルファ定常領域遺伝子を破壊し、結果的に細胞表面TCRの発現および/または機能を破壊するのに有用である。メガヌクレアーゼ切断は、非相同末端結合の変異原性活性によって、または相同組換えによる遺伝子中への外因性ポリヌクレオチドの導入を促進することのいずれかによって、遺伝子機能を破壊することができる。一部の実施形態では、メガヌクレアーゼは内因性TCRを欠く同種異系CAR T細胞を生成するのに有用であるため、導入された外因性ポリヌクレオチドはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む。一部の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、第1世代のメガヌクレアーゼであるTRC1-2x.87EEと比較して、少なくとも1つの最適化された特徴を示す。かかる最適化された特徴には、オフターゲット切断を低下させ、細胞中の維持時間(例えばmRNA由来の発現後)を低下させ、TCRアルファ定常領域遺伝子の改変の効率を増強(すなわち増加)させる原因となる、向上(すなわち増加)した特異性が挙げられる。更に、本開示の操作されたメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞は、向上した特徴を示す。この特徴は、オフターゲット切断およびその効果を低下させ、細胞中のメガヌクレアーゼの維持時間を減少させ、CAR Tの増殖を増強(すなわち増加)させることを含む。更に、該細胞は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞と比較した場合、分化程度が低い。加えて、本開示のメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団と比較した場合、より多い比率にて、改変された細胞、およびより大きい比率にて分化程度の低い細胞を有する。
【0016】
本発明は更に、遺伝子改変された真核細胞を産生するため、操作されたメガヌクレアーゼタンパク質、すなわち操作されたメガヌクレアーゼをコードしている遺伝子を真核細胞へ輸送することを含む方法を提供する。したがって、遺伝子改変された真核細胞およびその集団、ならびに遺伝子改変された真核細胞およびその集団を含む薬学的組成物を更に提供する。遺伝子改変されたT細胞またはその集団を投与することで癌を治療する免疫療法の方法であり、該T細胞が腫瘍特異抗原(例えばCARまたは外因性TCR)のための受容体を発現する方法もまた提供する。
【0017】
したがって一態様では、本発明は、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子(配列番号3)のエクソン1中のTRC1-2認識配列(配列番号5)を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼを提供する。操作されたメガヌクレアーゼは、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを含み、このうち第1のサブユニットは、認識配列の第1の認識ハーフサイトと結合し、かつ第1の超可変(HVR1)領域を含み、第2のサブユニットは、認識配列の第2の認識ハーフサイトと結合し、本開示のTRC1-2L.1592(配列番号7として規定されているアミノ酸配列)の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の配列相同性を有するか、本開示のTRC1-2L.1775メガヌクレアーゼ(配列番号8として規定されているアミノ酸配列)の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の配列相同性を有する、第2の超可変(HVR2)領域を含む。
【0018】
ある特定の実施形態では、HVR2領域は、最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11箇所のアミノ酸置換を伴う、配列番号7または配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列を含む。
【0019】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号7の残基24、26、42、44、46、48、50、70、71、72および73に対応する残基を含む。
【0020】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号8の残基24、26、38、42、46、48、50、および70に対応する残基を含む。
【0021】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44,46、68、70、75および77に対応する残基を含む。
【0022】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号7の残基48、50、71、72および73に対応する残基を含む。
【0023】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号8の残基48および50に対応する残基を含む。
【0024】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、48、50、68、70、71、72、73、75および77に対応する残基を含む。
【0025】
一部の実施形態では、HVR2領域は、配列番号7または配列番号8の残基66に対応する残基にて、Y、R、KまたはDを含む。
【0026】
ある特定の実施形態では、HVR2領域は配列番号7または配列番号8の残基24~79を含む。
【0027】
特定の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7の残基7~153に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも93%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号8の残基7~153に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも94%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0028】
一部の実施形態では、第2のサブユニットは、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15,16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30箇所のアミノ酸置換を伴う、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対応するアミノ酸配列を含む。
【0029】
ある特定の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基19に対応する残基にて、G、SまたはAを含む。
【0030】
ある特定の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基80に対応する残基にE、Q、またはKを含む。
【0031】
一部の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基80に対応する残基を含む。
【0032】
ある特定の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基139に対応する残基を含む。
【0033】
特定の実施形態では、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基7~153を含む。
【0034】
一部のかかる実施形態では、HVR1領域は、配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、HVR1領域は、最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11箇所のアミノ酸置換を伴う、配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列を含む。
【0035】
一部の実施形態では、HVR1領域は、配列番号7の残基219および231に対応する残基を含む。
【0036】
ある特定の実施形態では、HVR1領域は配列番号7または配列番号8の残基215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、261、266および268に対応する残基を含む。
【0037】
一部の実施形態では、HVR1領域は、配列番号7または配列番号8の残基257に対応する残基にて、Y、R、KまたはDを含む。
【0038】
特定の実施形態では、HVR1領域は配列番号7または配列番号8の残基215~270を含む。
【0039】
一部の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、第1のサブユニットは、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15,16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30箇所のアミノ酸置換を伴う、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対応するアミノ酸配列を含む。
【0040】
ある特定の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基210に対応する残基にて、G、SまたはAを含む。
【0041】
ある特定の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基
271に対応する残基にて、E、QまたはKを含む。
【0042】
ある特定の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基271に対応する残基を含む。
【0043】
特定の実施形態では、第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基198~344を含む。
【0044】
一部の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼの第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の配列相同性を有し、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼの第1のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基198~344に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも99%の配列相同性を有し、第2のサブユニットは、配列番号7または配列番号8の残基7~153に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも93%を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、第1のサブユニットおよび/または第2のサブユニットは、それぞれ配列番号7または配列番号8の残基198~344および残基7~153に対し、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15,16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30箇所のアミノ酸置換を含むことができる。
【0045】
ある特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼはリンカーを含む。このリンカーは第1のサブユニットと第2のサブユニットを共有結合的につなぐ。
【0046】
一部の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列に対し、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7のアミノ酸配列に対し、少なくとも97%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号8のアミノ酸配列に対し、少なくとも98%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0047】
特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0048】
ある特定の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEであるメガヌクレアーゼと比較した場合、向上(すなわち増加)した特異性、細胞中の維持時間の減少、およびヒトTCRアルファ定常領域遺伝子の改変の効率を増強(すなわち増加)といった、最適化された特徴のうち少なくとも1つを示す。
【0049】
特定の実施形態では、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子中の配列番号5を含む認識配列を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼは、第1のサブユニットおよび第2の
サブユニットを含み、第1のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有する、HVR1領域を含み、第2のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有する、HVR2領域を含む。
【0050】
特定の実施形態では、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子中の配列番号5を含む認識配列を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼは、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを含み、第1のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有し、かつ配列番号7または配列番号8の残基215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、261、266および268に対応する残基を含む、HVR1領域を含み、第2のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有し、かつ配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、68、70、75および77に対応する残基を含む、HVR2領域を含む。かかる実施形態では、HVR2領域は、配列番号7の残基48、50、71、72および73に対応する残基ならびに/または配列番号8の残基48および50に対応する残基を更に含むことができる。
【0051】
特定の実施形態では、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子中の配列番号5を含む認識配列を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼは、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを含み、第1のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有し、かつ配列番号7または配列番号8の残基215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、261、266および268に対応する残基を含む、HVR1領域を含み、第2のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有し、かつ配列番号7または配列番号8の残基24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、48、50、68、70、71、72、73、75および77に対応する残基を含む、HVR2領域を含む。
【0052】
更に他の実施形態では、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子中の配列番号5を含む認識配列を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼは、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを含み、第1のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基198~344に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基215~270に対応するアミノ酸配列を有するHVR1領域を含み、第2のサブユニットは、(a)配列番号7または配列番号8の残基7~153に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列、および(b)配列番号7または配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列を有するHVR2領域を含む。
【0053】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載された操作されたメガヌクレアーゼをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0054】
ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドはmRNAである。
【0055】
更なる実施形態では、mRNAは本明細書に記載された操作されたメガヌクレアーゼおよび少なくとも1つの追加のポリペプチドまたは核酸をコードするポリシストロニックmRNAである。
【0056】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載されたポリヌクレオチドを含む、組換えDNA構築物を提供する。
【0057】
ある特定の実施形態では、組換えDNA構築物はウイルスベクターをコードする。特定の実施形態では、ウイルスベクターはアデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。具体的な実施形態では、ウイルスベクターは組換えAAVベクターである。
【0058】
別の態様では、本発明は本明細書に記載されたポリヌクレオチドを含むウイルスベクターを提供する。
【0059】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターはアデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである。特定の実施形態では、ウイルスベクターは組換えAAVベクターである。
【0060】
別の態様では、本発明は、真核細胞の染色体へと挿入される目的の外因性配列を含む、遺伝子改変された真核細胞を産生するための方法を提供する。該方法は、(a)本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼをコードし、操作されたメガヌクレアーゼが真核細胞内で発現されている第1の核酸と、(b)目的の配列を含み、操作されたメガヌクレアーゼが、配列番号5を含む認識配列にて染色体中に切断部位を作製し、かつ目的の配列が、切断部位にて染色体中へと挿入される第2の核酸と、を含む1種以上の核酸を、真核細胞へと導入することを含む。
【0061】
該方法のある特定の実施形態では、第2の核酸は、切断部位に隣接する配列に相同な配列を更に含み、目的の配列が、相同組換えによって切断部位にて挿入されている。
【0062】
該方法のある特定の実施形態では、第2の核酸は、切断部位に隣接する配列に相同な配列を含まず、目的の配列が、非相同挿入によって切断部位にて挿入されている。
【0063】
該方法のある特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、低下している。
【0064】
方法の一部の実施形態では、真核細胞はヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0065】
方法の一部の実施形態では、目的の配列は、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む。方法の特定の実施形態では、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する、細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0066】
方法の一部の実施形態では、少なくとも第1の核酸は、mRNAによって真核細胞へと導入される。
【0067】
該方法のある特定の実施形態では、少なくとも第2の核酸は、ウイルスベクターによって真核細胞へと導入される。方法の特定の実施形態では、ウイルスベクターはアデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである。方法の特定の実施形態では、ウイルスベクターは組換えAAVベクターである。
【0068】
別の態様では、本発明は、真核細胞の染色体へと挿入される目的の外因性配列を含む、遺伝子改変された真核細胞を産生するための方法を提供する。該方法は、(a)本明細書に記載された操作されたメガヌクレアーゼを真核細胞内へと導入することと、(b)目的の配列を含む核酸を真核細胞内へと導入することであって、操作されたメガヌクレアーゼが、配列番号5を含む認識配列にて染色体中に切断部位を作製し、かつ目的の配列が、切断部位にて染色体中へと挿入されることと、を含む。
【0069】
該方法のある特定の実施形態では、核酸は、切断部位に隣接する配列に相同な配列を更に含み、目的の配列が、相同組換えによって切断部位にて挿入されている。
【0070】
該方法のある特定の実施形態では、核酸は、切断部位に隣接する配列に相同な配列を含まず、目的の配列が、非相同的な導入によって切断部位にて挿入されている。
【0071】
該方法のある特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、低下している。
【0072】
方法の一部の実施形態では、真核細胞はヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0073】
方法の一部の実施形態では、目的の配列は、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む。方法の特定の実施形態では、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する、細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0074】
該方法のある特定の実施形態では、核酸はウイルスベクターによって真核細胞へと導入される。方法の特定の実施形態では、ウイルスベクターはアデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、またはAAVベクターである。方法の特定の実施形態では、ウイルスベクターは組換えAAVベクターである。
【0075】
別の態様では、本発明は、真核細胞の染色体のターゲット配列を破壊することで、遺伝子改変された真核細胞を産生するための方法を提供する。該方法は、本明細書に記載された操作されたメガヌクレアーゼをコードする核酸を真核細胞へと導入することを含み、操作されたメガヌクレアーゼが真核細胞内で発現され、かつ操作されたメガヌクレアーゼは配列番号5を含む認識配列にて染色体中に切断部位を作製し、非相同末端結合により切断部位にてターゲット配列を破壊する。
【0076】
該方法のある特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、低下している。
【0077】
方法の一部の実施形態では、真核細胞はヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0078】
方法の一部の実施形態では、核酸は、mRNAによって真核細胞へと導入される。
【0079】
別の態様では、本発明は、真核細胞の染色体のターゲット配列を破壊することで、遺伝子改変された真核細胞を産生するための方法を提供する。該方法は、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼを真核細胞へと導入することを含み、操作されたメガヌクレアーゼが配列番号5を含む認識配列にて染色体中に切断部位を作製し、非相同末端結合により切断部位にてターゲット配列を破壊する。
【0080】
該方法のある特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、低下している。
【0081】
方法の一部の実施形態では、真核細胞はヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0082】
別の態様では、本発明は、ゲノムにて改変ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子を含む、遺伝子改変された真核細胞を提供し、改変ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子は、T細胞受容体アルファ定常領域内の配列番号5内のエクソン1中へと挿入されている目的の外因性配列を含み、遺伝子改変された真核細胞は、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼを用いる本明細書に記載の方法によって調製される。
