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特開2023-139055量子古典コンピューティングハードウェア用いた量子コンピューティング対応の第一原理分子シミュレーションのための方法とシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139055
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】量子古典コンピューティングハードウェア用いた量子コンピューティング対応の第一原理分子シミュレーションのための方法とシステム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/60 20220101AFI20230926BHJP
【FI】
G06N10/60
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023112477
(22)【出願日】2023-07-07
(62)【分割の表示】P 2020529137の分割
【原出願日】2018-11-30
(31)【優先権主張番号】62/593,060
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522445620
【氏名又は名称】グッド ケミストリー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健
(72)【発明者】
【氏名】ザリバフィヤン,アルマン
(72)【発明者】
【氏名】松浦 俊司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】量子コンピューティングプロセッサーと古典コンピューティングプロセッサーとのハイブリッドアーキテクチャを用いて、化学系の電子構造と安定立体配座を識別する方法及びシステムを提供する。
【解決手段】方法は、化学系の立体配座の集合を判定する工程、前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程、ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程、判定したた量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせる工程及び組み合わされた量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための方法であって、該方法は、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備するハイブリッドコンピューティングシステムにより実施され、前記方法は、
(a)前記化学系の立体配座の集合を判定する工程;
(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程;
(c)前記ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程;
(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせる工程;および
(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの非古典コンピューターは、少なくとも1つの量子コンピューターを具備する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの量子コンピューターは、量子ハードウェアデバイス、および量子回路の古典シミュレーターから成る群から選択される、1つ以上の部材を具備する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記量子力学的エネルギーの所定のエネルギーは、核間反発エネルギーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ハイブリッドコンピューティングシステムに入力を行う工程をさらに含み、前記入力は、前記化学系に関する原子配位のセットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学系の立体配座の集合内の2つ以上の立体配座に対して前記(b)-(d)を実行する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合における組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を選別する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記(b)は、フラグメント分子軌道(FMO)方法、分割統治(DC)方法、密度行列埋め込み理論(DMET)方法、密度行列繰り込み群(DMRG)方法、テンソルネットワーク、および増分法から成る群から選択される1つ以上の要素を適用する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記(c)は、
(a)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の所定の分子フラグメントのフェルミオン・ハミルトニアンを判定する工程;
(b)前記フェルミオン・ハミルトニアンを同等のキュービット・ハミルトニアンに変換する工程;
(c)前記キュービット・ハミルトニアンを量子回路に変換する工程;および
(d)前記量子回路を用いて、前記所定の分子フラグメントの量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
分子ハミルトニアンを用いて前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
電子ハミルトニアンを用いて前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記フェルミオン・ハミルトニアンを同等のキュービット・ハミルトニアンに変換する工程は、ハミルトニアンのフェルミオン演算子をキュービット演算子に変換する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記化学系の第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションを実行する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記AIMDシミュレーションは、
前記(a)の前に、化学系の指標を得る工程であって、該指標は、前記化学系中の複数の粒子の各粒子の配位、および前記化学系中の各粒子の速度を含む、工程;および
前記(d)の後に
(i)前記組み合わされたエネルギーまたは電子構造から、前記化学系中の各粒子に対する力を判定し;
(ii)前記化学系中の各粒子の前記配位、および前記化学系中の各粒子の前記速度をアップデートし;および
(iii)前記配位または前記速度を示すレポートを電子出力する、工程
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記(i)は、数値勾配推定のヨルダン量子アルゴリズムを前記量子力学的エネルギーまたは電子構造に適用する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記(ii)は、ベレ法、速度ベレ法、シンプレクティック積分、ルンゲ=クッタ積分、およびビーマン積分から成る群から選択された1つ以上の要素を適用する工程を含む、請求項14に記載。
【請求項17】
化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するためのシステムであって、該システムは、
前記化学系に対して前記量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための命令を含むメモリー;および
前記メモリーに動作可能につなげられたハイブリッドコンピューティングシステム
を含み、
前記ハイブリッドコンピューティングシステムは、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備し、かつ、前記命令に少なくとも、
(a)前記化学系の立体配座の集合を判定させ;
(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ;
(c)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定させ;
(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせ;および
(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力させる
ように構成される、システム。
【請求項18】
機械実行可能コードを含む非一時的コンピューター可読媒体であって、前記コードは、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備するハイブリッドコンピューティングシステムによる実行後、化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための方法を実施し、該方法は、
(a)前記化学系の立体配座の集合を判定する工程;
(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程;
(c)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程;
(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせる工程;および
(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力する工程
を含む、非一時的コンピューター可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2017年11月30日出願の米国仮特許出願第62/593,060号の利益を主張するものであり、該出願は、すべての目的のために引用によって本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
化学と生物学において、分子における電子構造とエネルギー的に最も安定した配座異性体の識別と予測は、分子機能が生得的に分子立体配座に包埋されているので、特に重要とされている。例えば、触媒された反応中の反応速度は、触媒の様々な異なる立体配座のうちどれが使用されるかに基づいて大幅に変動し得ることが知られている。別の例として、タンパク質は、ある種の3次元構造の形成時にのみ機能することも知られている。
【0003】
電子構造とエネルギー的に最も安定した配座異性体を正確に識別かつ予測するために、高度に正確な量子科学方法、例えば、結合クラスター理論(CC)または完全配置間相互作用(Full CI)などが通常実行される。しかし、このような方法の計算コストは、分子のサイズとともに指数関数的に上昇する場合があり、多くの場合、現行の最先端技術の古典コンピューターで実行しても、分子のサイズがCCでは約50の原子、およびFull CIでは約10の原子を超える場合、手に負えなくなる。そのため、非常に効率的かつ正確な計算フレームワークが、工業関連の化学化合物や生物学関連の巨大分子の最も安定した配座異性体を識別するのに望ましい。
【0004】
量子計算(QC)技術は、計算資源が古典コンピューティングに比べて指数関数的に少ない、分子の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を計算できる場合がある。ゆえに、古典コンピューティングを用いた困難な高精度量子化学計算は、QC手法を使用して処理しやすくなる場合がある。しかし、QC手法は、高価で希少なQC資源といった難問に直面する場合がある。加えて、量子コンピューター中のキュービットの数の増大は技術的な難問であり、そのせいで量子コンピューティングデバイスのサイズが制限されている。さらに、キュービットはノイズや環境効果に非常に敏感であり、このノイズや環境効果により短時間でキュービットにデコヒーレンスが生じてしまい、これにより有意な計算の実行のために比較的小さな窓がもたらされる。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、複雑な量子化学の問題を解くために現行および近い将来の量子コンピューティングシステムを効率的に活用する量子アルゴリズムと回路の必要性が認識される。
このための1つの手法は、所定の工業規模の問題を下位の問題へと分解し、より複雑な下位の問題を識別し、量子コンピューターを用いることで古典コンピューターでは困難であった下位の問題のみを処理することである。
【0006】
本明細書に提供されるシステムと方法は、分子における電子構造とエネルギー的に最も安定した配座異性体のセットの識別と予測に向けて、量子化学における問題分解(PD)技術を利用する。このようなPD技術には、本明細書に記載されるように、フラグメント分子軌道(FMO)方法、分割統治(DC)方法、密度行列埋め込み理論(DMET)方法、密度行列繰り込み群(DMRG)方法、テンソルネットワーク、および増分法などが挙げられる場合がある。
【0007】
量子化学において、PD技術は、古典的なコンピューティングを用いて合理的な精度をもって分子エネルギーおよび/または電子構造を効率的に計算するべく開発されている。PD技術において、分子は、さらに小さなフラグメントへと分解され、その結果、量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算が各フラグメントに対して処理しやすくなる場合がある。量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は、各フラグメントに対して個々に実行される場合がある。各フラグメントから生じる量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は、元の分子に対する解法へと再び結合される場合がある。
【0008】
本明細書に提供される、QCプラットフォーム上でPD技術を実行するためのシステムと方法は、量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算を、各フラグメントに対して高水準の精度で実行することを可能にし得る。さらに、各フラグメントのサイズが小さいことで、非常に正確な計算を、QCデバイス上で実行することが可能となる場合があり、このQCデバイス上では、計算のスケールがむしろ制限され、これにより、複雑な工業関連の分子のエネルギーおよび/または電子構造が効率的かつ正確に得られる。
【0009】
分子における電子構造とエネルギー的に最も安定した配座異性体の識別は、化学および生物学に関連する研究開発における基本的なプロセスである。このようなプロセスは、分子を実際に合成し、かつ、様々な物理化学的測定を用いることでその電子構造と立体配座を識別することにより実行できる一方、このような実験プロセスは通常、非常に大量の資源、例えば人間の努力や時間などを必要とする。ゆえに、本開示により提供されるものといった、非常に効率的で正確な計算の方法とシステムは、このような資源の必要性を大幅に減らし、一般的な研究開発をより効率的なものとすることができる。さらに、本明細書に記載される方法とシステムは、単一の化学系構造(例えば、化学化合物や生体分子)だけでなく、異なる関連性を持つ分子集合体に適用できる。例えば、本明細書に開示される方法とシステムは、起こり得る結合配向の集合から判定される、標的タンパク質と比べて最も安定した、薬物候補の結合配向の識別に対して適用できる。
