IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人科学技術振興機構の特許一覧

<>
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図1
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図2
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図3
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図4
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図5
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図6
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図7
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図8
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図9
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図10
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図11
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図12
  • 特開-力覚提示装置及び力覚提示方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139021
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】力覚提示装置及び力覚提示方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
G06F3/01 560
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109993
(22)【出願日】2023-07-04
(62)【分割の表示】P 2021545197の分割
【原出願日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2019163973
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】堀江 新
(72)【発明者】
【氏名】稲見 昌彦
(57)【要約】
【課題】実際に人を動かしたり傾けたりすることなく、人の皮膚に刺激を与えることによって自己運動感覚を発生させる力覚提示装置において、刺激素子間の間隔が離れすぎていると、力覚が空間的に不連続となってしまう。
【解決手段】人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示装置は、複数の刺激素子と、制御部とを備える。複数の刺激素子の各々は、人の皮膚に刺激を与える。制御部は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように複数の刺激素子を制御する。隣接する刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。隣接する刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示装置であって、
複数の刺激素子と、制御部とを備え、
前記複数の刺激素子の各々は、前記人の皮膚に刺激を与え、
前記制御部は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように前記複数の刺激素子を制御し、
隣接する前記刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔であり、
前記力覚は、前記人の自己運動感覚を発生させ
隣接する前記刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔であることを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項3】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、前記人の皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項4】
人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示方法であって、
前記力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を決定するステップと、
当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップと、を備え、
刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔であり、
前記力覚は、前記人の自己運動感覚を発生させ、
隣接する前記刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔であることを特徴とする力覚提示方法。
【請求項5】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であることを特徴とする請求項4に記載の力覚提示方法。
【請求項6】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、前記人の皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であることを特徴とする請求項4に記載の力覚提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の皮膚に刺激を与えることによって力覚を提示する力覚提示装置及び力覚提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティやテレプレゼンスなどでは、使用者に高臨場感を与える必要があるため、力の感覚を提示できることが望ましい。例えばエンターテインメント施設やフライトシミュレータに使われるモーションプラットフォームは、使用者を動かしたり傾けたりすることにより、あたかも自分が運動している、あるいは自分が空間的に変位しているかのような感覚を使用者に与える(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-533534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようにモーションプラットフォームは、実際の運動を再現することにより、前庭感覚及び座面や背面から及ぼされる力覚を実現し、使用者に自分が運動しているような感覚を与える。しかしながら、目的とする運動と同様の運動を再現する必要があることから、再現可能な運動が筐体の機械的特性に大きく依存し、表現できる運動が限られるという問題がある。さらにモーションプラットフォームは大型かつ高価であり、既存の椅子に取り付けられないなどといった課題もある。
【0005】