【0083】
ある特定の実施形態では、遺伝子改変された真核細胞は、遺伝子改変されたヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0084】
ある特定の実施形態では、目的の配列は、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む。特定の実施形態では、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する、細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0085】
特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、遺伝子改変された真核細胞上では低下している。
【0086】
特定の実施形態では、遺伝子改変された真核細胞は、配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEであるメガヌクレアーゼと比較した場合、操作されたメガヌク
レアーゼによるオフターゲット効果の低下、および/または細胞中の操作されたメガヌクレアーゼの維持時間の減少を含む。
【0087】
別の態様では、本発明は、配列番号5を含む認識配列にて破壊されたターゲット配列を有する染色体を含む、遺伝子改変された真核細胞を提供し、ターゲット配列は、切断部位にて非相同末端結合により破壊され、遺伝子改変された真核細胞は、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼを用いる本明細書に記載の方法によって調製される。
【0088】
ある特定の実施形態では、遺伝子改変された真核細胞は、遺伝子改変されたヒトT細胞、またはヒトT細胞から誘導された細胞、またはヒトNK細胞、またはヒトNK細胞から誘導された細胞である。
【0089】
特定の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、遺伝子改変された真核細胞上では低下している。
【0090】
特定の実施形態では、遺伝子改変された真核細胞は、配列番号9として規定されているTRC1-2x.87EEであるメガヌクレアーゼと比較した場合、操作されたメガヌクレアーゼによるオフターゲット効果の低下、および/または細胞中の維持時間の減少を含む。
【0091】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の遺伝子改変された複数の真核細胞を含む、遺伝子改変された真核細胞の集団を提供する。
【0092】
一部の実施形態では、該集団中、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大100%の細胞は、本明細書に記載されているような遺伝子改変された真核細胞である。
【0093】
特定の実施形態では、集団の遺伝子改変された真核細胞は、遺伝子改変されたヒトT細胞、またはそのヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、またはそのNK細胞から誘導された細胞である。
【0094】
ある特定の実施形態では、集団の遺伝子改変された真核細胞は、細胞表面キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体を含む。これらの実施形態のうち、一部では、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0095】
特定の実施形態では、集団の遺伝子改変された真核細胞は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現を低下させる。
【0096】
別の態様では、本発明は、治療の必要がある対象において、疾患の治療に有用である薬学的組成物を提供する。該薬学的組成物は、薬学的に許容される担体および治療有効量の本明細書に記載の遺伝子改変された真核細胞またはその集団を含む。
【0097】
ある特定の実施形態では、遺伝子改変された真核細胞またはその集団は、遺伝子改変さ
れたヒトT細胞、またはそのヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたNK細胞、またはそのNK細胞から誘導された細胞から成る。
【0098】
一部の実施形態では、遺伝子改変されたT細胞またはその集団中に存在している目的の外因性配列は、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含む。ある特定の実施形態では、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0099】
一部の実施形態では、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、遺伝子改変された真核細胞上では低下されている。
【0100】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の少なくとも1種の操作されたメガヌクレアーゼをコードしているmRNAを含む、脂質ナノ粒子、または脂質ナノ粒子製剤を提供する。一部の実施形態では、脂質ナノ粒子は、T細胞による輸送および摂取を増加させた組成物を有する。
【0101】
別の態様では、本発明は、治療の必要がある対象における疾患の治療方法を提供し、該方法は、治療有効量の、本明細書に記載の遺伝子改変された真核細胞またはその集団を、対象に投与することを含む。
【0102】
一部の実施形態では、該方法は、本明細書に記載の薬学的組成物を対象に投与することを含む。
【0103】
ある特定の実施形態では、該方法は、治療の必要がある対象における、癌の治療のための免疫療法である。一部のかかる実施形態では、遺伝子改変された真核細胞は、遺伝子改変されたヒトT細胞、またはそのヒトT細胞から誘導された細胞、または遺伝子改変されたヒトNK細胞、またはそのヒトNK細胞から誘導された細胞であり、遺伝子改変された真核細胞中に存在している目的の外因性配列は、腫瘍特異抗原に対する特異性を有する細胞外リガンド結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体または外因性T細胞受容体のためのコード配列を含み、内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の細胞表面発現は、改変されていないコントロール細胞と比較した場合、遺伝子改変された真核細胞上では低下されている。
【0104】
方法の一部の実施形態では、癌は、細胞腫、リンパ腫、肉腫、芽腫、および白血病といった癌から成る群から選択される。
【0105】
該方法のある特定の実施形態では、癌は、B細胞起源の癌、乳癌、胃癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、肺癌、黒色腫、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、卵巣癌、横紋筋肉腫、白血病、およびホジキンリンパ腫から成る群から選択される。
【0106】
方法の特定の実施形態では、B細胞起源の癌は、B細胞系急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ性白血病、B細胞非ホジキンリンパ腫、および多発性骨髄腫から成る群から選択される。
【0107】
方法の特定の実施形態では、対象はヒトといった哺乳動物であり得る。
【0108】
別の態様では、本発明は、薬物として使用する目的で、本明細書に記載されたような遺伝子改変された細胞、またはその集団を提供する。本発明は、治療の必要がある対象において疾患を治療するための薬物を製造する際、本明細書に記載されたような遺伝子改変さ
れた細胞、またはその集団を更に提供する。かかる一態様では、薬物は癌の治療において有用である。
【0109】
別の態様では、本発明は、疾患の治療、好ましくは癌の治療において使用するための、本明細書に記載されたような遺伝子改変された細胞、またはその集団を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【
図1】ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子中のTRC1-2認識配列である。本発明の操作されたメガヌクレアーゼによって標的とされた、TRC1-2認識配列は、2つの認識ハーフサイトを含む。各認識ハーフサイトは、9塩基対を含むが、これは4塩基対中央配列によって分離されている。TRC1-2認識配列(配列番号5)は、TRC1およびTRC2と呼ばれる2つの認識ハーフサイトを含む。
【
図2】本発明の操作されたメガヌクレアーゼは2つのサブユニットを含み、HVR1領域を含む第1のサブユニットは、第1の認識ハーフサイト(例えばTRC1)と結合しており、HVR2領域を含む第2のサブユニットは、第2の認識ハーフサイト(例えばTRC2)と結合している。操作されたメガヌクレアーゼが一本鎖メガヌクレアーゼである場合の実施形態では、HVR1領域を含む第1のサブユニットは、N末端ユニットまたはC末端サブユニットのどちらかとして位置づけられ得る。同様に、HVR2領域を含む第2のサブユニットは、N末端ユニットまたはC末端サブユニットのどちらかとして位置づけられ得る。
【
図3】本発明の操作されたメガヌクレアーゼを評価するためのCHO細胞における、レポータアッセイの概略である。中でレポータ活性が細胞のゲノム中へと安定して組み込まれる、CHO細胞が産生された。レポータカセットは、5’から3’の順で、SV40初期プロモータ、5’の2/3のGFP遺伝子、本発明の操作されたメガヌクレアーゼのための認識配列(例えばTRC1-2認識配列)、CHO23/24メガヌクレアーゼのための認識配列(国際公開2012/167192号)、および3’の2/3のGFP遺伝子を含んでいた。このカセットを用いて安定して遺伝子導入された細胞は、DNA切断誘導剤の不在下ではGFPを発現しなかった。メガヌクレアーゼは、各メガヌクレアーゼをコードしているプラスミドDNAまたはmRNAを形質導入することで導入された。DNA切断がメガヌクレアーゼ認識配列のいずれかにて誘導された場合、GFP遺伝子の重複領域は、機能的GFP遺伝子を産生するために互いと組み換えた。次いで、GFP発現細胞の比率は、メガヌクレアーゼによるゲノム切断頻度を間接的に測定するものであるフローサイトメトリによって決定可能であった。
【
図4】CHO細胞レポータアッセイ中のTRC1-2認識配列を認識かつ切断するための、操作されたメガヌクレアーゼの効率である。TRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775およびTRC1-2L.1843メガヌクレアーゼは、TRC1-2認識配列(配列番号5)を標的とするために操作され、CHO細胞レポータアッセイ中の有効性についてスクリーニングされた。示された結果は、観察されたGFP発現細胞の比率を提供している。これは、ターゲット認識配列またはCHO23/24認識配列を切断するための各メガヌクレアーゼの有効性を示している。ネガティブコントロール(bs)および第1世代のTRC1-2x.87EEは、比較用アッセイ中に更に含まれた。A)TRC1-2L.1592を認識するためのCHOレポータアッセイ。B)TRC1-2L.1775を認識するためのCHOレポータアッセイ。C)TRC1-2L.1843を認識するためのCHOレポータアッセイ。
【
図5】CHOレポータアッセイにおける、TRCオフ1認識配列(配列番号16)およびTRCオフ2認識配列(配列番号17)を認識かつ切断するための操作されたメガヌクレアーゼの効率である。本発明のTRC1-2メガヌクレアーゼをコードしているmRNAは、GFP直列反復配列の間の対抗選択されたオフ1認識配列またはオフ2認識配列、およびCHO23~24認識配列を含む、CHOレポータ細胞中へと遺伝子導入された。第2世代のメガヌクレアーゼは、第1世代のTRC1-2x.87EEに対する各アッセイにて比較された。A)TRC1-2L.1592およびTRC1-2x.87EEによるオフターゲット認識配列の切断。B)TRC1-2L.1775およびTRC1-2x.87EEによるオフターゲット認識配列の切断。C)TRC1-2L.1843およびTRC1-2x.87EEによるオフターゲット認識配列の切断。
【
図6】CHO細胞レポータアッセイ中のTRC1-2認識配列を認識かつ切断するための、操作されたメガヌクレアーゼの効率である。TRC1-2x.87EE(第1世代)、TRC1-2L.1108(中間体)およびTRC1-2L.1469(中間体)メガヌクレアーゼは、TRC1-2認識配列(配列番号5)を標的とするために操作され、毒性を測定するため、ヌクレオフェクションの2日後、5日後および7日後のCHO細胞レポータアッセイ中の有効性についてスクリーニングされた。示された結果は、7日間の解析期間にわたって観察されたGFP発現細胞の比率を提供している。これは、ターゲット認識配列またはCHO23/24認識配列を切断するための各メガヌクレアーゼの有効性を、時間の関数として示している。
【
図7】CHO細胞レポータアッセイ中のTRC1-2認識配列を認識かつ切断するための、操作されたメガヌクレアーゼの効率である。第2世代のTRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775およびTRC1-2L.1843メガヌクレアーゼは、TRC1-2認識配列(配列番号5)を標的とするために最適化され、毒性を測定するため、ヌクレオフェクションの2日後、5日後および7日後のCHO細胞レポータアッセイ中の有効性についてスクリーニングされた。第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ、および中間体TRC1-2L.1469メガヌクレアーゼはまた、比較のためにこのアッセイ中に含まれていた。示された結果は、7日間の解析期間にわたって観察されたGFP発現細胞の比率を提供している。これは、ターゲット認識配列またはCHO23/24認識配列を切断するための各メガヌクレアーゼの有効性を、時間の関数として示している。
【
図8】CHO細胞レポータアッセイ中のTRCオフ1~オフ2認識配列を認識かつ切断するための、操作されたメガヌクレアーゼの効率である。第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ、中間体TRC1-2L.1469メガヌクレアーゼおよび第2世代のTRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775およびTRC1-2L.1843メガヌクレアーゼは、毒性を測定するため、ヌクレオフェクションの2日後、5日後および7日後のCHO細胞レポータアッセイ中の有効性について、TRCオフ1(配列番号16)またはオフ2(配列番号17)認識配列を含むCHO GFFPレポータ細胞にてスクリーニングされた。示された結果は、7日間の解析期間にわたって観察されたGFP発現細胞の比率を提供している。A)オフ1認識配列の切断。B)オフ2認識配列の切断。
【
図9】潜在的に妥当なオフターゲット部位の数の基準として、オリゴ捕獲データのグラフィカルな視覚化である。特定のヌクレアーゼによって生成された各オフターゲット切断は、その部位に捕捉されているプローブオリゴのための固有配列リードの数に基づいてプロットされている。目的部位(すなわち、TRC1-2認識配列)は、検査された(丸で囲まれた)各メガヌクレアーゼのための最も高いリードの総計を有する。
【
図10】オフターゲット部位が、X軸上に並べられたリード数、色によって示されている目的部位と比較した不適正塩基対の数に従ってプロットされているオリゴ捕獲データのグラフィカルな視覚化である。このうち、より黒い色はオフターゲット部位と目的の結合部位とのほとんど全ての一致を示している。ボックスは、最も高い信頼度領域を示している。
【
図11】第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ、中間体であるTRC1-2L.1469メガヌクレアーゼ、または第2世代のTRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775およびTRC1-2L.1843メガヌクレアーゼを用いて生成されたCAR T細胞のインビトロ解析を要約した表である。メガヌクレアーゼは、遺伝子編集効率、編集後の増殖および分化可能性についてスクリーニングされた。CAR T細胞は3人の異なる健常なヒトドナーから得られた細胞から調製され、実験は3人の異なるオペレータによって実施された。
【
図12】3人の異なる健常なヒトドナーから得られたT細胞集団で生成されたオリゴ捕獲データの、グラフィカルな視覚化である。
【
図13】第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ、または第2世代のTRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775およびTRC1-2L.1843メガヌクレアーゼを用いて生成されたCAR T細胞のインビトロ解析である。A)0日目、4日目、および8日目の編集後における細胞の総数。B)0日目、4日目、および8日目の編集後における編集された細胞(すなわち、TCRネガティブ)の総数。C)0日目、4日目、および8日目の編集後におけるTCRネガティブ/CAR-ポジティブ細胞の総数。
【
図14】抗原関連ターゲット細胞を用いた共培養に続く、CAR T細胞増殖である。5日間、1:1および1:2のE:Tの比にてCD19+腫瘍株であるRajiまたはNalm6を用いたCAR T細胞の共培養の後、増殖を評価した。細胞の投入数は、破線によって識別されている。
【
図15】抗原関連ターゲット細胞を用いた共培養に続く、CAR T細胞増殖である。5日間、1:2のE:Tの比にてCD19+腫瘍株であるRajiを用いたCAR T細胞の共培養の後、増殖を評価した。A)Raji細胞を用いて共培養した後の、培養物中のCAR-ポジティブ細胞の総数。B)Raji細胞を用いてCAR T細胞を共培養した後の、培養物中に残存するCD19-ポジティブ細胞の総数
【
図16】2日間、抗原関連ターゲット細胞を用いて共培養した後の、培養物の上澄みへのCAR T細胞サイトカインの分泌である。1:1および1:2のE:Tの比にてCD19+腫瘍株であるRajiまたはNalm6を用いたCAR T細胞の共培養の後、サイトカインの分泌を評価した。CD19-ネガティブのK562骨髄性白血病細胞は、コントロールとして用いられた。A)IL-2分泌 B)TNF-アルファ分泌C)INF-ガンマ分泌D)グランザイムB分泌 E)パーフォリン分泌
【
図17】CAR T細胞中におけるメガヌクレアーゼ発現のウェスタンブロット解析である。細胞は、TRC1-2x.87EEまたはTRC1-2L.1592メガヌクレアーゼをコードしているmRNAを用いて電気穿孔され、その後、TRC1-2部位にて挿入されるために設計された、抗-CD19CARをコードしているドナー鋳型を運搬する組換えAAV6ベクターによって形質導入された。6時間時点、24時間時点、48時間時点、96時間時点および168時間時点の電気穿孔後、メガヌクレアーゼタンパク質の発現は、ウェスタンブロット解析によって測定された。同じドナーからの偽細胞は、ヌクレアーゼ治療群として活性化され、同じ培地にて培養された。また、この偽細胞は、ヌクレアーゼ治療群が事前に電気穿孔された後に24時間時点にて収集された。
【
図18】0日目、3日目、8日目(CD3-ポジティブ細胞ディプリーションの前後)時点およびTRC1-2x.87EEまたはTRC1-2L.1592を用いた大規模CAR T製造プロセス工程の13日目時点での、生存細胞の総数である。
【
図19】TRC1-2x.87EEまたはTRC1-2L.1592を用いた大規模CAR T製造プロセス工程の8日目時点での、生存CD3-ネガティブ細胞の総数である。
【
図20】8日目(CD3-ポジティブ細胞のディプリーションの前後)時点およびTRC1-2x.87EEまたはTRC1-2L.1592を用いた大規模CAR T製造プロセス工程の13日目時点での、CAR-ポジティブであるCD3-ネガティブ細胞の比率である。
【0111】
配列の簡単な説明
配列番号1は、クラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)由来の野生型I-Crelメガヌクレアーゼのアミノ酸配列を規定している。
【0112】
配列番号2は、LAGLIDADGモチーフのアミノ酸配列を規定している。
【0113】
配列番号3は、ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子(NCBI遺伝子番号28755)の核酸配列を規定している。
【0114】
配列番号4は、ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子によってコードされたポリペプチドのアミノ酸配列を規定している。
【0115】
配列番号5は、TRC1-2認識配列のセンス鎖の核酸配列を規定している。
【0116】
配列番号6は、TRC1-2認識配列のアンチセンス鎖の核酸配列を規定している。
【0117】
配列番号7は、TRC1-2L.1592メガヌクレアーゼのアミノ酸配列を規定している。
【0118】
配列番号8は、TRC1-2L.1775メガヌクレアーゼのアミノ酸配列を規定している。
【0119】
配列番号9は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼのアミノ酸配列を規定している。
【0120】
配列番号10は、TRC1-2L.1592メガヌクレアーゼTRC1結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0121】
配列番号11は、TRC1-2L.1775メガヌクレアーゼTRC1結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0122】
配列番号12は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼTRC1結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0123】
配列番号13は、TRC1-2L.1592メガヌクレアーゼTRC2結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0124】
配列番号14は、TRC1-2L.1775メガヌクレアーゼTRC2結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0125】
配列番号15は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼTRC2結合サブユニットのアミノ酸配列を規定している。
【0126】
配列番号16は、オフ1認識配列の核酸配列を規定している。
【0127】
配列番号17は、オフ2認識配列の核酸配列を規定している。
【0128】
配列番号18は、ポリペプチドリンカーのアミノ酸配列を規定している。
【発明の詳細な説明】
【0129】
1.1 参照と定義
本明細書で参照される特許および科学文献は、当業者が利用可能な知識を確立している。Genbankデータベース配列、公開遺伝子データベースおよびタンパク質データベースアクセッション番号またはコード(ならびにそれに関連する核酸および/またはアミ
ノ酸配列)を含み、本明細書に引用されている、発行された米国および米国以外の特許、許可された出願、公開された米国出願、公開された非米国出願、およびPCT出願、共有および共同係属中の未公開の米国特許出願、公開された外国出願、ならびに科学、技術、および医学的な参照文献は、それぞれが参照により組み入れられるため、具体的かつ個別に示されている場合と同程度で参照により本明細書に組み入れられる。
【0130】
本発明は、異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろこれらの実施形態は、本開示が完璧かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。例えば、一実施形態に関して図示された特徴は、他の実施形態に組み込むことができ、特定の実施形態に関して図示された特徴は、その実施形態から削除することができる。更に、本明細書にて示唆された実施形態への多数の変形および追加は、本開示に照らして当業者には明らかであり、これらは本発明から逸脱するものではない。
【0131】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって、優先日の時点で一般的に理解されている意味と同様の意味を有する。本明細書において本発明の説明で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。
【0132】
本明細書で言及されている全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0133】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、または「この(the)」は、1つまたは複数を意味することができる。例えば、「1つの(a)」セルは、単一の細胞または複数の細胞を意味することができる。
【0134】
本明細書で使用される場合、特に明記しない限り、「または」という用語は、「どちらか/または」の排他的意味ではなく、「および/または」の包括的意味で使用される。
【0135】
本明細書で使用される場合、「エンドヌクレアーゼ」という用語は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素を指す。
【0136】
本明細書で使用される場合、二本鎖DNAに関して、「切断する」または「切断」という用語は、ターゲット配列内にて二本鎖切断をもたらし、本明細書では「切断部位」と呼ばれる、ターゲット配列内の認識配列の骨格内にて、エンドヌクレアーゼが介在するホスホジエステル結合の加水分解を指す。エンドヌクレアーゼによっては、切断によって平滑末端を有する二本鎖フラグメントまたは5’または3’塩基のオーバーハングを有するフラグメントが生じ得る。
