(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013905
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】二次電池用負極材
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230119BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230119BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230119BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/36 E
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181683
(22)【出願日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0092852
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】521376723
【氏名又は名称】テラ テクノス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, ジェ ウ
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジン ジー
(72)【発明者】
【氏名】チェ, スン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ジュン フン
(72)【発明者】
【氏名】キム, スン ス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ, シチョン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050FA20
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA15
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、二次電池用負極材に関する。
【解決手段】本発明による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A
1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A
2)との比(A
1/A
2)が0.8~6であり、下記式1を満たす。
(式1)
1<WN(Si)/WN(ref)
式1中、WN(ref)は、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、
CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であり、
下記式1を満たす、二次電池用負極材。
(式1)
1<WN(Si)/WN(ref)
(式1中、WN(ref)は、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。)
【請求項2】
前記X線回折パターンで前記第1ピークのFWHM(L1)と第2ピークのFWHM(L2)との比(L1/L2)が6~15である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項3】
前記第1ピークの最大強度(I1)と第2ピークの最大強度(I2)との強度比(I1/I2)は0.05~1.25である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項4】
前記第1ピークは、非晶質シリコン酸化物から由来したものであり、前記第2ピークは、結晶質シリコンから由来したものである、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項5】
前記WN(Si)とWN(ref)との差は、0.1cm-1以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項6】
前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMがバルク単結晶シリコンのラマンピークのFWHMより大きい、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項7】
前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMは、4~20cm-1である、請求項6に記載の二次電池用負極材。
【請求項8】
シリコンのラマン信号を基準とした二次元マッピング分析時に、下記マッピング条件で下記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下である、請求項2に記載の二次電池用負極材。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピング大きさ=14μm×14μm
(式2)
偏移=WNi(Si)-WN(ref)
(式2中、WN(ref)は、式1の規定と同一であり、WNi(Si)は、マッピング分析時に単位分析領域である一ピクセルで負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。)
【請求項9】
20mm×20mmの試験片でランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析時に、下記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1
(式2)
偏移=WNi(Si)-WN(ref)
(式2中、WN(ref)は、式1の規定と同一であり、WNi(Si)は、マッピング分析時に単位分析領域である一ピクセルで負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。)
【請求項10】
20mm×20mmの試験片でランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンナノ粒子の応力分析時に、圧縮応力が80%以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項11】
複数個の負極材粒子を含み、下記式3による粒子間組成均一性を有する、請求項1に記載の二次電池用負極材。
(式3)
1.3≦UF(D)
(式3中、UF(D)は、重量%組成基準、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である。)
【請求項12】
前記シリコンナノ粒子の平均直径は2~30nmである、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項13】
前記シリコンナノ粒子と前記マトリックスとの間の界面は整合界面である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項14】
前記ドーピング元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびビスマス(Bi)から選択される一つ以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項15】
前記負極材は、平均直径が100μmオーダー(order)~101μmオーダー(order)の粒子状である、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項16】
前記負極材は、炭素を含有するコーティング層をさらに含む、請求項1に記載の二次電池用負極材。
【請求項17】
請求項1に記載の二次電池用負極材を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極材に関し、詳細には、向上した容量と初期効率およびサイクル特性を有する二次電池用負極材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品、電気/ハイブリッド車、航空宇宙/ドローンなど、様々な産業分野において、高エネルギー密度および高電力密度の特性だけでなく、長期間使用可能な、すなわち、寿命が長い二次電池の需要が増加し続けている。
【0003】
一般的に、充放電が可能な二次電池は、正極、負極、電解物質およびセパレータから構成されるが、中でも、負極に含まれて商業的に使用される代表的な負極材は、グラファイトであるが、グラファイトの理論的最大容量は372mAh/gに過ぎない。
【0004】
そのため、高エネルギー密度の二次電池を実現するために、硫黄(最大容量1,675mAh/g)などのカルコゲン系、シリコン(最大容量4,200mAh/g)やシリコン酸化物(最大容量1,500mAh/g)などのシリコン系、遷移金属酸化物などを二次電池負極材として使用するための研究が行われ続けており、様々な物質のうち、シリコン系負極材が最も注目されている。
【0005】
しかし、粒子状のシリコンを負極材として使用する場合、充放電サイクリングが繰り返されるに伴い、シリコンの大きな体積変化による絶縁、粒子脱離、接触抵抗の増加などによって電池特性が急激に劣化し、100サイクル未満ですでに電池としての機能を失う問題があり、シリコン酸化物の場合、リチウムシリケートや酸化リチウムなどの非可逆生成物によってリチウムが損失し、初期充放電効率が急激に減少する問題がある。
【0006】