モーションプラットフォームのように実際に人を動かしたり傾けたりすることなく、例えば使用者の皮膚に刺激を与えることにより、三次元的な運動に伴う運動感覚などの力覚を提示することができれば、上記の課題の解決に大きく貢献できることが期待される。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、人の皮膚に刺激を与えることによって、人に自分が運動しているような感覚を発生させる力覚を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の装置は、人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示装置である。この装置は、複数の刺激素子と、制御部とを備える。複数の刺激素子の各々は、人の皮膚に刺激を与える。制御部は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように複数の刺激素子を制御する。隣接する刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。
【0008】
力覚提示装置は、目的とする力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を記憶する記憶部と、力覚指示部と、をさらに備えてよい。制御部は、力覚指示部から目的とする力覚が指示されたときに、記憶部に記憶された当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように刺激素子を制御してよい。
【0009】
制御部は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を計算して、当該力学的分布を形成する刺激を皮膚に与えるように、刺激素子を制御してもよい。
【0010】
力覚提示装置は、提示された力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を学習する学習部をさらに備えてもよい。
【0011】
刺激素子は、背部又は臀部を含む身体部位に力覚を提示してもよい。
【0012】
刺激素子は、手又は足を含む身体部位に力覚を提示てもよい。このとき制御部は、当該身体部位を動かした際に生じる皮膚の伸びに応じた力学的分布を皮膚に形成するように刺激素子を制御してもよい。
【0013】
力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布であってもよい。
【0014】
制御部は、目的とする力覚が大きければ大きいほど、ひずみエネルギー密度が大きくなるように前記刺激素子を制御してもよい。
【0015】
刺激素子は、回転運動によって皮膚に刺激を与えてもよい。以下、このような刺激素子を「回転刺激素子」と呼ぶこともある。このとき制御部は、刺激素子の回転角度及び回転方向を制御してもよい。
【0016】
制御部は、目的とする力覚が大きければ大きいほど、刺激素子の回転角度が大きくなるように刺激素子を制御してもよい。
【0017】
刺激素子のうち複数の刺激素子からなる組が、刺激素子ユニットにまとめられてもよい。
【0018】
刺激素子ユニットは、2軸のジンバルを備えてもよい。
【0019】
制御部は、刺激を付与するための刺激付与点を人の皮膚上で移動してもよい。そして制御部は、刺激付与点からの距離が小さければ小さいほど、刺激素子の回転角度が大きくなるように刺激素子を制御してもよい。
【0020】
力学的分布は、ひずみの分布であってもよい。このときひずみは、主ひずみ又は相当ひずみであってもよい。
【0021】
力学的分布は、力の分布であってもよい。このとき力は、せん断力又は垂直抗力であってもよい。
【0022】
力学的分布は、応力の分布であってもよい。このとき応力は、圧力、主応力又はミーゼス応力のいずれかであってもよい。
【0023】
隣接する刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であってもよい。
【0024】
力覚提示装置は、力学的変化検知部と、力学的分布計算部と、を備えてよい。力学的変化検知部は、人の運動による人の皮膚の力学的変化を検知する。力学的分布計算部は、力学的変化検知部が検知した人の皮膚の力学的分布の変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算する。制御部は、力学的分布計算部が計算した力学的分布を皮膚に形成するように複数の刺激素子を制御する。
【0025】
複数の刺激素子の各々は、力学的変化検知部を備えてもよい。
【0026】
力学的変化検知部は、刺激素子と独立に備えられたセンサであってよい。
【0027】
力覚提示装置は、人から見た主観映像を撮影するカメラと、人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出する映像同期部と、を備えてもよい。力学的分布計算部は、映像同期部が算出した人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係に基づいて、主観映像が変化したときの人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算してもよい。
【0028】
本発明のさらに別の態様は、人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示方法である。この方法は、力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を決定するステップと、当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップと、を備える。刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。
【0029】
力覚提示方法における力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布であってよい。
【0030】
力覚提示方法は、人の運動による人の皮膚の力学的変化を検知するステップと、検知した人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算するステップと、計算した力学的分布を人の皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップと、を備えてもよい。
【0031】
前述の力覚提示方法は、人から見た主観映像を撮影するステップと、人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出するステップと、を備えてもよい。このとき力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算するステップは、算出した人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係に基づいて、主観映像が変化したときの人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算してもよい。
【0032】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、人の皮膚に刺激を与えることによって、人に自分が運動しているような感覚を発生させる力覚を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図2】第2実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図3】第4実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図4】第5実施の形態に係る力覚提示装置の模式図である。
図5】第7実施の形態に係る力覚提示装置の写真である。
図6】刺激素子ユニットの写真である。
図7】第10実施の形態に係る力覚提示方法のフロー図である。
