(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139192
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】CRM197タンパク質発現方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230926BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/71 20060101ALI20230926BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230926BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230926BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/31
C12N15/71 Z
C12P21/02 A
C12N1/21
C07K14/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023120482
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2022514680の分割
【原出願日】2019-10-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0108892
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】516353272
【氏名又は名称】ジェノフォーカス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GENOFOCUS CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】522084256
【氏名又は名称】イーユーバイオロジクス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EUBIOLOGICS.CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンド
(72)【発明者】
【氏名】パク ウネ
(72)【発明者】
【氏名】カン ジョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パン ジェグ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウィジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ チャンキュ
(72)【発明者】
【氏名】パク ミンチョル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率的で、且つ費用効果の良い方式でCRM197タンパク質を生産する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、CRM197タンパク質発現用シグナル配列、前記シグナル配列をコードする核酸、前記核酸及びCRM197タンパク質遺伝子を含む核酸構造体又は発現ベクター、前記核酸構造体又は発現ベクターが導入された組換え微生物、及び前記組換え微生物を培養する段階を含むCRM197タンパク質の製造方法を提供する。本発明によると、酸化還元電位を調節していない一般の大腸菌でも、親型菌から分離されたタンパク質と理化学的/免疫学的性質が同一であるCRM197タンパク質を発現させることができ、周辺細胞質への分泌増加のための培地のpH変化がなくても周辺細胞質への分泌効率が高いCRM197タンパク質の製造が可能であるので、CRM197タンパク質の生産において非常に有用である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号13~21のいずれか一つのアミノ酸配列で表される、CRM197タンパク質発現用シグナル配列。
【請求項2】
請求項1に記載のCRM197タンパク質発現用シグナル配列をコードする核酸。
【請求項3】
前記核酸は、配列番号4~12のいずれか一つの塩基配列で表されることを特徴とする、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
前記核酸は、配列番号6又は配列番号8の塩基配列で表されることを特徴とする、請求項2に記載の核酸。
【請求項5】
請求項2に記載の核酸及びCRM197タンパク質の遺伝子を含む核酸構造体。
【請求項6】
前記CRM197タンパク質の遺伝子は、配列番号2の塩基配列で表されることを特徴とする、請求項5に記載の核酸構造体。
【請求項7】
請求項2に記載の核酸及びCRM197タンパク質の遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項8】
前記CRM197タンパク質の遺伝子は、配列番号2の塩基配列で表されることを特徴とする、請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項9】
Trcプロモーターをさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項5に記載の核酸構造体又は請求項7に記載の発現ベクターが導入されている組換え微生物。
【請求項11】
大腸菌(Escherichia coli)であることを特徴とする、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項12】
次の段階を含むCRM197タンパク質の製造方法:
(a)請求項10に記載の組換え微生物を培養し、CRM197タンパク質を生成する段階;及び
(b)前記生成されたCRM197タンパク質を回収する段階。
【請求項13】
前記(b)段階は、周辺細胞質に分泌されたCRM197タンパク質を回収することを特徴とする、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CRM197タンパク質を大腸菌で発現し、周辺細胞質(periplasm)に分泌させるためのシグナル配列及びその用途に関し、より具体的には、CRM197タンパク質発現用シグナル配列、前記シグナル配列をコードする核酸、前記核酸及びCRM197タンパク質遺伝子を含む核酸構造体又は発現ベクター、前記核酸構造体又は発現ベクターが導入された組換え微生物、及び前記組換え微生物を培養する段階を含むCRM197タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフテリア毒素(diphtheria toxin、DT)は、コリネバクテリウムジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)の病原性菌株から合成及び分泌されるタンパク質性外毒素である。ジフテリア毒素は、535個の残基からなる前酵素(proenzyme)として分泌され、トリプシン-類似プロテアーゼによって処理されることによって2個の断片(AとB)に分離される、ADP-リボシル化酵素(ADP-ribosylating enzyme)である。断片Aは、触媒的に活性である部位で、特異的にタンパク質合成因子EF-2をターゲットとするNAD-依存性ADP-リボシルトランスフェラーゼであって、これによってEF-2を不活性化させ、細胞内でのタンパク質の合成を中断させる。