このようなシリコン系負極材の問題点を解決するために、シリコンをワイヤなどの形態にナノ化し、これを炭素材と複合化する技術やシリコン酸化物に異種金属をドーピングして複合酸化物相を形成するか、シリコン酸化物をプレリチウム化(pre-lithiation)する技術などが提案されているが、依然として、初期充放電効率やサイクル特性、高率特性などが劣り、商業化が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2020-0065514号
【特許文献2】韓国公開特許第10-2015-0045336号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い電池容量を有し、且つ向上した初期可逆効率および安定したサイクル特性を有するシリコン系二次電池用負極材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一様態による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であり、下記式1を満たす。
(式1)
1<WN(Si)/WN(ref)
式1中、WN(ref)は、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0010】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークのFWHM(L1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークのFWHM(L2)との比(L1/L2)が6~15であることができる。
【0011】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、第1ピークの最大強度(I1)と第2ピークの最大強度(I2)との強度比(I1/I2)は0.05~1.25であることができる。
【0012】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記第1ピークは、非晶質シリコン酸化物から由来したものであり、前記第2ピークは、結晶質シリコンから由来したものであることができる。
【0013】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記WN(Si)とWN(ref)との差は、0.1cm-1以上であることができる。
【0014】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMがバルク単結晶シリコンのラマンピークのFWHMより大きいことができる。
【0015】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMは、4~20cm-1であることができる。
【0016】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、シリコンのラマン信号を基準とした二次元マッピング分析時に、下記マッピング条件で下記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下であることができる。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピング大きさ=14μm×14μm
(式2)
偏移=WNi(Si)-WN(ref)
式2中、WN(ref)は、式1の規定と同一であり、WNi(Si)は、マッピング分析時に単位分析領域である一ピクセルで負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0017】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、20mm×20mmの試験片でランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析時に、下記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下であることができる。
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1
(式2)
偏移=WNi(Si)-WN(ref)
式2中、WN(ref)は、式1の規定と同一であり、WNi(Si)は、マッピング分析時に単位分析領域である一ピクセルで負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0018】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、20mm×20mmの試験片でランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンナノ粒子の応力分析時に、圧縮応力が80%以上であることができる。
【0019】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、複数個の負極材粒子を含み、下記式3による粒子間組成均一性を有することができる。
(式3)
1.3≦UF(D)
式3中、UF(D)は、重量%組成基準、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である。
【0020】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記シリコンナノ粒子の平均直径は2~30nmであることができる。
【0021】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記シリコンナノ粒子と前記マトリックスとの間の界面は整合界面であることができる。
【0022】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記ドーピング元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびビスマス(Bi)から選択される一つ以上であることができる。
【0023】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記負極材は、平均直径が100μmオーダー(order)~101μmオーダー(order)の粒子状であることができる。
【0024】
本発明の一実施形態による二次電池用負極材において、前記負極材は、炭素を含有するコーティング層をさらに含むことができる。
【0025】
本発明は、上述の二次電池用負極材を含む二次電池を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスおよびマトリックスに分散含入されており、残留圧縮応力を有するナノ粒子状のシリコンにより、向上した機械的物性、電気化学的特性を有し、特に、高い放電容量とともにシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能な水準の容量維持率を有する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態によって製造された負極材断面でMgのEDSラインプロファイルを図示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態によって製造された負極材のXRDパターンを図示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態によって製造された負極材のラマンスペクトルを測定図示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態によって製造された負極材のシリコンのラマン信号を基準とした二次元マッピング結果を図示した図である。
【
図5】(a)および(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態によって製造された負極材を含む負極が備えられた半電池の充放電サイクルによる充放電容量および容量維持率を図示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態によって製造された負極材を含む負極が備えられた半電池のdQ/dVグラフである。
【
図7】一実施形態によって製造された負極材を観察した高倍率透過電子顕微鏡写真である。
【
図8】本発明の一実施形態によって製造された負極材を含む負極において、リチウム化前の負極活物質層の断面およびその厚さとリチウム化後の負極活物質層の断面およびその厚さを観察した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照して、本発明の二次電池用負極材について詳細に説明する。以下に開示する図面は、当業者に本発明の思想が充分に伝達されるようにするために例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に提示する図面に限定されず、他の形態に具体化されることもでき、以下に提示する図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して図示されることがある。この際、使用される技術用語および科学用語において他の定義がなければ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明および添付の図面で本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0029】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形態は、文脈で特別な指示がない限り、複数形態も含むことを意図し得る。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、第1、第2などの用語は、限定的な意味ではなく、一つの構成要素を他の構成要素と区別するために使用される。
