(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139156
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】生物学的試料のデジタルポリメラーゼ連鎖反応のためのマイクロ流体システム、及びそれぞれの方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230926BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230926BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230926BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230926BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
G01N37/00 101
G01N35/10 A
G01N35/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023118947
(22)【出願日】2023-07-21
(62)【分割の表示】P 2019149268の分割
【原出願日】2019-08-16
(31)【優先権主張番号】18189498.1
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【弁理士】
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】クリス・シュタイナート
(72)【発明者】
【氏名】ミハエル・ツェダー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】dPCR化学分析の技術分野において、マイクロ流体システムの熱サイクル効率を維持又は改善しながら、流路内の気泡を回避及び/又は除去するための改善された解決策を示す、マイクロ流体システム及び生物学的試料のそれぞれのdPCR法を提供する。
【解決手段】入口(23)、出口(24)、流路(25)、及び反応領域(26)のアレイを有する少なくとも1つのマイクロ流体デバイス(2)と、流れ回路(3)と、試料液体源と、アレイ内の試料液体(27)を封止するための初期シーリング液(28)を提供するための一次シーリング液体源と、追加のシーリング液(29)をマイクロ流体デバイス(2)に提供するための二次シーリング液体源(4)と、流れ回路(3)に接続され、流路(25)を通して追加のシーリング液(29)を送り出すように構成されたポンプ手段(31)とを有するマイクロ流体システム(1)とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料のデジタルポリメラーゼ連鎖反応dPCRのためのマイクロ流体システム(1;1´)であって、
入口(23)、出口(24)、前記入口(23)を前記出口(24)に接続する流路(25)、及び前記流路(25)と流体連通する反応領域(26)のアレイを有する少なくとも1つのマイクロ流体デバイス(2)と、
前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)を通して液体を流すための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な流れ回路(3)と、
前記マイクロ流体デバイス(2)に試料液体(27)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な試料液体源と、
前記反応領域(26)のアレイ内部の前記試料液体(27)を封止するために前記マイクロ流体デバイス(2)に初期シーリング液(28)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な一次シーリング液体源と、
前記マイクロ流体デバイス(2)に追加のシーリング液(29)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な二次シーリング液体源(4)と、
前記流れ回路(3)に接続され、前記流路(25)を通して前記追加のシーリング液(29)を送り出すように構成されるポンプ手段(31)と、を有する、マイクロ流体システム。
【請求項2】
請求項1に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
任意のシーリング液(28,29)が不混和性液体であり、好ましくは、任意のシーリング液(28,29)が、油、及びシリコーン液等のポリマー液のうちの1つ、又はそれらの混合物であり、さらに好ましくは、前記初期シーリング液(28)及び前記追加のシーリング液(29)は、同一のシーリング液材料からなる、マイクロ流体システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたマイクロ流体システムにおいて、
前記一次シーリング液体源及び前記二次シーリング液体源(4)が、異なるシーリング液リザーバ又は共通のシーリング液リザーバによって実装され、好ましくは、前記初期シーリング液(28)は、調温されていないシーリング液である、マイクロ流体システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記ポンプ手段(31)は、前記流路(25)から気泡を洗い流すために、前記追加のシーリング液(29)を必要に応じて前記流路(25)を通して送り出すように制御ユニットにより制御され、好ましくは、前記ポンプ手段(31)は、所定量の前記追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して送り出すように制御され、さらに好ましくは、前記ポンプ手段(31)は、前記追加のシーリング液(29)を、絶え間なく、断続的に、又は前記流路(25)内の気泡の検出時に、前記流路(25)を通して送り出すように制御される、マイクロ流体システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記マイクロ流体システム(1;1´)は、気体をシーリング液(28,29)から分離するために、前記流れ回路(3)に接続された気泡トラップ(32)をさらに備え、前記気泡トラップ(32)は、前記マイクロ流体デバイス(2)の前記出口(24)の下流に配置される、マイクロ流体システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記マイクロ流体システム(1;1´)は、前記反応領域(26)のアレイの各部材に前記試料液体(27)の形態で提供される前記生物学的試料を分析するために使用され、且つ/又は
前記入口(23)及び/又は前記出口(24)は、前記マイクロ流体デバイス(2)と前記試料液体源との接続のため、前記マイクロ流体デバイス(2)と前記一次シーリング液体源との接続のため、及び/又は前記マイクロ流体デバイス(2)と前記二次シーリン
グ液体源(4)との接続のため、接続ポートの形で実装され、且つ/又は
前記マイクロ流体デバイス(2)は、少なくとも下層(21)と上層(22)で構成され、前記下層(21)又は上層(22)のいずれかは前記反応領域(26)のアレイ、前記入口(23)、及び前記出口(24)を提供し、前記流路(25)は、前記下層(21)と前記上層(22)の間に確立され、前記反応領域(26)のアレイと流体接続しており、好ましくは、各反応領域はマイクロウェル又はナノウェルであり、さらに好ましくは、前記マイクロ流体デバイス(2)はマイクロ流体チップであり、且つ/又は
前記試料液体(27)は、前記生物学的試料とdPCR分析に必要な試薬を含む水溶液であり、好ましくは最初に前記試料液体(27)が前記流路(25)を通して前記反応領域(26)のアレイに流され、前記初期シーリング液(28)は、前記反応領域(26)のアレイへの前記試料液体(27)の供給後、前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)に流し込まれる、マイクロ流体システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記マイクロ流体システム(1;1´)は、前記マイクロ流体デバイス(2)内の気泡の存在又は発生を検出するための検出手段をさらに備え、好ましくは、検出手段は光学撮像装置であり、さらに好ましくは光学カメラである、マイクロ流体システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記マイクロ流体システム(1;1´)は、前記反応領域(26)のアレイにサーモサイクリング温度プロファイルを提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)を受ける熱マウントをさらに有する、マイクロ流体システム。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)において、
前記反応領域(26)のアレイへのサーモサイクリング温度プロファイルの提供は、シーリング液の温度を所望のサーモサイクリング温度プロファイル温度まで加熱及び/又は冷却するための加熱及び/又は冷却手段によって実施され、
前記二次シーリング液体源(4)は、加熱されていない追加のシーリング液(29)を備えたリザーバ(42)を備え、前記追加のシーリング液(29)を必要に応じて加熱するために、フロー型加熱手段(5)が前記リザーバ(42)の下流に設けられ、及び/又
