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特開2023-139144樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139144
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230926BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118624
(22)【出願日】2023-07-20
(62)【分割の表示】P 2021556850の分割
【原出願日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2020121442
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成澤 春彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】涌井 洋行
(72)【発明者】
【氏名】米虫 治美
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れ、高温領域まで低い線膨張係数を保ち、高い引張弾性率を有し、樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の線膨張係数および引張弾性率の比が小さく、物性等方性が良好な樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】ポリアミド酸樹脂溶液を支持体上に塗布、乾燥して溶媒を含有する樹脂フィルム積層体を作製する工程A、 前記積層体から前記支持体を剥離して溶媒を含有する樹脂フィルムを得る工程B、 前記溶媒を含有する樹脂フィルムから溶媒を除去しながら脱水閉環反応する工程Cを含み、 前記工程Cが、昇温速度が5~60℃/分で昇温する、段数が2以上のステップ状に昇温する、のいずれか又は両方を組み合わせた方法で昇温され、 前記工程Cの少なくとも一部をマイクロ波加熱により行うことを特徴とし、 得られるポリイミド樹脂フィルムが下記(1)~(2)を満足する、樹脂フィルムの製造方法。 (1)損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)が250~500℃の範囲内にあり、前記tanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)と線膨張係数変曲点温度(B)が下記式の関係にある (40+0.8×A) ≦ B < A (2)前記樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量が50,000~500,000の範囲内にあり、前記重量平均分子量を前記樹脂の数平均分子量で除した値である分子量分布が1.0~5.0の範囲内にある
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸樹脂溶液を支持体上に塗布、乾燥して溶媒を含有する樹脂フィルム積層体を作製する工程A、
前記積層体から前記支持体を剥離して溶媒を含有する樹脂フィルムを得る工程B、
前記溶媒を含有する樹脂フィルムから、溶媒を除去しながら脱水閉環反応する工程Cを含み、
前記工程Cが、昇温速度が5~60℃/分で昇温する、段数が2以上のステップ状に昇温する、のいずれか又は両方を組み合わせた方法で昇温され、
前記工程Cの少なくとも一部をマイクロ波加熱により行うことを特徴とし、
得られるポリイミド樹脂フィルムが下記(1)~(2)を満足する、
樹脂フィルムの製造方法。
(1)損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)が250~500℃の範囲内にあり、前記tanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)と線膨張係数変曲点温度(B)が下記式の関係にある
(40+0.8×A) ≦ B < A
(2)前記樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量が50,000~500,000の範囲内にあり、前記重量平均分子量を前記樹脂の数平均分子量で除した値である分子量分布が1.0~5.0の範囲内にある
【請求項2】
前記樹脂溶液が、双極子モーメントが3.0~6.0Dの範囲にあり前記樹脂を溶解する溶媒を含有する、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
さらに(3)~(4)を満足する請求項1または2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
(3)MD方向およびTD方向の両方の35~200℃の範囲で測定した線膨張係数が-5ppm/℃~+55ppm/℃の範囲にあり、前記線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある
(4)MD方向およびTD方向の両方の引張弾性率が2~20GPaの範囲にあり、前記引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある
【請求項4】
イエローインデックスが10以下、波長400nmにおける光線透過率が70%以上、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程Cの初期温度が50~200℃の範囲にある、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程Cの最終温度が300~500℃の範囲にある、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムと樹脂フィルムの製造方法に関する。より詳細には、耐熱性に優れ、高温領域まで低い線膨張係数を保ち、高い引張弾性率を有し、樹脂フィルムのMD方向に対するTD方向の線膨張係数および引張弾性率の比が小さく、樹脂フィルムの物性等方性が良好な透明性に優れた樹脂フィルムと樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能化する携帯電話やデジタルカメラ、ディスプレイ機器その他各種電子機器類の小型化、軽量化、利便性の進展に伴い、従来から利用されてきた硬く衝撃に弱いガラス基板に代わり、耐熱性、低い線膨張係数、高い引張弾性率、柔軟性、耐衝撃性、透明性、に優れた樹脂フィルム基板材料が期待されている。
【0003】
樹脂フィルムは有機高分子樹脂材料をフィルム状に製膜加工することによって工業的に製造され、製膜方法としては有機高分子樹脂を溶融した後にスリット状のダイから押し出す溶融製膜法、有機高分子樹脂溶液を支持体に均一に塗工し溶剤を乾燥揮発させる溶液製膜法等がある。有機高分子樹脂材料の中でも特に耐熱性に優れるポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂は、不融乃至非常に高温で溶融するため、溶液製膜により樹脂フィルムを得ることが一般的である。
【0004】
このような塗工し溶剤を乾燥揮発させる溶液製膜方法では、塗工条件や乾燥条件によって厚みムラや配向ムラが生じることがあり、例えば特許文献1では支持体回転速度等の塗工条件を見直すことで長手方向の横段ムラを低減した提案がある。
【0005】
また、フィルムのたるみのバラツキを抑えるために、たるみと、異方性指数、主軸配向係数、熱収縮率、乾燥温度とに相関があることを見出し、幅方向の乾燥温度ムラを抑えて、線膨張係数すなわち寸法変化のバラツキを抑制する方法が記載されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献3では、ガラス転移温度以上で顕著な弾性率低下を起こすポリイミドフィルムを製造する際に、加熱工程で収縮と膨張により変化するフィルムの幅に合わせて、フィルムの両端を固定し弛み無く搬送することにより、フィルムのMD方向(進行方向)とTD方向(幅方向)の線膨張係数の異方性を小さくする製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-203838号公報
【特許文献2】特開2018-70842号公報
【特許文献3】特開2000-290401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電極やディスプレイ素子など機能素子を表面に直性形成するために、ガラス基板代替として用いられる樹脂フィルムには高い引張弾性率と低いCTEおよび耐熱性や耐薬品性が求められる。そのような樹脂フィルムに好適な樹脂としてのポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドの前駆体となるポリアミド酸は、モビリティの低い剛直な分子鎖を多く含み高い分子量を有することで耐熱性を発現しており、また、高分子量化する際に結果として分子量に広い分布を有している。
【0009】
この様な樹脂溶液を塗布、乾燥する時に、高分子量で分子量分布が広くモビリティの低い剛直な分子鎖を多く含む場合、溶剤が除去されるに従って先に形成される分子の配向方向、配向度や絡み合いを反映したより密な高次構造と、後から形成される分子の配向方向、配向度や絡み合いを反映したより疎な高次構造が異なることになり、それぞれのドメインが形成される。
【0010】