【0010】
本開示は、量子コンピューティングプロセッサーと古典コンピューティングプロセッサーとのハイブリッドアーキテクチャを用いて、化学系(例えば分子)の電子構造と安定立体配座を識別するための、方法とシステムを提供する。方法は、分子の指標を得る工程;分子の立体配座の集合を算出または取得する工程;および(リスト中に随意に保管され得る)各立体配座に対して化学系をフラグメント(下位系)へと分解する工程を含み得る。前記方法はさらに、分子の各立体配座の各フラグメントのフェルミオン・ハミルトニアン(分子ハミルトニアンまたは電子ハミルトニアン)を算出する工程;各フェルミオン・ハミルトニアンを同等のキュービット・ハミルトニアンに変換する工程;キュービット・ハミルトニアンを量子回路に変換する工程;総合的な量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の算出を必要とするキュービットの初期状態を算出する工程;量子回路の量子ハードウェアまたは古典シミュレーター上で分子量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を(例えば計算シミュレーションを通じて)生成する工程;および化学系の総エネルギーの推定値を得るために複数のフラグメントのエネルギーおよび/または電子構造を組み合わせる工程を含み得る。前記方法はさらに、立体配座の集合における全立体配座に対してこれらの操作を繰り返す工程、および、推定された総合的な量子力学的エネルギーおよび/または電子構造に基づいて立体配座の集合における立体配座を選別する工程を含む。前記方法はさらに、選別された立体配座集合の指標(例えば、リスト中のもの)を提供する工程を含む。
【0011】
一態様において、本発明は、化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための方法を提供し、該方法は、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備するハイブリッドコンピューティングシステムにより実施され、前記方法は、(a)前記化学系の立体配座の集合を判定する工程;(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程;(c)前記ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程;(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせる工程;および(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力する工程を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの非古典コンピューターは、少なくとも1つの量子コンピューターを具備する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの量子コンピューターは、量子ハードウェアデバイス、および量子回路の古典シミュレーターから成る群から選択される、1つ以上の部材を具備する。いくつかの実施形態において、量子力学的エネルギーの所定のエネルギーは、核間反発エネルギー(nuclear-nuclear repulsion energy)を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ハイブリッドコンピューティングシステムに入力を行う工程をさらに含み、前記入力は、前記化学系に関する原子配位のセットを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記化学系の立体配座の集合内の2つ以上の立体配座に対して前記(b)-(d)を実行する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合における組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を選別する工程をさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記(b)は、フラグメント分子軌道(FMO)方法、分割統治(DC)方法、密度行列埋め込み理論(DMET)方法、密度行列繰り込み群(DMRG)方法、テンソルネットワーク、および増分法から成る群から選択される1つ以上の要素(member)を適用する工程を含む。
【0015】
前記(c)は、(a)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の所定の分子フラグメントのフェルミオン・ハミルトニアン(fermionic Hamiltonian)(分子ハミルトニアンまたは電子ハミルトニアン)を判定する工程;(b)前記フェルミオン・ハミルトニアンを同等のキュービット・ハミルトニアンに変換する工程;(c)前記キュービット・ハミルトニアンを量子回路に変換する工程;および(d)前記量子回路を用いて、前記所定の分子フラグメントの量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、分子ハミルトニアンを用いて前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、電子ハミルトニアンを用いて前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記フェルミオン・ハミルトニアンを同等のキュービット・ハミルトニアンに変換する工程は、ハミルトニアンのフェルミオン演算子をキュービット演算子に変換する工程を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記化学系の第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションを実行する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記AIMDシミュレーションは、前記(a)の前に、化学系の指標を得る工程であって、該指標は、前記化学系中の複数の粒子の各粒子の配位、および前記化学系中の各粒子の速度を含む、工程;および前記(d)の後に、(i)前記組み合わされたエネルギーまたは電子構造から、前記化学系中の各粒子に対する力を判定し;(ii)前記化学系中の各粒子の前記配位、および前記化学系中の各粒子の前記速度をアップデートし;および(iii)前記配位または前記速度を示すレポートを電子出力する、工程を含む。いくつかの実施形態において、前記(i)は、数値勾配推定のヨルダン量子アルゴリズムを前記量子力学的エネルギーまたは電子構造に適用する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記(ii)は、ベレ法、速度ベレ法、シンプレクティック積分、ルンゲ=クッタ積分、およびビーマン積分から成る群から選択された1つ以上の要素を適用する工程を含む。
【0017】
別の態様において、化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するためのシステムは、前記化学系に対して前記量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための命令を含むメモリー;および前記メモリーに動作可能につなげられたハイブリッドコンピューティングシステムを具備することができ、前記ハイブリッドコンピューティングシステムは、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備し、かつ、前記命令に少なくとも、(a)前記化学系の立体配座の集合を判定させ;(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ;(c)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定させ;(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせ;および(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力させるように構成される。
【0018】
別の態様において、非一時的コンピューター可読媒体は機械実行可能コードを具備する場合があり、前記コードは、少なくとも1つの古典コンピューターおよび少なくとも1つの非古典コンピューターを具備するハイブリッドコンピューティングシステムによる実行後、化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための方法を実施し、該方法は、(a)前記化学系の立体配座の集合を判定する工程;(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程;(c)前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーまたは電子構造を判定する工程;(d)前記(c)において判定された前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を組み合わせる工程;および(e)前記(d)において組み合わされた前記量子力学的エネルギーまたは電子構造を示すレポートを電子出力する工程を含む。
【0019】
本開示の付加的な態様と利点は、以下の詳細な説明から当業者に容易に明白となり、ここでは、本開示の例示的な実施形態のみが示され、かつ記載される。以下の記載から分かるように、本開示は、その他および異なる実施形態においても実施可能であり、その様々な詳細は、全てが本開示から逸脱することなく、様々な明白な観点から修正可能である。従って、図面とその説明は、事実上例示的とみなされるが、限定的とはみなされない。
【0020】
引用による組み込み
本明細書で言及される出願公開、特許、および特許出願は全て、あたかも個々の出願公開、特許、または特許出願がそれぞれ引用により組み込まれるように具体的かつ個々に指示されるかのごとく同じ程度にまで、引用により本明細書に組み込まれる。引用により組み込まれる刊行物および特許または特許出願が、本明細書に含まれる開示に矛盾する程度まで、本明細書は、そのような矛盾のある題材に取って代わる、および/または、それに先立つように意図される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の新規な特徴は、とりわけ添付の特許請求の範囲に説明される。本発明の特徴と利点のより良い理解は、本発明の原理が用いられる実施形態を説明する以下の詳細な説明と、以下の添付図面とを参照することによって得られる。
図1】本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で問題分解技術を用いた分子の配座異性体の選別リストの指標を提供するための方法の一例に関する、フローチャートを示す。
図2】本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で、問題分解技術により規定される、下位系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の指標を提供するための方法の一例に関する、フローチャートを示す。
図3】本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上でハミルトニアンの期待値の指標を提供するための方法の一例に関する、フローチャートを示す。
図4】n-ヘプタンの典型例であり、ここでは、点線は、フラグメント分子軌道(FMO)断片化における結合切断原子(bond detached atom)を示す。
図5】n-ヘプタンの典型例であり、正確なCCSDにより得た結果と分割統治CCSD(DC-CCSD)により得た結果との比較、および正確なCCSDにより得た結果とフラグメント分子軌道CCSD(FMO-CCSD)により得た結果との比較が示されている。
図6】n-ヘプタンの典型例であり、配座異性体を適応させるのに必要な最小の球体(点線の円)、および二面角に関与する末端炭素原子間の距離(実線)(1-4の距離)[左];配座異性体の各々に対する総合的な量子力学的エネルギー(左の矢印)と最小の球体の直径(右の矢印)との関係を示すプロットであって、それらは総合的な量子力学的エネルギーに基づいて選別される、プロット[中央];および各配座異性体に対する総合的な量子力学的エネルギー(左の矢印)と最小の1-4の距離(右の矢印)との関係を示すプロット[右]が示されている。
図7】3-メチルヘプタンの典型例であり、ここでは、点線は、フラグメント分子軌道(FMO)断片化における結合切断原子を示す。
図8】n-ヘプタン(青)と3-メチルヘプタン(赤)に対する量子力学的エネルギー分布を示す。
図9】3-メチルヘプタンの典型例であり、正確なCCSDにより得た結果と分割統治CCSD(DC-CCSD)により得た結果との比較、および正確なCCSDにより得た結果とフラグメント分子軌道CCSD(FMO-CCSD)により得た結果との比較が示されている。
図10】本明細書で提供される方法を実施するようにプログラムまたは構成されるコンピューター制御システムを示す。
図11】問題分解を実行する増分法の一例に関する、フローチャートを示す。
図12】増分法の基礎として使用される分子軌道、原子、分子フラグメント、および分子を示す。
図13】本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で問題分解技術を用いて分子に第一原理分子動力学(AIMD)を実行する方法の一例に関する、フローチャートを示す。
図14】本明細書に開示される実施形態に係る、第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションにおける系の各粒子に対する力を算出するための方法(1400)の一例に関する、フローチャートを示す。
図15】量子化学問題またはシミュレーションといった本開示の問題を解くために使用され得るシステム、またはその組み合わせの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の様々な実施形態が本明細書中に示され記載されてきたが、そのような実施形態はほんの一例として提供されることは、当業者に明白である。多数の変形、変更、および置き換えは、本発明から逸脱することなく、当業者によって想到され得る。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な代案が利用され得ることを理解されたい。
【0023】
別段の定めのない限り、本明細書で使用される全ての技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書と添付の請求項で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、他に文脈が明確に指定しない限り、複数の指示対象を含む。本明細書中の「または」へのあらゆる言及は、別段の定めがない限り、「および/または」を包含するように意図される。
【0024】
用語「少なくとも」、「~より大きい」、または「~以上」が一連の2つ以上の数値における最初の数値の前に付けられる場合は常に、用語「少なくとも」、「~より大きい」、または「~以上」は、一連の数値における数値の各々に適用される。例えば、1、2、または3以上は、1以上、2以上、または3以上と同等の意味である。
【0025】