【0003】
ジフテリア毒素の多様な無毒性形態と、部分毒性の免疫学的に交差反応する形態(CRM又は交差反応する各物質)との分離を通じてCRM197が発見された(Uchida et al.,Journal of Biological Chemistry 248,3845-3850,1973)。好ましくは、CRMは、DT全体又はその一部を含む任意の大きさ及び組成であり得る。
【0004】
CRM197は、一つのアミノ酸置換G52Eが存在する、酵素学的に高度に非活性的で、且つ無毒性である形態のジフテリア毒素である。この突然変異は、NAD-結合部位の前側に位置した活性-部位ループに固有の柔軟性を付与することによって、NADに対するCRM197の結合性を低下させ、DTの毒性をなくす(Malito et al.,Proc Natl Acad Sci USA 109(14):5229-342012)。CRM197は、DTと同様に、二硫化結合を2個保有している。二硫化結合の一つは、Cys186をCys201と連結し、断片Aを断片Bと連結する。2番目の二硫化結合は、断片B内でCys461をCys471と連結する。DT及びCRM197は、断片Aに起因したヌクレアーゼ活性を有している(Bruce et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,2995-8,1990)。
【0005】
多数の抗原は、タンパク質に化学的に連結されていない限り、特に幼児において免疫原性が低いので、接合体又は接合ワクチンに製造される。このような接合ワクチンでは、タンパク質成分を「運搬タンパク質(carrier protein)」とも言う。CRM197は、タンパク質-炭水化物接合及びハプテン-タンパク質接合で運搬タンパク質として頻繁に使用される。CRM197は、運搬タンパク質として、ジフテリアトキソイドのみならず、他のトキソイドタンパク質を凌ぐ多くの長所を有している(Shinefield Vaccine,28:4335,2010)。
【0006】
ジフテリア毒素(DT)の製造方法は、当業界によく知られている。例えば、DTは、コリネバクテリウムジフテリアの培養物からトキシンの精製後の化学的無毒化(detoxification)によって生産され得るか、組換え体又は遺伝的に無毒化されたトキシンの類似体の精製によって製造され得る。
【0007】
タンパク質の存在量(abundance)により、ワクチンに使用するためのCRM197などのジフテリア毒素の大量生産が不可能であった。このような問題点は、以前に大腸菌でCRM197を発現させることによって取り扱われており(Bishai,et al.,J Bacteriol.169:5140-5151)、Bishai等は、分解されたタンパク質の生産をもたらすジフテリア毒素(toxシグナル配列を含む)を含有する組換え融合タンパク質の発現を記述した。
【0008】
周辺細胞質でのバクテリア毒素の生産は、細胞質(cytoplasmic)の生産に比べて、i)たんぱく質が信号ペプチドの切断後に成熟型で生産されたり、ii)大腸菌の周辺細胞質が二硫化結合の形成を許容する酸化環境であるので、可溶性の、確実にフォルディングされたタンパク質の生産を促進することができ、iii)大腸菌の周辺細胞質が細胞質より少ないプロテアーゼを含有し、発現されたタンパク質のタンパク質分解性切断を避けるように促進することができ、iv)周辺細胞質がさらに少ないタンパク質を含有し、より純度の高い組換えタンパク質が収得されることを許容する。
【0009】
一般に、タンパク質上のシグナル配列(signal sequence)の存在は、周辺細胞質へのタンパク質の輸送(原核宿主)又は分泌(真核宿主)を促進する。原核宿主におけるシグナル配列は、新生タンパク質を内膜を横切って周辺細胞質に調整し、その後、シグナル配列は切断される。すなわち、商業的に重要なタンパク質をより効率的に大量生産できるシグナル配列の探索が重要であり、組換え微生物の開発が要求されている実情である。
【0010】
そこで、本発明者等は、効率的で、且つ費用効果の良い方式でCRM197タンパク質を生産する方法を開発しようと鋭意努力した結果、特定のシグナル配列を選択し、大腸菌での翻訳(translation)を最適化するためにコドンコンテキスト(codon context)と2次構造を複合し、塩基配列をデザインしており、CRM197タンパク質をコードするCRM197塩基配列も大腸菌での発現を最適化しており、これらを用いる場合、大腸菌でCRM197が効率的に発現され、pH変化がなくてもCRM197の周辺細胞質への分泌が効率的に行われることを確認し、本発明を完成した。
【0011】
本背景技術部分に記載した前記情報は、本発明の背景に対する理解を向上させるためのものに過ぎなく、よって、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に既に知られている先行技術を形成する情報を含まなくてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、CRM197タンパク質を大腸菌の周辺細胞質に分泌し、CRM197タンパク質の大腸菌に対する毒性を最小化し、発現を極大化させるために、特定配列のCRM197タンパク質発現用シグナル配列、前記シグナル配列をコードする核酸、及び前記核酸を用いたCRM197タンパク質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、配列番号13乃至配列番号21のいずれか一つのアミノ酸配列で表される、CRM197タンパク質発現用シグナル配列を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記CRM197タンパク質発現用シグナル配列をコードする核酸を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記核酸及びCRM197タンパク質の遺伝子を含む核酸構造体又は発現ベクター、前記核酸構造体又は発現ベクターが導入されている組換え微生物、及び前記組換え微生物を培養する段階を含むCRM197タンパク質の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】発現モジュールTPB1Tv1.3の模式図あって、Ptrcはtrcプロモーター(promoter)を、RBSはA/Uリッチエンハンサー(rich enhancer)+SD、λtR2 & T7Teを意味し、rrnB T1T2は転写ターミネーター(transcription terminators)を意味し、BsaI及びDraIは、クローニング時に使用された制限酵素部位(restriction enzyme site)を意味する。