樹脂溶液から塗布乾燥によりフィルムを工業的に連続で製造する場合、ロールツーロールで加熱炉に搬送するために、連続製造されるフィルムにはMD方向(進行方向)とTD方向(幅方向)といった工程的・形状的な異方性を有する。この様な工程的・形状的な異方性は、先に述べた異なった高次構造を有するドメイン形成に影響を与え、幅方向又は進行方向のいずれかに分子の配向方向、配向度や絡み合いが偏り、寸法変化のバラツキや物性の異方性を生ずる。
【0011】
特許文献1の方法では長手方向の横段ムラを低減し、厚みの差異に起因した物性の異方性を抑えることは出来ているが、フィルム内部の分子の配向方向、配向度や絡み合いの偏りによる物性の異方性までは抑えられていない。また、特許文献2では、幅方向の乾燥温度ムラが20℃ 以下となる条件下で乾燥を行うことにより、フィルムの長手方向と幅方向における熱収縮率を0.05%以下としているが、実施例中では熱収縮率最大値の長手方向に対する幅方向の比率が最大0.33であり、熱収縮率のMD方向(長手方向)とTD方向(幅方向)の異方性は抑えられていない。
【0012】
特許文献3のポリイミドフィルムの製造方法では、徐々に高い温度の炉を順次通過させる工程に合わせて、前半の工程でフィルムを幅方向に故意に収縮させて、後半の工程でフィルムの弛みが生じる段階で幅方向に拡げて、弛み無く製造してフィルムの幅方向と進行方向の異方性を低減しているが、実施例中ではポリイミドフィルムのMD(流れ方向)方向と、TD(幅方向)方向の線膨張係数の比は0.96であり、さらなる異方性の低減が課題となる。
【0013】
この様に、ポリイミドは耐熱性に優れ、低い線膨張係数と高い引張弾性率を有する反面、高分子量で分子量分布が広くモビリティの低い剛直な分子鎖を有するために、溶剤乾燥に伴い分子の配向方向、配向度や絡み合いを反映した高次構造が異なるドメインが形成されることから、高温領域まで低い線膨張係数を保ち、樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の線膨張係数および引張弾性率の比が小さく、物性等方性が良好な樹脂フィルムを得ることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、かかる課題を解決できることを見出し本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を有するものである。
【0015】
下記(1)~(2)を満足する樹脂フィルム。
(1)損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)が250~500℃の範囲内にあり、前記tanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)と線膨張係数変曲点温度(B)が下記式の関係にある
(40+0.8×A) ≦ B < A
(2)前記樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量が50,000~500,000の範囲内にあり、前記重量平均分子量を前記樹脂の数平均分子量で除した値である分子量分布が1.0~5.0の範囲内にある
【0016】
前記樹脂フィルムは、さらに(3)~(4)を満足することが好ましい。
(3)MD方向およびTD方向の両方の35~200℃の範囲で測定した線膨張係数が-5ppm/℃~+55ppm/℃の範囲にあり、前記線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある
(4)MD方向およびTD方向の両方の引張弾性率が2~20GPaの範囲にあり、前記引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある
【0017】
前記樹脂フィルムは、イエローインデックスが10以下、波長400nmにおける光線透過率が70%以上、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。
【0018】
樹脂溶液を支持体上に塗布、乾燥して溶媒を含有する樹脂フィルム積層体を作製する工程A、
前記積層体から前記支持体を剥離して溶媒を含有する樹脂フィルムを得る工程B、
前記溶媒を含有する樹脂フィルムから、溶媒を除去、又は溶媒を除去しながら脱水閉環反応する工程Cを含み、
前記工程Cの少なくとも一部をマイクロ波加熱により行うことを特徴とする前記樹脂フィルムの製造方法。
【0019】
前記樹脂溶液は、ポリアミド酸、ポリイミド、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂と、双極子モーメントが3.0~6.0Dの範囲にあり前記樹脂を溶解する溶媒を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高分子量で分子量分布が広くモビリティの低い剛直な分子鎖を多く含むポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドの前駆体となるポリアミド酸からなる樹脂溶液を塗布乾燥した場合においても、耐熱性に優れ、高温領域まで低い線膨張係数を保ち、高い引張弾性率を有し、樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の線膨張係数および引張弾性率の比が小さく、物性等方性が良好な透明性に優れた樹脂フィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法について説明する。本発明の樹脂フィルムは下記(1)~(2)を満足するフィルムである。
【0022】
(1)損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)が250~500℃の範囲内にあり、前記tanδの温度依存曲線がピークとなる温度と線膨張係数変曲点温度(B)が下記式の関係にある。
(40+0.8×A) ≦ B < A
【0023】
温度に対するtanδの温度依存曲線は温度変化による樹脂の粘弾性が変化する指標であり、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度を超えると、樹脂の粘性が顕著に増加し強度が低下する。そのため、携帯電話やデジタルカメラ、ディスプレイ機器その他各種電子機器類に用いられるガラス基板代替で求められる耐熱性の点から、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度が250~500℃の範囲内にあることが必要であり、好ましくは260~480℃の範囲内、より好ましくは270~460℃の範囲内にある。前記樹脂フィルムのtanδの温度依存曲線がピークとなる温度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0024】
樹脂フィルムは温度変化により膨張や収縮し線膨張係数はその変化の指標であり、樹脂フィルムの線膨張係数は測定温度領域に対して常に一定ではなく、樹脂フィルムに応じた特定温度で線膨張係数が高くなる。この特定温度を線膨張係数変曲点温度と呼ぶ。
【0025】
本発明の樹脂フィルムは、樹脂溶液を塗布、乾燥することにより得られるものであることが好ましい。樹脂溶液を塗布、乾燥して樹脂フィルムを得る際に、溶剤が除去されるに従って先に形成される分子の配向方向、配向度や絡み合いを反映したより密な高次構造と、後から形成される分子の配向方向、配向度や絡み合いを反映したより疎な高次構造が生じ、それぞれのドメインが形成される。この時に樹脂がより高分子量で分子量分布が広くモビリティの低い剛直な分子鎖をより多く含む場合、それぞれのドメインの高次構造の疎密がより大きく異なる。
【0026】
tanδの温度依存曲線がピークとなる温度と線膨張係数変曲点温度はいずれも物性変曲点温度であるが、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度は樹脂フィルム作製の段階で形成された疎密の異なる高次構造の平均の物性変化を反映するのに対して、線膨張係数は樹脂フィルム作成の段階で形成された疎な高次構造の物性変化を反映するために、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)よりも線膨張係数変曲点温度(B)は常に低くなる(B < A)。また、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度から線膨張係数変曲点温度を差し引いた値はtanδの温度依存曲線がピークとなる温度が高いほど大きくなる傾向にある。ガラス基板代替で求められる低い線膨張係数と基板加工工程での高温時にも低い線膨張係数を保つために、線膨張係数変曲点温度(B)はより高い方が好ましく具体的には、tanδの温度依存曲線がピークとなる温度(A)に対して、式 (40+0.8×A) ≦ B を満たすことが好ましい。前記樹脂フィルムの線膨張係数変曲点温度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0027】
(2)樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量が50,000~500,000の範囲内にあり、前記重量平均分子量を前記樹脂の数平均分子量で除した値である分子量分布が1.0~5.0の範囲内にある。
【0028】