用語「多くとも」、「~未満」、または「~以下」が一連の2つ以上の数値における最初の数値の前に付けられる場合は常に、用語「多くとも」、「~未満」、または「~以下」は、一連の数値における数値の各々に適用される。例えば、3、2、または1以下は、3以下、2以下、または1以下と同等の意味である。
【0026】
以下の詳細な説明において、その一部を形成する添付図面に対する言及が行われる。図面において、文脈が他に明示していない限り、同様の記号は通常、同様の構成要素を特定する。詳細な説明に記載される例示的実施形態、図面、および請求項は、制限を意図したものではない。本明細書に提示される主題の範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用され、かつ他の変更が行われてもよい。全体的に本明細書に記載され、かつ図面に例示されるように、本開示の態様は、種々様々な異なる構成で配置され、置き換えられ、組み合わせられ、分離され、かつ設計される場合があり、そのすべてが本明細書で明確に考慮されることが、容易に理解されることになる。
【0027】
本発明は、化学系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の識別と予測、または、分子のエネルギー的に最も安定した配座異性体のセットの識別に向けて、量子化学における問題分解(PD)技術を適用する方法を提供する。本明細書で提供されるシステムと方法により、量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算を、各フラグメントに対して高水準の精度で実行することを可能にし得る。さらに、各フラグメントのサイズが小さいことで、非常に正確な計算を、QCデバイス上で実行することが可能となる場合があり、このQCデバイス上では、計算のスケールがむしろ制限され、これにより、複雑な工業関連の分子のエネルギーおよび/または電子構造が効率的かつ正確に得られる。本明細書に記載される方法とシステムは、単一の化学系構造だけでなく、異なる関連性を持つ分子集合体に適用できる。例えば、本明細書に開示される方法とシステムは、起こり得る結合配向の集合からの、標的タンパク質への薬物候補の結合配向の識別に対して適用できる。
【0028】
いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、1つ以上の古典アルゴリズムを実行するように構成され得る。古典アルゴリズム(または古典計算タスク)は、量子コンピューター、量子準備(quantum-ready)コンピューターサービス、または量子対応コンピューターサービスを使用することなく1つ以上の古典コンピューターによって実行可能な、アルゴリズム(または計算タスク)を含む場合がある。古典アルゴリズムは非量子アルゴリズムを含む場合がある。古典コンピューターは、量子コンピューター、量子準備コンピューターサービス、または量子対応コンピューターを含まないコンピューターを具備する場合がある。古典コンピューターは、量子ビット(キュービット)ではなくデジタルビット(例えば、ゼロ(「0」)と一つ(「1」))により表されるデータを処理または記憶できる。古典コンピューターの例には、限定されないが、サーバーコンピューター、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ノートブックコンピューター、サブノートブックコンピューター、ネットブックコンピューター、ネットパッドコンピューター、セットトップコンピューター、メディアストリーミングデバイス、ハンドヘルドコンピューター、インターネット家電、モバイルスマートフォン、タブレットコンピューター、携帯情報端末、ビデオゲームコンソール、および媒体が挙げられる。
【0029】
ハイブリッドコンピューティングシステムは、古典コンピューターおよび量子コンピューターを具備し得る。量子コンピューターは、計算問題(例えば、量子化学シミュレーションの少なくとも一部)を解くために1つ以上の量子アルゴリズムを実行するように構成され得る。1つ以上の量子アルゴリズムは、量子コンピューター、量子準備コンピューターサービス、または量子対応コンピューターサービスを使用して実行され得る。例えば、1つ以上の量子アルゴリズムは、「METHODS AND SYSETMS FOR QUANTUM READY AND QUANTUM ENABLED COMPUTATIONS」と題された米国特許出願公開第2018/0107526号に記載されるシステムまたは方法を使用して実行でき、本公報はその全体を引用により本明細書に組み込まれるものとする。古典コンピューターは、少なくとも1つの古典プロセッサーおよびコンピューターメモリーを含む場合があり、かつ、計算問題(例えば、量子化学シミュレーションの少なくとも一部)を解くために1つ以上の古典アルゴリズムを実行するように構成され得る。デジタルコンピューターは少なくとも1つのコンピュータープロセッサーおよびコンピューターメモリーを含み、ここで、デジタルコンピューターは、アプリケーションをレンダリングするために少なくとも1つのコンピュータープロセッサーにより実行可能な命令を備えたコンピュータープログラムを含み得る。本出願は、ユーザーによる量子コンピューターおよび/または古典コンピューターの使用を容易にできる。
【0030】
一部の実装は、パーソナルデスクトップ、ラップトップ、スーパーコンピューター、分散型コンピューティング、クラスター、クラウドベースのコンピューティングリソース、スマートフォン、またはタブレットなど、ビット上で作動する古典コンピューターと共に量子コンピューターを使用し得る。
【0031】
前記システムは、ユーザー用のインターフェースを具備し得る。いくつかの実施形態において、インターフェースは、アプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)を具備し得る。インターフェースは、量子コンピューターの内部詳細(例えば、アーキテクチャとオペレーション)を(例えば、ユーザーから隠すことにより)取り除くプログラミングモデルを提供し得る。いくつかの実施形態において、インターフェースは、量子ハードウェアの変化に応じてアプリケーションプログラムをアップデートする必要性を最小限にし得る。いくつかの実施形態において、インターフェースは、量子コンピューターの内部構造に変化が生じた場合に、変更されないままである。
【0032】
本開示は、量子コンピューティング、または量子コンピューティングの使用を含み得るシステムと方法を提供する。量子コンピューターは、あるクラスの計算タスクを古典コンピューターよりも効率的に解くことができる。しかし、量子計算資源は希少かつ高価であり、効率的または効果的に(例えば、コストに対して効率的または効果的に)使用されるべき一定水準の専門的知識を必要とし得る。多数のパラメーターは、量子コンピューターがその潜在的な計算力を伝えるために調整される場合がある。
【0033】
量子コンピューター(または他のタイプの非古典コンピューター)は、コプロセッサーとして古典コンピューターを並行して作動させることができる。古典コンピューターと量子コンピューターを具備するハイブリッドアーキテクチャ(例えば、コンピューティングシステム)は、量子化学シミュレーションなどの複雑な計算タスクに対処するのに非常に効率的であり得る。本明細書に開示されるシステムと方法は、所定の量子化学問題を効率的かつ正確に分解し(decompose or break down)、量子コンピューターまたは古典コンピューターの量子化学シミュレーションの適切な構成要素をデリゲートすることができる。
【0034】
本開示は量子コンピューターに対する言及を行ってきたが、本開示の方法とシステムは、他のタイプのコンピューターとの使用のために利用されてもよく、該コンピューターは非古典コンピューターであり得る。そのような非古典コンピューターには、量子コンピューター、ハイブリッド量子コンピューター、量子型コンピューター、または、古典コンピューター以外の他のコンピューターを含み得る。非古典コンピューターには、限定されないが、日立のイジングソルバー、光学パラメーターに基づくコヒーレントイジングマシン、および特定の分類の問題を解く際により多くの効率を得るために異なる物理的現象を利用する他のソルバーが挙げられる。
【0035】
古典コンピューター
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるシステム、媒体、ネットワーク、および方法は、古典コンピューター、またはその使用を含む。いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、古典コンピューターの機能を実行する1つ以上のハードウェア中央処理装置(CPU)を具備する。いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、実行可能命令を実行するように構成されたオペレーティングシステム(OS)をさらに具備する。いくつかの実施形態において、古典コンピューターはコンピューターネットワークに接続される。いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、ワールドワイドウェブにアクセスするようにインターネットに接続される。いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、クラウド・コンピューティング・インフラストラクチャーに接続される。いくつかの実施形態において、古典コンピューターはイントラネットに接続される。いくつかの実施形態において、古典コンピューターはデータ記憶デバイスに接続される。
【0036】
本明細書の記載に従い、適切な古典コンピューターには、非限定的な例として、サーバーコンピューター、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ノートブックコンピューター、サブノートブックコンピューター、ネットブックコンピューター、ネットパッドコンピューター、セットトップコンピューター、メディアストリーミングデバイス、ハンドヘルドコンピューター、インターネット家電、モバイルスマートフォン、タブレットコンピューター、携帯情報端末、ビデオゲームコンソール、および媒体が挙げられる。スマートフォンは、本明細書に記載される方法とシステムとの使用に適している場合がある。選択したテレビ、ビデオプレーヤー、およびデジタル音楽プレーヤーは、場合によってはコンピューターネットワーク接続性を有し、本明細書に記載されるシステムと方法での使用に適している場合がある。適切なタブレットコンピューターは、ブックレット、スレート、およびコンバーチブル型の構成を備えたものが挙げられ得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、実行命令を実行するように構成されたオペレーティングシステムを具備する。オペレーティングシステムは、例えば、デバイスのハードウェアを管理するとともにアプリケーションの実施のためのサービスを提供する、プログラムおよびデータを含む、ソフトウェアであり得る。適切なサーバー・オペレーティング・システムには、限定されないが、FreeBSD、OpenBSD、NetBSD(登録商標)、Linux(登録商標)、Apple(登録商標)、Mac OS X Server(登録商標)、Oracle(登録商標)Solaris(登録商標)、Windows Server(登録商標)、およびNovell(登録商標)NetWare(登録商標)が挙げられる。適切なパーソナルコンピューターのオペレーティングシステムには、Microsoft(登録商標)Windows(登録商標)、Apple(登録商標)Mac OS X(登録商標)、UNIX(登録商標)、および、GNU/Linux(登録商標)などのUNIX(登録商標)様のオペレーティングシステムが挙げられる。いくつかの実施形態において、オペレーティングシステムは、クラウドコンピューティングにより設けられる。適切なモバイルスマートフォンのオペレーティングシステムには、限定されないが、Nokia(登録商標)Symbian(登録商標)OS、Apple(登録商標)iOS(登録商標)、Research In Motion(登録商標)BlackBerry OS(登録商標)、Google(登録商標)Android(登録商標)、Microsoft(登録商標)Windows Phone(登録商標)OS、Microsoft(登録商標)Windows Mobile(登録商標)OS、Linux(登録商標)、およびPalm(登録商標)WebOS(登録商標)が挙げられる。適切なメディアストリーミングデバイスのオペレーティングシステムには、非限定的な例として、Apple TV(登録商標)、Roku(登録商標)、Boxee(登録商標)、Google TV(登録商標)、Google Chromecast(登録商標)、Amazon Fire(登録商標)、およびSamsung(登録商標)HomeSync(登録商標)が挙げられる。適切なビデオゲームコンソールのオペレーティングシステムには、非限定的な例として、はSony(登録商標)PS3(登録商標)、Sony(登録商標)PS4(登録商標)、Microsoft(登録商標)Xbox 360(登録商標)、Microsoft Xbox One、Nintendo(登録商標)Wii(登録商標)、Nintendo(登録商標)Wii U(登録商標)、およびOuya(登録商標)が挙げられる。
【0038】
いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、記憶デバイスおよび/またはメモリーデバイスを具備する。いくつかの実施形態において、記憶デバイスおよび/またはメモリーデバイスは、一時的または恒久的にデータやプログラムを記憶するために使用される1つ以上の物理装置である。いくつかの実施形態において、デバイスは揮発性メモリーであり、記憶した情報を維持するために電力を必要とする。いくつかの実施形態において、デバイスは不揮発性メモリーであり、古典コンピューターに電力供給されない場合にも記憶した情報を保持する。いくつかの実施形態において、不揮発性メモリーはフラッシュメモリーを含む。いくつかの実施形態において、不揮発性メモリーは、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー(DRAM)を含む。いくつかの実施形態において、不揮発性メモリーは、強誘電体ランダムアクセスメモリー(FRAM(登録商標))を含む。いくつかの実施形態において、不揮発性メモリーは、相変化ランダムアクセスメモリー(PRAM)を含む。他の実施形態において、デバイスは記憶デバイスであり、限定されないが、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリーデバイス、磁気ディスクドライブ、磁器テープドライブ、光ディスクドライブ、およびクラウドコンピューティングベースの記憶装置が挙げられる。いくつかの実施形態において、記憶デバイスおよび/またはメモリーデバイスは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0039】
いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、ユーザーに視覚情報を送るためのディスプレイを具備する。いくつかの実施形態において、ディスプレイはブラウン管(CRT)である。いくつかの実施形態において、ディスプレイは液晶ディスプレイ(LCD)である。いくつかの実施形態において、ディスプレイは薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)である。いくつかの実施形態において、ディスプレイは有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイである。いくつかの実施形態において、OLEDディスプレイは、パッシブ・マトリクス型OLED(PMOLED)、またはアクティブ・マトリクス型OLED(AMOLED)ディスプレイである。いくつかの実施形態において、ディスプレイはプラズマディスプレイである。他の実施形態において、ディスプレイはビデオプロジェクターである。いくつかの実施形態において、ディスプレイは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0040】