【0031】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、含むまたは有するなどの用語は、明細書上に記載の特徴、または構成要素が存在することを意味し、特に限定しない限り、一つ以上の他の特徴または構成要素が付加する可能性を予め排除するものではない。
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、膜(層)、領域、構成要素などの部分が他の部分の上にまたは上にあるとしたときに、他の部分と接してすぐ上にある場合だけでなく、その間にさらに他の膜(層)、さらに他の領域、さらに他の構成要素などが介在されている場合も含む。
【0033】
本出願人は、シリコンとシリコン系酸化物が複合化したシリコン系負極材において、負極材に含有されたシリコンの残留応力によって、負極材の機械的特性および電気化学的特性が著しく影響を受けることを見出した。このような発見に基づいて研究を重ねた結果、シリコン系酸化物ベースのマトリックスにシリコンがナノ粒子状に分散し、残留圧縮応力を有する時に、負極材の機械的物性および電気化学的物性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
したがって、上述の発見に基づく本発明による負極材は、ナノ粒子状に分散し、残留圧縮応力を有するシリコンとマトリックスの結合によって、従来、シリコン系負極材では得ることができない機械的物性および電気化学的物性を示すことから、本発明は、本発明によるシリコン系負極材が有する物性に基づく様々な様態を含む。
【0035】
本発明において、マトリックスは、ナノ粒子状のシリコンが分散する固体状の媒質を意味し得、負極材において分散相であるシリコンナノ粒子に対して連続相(continuum)を形成する物質を意味し得る。本発明において、マトリックスは、負極材において金属シリコン(Si)以外の物質(ら)を意味し得る。
【0036】
本発明において、ナノ粒子は、通常、ナノ粒子として規定される大きさ(直径)である100ナノメートルオーダー(order)~102ナノメートルオーダーの粒子、実質的には500nm以下の直径、具体的には200nm以下の直径、より具体的には100nm以下の直径、さらに具体的には50nm以下の直径を有する粒子を意味し得る。
【0037】
本発明において、二次電池用負極材は、リチウム二次電池用負極材を含むが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の負極材は、ナトリウム電池、アルミニウム電池、マグネシウム電池、カルシウム電池、亜鉛電池などの二次電池の活物質として活用することができ、スーパーキャパシタ、染料感応太陽電池、燃料電池など、従来、シリコン系物質が使用される他のエネルギー貯蔵/生成装置にも活用されることができる。
【0038】
本発明の一様態(I)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であり、下記式1を満たす。
【0039】
(式1)
1<WN(Si)/WN(ref)
【0040】
式1中、WN(ref)は、バルク単結晶シリコンのラマンピークの中心波数であり、WN(Si)は、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。
【0041】
この際、式1において、バルク単結晶シリコンのラマンピーク中心波数に対する負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピーク中心波数間の比は、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子に残留する応力(残留応力)の種類および残留応力の大きさを示すパラメータである。また、式1において、バルク単結晶シリコンの用語は、実質的に、バルク単結晶シリコンの物性が示される大きさのシリコンを意味するものと解釈する必要があり、明確な比較基準を提示し、購入の容易性を担保する面で、バルク単結晶シリコンは、サブmmオーダー(sub mm order)水準の厚さ、具体的な一例として、0.4~0.7mmの厚さを有する単結晶シリコンウェハを意味し得る。
【0042】
具体的には、式1において、WN(Si)/WN(ref)が1を超えることは、バルク単結晶シリコンに対して、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数がより長波数(ラマン散乱光の波長でより短波長)で移動することを意味し、これは、ナノ粒子状シリコンが残留圧縮応力(residual compressive stress)を有することを意味する。
【0043】
上述のように、本発明による二次電池用負極材は、マトリックスに分散含入されて残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含み、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6を満たすことによって均一な残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子により、向上した機械的物性および電気化学的特性を有し、特に、高い放電容量とともにシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能な水準の容量維持率を有する利点を有することができる。
【0044】
詳細には、負極材に含まれるマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子の残留応力は、引張応力、圧縮応力または引張応力および圧縮応力が混在した形態で存在することができるが、本発明による負極材に含まれてマトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子の主要残留応力である圧縮応力が、上述のX線回折パターンで第1ピークの面積(A1)と第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6を満たす結晶学的特性によって均一であることができる。
【0045】
一実施形態において、20mm×20mmの試験片(負極材)でランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンナノ粒子の応力を分析する際、圧縮応力が80%以上、実質的には85%以上、より実質的には90%以上であることができ、上限値が制限されるものではないが、実質的には99%以下であることができる。
【0046】
マクロスケールの負極材が試験片の全般にわたり残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含むことによって、著しく向上した機械的物性および電気化学的特性から起因してシリコン系負極材が備えられた二次電池の実商用化が可能である。
【0047】
本発明による一実施形態として、第1ピークの面積(A1)と第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)は、0.8~8であってもよく、具体的には0.8~6であってもよく、より具体的には0.8~5.5であってもよい。この際、X線回折パターンで各ピークの面積は、各ピークが占める積分面積を意味する。ここで、積分面積とは、ノイズレベルが除去されたピークをガウス関数および/またはローレンツ関数を用いて、ピークフィッティング(fitting)を行った後の積分面積であり得るが、上述の第1ピークおよび第2ピークの面積が同じ方法で導き出されるものであれば、当業界において周知のXRDピークの面積導出方法は、制限なく用いられることができる。
【0048】
具体的一例として、応用ソフトウェアの一つであるオリジン(Origine)プログラムのピーク分析装置(peak analyzer)ツール機能を用いて、分離しようとするピーク周辺のノイズレベルを除去し、ガウス関数を適用してピークを二つに分離した後、上述のXRDピークの面積を計算することができるが、本発明がこれに制限されるものではない。
【0049】
一具体例において、X線回折パターンで第1ピークのFWHM(L1)と第2ピークのFWHM(L2)との比(L1/L2)が1~20、具体的には3~18、より具体的には6~15であってもよく、さらに具体的には6.5~13であってもよい。
【0050】
他の一具体例として、第1ピークの最大強度(I1)と第2ピークの最大強度(I2)との強度比(I1/I2)は、0.05~1.25であってもよく、具体的には0.05~1.05であってもよく、より具体的には0.08~0.75であってもよい。この際、第1ピークは、非晶質シリコン酸化物から由来したものであってもよく、第2ピークは、結晶質シリコンから由来したものであってもよい。非晶質のシリコン酸化物を含む二次電池の負極材は、二次電池の充電時に体積膨張に対して緩衝作用をすることができることから優れた容量維持率を有するという利点がある。
【0051】
式1において、バルク単結晶シリコンおよびナノ粒子状シリコンそれぞれにおいて、シリコンのラマンピークは、シリコンのラマンスペクトルで500~540cm-1領域、具体的には510~530cm-1領域、より具体的には515~528cm-1領域に位置するラマンピークを意味し得る。ピークの中心波数、すなわち、ピークの中心に該当する波数は、ピークで最大強度値を有する波数を意味し得る。この際、上述のラマンシフト(Raman Shift)領域で二つ以上のラマンピークが存在する場合、強度が最も大きいピークが式1のシリコンのラマンピークに該当することができ、二つ以上のラマンピークが互いに重なって双峰状を示す場合、双峰のうちより強度が大きい峰で最大強度値を有する波数がピークの中心波数に該当することができる。
【0052】
また、WN(Si)とWN(ref)との差(WN(Si)-WN(ref))は、シリコンナノ粒子が有する残留圧縮応力の大きさを直接示すパラメータである。