は
前記二次シーリング液体源(4)は、加熱された追加のシーリング液(29)を備えた少なくとも1つのリザーバ(41)と、非加熱又は冷却された追加のシーリング液(29)を備えた少なくとも1つのリザーバ(42)とを含み、前記リザーバ(41,42)は、それぞれの電子制御送達バルブ(411、421)又は共通の混合バルブなどのバルブ機構(411,421)によって流れ回路(3)に分離可能に接続され、及び/又は
前記追加のシーリング液(29)は、前記追加のシーリング液(29)に必要に応じて電圧を印加することによって前記追加のシーリング液を加熱するために、グラフェン材料などの導電性材料を含む、マイクロ流体システム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)におい
て、
前記マイクロ流体システム(1;1´)は、少なくとも前記マイクロ流体デバイス(2)を取り囲む圧力チャンバをさらに備える、マイクロ流体システム。
【請求項11】
請求項1から10ののいずれか一項に記載されたマイクロ流体システム(1;1´)における生物学的試料のデジタルポリメラーゼ連鎖反応dPCRの方法であって、
特にマイクロ流体チップの形態で提供される前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)を通して試料液体(27)を流し、前記試料液体(27)を前記流路(25)を通して押し込むことにより、前記反応領域(26)のアレイを前記試料液体(27)で連続的に充填するステップと、
前記反応領域(26)のアレイが試料液体(27)で満たされた後、前記反応領域(26)のアレイの各反応領域を封止するため、及び前記マイクロ流体デバイス(2)から残っている試料液体(27)を押し出すために、前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)を通して初期シーリング液(28)を流すステップと、
サーモサイクリング温度プロファイルを前記反応領域(26)のアレイに適用するステップと、
前記流路(25)から気泡を洗い流すために、前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)を通して追加のシーリング液(29)を送り出すステップと、を有する方法。
【請求項12】
請求項11の方法において、
追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して送り出す前記ステップは、必要に応じて、所定量の追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して送り出すことを含み、好ましくは、追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して送り出す前記ステップは、追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して絶えず送り出すステップ、又は追加のシーリング液(29)を前記流路(25)を通して断続的に送り出すステップ、及び/又は前記流路(25)内の気泡を検出したときに、前記流路(25)を通して追加のシーリング液(29)を送り出すステップである、方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載された方法において、さらに、
好ましくは光学撮像装置、例えば光学カメラなどの検出手段によって、前記マイクロ流体デバイス(2)内の気泡の存在又は生成を監視及び検出するステップ、及び/又は
好ましくは、前記マイクロ流体デバイス(2)の前記出口(24)の下流の前記流れ回路(3)に接続された気泡トラップ(32)によって、追加のシーリング液(29)から気泡を分離するステップ、及び/又は
好ましくは、少なくとも前記マイクロ流体デバイス(2)を囲む圧力チャンバによって、前記マイクロ流体デバイス(2)に圧力を加えるステップ、及び/又は
前記反応領域(26)のアレイに提供される前記生物学的試料を分析するステップ、を含む、方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか一項に記載された方法において、
サーモサイクリング温度プロファイルを前記反応領域(26)のアレイに適用するステップは、
前記反応領域(26)のアレイにサーモサイクリング温度プロファイルを提供するために、前記マイクロ流体デバイス(2)を受け取る熱マウントの温度プロファイルを制御するステップ、又は
シーリング液温度を所望のサーモサイクリング温度プロファイル温度に加熱及び/又は冷却するための加熱及び/又は冷却手段を制御するステップ、を含む、方法。
【請求項15】
請求項14に記載された方法において、
加熱及び/又は冷却手段(5)を制御するステップは、
必要に応じて前記追加のシーリング液(29)を加熱するために、前記二次シーリング液体源(4)の下流に設けられたフロー型加熱手段(5)を制御するステップ、及び/又は
加熱された追加のシーリング液(29)を含む少なくとも1つのリザーバ(41)と非加熱又は冷却された追加のシーリング液(29)を含む少なくとも1つのリザーバ(42)とからの追加のシーリング液(29)を混合するためのバルブ機構(411,421)を制御するステップ、及び/又は
必要に応じて前記追加のシーリング液(29)に電圧を印加するステップであって、前記追加のシーリング液(29)は、電圧の印加によって前記追加のシーリング液(29)を加熱するために、グラフェン材料などの導電性材料を含むステップ、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概して、本発明は、化学反応又は生化学反応の化学分析などの試料分析の技術分野に関し、より具体的には、生物学的試料のハイスループット分析の技術分野に関する。より詳細には、本発明は、生物学的試料のデジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)のためのマイクロ流体システムに関する。さらに詳細には、そのようなシステムは、それぞれ、そこに提供される少なくとも1つの生物学的試料の化学的又は生物学的反応のための反応サイトとして機能する、例えばウェル又はマイクロウェルの形で、反応チャンバ又は反応容器として実装されるパーティションとも呼ばれる反応領域のアレイと流体連通する流路を備えたマイクロ流体デバイスを有し、そのシステムは可能な限り高速で信頼性の高いマイクロ流体デバイスで所望のサーモサイクリング温度プロファイルを達成できる。さらに、本発明は、そのようなマイクロ流体システムにおける生物学的試料のdPCRのためのそれぞれの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応又は生化学反応の化学分析のための診断技術の分野では、同じ-好ましくは使い捨ての-マイクロ流体デバイス上の1つ又は複数のテスト試料で複数の異なる化学分析を実行し、それにより、単一の分析プロセスの間に複数の異なる試薬で1つ又は複数のテスト試料を独立して分析する方法を提供できることが目標である。そのようなテスト試料として、生物学的試料が通常使用され、生物学的試料は、例えば取得された試料内の異なる成分の濃度レベルを決定するために、実験室分析の医療関係者によって患者から取得される。したがって、「試料」及び「生物学的試料」という用語は、目的成分を潜在的に含み得る材料をいい、試料は、血液、唾液、眼液、脳脊髄液、汗、尿、便、精液、乳、腹水、粘液、滑液、腹膜液、羊水、組織、培養細胞等を含む生理学的液体のような、任意の生体源に由来し得、試料は、所定の抗原又は核酸を含むと特に考えられ得る。
【0003】
既知の化学的、生化学的及び/又は生物学的化学分析のほとんどは、反応サイト内で上
記のような生物学的試料を静止させ、静止した試料材料で1つ又は複数の反応を行い、その後に定量的及び/又は定性的分析プロセスを行うことを含む。ここで、多くの生物学的、生化学的、診断的又は治療的な応用のために、生物学的試料内の特定の物質又は化合物、即ち目的成分の量又は濃度を正確に決定できることが不可欠である。この目的を可能な限り正確に達成するために、この技術分野では長年にわたり、広く知られているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法など、さまざまな方法が開発されており、PCR法は、生物学的試料内の核酸のインビトロ合成を可能にし、DNAセグメントが特異的に複製され得る、即ち試料内のDNA又はRNAの小さなセグメントをコピー又は増幅する費用対効果の高い方法である。DNAセグメント又はRNAセグメントを増幅するためのそのような方法の開発は、遺伝子分析ならびに多くの遺伝病の診断、又はウイルス量の検出において大きな利益を生み出している。
【0004】
通常、サーモサイクリングとも呼ばれる熱サイクリングは、そのようなDNAセグメント又はRNAセグメントを増幅するための反応チャンバ内の試料中の反応物の加熱と冷却を提供するために利用され、サーモサイクラを含む実験器具が、PCRに基づく診断化学分析の自動手順を達成するために通常使用され、PCRの実行中、液体PCR試料は、さまざまな温度レベルに繰り返し加熱及び冷却され、様々な温度プラトーで一定時間維持されなければならない。一例として、典型的なPCRの実行の過程で、特定の標的核酸は、反応混合物中に存在する核酸が、(a)二本鎖DNAの分離のために、比較的高温、例えば90℃を超える、通常約94℃から95℃の変性温度で変性し、(b)反応混合物が、
