(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139223
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】幹細胞移植のための非遺伝毒性移植前処置レジメン
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230926BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230926BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230926BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/02
A61K39/395 N
A61K35/28
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121822
(22)【出願日】2023-07-26
(62)【分割の表示】P 2019541294の分割
【原出願日】2018-01-30
(31)【優先権主張番号】62/452,218
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ワイスマン,アービング エル.
(72)【発明者】
【氏名】シズル,ジュディス エー.
(72)【発明者】
【氏名】チャブラ,アカンクシャ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ,ベンソン エム.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射線療法または化学療法を必要とすることなく、及びGVHDまたは移植片拒絶を発症することなく、生着を容易にし、レシピエントの免疫能を再構成する幹細胞移植の臨床的に適用可能な方法に使用する組成物の提供。
【解決手段】幹細胞生着を提供する方法に使用するための医薬組成物であって、前記方法は、標的組織内の内在性幹細胞に特異的に結合する作用物質(i)及びCD47とSIRPαとの間の相互作用を遮断する作用物質(ii)と、対象の標的内在性幹細胞を同時に接触させることと、対象を一過性免疫抑制を誘発する作用物質(iii)と接触させることと、外来性幹細胞を含む細胞組成物を前記対象に、(i)及び(ii)の血清レベルを非毒性レベルまで低下させるために十分なウォッシュアウト期間の後で導入することとを含む移植前処置レジメンを有し、前記外来性幹細胞が、骨髄破壊的移植前処置の非存在下で生着する、医薬組成物である。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の対象について幹細胞生着を提供する方法に使用するための医薬組成物であって、
前記方法は、
前記対象を、標的組織内の内在性幹細胞に特異的に結合する作用物質(i)及びCD47とSIRPαとの間の相互作用を遮断する作用物質(ii)と、標的内在性幹細胞を前記対象から破壊するための有効な量で、同時に接触させることと、
前記対象を、一過性免疫抑制を誘発する作用物質(iii)と接触させることと、
外来性幹細胞を含む細胞組成物を前記対象に、前記対象における(i)及び(ii)の血清レベルを非毒性レベルまで低下させるために十分なウォッシュアウト期間の後で、導入することと
を含む移植前処置レジメンを有しており、
前記外来性幹細胞が、骨髄破壊的移植前処置の非存在下で生着する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
幹細胞は、その自己再生する及び分化細胞を生成する能力を通して、生物にある特定の組織を維持及び修復する手段を提供する。臨床的に、骨髄移植及び造血幹細胞移植は、血液細胞を生成する能力を患者に提供する手段として広く使用されており、通常この場合の患者は、高用量の化学療法または放射線療法により内在性幹細胞が枯渇している。
【0002】
造血細胞移植(HCT)は、一般的に、自家または同種造血細胞の静脈内注入を含み、その活性サブセットは造血幹細胞(HSC)である。これらは、骨髄、末梢血、または臍帯血から採取され、その骨髄または免疫系が損傷しているまたは欠損している患者における造血機能を再建するために移植される。この手順は、白血病などの骨髄浸潤プロセスを排除するため、または先天性免疫不全症を矯正するための治療の一部としてしばしば行われる。
【0003】
加えて、HCTは、癌患者が、骨髄が通常耐え得るよりも高用量の化学療法を受けることを可能にする。その後、骨髄機能は、髄を前もって採取した幹細胞と置き換えることによって回復する。その多くが宿主にとって有害である他の細胞が混ざっていない、富化または精製HSC集団を移植することも可能である。
【0004】
移植前処置(preparative)または移植前処置(conditioning)レジメンは、造血細胞移植(HCT)において重要な要素である。成功した移植では、骨髄ニッチのクリアランスが、ドナー造血幹細胞(HSC)を生着させるために達成されなければならない。移植前処置(preparative)レジメンは、移植された移植片の拒絶を防ぐ、及び移植が行われている疾患を根絶するために十分な免疫抑制も提供し得る。ニッチスペースをクリアにするための現行の方法は、放射線及び/または化学療法に依存しており、これはBMTの潜在的な臨床的有用性を大きく制限する毒性有害作用を与える可能性がある。従来、骨髄破壊的移植前処置が行われている。
【0005】
骨髄破壊的レジメンは、最大耐量まで放射線または特定の薬物の用量を漸増することにより開発された、放射線含有または放射線不含有レジメン、治療法として分類することができる。全身照射及びシクロホスファミドまたはブスルファン及びシクロホスファミドが、通常使用される骨髄破壊的療法である。これらのレジメンは、白血病などの進行性悪性腫瘍において特に使用される。しかしながら、このような処置は、患者に対する毒性という点で多くの不利益がある。
【0006】
造血幹細胞を含む、幹細胞の生着のための改善された方法は、臨床上非常に重要である。本発明はこの必要性に取り組む。
【発明の概要】
【0007】
レシピエントにおける、造血幹細胞を含むがこれらに限定されない幹細胞の長期多系列生着のための方法及び組成物を提供する。これは、レシピエントを移植前非骨髄破壊的、非遺伝毒性移植前処置レジメンを用いて処置すること、及び外来性幹細胞を含む有効量の細胞集団を投与することによる。移植前処置レジメンは、様々な目的のために内在性細胞集団に作用する作用物質の投与を含む。本方法は、血液障害を処置するための生着を可能にし、将来の臓器移植のためにレシピエントをドナーのHLA型に対して寛容化するために使用することもできる。
【0008】
内在性幹細胞は、移植前処置レジメンにより枯渇させる。内在性幹細胞を枯渇させる作用物質には、c-kitに特異的な抗体及びCD47活性を遮断する作用物質が含まれるが、これらに限定されない。これらの作用物質は、投与後の外来性幹細胞を枯渇させる能力もあり、ゆえに、作用物質を投与した時点から外来性幹細胞を投与する時点までの「ウォッシュアウト」期間を必要とする。ウォッシュアウト期間は、内在性幹細胞を枯渇させる作用物質の血清レベルを、幹細胞の枯渇をもたらさない非毒性レベルまで低下させるために十分である。
【0009】
いくつかの実施形態では、移植前処置レジメンに、細胞傷害性リンパ球の一過性免疫抑制を提供する少なくとも1つの作用物質が含まれる。様々な生物学的及び非骨髄破壊的医薬品がこの目的のために利用可能であり、それには、CD40/CD40L活性を阻害する作用物質、ミコフェノール酸、シクロスポリンA、ラパマイシン、FK506、コルチコステロイドなどが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、作用物質は、CD40Lを阻害し、CD40Lに対して特異的な抗体である。一過性免疫抑制剤は、外来性幹細胞が投与されるときに当該一過性免疫抑制剤が活性である限りにおいて、外来性幹細胞の前またはこれと同時に投与されることができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、移植前処置レジメンに、Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞のうちの一方または両方を枯渇させる少なくとも1つの作用物質が含まれる。T細胞を枯渇させる作用物質には、具体的には、CD3、CD4、CD8に特異的な抗体などを含む作用物質が含まれるが、これらに限定されない。T細胞及びNK細胞を枯渇させる作用物質には、CD2、CD52、CD45に特異的な抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)などを含む作用物質が含まれるが、これらに限定されない。NK細胞を枯渇させる作用物質には、具体的には、CD122、CD56に特異的な抗体などを含む作用物質が含まれるが、これらに限定されない。枯渇作用物質(複数可)は、外来性幹細胞が投与されるときに標的細胞が枯渇している限りにおいて、外来性幹細胞の注入の前に投与されることができ、任意選択で注入後に活性である。
【0011】
一実施形態では、移植前の非遺伝毒性移植前処置のための適切な一式の作用物質の選択及び投与のための方法を提供する。幹細胞の生着を成功させるための予め行われる移植前処置レジメンの要件が、ある特定のパラメータに従って変動することを本明細書中に示し、それには、レシピエントに投与されるドナー細胞の数、ドナー細胞の純度、ドナーとレシピエントとの間の主要組織適合性の不適合度、及びレシピエントの免疫状態が含まれる。個体に関して適切な一式の作用物質、及び作用物質の投与の時期を選択することで、移植の治療結果を最適化することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、HLA適合またはHLA不適合対を決定するためにドナー及びレシピエントをHLAタイピングする、CD34+ 造血幹及び前駆細胞、これはHSPCと称してもよい、を含むドナーから造血細胞を獲得する、任意選択で所望の表現型のHSPC、例えば、CD34+ 細胞を単離し、有効量のHSPCを処方する、レシピエントに投与されるドナー細胞の数、ドナー細胞の純度、ドナーとレシピエントとの間の主要組織適合性の不適合度、及びレシピエントの免疫状態に基づいて、造血細胞の注入の前にレシピエントに対する非遺伝毒性移植前処置レジメンのための一式の作用物質を選択する、非遺伝毒性移植前処置のための一式の作用物質を投与する、造血細胞を注入する、ならびに、造血幹細胞生着に関してレシピエントをモニタリングするステップを含み得る。本明細書に記載の方法は、HLA適合及びHLA不適合移植条件の両方、例えばHLA不適合及びハプロ不一致移植、ハプロ一致移植などに適用される。
【0013】
いくつかの実施形態では、HSPCは、ドナー造血細胞試料から得られる。いくつかの実施形態では、造血細胞試料は、骨髄である。いくつかの実施形態では、HSPCは、臍帯血から得られる。いくつかの実施形態では、造血細胞試料は、ドナー動員末梢血からのアフェレシスにより得られる。いくつかの実施形態では、HSPCは、in vitroで生成される。HSPCドナーは、同種または自家であってよく、例えば、HSPCは、再注入の前に、例えばex vivo 培養中に遺伝物質の導入または欠失により遺伝子操作されている。同種ドナーは、レシピエントに対してMHC適合であり得る。ドナーは、レシピエントに対してハプロ一致またはハプロ不一致であり得る。ドナーは、1つまたは複数のMHC遺伝子座にて不適合であってよく、例えば、MHC適合に関して主要遺伝子座の1、2、3、4、5または6つで不適合であってよい。
【0014】
HSPCは、CD34の発現のために造血細胞試料から任意選択で単離される。単離は、CD90の発現のための選択をさらに含んでよい。精製されているHSPCは、集団内でCD34+ である細胞の割合(%)により定義して、少なくとも約45%純粋であってよく、少なくとも約50%純粋、少なくとも約60%純粋、少なくとも約70%純粋、少なくとも約80%純粋、少なくとも約90%純粋であってよい。有効量のCD34+ 細胞は、レシピエントの体重kg当り約105 ~約107 個のCD34+ 細胞であってよく、レシピエントの体重kg当り少なくとも約5×105 個のCD34+ 細胞、レシピエントの体重kg当り少なくとも約106 個のCD34+ 細胞、レシピエントの体重kg当り少なくとも約3×106 個のCD34+ 細胞、レシピエントの体重kg当り少なくとも約5×106 個のCD34+ 細胞であってよく、レシピエントの体重kg当り107 個のCD34+ 細胞またはそれ以上であってよい。注入剤中のCD34+ 細胞の用量、細胞の純度、及び、送達される細胞の総数、すなわち、両CD34+ 細胞及びCD34- 細胞の総用量は、非遺伝毒性移植前処置作用物質の選択のための重要なパラメータである。
【0015】
HSPC組成物と共に送達されるCD3+ 細胞の最大数は、レシピエントの体重kg当り約106 個以下のCD3+ 細胞、レシピエントの体重kg当り約5×105 個以下のCD3+ 細胞、レシピエントの体重kg当り約3×105 個以下のCD3+ 細胞、レシピエントの体重kg当り約104 個以下のCD3+ 細胞であってよい。注入剤中のCD3+ 細胞の数は、細胞傷害性リンパ球を阻害する作用物質の選択のためのパラメータであり得、ここで、CD3+ 細胞の数の増加は、CD3、CD4、CD8に特異的な抗体などを含むがこれらに限定されない、T細胞を破壊する1つまたは複数の作用物質の直前または注入時の投与を必要とし得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、移植は、骨髄破壊的移植前処置の非存在下で行われる。いくつかの実施形態では、レシピエントは、免疫応答性である。移植前の移植前処置レジメンの投与を必要に応じて繰り返して、所望のレベルの破壊を達成する。
【0017】
いくつかの実施形態では、CD47遮断は、可溶性SIRPαポリペプチドを投与することにより達成され、これは高親和SIRPα変異体ポリペプチドであってよい。他の実施形態では、SIRPα及びCD47の一方または両方に特異的な抗体が投与される。
【0018】
ドナー幹細胞を用いた移植の後、レシピエントは、ドナー細胞に関してキメラまたは混合キメラであってよい。本発明の方法は、標的組織の機能に関与する分化細胞を破壊する望ましくない効果ならびに他の組織(例えば、胃腸系、発毛の細胞)への望ましくない副作用を有する、ならびに二次性悪性腫瘍のリスクを増加させる、非選択的破壊法、例えば、放射線または化学療法の非存在下での有効な幹細胞生着を可能にする。
【0019】
本発明の一実施形態では、幹細胞は、自家造血幹細胞、遺伝子改変造血幹細胞、及び同種造血幹細胞、通常は同種幹細胞、のうちの1つまたは複数である。係る幹細胞は、様々な血液障害、例えば、遺伝性障害、例えば再生不良性貧血、鎌状赤血球症、サラセミア、重症免疫不全症、骨髄不全状態、免疫不全症、ヘモグロビン異常症、白血病、リンパ腫、免疫寛容誘発、骨髄移植により処置可能な遺伝性障害及び他の血液障害などの処置において使用される。
【0020】