【0053】
具体的には、WN(Si)とWN(ref)との差は、0.1cm-1以上、0.2cm-1以上、0.3cm-1以上、0.4cm-1以上、0.5cm-1以上、0.6cm-1以上、0.7cm-1以上、0.8cm-1以上、0.9cm-1以上、1.0cm-1以上、1.1cm-1以上、1.2cm-1以上、1.3cm-1以上、1.4cm-1以上、1.5cm-1以上、1.6cm-1以上、1.7cm-1以上、1.8cm-1以上、1.9cm-1以上、2.0cm-1以上、2.1cm-1以上、2.2cm-1以上、2.3cm-1以上、2.4cm-1以上、2.5cm-1以上、2.6cm-1以上、2.7cm-1以上、2.8cm-1以上、2.9cm-1以上、3.0cm-1以上、3.1cm-1以上、3.2cm-1以上、3.3cm-1以上、3.4cm-1以上、3.5cm-1以上、3.6cm-1以上、3.7cm-1以上、3.8cm-1以上、3.9cm-1以上または4.0cm-1以上であることができ、実質的には6.0cm-1以下、より実質的には5.5cm-1以下であることができる。
【0054】
上述のバルク単結晶シリコンと負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波長間の差とともに、またはこれとは独立して、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMは、バルク単結晶シリコンのラマンピークのFWHMより大きくなることができる。バルク単結晶シリコンに比べてより大きいFWHM値は、負極材に含有されたシリコンが極微細な粒子状にマトリックスに分散含入された構造によることができる。具体的には、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンラマンピークのFWHMは、4~20cm-1、6~20cm-1、6~18cm-1、6~16cm-1、8~20cm-1、8~18cm-1、8~16cm-1、10~20cm-1、10~18cm-1、または10~16cm-1であることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0055】
これとともに、またはこれとは独立して、負極材に含有されたナノ粒子状シリコンは、シリコンのラマンピークの中心波数を基準(0cm-1)として、ラマンスペクトル上基準から+20cm-1の位置(波数)での強度(K1)と基準から-20cm-1の位置(波数)での強度(K2)が互いに有意に相違することができ、-20cm-1の位置(波数)での強度(K2)が+20cm-1の位置(波数)での強度(K1)より大きいことができる。この際、有意に相違するとは、K2/K1の比が1.20以上であることを意味し得る。このようなシリコンラマンピークの非対称性(ただし、波数方向に長いtail)また残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子がマトリックスに分散含入された構造から起因することができる。
【0056】
これとともに、負極材をシリコンのラマン信号を基準とした二次元マッピング分析の際、下記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5cm-1以下であることができる。
【0057】
(式2)
偏移=WNi(Si)-WN(ref)
【0058】
式2中、WN(ref)は、式1の規定と同一であり、WNi(Si)は、マッピング分析時に単位分析領域である一ピクセルで負極材に含有されたナノ粒子状シリコンのラマンピークの中心波数である。この際、式2において、偏移は、二次元マッピング分析によって得られる二次元ラマンマップであり、シリコンラマン信号が検出されたピクセルに限って、ピクセルそれぞれから式2による偏移が算出されることができ、最大値と最小値は、式2によって算出された偏移のうち最小値と最大値を意味することは言うまでもない。
【0059】
シリコンのラマン信号を基準とした負極材の二次元マッピング分析により得られるシリコンの二次元ラマンマップを基準として、式2によるバルク単結晶シリコンに対するシリコンピークの中心波数移動値(偏移)の最大値と最小値との差は、負極材に分散含入されたシリコンナノ粒子の残留圧縮応力均一性を示す指標である。二次元ラマンマップ基準偏移の最大値と最小値との差が5.0cm-1以下、4.5cm-1以下、4.0cm-1以下、3.5cm-1以下、3.0cm-1以下、2.5cm-1以下、または1.0cm-1以下を満たすことができ、実質的には、最大値と最小値との差は、0.1cm-1以上、より実質的には0.5cm-1以上を満たすことができる。このような最大値と最小値との差は、負極材に含有されたほとんどのシリコンナノ粒子、実質的にはすべてのシリコンナノ粒子が残留圧縮応力を有することを意味し、さらには、負極材に含有されたほとんどのシリコンナノ粒子、実質的にすべてのシリコンナノ粒子に残留する圧縮応力大きさが実質的にほぼ同一であることを意味する。
【0060】
実験的に、負極材に含有されたシリコンのラマンスペクトルは、常温(20~25℃)、大気圧下、励起レーザ波長532nm、レーザパワー0.5mW、分光計の解像度(resolution)1cm-1、負極材1g、検出器露出時間15sの条件で測定されることができる。
【0061】
実験的に、シリコンラマン信号を用いた負極材の二次元ラマンマッピングは、励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピング大きさ=14μm×14μmのマッピング条件で測定されることができ、常温および大気圧下で測定されることができる。
【0062】
一具体例として、20mm×20mmの試験片において、ランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析の際、前記式2で規定される偏移の最大値と最小値との差が5.0cm-1以下、4.5cm-1以下、4.0cm-1以下、3.5cm-1以下、3.0cm-1以下、2.5cm-1以下、または1.0cm-1以下を満たすことができ、実質的には、最大値と最小値との差は、0.1cm-1以上、より実質的には0.5cm-1以上を満たすことができる。これは、マッピング領域だけでなく、試験片全体、すなわち、実質的に試験片全体に含まれるすべてのシリコンナノ粒子に残留する圧縮応力の大きさが実質的にほぼ同一であることを意味する。
【0063】
この際、先に偏移分析に用いられたラマンスペクトルおよび二次元ラマンマッピングは、上記で述べた条件と同様に測定されたことができる。
【0064】
本発明の他の一様態(II)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、ナノインデンテーション試験による強度(hardness)が4.0GPa以上であり、弾性係数(Young's modulus)が40GPa以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。以下、二次電池用負極材の機械的物性に関して、特に温度を限定して提示しない限り、すべての物性は常温(20~25℃)物性である。
【0065】
ナノインデンテーション試験は、ASTM E2546、ISO 14577-1 E、ISO 14577-2 E、ISO 14577-3 Eに準じて測定されることができ、弾性係数Eは、周知のように、式にしたがって算出されたことができる。ここで、E*は、圧子の弾性係数であり、νは、バーコビッチ圧子(Berkovich indenter)のポアソン比で0.3と仮定した。バーコビッチ圧子を用いたナノインデンテーション試験は、最大荷重50mN、荷重印加速度100mN/minの条件で行われることができる。ナノインデンテーション試験によって測定される強度と弾性係数は、少なくとも圧子による圧入痕跡基準圧入痕跡間の隔離距離が少なくとも10μm以上であり、この際、5×5~25×25のマトリックス状にナノインデンテーション試験を行って得られた物性値を平均した値であることができる。この際、ナノインデンテーション試験が行われる負極材サンプルは、板形状のバルク負極材をマウンティングし、研磨して用意することができる。
【0066】
具体的には、二次電池用負極材は、ナノインデンテーション試験による強度(圧入強度)が4.0GPa以上、4.5GPa以上、5.0GPa以上、5.5GPa以上、6.0GPa以上、6.5GPa以上、7.0GPa以上、7.5GPa以上、8.0GPa以上、8.5GPa以上、9.0GPa以上、9.5GPa以上、10.0GPa以上、10.2GPa以上、10.4GPa以上、10.6GPa以上、10.8GPa以上、11.0GPa以上、11.2GPa以上、11.4GPa以上、11.6GPa以上、11.8GPa以上、12.0GPa以上、12.2GPa以上、12.4GPa以上、12.6GPa以上、12.8GPa以上、または13.0GPa以上であることができ、実質的には25.0GPa以下、より実質的には20.0GPa以下であることができる。これとともに、二次電池用負極材は、ナノインデンテーション試験による弾性係数が40GPa以上、41GPa以上、42GPa以上、43GPa以上、44GPa以上、45GPa以上、50GPa以上または55GPa以上であることができ、実質的には250GPa以下、より実質的には200GPa以下であることができる。
【0067】
ナノインデンテーション試験に基づいて上述した負極材の機械的物性は、ナノ粒子状のシリコンが有する残留圧縮応力を含み、負極材に存在する残留応力によって実現されることができる物性値である。
【0068】
高い強度を有し、優れた弾性を有する負極材は、従来、二次電池分野においてすでに確立された負極材スラリー製造-集電体上のスラリーの塗布および乾燥-圧延(カレンダリング)に至る電極製造工程中に粒子状負極材が物理的に損傷しないことを意味し、電極(負極)気孔構造の損傷も防止されて設計されたことによって、電解質との安定的且つ均質な接触が担保されることを意味する。