短いオリゴヌクレオチドプライマが一本鎖標的核酸に結合する温度、例えば、テンプレート(アニーリング)を提供するための分離されたDNA鎖でのプライマ結合のために、約52℃から56℃のアニーリング温度まで冷却され、そして、その後、(c)プライマは、元の核酸配列が複製されるように、たとえば新しいDNA鎖を生成するために約72℃の伸長温度で、ポリメラーゼ酵素を使用して伸長/進展する、一連のステップの周期の繰り返しによって増幅される。変性、アニーリング、伸長の繰り返しサイクル、通常は約25~30の繰り返しサイクルにより、試料に存在する標的核酸の量が指数関数的に増加する。現在、サーモサイクリング中にそのような温度プラトーを正確に維持できるようするため、試料を含む反応領域間の均一な試料収率を得るためにすべての反応領域が均一に加熱及び冷却され得るように、反応ゾーンにわたって均一な温度分布が維持されるべきである。正規のPCR法を実行するには、DNAセグメントを増幅するためのサーマルサイクラ/サーモサイクラ等の、一般的に知られているサーモサイクリングデバイスが使用され得、これは、しばしば試料調温マウントとも呼ばれる、試料を受けるためのマウントと、マウントに取り付けられるヒートポンプから基本的に構成され、ヒートパイプは、マウントの動的な加熱及び冷却のため、したがって、試料に提供される温度を動的に制御するために使用されるペルチェ素子と、熱を例えば周囲環境に放散するためにペルチェ素子に熱的に結合されるそれぞれのヒートシンクとの組み合わせの形態でしばしば提供される。
【0005】
一般に、診断化学分析をより速く、より安く、より簡単に実行し続ける一方で、従来の実験室プロセスの効率を高めるとともに高精度を達成するという基本的なニーズが存在する。本発明の焦点であるDNAセグメント又はRNAセグメントを増幅するための言及された方法の一つの特定の例は、デジタルPCR又はdPCRとも呼ばれるデジタルポリメラーゼ連鎖反応法であり、上記のように従来のPCR法のバイオテクノロジーの改良を示し、DNA、cDNA、又はRNAを含む核酸を直接定量し、クローン増幅するために使用され得る。ここで、従来のPCRは1つの試料ごとに1つの反応を行うのに対して、dPCRは、多数の反応領域にそれぞれ提供された多数のパーティションに分かれた試料内で1つの反応を行い、より確実な核酸の収集及び高感度な測定が可能になるように、各反応領域で個別に反応が行われるので、dPCRと従来のPCRの実質的な違いは、核酸量の測定方法にある。したがって、単一のキャリアデバイス上での並行化学分析の数を増やすために、さまざまな化学分析操作の小型化及び統合を達成するために、かなりの努力が行われてきた。そのような単一キャリアデバイスの例として、マイクロ流体チップなどのマイクロ流体デバイスが開発されており、水性試料液体などの流動可能な試料液体の形でマイクロリットル又はナノリットルスケールの試料を受け取るマイクロスケールチャネル及びマイクロスケール反応領域を提供する。マイクロ流体チップ上の反応領域として提供されるマイクロウェル又はナノウェルなどの小さなウェルのアレイに事前に典型的に充填されるマイクロリットルスケールの試薬は、流路を流れる試料液体の流れに接触するためにそこに配置され、化学分析の各タイプは、流路と検知器の構成と同様に反応領域のアレイにロードされた試薬に依存し、マイクロ流体チップへの試料液体の充填は、試料液体をチップにピペッティングすることで実行され得る。この高度な技術により、複数の化学分析を小型化したスケールで同時に実行することができる。これらの化学的、生化学的及び/又は生物学的化学分析のほとんどは、ポリペプチド及び核酸、ウェル内の細胞又は組織等の生物学的材料の固定、並びに発光テスト測定等の定量的及び/又は定性的な分析プロセスに続いて固定化された材料との1つ又は複数の反応の実行を対象とする。説明のため、
図3Aは、既知のマイクロ流体チップ6の一例の上面図を概略的に示し、
図3Bは、
図3Aの線A-Aに沿った断面図における
図3Aのチップ6を示す。マイクロ流体チップ6は、下部プレート61と、上部プレート62、即ち、いわゆる2層マイクロ流体チップからなり、上部プレート62は、チップへの液体の導入のための入口63と、チップからの液体の流出のための出口64とを提供し、下部プレート61、即ちチップの下層、及び上部プレート62、即ちチップの上層の組み合わせは、それらの間に流路65を確立し、流路65は入口63を出口64に接続し、マイクロウェル66のアレイは、その上側、すなわち上部プレート62の内側で流路65に設けられている。ここで、試料液体を入口63を通じて流路65内に、出口63に向けて充填する場合、試料液体をマイクロウェルのアレイに沿って流すと、試料液体はマイクロウェル66のアレイの各部に満たされる。
【0006】
しかし、所望の小さな寸法を生成するために実際に反応チャンバの体積を小型化して、マイクロ流体デバイスのマイクロ流体構造になると、表面積対体積比の増加、又は望ましくない試料液体の気化、及び特に、マイクロ流体デバイス内に提供されるか、又はマイクロ流体デバイスを通って流れる液体内の気泡の望ましくない生成に関連する問題など、いくつかの既知の問題が増加する。本発明の焦点において、マイクロ流体システムを循環する気泡が、一側面として、そこで使用されるあらゆる種類のセンサのマイクロ流体構造を損傷し得るだけでなく、隣接するマイクロウェル内の試料の望ましくない混合を引き起こし、相互汚染を引き起こし、したがって、実質的な実験誤差と誤った化学分析結果を引き起こすため、対象の生物学的試料を主に損傷し得るので、マイクロ流体構造内の液体に存在する気泡は、深刻な問題を構成する可能性がある。例えば、気泡は、反応領域内の反応成分を乾燥させることにより、クロマトグラフィーカラムに実験誤差を引き起こし得る。また、気泡は、反応領域の光学的な検知及びそこで発生する反応に深刻な影響を与える可能性があり、化学分析の失敗につながる可能性がある。特に、マイクロ流体デバイスで試料のdPCRを実行するとき、いくつかの理由:(a)試料液体と分離液でマイクロ流体デバイスを充填するとき、気泡がマイクロ流体デバイスに閉じ込められ得る、(b)サーモサイクリング中、最初に閉じ込められた気泡((a)参照)が、試料液体の蒸発により成長し得る、又は(c)試料の蒸発により、新たな気泡が発生し得る、により、空気泡などの気泡は頻繁に発生する傾向がある。
【0007】
前述の気泡の生成と成長に関する例示的な理由のため、
図4A-
図4Dは、マイクロ流体チップ7の断面を概略的に示しており、チップ7はそれぞれのサーモサイクリング器具に挿入されており、且つ概略的にのみ示されている。マイクロ流体チップ7は、
図3A及び
図3Bのマイクロ流体チップ6と同様の構造を有する、すなわち、下部プレート71及び上部プレート72を備え、入口73、出口74、及び入口73を出口74に接続する流路75を提供し、マイクロウェルの形態の反応領域76のアレイは、上側、即ち上部プレート72の内側で、流路75に設けられる。ここで、反応領域76のアレイは試料液体77で既に満たされ、シーリング液78が流路75に導入されており、反応領域の内側で試料液体77をシールし、入口73から出口74まで流路75を満たしている。マイクロ流体チップ7のサーモサイクリングを達成することができるように、チップ7は、いわゆるプレートサイクラ8の形態のサーモサイクリング器具、即ち、ホットプレートとも呼ばれる加熱可能なプレートによって実装されるボトムヒータ81及びトップヒータ82を備えた熱サイクラ又はサーモサイクラの内側に配置される。
図4Aでは、マイクロ流体チップ7は、ヒータ81、82が非加熱状態で示されており、気泡91、例えば空気泡などが、試料液体77及び/又は分離液78でマイクロ流体デバイス7を充填している間、反応領域76のアレイの直下の流路75に誤って導入されている。
【0008】
したがって、充填中に、「初期」気泡91が、チップ7の内部、例えばマイクロウェル内の試料液体内、又はチップ7の流路内に設けられたシーリング液内に閉じ込められる可能性がある。50℃超の加熱温度を提供するために少なくともボトムヒータ81がオンになっている
図4Bにみられるように、既に導入された気泡91は、反応領域76のアレイ内の試料液体77の気化により成長している。また、新たな気泡92が、反応領域76のアレイ内の試料液体77の望ましくない気化により生成される。ここで、新たな気泡92は、調温中に任意の反応領域内に出現して成長し、流路75に同じものを残し得る。
図4Cでは、試料液体77の望ましくない気化による気泡91、92の成長の進展が見られ、流路75は、その広がりに沿った気泡成長を示し、成長する気泡91、92がシーリング
液78を徐々に流路75から押し出し、したがって、ここでそれぞれ矢印で示される、入口73及び出口74から出る。それにより、成長する気泡91、92は、マイクロウェルからシーリング液78を除去し、その結果、マイクロウェル内の試料液体77がより容易に蒸発できるようになる。また、成長する気泡91,92は、複数のマイクロウェルにわたって広がることができ、すなわち、気泡91、92は、いくつかのマイクロウェルからシーリング液78を押しのけて、これらのマイクロウェルを完全に「暴露する」ことができ、その結果、一つのマイクロウェルの内容物は、隣接するマイクロウェルに移動することができる。熱サイクラによる加熱がさらに進むと、気泡91、92はさらに成長することができ、1つの大きな気泡93に融合することもでき(
図4D参照)、その結果、融合してまだ成長している気泡93が徐々にシール液78を流路75からさらに押し出し、したがって、それぞれの矢印で示されるように、入口73及び出口74からさらに押し出す。
図4Aから
図4D、特に
