IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドの特許一覧

特開2023-139186薬剤生成物不純物を特性決定するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139186
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】薬剤生成物不純物を特性決定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230926BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20230926BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230926BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230926BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K39/395 K
A61K39/395 D ZNA
A61K38/02
A61P43/00 121
A61K38/01
C12P21/08
C07K16/00
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120393
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2020528963の分割
【原出願日】2018-12-18
(31)【優先権主張番号】62/610,029
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/743,632
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低分子量(LMW)タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】質量分光分析と結ばれた親水性相互作用クロマトグラフィ(HILIC)を使用する。タンパク質薬剤生成物、例えば抗体薬剤生成物からのN連結型グリカンの除去後、HILICカラムからのLMW不純物の溶出を当該分子量種のサイズによって決定する。いくつかの実施形態において、HILIC分離を変性条件下で実施して、SDS-PAGE及びCE-SDSの両方法に高度に匹敵するこの方法を使用してLMW形態の検出を行う。LMW薬剤生成物不純物として、限定されないが、軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、ペプチド骨格切断種、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質薬剤及び賦形剤を含むタンパク質薬剤生成物であって、0.05%~30.0%(w/w)の低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、前記タンパク質薬剤生成物。
【請求項2】
抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項3】
前記低分子量タンパク質薬剤不純物が、分解産物、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1または2に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項4】
0.05%~25%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項5】
0.05%~15%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項6】
0.05%~10%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項7】
0.05%~5%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のタンパク質薬剤生成物。
【請求項8】
低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するための方法であって、以下:
i)タンパク質薬剤生成物サンプルを脱グリコシル化する工程;
ii)前記タンパク質薬剤生成物サンプルのタンパク質成分を親水性相互作用クロマトグラフィによって分離する工程;
iii)前記分離されたタンパク質成分を質量分析によって分析する工程であって、前記タンパク質薬剤生成物サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定する、工程
を含み、前記タンパク質薬剤生成物が、請求項1~7のいずれか一項に定義されている通りである、前記方法。
【請求項9】
前記タンパク質薬剤生成物サンプルが、流加バッチ培養からのものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質薬剤生成物が、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記低分子量タンパク質薬剤生成物不純物が、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される低分子量タンパク質薬剤生成物不純物として特性決定される、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
抗体を産生する方法であって、以下:
i)前記抗体を産生する細胞を細胞培養において培養する工程;
ii)前記細胞培養からサンプルを得る工程;
iii)前記サンプルにおける低分子量不純物を請求項8~11のいずれか一項に記載の方法によって特性決定する工程及び定量化する工程、ならびに
iv)前記細胞培養の1つ以上の培養条件を変更する工程であって、前記抗体の細胞培養の際に産生される特性決定される低分子タンパク質薬剤不純物の量を低減する、工程
を含む、前記方法。
【請求項13】
低分子量タンパク質薬剤不純物の量を低減するように変化させる、前記細胞培養の前記1つ以上の条件が、pH、細胞密度、アミノ酸濃度、浸透圧、成長因子濃度、かき混ぜ、ガス分圧、界面活性剤、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、細菌細胞、酵母細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO K1、DXB-11CHO、Veggie-CHO)、COS細胞(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero細胞、CV1細胞、腎細胞(例えば、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa細胞、HepG2細胞、WI38細胞、MRC5細胞、Colo25細胞、HB8065細胞、HL-60細胞、リンパ細胞、例えば、自家T細胞、Jurkat(Tリンパ球)またはDaudi(Bリンパ球)、A431(上皮)細胞、U937細胞、3T3細胞、L細胞、C127細胞、SP2/0細胞、NS-0細胞、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び前記細胞のいずれかに由来する細胞株からなる群から選択される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、ハイブリドーマ細胞またはクアドローマ細胞である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載の方法によって産生される抗体。
【請求項17】
0.05~30.0%(w/w)の低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
低分子量薬剤不純物を特性決定するためのシステムであって:
少なくとも2つの移動相カラムに連結された親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)カラムを含む親水性相互作用液体クロマトグラフィシステム
を含み、前記HILICカラムが、質量分析システムと流体連通している、前記システム。
【請求項19】
請求項8~11のいずれか一項に記載の方法の、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための、使用。
【請求項20】
請求項18に記載のシステムの、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、タンパク質分離方法及び細胞培養方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクローナル抗体(mAb)は、ここ20年にわたって、広範囲の治療領域を標的として成功裏に用いられてきた(Walsh G.,Nature biotechnology,32:992-1000(2014)(非特許文献1);Lawrence S.Nature biotechnology,25:380-2(2007)(非特許文献2))。mAbは、それぞれジスルフィド結合を通して軽鎖に共有結合的に連結されているジスルフィド連結した2つの重鎖からなる保存共有結合ヘテロ四量体構造を保有しているが、これらのタンパク質は、多くの場合、大規模な精製工程の後であっても低いレベルの生成物関連不純物を含有する。低分子量(LMW)種(例えば、ペプチド骨格切断断片)及び高分子量(HMW)種(例えば、抗体二量体種)はいずれも、mAb生成物のサイズ不均一性に寄与する生成物関連不純物の例である。タンパク質凝集の結果としての、治療用mAbの薬剤生成物内でのHMW種の形成は、薬効及び安全性の両方を潜在的に損なう可能性がある(例えば、望ましくない免疫原性応答を引き起こす)(Rosenberg AS.The AAPS journal,8:E501-7(2006)(非特許文献3);Moussa EM,et al.Journal of pharmaceutical sciences,105:417-30(2006)(非特許文献4))。任意の治療用タンパク質のLMW種は、生成の際に宿主細胞プロテアーゼ活性から得られることがある。LMW種は、免疫原性につながり得るまたはin vivoでの薬物動態特性に潜在的に影響し得る新規のエピトープを露出させる一方で、多くの場合、抗体の単量体形態と比較して低いまたは実質的に低減された活性を有する(Vlasak J,Ionescu R.mAbs,3:253-63(2011)(非特許文献5))。その結果、HMW種及びLMW種は、いずれも、薬剤開発の際に、また、製造の際に精製原薬の放出試験の一部として、常套的にモニタリングされる非常に重要な品質特性であるとされている。
【0003】