図8】第11実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図9】第12実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図10】第13実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図11】第14実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図12】第15実施の形態に係る力覚提示方法のフロー図である。
図13】第16実施の形態に係る力覚提示方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態及び変形例では、同一又は同等の構成要素、ステップ、部材には同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示す。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要でない部材の一部は省略して表示する。また、第1、第2などの序数を含む用語が多様な構成要素を説明するために用いられるが、こうした用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0036】
具体的な実施の形態を説明する前に、基礎となる知見を説明する。本発明者は、研究の結果、人の臀部の皮膚にせん断変形(皮膚の方向に沿った変形)を加えることにより、乗り物に乗ったときに誘発される加速感覚や、起伏を乗り越えた際の上下方向の運動感覚を再現できることを見出した。
【0037】
例えば自動車のシートに腰掛けた状態で、加速又は減速したりステアリングを切ったりすると、運転者の臀部の一部は、前後や左右の方向にせん断変形する。本発明者はこの現象に着目し、シートに前後及び左右に運動する接触子を設けて、被験者の臀部にせん断変形を与えるだけで、被験者の前後及び左右方向の加速感覚を誘発して再現できることを見出した。
【0038】
また、自動車に乗って段差や起伏を乗り越えると、身体が上下方向に運動して変位する。こうした上下運動の感覚も、皮膚のせん断変形により再現できることが分かった。例えば臀部がシートの座面から鉛直方向に運動すると、坐骨付近に分布していた圧力分布のピークは、尾てい骨の方向に変位する。本発明者はこの現象に着目し、圧力分布のピーク位置の変位を臀部の皮膚のせん断変形によって提示するだけで、座面からの突き上げに伴う感覚の誘発が可能となることを見出した。さらに本発明者は、起伏を乗り越えた際に生じる進行方向へのせん断力を臀部に提示するだけで、起伏を乗り越えたという感覚を誘発して再現できることをも見出した。
【0039】
このような感覚が誘発される理由を発明者は次のように考えている。先ず、こうしたせん断力が皮膚に与えられると、皮膚には、単位体積あたりの力学的量の分布、例えばひずみエネルギーの分布(以下、「ひずみエネルギー密度分布」という)が形成される。すなわち、人がシートなどに接触した状態で運動すると、皮膚の各箇所にひずみが発生する。このひずみのエネルギー密度の時間的及び空間的な分布は、当該運動の種類、大きさ、方向などの特性を反映したものであると考えられる。力覚を司っている皮膚内部の機械受容器は、このひずみエネルギー密度分布によってニューロン発火の頻度が決定される。従って、人の皮膚に刺激を与えることによって、様々な運動に対応するひずみエネルギー密度分布を皮膚に形成すれば、実際にその人を動かさなくても、その人に自分がそのような運動をしているという感覚を誘発できると考えられる。
【0040】
刺激を与える皮膚の部位は、臀部に限られず、背部、腹部、頭部、腕、手首あるいは足など、目的とする運動に対応するひずみエネルギー密度分布が形成されるための部位であれば、いずれであってもよい。また、目的とする運動に対応する力学的量の分布(以下、「力学的分布」と呼ぶ)は、ひずみエネルギー密度分布に限られず、ひずみ(例えば、主ひずみや相当ひずみなど)の分布、力(例えば、せん断力や垂直抗力など)の分布、応力(すなわち、単位面積あたりの力。例えば、圧力、主応力、ミーゼス応力など)の分布なども含む。
【0041】
以下本明細書では、人が、あたかも自分が運動している、あるいは自分が空間的に変位しているかのように感じる感覚を「自己運動感覚」と呼ぶ。この自己運動感覚は、例えば乗り物に乗っているときのような、実際に自分が運動しているときに感じる運動感覚に限られない。例えば皮膚に接触した物体が運動しているときは、自分がその物体に対して相対運動しているように感じる。このような感覚、すなわち実際には自分が運動していないときに感じる運動感覚も、自己運動感覚に含まれるものとする。
本明細書において、「力覚を提示する」とは、人が感じる力の感覚について、当該力の大きさと方向を提示することをいう。
【0042】
[第1実施の形態]
図1に、第1実施の形態に係る力覚提示装置1の機能ブロックを示す。力覚提示装置1は、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置1は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、制御部20と、を備える(nは2以上の整数)。
【0043】
刺激素子11、12、…、1nの各々は、人の皮膚Sに刺激を与える。刺激素子11、12、…、1nが皮膚Sに刺激を与える方法は、回転運動、せん断方向への引っ張り、圧迫、吸引などの力学的方法であってよい。刺激素子11、12、…、1nは、各々が単体で力覚を提示できるものであってもよい。あるいは、複数の刺激が共同して所定の力学的分布を形成することによって初めて力覚を提示できるものであってもよい。
【0044】
制御部20は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚Sに形成するように刺激素子11、12、…、1nを制御する。制御部20は、既知のコンピュータのハードウェア及びソフトウェアを用いて構成されてよい。制御部20が刺激素子11、12、…、1nを制御する方法は、制御部20の内部に記憶されたデータベース等に基づくものであってもよく、外部からの入力に基づくものであってもよく、あるいは機械学習などの学習に基づくものであってもよい。
【0045】
隣接する刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔である。刺激素子間の間隔が離れすぎていると、力覚が空間的に不連続となってしまう。この場合、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成することができない。隣接する刺激素子間の間隔は、例えば、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であってよい。あるいは、隣接する刺激素子間の間隔は、当該皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であってもよい。
【0046】
力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。すなわち、力覚提示装置1によって提示される力覚によって、人は、あたかも自分が運動している、あるいは自分が空間的に変位しているかのような感覚を覚える。前述のようにこの感覚は、実際に自分が運動しているときに感じる運動感覚であってもよいし、実際には自分が運動していないときに感じる運動感覚であってもよい。
【0047】
本実施の形態によれば、人の皮膚に刺激を与えることによって、人に自分が運動しているような感覚を発生させる力覚を提示する装置を実現することができる。
【0048】
[第2実施の形態]