図4Dに示されるような発展によって、望ましくない気泡の発生及び成長により、シーリング液78が反応領域76のアレイからほぼ完全に押し出され、それによりシーリング液78によってもたらされる封止効果が無効になることが明らかに推測され得る。したがって、反応領域76のアレイ内に提供された試料液体77の反応成分は、シーリング液78によってさらには保存されず、したがって、乾燥し得る。言い換えれば、
図4Aから
図4Dは、サーモサイクリング中に、「初期」気泡91及び新たに出現する気泡92が、反応領域76内に提供された試料液体77の気化により成長し得ることを示しており、気泡の成長は、流路75及び/又は反応領域76のアレイの形態で提供される測定領域がほとんど空になるまで続く。したがって、気泡91、92、93によるシーリング液78の除去により、隣接する反応領域間の相互汚染が発生する可能性がある。また、このように生成された望ましくない液体空気界面の力の下で細胞膜が伸びるので、気泡91、92、93は、反応領域76内の生物学的試料材料のせん断応力を増大させる可能性がある。さらに、すでに述べたように、気泡は、反応領域の光学的検出及びそこで発生する反応にとって実質的な問題となり得、あらゆる手段で回避する必要のある化学分析の失敗に実質的につながる。したがって、気泡の除去又は回避は、本技術分野における主要な課題である。
【0009】
これまで、マイクロ流体デバイスの流路内の気泡の問題を解決するためのさまざまなアプローチがあった。例えば、EP2830769A1に記載されているように、気泡の問題に対する1つの解決策は、基板のエッジ全体に沿って形成されたスリットの提供等、入口から特定のマイクロ流体構造を提供することにより充填中に気泡がマイクロ流体デバイスに導入されるのを防ぐことであり、流体は、入口マニホルドからスリットを通り、基板のほぼエッジ全体に沿って、均一な圧力で気泡なしに反応チャンバに流れ込む。しかしながら、ここで、そのような解決策の実質的な欠点は、そのようなマイクロ流体構造が、気泡がマイクロ流体デバイスに入るのを防ぐことができない場合、気泡が反応チャンバに行き着き、入り込んだ気泡を除去する手段なしで、増大したサイクル温度での試料の気化により成長し得ることである。また、増大したサイクル温度での試料の気化により、新たな気泡が発生し得、dPCRメソッドの失敗を引き起こすことになる。したがって、提供された既知の解決策は、すでに存在する気泡がマイクロ流体デバイスに入るのを回避するのに多少効果的であるとしても、いまだに入っている気泡又は新たに生成された気泡は、サーモサイクリング中に処理できない。
【0010】
気泡の問題に対する別の解決策は、例えば、US2005/0009101A1から知られており、これは、最終的に標的分析物の検出又は定量化をもたらすために試料に対して多くの操作を行うために使用できるマイクロ流体カセット又はデバイスを説明しており、ハイブリダイゼーション液又は洗浄緩衝液中に形成された泡の検出を可能にするライトパイプが提供され、検出された泡を除去するために、ペリスタルティック相互作用の意味で柔軟層と機能的な関係でローラが提供され、柔軟層のエラストマー材料は、ペリスタルティック作動材料として使用される。したがって、提供される解決策は、任意の種類の気泡をマイクロ流体デバイスから絞り出すことを目的としているが、これにはエラストマーの流体チップ材料が必要である。しかし、このような柔軟なチップ材料の取り扱いと充填が効果的でなく、不正確であり、通常使用される非柔軟性のチップ材料と比較して、そのような素材の表面改質性と光学品質が低いので、このような解決策は、dPCRチップには適さないと考えられる。
【0011】
試料液体の気化によって引き起こされるマイクロ流体デバイス内の気泡の問題に対するさらなる解決策として、例えばUS2005/0148066A1に記載されているよう
に、マイクロ流体デバイスに圧力が加えられ得、アレイ形式で複数の同時の微量化学反応及び生化学反応を実行する装置が開示されている。ここで、装置は、表面にわたる溝を備えるサーマルサイクラで熱サイクルされ、薄いマイクロホールチップがその溝に挿入されて熱サイクルされ、アレイ内の試料の蒸発を防ぎ、気泡の発生又は成長を防ぐために、薄い熱伝導性シリコンパッドがマイクロホールチップの表面に圧力と熱接触を提供するために使用され得る。ここで、そのような解決策では、実質的な欠点は、機器全体の構造がより複雑になることと、チップに圧力を加えることで必要とされる追加の構造が複雑なことである。
【0012】
したがって、dPCR化学分析の技術分野において、マイクロ流体システムの熱サイクル効率を維持又は改善しながら、流路内の気泡を回避及び/又は除去するための改善され
た解決策を示す、マイクロ流体システム及び生物学的試料のそれぞれのdPCR法を提供する一般的なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0013】
本発明の発明者は、気泡が試料のサーモサイクリングを首尾よく完了することに関して深刻な問題を引き起こす可能性があり、したがって、実質的な化学分析の失敗につながる可能性があることを確認できた。また、以前に提案された解決策は、そのような気泡の回避に関して完全に十分又は満足のいくものではないことがわかった。特に、先行技術で既に提案された解決策(上記参照)は、費用がかかりすぎるか、再現可能なテスト結果を生成するには不十分であった。したがって、マイクロ流体デバイスの流路への気泡の導入、及び調節中の新しい気泡の発生及び気泡成長は回避されなければならず、新しく改善された解決策が必要であった。したがって、シーリング液が流路を通じて流されると、シーリング液は流路を通じてマイクロ流体チップの出口ポートから気泡を確実に洗い流すことができるという事実のため、新しい発明の解決策が、既存の又は出現する気泡を、分離流体、すなわちシーリング液でマイクロ流体チップを「フラッシュ」することによって除去するという考えに基本的に基づいて、発明者によって開発された。したがって、本発明は、マイクロ流体システム内のマイクロ流体デバイスの流路内の気泡の単純化され且つより効果的な回避及び/又は除去の上述の問題に対処し、同時にそのサーモサイクリング効率を改善する。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、生物学的試料のdPCRのためのマイクロ流体システムが提供され、例えば、極性試料水溶液などの試料液体の形態で反応領域のアレイの個々の反応領域に提供される生物学的試料を化学分析するために使用され、マイクロ流体システムは、入口、出口、入口を出口に接続する流路、及び流路と流体連通する反応領域のアレイを有する少なくとも1つのマイクロ流体デバイスを有する。ここで、マイクロ流体デバイスは、少なくとも上層及び下層からなる構造を示すことができ、上層又は下層のいずれかが反応領域のアレイ、入口及び出口を提供し得る。流路は、上層と下層の間に確立され、マイクロウェル又はナノウェルの形で実装され得る反応領域のアレイと流体接続し、それにより、マイクロ流体デバイスを、例えばマイクロ流体チップにする。例えば、レーン幅とも呼ばれる流路全体の幅は、6.4mm等、6mmから7mmの範囲にあり得、これにより、互いに隣接して、即ち流路の横方向に約60から100ウェルの幅のスペースを通常提供する。さらに、各ウェルの開口部の断面領域は、円形、楕円形、又は六角形などの多角形を有し得る。ウェル開口部の多角形、特にウェル開口部の六角形の形状により、間がより短い距離でウェル開口部を相互に配置することができる、すなわち、流路内のウェル開口部の分布密度を高めることができる。したがって、プレートのウェルのアレイ内のウェルの数がさらに最大化され得る。さらに、ウェル間の中間スペースを含むウェル開口部の幅は、60μm≦w≦110μm、たとえば62μm(小さなウェル)≦w≦104μm(大きなウェル)であり得る。さらに、マイクロ流体システムは、マイクロ流体デバイスの流路を通じて液体を流すための、マイクロ流体デバイスに接続可能な流れ回路と、例えば流れ回路によって、マイクロ流体デバイスに試料液体を供給するための、マイクロ流体デバイスに接続可能な試料液体源とを有する。マイクロ流体デバイス、すなわちデバイス層の材料として、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)などの材料が使用され得、COPの使用は、例えばコスト検討のために好ましい。さらに、流れ回路は、チューブシステム、例えば1つ又は複数の可撓性チューブからなる可撓性チューブシステムによって実装され得、チューブは、例えば、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムの内層と、潜在的に合成メッシュで強化されたニトリルブタジエン(NBR)ゴムの外層とから構成され得、又は一般にEPDM、NBR、フッ素化エチレンプロピレンポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルスルホン(PES)、フルオロエラストマー(FKM)、シリコンから形成され得、また、さらに断熱材によって被覆され得る。
【0015】