【0017】
【
図2】大腸菌発現プラスミドpHex1.3を示した図であって、Ori(pBR322)はpBR322の複製起点(replication origin)を意味し、KanRはカナマイシン(kanamycin)マーカーを意味し、lacIはlacI遺伝子を意味し、残りは
図1と同じである。
【0018】
【
図3】CRM197発現プラスミド製作の模式図であって、T1はλtR2及びT7Te転写ターミネーターを意味し、T2はrrnB T1T2転写ターミネーターを意味し、矢印はPCRプライマーを意味し、アルファベットA、B、C、DはLICのための相同領域(homologous region)を意味し、残りは
図1と同じである。
【0019】
【
図4】多様な大腸菌の菌株でL3、L5融合CRM197の発現様相を示した図であって、大腸菌の総細胞(total cell)のSDS_PAGE後のクマシー染色(Coomassie staining)(左)及びウェスタンブロッティング(Western blotting)(右)を示す。CはC2894Hを意味し、BはBL21(DE3)を意味し、WはW3110-1を意味し、OはOrigami
TM2を意味し、Sはシャッフル(Shuffle)を意味する。C-vは、ネガティブコントロール(negative control)として使用されたpHex1.3を含有するC2984Hを示し、L3、L5は、融合されたシグナル配列を示し、CRM197はレファレンス(reference)CRM197を示す。クマシー染色のためには、1ウェル当たり0.025 OD
600に該当する細胞をローディングし、ウェスタンブロッティングの場合は、0.0005 OD
600に該当する細胞をローディングした。
【0020】
【
図5】インデューサー(inducer)の種類及び濃度がL5によって誘導されるCRM197発現に及ぼす影響を示した図であって、SDS_PAGE後のクマシー染色(左)及びウェスタンブロッティング(右)を示す。ローディング量は
図4と同一であって、Iは不溶性画分(insoluble fraction)を意味し、Sは可溶性画分(soluble fraction)を意味する。(A)は25℃培養で、(B)は30℃培養である。
【0021】
【
図6】L5融合によって誘導されるCRM197タンパク質の位置を示した図であって、上側は、SDS_PAGE後のクマシー染色を示し、下側はウェスタンブロッティングを示す。CrはレファレンスCRM197を示し、矢印は成熟(matured)CRM197の位置を示す。P1は、原形質膜誘導緩衝溶液の処理後の上澄み液を意味し、P2は周辺細胞質画分(periplasmic fraction)を意味し、Cyは細胞質画分(cytoplasm faction)を意味する。
【0022】
【
図7】インデューサーの種類及び濃度がL3によって誘導されるCRM197発現に及ぼす影響を示した図であって、(A)は25℃培養で、(B)は30℃培養である。
【0023】
【
図8】L3融合によって誘導されるCRM197タンパク質の位置を示した図である。
【0024】
【
図9】L3菌株のpH、温度、インペラー速度、溶存酸素量(Dissolved oxygen、DO)の変化及び発現誘導剤の投入時間を示した図であって、(A)は、温度を30℃に維持し、(B)は、発現誘導前に温度を25℃に下げた。
【0025】
【
図10】L5菌株のpH、温度、インペラー速度、溶存酸素量(Dissolved oxygen、DO)の変化及び発現誘導剤の投入時間を示した図である。
【0026】
【
図11】培養中における発現誘導剤の投入前後のCRM197タンパク質発現の変化を示した図であって、(A)は、30℃でL3菌株の発現を誘導し、(B)は、25℃でL3菌株の発現を誘導し、(C)は、25℃でL5菌株を発現を誘導した。(A)のline 3、10、(B)のline 4、10、及び(C)のline 3及び9は、レファレンスCRM197 200ngをローディングした。(A)のline 1、2、(B)のline 1、2、3、及び(C)のline1、2は、発現誘導剤の投入前の細胞培養液で、(A)と(C)のline 16は、培養終了後の上澄み液で、以降のlineは、誘導剤の投入後、2時間単位でサンプリングされた細胞培養液である。ローディング量は
図4と同一である。
【0027】
【
図12】L3/L5菌株でのCRM197タンパク質の発現及び分離挙動を示した図であって、(A)は、L3を用いた培養でのタンパク質の分離挙動で、(B)は、L5を用いた培養でのタンパク質の分離挙動である。Line 1は、レファレンスCRM197 200ngをローディングし、Line 2は、培養終了後の細胞培養液(total cell)で、Line 3は、原形質膜誘導緩衝溶液の処理後の上澄み液で、Line 4と7は、周辺細胞質画分(Line 7は、line 4より4倍のタンパク質をローディングした)を示し、Line 5と6は細胞質画分を示す。
【0028】
【
図13】DEAEクロマトグラフィー(Chromatography)(A)とHAクロマトグラフィー(B)の精製サンプルをSDS-PAGEで分析した結果である。(A)のLine 1は、コリネバクテリアで生産したCRM197で、Line 2は、回収された周辺細胞質画分に存在するタンパク質を意味する。Line 3は、限外ろ過後、2倍濃縮されたDEAEクロマトグラフィーのローディング前のサンプルで、Line 4と5は、DEAEクロマトグラフィーのフロースルー(Flow-through)モード及び洗浄液でCRM197を除外した不純物タンパク質を確認することができる。Line 6は、不純物が除去された溶出サンプルで、Line 7は、レジンに結合されている全てのタンパク質を除去するために高濃度の塩を用いて溶出したサンプルである。(B)のHA Eluは、HAレジンに結合されていないタンパク質を除去した後で溶出したCRM197である。
【0029】
【
図14】最終精製CRM197をSEC-HPLCで分析した結果であって、純度は99%以上であった。
【0030】
【
図15】SDS-PAGE(左)及びウェスタンブロット(右)結果である。Line 1は、コリネバクテリウムで生産したCRM197で、Line 2は、大腸菌(L3)で生産したCRM197である。二つのCRM197は、同一の位置でバンドが確認された。
【0031】
【