【0069】
本発明の他の一様態(III)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含む粒子状であり、粒子の圧縮強度(St)が100MPa以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。
【0070】
粒子の圧縮強度Stは、周知のように、
【数1】
にしたがって算出されることができ、ここで、Pは、加えられた力、dは、粒子の粒径、Lは、距離であり、微小圧縮試験機(一例として、MCT-W500-E、Shimadzu社製)を用いて測定されることができる。
【0071】
具体的には、粒子状である二次電池用負極材の粒子圧縮強度は、100MPa以上、105MPa以上、110MPa以上、115MPa以上、120MPa以上、125MPa以上、130MPa以上、135MPa以上、140MPa以上、145MPa以上、150MPa以上、155MPa以上または160MPa以上であることができ、実質的には250MPa以下、より実質的には200MPa以下であることができる。
【0072】
上述の負極材の機械的物性は、ナノ粒子状のシリコンが有する残留圧縮応力を含み、負極材に存在する残留応力によって実現されることができる物性値である。さらには、機械的強度および弾性は、シリコンナノ粒子とマトリックスとの整合界面によって、残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を囲むマトリックスに応力場が形成され、より向上することができる。
【0073】
本発明の他の一様態(IV)による二次電池用負極材は、元素成分を基準としてシリコン(Si)、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素(D)および酸素(O)を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、下記式3を満たす組成均一性を有し、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。
【0074】
(式3)
B/A≦0.65
【0075】
式3中、AとBは、負極材の中心を横切る断面を基準として、任意の100個の地点で測定されたドーピング元素の含量(wt%)を平均した平均値(A)と標準偏差(B)である。具体的には、AとBは、負極材断面の中心を横切るドーピング元素の線形組成(line profile)で任意の100個の地点から算出されたドーピング元素の平均含量(wt.%、A)と標準偏差(B)であることができる。
【0076】
より具体的には、式3のB/Aは、0.65以下、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.40以下または0.30以下を満たすことができ、0.2以上であることができる。
【0077】
式3中、B/Aは、ドーピング元素(D)基準負極材の組成均一性を示すパラメータであり、上述の範囲を満たすB/Aの優れた組成均一性により、負極材が均一な機械的、電気化学的物性を示すことができる。
【0078】
また、一実施形態において、複数個の負極材粒子を含む負極材は、下記式4による粒子間組成均一性を有することができる。
【0079】
(式4)
1.3≦UF(D)
【0080】
式5中、UF(D)は、重量%組成基準、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成をドーピング元素組成の標準偏差で除した値である。この際、複数個の負極材粒子は、10~500個、実質的には50~300個、より実質的には100~200個であることができる。
【0081】
具体的には、式4のUF(D)は、1.3以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上または5以上を満たすことができ、実質的には8以下であることができる。上述のUF(D)は、複数個の負極材粒子を含む負極材において、負極材粒子間の組成均一性を示すパラメータであり、式4のUF(D)が上述した範囲を満たすことによって複数個の負極材粒子を含む負極材は、優れた組成均一性を有し、複数個の負極材粒子が含まれても負極材の機械的物性および電気化学的物性を均一に示すことができる。
【0082】
実験的に、ドーピング元素の含量や線形組成分析はEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)や透過電子顕微鏡または走査電子顕微鏡などに備えられたEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)などを用いて行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0083】
上述の組成均一性を満たす二次電池用負極材において、元素成分基準マトリックスは、アルカリ金属とアルカリ土類金属群から選択される一つ以上のドーピング元素(D)、シリコン(Si)および酸素(O)を含有することができ、化合物成分基準マトリックスは、シリコン酸化物およびドーピング元素とシリコンの複合酸化物を含むことができる。これにより、式3で規定されたドーピング元素の組成均一性は、複合酸化物の組成均一性に相当することができるが、必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0084】
本発明の他の一様態(V)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、80重量%の負極材、10重量%の導電材および10重量%のバインダーとして配合された負極活物質層基準0.005Vまで充電するときに、前記負極活物質層の体積変化が60%以内であり、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。
【0085】
この際、上述の体積変化(%)は、負極材を含有する負極活物質層の体積変化であり、[リチウム化後の負極活物質層の厚さ-リチウム化前の負極活物質層の厚さ]/リチウム化前の負極活物質層厚さ*100で規定されることができ、実験的に、リチウム化の前/後それぞれでの負極活物質層の厚さは、走査電子顕微鏡観察写真などにより測定されることができる。
【0086】
負極活物質層を含む電池を0.005Vまで充電する時に、60%以内、具体的には50%以内、40%以内、30%以内、20%以内または15%以内に過ぎない体積変化は、従来、シリコン系負極材に比べて有意に小さな体積変化が発生することを意味し、従来、シリコン系負極材の主な問題である体積膨張による電極の亀裂および/または脱離などの欠点が大きく解消されることを意味する。
【0087】
負極材の体積膨張程度をテストする基準になる負極活物質層は、上述の負極材80重量%、導電材、具体的にはカーボンブラック10重量%、バインダー10重量%、具体的には、バインダーは、カルボキシメチルセルロース5重量%とスチレンブタジエンゴム5重量%を含有することができる。負極活物質層が備えられた負極において、集電体は銅箔であることができる。特に限定されないが、負極活物質層のリチウム化前の厚さは、15~25μmの水準であることができる。
【0088】
負極材の充電は、負極材を含有する負極と対向電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記充放電サイクル条件による充放電テストによることができ、充放電サイクル、具体的には1回目の充放電サイクルで0.005Vまで充電が行われることができる。
【0089】
充放電サイクル条件:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.5C-rate
【0090】
以下、別に限定して提示されない限り、上述のリチウム化時の体積変化を含む負極材の電気化学的特性(充放電特性、放電容量、dQ/dVグラフなど)は、負極材を含有する負極と対向電極が金属リチウム箔である半電池の電気化学的特性であることができ、化成工程(formation)が行われた半電池の電気化学的特性であることができる。
【0091】
半電池は、負極集電体および集電体の少なくとも一面に位置し、本発明の一実施形態による負極材を含む負極活物質層を含む負極と、金属リチウム箔である対極と、負極と対極との間に介在されたセパレータと、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートが1:1の体積比で混合された混合溶媒に1M濃度でLiPF6が溶解された電解質とが備えられたセルであることができ、半電池の電気化学的特性は、常温で測定されることができる。
【0092】
化成工程は、CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.5V、0.1C-rateの条件で充放電が行われる1次工程およびCC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.1C-rateの条件で充放電が行われる2次工程を含むことができるが、本発明がテスト電池(半電池)の化成工程条件によって限定されないことは言うまでもなく、従来、負極材の電気化学的物性をテストするために使用される電池で通常行われる化成工程であれば充分である。
【0093】
本発明の他の一様態(VI)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、対向電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記充放電サイクル条件による充放電テストによって得られるdQ/dVグラフにおいて、Li3.75Si反応に該当するリチウム挿入ピークが存在し、1回目の充放電サイクルでの放電容量が1200mAh/g以上であり、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。