本発明の樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量は50,000~500,000の範囲内であり、より好ましくは80,000~400,000、さらに好ましくは100,000~300,000、ことさらに好ましくは120,000~200,000である。重量平均分子量が上記の下限以上であればガラス基板代替で求められる高い引張弾性率、柔軟性、耐衝撃性を満たすことが出来る。また、重量平均分子量が上記の上限以下であれば上記式を満たすことが容易となる。また、樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量を数平均分子量で除した値である分子量分布は1.0~5.0の範囲内であり、より好ましくは1.5~4.5、さらに好ましくは2.0~4.0である。分子量分布が上記の下限以上であれば、樹脂精製のコストを低減することが出来、分子量分布が上記の上限以下であれば上記式を満たすことが容易となる。前記樹脂フィルムの原料である樹脂の重量平均分子量および分子量分布の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0030】
本発明の樹脂フィルムはさらに下記(3)~(4)を満足することが好ましい。
【0031】
(3)MD方向およびTD方向の両方の35~200℃の範囲で測定した線膨張係数が-5ppm/℃~+55ppm/℃の範囲にあり、前記線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある。
【0032】
本発明における樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の両方の35~200℃の範囲で測定した平均の線膨張係数は-5ppm/℃~+55ppm/℃であることが好ましい。より好ましくは-4ppm/℃~+45ppm/℃であり、さらに好ましくは-3ppm/℃~+35ppm/℃である。線膨張係数が上記範囲内であると、機能素子との線膨張係数の差を小さく保つことができ、熱を加えるプロセスに供しても樹脂フィルムと機能素子とが剥がれることを回避でき、加工性に優れる。
【0033】
本発明における樹脂フィルムの線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比は0.97~1.03の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.975~1.025、さらに好ましくは0.98~1.02である。この線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比が上記範囲内にあると、樹脂フィルムのMD方向、TD方向を区別することなく機能素子との加工プロセスに供することができ、作業性や歩留まりを向上することが出来る。前記樹脂フィルムの線膨張係数の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0034】
(4)MD方向およびTD方向の両方の引張弾性率が2~20GPaの範囲にあり、前記引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にある。
【0035】
本発明の樹脂フィルムの引張弾性率はMD方向およびTD方向の両方の引張弾性率が2~20GPaの範囲であることが好ましい。より好ましくは2.5~15GPa、さらに好ましくは3~10GPaである。引張弾性率が上記の下限以上であれば、樹脂フィルムと機能素子が剥がれることを回避でき、取り扱い性に優れる。また、引張弾性率が上記の上限以下であれば、樹脂フィルムをフレキシブルなフィルムとして使用できる。
【0036】
本発明における樹脂フィルムの引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比が0.97~1.03の範囲にあることが好ましい。より好ましくは0.975~1.025、さらに好ましくは0.98~1.02である。引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比が上記範囲内にあると、樹脂フィルムのMD方向、TD方向を区別することなく機能素子との加工プロセスに供することができ、作業性や歩留まりを向上することが出来る。前記樹脂フィルムの引張弾性率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0037】
本発明の樹脂フィルムは主にタッチパネルやディスプレイ等の画像表示装置の前面板、電極周辺に用いられることから、黄色度指数(イエローインデックス)は10以下が好ましく、より好ましくは7以下であり、さらに好ましくは5以下であり、より一層好ましくは3以下である。前記樹脂フィルムの黄色度の下限は特に制限されないが、フレキシブル電子デバイスとして用いるためには0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上である。前記樹脂フィルムの黄色度指数(イエローインデックス)の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0038】
本発明の樹脂フィルムは主にタッチパネルやディスプレイ等の画像表示装置の前面板、電極周辺に用いられることから、波長400nmにおける光線透過率は70%以上が好ましく、より好ましくは72%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、より一層好ましくは80%以上である。前記樹脂フィルムの波長400nmの光線透過率の上限は特に制限されないが、フレキシブル電子デバイスとして用いるためには99%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以下であり、さらに好ましくは97%以下である。前記樹脂フィルムの波長400nmにおける光線透過率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0039】
本発明の樹脂フィルムは主にタッチパネルやディスプレイ等の画像表示装置の前面板、電極周辺に用いられることから、全光線透過率は85%以上が好ましく、より好ましくは86%以上であり、さらに好ましくは87%以上であり、より一層好ましくは88%以上である。前記樹脂フィルムの全光線透過率の上限は特に制限されないが、フレキシブル電子デバイスとして用いるためには99%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以下であり、さらに好ましくは97%以下である。前記樹脂フィルムの全光線透過率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0040】
本発明の樹脂フィルムは、所望のtanδの温度依存曲線がピークとなる温度を達するために、樹脂溶液を塗布、乾燥することにより得られるものであることが好ましい。樹脂溶液としてポリアミド酸、ポリイミド、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する樹脂溶液を用いることが好ましい。樹脂溶液は以下のいずれかの製造方法により得ることが出来る。
【0041】
ポリアミド酸溶液は、ジアミン類とテトラカルボン酸類を溶媒中で攪拌および/または混合し、縮合反応によりアミド結合を生成しながら高分子量化することによって得ることが出来る。
【0042】
ポリイミド溶液は、1つ目の方法として、ジアミン類とテトラカルボン酸類を溶媒中で加熱攪拌および/または混合しながら、脱水閉環反応により一段階でイミド結合を生成しながら高分子量化することによって得ることが出来る。また、2つ目の方法として前述のポリアミド酸溶液を得た後にイミド化促進剤およびイミド化剤を添加し、攪拌および/または混合しながら、脱水閉環反応により二段階でイミド結合を生成しながら高分子量化することによって得ることが出来る。
【0043】
ポリアミドイミド溶液は、ジイソシアネート類とトリカルボン酸類を溶媒中で加熱攪拌および/または混合しながら、脱炭酸反応により一段階でアミド結合及びイミド結合を生成しながら高分子量化することによって得ることが出来る。
【0044】
上記のポリアミド酸、ポリイミド、およびポリアミドイミドを高分子量化する際に、樹脂溶液及び樹脂フィルムの特性を損なわない範囲で、ジカルボン酸類を共重合成分として用いることが出来る。
【0045】
本発明で用いる樹脂溶液は、上記で得た樹脂溶液を貧溶媒に流下して樹脂分を析出させ洗浄・濾過・乾燥することによって得られる樹脂固形物や、樹脂溶液を流延乾燥することによって得られる樹脂固形物を、再び可溶性溶媒に溶解することによっても得ることが出来る。
【0046】
