(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139082
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ニコチンアミドモノヌクレオチドを使用する治療の組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20230926BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20230926BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230926BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230926BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230926BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230926BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230926BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230926BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230926BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20230926BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230926BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230926BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230926BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20230926BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230926BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230926BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20230926BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K31/706 ZNA
A61K31/455
A61P3/10
A61P25/28
A61P27/02
A61P21/00
A61P3/04
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K31/711
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/86 Z
C12N15/869 Z
C12N15/867 Z
A01K67/027
C12N5/10
C12Q1/02
A23K20/147
A61K38/17
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115083
(22)【出願日】2023-07-13
(62)【分割の表示】P 2020506997の分割
【原出願日】2018-08-10
(31)【優先権主張番号】62/543,856
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/653,348
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】今井 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】アレッシア・グロージオ
(57)【要約】
【課題】
筋疾患、2型糖尿病、および/または肥満などの加齢関連症状および他の医学症状を治療するための種々の方法と組成物が提供される。
【解決手段】本開示の方法は、治療有効量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を対象に投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象の加齢関連症状を治療する方法であって、該対象に治療有効量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を投与することを含み、該加齢関連症状がインスリン感受性の損失、インスリン分泌の損失、インスリンの作用と分泌の損失、記憶機能の障害、眼機能の低下、網膜の変性、機能低下、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの症状を含む方法。
【請求項2】
前記加齢関連症状がインスリン感受性の損失を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加齢関連症状がインスリン分泌の損失を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加齢関連症状がインスリンの作用と分泌の損失を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記加齢関連症状が記憶機能の障害を含む、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記加齢関連症状が眼機能の低下を含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記加齢関連症状が網膜の変性を含む、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記加齢関連症状が機能の低下を含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記機能の低下が食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、加齢による無食欲、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とする対象の医学症状を治療する方法であって、該対象に治療有効量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの化合物を投与することを含み、該医学症状が筋疾患、2型糖尿病、肥満、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つを含む方法。
【請求項11】
前記医学症状が筋疾患を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記筋疾患が筋脆弱、筋萎縮症、筋消耗、筋力低下、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記筋疾患がサルコペニア、ダイナペニア、悪液質、筋ジストロフィー、筋緊張障害、脊髄性筋萎縮症、ミオパシー、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項10~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記筋ジストロフィーがデユシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリードレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記筋緊張障害が筋強直性ジストロフィー、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記ミオパシーがベツレムミオパシー、先天性線維型不均衡、進行性線維性異形成、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー、ミニコアミオパシー、マルチコアミオパシー、筋管ミオパシー、ネマリンミオパシー、周期性麻痺、低カリウムミオパシー、高カリウムミオパシー、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項13~15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前記筋疾患が酸性マルターゼ欠乏症、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、デブランチャー酵素欠損症、ラクテートデヒドロゲナーゼ欠損症、ミトコンドリア筋症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ異常症、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項10~16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記筋疾患がサルコペニア、ダイナペニア、悪液質、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項10~17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
前記筋疾患がサルコペニアである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記医学症状が2型糖尿病を含む、請求項10~19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
前記医学症状が肥満を含む、請求項10~20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの追加の化合物がニコチン酸、そのいずれかのエステル、またはそのいずれかの薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1~21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
前記ニコチン酸のエステルまたは薬学的に許容可能な塩が構造式(I)
【化1】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される]で表される化合物である、請求項1~22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
Rが2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
1日当たり約50mgから約500mgの前記少なくとも1つの追加の化合物が前記対象に投与される、請求項1~24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
1日当たり約10mgから約500mgのNMNが前記対象に投与される、請求項1~25のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
前記対象がNMNと前記少なくとも1つの追加の化合物を含む医薬組成物を投与される、請求項1~26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
それを必要とする対象のNMNの細胞内取込みを亢進させる方法であって、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される治療有効量の化合物を該対象に投与することを含む方法。
【請求項29】
前記化合物がニコチン酸、そのエステル、またはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ニコチン酸の前記エステルまたは薬学的に許容可能な塩が構造式(I)
【化2】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される。]で表される化合物である、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
Rが2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
1日当たり約50mgから約500mgの前記化合物が前記対象に投与される、請求項28~31のいずれか1つに記載の方法。
【請求項33】
それを必要とする対象のNAD+産生を刺激するおよび/または細胞内へのNMNの取込みを亢進させる方法であって、該対象に治療有効量のSlc12a8をコードする核酸を投与することを含む方法。
【請求項34】
前記Slc12a8をコードする核酸がSlc12a8をコードするcDNAを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記Slc12a8をコードする核酸の投与がSlc12a8をコードする遺伝子治療ベクターを投与することを含む、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記遺伝子治療ベクターがレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、またはそのいずれかの組み合わせを含む、請求項33~35のいずれか1つに記載の方法。
【請求項37】
前記遺伝子治療ベクターがレトロウイルスを含み、該レトロウイルスがレンチウイルスを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記Slc12a8をコードするcDNAがGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有する配列を含む、請求項34~37のいずれか1つに記載の方法。
【請求項39】
前記Slc12a8をコードする核酸を前記対象の前記消化管に投与することを含む、請求項33~38のいずれか1つに記載の方法。
【請求項40】
前記Slc12a8をコードする核酸を前記対象の前記小腸に投与することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記対象が筋疾患、2型糖尿病、肥満、加齢関連症状、またはそのいずれかの組み合わせの治療を必要とする、請求項33~40のいずれか1つに記載の方法。
【請求項42】
前記加齢関連症状がインスリン感受性の損失、インスリン分泌の損失、インスリンの作用と分泌の損失、記憶機能の障害、眼機能の低下、網膜の変性、機能低下、肥満、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記加齢関連症状が加齢関連肥満を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記対象が哺乳動物である、請求項1~43のいずれか1つに記載の方法。
【請求項45】
前記対象がマウスまたはラットである、請求項1~44のいずれか1つに記載の方法。
【請求項46】
前記対象がヒトである、請求項1~45のいずれか1つに記載の方法。
【請求項47】
前記ヒトが少なくとも30歳、少なくとも40歳、少なくとも50歳、少なくとも60歳、または少なくとも70歳の年齢を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
Slc12a8をコードする核酸を含む遺伝子治療ベクター。
【請求項49】
前記Slc12a8をコードする核酸がSlc12a8をコードするcDNAを含む、請求項48に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項50】
前期ベクターがレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、またはそのいずれかの組み合わせを含む、請求項48または49に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項51】
前期遺伝子治療ベクターがレトロウイルスを含み、該レトロウイルスがレンチウイルスを含む、請求項50に記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項52】
前記Slc12a8をコードするcDNAがGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有する配列を含む、請求項49~51のいずれか1つに記載の遺伝子治療ベクター。
【請求項53】
Slc12a8遺伝子に不活性化変異を含む非ヒト動物。
【請求項54】
前期非ヒト動物がマウスまたはラットを含む、請求項53に記載の非ヒト動物。
【請求項55】
前記Slc12a8遺伝子における前記不活性化変異が前期Slc12a8遺伝子における欠損、前記Slc12a8遺伝子への挿入、またはその組み合わせを含む、請求項53または54に記載の非ヒト動物。
【請求項56】
前記Slc12a8遺伝子における前記不活性化変異がSlc12a8遺伝子における欠損を含む、請求項55に記載の非ヒト動物。
【請求項57】
前記欠損が前記Slc12a8遺伝子のエクソン4またはその一部の欠損を含む、請求項56に記載の非ヒト動物。
【請求項58】
前記欠損がエクソン4の欠損を含む、請求項57に記載の非ヒト動物。
【請求項59】
Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株であって、該cDNAが
(a)SEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)をコードするcDNA、
(b)SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の相同性を有するタンパク質をコードするcDNA、または
(c)GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有するcDNA配列、を含む哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項60】
前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が胎盤由来の細胞を含まない、請求項59に記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項61】
Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株であって、該哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が胎盤由来の細胞を含まない哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項62】
前記cDNAがマウスSlc12a8タンパク質もしくはその変異体またはヒトSlc12a8タンパク質もしくはその変異体をコードする、請求項61に記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項63】
前記cDNAがSEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15をコードするcDNAを含む、請求項59~62のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項64】
さらに前記cDNAに作動可能に連結されたプロモーターを含む、請求項59~63のいずれか1つに記載の前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項65】
前記cDNAを含まない同等の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株における前記Slc12a8タンパク質の前記発現と比較して、前記Slc12a8タンパク質の前記発現が亢進している、請求項59~64のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項66】
前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が検出可能なCD73活性を欠いている、検出可能なCD38活性を欠いている、または検出可能なCD73活性と検出可能なCD38活性の両方を欠いている、請求項59~65のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項67】
前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が亢進したNMN取込みを示す、請求項59~66のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項68】
前記哺乳動物細胞が線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含み、または該哺乳動物細胞株が線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含む、請求項59~67のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項69】
前記哺乳動物細胞がNIH3T3細胞である、または該哺乳動物細胞株がNIH3T3細胞株である、請求項59~68のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項70】
前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が前記cDNA配列で安定的に形質転換される、請求項59~69のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項71】
前記哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が前記cDNA配列で一過性に形質転換される、請求項59~70のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項72】
前記cDNA配列がGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有する、請求項59~71のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項73】
前記哺乳動物細胞がマウスまたはラット細胞である、または前記哺乳動物細胞株がマウスまたはラット細胞株である、請求項59~72のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項74】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、または前記哺乳動物細胞株がヒト細胞株である、請求項59~72のいずれか1つに記載の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株。
【請求項75】
NMN輸送を促進する化合物を同定するための候補化合物をスクリーニングする方法であって、該方法が
(a)該候補化合物を、NMNトランスポータータンパク質を発現している細胞またはNMNトランスポータータンパク質を含むプロテオリポソームと接触させること、および
(b)該細胞における該NMNトランスポータータンパク質の該発現または活性の変化、または該プロテオリポソームにおける該NMNトランスポータータンパク質の該活性の変化を検出することを含み、