mAb生成物の分子量の不均一性は、複数の直交分析法によって伝統的に特性決定されている(Michels DA,Parker M,Salas-Solano O.Electrophoresis,33:815-26(2012)(非特許文献6))。mAb生成物の純度を評価するのに最も一般的に使用されている技術の1つがSDS-PAGEであり、これは、非還元条件下に実施される。分析の際、抗体に関して、H2L(2種類の重鎖及び1種類の軽鎖)、H2(2種類の重鎖)、HL(1種類の重鎖及び1種類の軽鎖)、HC(1種類の重鎖)、ならびにLC(1種類の軽鎖)種を含めたLMW種に相当する副バンドが常套的に観察及び定量化され得る(Liu H,Gaza-Bulseco G,Chumsae C,Newby-Kew A.Biotechnology letters,29:1611-22(2007)(非特許文献7))。タンパク質分解断片も観察される場合がある。各副バンドの提案されている同一性は、エドマン分解を介したN末端シーケンシング、インゲルトリプシン消化、続いて質量分光分析、ならびに抗Fc及び抗軽鎖抗体を使用したウェスタンブロット分析によって支持され得る。しかし、これらの方法から得られるいずれの提案されている構造も、インタクトタンパク質レベルにおいて明確に確認され得ない。さらに、SDS-PAGE実験において用いられるサンプル調製条件は、ジスルフィド結合のスクランブリングを通してLMWアーチファクトを生じさせる可能性があり、副LMW種の過大評価につながり得る(Zhu ZC,et al.Journal of pharmaceutical and biomedical analysis,83:89-95(2013)(非特許文献8))。より最近では、キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)が、SDS-PAGEの現代の等価物として出現しており、優れた再現性、感度及びスループットを与えている(Rustandi RR,Washabaugh MW,Wang Y.Electrophoresis,29:3612-20(2008)(非特許文献9);Lacher NA,et al.Journal of separation science,33:218-27(2010)(非特許文献10);Hunt G,Moorhouse KG,Chen AB.Journal of chromatography A,744:295-301(1996)(非特許文献11))。mAb生成物のCE-SDS分析の際、インタクト抗体よりも短い移動時間を有する副ピーク(LMW形態)が常套的に観察され得る。SDS-PAGE分析とは異なり、これらのLMW不純物は、抽出され得ず、またはさらなる分析に供され得ない。その結果、CE-SDS方法において観察されるLMW不純物の同一性は、多くの場合、単に経験的知識に基づいて提案されている。そのため、mAb生成物におけるLMW不純物を直接分離して明確に同定する直交法は、抗体生成物の開発の際に製造方法の制御を確保するのに必須である。
【0004】
現代の質量分析計によるインタクトmAbタンパク質の正確な質量測定は、最も信頼性のある同定法の1つとして、バイオ医薬品業界においてますます一般的になってきている(Kaltashov IA,et al.,Journal of the American Society for Mass Spectrometry,21:323-37(2010)(非特許文献12));Zhang H,Cui W,Gross ML.FEBS letters,588:308-17(2014)(非特許文献13))。具体的には、種々の「ハイフンで結ばれた(hyphenated)クロマトグラフィ-質量分析」方法は、SDS-PAGEまたはCE-SDSのいずれの方法によっても達成され得ない、mAb生成物における少量の不純物を検出して非常に詳細な分析を提供する能力を実証している(Le JC,Bondarenko PV.Journal of the American Society for Mass Spectrometry,16:307-11(2005)(非特許文献14);Haberger M,et al.mAbs,8:331-9(2016)(非特許文献15))。例えば、質量分析と結ばれた逆相クロマトグラフィ(RPLC)は、mAb薬剤生成物に存在する遊離軽鎖及び関連する翻訳後修飾(例えば、システイン化及びグルタチオン化)を検出するのに使用され得る。しかし、SDS-PAGE及びCE-SDS方法と比較して、RPLCは、多くの場合、LMW種を分離するために十分な分解能を欠いており、そのため、完全なLMWプロファイルは解明できない。例えば、mAb薬剤生成物におけるH2L種の同定は、その低い存在度、及び主なインタクト抗体からの乏しい分解能に起因して、RPLCベースのインタクト質量分析によって報告されたことがない。mAb生成物関連不純物を特性決定するのに有望である別のMSベースの技術は、ネイティブエレクトロスプレーイオン化質量分析(ネイティブESI-MS)であり、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)と結ばれると、特に有益である(Haberger M,et al.mAbs,8:331-9(2016)(非特許文献15))。しかし、ネイティブSEC-MS分析において同定されるLMW種は、多くの場合、使用される実験条件が方法間で大幅に異なることに起因して、SDS-PAGEまたはCE-SDSによって同定されるものと同じではない。具体的には、SDS-PAGE及びCE-SDSに必要とされるサンプル調製は、多くの場合、タンパク質変性から始まり、HC-LC対のN末端領域とHC-HC対のC末端領域との間の非共有結合的相互作用が破壊される。その結果、鎖間ジスルフィド結合が破壊されると、LMW不純物、例えば、H2L、半抗体、及び遊離軽鎖種が、mAb分子から解離し得る。比較すると、ネイティブSEC-MSは、ほぼネイティブな条件下でmAbサンプルを分析して、強い非共有結合的鎖間相互作用が保存されることを許容し、また、鎖間ジスルフィド結合が破壊されてもmAb分子の4鎖構造が維持されることを可能にする。SECカラム化学の発展は、SEC分離及びオンライン質量分光分析との直接の組み合わせのために逆相クロマトグラフィにおいて通常使用される変性緩衝剤(例えば、30%のアセトニトリル、0.1%のFA及び0.1%のTFA)を使用することを可能にしたが(Liu H,Gaza-Bulseco G,Chumsae C.Journal of the American Society for Mass Spectrometry,20:2258-64(2009)(非特許文献16))、LCの分解能は、多くのLMW種を検出するには依然として最適に満たない。
【0005】
そのため、本発明の目的は、LMWタンパク質薬剤不純物の特性決定のためのシステム及び方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、不純物レベルが低減されたタンパク質薬剤生成物を提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、タンパク質薬剤生成物不純物が低減されたタンパク質薬剤生成物を生成する方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Walsh G.,Nature biotechnology,32:992-1000(2014)
【非特許文献2】Lawrence S.Nature biotechnology,25:380-2(2007)
【非特許文献3】Rosenberg AS.The AAPS journal,8:E501-7(2006)
【非特許文献4】Moussa EM,et al.Journal of pharmaceutical sciences,105:417-30(2006)
【非特許文献5】Vlasak J,Ionescu R.mAbs,3:253-63(2011)
【非特許文献6】Michels DA,Parker M,Salas-Solano O.Electrophoresis,33:815-26(2012)
【非特許文献7】Liu H,Gaza-Bulseco G,Chumsae C,Newby-Kew A.Biotechnology letters,29:1611-22(2007)
【非特許文献8】Zhu ZC,et al.Journal of pharmaceutical and biomedical analysis,83:89-95(2013)
【非特許文献9】Rustandi RR,Washabaugh MW,Wang Y.Electrophoresis,29:3612-20(2008)
【非特許文献10】Lacher NA,et al.Journal of separation science,33:218-27(2010)
【非特許文献11】Hunt G,Moorhouse KG,Chen AB.Journal of chromatography A,744:295-301(1996)
【非特許文献12】Kaltashov IA,et al.,Journal of the American Society for Mass Spectrometry,21:323-37(2010)
【非特許文献13】Zhang H,Cui W,Gross ML.FEBS letters,588:308-17(2014)
【非特許文献14】Le JC,Bondarenko PV.Journal of the American Society for Mass Spectrometry,16:307-11(2005)
【非特許文献15】Haberger M,et al.mAbs,8:331-9(2016)
【非特許文献16】Liu H,Gaza-Bulseco G,Chumsae C.Journal of the American Society for Mass Spectrometry,20:2258-64(2009)
【発明の概要】
【0009】
低分子量(LMW)タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するためのシステム及び方法が提供される。一実施形態は、質量分光分析と結ばれた親水性相互作用クロマトグラフィ(HILIC)を使用する。タンパク質薬剤生成物、例えば抗体薬剤生成物からのN連結型グリカンの除去後、HILICカラムからのLMW不純物の溶出を当該分子量種のサイズによって決定する。いくつかの実施形態において、HILIC分離を変性条件下で実施して、SDS-PAGE及びCE-SDSの両方法に高度に匹敵するこの方法を使用してLMW形態の検出を行う。LMW薬剤生成物不純物として、限定されないが、軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、ペプチド骨格切断種、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0010】
開示されているHILIC-MSシステム及び方法は、詳細なLMW同定情報を提供する。HILIC-MS分析によって明らかにされる信頼性のある同定及び詳細な構造情報は、タンパク質薬剤生成物におけるLMW不純物の綿密な特性決定に非常に価値があり、多くの場合、後期の分子開発に必要とされる。さらに、開示されているHILIC-MSシステム及び方法は、SDS-PAGEまたはCE-SDSのいずれよりも穏やかなサンプル調製を使用するため、LMWアーチファクトを生じる可能性が低い。HILIC-MSシステム及び方法は、サンプル間でLMW不純物プロファイルを比較するための半定量分析として使用されても、単に定量的に適用されてもよい。
【0011】
一実施形態は、タンパク質薬剤及び賦形剤を含有するタンパク質薬剤生成物であって、約0.05~約30.0%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、上記タンパク質薬剤生成物を提供する。タンパク質薬剤生成物は、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせであり得る。他の実施形態において、上記薬剤生成物は、約0.05%~約25%、または約0.05%~約15%、または約0.05%~約10%、または約0.05%~約5%、または約1~約25%、約1~約15%、約1~約10%、または約1~約5%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含有する。
【0012】