前記テトラカルボン酸類、トリカルボン酸類、ジカルボン酸類としては、ポリイミド合成、ポリアミドイミド合成に通常用いられる芳香族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂肪族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂環式テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、芳香族トリカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂肪族トリカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂環式トリカルボン酸類(その酸無水物を含む)、芳香族ジカルボン類、脂肪族ジカルボン酸類、脂環式ジカルボン酸類等を用いることができる。中でも、芳香族テトラカルボン酸無水物類、脂環式テトラカルボン酸無水物類が好ましく、耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸無水物類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環式テトラカルボン酸類がより好ましい。テトラカルボン酸類が酸無水物である場合、分子内に無水物構造は1個であってもよいし2個であってもよいが、好ましくは2個の無水物構造を有するもの(二無水物)がよい。テトラカルボン酸類、トリカルボン酸類、ジカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明における無色透明性の高いポリイミドを得るための芳香族テトラカルボン酸類としては、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、4,4’-オキシジフタル酸、3,4’-オキシジフタル酸、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-イル)ベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(ベンゼン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’-[(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(1,4-キシレン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(4-イソプロピル―トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1,1-ジイル)ビス(ナフタレン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(ベンゼン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’-[(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(1,4-キシレン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(4-イソプロピル―トルエン-2,5-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、4,4’-[4,4’-(3H-2,1-ベンズオキサチオール-1,1-ジオキシド-3,3-ジイル)ビス(ナフタレン-1,4-ジイルオキシ)]ジベンゼン-1、2-ジカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’-ジフェノキシ-4,4’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ジフタル酸、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-3,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ジフタル酸、などのテトラカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の酸無水物構造を有する二無水物が好適であり、特に、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物が好ましい。なお、芳香族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。芳香族テトラカルボン酸類は、耐熱性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、なおさらに好ましくは80質量%以上である。
【0048】
脂環式テトラカルボン酸類としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸、ビシクロ[2,2、1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、テトラヒドロアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、テトラデカヒドロ-1,4:5,8:9,10-トリメタノアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4-エタノ-5,8-メタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸(別名「ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロヘキサノン-6’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸」)、メチルノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘキサノン-α’-スピロ-2’’-(メチルノルボルナン)-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロプロパノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロブタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロヘプタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロオクタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロノナノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロウンデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロドデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロトリデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロテトラデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタデカノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロペンタノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-(メチルシクロヘキサノン)-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、などのテトラカルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の酸無水物構造を有する二無水物が好適であり、特に、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がさらに好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。脂環式テトラカルボン酸類は、透明性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、なおさらに好ましくは80質量%以上である。
【0049】
トリカルボン酸類としては、トリメリット酸、1,2,5-ナフタレントリカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3’,4’-トリカルボン酸、ジフェニルスルホン-3,3’,4’-トリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸、或いはヘキサヒドロトリメリット酸などの上記芳香族トリカルボン酸の水素添加物、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート、1,4-ブタンジオールビストリメリテート、ポリエチレングリコールビストリメリテートなどのアルキレングリコールビストリメリテート、及びこれらの一無水物、エステル化物が挙げられる。これらの中でも、1個の酸無水物構造を有する一無水物が好適であり、特に、トリメリット酸無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物が好ましい。尚、これらは単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-オキシジベンゼンカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、或いは1,6-シクロヘキサンジカルボン酸などの上記芳香族ジカルボン酸の水素添加物、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカ二酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、及びこれらの酸塩化物或いはエステル化物などが挙げられる。これらの中で芳香族ジカルボン酸及びその水素添加物が好適であり、特に、テレフタル酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸、4、4’-オキシジベンゼンカルボン酸が好ましい。尚、ジカルボン酸類は単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