図16】LC/MSを用いたインタクトタンパク質の分子量(Intact protein molecular mass)の分析結果であって、分子量は、58,409Daであって理論的分子量と一致した。
【0032】
【
図17】CD(Circular dichroism)分析結果であって、コリネバクテリウム生産CRM197(
●)と大腸菌pHex-L3生産CRM197(
Χ)との間に高次構造の差がないことを確認した。
【0033】
【
図18】蛍光スペクトル分析結果であって、コリネバクテリウム生産CRM197(
●)と大腸菌pHex-L3生産CRM197(実線)は、最大放出波長が同一に338nmであった。
【発明を実施するための形態】
【0034】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同一の意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法は、本技術分野でよく知られており、通常的に使用されるものである。
【0035】
本発明の一実施例では、9個のシグナル配列をCRM197タンパク質と融合させることによって発現を試みた。各シグナル配列は、コドンコンテキストとmRNAの2次構造を考慮した上で、翻訳に最適化した塩基配列(配列番号4乃至配列番号12)をデザインした。この構造物を発現プラスミドpHex1.3に挿入し、各構造物の最適な大腸菌の菌株を探すために5種の大腸菌の菌株でのCRM197の発現を調査した。また、選定された大腸菌で培養温度、インデューサーの種類及び濃度を設定した。結果的に、前記各構造物を多様な大腸菌の菌株に形質転換させた結果、酸化還元電位(redox potential)に関連する遺伝子(trxB、gor)を操作していない菌株でもCRM197タンパク質を可溶型(soluble form)で発現させることができ、これを周辺細胞質に分泌させることができた。
【0036】
したがって、本発明は、一観点において、配列番号13乃至配列番号21のいずれか一つのアミノ酸配列で表される、CRM197タンパク質発現用シグナル配列に関する。
【0037】
本発明は、他の観点において、前記CRM197タンパク質発現用シグナル配列をコードする核酸に関する。
【0038】
本発明において、前記核酸は、配列番号4乃至配列番号12のいずれか一つの塩基配列で表されることを特徴とすることができ、好ましくは、配列番号6又は配列番号8の塩基配列で表されることを特徴とすることができるが、これに制限されるのではない。
【0039】
本明細書において、「CRM197タンパク質発現用シグナル配列」とは、CRM197タンパク質の発現及び周辺細胞質への分泌のためのシグナル配列を意味する。
【0040】
本発明の一実施例において、CRM197タンパク質を周辺細胞質に分泌させるために大腸菌の外膜(outermembrane)をターゲットとするタンパク質のシグナル配列及びM13ファージ由来のシグナル配列を選択した(表3)。選択したシグナル配列の大腸菌での翻訳を最適化するために、コドンテキストと2次構造とを複合することによって塩基配列をデザインした(配列番号4乃至配列番号12)。
【0041】
本発明は、更に他の観点において、前記CRM197タンパク質発現用シグナル配列をコードする核酸及びCRM197タンパク質の遺伝子を含む核酸構造体に関する。
【0042】
本発明は、更に他の観点において、前記CRM197タンパク質発現用シグナル配列をコードする核酸及びCRM197タンパク質の遺伝子を含む発現ベクターに関する。
【0043】
本発明の一実施例において、CRM197タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)をコードするDNA塩基配列も、大腸菌での発現を最適化した(配列番号2)。デザインされた各シグナル配列のDNA断片及び最適化されたCRM197 DNA断片をプラスミドpHex1.3に挿入した(
図3)。
【0044】
本発明において、前記CRM197タンパク質の遺伝子としては、CRM197タンパク質を暗号化する遺伝子であれば制限なく利用可能である。好ましくは、配列番号2の塩基配列で表されることを特徴とすることができるが、これに制限されるのではない。
【0045】
本明細書において、「形質転換(transformation)」とは、特定の外来のDNA鎖を細胞外から細胞内に導入することを意味する。導入されたDNA鎖を含む宿主微生物は、「形質転換された微生物」という。DNAを宿主に導入し、DNAが染色体外因子として、又は染色体の統合完成によって複製可能になることを意味する「形質転換」は、標的タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入したり、標的タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドを宿主細胞の染色体に統合・完成させ、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドが暗号化するタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内に発現できる限り、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置する場合、及び染色体外に位置する場合のいずれであるのかと関係なく、これらの全てを含む。
【0046】
本発明において、前記「核酸構造体」は、宿主細胞内に発現できる限り、宿主細胞の染色体(chromosome)内に挿入されて位置する場合、及び染色体外に位置する場合のいずれであるのかと関係なく、これらの全てを含む。
【0047】
また、本明細書において、前記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」と同一の意味で使用され、標的タンパク質を暗号化するDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、いずれの形態で導入されても構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自体的に発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入され得る。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター、転写終決信号、リボソーム結合部位及び翻訳終決信号を含む。前記発現カセットは、自体複製が可能な発現ベクターの形態であり得る。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよい。
【0048】