さらに、本発明のマイクロ流体システムは、反応領域のアレイ内の試料液体を封止するための初期又は一次シーリング液をマイクロ流体デバイスに提供する、マイクロ流体デバイスに接続可能な一次シーリング液体源を含み、初期シーリング液は、調温されていないシーリング液、すなわち、例えば周囲温度又はその付近で提供される非加熱シーリング液であり得る。さらに、本発明のマイクロ流体システムは、マイクロ流体デバイスに追加のシーリング液を提供するためのマイクロ流体デバイスに接続可能な二次シーリング液体源と、流れ回路に接続され、流路を通じて追加のシーリング液を送り出すように構成されたポンプ手段とを有する。一例として、本発明のポンプ手段は、ペリスタルティックポンプ、定量ポンプ又はシリンジポンプのうちの1つであるか、あるいは、代替的に、弁などの追加の流体構成要素を備えることができ、本発明のポンプ手段は、他の任意のタイプのポンプ、例えばダイアフラムポンプ、ウォブルピストンポンプ、マイクロギアポンプなどであり得る。さらに、マイクロ流体デバイスと本発明のマイクロ流体システムの接続可能な構成要素との間の接続性の例として、マイクロ流体デバイスの入口及び/又は出口は、それぞれ、例えば、マイクロ流体デバイスを試料液体源と接続するため、マイクロ流体デバイスを一次シーリング液体源と接続するため、又はマイクロ流体デバイスを二次シーリング液体源と接続するための、例えばルアーロックアダプタ等の形態の円形流体封止ポート等の、単一の接続ポートの形態で実装することができる。
【0016】
本発明のマイクロ流体システムのシーリング液体源とポンプ手段の上記の組み合わせ、及び追加のシーリング液を流路を通して送り出す可能性により、流路内に既に存在する気泡、又はマイクロ流体デバイス内部の試料のサーモサイクリング中に出現するあらゆる種類の気泡は、追加のシーリング液で流路をフラッシュすることにより、マイクロ流体デバイスから除去され得る。したがって、本発明によれば、試験結果に対する気泡の悪影響を少なくとも減らすことができ、又は完全に回避することができ、それにより、著しく改善されたマイクロ流体システムがもたらされる。
【0017】
言い換えれば、本発明は、エンドポイントデジタルPCRに主な焦点を置いた、ウェルプレートベースのサーモサイクリング構造を使用するPCRの一般的な技術分野に関する。より具体的には、ウェルプレートは、マイクロウェルプレート又は数千のナノウェルを特徴とするナノウェルプレートの形でマイクロ流体チップ内に提供される。ここで、マイクロ流体チップは、一方の側で巨視的な充填入口ポート及び他方の側でオーバーフロー出口ポートに接続されたウェルの開口部側の閉鎖された充填チャネルの形態の流路を備えた使い捨てであり得る。また、使い捨てマイクロ流体チップは、そのようなマイクロウェル構造を備えた反応領域の複数のアレイ、したがって、開口部側に複数の充填チャネルを含み得る。通常、マイクロ流体チップは、試料液体の形でターゲットミックスと混合される、いわゆるPCRマスターミックスで事前に充填され得る。その後、マイクロウェルの開口部側の流路は、サーモサイクリング中にマイクロウェル内の試料液体が気化するのを防ぎ、試料がウェルからウェルに移動するのを防ぐために、シーリング液、例えばカバーオイルで満たされる。ここで、オイルは、例えば、約500mbarの圧力を加えるペリスタルティックポンプを使用して、流路に充填され得る。最後に、本発明のマイクロ流体システムは、充填チェック、正しい配置チェックなどを実行する異なるセンサを特徴とすることができる。
【0018】
本発明のdPCRマイクロ流体システムの特定の実施形態によれば、初期シーリング液及び追加のシーリング液は、同一のシーリング液材料からなり、本発明のマイクロ流体システムで使用される任意のシーリング液が同一のタイプのシーリング液であり得る。さらに、シーリング液は、試料液体と混和しない必要がある。そのような不混和性液体として、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)液体などのシリコーン液体、又は油性液体とポリマー液体の混合物などの、油性液体又はポリマー液体が使用され得る。さらに、初期シーリング液と追加のシーリング液は、異なるシーリング液体源によって、又は同じシーリング液体源によって提供され得る、つまり、初期シーリング液体源と2次シーリング液体源は、異なるシーリング液リザーバ、又は共通のシーリング液リザーバによって実装され得る。具体的には、初期シーリング液及び追加のシーリング液が同一のシーリング液の材料又は種類からなる場合、一次シーリング液体源及び二次シーリング液体源は、1つの共通シーリング液体リザーバによって実装され得、この場合、「一次」及び「二次」という用語は、単に共通のシーリング液リザーバの機能を指す、つまり、共通のシーリング液リザーバは、マイクロ流体デバイスの反応領域のアレイの内部の試料を主に封止する初期のシーリング液を提供するための主要なシーリング液体源として機能することができ、且つマイクロ流体デバイスの流路から気泡を洗い流すための追加のシーリング液体を提供するための二次シーリング液体源として機能することができる。このような構成は、2つの異なるシーリング液リザーバの提供と比較して、マイクロ流体システムの構造の複雑さを軽減できるという事実により選択され得る。
【0019】
本発明のdPCRマイクロ流体システムのさらなる特定の実施形態によれば、ポンプ手段は、制御ユニットによって制御され、必要に応じて追加のシーリング液を流路を通して送り出し、気泡を流路から洗い流すことができる。ここで、制御ユニットは、オペレータが手動で、又はたとえば流路内の気泡の発生を検出又は監視する追加のシステムコンポーネントからのフィードバック信号に基づいて、自動的に始動され得る。また、制御ユニットは、所定のパターンに基づいて、例えば反応領域内の試料液体に適用されるサーモサイクリング工程に基づいて、追加のシーリング液を流路を通して送り出すようにポンプ手段に指示することができる。ここで、ポンプ手段は、所定量の追加のシーリング液を流路を通して送り出すように制御されることが有利であり得、ポンプ手段は、絶えず、断続的に、又は流路内の気泡を検出したときに、流路を介して追加のシーリング液を送り出すように制御され得る。
【0020】
本発明のdPCRマイクロ流体システムのさらなる特定の実施形態によれば、マイクロ流体システムは、シーリング液から空気を分離するために、流れ回路に接続された気泡トラップをさらに備えることができ、気泡トラップは、マイクロ流体デバイスの出口の下流に配置される。それにより、流された追加のシーリング液によってマイクロ流体デバイスの流路から洗い流された気泡が、流れ回路を流れるシーリング液から除去され得る。した
がって、流されたシーリング液から気泡を分離するために、任意の気泡トラップが、流れ回路によって提供されるシーリング液の流路に配置され得る。それにより、マイクロ流体デバイスを出るシーリング流体を収集し、そこから気泡を抽出する必要なく、本発明のマイクロ流体システムから気泡を直ちに除去することができる。
【0021】
本発明のdPCRマイクロ流体システムの別の特定の実施形態によれば、試料液体は、dPCR化学分析に必要な生物学的試料及び試薬を含む水溶液であり得、ここで、最初に試料液体は、各反応領域を試料液体で満たすために、流路を通して反応領域のアレイに流れ込むことができる。その後、すなわち、反応領域のアレイに試料液体を提供した後、反応領域内の試料液体を密閉するために、初期シーリング液がマイクロ流体デバイスの流路に流れ込む。
【0022】
本発明のdPCRマイクロ流体システムのさらなる特定の実施形態によれば、マイクロ流体システムは、流路が光学的モニタリングを許容する場合に、サーモサイクリング中又はこの前に流路内の気泡の存在又は発生を検出及び/又は監視できる、光学撮像装置、例えば光学カメラ等の、マイクロ流体デバイス内の気泡の存在又は発生を検出するための検出手段をさらに含み得る。ここで、例えば、流路の内側は、例えば観察窓、流路の透明な壁などにより、外側から視認され得る。したがって、検出手段は、流路内の気泡の発生を示すフィードバック信号を提供するために使用され得、制御ユニットは、そのようなフィードバック信号に基づいて始動され得る。したがって、そのような構造を用いると、サーモサイクリングなどの間に操作者がマイクロ流体デバイスを監視する必要なく、マイクロ流体システムは自動的に動作することができる。
【0023】
反応領域内の試料材料にサーモサイクリング温度プロファイルを提供できるようにするために、マイクロ流体システムは、反応領域のアレイにサーモサイクリング温度プロファイルを提供するための、マイクロ流体デバイスを受け入れる熱マウントを含むことができる。例えば、
図4Aから
図4Dのいずれか1つとの関連で説明した熱構造が使用される、即ち、いわゆるプレートサイクラが、本発明のマイクロ流体システムのマイクロ流体デバイスを収容することができる。あるいは、反応領域のアレイへのサーモサイクリング温度プロファイルの提供は、追加のシーリング液の温度を所望のサーモサイクリング温度プロファイル温度に加熱及び/又は冷却するための加熱及び/又は冷却手段によって実施され
得る。したがって、反応領域の内容物の所望のサーモサイクリング温度プロファイルは、マイクロ流体デバイスと熱的に接続された外部熱源による熱の適用によってではなく、マイクロ流体デバイスの流路を通じて流れるそれぞれ加熱又は冷却されたシーリング液、すなわち、流路内のあらゆる種類の気泡を洗い流すことができる一方で、試料材料に熱を加える新しい方法によって実施され得る。したがって、そのような解決策により、気泡除去だけでなく、マイクロ流体デバイス内からの反応領域内の生物学的試料の加熱及び/又は冷却も達成され得る。したがって、生物学的試料へのサーモサイクリング温度プロファイルのより直接的でより速い適用も達成でき、トップヒータ及びボトムヒータなどの通常知られている外部コンポーネントを省くことができるので、サーモサイクリング機器の既知の構造を簡素化できる。ここでは、外部から熱を加えるのではなく、マイクロ流体デバイス内からそのような温度制御を実現するために、必要に応じて相互に組み合わせることができるいくつかのオプションがあり、そのオプションは以下を含み得る。
【0024】