本発明における無色透明性の高いポリイミドを得るためのジアミン類或いはジイソシアネート類としては、特に制限はなく、ポリイミド合成、ポリアミドイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類、脂環式ジアミン類、芳香族ジイソシアネート類、脂肪族ジイソシアネート類、脂環式ジイソシアネート類等を用いることができる。耐熱性の観点からは、芳香族ジアミン類が好ましく、透明性の観点からは脂環式ジアミンが好ましい。また、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いると、高い耐熱性とともに、高弾性率、低熱収縮性、低線膨張係数を発現させることが可能になる。ジアミン類及びジイソシアネート類は、単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0052】
芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、4-アミノ-N-(4-アミノフェニル)ベンズアミド、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、4,4’-[9H-フルオレン-9,9-ジイル]ビスアニリン(別名「9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン」)、スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-2,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、4,4’-[スピロ(キサンテン-9,9’-フルオレン)-3,6-ジイルビス(オキシカルボニル)]ビスアニリン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アデニン、2,4-ビス(4-アミノフェニル)シクロブタン-1,3-ジカルボン酸ジメチル、および上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。また、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、特に限定はなく、例えば、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。これらの中で、特に、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4-アミノ-N-(4-アミノフェニル)ベンズアミド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノンが好ましい。尚、芳香族ジアミン類は単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
脂環式ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。これらの中で、特に、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサンが好ましく、1,4-ジアミノシクロヘキサンがより好ましい。尚、脂環式ジアミン類は単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
ジイソシアネート類としては、例えば、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-または3,3’-または4,2’-または4,3’-または5,2’-または5,3’-または6,2’-または6,3’-ジメチルジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-または3,3’-または4,2’-または4,3’-または5,2’-または5,3’-または6,2’-または6,3’-ジエチルジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-または3,3’-または4,2’-または4,3’-または5,2’-または5,3’-または6,2’-または6,3’-ジメトキシジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’ -ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、4,4’-(2,2ビス(4-フェノキシフェニル)プロパン)ジイソシアネート、3,3’-または2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-または2,2’-ジエチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類、及びこれらのいずれかを水素添加したジイソシアネート(例えば、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート)などが挙げられる。これらの中では、低吸湿性、寸法安定性、価格及び重合性の点からジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネートやナフタレン-2,6-ジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネートが好ましい。尚、ジイソシアネート類は単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の樹脂溶液に用いられる溶媒は、双極子モーメントが3.0~6.0Dの範囲にあり、ポリアミド酸、ポリイミド、およびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を溶解する溶媒であるであることが好ましい。双極子モーメントが上記範囲内であると、後述する樹脂フィルムの溶媒除去工程において用いられるマイクロ波加熱の均一加熱効果に優れ、得られる樹脂フィルムの物性等方性を向上させることが容易となる。
【0056】
本発明の樹脂溶液に用いられる溶媒として、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(双極子モーメント:3.86D)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(双極子モーメント:3.72D)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(双極子モーメント:4.09D)、N-メチル-ε-カプロラクタム(双極子モーメント:4.23D)、ジメチルスルホキシド(双極子モーメント:3.96D)、ジメチルスルホン(双極子モーメント:4.47D)、スルホラン(双極子モーメント:4.68D)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(双極子モーメント:4.07D)、1,3-ジメチル-2-ピリミジノン(双極子モーメント:4.17D)、3-メチル-2-オキサゾリドン(双極子モーメント:4.10D)、ヘキサメチルホスホルアミド(双極子モーメント:5.54D)、γ-ブチロラクトン(GBL)(双極子モーメント:4.27D)などがあり、これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。またこれらの溶媒と併せて、トルエン(双極子モーメント:0.36D)、キシレン(双極子モーメント:0.00~0.64D)などの貧溶媒を、樹脂固形分が析出せずマイクロ波加熱の均一加熱効果を損なわない程度に使用してもよい。また、2種類以上の溶媒を混合する場合の双極子モーメントの値は、それぞれの値の加重平均値とする。
【0057】
本発明の樹脂溶液には樹脂フィルムの特性を損なわない範囲で、微粒子を添加しても良い。微粒子としては無機微粒子でも有機微粒子でも良く、無機微粒子としては、例えば窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウムなどが挙げられる。また、有機微粒子としては、例えばポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂などが挙げられ、これらの微粒子は複合して用いても良い。
【0058】
本発明の樹脂溶液の樹脂固形分濃度は、5~40質量%であることが好ましく、より好ましくは7~35質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。樹脂固形分濃度が上記の下限以上であると、樹脂フィルムに必要とされる膜厚を得る観点から好ましく、上記の上限以下であると、樹脂フィルムの物性等方性を損なわない程度の溶液流動性を得る観点から好ましい。
【0059】
本発明における樹脂フィルムは後述する樹脂フィルムの製造方法によって得られる樹脂フィルムであることが好ましい。具体的には、主鎖にイミド結合を有する高分子フィルムであり、好ましくはポリイミドフィルム、またはポリアミドイミドフィルムであり、より好ましくはポリイミドフィルムである。
【0060】
本発明における樹脂フィルムの厚さの下限は、樹脂フィルムに必要とされる強度やハンドリング性の観点から、3μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは7μm以上である。前記樹脂フィルムの厚さの上限は、均一に溶媒を除去する観点から、250μm以下であることが好ましく、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