図2に、第2実施の形態に係る力覚提示装置2の機能ブロックを示す。力覚提示装置2も、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置2は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、制御部20と、記憶部30と、力覚指示部40と、を備える(nは2以上の整数)。すなわち、力覚提示装置2は、図1の力覚提示装置1の構成に加えて、記憶部30と、力覚指示部40と、を備える。
【0049】
刺激素子11、12、…、1nの構成と動作は、力覚提示装置1のものと共通であるので、説明を省略する。記憶部30は、目的とする力覚を発生させる力学的分布及び当該力学的分布を形成するための各刺激素子の制御方法を記憶する。例えば記憶部30は、目的とする力覚を発生させるためには、どのような力学的量が、時間的及び空間的に皮膚Sにどのように分布していればよいかを、データベースとして記憶する。なお、例えばひずみエネルギー密度分布のような力学的分布の場合、これを直接測定する装置は知られていないが、以下のようにシミュレーションを用いて計算することができる。シミュレーションは、例えば人体の有限要素モデルに基づく有限要素解析が有効である。シミュレーションでは、提示したい力覚を引き起こす物理的状況を入力とする。例えば自動車を運転中の自己運動感覚を誘発したい場合は、当該自動車の加速度を入力とする。このとき、予め定められたパラメータとして、人の体重や皮膚の弾性を定義しておくことによって、自動車の加速度に応じた皮膚の変形を解くことができる。これにより、ひずみエネルギー密度分布を計算するためのモデルを得ることができる。得られたモデルの妥当性は、例えば以下のようにして検証することができる。すなわち、試験者が、例えば市販の加速度センサと面圧分布測定シートとを搭載した自動車を運転しながら、自らの臀部や背部の面圧を測定する。この測定結果を、モデルから計算された面圧と比較すれば、モデルがどの程度妥当であるかを検証できる。比較の結果、実測値とモデルからの計算値の差が大きかった場合は、改めてシミュレーションを行い、モデルを改良することもできる。
【0050】
力覚指示部40は、目的とする力覚を発生させることを制御部20に指示する。制御部20は、力覚指示部40から目的とする力覚が指示されたときに、記憶部30に記憶された当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚Sに形成するように刺激素子11、12、…、1nを制御する。
【0051】
本実施の形態によれば、目的とする力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を記憶部30に記憶させておくことにより、所望のタイミングで所望の力覚を提示することができる。
【0052】
[第3実施の形態]
図1において、制御部20は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を計算して、当該力学的分布を形成する刺激を皮膚Sに与えるように刺激素子11、12、…、1nを制御してもよい。人の背中にローラーを転がした力覚を提示する場合のように、力学的分布を比較的単純なモデルによって計算できる場合には、わざわざ第2実施の形態のように、力学的分布を人体の有限要素モデルに基づく有限要素解析によって計算して記憶させておく必要はなくなり、ハードウェア資源の節約になる。
【0053】
本実施の形態によれば、目的とする力覚を発生させる力学的分布を計算することにより、所望の力覚を提示することができる。
【0054】
[第4実施の形態]
図3に第4実施の形態に係る力覚提示装置3の機能ブロックを示す。力覚提示装置3もまた、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置3は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、制御部20と、記憶部30と、力覚指示部40と、学習部50と、を備える(nは2以上の整数)。すなわち、力覚提示装置2は、図2の力覚提示装置2の構成に加えて、学習部50を備える。刺激素子11、12、…、1n、制御部20及び力覚指示部40の構成と動作は、力覚提示装置2のものと共通であるので、説明を省略する。
【0055】
学習部50は、人に提示された力覚と当該力覚を発生させた力学的分布との関係を学習する。提示された力覚とは人に与えられた力の大きさと方向のことであり、力学的分布は実施の形態2に記載したように有限要素解析などのシミュレーションで推定する。学習は、既知のAIにより行われてよい。AIの具体的な手法は特に限定されないが、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)、再帰形ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network:RNN)、LSTMネットワーク(Long Short Term Memory:LSTM)などのニューラルネットワークを用いてもよく、この場合入力層を共通にした上で計算モデルごとに異なるニューラルネットワークを混在させてもよい。本実施の形態では、提示された力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との組を大量に用意し、これらを学習データとしてAIに学習させる。これによりAIは、所望の力覚を入力したときに、当該力覚を発生させる力学的分布を計算して出力することができる。
【0056】
記憶部30は、学習部50の学習結果を記憶する。制御部20は、力覚指示部40から目的とする力覚が指示されたときに、記憶部30に記憶された学習結果に基づいて、当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚Sに形成するように刺激素子11、12、…、1nを制御する。
【0057】
[第5実施の形態]
図4に、第5実施の形態に係る力覚提示装置4の模式図を示す。本実施の形態では、刺激素子11、12、…、1nは、背部又は臀部を含む身体部位に力覚を提示する。本発明者は、人の特に背部や臀部に力学的分布を形成することによって、より自由度の高い、解像度に優れた力覚を、身体の大面積で実現できることを見出した。従って、背部又は臀部を含む身体部位に力覚を提示すれば、より複雑な運動に対応した自己運動感覚を誘発できると考えられる。さらに本実施の形態は、刺激素子11、12、…、1nを既存の椅子などに取り付けることによって実現できる。これは、サイズやコストの面で大きなメリットとなる。
【0058】
本実施の形態によれば、複雑な運動に対応した自己運動感覚を低コストで提示することができる。
【0059】
[第6実施の形態]
力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布であってよい。本発明者は、様々な力学的分布の中でも、特にひずみエネルギー密度分布を形成することにより、自己運動感覚を誘発できることを見出した。近年の研究によれば、人の皮膚内に存在する機械受容器のニューロン発火の頻度には、ひずみエネルギー密度に比例するものがあることが確認されている。例えば、人が「強い力を受けた」と感じるのは、機械受容器のニューロン発火が高い頻度で発生しているときに相当する。従って、感覚をコントロールするためには、ニューロン発火の頻度をコントロールすることが重要であると考えられる。このように考えると、自己運動感覚の誘発する場合も、ひずみエネルギー密度分布の形成が特に重要であることが分かる。
【0060】
さらに、制御部20は、目的とする力覚が大きければ大きいほど、ひずみエネルギー密度が大きくなるように刺激素子11、12、…、1nを制御してもよい。本発明者は、目的とする力覚の大きさと、ひずみエネルギー密度とは正の相関を持つことが多いことを見出した。従って、目的とする力覚が大きければ大きいほど、ひずみエネルギー密度が大きくなるように刺激素子11、12、…、1nを制御することにより、自己運動感覚を誘発できると考えられる。