ここで、該候補化合物との接触後の、該細胞における該NMNトランスポータータンパク質の該発現または活性の変化、または該プロテオリポソームにおける該NMNトランスポータータンパク質の該活性の変化が、該候補化合物がNMNの前記輸送を調節することを意味することを特徴とする方法。
【請求項76】
前記NMNトランスポータータンパク質がSlc12a8タンパク質を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記Slc12a8タンパク質がSEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
(i)前記候補化合物との接触後に、前記NMNトランスポータータンパク質を発現している前記細胞における前記NMNトランスポータータンパク質の該発現または活性、を
(ii)該候補化合物との接触後に、前記NMNトランスポータータンパク質を発現していない細胞、または前記NMNトランスポータータンパク質の発現または活性が阻害されている細胞における該NMNトランスポータータンパク質の該発現または活性、と比較することをさらに含む、請求項75~77のいずれか1つに記載の方法。
【請求項79】
前記NMNトランスポータータンパク質を発現していない前記細胞がSlc12a8ノックアウト動物の細胞を含む、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
(i)前記候補化合物との接触後に、前記NMNトランスポータータンパク質を含む前記プロテオリポソームにおける前記NMNトランスポータータンパク質の前記活性、を
(ii)該候補化合物との接触後に、前記NMNトランスポータータンパク質を含まないプロテオリポソーム、または前記NMNトランスポータータンパク質の該活性が阻害されているプロテオリポソームにおける前記NMNトランスポータータンパク質の前記活性、と比較することをさらに含む、請求項75~77のいずれか1つに記載の方法。
【請求項81】
前記NMNトランスポータータンパク質を含まない前記プロテオリポソームがSlc12a8ノックアウト動物の細胞のプロテオリポソームを含む、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記細胞が哺乳動物線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含み、または前記プロテオリポソームが哺乳動物線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞に由来するプロテオリポソームを含む、請求項75~81のいずれか1つに記載の方法。
【請求項83】
前記細胞が請求項59~74のいずれか1つの哺乳動物細胞を含む、または前記プロテオリポソームが請求項59~74のいずれか1つの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株に由来するプロテオリポソームを含む、請求項75~82のいずれか1つに記載の方法。
【請求項84】
前記プロテオリポソームがSlc12a8cDNAを含む哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株に由来するプロテオリポソームを含む、請求項75~83のいずれか1つに記載の方法。
【請求項85】
NMNおよびNMNトランスポーターのアゴニストを含む医薬組成物。
【請求項86】
NMNトランスポーターの前記アゴニストが、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのエステル、その薬学的に許容可能な塩、およびその組み合わせから成る群から選択される化合物を含む、請求項85に記載の医薬組成物。
【請求項87】
前記NMNトランスポーターが、ニコチン酸、そのいずれかのエステル、またはそのいずれかの薬学的に許容可能な塩を含む、請求項85または86に記載の医薬組成物。
【請求項88】
ニコチン酸の前記エステルまたは薬学的に許容可能な塩が構造式(I)
【化3】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される。]で表される化合物である、請求項87に記載の医薬組成物。
【請求項89】
Rが2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される、請求項88に記載の医薬組成物。
【請求項90】
前記NMNトランスポーターがSlc12a8ポリペプチドまたはその同族体である、請求項85~89のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項91】
NMNおよびSlc12a8またはその同族体の遺伝子発現の誘発物質を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【政府の補助の宣言】
【0001】
本発明は米国国立衛生研究所から授与されたAG047902およびAG037457の下で政府の支援により遂行された。政府は本発明に特定の権利を保有する。
【0002】
[配列リストへの参照]
本開示の一部である配列リストは、本発明のプライマー、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列を含むテキストファイルを含んでいる。配列リストの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。コンピュータ読み出し可能な形式で記録された情報は、記述された配列リストと同一である。
【技術分野】
【0003】
本開示は、筋疾患、2型糖尿病、および/または肥満などの加齢関連症状および他の医学症状の治療のための種々の方法と組成物に関する。NMNの細胞内取込みを亢進させる方法およびNAD+の産生を刺激する方法も記載される。Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含むものを含み、種々の哺乳動物細胞および哺乳動物細胞株が記載される。Slc12a8をコードする核酸を含む遺伝子治療ベクターおよびSlc12a8遺伝子に不活性化変異を含む非ヒト動物も開示される。さらに、NMNの輸送を亢進する化合物を同定するための候補化合物をスクリーニングするための方法も記載される。
【背景技術】
【0004】
NAD+は多くの細胞の酸化還元反応に関与する普遍的で必須の補酵素である。NAD+は、サーチュインファミリーのNAD+依存性タンパク質デアセチラーゼ、ポリ-ADP-リボースポリメラーゼ(PARPs)、およびCD38/157NAD+ヒドロラーゼ/サイクリックADP-リボースシンターゼを含む、NAD+消費酵素の活性のためにも必要とされる(Canto, C., et al., Cell Metab., 22, 304, 31-53, 2015; Imai, S. and Guarente, L., Trends in Cell Biology, 24, 306, 464-471, 2014)。NAD+を産生するために、哺乳動物はトリプトファン、ニコチンアミドおよびニコチン酸(ビタミンB3の2つの形式としても知られる)、およびニコチンアミドリボシド(NR)およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含む中間体などの種々の前駆体を利用する。ニコチンアミドから始まるサルベージ経路は、哺乳動物における主要なNAD+生合成経路である(Garten, A., et al., Nat. Rev. Endocrinol., 11, 535-546, 2015; Imai, S., Curr. Pharm. Des., 15, 20-28, 2009)。この経路では、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)がニコチンアミドと5’-ホスホリボースピロホスフェートからNMNを産生する。その後、NMNはATPとともにNMNアデニリルトランスフェラーゼ、NMNAT1-3、によりNAD+に変換される。NAMPT反応の生成物はNMNであり、キーとなるNAD+中間体である。哺乳動物において、NAMPTは律速となるNAD+生合成酵素である。いかなる特定の理論にも縛られるものではないが、NMNは、種々の病気の症状の予防および/または治療、および加齢関連の生理的機能低下の緩和に関連して有用であると考えられる。しかしながら、NMN輸送のメカニズムについては議論の余地がある。
【0005】
Slc12a8はGagnon,K.B.とDelpire,E.により最初に同定された(Am. J. Physiol. Cell Physiol., 304, C693-714, 2013)。しかしながら、GagnonらはSlc12a8の機能を同定しなかった。Kubo,Y.らは、Slc12a8をスペルミントランスポーターとして同定したが(Exp. Eye Res., 124, 17-23, 2014)、それがNMN輸送に関与することは開示しなかった。
【発明の概要】
【0006】
それを必要とする対象の加齢関連症状を治療する種々の方法が提供される。典型的には、その方法は、治療有効量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を対象に投与することを含み、ここで加齢関連症状には、インスリン感受性の損失、インスリン分泌の損失、インスリンの作用および分泌の損失、記憶機能の障害、眼機能の低下、網膜の変性、機能低下、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの症状が含まれる。
【0007】
他の方法は、それを必要とする対象の医学的症状の治療に関する。その方法は、治療有効量のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの化合物を対象に投与することを含み、ここで医学的症状には、筋疾患、2型糖尿病、肥満、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つが含まれる。
【0008】
それを必要とする対象のNMNの細胞内取込みを亢進させる方法も提供される。これらの方法は、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、そのいずれかの薬学的に許容可能な塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される治療有効量の化合物を対象に投与することを含む。
【0009】
それを必要とする対象のNAD+の産生を刺激し、および/または細胞内へのNMN取込みを亢進させる方法が提供される。方法は、治療有効量のSlc12a8をコードする核酸を対象に投与することを含む。
【0010】
遺伝子治療ベクターが提供される。遺伝子治療ベクターはSlc12a8をコードする核酸を含む。
【0011】
非ヒト動物が提供される。非ヒト動物はSlc12a8遺伝子に不活性化変異を含む。
【0012】
哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は、Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、SEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)を含む。
【0013】
さらなる哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は、Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含む。
【0014】
さらに別の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は、Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)またはSlc12a8 ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有するcDNA配列を含む。
【0015】
別の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。細胞または細胞株は、Slc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。細胞または細胞株は胎盤由来細胞を含まない。
【0016】
NMNの輸送を調節する化合物を同定するための候補化合物をスクリーニングする方法が提供される。方法は、(a)候補化合物を、NMNトランスポータータンパク質を発現している細胞またはNMNトランスポータータンパク質を含むプロテオリポソームと接触させること、および(b)細胞中でのNMNトランスポータータンパク質の発現または活性の変化、またはプロテオリポソーム中でのNMNトランスポータータンパク質の活性の変化を検出することを含む。候補化合物との接触に引き続く、細胞内でのNMNトランスポータータンパク質の発現または活性の変化、またはプロテオリポソーム中でのNMNトランスポータータンパク質の活性の変化は、候補化合物がNMNの輸送を調節することを示唆する。
【0017】
医薬組成物が提供される。医薬組成物はNMNおよびNMNトランスポーターのアゴニストを含む。
【0018】
さらなる医薬組成物が提供される。医薬組成物はNMNおよびSlc12a8またはその同族体の遺伝子発現誘発物質を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1は、FK866で処理した初代肝細胞、膵島および海馬球状細胞塊において一般に上方制御されている遺伝子のベン図である。
【0020】
図2は、3月齢B6雄性マウス由来の異なる組織におけるSlc12a8 mRNAの発現を示す。
【0021】
図3は、0.1%DMSO、FK866単独またはFK866プラスNMNで処理した初代マウス肝細胞、NIH3T3線維芽細胞、および空腸および回腸のエクスビボ外植片におけるSlc12a8 mRNAの発現変化を示す。
【0022】
図4は、DMSO、FK866単独およびFK866プラスNMNで処理した初代マウス肝細胞およびNIH3T3線維芽細胞における細胞内NAD+含量を示す。
【0023】
図5は、FK866およびFK866プラスNMNで48時間処理したNIH3T3細胞において測定した、表面および細胞内Slc12a8タンパク質発現レベルのフローサイトメトリーのデータを示す。
【0024】
図6は、後述するNMN経路阻害剤で処理した初代マウス肝細胞における外因性NMN取込みの経時変化を示す。
【0025】
図7は、初代マウス肝細胞におけるSlc12a8およびNrk1 mRNAサイレンシングに対するノックダウン効率を示す。
【0026】
図8は、Slc12a8およびNrk1 mRNAサイレンシングに付した細胞のHPLCで測定した細胞内NMN含量を示す。
【0027】
図9は、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞の原形質膜画分のSDS-PAGEにより明らかになったSlc12a8タンパク質発現を示す。
【0028】
図10は、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞のカベオリン-1タンパク質レベルに正規化したSlc12a8タンパク質レベルを示す。
【0029】
図11は、Slc12a8過剰発現および対照NIH3T3細胞における3H-NMNの細胞内取込みを示す。
【0030】
図12は、3H-NMNの細胞内取込みに対する細胞内NMNをプロットすることによるミカエリス・メンテン動力学の計算を示す。
【0031】
図13は、Slc12a8-OE細胞または対照細胞に由来するプロテオリポソームの3H-NMNの取込みを示す。
【0032】
図14は、Slc12a8の基質特異性を決定するための非標識NAD+関連化合物に対する3H-NMNの置換を示す。
【0033】
図15は、プロテオリポソームシステムを使用したNMNおよびNRのIC50の決定を示す。
【0034】
図16は、プロテオリポソームによる3H-NMNの取込みに対してNa+をLi+で置換した効果を示す。
【0035】
図17は、ホタルルシフェラーゼ(fLuc)shRNAおよびSlc12a8 shRNAを感染させたマウスの空腸および回腸組織試料の代表的ウエスタンブロットを示す。
【0036】
図18は、ホタルルシフェラーゼ(fLuc)shRNAおよびSlc12a8 shRNAを感染させたマウスの空腸および回腸組織試料の発現レベルをGAPDHに対して正規化した棒グラフを示す。
【0037】
図19は、対照およびSlc12a8ノックダウンマウスのNMNの経口強制投与後60分間にわたってHPLCにより測定したマウスのインビボ血漿NMNレベルを示す。
【0038】
図20は、対照およびSlc12a8ノックダウンマウスにおいてNMNの経口強制投与後60分間にわたってHPLCにより測定したマウスのインビボ血漿ニコチンアミドレベルを示す。
【0039】
図21は、対照およびSlc12a8ノックダウンマウスにおいてNMNの経口強制投与後60分間にわたって採取した空腸組織試料中のNAD濃度を示す。
【0040】
図22は、対照およびSlc12a8ノックアウトマウスの種々の組織におけるSlc12a8 mRNAの発現を示す。
【0041】
図23は、ウエスタンブロットによるSlc12a8ノックアウトマウスの十二指腸、空腸、回腸、および膵臓におけるSlc12a8タンパク質の欠如を示す。
【0042】
図24は、ウエスタンブロットによるSlc12a8ノックアウトマウスの視床下部におけるSlc12a8タンパク質の欠如を示す
【0043】
図25A-Bは、Slc12a8ノックアウトマウスから採取した種々の組織試料中の明期および暗期のNAD+レベルを示す。
【0044】
図26は、Slc12a8ノックアウトマウスおよびその野生型同腹仔に対する強制投与後の18O-D-NMNの取込みを示す。
【0045】
図27は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの食餌摂取を示す。
【0046】
図28は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの体脂肪率と除脂肪量率を示す。
【0047】
図29は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの糞便中脂質含量を示す。
【0048】
図30は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの酸素消費量を示す。
【0049】
図31は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスのエネルギー消費量を示す。
【0050】
図32は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの歩行数を示す。
【0051】
図33は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの下気道呼吸交換比を示す。
【0052】
図34は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスのグルコースレベルを示す。
【0053】
図35は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスのインスリンレベルを示す。
【0054】
図36は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスのトリグリセリドレベルを示す。
【0055】
図37は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの空腹時および再給餌時の血漿GLP-2レベルを示す。
【0056】
図38は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスの弓状核におけるChopおよびSocs3の相対的mRNA発現を示す。
【0057】
図39は、野生型同腹仔と比較した不断給餌Slc12a8ノックアウトマウスの肝臓におけるPepckおよびG6pcの発現を示す。
【0058】
図40は、野生型同腹仔と比較したSlc12a8ノックアウトマウスにおけるPMCH mRNAの発現を示す。
【0059】
図41は、Slc12a8過剰発現構成体を有するか、または有しないNIH3T3細胞におけるNAD+生合成阻害剤の効果を示す。
【0060】
図42は、Slc12a8を含有するプロテオリポソームへの3H-標識NMN(3H-NMN)取込みのニコチン酸(NA)による亢進を示す。
【0061】
図43は、2月齢マウスに対して24月齢マウスの空腸および回腸において低下したNAD+レベルを示す。
【0062】
図44は、2月齢および24月齢マウスの空腸および回腸におけるSlc12a8の発現を示す。
【0063】
図45は、2月齢および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンマウスの4日間の食餌摂取量を示す。
【0064】
図46は、消化管におけるSlc12a8ノックダウンを有するか、または有しない2月齢および24月齢マウスの空腹時グルコースレベルを示す。
【0065】
図47は、Slc12a8および対照マウスのGLP-1レベルに対する24時間絶食後の再給餌の効果を示す。
【0066】
図48は、2月齢の腸Slc12a8ノックダウンマウスおよび対照マウスの回腸溶解物中のSlc12a8およびGAPDHのウエスタンブロットを示す。
【0067】
図49は、24月齢の腸Slc12a8ノックダウンマウスおよび対照マウスの回腸溶解物中のSlc12a8およびGAPDHのウエスタンブロットを示す。
【0068】
図50は、2月齢および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンマウスおよび対照マウスの回腸中のNAD+レベルを示す。
【0069】
図51は、24月齢の腸Slc12a8ノックダウンマウスおよび対照マウスのエクスビボ外植片由来の上清のGLP-1レベルのELISAを示す。
【0070】
図52は、12月齢のSlc12a8ノックアウトマウスおよび対照マウスの外植片中のGLP-1レベル(左)および試料中のNAD+レベル(右)を示す。
【0071】
図53は、SIRTファミリー阻害剤で処理した外植片中または対照のGLP-1レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本明細書において開示するのは細胞へのNMNの取込みを亢進させる方法である。また、そのためにSlc12a8およびNMNの輸送の研究に有用な細胞株も開示する。また本発明者は細胞内へのNMNの取込みを亢進させるトランスポーターSlc12a8も同定した。
【0073】
本明細書において開示する方法は、限定はされないが、2型糖尿病、肥満、加齢関連肥満、加齢関連血中脂質レベルの上昇、加齢関連インスリン感受性の低下、加齢関連記憶機能の損失または低下、加齢関連眼機能の損失または低下、加齢関連生理機能の低下、グルコース刺激インスリン分泌の障害、糖尿病、ミトコンドリア機能の改善、神経死、および/またはアルツハイマー病における認知機能、虚血/再灌流傷害からの心臓の保護、神経幹/前駆細胞集団の保持、傷害後の骨格筋ミトコンドリア機能および動脈機能の回復、および加齢関連機能低下などのNMNの代謝が関与するいずれの病気または症状をも治療、改善、緩和、または回復するために使用することができる。
【0074】
本教示は、限定はされないが、