【0137】
本明細書で使用される場合、「メガヌクレアーゼ」という用語は、12塩基対を超える認識配列で二本鎖DNAに結合するエンドヌクレアーゼを指す。一部の実施形態では、本開示のメガヌクレアーゼの認識配列は、22塩基対である。メガヌクレアーゼは、I-Crelから誘導されているエンドヌクレアーゼであり得、例えば、DNA結合特異性、DNA切断活性、DNA結合親和性または二量体化特性に関し、天然のI-Crelと比較して改変されたI-Crelの操作されたバリアントを指し得る。I-Crelを改変したかかるバリアントを産生するための方法は、当技術分野で公知である(例えば、国際公開第2007/047859号であり、参照によりその全体が組み入れられている)。本明細書で使用される場合のメガヌクレアーゼは、ヘテロ二量体として二本鎖DNAに結合する。メガヌクレアーゼはまた、ペプチドリンカーを用いて一対のDNA結合ドメインが単一のポリペプチドに結合されている「一本鎖メガヌクレアーゼ」であり得る。「ホーミ
ングエンドヌクレアーゼ」という用語は、「メガヌクレアーゼ」という用語と同義である。本開示のメガヌクレアーゼは、本明細書に記載の標的細胞、特にヒトT細胞にて発現された場合には実質的に非毒性であり、本明細書に記載の方法を用いて計測した場合、全体の細胞生存率に関する実質的な有害作用またはメガヌクレアーゼ切断活性における著しい低下を認めることなく、細胞は遺伝子導入され、かつ37℃にて維持され得る。
【0138】
本明細書で使用される場合、「一本鎖メガヌクレアーゼ」という用語は、サブユニットがヘテロ二量体のように機能的に相互作用して二本鎖認識部位を切断するよう、リンカーによって結合されたヌクレアーゼサブユニットの一対を含むポリペプチドを指す。一本鎖メガヌクレアーゼは、N末端サブユニット-リンカー-C末端サブユニットという構成を有する。2つのメガヌクレアーゼサブユニットは、一般には、アミノ酸配列においては同一ではなく、認識配列内の同一でないDNAハーフサイトを認識する。したがって、一本鎖メガヌクレアーゼは、典型的には、疑似パリンドロームまたは非パリンドローム認識配列を切断する。一本鎖メガヌクレアーゼは、実際には二量体ではないが、「一本鎖ヘテロ二量体」または「一本鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼ」と呼ばれることがある。明確にするため、特に明記しない限り「メガヌクレアーゼ」という用語は、二量体または一本鎖メガヌクレアーゼを指すことができる。
【0139】
本明細書で使用される場合、「リンカー」という用語は、2つのメガヌクレアーゼサブユニットを単一のポリペプチドに結合するために使用される外因性ペプチド配列を指す。リンカーは、天然タンパク質に見られる配列を有する場合もあれば、どの天然タンパク質にも見られない人工配列であってもよい。リンカーは柔軟性があり、二次構造を欠いているか、または生理学的条件下で特定の三次元構造を形成する傾向を有してもよい。リンカーは、限定されないが、米国特許第8,445,251号、第9,340,777号、第9,434,931号、および第10,041,053号によって包含されるもののいずれかを含むことができ、これらのそれぞれは参照によりその全体が組み入れられる。一部の実施形態では、リンカーは、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の配列番号18との配列相同性を有してよく、これは配列番号7または配列番号8の残基154~195を規定する。一部の実施形態では、リンカーは、配列番号7または配列番号8の残基154~195を規定する、配列番号18を含むアミノ酸配列を有してよい。
【0140】
本明細書で使用される場合、タンパク質に関し、「組換え」または「操作された」という用語は、タンパク質をコードする核酸、およびタンパク質を発現する細胞または生物に対し、遺伝子操作的な技術の適用結果として変更されたアミノ酸配列を有することを意味している。核酸に関して、「組換え」または「操作された」という用語は、遺伝子操作技術を適用した結果として変更された核酸配列を有することを意味する。遺伝子操作技術には、PCRおよびDNAクローニング技術、遺伝子導入、形質転換および他の遺伝子導入技術、相同組換え、部位特異的変異誘発性、および遺伝子融合が挙げられるがこれに限定されない。この定義によれば、天然に存在するタンパク質と同一のアミノ酸配列を有するが、異種宿主でのクローニングおよび発現によって産生されるタンパク質は、組換え体とは見なされない。
【0141】
本明細書で使用される場合、「野生型」という用語は、同種の遺伝子の対立遺伝子集団において最も一般的な天然に存在する対立遺伝子(すなわち、ポリヌクレオチド配列)を指し、野生型対立遺伝子によってコードされるポリペプチドは、その本来の機能を有する。「野生型」という用語はまた、野生型対立遺伝子によってコードされるポリペプチドも指す。野生型対立遺伝子(すなわち、ポリヌクレオチド)およびポリペプチドは、野生型
配列に対して1つまたは複数の突然変異および/もしくは置換を含む突然変異体または変異型対立遺伝子およびポリペプチドと区別することが可能である。野生型対立遺伝子またはポリペプチドは、生物に正常な表現型を与えることができるが、突然変異体または変異型対立遺伝子またはポリペプチドは、場合によっては、変化した表現型を与えることができる。野生型ヌクレアーゼは、組換えヌクレアーゼまたは非天然のヌクレアーゼと区別することが可能である。「野生型」という用語はまた、特定の遺伝子の野生型対立遺伝子を保有する細胞、生物、および/もしくは対象、または比較目的で使用される細胞、生物、および/もしくは対象を指すことができる。
【0142】
本明細書で使用される場合、「遺伝子改変」という用語は、ゲノムDNA配列が組換え技術によって故意に改変されている、またはその祖先における、細胞または生物を指す。本明細書で使用される場合、「遺伝子改変された」という用語は、「遺伝子組換え」という用語を包含する。
【0143】
組換えタンパク質に関して本明細書で使用される場合、「改変」という用語は、参照配列(例えば、野生型または天然配列)に対する組換え配列中のアミノ酸残基の任意の挿入、削除、または置換を意味する。
【0144】
本明細書で使用される場合、「認識配列」または「認識部位」という用語は、エンドヌクレアーゼによって結合および切断されるDNA配列を指す。メガヌクレアーゼの場合、認識配列は、4塩基対によって分離された1対の反転した9塩基対の「ハーフサイト」を含む。一本鎖メガヌクレアーゼの場合、タンパク質のN末端ドメインは第1のハーフサイトに接触し、タンパク質のC末端ドメインは第2のハーフサイトに接触する。メガヌクレアーゼによる切断は、4塩基対の3’「オーバーハング」を産生する。「オーバーハング」または「粘着末端」は、二本鎖DNA配列のエンドヌクレアーゼ切断によって産生され得る短い一本鎖DNAセグメントである。I-Crelから誘導されたメガヌクレアーゼおよび一本鎖メガヌクレアーゼの場合、オーバーハングは、22塩基対認識配列の10~13塩基を含む。
【0145】
本明細書で使用される場合、「ターゲット部位」または「ターゲット配列」という用語は、ヌクレアーゼの認識配列を含む細胞の染色体DNAの領域を指す。
【0146】
本明細書で使用される場合、「DNA結合親和性」または「結合親和性」という用語は、メガヌクレアーゼが参照DNA分子(例えば、認識配列または任意の配列)と非共有結合的に結合する傾向を意味する。結合親和性は、解離定数Kdによって測定される。本明細書で使用される場合、参照認識配列に対するヌクレアーゼのKdが、参照ヌクレアーゼに対し、統計的に有意なパーセント変化、または生物学的に有意な量(例えば、少なくとも2倍、または2倍~10倍)たけ増加または減少する場合には、ヌクレアーゼは「変化した」結合親和性を有する。
【0147】
本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、認識配列と呼ばれる塩基対の特定の配列でのみ、または認識配列の特定の組でのみ二本鎖DNA分子を認識かつ切断する、ヌクレアーゼの能力を意味する。認識配列の組は、ある一定の保存された位置または配列モチーフを共有するが、1つまたは複数の位置では縮退していることがある。特異性の高いヌクレアーゼは、1つまたはごく少数の認識配列のみを切断することができる。特異性は、当技術分野で公知の任意の方法によって決定可能である。
【0148】
本明細書で使用される場合、ヌクレアーゼが、生理的条件下で参照ヌクレアーゼ(例えば野生型)によって結合かつ切断されていない認識配列に結合し、かつこれを切断する場合、または認識配列の切断速度が、参照ヌクレアーゼに対して生物学的な有意量(例えば
、少なくとも2倍、もしくは2倍~10倍)だけ増加または減少する場合、ヌクレアーゼは特異性を「変化」させている。
【0149】
一部の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ(配列番号9として規定されているアミノ酸配列)と比較した場合、配列番号5(すなわちTRC1-2)を含むターゲット認識配列にとって、向上(すなわち増加)した特異性を有している。したがって、ある特定の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、TRC1~2x.87EEメガヌクレアーゼと比較した場合、オフターゲット切断が低下していることを示す。メガヌクレアーゼによるオフターゲット切断は、例えば本明細書に記載のオリゴ捕獲解析、T7エンドヌクレアーゼI(T7E)アッセイ、デジタルPCR、特定のオフターゲット部位の標的化されたシーケンシング、エクソームシーケンシング、全ゲノムシーケンシング、ストレプトアビジン上にてラベリング濃縮をin situで直接破壊および次世代配列シーケンシング(BLESS)、配列決定によって可能となるDSBの、ゲノムワイドで偏りのない識別(GUIDE-Seq)、および線形増幅を介したハイスループットゲノムワイドな転座配列決定(LAM-HTGTS)(例えば、Zischewski et al.(2017)Biotechnology Advances35(1):95-104を参照されたい。これは参照によりその全体が組み入れられる)を含む、当技術分野で公知の任意の方法を使用して測定することができる。
【0150】
本明細書で使用される場合、「相同組換え」または「HR」という用語は、二本鎖DNA切断が修復鋳型として相同DNA配列を使用して修復される、自然の細胞プロセスを指す(例えば、Cahill et al.(2006),Front.Biosci.11:1958-1976を参照されたい)。相同DNA配列は、細胞に輸送された内因性染色体配列または外因性核酸であり得る。
【0151】
本明細書で使用される場合、「非相同末端結合」または「NHEJ」という用語は、2本の非相同DNAセグメントの直接結合によって二本鎖DNA切断が修復される、自然の細胞プロセスを指す(例えば、Cahill et al.(2006),Front.Biosci.11:1958-1976を参照されたい)。非相同末端結合によるDNA修復はエラーが発生しやすく、修復部位でのDNA配列の非鋳型である追加または削除が頻繁に発生する。場合によっては、ターゲット認識配列での切断により、ターゲット認識部位でNHEJが生じる。遺伝子のコード配列におけるターゲット部位のヌクレアーゼ誘導性切断と、それに続くNHEJによるDNA修復は、遺伝子機能を破壊するようなフレームシフト突然変異などの突然変異をコード配列に導入する可能性がある。したがって、操作されたヌクレアーゼを使用し、細胞集団内の遺伝子を効果的にノックアウトすることができる。本明細書で使用される場合、「ターゲット配列の破壊」は、遺伝子機能を妨害し、それによってコードされるポリペプチド産物/発現産物の発現および/または機能を妨げる突然変異(例えば、フレームシフト突然変異)の導入を指す。
【0152】
本明細書で使用される場合、「相同アーム」または「メガヌクレアーゼ切断部位に隣接する配列に相同な配列」は、メガヌクレアーゼによって生成された切断部位への核酸分子の挿入を促進する、核酸の5’末端および3’末端に隣接する配列を指す。一般に、相同アームは、少なくとも50塩基対、好ましくは少なくとも100塩基対、および最大2000塩基対以上の長さを有することができ、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、またはそれ以上である、ゲノム内の対応する配列に対する配列相同性を有し得る。
【0153】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、免疫エフェクタ細胞(例えば、ヒトT細胞)上に、抗原に対する特異性を付与または移植する操作された受容体を指す。キメラ抗原受容体は、典型的には、少なくとも細胞外リガンド結合ドメ
インまたは部分、ならびに1つまたは複数のシグナル伝達ドメインおよび/または共刺激ドメインを含む細胞内ドメインを含む。
【0154】
一部の実施形態では、細胞外リガンド結合ドメインまたは部分は、モノクローナル抗体から誘導された一本鎖可変フラグメント(scFv)の形態である。これは、特定のエピトープまたは抗原(例えば、癌細胞または他の疾患を引き起こす細胞もしくは粒子などの、細胞表面に優先的に存在する、エピトープまたは抗原)に対する特異性を提供する。一部の実施形態では、scFvは、リンカー配列を介して付着される。種々の実施形態では、細胞外リガンド結合ドメインは、目的の任意の抗原またはエピトープに特異的である。一部の実施形態では、scFvは、マウス、ヒト化、または完全にヒトのscFvである。
【0155】
キメラ抗原受容体の細胞外ドメインは、自己抗原を含むこともできる(Payne et al.(2016),Science 353(6295):179-184を参照されたい)。これは、Bリンパ球上の自己抗原特異的B細胞受容体によって認識されることができる。したがって、抗体介在自己免疫疾患において自己反応性Bリンパ球を特異的に標的として殺すようにT細胞を誘導する。かかるCARは、キメラ自己抗体受容体(CAAR)と呼ばれ得、それらの使用は、本発明に包含されている。
【0156】
キメラ抗原受容体の細胞外ドメインはまた、目的の抗原に対して天然に存在するリガンド、または目的の抗原に結合する能力を保持する、天然に存在するリガンドのフラグメントを含み得る。
【0157】
細胞内刺激ドメインは、抗原結合に続いて免疫エフェクタ細胞に活性化シグナルを伝達する、1つまたは複数の細胞質シグナル伝達ドメインを含み得る。かかる細胞質シグナル伝達ドメインには、CD31が含まれるが、これに限定されない。細胞内刺激ドメインはまた、リガンド結合後に増殖性シグナルおよび/または細胞生存シグナルを伝達する、1つまたは複数の細胞内共刺激ドメインを含み得る。かかる細胞内共刺激ドメインは、当技術分野で公知なもののいずれかであり得、これは、CD27、CD28、CD8、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能-関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、およびCD83、N1、N6、またはそれらの任意の組合せと特異的に結合するリガンドを含み得るが、これに限定されない。
【0158】
キメラ抗原受容体は、ヒンジまたはスペーサ配列を介して細胞外リガンド結合ドメインに結合している膜貫通ドメインを含む、追加の構造要素を更に含むことができる。膜貫通ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質から誘導されることがある。例えば、膜貫通ポリペプチドは、T細胞受容体のサブユニット(すなわち、α、β、γまたはζ、CD3複合体を構成するポリペプチド)、IL2受容体p55(鎖)、p75(β鎖)またはγ鎖、Fc受容体のサブユニット鎖(例えば、Fcy受容体III)またはCD8アルファ鎖などのCDタンパク質であり得る。代替的には、膜貫通ドメインは合成的なものであり得、ロイシンおよびバリンなど、主に疎水性残基を含み得る。
【0159】
ヒンジ領域は、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するように機能する、任意のオリゴまたはポリペプチドを指す。例えば、ヒンジ領域は、最大300アミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸を含むことができる。ヒンジ領域は、CD8、CD4もしくはCD28の細胞外領域の全部もしくは一部、または抗体定常領域の全部もしくは一部など、天然に存在する分子の全部または一部から誘導され得る。代替的には、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に対応する合成配列であり得るか、または完全合成ヒンジ配列であり得る。特定の例では、ヒンジドメ
インは、ヒトCD8アルファ鎖、FcyRllla受容体またはIgGlの一部を含むことができる。
【0160】
本明細書で使用される場合、「外因性T細胞受容体」または「外因性TCR」は、TCRを内因的に発現する場合もあればしない場合もある、免疫エフェクタ細胞(例えば、ヒトT細胞)のゲノムへとその配列が導入されるTCRを指す。免疫エフェクタ細胞での外因性TCRの発現は、特定のエピトープまたは抗原(例えば、癌細胞または他の疾患を引き起こす細胞もしくは粒子の表面に優先的に存在するエピトープまたは抗原)に対する特異性を与えることができる。かかる外因性T細胞受容体は、アルファ鎖およびベータ鎖を含み得るか、または代替的には、ガンマ鎖およびデルタ鎖を含み得る。本発明において有用な外因性TCRは、目的の任意の抗原またはエピトープに対して特異性を有し得る。
【0161】
本明細書で使用される場合、「発現低下」という用語は、コントロール細胞と比較した場合の、遺伝子改変T細胞の細胞表面での内因性T細胞受容体(例えば、アルファ/ベータT細胞受容体)の発現の低下を指す。低下という用語はまた、コントロール細胞の集団と比較した場合に、細胞表面で内因性ポリペプチド(すなわち、内因性T細胞受容体)を発現する、細胞の集団における細胞の比率の低下を指すことができる。かかる低下は、最大5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または最大100%であり得る。したがって、「低下」という用語は、内因性T細胞受容体の部分的なノックダウンおよび完全なノックダウンの両方を包含する。内因性T細胞受容体の細胞表面発現のノックアウト(すなわち、完全なノックダウン)は、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼを用いたT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子の遺伝的不活性化から生じ得る。T細胞受容体アルファ定常領域遺伝子によってコードされているアルファ定常ドメインは、細胞表面での内因性TCR複合体の集合に必要である。したがって、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼを用いたT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子のノックアウトにより、細胞表面T細胞受容体発現のノックアウトが生じる。
【0162】
アミノ酸配列および核酸配列の両方に関して本明細書で使用される場合、「パーセント相同性」、「配列相同性」、「比率類似性」、「配列類似性」などの用語は、2つの配列の類似程度の尺度を指す。またこの用語は、並べられたアミノ酸残基またはヌクレオチド間の類似性を最大化し、かつ同一または類似の残基またはヌクレオチドの数、総残基またはヌクレオチドの数、および配列アラインメント中でのギャップの存在および長さの関数である配列のアラインメントに基づく、2つの配列の類似程度の基準を指す。標準パラメータを用いて配列の類似性を測定するため、種々のアルゴリズムとコンピュータプログラムが利用可能である。本明細書で使用される場合、配列類似性は、アミノ酸配列用のBLASTpプログラムおよび核酸配列用のBLASTnプログラムを使用して測定される。これらは両方ともNational Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)から入手可能であり、例えば、Altschul et al.(1990),J.Mol.Biol.215:403-410、Gish and States(1993),Nature Genet.3:266-272、Madden et al.(1996),Meth.Enzymol.266:131-141;Altschul et al.(1997),Nucleic Acids Res.25:33 89-3402)、Zhang et al.(2000),J.Comput.Biol.7(1-2):203-14に記載されている。本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列のパーセント類似性は、BLASTpアルゴリズムの以下のパラメータに基づくスコアである:ワードサイズ=3、ギャップオープニングペナルティ=-11、ギャップ拡張ペナルティ=-1、スコア行列=BLOSUM62。本明細書で使用される場合、2つの核酸配列のパーセント類似性は、BLASTnアルゴリズムの以下のパラメータに基づくスコアであ
る:文字サイズ=11、ギャップ開始ペナルティ=-5、ギャップ拡張ペナルティ=-2、マッチ報酬=1、不一致ペナルティ=-3。
【0163】
2つのタンパク質またはアミノ酸配列の改変に関して本明細書で使用される場合、「対応する」という用語は、第1のタンパク質の特定の改変が第2のタンパク質の改変と同じアミノ酸残基の置換であり、2つのタンパク質が標準的な配列アラインメントに供される場合(例えば、BLASTpプログラムを使用して)、第1のタンパク質の改変のアミノ酸位置が第2のタンパク質の改変のアミノ酸位置に対応するか、またはアラインメントすることを示すために用いられる。したがって、第1のタンパク質における残基「X」のアミノ酸「A」への改変は、残基XおよびYが配列アラインメントにおいて互いに対応する場合、XおよびYが異なる数であり得るという事実にもかかわらず、第2のタンパク質における残基「Y」のアミノ酸「A」への改変に対応する。
【0164】
本明細書で使用される場合、「認識ハーフサイト」、「認識配列ハーフサイト」、または単に「ハーフサイト」という用語は、ホモ二量体もしくはヘテロ二量体メガヌクレアーゼの単量体によって、または一本鎖メガヌクレアーゼの1つのサブユニットによって認識される、二本鎖DNA分子中の核酸配列を意味する。
【0165】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」という用語は、比較的高い可変性を有するアミノ酸を含むメガヌクレアーゼ単量体またはサブユニット内の局在化配列を指す。超可変領域は、約50~60個の連続残基、約53~57個の連続残基、または好ましくは約56個の残基を含むことができる。一部の実施形態では、超可変領域の残基は、配列番号7または配列番号8の、位置24~79または位置215~270に対応し得る。超可変領域は、認識配列のDNA塩基と接触する1つまたは複数の残基を含むことができ、単量体またはサブユニットの塩基優先性を変更するように改変することができる。超可変領域はまた、メガヌクレアーゼが二本鎖DNA認識配列と結合する時、DNA骨格に結合する1つまたは複数の残基を含み得る。かかる残基は、DNA骨格およびターゲット認識配列に対するメガヌクレアーゼの結合親和性を変更するように改変することができる。本発明の異なる実施形態では、超可変領域は、可変性を示す1~20個の残基を含み得、塩基優先性および/またはDNA結合親和性に影響を与えるように改変されることができる。特定の実施形態では、超可変領域は可変性を示す約15~20個の残基を含み、塩基優先性および/またはDNA結合親和性に影響を与えるように改変することができる。
【0166】
一部の実施形態では、超可変領域内の可変残基は、配列番号7または配列番号8の位置24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、68、70、75および77のうちの1つ以上に対応する。一部の実施形態では、超可変領域内の可変残基は、配列番号7の位置48、50、71、72、および73のうちの1つまたは複数に更に対応する。一部の実施形態では、超可変領域内の可変残基は、配列番号8の位置48および50のうちの1つまたは複数に更に対応する。一部の実施形態では、超可変領域内の可変残基は、配列番号7または配列番号8の位置24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、48、50、68、70、71、72、73、75および77のうちの1つ以上に対応する。
【0167】
他の実施形態では、超可変領域内の可変残基は、配列番号7または配列番号8の位置215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、261、266、および268の1つまたは複数に対応する。
【0168】
本明細書で使用される場合、「T細胞受容体アルファ遺伝子」または「TCRアルファ遺伝子」という用語は互換可能なものであり、T細胞受容体アルファサブユニットをコードするT細胞内の遺伝子座を指す。T細胞受容体アルファは、再配列の前後に、NCBI
遺伝子番号6955を参照可能である。再配列に続いて、T細胞受容体アルファ遺伝子は、内因性プロモータ、再配列されたVおよびJセグメント、内因性スプライスドナー部位、イントロン、内因性スプライスアクセプター部位、およびエクソンをコードしているサブユニットを含む、T細胞受容体アルファ定常領域遺伝子座を含む。
【0169】
本明細書で使用される場合、「T細胞受容体アルファ定常領域」または「TCRアルファ定常領域」という用語は、T細胞受容体アルファ遺伝子のコード配列を指す。TCRアルファ定常領域には、NCBI Gen番号28755によって識別される野生型配列およびその機能的バリアントが含まれる。
【0170】