本発明の方法は、患者における寛容、例えば、臓器移植における、例えば、ドナー組織に対する寛容、例えば、自己免疫疾患の処置の場合における、自己抗原に対する寛容などの誘発においても有用である。本発明の一実施形態では、患者において寛容を誘発するための方法であって、T細胞、及びナチュラルキラー(NK)細胞を含んでよいがこれらに限定されない細胞傷害性リンパ球の数または活性を低下させる、有効量の1つまたは一式の作用物質の投与と併用して行われる、c-kitに特異的な抗体及びCD47活性を遮断する作用物質を含むがこれらに限定されない、幹細胞を標的とする作用物質の投与を患者に行うことを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、CD40/CD40L活性を阻害する作用物質を含むがこれらに限定されない、細胞傷害性リンパ球の一過性免疫抑制を提供する、少なくとも1つの作用物質が含まれる。いくつかの実施形態では、作用物質は、CD40Lに対して特異的な抗体である。いくつかの実施形態では、本方法は、遺伝毒性移植前処置の非存在下で実施される。移植前処置レジメンの後、レシピエントに有効量の造血幹及び前駆細胞を注入し、それにより、将来の臓器移植のためのドナー細胞に対する免疫寛容を提供する。
【0021】
本発明は、添付の図面と組み合わせて閲読すると、以下の発明を実施するための形態から最もよく理解される。一般的慣習に従い、図面の様々な特徴の縮尺は正確ではないことが強調される。逆に、様々な特徴の寸法は、明瞭さのため、恣意的に拡大または縮小されている。図面には、以下の図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1-1】ACK2、クローン3、MR-1及びCD122は、免疫応答性動物へのハプロ一致全骨髄の有効な生着を可能にすることを示す。
図1Aでは、30e6AKR×Hz F1全骨髄を回収し、各Balb/c×C57BL/6レシピエントへと後眼窩移植した。キメリズムをCD45アレル間差異により決定した。
図1Bでは、各抗体を、移植前処置のために印を付けた日に与えた。-8日目に、100ugのクローン3を与え、全てのその後日には、500ugのクローン3を与える。-6日目に、500ugのACK2を与える。-1日目に、250ugのTm-b1を与える。0日目に、500ugのMR1を与える。
【
図1-2】ACK2、クローン3、MR-1及びCD122は、免疫応答性動物へのハプロ一致全骨髄の有効な生着を可能にすることを示す。マウスは、各抗体の異なる組み合わせを使用して移植前処置した。総ドナーキメリズムを、13週間にわたって、
図1CではT細胞、
図1DではB細胞、
図1Eでは顆粒球、
図1Fではキメリズムに加えて測定した。ACK2+クローン3+MR1コホートにおけるアンキメラ(unchimeric)マウスは、打ち切った。
【
図2】抗体移植前処置マウスの16週ドナーキメリズムを表し、コホート毎にキメラであるマウスの割合(%)ならびに総ドナー、T細胞、B細胞、及び顆粒球キメリズムの平均レベルを示す。ACK2+クローン3+MR1コホートにおけるアンキメラマウスは、打ち切った。
【
図3-1】NK細胞枯渇は、低細胞用量骨髄の生着に必要であることを示す。
図3Aでは、様々な量のAKR×Hz F1全骨髄を回収し、各Balb/c×C57BL/6レシピエントへと後眼窩移植した。キメリズムは、CD45アレル間差異によって決定した。
図3Bでは、各抗体を、移植前処置のために記を付けた日に与えた。-8日目に、100ugのクローン3を与え、全てのその後日には、500ugのクローン3を与える。-6日目に、500ugのACK2を与える。-2日目に、250ugのTm-b1を与える。0日目に、500ugのMR1を与える。
【
図3-2】NK細胞枯渇は、低細胞用量骨髄の生着に必要であることを示す。各群を、クローン3、ACK2、及びMR1を用いて最小限にて移植前処置した。CD122を、2つの注記したコホートにさらに加えた。よって、全4種の抗体を受けている。移植前処置マウスは、30×10
6 、10
6 、3×10
6 または10
5 個の全骨髄のいずれかを受けた。総ドナーキメリズムを、第3週で、
図3CではT細胞、
図3DではB細胞、
図3Eでは顆粒球、
図3Fではキメリズムに加えて測定した。
【
図4-1】モノクローナル抗体カクテルは、長期多系列造血再構成を誘発することができることを示す。
図4Aは、AKRB6F1ドナー及びCB6F1レシピエントを使用するハプロ一致移植スキーマを示す。
図4Bは、ドナー及びレシピエント株へのMHCクラスIのフローサイトメトリー分析を示す。
図4Cは、移植前処置レジメンのための投与計画を示す。
図4Dは、抗体移植前処置後の長期HSCコンパートメント(Lin-c-KIT+Sca1+CD150+Flk2-CD34-)におけるドナーキメリズムを示す。
【
図4-2】モノクローナル抗体カクテルは、長期多系列造血再構成を誘発することができることを示す。
図4E~Gは、抗体移植前処置が、WBM移植後の長期多系列キメリズムを可能にすることを示す。
【
図4-3】モノクローナル抗体カクテルは、長期多系列造血再構成を誘発することができることを示す。。
図4Hは、0日目のWBM抗体移植前処置後のCBCを示す。
図4Iは、NK細胞枯渇を伴うまたは伴わない、様々なWBM用量での、キメラである動物の割合(%)を示す。
【
図5-1】モノクローナル抗体カクテルは、低用量の精製HSCの長期多系列造血再構成を誘発することができることを示す。
図5Aは、移植のためのLSK及びc-KIT+細胞を算出及び単離するために使用した分類スキームを示す。
図5Bは、様々な造血細胞移植後の顆粒球キメリズムを示す。
図5Cは、LSK抗体移植前処置のための投与計画を示す。
【
図5-2】モノクローナル抗体カクテルは、低用量の精製HSCの長期多系列造血再構成を誘発することができることを示す。
図5Dは、LSK抗体移植前処置後の骨髄中の成熟免疫細胞集団存在量を示す。
図5Eは、LSK移植後の総末梢血ドナーキメリズムを示す。
図5Fは、LSK抗体カクテルの個々の成分を除外した後にキメラである動物の割合(%)を示す。
【
図6-1】非遺伝毒性移植前処置レジメンを介した低用量LSK移植は、ドナー組織に対する寛容を可能にすることを示す。
図6A及びBは、WBM(A)及びLSK(B)移植後の末梢血中のドナー反応性宿主T細胞の存在量を示す。
図6Cは、耳-心臓移植概要図を示す。
図6Dは、ドナー心臓生存を示す。
【
図6-2】非遺伝毒性移植前処置レジメンを介した低用量LSK移植は、ドナー組織に対する寛容を可能にすることを示す。
図6Eは、組織移植後の34日の代表的な耳-心臓移植片の肉眼検査、H&E、及びIFを示す。
【
図7-1】造血幹細胞は、完全MHC不適合である場合でも生着することができることを示す。
図7Aは、DBA1/Jがドナーであり、CB6F1が宿主である、移植概略図を示す。
図7Bは、8週間後のWBM及びLSK移植後のドナー生着の割合(%)を示す。
図7Cは、移植された動物の全生存を示す。
【
図7-2】造血幹細胞は、完全MHC不適合である場合でも生着することができることを示す。
図7Dは、内在性HSCを枯渇させ、一過性免疫抑制を、宿主T及びNK細胞を標的とすることにより提供することができる全種抗体移植前処置レジメンの概説を示す。
【
図8-1】
図8Aは、宿主とドナーとの間のCD45アレル間差異により末梢血キメリズムを決定する分類スキームを示す。
【
図8-2】
図8B~Dは、WBM移植後16週の多系列末梢血キメリズムをT細胞(B)、B細胞(C)及び顆粒球(D)に関して示す。
【
図9】モノクローナル抗体を使用した単独療法移植前処置後の末梢血ドナーキメリズムを示す。
【
図10】
図10A~Cは、移植を伴わずに移植前処置が完了した1日後の動物からの完全血球数(A)、末梢血分集団(B)及び脾臓分集団(C)を示す。
【
図11】多様なLSK抗体移植前処置後の16週末梢血キメリズムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
幹細胞及び前駆細胞を含む細胞組成物の注入の前の、非遺伝毒性、非骨髄破壊的移植前処置を用いた処置による、対象における幹細胞の生着のための方法を提供する。
【0024】
放射線療法もしくは化学療法を必要とすることなく、またはGVHDまたは移植片拒絶を発症することなく、生着を容易にし、レシピエントの免疫能を再構成する幹細胞移植の臨床的に適用可能な方法を提供することが本発明の目的である。ドナー幹細胞集団の特性及び用量、ならびにドナーとレシピエントとの間のHLA適合度に基づいて、適切な移植前処置レジメンを選択するためのガイドラインも提供する。
【0025】
本発明の態様は、内在性幹細胞を標的とする作用物質、例えば、抗c-kit抗体と、CD47及びSIRPαの相互作用を遮断することにより内在性幹細胞の殺滅を亢進する作用物質の使用を、任意選択で一過性免疫抑制と組み合わせて、合わせることにより、造血幹細胞(HSC)の有効な生着を容易にする内在性幹細胞ニッチの枯渇が達成されることの発見に基づき、任意選択で、T及び/またはNK細胞を枯渇させる作用物質と組み合わせて、ドナー細胞の安全な生着を可能にする。具体的には、本発明は、内在性幹細胞のこの改善された選択的破壊を、外来性幹細胞のレシピエントへの投与と併用して組み合わせて、有効な、長期生着及び寛容をもたらす。
【0026】
方法、装置及び製剤が当然変動し得るために、本発明が記載の特定の方法論、製品、装置及び因子に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明することを目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図せず、これは添付の特許請求の範囲によってのみ限定され得ることも理解されたい。
【0027】
本明細書において及び添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈に別段の明確な指定がない限り、複数形の指示物を含むことは留意されなければならない。したがって、例えば、「薬剤候補(a drug candidate)」に対する言及は、このような候補のうちの1つまたは混合物を指し、「本方法(the method)」に対する言及は、当業者に公知の同等のステップ及び方法に対する言及を含み、他も同様である。
【0028】
本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、別段の明確な指定がない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で言及される公開物は全て、当該公開物において説明され及び現在説明されている本発明と関連して使用され得る装置、製剤及び方法を説明及び開示する目的のために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
値の範囲が提供される場合、各介在値は、文脈に別段の明確な記載がない限り、下限単位の10分の1まで、当該記載の範囲における当該範囲の上限と下限との間、及びその他の記載値または介在値が本発明内に包含されることを理解されたい。独立して、より小さな範囲に含まれることがあるこれらのより小さな範囲の上限値及び下限値は、記載の範囲において任意の具体的に除外される限界値に供される、本発明の範囲内に包含される。記載の範囲が両限界値のうちの一方または両方を含む場合、当該両限界値を含むもののうちのいずれか両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0030】
本発明の理解の徹底を期すために、以下の記述では細部にわたる詳細な説明を縷々行っている。しかしながら、本発明が、これらの具体的な詳細のうちの1つまたは複数を伴わずとも実施可能であることは当業者に明らかである。また、周知の特徴及び当業者に周知の手順は、本発明を不明瞭にすることを回避するために記載していない。
【0031】
一般に、当該技術分野の範囲内のタンパク質合成、組換え細胞培養及びタンパク質単離の従来の方法、ならびに組換えDNA技術が本発明において使用される。係る技術は、文献において十分に説明されており、例えば、Maniatis,Fritsch&Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);Sambrook,Russell and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2001);Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.1,Cold Spring Harbor Laboratory(1998);及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)を参照されたい。
【0032】
移植前処置レジメン。同種造血幹細胞移植(HSCT)を受ける患者は、ドナー幹細胞の生着を可能にするために、レシピエントの免疫系を抑制し、内在性幹細胞を枯渇させ得る、いわゆる移植前処置レジメンを用いて準備する。
【0033】
従来の移植前処置レジメンの強度は、顕著に変動することができる。レジメンの記載は、遺伝毒性または非遺伝毒性レジメンを指すことができ、骨髄破壊的または非骨髄破壊的レジメンへの言及と重なり得る。例えば、参照により本明細書に具体的に組み込まれる、Bacigalupo et al.(2009)Biol Blood Marrow Transplant.15(12):1628-1633を参照されたい。
【0034】
遺伝毒性レジメンは、少なくとも部分的に、DNAに対する直接または関節的な作用を有する作用物質の投与、突然変異の誘発、誤ったタイミングでの事象活性化、及び突然変異をもたらす直接的なDNA損傷を含む。遺伝毒性作用物質の例としては、放射線及びある特定の化学療法剤、例えば、アルキル化剤、挿入剤及びDNA複製に関与する酵素の阻害剤が挙げられる。本発明の方法は、非遺伝毒性であるので、係る作用物質の使用を除外する。
【0035】
骨髄破壊的移植前処置レジメンは、投与から1~3週間以内に重度の汎血球低下症及び骨髄破壊を生じると予想される作用物質の組み合わせである。汎血球低下症は、造血幹細胞注入によって造血が回復しない限り、長期間継続し、通常は不可逆的であり、大半の場合は致死性である。例としては、全身照射及び/またはアルキル化剤、フルダラビン、ジメチルブスルファン、エトポシド(VP16)の投与などが挙げられる。遺伝毒性作用物質及び骨髄破壊的作用物質は、有意に重複する。
【0036】
非骨髄破壊的移植前処置レジメンは、典型的に最小限の血球減少を引き起こし、初期毒性はほぼないが、のちに有効量のHSPCを投与したときに、ドナーリンパ造血幹細胞の生着をもたらすことになる程度まで免疫抑制性である。
【0037】
本明細書に提供する移植前処置レジメンは、非遺伝毒性及び非骨髄破壊的であり、長期間継続する(log-lasting)汎血球低下症を引き起こすことなく、生着を防止する内在性幹細胞の枯渇を標的とする作用物質を主に活用する。本方法は、遺伝毒性化学療法剤または放射線を活用しないが、いくつかの場合では、非遺伝毒性、標的免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンA、コルチコステロイドなどを、一過性免疫抑制のために使用することができる。
【0038】