【0094】
充放電サイクル条件:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.5C-rate
【0095】
dQ/dVグラフは、1回目の充放電サイクルでの電池容量(放電容量)Qを半電池の金属リチウム箔基準負極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと電位Vの関係を示したグラフであることができる。この際、dQ/dVグラフ上、Li3.75Si反応に該当するリチウム挿入ピークは、0.005V~0.100Vの電圧範囲、具体的には0.005V~0.050Vの電圧範囲、より具体的には0.005V~0.040Vの電圧範囲に位置するピークを意味し得る。
【0096】
すなわち、本発明の他の一様態(VI)による二次電池用負極材は、リチウム挿入がLi3.5Siを超えてLi3.75Siまで行われることを意味する。Li3.75Siまでリチウム挿入が行われることによって、負極材の容量が向上することができる。実質的な一例として、化成工程半電池のサイクル条件による充放電時に、化成1次工程放電容量(F1)は、1200mAh/g以上、1250mAh/g以上、1300mAh/g以上、1350mAh/g以上、1400mAh/g以上または1500mAh/g以上であることができ、実質的には2500mAh/g以下であることができる。
【0097】
本発明の他の一様態(VII)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されたシリコンナノ粒子とを含み、対向電極が金属リチウム箔である半電池を用いた下記充放電サイクル条件による充放電テストの際、式4を満たし、CuKα線を用いたX線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)が0.8~6であることができる。
【0098】
充放電サイクル条件:CC/CV、Cut-off電圧0.005V~1.0V、0.5C-rate
【0099】
(式4)
95%≦C50/C1*100
【0100】
式4中、C1は、1回目の充放電サイクルでの負極材の放電容量(mAh/g)であり、C50は、50回目の充放電サイクルでの負極材の放電容量である。この際、1回目の充放電サイクルでのC1は、化成工程が1回および/または2回行われた後に測定された負極材の放電容量であることができる。
【0101】
具体的には、C50/C1*100は、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上であることができる。このようなサイクル特性は、負極材においてリチウムイオンの貯蔵と放出が実質的に完全に可逆的であることを意味し、50回に至る繰り返した充放電過程で、容量低下(負極材の劣化、負極活物質層内の負極材の電気的接触の低下、非可逆生成物の形成など)が実質的に発生しないことを意味し、極めて優れた容量維持率を有することを意味する。
【0102】
一具体例において、C50は、1150mAh/g以上、1200mAh/g以上、1250mAh/g以上、1300mAh/g以上、1350mAh/g以上または1450mAh/g以上であることができ、実質的には2450mAh/g以下であることができる。
【0103】
本発明の他の一様態(VIII)による二次電池用負極材は、シリコン酸化物、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物、またはこれらの混合物を含有するマトリックスと、前記マトリックスに分散含入されて残留圧縮応力(residual compressive stress)を有するシリコンナノ粒子とを含む。
【0104】
マトリックスに分散含入されたナノ粒子状シリコンが有する残留圧縮応力、さらには、シリコンの残留圧縮応力とシリコンナノ粒子とマトリックスとの間に形成された整合界面によってシリコンナノ粒子周りのマトリックスに形成される応力場は、先にラマンスペクトルに基づく負極材の一様態、機械的物性に基づく負極材の他の一様態、リチウム化時の電気化学的物性に基づく負極材の他の一様態として負極材の物性や測定可能なパラメータで示されることができる。
【0105】
本発明において、負極材は、上述の様態(I~VIII)のうち1以上の様態、2以上の様態、3以上の様態、4以上の様態、5以上の様態、6以上の様態、7以上の様態またはI~VIIIのすべての様態を満たすことができる。
【0106】
以下、特別に「本発明による一様態」と限定して述べていない限り、後述する内容は、本発明で提供するすべての様態それぞれに該当する。
【0107】
一具体例において、負極材は、元素成分基準シリコン、酸素、アルカリ金属とアルカリ土類金属およびポスト遷移金属群から選択される一つ以上のドーピング元素を含有することができる。シリコンは、元素シリコン状態のシリコン成分と酸化物状態のシリコン成分を含むことができ、酸化物状態のシリコン成分は、シリコン単独の酸化物状態、シリコンとドーピング元素の複合酸化物状態またはこれらをすべて含むことができる。ドーピング元素は、酸化物状態のドーピング元素成分を含むことができ、酸化物状態のドーピング元素は、ドーピング元素単独の酸化物状態、シリコンとドーピング元素の複合酸化物状態またはこれらをすべて含むことができる。
【0108】
化合物成分基準、負極材は、シリコン酸化物、ドーピング元素とシリコンの複合酸化物またはこれらの混合物を含有することができ、これとともに元素シリコン(Si)を含有することができる。シリコン酸化物は、SiOx、xは、0.1~2の実数を含むことができ、複合酸化物は、DlSimOn、Dは、ドーピング元素であり、lは、1~6の実数、mは、0.5~2の実数、nは、DとSiそれぞれの酸化数とlおよびmによって電荷中性を満たす実数であることができる。一例として、DがMgである場合、複合酸化物は、MgSiO3およびMg2SiO4から選択される一つ以上の酸化物などを含むことができるが、本発明において、Dと複合酸化物が必ずしもMgとMg-Siの間の酸化物に限定されるものではない。
【0109】
微細構造基準、負極材は、シリコン酸化物;アルカリ金属とアルカリ土類金属群から選択される一つ以上のドーピング元素とシリコンの複合酸化物;またはこれらの混合物;を含有するマトリックスとシリコンナノ粒子を含む分散相を含むことができる。分散相は、マトリックス内に均一に分散含入されて位置することができる。
【0110】
一具体例において、シリコンナノ粒子は、結晶質、非晶質、または結晶質と非晶質が混在する複合相であることができ、実質的には結晶質であることができる。
【0111】
一具体例において、マトリックスは、結晶質、非晶質または結晶質と非晶質が混在する複合相であることができる。詳細には、マトリックスは、結晶質または結晶質と非晶質が混在する複合相であることができる。具体的には、マトリックスは、非晶質、結晶質または非晶質と結晶質が混在するシリコン酸化物および結晶質の複合酸化物を含むことができる。
【0112】
シリコンナノ粒子とマトリックスとの間の界面は、整合(coherent)界面、不整合(incoherent)界面、部分-整合(semi-coherent)界面を含むことができ、実質的には、整合界面または部分-整合界面を含むことができ、より実質的には、整合界面を含むことができる。周知のように、整合界面は、界面をなす二つの物質の格子が、界面で格子連続性が維持される界面であり、部分-整合界面は、部分的に格子不一致部分が存在し、且つこのような格子不一致部分が電位などの欠陥として見なされ得る界面である。これにより、シリコンナノ粒子とマトリックスとの間の整合または部分整合界面を有する負極材において、シリコンナノ粒子と接するマトリックス領域は、結晶質であることができ、具体的には、結晶質のシリコン酸化物、結晶質の複合酸化物またはこれらの混合物であることができる。実験的に、整合(coherent)界面、不整合(incoherent)界面、部分-整合(Semi-coherent)界面の界面構造は、高倍率の走査電子顕微鏡観察などにより判別することができ、これは、当業者にとって周知の事実である。
【0113】
一具体例において、シリコンナノ粒子の平均直径は、100ナノメートルオーダー~101ナノメートルオーダー、具体的には1~50nm、2~40nm、2~35nm、2nm~30nm、2nm~20nmまたは2nm~15nmであることができるが、これに限定されるものではない。ただし、30nm以下水準のシリコンナノ粒子は、全体的にマトリックスと整合界面を形成し、シリコンナノ粒子に残留する圧縮応力によってマトリックスのより広い領域で応力が形成され、有利であり得る。実験的に、シリコンナノ粒子の平均直径は、透過電子顕微鏡観察イメージにより、負極材内のシリコンナノ粒子の大きさを測定し、10個以上、20個以上または30個以上のシリコンナノ粒子に対して測定された大きさを平均して算出されることができる。
【0114】