「組換えDNA構築物」、「組換え構築物」、「発現カセット」、「発現構築物」、「キメラ構築物」、「構築物」、および「組換えDNAフラグメント」という用語は、本明細書において互換可能に使用され、一本鎖または二本鎖ポリヌクレオチドである。組換え構築物は、自然界では一緒に見いだされない調節配列およびコード配列を含むがこれらに限定されない、核酸フラグメントの人工的な組合せを含む。例えば、組換えDNA構築物は、異なる供給源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ供給源から誘導され、自然界に見られるものとは異なる方法で配列された調節配列およびコード配列を含み得る。このような構築物は、単独で使用してもよい。またはベクターと組み合わせて使用してもよい。
【0171】
本明細書で使用される場合、「ベクター」または「組換えDNAベクター」は、所与の宿主細胞においてポリペプチドをコードしている配列の転写および翻訳が可能な複製システムおよび配列を含む構築物であり得る。ベクターが使用される場合、ベクターの選択は、当業者に周知であるように、宿主細胞を形質転換するために使用される方法に依る。ベクターは、プラスミドベクターおよび組換えウイルスベクター(例えば、AAVベクター)、または本発明のメガヌクレアーゼをコードしている遺伝子をターゲット細胞に輸送するのに適した当技術分野で知られている任意の他のベクターを含み得るが、これに限定されない。当業者は、本発明の単離されたヌクレオチドまたは核酸配列のいずれかを含む宿主細胞を首尾よく形質転換、選択および増殖させるために、ベクター上に存在しなければならない遺伝的要素を十分認識している。
【0172】
本明細書で使用される場合、「ベクター」はまた、ウイルスベクターもまた指すことができる。ウイルスベクターには、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0173】
本明細書で使用される場合、「ポリシストロニック」mRNAは、2つ以上のコード配列(すなわち、シストロン)を含み、2つ以上のタンパク質をコードする、単一のメッセンジャーRNAを指す。ポリシストロニックmRNAは、IRESエレメント、T2Aエレメント、P2Aエレメント、E2Aエレメント、およびF2Aエレメントを含むがこれに限定されない、同様のmRNA分子由来の2つ以上の遺伝子の翻訳を可能にする、当技術分野で公知の任意のエレメントを含むことができる。
【0174】
本明細書で使用される場合、「ヒトT細胞」または「T細胞」は、ドナー、特にヒトドナーから単離されたT細胞を指す。T細胞、およびそこから誘導された細胞には、継代培養されていない単離されたT細胞、不死化せずに細胞培養条件下で継代および維持されたT細胞、および不死化され、細胞培養条件下で無期限に維持され得るT細胞が含まれる。
【0175】
本明細書で使用される場合、「コントロール」または「コントロール細胞」は、遺伝子改変された細胞の遺伝子型または表現型の変化を測定するための基準点を提供する細胞を
指す。コントロール細胞は、例えば:(a)野生型細胞、すなわち遺伝子改変された細胞を生じた遺伝子変容の出発物質と同様の遺伝子型のもの、(b)遺伝子改変された細胞と同じ遺伝子型であるが、ヌル構築物で形質転換された細胞(すなわち、目的の形質に公知の効果を有さない構築物)、または(c)遺伝子改変された細胞と遺伝的に同一であるが、変性された遺伝子型もしくは表現型の発現を誘導する条件に曝されていない、もしくは刺激もしくは更なる遺伝的改変に曝されていない細胞、を含むことができる。
【0176】
本明細書で使用される場合、「治療」または「対象を治療する」という用語は、疾患を有する対象へ、本発明の遺伝子改変T細胞または遺伝子改変T細胞の集団の投与を指す。例えば、対象は癌などの疾患を有する可能性があり、治療は、疾患の治療のための免疫療法を表すことができる。治療の望ましい効果には、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の低下、疾患の進行速度の低下、病状の改善または緩和、および寛解または予後の改善が含まれるが、これらに限定されない。一部の態様では、本明細書に記載の遺伝子改変された真核細胞または遺伝子改変された真核細胞の集団は、本発明の薬学的組成物の形態で治療中に投与される。
【0177】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、有益なまたは望ましい生物学的および/または臨床的結果をもたらすのに十分な量を指す。治療有効量は、使用される製剤または組成物、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重、体調および応答性に応じて変化する。特定の実施形態では、有効量の本発明の遺伝子改変T細胞または遺伝子改変T細胞の集団、または本明細書に開示されている薬学的組成物は、対象における疾患の少なくとも1つの症状を軽減する。疾患が癌であるこれらの実施形態では、本明細書に開示されている有効量の操作されたメガヌクレアーゼまたは薬学的組成物は、癌の増殖または転移のレベルを低下させ、癌の部分的または完全な応答または寛解を引き起こし、または対象の癌の以下の少なくとも1つの症状を低下させる。
【0178】
本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、悪性増殖または腫瘍を引き起こす、異常で制御されていない細胞分裂を特徴とする任意の腫瘍性疾患(浸潤性または転移性)を包含すると理解されるべきである。
【0179】
本明細書で使用される場合、「細胞腫」という用語は、上皮細胞から構成される悪性増殖を指す。
【0180】
本明細書で使用される場合、「白血病」という用語は、造血器官/系の悪性腫瘍を指し、一般には、血液および骨髄における白血球およびそれらの前駆体の異常な増殖および発達を特徴とする。
【0181】
本明細書で使用される場合、「肉腫」という用語は、胚性結合組織のような物質から構成され、一般には、原線維、不均一、または均一の物質に埋め込まれた密に詰まった細胞から構成される腫瘍を指す。
【0182】
本明細書で使用される場合、「黒色腫」という用語は、皮膚および他の器官のメラノサイト系から生じる腫瘍を指す。
【0183】
本明細書で使用される場合、「リンパ腫」という用語は、リンパ球から発生する血球腫瘍の群を指す。
【0184】
本明細書で使用される場合、「芽細胞腫」という用語は、前駆細胞または芽球(未成熟または胚組織)の悪性腫瘍によって引き起こされる癌の種類を指す。
【0185】
本明細書で使用される場合、変数の数値範囲の列挙は、本発明がその範囲内の値のいずれかに等しい変数で実施され得ることを伝えることを意図している。したがって、本質的に離散的である変数の場合、変数は、範囲の終点を含む数値範囲内の任意の整数値に等しくなり得る。同様に、本質的に連続している変数の場合、変数は、範囲の終点を含む数値範囲内の任意の実数値に等しくなる。一例として、0~2の間の値を持つと記述されている変数は、変数が本質的に離散的である場合では0、1、または2の値をとることができ、0.0、0.1、0.01、0.001、または変数が本質的に連続である場合では、≧0かつ≦2の任意の他の実数値をとることができる。
【0186】
2.1 発明の原理
本発明は、向上(すなわち増加)された特異性およびオフターゲット切断の減少、mRNAからの発現後の、細胞中の維持時間の減少、ヒトT細胞とインビトロで使用した場合の細胞特性の向上、および実物大のCAR T細胞製造プロセスにて使用される場合の細胞特性の向上など、親である第1世代のメガヌクレアーゼと比較して向上した特徴を有する最適化された第2世代のメガヌクレアーゼの発見に、部分的には基づいている。
【0187】
前述したTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼと同様に、これらの最適化された、第2世代のメガヌクレアーゼは、TCRアルファ定常領域遺伝子のエクソン1内のTRC1-2認識配列(配列番号5)を認識する。この認識配列における切断により、切断部位にてNHEJが可能となり得、かつヒトT細胞受容体アルファ鎖サブユニットの発現を破壊することができる。これは、細胞表面にてT細胞受容体の発現および/または機能を低下させる。追加で、この認識配列での切断は、TCRアルファ定常領域遺伝子に直接、外因性核酸配列の相同組換えを更に行うことが可能である。かかる外因性核酸配列は、キメラ抗原受容体、外因性TCR受容体、または任意のその他の目的のポリペプチドをコードする配列など、目的の配列を含むことができる。したがって、本開示の組成物および方法により、内因性T細胞受容体(例えばアルファ/ベータT細胞受容体)のノックアウトおよび外因性核酸配列(例えばキメラ抗原受容体または外因性TCR)の発現の両方が可能となる。かかる細胞は、同種異系対象に投与される場合、移植片対宿主病(GVHD)が低下した状態または移植片対宿主病(GVHD)の誘発が見られない状態を示し得る。
【0188】
2.2 T細胞受容体アルファ定常領域遺伝子内のTRC1-2認識配列を認識かつ切断する最適化されたメガヌクレアーゼ
生存している細胞のゲノムにてDNA切断を行うため、部位特異的ヌクレアーゼを使用することが可能であり、かかるDNA切断が、ゲノム内にて同一のまたは高度な相同DNA配列を有する切断ターゲット部位の相同組換えを用いてゲノムの永続的な変更を生じることができるという点は、当技術分野で公知である。したがって、一部の実施形態では、本発明は操作された組換えメガヌクレアーゼを用いて実行され得る。
【0189】
特定の実施形態では、本発明を実行するために使用されているヌクレアーゼは一本鎖メガヌクレアーゼである。一本鎖メガヌクレアーゼは、リンカーペプチドによってつながれたN末端サブユニットおよびC末端サブユニットを含む。2つのドメインのそれぞれは、認識配列の半分(すなわち認識ハーフサイト)を認識し、DNA切断の部位は、2つのサブユニットの表面近くの認識配列の中間に存在している。DNA鎖の切断は、メガヌクレアーゼによるDNA切断が一対の4塩基対、3’一本鎖のオーバーハングを生成するよう、4塩基対によって埋め合わせされる。
【0190】
本発明の組換えメガヌクレアーゼは、TCRアルファ定常領域遺伝子(配列番号3)のエクソン1内のTRC1-2認識配列(配列番号5)を認識かつ切断するために操作されている。本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、第1の超可変(HVR1)領域を含む、第1のサブユニットと、第2の超可変(HVR2)領域を含む、第2のサブユニットと
、を含む。更に、第1のサブユニットは認識配列中の第1の認識ハーフサイト(すなわちTRC1ハーフサイト)に結合し、第2のサブユニットは認識配列中の第2の認識ハーフサイト(すなわちTRC2ハーフサイト)に結合する。組換えメガヌクレアーゼが一本鎖メガヌクレアーゼである場合の実施形態では、HVR1領域を含み第1のハーフサイトに結合する第1のサブユニットがN末端サブユニットとして位置づけられ、HVR2領域を含み第2のハーフサイトに結合する第2のサブユニットがC末端サブユニットとして位置づけられるように、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを方向付けることができる。代替的な実施形態では、HVR1領域を含み第1のハーフサイトに結合する第1のサブユニットがC末端サブユニットとして位置づけられ、HVR2領域を含み第2のハーフサイトに結合する第2のサブユニットがN末端サブユニットとして位置づけられるように、第1のサブユニットおよび第2のサブユニットを方向付けることができる。TRC1-2認識配列を認識かつ切断する例示的な操作されたメガヌクレアーゼが表1に提供されている。
【0191】
【0192】
一部の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、第1世代のメガヌクレアーゼであるTRC1-2x.87EEと比較して、少なくとも1つの最適化された特徴を示す。かかる最適化された特徴には、オフターゲット切断を低下させ、mRNAからの発現後の細胞中の維持時間を減少させ、切断の効率を増強(すなわち増加)させ、TCRアルファ定常領域遺伝子の改変の原因となる、向上(すなわち増加)した特異性が挙げられる。したがって、特定の実施形態では、真核細胞の集団に輸送された場合の本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、TCRアルファ定常領域遺伝子中で切断および/または改変された状態の、より多くの比率の細胞を生成することができる。これらの実施形態の一部では、真核細胞の集団は、TCRアルファ定常領域遺伝子にて切断および/または挿入/削除(「indel」)を含む、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上の真核細胞を含む。メガヌクレアーゼによるTCRアルファ定常領域遺伝子の切断および/または改変は、T7エンドヌクレアーゼIアッセイ、デジタルPCR、ミスマッチ検出アッセイ、ミスマッチ切断アッセイ、高解像度融解曲線分析法(HRMA)、ヘテロ二本鎖移動度分析、シーケンシングおよび蛍光PCRキャピラリーゲル電気泳動(例えば、Zischewski et al.(2017)Biotechnology A
dvances 35(1):95-104を参照されたい。これは参照によりその全体が組み入れられている)を含む、当技術分野で公知である任意の方法を用いて計測されることができる。
【0193】
ある特定の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼは、第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼと比較した場合、特にmRNAとして導入された場合に細胞中の維持時間の減少を示す。細胞内のmRNAまたはタンパク質の持続は、RT-PCR、ノーザンブロット解析、ヌクレアーゼ保護アッセイ、in situハイブリダイゼーション、免疫細胞化学、イムノブロッティング、および免疫沈降法を含むがこれに限定されない、当技術分野で公知である任意の方法を用いて計測され得る。
【0194】
2.3 最適化されたメガヌクレアーゼを輸送および発現するための方法
本発明は、ヒトTCRアルファ定常領域遺伝子(配列番号3)内で見られる認識配列を認識かつ切断する操作されたメガヌクレアーゼを用いた、遺伝子改変されたT細胞およびその集団を製造するための方法を提供する。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺細胞、感染部位由来の細胞、腹水、胸腔浸出液、脾臓組織、および腫瘍を含む、大量の供給源から得られ得る。本開示のある特定の実施形態では、当技術分野にて利用可能な任意の数のT細胞株が使用され得る。本開示の一部の実施形態では、T細胞は当業者に公知である、任意の数の技術を用いて対象から収集した血液のユニットから得られる。一実施形態では、アフェレーシスによって固体の循環血から細胞が得られる。
【0195】
改変T細胞受容体アルファ遺伝子は、本開示の操作されたメガヌクレアーゼによる二本鎖切断によってTCRアルファ定常領域遺伝子の第1エクソン(すなわち標的とされたエクソン)へと挿入されている、目的の外因性配列を含む。かかるメガヌクレアーゼによって生成された切断部位により、標的とされたエクソンへと直接、目的の外因性配列の相同組換えを行うことが可能となり得る。
【0196】
本明細書で使用される場合、ヌクレオチド配列に関する「外因性」または「異種」という用語は、純粋に合成である配列、外来種を起源とする配列、または同種から発生する場合には、組成物および/または計画的なヒト治療介入によるゲノム座中のその天然形態から実質的に改変されている配列を意味すると意図されている。
【0197】
種々の実施形態では、目的の外因性配列は、目的のタンパク質に対するコード配列を含むことができる。該コード配列は、任意の目的のタンパク質向けであると考えられている。
【0198】
ある特定の実施形態では、目的の外因性配列は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードしている核酸配列を含む。一般的に、本開示のCARは、少なくとも細胞外ドメインおよび細胞内ドメインを含む。一部の実施形態では、細胞外ドメインは、別名リガンド結合ドメインまたは部分と呼ばれるターゲット特異的結合エレメントを含む。一部の実施形態では、細胞内ドメイン、すなわち細胞質ドメインは、少なくとも1つの共刺激ドメインと、例えばCD3ζなどの1つまたは複数のシグナル伝達ドメインを含む。
【0199】
一部の実施形態では、本発明で有用なCARは、別名リガンド結合ドメインまたは部分と呼ばれる、細胞外のターゲット特異的結合エレメントを含む。リガンド結合ドメインの選択は、ターゲット細胞の表面を規定するリガンドの種類およびリガンドの数によって変化する。例えばリガンド結合ドメインは、特定の疾患状態に関連するターゲット細胞上の細胞表面マーカとして作用するリガンドを認識するために選択され得る。したがって、CAR内のリガンド結合ドメインに対してリガンドとして作用し得る細胞表面マーカの例には、ウイルス感染症、細菌感染症および寄生虫感染症、自己免疫疾患、および癌細胞に関
連するものを含み得る。一部の実施形態では、CARは、腫瘍細胞上の抗原に特異的に結合する所望のリガンド結合部分を操作する方法を用いて、目的の腫瘍特異抗原を標的とするように操作されている。本開示の文脈においては、「腫瘍抗原」または「腫瘍特異抗原」は、癌などの特異的な過剰増殖障害に共通する抗原を指す。
【0200】
一部の実施形態では、CARの細胞外リガンド結合ドメインは、目的の任意の抗原またはエピトープに対して特異的であり、特に目的の任意の腫瘍抗原またはエピトープに対して特異的である。非限定的な例としては、一部の実施形態ではそのターゲットの抗原は、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児性抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFRバリアントIII(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD22、CD30、CD40、CLL-1、ジシアロガングリオシドGD2、導管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴ脂質、グリオーマ関連抗原、B-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、プロスターゼ特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-la、p53、プロステイン、PSMA、残存およびテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、インスリン増殖因子(IGFI)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異ペプチドエピトープを表す主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子などの腫瘍関連表面抗原、5T4、ROR1、NKp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンのエクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)ならびにテネイシンCのAlドメイン(TnC Al)ならびに線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD38、CD123、CD133、CD138、CTLA-4、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、エンドグリン、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、CS1などの系譜特異または細胞特異抗原、またはHIV特異抗原(例えばHIV gpl20)などのウイルス特異表面抗原、EBV-特異抗原、CMV-特異抗原、E6またはE7腫瘍性タンパク質などのHPV-特異抗原、ラッサウイルス特異抗原、インフルエンザウイルス特異抗原、ならびにこれらの表面マーカの任意の誘導体またはバリアントである。本開示の特定の実施形態では、リガンド結合ドメインはCD19に対して特異的である。
【0201】
一部の実施形態では、キメラ抗原受容体の細胞外ドメインは自己抗原(Payne et al.(2016)Science,Vol.353(6295):179-184を参照されたい)を更に含む。これは、Bリンパ球上の自己抗原特異B細胞受容体によって認識することができ、こうすることでT細胞を特異的に標的として、抗体介在自己免疫疾患の自己反応性Bリンパ球を殺すように誘導する。かかるCARは、キメラ自己抗体受容体(CAAR)と呼ばれ得る。
【0202】
一部の実施形態では、キメラ抗原受容体の細胞外ドメインは、目的の抗原に対して天然起源のリガンド、または目的の抗原を結合する能力を保持する天然起源のリガンドのフラグメントを含むことができる。
【0203】
一部の実施形態では、CARは、細胞外リガンド結合ドメインまたはヒンジまたはスペーサ配列を用いて細胞内シグナル伝達ドメインおよび共刺激ドメインを有する自己抗原をつなぐ、膜貫通ドメインを含む。膜貫通ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質から誘導されることがある。例えば、膜貫通ポリペプチドは、T細胞受容体のサブユニット(すなわち、α、β、γまたはζ、CD3複合体を構成するポリペプチド)、IL2受容体p55(鎖)、p75(β鎖)またはγ鎖、Fc受容体のサブユニット
鎖(例えば、Fcy受容体III)またはCD8アルファ鎖などのCDタンパク質であり得る。代替的には、膜貫通ドメインは合成的なものであり得、ロイシンおよびバリンなど、主に疎水性残基を含み得る。特定の例では、膜貫通ドメインはCD8α膜貫通ポリペプチドである。
【0204】
ヒンジ領域は、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するように機能する、任意のオリゴまたはポリペプチドを指す。例えば、ヒンジ領域は、最大300アミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸を含むことができる。ヒンジ領域は、CD8、CD4もしくはCD28の細胞外領域の全部もしくは一部、または抗体定常領域の全部もしくは一部など、天然に存在する分子の全部または一部から誘導され得る。代替的には、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に対応する合成配列であり得るか、または完全合成ヒンジ配列であり得る。特定の例では、ヒンジドメインは、ヒトCD8アルファ鎖、FcyRllla受容体またはIgGlの一部を含むことができる。
【0205】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが配置されている細胞の少なくとも1つの正常なエフェクタ機能の活性化ならびに/または増殖性および細胞生存経路の活性化の要因となる。「エフェクタ機能」という用語は、細胞の特殊機能を指す。T細胞のエフェクタ機能は例えば、サイトカインの分泌を含む、細胞溶解活性またはヘルパー活性であってよい。CD3ζなどの細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞外ドメインの結合に応答する細胞に対する活性化シグナルを提供することができる。議論されるように、活性化シグナルは、例えば細胞溶解活性またはサイトカイン分泌などの細胞のエフェクタ機能を誘発することができる。
【0206】
CARの細胞内ドメインは、細胞増殖、細胞生存、および/または細胞外ドメインの結合後のサイトカイン分泌を促進する共刺激シグナルを伝達する、1つまたは複数の細胞内共刺激ドメインを含むことができる。かかる細胞内共刺激ドメインには、N1、N6、CD27、CD28、CD8、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、およびCD83と特異的に結合するリガンドなどの当技術分野で公知のものを含むが、これに限定されない。
【0207】
CARは、任意の種類の癌細胞に対して特異的であり得る。かかる癌は、細胞腫、リンパ腫、肉腫、芽腫、白血病、B細胞起源の癌、乳癌、胃癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、肺癌、黒色腫、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、卵巣癌、横紋筋肉腫、白血病、およびホジキンリンパ腫を含むことができるが、これに限定されない。ある特定の実施形態では、B細胞起源の癌は、B系統急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ性白血病、B細胞非ホジキンリンパ腫、および多発性骨髄腫を含むがこれに限定されない。
【0208】
目的の配列は、外因性T細胞受容体(TCR)を更にコードすることができる。かかる外因性T細胞受容体は、アルファ鎖およびベータ鎖を含み得るか、または代替的には、ガンマ鎖およびデルタ鎖を含み得る。本発明において有用な外因性TCRは、目的の任意の抗原またはエピトープに対して特異性を有し得る。
【0209】
他の実施形態では、目的の配列は、野生型または改変されたバージョンである、目的の内因性遺伝子をコードすることができる。
【0210】
目的の配列は、T2Aエレメント、P2Aエレメント、E2Aエレメント、およびF2AエレメントといったIRESエレメントおよび2Aエレメントを含むがこれに限定されない、同様のプロモータからの3つ以上の遺伝子を翻訳することが可能なように、当技術
分野で公知であるエレメントまたはペプチドを含むことができる。特異的な実施形態では、目的の外因性配列におけるかかる要素は、目的のタンパク質(例えばCAR)をコードしている核酸配列の5’上流または3’下流に位置することができる。
【0211】