本発明の方法における活性作用物質の「同時(concomitant)投与」は、作用物質が治療効果を同時に有することになる時点での試薬との投与を意味する。このような同時投与は、作用物質の同時の(同時(concurrent))(すなわち、同じ時点での)、前の、または後続の投与を必然的に含み得る。当業者であれば、本発明の特定の薬物及び組成物に関する投与の適切なタイミング、順序、及び投与量を決定することは困難ではない。
【0039】
幹細胞マーカー。ヒト造血幹細胞の抗体媒介性破壊に関する例示的なマーカーには、CD34、CD90(thy-1)、CD59、CD110(c-mpl)、c-kit(CD-117)などが含まれる。中胚葉系幹細胞の破壊に有用なマーカーには、FcγRII、FcγRIII、Thy-1、CD44、VLA-4α、LFA-1β、HSA、ICAM-1、CD45、Aa4.1、Sca-1などが含まれる。神経堤幹細胞は、低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)に特異的な抗体を用いて陽性選択され得る。神経幹/前駆細胞は、当該技術分野で記載されており、様々な治療プロトコルにおけるそれらの使用が広く議論されている。例えば、とりわけ、Uchida et al.(2000)Proc Natl Acad Sci U S A.97(26):14720-5。米国特許第6,638,501号、Bjornson et al.;米国特許第6,541,255号、Snyder et al.;米国特許第6,498,018号、Carpenter;米国特許出願第2002/0012903号、Goldman et al.;Palmer et al.(2001)Nature411(6833):42-3;Palmer et al.(1997)Mol Cell Neurosci.8(6):389-404;Svendsen et al.(1997)Exp.Neurol.148(1):135-46及びShihabuddin(1999)Mol Med Today.5(11):474-80があり、これらはそれぞれ参照により本明細書に具体的に組み込まれる。ヒト間葉系幹細胞は、SH2(CD105)、SH3及びSH4ならびにStro-1などのマーカーを使用して破壊され得る。
【0040】
本発明の一実施形態では、枯渇に関するマーカーは、c-kit(CD117)である。CD117は、III型受容体チロシンキナーゼであり、「スチール因子」または「c-kitリガンド」としても知られる、幹細胞因子(ある特定のタイプの細胞の増殖を誘発する物質)に結合する。この受容体が幹細胞因子(SCF)に結合すると、その固有のチロシンキナーゼ活性を活性化する二量体を形成し、これが次にリン酸化し、細胞内でシグナルを伝播するシグナル伝達分子を活性化する。例えば、ヒトrefseqエントリGenbank NM_000222、NP_000213を参照されたい。CD117は、骨髄内のある特定のタイプの造血(血液)前駆細胞を同定するために使用される重要な細胞表面マーカーである。造血幹細胞(HSC)、多能性前駆細胞(MPP)、及び共通骨髄前駆細胞(CMP)は、高レベルのCD117を発現する。ヒトCD117と特異的に結合する多くの抗体が当該技術分野で公知であり、市販されており、これにはSR1、2B8、ACK2、YB5-B8、57A5、104D2などが含まれるがこれらに限定されない。関心対象となるのは、ヒト化形態のSR1、AMG191であり、これは米国特許第8,436,150号、及び同第7,915,391号に記載されており、アグリコシル化IgG1ヒト化抗体である。
【0041】
有効量の抗CD117抗体は、1つまたは複数の用量において投与してよく、単回用量を含み、これは移植の少なくとも約1週間前、移植の少なくとも約5日前、移植の少なくとも約3日前であってよい。投薬と移植との間の期間は、抗CD117抗体をレシピエントの循環から排除するために実質的に十分である。例えば、投与後のピーク血清レベルにおける低減は、通常はレベルがピークレベルから少なくとも約10分の1、通常は少なくとも約100分の1、1000分の1、10,000分の1、またはそれ以下まで低減するために十分な時間である。ウォッシュアウト期間の後、通常は約3日、約2日、約1日以内、またはクリアランスのときに、空ニッチ「ウィンドウ」内でドナー幹細胞を導入することが好ましい。
【0042】
いくつかの実施形態では、有効量の抗CD117抗体は、最大で約10mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約1mg/kg、最大で約0.5mg/kg、最大で約0.1mg/kg、最大で約0.05mg/kgであり、用量は、特定の抗体及びレシピエントで変動し得る。
【0043】
抗CD47剤。本明細書で使用する場合、「抗CD47剤」または「CD47遮断を提供する薬剤」という用語は、SIRPα(例えば、食細胞上にある)に対するCD47(例えば、標的細胞上にある)の結合を低下させる任意の作用物質を指す。好適な抗CD47試薬の非限定例としては、高親和性SIRPαポリペプチド、抗SIRPα抗体を含むがこれらに限定されない、SIRPα試薬、可溶性CD47ポリペプチド、及び抗CD47抗体または抗体フラグメントが挙げられる。いくつかの実施形態では、好適な抗CD47剤(例えば、抗CD47抗体、SIRPα試薬など)は、CD47と特異的に結合して、SIRPαに対するCD47の結合を低下させる。
【0044】
有効量の抗CD47剤は、作用物質によって変動することができるが、一般的には最大で約50mg/kg、最大で約40mg/kg、最大で約30mg/kg、最大で約20mg/kg、最大で約10mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約1mg/kg、最大で約0.5mg/kg、最大で約0.1mg/kg、最大で約0.05mg/kgの範囲であり得、用量は、特定の抗体及びレシピエントによって変動し得る。CD47に結合する作用物質、例えば、可溶性SIRPαポリペプチド及び抗CD47抗体は、体内でCD47を発現する細胞が多いほど高い用量で投与され得る。
【0045】
抗CD47剤は、移植の1日または複数日前に投与されてよく、いくつかの実施形態では、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7またはより多くの日数、すなわち約1から7日間、約1から5日間、約1から3日間などの期間にわたって毎日投与される。抗c-kit剤と同様に、CD47を標的とすることは、注入後のドナー幹細胞に影響を及ぼす可能性があるため、造血細胞の注入前にウォッシュアウト期間が必要とされる。ウォッシュアウト期間は、c-kit抗体を用いる場合よりも短くてよいが、典型的には少なくとも約24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間であり、最大で約1週間、最大で約5日間、最大で約3日間などであってよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、好適な抗CD47剤(例えば、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチドなど)は、SIRPαと特異的に結合して、SIRPαに対するCD47の結合を低下させる。SIRPαと結合する好適な抗CD47剤は、(例えば、SIRPαを発現する食細胞中で)SIRPαを活性化しない。好適な抗CD47剤の有効性は、当該作用物質をアッセイすることによって評価することができる。例示的なアッセイでは、標的細胞は、候補作用物質の存在下または非存在下でインキュベートされる。本発明の方法において使用する作用物質は、当該作用物質の非存在下での食作用と比較して、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%)食作用を上方制御する。同様に、SIRPαのチロシンリン酸化のレベルに関するin vitroアッセイは、当該候補作用物質の非存在下で観察されるリン酸化と比較して、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%)リン酸化の低下を示す。
【0047】
いくつかの実施形態では、抗CD47剤は、結合の際にCD47を活性化しない。CD47が活性化されると、アポトーシス(すなわち、プログラムされた細胞死)と類似の過程が生じ得る(Manna and Frazier,Cancer Research,64,1026-1036,Feb.1,2004)。ゆえに、いくつかの実施形態では、抗CD47剤は、CD47発現細胞の細胞死を直接誘導しない。
【0048】
SIRPα試薬。SIRPα試薬は、認識可能な親和性にてCD47と結合するために十分な、シグナル配列と膜貫通ドメインとの間に通常存在するSIRPα部分または結合活性を保有するそのフラグメントを含む。好適なSIRPα試薬は、天然タンパク質SIRPαとCD47との間の相互作用を低下させる(例えば、遮断する、防ぐ、など)。SIRPα試薬は通常、SIRPαの少なくともd1ドメインを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、対象の抗CD47剤は、SIRPα由来のポリペプチド及びその類似体(例えば、CV1-hlgG4、及びCV1単量体)を含む「高親和性SIRPα試薬」である。高親和性SIRPα試薬は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる国際出願PCT/US13/21937に記載されている。高親和性SIRPα試薬は、天然SIRPαタンパク質の変異体である。親和性の亢進をもたらすアミノ酸の変化は、d1ドメインに局在し、ゆえに、高親和性SIRPα試薬は、d1ドメイン内の野生型配列に対して少なくとも1個のアミノ酸の変化を有するヒトSIRPαのd1ドメインを含む。このような高親和性SIRPα試薬は任意選択で、追加のアミノ酸配列、例えば、抗体Fc配列、天然タンパク質またはそのフラグメント、通常d1ドメインと連続したフラグメントである、残基150~374を含むがこれらに限定されない、d1ドメイン以外の野生型ヒトSIRPαタンパク質の複数の部分などを含む。高親和性SIRPα試薬は、単量体または多量体、すなわち、二量体、三量体、四量体などであり得る。いくつかの実施形態では、高親和性SIRPα試薬は、可溶性であり、ここで、ポリペプチドは、SIRPα膜貫通ドメインを欠失しており、野生型SIRPα配列に対して少なくとも1個のアミノ酸の変化を含み、当該アミノ酸の変化は、CD47に対するSIRPαポリペプチド結合の親和性を、例えば、脱離速度を少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、またはそれより大きく低減させることによって亢進する。
【0050】
任意選択で、SIRPα試薬は、例えば、第2のポリペプチドとフレームの中で融合した融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、第2のポリペプチドは、融合タンパク質の大きさを増大させることができ、例えば、それにより、融合タンパク質は、循環から迅速に除去されないことになる。いくつかの実施形態では、第2のポリペプチドは、免疫グロブリンFc領域の一部または全体である。Fc領域は、「eat me(食べてくれ)」シグナルを提供することによって食作用を支援し、このことが、高親和性SIRPα試薬によって提供される「don’t eat me(食べないでくれ)」シグナルの遮断を亢進する。他の実施形態では、第2のポリペプチドは、大きさの増大、多量体化ドメイン、及び/または追加の結合もしくはIg分子との相互作用を提供する、Fcと実質的に類似している任意の好適なポリペプチドである。
【0051】
抗CD47抗体。いくつかの実施形態では、対象の抗CD47剤は、CD47(すなわち、抗CD47抗体)と特異的に結合して、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を低下させる抗体である。いくつかの実施形態では、好適な抗CD47抗体は、結合の際にCD47を活性化しない。一部の抗CD47抗体は、SIRPαに対するCD47の結合を低下させず(それゆえ、本明細書では「抗CD47剤」であるとはみなさない)、このような抗体は、「非遮断性抗CD47抗体」と称することができる。「抗CD47剤」である好適な抗CD47抗体は、「CD47遮断性抗体」と称することができる。好適な抗体の非限定例としては、クローンB6H12、5F9、8B6、及びC3が挙げられる(例えば、参照により本明細書に具体的に組み込まれる、国際特許公開WO2011/143624において記載される)。好適な抗CD47抗体には、係る抗体の完全ヒト版、ヒト化版またはキメラ版が含まれる。ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、その低い抗原性のために、ヒトにおけるin vivoでの適用に特に有用である。同様に、イヌ化、ネコ化などの抗体は、それぞれイヌ、ネコ、及び他の種における適用に特に有用である。関心対象の抗体には、ヒト化抗体、またはイヌ化、ネコ化、ウマ化、ウシ化、ブタ化抗体など、及びこれらの変異体が含まれる。
【0052】
抗SIRPα抗体。いくつかの実施形態では、対象の抗CD47剤は、SIRPα(すなわち、抗SIRPα抗体)と特異的に結合して、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を低下させる抗体である。好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαの活性化が食作用を阻害することになるため、SIRPαを介するシグナル伝達を活性化することまたは刺激することなく、SIRPαと結合することができる。代わりに、好適な抗SIRPα抗体は、正常細胞よりも、感染細胞の優先的な食作用を促進する。他の細胞(非感染細胞)に対して高レベルのCD47を発現する細胞(例えば、感染細胞)は、優先的に食作用を受けることになる。ゆえに、好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαと(食作用を阻害するために十分なシグナル伝達応答を活性化/刺激することなく)特異的に結合し、SIRPαとCD47との間の相互作用を遮断する。好適な抗SIRPα抗体には、係る抗体の完全なヒト版、ヒト化版またはキメラ版が含まれる。ヒト化抗体は、その低い抗原性のために、ヒトにおけるin vivoでの適用に特に有用である。同様に、イヌ化、ネコ化などの抗体は、それぞれイヌ、ネコ、及び他の種における適用に特に有用である。関心対象の抗体には、ヒト化抗体、またはイヌ化、ネコ化、ウマ化、ウシ化、ブタ化抗体など、及びこれらの変異体が含まれる。
【0053】