【0061】
[第7実施の形態]
刺激素子11、12、…、1nは、回転運動によって皮膚に刺激を与えてよい。このとき制御部20は、刺激素子11、12、…、1nの回転角度及び回転方向を制御してもよい。
【0062】
特に図4のように背部や臀部の広い範囲にわたって力覚を提示する装置の場合、皮膚に与える刺激は、吸引、電気刺激、温度刺激、圧迫、又は皮膚のせん断方向に沿った並進運動などによるものではなく、回転運動によるものであることが望ましい。その理由は以下の通りである。1つには、図4のような形態では、刺激は衣服を介して皮膚に与えられることが前提となる。この場合、例えば吸引、電気刺激又は温度刺激などによる刺激は直接適用することができない。2つには、圧迫による刺激は、椅子にかけた使用者の姿勢をずらす原因となるので、適切な力学的分布を皮膚に形成することの妨げとなる。さらに3つには、皮膚のせん断方向に沿った並進運動による刺激を与えようとした場合、動力源となるモータの回転運動を並進運動に変換する必要がある。このため機構が複雑となり、図4のような刺激素子を密に並べた形態には適用が難しいという問題が発生する。この点、回転運動による刺激付与は、上記のような問題を伴うことなく、実施の形態に適用することができる。
【0063】
本発明者は、刺激素子11、12、…、1nの回転角度及び回転方向を適切に制御することにより、自己運動感覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成できることを実験的に確かめた。この場合、回転角度だけでなく、当該回転角度に到達するまでの時間を制御のパラメータに含めてもよい。
【0064】
なお本実施の形態では、回転運動による刺激は、捻りそのものの方向を力覚として提示することが目的ではなく、刺激点付近のひずみエネルギー密度を励起させることが目的である点に注意する。実際に実験を行うと、刺激素子単体の回転方向が知覚されることはなく、複数の刺激素子が共同して所定のひずみエネルギー密度分布を形成することによって初めて力覚を提示することができる。
【0065】
本実施の形態によれば、例えば乗り物に乗っているときのような、実際に自分が運動しているときに感じる運動感覚を発生させることもできる一方、例えば背中に密着した物体に対して自分が相対運動しているように感じる感覚、すなわち実際には自分が運動していないときに感じる運動感覚を発生させることもできる。
【0066】
制御部20は、目的とする力覚が大きければ大きいほど、刺激素子11、12、…、1nの回転角度が大きくなるように刺激素子11、12、…、1nを制御してもよい。本発明者は、目的とする力覚の大きさと、ひずみエネルギー密度とは正の相関を持つことが多いことを見出した。さらにひずみエネルギー密度と、刺激素子11、12、…、1nの回転角度ともまた正の相関を持つことも分かる。従って、目的とする力覚が大きければ大きいほど、刺激素子11、12、…、1nの回転角度が大きくなるように刺激素子11、12、…、1nを制御することにより、自己運動感覚を誘発することができる。
【0067】
図5に、第7実施の形態に係る力覚提示装置5を写真で示す。刺激素子11、12、…、1nは、計24個の刺激素子から構成される。すなわちn=24である。これらの刺激素子うち4つの刺激素子からなる組が、1つの刺激素子ユニットにまとめられる。刺激素子ユニットは正方形であり、刺激素子ユニットの四隅に、それぞれ刺激素子が配置される。図5には、刺激素子11、12、13及び14が刺激素子ユニット60にまとめられた状態が示されている。6個の刺激素子ユニットが、椅子70の背もたれ80に、横2個、縦3個でアレイ状に配置される。すなわち刺激素子11、12、…、124は、椅子70の背もたれ80に、横4個、縦6個でアレイ状に配置される。隣接する刺激素子間の間隔は、55mmである。これは、人の背部における2点弁別閾が約40mmであるのに対し、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔が約55mmであることが実験的に検証されたことによる。椅子70の背もたれ80は平面ではなく、緩やかな曲面を描くため、背もたれ80の左右の刺激素子が中央に向かって傾斜するようマウントが調整されている。
【0068】
刺激素子11、12、…、124の各々は、直径20mm、厚さ5mmの円盤状である。刺激素子11、12、…、124は、硬すぎると体に馴染まず、刺激素子11、12、…、124のエッジが接触することによる痛みや、刺激素子11、12、…、124と衣服との間の滑りが生じやすくなる。逆に刺激素子11、12、…、124が柔らかすぎると、回転力を伝えにくくなる。これらの特徴を考慮し、刺激素子11、12、…、124の素材として、適切なクロロプレンゴムスポンジが使用されている。
【0069】
刺激素子11、12、…、124を回転させるためのアクチュエータには、小型のサーボモーターが使用される。このサーボモーターの出力可能な最大のトルクは0.2N・mであるが、これは背部の皮膚を変形させるのに十分である。刺激素子11、12、…、124は、回転角度30度、回転速度60度/秒で回転するように制御される。
【0070】
ある実施の形態では、前述の刺激素子ユニットは2軸のジンバルを備えてよい。図6に、互いに直行するx軸およびy軸の2軸のジンバルを備える刺激素子ユニット61を写真で示す。図示されるように、刺激素子ユニット61は、x軸およびy軸の周りに独立して自由に回転することができる。
【0071】
本実施の形態によれば、刺激素子ユニット61が身体の凹凸に沿って回転することができるので、身体表面へのフィットが改善され、回転刺激の伝達効率を向上することができる。
【0072】
[第8実施の形態]
力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布の他、以下のようなものであってもよい。例えば、力学的分布はひずみの分布であり、このひずみは主ひずみ又は相当ひずみであってもよい。あるいは、力学的分布は力の分布であり、この力はせん断力又は垂直抗力であってもよい。さらに、力学的分布は応力の分布であり、この応力は、圧力、主応力又はミーゼス応力のいずれかであってもよい。
【0073】
[第9実施の形態]
図1~3において、隣接する刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であってよい。本発明者は、隣接する刺激素子間の間隔をこのように設けることによって、空間的に連続な力覚をより確実に提示できることを見出した。
【0074】
[第10実施の形態]
図7に第10実施の形態に係る力覚提示方法のフローを示す。この力覚提示方法は、提示する力覚と力学的分布との関係を決定するステップS1と、皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップとS2と、を備える。刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。
【0075】
ステップS1で、本力覚提示方法は、提示する力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を決定する。提示する力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係の決定は、記憶手段等に記憶されたデータベース等に基づくものであってもよく、外部からの入力に基づくものであってもよく、あるいは機械学習などの学習に基づくものであってもよい。
【0076】