1.マウスSlc12a8 mRNAまたはヒトSlc12a8 mRNAなどの哺乳動物Slc12a8 mRNAの全長cDNA、
2.マウスSlc12a8ポリペプチドまたはヒトSlc12a8ポリペプチドをコードするcDNA、
3.全長Slc12a8 cDNAなどのSlc12a8 cDNAを含む哺乳動物発現ベクター、
4.全長マウスSlc12a8 cDNA(Slc12a8-OE細胞)または全長ヒトSlc12a8 cDNAなどのSlc12a8 cDNAを過剰発現する細胞株を含み、Slc12a8 cDNAを内部に含むNIH3T3細胞株などの細胞株、
5.Slc12a8 mRNAの発現を低下またはサイレンス化させるshRNAを内部に含むレンチウイルス、
6.マウスSlc12a8タンパク質またはヒトSlc12a8タンパク質などのSlc12a8タンパク質のN末端および内部ドメインに対する、ウサギポリクローナル抗体を含むポリクローナル抗体、
7.全臓器的なSlc12a8ノックアウトマウス
を含む。
【0075】
本教示は膜二重層に内包されたSlc12a8タンパク質などの輸送タンパク質を有するリポソームを含むプロテオリポソームシステムを含む。そのようなシステムはSlc12a8タンパク質の解析、および候補薬物のSlc12a8に対する親和性試験に使用、またはSlc12a8の活性に対するアゴニストまたはアンタゴニストとしての活性試験に使用することができる。
【0076】
本教示は細胞、組織、および消化管などの器官におけるNMN取込みを促進する方法を含む。これらの方法はSlc12a8のcDNAを消化管に投与することを含むことができる。これらの方法はSlc12a8をコードするcDNAを含むレンチウイルスを消化管に投与することを含むことができる。
【0077】
NMN取込みを促進する方法はナトリウム塩と併用でNMNを投与することを含むことができる。例えば、投与は経口投与とすることができる。
【0078】
本教示はNMNの取込みを亢進させるためにニコチン酸(NA)またはNA誘導体化合物(すなわち、NAの構造同族体)を、それを必要とする対象に投与することを含む。本教示は、それを必要とする対象におけるSlc12a8 NMNトランスポーターの取込み機能を亢進させるためのニコチン酸(NA)またはNA誘導体化合物の投与を含む。ニコチン酸(NA)またはNA誘導体化合物(すなわち、NAの構造同族体)は、限定はされないが、NAまたはNA誘導体化合物として10-500mg/日または50-500mg/日などの用量範囲で、それを必要とする対象に投与することができる。投与は、経口投与、非経口投与、またはそのいずれかの組み合わせとすることができる。
【0079】
本教示はそれを必要とする対象におけるNMNの取込みを促進または加速させるために、NMNと併用でNAまたはNA誘導体化合物を投与することを含み、それはSlc12a8 NMNトランスポーターのNMN取込み機能を亢進させることによる。そのような併用は、限定はされないが、NMNおよびNAまたはNA誘導体化合物として10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で、それを必要とする対象に投与することができる。投与は、経口投与、非経口投与、またはそのいずれかの組み合わせとすることができる。
【0080】
本教示はそれを必要とする対象におけるNMNの取込みを促進させるために、NMNと塩(例えば、Na+)の併用投与を含む。併用は経口投与で併用とすることができる。併用は非経口投与で併用とすることができる。NMNとナトリウム塩などのNMN取込み促進塩は、限定はされないが、各々10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で投与することができる。
【0081】
本教示はそれを必要とする対象におけるNMNの取込みを促進させるために、NMN、ナトリウム塩、およびニコチン酸(NA)もしくはNA誘導体化合物の併用投与を含むことができる。NMN、ナトリウム塩、およびニコチン酸(NA)もしくはNA誘導体化合物の内の1つまたはいずれの併用も経口投与することができる。投与は、NMN、ナトリウム塩、およびニコチン酸(NA)もしくはNA誘導体化合物の内のいずれかまたは全ての経口投与を含むことができる。NMN、ナトリウム塩、およびニコチン酸(NA)もしくはNA誘導体化合物は、それを必要とする対象に、限定はされないが、各々10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で投与することができる。
【0082】
本教示は、それを必要とする対象においてSlc12a8 NMNトランスポーターのNMN取込み機能を抑制するために、ニコチンアミドリボシド(NR)またはNR誘導体化合物の投与も含む。ニコチンアミドリボシド(NR)またはNR誘導体化合物は経口で投与することができる。NRまたはNR誘導体化合物は、それを必要とする対象に、限定はされないが、10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で投与することができる。
【0083】
本教示は、それを必要とする対象においてSlc12a8 NMNトランスポーターのNMN取込み機能を抑制するために、例えばリチウム塩などの非ナトリウム塩の投与も含む。非ナトリウム塩は経口で投与することができる。非ナトリウム塩は、それを必要とする対象に、限定はされないが、10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で投与することができる。
【0084】
本教示は、それを必要とする対象においてSlc12a8 NMNトランスポーターのNMN取込み機能を抑制するために、例えばリチウム塩などの非ナトリウム塩などを併用した、ニコチンアミドリボシド(NR)またはNR誘導体化合物の投与を含む。NRもしくはNR誘導体化合物、および/または非ナトリウム塩は経口で投与することができる。NRもしくはNR誘導体化合物および非ナトリウム塩は、それを必要とする対象に、限定はされないが、10~500mg/日または50~500mg/日などの用量範囲で投与することができる。
【0085】
本教示は対象におけるNAD+産生を刺激する方法を開示する。本方法は、それを必要とする対象に、Slc12a8をコードする遺伝子DNAまたはcDNAを含む核酸を投与することを含むことができる。核酸は、限定はされないが、NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)などと表記された配列を有するcDNAなどのSlc12a8をコードする遺伝子DNAまたはcDNAを含むレンチウイルスであり得るか、またはそれを含むことができる。対象には哺乳動物(例えば、マウス、ラット、またはヒト)があげられる。Slc12a8をコードするcDNAは、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)と少なくとも70%の配列相同性、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも70%の配列相同性、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列であり得る。Slc12a8をコードするcDNAは、GenBank参照配列:NM_134251の配列であり得る、またはGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。
【0086】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:9の配列であり得る、またはSEQ ID NO:9と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。
【0087】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:10と表記されたSlc12a8マウス変異体Bの配列であり得る、またはSlc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。
【0088】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:11と表記されたSlc12a8ヒト全長配列の配列であり得る、またはSlc12a8ヒト全長配列(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。
【0089】
本教示は対象における細胞へのNMN取込みを促進または亢進させる方法を含む。本方法は、それを必要とする対象に、Slc12a8をコードするcDNA、またはGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を含む核酸を投与することを含むことができる。GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。cDNAは消化管に投与することができる。この投与は強制投与による投与を含むことができる。この投与は、小腸において溶解するように設計された経口製剤を含むことができる。
【0090】
本教示はSlc12a8遺伝子における欠損を含むノックアウトマウスを含む。この欠損はSlc12a8遺伝子の完全な欠損、または例えば、限定はされないが、Slc12a8遺伝子のエクソン4の欠損、もしくはSlc12a8遺伝子のエクソン4内の欠損などのSlc12a8遺伝子の部分的欠損でもあり得る。
【0091】
本教示は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と表記された配列などの、Slc12a8遺伝子またはcDNAの導入された配列を含む哺乳動物細胞株を含む。導入されたSlc12a8遺伝子またはcDNAは、外因性起源またはホスト哺乳動物細胞株と同種であり得る。哺乳動物細胞株は、Slc12a8遺伝子またはcDNAが導入されなかった親細胞株よりも高レベルでSlc12a8ポリペプチドを発現することができる。
【0092】
本教示は非天然、即ち形質転換または形質移入により細胞に導入され、そして、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)の配列と少なくとも70%の配列相同性を有する、配列を含む哺乳動物細胞株を含む。GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。Slc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、Slc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。
【0093】
本教示は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)などのSlc12a8配列を含む哺乳動物細胞株を含む。本教示の細胞株のSlc12a8配列はホスト細胞と異種起源でもあり得る。
【0094】
本教示の細胞株は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列であり得るSlc12a8配列を含むことができる。配列はSlc12a8をコードする遺伝子またはcDNAの配列であり得る。本教示の細胞株のSlc12a8をコードする遺伝子またはcDNAはホスト細胞と異種起源であり得る。Slc12a8をコードする配列を含む細胞株は、さらにSlc12a8をコードする配列に作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる。細胞株は哺乳動物細胞株であり得る。哺乳動物細胞株はCD73活性を損失、CD38活性を損失、またはCD73活性とCD38活性の両方を損失することもできる。哺乳動物細胞株はNIH3T3細胞株であり得る。哺乳動物細胞株は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を含む安定的に形質転換された細胞株であり得る。GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。哺乳動物細胞株は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を用いて一過的に形質移入することができる。GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有することができる。哺乳動物細胞株は、マウス細胞株、ラット細胞株、またはヒト細胞株であり得る。哺乳動物細胞株は、マウス細胞株およびラット細胞株から成る群から選択することができる。哺乳動物細胞株はヒト細胞株であり得る。GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:9)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:10)、またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列は、全長Slc12a8cDNAであり得る。
【0095】
本教示の方法は、それを必要とする対象におけるNMNの細胞内取込みを亢進させる方法を含むことができる。これらの方法は、それを必要とする対象に、治療有効量のニコチン酸またはそのエステルまたは薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。ニコチン酸のエステルまたは薬学的に許容可能なその塩は、
【0096】
【化1】
の構造または薬学的に許容可能なその塩であり得、ここでRはH、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。RはH、2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、またはp-ニトロフェニルであり得る。RはH、2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。RはH、C
1~C
6直鎖アルキル、C
3~C
6分岐鎖アルキル、C
3~C
6シクロアルキル、C
1~C
6直鎖アルコキシ、C
3~C
6分岐鎖アルコキシおよびC
3~C
6シクロアルコキシから成る群から選択することができる。RはH、C
1~C
6直鎖アルコキシ、C
3~C
6分岐鎖アルコキシ、C
3~C
6シクロアルコキシ、C
1~C
6直鎖ハロアルコキシ、C
3~C
6分岐鎖ハロアルコキシ、C
3~C
6シクロハロアルコキシ、C
1~C
6直鎖ヒドロキシアルコキシ、C
3~C
6分岐鎖ヒドロキシアルコキシ、C
3~C
6シクロヒドロキシアルコキシ、アルコキシメチル、アルコキシエチル、アルコキシアルコキシメチル、アルコキシアルコキシエチル、ベンジル、アルコキシベンジル、ナフチルおよびアルコキシナフチルから成る群から選択することができる。
【0097】
Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、またはp-ニトロフェニルであり得る。Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる。Rは、C1~C6直鎖アルキル、C3~C6分岐鎖アルキル、C3~C6シクロアルキル、C1~C6直鎖アルコキシ、C3~C6分岐鎖アルコキシおよびC3~C6シクロアルコキシから成る群から選択することができる。Rは、C1~C6直鎖アルコキシ、C3~C6分岐鎖アルコキシ、C3~C6シクロアルコキシ、C1~C6直鎖ハロアルコキシ、C3~C6分岐鎖ハロアルコキシ、C3~C6シクロハロアルコキシ、C1~C6直鎖ヒドロキシアルコキシ、C3~C6分岐鎖ヒドロキシアルコキシ、C3~C6シクロヒドロキシアルコキシ、アルコキシメチル、アルコキシエチル、アルコキシアルコキシメチル、アルコキシアルコキシエチル、ベンジル、アルコキシベンジル、ナフチルおよびアルコキシナフチルから成る群から選択することができる。
【0098】
本教示はそれを必要とする対象におけるNMNの細胞内取込みを亢進させる方法を含む。これらの方法は、対象に化合物または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができ、化合物はニコチン酸
【0099】
【化2】
ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールまたはヘキサニコチン酸イノシトールであり得る。化合物は、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールおよびヘキサニコチン酸イノシトールから成る群から選択することができる。化合物または薬学的に許容可能なその塩は、ニコチン酸または薬学的に許容可能なその塩であり得る。投与は、1日当たり50-500mgのニコチン酸または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。投与は、1日当たり50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、405、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、または500mgのニコチン酸または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。投与は、1日当たり50-55、55-60、60-65、65-70、70-75、75-80、80-85、85-90、90-95、95-100、100-105、105-110、110-115、115-120、120-125、125-130、130-135、135-140、140-145、145-150、150-155、155-160、160-165、165-170、170-175、175-180、180-185、185-190、190-195、195-200、200-205、205-210、210-215、215-220、220-225、225-230、230-235、235-240、240-245、245-250、250-255、255-260、260-265、265-270、270-275、275-280、280-285、285-290、290-295、295-300、300-305、305-310、310-315、315-320、320-325、325-330、330-335、335-340、340-345、345-350、350-355、355-360、360-365、365-370、370-375、375-380、380-385、385-390、390-395、395-400、400-405、405-410、410-415、415-420、420-425、425-430、430-435、435-440、440-445、445-450、450-455、455-460、460-465、465-470、470-475、475-480、480-485、485-490、490-495、または495-500mgのニコチン酸または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。投与は、1日当たり50-60、60-70、70-80、80-90、90-100、100-110、110-120、120-130、130-140、140-150、150-160、160-170、170-180、180-190、190-200、200-210、210-220、220-230、230-240、240-250、250-260、260-270、270-280、280-290、290-300、300-310、310-320、320-330、330-340、340-350、350-360、360-370、370-380、380-390、390-400、400-410、410-420、420-430、430-440、440-450、450-460、460-470、470-480、480-490、490-500mgのニコチン酸または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。化合物または薬学的に許容可能なその塩の投与は、化合物または薬学的に許容可能なその塩を薬学的に許容可能な賦形剤とともに投与することを含むことができる。
【0100】
本教示はそれを必要とする対象の加齢関連のインスリン感受性および/またはインスリン分泌の損失を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法を含む。対象の加齢関連のインスリン感受性の損失を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法は、有効量のNMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つの有効量を投与することを含むことができる。それを必要とする対象の加齢関連のインスリン分泌の損失を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法は、有効量のNMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つの有効量を投与することを含むことができる。
【0101】
本教示はそれを必要とする対象の加齢関連の記憶機能の障害を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法を含む。それを必要とする対象の加齢関連の記憶機能の障害を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法は、有効量のNMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つの有効量を投与することを含むことができる。
【0102】
本教示はそれを必要とする対象の加齢関連の眼機能の低下を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法を含む。それを必要とする対象の加齢関連の眼機能の低下を治療、改善、軽減、予防または回復させる方法は、有効量のNMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つの有効量を投与することを含むことができる。
【0103】
それを必要とする対象の加齢関連の網膜の変性を治療する方法が提供される。本方法は、NMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つを投与することを含むことができる。
【0104】
加齢関連の網膜の変性、加齢関連の眼機能の低下、加齢関連の記憶機能の障害、または加齢関連のインスリン感受性の損失を治療する方法が提供される。本方法は、NMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つを投与することを含むことができる。
【0105】
加齢関連の機能の低下を治療、改善、予防または回復させる方法が提供される。本方法は、NMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つを投与することを含むことができる。加齢関連の機能の低下は、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低化、サルコペニア、またはその組み合わせを含むことができる。
【0106】
糖尿病を治療、改善、予防または回復させる方法が提供される。本方法は、NMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つを投与することを含むことができる。糖尿病には1型糖尿病または2型糖尿病があり得る。
【0107】