別の実施形態は、低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するための方法であって、
i)タンパク質薬剤生成物サンプルを脱グリコシル化する工程、
ii)タンパク質薬剤生成物サンプルのタンパク質成分を親水性相互作用クロマトグラフィによって分離する工程、及び
iii)分離されたタンパク質成分を質量分析によって分析して、タンパク質薬剤生成物サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定する工程
を含む、上記方法を提供する。
【0013】
上記方法は、随意の還元工程をさらに提供する。還元工程は、工程i)と工程ii)との間に行われてよい。タンパク質薬剤生成物サンプルは、流加バッチ培養から採取され得る。上記で記述されているように、タンパク質薬剤生成物は、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせであり得る。
【0014】
さらに別の実施形態は、抗体を産生する方法であって、抗体を産生する細胞を細胞培養において培養する工程、細胞培養からサンプルを得る工程、サンプルにおける低分子量不純物を上記に記載されている方法によって特性決定及び定量化する工程、ならびに、細胞培養の1つ以上の培養条件を変更して、抗体の細胞培養の際に産生される、特性決定される低分子タンパク質薬剤不純物の量を低減する工程、を含む、上記方法を提供する。いくつかの実施形態において、サンプルは、任意の間隔で細胞培養の際に採取される。他の実施形態において、サンプルは、産生培養の後、タンパク質収集の後または精製後に採取される。低分子量タンパク質薬剤不純物の量を低減するように変化させる、細胞培養の1つ以上の条件は、温度、pH、細胞密度、アミノ酸濃度、浸透圧、成長因子濃度、かき混ぜ、ガス分圧、界面活性剤、またはこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。細胞は、真核性または原核性であり得る。細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO K1、DXB-11CHO、Veggie-CHO)、COS細胞(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero細胞、CV1細胞、腎細胞(例えば、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa細胞、HepG2細胞、WI38細胞、MRC5細胞、Colo25細胞、HB8065細胞、HL-60細胞、リンパ細胞、例えば、自家T細胞、Jurkat(Tリンパ球)またはDaudi(Bリンパ球)、A431(上皮)細胞、U937細胞、3T3細胞、L細胞、C127細胞、SP2/0細胞、NS-0細胞、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び上記細胞のいずれかに由来する細胞株であり得る。一実施形態において、細胞は、ハイブリドーマまたはクアドローマ細胞である。さらに別の実施形態は、本明細書に記載されている方法によって産生される抗体を提供する。
【0015】
なお別の実施形態は、低分子量薬剤不純物を特性決定するためのシステムを提供する。システムは、本明細書において例示されている移動相A及び移動相Bと連結している親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)カラムを含む親水性相互作用液体クロマトグラフィシステムを含み、HILICカラムは、質量分析システムと流体連通している。
【0016】
なお別の実施形態において、本発明は、本発明による方法の、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための使用に関する。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明によるシステムの、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための使用に関する。
[本発明1001]
タンパク質薬剤及び賦形剤を含むタンパク質薬剤生成物であって、0.05%~30.0%(w/w)の低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、前記タンパク質薬剤生成物。
[本発明1002]
抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1001のタンパク質薬剤生成物。
[本発明1003]
前記低分子量タンパク質薬剤不純物が、分解産物、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1001または1002のタンパク質薬剤生成物。
[本発明1004]
0.05%~25%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、本発明1001~1003のいずれかのタンパク質薬剤生成物。
[本発明1005]
0.05%~15%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、本発明1001~1004のいずれかのタンパク質薬剤生成物。
[本発明1006]
0.05%~10%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、本発明1001~1005のいずれかのタンパク質薬剤生成物。
[本発明1007]
0.05%~5%w/wの低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、本発明1001~1006のいずれかのタンパク質薬剤生成物。
[本発明1008]
低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するための方法であって、以下:
i)タンパク質薬剤生成物サンプルを脱グリコシル化する工程;
ii)前記タンパク質薬剤生成物サンプルのタンパク質成分を親水性相互作用クロマトグラフィによって分離する工程;
iii)前記分離されたタンパク質成分を質量分析によって分析する工程であって、前記タンパク質薬剤生成物サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定する、工程
を含み、前記タンパク質薬剤生成物が、本発明1001~1007のいずれかに定義されている通りである、前記方法。
[本発明1009]
前記タンパク質薬剤生成物サンプルが、流加バッチ培養からのものである、本発明1008の方法。
[本発明1010]
前記タンパク質薬剤生成物が、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1008または1009の方法。
[本発明1011]
前記低分子量タンパク質薬剤生成物不純物が、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される低分子量タンパク質薬剤生成物不純物として特性決定される、本発明1008~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
抗体を産生する方法であって、以下:
i)前記抗体を産生する細胞を細胞培養において培養する工程;
ii)前記細胞培養からサンプルを得る工程;
iii)前記サンプルにおける低分子量不純物を本発明1008~1011のいずれかの方法によって特性決定する工程及び定量化する工程、ならびに
iv)前記細胞培養の1つ以上の培養条件を変更する工程であって、前記抗体の細胞培養の際に産生される特性決定される低分子タンパク質薬剤不純物の量を低減する、工程
を含む、前記方法。
[本発明1013]
低分子量タンパク質薬剤不純物の量を低減するように変化させる、前記細胞培養の前記1つ以上の条件が、pH、細胞密度、アミノ酸濃度、浸透圧、成長因子濃度、かき混ぜ、ガス分圧、界面活性剤、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
前記細胞が、細菌細胞、酵母細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO K1、DXB-11CHO、Veggie-CHO)、COS細胞(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero細胞、CV1細胞、腎細胞(例えば、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa細胞、HepG2細胞、WI38細胞、MRC5細胞、Colo25細胞、HB8065細胞、HL-60細胞、リンパ細胞、例えば、自家T細胞、Jurkat(Tリンパ球)またはDaudi(Bリンパ球)、A431(上皮)細胞、U937細胞、3T3細胞、L細胞、C127細胞、SP2/0細胞、NS-0細胞、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び前記細胞のいずれかに由来する細胞株からなる群から選択される、本発明1012または1013の方法。
[本発明1015]
前記細胞が、ハイブリドーマ細胞またはクアドローマ細胞である、本発明1012~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
本発明1012~1015のいずれかの方法によって産生される抗体。
[本発明1017]
0.05~30.0%(w/w)の低分子量タンパク質薬剤不純物を含む、本発明1016の抗体。
[本発明1018]
低分子量薬剤不純物を特性決定するためのシステムであって:
少なくとも2つの移動相カラムに連結された親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)カラムを含む親水性相互作用液体クロマトグラフィシステム
を含み、前記HILICカラムが、質量分析システムと流体連通している、前記システム。
[本発明1019]
本発明1008~1011のいずれかの方法の、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための、使用。
[本発明1020]
本発明1018のシステムの、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための、使用。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1A及びBは、mAb-1原薬サンプルのHILIC分離のクロマトグラムである。図1Aは、紫外線プロファイルであり、図1Bは、HILICプロファイルである。図1AにおいてUVシグナルを10倍に増幅して、LMW不純物をより良好に可視化した。
図2A】最も豊富な電荷状態のm/zを使用した、異なる軽鎖変異体の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示す。
図2B】β脱離による軽鎖のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図2C】2-メルカプト酢酸によって修飾された軽鎖、未修飾軽鎖、及び切り取られたC末端残基を有する軽鎖のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図2D】システイン化による軽鎖のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図2E】グルタチオン化による軽鎖のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図3A】Fab断片のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図3B】半抗体のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図3C】Fab切断断片のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図3D】H2のデコンボリューションマススペクトルを示す。