【0061】
本発明の樹脂フィルムの好ましい製造方法は、
前記樹脂溶液を支持体上に塗布・乾燥して溶媒を含有する樹脂フィルム積層体を作製する工程A、
前記溶媒を含有する樹脂フィルム積層体から前記支持体を剥離して溶媒を含有する樹脂フィルムを得る工程B、
前記溶媒を含有する樹脂フィルムから、溶媒を除去、又は溶媒を除去しながら脱水閉環反応する工程Cを含み、
前記工程Cの少なくとも一部をマイクロ波加熱によって行うことを特徴とする。
【0062】
工程Aについて説明する。工程Aは、樹脂溶液を支持体上に塗布・乾燥して溶媒を含有する樹脂フィルム積層体(以下、単に積層体ともいう。)を作製する工程である。前記積層体は、前記支持体に前記樹脂溶液の乾燥物が積層されたものである。
【0063】
本発明で用いられる支持体としては、例えば、樹脂フィルム基材、ステンレス鋼ベルト基材、ガラス基材等が挙げられる。樹脂フィルム基材としては、樹脂溶液に含まれる溶媒に膨潤、溶出しない樹脂フィルム基材を用いることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリオレフィン系(PP)フィルム、シクロオレフィン系(COP)フィルム等が挙げられる。また、溶媒を含有する樹脂フィルムを支持体から剥離するために、易剥離性を有する支持体を用いることが好ましい。
【0064】
支持体上に樹脂溶液を塗布する方法としては、ダイコート法、コンマコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、による方法等が挙げられ、これらのうちから2種の方法を組み合わせても良い。コンマコート法、ダイコート法、あるいはこれらの組み合わせであれば生産性の観点から好ましい。
【0065】
支持体上で樹脂溶液を乾燥する方法としては、送風乾燥、熱風乾燥、赤外線加熱乾燥、支持体からの伝熱加熱乾燥による方法等が挙げられ、これらのうちから2種の方法を組み合わせても良い。乾燥した後の溶媒を含有する樹脂フィルムの溶媒含有量としては、3~50質量%であることが好ましく、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは7~30質量%である。溶媒含有量が上記の下限以上であると、支持体に接した樹脂フィルム面と反対面との溶媒含有量や高分子高次構造の差が少なく、樹脂フィルムの厚み方向における物性異方性が少なくなり、樹脂フィルムのカールが抑えられ、上記の上限以下であると、支持体から剥離した後の樹脂フィルムの変形が抑制され、ハンドリングが容易となる。
【0066】
工程Bについて説明する。工程Bは、前記積層体から前記支持体を剥離して溶媒を含有する樹脂フィルムを得る工程である、
【0067】
前記溶媒を含有する樹脂フィルムを前記支持体から剥離する方法としては、特に制限されないが、ピンセットなどで端から捲る方法、積層体に切り込みを入れ、切り込み部分の1辺に粘着テープを貼着させた後にそのテープ部分から捲る方法、樹脂フィルムの切り込み部分の1辺を真空吸着した後にその部分から捲る方法等が挙げられる。
【0068】
工程Cについて説明する。工程Cは、前記溶媒を含有する樹脂フィルムから、溶媒を除去、又は溶媒を除去しながら脱水閉環反応する工程であり、工程Cの少なくとも一部をマイクロ波加熱に行う。
【0069】
支持体から剥離した後、溶媒を含有する樹脂フィルムの溶媒除去工程で用いるマイクロ波加熱は、その加熱原理として被加熱体に含まれる分子の双極子をマイクロ波により振動させることに基づいている。従って、マイクロ波の吸収効率は双極子モーメントの大きさと分子がマイクロ波の周期に追随して運動するし易さに依存する。そこで溶媒を含有する樹脂フィルムからマイクロ波を用いて効率的に溶媒を均一加熱し除去するため、前述した双極子モーメントの値を有する溶媒を指定している。
【0070】
本発明において用いられるマイクロ波加熱装置の周波数は、前述した双極子モーメントの値を有する溶媒の分子が運動しやすい周波数を選ぶことが好ましい。しかしながら、一般には電波法による制約や、マイクロ波電子管の制約により、2,450MHzの周波数の加熱装置が一般的である。但し、他の通信などの妨害を与えなければ、915MHzも用いることができる。本発明においては、かかる事情から周波数2,450MHzおよび915MHzを選ぶことがさらに好ましい。また、マイクロ波の強度は、樹脂フィルム表面の発泡、柚肌、波打ちのなどの状態を勘案して適宜選択される。
【0071】
指定した双極子モーメントの値を有する溶媒を含有する樹脂溶液を使い、マイクロ波加熱を用いることで、溶媒除去工程で樹脂フィルムが均一に加熱乾燥されて、形成される高次構造の疎密の差異が低減し、式(40+0.8×A) ≦ B < A を達成することが容易となる。さらに得られる樹脂フィルムの物性等方性を向上させることが出来、樹脂フィルムの線膨張係数のMD方向に対するTD方向の比および、引張弾性率のMD方向に対するTD方向の比を好ましい範囲に収めることが容易となる。
【0072】
本発明ではマイクロ波加熱に併用して、送風乾燥、熱風乾燥、赤外線加熱乾燥による方法等を用いることが出来、これらのうちから2種の方法を組み合わせても良い。
【0073】
上記の加熱方法を用いた溶媒除去工程における昇温プロファイルは、初期温度が50~200℃の範囲であることが好ましく、指定範囲の下限以上であると、乾燥炉内の温度バラツキを抑えることが容易であり、初期温度が指定範囲の上限以下であると、溶媒が急激に加熱されることによる樹脂フィルムの発泡や表面の柚子肌等を抑えることが容易となり、また、樹脂フィルム表面と樹脂フィルム内部との溶媒含有量や高分子高次構造の差が少なくなり、式(40+0.8×A) ≦ B < A を達成することが容易となる。
【0074】
上記の加熱方法を用いた溶媒除去工程における昇温プロファイルは、最終温度が300~500℃の範囲であることが好ましく、指定範囲の下限以上であると、樹脂フィルム中の残留溶媒量を抑えることが容易となり、最終温度が指定範囲の上限以下であると、樹脂フィルムの熱劣化を抑えることが容易となる。
【0075】
上記の加熱方法を用いた溶媒除去工程における昇温プロファイルは、昇温速度が5~60℃/分で昇温するか、段数が2以上のステップ状に昇温するか、いずれか又は両方を組み合わせた方法で昇温することが好ましい。昇温速度が指定範囲の下限以上であると溶媒除去工程での作業時間を短縮することが出来、上記指定範囲の上限以下であると、溶媒が急激に加熱されることによる樹脂フィルムの発泡や表面の柚子肌等を抑えることが容易となり、また、樹脂フィルム表面と樹脂フィルム内部との溶媒含有量や高分子高次構造の差が少なくなり、式(40+0.8×A) ≦ B < A を達成することが容易となる。
【0076】
ステップ状に昇温する場合は、ステップ数は2~10回であることが好ましく、各ステップ間の昇温速度は10~100℃/分であることが好ましい。ステップ数が指定範囲の下限以上であると、溶媒が急激に加熱されることによる樹脂フィルムの発泡や表面の柚子肌等を抑えることが容易であり、また、樹脂フィルム表面と樹脂フィルム内部との溶媒含有量や高分子高次構造の差が少なくなり、式(40+0.8×A) ≦ B < A を達成することが容易となる。また、ステップ数が指定範囲の上限以下であると、作業効率が良好となる。
【0077】
溶媒除去工程における総乾燥時間は5~100分となるように、上記初期温度、最終温度、昇温速度、ステップ数を決めることが好ましい。総乾燥時間が指定範囲の下限以上であると、溶媒が急激に加熱されることによる樹脂フィルムの発泡や表面の柚子肌等を抑えることが容易となり、上限以下であると、生産性が向上し樹脂フィルムの熱劣化を抑えることが容易となる。
【0078】
本発明における溶媒除去工程では、さらに樹脂フィルムに延伸を行うことが出来る。かかる延伸操作における延伸倍率は、MD(長尺)方向に1.5~4.0倍、TD(短尺)方向に1.4~3.0倍であることが好ましく、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率の比率(MD/TD)は、1.0を超えることが好ましい。延伸条件を上記範囲内にすることで、樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の両方の35~200℃の範囲で測定した平均の線膨張係数および、MD方向およびTD方向の両方の引張弾性率を好ましい範囲に収めることが容易となる。
【0079】
溶媒除去工程後の樹脂フィルムの溶媒含有量は、0.01~5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02~4.0質量%、さらに好ましくは0.03~3.0質量%の範囲である。溶媒含有量を上記の下限値以上とすることにより、過剰な高温処理による樹脂フィルムの熱劣化が抑えられ、上限以下とすることにより、線膨張係数および引張弾性率を好ましい範囲に収めることが容易となる。
【実施例0080】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
なお実施例、比較例における各測定値は、特に断りのない限り以下の方法で測定した。
【0082】
<樹脂フィルムのtanδの温度依存曲線ピーク温度>
樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)それぞれサンプル3点において、下記条件にて貯蔵弾性率(E‘)、損失弾性率(E“)、および損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδ(=E”/E’)の温度依存曲線を得てピーク温度を求め、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の平均値を算出した。
機器名 : TAインスツルメンツ社製 DMA Q800
試料長さ : 15-20mm
試料幅 : 4mm
昇温開始温度 : 25℃
昇温終了温度 : 500℃
昇温速度 : 5℃/min
測定周波数 : 10Hz
【0083】
<樹脂フィルムの線膨張係数変曲点温度>
樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)それぞれサンプル3点において、下記条件にて伸縮率を測定し2回目の昇温時の伸縮率変曲点となる温度を読み取り、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の平均値を算出した。
機器名 : ブルカー AXS社製 TMA-4000SA
試料長さ : 15mm
試料幅 : 2mm
チャック間距離 : 10mm
荷重 : 5gf
1回目昇温開始温度 : 25℃
1回目昇温終了温度 : 200℃
1回目昇温速度 : 20℃/min
降温速度 : 5℃/min
2回目昇温開始温度 : 30℃
2回目昇温終了温度 : 500℃
2回目昇温速度 : 10℃/min
雰囲気 : アルゴン
【0084】
<樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布>
樹脂サンプルを8mg秤量し8mlの溶媒に浸漬し、3時間攪拌し樹脂溶液を得た。下記条件にて樹脂溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布を算出した。
機器名 : 東ソー社製 HLC-8420GPC
カラム : TSKgel SuperAWH-H×2
溶媒 : DMAc(30mMの臭化リチウム添加)
流速 : 0.3ml/min
濃度 : 0.1%
注入量 : 10μl
温度 : 40℃
検出器 : RI
【0085】
<樹脂フィルムの厚さ>
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0086】
<樹脂フィルムの線膨張係数(CTE)>
樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)それぞれサンプル3点において、下記条件にて伸縮率を測定し、35℃~50℃、50℃~65℃のように15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を200℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出した。
機器名 : MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ : 20mm
試料幅 : 2mm
昇温開始温度 : 25℃
昇温終了温度 : 400℃
昇温速度 : 5℃/min
雰囲気 : アルゴン
【0087】
<樹脂フィルムの引張弾性率>
樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。試験片は、幅方向中央部分から切り出した。下記条件にて、MD方向、TD方向それぞれサンプル3点について、引張弾性率を測定し、全測定値の平均値を求めた。
機器名 : 島津製作所製オートグラフ(R)AG-5000A
チャック間距離 : 40mm
温度 : 25℃
引張速度 : 50mm/min
【0088】
<樹脂フィルムの黄色度指数(イエローインデックス、YI)>
カラーメーター(ZE6000、日本電色社製)およびC2光源を使用して、ASTM D1925に準じて樹脂フィルムの三刺激値XYZ値を測定し、下記式により黄色度指数(YI)を算出した。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
YI=100×(1.28X-1.06Z)/Y
【0089】
<樹脂フィルムの400nm光線透過率>
分光光度計(日立製作所製「U-2001」)を用いて波長400nmにおける樹脂フィルムの光線透過率を測定し、得られた値をランベルト・ベールの法則に従うものとして20μmの厚みに換算し、得られた値を樹脂フィルムの400nm光線透過率とした。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
【0090】
<樹脂フィルムの全光線透過率(TT)>
HAZEMETER(NDH5000、日本電色社製)を用いて樹脂フィルムの全光線透過率(TT)を測定した。光源としてはD65ランプを使用した。尚、同様の測定を3回行い、その算術平均値を採用した。
【0091】
〔合成例1(ポリアミド酸溶液Aの調製)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内に窒素雰囲気下、1470.8質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、775.6質量部の4,4’-オキシジフタル酸(ODPA)、3202.4質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、21795質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を仕込んで溶解させた後、室温で24時間攪拌し、固形分17.2質量部となる還元粘度4.5dl/gのポリアミド酸溶液Aを得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布の測定結果を表1に示す。
【0092】
〔合成例2(ポリイミド溶液Bの調製)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内に窒素雰囲気下、551質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)と64.1質量部の2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)とを入れて攪拌し、TFMBをDMAc中に溶解させた。次いで、反応容器内を攪拌しながら、窒素気流下で、44.4質量部の4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、及び、29.4質量部のビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
次に、得られたポリアミド酸溶液に410質量部のDMAcを加えて希釈した後、イミド化促進剤として25.83質量部のイソキノリンを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、122.5質量部の無水酢酸を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後、更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
次に、得られたイミド化剤、及び、イミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000質量部を、攪拌装置と攪拌翼を備えた反応容器に移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこに1500質量部のメタノールを10g/分の速度で滴下させた。約800質量部のメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500質量部全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。続いて、反応容器の内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000質量部のメタノールを用いて洗浄・濾別した。その後、濾別したポリイミド粉体50質量部を局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は2.1dl/gであった。次に、得られたポリイミド粉体42質量部を168質量部のDMAcに溶解させて、固形分20質量部となるポリイミド溶液Bを得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布の測定結果を表1に示す。
【0093】
〔合成例3(ポリイミド溶液Cの調整)〕
窒素導入管、ディーン・スターク装置、還流管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器に、窒素ガスを導入しながら、124.15質量部の4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、124.15質量部の3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)、750質量部のガンマブチロラクトン(GBL)を加えた。続いて248.18質量部の4,4’-オキシジフタル酸無二水物(ODPA)、58.8質量部のビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、335質量部のGBL、390質量部のトルエンを室温で加えた後、内温160℃まで昇温し、160℃で1時間加熱還流を行い、イミド化を行った。イミド化完了後、180℃まで昇温し、トルエンを抜き出しながら反応を続けた。12時間反応後、オイルバスを外して室温に戻し固形分が20質量部となるようにGBLを1149質量部加え、還元粘度0.6dl/gのポリイミド溶液Cを得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布の測定結果を表1に示す。