肥満を治療、改善、予防または回復させる方法が提供される。本方法は、NMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、ならびにニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩の少なくとも1つを投与することを含むことができる。
【0108】
医薬組成物が提供される。本医薬組成物はNMNもしくは薬学的に許容可能なその塩、およびNMNトランスポーターのアゴニストを含むことができる。NMNトランスポーターのアゴニストは、ニコチン酸もしくは薬学的に許容可能なその塩、ニセリトロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩であり得る。NMNトランスポーターのアゴニストは、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロールもしくは薬学的に許容可能なその塩、β-ピリジルカルビノールもしくは薬学的に許容可能なその塩、またはヘキサニコチン酸イノシトールもしくは薬学的に許容可能なその塩から成る群から選択することができる。NMNトランスポーターはSlc12a8ポリペプチドまたはその同族体であり得る。
【0109】
さらなる医薬組成物が提供される。本医薬組成物は、NMNおよびSlc12a8またはその同族体の遺伝子発現誘導物質を含むことができる。Slc12a8はアクセッション番号NM_134251(SEQ ID NO:12)、Slc12a8マウス変異体A(SEQ ID NO:13)、Slc12a8マウス変異体B(SEQ ID NO:14)またはSlc12a8ヒト(SEQ ID NO:15)として同定されたアミノ酸配列を有することができる。
【0110】
本教示は、対象においてNAD+産生を刺激する方法および対象において細胞へのNMN取込みを亢進させる方法を含む。対象は、例えば加齢関連肥満などのNMN代謝が関与する病気の治療を必要とする対象であり得る。これらの方法は、それを必要とする対象にSlc12a8をコードするcDNAを含む核酸を投与することを含む。Slc12a8をコードするcDNAは、ヒトまたはマウスまたはラットなどのげっ歯類などの哺乳動物に由来するSlc12a8 mRNA転写物のSlc12a8 cDNAであり得る。核酸はSlc12a8をコードするcDNAを含むレンチウイルスを含むことができる。Slc12a8をコードするcDNAは、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)に記載された配列を含むことができ、またはGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)に記載された配列と70%以上の配列相同性を有することができる。本教示のレンチウイルスは、治療を必要とする対象の小腸に投与することができる。
【0111】
本教示は、Slc12a8遺伝子に欠損を含むノックアウトマウスを含むこともできる。欠損は、限定はされないが、Slc12a8遺伝子のエクソン4における欠損であり得る。
【0112】
本教示はさらに、Slc12a8ポリペプチドをコードするcDNA、またはGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%以上の配列相同性を有するcDNA配列を含む哺乳動物細胞株を含む。細胞株は、cDNAで安定的に形質転換され得るか、またはcDNAで一過的に形質転換され得る。cDNAは、限定はされないが、例えばcDNAに作動可能に連結されたプロモーターまたはエンハンサーなどの制御配列に作動可能に連結され得る。
【0113】
哺乳動物細胞株はCD73および/またはCD38活性を損失することができる。
【0114】
哺乳動物細胞株はマウス細胞株、ラット細胞株、またはヒト細胞株であり得る。哺乳動物細胞株はGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%以上の配列相同性を有するcDNA配列で形質転換されたNIH3T3細胞株であり得る。形質転換は安定的な形質転換または一過的な形質転換であり得る。
【0115】
本教示はそれを必要とする対象においてNMNの細胞内取込みを亢進させる方法も含む。これらの方法は治療有効量のニコチン酸またはそのエステルまたは薬学的に許容可能なその塩を投与することを含む。ニコチン酸のエステルは、
【0116】
【化3】
の構造を有することができ、ここでRは、限定はされないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、またはp-ニトロフェニルであり得る。RはH、2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、またはp-ニトロフェニルであり得る。Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、またはp-ニトロフェニルであり得る。
【0117】
本教示はそれを必要とする対象においてNMNの細胞内取込みを亢進させる方法も含む。これらの方法は化合物または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができ、ここで化合物はニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールまたはヘキサニコチン酸イノシトールである。投与は1日当たり50~500mgのニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールまたはヘキサニコチン酸イノシトール、またはこれらいずれかの化合物の薬学的に許容可能な塩を投与することを含むことができる。化合物または薬学的に許容可能なその塩は薬学的に許容可能な賦形剤とともに投与することができる。
【0118】
本教示は、それを必要とする対象の加齢関連インスリン感受性の損失を治療する方法、それを必要とする対象の加齢関連インスリン分泌の損失を治療する方法、それを必要とする対象の加齢関連インスリン作用の損失を治療する方法、それを必要とする対象の加齢関連インスリン作用および分泌の損失を治療する方法、それを必要とする対象の加齢関連記憶機能の障害を治療する方法、それを必要とする対象の加齢関連眼機能の低下を治療する方法、およびそれを必要とする対象の加齢関連網膜の変性を治療する方法も含む。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、もしくはヘキサニコチン酸イノシトール、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0119】
本教示はそれを必要とする対象の筋疾患を治療する方法も含む。本教示に従って治療し得る筋疾患は、限定はされないが、筋脆弱、筋萎縮症、筋消耗、筋力低下を含む。本教示に従って治療し得る筋疾患は、限定はされないが、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、筋ジストロフィー、筋緊張障害、脊髄性筋委縮症、およびミオパシーを含む。筋ジストロフィーは、例えば、デユシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリードレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、または眼咽頭筋ジストロフィーであり得る。筋緊張障害は筋強直性ジストロフィー、先天性ミオトニー、または先天性パラミオトニアであり得る。ミオパシーは、ベスレムミオパシー、先天性線維型不均衡、進行性骨化性線維異形成、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー、ミニコアミオパシー、マルチコアミオパシー、筋管ミオパシー、ネマリンミオパシー、周期性麻痺、低カリウムミオパシー、または高カリウムミオパシーであり得る。筋疾患は、酸性マルターゼ欠損症、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、デブランチャー酵素欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミトコンドリア筋症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、またはホスホグリセリン酸キナーゼ異常症であり得る。筋疾患はサルコペニア、ダイナペニア、または悪液質であり得る。筋疾患はサルコペニアであり得る。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールもしくはヘキサニコチン酸イノシトールなどの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0120】
本教示はNMNおよびNMNトランスポーターのアゴニストを含む医薬組成物も含む。NMNトランスポーターのアゴニストは、限定はされないが、ニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールまたはヘキサニコチン酸イノシトールであり得る。
【0121】
NMNトランスポーターはSlc12a8ポリペプチドまたはその同族体であり得る。
【0122】
本教示はそれを必要とする対象の加齢関連の機能低下を予防する方法も含む。加齢関連の機能低下は、限定されない例であるが、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、または加齢による無食欲に起因し得る、または関連することができる。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールもしくはヘキサニコチン酸イノシトールなどの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0123】
本教示はそれを必要とする対象の加齢関連の機能低下を予防する方法も含む。加齢関連の機能低下は、限定されない例であるが、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、または加齢による無食欲に起因し得る、または関連することができる。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールもしくはヘキサニコチン酸イノシトールなどの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0124】
本教示はそれを必要とする対象の2型糖尿病を治療する方法も含む。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールもしくはヘキサニコチン酸イノシトールなどの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0125】
本教示はそれを必要とする対象の肥満を治療する方法も含む。これらの方法は、薬学的有効量の、NMN、ならびにニコチン酸、ニコチン酸のエステル、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノールもしくはヘキサニコチン酸イノシトールなどの化合物、または薬学的に許容可能なその塩を投与することを含むことができる。
【0126】
本明細書に提示された研究は、哺乳動物においてSlc12a8遺伝子が新規NMNトランスポーターをコードすることを実証する。Slc12a8遺伝子のmRNA発現はNAD+の低下に応答して上方制御され、理論によって限定されるわけではないが、それにより細胞がNAD+生合成に対する緊急の要求に応答することが可能になる。Slc12a8NMNトランスポーターは生理的条件下でNMNに特異的であり得る。細胞培養物および小腸においてこの遺伝子をノックダウンするとNMNの早い取込みが完全に無効にされるが、その全長cDNAの過剰発現により、そうでなければ最小のNMN輸送を示す細胞へのNMN輸送が亢進する。
【0127】
本発明の種々の態様が以下のセクションに追加的に詳細に記載される。
治療の方法
【0128】
それを必要とする対象の加齢関連の症状を治療する種々の方法が提供される。典型的には、方法は対象に治療有効量の、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、薬学的に許容可能なそのいずれかの塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの化合物を投与することを含み、そして加齢関連の症状はインスリン感受性の損失、インスリン分泌の損失、インスリン作用および分泌の損失、記憶機能の障害、眼機能の低下、網膜の変性、機能低下、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの症状を含む。
【0129】
加齢関連の症状はインスリン感受性の損失を含むことができる。
【0130】
加齢関連の症状はインスリン分泌の損失を含むことができる。
【0131】
加齢関連の症状はインスリンの作用および分泌の損失を含むことができる。
【0132】
加齢関連の症状は記憶機能の障害を含むことができる。
【0133】
加齢関連の症状は眼機能の低下を含むことができる。
【0134】
加齢関連の症状は網膜の変性を含むことができる。
【0135】
加齢関連の症状は機能の低下(例えば、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、加齢による無食欲、またはそのいずれかの組み合わせ)を含むことができる。
【0136】
加齢関連の症状は、本明細書に記載された加齢関連症状のいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0137】
他の方法はそれを必要とする対象の医学症状の治療に関する。方法は、対象に治療有効量の、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ならびにニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、薬学的に許容可能なそのいずれかの塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの化合物を投与することを含み、医学症状は筋疾患、2型糖尿病、肥満、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つを含む。
【0138】
医学症状は筋疾患を含むことができる。対象が筋疾患の治療を必要とする対象の場合は、筋疾患は筋脆弱、筋萎縮症、筋消耗、筋力低下、およびそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0139】
筋疾患は、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、筋ジストロフィー(例えば、デユシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリードレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、またはそのいずれかの組み合わせ)、筋緊張障害(例えば、筋強直性ジストロフィー、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、またはそのいずれかの組み合わせ)、脊髄性筋委縮症、およびミオパシー(例えば、ベスレムミオパシー、先天性線維型不均衡、進行性骨化性線維異形成、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー、ミニコアミオパシー、マルチコアミオパシー、筋管ミオパシー、ネマリンミオパシー、周期性麻痺、低カリウムミオパシー、または高カリウムミオパシー、またはそのいずれかの組み合わせ)、またはそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0140】
筋疾患は、酸性マルターゼ欠損症、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、デブランチャー酵素欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミトコンドリア筋症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ異常症、またはそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0141】
筋疾患は、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、およびそのいずれかの組み合わせから選択することができる。
【0142】
筋疾患はサルコペニアを含むことができる。
【0143】
医学症状は2型糖尿病を含むことができる。
【0144】
医学症状は肥満を含むことができる。
【0145】
筋疾患は本明細書に記載された医学症状のいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0146】
本明細書に記載された種々の方法において、少なくとも1つの追加の化合物はニコチン酸、そのいずれかのエステル、または薬学的に許容可能なそのいずれかの塩を含むことができる。
【0147】
ニコチン酸のエステルまたは薬学的に許容可能な塩は、構造式(I)
【0148】
【化4】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される(例えば、Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる)。]で表される化合物であり得る。
【0149】
本明細書に記載された種々の方法において、1日当たり約50mgから約500mgの少なくとも1つの追加の化合物が対象に投与される。また、1日当たり約10から約500mgのNMNが対象に投与され得る。
【0150】
さらに、NMNと少なくとも1つの追加の化合物を含む医薬組成物を対象に投与することができる。
【0151】
それを必要とする対象においてNMNの細胞内取込みを亢進させる方法も提供される。これらの方法は、治療有効量のニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、薬学的に許容可能なそのいずれかの塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される化合物を対象に投与することを含む。
【0152】
化合物は、ニコチン酸、そのエステル、または薬学的に許容可能なその塩を含むことができる。ニコチン酸のエステルまたは薬学的に許容可能な塩は、構造式(I)
【0153】
【化5】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される(例えば、Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される)。]で表される化合物であり得る。
【0154】
1日当たり約50mgから約500mgの化合物を対象に投与することができる。
【0155】
それを必要とする対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させる方法が提供される。方法は、治療有効量の、Slc12a8をコードする核酸を対象に投与することを含む。
【0156】
Slc12a8をコードする核酸はSlc12a8をコードするcDNAを含むことができる。
【0157】
対象においてNAD+産生を刺激し、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるいずれかの方法において、Slc12a8をコードする核酸の投与はSlc12a8をコードする遺伝子治療ベクターを投与することを含むことができる。
【0158】
遺伝子治療ベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、またはそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0159】
例えば、遺伝子治療ベクターはレトロウイルスを含むことができる。
【0160】
遺伝子治療ベクターがレトロウイルスを含む場合には、レトロウイルスは好適にはレンチウイルスを含む。
【0161】
対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるための、Slc12a8をコードするcDNAの投与を含むいずれかの方法において、Slc12a8をコードするcDNAはGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0162】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも75%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0163】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも80%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0164】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも85%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0165】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0166】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも95%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0167】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と少なくとも99%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0168】
Slc12a8をコードするcDNAはSEQ ID NO:1と100%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0169】
或いはまたは更に、Slc12a8をコードするcDNAは、本明細書で開示されたいずれかのSlc12a8を含むことができる。
【0170】
対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるための、対象への治療有効量のSlc12a8をコードする核酸の投与を含むいずれかの方法において、方法は対象の消化管へSlc12a8をコードする核酸を投与することを含むことができる。例えば、方法は対象の小腸へSlc12a8をコードする核酸を投与することを含むことができる。
【0171】
対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるための、対象への治療有効量のSlc12a8をコードする核酸の投与を含むいずれかの方法において、対象は筋疾患、2型糖尿病、肥満、加齢関連症状、またはそのいずれかの組み合わせの治療を必要とする対象であり得る。
【0172】
加齢関連症状は、インスリン感受性の損失、インスリン分泌の損失、インスリンの作用と分泌の損失、記憶機能の障害、眼機能の低下、網膜の変性、機能の低下、肥満、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択することができる。
【0173】
加齢関連症状はインスリン感受性の損失を含むことができる。
【0174】