ステップS2で、本力覚提示方法は、当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与える。刺激を与える方法は、回転運動、せん断方向への引っ張り、圧迫、吸引などの運動学的方法であってよい。刺激は、各々が単体で力覚を提示することができるものによって与えられてもよい。あるいは、複数が共同して所定の力学的分布を形成することによって初めて力覚を提示することができるものによって与えられてもよい。
【0077】
刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、例えば、当該隣接する箇所に提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であってよい。あるいは、刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、当該皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であってもよい。
【0078】
力覚が発生させる自己運動感覚は、実際に自分が運動しているときに感じる運動感覚であってもよいし、実際には自分が運動していないときに感じる運動感覚であってもよい。
【0079】
力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布であってもよい。
【0080】
本実施の形態によれば、人の皮膚に刺激を与えることによって、人に自分が運動しているような感覚を発生させる力覚を提示することができる。
【0081】
[第11実施の形態]
図8に第11実施の形態に係る力覚提示装置6の機能ブロックを示す。力覚提示装置6は、人の運動による皮膚Sの力学的分布を計測するとともに、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置6は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、n個の力学的変化検知部11s、12s、…、1nsと、制御部20と、力学的分布計算部90と、を備える(nは2以上の整数)。すなわち力覚提示装置6は、図1の力覚提示装置1の構成に追加して、n個の力学的変化検知部11s、12s、…、1nsを備える。力学的変化検知部11s、12s、…、1ns以外の構成で、力覚提示装置1と共通するものについては、詳しい説明を省略する。
【0082】
力学的変化検知部11s、12s、…、1nsの各々は、人の運動による当該人の皮膚Sの力学的変化を検知し、検知結果を力学的分布計算部90に送信する。
【0083】
力学的分布計算部90は、力学的変化検知部11s、12s、…、1nsが検知した前記人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算し、計算結果を制御部に送信する。この力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布、ひずみの分布、力の分布または応力の分布などであってよい。
【0084】
制御部20は、力学的分布計算部90から受信した皮膚の力学的分布を刺激素子毎に再現する。あるいは制御部20は、力学的分布計算部90が計算した力学的分布を皮膚に形成するように刺激素子11、12、…、1nを制御する。隣接する刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させるものである。
【0085】
力覚提示装置6の具体的な使用例は、例えば以下の通りである。力覚提示装置6は、刺激素子を背もたれや座布団に備えた形態で構成する。使用者は、力覚提示装置6をドライブや遊園地などに持参する。使用者は、力覚提示装置6を自動車や遊具の座席にセットし、映像を撮影しながら自らの背中や臀部の力学的分布を計算する。使用者は帰宅後に、映像とともに力覚提示装置6から力覚を提示されることにより、高い臨場感で体験を追想することができる。
【0086】
刺激素子が回転運動によって皮膚に刺激を与える場合、回転させたときの回転角と、そのときの電流値を計測することで、皮膚の力学的変化と力との関係が得られるので、例えば皮膚の硬さなども計測できる。さらにこれらの刺激素子を並べることにより、例えば皮膚の弾性の分布を計測することもできる。あるいは、刺激素子接触子が皮膚の面に対して垂直に圧力及ぼすものであれば、そのときの電流値を計測することで、圧力や皮膚の弾性の分布を得ることができる。
【0087】
本実施の形態によれば、力学的変化検知部により実際の人の運動による皮膚の力学的変化を検知した後、この力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算する。これにより、当該実際の運動の感覚を再現する力覚を与えることができる。
【0088】
[第12実施の形態]
図9に第12実施の形態に係る力覚提示装置6の機能ブロックを示す。力覚提示装置7は、人の運動による皮膚Sの力学的分布を計測するとともに、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置7は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、制御部20と、力学的分布計算部90と、を備える(nは2以上の整数)。力覚提示装置7の刺激素子11、12、…、1nは、前述の力学的変化検知部を備える。以下に示す通り、本実施の形態の刺激素子は、皮膚Sに対する刺激付与手段として機能するとともに、人の実際の運動に伴う皮膚Sの力学的変化を検知する検知手段(センサ)としても機能する。
【0089】
この実施の形態では、刺激素子11、12、…、1nの各々は、力学的変化検知部を備えている。すなわち刺激素子11、12、…、1nは、人の運動による当該人の皮膚Sの力学的変化を検知するとともに、当該人の皮膚に刺激を与える。換言すれば、刺激素子は力学的変化検知部を兼ねている。従って刺激素子11、12、…、1nは、前述の実施の形態のように皮膚Sに対する刺激付与手段として機能するとともに、人の実際の運動に伴う皮膚Sの力学的変化を検知する検知手段(センサ)としても機能する。刺激素子11、12、…、1nが検知する皮膚Sの力学的変化は、刺激素子11、12、…、1nが皮膚Sに刺激を与える方法に依存する。例えば、刺激素子11、12、…、1nが回転運動によって皮膚Sに刺激を与える場合は、刺激素子11、12、…、1nは、人の運動に伴う皮膚Sの力学的変化として、皮膚Sの回転を検知する。あるいは、刺激素子11、12、…、1nがせん断方向への引っ張りによって皮膚Sに刺激を与える場合は、刺激素子11、12、…、1nは、人の運動に伴う皮膚Sの力学的変化として、皮膚Sのせん断方向への伸び又は縮みを検知する。あるいは、刺激素子11、12、…、1nが圧迫又は吸引によって皮膚Sに刺激を与える場合は、刺激素子11、12、…、1nは、人の運動に伴う皮膚Sの力学的変化として、皮膚Sが圧迫又は吸引されることに起因する皮膚Sのゆがみを検知し、制御部20はこれを記憶する。
【0090】
刺激素子11、12、…、1nが、人の運動による皮膚Sの力学的変化を検知する原理は以下の通りである。前述の実施の形態に係る力覚提示装置の刺激素子11、12、…、1nが、ある自己運動感覚を誘発する力学的分布を形成する刺激を、皮膚Sに与えたとする。このとき、この力覚提示装置を身に着けた使用者が実際にその運動を行った場合、刺激素子11、12、…、1nの各々は、皮膚Sに与えるべき刺激と逆向きの作用を受ける、あるいは当該逆向きの作用に起因する逆起電力を発生すると考えられる。こうした逆向きの作用や逆起電力を測定することにより、刺激素子11、12、…、1nは、人の実際の運動による皮膚Sの力学的変化をすることができる。
【0091】
本実施の形態によれば、刺激素子が力学的変化検知部を兼ねているので、少ない部品数で、コンパクトかつ安価に力覚提示装置を実現することができる。