本明細書に記載の目的の外因性配列は、追加の制御配列を更に含むことができる。例えば、目的の配列は、相同組換え転写促進因子配列、コザック配列、ポリアデニル化配列、転写終止配列、選択可能マーカ配列(例えば抗生物質耐性遺伝子)、複製の起点、およびそれと同様のものを含むことができる。本明細書に記載の目的の配列は、少なくとも1つの核局在化シグナルもまた含むことができる。核局在化シグナルの例は、当技術分野で公知である(例えば、Lange et al.,J.Biol.Chem.,2007,282:5101-5105を参照されたい)。
【0212】
本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、タンパク質の形態で細胞へと輸送され得る。好ましくは、操作されたメガヌクレアーゼをコードしている核酸の形態で輸送され得る。かかる核酸はDNA(例えば、環状または直線状プラスミドDNAまたはPCR産物)またはRNA(例えばmRNA)であり得る。操作されたメガヌクレアーゼのコード配列がDNA形態で輸送される実施形態に関しては、この配列はメガヌクレアーゼ遺伝子の転写を促進するプロモータと、動作可能につなげられなければならない。本明細書に好適な哺乳動物のプロモータは、サイトメガロウイルス初期(CMV)プロモータ(Thomsen et al.(1984),Proc Natl Acad Sci USA.81(3):659-63)またはSV40初期プロモータ(Benoist and Chambon(1981),Nature.290(5804):304-10)などの常時発現プロモータおよびテトラサイクリン誘発性プロモータ(Dingermann et al.(1992),Mol Cell Biol.12(9):4038-45)などの誘発性プロモータを含む。本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、合成プロモータに動作可能につなげることも可能である。合成プロモータは、JeTプロモータ(国際公開第2002/012514号)を含むことができるが、これに限定されない。
【0213】
一部の実施形態では、操作されたメガヌクレアーゼをコードしているmRNAは細胞に輸送される。この理由は、このmRNAが、操作されたメガヌクレアーゼをコードしている遺伝子が細胞のゲノムへと組み込まれる可能性を低下させるからである。操作されたメガヌクレアーゼをコードしているこのようなmRNAは、インビトロ転写などの当技術分野で公知である方法を用いて産生され得る。一部の実施形態では、mRNAは、7-メチル-グアノシン、抗逆キャップアナログ(ARCA)(米国特許第7,074,596号)、Cap1アナログなどのCleanCap(登録商標)アナログ(Trilink,San Diego,CA)またはワクシニアキャップ酵素もしくは類似物を用いた酵素的なキャップ化を用いて、5’キャップ化している。一部の実施形態では、mRNAはポリアデニル化され得る。mRNA、コードされた操作されたメガヌクレアーゼの発現および/またはmRNAそれ自体の安定性を増強するための、種々の5’および3’非翻訳配列要素を含有し得る。かかる要素は例えば、ウッドチャック肝炎ウイルスの翻訳後制御因子配列など、翻訳後の制御因子エレメントを含むことができる。mRNAは、プソイドウリジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、5-メチルウリジン、または2-チオウリジンなど、ヌクレオシドアナログまたは天然起源ヌクレオシドを含有し得る。追加のヌクレオシドアナログは、例えば米国特許第8,278,036号に記載のものを含む。
【0214】
特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼをコードしているmRNAは、細胞内で同時に発現している2つ以上のメガヌクレアーゼをコードしている、ポリシストロニックmRNAであり得る。ポリシストロニックmRNAは、同様のターゲット遺伝子内の異なる認識配列を標的とする2つ以上のメガヌクレアーゼをコードすることがで
きる。代替的には、ポリシストロニックmRNAは、切断部位が両方の遺伝子内で産生されるように、本明細書に記載の少なくとも1つのメガヌクレアーゼおよび同様の遺伝子中に位置している別々の認識配列を標的にする、または第2の遺伝子に位置している第2の認識配列を標的にしている、少なくとも1つの追加のヌクレアーゼをコードすることができる。ポリシストロニックmRNAは、IRESエレメント、T2Aエレメント、P2Aエレメント、E2Aエレメント、およびF2Aエレメントを含むがこれに限定されない、同様のmRNA分子からの3つ以上の遺伝子(すなわちシストロン)を翻訳することが可能なように、当技術分野で公知である任意のエレメントまたはペプチドを含むことができる。
【0215】
別の特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼをコードしている核酸は、一本鎖DNA鋳型を用いて細胞内へと導入され得る。一本鎖DNAは、操作されたメガヌクレアーゼをコードしている配列の上流および/または下流である、5’および/または3’AAV末端逆位配列(ITR)を更に含む。他の実施形態では、一本鎖DNAは操作されたメガヌクレアーゼをコードしている配列の5’および/または3’相同アーム上流および/または下流を更に含むことができる。
【0216】
別の特定の実施形態では、本発明のメガヌクレアーゼをコードしている遺伝子は、直線状DNA鋳型を用いて細胞内へと導入され得る。一部の例では、メガヌクレアーゼをコードしているプラスミドDNAは、細胞内へと導入される前に環状プラスミドDNAが直線化されるように、1つまたは複数の制限酵素によって消化され得る。
【0217】
精製されたメガヌクレアーゼタンパク質は、ゲノムDNAを切断するために細胞内へと輸送され得る。これは、以下、本明細書に更に詳細に記載のものを含む、当技術分野で公知の種々の異なる機構により、目的の配列を有する切断部位にて相同組換えまたは非相同末端結合を行うことができる。
【0218】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、またはメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAはターゲットリガンドと結合され、細胞透過性ペプチドまたは細胞への取込みを促進する。当技術分野で公知である細胞透過性ペプチドの例は、ポリ-アルギニン(Jearawiriyapaisarn,et al.(2008)Mol
Ther.16:1624-9)、HIVウイルス由来のTATペプチド(Hudecz,et al.(2005),Med.Res.Rev.25:679-736)、MPG(Simeoni,et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:2717-2724)、Pep-1(Deshayes et al.(2004)Biochemistry43:7698-7706)、およびHSV-1 VP-22(Deshayes et al.(2005)Cell Mol Life Sci.62:1839-49)を含む。代替的な実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、またはメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、メガヌクレアーゼタンパク質/DNA/mRNAが結合し、かつターゲット細胞によって内部移行されるように、ターゲット細胞に発現している特異細胞表面受容体を認識する抗体に共有結合的にまたは非共有結合的に結合されている。代替的には、メガヌクレアーゼタンパク質/DNA/mRNAは、かかる細胞表面受容体に対する天然リガンド(または天然リガンドの一部)と共有結合的または非共有結合的に結合され得る。(McCall,et al.(2014)Tissue Barriers.2(4):e944449;Dinda,et al.(2013)Curr Pharm Biotechnol.14:1264-74;Kang,et al.(2014)Curr Pharm Biotechnol.15(3):220-30;Qian,et al.(2014)Expert Opin Drug Metab Toxicol.10(11):1491-508)。
【0219】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、またはメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、ナノ粒子に共有結合的にまたは非共有結合的に結合または当技術分野で公知である方法を用いてかかるナノ粒子内に被包されている(Sharma,et al.(2014)Biomed Res Int.2014)。ナノ粒子は、その長さスケールが1Dm未満であり、好ましくは100nm未満であるナノスケールの輸送系である。かかるナノ粒子は、金属、脂質、ポリマー、もしくは生物学的な巨大分子、組換えメガヌクレアーゼタンパク質の複数の複製、mRNAで構成されているコアを用いて設計され得、またはDNAはナノ粒子コアに付着または被包され得る。これは、各細胞に輸送されるメガヌクレアーゼタンパク質/mRNA/DNAの複製数を増加させ、そのため、各操作されたメガヌクレアーゼの細胞内発現を増加させ、ターゲット認識配列を切断する可能性を最大化させる。かかるナノ粒子の表面は、ポリマーまたは脂質(例えばキトサン、カチオン性ポリマー、またはカチオン性脂質)を用いて更に修飾され得、細胞輸送および低分子医薬品の取込みを増強させるため、その表面が追加の機能性を与えるようなコアシェルナノ粒子を形成する(Jian,et al.(2012)Biomaterials.33(30):7621-30)。ナノ粒子は、追加的にターゲット分子と有利に結合され得、適切な細胞腫に対してナノ粒子を誘導かつ/または細胞への取込みといった可能性を増加させる。かかるターゲット分子の例は、細胞表面受容体に対して特異的な抗体および細胞表面受容体に対しての天然リガンド(または天然リガンドの一部)を含む。
【0220】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質またはメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、リポソーム内に被包されるか、またはカチオン性脂質を用いて組み合わせられている(例えば、リポフェクタミン(商標)、Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;Zuris et al.(2015)Nat Biotechnol.33:73-80;Mishra et al.(2011)J Drug Deliv.2011:863734を参照されたい)。リポソーム製剤およびリポプレックス製剤は、低分子医薬品を分解から保護することができ、ターゲット細胞の細胞膜との融合および/またはその破壊を通し、細胞への取込みおよび輸送効率を促進することができる。
【0221】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、またはメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、ポリマー性スキャフォールド(例えばPLGA)内に被包されているか、またはカチオン性ポリマー(例えばPEI、PLL)を用いて組み合わせられている(Tamboli et al.(2011)Ther Deliv.2(4):523-536)。ポリマー担体は、ポリマー浸食および薬物拡散の制御を通じて調節可能な薬物放出速度を提供するよう設計され得、高い薬物封入効率により、所望のターゲット細胞集団へと細胞内輸送されるまで、低分子医薬品の保護を提供することができる。
【0222】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、または組換えメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、自己集合してミセルを構築する両親媒性分子と組み合わせられる(Tong et al.(2007)J Gene Med.9(11):956-66)。ポリマー性ミセルは、凝集を防ぎ、電荷相互作用を遮蔽し、非特異的な相互作用を低下させることができる親水性ポリマー(例えばポリエチレングリコール)を用いて形成されたミセルシェルを含み得る。
【0223】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、または組換えメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、ターゲット細胞に対する投与および/または輸送のためのエマルションまたはナノエマルション(すなわち、1nm未満の平均粒子径を有す
る)に製剤化されている。「エマルション」という用語は、水不混和相が水相と混合されている場合、水から離れている無極性残基(例えば、長鎖炭化水素)および水に対する極性頭部群を駆動する疎水力の結果として形成され得る脂質構造物を含む、任意の油中水型、水中油型、水中油中水型または油中水中油型分散または液滴を指すが、これに限定されない。これらの他の脂質構造物は、単層状、小層(paucilamellar)、または多層状の脂質小胞、ミセル、およびラメラ相を含むがこれに限定されない。エマルションは、水相および親油相(典型的には油と有機溶媒を含有している)で構成されている。エマルションはまた、1種以上の界面活性剤を含有することが多い。ナノエマルション製剤は、例えば米国特許出願番号第2002/0045667号、および第2004/0043041号、ならびに米国特許番号第6,015,832号、6,506,803号、6,635,676号、および6,559,189号に記載のものが周知であり、そのそれぞれは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0224】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼタンパク質、または組換えメガヌクレアーゼをコードしているDNA/mRNAは、多機能性ポリマー抱合体、DNAデンドリマー、およびポリマー性デンドリマーに共有結合的に結合しているか、または非共有結合的に結合している(Mastorakos et al.(2015)Nanoscale.7(9):3845-56;Cheng et al.(2008)J Pharm Sci.97(1):123-43)。デンドリマーの発生によって最大積載量とサイズを制御することができ、高い薬物最大積載量を提供し得る。加えて、複数の表面基の表示は、安定性を向上させ、非特異的相互作用を低下させ、かつ細胞特異的なターゲッティングおよび薬物放出を増強させるために活用され得る。
【0225】
一部の実施形態では、メガヌクレアーゼをコードしている遺伝子は、ウイルスベクターを用いて輸送されている。かかるベクターは当技術分野で公知であり、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む(Vannucci,et al.(2013 New Microbiol.36:1-22)に概説されている)。本発明にて有用な組換えAAVベクターは、細胞中へのウイルスの形質導入および細胞ゲノム中へのヌクレアーゼ遺伝子の挿入を可能とする、任意のセロタイプを有し得る。特定の実施形態では、組換えAAVベクターはAAV2またはAAV6のセロタイプを有する。AAVベクターは、これらが宿主細胞内にて二本鎖DNAの合成を必要としないように自己相補的でもあり得る(McCarty,et al.(2001)Gene Ther.8:1248-54)。
【0226】
仮にメガヌクレアーゼ遺伝子がDNA形態(例えばプラスミド)でおよび/またはウイルスベクター(例えばAAV)を用いて輸送される場合、この遺伝子はプロモータと動作可能につながらなくてはならない。一部の実施形態では、ウイルスベクター由来の内因性プロモータ(例えば、レンチウイルスベクターのLTR)などのウイルスプロモータまたは周知のサイトメガロウイルスプロモータもしくはSV40初期プロモータであり得る。好ましい実施形態では、メガヌクレアーゼ遺伝子は、ターゲット細胞(例えばT細胞)において、好ましくは遺伝子の発現を駆動するプロモータと動作可能につながれている。
【0227】
本発明は、TRC1-2認識配列にて、目的の外因性配列のT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子への導入を更に提供する。一部の実施形態では、目的の外因性配列は、5’相同アームと、挿入する配列に隣接する3’相同アームとを含む。かかる相同アームは、切断部位が作製される場所の配列の、5’上流および3’下流の対応するヌクレアーゼ認識配列に対する配列相同性を有する。一般に、相同アームは、少なくとも50塩基対、好ましくは少なくとも100塩基対、および最大2000塩基対以上の長さを有することができ、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、またはそれ以上である、ゲノム内の対応する配列に対する配列相同性を有し得る。
【0228】
本発明の目的の外因性配列は、前述の方法のいずれかによって細胞内へと導入されてよい。特定の実施形態では、目的の外因性配列は、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、または好ましくは組換えAAVベクターなどのウイルスベクターを用いて導入される。外因性核酸を導入するのに有用な組換えAAVベクターは、細胞内へのウイルスの導入および細胞ゲノム中への外因性核酸配列を挿入することが可能である、任意のセロタイプを有し得る。特定の実施形態では、該組換えAAVベクターはAAV2またはAAV6のセロタイプを有する。組換えAAVベクターは、これらが宿主細胞内にて二本鎖DNAの合成を必要としないように自己相補的でもあり得る。
【0229】
別の特定の実施形態では、目的の外因性配列は、一本鎖DNA鋳型を用いて細胞中へと導入され得る。一本鎖DNAは、目的の外因性配列を含み得、好ましい実施形態では、相同組換えによるメガヌクレアーゼ切断部位中への核酸配列の挿入を促進するための5’相同アームと3’相同アームを含み得る。一本鎖DNAは5’相同アームの5’上流である5’AAV末端逆位配列(ITR)と、3’相同アームの3’下流である3’AAV ITRを更に含み得る。
【0230】
別の特定の実施形態では、本発明の操作されたヌクレアーゼをコードしている遺伝子および/または本発明の目的の外因性配列は、直線状DNA鋳型を用いて遺伝子導入することで細胞内へと導入され得る。一部の例では、プラスミドDNAは、細胞内へと遺伝子導入される前に環状プラスミドDNAが直線化されるように、1つまたは複数の制限酵素によって消化され得る。
【0231】
本発明によって改変されたT細胞は、メガヌクレアーゼおよび/または目的の外因性配列を導入する前に活性化が必要となる。例えば、T細胞は、細胞を活性化させるのに十分な期間にわたり、可溶なまたは支持体(すなわちビーズ)に抱合されている抗-CD3および抗-CD28抗体と接触することができる。
【0232】
本発明の遺伝子改変された細胞は、1つまたは複数の誘因可能な自殺遺伝子を発現させるために更に改変され得る。こうした細胞を誘発させることにより細胞死を引き起こし、インビトロまたはインビボでの細胞の選択的な破壊が可能となる。一部の例では、自殺遺伝子は細胞毒性ポリペプチド、非毒性のプロドラッグを細胞毒性薬物に変換することができる能力を有するポリペプチド、および/または細胞内の細胞毒性遺伝子経路を活性化するポリペプチドをコードすることができる。すなわち、自殺遺伝子は、それ自身によってまたは他の化合物の存在下にて細胞死を引き起こす産物をコードする核酸である。かかる自殺遺伝子の代表例は、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼをコードしているものである。追加の例としては、水痘帯状疱疹ウイルスのチミジンキナーゼおよび5-フルオロシトシンを、毒性が高い化合物である5-フルオロウラシルへと変換することができる細菌遺伝子シトシンデアミナーゼをコードしている遺伝子である。自殺遺伝子はまた、非限定的な例として、カスパーゼ-9、カスパーゼ-8、またはシトシンデアミナーゼをコードする遺伝子を含む。一部の例では、カスパーゼ-9は、特異的なタンパク質二量体誘導化合物(CID)を用いて活性化され得る。自殺遺伝子は、治療用抗体および/または細胞毒性モノクローナル抗体に対して細胞が感受できるようにする、細胞表面にて発現されるポリペプチドをコードすることも可能である。更なる例では、自殺遺伝子は、抗-CD20mAbリツキシマブによって認識されている抗原モチーフおよび自殺遺伝子を発現している細胞をセレクション可能にするエピトープを含む、組換え抗原ポリペプチドをコードすることができる。例えば、2つのリツキシマブ結合エピトープおよびQBEnd10-結合エピトープを含む、国際公開第2013153391号に記載されたRQR8ポリペプチドを参照されたい。かかる遺伝子について、リツキシマブは、必要時に細胞のディプリーションを誘発するため対象に投与され得る。更なる例では、自殺遺伝子は、切断
型EGFRポリペプチドと組み合わせられて発現されている、QBEnd10-結合エピトープを含んでよい。
【0233】
本明細書に記載の、本方法で改変された真核細胞および組成物は、内因性T細胞受容体(すなわちアルファ/ベータT細胞受容体)の発現を低下させ得、目的のタンパク質(例えばCAR)を更に発現することができる。したがって、本発明は目的のタンパク質を発現する真核細胞の集団を更に提供し、内因性T細胞受容体(例えばアルファ/ベータT細胞受容体)を発現することはない。例えば、集団は、CAR(すなわちCAR+)、または外因性T細胞受容体(すなわち体外TCR+)を発現する、本発明の複数の遺伝子改変された真核細胞を含み得、内因性T細胞受容体(すなわちTCR-)の発現を低下させる。本発明の種々の実施形態では、該集団中の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大100%の細胞は、本明細書に記載されているような遺伝子改変された真核細胞である。特定の実施形態では、集団は、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大100%の、TCR-およびCAR+の両方である細胞を含むことができる。
【0234】
一部の実施形態では、細胞の集団に導入した場合、本開示の操作されたメガヌクレアーゼにより、第1世代のTCR1-2x.87EEメガヌクレアーゼが細胞集団内へと導入される場合より更に高い比率で、その両方がTCR-およびCAR+である、細胞集団が生じる。
【0235】
更に、本開示の操作されたメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞は、向上した特徴を示す。この特徴は、オフターゲット切断およびその効果を低下させ、細胞中のメガヌクレアーゼの維持時間を減少させ、CAR Tの増殖を増強(すなわち増加)させることを含む。更に、該細胞は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞と比較した場合、分化程度が低い。加えて、本開示のメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団と比較した場合、より多い比率にて改変された細胞を、およびより大きい比率にて分化程度の低い細胞を有する。特定の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼが導入される細胞の集団は、第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼが導入される細胞の集団より更に高い比率の中央メモリーT細胞(CD45RO、CCR7、およびCD62Lを発現するもの)を示す。
【0236】
2.4 薬学的組成物
一部の実施形態では、本発明は本発明の遺伝子改変された真核細胞、本発明の遺伝子改変された真核細胞の集団、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。かかる薬学的組成物は、公知の技術に従って調製され得る。例えば、Remington,The Science And Practice of Pharmacy(21st ed.,Philadelphia,Lippincott,Williams&Wilkins,2005)を参照されたい。本発明に従った薬学的製剤の製造において、細胞は典型的には薬学的に許容される担体と混合され、得られた組成物は対象へと投
与される。もちろん、担体は製剤中の任意の他の成分と適合しているという意味で許容されなければならず、対象に対して有害であってはならない。一部の実施形態では、本発明の薬学的組成物は、対象の疾患治療において有用である、1つまたは複数の追加の薬剤を更に含み得る。追加の実施形態では、本発明の薬学的組成物は、サイトカイン(例えばIL-2、IL-7、IL-15および/またはIL-21)などの生物学的分子を更に含む。これは、インビボでの細胞増殖および遺伝子改変されたT細胞の移植を促進させる。本発明の遺伝子改変された真核細胞を含む薬学的組成物は、追加の薬剤もしくは生物学的分子として同じ組成物をもって投与され得る。代替的には、別々の組成物をもって同時投与され得る。
【0237】
本開示はまた、医薬品として使用されるための、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞、またはその集団を提供する。本開示は、治療の必要がある対象において疾患を治療するための医薬品を製造する際、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞、またはその集団を更に提供する。このような一態様では、医薬品は、必要のある対象においては、癌免疫療法に対して有用である。
【0238】