可溶性CD47ポリペプチド。いくつかの実施形態では、対象の抗CD47剤は、SIRPαと特異的に結合して、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を低下させる可溶性CD47ポリペプチドである。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαの活性化が食作用を阻害することになるため、SIRPαを介するシグナル伝達を活性化することまたは刺激することなく、SIRPαと結合することができる。代わりに、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、非感染細胞よりも、感染細胞の優先的な食作用を促進する。正常な非標的細胞(正常細胞)に対して高レベルのCD47を発現する細胞(例えば、感染細胞)は、優先的に食作用を受けることになる。ゆえに、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、食作用を阻害するために十分なシグナル伝達応答を活性化/刺激することなく、SIRPαと特異的に結合する。
【0054】
いくつかの場合では、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、融合タンパク質であることができる(例えば、参照により本明細書に具体的に組み込まれる米国特許公開US20100239579において構造的に説明される)。しかしながら、SIRPαを活性化/刺激しない融合タンパク質のみが、本明細書に提供される方法に好適である。好適な可溶性CD47ポリペプチドには、SIRPαと特異的に結合でき、食作用を阻害するために十分なSIRPα活性を刺激することなくCD47とSIRPαとの間の相互作用を阻害することができる、変異体を含む任意のペプチドもしくはペプチドフラグメントまたは天然に存在するCD47配列(例えば、細胞外ドメイン配列または細胞外ドメイン変異体)も含まれる。
【0055】
ある特定の実施形態では、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチドを含むCD47の細胞外ドメインを含み、それにより、CD47の細胞外部分は典型的には、142アミノ酸長である。本明細書に記載の可溶性CD47ポリペプチドには、アミノ酸配列を少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%、または95%~99%(または65%~100%間で具体的に列挙されていない任意のパーセント同一性)含むCD47細胞外ドメイン変異体も含まれ、当該変異体は、SIRPαシグナル伝達を刺激することなく、SIRPαに結合する能力を保有している。
【0056】
ある特定の実施形態では、シグナルペプチドアミノ酸配列は、別のポリペプチド(例えば、免疫グロブリンまたはCTLA4)から誘導されたシグナルペプチドアミノ酸配列と置換され得る。例えば、外側の細胞膜を通過する細胞表面ポリペプチドである完全長CD47とは異なり、可溶性CD47ポリペプチドは分泌される。したがって、可溶性CD47ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、細胞から正常に分泌されるポリペプチドと会合するシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列が含まれ得る。
【0057】
他の実施形態では、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチドを欠失しているCD47の細胞外ドメインを含む。本明細書に記載するように、シグナルペプチドは、分泌タンパク質または膜貫通タンパク質の細胞表面上に曝露されない、それはシグナルペプチドがタンパク質の転位中に開裂される、またはシグナルペプチドが外側の細胞膜に係留されたままであるからである(このようなペプチドは、シグナルアンカーとも称される)。CD47のシグナルペプチド配列は、in vivoでCD47ポリペプチド前駆細胞から開裂すると考えられている。
【0058】
他の実施形態では、可溶性CD47ポリペプチドは、CD47細胞外ドメイン変異体を含む。係る可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαシグナル伝達を刺激することなくSIRPαに結合する能力を保持する。CD47細胞外ドメイン変異体は、天然CD47配列に対して、少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%、または95%~99%同一であるアミノ酸配列を有し得る(記載の範囲のいずれか1つの間の任意のパーセント同一性を含む)。
【0059】
一過性免疫抑制剤。一過性免疫抑制剤は、免疫細胞、特にTリンパ球の活性を、短期間にわたって、通常はドナー細胞の投与の期間またはその少し前に遮断する。一過性免疫抑制、すなわち有効血清レベルの免疫抑制剤(複数可)は、少なくとも約3日間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間にわたって維持され得、最大で1カ月、最大で2カ月、最大で3カ月、最大で4カ月、最大で5カ月、最大で6カ月、またはそれ以上にわたって維持され得る。いくつかの実施形態では、単回用量の当該作用物質は、ドナー細胞に先立って、または同時に投与される。係る作用物質は、通常、免疫細胞集団の破壊を伴わずに抑制性である。当該作用物質の初回投与は、ドナー細胞の投与の約3日以内、約2日以内、約1日以内、または投与の時点でなされる。
【0060】
一過性免疫抑制は、薬理学的免疫抑制剤の投与により達成することができ、それには、限定されないが、カルシニューリン阻害剤が含まれ、これは結合性タンパク質と組み合わせてカルシニューリン活性を阻害する。これには、例えば、タクロリムス、シクロスポリンAなどが含まれる。シクロスポリン及びタクロリムスのレベルは両方とも注意深くモニターされなければならない。最初は、レベルを10~20ng/mLの範囲に保つことができるが、3カ月後、レベルは腎毒性のリスクを低下させるために低く(5~10ng/mL)保たれ得る。この目的のための他の薬理学的作用物質には、ステロイド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、及びシロリムスなどが含まれる。
【0061】
いくつかの実施形態では、一過性免疫抑制剤は、CD40とCD40リガンドとの相互作用を遮断する。CD40は、抗原提示細胞(APC)上で認められる共刺激タンパク質であり、その活性化のために必要である。これらのAPCには、食細胞(マクロファージ及び樹状細胞)及びB細胞が含まれる。CD40は、TNF受容体ファミリーの一部である。CD40に関する主要な活性化シグナル伝達分子は、IFNγ及びCD40リガンド(CD40L)である。
【0062】
「CD40リガンド」(「CD40L」、「CD154」とも称される)は、II型膜貫通タンパク質である。CD40Lは、当初、T細胞依存性B細胞活性化、増殖、及び分化のメディエーターとして機能する活性化Tリンパ球に限定されると考えられていた。CD40Lの発現は、腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子スーパーファミリーの免疫及び炎症の中心的なメディエーターとして機能的役割を果たす。CD40/CD40L相互作用は、胸腺依存性の体液性免疫応答の発生に不可欠である。CD40Lは、T細胞媒介性エフェクター機能及び適切な宿主防御に必要な一般的免疫応答などの生理学的プロセスを調節するが、炎症誘発性メディエーター、例えばサイトカイン、接着分子、及びマトリックス分解活性の発現も引き起こし、これらは全て慢性炎症性疾患、例えば、自己免疫障害、関節炎、アテローム性動脈硬化、及び癌の病理発生に関連する。
【0063】
免疫反応の多くの態様を媒介するその重要な役割を考慮すると、CD40/CD40L経路は、移植拒絶の予防のための治療標的を提供する。抗CD40L抗体を用いてCD40/CD40Lシグナル経路に干渉することは、動物モデル及び臨床使用における急性同種移植片拒絶及び同種抗体反応を防止するために有効であり得る。後続の研究は、いくつかのげっ歯類モデル(膵島、四肢、角膜及び骨髄)における移植片生存の延長に対する抗CD40Lの有益な効果を実証している。
【0064】
本明細書で使用する場合、「抗CD40L剤」または「CD40L遮断を提供する作用物質」という用語は、CD40に対する(例えば、標的細胞上の)CD40Lの結合を低下させる任意の作用物質を指す。好適な抗CD40L試薬の非限定例としては、抗CD40抗体、及び抗CD40L抗体または抗体フラグメントが挙げられる。関心対象の作用物質は、抗体のフラグメント及び小分子を含むがこれらに限定されない。例えば、CDP7657は、高親和性PEG化一価Fab’抗CD40L抗体フラグメントである。有効量の抗体は、最大で約50mg/kg、最大で約25mg/kg、最大で約10mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約1mg/kg、最大で約0.5mg/kg、またはそれ以下であり得、ここで用量は特定の抗体及びレシピエントで変動し得る。抗体に対する代替として、小分子阻害剤が、例えばChen et al.(2017)J.Med.Chem.60,8906-8922に記載されており、これは参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0065】
T細胞破壊。いくつかの移植状況に関しては、表1に概説するように、内在性T細胞も欠失させることが望ましい。いくつかの実施形態では、破壊的作用物質は、T細胞に特異的であり、他では、NK細胞にも作用する。T細胞を標的とする抗体には、例えば、CD2、CD3、CD4、CD8、CD52(campath)、CD45に特異的な抗体、及びATGが含まれる。タイミングに関しては、T細胞枯渇剤は、ドナー細胞の投与の時点または少し前に活性であることが望ましい。枯渇剤の治療レベルは、ドナー細胞の投与後、少なくとも約3日間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間にわたって維持され得、最大で1カ月、最大で2カ月、最大で3カ月、最大で4カ月、最大で5カ月、最大で6カ月、またはそれ以上にわたって維持され得る。いくつかの実施形態では、ある用量の当該作用物質は、ドナー細胞の投与の約3日以内、約2日以内、約1日以内、または同時点で投与され、抗体によっては、注入の前に、数日間、例えば、2、3、4日間などにわたって毎日投与され得る。有効量の抗体は、最大で約50mg/kg、最大で約25mg/kg、最大で約10mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約1mg/kg、最大で約0.5mg/kg、またはそれ以下、例えば最大で約100μg/kg、最大で約50μg/kg、最大で約10μg/kg、最大で約1μg/kgであってよく、この場合、用量は特定の抗体及びレシピエントで変動し得る。抗体に基づく治療法は、モノクローナル抗体(例えば、ムロモナブCD3)またはポリクローナル抗体、抗CD25抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)などを使用し得る。抗体には、例えば、ATG調製物、KT3、BTI-322(登録商標)(米国特許第5,730,979号、その開示は参照により本明細書に組み込まれる)が含まれる。
【0066】
テプリズマブを含む複数の抗ヒトCD3mAbが臨床開発中であり、MGA031は、OKT3の相補性決定領域をヒトIgG1主鎖に移植することによって開発されたヒト化IgG1抗体である。オテリキシズマブ(ChAglyCD3、TRX4、GSK2136525)は、ラット抗体YTH12.5から誘導され、グリコシル化を避け、ゆえにFcR結合を阻害するために、γ1Fc部分内に単一突然変異を有するヒト化IgG1である。ビシリズマブ(Nuvion、HuM291)は、そのFc領域内の2点突然変異によって非分裂促進性を得たヒト化IgG2抗体である。フォラルマブ(28F11-AE;NI-0401)は、完全なヒト抗CD3mAbである。
【0067】
T細胞及びNK細胞の枯渇のために有用な作用物質は、抗CD52抗体であり、例えば、臨床承認された抗体Campath(アレムツズマブ)が挙げられ、これは組換えDNAにより誘導された、21~28kD細胞表面糖タンパク質であるCD52に対するヒト化モノクローナル抗体である。Campath-1Hは、ヒト可変フレームワーク及び定常領域、ならびにマウス(ラット)モノクローナル抗体(Campath-1G)由来の相補性決定領域を有するIgG1カッパ抗体である。Campathは、例えば、現在承認されている臨床用量、例えば、約3~約7日間の期間にわたって30mgの最大単回用量まで漸増させて投与され得る。
【0068】
NK細胞破壊。いくつかの移植状況に関しては、表1に概説するように、内在性NK細胞も欠失させることが望ましい。上記に示すように、いくつかの作用物質は、T細胞及びNK細胞の両方に作用する、例えば、CD2、CD52に対する抗体などである。他の作用物質は、NK細胞に特異的であり、T細胞標的作用物質と組み合わせて投与され得る。NK細胞を選択的に標的とする抗体としては、例えば、CD122及びCD56に特異的な抗体が含まれる。
【0069】
タイミングに関しては、NK細胞枯渇剤は、ドナー細胞の投与の時点または少し前に活性であることが望ましい。枯渇剤の治療レベルは、ドナー細胞の投与後、少なくとも約3日間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間にわたって維持され得、最大で1カ月、最大で2カ月、最大で3カ月、最大で4カ月、最大で5カ月、最大で6カ月、またはそれ以上にわたって維持され得る。いくつかの実施形態では、ある用量の当該作用物質は、ドナー細胞の投与の約3日以内、約2日以内、約1日以内、または同時点で投与され、抗体によっては、注入の前に、数日間、例えば、2、3、4日間などにわたって毎日投与され得る。有効量の抗体は、最大で約50mg/kg、最大で約25mg/kg、最大で約10mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約1mg/kg、最大で約0.5mg/kg、またはそれ以下、例えば最大で約100μg/kg、最大で約50μg/kg、最大で約10μg/kg、最大で約1μg/kgであってよく、この場合、用量は特定の抗体及びレシピエントで変動し得る。
【0070】
「CD122」(「インターロイキン-2受容体サブユニットベータ」、IL2RBとも称される)は、I型膜タンパク質である。CD122は、インターロイキン2受容体(IL2R)のサブユニットであり、T細胞媒介性免疫応答に関与し、インターロイキン2に結合する能力に関して3つの形態で存在する。低親和性形態のIL2Rは、アルファサブユニットの単量体であり、シグナル伝達に関与していない。中親和性形態は、アルファ/ベータサブユニットヘテロ二量体からなり、一方で高親和形態は、アルファ/ベータ/ガンマサブユニットヘテロ三量体からなる。中親和性及び高親和形態の受容体は両方とも、受容体媒介性エンドサイトーシス及びインターロイキン2からの分裂促進シグナルの伝達に関与している。代替プロモーターの使用は、同じタンパク質をコードする複数の転写物変異体をもたらす。
【0071】
本明細書で使用する場合、「抗CD122剤」または「CD122遮断を提供する作用物質」という用語は、ナチュラルキラー(NK)細胞を含む、CD122陽性細胞を枯渇させる任意の作用物質を指す。好適な抗CD122試薬の非限定例としては、抗IL-2抗体、及び抗CD122抗体または抗体フラグメントが挙げられる。