【0092】
[第13実施の形態]
図10に第13実施の形態に係る力覚提示装置8の機能ブロックを示す。力覚提示装置8もまた、人の運動による皮膚Sの力学的分布を計測するとともに、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置7は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、n個のセンサ11ss、12ss、…、1nssと、制御部20と、力学的分布計算部90と、を備える(nは2以上の整数)。
【0093】
センサ11ss、12ss、…、1nssの各々は、人の運動による当該人の皮膚Sの力学的変化を検知し、検知結果を力学的分布計算部90に送信する。
【0094】
センサ11ss、12ss、…、1nssは、例えば速度センサ、加速度センサまたは圧力センサなど、人の運動による皮膚の力学的変化を検知できる任意の好適なセンサであってよい。図9の力覚提示装置7では、刺激素子が力学的変化検知部を兼ねていた。これに対し力覚提示装置8の力学的変化検知部は、刺激素子ユニットと独立に設けられたセンサによって実現される。
【0095】
本実施の形態によれば、任意の好適なセンサを用いて皮膚の力学的変化を検知できるので、より精度の高い高性能の力覚提示装置を実現することができる。
【0096】
[第14実施の形態]
図11に第14実施の形態に係る力覚提示装置9の機能ブロックを示す。力覚提示装置9もまた、人の運動による皮膚Sの力学的分布を計測するとともに、人の皮膚Sに力学的分布を形成することによって力覚を提示する。力覚提示装置8は、n個の刺激素子11、12、…、1nと、n個の力学的変化検知部11s、12s、…、1nsと、制御部20と、力学的分布計算部90と、カメラ100と、映像同期部110と、を備える(nは2以上の整数)。すなわち力覚提示装置9は、図8の力覚提示装置6の構成に追加して、カメラ100と、映像同期部110と、を備える。カメラ100および映像同期部110以外の構成で、力覚提示装置6と共通するものについては、詳しい説明を省略する。
【0097】
力学的変化検知部11s、12s、…、1nsは、人の運動に伴う皮膚Sの力学的変化を検知し、検知結果を映像同期部110に送信する。カメラ100は、カメラを操作する人から見た主観映像、すなわち当該人の視点で撮影された映像を撮影し、その映像を映像同期部110に送信する。映像同期部110は、人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出する。すなわち映像同期部110によって、主観映像がある変化をしたとき、それに伴って人の皮膚がどのような力学的変化をするのかが算出される。例えば、主観映像内の周りの景色に対して自分が加速度運動したとき皮膚がどのような力学的変化をするか、主観映像内の周りの景色に対して自分が傾いたとき皮膚がどのような力学的変化をするか、といった具合である。映像同期部110は、算出した人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を力学的分布計算部90に送信する。
【0098】
力学的分布計算部90は、映像同期部110が算出した人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係に基づいて、主観映像が変化したときの人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算する。これにより力覚提示装置7は、カメラを操作する人の視点から見た映像が変化したときに当該人が感じる自己運動感覚を発生させる力覚を提示する。
【0099】
本実施の形態によれば、映像と同期したよりリアルな自己運動感覚を提示することができる。
【0100】
[第15実施の形態]
図12に第15実施の形態に係る力覚提示方法のフローを示す。この力覚提示方法は、人の運動による皮膚の力学的変化を検知するステップS3と、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算ステップとS4と、皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップS5と、を備える。刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔である。力覚は、人の自己運動感覚を発生させる。
【0101】
ステップS3で本力覚提示方法は、センサ等を用いて、人の運動による前記人の皮膚の力学的変化を検知する。運動による皮膚の力学的変化は、皮膚の回転、皮膚のせん断方向への伸び又は縮み、圧迫又は吸引されることによる皮膚のゆがみなどであってよい。
【0102】
ステップS4で本力覚提示方法は、ステップS3で検知した人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算する。
【0103】
ステップS5で本力覚提示方法は、ステップ3で検知した力学的変化を再現する。あるいはステップS5で本力覚提示方法は、ステップS4で計算した力学的分布を皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与える。
【0104】
本実施の形態によれば、実際の人の運動による皮膚の力学的変化を検知し、この力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算することができる。これにより、当該実際の運動の感覚を再現する力覚を与えることができる。
【0105】
[第16実施の形態]
図13に第16実施の形態に係る力覚提示方法のフローを示す。この力覚提示方法は、人の運動による皮膚の力学的変化を検知するステップS3と、主観映像を撮影するステップS6と、皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出するステップS7と、力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算ステップとS4と、皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップS5と、を備える。すなわちこの方法は、図12の方法に追加して、ステップS6と、ステップS7と、を備える。ステップS6およびステップS7以外の処理で、図12の方法と共通するものについては、詳しい説明を省略する。
【0106】
ステップS3で本力覚提示方法は、センサ等を用いて、人の運動による前記人の皮膚の力学的変化を検知する。
【0107】
ステップS6で本力覚提示方法は、カメラ等を用いて、当該カメラを操作する人から見た主観映像、すなわち当該人の視点で撮影された映像を撮影する。
【0108】
ステップS7で本力覚提示方法は、当該カメラを撮影した人の皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出する。すなわちステップS7の処理によって、主観映像がある変化をしたとき、それに伴って人の皮膚がどのような力学的変化をするのかが算出される。例えば、主観映像内の周りの景色に対して自分が加速度運動したとき皮膚がどのような力学的変化をするか、主観映像内の周りの景色に対して自分が傾いたとき皮膚がどのような力学的変化をするか、といった具合である。
【0109】
ステップS4で本力覚提示方法は、算出した前記人の皮膚の力学的変化と前記主観映像の変化との関係に基づいて、前記主観映像が変化したときの前記人の皮膚の力学的変化から、当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算する。
【0110】
ステップS5で本力覚提示方法は、ステップS4で計算した力学的分布を前記人の皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与える。