(a)2次シーリング液体源は、加熱されていない追加のシーリング液を備えたリザーバを含み、必要に応じて追加のシーリング液を加熱するため、すなわち、サーモサイクリング温度プロファイルに必要なときにフロー型加熱手段を通じて流れるシーリング液を加熱するために、リザーバの下流にフロー型加熱手段が設けられ、フロー型加熱手段は、シーリング液リザーバ、接続されたフローヒータ等から来る流れ回路の一部の周りに設けられた調温手段の形で実装され得る;
(b)2次シーリング液体源は、加熱された追加のシーリング液を備えた少なくとも1つのリザーバと、非加熱又は冷却された追加のシーリング液を備えた少なくとも1つのリザーバと、を含み、リザーバは、電子制御送達バルブ等のそれぞれのバルブ機構によって流れ回路に分離可能に接続され得るか、又はリザーバは、マイクロ流体デバイスに供給されるシーリング液の所望の温度を達成するために、加熱された追加のシーリング液と非加熱又は冷却された追加のシーリング液を混合するための混合バルブによって流れ回路に接続され得る;
(c)追加のシーリング液は、必要に応じて追加のシーリング液に電力を印加することにより追加のシーリング液を加熱するための、グラフェン材料などの導電性材料を含む。
【0025】
(a)及び(b)のいずれか、又はそれらの組み合わせを使用する場合、ポンプ手段は、所望のdPCRサイクルに従うことができるように構成されなければならない、即ち試料アレイに調温された追加のシーリング液をそれぞれ配置し、再びそれから離し、気泡を除去するために流路を通じて追加の任意の量の追加のシーリング液を送り出さなければならない。選択肢(c)を使用する場合、即ちシーリング液が電気的に加熱される場合、液体は、電流が流れる間に加熱されるように適切な抵抗を提供する導電性液体であるべきである。ここでは、グラフェン溶液がそのような用途に適している。しかしながら、このような場合、シーリング液を電気的に冷却することはできず、代わりに、dPCR中の試料温度を下げる必要がある場合には、リザーバ又はマイクロ流体チップ自体を冷却する必要がある。さらに、電気加熱溶液が適用される場合、例えば温度及び電流をリアルタイムで監視する包括的なセンサ構造により、dPCRサイクルの正確な制御を必要とするリザーバを必要とせずに、循環シーリング液システムが使用され得る。
【0026】
本発明のdPCRマイクロ流体システムのさらなる特定の実施形態によれば、マイクロ流体システムは、少なくともマイクロ流体デバイスを囲む圧力チャンバをさらに有し得る。ここで、そのような追加の圧力チャンバの機能は、本発明のマイクロ流体システム内で発生する気泡の既に達成された回避又は除去を追加し、それにより気泡が化学分析結果を妨害できないことをさらに保証する。サーモサイクリング自体については、サーモサイクリング中の気泡の発生をさらに抑制するために、オイル充填ポートを含む使い捨てマイクロ流体デバイスが、1から2バール、例えば約1.5バールの圧力に設定され得る。ここで、圧力は、好ましくは、マイクロ流体デバイス全体を圧力チャンバ内に配置することにより、マイクロ流体デバイスの内側に加えられる。
【0027】
本発明のさらなる特定の実施形態によれば、本発明の装置は、マイクロ流体デバイスに受け入れられる生物学的試料の温度を制御するための少なくとも1つのセンサをさらに備えることができ、そのようなセンサは、例えば流量センサと組み合わせられる、温度センサであり得る。したがって、本発明のマイクロ流体システムのコンポーネントのいずれかにそれぞれのセンサを提供することにより、dPCR中の生物学的試料の温度が厳密に監視され得、マイクロ流体システムの加熱/冷却機能が、dPCRの異なる温度プラトーを正確かつ効率的に調整するために、試料の測定された温度値に基づいて制御され得る。したがって、そのようなセンサ、例えば温度センサは、制御アルゴリズムなどによるサーモサイクリング温度の正確な制御を可能にし、温度センサ及び他のセンサは、それぞれの加熱/冷却速度を制御するために使用され、加熱/冷却力は、流体のポンプ速度を変更することにより大幅に変えられ得る。
【0028】
本発明の別の態様によれば、上記のようなマイクロ流体システムにおける生物学的試料のdPCRのための方法が提供され、この方法は、特にマイクロ流体チップの形態で提供される、マイクロ流体デバイスの流路を通して試料液体を流し、試料液体を流路を通して押し出すことにより、反応領域のアレイを試料液体で連続的に充填するステップと、反応領域に試料液体を充填した後、各反応領域を密閉し、残りの試料液体をマイクロ流体デバ
イスから押し出すために、初期シーリング液体をマイクロ流体デバイスの流路に流す後続のステップと、反応領域のアレイにサーモサイクリング温度プロファイルを適用するステップと、流路から気泡を洗い流すために、マイクロ流体デバイスの流路に追加のシーリング液を送り出すステップと、を有する。
【0029】
ここで、反応領域のアレイにサーモサイクリング温度プロファイルを適用するステップと、流路から気泡を洗い流すために、マイクロ流体デバイスの流路に追加のシーリング液を送り出すステップは、組み合わされたステップの過程で提供され得る、すなわち、反応領域のアレイへの温度の適用が、加熱された追加のシーリング液を流路を通して送り出すことによって達成される場合に提供され得、追加のシーリング液の送り出しは、流路から気泡を洗い流すのと同時に、反応アレイ内の試料液体を加熱する。さらに、好ましくは、本発明のdPCR方法は、反応領域のアレイに提供された生物学的試料を化学分析し、それにより方法をdPCRに基づく分析方法にするステップも含む。
【0030】
特定のさらなる実施形態によれば、追加のシーリング液を流路を通して送り出すステップは、必要に応じて所定量の追加のシーリング液を流路を通して送り出すことを含むことができ、流路を通して追加のシーリング液を送り出すステップは、例えば、反応領域内の試料液体を調温する必要がある場合にのみ、追加のシーリング液を流路に絶えず送り出すステップ、又は追加のシーリング液を流路に断続的にポンピングするステップのいずれか、及び/又は流路内の気泡を検出したときに流路を通して追加のシーリング液を送り出すステップであり得る。ここでは、必要に応じて追加のシーリング液を流路に送り出す可能性があるので、流路内に既に存在する気泡、又はマイクロ流体デバイス内の試料のサーモサイクリング中に出現するあらゆる種類の気泡が、追加のシーリング液で流路を洗い流すことによりマイクロ流体デバイスから除去され得る。したがって、本発明の方法では、試験結果に対する気泡の悪影響を少なくとも減らすことができ、又は完全に回避することができ、それにより、本発明のマイクロ流体システムにおける生物学的試料のdPCRのための著しく改善された方法がもたらされる。
【0031】
本発明のdPCR方法の特定の実施形態によれば、この方法は、流路が光学的モニタリングを許容する、即ち例えば流路の表示窓、透明な壁等によって外側から流路内を見えるようにする場合、サーモサイクリングの前及び最中に流路内の気泡の存在又は生成を検出及び/又は監視できる、例えば光学カメラなどの形態の、例えば検出手段によって、マイクロ流体デバイス内の気泡の存在又は発生を監視及び検出するステップをさらに含むことができる。したがって、検出手段は、流路内の気泡の発生を示すフィードバック信号を提供するために使用され得、制御ユニットは、そのようなフィードバック信号に基づいて作動され得、フィードバック制御されたdPCR法をもたらす。代替的又は追加的に、本発明の方法は、例えば、マイクロ流体デバイスの出口の下流の流れ回路に接続された気泡トラップによって、追加のシーリング液から気泡を分離するステップをさらに含むことができる。それにより、流れた追加のシーリング液によってマイクロ流体デバイスの流路から流し出された気泡を、流れ回路内を流れるシーリング液から除去することができる。したがって、シーリング液の流路に配置された気泡トラップによって追加のシーリング液から気泡を分離する任意的なステップは、マイクロ流体デバイスを出るシーリング液を収集し、後の段階でそこから気泡を抽出する必要なく、本発明のマイクロ流体システムから気泡を直ちに除去するのに有用であり得る。代替的又は追加的に、本発明の方法は、例えば、少なくともマイクロ流体デバイスを取り囲む圧力チャンバによって、マイクロ流体デバイスに圧力を加えるステップも含むことができる。そのような追加の圧力印加ステップの機能は、本発明のdPCR方法の既に達成された回避又は除去能力に追加することができ、それにより、気泡が試験結果を妨げないことをさらに保証する。これにより、マイクロ流体デバイスは、サーモサイクリング中の気泡の発生をさらに抑制するために、1から2バール、例えば約1.5バールの圧力下で設定され得、フレキシブルな圧力伝達要素として機能する流路の側壁に圧力を加えることによって、又はこのような場合には特定の圧縮率を示す必要があるマイクロ流体デバイス全体に圧力を加えることによって、マイクロ流体デバイスの内側に圧力を加えることができる。
【0032】
本発明のdPCR方法の特定の実施形態によれば、サーモサイクリング温度プロファイルを反応領域のアレイに適用するステップは、サーモサイクリング温度プロファイルを反応領域のアレイに提供するために、マイクロ流体デバイスを受ける熱マウントの温度プロファイルを制御するステップ、又は代替としてシーリング液温度を所望のサーモサイクリング温度プロファイル温度に加熱及び/又は冷却するための加熱及び/又は冷却手段を制御するステップを含み得る。ここで、加熱及び/又は冷却手段を制御するステップは、以下のオプションのいずれかを含むことができる。
(a)必要に応じて追加のシーリング液を加熱するために、二次シーリング液体源の下流に設けられたフロー型加熱手段を制御するステップ。