加齢関連症状はインスリン分泌の損失を含むことができる。
【0175】
加齢関連症状はインスリンの作用と分泌の損失を含むことができる。
【0176】
加齢関連症状は記憶機能の障害を含むことができる。
【0177】
加齢関連症状は眼機能の低下を含むことができる。
【0178】
加齢関連症状は網膜の変性含むことができる。
【0179】
加齢関連症状は機能の低下を含むことができる(例えば、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、加齢による無食欲、またはそのいずれかの組み合わせ)。
【0180】
加齢関連症状は加齢関連の肥満を含むことができる。
【0181】
対象が筋疾患の治療を必要とする対象である場合は、筋疾患は筋脆弱、筋萎縮症、筋消耗、筋力低下、およびそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0182】
筋疾患は、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、筋ジストロフィー(例えば、デユシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリードレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、またはそのいずれかの組み合わせ)、筋緊張障害(例えば、筋強直性ジストロフィー、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、またはそのいずれかの組み合わせ)、脊髄性筋委縮症、およびミオパシー(例えば、ベスレムミオパシー、先天性線維型不均衡、進行性骨化性線維異形成、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー、ミニコアミオパシー、マルチコアミオパシー、筋管ミオパシー、ネマリンミオパシー、周期性麻痺、低カリウムミオパシー、または高カリウムミオパシー、またはそのいずれかの組み合わせ)、またはそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0183】
筋疾患は、酸性マルターゼ欠乏症、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、デブランチャー酵素欠損症、乳酸脱水素酵素欠損症、ミトコンドリア筋症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ異常症、またはそのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0184】
筋疾患は、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、およびそのいずれかの組み合わせから選択することができる。
【0185】
筋疾患はサルコペニアを含むことができる。
【0186】
対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるための、対象への治療有効量のSlc12a8をコードする核酸の投与を含むいずれかの方法において、対象は2型糖尿病の治療を必要とする対象であり得る。
【0187】
対象においてNAD+産生を刺激する、および/または細胞へのNMNの取込みを亢進させるための、対象への治療有効量のSlc12a8をコードする核酸の投与を含むいずれかの方法において、対象は肥満の治療を必要とする対象であり得る。
【0188】
本明細書に記載されたいずれかの方法において、対象は哺乳動物であり得る。
【0189】
例えば、対象はマウスまたはラットであり得る。
【0190】
対象はヒトであり得る。対象がヒトである場合、ヒトは少なくとも30歳、少なくとも40歳、少なくとも50歳、少なくとも60歳、または少なくとも70歳の年齢を有し得る。
遺伝子治療ベクター
【0191】
遺伝子治療ベクターが提供される。ベクターはSlc12a8をコードする核酸を含む。
【0192】
Slc12a8をコードする核酸はSlc12a8をコードするcDNAを含むことができる。
【0193】
ベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、またはそれらのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0194】
例えば、遺伝子治療ベクターはレトロウイルスを含むことができる。
【0195】
レトロウイルスはレンチウイルスを含むことができる。
【0196】
Slc12a8をコードするcDNAは、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0197】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも75%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0198】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも80%の配列相同性を有する配列を含むことができる。Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも70%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0199】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも85%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0200】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0201】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも95%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0202】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と少なくとも99%以上の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0203】
Slc12a8をコードするcDNAは、SEQ ID NO:1と100%の配列相同性を有する配列を含むことができる。
【0204】
或いはまたは更に、Slc12a8をコードするcDNAは本明細書に開示されたいずれかのSlc12a8を含むことができる。
Slc12a8における変異を含む非ヒト動物
【0205】
非ヒト動物が提供される。非ヒト動物はSlc12a8遺伝子における不活性化変異を含む。
【0206】
非ヒト動物は、好適にはマウスまたはラットを含む。
【0207】
Slc12a8遺伝子における不活性化変異は、Slc12a8遺伝子における欠損、Slc12a8遺伝子における挿入、またはその組み合わせを含むことができる。
【0208】
例えば、Slc12a8遺伝子における不活性化変異はSlc12a8遺伝子における欠損を含むことができる。欠損はSlc12a8遺伝子の部分的欠損、またはlc12a8遺伝子の完全な欠損を含むことができる。
【0209】
欠損はSlc12a8遺伝子のエクソン4の欠損を含むことができる。
【0210】
欠損はSlc12a8遺伝子のエクソン4の一部の欠損を含むことができる。
哺乳動物細胞および哺乳動物細胞株
【0211】
哺乳動物細胞および哺乳動物細胞株も提供される。
【0212】
哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株はSlc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、SEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)をコードするcDNAを含む。
【0213】
さらなる哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株はSlc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも70%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含む。
【0214】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも75%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0215】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも80%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0216】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも85%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0217】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも90%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0218】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも95%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0219】
cDNAは、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも99%の配列相同性を有するタンパク質をコードするcDNAを含むことができる。
【0220】
さらに別の哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株はSlc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。cDNAは、GenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)またはSlc12a8ヒト全長cDNA(SEQ ID NO:11)と少なくとも70%の配列相同性を有するcDNA配列を含む。
【0221】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも75%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0222】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも80%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0223】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも85%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0224】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも90%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0225】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも95%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0226】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも99%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0227】
cDNAは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と100%の配列相同性を有するcDNA配列を含むことができる。
【0228】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株についても、哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は好ましくは胎盤由来の細胞を含まない。
【0229】
さらなる哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株が提供される。細胞または細胞株はSlc12a8タンパク質をコードするcDNAを含む。細胞または細胞株は胎盤由来の細胞を含まない。
【0230】
cDNAはマウスSlc12a8タンパク質またはその変異体をコードすることができる。
【0231】
cDNAはヒトSlc12a8タンパク質またはその変異体をコードすることができる。
【0232】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、cDNAはSEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15をコードするcDNAを含むことができる。
【0233】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、細胞または細胞株はcDNAに作動可能に連結されたプロモーターをさらに含むことができる。
【0234】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、同じ哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株のcDNAを含まないものにおけるSlc12a8タンパク質の発現と比較して、Slc12a8タンパク質の発現が好ましくは亢進する。
【0235】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は検出可能なCD73活性を欠くことができ、検出可能なCD38活性を欠くことができ、または検出可能なCD73活性と検出可能なCD38活性の両方を欠くことができる。
【0236】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株は好ましくはNMN取込みの亢進を示す。
【0237】
哺乳動物細胞は、線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含むことができる。
【0238】
哺乳動物細胞株は、線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含むことができる。
【0239】
哺乳動物細胞はNIH3T3細胞であり得る。
【0240】
哺乳動物細胞株はNIH3T3細胞株であり得る。
【0241】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株はcDNA配列により安定的に形質転換され得る。
【0242】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株はcDNA配列により一過的に形質移入され得る。
【0243】
いずれの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株においても、cDNA配列はGenBank参照配列:NM_134251(SEQ ID NO:1)と少なくとも70%の配列相同性を有することができる。
【0244】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも75%の配列相同性を有することができる。
【0245】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも80%の配列相同性を有することができる。
【0246】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも85%の配列相同性を有することができる。
【0247】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列相同性を有することができる。
【0248】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも95%の配列相同性を有することができる。
【0249】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と少なくとも99%の配列相同性を有することができる。
【0250】
cDNA配列はSEQ ID NO:1と100%の配列相同性を有することができる。
【0251】
いずれの哺乳動物細胞もマウスまたはラット細胞であり得る。
【0252】
いずれの哺乳動物細胞株もマウス細胞株またはラット細胞株であり得る。
【0253】
いずれの哺乳動物細胞もヒト細胞であり得る。
【0254】
いずれの哺乳動物細胞株もヒト細胞株であり得る。
薬物スクリーニング法
【0255】
NMN輸送を調節する(例えば、促進する)化合物を同定するための候補化合物をスクリーニングする方法が提供される。そのような方法は、例えば、細胞へのNMNの取込みを促進することにより改善される病気または症状の予防または治療のために使用することができる新規治療化合物を同定するために使用することができる。
【0256】
NMN輸送を調節する化合物を同定するための候補化合物をスクリーニングする方法が提供される。方法は、(a)NMNトランスポータータンパク質を発現する細胞またはNMNトランスポータータンパク質を含むプロテオリポソームに候補化合物を接触させること、および(b)細胞中のNMNトランスポータータンパク質の発現または活性の変化、またはプロテオリポソーム中のNMNトランスポータータンパク質の活性の変化を検出することを含む。候補化合物と接触した後の細胞中のNMNトランスポータータンパク質の発現または活性の変化、またはプロテオリポソーム中のNMNトランスポータータンパク質の活性の変化は、候補化合物がNMNの輸送を調節することを示す。
【0257】
NMNトランスポータータンパク質はSlc12a8タンパク質を含むことができる。
【0258】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)と少なくとも70%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0259】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも75%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0260】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0261】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも85%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0262】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも90%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0263】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも95%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0264】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と少なくとも99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0265】
Slc12a8タンパク質は、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、またはSEQ ID NO:15と100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0266】
方法はさらに、(i)候補化合物と接触した後の、NMNトランスポータータンパク質を発現する細胞中のNMNトランスポータータンパク質の発現または活性を、(ii)候補化合物と接触した後の、NMNトランスポータータンパク質を発現しない細胞またはNMNタンパク質の発現または活性が阻害されている細胞中のNMNトランスポータータンパク質の発現または活性と比較することを含むことができる。
【0267】
NMNトランスポータータンパク質を発現しない細胞は、Slc12a8ノックアウト動物由来の細胞を含むことができる。
【0268】
方法はさらに、(i)候補化合物と接触した後の、NMNトランスポータータンパク質を含むプロテオリポソーム中のNMNトランスポータータンパク質の活性を、(ii)候補化合物と接触した後の、NMNトランスポータータンパク質を含まないプロテオリポソームまたはNMNタンパク質の活性が阻害されているプロテオリポソーム中のNMNトランスポータータンパク質の活性と比較することを含むことができる。
【0269】
NMNトランスポータータンパク質を含まないプロテオリポソームは、Slc12a8ノックアウト動物の細胞由来のプロテオリポソームを含むことができる。
【0270】
いずれの方法においても、細胞は哺乳動物の線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含むことができる。
【0271】
いずれの方法においても、プロテオリポソームは哺乳動物の線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞由来のプロテオリポソームを含むことができる。
【0272】
いずれの方法においても、細胞は本明細書に記載されたいずれかの哺乳動物細胞を含むことができる。
【0273】
いずれの方法においても、プロテオリポソームは本明細書に記載されたいずれかの哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株由来のプロテオリポソームを含むことができる。
【0274】
いずれの方法においても、プロテオリポソームはSlc12a8 cDNAを含む哺乳動物細胞または哺乳動物細胞株由来のプロテオリポソームを含むことができる。
医薬組成物
【0275】
医薬組成物が提供される。医薬組成物はNMNおよびNMNトランスポーターのアゴニストを含む。
【0276】
NMNトランスポーターのアゴニストは、ニコチン酸、ニセリトロール、ニコチン酸トコフェロール、β-ピリジルカルビノール、ヘキサニコチン酸イノシトール、そのいずれかのエステル、薬学的に許容可能なそのいずれかの塩、およびそのいずれかの組み合わせから成る群から選択される化合物を含むことができる。NMNトランスポーターは、ニコチン酸、そのエステル、薬学的に許容可能なその塩を含むことができる。
【0277】
ニコチン酸のエステルまたは薬学的に許容可能な塩は、構造式(I)
【0278】
【化6】
[式中、Rはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-メトキシエチル、2-ブトキシエチル、カルバモイルメチル、1-カルバモイルエチル、2-ジメチルアミノエチル、3-アミノプロピル、テトラヒドロフルフリル、ベンジル、フェノキシエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択される(例えば、Rは2-ジメチルアミノエチル、p-クロロフェニル、およびp-ニトロフェニルから成る群から選択することができる)。]で表される化合物であり得る。