【0111】
本実施の形態によれば、映像と同期したよりリアルな自己運動感覚を提示することができる。
【0112】
[第17実施の形態]
前述の実施の形態では、刺激素子は、背中や臀部など比較的動きの少ない身体部位に刺激を与えるものの例を示した。しかしこれに限られず、刺激素子は、手や足など動きの大きい身体部位に刺激を与えてもよい。このとき制御部は、当該身体部位を動かした際に生じる皮膚の伸びに応じた力学的分布を皮膚に形成するように刺激素子を制御してもよい。
【0113】
本実施の形態によれば、例えば椅子に着座して静止しているユーザに対し、あたかも自分の手足を動かしているかのような自己運動感覚を与えることができる。
【0114】
[第18実施の形態]
刺激素子は、当該刺激素子を装着した人に対して、例えば触れられる、なぞられる、掴まれる、小動物が身体上を駆け回るといった動きを伴う、あるいは空間的な流れを伴う感覚を与えてもよい。このとき刺激素子ユニット内の回転刺激素子は、以下のように制御される。すなわち、先ず刺激素子を装着した人に刺激を付与するための刺激付与点が与えられ、この刺激付与点が当該人の皮膚上で移動させられる。そして各刺激素子は、刺激付与点に近いものほど回転角度が大きくなるように、刺激付与点から遠いものほど回転角度が小さくなるように制御される。具体的には制御部は、刺激を付与するための刺激付与点を人の皮膚上で移動し、当該刺激付与点からの距離が小さければ小さいほど、刺激素子の回転角度が大きくなるように刺激素子を制御する。このような制御を行うことにより、あたかも刺激付与点が滑らかに動いた、あるいは流れたかのような運動感覚をユーザに与えることができる。刺激付与点と刺激素子との距離と、当該刺激素子の回転角度との関係を適切に定義することにより、触れられる、なぞられる、掴まれる、小動物が身体上を駆け回るといった所望の空間的な流れを伴う感覚を人に与えることができる。
【0115】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形及び変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例及び変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述及び図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0116】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面及び説明では、実施の形態と同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施の形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施の形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0117】
実施の形態では、刺激素子ユニットは、横方向に2個、縦方向に2個の刺激素子を備えた正方形状のものを例示した。しかしこれに限られず、例えば、刺激素子ユニットは、横方向に3個、縦方向に3個の刺激素子を備えるものや、横方向に4個、縦方向に4個の刺激素子を備えるものであってもよい。あるいは刺激素子ユニットは、横方向に2個、縦方向に3個の刺激素子を備える長方形状のものであってもよい。本変形によれば、構成の自由度を高めることができる。
【0118】
実施の形態では、力覚提示装置を単体で使用する例を示した。しかしこれに限られず、複数の力覚提示装置を、身体の異なる箇所に組み合わせて使用してもよい。また、画像が表示されるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)等を、力覚提示装置と組み合わせて使用してもよい。これにより、より臨場感の高い自己運動感覚を与えることができる。
【0119】
これらの各変形例は実施の形態と同様の作用、効果を奏する。
【0120】
上述した各実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる各実施の形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、人の皮膚に刺激を与えることによって力覚を提示する力覚提示装置及び力覚提示方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1・・力覚提示装置
2・・力覚提示装置
3・・力覚提示装置
4・・力覚提示装置
5・・力覚提示装置
6・・力覚提示装置
7・・力覚提示装置
8・・力覚提示装置
9・・力覚提示装置
11・・刺激素子
12・・刺激素子
13・・刺激素子
14・・刺激素子
1n・・刺激素子
20・・制御部
30・・記憶部
40・・力覚指示部
50・・学習部
60・・刺激素子ユニット
61・・刺激素子ユニット
70・・椅子
80・・背もたれ
90・・力学的分布計算部
100・・カメラ
110・・映像同期部
S・・皮膚
S1・・力覚と力学的分布との関係を決定するステップ
S2・・皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップ
S3・・人の運動による皮膚の力学的変化を検知するステップ
S4・・当該力学的変化を発生させる皮膚の力学的分布を計算するステップ
S5・・皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップ
S6・・主観映像を撮影するステップ
S7・・皮膚の力学的変化と主観映像の変化との関係を算出するステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示装置であって、
複数の刺激素子と、制御部とを備え、
前記複数の刺激素子の各々は、前記人の皮膚に刺激を与え、
前記制御部は、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように前記複数の刺激素子を制御し、
前記力覚は、前記人の自己運動感覚を発生させ
隣接する前記刺激素子間の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔であることを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項3】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、前記人の皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項4】
人の皮膚に力学的分布を形成することによって力覚を提示する力覚提示方法であって、
前記力覚と当該力覚を発生させる力学的分布との関係を決定するステップと、
当該力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように皮膚の複数の箇所に刺激を与えるステップと、を備え、
前記力覚は、前記人の自己運動感覚を発生させ、
刺激を与えられる皮膚の隣接する箇所間の間隔は、空間的に連続な力覚を生成可能な間隔であることを特徴とする力覚提示方法。
【請求項5】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であることを特徴とする請求項4に記載の力覚提示方法。
【請求項6】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、前記人の皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であることを特徴とする請求項4に記載の力覚提示方法。