一具体例において、ドーピング元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびビスマス(Bi)から選択される一つ以上であることができる。これにより、複合酸化物は、シリコンとリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびビスマス(Bi)から選択される一つ以上の元素間の酸化物であることができる。複合酸化物と残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子とのシナジー効果によって、負極材の機械的物性および電気化学的物性がより向上することができる。シリコンナノ粒子との整合界面の形成に有利であるように、ドーピング元素は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属群、具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)から選択される一つ以上の元素であることができ、より有利には、アルカリ土類金属、具体的にはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)から選択される一つ以上の元素であることができる。最も有利には、容易な整合界面の形成および残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子とのシナジー効果の面で、ドーピング元素は、マグネシウムを含むことができる。上述のように、ドーピング元素は、シリコンとの複合酸化物形態および/またはドーピング元素の酸化物形態で負極材に含有されることができ、主に、複合酸化物の形態で負極材に含有されることができる。具体的には、マトリックスがシリコンとの複合酸化物形態でドーピング元素を含有する場合、複合酸化物は、結晶質を含むことができ、より実質的には、複合酸化物は、結晶質であることができる。これにより、マトリックスは、結晶質の複合酸化物を含有することができる。
【0115】
一具体例において、マトリックスに含有されたシリコン酸化物は、SiOx、ここで、xは、0.1~2の実数、より具体的には0.5~2の実数を満たすことができ、互いに異なるxを有する第1シリコン酸化物と第2シリコン酸化物を含むことができる。実質的な一例として、マトリックスに含有されるシリコン酸化物は、SiOx1(x1は、1.8~2の実数)の第1シリコン酸化物とSiOx2(x2は、0.8~1.2の実数)の第2シリコン酸化物を含むことができる。マトリックスに含有されるシリコン酸化物は、結晶質、非晶質、結晶質と非晶質の複合相であることができ、実質的には非晶質であることができる。
【0116】
一具体例において、負極材は、ナノ粒子状シリコン15~50重量%および残部のマトリックスを含有することができる。
【0117】
一具体例において、負極材のマトリックスは、シリコン酸化物と複合酸化物をすべて含有することができ、マトリックスは、シリコン酸化物100重量部に対して、複合酸化物の重量部をAとし、負極材において重量%基準ドーピング元素の濃度をBとした時に、A/Bが2~50、2~40、2~30、または2~20を満たすことができる。
【0118】
一具体例において、負極材は、粒子状であることができる。粒子状の負極材は、二次電池の用途で通常望まれる粒子径、一例として、100μmオーダー(order)~101μmオーダー(order)の平均直径、具体的には5μm~30μm水準の平均直径を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0119】
一具体例において、負極材は、炭素を含有するコーティング層、具体的には負極材の表面にコーティングされた表面コーティング層をさらに含むことができる。このような表面コーティング層によって負極材の電気的特性を向上させることができ、有利である。コーティング層の厚さは、2~30nm水準であればよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0120】
一具体例において、負極材は、残留圧縮応力を有するシリコンナノ粒子を含有し、電気化学的なリチウムとの合金(リチウム化、lithiation)時にシリコン1モル当たりリチウム3.5(超)~3.75モル、具体的には3.6~3.75モルの合金化比率を有することができる。このような高い合金化比率は、高容量に非常に有利である。また、一具体例において、負極材は、高い初期充放電効率と容量維持率特性を有することができる。
【0121】
本発明は、上述の負極材を含有する負極を含む。負極は、二次電池、具体的にはリチウム二次電池の負極であることができる。負極は、集電体と、集電体の少なくとも一面に位置し、上述の負極材を含有する負極活物質層とを含むことができ、負極活物質層は、必要に応じて、負極材と二次電池負極に通常使用されるバインダーおよび導電材をさらに含むことができる。
【0122】
本発明は、上述の負極を含む二次電池を含む。具体的には、本発明は、上述の負極を含むリチウム二次電池を含む。リチウム二次電池は、正極集電体および正極集電体の少なくとも一面に位置する正極活物質層を含む正極と、上述の負極と、正極と負極との間に介在されたセパレータと、リチウムイオンを伝導する電解質とを含むことができる。正極集電体、負極集電体、正極活物質層の正極活物質や組成、セパレータおよび電解質の溶媒や電解質塩または電解質塩の濃度などは、リチウム二次電池において通常採択される物質や組成であればよい。
【0123】
(実施例1)
Si、SiO2、MgO原料をそれぞれ6(Si):4.5(SiO2):1.5(MgO)のモル比で粉末混合器に投入した後、均質混合して混合原料を製造した後、モールドを使用して混合原料をペレット化した。
【0124】
前記ペレット化した混合原料を0.1torr以下の真空チャンバ内のるつぼに26kg入れてから1,400℃に加熱して気化させた後、400℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。
【0125】
得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物を850℃で20時間Ar雰囲気で熱処理してバルク形態の二次電池用負極材を製造した。
【0126】
製造されたバルク型二次電池用負極材を平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程により粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングし、炭素コーティングされた負極材粉末を製造した。
【0127】
(実施例2)
実施例1と同様に実施するが、それぞれの原料を6.5(Si):4.5(SiO2):0.5(MgO)のモル比で混合した以外は、同様に実施した。
【0128】
(実施例3)
実施例1と同様に実施するが、それぞれの原料を6.5(Si):4.5(SiO2)のモル比で混合した以外は、同様に実施した。
【0129】
(比較例1)
Si、SiO2、MgO原料をそれぞれ6(Si):4.5(SiO2):1.5(MgO)のモル比で粉末混合器に投入した後、均質混合して原料を製造した。
【0130】
前記原料を0.1torr以下の真空チャンバ内のるつぼに26kg入れてから1,400℃に加熱して気化させた後、400℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物(バルク型二次電池用負極材)を平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程により粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングし、炭素コーティングされた負極材粉末を製造した。
【0131】
(比較例2)
SiとSiO2混合原料24kgをるつぼAに、金属Mg塊2kgをるつぼBに入れて、るつぼAは1,500℃、るつぼBは900℃にそれぞれ加熱して気化させた後、900℃の捕集板で凝縮させてマグネシウムドーピングシリコン酸化物を得た。
【0132】
得られたマグネシウムドーピングシリコン酸化物(バルク型二次電池用負極材)を平均粒径5μmに機械式粉砕して粒子状の負極材を製造し、炭化水素ガスを活用して850℃のCVD工程により粒子状負極材に5重量%で炭素をコーティングし、炭素コーティングされた負極材粉末を製造した。
【0133】
(比較例3)
実施例1と同様に実施するが、Si原料のみを使用したことと2200℃で加熱した以外は、同様に実施した。
【0134】
(実験例1)ドーピング元素含量偏差
粉砕の前にマグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例2)や熱処理によって得られたバルク型二次電池負極材(実施例1)の中心を横切る断面を基準として、EDS(Electron Disperse Spectroscopy)により断面の中心を横切る線形組成で任意の100個地点を測定して算出したドーピング元素の平均含量(wt%)をA、含量の標準偏差をBとして計算し、これを
図1に図示した。組成分析の結果、実施例1で製造された負極材サンプルのB/Aは0.25であり、比較例2の場合、B/Aは0.69であった。
【0135】
さらに、実施例1の負極材を粉砕した後、150個の負極材粒子をサンプリングした後、負極材粒子の間に含まれるドーピング元素の組成均一性を分析した。この際、負極材粒子間の平均ドーピング元素組成(wt%)をドーピング元素組成の標準偏差で除した値であるUF(D)は6.2として確認された。
【0136】
(実験例2)X-線回折(XRD)分析
粉砕後の負極材をX-線回折(XRD、Rigaku D/MAX-2500/PC、40kV、15mA、4゜min-1、Cu-Kα放射線、λ=0.15406nm)分析により構造を確認した。
【0137】
図2は実施例1~実施例3および比較例3のXRDパターンを図示した図であり、図面から分かるように、実施例1~実施例3および比較例3は、いずれも約28゜の位置で結晶質シリコン(111)のピークが観察され、実施例1~実施例3の回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置するピークは、ブロードなピークを示したのに対し、比較例3の場合は、回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置するピークが存在しないことを確認した。これより、実施例1~実施例3は、非晶質のシリコン酸化物を含むことが分かり、比較例3は、非晶質のシリコン酸化物を含んでおらず、これより、非晶質のシリコン酸化物を含む実施例1~実施例3は、二次電池の充電時に体積膨張に対して緩衝作用を行うことができることから、二次電池の容量維持率の面で有利である。