本明細書において、「ベクター(vector)」は、適切な宿主内でDNAを発現できる適切な調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含有するDNA製造物を意味する。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、又は、簡単には潜在的なゲノム挿入物であり得る。適当な宿主に形質転換されると、ベクターは、宿主ゲノムと関係なく複製して機能できるか、又は、一部の場合にゲノム自体に統合され得る。プラスミドが現在のベクターの最も通常的に使用される形態であるので、本発明の明細書において、「プラスミド(plasmid)」及び「ベクター」は、時々相互交換的に使用される。
【0049】
本発明の目的上、プラスミドベクターを用いることが好ましい。このような目的に使用され得る典型的なプラスミドベクターは、(a)1宿主細胞当たり数十個乃至数百個のプラスミドベクターを含むように複製が効率的に行われるようにする複製開始点、(b)プラスミドベクターで形質転換された宿主細胞が選ばれるようにする抗生剤耐性遺伝子、及び(c)外来DNA断片が挿入できるようにする制限酵素切断部位を含む構造を有している。適切な制限酵素切断部位が存在しない場合にも、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)又はリンカー(linker)を使用すると、ベクターと外来DNAを容易にライゲーション(ligation)することができる。
【0050】
併せて、前記遺伝子は、他の核酸配列と機能的な関係で配置されるとき、「作動可能に連結(operably linked)」される。これは、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合されるとき、遺伝子の発現を可能にする方式で連結された遺伝子及び調節配列であり得る。例えば、前配列(pre-sequence)又は分泌リーダー(leader)に対するDNAは、ポリペプチドの分泌に参加する前タンパク質として発現される場合、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結され;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又は、リボソーム結合部位は、配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又は、リボソーム結合部位は、翻訳を容易にするように配置される場合、コーディング配列に作動可能に連結される。
【0051】
一般に、「作動可能に連結された」とは、連結されたDNA配列が接触し、また、分泌リーダーの場合、接触し、リーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサーは接触する必要がない。これらの配列の連結は、便利な制限酵素部位でライゲーション(連結)によって行われる。そのような部位が存在しない場合、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
【0052】
本発明において、前記発現ベクターは、Trcプロモーターをさらに含むことを特徴とすることができる。
【0053】
本発明において、前記発現ベクターは、pHex1.3であることを特徴とすることができるが、これに限定されるのではない。
【0054】
CRM197は、ヌクレアーゼ活性が存在し、大腸菌に非常に有毒なものとして知られている。したがって、所望でない条件でのCRM197発現は、大腸菌の成長に悪影響を及ぼし得る。大腸菌発現プラスミドpHex1.3は、LacI遺伝子を有しており、trcプロモーターのバックグラウンド発現を抑制することができ、このプラスミドに挿入された発現モジュールTPB1Tv1.3(
図1)は、発現されるCRM197遺伝子の上流(upstream)にλファージ由来のtR2転写ターミネーター及びT7ファージ由来のTe転写ターミネーターが挿入され、下流(downstream)に大腸菌由来のrrnB T1T2転写ターミネーターが挿入され、プラスミド由来のプロモーターから転写されるCRM197の発現を抑制できるようにデザインされた。
【0055】
本発明は、更に他の観点において、前記核酸構造体又は発現ベクターが導入されている組換え微生物に関する。
【0056】
本発明において、前記組換え微生物は、大腸菌(Escherichia coli)であることを特徴とすることができるが、これに限定されるのではない。
【0057】
前記組換え微生物としては、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主細胞が通常的に使用され、原核及び真核細胞を含む全ての微生物として、バクテリア、酵母、カビなどが利用可能であり、本発明の実施例では大腸菌を使用したが、これに限定されなく、前記CRM197タンパク質が十分に発現できるものであればいずれの種類の微生物であっても構わない。
【0058】
もちろん、全てのベクターが本発明のDNA配列を発現するのに全て同等に機能を発揮することはなく、同様に、全ての宿主が同一の発現システムに対して同一に機能を発揮することはない。しかし、当業者であれば、過度な実験的負担なしで、本発明の範囲を逸脱しない状態で、他の多様なベクター、発現調節配列及び宿主から適宜選択して適用することができる。例えば、ベクターを選択するにおいては宿主を考慮しなければならないが、これは、ベクターがその内部で複製されなければならないためであり、ベクターの複製数、複製数を調節できる能力、及び当該ベクターによってコーディングされる他のタンパク質、例えば、抗生剤マーカーの発現も考慮しなければならない。
【0059】
前記形質転換された組換え微生物は、通常的に知られている任意の形質転換方法によって製造することができる。
【0060】
また、本発明において、前記遺伝子を宿主細胞の染色体上に挿入する方法としては、通常的に知られている遺伝子操作方法を使用することができ、一例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ-連関ウイルスベクター、ヘルペスシンプレックスウイルスベクター、フォックスウイルスベクター、レンチウイルスベクター又は非ウイルス性ベクターを用いる方法を挙げることができる。
【0061】
また、形質転換方法には、発現ベクターを用いた方法以外にも、前記核酸構造体を宿主細胞の染色体上に直接挿入する方法も利用され得る。
【0062】
一般に、電気穿孔法(electroporaton)、リポフェクション、弾道的送達、ビロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、多価陽イオン又は脂質:核酸接合体、ネイキッドDNA、人工ビリオン、化学物質促進DNA流入、リン酸カルシウム(CaPO4)沈澱、塩化カルシウム(CaCl2)沈澱、微細注入法(microinjection)、酢酸リチウム-DMSO法などが利用され得る。
【0063】