【0072】
CD56を標的とする抗体は、臨床開発中であり、NK細胞枯渇に使用される。例えば、IMGN901は、細胞傷害性マイタンシノイドDM1の選択的送達のために設計されているCD56標的抗体-薬物コンジュゲートであり、最大耐量(MTD)は約75mg/m2 である。これは例えば、約1~約60mg/m2 の用量で投与されてよい。
【0073】
「主要組織適合性複合体抗原」(「MHC」、「ヒト白血球型抗原」、HLAとも称される)は、これらの細胞に特有の抗原性同一性を付与する細胞表面上に発現されるタンパク質分子である。MHC/HLA抗原は、免疫エフェクター細胞と同一の起源の造血幹細胞(「自己」)から誘導されるものとして、または別の起源の造血再構成細胞(「非自己」)から誘導されるものとして、T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞によって認識される標的分子である。HLA抗原の2つの主なクラスであるHLAクラスI及びHLAクラスIIが認識される。HLAクラスI抗原(ヒトではA、B及びC)は各細胞に「自己」として認識可能にさせ、一方、HLAクラスII抗原(ヒトではDR、DP及びDQ)はリンパ球と抗原提示細胞との間の反応に関与する。両方とも移植臓器の拒絶に関係があるとされる。
【0074】
HLA遺伝子系の重要な態様は、その多型である。各遺伝子、MHCクラスI(A、B及びC)及びMHCクラスII(DP、DQ及びDR)は、異なるアレルに存在する。HLAアレルは数字及びサブスクリプトによって表される。例えば、2つの非血縁個体は、それぞれ、クラスI HLA-B、遺伝子B5及びBw41を有し得る。アレル遺伝子生成物は、α及び/またはβドメイン(複数可)において1つまたは複数のアミノ酸が異なる。特定の抗体または核酸試薬の大きなパネルは、クラスI及びクラスII分子を発現する白血球を使用して、個体のHLAハプロタイプをタイピングするために使用される。HLAタイピングのために最も重要な遺伝子は、6つのMHCクラスI及びクラスIIタンパク質であり、HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの各々について2つのアレルがある。
【0075】
HLA遺伝子は、染色体位置6p21に存在する「スーパー遺伝子座」にクラスター形成され、これは6つの古典的移植HLA遺伝子、及び免疫系の制御ならびにいくつかの他の基本的な分子及び細胞プロセスに重要な役割を有する少なくとも132個のタンパク質をコードする遺伝子をコードする。完全遺伝子座は、大体3.6Mb長であり、少なくとも224遺伝子座を有する。このクラスター形成の効果の1つは、「ハプロタイプ」、すなわち、一方の親から遺伝する、単一染色体上に存在するアレルのセットが、一群として遺伝する傾向にあることである。各親から遺伝したアレルのセットは、一部のアレルが互いに会合する傾向がある場合に、ハプロタイプを形成する。患者のハプロタイプを同定することは、適合するドナーを見出す確率を予測し、検索戦略の開発の一助となることができる。なぜならば、一部のアレル及びハプロタイプは他のものより一般的であり、異なった人種及び民族群において異なった頻度で分布されるからである。
【0076】
本明細書で使用する場合、「HLA適合」という用語は、全てのHLA抗原がドナーとレシピエントとの間で不適合でない、ドナーレシピエント対を言う。HLA適合(すなわち、6つのアレルの全てが適合する)ドナー/レシピエント対は、不適合対(すなわち、6つのアレルのうちの少なくとも1つが不適合である)に比べて、移植片対宿主病(GVHD)のリスクが減少する。HLAハプロ一致は、1つの染色体が、少なくともHLA-A、HLA-B及びHLA-DRで適合しており、染色体上のマイナー組織適合性遺伝子座で適合し得るが第二の染色体上で必ずしも適合しなくてよい、適合を指す。このようなドナーは、家族においてしばしば生じ、例えば、親は子に対してハプロ一致であり、同胞はハプロ一致である可能性がある。
【0077】
本明細書で使用する場合、「HLA不適合」という用語は、少なくとも1つのHLA抗原が、特にHLA-A、HLA-B及びHLA-DRに関して、ドナーとレシピエントとの間で不適合である、ドナーレシピエント対を指す。いくつかの場合では、一方のハプロタイプは適合し、他方は不適合である。この状況は、生体または死体ドナーからの臓器で頻繁に認められる。HLA不適合ドナー/レシピエント対は、完全に適合した対(すなわち、6つのアレルの全てが適合する)に比べて、GVHDのリスクが増大する。
【0078】
HLAアレルは、典型的には、詳細な様々なレベルで記載される。ほとんどの命名はHLA及び遺伝子座名で始まり、次いで*及びアレルを指定するいくつかの数字(偶数)が続く。最初の2つの数字はアレル群を指定する。より古いタイピング法は、しばしば、アレルを完全に識別できず、このレベルに留まっていた。第3~第4の数字は、同義のアレルを指定する。第5~第6の数字は、遺伝子のコーディングフレーム内の任意の同義変異を示す。第7及び8の数字は、コーディング領域の外側の突然変異を識別する。L、N、QまたはSなどの文字は、発現レベルまたはそれについて知られた他の非ゲノムデータを指定するためのアレル命名の後につくことがある。ゆえに、完全に記載されたアレルは、最大9つの数字長であり得、これにはHLA接頭辞及び遺伝子座表記は含まれない。
【0079】
本明細書で使用する場合、「レシピエント」は、一般に同一種である別の個体(ドナー)からの臓器、組織または細胞が、移入されている個体である。本開示の目的のため、レシピエント及びドナーは、HLA適合またはHLA不適合のいずれかである。
【0080】
本明細書で使用する場合、「抗体」には、特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン分子に対する言及が含まれ、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の両方が含まれる。当該用語には、キメラ抗体(例えば、ヒト化ネズミ抗体)及びヘテロ共役型抗体のような遺伝子操作した形態も含まれる。「抗体」という用語には、抗原結合能を有するフラグメント(例えば、Fab’、F(ab’)2 、Fab、Fv及びrIgGを含む、抗体の抗原結合形態も含まれる。当該用語は、組換え一本鎖Fvフラグメント(scFv)も指す。抗体という用語には、二価または二重特異性の分子、二重特異性抗体、三重特異性抗体、及び四重特異性抗体も含まれる。
【0081】
内在性幹細胞破壊及び一過性免疫抑制のための抗体の選択は、選択性、親和性、細胞傷害性などを含む種々の基準に基づいてよい。抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」という語句または「特異的に(または選択的に)~と免疫反応する」という語句は、タンパク質またはペプチドを指すとき、タンパク質及び他の生物製剤の異種集団における当該タンパク質の存在を決定する結合反応を指す。ゆえに、指定のイムノアッセイ条件下では、指定の抗体は、特定のタンパク質配列に、バックグラウンドの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10~100倍を超えて結合する。概して、本発明の抗体は、エフェクター細胞(ナチュラルキラー細胞またはマクロファージなど)の存在下で標的細胞の表面上にある抗原と結合する。エフェクター細胞上のFc受容体は、結合した抗体を認識する。Fc受容体の架橋は、エフェクター細胞に、細胞溶解またはアポトーシスによって標的細胞を殺滅するようにシグナル伝達する。一実施形態では、当該誘導は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介して達成される。代替の実施形態では、抗体は標的とされる細胞の増殖阻害において活性であり、破壊は成長因子のシグナル伝達に干渉することにより達成される、例えば、c-kitなどの成長因子受容体に特異的な抗体である。
【0082】
特定の抗原と免疫学的に反応する抗体は、ファージもしくは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリの選択などの組換え法によって、または抗原を用いてもしくは抗原をコードするDNAを用いて動物を免疫化することによって生成することができる。ポリクローナル抗体を調製する方法は、当業者に公知である。抗体は、代替としてモノクローナル抗体であってよい。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法を用いて調製され得る。ハイブリドーマ法では、適切な宿主動物は典型的には、免疫化剤を用いて免疫化されて、当該免疫化剤に特異的に結合する抗体を産生するまたは産生することができるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球は、in vitroで免疫化され得る。次いで、リンパ球は、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を使用して不死化細胞株と融合して、ハイブリドーマ細胞を形成する。
【0083】
ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む、当該技術分野で公知の種々の技術を用いて産生することができる。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的にまたは完全に失活したトランスジェニック動物、例えばマウスへと導入することによって作成することができる。チャレンジの際に、遺伝子再編成、組み立て、及び抗体レパートリーを含む全ての点においてヒトにおいて見られるものと密接に類似している、ヒト抗体産生が観察される。
【0084】
抗体は、種々のペプチダーゼを用いた消化によって産生されるいくつかの十分に特徴づけられたフラグメントとしても存在する。ゆえに、ペプシンは、ヒンジ領域内でジスルフィド連結下にある抗体を消化して、それ自体がジスルフィド結合によりVH -CH1に接合した軽鎖であるFabの二量体である、F(ab’)2 を産生する。F(ab)’2 を、マイルドな条件下で還元して、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することにより、F(ab’)2 二量体をFab’単量体へ変換し得る。Fab’単量体は本質的に、ヒンジ領域部を有するFabである。種々の抗体フラグメントがインタクト抗体の消化に関して定義されるが、当業者は、このようなフラグメントが化学的にまたは組換えDNA法を用いることによってのいずれかでデノボ合成され得ることを理解する。ゆえに、抗体という用語は、本明細書で使用する場合、抗体全体の修飾によって生成された抗体フラグメント、または組換えDNA法を用いてデノボ合成された抗体フラグメント(例えば、一本鎖Fv)またはファージディスプレイライブラリを用いて同定された抗体フラグメントも含む。
【0085】
「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する免疫グロブリン分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種のCDR由来の残基(ドナー抗体)によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体は、レシピエント抗体においても移入されたCDRまたはフレームワーク配列においても認められない残基も含み得る。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全部または実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、フレームワーク(FR)領域の全部または実質的に全部がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のそれである、少なくとも1つ及び典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含む。ヒト化抗体は、最適には、典型的にはヒト免疫グロブリンのものである、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含む。
【0086】
破壊のための関心対象の抗体は、ADCC(抗体依存性細胞傷害)を誘導するその能力について検査されてよい。抗体関連ADCC活性は、溶解した細胞からの標識もしくは乳酸脱水素酵素の放出のいずれかの検出、または標的細胞生存の減少の検出(例えば、アネキシンアッセイ)によりモニター及び定量化することができる。アポトーシスに関するアッセイは、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性ジゴキシゲニン-11-dUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイによって実施されてよい(Lazebnik et al.,Nature:371,346(1994)。細胞傷害性は、Roche Applied Science(Indianapolis,Ind.)製の細胞傷害性検出キットなどの、当該技術分野で公知の検出キットによって直接検出されてもよい。好ましくは、本発明の抗体は、標的細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、または80%細胞傷害を誘発する。
【0087】
いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター部分にコンジュゲートする。エフェクター部分は、放射性標識または蛍光標識などの標識部分を含む、任意の数の分子であることができるか、または細胞傷害性部分であることができる。細胞傷害性作用物質は多数多様で、細胞傷害性薬物または毒素もしくは係る毒素の活性フラグメントを含むがこれらに限定されない。好適な毒素及びその対応するフラグメントには、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシン、サポリン、アウリスタチン-Eなどが含まれる。細胞傷害性作用物質は、放射性同位元素を抗体にコンジュゲートさせることによって作成された放射化学物質も含む。細胞傷害性部分を膜貫通タンパク質に標的化することは、標的領域における細胞傷害性部分の局在濃度の増加に役立つ。
【0088】
幹細胞という用語は、本明細書では、自己複製、及び分化した後代を生成する能力の両方を有する哺乳動物細胞を指すために使用される(Morrison et al.(1997)Cell88:287-298を参照されたい)。一般に、幹細胞は、非同調、または対称複製を受ける能力、つまり分裂後の二つの娘細胞が異なる表現型を有することができる広範な自己複製能力、有糸分裂静止形態にて存在する能力、及びそれらが存在する全ての組織のクローン再生、例えば全ての造血系列を再構成する造血幹細胞の能力の特性のうちの1つまたは複数を有する。
【0089】