【0138】
さらに、X線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの面積(A1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの面積(A2)との比(A1/A2)を比較すると、実施例1~実施例3は0.8~6の範囲として確認された。
【0139】
さらに、X線回折パターンで回折角2θが10゜~27.4゜の範囲に位置する第1ピークの最大強度(I1)と28±0.5゜の範囲に位置する第2ピークの最大強度(I2)との強度比(I1/I2)を比較すると、実施例1~実施例3は0.1~1.25の範囲として確認され、第1ピークのFWHM(L1)と第2ピークのFWHM(L2)との比(L1/L2)を比較分析した結果、実施例1~実施例3は6~12の範囲として確認された。
【0140】
(実験例3)ラマン分析
粉砕後、負極材のμ-Raman(装備名:XperRam c、ナノベース、韓国)分析でシリコンのラマン信号を基準として下記のような条件で行った。負極材粉末のラマン信号を
図3に図示した。
図3に図示したように、実施例1で製造された負極材のシリコンラマン信号(ピーク中心)は523.6cm
-1であり、残留圧縮応力を有することが分かり、比較例で製造された負極材は、残留引張応力を有することが分かる。また、実施例1で製造されたシリコンラマン信号のFWHMを測定した結果、FWHMが12cm
-1と単結晶シリコンラマン信号(図面のC-Si(ref)のFWHMより大きいことを確認した。
【0141】
分析条件:励起レーザ波長532nm、レーザパワー0.5mW、分光計の解像度(resolution)1cm-1、粉末状負極材1g、検出器露出時間15s
【0142】
ラマン測定結果および下記式を用いて、シリコンに残留する応力を計算し、粒子状負極材でのシリコン残留応力とバルク状負極材でのシリコン残留応力を表1に整理した。表1に比較例の結果とともに整理したように、実施例1で製造された負極材の場合、シリコンがバルク形態では0.74GPaの残留圧縮応力を、粒子状では0.29GPaの残留圧縮応力を有することが分かり、比較例1の場合、非晶質相のSiが、比較例2の場合、Siが圧縮応力ではない引張応力を有することが分かる。
【0143】
【0144】
ここで、σは、残留応力、△ωは、単結晶シリコンラマン信号(
図3のSi(ref)、520.4cm
-1)に対して測定されたサンプルのラマン信号の差(=測定されたシリコンラマン信号波数-単結晶シリコンラマン信号波数)であり、この際、△ωが正の値である場合、圧縮応力、負の値である場合、引張応力を意味する。
【0145】
粉砕前、マグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例1)や熱処理によって得られたバルク型二次電池負極材(実施例1)のμ-Raman分析(装備人:XperRam c、ナノベース、韓国)でシリコンのラマン信号を基準とした二次元マッピング分析を下記のような条件で行い、マッピング結果を
図4に図示した。実施例1で製造された負極材の場合、すべてのピクセルでシリコンラマンピークが検出され、各ピクセル別の偏移=WN
i(Si)-WN(ref)を測定した結果、偏移の範囲が2.86(最小値)~4.58(最大値)であることを確認した。
【0146】
マッピング条件:励起レーザ波長=532nm、レーザパワー=0.1mW、検出器露出時間(単位分析領域当たり露出時間)1sec、焦点距離(focal length)=30mm、グレーチング(grating)=1800grooves/mm、ピクセル解像度=1cm-1、マッピング大きさ=14μm×14μm
【0147】
さらに、20mm×20mmの大きさの粉砕前の負極材でランダムに選択された20個の互いに異なる位置で前記のような条件でシリコンのラマン信号を基準とした偏移分析を行った結果、互いに相違する位置に測定された偏移の範囲が2.42(最小値)~4.86(最大値)であることを確認した。また、ランダムな20個の互いに異なる位置でシリコンナノ粒子の応力分析の時に、シリコンナノ粒子は88~99%の範囲内で圧縮応力を有することを確認した。
【0148】
(実験例4)機械的物性
粒子強度の測定は、島津製作所製の微小圧縮試験機MCT-Wを使用して圧縮強度を測定した。直径が10μmである任意の粒子10個に対して粒子強度を測定し、その測定結果を表1に整理した。
【0149】
前記微小圧縮試験機は、粒子に力を加え続け、この時に粒子が割れる圧力が粒子強度として規定され、これを自動で測定する。
【0150】
粉砕の前に、マグネシウムドーピングシリコン酸化物(比較例1)や熱処理によって得られたバルク型二次電池負極材(実施例1)の断面を対象にナノインデンテーション試験装置(Anton Paar、オーストリア)を活用して試験を行った。ナノインデンテーション試験(インデンタ)の場合、ISO 14577-1 Eの測定基準に準じており、測定条件は、バーコビッチ圧子(Berkovich indenter)を使用してポアソン比を0.3と仮定し、最大荷重50mN、荷重印加速度100mN/minで行った。この際、圧子による圧入痕跡基準圧入痕跡の間の隔離距離が少なくとも10μm以上であるが5×5~25×25のマトリックス形態で行った。
【0151】
(実験例5)電池製造および電池性能評価
最終負極材粉末を活物質として使用して活物質:導電材(carbon black):CMC(Carboxymethyl cellulose):SBR(styrene Butadiene Rubber)を重量比8:1:0.5:0.5で混合し、厚さ17μmの銅箔に塗布した後、90℃で40分間乾燥した。乾燥後、直径14mmに打ち抜き、直径16mmの金属リチウムを対極として使用し、直径18mmのセパレータを挟んで電解液を満たし、CR2032コイン型半電池を製作した。電解液は、EC(Ethylene carbonate)/DEC(Diethyl carbonate)を体積比1:1で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させ、3wt%のFEC(fluoroethylene carbonate)を添加剤として使用した。化成工程は、製造された電池を0.1Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.01Cに逹するまで0.005V定電圧充電した後、0.1Cの定電流で1.5Vまで放電(de-lithiation)した後(第1化成ステップ)、また、0.1Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.01Cに逹するまで0.005V定電圧充電した後、0.1Cの定電流で1.0Vまで放電(de-lithiation)(第2化成ステップ)して行った。
【0152】
充放電サイクル条件:0.5Cの定電流で0.005Vまで充電(lithiation)し、0.05Cに逹するまで0.005V定電圧充電した後、0.5Cの定電流で1.0Vまで放電(de-lithiation)、
充放電サイクル回数:50回
【0153】
一回目の充放電サイクルの放電容量を表1に容量で整理図示し、第1化成ステップでの充放電に基準とした初期効率および化成工程の後、C50/C1*100による容量維持率も表1に整理図示し、第1化成ステップ、第2化成ステップおよび充放電サイクルによる充放電容量および容量維持率をそれぞれ
図5の(a)および
図5の(b)に図示した。
【0154】
【0155】
図6は一回目の充放電サイクルでのdQ/dVグラフを図示した図であり、
図6から分かるように、Li
3.75Si反応に該当するリチウム挿入ピークが存在することが分かる。これにより、実施例1で製造された負極材のリチウム化時に、シリコン1モル当たり3.75モルのリチウムの合金化の比率でリチウム化(Lithiation)が行われることが分かる。
【0156】
図7は実施例1の高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)イメージを図示した図である。
図7から、結晶質シリコンナノ粒子の平均直径が約7.1nmであることを確認し、SADP(Selected Area Diffraction Pattern)分析結果、マトリックスが結晶質のマグネシウムシリケートを含有し、シリコンナノ粒子が結晶質のマグネシウムシリケートと整合界面をなすことを確認した。
【0157】
図面に図示していないが、粉砕およびカーボンコーティングされた負極材粉末の粒子径分布を測定した結果、負極材粉末粒子は、平均(D50)7.9μmの粒子径を有することを確認した。
【0158】
図8はリチウム化前、実施例1の負極材を含む負極活物質層の断面およびその厚さを観察した走査電子顕微鏡写真および3回目の充放電サイクル(寿命評価ステップの一回目の充放電サイクル)で0.005Vリチウム化後、負極活物質層の断面およびその厚さを観察した走査電子顕微鏡写真である。リチウム化前後の厚さ変化によって、体積膨張率が約15.5%に過ぎないことを確認した。
【0159】
以上、本発明は、特定の事項と限定された実施例および図面によって説明しているが、これは本発明のより全般的な理解を容易にするために提供されたものであって、本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から様々な修正および変形が可能である。
【0160】
したがって、本発明の思想は、上述の実施例に限って定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、本特許請求の範囲と均等または等価的な変形があるすべてのものなどは、本発明の思想の範疇に属するといえる。