ソノポレーション、例えば、ソニトロン(Sonitron)2000システム(Rich-Mar)を用いた方法も核酸の伝達に使用することができ、他の代表的な核酸伝達システムは、Amaxa Biosystems(Cologne、Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville、Maryland)及びBTX Molecular Syetem(Holliston、MA)の方法を含む。リポフェクション方法は、米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787号及び米国特許第4,897,355号に明示されている。また、リポフェクション試薬は商業的に市販されており、例えば、TRANSFECTAMTM及びLIPOFECTINTMが市販されている。ポリヌクレオチドの効果的なレセプター-認識リポフェクションに適当な陽イオン又は中性脂質は、Felgnerの脂質を含み(WO91/17424及びWO91/16024)、生体外導入を通じて細胞に、生体内導入を通じて標的組織に伝達することができる。免疫脂質複合体などの標的リポソームを含む脂質:核酸複合体の製造方法は、当該業界によく知られている(Crystal,Science.,270:404-410、1995;Blaese et al.,Cancer Gene Ther.,2:291-297,1995;Behr et al.,Bioconjugate Chem.,5:382389,1994;Remy et al.,Bioconjugate Chem.,5:647-654,1994;Gao et al.,Gene Therapy.,2:710-722,1995;Ahmad et
al.,Cancer Res.,52:4817-4820,1992;米国特許第4,186,183号;米国特許第4,217,344号;米国特許第4,235,871号;米国特許第4,261,975号;米国特許第4,485,054号;米国特許第4,501,728号;米国特許第4,774,085号;米国特許第4,837,028号;米国特許第4,946,787号)。
【0064】
本発明の一実施例において、製造されたプラスミドベクターを多様な大腸菌の菌株(表4)に形質転換させた結果、L3融合の場合は、全ての菌株でCRM197が発現され、L5融合の場合は、Origami
TM2を除いた菌株でCRM197が発現された(
図4)。L3、L5融合の全てが酸化還元電位に関連する遺伝子(trxB、gor)を操作していない菌株でもCRM197タンパク質を可溶型で発現させることができ、前記タンパク質は、親型菌から分離されたタンパク質と理化学的/免疫学的性質が同一であった。また、L3融合の場合、25℃のみならず、30℃でもCRM197タンパク質を可溶型で発現させることができた(
図7、
図12A)。
【0065】
既存の報告によると、培養時、pH6.5~6.8で培養しながら、誘導(induction)時にpH7.5に変化(shift)させると、CRM197の周辺細胞質への分泌が改善される。これと異なり、本発明で製造された菌株の場合、培地のpH変化なしでCRM197の周辺細胞質への効率的な分泌を確認した(
図12)。pH変化のない高濃度培養でのL5融合の場合、CRM197の生産性は3.7g/Lで、周辺細胞質に分泌されるCRM197は2g/L以上であった。
【0066】
本発明は、更に他の観点において、(a)前記核酸構造体又は発現ベクターが導入されている組換え微生物を培養し、CRM197タンパク質を生成する段階;及び(b)前記生成されたCRM197タンパク質を回収する段階;を含むCRM197タンパク質の製造方法に関する。
【0067】
本発明において、前記(b)段階は、周辺細胞質に分泌されたCRM197タンパク質を回収することを特徴とすることができる。
【0068】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例0069】
実施例1:CRM197過剰発現プラスミドの製造
【0070】
実施例1.1:プラスミドpHex1.3の製造
【0071】
大腸菌発現プラスミドpHex1.3は、次のように製作した。ptrc99a(Amann et al.,Gene.69,301-15,1988)をSspIとDraIに二重に切断(double digestion)した後、アガロース(agarose)電気泳動を用いて約3.2kbのDNA断片を精製した。カナマイシン耐性遺伝子(Kanamycin resistant gene)は、PCRを用いて増幅した。使用したテンプレート(template)はプラスミドpCR2.1で、使用したプライマーはKF2、KRであった(表1)。
【0072】
【0073】
PCR反応液の条件は、dNTP各2.5mM、プライマー各10pmol、鋳型DNA 200ng~500ng、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(Polymerase)(Takara Bio Inc.,Japan)1.25U、反応体積50μlとし、PCR条件は、98℃10秒、60℃5秒、72℃分/kbの3段階を30回繰り返した。このようなPCR条件で生成された約0.8kbのDNA断片をBam HiとHindIIIに二重に切断した後、クレノウ断片(klenow fragment)を用いて平滑末端(blunt end)で充填した後、前過程で製造した3.2kbのDNA断片とT4 DNAリガーゼ(ligase)を用いてライゲーションした。この反応液をE.coli C2984Hに形質転換し、選択マーカー(selection marker)がAmpからKmに置換されたpHex1.1を製造した。
【0074】
プロモーター、RBS、及び転写ターミネーターを含む発現モジュールTPB1Bv1.3(
図1)は、Bioneerで合成した(配列番号1)。発現モジュールTPB1Bv1.3をpHex1.3に搭載する過程は、次の通りである。発現モジュールTPB1Bv1.3を鋳型として、TPB_F、TPB_Rをプライマー(表1)として用いてPCR増幅して得たDNA断片(1255bp)と、pHex1.1を鋳型として、pHex_F、pHex_Rをプライマーとして用いてPCR増幅したDNA断片(4561bp)を表2のような条件でライゲーション独立クローニング(ligation-independent cloning)(LIC;Jeong et al.,Appl Environ Microbiol.78,5440-3,2012)を用いてin vitroで組み立てた後、E.coli C2984Hに形質転換することによってpHex1.3を製造した(
図2)。
【0075】
【0076】
LIC反応条件:ベクターは、制限酵素で切ったり、PCRを用いてリニア(linear)形態のDNA断片に作る。インサート(Insert)は、PCRを用いて製造する。ベクターとインサートは、上記の表のように混ぜた後、常温で2分30秒間反応した。
【0077】
実施例1.2:CRM197遺伝子の製造
【0078】