いくつかの実施形態において、古典コンピューターは、ユーザーから情報を受信するための入力デバイスを具備する。いくつかの実施形態において、入力デバイスはキーボードである。いくつかの実施形態において、入力デバイスはポインティングデバイスであり、限定されないが、マウス、トラックボール、トラックパッド、ジョイスティック、ゲームコントローラー、またはスタイラスが挙げられる。いくつかの実施形態において、入力デバイスは、タッチスクリーンまたはマルチタッチスクリーンである。いくつかの実施形態において、入力デバイスは、声または他の音声入力を捕らえるマイクロフォンである。いくつかの実施形態において、入力デバイスは、動作または視覚の入力を捕らえるビデオカメラなどのセンサーである。いくつかの実施形態において、入力デバイスは、KinectやLeap Motionなどである。いくつかの実施形態において、入力デバイスは、本明細書に開示されるものなどのデバイスの組み合わせである。
【0041】
非一時的コンピューター可読記憶媒体
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるシステムと方法は、随意にネットワーク化されたデジタル処理装置のオペレーティングシステムによって実行可能な命令を含むプログラムでコードされた、1つ以上の非一時的コンピューター可読記憶媒体を具備する。いくつかの実施形態において、コンピューター可読記憶媒体は、古典コンピューターの有形要素である。いくつかの実施形態において、コンピューター可読記憶媒体は、古典コンピューターから随意に取り外し可能である。いくつかの実施形態において、コンピューター可読記憶媒体には、限定されないが、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリーデバイス、固体記憶装置、磁気ディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ、クラウドコンピューティングシステム、およびサービスなどが挙げられる。場合によっては、プログラムと命令は、永続的に、ほぼ永続的に、半永続的に、または非一時的に、媒体上でコードされる。
【0042】
化学系の安定した立体配座を効率的に識別するための、本開示の方法の実施形態を後述する。
【0043】
標的となる化学系の識別
古典コンピューターと量子コンピューターとを具備するハイブリッドコンピューティングシステムを使用して、化学系に対する量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算を実行できる。例えば、そのようなハイブリッドコンピューティングシステムを使用して、化学系(例えば分子)の安定した立体配座を効率的に識別する方法を実行できる。
【0044】
図1は、本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で問題分解技術を用いた分子の配座異性体の選別リストの指標を提供するための方法(100)の一例に関する、フローチャートを示す。
【0045】
方法(100)は、操作(102)に従い入力分子の指標を得る工程を含み得る。本明細書に開示される方法(100)は、あらゆる種類の化学系に適用可能であり得る。化学系は、例えば、有機化合物、無機化合物、ポリマー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物などを含み得る。本明細書に開示される方法はまた、1つ以上のタンパクと薬物との複合体などの分子の複合体(溶媒分子を含む、または除外する)にも適用可能であり得る。
【0046】
配座異性体の集合の生成
方法(100)は、化学系の立体配座の集団を判定する工程を含み得る。例えば、方法(100)は、操作(104)に従い入力化学系の配座異性体の集団(例えば、リスト)を生成する工程を含み得る。様々な異なる手法を使用して、所定の化学系の配座異性体を列挙できる。いくつかの実施形態において、完全な配座異性体サンプラーを使用することもでき、その中で分子の配座立体は、化学系中の回転可能な結合まわりの二面角すべてを変えることでサンプリングされる。いくつかの実施形態において、モンテカルロ・シュミレーションまたは分子動力学的シミュレーションを実行して、配座異性体の集団を生成できる。別の実施形態において、分子の配座異性体の集団は、化学系情報を含む入力として与えられる。
【0047】
配座異性体の集団からの配座異性体の選択と処理
方法(100)は、操作(106)に従い、配座異性体の集団またはリスト(例えば、順序付けしたリスト)から配座異性体を選択する工程、および、選択された配座異性体に対して操作(108)、(110)、(112)、(114)、(116)、および/または(120)のうち、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7つ、または、それらのうち多くとも7、6、5、4、3、2、または1つを実行する工程を、含み得る。操作(108)、(110)、(112)、(114)、(116)、および/または(120)のうち、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7つ、または、それらのうち多くとも7、6、5、4、3、2、または1つは、配座異性体の集団における各配座異性体に対して実行され得る。
【0048】
(a)化学系のPD断片化
方法(100)は、集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程を含み得る。例えば、方法(100)は、操作(108)に従い、複数のより小さなフラグメントまたは下位系(例えばリスト)へと化学系を分解する(例えば、化学系上で問題分解を実行する)工程を含み得る。系を下位系に分解する特定のスキームは、使用するPD技術に応じて変更され得る。一般的に、適切なPDフラグメント(「フラグメント」)サイズは、フラグメントの処理に必要な計算資源が、使用される量子古典ハードウェアの能力を超えないように、選択され得る。
【0049】
化学系に対する様々な断片化手法は、以下を含むがこれらに限定されない使用に適している場合がある:(i)分割統治(DC)、(ii)フラグメント分子軌道(FMO)、(iii)密度行列埋め込み理論(DMET)、(iv)密度行列繰り込み群(DMRG)、(v)テンソルネットワーク、(vi)増分方(図11に関して本明細書に記載されるような)など。
【0050】
例えば、FMO方法は、「Kitaura et al., “Fragment molecular orbital method: an approximate computational method for large molecules,” Chemical Physics Letters, 1999, 313, 701」によって最初に説明され、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。FMO方法は、多くの系、例えば、「Fedorov et al., “Exploring chemistry with the fragment molecular orbital method,” Physical Chemistry Chemical Physics, 2012, 14, 7562」に記載されるものなどに適用されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。例えば、DC法は、「Yang, “Direct calculation of electron density in density-functional theory: Implementation for benzene and a tetrapeptide,” Physical Review A, 1991, 44, 7823」によって最初に説明され、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。DC法はさらに発達しており、かつ、例えば「Akama et al., “Implementation of divide-and-conquer method including Hartree-Fock exchange interaction,” Journal of Computational Chemistry, 2007, 28, 2003」と「Kobayashi et al., “Divide-and-conquer approaches to quantum chemistry: Theory and implementation,” in Linear-Scaling Techniques in Computational Chemistry and Physics: Methods and Applications, edited by Zalesny et al. (Springer Netherlands, Dordrecht, 2011), 97-127」に記載されており、両文献は各々、その全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。
【0051】
例えば、DMETは、「Knizia et al., “Density Matrix Embedding: A Simple Alternative to Dynamical Mean-Field Theory,” Physics Review Letters, 2012, 109, 186404」によって最初に説明され、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。DMETはさらに発達しており、かつ、例えば「Wouters et al., “A Practical Guide to Density Matrix Embedding Theory in Quantum Chemistry,” Journal of Chemical Theory and Computation, 2016, 12, 2706」に記載されており、両文献は各々、その全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。
【0052】
図11は、問題分解を実行する増分法(1100)の一例に関する、フローチャートを示す。方法(1100)は通常「増分法」と称され、または、利用される量子化学方法に応じて多様に称される場合がある。例えば、増分法におけるユニタリー結合クラスター(unitary coupled cluster)(UCC)方法の利用は、「増加ユニタリー結合クラスター」(iUCC)方法と称される場合がある。方法(1100)は、操作(1102)に従い分子の指標を得る工程を含み得る。本明細書に開示される方法(1100)は、あらゆる種類の分子に適用可能であり得る。分子は、例えば、有機化合物、無機化合物、ポリマー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物などを含み得る。本明細書に開示される方法はまた、1つ以上のタンパクと薬物との複合体などの分子の複合体(溶媒分子を含む、または除外する)にも適用可能であり得る。
【0053】
方法(1100)は、操作(1104)に従い分子のエネルギーの増分拡張を実行する工程を含み得る。増分拡張は、式(1)に従い実行され得る:
【0054】
【数1】
【0055】
式中、相関エネルギーEC(全分子エネルギーと平均場ハートリー・フォックのエネルギーとの差異)は、n-体ベーテ・ゴールドストーン拡張として表される。個々のn-体相関エネルギーの貢献度を、式(2)により定める:
【0056】
【数2】
【0057】
式中、EC(i)は個々の1-体相関エネルギーであり、E(ij)は個々の2-体相関エネルギーであり、E(ijk)は個々の3-体相関エネルギーである。指数i、j、およびkは、任意数の分子軌道、原子、分子フラグメント、または分子全体に相当し得る。指数i、j、およびkは、分子軌道、原子、分子フラグメント、および分子全体のあらゆる可能な組み合わせに相当し得る。ゆえに、増分拡張は、分子軌道、原子、分子フラグメント、および分子全体のあらゆる可能な組み合わせの観点から表すことができる。図12は、法の基礎として使用される分子軌道、原子、分子フラグメント、および分子を示す。増分拡張が、原子、フラグメント、および分子のあらゆる可能な組み合わせの観点から表されると、結果として生じるフレームワークはFMO方法のフレームワークになる場合がある。増分拡張が分子軌道の観点から表されると、結果として生じるフレームワークは、増分の完全な配置間相互作用(iFCI)方法のフレームワーク、例えば、「Zimmerman et al., “Strong Correlation in Incremental Full Configuration Interaction,” Journal of Chemical Physics, 2017, 146, 224104」に記載されるものなどになる場合がある。
【0058】
図11の記載を参照すると、方法(1100)はさらに、操作(1106)に従い、操作(1104)に関連して記載される各増分に対してシュレーディンガー方程式を解く(例えば、方法(200)に従い量子化学問題を解くために量子化学シミュレーターを使用する)工程を含み得る。いくつかの実施形態において、シュレーディンガー方程式の解法は、位相推定手順を使用して達成できる。例えば、位相推定アルゴリズムは、「Aspuru-Guzik et al., “Simulated Quantum Computation of Molecular Energies,” Science, 2005, 309, 1704」に記載されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。いくつかの実施形態において、シュレーディンガー方程式の解法は断熱量子シミュレーションを使用して達成できる。いくつかの実施形態において、シュレーディンガー方程式の解法は、変分量子固有値ソルバー(VQE)内のユニタリー結合クラスター(UCC)問題を解くことにより達成できる。例えば、VQEは「McClean et al., “The theory of variational hybrid quantum-classical algorithms,” New Journal of Physics, 2016, 18, 023023」に記載されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。幾つかの実施形態において、UCC仮設は、所定の増分に対するすべての起こり得る励起を含み得る。この場合、UCC仮設は、シュレーディンガー方程式の正確な解法、または、各増分に対する完全な配置間相互作用(FCI)に等しい場合がある。いくつかの実施形態において、低次励起へのUCC仮設のトランケーションを使用して、各増分に対して正確な結果を(あらゆる可能な近似値に)に近似させることができる。シュレーディンガー方程式の解法は、1つ以上の増分に対して繰り返される場合がある。例えば、シュレーディンガー方程式の解法は、すべての増分のあらゆる可能な部分集合に対して、または、すべての増分に対して繰り返される場合がある。いくつかの実施形態において、各増分に対するシュレーディンガー方程式の解法は、並列処理される場合がある。例えば、各増分に対するシュレーディンガー方程式の解法は、高性能のコンピューティングアーキテクチャを使用して並列処理できる。