図4】DTT(矢印番号1)及びL-システイン(矢印番号2)によって処理した脱グリコシル化mAb-1サンプルのHILIC-UV分析を示す。矢印番号3は、未処理mAb-1によるトレースを示す。未処理サンプル及びL-システイン処理サンプルのシグナルをそれぞれ10倍及び2倍増幅して、LMW不純物をより良好に可視化した。
図5-1】図5AはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定された軽鎖種を示す。図5BはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定された重鎖種を示す。図5CはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定された半抗体種を示す。
図5-2】図5DはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定された重鎖二量体種を示す。図5EはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定されたH2L種を示す。図5FはDTTによって処理した後のmAb-1のHILIC-MS分析において同定された完全抗体種を示す。
図6図6Aは、非還元条件下でのLys-C消化からの軽鎖C末端ペプチドのMS2スペクトルを示し、ここでC末端Cysは、ヨードアセトアミドによって修飾されている。図6Bは、非還元条件下でのLys-C消化からの軽鎖C末端ペプチドのMS2スペクトルを示し、ここでC末端Cysは、+89.98Daの未知の修飾によって修飾されている。
図7図7Aは、+89.98Da非還元Lys-C消化物の未知の修飾による軽鎖C末端ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示す。図7Bは、非還元Lys-C消化物の還元からの+89.98Daの未知の修飾による軽鎖C末端ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示す。
図8】未知の修飾について提案された構造(2-メルカプト酢酸)である。
図9】例示的なHILIC-MSシステムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
I.定義
現在特許請求している発明を説明する文脈における(特に特許請求の範囲の文脈における)用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、及び同様の指示対象の使用は、本明細書において別途示さない限りまたは文脈によって明確に反論しない限り、単数及び複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。
【0020】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において別途示さない限り、当該範囲内にあるそれぞれ別個の値を個別に参照する簡単な方法として機能することが単に意図されており、それぞれ別個の値は、あたかも本明細書に個々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0021】
用語「約」の使用は、およそ±10%の範囲内の、記述されている値を超えるまたは当該値未満のいずれかの値を記載することが意図されており;他の実施形態において、上記値は、およそ±5%の範囲内の、記述されている値を超えるまたは当該値未満のいずれかの値の範囲であってよく;他の実施形態において、上記値は、およそ±2%の範囲内の、記述されている値を超えるまたは当該値未満のいずれかの値の範囲であってよく;他の実施形態において、上記値は、およそ±1%の範囲内の、記述されている値を超えるまたは当該値未満のいずれかの値の範囲であってよい。前述の範囲は、文脈によって明らかになることが意図されており、さらなる限定は暗示されていない。本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書において別途示さない限りまたは別途文脈によって明確に反論しない限り、いずれの好適な順序で実施されてもよい。ありとあらゆる例、または本明細書において提供されている例示的な語(例えば、「例えば」)の使用は、単に、本発明をより良好に明らかにすることが意図されており、別途特許請求の範囲に記載されていない限り本発明の範囲に対する限定を提起するものではない。明細書におけるいずれの語も、本発明の実施に必須であるとしていずれかの特許請求の範囲に記載されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0022】
用語「低分子量(LMW)タンパク質薬剤不純物」には、限定されないが、前駆体、分解産物、切断された種、Fab断片、Fcまたは重鎖断片を含めたタンパク質分解断片、リガンドまたは受容体断片、H2L(2種類の重鎖及び1種類の軽鎖)、H2(2種類の重鎖)、HL(1種類の重鎖及び1種類の軽鎖)、HC(1種類の重鎖)、及びLC(1種類の軽鎖)種が含まれる。LMWタンパク質薬剤不純物は、タンパク質生成物の不完全なバージョンであるいずれかの変異体、例えば、多量体タンパク質の1つ以上の構成要素であり得る。タンパク質薬剤不純物、薬剤不純物、または生成物不純物は、明細書を通して互換可能に使用され得る用語であり、これらには、LMWタンパク質薬剤不純物が含まれる。LMWの薬剤不純物または生成物不純物は、概して、所望の薬剤生成物の特性とは異なり得る特性、例えば、活性、効能、及び安全性を有する分子変異体であるとされている。
【0023】
タンパク質生成物の分解は、細胞培養システムにおけるタンパク質薬剤生成物の生成の際に問題になる。例えば、タンパク質生成物のタンパク質分解は、細胞培地におけるプロテアーゼの放出に起因して起こり得る。培地添加物、例えば、メタロプロテアーゼを阻害するために添加される可溶性鉄源、またはセリン及びシステインプロテアーゼ阻害剤が、分解を防止するために細胞培養において組み込まれてきた(Clincke,M.-F.,et al,BMC Proc.2011,5,P115)。C末端断片は、細胞培養におけるカルボキシルペプチダーゼに起因して産生の際に開裂され得る(Dick,LW et al,Biotechnol Bioeng 2008;100:1132-43)。続いて、LMW不純物をプロファイル及びモニタリングする必要がある。
【0024】
「タンパク質」は、ペプチド結合によって互いに接続した2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。タンパク質は、ポリペプチド及びペプチドを含み、修飾、例えば、グリコシル化、脂質付着、グルタミン酸残基のガンマカルボキシル化、アルキル化、ヒドロキシル化及びADP-リボシル化を含んでいてもよい。タンパク質は、タンパク質ベースの薬剤を含めて、科学的または商業的な対象であり得、タンパク質には、とりわけ、酵素、リガンド、受容体、抗体及びキメラまたは融合タンパク質が含まれる。タンパク質は、周知の細胞培養方法を使用して種々のタイプの組み換え細胞によって産生され、概して、遺伝子組み換え技術によって細胞内に導入され(例として、例えば、キメラタンパク質をコードする配列、またはコドン最適化配列、イントロン不含配列など)、ここで、エピソームとして存在していても細胞のゲノム内に一体化されていてもよい。
【0025】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続されている4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)及び重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は1つのドメインからなる(CL)。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存されている領域が組み込まれた、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に、さらに細分され得る。各VH及びVLは、アミノ終端からカルボキシ終端まで以下の順序で配置されている、3つのCDR及び4つのFRから構成されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。用語「抗体」は、任意のアイソタイプまたはサブクラスの、グリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。用語「抗体」には、組み換え手段によって調製、発現、作製または単離された抗体分子、例えば、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体が含まれる。用語「抗体」にはまた二重特異性抗体も含まれ、これは、1種類を超える異なるエピトープに結合し得るヘテロ四量体免疫グロブリンを含む。二重特異性抗体は、参照によりこの出願に組み込まれる米国特許出願公開公報第2010/0331527号に概して記載されている。
【0026】
「Fc融合タンパク質」は、さもなければ本質的に一緒には見られない、2種類以上のタンパク質の部分または全てを含んでおり、その一方が免疫グロブリン分子のFc部である。(Fcドメインを含む)抗体由来のポリペプチドの種々の部に融合するある特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88: 10535,1991;Byrn et al..Nature 344:677,1990;及びHollenbaugh et al.,「Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins」,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1 - 10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部位にカップリングした、受容体の1以上の細胞外ドメイン(複数可)を含み、ここで、いくつかの実施形態においては、免疫グロブリンのヒンジ領域、続いてCH2及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、Fc融合タンパク質は、1種類以上のリガンド(複数可)に結合する、2種類以上の違った受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップまたはVEGFトラップなどである。
【0027】
「細胞培養」は、容器、例えば、フラスコまたはバイオリアクターにおける細胞の繁殖または増殖を指し、限定されないが、流加バッチ培養、連続培養、灌流培養などを含む。
【0028】
用語「HILICまたはHILICクロマトグラフィ」は、親水性相互作用液体クロマトグラフィまたは親水性相互作用クロマトグラフィを指し、当該分野の周知の用語とされる。
【0029】
対象となるタンパク質