【0279】
さらに、NMNトランスポーターはSlc12a8ポリペプチドまたはその同族体を含むことができる。
【0280】
さらなる医薬組成物が提供される。医薬組成物はNMN、およびSlc12a8ポリペプチドもしくはその同族体の遺伝子発現の誘発物質を含む。
【0281】
本発明を詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲に定義した本発明の範囲を逸脱することなく、修正および変更が可能であることが明らかであろう。
【実施例0282】
[方法]
本明細書に記載された方法および組成物は、当業者によく知られた実験室技術を使用し、それはSambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001; Spector, D. L., et al., Cells: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1998; Nagy, A., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual (Third Edition), Cold Spring Harbor, NY, 2003; およびHarlow, E., Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1999などの実験室マニュアルに見出すことができる。医薬の投与方法および投与計画は、Remington: the Science and Practice of Pharmacy (Alfonso R. Gennaro ed. 19th ed. 1995); Hardman, J.G., et al., Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ninth Edition, McGraw-Hill, 1996; および Rowe, R.C., et al., Handbook of Pharmaceutical Excipients, Fourth Edition, Pharmaceutical Press, 2003などの標準的な参照テキストによって提供される方法を使用して、当業者によく知られた薬理学の標準的原理に従って決定することができる。本記載および添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「a」と「an」および「the」は、文脈で特に指示されない限り、複数形をも含むことを意図している。
【0283】
マイクロアレイ解析。全RNAを、0.1%DMSO(対照)またはFK866で処理した初代肝細胞、膵島、および海馬球状細胞塊から単離した(初代肝細胞には200nM、膵島および海馬球状細胞塊には10nM)。FK866処理により誘発された転写変化を評価するために、イルミナ社のマウスRef8 全ゲノムマイクロアレイ(2版)を使用してマイクロアレイ解析を実施した。バックグラウンドを差し引いた生のマイクロアレイデータをZスコア変換に付して、既に報告されたようにしてZ比を計算した(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011)。データは全て、R統計ソフトウェアパッケージで解析した。
【0284】
細胞培養およびエクスビボ小腸外植培養。NIH3T3細胞を、10%ウシ胎児血清、100units/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを添加したダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)中で37℃および5%CO2にて培養した。Slc12a8 mRNAの発現解析については、ウェル当たり2.5×105細胞を、0.1%DMSOまたは100nM FK866または100nM FK866プラス100μM NMNを含有する1%FBSを有するDMEMと6穴プレート中で24時間培養した。3月齢B6雄性マウス由来の小腸を、十二指腸/空腸/回腸の長さ比が1:3:2の3つのセグメントに切断した(Wang, H. H., et al., Hepatology, 45, 998-1006, 2007)。1センチメートルの各セグメントを縦方向に開いて冷PBSで1回洗浄し、以下の5μg/mLインスリン(Sigma)、20ng/mL上皮成長因子(Sigma)、1×B27サプリメント(GIBCO)、1mMピルビン酸ナトリウム(Corning)、100units/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、および2mM GlutaMAXTM(GIBCO)の添加剤を含有する、5%FBSを含んだDMEMとHamのF-12培地の1:1の混合物(Sigma)中で、0.1%DMSOまたは100nM FK866または100nM FK866プラス500μM NMNと37℃にて4時間培養した。細胞および組織のRNA試料は、既に報告されたようにして定量的RT-PCRにより解析した(Stein, L. R. & Imai, S., EMBO J., 33, 1321-1340, 2014)。
【0285】
HPLCによるNAD+およびNMNの測定。NAD+およびNMNを細胞および組織から抽出して、既に報告されたようにしてHPLCにより定量した(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011; Yoshino, J. & Imai, S., Methods Mol. Biol., 1077, 203-215, 2013)。
【0286】
フローサイトメトリー解析。2×106のNIH3T3細胞を、0.1%DMSOまたは100nM FK866または100nM FK866プラス100μM NMNを含有する1%FBSを有するDMEMと、10cm培養皿中で37℃にて5%CO2で48時間培養した。その後、細胞を冷PBSで1回洗浄してPBS中の0.02%EDTAで処理し、市販の1:200のポリクローナルウサギ抗マウスSlc12a8抗体(ARP44039,Aviva,CA)、1:2000(Invitrogen)のALEXA FLUOR(R)488(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA,USA)と結合したヤギ2次抗ウサギIgG(H+L)抗体、および1:400の生存マーカーZOMBIE AQUATM Dye(Biolegend,San Diego,CA)を使用して、フローサイトメトリーのために4℃にて25分間染色した。その後、細胞を洗浄して、GALLOIOSTMフローサイトメーター(BeckmanCoulter,Indianapolis,IN)で解析した。細胞内染色のために、細胞をまず2%PFAに室温で10分間固定化し、その後サポニン含有バッファー中において室温でさらに10分間、透過化した。Slc12a8染色は、透過性化バッファー中で4℃にて25分間実施した。試料をGALLOIOSTMフローサイトメーター(BeckmanCoulter,Indianapolis,IN)で解析し、データをKALUZATM1.3(BeckmanCoulter,Indianapolis,IN)で解析した。死細胞は、ZOMBIE AQUATMの修正Fixable Viabilityキット(Biolegend,San Diego,CA)を使用して排除した。
【0287】
肝細胞の分離、5’-ヌクレオチダーゼ活性のアッセイ、NMN取込み測定、ならびにSlc12a8およびNrk1の発現のサイレンシング。初代肝細胞は、3月齢C57BL/6J(B6)雄性マウスから、既に報告されたようにして分離した(Grimm, A. A., et al., Aging Cell, 10, 305-317, 2011)。細胞は、いかなる実験を実施する前にも10%ウシ胎児血清(FBS)、100units/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシン(pen/strep)を添加したダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)中で37℃および5%CO2で、ポリ-L-リジンでコーティングした6穴プレートで一晩培養した。Slc12a8 mRNAの発現とNAD+含量は、1%FBSを含んだDMEM中で500nMのFK866または500nMのFK866プラス500μMのNMNとともに肝細胞を24時間培養することにより評価した。アデノシン-5’-[α,β-メチレン]ジホスフェート(AOPCP)が5’-ヌクレオチダーゼ活性を阻害するか否か試験するために、1%FBSを含んだDMEM中で1穴当たり1.5×105細胞を500nMのFK866とともに12穴プレートで24時間生育させ、その後100μMアデノシンモノホスフェート(AMP)または100μM AMPプラス500μM AOPCPの存在下に、Ca2+とMg2+を含んだ1.4mLのハンクの緩衝化生理食塩水中(HBSS、GIBCO)においてpH7.5で培養した。異なる時点で(0、1、5、15、および30分)、各培養上清を200μL採取して、28μLの70%過塩素酸を加えることにより抽出した。生成されたアデノシンの量をHPLCで測定した。AMPおよびアデノシンの溶出時間は、各々4.7分および17.4分であった。細胞生存率を調べるために、CELLTITER96(R) AQueous One Solution Cell Proliferation Solution(Promega,Madison,WI)を使用し、4時間培養後にλ=490で吸光度を測定した。NMN取込み測定には、1穴当たり1.5×105細胞を1%FBSを含有するDMEM中で500nMのFK866とともに12穴プレートで24時間生育させ、その後500μM AOPCP、20μMジピリダモール、および500nM FK866またはこれらの阻害剤プラス100μM NMNの存在下で、1mLのHBSS中で培養した。異なる時点で(0、0.25、1、5、15、および30分)、細胞を冷HBSSで1回洗浄し、冷10%過塩素酸中で溶解した。細胞内NMNレベルは、HPLCにより既に報告されたように測定した(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011)。遺伝子サイレンシング実験には、Slc12a8(J-042450-12-0020)またはNrk1(J051839-11-0010)に特異的な10μgのON-TARGETPLUSTM(Dharmacon,Inc,Lafeyette,CO)マウスsiRNA(Thermo Scientific)または陰性対照siRNA(NON-targeting siRNA#1、D-001810-01-20)を条件当たり100万個の細胞に電気穿孔し、製造者の説明書に従ってNUCLEOFECTOR(R)プログラムH-26(Lonza,Basel,Switzerland)を使用して、100μLのAMAXA(R)マウス肝細胞NUCLEOFECTOR(R)溶液(Lonza,Basel,Switzerland)と混合した。電気穿孔された細胞を、培地を加える前にキュベット中で15分間培養した。電気穿孔後に、ポリ-L-リジンでコーティングした6穴プレートに1穴当たり2.5×105細胞を、10%FBSおよびペニシリン-ストレプトマイシンを含んだDMEM中に、37℃および5%CO2で48時間かけて播種した。1%FBSを含有するDMEM中でこの細胞を500nMのFK866と24時間培養した。細胞を500μM AOPCP、20μMジピリダモールおよび500nM FK866、またはこれらの阻害剤プラス100μM NMNとHBSS中で室温にて1分間培養した後に、HPLCでNMN取込み量を測定した。サイレンシング効率は定量的RT-PCRにより評価した。
【0288】
全長マウスSlc12a8 cDNAを安定的に過剰発現するNIH3T3細胞の作製。
【0289】
GenBank参照配列:NM_134251を配列として使用した。GenBank参照配列:NM_134251の配列は、本明細書ではSEQ ID NO:1として提示される。
【0290】
全長マウスSlc12a8 cDNA(GenBank参照配列:NM_134251)のコード領域は、以下のXhoIサイトを含有するフォワードおよびレバースプライマーを用いて、PFUULTRATMII融合HS DNAポリメラーゼ(Agilent,Santa Clara,CA)を使用したPCRにより、マウス肝臓より増幅された(表1)。
【0291】
【0292】
作製した2118-bpの全長Slc12a8 DNAをXhoIで消化してpBlueScript SKベクターにクローン化した。その後、Slc12a8 cDNAフラグメントを哺乳動物発現ベクターpCXN2にサブクローン化した(Revollo, J.R., et al., J. Biol. Chem., 279, 50754-50763, 2004)。最終ベクター中のSlc12a8 cDNAの配列を配列解析により確認した。SUPERFECT(R)形質移入試薬(QIAGEN,Fredrick,MD)を使用して、5μgの、全長Slc12a8 cDNAを担持したpCXN2(Slc12a8-OE)または空のpCXN2ベクター(対照)をNIH3T3細胞に形質移入し、10%FBS、抗生物質、および300μg/mLのG418(Invitrogen)を添加したDMEM中で2週間培養した。耐性細胞はプールして、分割して後の実験のために凍結した。Slc12a8-OE細胞におけるSlc12a8タンパク質の発現を確認するために、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞から、既に報告されたようにして原形質膜(PM)画分を調製した(Bruzzone, S., et al., FASEB J., 26, 1251-1260, 2012)。手短に説明すると、5個の10cm皿中で培養された7.5×107細胞を使用した。氷冷HESバッファー(20mM HEPES、1mM EDTA、255mMスクロース、pH7.4)で2回洗浄した後、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含むHESバッファー(3mL/皿)で細胞を掻き取り、22ゲージの針に5回通して均質化した。その後の全てのステップは4℃で実行した。ホモジネートはJA25.5ローター(Beckman-Coulter)にて16,000gで30分間遠心した(Avanti J-E)。ペレットを10mL HESバッファーに再懸濁し、16,000gで30分間再度遠心した。得られたペレットを10mL HESバッファーに再懸濁し、10mLのスクロースクッション(38.5%スクロース、20mM HEPES、および1mM EDTA、pH7)の上に層状にして、53,000gで120分間遠心した。PM画分を含む界面を除去して10mL HESバッファーに再懸濁し、40,000×gで30分間遠心して、ペレット中にPM画分を生成した。対照またはSlc12a8OE細胞のPM画分をRIPAバッファー(150mM塩化ナトリウム、1.0%NP-40、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、50mM トリス、pH7.5、2mM EDTA、1mM PMSF、0.5mM DTT、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル)で溶解し、1×Laemmliバッファー中で5分間煮沸した。ポリクローナルウサギ抗マウスSlc12a8(1:500、ARP44039,Aviva,CA)および抗カベオリン-1(1:2000,#3238,Cell Signaling,MA)を用いてウエスタンブロットを実施した。ADOBE(R) PHOTOSHOP(R)(Adobe systems Inc,San Jones,CA)を使用して、AMERSHAM HYPERFILMTM ECL(GE Healthcare,Marlborough,MA)でバンド強度を定量化した。
【0293】
放射性標識NMNを用いるNMN取込み分析。対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞を遠心(400×g、5分)により回収してHBSSで1回洗浄し、100nM 3H-β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(9Ci/mmol、Moravek Biochemicals,CA)と非標識NMNを含むHBSS[pH7.5](5×106細胞/mL)中において37℃で培養して、最終濃度を25μMにした。指定した時点(1、3、5、および10分)で、細胞の一部分(100μL)を回収し、2M水酸化カリウム溶液の上にシリコーン-ミネラルオイル(密度、1.015、Sigma-Aldrich)を含む1.5mLのマイクロ遠心チューブ中に入れて、16,000×gで30秒間遠心した。細胞を緩衝液から分離し、シリコーン-ミネラルオイル層を通してペレット化した。これらの細胞ペレットの放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。KmおよびVmaxを計算するために上記と同じ条件を使用したが、NMNの合計濃度は1μMから100μMの種々の範囲とした。4分の時点で100μLの細胞懸濁液を回収し、上記と同じ方法でペレット化した。細胞ペレットの放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。対照NIH3T3細胞で測定された放射活性を差し引いて、Slc12a8-OE NIH3T3細胞におけるSlc12a8特異的なNMN取込み量を計算した。
【0294】
プロテオリポソーム実験。プロテオリポソームの調製は、既に報告されたようにして行った(Bruzzone, S., et al., FASEB J., 15, 10-12, 2001)。手短に説明すると、2×107の対照またはSlc12a8-OE NIH3T3細胞を1mLの溶解バッファー(10mM トリス塩酸、pH8.3、150mM NaCl、0.3Mスクロース、プロテアーゼ阻害剤カクテル)に再懸濁し、ホモジナイザーを用いて破壊した。溶解物を3,000×gで10分間遠心し、上清を回収して100,000×gで15分間遠心した。膜タンパク質は、バッファーA(150mM NaClおよび0.5%n-オクチルβ-グルコピラノシドを含む10mM トリス塩酸、pH8.3)で可溶化した。別途に、既に報告されたようにして、ヘモグロビンを含まない赤血球膜(ゴースト)から全脂質を抽出した(Franco, L., et al., FASEB J., 12, 1507-1520, 1998)。ヒト赤血球膜の全脂質(3mg)を乾燥させ、600μLの可溶化膜タンパク質とともに再懸濁した(タンパク質濃度、約0.7mg/mL)。生成したエマルジョンを氷中で1分間超音波処理し、4℃にて24時間、n-オクチル-β-グルコピラノシドを含有しない5リットルのバッファーA(透析バッファー)で透析した。プロテオリポソームを回収し、100,000×gで15分間遠心して900μL透析バッファーに再懸濁し、30ゲージの針に5回通した。
【0295】
Slc12a8のNa+依存性を調べるために、NaClを150mM LiClに置換した。全てのステップを4℃で実施した。プロテオリポソーム(各条件で3回30μL)を、非標識ヌクレオチド(NMN、NR、NAD、AMP、NAMまたはNaMN)の存在下または非存在下に、105cpm/mLの3H-β-NMN(特異活性、9.1Ci/mmol)の存在下で25℃にて2、5、または10分間培養した。培養の最後に、ガラス繊維紙でサンプルを濾過した。フィルターを3mLの透析バッファーで洗浄して乾燥させ、放射活性をカウントした。
【0296】
インビボSlc12a8ノックダウン実験。shRNA発現レンチウイルス構成体を作製するために、センス標的配列、マイクロRNAに基づくループ配列(CTTCCTGTCA、SEQ ID NO:4)、アンチセンス配列、4つのチミジンの末端配列、および両端に適切な制限酵素を各々含有する56-bpの二重鎖オリゴヌクレオチドを、マウスSlc12a8およびホタルルシフェラーゼ(fLuc)用に作製し、ワシントン大学医学部ウイルスベクターコアにより提供されたU6-PGK-GFPベクターへクローン化した。センスSlc12a8配列は、5’-GCCTAGAGTGAACAGAGAAGA-3’(SEQ ID NO:5)である。既に報告されたようにしてレンチウイルスを作製した(Satoh, A. et al., Cell Metab., 18, 416-430, 2013)。初代腸培養を使用してノックダウン効率を試験した(Satoh, T. & Clevers, H., Methods Mol. Biol., 945, 319-328, 2013)。ワシントン大学神経疾患ホープセンターのウイルスベクターコアでレンチウイルスの大規模生産を実施した。2日連続で一晩絶食した後に、3週齢C57BL/6J雄性マウス(Jackson Laboratories)にタイター量5×106の形質転換ユニットを有するfLucまたはSlc12a8shRNAレンチウイルスを(強制投与)で経口投与した。6日後に、fLucまたはSlc12a8shRNAレンチウイルスを投与されたマウスを一晩絶食させ、NMN(500mg/kg)またはPBSを強制投与した。強制投与に続く0、5および60分後に、尾静脈から採血して、遠心により血漿を分離した。その後、強制投与に続く60分後に組織試料を採取した。既に報告されたようにして血漿のNMNレベルおよび組織のNAD+レベルを測定した(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011; Grimm, A. A., et al., Aging Cell, 10, 305-317, 2011)。
【0297】
マウスSlc12a8に対する抗体の作製。マウスSlc12a8の合成N末端ペプチド(AQRSPQELFHEAAQQGC;SEQ ID NO:6)(Convance,Denver,PA)に対する2種の異なるポリクローナルウサギ抗血清を作製した。これらの抗血清の1つから、Slc12a8特異抗体をアフィニティ精製した。Slc12a8のN末端ペプチドに対する抗血清またはアフィニティ精製抗体を、1:500希釈でウエスタンブロッティングに使用した。
【0298】
全身Slc12a8ノックアウトマウスの作製。全身Slc12a8ノックアウト(Slc12a8KO)マウスは、CRISPR-CAS9技術を用いて、ワシントン大学のトランスジェニックベクターコアによりを作製された。CRISPR gRNAはSlc12a8遺伝子のエクソン4に隣接するように設計された。gRNAの配列は、5’gRNAは5’-AGTGCATGTATAGACGTATG-3’(SEQ ID NO:7)および3’gRNAは5’-CCTCACAAATATTTACAGGC-3’ (SEQ ID NO:8)であった。gRNAはgBlocks(IDT)として得た。切断活性は、XTREMEGENETMHP(Roche,Basel,Switzerland)を使用して、gBlockおよびCas9プラスミド(addgene #42230)を用いてN2A細胞に形質移入することにより評価した。切断活性は、標準法を使用して、T7E1アッセイにより決定した。gRNAはT7 MEGASHORTSCRIPTTMキット(Ambicon,Waltham,MA,USA)を使用して、インビトロで転写した。Cas9RNAは、MMESSAGE MMACHINE(R)T7ウルトラキット(Ambicon,Waltham,MA)を使用してインビトロで転写した。RNAは全てMEGACLEAR(R)カラム(Ambicon,Waltham,MA)を使用して精製した。RNAは、ワシントン大学マウス遺伝子コア施設において、50ng/μL Cas9、25ng/μL gRNA、および100ng/μL ssODNの濃度でC57BL/6J×CBAハイブリッド接合子にマイクロインジェクトされた。全身ノックアウト対立遺伝子は切断部位のPCRにより検出し、配列解析により確認した。ヘテロ接合ファウンダーを1つ確立し、分析の前に5代にわたってそのマウスを野生型C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories)に戻し交配させた。Slc12a8欠損ヘテロ接合マウスを交配して、ホモ接合Slc12a8KOマウスを作製した。野生型同腹仔を対照として使用した。