【0059】
方法(1100)はさらに、操作(1108)に従い量子力学分子の電子エネルギーを算出する工程を含み得る。量子力学的分子の電子エネルギーは、方程式(1)に従い増分貢献の各々を合計することで、量子力学的分子の相関エネルギー、およびしたがって研究下での系の総合的量子力学的エネルギーを得ることによって、算出され得る。
【0060】
図1の記載に戻ると、いくつかの実施形態において、同じ断片化スキームが、集団中のすべての配座異性体に使用され得る。そのような断片化スキームは、例えば、ハードウェアの性能が限定的であり、フラグメントのサイズが非常に小さくなければならないと、適切な場合がある。この断片化スキームは、本明細書中の実施例に記載されるエラー取り消しに関連し得る。いくつかの実施形態において、異なる断片化スキームが、集団中の1つ以上の配座異性体に使用され得る。
【0061】
(b)各PDフラグメントの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算
方法(100)は、ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定する工程を含み得る。例えば、方法(100)は、操作(110)、(112)、および(114)に従い、1つ以上の下位系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出する工程を含み得る。
【0062】
操作(110)に従い、次のフラグメントまたは下位系が選択され得る。その後、操作(112)と(114)が、各PDフラグメントに対して考慮され得る。例えば、操作(112)に従い、下位系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造が、算出され得る(例えば、方法(200)に従い量子化学問題を解くために量子化学シミュレーターを使用して)。操作(114)に従い、下位系の結果として生じる量子力学的エネルギーおよび/または電子構造が、保存され得る。
【0063】
(i)PD分子のハミルトニアン構築
いくつかの実施形態において、分子フラグメントの各々の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定するためのハイブリッドコンピューティングシステムの使用は、(例えば分子ハミルトニアンまたは電子ハミルトニアンの構築により)分子のフラグメントの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定する工程、(例えば、ハミルトニアンのフェルミオン演算子をキュービット演算子に変換することにより)量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を同等のキュービットエネルギーに変換する工程、および量子回路を用いて、所定の分子フラグメントの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定する工程を含み得る。
【0064】
図2は、本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で、問題分解技術により規定される、下位系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の指標を提供するための方法(200)の一例に関する、フローチャートを示す。
【0065】
方法(200)は、操作(202)に従い下位系の指標を得る工程を含み得る。古典コンピューティングを使用して量子化学問題を解くための手法は、ボルン・オッペンハイマー近似を使用するものであり、そこでは、電子波動関数と核波動関数が分離され、電子ハミルトニアンのみが解かれる。しかし、本明細書に開示される方法は、ボルン・オッペンハイマー近似を使用する、または使用しない場合もある。ボルン・オッペンハイマー近似を使用する、または使用しないという選択肢は、例えばシステムのユーザーからの入力により、操作(204)に従って選択され得る。
【0066】
ボルン・オッペンハイマーの近似がユーザーにより選択される場合、フラグメントに対する電子ハミルトニアンが、操作(206)に従って構築され得る。ボルン・オッペンハイマーの近似がユーザーにより選択されない場合、フラグメントに対する分子ハミルトニアンが、操作(208)に従って構築され得る。
【0067】
キュービット・ハミルトニアンは、(a)操作(212)に従い、ハミルトニアン中の空間がキュービットのグリッドで離散化される第1の量子化形式、または、(b)操作(214)に従い、フェルミオン演算子がキュービット演算子に返還される第2の量子化形式のいずれかを使用して、各フラグメントに対して構築され得る。キュービット・ハミルトニアンを生成するために第1の量子化形式または第2の量子化形式のいずれかを使用するという選択肢は、例えばシステムのユーザーからの入力により、操作(210)に従って選択され得る。
【0068】
例えば、ボルン・オッペンハイマー近似を持つ第2の量子化形式の場合、操作(206)に従い、電子ハミルトニアンHelを次のように書くことができ、
【0069】
【数3】
式中、hpqとVpqrsは、古典コンピューター上で予め効率的に計算可能な積分であり、
【0070】
【数4】
は、スピン軌道に基づく生成消滅演算子である。方程式(3)の第1の和における2つの演算子の項は、単一電子の項に相当し、式(3)の第2の和における4つの演算子の項は、電子間相互作用の項に相当し得る。
【0071】
分子ハミルトニアンの正確な形態は、完全な配置間相互作用(Full CI)または結合クラスター理論(CC)など、使用されているPD技術やフレームワークに応じて変動し得る。
【0072】
(ii)PDキュービット・ハミルトニアン構築
操作(212)に従い、第1の量子化形式が選択されると、キュービット・ハミルトニアンは、三次元現実空間をキュービットの三次元グリッドへと離散化することにより得られる場合がある。その後、各グリッド点はキュービット変数により表され得る。
【0073】
操作(214)に従い、第2の量子化形式が選択されると、分子ハミルトニアン(スピン演算子に基づく場合がある)はキュービット・ハミルトニアンに変換され得る。キュービット・ハミルトニアンは、キュービット上の{σ、σ、σ}などのパウリ演算子に基づき得る。
【0074】
スピンからキュービットへのハミルトニアン変換は、ヨルダン・ウィグナー変換、またはブラヴィ・キタエフ(Bravyi-Kitaev)変換を含むがこれらに限定されない、様々な方法で達成され得る。
【0075】
例えば、ヨルダン・ウィグナー変換は、以下のキュービット・ハミルトニアンを提供する:
【0076】
【数5】
【0077】
式中、
【0078】
【数6】
は外積を示し、
【0079】
【数7】
は式(3)のhpqとVpqrsから生じた定数である。指数のセット{p、q、r、s}は、スピン軌道上で合計され得る。指数のセット{a、b、c、d}は、xまたはyのいずれかであり得る。
【0080】
操作(216)に従い、ハミルトニアンにおける時間は、ハミルトニアンのシミュレーションの実行に備えて離散化され得る。
【0081】
(iii)回路の用意
操作(218)に従い、キュービット・ハミルトニアンがシミュレートされ得る。キュービット・ハミルトニアンは、図3に関して本明細書に開示される操作(310)、(312)、(314)、および(318)のうち少なくとも1、2、3、または4つ、またはそれらのうち多くとも4、3、2、または1つを実行することにより、シミュレートされ得る。
【0082】
分子の立体配座を正確に分化するプロセスにおける障害は、総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算を実行し得る。この障害の緩和を助けるために、PD技術を使用して、問題をより小さく、より扱いやすいものへと分割できる。いくつかの実施形態において、副次的問題の部分集合の各々に対する総合的な量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は、量子コンピューターを使用して実行できる。いくつかの実施形態において、副次的問題の部分集合の各々に対する量子計算プロセスは、古典コンピューター上でシミュレートできる。量子コンピューターを用いて総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するプロセスは、下位の問題を説明するハミルトニアンの最低固有値を算出するために量子アルゴリズムを実行する工程を含み得る。
【0083】
図3は、本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上でハミルトニアンの期待値の指標を提供するための方法(218)の一例に関する、フローチャートを示す。方法(218)は、方法(200)の操作(218)を含み得る。
【0084】
方法(218)は、操作(310)に従い、使用されているコンピューティングシステム(例えば、量子コンピューティングシステムまたはハードウェア、または量子古典システムまたはハードウェア)の特徴(例えば、キュービットの接続性、およびゲートが適用可能な特徴)に一致する量子回路へと、ハミルトニアンを変換する工程を含み得る。ハミルトニアンの最低エネルギー固有値を算出するための技術には、位相推定アルゴリズムおよび変分量子固有値ソルバー(VQE)を含み得る。例えば、位相推定アルゴリズムは、「Aspuru-Guzik et al., “Simulated Quantum Computation of Molecular Energies,” Science, 2005, 309, 1704」に記載されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。例えば、VQEは「McClean et al., “The theory of variational hybrid quantum-classical algorithms,” New Journal of Physics, 2016, 18, 023023」に記載されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。これらのアルゴリズムを実行して、分子またはサブ分子のキュービット・ハミルトニアンを量子回路のパラメーターへとコードすることができる。
【0085】
(iv)各PDフラグメントの初期状態の用意
方法(218)は、操作(312)に従い、量子古典ハードウェア上での量子化学シミュレーションのために初期状態(または初期の推測)を用意する工程を含み得る。適切な初期状態は、ハートリー・フォック波動関数であり得る。適切な初期状態は、ポスト・ハートリー・フォック法によって得られた波動関数であり得る。適切な初期状態は、例えば、「Matsuura et al., “VanQver: The Variational and Adiabatically Navigated Quantum Eigensolver,” arXiv:1810.11511 , October 31, 2018」に記載されるシステムまたは方法のいずれかを使用して用意でき、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。
【0086】
(v)量子古典ハードウェア上でのPDハミルトニアンのシミュレーション
(操作(310)からの)量子回路と(操作(312)からの)初期状態を考慮すると、方法(218)はキュービット・ハミルトニアンをシミュレートする工程を含み得る。方法(218)は、操作(314)に従い、量子コンピューター上で初期状態および/またはキュービット・ハミルトニアンをコンパイルし、かつ実行する(例えば、最適化する)工程を含み得る。いくつかの実施形態において、量子コンピューターは、量子ハードウェアデバイス(316)、または量子回路の古典シミュレーター(例えば量子ハードウェアシミュレーター(316))を具備している。例えば、操作(314)に従い、変換された量子回路および初期のキュービット状態は、各フラグメントに対して量子化学シミュレーションを実行するために、量子ハードウェアデバイス(316)、または量子ハードウェアシミュレーター(316)に送信され得る。
【0087】
フラグメントの総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するための回路と初期状態の送信(それぞれ、操作(310)と(312)に従う)は、変換されたフラグメントが調整されるように連続して行われ、または、すべて並行して算出され、1つ以上の量子ハードウェアデバイスまたは古典シミュレーターに送信され得る。
【0088】
いくつかの実施形態において、量子コンピューターには、1つ以上の断熱量子コンピューター、量子ゲートアレイ、一方向量子コンピューター、トポロジカル量子コンピューター、量子チューリング機械、超伝導体ベースの量子コンピューター、捕捉イオン量子コンピューター、捕捉原子量子コンピューター、光格子、量子ドットコンピューター、スピンベースの量子コンピューター、空間ベースの量子コンピューター、Loss-DiVincenzoの量子コンピューター、核磁気共鳴(NMR)ベースの量子コンピューター、ソリューションステートNMR量子コンピューター、ソリッドステートNMR量子コンピューター、ソリッドステートNMR Kane量子コンピューター、electrons-on-heliumの量子コンピューター、空洞量子電気力学ベースの量子コンピューター、分子磁石量子コンピューター、フラーレンベースの量子コンピューター、線形光学量子コンピューター、ダイヤモンドベースの量子コンピューター、窒素空孔(NV)ダイヤモンドベースの量子コンピューター、ボース・アインシュタイン凝縮ベースの量子コンピューター、トランジスターベースの量子コンピューター、および希土類金属イオンにドープした無機結晶ベースの量子コンピューターが挙げられる場合がある。量子コンピューターは、量子アニーラー、イジングソルバー、Isingソルバー、光学パラメーター式発振器(OPO)、および量子計算のゲートモデルのうち1つ以上を含み得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、MacBook Proラップトップ、Windows(登録商標)ラップトップ、またはLinux(登録商標)ラップトップのような古典コンピューター上で実行可能な、量子回路の古典シミュレーターが使用され得る。いくつかの実施形態において、古典シミュレーターは、平行様式または分散様式で複数のコンピューティングノードへのアクセスを持つクラウド・コンピューティング・プラットフォーム上で実行可能である。いくつかの実施形態において、フラグメントの部分集合に対する総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は古典シミュレーターを使用して実行でき、フラグメントの残部に対する総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は量子ハードウェアを使用して実行できる。
【0090】
(vi)結果として生じる状態の測定