原核性または真核性細胞における発現に好適な、対象となるいずれのタンパク質も、提供される遺伝子組み換え宿主細胞システムにおいて使用されてよい。例えば、対象となるタンパク質として、限定されないが、抗体もしくはその抗原結合断片、キメラ抗体もしくはその抗原結合断片、ScFvもしくはその断片、Fc融合タンパク質もしくはその断片、成長因子もしくはその断片、サイトカインもしくはその断片、または、細胞表面受容体の細胞外ドメインもしくはその断片が挙げられる。対象となるタンパク質は、単一のサブユニットからなる簡単なポリペプチド、または2つ以上のサブユニットを含む複合マルチサブユニットタンパク質であってよい。対象となるタンパク質は、バイオ医薬製品、食品添加物もしくは防腐剤、または精製及び品質基準の規制下にある任意のタンパク質生成物であってよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、タンパク質生成物(対象となるタンパク質)は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、単鎖抗体、ダイアボディ、トリボディもしくはテトラボディ、Fab断片もしくはF(ab’)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG1抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG2抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG4抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2015/0203579A1号に記載されている抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド-1(例えば、米国特許出願公開公報第US2015/0203580A1号に記載されている抗PD-L1抗体)、抗DLL4抗体、抗アンジオポエチン2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載されている抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載されている抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載されている抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載されている抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2015/0313194A1号に記載されている抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載されている抗EGFR抗体または米国特許出願公開公報第US2015/0259423A1号に記載されている抗EGFRvIII抗体)、抗プロタンパク質転換酵素サブチリシンケキシン9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号または米国特許出願公開公報第US2014/0044730A1号に記載されている抗PCSK9抗体)、抗成長分化因子8抗体(例えば、米国特許第8,871,209号または同第9,260,515号に記載されている、抗ミオスタチン抗体としても公知である抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開公報第US2015/0337045A1号または同第US2016/0075778A1号に記載されている抗GCGR抗体)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2014/0271681A1号または米国特許第8,735,095号もしくは同第8,945,559号に記載されている抗IL4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、同第8,043,617号または同第9,173,880号に記載されている抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許出願公開公報第US2014/0271658A1号または同第US2014/0271642A1号に記載されている抗IL33抗体)、抗呼吸器合胞体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2014/0271653A1号に記載されている抗RSV抗体)、抗分化抗原群3(例えば、米国特許出願公開公報第US2014/0088295A1号及び同第US20150266966A1号、ならびに米国特許出願第62/222,605号に記載されている抗CD3抗体)、抗分化抗原群20(例えば、米国特許出願公開公報第US2014/0088295A1号及び同第US20150266966A1号、ならびに米国特許第7,879,984号に記載されている抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗分化抗原群48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載されている抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載されている)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開公報第US2015/0337029A1号に記載されている抗MERS抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2016/0215040号に記載されている)、抗ジカウイルス抗体、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体、または抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開公報第US2016/0017029号ならびに米国特許第8,309,088号及び同第9,353,176号に記載されている抗NGF抗体)ならびに抗アクチビンA抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、抗CD3×抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開公報第US2014/0088295A1号及び同第US20150266966A1号に記載されている)、抗CD3×抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗Muc16二重特異性抗体)、及び抗CD3×抗前立腺特異的膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、対象となるタンパク質は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-アット、アド-トラスツズマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、セルトリズマブペゴル、セミプリマブ、セツキシマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エミシズマブ-kxwh、エムタンシンアリロクマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、ファシヌマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシマブ-dyyb、イピリムマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、ネシツムマブ、ネスバクマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リヌクマブ、リツキシマブ、サリルマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、トレボグルマブ、ウステキヌマブ、及びベドリズマブからなる群から選択される。
【0032】
いくつかの実施形態において、対象となるタンパク質は、Fc部位及び別のドメインを含有する組み換えタンパク質である(例えば、Fc融合タンパク質)。いくつかの実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fc部位に結合した、受容体の1種類以上の細胞外ドメイン(複数可)を含有する、受容体Fc融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、Fc部位は、IgGのヒンジ領域、続いてCH2及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、受容体Fc融合タンパク質は、単一のリガンドまたは複数のリガンドのいずれかに結合する2種類以上の違った受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIl-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト;全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,927,004号を参照されたい)、またはVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリベルセプトもしくはziv-アフリベルセプト;米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号を参照されたい)などのTRAPタンパク質である。他の実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fc部位に結合した、抗体の1つ以上の抗原結合ドメイン(複数可)、例えば、可変重鎖断片及び可変軽鎖断片のうち1つ以上を含有するScFv-Fc-融合タンパク質である。
【0033】
細胞培養
タンパク質産生において、「流加バッチ細胞培養」または「流加バッチ培養」は、細胞及び培地が培養容器に最初に供給され、さらなる培養栄養素が、周期的な細胞及び/もしくは生成物収集を伴ってまたは伴わずに培養の際に培養物に別々の増分でゆっくり流加され、その後培養が終了する、バッチ培養を指す。流加バッチ培養には、周期的に培養全体(細胞及び培地を含んでいてよい)が取り出されて新たな培地によって置き換えられる「半連続流加バッチ培養」が含まれる。流加バッチ培養は、単純な「バッチ培養」と区別される一方で、細胞培養の全成分(動物細胞及び全ての培養栄養素を含む)が、バッチ培養において培養プロセスの開始時に培養容器に供給される。流加バッチ培養は、上清が標準の流加バッチプロセスの際に培養容器から除去されない限り、「灌流培養」とは異なり得るが、灌流培養においては、細胞が、例えば濾過によって培養物中に留め置かれ、培地が、培養容器から連続的または間欠的に導入及び取り出される。しかし、流加バッチ細胞培養の際には試験プロセスのためのサンプルの取り出しが企図される。流加バッチプロセスは、最大作業体積及び/またはタンパク質産生に達したと決定されるまで継続し、タンパク質が続いて収集される。
【0034】
句「連続細胞培養」は、通常は特に成長期において細胞を連続的に成長させる技術に関する。例えば、一定の細胞供給が必要とされる、または対象となる特定のタンパク質の産生が必要とされるとき、細胞培養は、特定の成長期における管理を必要とし得る。そのため、当該特定の時期に細胞を維持するために、したがって条件が連続的にモニタリング及び調整されなければならない。
【0035】