本開示のメガヌクレアーゼが中に導入された細胞は、オフターゲット切断を低下させ、細胞内のメガヌクレアーゼの維持時間を減少させ、TCRアルファ定常領域遺伝子をより高い効率で破壊し、CAR T増殖を増強(すなわち増加)させる。更に、該細胞は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼによって事前に遺伝子改変されたTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼによって事前に遺伝子改変された細胞と比較した場合、分化程度が低くなる可能性がある。一部の実施形態では、遺伝子改変された細胞を含む、本発明にて開示された薬学的組成物はまた、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼによって遺伝子改変された細胞を含む薬学的組成物の投与と比較した場合、治療の必要がある対象に投与された際に、疾患(例えば癌)の治療における有効性を向上させている。
【0239】
一部の実施形態では、細胞の集団に導入した場合、本開示の操作されたメガヌクレアーゼにより、第1世代のTCR1-2x.87EEメガヌクレアーゼが細胞集団内へと導入される場合より更に高い比率で、その両方がTCR-およびCAR+である、細胞集団が生じる。
【0240】
更に、本開示の操作されたメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞は、向上した特徴を示す。この特徴は、オフターゲット切断およびその効果を低下させ、細胞中のメガヌクレアーゼの維持時間を減少させ、CAR Tの増殖を増強(すなわち増加)させることを含む。更に、該細胞は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼで遺伝子改変された細胞と比較した場合、分化程度が低い。加えて、本開示のメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼ(またはこれをコードする核酸)が中に導入された細胞集団と比較した場合、より多い比率にて改変された細胞を、およびより大きい比率にて分化程度の低い細胞を有する。特定の実施形態では、本開示の操作されたメガヌクレアーゼが導入される細胞の集団は、親のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼに事前に導入される細胞の集団より更に高い比率の中央メモリーT細胞(CD45RO、CCR7、およびCD62Lを発現するもの)を示す。
【0241】
本発明の薬学的組成物は、T細胞養子免疫療法によって標的とすることができる、任意の疾患状態を治療するのに有用であり得る。特定の実施形態では、本発明の薬学的組成物および医薬品は、癌の治療に有用である。本開示の薬学的組成物および医薬品を用いて治療することができる癌の非限定的な例には、B細胞起源の癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、前立腺癌、腎細胞癌、横紋筋肉腫、肝癌、胃癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部または頸部の癌、乳癌、肺癌、皮膚性または眼内悪性黒色腫卵巣癌、腎臓癌、子宮癌、卵巣癌、大腸癌
、結腸癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、ファロピウス管の細胞腫、子宮内膜の細胞腫、子宮頸部の細胞腫、膣の細胞腫、外陰部の細胞腫、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管癌、腎盂の細胞腫、中枢神経系(CNS)の腫瘍、CNS原発リンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、アスベストにより誘発されるものを含む環境誘発癌、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、大細胞型免疫芽球性リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、菌状息肉症、未分化大細胞型リンパ腫、およびT細胞リンパ腫、ならびに当該癌の任意の組合せを含むがこれに限定されない、細胞腫、リンパ腫、肉腫、黒色腫、芽腫、白血病、胚細胞性腫瘍である。ある特定の実施形態では、B細胞起源の癌は、B細胞系急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Pre-B ALL(前駆B細胞リンパ性白血病、小児適応症)、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、およびB細胞非ホジキンリンパ腫を含むがこれに限定されない。
【0242】
癌が本開示の遺伝子改変された細胞またはその集団により治療される一部のこれらの実施形態では、遺伝子改変された細胞またはその集団を投与された対象は、放射線治療、外科治療などの追加の治療の薬剤、または化学療法剤を更に投与される。
【0243】
本発明は、本明細書に記載の複数の遺伝子改変された細胞を含む、遺伝子改変された細胞の集団を更に提供する。これは、目的の配列をコードしている外因性核酸分子をそのゲノム中に含み、該外因性核酸分子はT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子中へと挿入され、内因性TCRの細胞表面発現は低下する。したがって、本発明の種々の実施形態では、遺伝子改変された細胞の集団が提供されており、該集団中の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大100%の細胞は、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞である。本発明の更なる実施形態では、遺伝子改変された細胞の集団が提供されており、該集団中の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大100%の細胞は、キメラ抗原受容体を更に発現する、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞である。
【0244】
2.5.遺伝子改変された細胞の投与方法
本明細書に記載の別の態様は、治療の必要がある対象への、有効量の本開示の遺伝子改変された真核細胞またはその集団の投与である。特定の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は治療の必要がある対象へと投与される。例えば、治療有効量の細胞の集団は、疾患を有する対象へと投与され得る。特定の実施形態では、該疾患は癌であり得、本発明の遺伝子改変された真核細胞の投与は免疫療法となる。投与された細胞は、増殖の減少、数の減少、またはレシピエント中のターゲット細胞を殺すことができる。抗体治療とは異なり、本開示の遺伝子改変された真核細胞は、インビボにて複製および増えることができ、持続的な疾患の制御をもたらし得るよう長期で持続する。
【0245】
可能な投与経路の例には、非経口(例えば静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内、皮
下(SC)、または点滴)投与を含む。加えて、該投与は、持続点滴によるもの、または単一ボーラスもしくは複数のボーラスによるものであってよい。特異的な実施形態では、薬剤は約12時間未満、6時間未満、4時間未満、3時間未満、2時間未満、または1時間未満の期間にわたって点滴される。更に他の実施形態では、点滴は、最初はゆっくりと行われ、その後経時的に増加してもよい。
【0246】
一部の実施形態では、本開示の遺伝子改変された真核細胞またはその集団は、癌を治療するという目的のための腫瘍抗原を標的とする。かかる癌は、細胞腫、リンパ腫、肉腫、芽腫、白血病、B細胞起源の癌、乳癌、胃癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、肺癌、黒色腫、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、卵巣癌、横紋筋肉腫、白血病、およびホジキンリンパ腫を含むことができるが、これに限定されない。特異的な実施形態では、癌および障害は、pre-B ALL(小児適応症)、成人ALL、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、同種異系の骨髄移植後のサルベージなどが含まれるが、これに限定されない。これらの癌は、例えばCD19、CD20、CD22、および/またはROR1を標的にするCARの組合せを用いて治療され得る。一部の非限定的な例には、本開示の遺伝子改変された真核細胞またはその集団は、B細胞起源の癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、前立腺癌、腎細胞癌、横紋筋肉腫、肝癌、胃癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部または頸部の癌、乳癌、肺癌、皮膚性または眼内悪性黒色腫卵巣癌、腎臓癌、子宮癌、卵巣癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、ファロピウス管の細胞腫、子宮内膜の細胞腫、子宮頸部の細胞腫、膣の細胞腫、外陰部の細胞腫、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管癌、腎盂の細胞腫、中枢神経系(CNS)の腫瘍、CNS原発リンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、アスベストにより誘発されるものを含む環境誘発癌、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、大細胞型免疫芽球性リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、菌状息肉症、未分化大細胞型リンパ腫、およびT細胞リンパ腫、ならびに当該癌の任意の組合せを含むがこれに限定されない、細胞腫、リンパ腫、肉腫、黒色腫、芽腫、白血病、胚細胞性腫瘍を標的とする。ある特定の実施形態では、B細胞起源の癌は、B細胞系急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Pre-B ALL(前駆B細胞リンパ性白血病、小児適応症)、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、およびB細胞非ホジキンリンパ腫を含むがこれに限定されない。
【0247】
「有効量」または「治療量」が示されている場合、年齢、体重、腫瘍サイズ(存在する場合)、感染または転移の程度、および患者(対象)の状態における個別の差異を考慮した上で、医師によって投与される正確な量が決定され得る。一部の実施形態では、本明細書に記載の遺伝子改変された細胞またはその集団を含む薬学的組成物は、その範囲内での整数値全体を含む104~109細胞/kg体重の投薬量で投与される。更なる実施形態では、投薬量は、その範囲内での整数値全体を含む105~106細胞/kg体重である。一部の実施形態では、細胞組成物は、これらの投薬量で複数回投与される。該細胞は、免疫療法で周知である点滴技術を用いることによって投与され得る(例えば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.319:1676,1988を参照されたい)。特定の患者に対する最適な投薬量および治療投与計画は、疾患の兆候に関して患者をモニタリングし、それに合うよう治療を調節することにより、医薬分野の当業者によって容易に決定され得る。
【0248】
一部の実施形態では、本開示の遺伝子改変された真核細胞またはその集団は、ターゲットの疾患または状態の少なくとも1つの症状を低減させる。例えば、本開示の遺伝子改変
されたT細胞またはその集団の投与は、癌の少なくとも1つの症状を低減させ得る。癌の症状は当技術分野で周知であり、公知の技術によって決定され得る。
【0249】
2.6 組換えウイルスベクターを産生するための方法
一部の実施形態では、本発明は、本発明の方法で使用するためのウイルスベクター(例えば組換えAAVベクター)を提供する。組換えAAVベクターは、HEK-293などの哺乳動物の細胞株において典型的に産生される。ウイルスcapおよびrep遺伝子は、輸送される1つ以上の治療遺伝子(例えばメガヌクレアーゼ遺伝子)に対する空間を作製するよう、自己複製を防ぐためにベクターから除去されるので、パッケージング細胞株においてはトランス状態のこうした遺伝子を提供することが必要である。加えて、複製を支援するのに必要な「ヘルパー」(例えばアデノウイルス)成分を提供することが必要である(Cots et al.(2013),Curr.Gene Ther.13(5):370-81)。多くの場合、組換えAAVベクターは「ヘルパー」成分をコードしている第1のプラスミド、capおよびrep遺伝子を含む第2のプラスミド、ならびにウイルスへとパッケージされる介在DNA配列を含有するウイルス性ITRを含む第3のプラスミドで細胞株が遺伝子導入される、トリプルトランスフェクションを用いて作製されている。カプシド中に包まれているゲノム(目的のITRおよび1つ以上の介在遺伝子)を含むウイルス粒子は、その後に凍結融解サイクル、超音波処理、洗浄剤、または当技術分野で公知の他の手段によって細胞から単離される。次いで粒子は、塩化セシウムによる密度グラジエント遠心分離またはアフィニティークロマトグラフィを用いて精製され、その後に細胞、組織またはヒト患者などの生物に対する目的の1つ以上の遺伝子へと輸送される。
【0250】
組換えAAV粒子は典型的には細胞中に産生(製造)されるので、確実に操作されたメガヌクレアーゼがパッケージング細胞に発現されないように、本発明を実行する際には注意しなければならない。本発明のウイルスゲノムは、該メガヌクレアーゼのための認識配列を含み得るので、パッケージング細胞株に発現されている任意のメガヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼがウイルス粒子にパッケージされ得る前にウイルスゲノムを切断することが可能となり得る。これにより、パッケージング効率および/または断片となったゲノムのパッケージングの低下が発生する。パッケージング細胞におけるメガヌクレアーゼの発現を防ぐため、以下のアプローチを含む、いくつかのアプローチが使用され得る。
【0251】
メガヌクレアーゼは、パッケージング細胞で活性ではない組織特異プロモータを制御した状態で配置され得る。例えば、筋肉組織に(a)1つ以上のメガヌクレアーゼ遺伝子を輸送するためにウイルスベクターを発生させる場合、筋肉特異プロモータが使用され得る。筋肉特異プロモータの例は、C5-12(Liu,et al.(2004)Hum Gene Ther.15:783-92)、筋肉特異クレアチンキナーゼ(MCK)プロモータ(Yuasa,et al.(2002)Gene Ther.9:1576-88)、または平滑筋22(SM22)プロモータ(Haase,et al.(2013)BMC Biotechnol.13:49-54)を含む。CNS(ニューロン)特異プロモータの例は、NSE、シナプシン、およびMeCP2プロモータ(Lentz,et al.(2012)Neurobiol Dis.48:179-88)を含む。肝臓特異プロモータの例は、アルブミンプロモータ(Palbなど)、ヒトα1-アンチトリプシン(Pa1ATなど)、およびヘモペキシン(Phpxなど)(Kramer
et al.,(2003)Mol.Therapy 7:375-85)、ハイブリッド肝臓特異プロモータ(ApoE遺伝子由来の肝臓遺伝子座制御領域および肝臓特異アルファ1-アンチトリプシンプロモータ)、ヒトチロキシン結合グロブリン(TBG)プロモータ、およびアポリポプロテインA-IIプロモータを含む。眼特異プロモータの例は、オプシン、および角膜上皮特異K12プロモータ(Martin et al.(2002)Methods(28):267-75)(Tong et al.,(200
7)J Gene Med,9:956-66)を含む。これらのプロモータ、または当技術分野で公知である他の組織特異プロモータは、HEK-293中で高い活性を示さない。そのため、本発明のウイルスベクターに導入される場合、パッケージング細胞中では著しいレベルでのメガヌクレアーゼ遺伝子の発現をもたらすことは期待できない。同様に、本発明のウイルスベクターは、非適合性の組織特異プロモータの使用と一緒に他の細胞株を使用すること(すなわち、周知のHeLa細胞株(ヒト上皮細胞)と肝臓特異ヘモペキシンプロモータを使用すること)を企図している。組織特異プロモータの他の例は、滑膜肉腫PDZD4(小脳)、C6(肝臓)、ASB5(筋肉)、PPP1R12B(心臓)、SLC5A12(腎臓)、コレステロール調節APOM(肝臓)、ADPRHL1(心臓)および一遺伝子性奇形症候群TP73L(筋肉)を含む。(Jacox et al.,(2010),PLoS One v.5(8):e12274)。
【0252】
代替的には、ベクターは、メガヌクレアーゼが発現されない可能性のある異なる種由来の細胞内にパッケージされ得る。例えば、ウイルス粒子は、非哺乳動物のパッケージング細胞中では活性ではない、周知のサイトメガロウイルス初期プロモータ、またはSV40初期プロモータなど哺乳動物のプロモータを用いた微生物細胞、昆虫細胞、または植物細胞中に産生され得る。好ましい実施形態では、ウイルス粒子はGao,et al.(Gao et al.(2007),J.Biotechnol.131(2):138-43)により記載のバキュロウイルス系を用いて、昆虫細胞内に産生される。哺乳動物のプロモータの制御下にあるメガヌクレアーゼは、昆虫細胞内では発現される可能性がない(Airenne et al.(2013),Mol.Ther.21(4):739-49)。加えて、昆虫細胞は、哺乳動物細胞以外の異なるmRNAスプライシングモチーフを使用する。したがって、メガヌクレアーゼのコード配列へと、ヒト成長ホルモン(HGH)イントロンまたはSV40ラージT抗原イントロンなどの哺乳動物のイントロンを組み込むことができる。イントロンは、昆虫細胞内のプレmRNA転写物から効率的にはスプライスされないため、昆虫細胞は機能的メガヌクレアーゼを発現することはなく、完全な長さのゲノムをパッケージすることになる。それとは対照的に、生じた組換えAAV粒子が輸送される哺乳動物細胞は、プレmRNA転写物を確実にスプライスし、機能的メガヌクレアーゼタンパク質を発現する。Haifeng Chenは、昆虫のパッケージング細胞中の毒性タンパク質バルナーゼおよびジフテリア毒性フラグメントAの発現を弱めるためのHGHおよびSV40ラージT抗原イントロンの使用を報告している。これにより、これらの毒性遺伝子を運搬する組換えAAVベクターの製造が可能となる(Chen(2012),Mol Ther Nucleic Acids.1(11):e57)。
【0253】
メガヌクレアーゼ遺伝子は、メガヌクレアーゼの発現に小分子のインデューサが必要とされるように、動作可能に誘発性プロモータへと結合され得る。誘発性プロモータは、Tet-Onシステム(Clontech;Chen et al.(2015),BMC
Biotechnol.15(1):4))およびRheoSwitchシステム(Intrexon;Sowa et al.(2011),Spine,36(10):E623-8)を含む。両方のシステムおよび当技術分野で公知である類似システムは、小分子活性化因子(それぞれドキシサイクリンまたはエクジソン)に応答する転写を活性化するリガンド誘発性転写因子(TetリプレッサおよびEcdysone受容体それぞれのバリアント)に依存する。かかるリガンド誘発性転写活性化因子を用いた最新の発明を実施するものとしては、1)対応する転写因子に応答するプロモータの制御下でメガヌクレアーゼ遺伝子を配置し、該メガヌクレアーゼ因子は転写因子に対し、1つ以上の結合部位を有することと、2)パッケージされたウイルスゲノム中の転写因子をコードしている遺伝子を含むことと、を含む。後者の工程は、転写活性化因子が同じ細胞へと提供されない場合、メガヌクレアーゼが組換えAAVの輸送後にターゲット細胞または組織で発現されないため必須である。転写活性化因子は次いで、同族の小分子活性化因子で治療されて
いる細胞または組織中でのみ、メガヌクレアーゼ遺伝子の発現を誘発する。このアプローチによって、小分子のインデューサがいつ、どの組織に輸送されるかを選択することで、時空間的な方法を用いてメガヌクレアーゼ遺伝子の発現の制御が可能となるため、これは有益である。ただし、インデューサは輸送能力が著しく制限されており、ウイルスゲノム中にこれを含むための要件はこのアプローチに欠陥を作り出している。
【0254】
別の好ましい実施形態では、組換えAAV粒子は、メガヌクレアーゼの発現を防ぐ転写リプレッサを発現する哺乳動物の細胞株にて産生される。転写リプレッサは当技術分野で公知であり、Tetリプレッサ、Lacリプレッサ、Croリプレッサ、およびラムダリプレッサを含む。エクジソン受容体などの多くの核内ホルモン受容体はまた、同族のホルモンリガンドの不在下では転写リプレッサとして機能する。最新の発明を実施するため、パッケージング細胞は転写リプレッサをコードしているベクターを用いて遺伝子導入/形質導入される。ウイルスゲノム(パッケージングベクター)中の該メガヌクレアーゼ遺伝子は、リプレッサがプロモータの発現を停止させるように、リプレッサ用の結合部位を含むように改変されたプロモータと動作可能に結合される。転写リプレッサをコードしている遺伝子は、種々の位置に配置され得る。この遺伝子は、別々のベクターにコードされ得、ITR配列外側のパッケージングベクターへと組み込まれ得、cap/repベクターもしくはアデノウイルスヘルパーベクターへと組み込まれ得、または恒常的に該遺伝子が発現されるよう、パッケージング細胞のゲノムに安定的に組み込まれ得る。転写リプレッサ部位を組み込むための一般的な哺乳動物のプロモータを改変する方法は、当技術分野で公知である。例えば、ChangとRoninsonは、Lacリプレッサ用のオペレータを含む、強力で恒常的なCMVプロモータおよびRSVプロモータを改変した。そして、この改変されたプロモータからの遺伝子の発現は、リプレッサを発現している細胞内で大きく減弱したことを示した(Chang and Roninson(1996),Gene 183:137-42)。非ヒト転写リプレッサの使用により、メガヌクレアーゼ遺伝子の転写はリプレッサを発現しているパッケージング細胞でのみ阻止され、得られた組換えAAVベクターによって形質導入されたターゲット細胞または組織では阻止されないことが確実となる。
【0255】
2.7 操作されたヌクレアーゼバリアント
本発明の実施形態は、本明細書に記載の操作されたヌクレアーゼ、およびそのバリアントを包含する。本発明の更なる実施形態は、本明細書に記載のヌクレアーゼをコードしている核酸配列を含むポリヌクレオチド、およびかかるポリヌクレオチドのバリアントを包含する。
【0256】
本明細書で使用される場合、「バリアント」は、実質的に同じ配列を意味すると意図されている。「バリアント」ポリペプチドは、天然タンパク質中の1つまたは複数の内部部位にて、1つまたは複数のアミノ酸の削除もしくは追加および/または天然ポリペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸の置換によって「天然」ポリペプチドから誘導されたポリペプチドを意味すると意図されている。本明細書で使用される場合、「天然」ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、バリアントが誘導されている親配列を含む。この実施形態により包含されているバリアントのポリペプチドは、生物学的に活性である。換言すると、該バリアントのポリペプチドは、天然タンパク質の所望の生物学的活性を有している。すなわち、これはヒトT細胞受容体アルファ定常領域(配列番号3)中で見られるTRC1-2認識配列(配列番号5)を認識かつ切断する能力である。更に一部の実施形態では、これは向上(すなわち増加)した特異性およびオフターゲット切断、細胞内の減少した維持時間、ならびに増強(すなわち増加)した、TCRアルファ定常領域遺伝子の改変効率から成る群から選択される、第1世代のTRC1-2メガヌクレアーゼについての少なくとも1つの向上した性質を示す。かかるバリアントは、例えば人間の操作によって生じ得る。該実施形態の天然ポリペプチドの生物学的に活性のあるバリアント(例えば、配列
番号7および配列番号8)、または本明細書に記載の認識ハーフサイト結合サブユニットの生物学的に活性のあるバリアントは、天然ポリペプチドまたは天然サブユニットのアミノ酸配列に対し、少なくとも約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%の配列相同性を有し、これは本明細書の他の箇所に記載の配列アラインメントプログラムおよびパラメータによって決定される。該実施形態のポリペプチドまたはサブユニットの生物学的に活性のあるバリアントは、約1~40のアミノ酸残基と同じくらい少ない、約1~20のアミノ酸残基と同じくらい少ない、約1~10のアミノ酸残基と同じくらい少ない、約5のアミノ酸残基と同じくらい少ない、4、3、2、または1ですらあるアミノ酸残基と同じくらい少ない分量のポリペプチドまたはサブユニットのバリアントとは異なっていてよい。
【0257】
該実施形態のポリペプチドは、アミノ酸の置換、削除、短縮化、挿入を含む、種々の方法で変化されてよい。かかる操作のための方法は、一般的には当技術分野で公知である。例えば、アミノ酸配列のバリアントは、DNAにおける変異によって調製され得る。変異誘発性およびポリヌクレオチドの変化のための方法は、当技術分野で周知である。例えば、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA82:488-492、Kunkel et al.(1987)Methods in Enzymol.154:367-382、米国特許番号第4,873,192号、Walker
and Gaastra,eds.(1983)Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company,New York)、および本明細書に言及された参考文献を参照されたい。目的のタンパク質の生物学的活性に影響しない適切なアミノ酸置換に関する誘導は、Dayhoff et al.(1978)のAtlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.)のモデルに見られることができ、これは参照として本明細書に組み入れられている。アミノ酸を、類似の特性を有する他のアミノ酸で交換するなどの保存的な置換が、最適であり得る。