方法(218)は、操作(318)に従い最低の固有値の古典使用を提供するために量子ビットを測定する工程を含み得る。使用されるアルゴリズムに応じて、その最低のエネルギー固有値を生じさせた電子構造をもたらすのに必要なパラメーターも提供され得る。測定の基礎は、使用されているハミルトニアンと量子アルゴリズムにより示され得る。量子ビットに記憶された量子データに対する測定により、その情報が情報の古典ビットに変換され得る。測定されているデータを正確に推定するために、操作(218)の少なくとも一部を繰り返す場合がある。この場合、操作(218)を複数回繰り返して得られた複数の結果が、平均化され得る。使用されるアルゴリズムに応じて、その最低のエネルギー固有値を生じさせた電子構造をもたらすのに必要なパラメーターも提供され得る。
【0091】
図2の議論に戻ると、操作(218)が1回以上実行された後、方法(200)は、操作(220)に従いハミルトニアンの期待値の指標を測定する工程を含み得る。
【0092】
方法(200)は、操作(222)に従い、ボルン・オッペンハイマー近似が(例えば操作(204)において)使用されたかどうかを判定する工程を含み得る。ボルン・オッペンハイマー近似が使用された場合、方法(200)は、操作(224)に従い、核間反発エネルギーを算出し、その後、算出された核間反発エネルギーを測定された期待値に足す工程を含み得る。方法(200)は、操作(226)に従い下位系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の使用を提供する工程であって、それにより方法(200)により実行された量子化学シミュレーションを終了する、工程を含み得る。
【0093】
図1の議論に戻ると、方法(100)は、操作(112)に従い、量子力学的下位系エネルギーおよび/または電子構造のリストなどに、下位系の結果として生じる量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を記憶する工程を含み得る。方法(100)は、操作(100)に従い、配座異性体の下位系がすべて、それらの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するべく処理されたかどうかを判定する工程を含み、処理されていない場合、リスト上の次の下位系が(操作(110)に従い)選択され、操作(112)と(114)がその上で実行され得る。
【0094】
(c)PDフラグメントの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の組み合わせ
化学系の1つ以上の分子フラグメントがその量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するべく処理された後、化学系に対する量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算を実行するためにハイブリッドコンピューティングシステムを使用する方法は、分子フラグメントに対して判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を組み合わせる工程を含み得る。例えば、化学系の安定立体配座を効率的に識別する方法は、操作(118)に従い、化学系(例えば分子)全体の配座異性体の総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を得るために各フラグメントに対して得られたエネルギーおよび/または電子構造を再結合する工程を含み得る。操作(118)においてフラグメントのエネルギーおよび/または電子構造の再結合を実行して、化学系の配座異性体の総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を得るための手法は、操作(108)に使用される問題分解(PD)方法に左右され、かつこれにより完全に説明され得る。その後、配座異性体の結果として生じる量子力学的エネルギーおよび/または電子構造は、量子力学的配座異性体エネルギーおよび/または電子構造のリストなどに記憶され得る。
【0095】
操作(120)に従い、化学系(例えば分子)の対象の配座異性体すべてがその量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するべく処理されるかどうかが判定され、処理されない場合、リスト上の次の配座異性体が(操作(106)に従い)選択され、操作(108)、(110)、(112)、(114)、(116)、および(118)がその上で実行される。
【0096】
最も安定した配座異性体の予測
配座異性体の集団内の対象の配座異性体がその量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するべく処理された後、配座異性体の集団中に提供される配座異性体は任意の順序で選別でき、例えば、操作(122)に従い、操作(118)により提供される配座異性体の各々の総合的量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の推定に基づいて、安定性の順序を増やすまたは減らすことにより選別され得る。最後に、操作(124)に従い、化学系の配座異性体の選別されたリストの指標は、結果として生じる量子力学的エネルギーおよび/または電子構造に基づいて提供され、これにより、化学系の配座異性体の集団中の最も安定した配座異性体の予測が提供される。
【0097】
PD手法は通常、「Fedorov et al., “Exploring chemistry with the fragment molecular orbital method,” Physical Chemistry Chemical Physics, 2012, 14, 7562」、「Kobayashi et al., “Divide-and-conquer approaches to quantum chemistry: Theory and implementation,” in Linear-Scaling Techniques in Computational Chemistry and Physics: Methods and Applications, edited by Zalesny et al. (Springer Netherlands, Dordrecht, 2011), 97-127」、および「Wouters et al., “A Practical Guide to Density Matrix Embedding Theory in Quantum Chemistry,” Journal of Chemical Theory and Computation, 2016, 12, 2706」により記載されるような研究により示されるように、正確な結果を提供できる。
【0098】
加えて、後述の実施例は、フラグメントのサイズが非常に小さいときでも、PDを用いるおよび用いない、ある種の方法により得られるエネルギー間の良好な相関を例示する。それゆえ、化学系の最も安定した配座異性体は、PDにより、または、より正確な計算のために配座異性体集団のサイズを徐々に小さくするべく上記に開示された方法を使用することにより得られたエネルギーに基づいて、直接識別され得る。
【0099】
第一原理分子動力学
本開示のシステムと方法は、第一原理分子動力学(AIMD)技術を使用して経時的に分子構造の発達をシミュレートするために使用され得る。そのようなシミュレーションにおいて、本明細書に記載される量子対応問題分解(PD)技術は、(例えば、図1図2、または図3に関して本明細書に記載されるような)分子の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を算出するために使用される。量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算は、AIMDフレームワーク中の力の計算の根拠として役立つ場合がある。分子内の粒子(分子内の1つ以上の原子など)にかかる力は、本明細書に記載される量子対応PD技術により得られた量子力学的エネルギーに基づいて判定され得る。その後、粒子の位置と速度はAIMD技術を使用して更新され得る。
【0100】
図13は、本明細書に開示される実施形態に係る、量子コンピューティングハードウェア上で問題分解技術を用いて分子に第一原理分子動力学(AIMD)を実行する方法(1300)の一例に関する、フローチャートを示す。
【0101】
方法(1300)は、操作(1302)に従い入力分子の指標を得る工程を含み得る。本明細書に開示される方法(1300)は、あらゆる種類の化学系に適用可能であり得る。化学系は、例えば、有機化合物、無機化合物、ポリマー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物などを含み得る。本明細書に開示される方法はまた、1つ以上のタンパクと薬物との複合体などの分子の複合体(溶媒分子を含む、または除外する)にも適用可能であり得る。
【0102】
方法(1300)は、操作(1304)に従い、系の中の粒子の初期配位を得る工程を含み得る。系の中の粒子の初期配位は、例えば分子内の原子核の配位に相当し得る。系の中の粒子の初期配位は、理論的または実験的に導き出される場合がある。例えば、系の中の粒子の初期配位は、予測された分子構造から導き出される場合がある。系の中の粒子の初期配位は、X線結晶構造解析、透過型電子顕微鏡検査(TEM)、走査型電子顕微鏡検査(SEM)、走査型トンネル顕微鏡検査(STEM)、原子間力顕微鏡検査(AFM)、溶液状態核磁気共鳴(NMR)、固体状態NMR、または他の実験手順などの実験手順から導き出される場合がある。系の中の粒子の初期配位は、PubChem、Chemical Entities of Biological Interest(ChEBI)、DrugBank、小分子経路データベース(SMPDB)、ChemDB、Protein Data Bank(PDB)、または他のデータベースなどのデータベースから導き出される場合がある。
【0103】
方法(1300)は、操作(1306)に従い、系の中の粒子の初期速度を得る工程を含み得る。粒子の初期速度は、様々な様式で得られる場合がある。例えば、粒子の初期速度は、所望の温度でマクスウェル・ボルツマン分布から各粒子に対する速度を無作為に選択することにより得られる場合がある。場合によっては、そのような処置は系の正味運動量をもたらし、結果として全体的に系の初期の直線動作をもたらし得る。所望の場合、初期の直線運動は、系の正味運動量を算出し、各粒子の初期速度を調節して正味運動量をゼロにすることにより取り除かれる場合がある。同様に、処置は系の正味角運動量をもたらし、結果として全体的に系の初期の回転運動をもたらし得る。所望の場合、初期の回転運動は、系の正味角運動量を算出し、各粒子の初期角速度を調節して正味角運動量をゼロにすることにより取り除かれる場合がある。
【0104】
操作(1304)または(1306)の何れかの間、付加的なパラメーターが設定され得る。例えば、分子動力学時間工程の目標数、時間増分、目標温度、および/または目標圧力が、特定され得る。
【0105】
方法(1300)は、操作(1308)に従い、系の各粒子にかかる力を算出する工程を含み得る。
【0106】
図14は、本明細書に開示される実施形態に係る、第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションにおける系の各粒子に対する力を算出するための方法(1400)の一例に関する、フローチャートを示す。該方法は、本明細書に記載される方法(100)などの、系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算のために量子対応PDを行う方法を実施する工程を含み得る。
【0107】
前記方法は、操作(1402)に従い系の各粒子にかかる力を推定する工程をさらに含み得る。系の各粒子にかかる力は、系の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算から算出され得る。系の各粒子にかかる力は、様々な手順により算出され得る。例えば、系の各粒子にかかる力は、「Jordan, “Fast Quantum Algorithm for Numerical Gradient Estimation”, Physical Review Letters, 2015, 95, 050501」に開示されるような数的勾配推定を行うためのヨルダン量子アルゴリズムを使用して算出でき、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。数的勾配評価を行うためのヨルダン量子アルゴリズムは、量子ハードウェア(本明細書に記載される量子コンピューターなど)を使用して、または、量子シミュレーター(本明細書に記載される量子シミュレーターなど)の上で、実行され得る。系の各粒子にかかる力は、古典ハードウェア(本明細書に記載される古典コンピューターなど)の上で数的勾配推定技術を使用して算出され得る。
【0108】
図13の議論に戻ると、方法(1300)はさらに、操作(1310)に従い、次の工程のために系の中の粒子の配位および/または速度を更新する工程を含み得る。系の中の粒子の配位および/または速度は、様々な手順に従い更新され得る。例えば、系の中の粒子の配位および/または速度は、ベルレ手順を使用して更新でき、そこでは、配位および/または速度は、直近の、およびその次に直近の時間工程に基づいた配位および/または速度の一連の拡張を使用して更新される。系の中の粒子の配位および/または速度は、速度ベルレ手順を使用して更新でき、そこでは、位置が直近の速度に基づいて更新され、速度は直近の力に基づいて部分的に更新され、更新された力は更新された位置を用いて算出され、速度は直近の力に基づいて完全に更新される。系の中の粒子の配位および/または速度は、シンプレクティック数値積分法、ベルレ・ストーマー積分法、ルンゲ・クッタ積分法、ビーマン積分法、または他の積分技術など、様々な積分技術を使用して、力の数値積分によって更新され得る。系の中の粒子の配位および/または速度の更新中、様々な温度調節器および/または圧調節器が、系の温度および/または圧力の制御を維持するために適用され得る。例えば、ランジュバン温度調節器およびアンダーソン圧調節器が適用され得る。
【0109】
方法(1300)は、操作(1312)に従い、配位および/または速度のリストなどに、系の中の粒子の配位および/または速度を保存する工程を含み得る。配位および/または速度のリストは、系の軌道を含み得る。
【0110】
方法(1300)は、操作(1314)に従い分子動力学時間工程の数を調べる工程を含み得る。時間工程の数が時間工程の所望数未満である場合、操作(1302)、(1304)、(1306)、(1308)、(1310)、および(1312)のうち1つ以上は、時間工程の数が時間工程の所望数と同じになるまで繰り返され得る。その時点で、方法(1300)は止められ得る。
【0111】
方法(1300)は、系の結果として生じる軌道の指標を提供する工程を含み得る。
【実施例0112】
実施例1(n-ヘプタン)
PDを用いる総合的量子力学的エネルギー計算の結果と、PDを用いない結果との相関を、化合物の様々な立体配座について研究した。PDを用いる固定立体配座のシミュレーション結果は、化学精度内に含まれない場合がある。しかし、これが系統誤差によるものである場合、同じ分子の様々な立体配座の2つの誤った結果を比較することで、この誤差を相殺でき、分子の2つの立体配座間の正確な相対量子力学的エネルギー差異を提供できる。それゆえ、この手法は、各個体の配座異性体の総合的量子力学的エネルギーの最良に正確な推定を行うことなく、それらの総合的量子力学的エネルギー値に基づいて最善の配座異性体(例えば、最も安定した配座異性体)を正確に取り上げるために使用され得る。この手法の下で、より侵襲的なPD技術(例えば、比較的小さなバッファーサイズを伴うDC)を使用して、利用可能な配座異性体の集団から最良の配座異性体を見出すことができる。より侵襲的なPD技術は、より小さな副分子をもたらす場合があり、このことは、大きな分子に対する実験を行うのにより少数の量子資源が必要とされ得ることを、意味する場合がある。この手法により、量子コンピューティング資源を使用して化学系の最も安定した配座異性体の高度に効率的かつ正確な予測を可能にできる。