用語「細胞培地」及び「培地」は、細胞の成長を高めるのに必要な栄養素、例えば、炭水化物エネルギー源、必須アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、及びヒスチジン)ならびに非必須アミノ酸(例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、及びチロシン)、微量元素、エネルギー源、脂質、ビタミンなどを典型的には提供する、哺乳類細胞を成長させるのに使用される栄養溶液を指す。細胞培地は、細胞成長を支持する原料を供給する抽出物、例えば血清またはペプトン(加水分解物)を含有し得る。培地は、動物由来抽出物の代わりに、酵母由来または大豆抽出物を含有し得る。化学的に定義されている培地は、化学成分の全てが公知である(すなわち、公知の化学構造を有する)細胞培地を指す。化学的に定義されている培地は、動物由来成分、例えば、血清または動物由来ペプトンを全く含まない。一実施形態において、培地は、化学的に定義されている培地である。
【0036】
溶液はまた、ホルモン及び成長因子を含めた、成長及び/または生存を最小の割合を超えて高める成分を含有していてもよい。溶液は、培養されている特定の細胞の生存及び増殖に最適なpH及び塩濃度に調合され得る。
【0037】
「細胞株」は、細胞の連続継代または継代培養を通して特定の系統に由来する細胞(複数可)を指す。用語「細胞」は、「細胞集団」と互換可能に使用される。
【0038】
用語「細胞」は、組み換え核酸配列を発現するのに好適ないずれの細胞も含む。細胞には、原核生物及び真核生物のもの、例えば、細菌細胞、哺乳類細胞、ヒト細胞、非ヒト動物細胞、鳥細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または細胞融合、例えば、ハイブリドーマもしくはクアドローマなどなどが含まれる。ある特定の実施形態において、細胞は、ヒト、サル(monkey)、サル(ape)、ハムスター、ラットまたはマウス細胞である。他の実施形態において、細胞は、以下の細胞から選択される:チャイニーズハムスター卵巣(CHO)(例えば、CHO K1、DXB-11CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎(例えば、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa、HepG2、WI38、MRC5、Colo25、HB8065、HL-60、リンパ、例えば、Jurkat(Tリンパ球)またはDaudi(Bリンパ球)、A431(上皮)、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び上記細胞に由来する細胞株。いくつかの実施形態において、細胞は、1以上のウイルス遺伝子、例えば、ウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6(登録商標)細胞)を含む。いくつかの実施形態において、細胞は、CHO細胞である。他の実施形態において、細胞は、CHO K1細胞である。
【0039】
II.低分子量タンパク質薬剤不純物を特性決定するためのシステム
マルチサブユニットの治療用タンパク質、特に、モノクローナル抗体(mAb)ベースの治療剤は、その複雑な多連鎖構造、ならびに複数の酵素的及び化学的翻訳後修飾を受け入れる傾向に起因して、サイズに関して本質的に不均一である。mAb薬剤生成物内でのサイズの変化のレベルは、種々の生物物理的方法によって容易に定量化され得るが、これらの生成物関連不純物の一義的な同定は特に困難であった。
【0040】
質量分光分析と結ばれた親水性相互作用クロマトグラフィ(HILIC)を使用して、精製原薬ロット内に存在する、低いレベルの、より低分子量(LMW)の不純物を同定した。N連結型グリカンの除去後、HILIC法により、サイズに基づく溶出順序でmAb関連のLMW不純物を分離する。高分解能精密質量分析計による続いての質量分析は、単独のLC-MS分析において種々の少量のLMW不純物の直接かつ一義的な同定を与える。切断部位及び関連する翻訳後修飾を含めた、遊離軽鎖、半抗体、H2L種(単一の軽鎖を保有する抗体)及びペプチド骨格切断種は、全てが、より詳細に、明確に同定及び解明され得る。常套的な純度アッセイ(例えば、SDS-PAGE及びCE-SDS)によって取得され得ないかかる詳細な情報は、LMW不純物がどのように形成されるかを解明するのに非常に重要であり、この新しい方法を価値のあるものとして、分析的な特性決定のポートフォリオへ追加する。これは、H2L種を事前の富化を伴わずにインタクト質量分析によってmAb原薬サンプルにおいて直接検出した、という最初の公知の報告である。
【0041】
A.LMW不純物を特性決定するためのシステム
当該システムは、移動相A及び移動相Bに連結された親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)カラムを含む親水性相互作用液体クロマトグラフィシステムを含み、HILICカラムは、質量分析システムと流体連通している。HILICカラムは、脱グリコシル化タンパク質との使用に好適である。一実施形態において、開示されているシステムは、Waters ACQUITY(商標)UPLCシステムを有するWaters ACQUITY(商標)UPLC Glycoprotein Amideカラム(300Å、1.7μm、2.1×150mm)を含有する。当該カラムは、典型的には、60℃で操作される。例示的な移動相には、移動相Aとして水中0.1%のTFA、移動相Bとしてアセトニトリル中0.1%のTFAが含まれ、流量を0.2mL/分に設定した。UVトレースは、典型的には、215及び280nmで記録される。一実施形態において、分離は、15%のAで最初の0.5分の保持、続いての、次の0.5分かけての25%のAまでの増加、及び次の40分かけての40%のAまでの別の線形的増加により、55分かけて達成される。勾配は、1分かけて100%のAまで傾斜させ、2分間保持し、その後、1分で15%のAに降下させ、次いで10分超の間、最初の状態で維持して、次の稼働のためにカラムを平衡化することができる。
【0042】
UPLCは、質量分析計、例えばThermo Scientific Q Exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計に直接接続される。キャピラリー電圧は、40任意単位のシースガス流量及び15任意単位の補助ガス流量で、典型的には4.0kVに設定される。キャピラリー温度は、概して350℃に設定され、プローブヒータ温度は、概して400℃に設定される。質量スペクトルはm/z800~4000の質量範囲で取得される。一実施形態において、生データは、Protein Metricsによって開発されたIntact Mass(商標)ソフトウェアを使用してデコンボリューションされる。
【0043】
B.LMW不純物を特性決定する方法
開示されているシステム及び方法は、LMWタンパク質薬剤不純物を特性決定するのに使用され得る。一実施形態は、低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するための方法であって、タンパク質薬剤生成物サンプルを脱グリコシル化する工程、タンパク質薬剤生成物サンプルのタンパク質成分を親水性相互作用クロマトグラフィによって分離する工程、及び、分離されたタンパク質成分を質量分析によって分析して、タンパク質薬剤生成物サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定する工程、を含む、上記方法を提供する。一実施形態において、タンパク質薬剤生成物サンプルは、流加バッチ細胞培養、連続細胞培養または灌流細胞培養から採取または精製される。例示的なタンパク質薬剤生成物として、限定されないが、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせが挙げられる。例示的な低分子量タンパク質薬剤生成物不純物として、限定されないが、前駆体、分解産物、切断された種、Fab、リガンドまたは受容体断片または重鎖断片を含めたタンパク質分解断片、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
別の実施形態は、サンプルを還元する工程を含む。例示的な還元剤として、限定されないが、ジチオトレイトール(DTT、CAS3483-12-3)、ベータ-メルカプトエタノール(BME、2BME、2-ME、b-mer、CAS60-24-2)、2-アミノエタンチオール(2-MEA-HCl、システアミン-HClとも呼ばれる、CAS156-57-0)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、CAS5961-85-3)、システイン塩酸塩(Cys-HCl、CAS52-89-1)、または2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム塩(MESNA)が挙げられる。タンパク質結合を還元するための他の方法、例えば、チオールベースの還元剤が固定化されてペプチド及びタンパク質ジスルフィド結合の固相還元を可能にする、樹脂を含有する固定化還元剤カラムが、当該分野において公知である。ポリペプチド間の化学的相互作用を低減するのに好適な、酸化剤を含めた還元剤も想定される。
【0045】
例示的な溶出プロファイルは、上記に考察されている通りである。
【0046】
C.高純度タンパク質薬剤生成物を生成する方法
一実施形態は、抗体を産生する方法であって、抗体を産生する細胞を、例えば流加バッチ培養において培養する工程、細胞培養からサンプルを得る工程、サンプルにおける低分子量不純物を、本明細書に開示されているシステム及び方法を使用して特性決定及び定量化する工程、ならびに細胞培養の1つ以上の培養条件を変更して、抗体の細胞培養の際に産生される、特性決定される低分子タンパク質薬剤不純物の量を低減する工程、を含む、上記方法を提供する。典型的には、上記条件は、0.05%~30.0%、好ましくは0.05%~15%、0.05%~10%、0.05%~5%、または0.05%~2%(w/w)の範囲でタンパク質薬剤不純物を有するように変更される。
【0047】
低分子量タンパク質薬剤不純物の量を低減するように変化させる、細胞培養の1つ以上の条件は、温度、pH、細胞密度、アミノ酸濃度、浸透圧、成長因子濃度、かき混ぜ、ガス分圧、界面活性剤、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0048】
一実施形態において、抗体を産生する細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞である。他の実施形態において、細胞は、ハイブリドーマ細胞である。
【0049】
別の実施形態は、1~5%、5~10%、10~15%、15~20%のタンパク質薬剤不純物を有する、本明細書において提供されている方法によって産生される抗体を提供する。
【実施例0050】
実施例1:mAb-1原薬サンプルのHILIC分離
材料
この研究に、Regeneron製の組み換えIgG1mAb(mAb-1)を使用した。ペプチド-N-グリコシダーゼF(PNGaseF、#P0704L)をNew England Biolabsから購入し、1Mトリス-塩酸塩pH7.5溶液(#15567-027)をInvitrogenから購入し、ジチオトレイトール(DTT、#20291)をThermo Fisher Scientificから購入し、L-システイン(#168149-25G)をSigma-Aldrichから購入した。アセトニトリル(LC-MS grade、#A955-4)及びトリフルオロ酢酸(TFA、#PI28904)をFisher Scientificから購入した。Milli-Q水は社内で提供された。
【0051】
方法