大腸菌で発現が最適化されたCRM197の塩基配列(CRM197ec)は、Genscriptで合成した(配列番号2)。CRM197ecがコードするアミノ酸配列は、配列番号3の通りである。
【0079】
実施例1.3:シグナル配列遺伝子の製造
【0080】
CRM197タンパク質を大腸菌の周辺細胞質に分泌させるために使用されたシグナル配列は、下記の表3に示した(配列番号13乃至配列番号21)。大腸菌での発現を最適化するために、コドンテキストと2次構造を考慮した上で、配列番号4乃至配列番号12のDNAを合成した(表3)。
【0081】
【0082】
実施例1.4:CRM197過剰発現のためのプラスミドの製造
【0083】
CRM197を大腸菌で過剰発現し、周辺細胞質に分泌させるためのプラスミドは、
図3のように製造した。pHex1.3をBsaIとDraIに二重に切断した後、アガロース電気泳動を用いて約5kbのDNA断片を分離した。シグナル配列L1~L9は、表1のプライマーと鋳型を用いてPCR増幅した。LIC方法を用いて各シグナル配列にCRM197遺伝子を融合するためのCRM197 DNA断片は、表1のプライマーと鋳型を用いてPCR増幅した。BsaIとDraIに切断されたpHex1.3と各シグナル配列断片、及びこれと互換されるCRM197断片は、上述したLIC条件を用いてin vitroで組み立てた後、E.coli C2984Hに形質転換し、各シグナル配列と融合されたCRM197を含有するプラスミドpHex-L1-CRM、pHex-L2-CRM、pHex-L3-CRM、pHex-L4-CRM、pHex-L5-CRM、pHex-L6-CRM、pHex-L7-CRM、pHex-L8-CRM、及びpHex-L9-CRMを製造した。
【0084】
実施例2:大腸菌でのCRM197タンパク質の発現
【0085】
実施例1で製造されたプラスミドのうち、発現量及び細胞の成長程度を考慮した上でpHex-L3-CRM及びpHex-L5-CRMを選択した。下記の表4の大腸菌の菌株に形質転換し、CRM197タンパク質の発現及び発現位置を調査した。
【0086】
【0087】
培養方法は、固体培地(ソイトン(soytone)10g/L、酵母エキス(Yeast extract)5g/L、NaCl 10g/L、寒天(agar)15g/L)で生成されたコロニー(colony)を100mMのリン酸カリウム(Potassium phosphate)(pH7.5)、km 50μg/ml、0.2%のラクトース(Lactose)を含有するLB液体培地で30℃で15時間にわたって振盪培養した後、総細胞にSDS PAGEを行った後、クマシーブルー染色(Coomassie Blue staining)及びウェスタンブロッティングを用いてCRM197の発現を分析した(
図4)。L3融合の場合は、使用した全ての菌株でCRM197タンパク質が発現されたが、L5融合の場合は、Origami
TM2に形質転換したとき、液体培地で成長することができなかった。これ以外の菌株では、CRM197タンパク質の発現が観察された。
【0088】
実施例2.1:L5によるCRM197発現
【0089】
pHex-L5-CRMを含有するBL21(DE3)を100mMのリン酸カリウム(pH7.5)、km 50μg/mlを含有するLB液体培地(50mL/500mLのバッフル付フラスコ(baffled flask))でOD
600が0.4~0.6に到逹するまで培養した後、インデューサーとしてラクトース0.2%、0.4%、0.6%、又はIPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranosid)0.02mM、0.2mM、2mMを添加することによって発現を誘導した。培養温度は25℃又は30℃であった。培養後、細胞を回収した後、50mMのリン酸カリウム(pH7.0)に懸濁した後、超音波処理(sonication)を行い、細胞を破砕した。破砕後、遠心分離することによって上澄み液(soluble fraction)と沈殿物(insoluble fraction)とを分離した。各サンプルのSDS_PAGE後、クマシー染色及びウェスタンブロッティングを用いてCRM197タンパク質の発現を分析した(
図5)。インデューサー(ラクトース、IPTG)を添加した後、25℃で培養した場合、発現されたCRM197タンパク質のほとんどは可溶型で存在し、レファレンスCRM197の分子量と同一であると見なし、発現されたタンパク質は、L5シグナル配列が除去された成熟CRM197であると判断される(
図5A)。その一方で、30℃で培養した場合、ラクトースをインデューサーとして使用すると、CRM197タンパク質の約50%は不溶性画分で発見され、IPTGをインデューサーとして添加すると、CRM197タンパク質のほとんどは不溶性画分で発見された(
図5B)。
【0090】
CRM197の発現位置を確認するために、浸透圧衝撃(osmotic shock)を用いて周辺細胞質画分を回収した。過程は次の通りである。pHex-L5-CRMを含有するBL21(DE3)を25℃で培養した後、遠心分離することによって細胞を回収した。原形質膜誘導緩衝溶液[30mMのTris-HCl(pH8.0)、20%のスクロース、1mM又は10mMのEDTA、1mMのPMSF(Phenylmethylsulfonyl fluoride)]で、細胞の濃度がOD
60010になるように再懸濁した後、常温で0.5時間~1時間にわたって撹拌した。その後、4,000 x gで15分間遠心分離することによって細胞を採取し、同一の量の4℃以下の冷たい30mMのTris-HCl(pH8.0)を添加し、常温で0.5時間~1時間にわたって撹拌した。その後、4,000 x gで15分間遠心分離することによって上澄み液を得た(周辺細胞質画分、P2)。原形質膜誘導緩衝溶液の処理後、上澄み液(P1)、周辺細胞質画分(P2)、及び細胞質画分をSDS-PAGEを用いて展開した後、クマシー染色及びウェスタンブロッティングを用いてCRM197の発現及び発現位置を調査した(
図5)。L5は、CRM197を成功的に周辺細胞質に分泌できることを確認した(
図6)。原形質膜誘導緩衝溶液として、EDTAは、1mMより10mMである場合に効果的であった。
【0091】
実施例2.2:L3によるCRM197発現
【0092】
pHex-L3-CRMを含有するBL21(DE3)を実施例2.1と同一の条件で発現させた。L3によって誘導されるCRM197の場合、L5と異なり、全ての条件で可溶型で存在し(
図7)、周辺細胞質に分泌されることを確認した(
図8)。
【0093】
実施例3:大腸菌BL21(DE3)の培養
【0094】
pHex-L3-CRM又はpHex-L5-CRMを含有するBL21(DE3)菌株を次のような方法で培養した。本培養時、流入(feeding)はpHスタット(stat)方法を用いて行い、流入溶液(Feeding solution:ブドウ糖600g/L、酵母エキス30g/L)及び塩基性溶液(Alkali solution:14%~15%のアンモニア)を用いてpH7.3に維持した。培養に用いた溶液及び培地組成は、表5及び表6に示した。