【0299】
18O-D-NMNの作製。シアノピリジンを18O水の中で加水分解して18Oニコチンアミドを調製した(Kolodziejska-Huben, M., et al., J. Label. Compd. Radiopharm., 45, 1005-1010, 2002)。1,2-2H,3,5-テトラアセテートはD-[2-2H]-リボース(Omicron Biochemicalsから購入)から合成した(Chatterjee, A., et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 49, 8653-8656, 2010)。18O-2H標識ニコチンアミドリボシドは、18OニコチンアミドとD-リボフラノース1,2-2H,3,5-テトラアセテートから合成した(Fouquerel, E., et al., Cell Rep., 8, 1819-1831, 2014)。18O-2Hニコチンアミドモノヌクレオチド(18O-D-NMN)は、既に報告されたようにして18O-2Hニコチンアミドリボシドから合成した(Mills, K. F., et al., Cell Metab., 24, 795-806, 2016)。
【0300】
同位体追跡実験。7~8月齢のSlc12a8KOマウスおよびその野生型同腹仔に、一晩絶食後に500mg/kgの18O-D-NMNまたはPBSを経口投与した。強制経口投与の10分後に、空腸と回腸を採取した。凍結組織に試薬級メタノールと水の1:1混合物(4℃)を加えた(60μL/mg組織)。超音波処理後、抽出物を4℃にて12,000×gで15分間遠心した。抽出物に1:1(v/v)の比率でクロロホルムを加え、30秒間よく振り交ぜて、12,000×gで4℃にて10分間遠心した。上層(メタノールと水)を下層(有機層)から分離し、スピード真空により室温で凍結乾燥し、5mMギ酸アンモニウムで再構成して12,000×gで10分間遠心した。5mMギ酸アンモニウム中で128~1000nmol/Lの範囲の濃度に連続希釈したNMNおよび18O-D-NMNをキャリブレーションに使用した。ATLANTIS(R)T3(LC2.1×150mm、3mm、Waters,Millford,MA)を備えたHPLC(1290、Agilent)を用いて、流速0.15mL/minで移動相Aに5mMギ酸アンモニウム、移動相Bに100%メタノールを用いて液体クロマトグラフィーを実施した。代謝物を、0~10分は0~70%B、10~15分は70%B、16~20分は0%Bのグラジェントで溶出した。NMN(335>123)および18O-D-NMN(338>125)のパラメーターを使用して、ポジティブESI多重反応モニタリング(MRM)下でトリプル四重極質量分析計(6470,Agilent)を用いて代謝物を分析した。フラグメンテーション、衝突、および加速後電圧はNMNに対して135、8、および7とした。NMNおよび18O-D-NMNのピークはMassHunter定量分析ツール(Agilent)を使用して同定した。
【0301】
動物実験。マウスは全て隔離施設で12時間明/12時間暗サイクルで集団飼育した。マウスは標準食餌の不断給餌で維持した(LabDiet5053,LabDiet,St.Louis,MO)。食物摂取、食餌摂取時および空腹時グルコース、トリグリセリド、遊離脂肪酸、およびインスリンレベルの測定を、既に報告されたようにして実施した(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011; Mills, K. F., et al., Cell Metab, 24, 795-806, 2016; Yoon, M. J., et al., Cell Metab., 21, 706-717, 2015)。Slc12a8KOマウスおよびその野生型同腹仔から午前9時から10時の間に便を採取して、秤量する前に55℃で一晩乾燥させた。クロロホルム/メタノール混合物(2:1、vol/vol)(Sigma,St.Louis,MO)で、既に報告されたようにして全便脂肪を抽出した(Folch, J., et al., J. Biol. Chem., 226, 497-509, 1957)。1ミリリットルの有機層を予め秤量したチューブに移して真空乾燥し、再度秤量して脂肪の質量を測定した。脂肪含量パーセンテージを、抽出した便の最初の質量(g)に対して正規化した。8~10月齢のSlc12a8KOマウスおよびその野生型同腹仔から午前9時または午後9時に組織を採取して、HPLCでNAD+レベルを測定した。全身NMR設備(EchoMRI(R),Echo Medical Systems LLC,Waco,TX)を使用して身体組成を測定した。PhenoMasterシステム(TSE Systems,MO)により、間接熱量測定および自発運動量測定を実施した。全ての動物実験はワシントン大学動物試験委員会の承認を得ており、NIHガイドラインに準拠している。
【0302】
血漿GLP-2測定。EDTAコーティングマイクロベットチューブを使用して、7~9月齢Slc12a8KOマウスおよびその対照野生型同腹仔の尾静脈から、24時間絶食後(午前9時から午後9時)および6時間再給餌後(午前10時から午後4時)に、血液を採取した。血液は直ちに氷冷し、5,000×gで4℃にて遠心して、血漿試料を-80℃にて保存した。製造者の説明書に従ってMouse GLP-2 ELISAキット(Alpco,Salem,NH)を用いて、血漿中のGLP2-レベルを測定した。
【0303】
血漿およびエクスビボ小腸外植培養物上清中のGLP-1の測定。EDTAコーティングチューブを使用して、2月齢または24月齢雌性Slc12a8ノックダウンマウスおよびその対照の尾静脈から、24時間絶食(午前9時から午前9時)に引き続く6時間再給餌(午前10時から午後4時)後に血液を採取した。血液は直ちに氷冷し、4℃にて5,000×gで遠心して、血漿試料を-80℃にて保存した。消化管特異的雌性Slc12a8ノックダウンマウスまたは12月齢雌性Slc12a8KOマウスの小腸を、長さの比が1:3:2の十二指腸、空腸、および回腸の3セグメントに切断した(Wang, H. H., et al., Hepatology, 2007, 45, 998-1006)。1センチメートルの回腸または大腸を縦方向に開いて、冷PBSで一回洗浄し、ニコチンアミドとグルコースを含まない500μLのDMEM(GIBCO,分泌培地)中で、脂肪酸フリーの0.25%ウシ血清アルブミン(Sigma,St. Louis,MO)とともに、37℃にて2時間培養した。Sirt1およびSirt6阻害剤を用いた実験では、24月齢雌性B6マウスの回腸を0.2%DMSO(溶媒)、20μM EX527(Cayman chemical,MI)または20μM STK665401(ChemDiv,cat#8018-9378)を含有する500μLの分泌培地中で37℃にて2時間予備培養した(Sociali, G., et al., Eur. J. Med. Chem., 2015, 102, 530-539)。予備培養後、培地を交換して、エクスビボ回腸外植片を同様の化合物と37℃にて2時間予備培養した。加湿インキュベーター(95%O2、5%v/vCO2)中における培養の最後に、培地を集めて4℃にて800gで5分間遠心し、いかなる浮遊デブリをも除去して、後続のGLP-1測定のために-80℃にて凍結させた。血漿および培地中のGLP-1レベルを、製造者の説明書に従って、GLP-1 Total ELISAキット(EMD Millipore,MO)により測定した。GLP-1値はブラッドフォードアッセイにより分析した総タンパク質量により正規化した。
【0304】
レーザーマイクロダイセクション。各視床下部核をマイクロダイセクションして全RNAを抽出し、既に報告されたようにして定量RT-PCRにより分析した(Satoh, A., et al., Cell Metab., 18, 416-430, 2013)。
【0305】
統計解析。特に指示しない限り、2群間の差はスチューデントt検定を使用して評価した。いくつかの群の間の比較は、実施例において示された種々の事後試験を用いた一元ANOVAを使用して実施した。Wilcoxonの符号順位検定を使用して、酸素消費量、エネルギー消費量、呼吸交換比、および総自発運動量の差異を比較した。比較において、p値<0.05を統計的に有意と判断した。GraphPad Prism(7版)を使用して統計解析を実行した。値は全て、平均±SEMとして示される。特に指定されない限り、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001とする。
【0306】
本教示は、実施例において提供される、請求項または態様の範囲を限定することを意図しない記述を含む。明確に過去形で提示されない限り、実施例は予想または実際の例であり得る。本教示をさらに例示するために、以下の非限定的な実施例が提供される。当業者は、本開示に照らして、開示された特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、本教示の精神および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることができることを理解する。
【0307】
[実施例1]
本実施例は、NMNトランスポーター遺伝子の同定を示す。
【0308】
種々のタイプの初代細胞において、強力なNAMPT阻害剤であるFK866によって、NAMPTにより媒介されるNAD+の生合成が阻害されるとき、NMNを併用投与すると、FK866の非存在下にNMNにより誘導されるよりもより高いNAD+の増大が常にもたらされた(Revollo, J. R., et al., Cell Metab., 6, 363-375, 2007; Stein, L. R. & Imai, S., EMBO J., 33, 1321-1340, 2014; Yoshino, J., et al., Cell Metab., 14, 528-536, 2011)。本研究者らは、FK866で処理したマウス初代肝細胞、膵島、および海馬神経幹細胞塊における遺伝子発現プロファイリングを実施して、これら3種の初代培養物において共通に上方制御されている遺伝子を探索した。トランスポーターまたは膜貫通タンパク質をコードする遺伝子に焦点を当てて探索し、これらの基準に合致して未知機能を有する唯一の遺伝子を発見した。この遺伝子Slc12a8は、初代肝細胞、膵島、および海馬神経幹細胞塊において、各々2.06、1.69、および4.91のZ比を示した(
図1)。Slc12a8は、
図1のベン図中の矢印で指示されたセクションに同定された。各細胞タイプにおけるSlc12a8のZ比とp値は
図1に示されている。Slc12a8遺伝子は、電気的中性のカチオン-クロリド結合コトランスポーターのSLC12遺伝子ファミリーに属し、この遺伝子によりコードされるタンパク質の機能は未だ知られていない(Hebert, S. C., et al., Pflugers Arch., 447, 580-593, 2004)。
【0309】
[実施例2]
本実施例は、B6マウスにおけるSlc12a8の差次的発現を示す。
【0310】
図2は、Slc12a8が3月齢のB6雄性マウス(n=3マウス)の小腸および膵臓で高度に発現し、肝臓および白色脂肪組織で中程度に発現することを示す。さらなるSlc12a8 mRNA発現の変化が初代マウス肝細胞で観察され、
図3に示される(n=4マウス)。0.1%DMSO、FK866単独またはFK866プラスNMNで処理されたNIH3T3線維芽細胞(n=4)および空腸および回腸のエクスビボ外植片(DMSOおよびFK866のみの場合はn=4マウス、FK866プラスNMNの場合はn=3マウス)(細胞の場合は24時間、外植片の場合は4時間、Tukeyの検定でANOVAを使用して解析した)。Slc12a8の発現は、FK866で処理した場合、マウス初代肝細胞、マウスNIH3T3線維芽細胞、および空腸および回腸のエクスビボ外植片で有意に誘発されたが、この誘発はNMNの添加により抑制された(
図3~5)。
図4は、DMSO、FK866単独、およびFK866プラスNMNで処理された初代マウス肝細胞およびNIH3T3線維芽細胞の細胞内NAD+含有量を示している。細胞をこれらの化合物で24時間処理した(DMSOおよびFK866で処理した肝細胞ではn=4マウス、FK866およびNMNで処理した肝細胞ではn=3、NIH3T3細胞ではn=6、Tukeyの検定でANOVAを使用して解析した)。
図5は、FK866またはFK866プラスNMNで48時間処理されたNIH3T3細胞において、フローサイトメトリー解析により測定された、表面および細胞内Slc12a8タンパク質の発現レベルを示す。Slc12a8染色(Slc12a8+)の陽性NIH3T3細胞の割合が、アポトーシスのマーカー(Zombi-)に対して負に選択された細胞間で計算された(表面染色ではn=8、細胞内染色ではn=5、独立t検定で解析された)。
【0311】
[実施例3]
本実施例は、NMN取込みの動態に対するSlc12a8の効果を示す。
【0312】
マウス初代肝細胞におけるNMN取込みの動態を決定した。CD73によるNMNからNRへの細胞外分解は、AOPCP(アデノシン-5’-[α,β-メチレン]ジホスフェート)で阻害された。ヌクレオシドトランスポーターを介した細胞内へのNRの取込みはジピリダモールで阻害され、NAMPTによる細胞内NMN合成はFK866で阻害された。未処理初代肝細胞をAMPまたはAMPプラスAOPCPで培養した。細胞外アデノシンの生成を、種々の時点(0、1、5、15、および30分)にHPLCで測定した。AOPCPは5’-ヌクレオチダーゼ活性を97%抑制する。AOPCP、ジピリダモールおよびFK866のカクテルは、30分まで細胞生存率に影響を与えなかった(データ表示せず)。
【0313】
初代マウス肝細胞を500nM FK866で24時間前処理し、20μMジピリダモール、500μM AOPCP、および500nM FK866のカクテルで、100μM NMNの存在下および非存在下にて培養した。NMNをHPLCで測定した(n=4マウス、阻害剤のみの15分および30分時点の3つのデータセットを除く。Sidakの検定でANOVAを使用して解析した)。この処理により、対照と比較して、マウス初代肝細胞の1分時点での細胞内NMNレベルが有意に増加した(
図6)。
【0314】
[実施例4]
本実施例は、NMN取込みに対するSlc12a8およびNrk1 mRNAの減少の効果を示す。
【0315】
初代マウス肝細胞におけるSlc12a8およびNrk1 mRNAのノックダウン効率を測定するために、細胞をスクランブルおよびSlc12a8またはNrk1 siRNAで72時間処理した(Slc12a8サイレンシングではn=5マウス、Nrk1サイレンシングではn=3、独立700t検定で解析した)。理論に制限されることなく、これらの条件は、細胞内でNRをNMNに変換する主要なNRキナーゼであるSlc12a8およびNrk1の発現をノックダウンした(Belenky, P., et al., Cell, 129, 473-484, 2007)。スクランブル、Slc12a8、およびNrk1 siRNAで処理した初代肝細胞を、100μM NMNを添加して1分後にHPLCでアッセイした。培養条件は実施例3に記載されたものと同じとした(Slc12a8サイレンシングではn=5マウス、Nrk1サイレンシングではn=3、Tukeyの検定によりANOVAで解析した)。両方の遺伝子のノックダウン効率は約80%である(
図7)。Slc12a8ノックダウン肝細胞ではNMNの高速取込みは完全に消失したが、Nrk1ノックダウン肝細胞ではNMN取込みの有意な減少は観察されなかった(
図8)。これらのデータは、初代肝細胞におけるNMNの高速取込みにSlc12a8が必要であり、観察された細胞内NMNの増加はNRまたはニコチンアミドのNMNへの変換によるものではないことを示す。
【0316】
[実施例5]
本実施例は、マウスNIH3T3細胞における全長マウスSlc12a8 cDNAの過剰発現を示す。
【0317】
CD73(NMNをNRに変換する)およびCD38(NMNをニコチンアミドとホスフォリボースに分解する)のいかなる検出可能な細胞外活性も有さず、そしてNMN取込み活性も非常に弱いので、NIH3T3細胞株を選択した。方法で説明したようにして、全長マウスSlc12a8 cDNAを細胞に形質移入し、Slc12a8タンパク質の発現をアッセイした。
図9は、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞からの原形質膜画分におけるSlc12a8タンパク質の発現を示す。
図10は、各細胞株についてカベオリン-1タンパク質レベルに正規化したSlc12a8タンパク質レベルを示す(右パネル、n=3、独立t検定により解析した)。Slc12a8タンパク質レベルは、Slc12a8過剰発現NIH3T3(Slc12a8-OE)細胞において約2.2倍と顕著に増加した。
【0318】
[実施例6]
本実施例は、Slc12a8-OEおよび対照細胞における、3H-標識NMNを使用したNMN取込みの動態を示す。
【0319】
「放射性標識NMNを用いるNMN取込み分析」の方法で説明したように、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞において、Mg2+とCa2+を含むハンクスバッファー[pH7.5]中で25μMの3H-NMNを使用して、NMNの取込みを37℃にて10分より長く測定した(n=12、Sidakの検定によりANOVAで解析した)。3H-NMNの取込みは、対照細胞と比較して、Slc12a8-OE細胞の3分および5分の時点で有意に亢進した(
図11)。Slc12a8タンパク質のミカエリス・メンテン定数を計算するために、対照およびSlc12a8-OE NIH3T3細胞を、Mg2+とCa2+を含むハンクスバッファー[pH7.5]中で37℃にて4分間、100nMの3H-NMNおよび漸増濃度の非放射性NMNと培養した。対照セルのバックグラウンドを差し引くことにより、KmおよびVmax値を非線形回帰分析により決定した(1および10μMでn=5、25および100μMでn=4)。NMNの場合、Kmは34.1±8.3μMで、Vmaxは11.5±1.2pmol/min/mgであった(
図12)。このKmは、マウスの血漿および赤血球において検出されたNMN濃度範囲と定性的に一致する(Revollo, J. R., et al., Cell Metab., 6, 363-375, 2007; Ramsey, K. M., et al., Science, 324, 651-654, 2009; Yamada, K., et al., Anal. Biochem., 352, 282-285, 2006)。
【0320】
[実施例7]
本実施例は、Slc12a8タンパク質の特異性を示す。
【0321】
プロテオリポソームは、輸送バッファー中でSlc12a8-OEおよび対照NIH3T3細胞の原形質膜画分から作製されたプロテオリポソームに、上記のように、22nMの3H-NMNを使用して、25℃にてSlc12a8-OEまたは対照NIH3T3細胞の膜画分を除タンパク赤血球原形質膜由来のリン脂質二重層と組み合わせることにより作製した(n=3、Sidakの多重比較検定を使用して一元ANOVAで解析した)。Slc12a8-OE由来のプロテオリポソームは、2分以内に、対照由来のプロテオリポソームよりも有意に高いレベルの3H-NMNを取り込んだ(
図13)。
【0322】
いくつかの実験では、ニコチン酸(NA)が、Slc12a8を過剰発現するプロテオリポソームへの放射性標識3H-NMNの取込みを亢進することができることが見出された(
図42)。NAによる3H-NMN取込みの亢進は、いくつかの異なる条件下で再現された(
図42)。
【0323】
Slc12a8の基質特異性を決定するために、これらのSlc12a8-OEプロテオリポソームを3H-NMNおよび種々の非放射性NAD+関連化合物を用いた置換実験に使用した。3H-NMN(150nM、25℃)の取込みを、150μMの競合する非放射性化合物(NMN、NR、NAD、AMP、NaMN、およびニコチンアミド)の存在下に輸送バッファー中において、Slc12a8-OEプロテオリポソームで2分の時点に測定した(n=3、Dunnettの検定を使用してANOVAにより解析した)。150μMの非放射性NMNは3H-NMNと完全な置換を示したが、NAD+、AMP、ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)、およびニコチンアミドは同じ濃度で非常に低いか、または無視できる程度の置換を示した(
図14)。150μM NRは約70%の置換を示したので、プロテオリポソームシステムを使用してNMNおよびNRのIC50濃度を決定した。NMNのIC50は22.8±3.6μMで、NRのIC50は77.4±10.8μMであった(
図15)。データは3H-NMNの取込みをパーセンテージとして示す(n=3、IC50は非線形回帰分析により計算した)。血液(Frederick, D. W., et al., Cell Metab., 24, 269-282, 2016)や腹水滲出液(Sociali, G., et al., Oncotarget, 7, 2968-2984, 2016)などにおいて、NRレベルが病態生理学条件でそのような高濃度に達することは示されていないので、理論に制限されることなく、この結果は、Slc12a8タンパク質が生理的条件下で主にNMNに特異的であることを示唆する。
【0324】
これらの発見は、NAおよびいくつかのNA誘導体化合物が、Slc12a8NMNトランスポーターの機能を促進するために使用できることを示唆する。
【0325】
[実施例8]
本実施例は、NMN輸送に対するSlc12a8のナトリウムイオン依存性を示す。
【0326】
これらの実験では、プロテオリポソームシステムを使用して、NMN輸送に対するSlc12a8のナトリウムイオン依存性を評価した。プロテオリポソームの調製中およびNMN流入の測定中にナトリウム(Na+)を等モル濃度のリチウム(Li+)に置換した場合、3H-NMNの取込みは約80%と劇的に減少し(
図16、n=3、独立t検定で解析した)、Slc12a8によるNMN輸送がナトリウムイオン依存性であることが示された。
【0327】
これらの結果は、ナトリウム塩がSlc12a8により媒介されるNMN輸送を亢進できること、およびリチウムなどの他のカチオンがSlc12a8により媒介されるNMN輸送を阻害できることを示す。
【0328】
[実施例9]
本実施例は、NIH3T3細胞におけるNAD+生合成に対するSlc12a8の過剰発現の効果の測定を示す。
【0329】