(b)加熱された追加のシーリング液を備えた少なくとも一つのリザーバと非加熱又は冷却した追加のシーリング液を備えた少なくとも一つのリザーバとからの追加のシーリング液を混合するためのバルブ機構を制御するステップ。
(c)必要に応じて追加のシーリング液に電圧を印加するステップであって、追加のシーリング液は、電力の印加によって追加のシーリング液を加熱するためのグラフェン材料などの導電性材料を含む、ステップ。
(d)前述のオプションのステップ(a)から(c)のいずれかの組み合わせ。
【0033】
上述の本発明のマイクロ流体システム及びそれぞれの発明の方法は、分析、事前分析又は事後分析処理システムなどの自動処理システムの一部とすることができ、自動処理システムは、生物学的試料を自動的に処理するための最先端研究所で一般的に使用され、1つ以上の生物学的試料に対して1つ以上の処理ステップ/ワークフローステップを実行するように動作可能な任意の装置又は装置コンポーネントを含み、分析機器、事前分析機器、及び事後分析機器をカバーする。表現「処理ステップ」は、それにより、dPCR実施の特定のステップを実施するなど、物理的に実行される処理ステップをいう。本明細書で使用される「分析」という用語は、1つ又は複数の生物学的試料に対して分析試験を実行するように動作可能な1つ又は複数の実験装置又は操作ユニットによって実行される任意の処理ステップを包含する。生物医学研究の文脈では、分析処理は、生物学的試料又は分析物のパラメータを特徴付ける技術的手順である。パラメータのそのような特徴付けは、例えば、ヒト又は実験動物などに由来する生物学的試料におけるさまざまなサイズの特定のタンパク質、核酸、代謝物、イオン又は分子の濃度の決定を含む。収集された情報は、例えば生物又は特定の組織に対する薬物投与の影響の評価に使用され得る。さらなる分析は、試料物質に含まれる生物学的試料又は分析物の光学的な、電気化学的な、又は他のパラメータを決定し得る。
【0034】
上記の方法ステップは、上記のマイクロ流体システム及びその構成要素のあらゆる種類の作動又は監視も制御できる、上記のマイクロ流体システムの制御ユニットによって制御でき、ここで使用される用語「制御ユニット」は、CPUなどの物理的又は仮想的な処理デバイスを含み、これは、ワークフロー及びワークフローステップが実行される方法で、実験機器全体又は1つ以上の実験機器を含むワークステーション全体を制御することもできる。制御ユニットは、例えば、異なる種類のアプリケーションソフトウェアを搭載し、自動処理システム又は特定の機器又はそのデバイスに、事前分析、事後分析、及び分析ワークフローステップを実行するよう指示することができる。制御ユニットは、データ管理ユニットから、特定の試料でどのステップを実行する必要があるかに関する情報を受け取ることができる。さらに、制御ユニットは、データ管理ユニットと一体であってもよく、サーバコンピュータに含まれてもよく、及び/又は1つの機器の一部であっても、自動処理システムの複数の機器に分散されてもよい。制御ユニットは、例えば、動作を実行するための命令を備えたコンピュータ読み取り可能なプログラムを実行するプログラマブルロジックコントローラとして具体化されてもよい。ここで、ユーザによるそのような指示を受信するために、ユーザインターフェースをさらに提供することができ、ここで使用される「ユーザインターフェース」という用語は、オペレータとマシンの間の相互作用のためのアプリケーションソフトウェア及び/又はハードウェアの任意の適切な部分を含み、オペレータからのコマンドを入力として受け取り、フィードバックを提供し、そこに情報を伝えるためのグラフィカルユーザーインターフェイスが含まるが、これに限定されない。また、システム/デバイスは、さまざまな種類のユーザ/オペレータにサービスを提供するために、いくつかのユーザインターフェイスを公開し得る。
【0035】
本明細書及び添付の特許請求の範囲でも使用されるように、単数形「a」、「an」、及
び「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照を含む。同様に
、「comprise」、「contain」、及び「encompass」という単語は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。つまり、「含むが、これに限定されない」という意味である。同様に、「又は」という言葉は、文脈で明確に示されていない限り、「及び」を含むことを意図している。用語「plurality」、「multiple」又は「multitude」は、整数倍を伴う2つ以上、すなわち2又は>2を指し、「single」又は「sole」という用語は1つ、すなわち=1を指す。さらに、用語「少なくとも1つ」は、1つ以上、すなわち、整数倍を伴う1又は>1として理解されるべきである。したがって、単数又は複数を使用する単語には、それぞれ複数と単数も含まれる。さらに、「ここ」、「上」、「以前」及び「下」という言葉、及び同様のインポートの言葉は、このアプリケーションで使用される場合、アプリケーションの特定の部分ではなく、このアプリケーション全体を指す。
【0036】
本発明の特定の実施形態の説明は、網羅的であること、又は開示された正確な形態に限定することを意図していない。本開示の特定の実施形態及び例は、例示目的で本明細書に記載されているが、当業者が認識するように、添付の特許請求の範囲によって提示される開示の範囲内で様々な同等の修正が可能である。前述及び後述の実施形態の特定の要素は、他の実施形態の要素と結合又は置換することができる。また、図面では、繰り返しを避けるために同じ参照符号は同じ要素を示し、当業者によって容易に実装される部分は省略され得る。さらに、本開示の特定の実施形態に関連する利点がこれらの実施形態の文脈で説明されたが、他の実施形態もそのような利点を示す可能性があり、すべての実施形態が必ずしも添付の特許請求の範囲によって定義される開示の範囲内に含まれるような利点を示す必要はない。
【0037】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を例示することを意図している。したがって、以下で説明する特定の実装は、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではない。添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な均等物、変更、及び修正を行うことができることは当業者には明らかであり、したがって、そのような均等の実施形態がここに含まれることが理解されるべきである。本発明のさらなる態様及び利点は、図面に示される特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1実施形態による生物学的試料のdPCRのためのマイクロ流体システムの断面の概念図である。
【
図2】本発明の第2実施形態による生物学的試料のdPCRのためのマイクロ流体システムの断面の概念図である。
【
図3A】
図3A及び
図3Bは、上面図及び断面図における当技術分野で知られているマイクロ流体システムの概略構造図である。
【
図3B】
図3A及び
図3Bは、上面図及び断面図における当技術分野で知られているマイクロ流体システムの概略構造図である。
【
図4A】
図4Aから4Dは、当技術分野で知られているマイクロ流体システム内での気泡の成長及び生成の概略的な機能図とともに、dPCRの異なる段階を示す。
【
図4B】
図4Aから4Dは、当技術分野で知られているマイクロ流体システム内での気泡の成長及び生成の概略的な機能図とともに、dPCRの異なる段階を示す。
【
図4C】
図4Aから4Dは、当技術分野で知られているマイクロ流体システム内での気泡の成長及び生成の概略的な機能図とともに、dPCRの異なる段階を示す。
【
図4D】
図4Aから4Dは、当技術分野で知られているマイクロ流体システム内での気泡の成長及び生成の概略的な機能図とともに、dPCRの異なる段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明の第1実施形態による生物学的試料のdPCRのためのマイクロ流体システム1を概略図で示し、主要構成要素が例示的な断面図又は絵文字として提供されている。
図1に示されるマイクロ流体システム1は、マイクロ流体チップの形態のマイクロ流体デバイス2を含み、デバイス2は、
図3Bに示される最先端のチップ7と同様の構造を示し、デバイス2は、実質的に下部プレート21及び上部プレート22からなり、入口23、出口24、及び入口23を出口24に接続する流路25を提供する。さらに、マイクロウェル又はナノウェルの形態の反応領域26のアレイは、反応領域26の反応を上方から監視できるようにするため、流路25の上側、すなわち上部プレート22の内側に設けられる。さらに、図示の状態では、マイクロ流体デバイス2は、反応領域26のアレイに満たされている、すなわち反応領域26のアレイの各単一のマイクロウェルに満たされるべき試料液体27で既に洗い流されている。反応領域26のアレイへの試料液体27のそのような充填は、マイクロ流体システム1内にマイクロ流体デバイス2を事前に配置するために、充填ステーション(図示せず)で行うことができ、(図示しない)充填ステーションは、試料液体27を反応領域26のアレイに導入するために使用されるマイクロ流体システム1の部分と考えられる。また、初期シーリング液28は、マイクロ流体デバイス2に既に充填されており、反応領域26のアレイ内の試料液体27を封止し、反応領域26のアレイを封止するために初期シーリング液28を流路25に充填することは、マイクロ流体システム1内にマイクロ流体デバイス2を配置する前に、(図示されていない)充填ステーションで行うこともできる。あるいは、反応領域26のアレイを封止するために初期シーリング液28を流路25に充填することは、追加のシーリング液29により、マイクロ流体システム1自身により実行されていてもよく、反応領域26のアレイ内で試料液体29を実際に封止する追加のシーリング液29の部分は、「初期」シーリング液28として理解されるべきである。ここで、充填ステーションは、マイクロ流体デバイス2に試料液体27を提供するためにマイクロ流体デバイス2に接続可能であり、(図示しない)充填ステーションは、マイクロ流体システム1の接続可能な組み合わされた機能部分として、試料液体源及び一次シーリング液体源であると考えることができる。