生着目的のために、造血幹細胞を含む組成物を、患者に投与する。このような方法は当該技術分野で周知である。幹細胞は、任意選択的に、必須ではないが、精製されている。幹細胞の精製及び後続の生着のための種々の方法が多数の報告で探求されており、それにはフローサイトメトリー;アイソレックスシステム(Klein et al.(2001)Bone Marrow Transplant.28(11):1023-9;Prince et al.(2002)Cytotherapy4(2):137-45);免疫磁気分離法(Prince et al.(2002)Cytotherapy4(2):147-55;Handgretinger et al.(2002)Bone Marrow Transplant.29(9):731-6;Chou et al.(2005)Breast Cancer.12(3):178-88)などが含まれる。これらの参考文献はそれぞれ、特に造血幹細胞移植のための手順、細胞組成及び用量に関して、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0090】
造血幹細胞は、骨髄からまたは末梢血から回収することにより得ることができる。骨髄は、一般的に、ドナーが局所または全身麻酔下にある間に、後腸骨稜から吸引される。追加の骨髄は、前腸骨稜から得ることができる。キログラム当り1×108 及び2×108 個の骨髄単核細胞が、通常、それぞれ自家及び同種骨髄移植において生着を確立するために望ましいと考えられる。骨髄は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF;フィルグラスチム[Neupogen])を用いてプライムして、幹細胞数を増やすことができる。本明細書に記載の目的のための「全骨髄」に対する言及は、一般に、特定の免疫細胞サブセットに関して選択されていない骨髄から誘導される単核細胞の組成物を指す。「分画骨髄」は、例えば、T細胞、例えば、CD8+ 細胞、CD52+ 細胞、CD3+ 細胞などが枯渇している、CD34+ 細胞について富化しているなどである場合がある。
【0091】
造血幹細胞は、臍帯血からも得られる。臍帯血は、同種造血幹細胞移植のための造血幹細胞のほぼ無制限の供給源である。臍帯血バンク(CBB)は、血縁者または非血縁者UCBTのために設立され、400,000を超えるユニットが利用可能で、20,000を超える臍帯血移植が小児及び成人において実施されている。UCB造血前駆細胞は、in vivoで長期再増殖する幹細胞を産生することができる原子幹細胞/前駆細胞に富化している。しかしながら、任意の単一ドナーから入手可能な細胞の数は、他の供給源と比較して、比較的少なくあり得る。
【0092】
G-CSFまたはGM-CSFなどのサイトカインによる骨髄から末梢血への幹細胞の動員は、造血幹細胞移植のためのアフェレシスによる末梢血前駆細胞収集の広範な適用をもたらしている。動員に使用されるG-CSFの用量は、10μg/kg/日である。しかしながら、重度に前処置されている自家ドナーでは、最大で40μg/kg/日の用量を与えることができる。モゾビルを、収集のために造血幹細胞を末梢血へと動員するためにG-CSFと併用してよい。
【0093】
投与される幹細胞の用量は、注入される細胞組成物の所望の純度、及び細胞の供給源に依存し得る。現行のガイドラインでは、生着のために必要とされる最小用量は、自家及び同種移植に関して、1~2×106 個のCD34+ 細胞/kg体重であると示されている。より高い用量に、例えば、3×106 、4×106 、5×106 、6×106 、7×106 、8×106 、9×106 、107 またはそれ以上を含むことができる。しばしば、用量は、利用可能な細胞の数によって制限される。典型的には、供給源に関わらず、用量は、存在するCD34+ 細胞の数により算出される。CD34+ 細胞の数の割合(%)は、未分画骨髄または動員末梢血に関して低くあり得る。この場合、投与される細胞の総数は、遥かに高い。
【0094】
CD34+ 細胞は、ドナー造血細胞試料から、アフィニティー法により選択されてよく、これには磁気ビーズ選択、フローサイトメトリー、などを含むがこれらに限定されない。HSPC組成物は、集団内のCD34+ である細胞の割合(%)により定義して、少なくとも約50%純粋であってよい、少なくとも約75%純粋、少なくとも約85%純粋、少なくとも約95%純粋、またはそれ以上であってよい。好ましくは、HSPC組成物と共に送達されるCD3+ 細胞の最大数は、レシピエントの体重kg当り約106 個以下のCD3+ 細胞、レシピエントの体重kg当り約105 個以下のCD3+ 細胞、レシピエントの体重kg当りの約104 個以下CD3+ 細胞である。あるいは、細胞集団は、CD34及びCD90の発現に関してタンデムに選択されてよく、この細胞集団は高度に精製されていてよい、例えば、少なくとも約85%CD34+ CD90+ 細胞、少なくとも約90%CD34+ CD90+ 細胞、少なくとも約95%CD34+ CD90+ 細胞であってよく、最大で約99%CD34+ CD90+ 細胞またはそれ以上であってよい。あるいは、未処置骨髄または動員末梢血集団を使用する。
【0095】
造血幹細胞は、in vitroで、例えば多能性胚性幹細胞、人工多能性細胞、などから生成することもできる。例えば、Sugimura et al.(2017)Nature545:432-438を参照されたく、これは参照により本明細書に具体的に組み込まれ、造血前駆細胞の生成のためのプロトコルを詳述している。
【0096】
採用される細胞は、新鮮なもの、凍結されたもの、または前培養されているものであってよい。これらは、胎児、新生児、成体などであってよい。造血幹細胞は、胎児の肝臓、骨髄、血液、特にG-CSFもしくはGM-CSF動員末梢血、または任意の他の従来の供給源から得てよい。生着のための細胞は、任意選択で、他の細胞から単離されており、幹細胞が造血または他の系列から分離される様式は、本明細書にとって重要でない。所望の場合、幹細胞に関連したエピトープ特性を示す一方で分化細胞に関連したマーカーを含まない細胞を選択的に単離することにより、幹細胞または前駆細胞の実質的に均質な集団が得られ得る。
【0097】
細胞は、分化細胞において有用な遺伝子、例えば、個体における遺伝的欠損の修復、選択可能マーカーなど、または未分化ES細胞に対する選択において有用な遺伝子を導入するために、遺伝子改変され得る。細胞はまた、生存を増強する、増殖を制御するなどのために遺伝子改変され得る。細胞は、それらが関心対象の遺伝子を発現するように、好適なベクターを用いたトランスフェクションもしくは形質導入、相同組換え、または他の適切な技術によって遺伝子改変され得る。一実施形態では、細胞は、典型的には内在性プロモーター下で生じるものを超えてテロメラーゼ発現を増加させる異種プロモーター下で、テロメラーゼ触媒成分(TERT)をコードする遺伝子を用いてトランスフェクションされる(国際特許出願WO98/14592を参照されたい)。他の実施形態では、より高い純度の所望の分化性細胞を提供するために、選択可能マーカーが導入される。細胞は、8~16時間にわたってベクター含有上清を使用して遺伝子改変され、次いで1~2日間にわたって増殖培地へと交換され得る。遺伝子改変された細胞は、ピューロマイシン、G418、またはブラストサイジンなどの薬物選択剤を使用して選択され、次いで再培養される。
【0098】
本発明の細胞を、組織再生に関与するその能力を増強するため、または治療遺伝子を投与部位に送達するために遺伝子改変することもできる。ベクターは、構成的、pan特異的、分化細胞型において特に活性であるなどのプロモーターに操作可能に連結された、所望の遺伝子に関する公知のコード配列を使用して設計される。好適な誘導性プロモーターは、所望の標的細胞型、トランスフェクションされた細胞、またはその子孫のいずれかにおいて、活性化される。転写活性化によって、転写が、標的細胞中にて基礎レベルを超えて、少なくとも約100倍、より通常では少なくとも約1000倍増加されることが意図される。異なる細胞型において誘導される種々のプロモーターが公知である。
【0099】
外来性遺伝子を標的哺乳類細胞中に移入するために有用な多くのベクターが利用可能である。ベクターは、エピソーマル、例えば、プラスミド、ウイルス由来ベクター、例えばサイトメガロウイルス、アデノウイルスなどであり得、または標的細胞ゲノムへと、相同組換えまたはランダム組み込みを通して組み込まれ得る、例えば、レトロウイルス由来ベクター、例えばMMLV、HIV-1、ALVなどであり得る。幹細胞の改変に関しては、レンチウイルスベクターが好ましい。レンチウイルスベクター、例えばHIVまたはFIV gag 配列に基づくものが、非分裂性細胞、例えば、休止期のヒト幹細胞をトランスフェクトするために使用され得る。レトロウイルス及び好適なパッケージング細胞株の組み合わせもまた使用され得、この場合、カプシドタンパク質が、標的細胞を感染させるために有用となる。通常、細胞及びウイルスを、培養培地中で少なくとも約24時間インキュベートする。次いで、細胞を、ある適用においては短期間、例えば24~73時間、または少なくとも2週間、培養培地中で自然に増殖させ、分析前に、5週間またはそれ以上にわたって増殖させ得る。一般的に使用されるレトロウイルスベクターは、「欠損性」である、すなわち、増殖性感染のために必要とされるウイルスタンパク質を産生することができない。ベクターの複製は、パッケージング細胞株中における増殖を必要とする。ベクターは、例えば、Cre/Loxなどのリコンビナーゼ系を使用して、後に除去されなければならない遺伝子を含んでよい、または、それらを発現する細胞は、例えばヘルペスウイルスTK、bcl-Xsなどの選択毒性を可能にする遺伝子を含むことによって、破壊される。
【0100】
キメリズムは、本明細書で使用する場合、別途示されない限り、通常、造血系のキメリズムを指す。個体が、完全キメラ、混合キメラ、または非キメラ生成物であるか否かは、当該技術分野で公知のように、移植片レシピエントからの造血細胞試料、例えば、末梢血、骨髄などの分析により決定される。分析は、任意の従来法のタイピングによりなされてよい。いくつかの実施形態では、全ての単核細胞、T細胞、B細胞、CD56+NK細胞、及びCD15+好中球間のキメリズムの程度は、定期的にモニターされ、これには、マイクロサテライト分析用プローブを用いたPCRを使用する。例えば、ドナー及び宿主起源の短い末端反復長内の多型を識別する市販のキットが入手可能である。自動リーダーは、人工ドナー及び宿主細胞混合物からの標準曲線に基づいてドナー型細胞の割合(%)を提供する。
【0101】
このような分析により移植後の任意の時点で95%超のドナー細胞を所与の血液細胞系列中に呈する個体は、この移植患者群において完全ドナーキメリズムを有すると称される。混合キメリズムは、このような分析において1%超ドナーであるが95%未満のドナーDNAとして定義される。混合キメリズムを呈する個体は、キメリズムの発展に従ってさらに分類される可能性があり、混合キメリズムの改善は、少なくとも6カ月の期間にわたるドナー細胞の比率における継続的な増加と定義される。安定した混合キメリズムは、ドナー細胞が完全に喪失しない、経時的なレシピエント細胞の割合(%)の変動と定義される。
【0102】
本発明の目的に関する「患者」には、ヒトならびに、ペット及び実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギなどを含む他の動物、特に哺乳類の両方が含まれる。ゆえに、当該方法は、ヒト療法及び獣医学的適用の両方に適用可能である。一実施形態では、患者は、哺乳類、好ましくは霊長類である。他の実施形態では、患者はヒトである。
【0103】
追加の用語。「処置」、「処置する(treating)」、「処置する(treat)」などの用語は、本明細書において一般的に、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを指すために使用される。効果は、疾患もしくはその症状(複数可)の完全もしくは部分的予防という点で予防的であることができる、ならびに/または疾患及び/もしくは疾患に起因する副作用の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で治療的であり得る。「処置」という用語は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患もしくは症状に罹患する可能性があるがまだ罹患していると診断されていない対象において疾患及び/もしくは症状(複数可)が発生することを予防すること、(b)疾患及び/もしくは症状(複数可)を阻害すること、すなわち、それらの発生を停止させること、または(c)疾患症状(複数可)を軽減すること、すなわち、疾患及び/もしくは症状(複数可)の退縮を引き起こすことを含む。処置を必要とするものには、すでに負っている者(例えば、癌を有する、感染している者など)ならびに予防が望まれるもの(例えば、癌に対する感受性が増加しているもの、感染の可能性が増加しているもの、癌を有する疑いがあるもの、感染していると疑われるものなど)が含まれる。
【0104】
生着のための方法
本発明の方法は、レシピエントへの移植後の幹細胞の生着の改善を提供する。レシピエントは、免疫応答性であり得、移植は、骨髄破壊的移植前処置の非存在下、すなわち放射線及び/または化学療法薬の非存在下で行われ得る。レシピエントは、細胞及びHLA適合に従って選択される一式の作用物質の組み合わせ投与を用いて移植前処置される。作用物質の選択は、表1に示され、これは、最適化された移植前処置プロトコルのガイドラインを提供する。「+」は、指定の作用物質、HLA適合及び細胞源について、当該作用物質が含まれるべきであることを示す。「-」は、必須ではないが、任意選択で含まれることができることを示す。上記で開示するように、ある特定の作用物質は、T細胞及びNK細胞の両方を枯渇させることができ、それゆえ両方に対して一つの作用物質のみが必要とされる。異なる作用物質に関するタイミング及び用量は、上記のとおりである。本発明の移植前処置レジメンは、内在性幹細胞を選択的に破壊し、内在性免疫反応の好適な選択された抑制を提供し、それにより適合しないレシピエントにおいても生着を可能にする。
【0105】
【0106】
移植前処置レジメンの後、外来性幹細胞を含む有効量の細胞組成物は、レシピエントに一過性免疫抑制の期間中に投与される。幹細胞は、自家、同種または異種であってよく、同種ハプロ一致幹細胞、不適合同種幹細胞、遺伝子操作された自家細胞などを含むがこれらに限定されない。
【0107】
HSPCの注入は、臨床現場で行われる比較的単純なプロセスである。骨髄生成物は、一般に新鮮に使用され、中心静脈を通して、数時間にわたって注入される。自家生成物は、しばしば凍結保存される。その場合、臨床現場で解凍され、数分間にわたって迅速に注入される。PBMCは、短かく一晩保存または凍結保存されてよい。
【0108】