対照NIH3T3およびSlc12a8-OE細胞を100nM FK866、2μMジピリダモールおよび500μM AOPCPのカクテルで1時間前処理すると、対照とSlc12a8-OE細胞の両方において細胞内NAD+レベルが有意に低下した(
図41)。しかしながら、100μM NMNを用いた追加の1時間の培養により、対照NIH3T3細胞ではなく、Slc12a8-OE細胞でのみNAD+レベルを元のレベルに回復させることができた(
図41、n=9、Tukeyの検定を使用してANOVAで解析した)。
【0330】
[実施例10]
本実施例は、NMN輸送のインビボ検証を示す。
【0331】
上記のように、対照ホタルルシフェラーゼ(fLuc)shRNAおよびSlc12a8 shRNAを担持するレンチウイルスを作製した。本発明者らは、各ウイルスを直接マウスの腸に強制投与した。対照shfLucレンチウイルスおよびshSlc12a8レンチウイルスを感染させた空腸および回腸の試料におけるSlc12a8タンパク質の発現レベルを、ウエスタンブロットにより測定した(
図17)。
図18は、GAPDHタンパク質レベルに対して正規化された空腸および回腸のSlc12a8タンパク質レベルの棒グラフを示す(n=6、3~4月齢のB6雄性、独立t検定により解析した)。fLuc shRNA発現レンチウイルスを投与されたマウスと比較して、Slc12a8タンパク質レベルは、腸にSlc12a8 shRNA発現レンチウイルスを投与されたマウスの空腸で約60%、および回腸で約30%減少した(
図17~18)。NMN(500mg/kg体重)をこれらのマウスに経口強制投与で投与した場合、対照マウスでは血漿NMNレベルが5分で有意に増加したが、Slc12a8ノックダウンマウスでは全く増加しなかった(
図19、NMNをHPLCで測定した、n=6、3~4月齢のB6雄性、Sidakの検定を使用してANOVAで解析した)。代わりに、対照マウスと比較して、血漿ニコチンアミドレベルがSlc12a8-ノックダウンマウスでより高い傾向があったが(
図20)、これはおそらくSlc12a8-ノックダウンマウスではより高レベルのNMNがニコチンアミドへの分解を受けたためである。血漿試料に加えて、対照shfLucレンチウイルスおよびshSlc12a8レンチウイルス感染マウスにおいて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはNMN(500mg/kg体重)の強制経口投与後60分の時点で、空腸から組織試料を採取した(PBSの場合はn=5マウス、NMNの場合はn=8、3~4月齢のB6雄性)。次に、これらの試料のNAD+レベルをHPLCで測定した(Tukeyの検定によりANOVAで解析した)。NAD+レベルは、対照マウスと比較して、Slc12a8ノックダウンマウスの空腸で有意に減少した(
図21)。これらの結果は、消化管から血液循環へのNMNの吸収に小腸のSlc12a8が重要であり、小腸のNAD+レベルとインビボにおけるNMNの全身供給に影響することを強く示唆する。
【0332】
[実施例11]
実施例は、Slc12a8ノックアウトマウスの特性評価を示す。
【0333】
Slc12a8遺伝子のエクソン4を、上記のCRISPR-CAS9システムを使用してマウスから切除し、全身Slc12a8ノックアウト(Slc12a8KO)マウスを作製した。これらのノックアウトマウスの出生率は、予想されるメンデルの比率よりも低く、胚期の間にいくらかの早死があったことを意味する。しかしながら、生まれたマウスは成体になり、肉眼的な異常は観察されなかった。Slc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔(WT)からの十二指腸、空腸、回腸、および膵臓の組織試料を、明期(午前9時から10時)または暗期(午後9時から10時)に採取した。これらの試料のNAD+レベルをHPLCで測定した(Slc12a8KOマウスの空腸の3つのデータポイントを除き、明期でn=5マウス、暗期でn=4マウス、8~10月齢の雌性、独立t検定で解析した)。成体Slc12a8KOマウスでは、全長Slc12a8 mRNAの発現は組織で完全に消失した(n=3、2~3月齢の雄性、
図22)。ウエスタンブロッティングにより、Slc12a8タンパク質発現が、Slc12a8KOマウスの空腸および回腸の全組織溶解物(
図23)、膵臓(
図23)および視床下部(
図24)でも消失することが示された。Slc12a8のN末端ドメインの最初の17アミノ酸に対する抗血清を使用した。野生型マウスで高レベルのSlc12a8 mRNAを発現しているにもかかわらず(
図2)、ノックアウトマウスの十二指腸は全長Slc12a8タンパク質を発現しない(
図23)。小腸でのタンパク質発現プロファイルと一致して、Slc12a8KOマウスは空腸および回腸でNAD+レベルの有意な減少を示したが、特に通常はNAD+198レベルが上昇する暗期に十二指腸では減少しなかった(
図25A-B)。また、明期と暗期の両方において、膵臓のNAD+が減少を示した(
図25A-B)。NMN輸送がSlc12a8KOマウスの小腸で損なわれているか否かを確認するために、発明者らは二重標識3-Dのより重い同位体NMN(18O-D-NMN)の強制投与を行い、質量分析法により空腸および回腸への18O-D-NMNの直接取込み量を測定した。Slc12a8KOマウスと野生型(WT)同腹仔に758 18O-D-NMN 500mg/kgを経口強制投与により投与してから10分後に、この同位体NMNが野生型空腸および回腸で明確に検出されたが、Slc12a8KOマウスの空腸および回腸では、18O-D-NMNの取込みは、各々46%および36%減少した(
図26、n=6マウス、7~8月齢の雄性3および雌性3、野生型回腸の雄性2と雌性2を除く、独立t検定により解析した)。PBS対照のバックグラウンド値を差し引いて、18O-D-NMNのピーク下面積を計算した。値は、WTで検出された18O-D-NMNレベルに対して表される。この例では、全ての値は平均±SEMで表示される。*p<0.05、**p<0.01。
【0334】
[実施例12]
本実施例は、Slc12a8KOマウスが脂肪量および除脂肪量には影響がなく過食症を呈することを示す。
【0335】
6~7月齢で、特に雌性のSlc12a8KOマウスは、暗期中に著しい過食を示し始めた(
図27)。明期(午前9時~午後6時)および暗期(午後6時~午前9時)にSlc12a8KOマウスおよび対照野生型(WT)同腹仔の食物摂取量を5日間測定した(各遺伝子型ごとにn=8マウス、6~7月齢の雌性、独立t検定で解析した)。しかしながら、Slc12a8KOマウスは、野生型対照と比較して、体脂肪および除脂肪量にいかなる差も示さなかった(
図28)。Slc12a8KOおよび対照野生型同腹仔に全身NMR装置を使用して、体脂肪および除脂肪量を測定した(各遺伝子型でn=8マウス、8~10月齢の雌性)。対照マウスとSlc12a8KOマウスの間に糞便中脂質含有量に差がなかったので、示された過食は腸の吸収不良によるものではなかった(
図29)。抽出された開始便量のパーセンテージとして表された総脂質含有量は、Slc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔から午前9~10時に採取した糞便で測定した(各遺伝子型でn=8マウス、6~8月齢の雌性)。
【0336】
[実施例13]
本実施例は、Slc12a8KOマウスの増大した呼吸量および活動量を示す。
【0337】
興味深いことに、Slc12a8KOマウスは、暗期中に酸素消費量(VO2、
図30)、エネルギー消費量(
図31)および総自発運動量(
図32)の中程度の増加を示し、体重増加のない過食性表現型に対する説明を提供した。また、これらのマウスは有意に低い呼吸交換率を示し(RER、
図33)、明期中のより高い脂肪酸利用が示唆され、対照とSlc12a8KOマウスの間に血漿脂肪酸レベルの差は検出されなかったが(表示せず)、正常な脂肪量の維持に関する追加の説明を提供した。
【0338】
[実施例14]
本実施例は、Slc12a8ノックアウトマウスにおける亢進したグルコース代謝を示す。
【0339】
16時間絶食すると、雌性Slc12a8KOマウス(各遺伝子型でn=8マウス、6~8月齢の雌性、独立t検定で解析した)は、より高いグルコースレベル(
図34)、インスリンレベル(
図35)、およびトリグリセリドレベル(
図36)を示した。理論に制限されることなく、これら全ての表現型はともに、視床下部の機能障害を示唆する。
【0340】
[実施例15]
本実施例は、Slc12a8ノックアウトマウスにおけるグルカゴン様ペプチド2受容体(GLP-2R)の障害を示す。
【0341】
GLP-2Rは、腸管内分泌L細胞により生成されるプログルカゴン由来の33アミノ酸ペプチドである。Slc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔を24時間絶食後(午前9時から午前9時まで)およびその後6時間の再給餌後(午前10時から午後4時まで)に、血漿GLP2-レベルをELISAで測定した(各遺伝子型についてn=8マウス、7~8月齢雌性)。Slc12a8KOマウスは、24時間絶食後の6時間の再給餌に応答して有意に低いGLP-2の血漿レベルを示したが、対照マウスは再給餌により血漿GLP-2レベルの有意な上昇を示した(
図37)。
【0342】
[実施例16]
本実施例は、Slc12a8ノックアウトマウスの弓状核の発現破壊を示す。
【0343】
Chop(DNA損傷誘導性転写物3)およびSocs3(サイトカインシグナリング3のサプレッサー)は、小胞体(ER)ストレスおよびその結果生成するレプチン耐性に応答して上方制御される。ChopおよびSocs3 mRNA発現レベルを、Slc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔の視床下部弓状核で暗期(午後9時から10時)に測定した(Chop、各遺伝子型でn=3マウス、Socs3、各遺伝子型でn=4マウス、8~10月齢雌性、独立t検定により解析した)。この妥当なGLP-2刺激の欠如と一致して、Slc12a8KOマウスの弓状核はmRNA発現レベルの亢進を示した(
図38)。理論に制限されることなく、これらの結果は弓状ニューロンの機能不全を示唆する(Williams, K. W., et al., Cell Metab., 20, 471-482, 2014)。Pepck(ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ)およびG6pc(グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット)のmRNA発現レベルを、不断給餌したSlc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔の肝臓で測定した(各遺伝子型でn=5マウス、8~10月齢の雌性、独立t検定で解析した)。これらの糖新生遺伝子は、Slc12a8KOマウスで上方制御されることが発見された(
図39)。理論に制限されることなく、これらのデータは球状ニューロンの機能不全の証拠を提供し、絶食Slc12a8KOマウスのより高いグルコースおよびインスリンレベルを説明する。
【0344】
[実施例17]
本実施例は、Slc12a8ノックアウトマウスにおけるPMCHの日内mRNA発現プロファイルを示す。
【0345】
PMCH(プロメラニン濃縮ホルモン)mRNA発現レベルを、Slc12a8KOマウスおよび対照野生型同腹仔の外側視床下部(LH)で明期(午前9時から10時)および暗期(午後9時から10時)に測定した(各遺伝子型に対してn=3マウス、8~10月齢の雌性、独立t検定により解析した)。PMCHの日内mRNA発現プロファイルは、Slc12a8KOマウスの外側視床下部で異常であり(
図40)、明期と暗期の間で発現の変化がほとんどないことが示されたが、野生型同腹仔におけるPMCHの発現は暗期に有意に増加した。理論に制限されることなく、NMNトランスポーターの損失は視床下部機能に全体的に影響する。Slc12a8KOマウスの他の視床下部核の主要な神経ペプチドとその受容体をコードする遺伝子の発現に異常は検出されなかった(表示せず)。理論に制限されることなく、これらの発見は、Slc12a8 NMNトランスポーターの新規機能を明示しており、おそらくNMN自体とGLP-2を介して、消化管と視床下部の間の適切な組織間コミュニケーションを調節している。
【0346】
[実施例18]
本実施例は、小腸におけるNAD+およびSlc12a8濃度を示す。
【0347】
多くの組織でNAD+含有量が年齢とともに減少することが十分に立証されている(Yoshino, J., et al., Cell Metab., 2018, 27: 513-528, 2018)。2月齢および24月齢の雌性B6マウスから暗期(午後9時から10時)に採取した空腸および回腸で、NAD+レベルを測定した。空腸および回腸でNAD+含有量が月齢とともに減少するが、その差は空腸では統計的有意性に達しなかった(
図43、各月齢でn=4マウス、独立t検定で解析した)。2月齢および24月齢の雌性B6マウスから暗期(午後9時から10時)に採取した空腸および回腸で、Slc12a8 mRNA発現を測定した(各月齢でn=4マウス、独立t検定で解析した)。観察されたNAD+の減少と一致して、Slc12a8の発現は、高齢の回腸で有意に上方制御された(
図44)。これらの結果は、Slc12a8の上方制御が消化管内のNAD+の減少と相関していることを示す。
【0348】
[実施例19]
本実施例は、マウスにおけるグルコース代謝に対するSlc12a8消化管ノックダウンの効果を示す。
【0349】
本発明者らは、対照ホタルルシフェラーゼ(fLuc)shRNAおよびSlc12a8 shRNAを担持したレンチウイルスを2月齢および24月齢マウスに経口強制投与し、それらの摂取行動を調べた。2月齢および24月齢の腸Slc12a8ノックダウン雌性B6マウス(shSlc12a8)および対照マウス(shfLuc)において、明期(午前9時から午後6時まで)および暗期(午後6時から午前9時まで)に、食物摂取量を4日間測定した。興味深いことに、消化管特異的Slc12a8ノックダウンは、高齢マウスの暗期の食物摂取量の有意な減少を引き起こしたが、若年マウスではまったく食物摂取量に影響を与えなかった(
図45、2月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスでは各々n=6マウス、および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスでは各々n=9マウス、Tukeyの検定によりANOVAで解析した)。2月齢または24月齢の腸Slc12a8ノックダウン雌性B6マウス(shSlc12a8)および対照マウス(shfLuc)において、24時間絶食後に、空腹時グルコースレベルを測定した(
図46、2月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスでは各々n=6マウス、および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスでは各々n=9マウス、独立t検定により解析した)。従って、Slc12a8ノックダウンは、高齢マウスにおいて空腹時グルコースレベルを低下させたが、しかしながら、若年マウスでは低下させなかった(
図46)。理論に制限されることなく、これらの結果はSlc12a8の発現が、消化管におけるNAD+の産生に影響することを示す。
【0350】
[実施例20]
本実施例は、消化管特異的Slc12a8ノックダウンがグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の血中循環濃度を有意に上昇させることを示す。
【0351】
GLP-1は、腸内分泌L細胞によって産生されるプログルカゴン由来の食欲抑制ペプチドである。2月齢または24月齢の腸Slc12a8ノックダウン雌性B6マウス(shSlc12a8)および対照マウス(shfLuc)に24時間絶食に続く6時間の再給餌(午前10時から午後4時まで)後の血漿GLP-1レベルをELISAで測定した。Slc12a8ノックダウンは、高齢マウスでは24時間絶食後の6時間の再給餌に応答してGLP-1の循環レベルを上昇させたが、若年マウスでは上昇させなかった(
図47、2月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスに+ついて各々n=6マウス、および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスについ各々n=9マウス、独立t検定により解析した)。理論に制限されることなく、これらの結果は、GLP-1の分泌がSlc12a8活性によって影響されることを示す。
【0352】
[実施例21]
本実施例は、高齢回腸に対するSlc12a8ノックダウンの効果を示す。
【0353】
GLPを産生するL細胞が回腸で濃縮されることはよく知られている(Yoon, M. J., et al., Cell Metab., 2015, 21, 706-717)。従って、回腸におけるSlc12a8およびGAPDHの発現を調べた。2月齢(
図48)または24月齢(
図49)の腸Slc12a8ノックダウン雌性B6マウス(shSlc12a8)および対照マウス(shfLuc)の回腸溶解物において、Slc12a8およびGAPDHのウエスタンブロットを行った。
図48~49は代表的なウエスタンブロットを示し(左パネル)、対応する棒グラフは回腸のGAPDHタンパク質レベルに正規化されたSlc12a8タンパク質レベルを示す(右パネル)。Slc12a8のN末端ドメインの最初の17アミノ酸に対する抗血清を使用した(2月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照マウスでは各々n=6、および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照マウスでは各々n=4~5、独立t検定により解析した)。若年および高齢のSlc12a8ノックダウンマウスの回腸でSlc12a8タンパク質のレベルが有意に減少したが(
図48~49)、高齢のSlc12a8ノックダウン回腸のみがNAD+レベルの有意な減少を示し(
図50)、高齢の回腸におけるNAD+恒常性の維持におけるSlc12a8の上方制御の生理学的重要性が確認された。
図50は、2月齢または24月齢の腸Slc12a8ノックダウン(shSlc12a8)および対照雌性B6マウス(shfLuc)の回腸におけるNAD+レベルを示す(2月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスについてn=6マウス、および24月齢の腸Slc12a8ノックダウンおよび対照雌性B6マウスについて各々n=9マウス、独立t検定により解析した)。理論に制限されることなく、これらの結果は、高齢の回腸におけるNAD+恒常性を維持するためにSlc12a8の上方制御が必要であることを示す。
【0354】
[実施例22]
本実施例は、培養回腸におけるGLP-1レベルに対するSlc12a8ノックダウンの効果を示す。
【0355】
本発明者らは、エクスビボで高齢fLuc対照およびSlc12a8ノックダウンマウスの回腸の培養も実施した。37℃にて2時間培養した24月齢の腸Slc12a8ノックダウン雌性B6マウス(shSlc12a8)および対照マウス(shfLuc)のエクスビボ回腸外植片の上清のELISAにより、GLP-1レベルを測定した(n=4マウス、独立t検定を使用して解析した)。
図51は、高齢のSlc12a8-ノックダウン回腸が、高齢のfLuc対照回腸からのものと比較して3倍のレベルのGLP-1を分泌したことを示す。高齢fLuc対照とSlc12a8ノックダウンマウスからエクスビボで培養した結腸は、GLP-1分泌に違いを示さなかった。37℃にて2時間培養した12月齢Slc12a8KO雌性マウス(Slc12a8KO)および対照野生型同腹仔(WT)のエクスビボ回腸外植片の上清のELISAにより、GLP-1レベルを測定した(n=4マウス、独立t検定により解析した)。12月齢Slc12a8KO雌性マウス(Slc12a8KO)および対照野生型同腹仔(WT)のこれらの回腸試料で、NAD+レベルも測定した(WTでn=3マウス、およびSlc12a8KOでn=4、独立t検定により解析した)。全ての値は平均値±SEMとして示される。*p<0.05、**p<0.01。
図52は、12月齢対照およびSlc12a8KOマウスのエクスビボ培養された回腸におけるGLP-1分泌の増加とNAD+の減少を示す。理論に制限されることなく、これらの例は、Slc12a8が高齢マウスの消化管におけるNAD+の減少の原因であることを示している。
【0356】
[実施例23]
本実施例は、エクスビボ培養された回腸に対するSIRT1およびSIRT6阻害剤の効果を示す。
【0357】
観察されたGLP-1分泌の増加への、SIRT1の関与(Yoon, M. J., et al., Cell Metab., 2015, 21, 706-717)およびSIRT6の関与(Jiang, H., et al., Nature, 2013, 496, 110-113)を検討した。エクスビボで培養された野生型の回腸を、SIRT1およびSIRT6阻害剤で処理した。0.2%DMSO、20μM EX527または20μM STK665401で4時間培養した24月齢雌性B6マウスのエクスビボ回腸外植片の上清において、ELISAによりGLP-1レベルを測定した(n=3マウス、Tukeyの検定を使用してANOVAで解析した)。SIRT6特異的阻害剤であるSTK665401ではなく、強力なSIRT1特異的阻害剤であるEX527のみが、回腸からのGLP-1の分泌を亢進させることができた(
図53)。理論に制限されることなく、これらの結果は、高齢Slc12a8ノックダウン回腸において観察されたGLP-1分泌の亢進に、NAD+の有意な減少によるSIRT1活性の低下が関与している可能性が高いことを示す。
【0358】
本発明またはその好ましい実施形態の要素を紹介するとき、冠詞「a」、「an」、「the」および「said」は、1つ以上の要素があることを意味することを意図している。「comprising」、「including」および「having」という用語は、包括的であることを意図しており、リストされた要素以外の追加の要素が存在する可能性があることを意味する。
【0359】
上記を考慮して、本発明のいくつかの目的が達成され、別の有利な結果が得られることが分かるであろう。
【0360】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の生成物および方法に種々の変更を加えることができるように、上記の説明に含まれ、および添付の図面に示される全ての事項は、限定的な意味ではなく例示として解釈されるものとする。
前記Slc12a8タンパク質がSEQ ID NO:12(マウスSlc12a8タンパク質)、SEQ ID NO:13(マウスSlc12a8変異体Aタンパク質)、SEQ ID NO:14(マウスSlc12a8変異体Bタンパク質)、またはSEQ ID NO:15(ヒトSlc12a8タンパク質)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の方法。
前記細胞が哺乳動物線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞を含み、または前記プロテオリポソームが哺乳動物線維芽細胞、腸管細胞、膵細胞、肝細胞、脂肪細胞、ニューロン、またはグリア細胞に由来するプロテオリポソームを含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。