【0040】
マイクロ流体システム1は、マイクロ流体デバイス2に接続された流れ回路3をさらに備え、流れ回路3は、マイクロ流体デバイス2の流路25を通して追加のシーリング液29を流し、主に追加のシーリング液29をマイクロ流体デバイス2の流路25を通して流すために使用される。ここで、追加のシーリング液29の流れは、反時計回りの矢印の円によって示されている。追加のシーリング液29は、加熱された追加のシーリング液29を含む調温されたリザーバ41と、非加熱又は冷却された追加のシーリング液29を含む調温されていないリザーバ42とからなる二次シーリング液体源4に実質的に由来し、それぞれ電子制御送達バルブ411,421により、リザーバ41,42が流れ回路3に接続される。したがって、送達バルブ411を制御することにより、加熱された追加のシーリング液29が流れ回路3に導入され得、送達バルブ421を制御することにより、加熱されていない追加のシーリング液29が流れ回路3に導入され得、それにより流れ回路3内の追加のシーリング液29の所望の温度プロファイルが得られる。代替的に、調温されたリザーバ41及び調温されていないリザーバ42は、共通の混合バルブを共有し、共通の混合バルブは、流れ回路3に接続され、混合蛇口の意味で機能し、すでに予混合されて、調温された追加のシーリング液29が流れ回路3に導入され、マイクロ流体デバイス2に提供される準備が整う。
【0041】
ここで、追加のシーリング液29を流路25に提供するために、マイクロ流体システム1のポンプ手段として機能するペリスタルティックポンプ31が、追加のシーリング液29をマイクロ流体デバイス2に、その入り口23、流路25を通じて出口24から出るように送り出すために、流れ回路3の一部として提供され、それにより、反応領域26のアレイ内の試料のサーモサイクリングのために反応領域26のアレイに熱又は冷気を提供するだけでなく、流路25の内部に気泡が発生した場合に任意の気泡を流路25及び出口24から、即ちマイクロ流体デバイス2から洗い流す。ここで、ポンプ31は、流路25を通して追加のシーリング液29を絶えず押し出すことができ、又は例えば、反応領域26のアレイ内の試料液体27を調温する必要がある場合にのみ、追加のシーリング液29を流路25に断続的に送り出すことができる。したがって、追加のシーリング液29を必要に応じて流路25に送り出す可能性により、流路25内の既存の気泡、又は試料液体27のサーモサイクリング中に出現するあらゆる種類の気泡を、追加のシーリング液29で流路25を洗い流すことによりマイクロ流体デバイス2から除去することができる。フローシステム全体から気泡を最終的に除去できるようにするために、マイクロ流体システム1は、マイクロ流体デバイス2の出口24の下流に、本実施形態では、ポンプ31の前に配置された気泡トラップ32をさらに備え、気泡トラップ32は、流れた追加のシーリング液29から気泡を分離するために使用される。これにより、気泡は、もしあれば、マイクロ流体システム1から直ちに除去することができる。したがって、テスト結果に対する気泡の悪影響は、少なくとも低減されるか、完全に回避され得る。
【0042】
図2には、本発明のマイクロ流体デバイス1´の第2実施形態が示されており、これは基本的に、
図1に示される第1実施形態に関して説明した構造と同様の構造からなる。ここで、同一の参照番号は同一の要素を示し、重複を避けるためにそれぞれの説明は省略する。しかしながら、第1実施形態とは対照的に、マイクロ流体デバイス1´は、非加熱の追加のシーリング液29を含む調温されていないリザーバ42のみを含み、反応領域26のアレイ内の試料に適用される所望のサーモサイクリング温度プロファイルに従って調温されていないリザーバ42を調温するために、リザーバ42の下流にフローヒータ5が設けられる。ここでまた、リザーバ42は、それぞれ電子制御送達バルブ421によって流れ回路3に接続され、送達バルブ421を制御することにより、反応領域26のアレイ内の資料に所望のサーモサイクリング温度プロファイルを提供するだけでなく、最も重要には流路25内で発生する気泡を洗い流すために、それぞれ温度調節された追加のシーリング液29が、流れ回路3に導入され得、且つマイクロ流体デバイス2にポンプ31によって送り出され得る。
【0043】
別の実施形態によれば、フローヒータ5なしでの
図2に示された前述の実施形態の構造が、当技術分野で知られ且つ
図4A-
図4Dのいずれかに関連して説明されるプレートサイクラ8に適用され得、プレートサイクラ8にはマイクロ流体デバイス2が設けられている。それにより、反応領域26のアレイ内の試料液体27への所望のサーモサイクリング温度プロファイルの提供は、プレートサイクラ8によって確立され得、非加熱の追加のシーリング液29の送出は、流路25内の、存在する場合、気泡の除去にのみ使用される。さらに、別の代替の実施形態によれば、
図2に示す実施形態の構造は、フローヒータ5又はプレートサイクラ8なしで適用可能であるが、追加のシーリング液29は、必要に応じて追加のシーリング液29に電圧を印加することで追加のシーリング液29を加熱するために、導電性グラフェン材料を含み、これにより、任意の種類の外部ヒータ又は加熱リザーバを必要とせずに、反応領域26のアレイ内の試料材料に所望のサーモサイクリング温度プロファイルを適用できるように、追加のシーリング液29の加熱を達成する。
【0044】
本発明をその特定の実施形態に関連して説明したが、この説明は例示のみを目的とすることを理解されたい。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。
【符号の説明】
【0045】
1 マイクロ流体システム(第1実施形態)
1´ マイクロ流体システム(第2実施形態)
2 マイクロ流体デバイス
21 マイクロ流体デバイスの下部プレート/下層
22 マイクロ流体デバイスの上部プレート/上層
23 マイクロ流体デバイス入口
231 マイクロ流体デバイス入口カバー
24 マイクロ流体デバイス出口
241 マイクロ流体デバイス出口カバー
25 マイクロ流体デバイス流路
26 反応領域/ウェルのアレイ
27 試料液体(反応領域に充填される)
28 初期シーリング液
29 追加のシーリング液
3 流れ回路
31 ポンプ
32 気泡トラップ
4 二次シーリング液体源
41 調温されたリザーバ
411 電子制御送達バルブ
42 調温されていないリザーバ
421 電子制御送達バルブ
5 フローヒータ
6 マイクロ流体チップ
61 マイクロ流体チップの下部プレート/下層
62 マイクロ流体チップの上部プレート/上層
63 マイクロ流体チップ入口
64 マイクロ流体チップ出口
65 マイクロ流体チップ流路
66 マイクロウェルのアレイ
7 マイクロ流体チップ
71 マイクロ流体チップの下部プレート/下層
72 マイクロ流体チップの上部プレート/上層
73 マイクロ流体チップ入口
74 マイクロ流体チップ出口
75 マイクロ流体チップ流路
76 反応領域/ウェルのアレイ
77 試料液体(反応領域に充填される)
78 シーリング液
8 プレートサイクラ
81 プレートサイクラのボトムヒータ
82 プレートサイクラのトップヒータ
91 初期気泡
92 新しく出現した気泡
93 合併した気泡
【手続補正書】
【提出日】2023-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料のデジタルポリメラーゼ連鎖反応dPCRのためのマイクロ流体システム(1;1´)であって、
入口(23)、出口(24)、前記入口(23)を前記出口(24)に接続する流路(25)、及び前記流路(25)と流体連通する反応領域(26)のアレイを有する少なくとも1つのマイクロ流体デバイス(2)と、
前記マイクロ流体デバイス(2)の前記流路(25)を通して液体を流すための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な流れ回路(3)と、
前記マイクロ流体デバイス(2)に試料液体(27)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な試料液体源と、
前記反応領域(26)のアレイ内部の前記試料液体(27)を封止するために前記マイクロ流体デバイス(2)に初期シーリング液(28)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な一次シーリング液体源と、
前記マイクロ流体デバイス(2)に追加のシーリング液(29)を提供するための、前記マイクロ流体デバイス(2)に接続可能な二次シーリング液体源(4)と、
前記流れ回路(3)に接続され、前記流路(25)を通して前記追加のシーリング液(29)を送り出すように構成されるポンプ手段(31)と、を有する、マイクロ流体システム。
【外国語明細書】