【0258】
一部の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、本明細書に記載のHVR1領域およびHVR2領域のバリアントを含み得る。親HVR領域は例えば、例証した操作されたメガヌクレアーゼの残基24~79または残基215~270を含み得る。したがって、バリアントHVRは、本明細書に例証された操作されたメガヌクレアーゼの残基24~79または残基215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。これによってバリアントHVR領域は、操作されたメガヌクレアーゼの生物学的活性(すなわち、認識配列を結合および切断する)を維持している。更には、本発明の一部の実施形態では、バリアントHVR1領域またはバリアントHVR2領域は、親HVR内部の特異的位置で見られるアミノ酸残基に対応する残基を含み得る。この文脈において、「対応している」は、バリアントHVRにおけるアミノ酸残基が、同じ相対的位置の(すなわち、親配列中に維持しているアミノ酸に対する)親HVR配列に存在している同じアミノ酸残基(すなわち別々の同一残基)であることを意味している。例を用いると、親HVR配列は位置26にセリン残基を含み、残基26「に対応する残基を含む」バリアントHVRはまた、親位置26に相対的な(すなわち対応する)位置にセリンを含む。
【0259】
特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7の残基21
5~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するHVR1領域を含む。
【0260】
ある特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するHVR2領域を含む。
【0261】
一部の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれ以上の配列相同性を有するHVR2領域を含む。
【0262】
特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号7の215~270に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも97%の配列相同性を有するHVR1領域、および配列番号7の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも81%の配列相同性を有するHVR2領域を含む。
【0263】
他の特定の実施形態では、本発明の操作されたメガヌクレアーゼは、配列番号8の215~270に対応するアミノ酸配列を有するHVR1領域、および配列番号8の残基24~79に対応するアミノ酸配列に対し、少なくとも86%の配列相同性を有するHVR2領域を含む。
【0264】
野生型I-CrelメガヌクレアーゼのDNA認識ドメインに対する、アミノ酸改変の実質的な数は既に特定されており(例えば、米国特許第8,021,867号)、単一にてまたは組み合わせでDNA認識配列ハーフサイト内の個々の塩基にて変化した特異性を有する、組換えメガヌクレアーゼを生じる。これにより得られる、合理的に設計されたメガヌクレアーゼは、野生型酵素とは異なるハーフサイト特異性を有する。表2は、認識ハーフサイトの各ハーフサイト位置(-1から-9)にて存在する塩基に基づく特異性を増強するための、操作されたメガヌクレアーゼ単量体またはサブユニット内にて作製され得る可能な置換を提供する。
【0265】
【0266】
DNA結合親和性および/または活性を調節するため、操作されたメガヌクレアーゼ単量体またはサブユニット中にある一定の改変が作製され得る。例えば、本明細書に記載の操作されたメガヌクレアーゼ単量体またはサブユニットは、I-Crelまたは配列番号7もしくは配列番号8(国際公開第2009001159号)の位置19に対応する残基にてG、S、もしくはAを含むことができ、I-Crelまたは配列番号7もしくは配列番号8の位置66に対応する残基にてY、R、K、もしくはDを含むことができ、および/またはI-Crelまたは配列番号7もしくは配列番号8(米国特許第8021867号)の位置80に対応する残基にてE、Q、もしくはKを含むことができる。
【0267】
ポリヌクレオチドに対して、「バリアント」は、天然ポリヌクレオチド内の1つまたは複数の部位にて1つまたは複数のヌクレオチドを削除および/または追加することを含む。当業者は、オープンリーディングフレームが維持されるように、該実施形態の核酸のバリアントが構築されることを認識するだろう。ポリヌクレオチドに対して、保存バリアントは、遺伝子コードの縮重により、該実施形態のポリペプチドのうちの1つのアミノ酸配列をコードしているその配列を含む。バリアントのポリヌクレオチドは、例えば部位特異的変異誘発性を使用して生成されるものなどの合成的に誘導されたポリヌクレオチドを含むが、これは該実施形態の組換えヌクレアーゼを更にコードしている。一般的に、該実施形態の特定のポリヌクレオチドのバリアントは、その特定のポリヌクレオチドに対して少なくとも約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%の配列相同性を有し、これは本明細書の他の箇所に記載の配列アラインメントプログラムおよびパラメータによって決定される。該実施形態の特定のポリヌクレオチドのバリアント(すなわち、参照ポリヌクレオチド)は、バリアントのポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドと、参照ポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの配列相同性の比率を比較することによっても評価され得る。
【0268】
本明細書に包含されたバリアントタンパク質配列の削除、挿入、および置換は、ポリペプチドの特徴に徹底的な変化を引き起こすことを期待されてはいない。ただし、前もって置換、削除または挿入を行う前にそれらの効果を予想することが難しい場合、ヒトT細胞受容体アルファ定常領域遺伝子(配列番号3)のエクソン1内で見られるTRC1-2認識配列(配列番号5)を優先的に認識かつ切断するその能力に関し、ポリペプチドをスクリーニングすることによって、この効果を評価するであろうことを当業者は理解するだろう。
【実施例0269】
本発明は、以下の実施例によって更に例示されるが、これは限定するものとして解釈さ
れるべきではない。当業者は、本明細書に記載の通常の実験、特異的物質に対する多数の等価物、および手順を十分に用いることなく認識または確認することができるだろう。かかる等価物は、以下の実施例に続く特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【0270】
実施例1
TRC1-2認識配列に対する特異性を有するメガヌクレアーゼの特徴
1.1.TRC1-2認識配列を認識かつ切断するメガヌクレアーゼ
【0271】
TRC1-2L.1592(配列番号7)およびTRC1-2L.1775(配列番号8)と呼ばれている第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼは、TRC1-2認識配列(配列番号5)を認識かつ切断するように操作された。この配列は、ヒトT細胞受容体アルファ定常領域中に存在している。これらの第2世代のメガヌクレアーゼは、SV40、第1のメガヌクレアーゼのサブユニット、リンカー配列、および第2のメガヌクレアーゼのサブユニットから誘導されたN末端ヌクレアーゼ局在化シグナルを含む。各TRC1-2メガヌクレアーゼの第1のサブユニットは、配列番号5のTRC1認識ハーフサイトに結合している。一方、第2のサブユニットは、TRC2認識ハーフサイトに結合している(
図1を参照されたい)。TRC1結合サブユニットおよびTRC2結合サブユニットはそれぞれ、56塩基対超可変領域を含む。これはそれぞれHVR1およびHVR2と呼ばれている。
【0272】
各TRC1結合サブユニットのHVR1領域は、配列番号7および配列番号8の残基215~270から成る。TRC1-2L.1592およびTRC1-2L.1775のTRC1結合サブユニットは、HVR1領域の外側で互いに同一である。各TRC1-2メガヌクレアーゼのHVR1領域は、位置215、217、219、221、223、224、229、231、233、235、237、259、266および268にて野生型I-Crel配列(配列番号1)に対する改変を含む。野生型I-Crelに対して改変されていない場合であっても、配列番号7および配列番号8の位置261のアルギニン残基は、改変HVR1残基と共にヌクレアーゼの特異性の要因であると考えられている。TRC1-2L.1592のHVR1領域は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼのHVR1領域に対し、96.43%の配列相同性を共有する。TRC1-2L.1775のHVR1領域は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼのHVR1領域に対し、100%の配列相同性を共有する。
【0273】
各TRC2結合サブユニットのHVR2領域は、配列番号7および配列番号8の残基24~79から成る。TRC1-2L.1592およびTRC1-2L.1775のTRC2結合サブユニットは、HVR2領域の外側で互いに同一であるが、E(TRC1-2L.1592)またはQ(TRC1-2L.1775)であり得る、配列番号7および配列番号8の位置80である場合を除く。各TRC1-2メガヌクレアーゼのHVR2領域は、位置24、26、28、30、32、33、38、40、42、44、46、48、50、68、70、75、および77にて野生型I-Crel配列(配列番号1)に対する改変を含む。TRC1-2L.1592メガヌクレアーゼは、野生型I-Crelに対して位置71、72、および73での改変を更に含有する。配列番号7および配列番号8の位置139のアルギニン残基は、野生型I-Crel配列に対して改変されており、改変HVR2残基と共にヌクレアーゼの特異性の要因であると考えられている点も注目すべき点である。TRC1-2L.1592のHVR2領域は、第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼのHVR2領域に対し、80.36%のみの配列相同性を共有する。TRC1-2L.1775のHVR2領域は、TRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼのHVR2領域に対し、85.71%のみの配列相同性を共有する。
【0274】
2.第1世代のTRC1-2ヌクレアーゼの最適化
これまでに報告されたTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼは、GUIDE-seq(Tsai et al.(2015),Nat Biotechnology 33:187-197)と非常に類似しているが、メガヌクレアーゼに対して潜在的なオフターゲット部位を見いだすように調製された方法を用いて、認識部位特異性に関して評価された。一般的には、潜在的なオフターゲット部位は、二本鎖DNA切断中でプローブであるオリゴヌクレオチドを捕獲することによって特定される。TRC1-2メガヌクレアーゼは、4塩基対の3’オーバーハングを生成する。そのため、プローブであるオリゴはまた、ヌクレアーゼ切断によってよりふさわしく作成された部位にてライゲーション効率を向上させる、無作為化された4塩基対のオーバーハングを含有する。
【0275】
TRC1-2x.87EEの特異性解析により、ヒトT細胞中に種々の潜在的なオフターゲット部位が発見された。これらのオフターゲットは、2つの関連カテゴリへと分類可能である。これは、高い頻度で的中する固有のターゲットおよび低い頻度で的中する繰り返しターゲットであった。これらのオフターゲットの配列中に関与している重要なアミノ酸は、再度無作為化された。その後、目的部位を切断するために同時セレクションを実施し、カウンターセレクションはオフターゲット部位を切断しないように実施された。オフターゲット部位は、両方のオフターゲットに対して判別する回答(すなわちヌクレアーゼ)を単離するセレクションの連続ラウンド間に交替された。使用された2つのオフターゲットは、5’-TGGCCTGGAGaAACAgtgtaaa-3’(配列番号16)であるオフ1であり、これは低頻度の切断であるがゲノム中で高度に繰り返された部位であった。オフ2は5’-cGGCCTGtAGtAcaggAcCTGA-3’(配列番号17)であり、これは頻繁に的中した固有のオフターゲットであった(小文字は目的部位とのミスマッチを表している)。種々のヌクレアーゼライブラリーが使用された。
【0276】
セレクション後、それぞれの連続したライブラリーからの単離されたクローンの96ウェルプレートは、プラスミドDNAを単離するために調製された。各プラスミドDNAは、GFP遺伝子中の3箇所の直列反復配列の間の中断部にて、組み込まれたターゲット部位を含有するCHO細胞へと個別に遺伝子導入された。ターゲット部位の切断により、一本鎖アニーリングによるGFP遺伝子の修復が生じる。ターゲット部位の切断頻度は、フローサイトメータ上でGFPポジティブ細胞の数を数えることにより計測され得る。発明者らは、目的部位およびオフ1ターゲット部位を用いて、細胞に対するヌクレアーゼプラスミドをアッセイした。こうした方法では、発明者らは、オフターゲットに対して最も区別するものを除いて、どのヌクレアーゼが目的部位を更に切断するかを評価することができた。発明者らは5つの候補を特定した。3つの候補は、TRC1-2に対するオリジナルライブラリーから再度単離されたL.1462、L.1466およびL.1469であった。3つ全ての回答は、固有のものであったが、互いに関連していた。2つの候補はTRC-ライブラリー2から単離され、L.1108およびL.1118であった。これらの候補のそれぞれは、第2世代の本発明のヌクレアーゼの開発に関しては中間ヌクレアーゼを表す。
【0277】
ヌクレアーゼを更に向上させるため、認識配列特異性に関与する重要なアミノ酸を無作為化した。L.1462、L.1466およびL.1469はある特定のライブラリーへと収集され、L.1108およびL.1118は第2のライブラリーへと収集された。PCRによる新規無作為化は、両方へと導入された。類似のセレクション戦略は、新規ライブラリーによって実施された。これは、目的部位への選択およびオフ1またはオフ2に対する選択である。オフターゲットは、セレクションのラウンド間で交替された。個々の回答の96ウェルプレートはセレクションから生成され、CHO iGFFPアッセイで検査され、目的部位およびオフ1とオフ2の両方の切断を測定した。複数の新規ヌクレアーゼは、この追加の最適化ラウンドにより特定された。L.1462、L.1466およびL.1469に基づくライブラリーからの回答は、L.1775およびL.1843を含
んだ。L.1108およびL.1118に基づくライブラリーからの1つの回答は、L.1592である。新規ヌクレアーゼの全ては、目的ターゲットに対する強い活性および両方のオフターゲット(以下に更に記載される)に対する強い識別を示した。新規ヌクレアーゼは、潜在的なオフターゲット部位を決定するためにオリゴ捕獲アッセイ(以下に更に記載)を用いて実施され、一般的には潜在的なオフターゲットの数は減少し、特にL.1592はほとんど潜在性のない、合法的なオフターゲット部位を有する。L.1108、L.1469、L.1592、L.1775、およびL.1843は、7日間という期間にわたるiGFFPアッセイで更に評価され、経時的なGFPシグナルの安定性をアッセイした。これは、毒性に対する一般的な測定である。L.1469、L.1592、L.1775およびL.1843は、機能に関して一次T細胞において更に検査された。
【0278】
3.TRC1-2認識配列切断およびオフターゲット切断の評価
どのTRC1-2メガヌクレアーゼがTRC1-2認識配列(配列番号5)を認識かつ切断可能かを決定するため、各TRC1-2メガヌクレアーゼは、既に記載されたCHO細胞レポータアッセイ(国際公開第2012/167192号、
図3を参照されたい)を用いて評価された。アッセイを実施するため、細胞のゲノムへと組み込まれた非機能的な緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の発現カセットを運搬した、一対のCHO細胞レポータ株が産生された。各細胞株中のGFP遺伝子は、メガヌクレアーゼによるいずれかの認識配列の細胞内切断が機能的GFP遺伝子を生じる相同組換え現象を刺激するように、一対の認識配列によって中断された。両方の細胞株において、認識配列のうち1つはTRC1-2遺伝子から誘導され、更に第2の認識配列は「CHO23/24」と呼ばれる制御メガヌクレアーゼによって特異的に認識された。TRC1-2認識配列(配列番号5)を含むCHOレポータ細胞およびCHO23/24認識配列は、「TRC1-2細胞」と本明細書にて呼ばれている。
【0279】
TRC1-2細胞は、TRC1-2メガヌクレアーゼ(例えば、TRC1-2x.87EE、TRC1-2L.1592、TRC1-2L.1775もしくはTRC1-2L.1843)のうち1つをコードしている、またはCHO23/34メガヌクレアーゼをコードしている、プラスミドDNAで遺伝子導入された。4e5CHO細胞は、製造者の指示に従い、リポフェクタミン2000(ThermoFisher)を用いて96ウェルプレート中に、50ngのプラスミドDNAを用いて遺伝子導入された。遺伝子導入後48時間時点にて、細胞をフローサイトメトリによって評価し、遺伝子導入されていないネガティブコントロール(1~2bs)と比較したGFP-ポジティブ細胞の比率を決定した。全てのTRC1-2メガヌクレアーゼは、著しくネガティブコントロールを超え、かつCHO23/24ポジティブコントロールに相当するか、またはCHO23/24ポジティブコントロールを超える頻度でTRC1-2認識配列を含む細胞株中に、GFP-ポジティブ細胞を産生することがわかっており、各TRC1-2メガヌクレアーゼは、細胞内の目的のTRC1-2認識配列を効率的に認識かつ切断することができることを示している(
図4A~
図4C)。
【0280】
代替的には、このTRC1-2メガヌクレアーゼはまた、対抗選択されたオフターゲット配列をGFP直列反復配列間に含有するTRCオフ1およびTRCオフ2細胞へと遺伝子導入される。目的ターゲット部位TRC1-2CHO細胞とは異なり、TRCオフ1およびオフ2CHO細胞内の望ましいヌクレアーゼは基線レベルのGFPポジティブ細胞しか有さない。これは、オフターゲット配列の切断に対する識別が可能であるためである。CHO23~24ターゲット部位は、こうした実験においてポジティブコントロールとして作用し、CHO23~24ヌクレアーゼによってターゲット部位が切断される場合、GFPは変わらずに産生され得ることを示す。新規ヌクレアーゼは、TRC1-2bsネガティブコントロールに相当するレベルの%GFPに関して、TRC1-2x.87EEと比べてオフ1およびオフ2ターゲット部位に対する識別が向上(すなわち増加)している
ことを示す(
図5A~
図5C)。
【0281】
TRC1-2.L1469、L.1592、L.1775およびL.1843といった操作されたメガヌクレアーゼの有効性は、メガヌクレアーゼのmRNAをTRC1-2細胞へと導入した2日後、5日後、および7日後に時間依存的様式でも測定された。この調査では、TRC1-2細胞(1.0×10
6)は、製造者の指示に従ってBioRad Gene Pulser Xcellを使用し、細胞ごとの1×10
6コピーのメガヌクレアーゼmRNAによって電気穿孔された。遺伝子導入後48時間時点にて、細胞はGFP-ポジティブ細胞の比率を決定するため、フローサイトメトリによって評価された。また、ポジティブコントロールとして各時点でCHO23/24メガヌクレアーゼを含めた。それぞれのメガヌクレアーゼは、CHO23~24に対し、相当のGFP-ポジティブ比率を示した(
図6および
図7)。L.1469のみは経時的にGFPポジティブ細胞が減少する傾向を示し、その後の最適化で向上される、分解されていない毒性がいくらかあるという課題を有していることを示す。残存ヌクレアーゼは、CHO23~24コントロールと等価であるか、またはそれよりも高いレベルで、経時的に安定または増加しているGFP-ポジティブ細胞を呈した。
【0282】
拡張iGFFPアッセイはまた、7日間にわたるオフ1およびオフ2といった2つのオフターゲットに対する識別のため、同様の群のメガヌクレアーゼを評価するために使用された。この場合、オフ1またはオフ2のいずれかを含有する細胞およびCHO23~24は、製造者の指示に従ってBioRad Gene Pulser Xcellを使用し、細胞ごとの1×10
6コピーのメガヌクレアーゼmRNAによって電気穿孔された。遺伝子導入後2日目、5日目、7日目時点で、細胞をフローサイトメトリによって評価し、GFP-ポジティブ細胞の比率を決定した。ポジティブコントロールとして各時点で、CHO23~24メガヌクレアーゼもまた含んだ。それぞれのヌクレアーゼは、TRC1-2x.87EEと比較すると、オフターゲットに対して識別を向上させたことを示した(
図8Aおよび
図8B)。L.1592は、オフ1またはオフ2のいずれかを最小限切断することを示し、これは偽コントロール細胞と同等であった。L.1469は、TRC1-2x.87EEによって観察されたものよりも劇的に低かったにも関わらず、オフ1およびオフ2の切断をいくらか検出することができたことを示した。L.1775およびL.1843は、オフターゲットに対する識別に関し、その親であるL.1469以上に向上を示す。
【0283】
4.オリゴ捕獲アッセイおよびオフターゲット切断の解析
これらの調査において、オリゴ捕獲アッセイを用いてTRC1-2メガヌクレアーゼによって誘発されたオフターゲット切断を識別した。GUIDE-seqと類似する、オリゴ捕獲アッセイは細胞のゲノムDNA内の切断部位にてオリゴヌクレオチドを捕獲することでTRC1-2メガヌクレアーゼにより作製された潜在的なオフターゲット部位を認識する。GUIDE-seqは、DNA切断を生成するCRISPR-Cas9のために開発された。この技術を本発明のヌクレアーゼに適用するために、化学および解析に対する重要な改変はほとんど行われない。CRISPR-cas9とは異なり、本明細書の操作されたメガヌクレアーゼは4塩基対の3’オーバーハングを生成する。この違いに適応させるため、オリゴ捕獲に使用されたオリゴヌクレオチドは、TRC1-2メガヌクレアーゼで生成されたオーバーハングと適合し得る4塩基対オーバーハングを無作為化する。平滑末端よりも結合している付着末端の効率が大きいことを要因として、高頻度の挿入が観察される。細胞は、ヌクレアーゼおよび二本鎖DNAオリゴヌクレオチドをコードしているmRNAで遺伝子導入された。2日後、これらの細胞由来のゲノムDNAを単離および超音波処理し、DNAを小さいサイズへとせん断した。オリゴヌクレオチドアダプタをせん断されたDNAへとつなぎ、PCRを用いて、特定の末端ではアダプタを含有し、他方の末端では捕獲したオリゴヌクレオチドを含有する任意のDNA断片を増幅させた。増幅
されたDNAを精製し、更に標準的な市販のキットを用いてシーケンシングライブラリーを調製した。
【0284】
シーケンシングライブラリーは、Illumina MiSeqを用いるV2 2×150キット上で行われた。オリゴヌクレオチドを捕獲する妥当な部位に対してこのデータを選別かつ解析し、潜在的なオフターゲット部位を予測した。ここで再び、プロトコールをCRISPR-cas9を用いたPAMサーチから、TRC1-2メガヌクレアーゼサーチへと調節する必要がある。開発されたソフトウェアは、各配列を調べ、アダプタの存在およびこの配列に隣接する捕獲オリゴが存在することを確認し、これが妥当なリードであると立証した。ソフトウェアはまた、PCR重複についても調べ、PCRバイアスを低下させる一助となるように同一のリードを取り除く。配列リードは参照ゲノムに並べられ、1000塩基対ウインドウ内の分類された配列は、潜在的なTRC1-2メガヌクレアーゼ部位についてスキャニングされる。
【0285】
各TRC1-2メガヌクレアーゼは、結合二量体である。各単量体は、2つのハーフサイト間の中央に4塩基対スペーサを有する9塩基対ハーフサイトを認識する。ソフトウェアは、許容されないギャップを有する各ハーフサイトと、最も近い整合を示す配列を検索する。中央の4塩基対は、オフターゲットのセレクションには考えられていない。これは、TRC1-2メガヌクレアーゼがターゲット部位内のこれらの位置における大量の縮重を一般には許容可能であるという理由に依る。ソフトウェアは、結合ハーフサイト中の塩基ミスマッチの数を伴う潜在的なオフターゲット部位の一覧を出力する。ただし、この数には中央の4塩基対ミスマッチは含まれていない。ソフトウェアは、7塩基対以上がミスマッチ状態であると同定されている任意のオフターゲットを除くCRISPR-Cas9とは異なり、任意のミスマッチフィルタに基づいて任意のオフターゲットを除くことはない。代わりに、ゲノム内の脆弱スポットまたはホットスポットにて、オリゴを無作為に捕獲することで生成されたバックグラウンドノイズは、2つの方法で取り除くことができる。最初に、オリゴ捕獲に未処置の偽サンプルを通し、存在するヌクレアーゼを欠いた組み込み部位のウインドウを、サンプルを含有するヌクレアーゼから引くことができる。発明者らは、3通りのアッセイの実施、および3回の繰り返しのうち少なくとも2回繰り返すことがない、任意の部位の除去は、無作為の組み込みノイズを経験的に取り除く上で良好な方法であるということも見いだした。
【0286】
リードカウントは特定部位での切断頻度と相関することはないものの、より頻繁に生じることから潜在的により関連するまたはより妥当なオフターゲットを、このデータによって一般的に強調することができる。潜在的に妥当なオフターゲット部位の数を基準として、オリゴ捕獲データを図表により可視化する1つの方法を