ドナーがレシピエントに対して同種である場合、ドナー及びレシピエントのHLA型は、適合について検査されてよい、またはハプロ一致細胞が使用される。HLAハプロ一致ドナーは、CD34またはCD34CD90選択により操作されることができる。さらには、HLAハプロ一致ドナーは、他の適応症に関して現在広く使用されている(HLA一致を超えている可能性がある)。HLA適合検査に関して、従来、適合検査に関して重要な遺伝子座は、HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRである。HLA-C及びHLA-DQも現在、ドナーの妥当性を判断する際に考慮されるようになっている。完全適合同胞ドナーは、一般的に理想的なドナーであると考えられる。非血縁者ドナーに関しては、完全適合または単一の不適合が、大半の移植に関して許容可能と考えられるが、ある特定の状況においては、より大きな不適合も耐容される。好ましくは、適合検査は、血清学及び分子学の両方である。ドナーが臍帯血である場合、耐容可能なHLA不同性は遥かに大きく、6つのHLA-A、HLA-B及びHLA-DRB1抗原のうちの3~4つの適合が移植に十分である。免疫応答性ドナーT細胞は、移植片対宿主病(GVHD)が発症し得る可能性を低下または排除するために、様々な方法を使用して除去され得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、手順の成功は、レシピエントの循環内での、宿主由来骨髄系細胞、例えば、CD15+ 細胞の存在を決定することによりモニターされる。血中骨髄キメリズムは、骨髄系細胞の短期生存特性のために、真のHSC生着の指標である。HCTの約8週間後、本明細書に記載の方法は、測定可能及び持続レベルの血中骨髄キメリズム、例えば、少なくとも約1%ドナー型、CD15+ 細胞、少なくとも約2%ドナー型、CD15+ 細胞、少なくとも約4%ドナー型、CD15+ 細胞、少なくとも約8%ドナー型、CD15+ 細胞、またはそれ以上の、血中骨髄キメリズムを提供している。
【0110】
移植前処置作用物質は、骨髄破壊的放射線または化学療法の非存在下で提供されてよく、上述の特定の要件に従って投与される。いくつかの作用物質は、HSPCの投与後に活性となるよう投与され、一方で他の作用物質はウォッシュアウト期間を必要とする。
【0111】
一過性免疫抑制剤は、活性化されたT細胞活性を、少なくとも10分の一、少なくとも100分の一、少なくとも1000分の一、少なくとも100,000分の一またはそれ以下に低減する用量で提供される。有効量は、個体及び特定の作用物質に依存することになるが、作用物質が抗体である場合、用量は、少なくとも約50μg/kg体重、少なくとも約250μg/kg、少なくとも約500μg/kg、少なくとも約750μg/kg、少なくとも約1mg/kg、及び最大で約2.5mg/kg、最大で約5mg/kg、最大で約7.5mg/kg、最大で約10mg/kg、最大で約15mg/kg、最大で約25mg/kg、最大で約50mg/kg、最大で約100mg/kgであり得る。
【0112】
移植前処置作用物質は、医薬組成物に製剤化される。正確な用量は、処置の目的に依存し、公知の技術を使用して当業者により確認可能である(例えば、Ansel et al.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery;Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vols.1-3,1992),Dekker,ISBN0824770846,082476918X,0824712692,0824716981;Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999);及びPickar,Dosage Calculations(1999))。当該技術分野で公知のように、患者の状態、全身送達対局所送達、ならびに年齢、体重、全身健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用及び状態の重症度に関する調整が必要であり得、当業者により通常の実験を用いて確認可能である。
【0113】
作用物質の投与は、上述のように様々な方法においてなされることができ、経口、皮下、静脈内、鼻腔内、経皮、腹腔内、筋肉内、または眼内を含むがこれらに限定されない。抗体は、静脈内注射によって送達され得る。
【0114】
一実施形態では、医薬組成物は、水溶性形態であり、例えば薬学的に許容され得る塩として存在しており、これは酸付加塩及び塩基付加塩の両方を含むことが意図される。「薬学的に許容され得る酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的有効性を保持しており、生物学的にも別の意味でも望ましくないものではない、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、及び有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などを用いて形成された塩を指す。「薬学的に許容され得る塩基付加塩」には、無機塩、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などから誘導されたものが含まれる。特に有用なのは、アンモニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩である。薬学的に許容され得る有機非毒性塩基から誘導された塩には、第一級、第二級、及び第三級アミン、天然に存在する置換アミンを含む置換アミン、環状アミン及び塩基性イオン交換樹脂、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、及びエタノールアミンが含まれる。
【0115】
医薬組成物は、キャリアタンパク質、例えば血清アルブミン、緩衝液、充填剤、例えば微結晶セルロース、ラクトース、トウモロコシ及び他のデンプン、結合剤、甘味料及び他の香味料、着色剤、及びポリエチレングリコールのうちの1つまたは複数も含み得る。
【0116】
医薬組成物は、投与方法に応じて様々な単位剤形で投与することができる。例えば、経口投与に好適な単位剤形には、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル及びトローチ剤が含まれるがこれらに限定されない。本発明の組成物は、経口投与されるとき、消化から保護されるべきであることが認識される。これは典型的には、分子を組成物と複合体化させて、酸性及び酵素加水分解に対して耐性を与えることにより、またはリポソームもしくは保護バリアなどの適切な耐性キャリア中に分子をパッケージングすることのいずれかにより達成される。作用物質を消化から保護する手段は、当該分野で周知である。
【0117】
投与用組成物は、一般的に、薬学的に許容され得るキャリア、好ましくは水性キャリア中に溶解された抗体または他の作用物質を含む。様々な水性キャリア、例えば、緩衝食塩水などを使用することができる。これらの溶液は、滅菌されており、一般的に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の、周知の滅菌技術により滅菌されてよい。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ナトリウム乳酸塩などのおおよその生理学的条件に必要とされる薬学的に許容され得る補助物質を含有してよい。これらの製剤中の活性剤の濃度は、広く変動することができ、選択された投与の特定の様式及び患者の要求に従って、液体量、粘度、体重など主に基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman&Gillman、The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0118】
破壊的作用物質を含有する組成物、例えば、抗体、可溶性SIRPαなどを、治療的処置のために投与することができる。組成物は、患者に、上述のように、標的とする内在性幹細胞を実質的に破壊するために十分な量で投与される。これを達成するために十分な量は、「治療有効量」と定義される。組成物の単回または複数回投与は、患者に必要とされ耐容される投与量及び頻度に応じて投与され得る。処置に必要とされる具体的な用量は、哺乳類の病状及び病歴、ならびに他の因子、例えば年齢、体重、性別、投与経路、有効性などに依存する。
【0119】
本発明の方法では、作用物質は、移植前の短期間の治療として投与される。通常、処置は、移植の少なくとも約1週間前、移植の少なくとも約5日前、移植の少なくとも約3日前に完了する。必要に応じてプロセスを繰り返してよく、例えば、ニッチをクリアにするために必要に応じて、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上繰り返してよい。
【0120】
処置のための条件
幹細胞移植の適応症は、疾患のカテゴリーによって異なり、染色体異常、以前の治療に対する応答、患者の年齢及び全身状態、疾患状態(寛解対再発)、疾患特異的予後因子、好適な移植片供給源の利用可能性、紹介時期、ならびに移植時期などの因子に影響される。
【0121】
自家HSCTは、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、急性骨髄性白血病、神経芽細胞腫、胚細胞腫瘍、自己免疫疾患-全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症、アミロイドーシスなどの症状を処置するために現在使用されている。
【0122】
同種HSCTは、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性障害、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、再生不良性貧血、真性赤血球無形成症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、ファンコニー貧血、サラセミアメジャー、鎌状赤血球貧血症、重症複合免疫不全症(SCID)、ウィスコット・オルドリッチ症候群、血球貪食症候群(HLH)、先天性代謝異常-例えば、ムコ多糖症、ゴーシェ病、異染性白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー、表皮水疱症、重症先天性好中球減少症、シュワッハマン・ダイアモンド症候群、ダイアモンド・ブラックファン貧血、白血球接着不全症などの障害を処置するために現在使用されている。
【0123】
本発明の実施形態は、遺伝性血液障害に罹患している患者への移植を含み、この場合正常な表現型の外来性幹細胞を当該患者へと移植する。このような疾患には、ヘモグロビン合成障害(ヘモグロビン異常症)により引き起こされる貧血の処置が含まれるが、これに限定されない。幹細胞は、正常表現型の同種幹細胞であり得る、または望ましくない遺伝子配列を欠失する、及び/もしくは遺伝的欠陥を矯正する遺伝子配列を導入するように遺伝子操作されている自家細胞であり得る。
【0124】
鎌状赤血球症には、HbS症、鎌状赤血球性貧血、鎌状赤血球症(meniscocytosis)が含まれる。慢性溶血性貧血は、ほとんど黒人においてのみ発生し、Hb Sのホモ接合性遺伝によって引き起こされる鎌型RBCを特徴とする。ホモ接合体は、鎌状赤血球貧血症を有し、ヘテロ接合体は、貧血性はないが鎌状傾向(鎌状血症)がin vitroで実証可能である。Hb Sでは、バリンが、ベータ鎖の6番目のアミノ酸にてグルタミン酸と置換される。デオキシ-Hb Sは、デオキシ-Hb Aよりも遥かに溶解性が低く、半固体ゲルの桿状タクトイドを形成し、それが原因となってPO2 が低い部位でRBCを鎌状にさせる。歪んで弾性に乏しいRBCは血管内皮に付着し、小さな細動脈及び毛細血管を塞いで、閉塞及び梗塞を引き起こす。鎌状RBCは、循環の機械的外傷に耐えるには脆弱すぎるため、循環に入った後に溶血が生じる。ホモ接合体では、臨床的症状は貧血及び血管閉塞事象によって引き起こされ、組織の虚血及び梗塞を引き起こす。成長と発達とが損なわれ、感染に対する感受性が高まる。貧血は通常重症だが、患者によって大きく異なる。貧血は、脾臓内の鎌状赤血球の急性血球貯留によって小児で悪化することがある。
【0125】
サラセミアは、Hb合成障害及び無効な赤血球産生を特徴とする、慢性、遺伝性、小球性貧血の一群であり、特に地中海、アフリカ、及び東南アジア祖先の人によく見られる。サラセミアは、最も頻度の高い遺伝性溶血性疾患である。少なくとも1つのグロビンポリペプチド鎖(β、α、γ、δ)の産生の減少によって引き起こされるアンバランスなHb合成から生じる。
【0126】
再生不良性貧血は、RBC前駆体の喪失から生じ、幹細胞プールの異常または骨髄を支持する微小環境の障害のいずれかが原因となり、しばしば正常上限MCV値を伴う。再生不良性貧血という用語は、一般には、白血球減少及び血小板減少を伴う骨髄の汎低形成を意味する。
【0127】
複合免疫不全は、B細胞系及びT細胞系の両方の先天性及び通常は遺伝性の欠失、リンパ系形成不全、及び胸腺形成異常を特徴とする一群の障害である。複合免疫不全症には、重症複合免疫不全症、スイス型無ガンマグロブリン血症、アデノシンデアミナーゼまたはヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症との複合免疫不全症、及び免疫グロブリンとの複合免疫不全症(Nezelof症候群)が含まれる。ほとんどの患者は、鵞口瘡、肺炎、及び下痢による感染症の早期発症がある。処置しなければ、大半の患者は2歳までに死亡する。大半の患者は、B細胞及び免疫グロブリンが深刻に欠失している。リンパ球低下症、T細胞レベルが低いまたは存在しない、マイトジェンに対する増殖反応が乏しい、皮膚アネルギー、胸腺影が無い、及びリンパ組織の消失が特徴である。ニューモシスティス肺炎及び他の日和見感染症がよく見られる。
【実施例0128】
実施例1
ハプロ一致造血幹細胞移植のための非遺伝毒性移植前処置レジメン
材料及び方法
マウス。全てのドナー及びレシピエントマウスは、8週齢から12週齢とした。ドナーマウスは、Shizuru labによって飼育されたAKR×Hz F1マウスとした。AKR×Hz F1マウスは、45.1及び45.2、ならびにH2Kb及びH2Kkに関して二重陽性である。レシピエントマウスは、JAXからのCB6F1とした。CB6F1マウスは、45.2に関して単一陽性であり、H2Kb及びH2Kdに関して二重陽性である。全ての手順は、International Animal Care and Use Committeeにより承認されていた。マウス株は、スタンフォード大学のResearch Animal Facilityで維持された。
【0129】
抗体。in vivo移植前処置のための抗体は全て、Bio X Cellから購入し、それには、抗CD47(クローン3/クローンmIAP410)、抗CD117(クローンACK2)、抗CD40L(クローンMR-1)、及び抗CD122(クローンTM-b1)を含む。
【0130】
BM移植。レシピエントCB6F1マウスに、100ugのプライム用量の抗CD47を-8日目に腹腔内投与した。-6日目に、マウスに500ugの抗CD117を後眼窩注射した。抗CD117処置の前に、マウスに、ベナドリルを腹腔内注射した。-6日から-2日に、マウスに、さらに一日500ugの抗CD47を腹腔内注射した。-2日に、マウスに、最大で250ugの抗CD122を与えた。0日目に、500ugの抗CD40Lを移植数時間前に与えた。
【0131】
移植のために、全骨髄を8~12週齢のAKR×Hzマウスから回収した。全骨髄は、脛骨、大腿骨、臀部及び脊椎から採取する。赤血球を溶解し、残りの細胞を計数し、注射前に適切に再懸濁した。細胞は、後眼窩注射を用いて送達する。