mAb-1の脱グリコシル化ならびにDTT及びL-システインによる制限された還元
mAb-1サンプルを、100mM Tri-HCl(pH7.5)を使用して5μg/μLの最終濃度まで希釈した。PNGase Fを1単位/10μgタンパク質の酵素対基質比で添加した。脱グリコシル化反応を37℃で3時間行った。DTTによる制限された還元を開始するために、脱グリコシル化mAb-1サンプルの20μgアリコートを5mM DTTによって還元し、直後に、オンラインUV及び質量分光分析用のHILICカラム上に注入した。L-システインによる制限された還元を開始するために、脱グリコシル化mAb-1サンプルの20μgアリコートを5mM L-システインによって、次いで、37℃で30分間還元した後、オンラインUV及び質量分光分析用のHILICカラム上に注入した。
【0052】
HILIC-UV及びHILIC-MS分析
Waters ACQUITY UPLC Glycoprotein Amideカラム(300Å、1.7μm、2.1×150mm)をWaters ACQUITY UPLCシステムにおいて使用して全てのHILIC分離を行った。当該カラムを60℃で操作した。移動相は、移動相Aとして水中0.1%のTFA、移動相Bとしてアセトニトリル中0.1%のTFAであり、流量を0.2mL/分に設定した。UVトレースを215及び280nmで記録した。分離を、15%のAで最初の0.5分の保持、続いての、次の0.5分かけての25%のAまでの増加、及び次の40分かけての40%のAまでの別の線形的増加により、55分かけて達成した。勾配を、次いで、1分かけて100%のAまで傾斜させ、2分間保持し、その後、1分で15%のAに降下させ、次いで10分超の間、最初の状態で維持して、次の稼働のためにカラムを平衡化した。UPLCをThermo Scientific Q Exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計に直接接続した。キャピラリー電圧を、40任意単位のシースガス流量及び15任意単位の補助ガス流量で、4.0kVに設定した。キャピラリー温度を350℃に設定し、プローブヒータ温度を400℃に設定した。質量スペクトルをm/z800~4000の質量範囲で取得した。生データを、Protein Metricsによって開発されたIntact Mass(商標)ソフトウェアを使用してデコンボリューションした。
【0053】
結果
組み換えIgG1mAb(mAb-1)原薬サンプルをモデル分子として使用した。PNGaseFにより処理して各重鎖においてN連結型グリカンを除去した後、脱グリコシル化mAb-1サンプルをHILICカラムにおいて分離し、(280nm及び215nmの両方での)フォトダイオードアレイ(PDA)検出ならびに質量分光分析の両方によって分析した(図1A及び1B)。UVプロファイル(図A1、底部トレース)において示すように、mAb-1原薬サンプルにおけるLMW不純物の全体のレベルが非常に低く、成功裏の精製プロセスを示唆した。質量分光分析から生じた全イオンクロマトグラム(TIC)をUVクロマトグラムと比較することによって、(約18.2分での保持時間による)さらなるピークがTICトレースにおいて観察され、これは、PNGaseFによってmAb-1から放出される主なグリカン形態(G0F)に相当した。オリゴ糖類は、280nmまたは215nmのいずれにおいてもUV吸収を示さないため、UV検出においては不可視である。PNGaseF反応体ピークに加えて、全ての他の副ピークは、mAb-1関連のLMW不純物、具体的には、遊離軽鎖(複数の修飾あり)、Fab断片、半抗体、Fab切断種及びH2L種と同定された(図1A及び1B)。HILICカラムにおけるこれらのLMW不純物の溶出順序は、これらの相対サイズに関連しており、より小さな断片が、より大きな断片よりも早く溶出した。この分析の前にmAb分子からN連結型グリカンを除去することが必須であることに注意することが重要である。さもなければ、HILICカラムにおけるサイズに基づく溶出順序が、グリカンの存在または非存在及び異なる糖型によって複雑化されるであろう。
【0054】
実施例2:遊離軽鎖
結果
複数の軽鎖関連不純物をmAb-1サンプルのHILIC-MS分析において検出した(図2A~2E)。各種の抽出イオンクロマトグラム(XIC)は、HILIC分離の際に異なる保持時間も示したことを示唆した(図2A)。興味深いことに、システイン化軽鎖(+約119Da)が、mAb-1サンプルに存在する全ての軽鎖種のうちの主な形態であると同定された。これは、UVによって可視である唯一の種である(図2D)。システイン化は、細胞質において見出され得る、重鎖間及び軽鎖間ジスルフィド結合と遊離システイン分子との間のチオール-ジスルフィド交換反応の結果として起こり得る。また、グルタチオン化軽鎖(+約306Da)もまた、システイン化軽鎖よりも僅かに遅い保持時間で同定された(図2E)。システイン化プロセスと同様に、細胞質においても見出され得る遊離グルタチオン(GSH)分子は、この修飾の原因となるはずである。予測質量からの差分質量が+約90Daである別の興味深いLC変異体も観察された(図2C)。組み換えLys-Cプロテアーゼを使用したその後のペプチドマッピング分析は、軽鎖C末端Cys残基へのこの修飾を位置付けた。正確な差分質量(+89.98Da)及び同位体分布に基づいて、この修飾が、重鎖間及び軽鎖間ジスルフィド結合と2-メルカプト酢酸分子との間のチオール-ジスルフィド交換反応の結果であったことが推測された。しかし、この化合物がmAb産生の際にどのように導入または生成されたかは現在調査中である。UVトレースにおいては不可視であるが、未修飾遊離軽鎖はまた、C末端アミノ酸残基の逐次的な切り取りに相当する軽鎖変異体の群と併せて、より感度の高い質量分光分析によっても検出され得る(図2C)。デコンボリューションマススペクトル(図2C)に示されているように、得られたアミノ酸のラダーは、軽鎖のC末端配列と一致した(Gly-Glu-Cys)。軽鎖からのC末端アミノ酸残基の除去は、細胞培養におけるいくつかのカルボキシルペプチダーゼの存在に起因する(Dick LW,Jr.,Qiu D,Mahon D,Adamo M,Cheng KC.Biotechnology and bioengineering,100:1132-43(2008);Hu Z,et al.Biotechnology and bioengineering,113:2100-6(2016)。最後に、質量減少が約34Daである別の軽鎖変異体も同定され(図2B)、軽鎖C末端Cys残基におけるβ脱離を介してのシステインからデヒドロアラニンへの変換が可能であることを示唆した。この反応は、これまでによく研究されており、保存の際の抗体ヒンジ領域での後の切断のための主な経路として同定されている(Cohen SL,Price C,Vlasak J.Journal of the American Chemical Society,129:6976-7(2007))。全てのこれらの軽鎖関連不純物は、破壊された重鎖間及び軽鎖間ジスルフィド結合にもかかわらず強い非共有結合的相互作用を介して重鎖に依然として結合することができるため、ネイティブ条件下でSEC法に検出される傾向にないことに注目すべきである。
【0055】
実施例3:Fab断片
結果
IgG1分子における重鎖の上部ヒンジ領域は、2つの相補性LMW種、Fab断片及びFab切断種の形成につながる加水分解の影響を受けやすいことがよく知られている(Cordoba AJ,Shyong BJ,Breen D,Harris RJ.Journal of chromatography B: Analytical technologies in the biomedical and life sciences,818:115-21(2005)。HILIC-MS法により、mAb-1サンプルにおける両方の種を検出した。異なる質量を有する4つの主なFab断片が同定され(図3A~3D)、切断部位を、cDNA由来のアミノ酸配列に基づいて、測定質量を予測質量と比較することによって位置付けた。アミノ酸パターンは、重鎖ヒンジ領域配列(Cys-Asp-Lys-Thr-His-Thr-Cys)と一致してデコンボリューションマススペクトルにおいて示された。いずれのFab断片も、プロテインA結合部位の欠失に起因して精製プロセスの際に容易に除去されるはずであることは注目に値することである。そのため、最終薬剤生成物におけるFab断片の存在は、これらの不純物がサンプルの保存の際に分解産物として導入されたことを示唆した。これらの種の成功裏の検出は、HILIC-MS法がmAb薬剤の開発の際に安定性及び強制分解の研究に有用であることを強調している。
【0056】
実施例4:半抗体
結果
半抗体は、ヒンジ領域における重鎖-重鎖間のジスルフィド結合が、重鎖内ジスルフィド結合にスクランブリングする結果として形成される。ネイティブ条件下、mAb分子の4鎖構造は、2つの重鎖C末端領域間の強い非共有結合的相互作用により、このスクランブリングによっては中断されないままでいる。しかし、変性条件による方法、例えば、SDS-PAGEまたはCE-SDSが使用される場合、2つの半抗体分子は、互いから解離してLMW不純物として現れる。mAb-1生成物のHILIC-MS分析の際、半抗体分子が明確に同定された(図3B)。測定質量(73,099.5Da)と予測質量(73,100.1Da)との間の良好な一致は、大規模に修飾された遊離軽鎖とは異なり、ジスルフィド結合スクランブリング経路と一致して、実質的な修飾が半抗体の形成に関連しなかったことを示唆した。
【0057】
実施例5:Fab切断種
結果
重鎖ヒンジ領域の切断後のFab断片に対する相補的断片として、Fab切断種も、HILIC-MS法によりmAb-1サンプルにおいて同定された(図3C)。HILICカラムにおいて、これらの種が、部分的に分解されたショルダーピークとして主なピークの直前に溶出された。後の質量測定により、Fab切断種及び切断部位の同一性が、Fab断片において観察されたものと一致してヒンジ領域で位置付けられたことが確認された。電気泳動法と比較して分離において劣る分解能にもかかわらず、HILIC-MS法は、正確な質量測定により高い忠実性及び特異性で普及しており、一義的な同定を可能にする。Fab断片とは異なり、Fab切断種は、プロテインAに結合する保存されたFc領域に起因して、精製の際に主な種から除去することが非常に困難である。Fabアームを欠失しているモノクローナル抗体分子は、2つの標的結合部位のうち1つが存在しないため、易感染性の効能を示すことが期待される。二重特異性mAb分子では、両方のFabアームが治療的機能を達成するのに必須であるため、1つのFabアームの損失は薬剤活性に弊害をもたらす。そのため、原薬サンプルにおいてこれらの種を直接検出及び同定する能力は、時間及び資源が節約されるだけでなく、富化プロセスの際に起こり得るアーチファクトの導入を回避するため、かなり重要である。
【0058】
実施例6:H2L種
結果