【0095】
【0096】
【0097】
修正されたLB寒天培地[Modified Luria-Bertani(LB)寒天:ソイトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム10g/L、寒天15g/L、カナマイシン50mg/L]で形成された単一コロニーを種培養培地に接種し、30℃で18時間にわたって培養した。この種培養を再び本培養培地(3L/5Lの発酵槽)に1%(v/v)の比率で接種し、30℃で培養した。本培養培地は、種培養培地に追加的に滅菌された消泡剤を0.1%添加した。培養液の吸光度が30~40の値を有した後、温度を25℃に下げた。次に、IPTG 10mMを添加し、培養液の吸光度が100~120になった後で培養を終了した。
【0098】
pHex-L3-CRMを含有する大腸菌BL21(DE3)の5Lの発酵槽での培養様相は
図9に示し、pHex-L5-CRMを含有する大腸菌BL21(DE3)の培養様相は
図10に示した。5Lの発酵槽での発酵時、発現されるCRM197の発現様相は
図11の通りであって、発現収率は、L3融合の場合は1.1g/L~1.2g/Lで、L5融合の場合は3.0g/L~3.7g/Lであった。CRM197の定量は、SDS-PAGE/クマシー染色後、デンシトメーター(densitometer)(GS-900
TM、Bio-rad laboratories Ins.,Hercules,California)を用いてレファレンスCRM197との相対量(relative quantity)を比較して定量した。
【0099】
実施例4:タンパク質の精製
【0100】
実施例4.1:細胞培養液から周辺細胞質画分の製造
【0101】
5Lの発酵槽で培養した細胞から周辺細胞質画分を回収する過程は次の通りである。細胞培養液を4℃、4,000 x gで15分間遠心分離し、細胞を沈澱させた。細胞沈殿物は、吸光度100を基準にして修正されたタンパク質の原形質膜誘導緩衝溶液(表7)に再懸濁し、常温で0.5時間~1時間にわたって撹拌した。
【0102】
【0103】
その後、4,000 x gで15分間遠心分離することによって細胞を採取し、同一の量の4℃以下の冷たい30mMのTris-HCl[pH8.0]を添加し、常温で0.5時間~1時間にわたって撹拌した。その後、4,000 x gで15分間遠心分離することによって上澄み液を採取し、MFを用いて不純物を除去した。上記の過程を通じたpHex-L3-CRMを含有する大腸菌BL21(DE3)で回収された周辺細胞質画分のSDS-PAGE分析は
図12(A)に示し、pHex-L5-CRMを含有する大腸菌BL21(DE3)で回収された周辺細胞質画分のSDS-PAGE分析は
図12(B)に示した。周辺細胞質画分に存在するCRM197タンパク質の量は、L3菌株の場合は1.2g/Lで、L5菌株の場合は2.3g/Lであることが確認された(表8)。
【0104】
【0105】
実施例4.2:CRM197タンパク質の精製
【0106】
pHex-L3-CRM培養液の周辺細胞質画分を採取し、TFFシステムを用いて10kDaのカットオフ膜(cut-off membrane)で2倍濃縮し、10倍体積の10mMのリン酸ナトリウム(sodium phosphate)溶媒(pH7.2)で限外ろ過を実施した。AKTA pure(GEヘルスケア)システムを用いて二つのカラム工程を経て精製を完了した。第一のカラム工程は、陰イオン交換クロマトグラフィー(Anion exchange chromatography)(Diethyl aminoetyl Separose Fast Flow resin、DEAE)であって、核酸及び不純物タンパク質を除去する目的で使用した。DEAEレジン(Resin)は(-)電荷を帯びており、(+)電荷のタンパク質が結合するようになる。限外ろ過を経た試料は、DEAEクロマトグラフィーを経て結合されていないタンパク質及び不純物が1次的に抜け出て除去され、続いた洗浄工程を経て、塩の濃度によってCRM197を除いた結合力の低い不純物タンパク質を除去した。その後、塩の濃度を増加させ、CRM197のみを溶出した。DEAEクロマトグラフィーを用いて精製する過程中の試料に対してSDS-PAGE分析を進行し、その結果を
図13(A)に示した。DEAEクロマトグラフィーを経た試料は、HA (Hydroxyapatite)クロマトグラフィーを用いて1次的に結合されていない不純物及びタンパク質をフロースルーモードで除去し、最終100mMのリン酸カリウム及び100mMのNaCl溶媒でCRM197を溶出させた。溶出されたCRM197のSDS-PAGE結果を
図13(B)に示した。
【0107】
実施例5:コリネバクテリウム生産CRM197との比較
【0108】
最終精製したCRM197に対して品質及び特性を分析した。SEC-HPLCで分析した結果、純度は99%以上であることを確認した(
図14)。SDS-PAGE及びウェスタンブロット分析を通じて、コリネバクテリウム生産CRM197と同一の位置にバンドが現れることを確認した(
図15)。
【0109】
また、CRM197を構成するアミノ酸535個の全体の配列を確認し、100%一致することを確認した。また、分子量の測定結果、58,409Daの主なピークが確認され、理論的分子量値と一致した(
図16)。CD(Circular dichroism)分析を通じて高次構造を確認し、コリネバクテリウム生産CRM197と高次構造に差がないことを確認した(
図17)。蛍光スペクトルの分析結果、最大放出波長は、コリネバクテリウム生産CRM197と同一に338nmであった(
図18)。
【0110】
前記結果を通じて、大腸菌pHex-L3菌株を使用して生産したCRM197は、コリネバクテリウム生産CRM197と物理化学的及び免疫学的に同一のタンパク質であることを確認した。
本発明によると、酸化還元電位を調節していない一般の大腸菌でも、親型菌から分離されたタンパク質と理化学的/免疫学的な性質が同一であるCRM197タンパク質を発現させることができ、周辺細胞質への分泌増加のための培地のpH変化がなくても、周辺細胞質への分泌効率の高いCRM197タンパク質の製造が可能であるので、CRM197タンパク質の生産において非常に有用である。
以上では、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとって、このような具体的な技術は好ましい実施様態に過ぎなく、これによって本発明の範囲が制限されないことは明白であろう。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項及びそれらの等価物によって定義されると言えるだろう。