【0113】
この実施例において、n-ヘプタンを図4に示されるように標的とし、そこでは、点線は、フラグメント分子軌道(FMO)断片化における結合分離原子を示す。n-ヘプタンの40の立体配座の集団は、4つの二面角を120度変位させ(トランス、ゴーシュ、ゴーシュ’)、次いで対称的に冗長な立体配座と高エネルギー立体配座を取り除くことにより、生成される。問題分解(PD)を用いた総合エネルギーとPDを用いない総合エネルギーとの間の相関を得るために、CCSDをベースライン基準として実行し、2つの問題分解方法であるDC-CCSDとFMO-CCSDをこの分子の系に適用した。7つのフラグメントを考慮した:2つの末端CH3群と5つのCH2群。DCでは、3Å、4Å、5Å、および6Åのバッファーサイズを検査した。FMOでは、2-体と3-体の拡張を検査した。全ての計算を、6-31G基底関数系を伴うGAMESS-USを用いて実行した。GAMESS量子化学パッケージは、「Schmidt et al., “General Atomic and Molecular Electronic Structure System,” Journal of Computational Chemistry, 1993, 14, 1347-1363」に記載されており、この文献はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。DC法を、3Å未満のバッファーサイズで試験したが、ほぼすべての配座異性体の計算は解法に集中しなかった。
【0114】
図5は、n-ヘプタンに対する、正確なCCSDとDC-CCSD結果との比較、および正確なCCSDとFMO-CCSD結果との比較(配座異性体の量子力学的エネルギー値のリスト)を示す。良好な相関を、正確なCCSDの結果と問題分解を伴うCCSDの結果との間で得た。決定係数Rは、3-体拡張(FMO_3)を伴うFMOを除いて0.96より上であった。DC-CCSDはより良好な結果をもたらすが、DCの計算は時に、解法に集中することが困難であった。n-ヘプタンでは、FMOが検査された40の配座異性体すべてに解法をもたらし、一方でDCは、それぞれ3Åと4Åのバッファーサイズを用いて35の配座異性体と36の配座異性体に解法をもたらした。1つのフラグメントを解くのに必要なスピン軌道の数は、立体配座に応じてDC計算の場合に異なる場合があり、これは、バッファー領域がフラグメントの中心からの距離に基づいて定められるからであることにも、留意されたい。
【0115】
図5を再び参照すると、例えば右上パネルにある点線の円により示されるように、配座異性体の様々なクラスターが観察された。ここで、これらのクラスターが観察される理由を簡単に説明する。まず、正確なCCSDエネルギーと、配座異性体を収容可能な最小の球体の直径との関係を検討した。この直径は、配座異性体の構造上のコンパクト性(compactness)の基準と考慮され得る。図6の中央パネルに示されるように、配座異性体が立体反発により構造上コンパクトになると、総合的量子力学的エネルギーは通常増大する。しかし、確認できるように、直径は、総合的量子力学的エネルギーの観点から配座異性体のクラスタリングを完全には説明していない。次に、総合的量子力学的エネルギーと、二面角中の2つの最も外側の炭素原子間の距離(1-4の距離)との関係を検討した。各配座異性体に対する総合的量子力学的エネルギーと最小の1-4の距離との関係を示す、図6の右パネルに例示されるように、1-4の距離は、クラスタリング挙動を十分に説明している。1-4の距離は、二面角がトランス、ゴーシュ、またはゴーシュ’であるかに応じて変動する。トランスの場合、1-4の距離が最長になる。ゴーシュおよびゴーシュ’の二面角には共通して、トランスの1-4の距離より短い1-4の距離があり、その結果、立体反発により高い(あまり安定していない)総合的量子力学的エネルギーをもたらす。これは、総エネルギーの離散化の主な原因であり、かつ、本分子系における総合的量子力学的エネルギーの観点から配座異性体のクラスタリングを観察した理由である。
【0116】
実施例2(3-メチルヘプタン)
観察されるように、FMOとDCは共に、単純なポリマー系に対して比較的良好に作用する。次に、多様なエネルギー地形は、図7に示されるように、n-ヘプタンの「3」位置にて炭素原子へと1つのメチル基を移植し、3-メチルヘプタンをもたらすことにより、検査のために生成された。メチル基の「3」位置への導入により、分子は非対称性となる。n-ヘプタンの場合のように、立体配座の集団は、4つの二面角を120度変位させることにより3-メチルヘプタンに対して生成され(トランス、ゴーシュ、ゴーシュ’)、高エネルギーの立体配座を取り除いた後に65の立体配座を得た。
【0117】
図8は、どのようにして1つのメチル基が量子力学的エネルギー地形をn-ヘプタンの地形から調節し、かつ多様化させるのか例示するために、CCSDによって得られた量子力学的エネルギー分布(最低のものと比較したエネルギー)を示す。図9は、3-メチルヘプタンに対する、正確なCCSDとDC-CCSD結果との比較、および正確なCCSDとFMO-CCSD結果との比較(量子力学的配座異性体エネルギー値のリスト)を示す。示されるように、3-メチルヘプタン中のFMO(2-体)手法は、Rが0.94である安定したパフォーマンスを示す。総エネルギーは3Åのバッファーを伴うDCによって得られ、FMO 2-体により得られたものよりも正確なCCSDに多少接近しているが、RはFMOのものよりも低い。バッファーが4Åに増大すると、3-メチルヘプタンに対するDC手法により、正確なCCSDを伴う優れた一致(agreement)がもたらされる。しかし、DCは再び、集合ができないという問題にわずかながら悩まされることに留意されたい。FMOは、検査された65の配座異性体すべてに解法をもたらし、一方でDCは、それぞれ3Åと4Åのバッファーサイズを持つ38の配座異性体と46の配座異性体に解法をもたらすことができた。
【0118】
コンピューターシステム
本開示は、本開示の方法を実施するようにプログラムされるコンピューターシステムを提供する。図10は、化学系の立体配座の集団を判定し;集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ;ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定し;判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を組み合わせ;および組み合わせた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポートを電子出力するようにプログラムされ、または構成される、コンピューターシステム(1001)を示す。
【0119】
コンピューターシステムは、本開示の方法とシステムの様々な態様を調節でき、たとえば、化学系の立体配座の集団を判定し;集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解し;ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定し;判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を組み合わせ;および組み合わせた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポートを電子出力することができる。コンピューターシステム(1001)は、ユーザーまたはコンピューターシステムの電子デバイスであり、ユーザーまたはコンピューターシステムは、電子デバイスに対して遠隔に位置付けられる。電子デバイスはモバイル電子デバイスでもよい。
【0120】
コンピューターシステム(1001)は、中央処理装置(CPU、本明細書では「プロセッサー」および「コンピュータープロセッサー」)(1005)を含み、これらはシングルコアまたはマルチコアプロセッサー、または並列処理のための複数のプロセッサーであり得る。コンピューターシステム(1001)は、メモリーまたは記憶場所(1010)(例えばランダムアクセスメモリー、読み取り専用メモリー、フラッシュメモリー)、電子記憶装置(1015)(例えばハードディスク)、1つ以上の他のシステムと通信するための通信インターフェース(1020)(例えばネットワークアダプター)、およびキャッシュ、他のメモリー、データストレージ、および/または電子ディスプレイアダプターなどの周辺機器(1025)も具備する。メモリー(1010)、記憶装置(1015)、インターフェース(1020)、および周辺機器(1025)は、マザーボードなどの通信バス(実線)を通じて、CPU(1005)と通信する。記憶装置(1015)は、データを記憶するためのデータ記憶装置(またはデータレポジトリ)であり得る。コンピューターシステム(1001)は、通信インターフェース(1020)の補助によりコンピューターネットワーク(「ネットワーク」)(1030)に動作可能につなげられ得る。ネットワーク(1030)は、インターネットおよび/またはエクストラネット、または、インターネットと通信状態にあるイントラネットおよび/またはエクストラネットであり得る。
【0121】
場合によっては、ネットワーク(1030)は、電気通信および/またはデータのネットワークである。ネットワーク(1030)は、1つ以上のコンピューターサーバーを含むことができ、これはクラウドコンピューティングなどの分散コンピューティングを可能にし得る。例えば、1つ以上のコンピューターサーバーにより、ネットワーク(1030)(「クラウド」)上でのクラウドコンピューティングは、本開示の分析、算出、および生成の様々な態様、例えば、化学系の立体配座の集団の判定;集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへの分解;ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の判定;判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の組み合わせ;および組み合わせた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポートの電子出力が可能となる。そのようなクラウドコンピューティングは、例えばAmazon(登録商標)Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google(登録商標)Cloud Platform、およびIBMクラウドなどの、クラウド・コンピューティング・プラットフォームによって提供され得る。ネットワーク(1030)は、場合によってはコンピューターシステム(1001)の補助により、ピアツーピア・ネットワークを実施することができ、これは、コンピューターシステム(1001)に連結されたデバイスが、クライアントまたはサーバーとして動くことを可能にし得る。「クラウド」サービス(上述のクラウドプラットフォームの1つ以上を含む)も、データ記憶を提供するために使用され得る。
【0122】
CPU(1005)は、機械可読命令のシーケンスを実行でき、これはプログラムまたはソフトウェア中に埋め込まれる。この命令は、メモリー(1010)などの記憶場所に記憶され得る。この命令は、CPU(1005)に向けることができ、これは後に、本開示の方法を実施するようにCPU(1005)をプログラムまたは構成することができる。CPU(1005)により実行される動作の例は、フェッチ、デコード、実行、およびライトバックを含み得る。
【0123】
CPU(1005)は集積回路などの回路の一部であり得る。システム(1001)の1つ以上の他のコンポーネントを、回路に含められる。場合によっては、回路は特定用途向け集積回路(ASIC)である。CPU(1005)は、1つ以上のメインプロセッサー、1つ以上のグラフィックスプロセシングユニット(GPU)、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0124】
記憶装置(1015)は、ドライバー、ライブラリー、および保存されたプログラムなどのファイルを記憶できる。記憶装置(1015)は、ユーザーデータ、例えば、化学的なシステムの立体配座の集団、複数の分解された分子フラグメント、分子フラグメントの量子力学的エネルギーおよび/または電子構造、立体配座の組み合わされた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造、量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を有する分子フラグメントのリスト、組み合わされた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を有する分子の立体配座のリスト、組み合わされた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポート(時にデータをメモリーと交換する)を記憶できる。コンピューターシステム(1001)は、場合によっては、イントラネットまたはインターネットを通じてコンピューターシステム(1001)と通信状態にあるリモートサーバー上に位置付けられるなど、コンピューターシステム(1001)の外側にある1つ以上の追加のデータ記憶装置を含み得る。
【0125】
コンピューターシステム(1001)は、ネットワーク(1030)を介して1つ以上の遠隔コンピューターシステムと通信できる。例えば、コンピュータシステム(1001)は、ユーザーのリモートコンピューターシステムと通信できる。リモートコンピューターシステムの例には、パーソナルコンピューター(例えば、持ち運び可能なPC)、スレートまたはタブレットPC(例えばApple(登録商標)iPad(登録商標)、Samsung(登録商標)Galaxy Tab)、電話、スマートフォン(例えばApple(登録商標)iPhone(登録商標)、Android-enabledデバイス、Blackberry(登録商標))、または携帯情報端末が挙げられる。ユーザーは、ネットワーク(1030)を介してコンピューターシステム(1001)にアクセスできる。ユーザーは、本開示の方法とシステムの様々な態様を制御または調節でき、たとえば、化学系の立体配座の集団を判定し;集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ;ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定し;判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を組み合わせ;および組み合わせた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポートを電子出力することができる。
【0126】
本明細書に記載されるような方法は、コンピューターシステム(1001)の電子記憶場所、例えば、メモリー(1010)または電子記憶装置(1015)などに記憶された機械(例えば、コンピュータ処理装置)実行可能なコードとして実行され得る。機械実行可能または機械可読コードは、ソフトウェアの形で提供できる。使用中に、コードはプロセッサ(1005)によって実行され得る。場合によっては、コードは、電子記憶装置(1015)から取得され、プロセッサ(1005)による容易なアクセスのためのメモリ(1010)に記憶することができる。いくつかの状況において、電子記憶装置(1015)は除外することができ、機械実行可能命令がメモリ(1010)に記憶される。