【0094】
〔合成例4(ポリイミド溶液Dの調整)〕
窒素導入管、ディーン・スターク装置、還流管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器に窒素ガスを導入しながら、384.38質量部のノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(CpODA)、348.45質量部の9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、36.00質量部のトリエチルアミン、1465質量部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1465質量部のガンマブチロラクトン(GBL)、360質量部のトルエンを室温で加えた後、内温180℃まで昇温し、トルエンを留去しながら180℃で3時間加熱イミド化を行って、ポリイミド溶液を得た。
次に、得られたポリイミド溶液2500質量部を攪拌装置と攪拌翼を備えた反応容器に移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこに50000質量部のアセトンを10g/分の速度で滴下させた。約2500質量部を投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き、残りの2500質量部のアセトンを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。続いて、反応容器の内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に2000質量部のメタノールを用いて洗浄・濾別した。その後、濾別したポリイミド粉体300質量部を局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.7dl/gであった。次に、得られたポリイミド粉体42質量部を168質量部のNMPに溶解させて、固形分20質量部となる還元粘度0.7dl/gのポリイミド溶液Dを得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布の測定結果を表1に示す。
【0095】
〔合成例5(ポリアミド酸溶液Eの調製)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内に窒素雰囲気下、196.1質量部の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、227.3質量部の4-アミノ-N-(4-アミノフェニル)ベンズアミド(DABAN)、及び、1694質量部のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を仕込んで溶解させた後、室温で24時間攪拌し、固形分20質量部となる還元粘度4.5dl/gのポリアミド酸溶液Eを得た。得られた樹脂溶液中の樹脂の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布の測定結果を表1に示す。
【0096】
〔ポリイミドフィルムの作製例1(実施例1~5)〕
ポリアミド酸溶液Aを、ダイコーターを用いて、フィルム作製支持体である鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90~115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルム(残留溶媒を9質量%含む)を支持体から剥離して両端をカットし、グリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムをピンテンターによって、最終ピンシート間隔が1140m
mとなるようにフィルム両端部を把持させ、マイクロ波加熱ゾーンと熱風循環装置を備えた連続加熱炉に挿入し、1段目170℃で1分間加熱、次いで昇温速度60℃/minで230℃まで昇温し、2段目230℃で1分間、次いで昇温速度60℃/minで350℃まで昇温し、3段目350℃で5分間として熱処理を施した。この時に2,450MHzのマイクロ波50kWをマイクロ波加熱ゾーンに導いた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、表2に示す樹脂フィルム1Aを得た。以下同様にポリアミド酸溶液Aを他の樹脂溶液B、C、D、Eに変え、また支持体への塗布厚さを変えて、樹脂フィルム1B、1C、1D、1Eを得た。得られた樹脂フィルムの特性評価結果を表2に示す。
【0097】
〔ポリイミドフィルムの作製例2(実施例6~10)〕
ポリアミド酸溶液Aを、フィルム作製支持体であるところの、領域表面粗さ(Sa)が1nm、最大突起高さ(Sp)が7nm、山頂点密度(Spd)が20/平方μm以下であり、表面にコート層を有しないポリエステルフイルムにコンマコーターを用いて、塗布し(塗工幅1240mm)、90~115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルム(残留溶媒を10質量%含む)を支持体から剥離して両端をカットし、グリーンフィルムを得た。得られたグリーンフィルムをピンテンターによって、最終ピンシート間隔が1140mmとなるようにフィルム両端部を把持させ、マイクロ波加熱ゾーンと熱風循環装置を備えた連続加熱炉に挿入し、170℃から350℃まで昇温速度15℃/minで加熱昇温した。この時に2,450MHzのマイクロ波40kWをマイクロ波加熱ゾーンに導いた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、表2に示す樹脂フィルム2Aを得た。以下同様にポリアミド酸溶液Aを他の樹脂溶液B、C、D、Eに変え、また支持体への塗布厚さを変えて、樹脂フィルム2B、2C、2D、2Eを得た。得られた樹脂フィルムの特性評価結果を表2に示す。
【0098】
〔ポリイミドフィルムの作製例3(比較例1~5)〕
ポリアミド酸溶液Aを、ダイコーターを用いて、フィルム作製支持体である鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90~115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルム(残留溶媒を9質量%含む)を支持体から剥離して両端をカットし、グリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムをピンテンターによって、最終ピンシート間隔が1140mmとなるようにフィルム両端部を把持させ、熱風循環装置を備えた連続加熱炉に挿入し、170℃から350℃まで昇温速度15℃/minで加熱昇温した。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、表3に示す樹脂フィルム3Aを得た。以下同様にポリアミド酸溶液Aを他の樹脂溶液B、C、D、Eに変え、また支持体への塗布厚さを変えて、樹脂フィルム3B、3C、3D、3Eを得た。得られた樹脂フィルムの特性評価結果を表3に示す。
【0099】
〔ポリイミドフィルムの作製例4(比較例6~10)〕
ポリアミド酸溶液Aを、フィルム作製支持体であるところの、領域表面粗さ(Sa)が1nm、最大突起高さ(Sp)が7nm、山頂点密度(Spd)が20/平方μm以下であり、表面にコート層を有しないポリエステルフイルムにコンマコーターを用いて、塗布し(塗工幅1240mm)、90~115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルム(残留溶媒を10質量%含む)を支持体から剥離して両端をカットし、グリーンフィルムを得た。得られたグリーンフィルムをピンテンターによって、最終ピンシート間隔が1140mmとなるようにフィルム両端部を把持させ、マイクロ波加熱ゾーンと熱風循環装置を備えた連続加熱炉に挿入し、170℃から350℃まで昇温速度70℃/minで加熱昇温し、350℃で4分間熱処理を施した。この時に2,450MHzのマイクロ波50kWをマイクロ波加熱ゾーンに導いた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、表3に示す樹脂フィルム4Aを得た。以下同様にポリアミド酸溶液Aを他の樹脂溶液B、C、D、Eに変え、また支持体への塗布厚さを変えて、樹脂フィルム4B、4C、4D、4Eを得た。得られた樹脂フィルムの特性評価結果を表3に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上述べてきたように、本発明の樹脂フィルムは耐熱性と透明性に優れ、高温領域まで低い線膨張係数を保ち、高い引張弾性率を有し、樹脂フィルムのMD方向およびTD方向の線膨張係数および引張弾性率の比が小さく物性等方性が良好なため、タッチパネルやディスプレイ等の画像表示装置の前面板、電極周辺に極めて有用である。