図9に示す。特定のヌクレアーゼによって生成された各オフターゲットは、その部位で捕獲されているプローブオリゴのための固有の配列リードの数に基づきプロットされる。目的部位は最も高いリードカウントを有する必要がある。これは検査される全てのTRC1-2メガヌクレアーゼの場合である。より良好なヌクレアーゼはより高い計測部位を取り除き、プロットの更に左の位置では、バックグラウンドノイズより高いドットをほとんど有さない。このプロットを使うことで、例えばTRC1-2L.1592が、第1世代のTRC1-2x.87EEよりも高いリードカウント部位の多くを除外することが明白である。
【0287】
追加の可視化方法により、発明者らは特定の部位で回収されたリード数という観点だけではなく、推定オフターゲット部位と目的部位との間のミスマッチの数によってもオリゴ捕獲データを見ることができる。これにより、無作為組み込みノイズまたはシーケンシングノイズと比較した場合、実際のオリゴ組み込み部位をより正確に決定することができる。
図10においては、オフターゲット部位はX軸上に並べられたリード数に従ってプロットされ、目的部位と比較したミスマッチの塩基対の数は、色を用いて示されており、より
暗色の部分はオフターゲットと目的結合部位との間の全体的な一致度がより高いことを示している。ボックスは、最も高い信頼度領域を示している。こうしたボックス内のオフターゲットは、目的部位に対する並べられたリードカウントが高いか、または目的部位に対する類似性が非常に高いかのどちらかであり、このうちのいずれかは、バックグラウンドノイズとなっている部位の可能性を減少させる。信頼度領域における部位と比較すると、
図10は、特にTRC1-2x.87EEと比較したTRC1-2L.1592といった、最適化されたメガヌクレアーゼの特異性の増加を示している。TRC1-2L.1592は、より高いリードカウント部位の数における減少および目的部位とより類似している部位における減少を示す。
【0288】
実施例2
最適化されたTRC1-2メガヌクレアーゼのインビトロ解析
遺伝子編集効率、編集後の増殖、および分化の評価
【0289】
第1の一連の実験においては、4つの最適化された第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼを、その遺伝子編集効率、および編集後の増殖および分化ポテンシャルについてスクリーニングした。3人の異なるオペレータは、別の健常なヒトT細胞ドナーから得られたT細胞における全てのヌクレアーゼバリアントを評価した。アフェレーシス物質は、Key Biologics(Memphis,TN)からのドナーK708、K799、およびK6784から調達された。K708およびK6784T細胞は、以下のプロトコールに従って処理された。すなわち、ヒトCD3ポジティブセレクション試薬(StemCell Technologies)を用いてT細胞を濃縮し、ImmunoCult
抗-CD2/CD3/CD28(StemCell Technologies)を用いて刺激し、かつ4D NucleoFEctor(Lonza)を用いてヌクレアーゼRNAを輸送した。K799由来のT細胞は、以下のプロトコールに従って処理された。すなわち、CD4およびCD8マイクロビーズおよびCliniMACS細胞アイソレータ(Miltenyi Biotec)を用いてT細胞を濃縮し、TransAct(Miltenyi)を用いて刺激し、MaxCyte-GTを用いてヌクレアーゼRNAを輸送した。
【0290】
4つの最適化されたヌクレアーゼバリアント(TRC1-2L.1496、L.1592、L.1775およびL.1843)の編集効率、増殖、および分化を、前駆体ヌクレアーゼであるTRC1-2x.87EEおよび電気穿孔された偽T細胞に対して比較した。ImmunoCult/TransActにより最初の刺激を行った3日後、T細胞を収集し、これを該ヌクレアーゼのうち1つをコードしているRNAで電気穿孔し、かつTRC1-2切断部位へと挿入されるCAR遺伝子をコードしているAAV6ベクターで直ちに形質導入した。AAVを受け取っていないコントロール培養物は平行して組み立てられた。
【0291】
編集後4日目および8日目時点で、NucleoCounter NC-200(ChemoMetec)を用いて培養物の全体の細胞充実度を測定した。編集効率は、ヒトCD3-PE(BioLegend clone UCHT1)および抗-FMC63scFv-AlexaFluor647(社内で作製および抱合された新規クローン)に対して目的とする抗体で培養物サンプルを着色することで測定した。分化は、CD4-BV786(クローンOKT4 BioLegend)、CD8-BV711(クローンRPA-T8、BioLegend)、CD62L-BB515(クローンSK11 BD Biosciences)、およびCD45RO-PE/Cy7(クローンUCHL1、BioLegend)を用いて、CD4およびCD8区画の両方について、中央メモリー細胞、移行期メモリー細胞、およびエフェクタメモリー細胞の頻度を比較することによって評価された。
【0292】
これらの実験結果は、
図11にまとめられている。内因性T細胞受容体(CD3-ネガティブ表現型に対し、CD3-ポジティブ形態を形質転換しているTRC細胞によって測定)のノックアウト頻度は、3人の別のドナー中の各ヌクレアーゼに対して決定された。検査された(および細胞調製方法の両方を使用した)3人のドナー全てについて、TRC1-2L.1592およびL.1775の両方は、TRC1-2x.87EEと類似したまたはそれよりも高い効率でノックアウト細胞を生成した。比較すると、L.1469およびL.1843では、ノックアウト頻度は低くなった。これは検査された3人のドナー全てにあてはまった。L.1775は、L.1592よりもわずかに高い編集効率を示した。TRC1-2認識配列の編集の増加は、CAR遺伝子の挿入速度の増加と関連していた。3人のドナー全てにおいて、L.1592およびL.1775は、同等または優れた編集頻度および挿入頻度を立証した。
【0293】
編集後8日目時点で、細胞カウントデータを用いてCAR T細胞の増殖倍率を計算した。3人のドナー全てにわたって、L.1592、L.1775およびL.1843は、x.87EEよりも電気穿孔後の高い増殖を促進した。対照的に、L.1469はx.87EEよりも低い増殖を促進した。3人のドナーのうち2人に関しては、L.1843は3つの最適化されたヌクレアーゼのうち最も広範に増殖することが可能であった。L.1775は、ドナーによって変化する増殖度を立証した。
【0294】
CD4:CD8の比率およびメモリーサブセットのデータはまた、編集後8日目に捕捉された。x.87EEと比較すると、いずれの最適化されたヌクレアーゼからもCD4:CD8の比率に対する主要な撹乱は観察されなかった。ただし、L.1592、L.1775、およびL.1843は、多くの場合、結果としてCD4+細胞の大きな頻度を生じた。x.87EEと比較すると、中央メモリー細胞から離れたならびに移行期およびエフェクタメモリー細胞集団への分化は、L.1469で編集された細胞では大きな程度で観察された。対照的に、L.1592、L.1775、またはL.1843で編集された場合、同等の頻度、または大きな頻度の細胞は、中央メモリー表現型を維持した。
【0295】
これらの調査は、4つの最適化されたヌクレアーゼのうち3つが、編集効率、細胞増殖、および分化といった特徴といった点ではTRC1-2x.87EEよりも優れていた。発明者らによるヌクレアーゼであるL.1469は、x.87EEと同様には機能しなかった。インビトロで向上した機能を有する3つのバリアントのうち、バリアントL.1775は、培養物中で編集された細胞が最大頻度であることを立証している。ただし、このバリアントは編集後の増殖量は最小であり、培養物中ではT細胞の分化を加速させる。バリアントL.1843は、編集後の増殖量を最大にすることができ、好ましい中央メモリー細胞の頻度を保持する。ただし、ノックアウト頻度という点では、L.1775またはL.1592のいずれかと比べるとそれらよりも効果は低かった。驚くべきことに、L.1592は、これらの基準の3つ全てを用いると、第1世代のx.87EEよりも向上していることを示している。
【0296】
2.オリゴ捕獲アッセイおよびオフターゲット切断の解析
オリゴ捕獲は、実施例1に既に記載の方法を用いて、3人のドナーのそれぞれから得られたT細胞の3つの複写物に対して実施された。オリゴ捕獲の結果は
図12に示している。ドットは、各推定オフターゲット部位および目的のターゲット部位にて回収されたシーケンシングリードの数を表す。従来の研究では、8箇所以上のミスマッチを有する部位がTRC1-2L.1592により切断されることが示されなかったため、目的とするターゲットに対して8箇所以上のミスマッチを有する推定部位を除外した。各サンプルにとっての目的ターゲット部位は、円で強調されている。目的ターゲットと比較したミスマッチの数は各円の暗さによって示されており、ミスマッチがほとんどない場合にはより暗くな
っている。プロットは、取り除かれた偽バックグラウンドを有さず、サンプルごとの固有リードの数に標準化されたリードカウントを有するオリゴ捕獲データを表し、回収されたリードの総数についての差異を説明している。示されるように、TRC1-2L.1592は、CAR T細胞集団で編集および標的挿入のために使用される場合、高いリードカウントの数が少なく、更に目的部位とより類似する数が少ないことを示す。
【0297】
3.編集効率、増殖およびサイトカイン分泌のインビトロ調査
第2の一連のインビトロ調査では、T細胞を編集するという点、編集後増殖する編集T細胞の能力、および抗原関連ターゲット細胞と遭遇するよう応答するヌクレアーゼバリアントを用いて生成されたCAR T細胞の能力という点で、その効率について第2世代の最適化されたTRC1~2メガヌクレアーゼを評価した。
【0298】
アフェレーシス物質は、Key Biologics(Memphis,TN)からのドナーK708から調達し、T細胞は、ヒトCD3ポジティブセレクション試薬(StemCell Technologies)を用いて濃縮され、ImmunoCult 抗-CD2/CD3/CD28(StemCell Technologies)を用いて刺激を受け、かつ4D NucleoFector(Lonza)を用いてヌクレアーゼRNAを輸送した。3通りのサンプルは、平行して実施された。
【0299】
3つの最適化されたメガヌクレアーゼ(TRC1-2L.1592、L.1775およびL.1843)の編集効率、増殖、および分化を、前駆体ヌクレアーゼであるTRC1-2x.87EEおよび電気穿孔された偽T細胞に対して比較した。ImmunoCult/TransActにより最初の刺激を行った3日後、T細胞を収集し、これを該ヌクレアーゼのうち1つをコードしているRNAで電気穿孔し、かつTRC1-2切断部位へと挿入されるCAR遺伝子をコードしているAAV6ベクターで直ちに形質導入した。編集後4日目時点および8日目時点で、培養物を採取し、Beckman-Coulter
CytoFLEX-LXフローサイトメータを用いて編集効率および増殖を測定した。内因性T細胞受容体ノックアウト効率は、抗-CD3-PE(BioLegend clone UCHT1)を用いて、およびCARノックインは、抗-FMC62scFv-AlexaFluor647(社内で作製および抱合された新規クローン)を用いて評価された。
【0300】
増殖、細胞毒性、およびサイトカイン産生は、CD19+腫瘍株であるRajiまたはNalm6を1:1および1:2のE:T比率で有する共培養CAR T細胞を用いて評価された。CD19-ネガティブK562骨髄性白血病細胞をコントロールとして使用した。培養物の上澄みを収集し、Luminex MAGPIX機器およびMilliPlex MAP15-plexビーズセット(Millipore)を用いて、分泌されたサイトカインについて解析した。増殖およびターゲット死滅は、培養物細胞サンプルを、抗-CD4-APC(BioLegend clone OKT4)、抗-CD8-FITC(BioLegend clone RPA-T8)、および抗-CD19-PE(BioLegend clone HIB19)を用いて着色し、CytoFLEX-LXを用いて細胞カウントと共に蛍光データを得ることで評価された。
【0301】
RNAなしで電気穿孔されたT細胞(偽コントロール)と比較すると、8日目時点での培養物の総細胞充実度は、TRC1-2メガヌクレアーゼであるx.87EEおよびL.1775で編集されたT細胞についておよそ50%低下した(
図13A)。L.1592またはL.1843で編集された培養物は、培養物の総細胞充実度において同じ程度までの低下を示されなかった。編集効率を考慮し、かつ該プロセスで生成された編集された細胞の総数を計測した場合、L.1592は最も多いTCRノックアウト細胞を生成した(
図13B)。バリアントx.87EEおよびL.1775は、L.1843が最低量を生
成する一方で、ほとんど同数の編集された細胞を生成した。このパターンは、培養物中CAR+/TCR-細胞の数を測定した場合にも測定された(
図13C)。
【0302】
CAR T細胞が抗原関連ターゲット細胞で共培養された場合、TRC1-2x.87EEを用いて産生されたCAR T細胞は、導入数の約3倍以上増殖した(水平な点線によって
図14にて定義されている)。驚くべきことに、最適化されたヌクレアーゼを用いて産生されたCAR T細胞は、x.87EEよりも更に急速に増殖し、5日後には増殖は10倍に達した。E:T比率が1:2に増加した場合、x.87EEおよびL.1843によって編集されたCAR T細胞の増殖は、1:1の比率に対し約1/2にまで低下した。これはL.1775またはL.1592を用いて産生されたCAR T細胞中に見られ、他のTRC1-2ヌクレアーゼよりも著しく良好に(p<0.0001、
図15A)働くことが見いだされた。CD19+Raji細胞の残存数を(1:2のE:T比率にて、
図15B)測定する場合、4つのCAR T産物全ては、CAR T細胞を受け取っていないコントロール培養物と比較した場合、90%または複数のRaji数で減少を示した。最適化されたヌクレアーゼを用いて作製されたCAR T細胞は、x.87EEを用いて生成された細胞よりも著しく良好にRaji細胞を除去した。
【0303】
共培養上澄みの解析は、CAR T細胞がx.87EEよりもむしろ最適化されたヌクレアーゼを用いて作製された場合に高レベルのエフェクタサイトカインが生成されたことを示した。L.1592で編集されたCAR T細胞は、最大レベルのIL-2、TNFα、IFNγ、およびグランザイムB(
図16A~
図16D)、および次いで最大レベルのパーフォリン(
図16E)を分泌した。IL-2およびTNFαの場合では、x.87EEで編集されたCAR T細胞のサイトカイン産生とL.1592で編集されたCAR
T細胞の間の差異は、2~3倍であり、その一方でその他の差異全ては少数であった。
【0304】
全体的に見ると、最適化されたTRC1-2メガヌクレアーゼであるL.1775、L.1592およびL.1843は、x.87EEよりも機能的に優れていた。これは、CAR T細胞の製造を立証するヌクレアーゼの相対的な能力(
図13)、およびこれらのターゲット抗原と遭遇するよう応答するCAR T細胞の能力(
図14~
図16)という点であてはまった。複数の実験より、L.1775は最大の編集効率(ノックアウト頻度)を一般的に支援し、L.1843は編集後T細胞の増殖を最大にできる一方で、L.1592は、2番目に大きい編集効率と、最大または次いで最大の増殖とを同時に可能とし、最大の全体数のCAR T細胞を産生することが明らかになった。重要な点としては、L.1592を用いて生成されたCAR T細胞は、他の最適化されたメガヌクレアーゼよりも機能的な利点(増殖、ターゲット細胞の死滅、およびサイトカイン産生)を示した。
【0305】
4.最適化されたTRC1-2メガヌクレアーゼのインビトロでの維持時間
調査は、仮に最適化された第2世代のTRC1-2メガヌクレアーゼが、第1世代のTRC1-2x.87EEよりもインビトロで短い維持時間を有するかどうかを決定するために更に実施された。より短い維持時間は、遺伝子の編集およびオフターゲット切断における低下といった可能性という文脈において有利であり得る。
【0306】
これらの調査では、T細胞は、CD4およびCD8マイクロビーズおよびLDカラム(Miltenyi)を用いてCD4+およびCD8+細胞を磁気濃縮することでアフェレーシス産物から得られた(Key Biologics)。細胞は、5%のFBS(GE
Hyclone)、10ng/mlのIL-2(Cellgenix)、および1%の抗生物質/抗真菌溶液(Gibco)を含有するXuri培地(GE)中で、抗-CD3/抗-CD28TransAct試薬(Miltenyi)を用いて3日間活性化させた。次いで細胞を、インビトロで転写され、TRC1-2x.87EEまたはTRC1-2
L.1592ヌクレアーゼ(Trilink)をコードしているmRNAを用いて、1e6細胞ごとに1μgのmRNAで、MaxCyte電気穿孔システムを用いて電気穿孔した。細胞は、その後、30ng/mlのIL-2および1%の抗生物質/抗真菌溶液を含有する、血清を含まないXuri培地中、相同組換えによってTRC1-2部位に挿入されるために設計された抗-CD19キメラ抗原受容体(SAB Tech)をコードしているドナー鋳型を運搬する組換えAAV6ベクターを用いて形質導入された。電気穿孔後6時間時点では、サンプルを定量し、5%のFBS、30ng/mlのIL-2および1%の抗生物質/抗真菌溶液を含有しているXuri培地中に再懸濁させた。96時間時点では、残留した未編集CD3+T細胞は、TRCの電気穿孔された群からLDカラム、CliniMACS緩衝液、およびCD3マイクロビーズ(Miltenyi)を用いて磁気ディプリーション(magnetic depletion)することで除去した。細胞はその後、37℃で+5%FBS/1%抗-抗+10ng/mlのIL-15およびIL-21を加えたXuri培地中で実験の残り時間にわたって培養された。
【0307】
電気穿孔後6時間時点、24時間、48時間、96時間、および168時間時点にて、T細胞サンプルをクエンチし、同量の生存細胞をペレット状とし、RIPA緩衝液(EMD Millipore)に再懸濁させ、そこにプロテアーゼ阻害剤(Roche)を添加し、十分混合させ、これをウェスタンブロットのため、以下に記載の通り更に処理する前に30分間、凍結保存または氷上でインキュベートさせるかのいずれかを行った。
【0308】
同じドナーからの偽細胞は、ヌクレアーゼ治療群として活性化され、同じ培地にて培養された。また、この偽細胞は、ヌクレアーゼ治療群が事前に電気穿孔された後に24時間時点にて収集された。
【0309】
ウェスタンブロット解析のため、可溶化液を遠心分離にかけ、上澄みを新しい試験管へと移し、氷上に設置した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Pierce)によって決定し、各サンプルに対して15μgの総タンパク質をサンプル緩衝液+DTT(NuPage)とし、10分間90℃でインキュベートさせた。5μgの各サンプルをゲルの各ウェルに充填した。電気穿孔後24時間時点での単一の偽サンプルをコントロールとして使用した。電気穿孔後、サンプルをPVDF膜(Novex)へと移した(NuPage電気穿孔システムおよび試薬)。膜はTBS-T中5%の無脂肪粉乳を用いて遮断し、一次抗体で着色した。
【0310】
ブロット 一次抗体
【0311】
A ウサギポリクローナル抗ヌクレアーゼ(Precision BioSciences自社開発、1:6500で使用)
【0312】
B マウス抗B―アクチン(Sigma、1:15000で使用)
【0313】
膜を6回洗浄し、次いで適切な二次抗体でインキュベートさせた。
【0314】
ブロット 二次抗体
【0315】
A ヤギ抗ウサギHRP(Invitrogen、1:50000で使用)
【0316】
B ヤギ抗マウスHRP(Invitrogen、1:75000で使用)
【0317】
洗浄工程後、膜をECL Prime(Amersham)に曝され、サランラップ(登録商標)で包み、UVP ChemiDoc-It815Imagerを用いて画像を
取得した。
【0318】
図17に示されるように、ヌクレアーゼの未発現は、期待されるように偽サンプルで検出可能であった。TRC1-2x.87EEまたはTRC1-2L.1592ヌクレアーゼをコードしているmRNAで電気穿孔されたサンプルでは、ヌクレアーゼタンパク質は、解析された中で最も早い時点である、電気穿孔後6時間時点で高く発現した。電気穿孔後24時間時点では、タンパク質は検出可能なままであるが、発現はどちらのヌクレアーゼに対しても電気穿孔後6時間時点より実質的に低下し、かつこの時点でTRC1-2x.87EEよりもTRC1-2L.1592に関しては顕著に低下すると観察された。TRC1-2L.1592のmRNA処理サンプルにおいて、ヌクレアーゼタンパク質は電気穿孔後48時間時点、またはその後の時点では検出することができなかった。一方、TRC1-2x.87EEタンパク質の発現はこの時点でもまだ検出可能である。アクチン発現は全てのサンプルおよび時点にわたって安定しており、同量のタンパク質は各サンプルに対して添加されることを示した。
【0319】
これらの調査は、TRC1-2x.87EEおよびTRC1-2L.1592ヌクレアーゼは、mRNAを電気穿孔後6時間の時点では、高レベルで発現した。ただし、T細胞中でのTRC1-2L.1592の発現は、TRC1-2x.87EEよりも速く低下する。
図11に示されるように、TRC1-2L.1592はTRC1-2x.87EEに比べて遺伝子編集効率が低下していないことを示した。ただし、短時間の間でこれは発現された。遺伝子編集活性の高さを維持しつつ発現の継続時間を減少させることは、TRC1-2L.1592の望ましい特徴であり、これらの特性が増強(すなわち増加)した許容性およびT細胞の高い増殖能力、およびTRC1-2x.87EEと比較してTRC1-2L.1592におけるオフターゲット活性の低さと相関するため、これはTRC1-2x.87EEと比べると、予想されていなかった有利な向上を示した。
【0320】
実施例3
CAR T産生における最適化されたTRC1-2メガヌクレアーゼの評価
【0321】
TRC1-2L.1592メガヌクレアーゼは、大規模プロセス工程に関して更に評価され、スケールでのCAR T細胞の産生が第1世代のTRC1-2x.87EEメガヌクレアーゼに対して向上されるかどうかを決定した。
【0322】
TRC1-2x.87EEを有する同種異系CAR T細胞を生成するために使用される大規模プロセスは、健常で予め定性化されたドナーからのフレッシュなLeukopakを用いて開始した。Leukopak産物を洗浄し、ターゲットT細胞の免疫磁気濃縮を行う前に血小板を取り除いた。濃縮されたT細胞は次いで、洗浄して増殖培養液に入れられ、活性化試薬を用いて活性化された。3日間の活性化期間の後、細胞を洗浄し、電気穿孔緩衝液中で濃縮させた。TRC1-2x.87EEをコードしているmRNAを添加し、細胞とmRNAの混合物を、電気穿孔装置を用いて処理した。電気穿孔された細胞は、CAR挿入遺伝子をコードしているAAVベクターを含有する増殖培養液を用いて希釈された。増殖期間の後、細胞を8日目に収集し、CD3-ポジティブ集団の免疫磁気ディプリーションを行った。ディプリーションの後、ターゲットCD3-ネガティブ細胞を更なる期間、増殖培養液中で増殖させた。最後に、細胞を13日目に収集し、洗浄して凍結保護溶液へと濃縮し、凍結した。TRC1-2L.1592を有する同種異系CAR T細胞を生成するために使用される大規模プロセスを、TRC1-2x.87EEについて記載されたのと本質的には同じように実施した。TRC1-2L.1592実施時の増殖培養液製剤を除いては、動物起源フリー(AOF)であった。
【0323】
生存細胞の総数は、産生プロセス中の重要な時点で決定された(
図18)。細胞数は、
0日目から最大8日目のディプリーション工程まで同じである。ただし、TRC1-2L.1592に関しては著しく高いT細胞受容体ノックアウト効率のため、TRC1-2L.1592プロセス中のディプリーション工程は、TRC1-2x.87EEのプロセス工程時に回収された細胞数の2倍より多く細胞を回収した。8日目と13日目の間の増殖速度は類似しており、これにより13日目の総生存細胞はおよそ2倍以上多くなった。
【0324】
CD3ノックアウト効率(すなわち内因性T細胞受容体のノックアウトの指標)は、8日目の各産生工程にてフローサイトメトリによって決定された(
図19)。驚くべきことに、CD3-ネガティブであり、(総生存細胞の)遺伝子編集された細胞の比率は、TRC1-2x.87EEのプロセス工程時よりもTRC1-2L.1592のプロセス工程時に20%近く高いものであった。
【0325】
最後に、CARノックイン効率は、各産生プロセス中の重要な3時点で、フローサイトメトリによって測定された(
図20)。予想しなかったことだが、CAR-ポジティブである(CD3-ネガティブ細胞の)形質導入細胞の比率は、TRC1-2x.87EEのプロセス工程時よりもTRC1-2L.1592工程時におよそ25%高い。CARノックイン比率は、8日目と13日目のプロセスの最後との間の両方のプロセスに対して安定しており、TRC1-2L.1592のプロセス工程の終局で類似して高い比率のCAR-ポジティブ細胞を生じる。
【0326】
最終的に、これらの調査は驚くべきことに、TRC1-2L.1592ヌクレアーゼがその量および最終同種異系細胞治療産物の量を著しく向上させることを示した。TRC1-2L.1592はより効果的に内因性T細胞受容体をノックアウトし、これによってより多くの遺伝子編集されたCD3-ネガティブ細胞の集団を生じ、全体的な産生プロセスの収量をおよそ2倍に向上させた。加えて、TRC1-2L.1592は、向上したCARノックイン効率によって証明されているように、標的となった二本鎖切断にCAR遺伝子挿入することで、相同組換えのための環境を潜在的に向上させる。CAR-ポジティブ比率が増加することより、ほとんどCAR-ネガティブ細胞を有さない、著しく高い純度の薬物産物がもたらされる。