【0127】
コードは、コードを実行するように適合されたプロセッサーを有する機械と共に使用するために予めコンパイルかつ構成され、または実行時にコンパイルされ得る。コードは、予めコンパイルされた、またはアズコンパイルされた(as-compiled)様式でコードが実行を可能にするために選択可能な、プログラミング言語で供給され得る。
【0128】
コンピューターシステム(1001)などの本明細書に提供されるシステムと方法の態様は、プログラミングにおいて具体化され得る。この技術の様々な態様は、典型的には一種の機械可読媒体上で運ばれる、またはそれに埋め込まれる機械(またはプロセッサー)実行可能コードおよび/または関連データの形で、「製品」または「製造用品」として考慮され得る。機械実行可能コードは、メモリー(例えば、読み取り専用メモリー、ランダムアクセスメモリー、フラッシュメモリー、ソリッドステートメモリー)またはハードディスクなどの、電子記憶装置に記憶され得る。「記憶」型の媒体には、様々な半導体メモリー、テープドライブ、ディスクドライブなどの、コンピューターやプロセッサーの有形メモリー、または、その関連するモジュールの何れかまたはすべてが挙げられ、これらは、ソフトウェアのプログラミングのためにいかなる時も非一時的な記憶を提供し得る。ソフトウェアのすべてまたは一部は時折、インターネットなどの様々な電気通信ネットワークを介して通信される。そのような通信は、例えば、1つのコンピューターまたはプロセッサーから別のものへの、例えば、管理サーバーまたはホストコンピューターからアプリケーションサーバーのコンピュータープラットフォームへのソフトウェアのローディングを可能にし得る。故に、ソフトウェア要素を有し得る別のタイプの媒体は、有線および光地上通信線ネットワークを通じた、および様々なエアリンク(air-links)上での、ローカルデバイス間の物理インターフェースにわたって使用されるものといった光波、電波、および電磁波を含む。有線または無線リンク、光リンクなどの、前述の波を運ぶ物理要素も、ソフトウェアを持つ媒体と考慮され得る。本明細書で使用されるように、非一時的で有形の「記憶」媒体に制限されない限り、コンピューターまたは機械「可読媒体」などの用語は、実行のためにプロセッサーに命令を提供することを必要とする媒体を指す。
【0129】
したがって、コンピューター実行可能コードなどの機械可読媒体は、有形記憶媒体、搬送波媒体、または物理的伝送媒体を含むがこれらに限定されない、多くの形態をとってもよい。不揮発性記憶媒体は、例えば、図面に示されるデータベースなどを実施するために使用され得るものなど、コンピューターなどにおける記憶装置の何れかといった、光ディスクまたは磁気ディスクを具備する。揮発性記憶媒体は、そのようなコンピュータープラットフォームのメインメモリーなどのダイナミックメモリーを具備する。有形送信媒体は、同軸ケーブル;コンピューターシステム内のバスを含むワイヤーを含む、銅線および光ファイバーを具備する。搬送波送信媒体は、無線周波(RF)および赤外線(IR)データ通信中に生成されたものなどの、電気信号または電磁気信号、または、音波または光波の形態をとることができる。ゆえに、コンピューター可読媒体の共通の形態には、例えば:フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他の磁気媒体、CD-ROM、DVDまたはDVD-ROM、他の光学媒体、パンチカード、紙テープ、穴のパターンを有する他の物理的記憶媒体、RAM、ROM、PROMおよびEPROM、FLASH-EPROM、他のメモリーチップまたはカートリッジ、データまたは命令を運ぶ搬送波、そのような搬送波を伝達するケーブルまたはリンク、または、コンピューターがプログラミングのコードおよび/またはデータを読み取り得る他の媒体が挙げられる。コンピューター可読媒体のこれらの形態の多くは、実行のためにプロセッサーへと1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを運ぶことを必要とし得る。
【0130】
コンピューターシステム(1001)は、例えば、化学系の立体配座の集合のユーザー選択;複数の分子のフラグメントへと分解するための集団内の立体配座;量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定するための複数の分子のフラグメントの少なくとも部分集合;およびボルン・オッペンハイマー近似の使用を提供するために、ユーザーインターフェース(UI)(1040)を具備する電子ディスプレイ(1035)を含む、またはそれと通信状態にあってもよい。UIの例には、限定されないが、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)およびウェブベースのユーザーインターフェースが挙げられる。
【0131】
コンピューターシステム(1001)は、例えば量子アルゴリズム(例えば、量子力学的エネルギーおよび/または電子構造の計算)を実行するために非古典コンピューター(例えば量子コンピューター)(1045)を含む、またはそれと通信状態にあってもよい。非古典コンピューター(1045)は、中央処理装置(1005)および/またはネットワーク(1030)(例えばクラウド)と動作可能につなげられ得る。
【0132】
本開示のコンピューターシステムは、例えば国際出願番号PCT/CA2017/050709、米国出願第15/486,960号、米国特許第9,537,953号、および米国特許第9,660,859号に記載されるようなものでもよく、これらの各々はその全体を引用することで本明細書に組み込まれるものとする。
【0133】
本開示の方法とシステムは、1つ以上のアルゴリズムにより実施可能である。アルゴリズムは、中央処理装置(1005)による実行後にソフトウェアにより実施可能である。アルゴリズムは、例えば、化学系の立体配座の集団を判定し;集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ;ハイブリッドコンピューティングシステムを用いて、前記複数の分子フラグメントの少なくとも部分集合の量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を判定し;判定された量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を組み合わせ;および組み合わせた量子力学的エネルギーおよび/または電子構造を示すレポートを電子出力することができる。
【0134】
ハイブリッドまたは量子古典のコンピューティング、またはコンピューティングハードウェアなど、特定のシステムに関して本明細書に記載されてきたが、(量子化学問題またはシミュレーションなどの)本開示の問題は、様々な種類または組み合わせのシステムを具備するコンピューティングシステム、例えば、1つ以上の古典コンピューター、1つ以上の非古典コンピューター(1つ以上の量子コンピューターなど)、または1つ以上の古典コンピューターと1つ以上の非古典コンピューターとの組み合わせなどを使用して、解くことができる。例えば、図15は、量子化学問題またはシミュレーションといった本開示の問題を解くために使用され得るシステム、またはその組み合わせの例を示す。
【0135】
本発明の好ましい実施形態が本明細書中で示され、かつ記載されてきたが、このような実施形態はほんの一例として提供されるものであることは、当業者に明白である。多数の変形、変更、および置き換えは、本発明から逸脱することなく、当業者によって現在想到されるものである。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な代案が、本発明の実施において利用されるかもしれないことを理解されたい。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義するものであり、この特許請求の範囲およびその同等物の範囲内の方法と構造は、それにより包含されることが、意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2023-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を、並列処理のための複数のプロセッサーを備える少なくとも1つのコンピューターにより実行するための方法であって、該方法は、
(a)前記化学系の立体配座の集合を判定する工程と、
(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解する工程と、
(c)フラグメント間相互作用を使用して、前記複数の分子フラグメント内のフラグメントのハミルトニアンを構築する工程と、
(d)前記並列処理のための複数のプロセッサーを使用して、前記複数の分子フラグメントの、複数の量子力学的エネルギーまたは複数の電子構造を、並行して判定する工程であって、該判定は、少なくとも前記ハミルトニアンを使用することを含む、工程と、
(e)前記(d)で判定された前記複数の量子力学的エネルギーまたは前記複数の電子構造を組み合わせて、組み合わされたエネルギーまたは電子構造を生成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
(f)前記組み合わされたエネルギーまたは電子構造から、前記化学系内の各粒子にかかる力を判定する工程と、
(g)前記化学系内の各粒子にかかる前記力に基づいて、前記化学系内の各粒子の更新された配位を判定する工程と、
(h)前記更新された配位を示すレポートを電子出力する工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコンピューターが少なくとも1つの古典コンピューターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコンピューターが1つ以上の量子コンピューターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記立体配座の集合が、前記化学系における回転可能な結合まわりの様々な二面角を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学系の前記立体配座の集合内の各立体配座に対して前記(b)-(g)を実行する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法であって、
ここで、前記更新された配位を示す前記レポートは、前記立体配座の集合内の最も安定な配座の更新された配位を含む。
【請求項7】
前記(b)は、フラグメント分子軌道(FMO)方法、分割統治(DC)方法、密度行列埋め込み理論(DMET)方法、密度行列繰り込み群(DMRG)方法、テンソルネットワーク、および増分法から成る群から選択される1つ以上の要素を適用する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フラグメント間相互作用が、前記フラグメントと、前記複数のフラグメントのうちの少なくとも別のフラグメントとに空間的にまたがるバッファー領域を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フラグメント間相互作用が、前記複数のフラグメントのうちの別のフラグメントの分子軌道である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記化学系の第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションを実行する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
化学系に対して量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するためのシステムであって、該システムは、
前記化学系に対して前記量子力学的エネルギーまたは電子構造の計算を実行するための命令を含むメモリー、および
前記メモリーに動作可能につなげられたコンピューティングシステムを含み、当該コンピューティングシステムは、並列処理のための複数のプロセッサーを備える少なくとも1つのコンピューターを含み、かつ、少なくとも、
(a)前記化学系の立体配座の集合を判定させ、
(b)前記集合内の少なくとも1つの立体配座を複数の分子フラグメントへと分解させ、
(c)フラグメント間相互作用を使用して、前記複数の分子フラグメント内のフラグメントのハミルトニアンを構築させ、
(d)前記複数の並列プロセッサーを使用して、前記複数の分子フラグメントの複数の量子力学的エネルギーまたは複数の電子構造を並列に判定させ、ここで前記判定は、少なくとも前記ハミルトニアンを使用し、および、
(e)前記(d)で判定された前記複数の量子力学的エネルギーまたは前記複数の電子構造を組み合わせて、組み合わされたエネルギーまたは電子構造を生成させる、
命令を実行するように構成される、システム。
【請求項12】
前記コンピューティングシステムはさらに、
(f)前記組み合わされたエネルギーまたは電子構造から、前記化学系内の各粒子にかかる力を判定させ、
(g)前記化学系内の各粒子にかかる前記力に基づいて、前記化学系内の各粒子の更新された配位を判定させ、および、
(h)前記更新された配位を示すレポートを電子出力させる、
命令を実行するように構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのコンピューターが1つまたは複数の古典コンピューターを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記1つ以上のコンピューターが1つ以上の量子コンピューターを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記立体配座の集合が、前記化学系における回転可能な結合まわりの様々な二面角を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記コンピューティングシステムが、さらに、前記化学系の前記立体配座の集合内の各立体配座に対して前記(b)-(g)を行わせるために前記命令を実行するように構成されてなる、請求項12に記載のシステムであって、
ここで、前記更新された配位を示す前記レポートは、前記立体配座の集合内の最も安定な配座の更新された配位を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
前記(b)は、フラグメント分子軌道(FMO)方法、分割統治(DC)方法、密度行列埋め込み理論(DMET)方法、密度行列繰り込み群(DMRG)方法、テンソルネットワーク、および増分法から成る群から選択される1つ以上の要素を適用する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記フラグメント間相互作用が、前記フラグメントと、前記複数のフラグメントのうちの少なくとも別のフラグメントとに空間的にまたがるバッファー領域を決定することを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項19】
前記フラグメント間相互作用は、前記複数のフラグメントのうちの別のフラグメントの分子軌道である、請求項11に記載のシステム。
【請求項20】
前記コンピューティングシステムはさらに、前記命令を実行して、前記化学系の第一原理分子動力学的(AIMD)シミュレーションを実行するように構成されてなる、請求項11に記載のシステム。
【外国語明細書】