H2L種は、2つの重鎖及び1つの軽鎖から構成されており、SDS-PAGE及びCE-SDS方法によって最も豊富なLMW不純物として頻繁に観察されているが、これらの同定は、通常、間接的かつ不十分な証拠によってのみ支持されている。例えば、SDS-PAGEにおけるH2L含有副バンドのN末端シーケンシング分析は、重鎖及び軽鎖の両方の最初のいくつかのアミノ酸残基を明らかにすることができ、重鎖及び軽鎖間のシグナル強度比は、2:1の比であることを示唆している。H2L含有副バンドのゲル内消化、続いてのLC-MSベースのペプチドマッピング分析は、重鎖及び軽鎖の両方の存在を明確に確認することができる。しかし、重鎖及び軽鎖間の正確な比を確立することは困難である。両方法は、H2L種の部分的な同定を提供するが、いずれも、完全な構造を明らかにすることができない。対照的に、HILIC-MS法は、インタクトタンパク質レベルでのH2L種の直接の同定を与える。mAb-1生成物において、均一なH2L種が、インタクト抗体の僅かに前にFab切断種と一緒に共溶出することが観察された。H2L種の検出質量(122,851.0Da)は、H2L分子の予測分子量(122,884.5Da)よりもおよそ34Da小さかった。重鎖システイン残基のβ脱離、恐らくは、重鎖間及び軽鎖間ジスルフィド結合を本来形成するものは、mAb-1サンプルにおいてH2L種を形成する根本原因であった。このレベルの信頼及び詳細な情報は、他の確立されている純度アッセイによっては達成され得ず、この方法を、これらのLMW不純物の本質的な同定を与える際に非常に価値のあるものにする。この研究は、H2L種が事前の富化を伴わずにmAb原薬サンプルにおいてインタクト質量分析によって直接検出されることが示される最初のケースであるとされる(図3D)。
【0059】
実施例7:制限された還元による強制条件下で生じたLMW不純物
結果
mAb-1サンプルのHILIC-MS分析と比較して、SDS-PAGE及びCE-SDS方法は、重鎖二量体及び遊離重鎖を含めたさらなるLMW不純物を頻繁に同定した。これらの不純物を検出する際の新しいHILIC法の可能性を実証するために、脱グリコシル化mAb-1サンプルをネイティブ条件下で還元剤(ジチオトレイトール(DTT)及びL-システイン)によってさらに処理して種々のLMW不純物の形成を促進した。ネイティブ条件下では、mAb分子における鎖間ジスルフィド結合のみが、分子における唯一の溶媒アクセル可能なジスルフィド結合であるため、DTTによって還元され得ることが報告されている(Liu H,et al.Analytical chemistry,82:5219-26(2010))。mAb-1分子をDTTまたはL-システインに短期間暴露した後、遊離軽鎖、遊離重鎖、半抗体、重鎖二量体及びH2L種を含めた、異なる重鎖及び軽鎖の組み合わせによるLMW不純物が生じ得る。図4に示すように、これらの予測されたLMW種が、相対的サイズと一致する溶出順序でHILIC分離において検出された。未処理mAb-1サンプルにおいて観察されたものに加えて、2種類以上のLMW種、具体的には、遊離重鎖種及び重鎖二量体種が、遊離軽鎖と半抗体との間、及び半抗体の僅か後に(部分的に分解されたピーク)、それぞれ溶出することが観察された。
【0060】
溶出順序が案内する割り当てに加えて、HILIC分離後の続いての質量分光分析により、正確な質量に基づいて各不純物の同一性をさらに確認した(図5A~5F)。興味深いことに、DTT処理mAb-1サンプルにおける軽鎖種が、未処理サンプルにおいて観察された軽鎖種とはかなり異なる保持時間を示した(図4)。正確な質量測定に基づき、保持時間の差は、未処理サンプルにおいては存在するがDTT-処理サンプルにおいては存在しない軽鎖におけるシステイン化に起因した。一貫して、mAb-1をL-システインで処理した場合、小さい画分の軽鎖種が未処理サンプルにおける軽鎖種と同じ保持時間で観察され、これは、L-システイン-処理サンプルにおけるシステイン化軽鎖の発生を示唆した。最終的に、DTT-処理サンプルにおけるH2L種の測定質量(122,884.5Da)は、ジスルフィド結合還元を介して生じたH2L種(予測質量:122,884.5Da)、及び、β脱離を介して生じた、低いレベルの予め存在するH2L種(予測質量:122,850.4Da)から主に構成されるため、未修飾H2L種における予測質量(122,884.5Da)と一致した。
【0061】
上記の明細書において本発明をそのある特定の実施形態に関連して説明し、多くの詳細を説明目的で記載しているが、本発明がさらなる実施形態の影響を受けやすいこと、及び、本明細書に記載されている詳細のある特定のものが、本発明の基本原理から逸脱することなくかなり変更され得ることが当業者には明らかである。
【0062】
この開示を通して言及されている全ての公開公報は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
本明細書に列挙されている全ての参照文献は、全体が参照により組み込まれる。本発明は、その精神及び本質的な特質から逸脱することなく他の具体的な形態で具現化され得、したがって、本発明の範囲を示すとして、上記の明細書よりもむしろ、添付の特許請求の範囲が参照されるべきである。
【0064】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> Regeneron Pharmaceuticals, Inc.
<120> System and Method for Characterizing Drug Product Impurities
<150> US 62/610,029
<151> 2017-12-22
<150> US 62/743,632
<151> 2018-10-10
<160> 1
<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 7
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic
<400> 1
Ser Phe Asn Arg Gly Glu Cys
1 5
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023139186000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質薬剤生成物における低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定するための方法であって、以下:
i)タンパク質薬剤生成物のサンプルを脱グリコシル化する工程であって、前記タンパク質薬剤生成物が、抗体、融合タンパク質、組み換えタンパク質、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程
ii)前記サンプルを還元する工程;
iii)前記タンパク質薬剤生成物サンプルにおけるタンパク質成分を親水性相互作用クロマトグラフィによって分離する工程;
iv)前記分離されたタンパク質成分を質量分析によって分析し、前記タンパク質薬剤生成物サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を特性決定する、工程
を含み、前記低分子量タンパク質薬剤生成物不純物が、遊離軽鎖、半抗体、H2L、H2、HL、HC、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記タンパク質薬剤生成物が、0.05%~30.0%(w/w)の低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を含む、前記方法。
【請求項2】
前記タンパク質薬剤生成物サンプルが、流加バッチ培養からのものである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
親水性相互作用クロマトグラフィによる前記タンパク質薬剤生成物のサンプルにおけるタンパク質成分の分離が、前記タンパク質薬剤生成物からN連結型グリカンを除去することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
親水性相互作用クロマトグラフィによる前記タンパク質薬剤生成物のサンプルにおけるタンパク質成分の分離が、変性条件下で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質薬剤生成物が、IgG1抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質薬剤生成物が、組み換えIgG1mAb(mAb-1)抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質薬剤生成物が、モノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質薬剤生成物が、Fc融合タンパク質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質薬剤生成物が、0.05%~25%w/wの低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質薬剤生成物が、0.05%~15%w/wの低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質薬剤生成物が、0.05%~10%w/wの低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質薬剤生成物が、0.05%~5%w/wの低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法の、タンパク質薬剤生成物の安定性の決定及び強制分解研究のための、使用。
【請求項14】
抗体を産生する方法であって、以下:
i)前記抗体を産生する細胞を細胞培養において培養する工程;
ii)前記細胞培養からサンプルを得る工程;
iii)前記サンプルにおける低分子量タンパク質薬剤生成物不純物を請求項1または2に記載の方法によって特性決定する工程及び定量化する工程、ならびに
iv)前記細胞培養の1つ以上の培養条件を変更、前記抗体の細胞培養の際に産生される特性決定される低分子タンパク質薬剤生成物不純物の量を低減する、工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
低分子量タンパク質薬剤生成物不純物の量を低減するように変更される、前記細胞培養の前記1つ以上の条件が、pH、細胞密度、アミノ酸濃度、浸透圧、成長因子濃度、かき混ぜ、ガス分圧、界面活性剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、細菌細胞、酵母細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞COS細胞網膜細胞、Vero細胞、CV1細胞、腎細胞HeLa細胞、HepG2細胞、WI38細胞、MRC5細胞、Colo25細胞、HB8065細胞、HL-60細胞、リンパ細胞A431(上皮)細胞、U937細胞、3T3細胞、L細胞、C127細胞、SP2/0細胞、NS-0細胞、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び前記細胞のいずれかに由来する細胞株からなる群から選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、ハイブリドーマ細胞またはクアドローマ細胞である、請求項1416のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記CHO細胞が、CHO K1、DXB-11CHO、またはVeggie-CHOである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記COS細胞が、COS-7細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記腎細胞が、HEK293、293EBNA、MSR293、MDCK、HaKまたはBHK21である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記リンパ細胞が、自家T細胞、Jurkat(Tリンパ球)またはDaudi(Bリンパ球)である、請求項16に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023139186000001.xml