【0132】
キメリズム確認。レシピエントマウスを、後眼窩穿刺を用いて周期的に採血して、ドナーキメリズムを測定する。血液は、CD45.1、CD45.2、CD3、CD19、CD11b、及びGr-1に対する蛍光抗体で染色する。
【0133】
結果
図1A~1Fに示すように、c-kit、CD47、CD40L及びCD122に特異的な抗体と、上記のプロトコルとの組み合わせは、免疫応答性動物へのハプロ一致全骨髄の有効な生着を可能にした。コホート毎にキメラであるマウスの割合(%)ならびに総ドナー、T細胞、B細胞及び顆粒球キメリズムの平均レベルを
図2に示す。
図3に示すように、低用量の細胞では、抗CD122を用いたNK細胞(cel)枯渇が必要とされる。
【0134】
実施例2
抗体移植前処置により、MHC不適合造血幹細胞移植及び臓器移植片寛容を可能
患者の罹患血液系を造血細胞移植(HCT)により入れ換えることは、白血病、自己免疫疾患及び免疫不全症を含む、血液及び免疫系の遺伝性障害を処置するまたは治癒することができる。HCTでは、患者の血液及び免疫系は、典型的には、毒性「移植前処置レジメン」(化学療法及び/または放射線)を使用して破壊され、次いで造血幹細胞(HSC)を含有するドナー細胞と入れ換えられて、健常な血液系を再生する。HCTが基礎的な処置である一方で、その使用及び安全性は、移植片対宿主病(ドナーT細胞が混入していない精製HSCを移植することにより克服することができる)及び移植前処置レジメンにより引き起こされる致死毒性が、妨げとなっている。それゆえ、決定的な目標は、毒性化学療法または放射線の必要性を取り除いて、より特異的で、安全な作用物質(例えば、モノクローナル抗体)を用いて、HCT移植前処置を達成することである。
【0135】
ここで本発明者らは、6種のモノクローナル抗体の組み合わせが、免疫応答性マウスの宿主HSC、T細胞及びNK細胞を安全かつ特異的に枯渇させ、外来(同種)HSC生着を可能にすることができることを示す。生着したドナーHSCは、MHC遺伝子の半分(ハプロ一致)または全てのいずれかにて不適合であり、どちらの場合でも、宿主血液細胞と安定して共存するドナー血液及び免疫系を生成した。これらのキメラ免疫系は、機能的であり、これはHSCドナー株心臓組織に対する寛容及び第三者心臓の拒絶より呈された。これらの研究は、精製ヒトHSC移植に対して再生医学のプラットフォームとして適用することができ、外来臓器移植ならびに多様な血液及び免疫系障害の処置を含む適用を容易にすることができる、抗体移植前処置を実証する。
【0136】
多くの遺伝性血液及び免疫系障害は、造血細胞移植(HCT)により処置することができる。例としては、サラセミア、鎌状赤血球貧血症、ファンコニー貧血、遺伝性免疫不全症、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)、及び代謝性蓄積症が挙げられる。これらの疾患は、個体の血液系が、HCT移植片中の移植された稀少な造血幹細胞(HSC)から安定的に誘導される、健常な、移植された血液細胞と入れ替わったときに矯正されることができる。ドナー由来血液及び免疫系の再生後、HCTレシピエントは、HSCドナーからの臓器移植に免疫学的に寛容となる。血液系の任意の単一遺伝子または多遺伝子遺伝性障害が同種HCTによって治癒され得る一方で、非悪性血液学的または免疫学的障害の処置は、2015年にヨーロッパで報告された総HCT症例の6%にしか満たない。
【0137】
非悪性血液障害を処置するためのHCTの使用頻度が不当に低いことを克服する及びその範囲を拡大するために、2つの重要な課題である安全性の懸念及びドナーの利用可能性に取り組まないといけない。現在、同種HCTは、ドナー由来T細胞が混入することにより引き起こされる臨床的または亜臨床的な移植片対宿主病(GvHD)をもたらす。しかしGvHDは、T細胞を欠く精製HSCを移植することにより克服することができる。さらには、HCT移植前処置は、化学療法及び放射線を必要とし、これらは命を脅かす副作用を引き起こす可能性がある。
【0138】
遺伝性血液障害に関してHCTが直面する別の課題は、ヒト白血球抗原(HLA、あるいは主要組織適合性複合体[MHC]として知られる)遺伝子座での完全適合ドナーに対する現在の必要性である。白人系アメリカ人の75%は現在適合ドナーが存在する一方で、黒人系アメリカ人(現在適合しているのは16~19%)または他の少数民族にとって完全適合ドナーを見つけることは顕著に困難である。ハプロ一致ドナー(HLA遺伝子座の半分で適合する)を使用してHCTを安全に行うことが可能であれば、これはドナーの利用可能性を有意に拡大することになり、理論的には、どの個体もHCTをその親、子、または同胞の75%から受けることができるようになる。最後に、完全HLA不適合HSCを安全に移植することが可能であれば、これは飛躍的に利用可能ドナーのプールを開くことになり、レシピエントが同一ドナーから得た外来臓器または組織に免疫学的に寛容になり得るさらなる利益を伴う。これは、バイタル臓器移植に関する拒絶を防ぐために通常必要とされる生涯にわたる免疫抑制を伴わないHLA不適合臓器移植を可能にする。
【0139】
HCTの安全性は、毒性移植前処置レジメン(化学療法及び/または放射線)を、免疫系の構成要素を枯渇させるより特異的な作用物質、例えばモノクローナル抗体により置き換えたら、かなり改善する。以前の抗体移植前処置レジメンが、マイナー組織適合性抗原不適合HSCの移植を可能にする(例えば、特許公開WO2016/033201を参照されたい)一方で、抗体に基づく移植前処置を使用するMHC不適合HSCの移植は、以前に示されていない。
【0140】
ここで、本発明者らは、6種のモノクローナル抗体を使用する移植前処置により、野生型マウスが部分的に(ハプロ一致)または完全にMHC不適合であるHSCを受けることが可能になり、それゆえ、化学療法または放射線に頼ることなく、血液系置換及びを不適合ドナー臓器に対する寛容の誘発を可能にすることを実証する。
【0141】
ハプロ一致移植実験に関しては、AKR×C57BL/6F
1 (本明細書では、下記AB6F
1 と称する)マウスを骨髄またはHSCドナーとして使用し、BALB/C×C57BL/6F
1 (CB6F
1 )(
図4a)マウスをレシピエントとして機能させた。これらのマウス株は、H2
b ハプロタイプでのみ適合し、H2
k 及びH2
d に関しては不適合である(すなわち、主要組織適合性複合体[MHC]ハプロタイプの半分)(
図4b)。本発明者らは、従来の移植前処置をモノクローナル抗体(mAb)で置き換えることができるか否かを決定しようとした。本発明者らは、免疫不全マウスは、同系HSC生着を可能にするために抗Kit抗体を使用して移植前処置することができるが、免疫応答性マウスの同等の移植前処置は、抗Kit及び抗CD47遮断性作用物質の二重投与を必要とすることを、以前に実証した。CD47遮断は、マクロファージが抗体結合(オプソニン化)細胞、例えば抗c-KIT抗体によってオプソニン化されたKIT
+ HSCを貪食することを可能にする。
【0142】
MHC遺伝子座で不適合である同種HSCを生着させるために、外来の主要及びマイナー組織適合性抗原を発現するまたは「自己」MHCを欠く細胞を拒絶する、T細胞及びNK細胞の両方を抑制するまたは排除する必要がある可能性がある。宿主NK細胞を排除するために、本発明者らは、CD122/Il2Rβを(ヒト及びマウスNK細胞発生を通して発現される)、抗CD122mAb Tm-β1を使用して標的化し、これらの細胞を枯渇させた。T細胞媒介性拒絶を予防するために、本発明者らは、CD40L(CD154としても知られる)を標的とし、これは活性化T細胞により発現される共刺激細胞表面分子であり、CD40+ 抗原提示細胞とのそのシグナル伝達に必要とされる。CD40-CD40L軸の干渉は、造血細胞及び皮膚移植片に対する寛容の誘導を助けることができ、重要なことに、CD40Lが活性化T細胞上で上方制御されるため、全てのT細胞を枯渇させるわけではない。本発明者らは、CD40Lを、抗CD40L抗体MR1を使用して阻害した。
【0143】
マウスを、8日の期間にわたって(
図4c)4種のモノクローナル抗体を使用して処置し(抗CD122、抗CD40L、抗Kit及び抗CD47、本明細書では4種抗体移植前処置と称する)、次いで3000万個の全骨髄(WBM)細胞を移植した。キメリズムを、CD45アレル間の差により周期的に測定し(
図8a)、多系列の混合キメリズムが4種抗体移植前処置を受ける全動物において観察された(
図8b~d)。重要なことに、混合キメリズムは、長期HSC(LT-HSC)コンパートメントにおいても観察され(
図4d)、これは、ドナーキメリズムが、長期生存成熟免疫細胞の生着から生じたのではなく、ドナー幹細胞により活性に維持されていたことを示す。
【0144】
このカクテルの最低限必要な要素を同定するために、本発明者らは、各抗体を個別に検査し(
図9)、次いで4種の抗体の様々な組み合わせとして検査した。3000万個のWBM細胞が生着するために最低限必要なカクテルは、抗CD47、抗c-KIT、及び抗CD40Lであった(
図4e~g)。しかしながら、抗CD122を欠く群のマウスの75%のみがキメラであった。完全4種抗体移植前処置を受ける群では、マウスの100%がキメラであった。興味深いことに、両群からの生着した動物は、同様のレベルの多系列キメリズムを20週間にわたって示した。加えて、4種抗体移植前処置は、移植前に顆粒球血球減少を誘発しなかった(
図4h)。
【0145】
本発明者らは、抗CD122の使用を調節しながら、WBMの用量を滴定することにより生着し得る最低用量のWBMを検査した。移植された骨髄の量が減少するにつれて、キメラマウスの数は減少した(
図4i)。300万個のWBM細胞では、抗CD122を用いないマウスの20%がキメラである一方で、NK枯渇を伴うこの細胞用量群にて、マウスの80%がキメラであった。
【0146】
GvHDの可能性を排除するために、次に本発明者らは、富化HSC集団(WBMに対立するものとして)を移植した。これらの実験では、HSCに関して高度に富化され、多能性前駆細胞(MPP)細胞である、Lineage
- Sca1
+ Kit
+ (LSK)細胞(
図5a)を移植した。Kit富化及びLSK細胞は両方とも、3000万個のWBM細胞中のその存在量に対応する量で投与された(
図5b)。3つのタイプの移植片は全て、被照射対照において完全な、長期多系列キメリズムを示した。驚くべきことに、4種抗体で移植前処置したマウスはWBMによる長期生着に成功したが、Kit富化またはLSK移植によっては再構成されなかった(
図5b)。これは、富化HSC集団が生着に成功するためには、追加の移植前処置抗体が必要とされる可能性があることを示す。
【0147】
LSK生着を容易にするために、本発明者らは、抗CD4及び抗CD8枯渇抗体を使用してT細胞を排除することにより、追加の免疫抑制を提供することを試みた(
図5c)。4種抗体レジメ(regime)に対する抗CD4及び抗CD8抗体の追加は、末梢血、脾臓及び骨髄からT細胞を強く枯渇させた(
図5d及び
図10)。この6種抗体カクテルの使用は、6種抗体移植前処置(抗CD122、抗CD40L、抗Kit、抗CD47、抗CD4及び抗CD8mAb)と称することにし、これは9000個のLSK細胞を移植されたレシピエントにおける長期キメリズムを誘発した(
図5e)。この細胞投与量は、おおよそ360,000個のLSK/kgに対応し、マウスにおける同種移植片の前臨床試験及びヒトにおける自家移植片の臨床使用において見られるHSC用量を十分に下回る。要約すると、6種抗体移植前処置は、化学療法または放射線に頼ることなく、低用量の細胞、例えば、精製HSCをマウスに生着させることを可能にする。
【0148】
このカクテルの6種の要素が全て必要か否かを決定するために、本発明者らは、還元的プロセスを使用して、不必要な抗体を同定した。抗CD40L、抗CD4、及び抗CD8の除去は、完全6種抗体移植前処置コホートと比較して、各コホート内でより少ないキメラ動物及びより低いキメリズムをもたらした(
図5f及び
図11)。しかしながら、抗CD122抗体の除去は、対照コホートと比較して、キメラ動物の割合(%)を有意に変化させなかった。4種抗体移植前処置レジメンの場合とは異なり、6種抗体移植前処置レジメンにおいては、T細胞がほぼ完全に枯渇するために喪失するT細胞活性化へのNK依存性が原因となり、CD122の6種抗体移植前処置における必要性が低い可能性がある。
【0149】
重要なことに、6種抗体移植前処置とその後のHSC移植は、中枢性免疫学的寛容をドナー遺伝子株に誘発した。中枢性寛容は、ドナー細胞生着を可能にするための宿主免疫系の胸腺再教育を意味する。これらの動物における中枢性寛容を測定するために、本発明者らは、末梢血中のVベータ6(Vb6)TCR鎖の存在を測定した。Vb6は、AKR株に存在する、Mtv-7プロウイルスをコードするスーパー抗原に対して反応性である。それゆえ、AB6F
1 HSCがCB6F
1 において共存するためには、CB6F
1 内在性Vb6+T細胞がクローン除去されなければならない。WBM移植動物及びLSK移植動物の両方において、キメラ動物は、宿主Vb6+T細胞の欠失を示した(
図6a~b)。興味深いことに、抗Kit、抗CD47、及び抗CD40Lを用いて移植前処置したWBMコホートでは、正常なVb6+T細胞頻度を有する唯一の動物もキメリズムを達成したことはなかった(
図6b)。
【0150】
驚くべきことに、本発明者らは、MHC不適合ドナーHSCを生着させた6種抗体移植前処置マウスが、同一のドナー株からの臓器に対して免疫学的に寛容であることを見出した。これに至るために、本発明者らは、HSCドナー(AB6F
1 )または第三者(DBA/1J株、H2
q に関してホモ接合である)新生仔からの心臓移植片を、ナイーブ及びLSK-抗体移植前処置キメラ動物の耳の耳介へと移植した(
図6c)。ナイーブ、移植前処置をしない、未移植マウスでは、両AB6F
1 及びDBA1/J心臓が、急速に拒絶された(
図6d)。6種抗体移植前処置キメラマウスでは、DBA1/J心臓は、14日以内に拒絶され、一方で活性、拍動AB6F1心臓は少なくとも115日間持続した。代表的な耳-心臓移植片を、34日目に回収し、免疫組織化学により分析した。肉眼検査では、AB6F1心臓は耳介内で確認できたが、DBA/1J心臓はもはや認められなかった(
図6e)。H&E分析により、免疫細胞を欠くトロポニン+心臓組織がAB6F1生着耳介に浸潤していることが示された。しかしながら、この時点までに、DBA/1J心臓を含有する耳介内に心臓またはトロポニン+組織はなかった(
図6e)。これは、それゆえ、MHC不適合ドナーHSCが、同一遺伝子ドナーからの心臓移植片に対する6種抗体移植前処置マウスの免疫学的寛容を誘発することができることを示す。
【0151】
最後に、本発明者らは、6種抗体移植前処置レジメンが、完全MHC不適合HSCの生着の成功を可能にすることを実証した。本発明者らは、DBA1/J(H2
q )マウスをドナーとして及びCB6F
1 (H2
b/d )宿主を使用した(
図7a)。9000個のDBA1/J LSK細胞を移植した後、本発明者らは、高いドナー-宿主キメリズムを8週目までに全ての6種抗体移植前処置CB6F
1 マウスにおいて観察した(
図7b)。300万個のWBM細胞のみを単独で移植されたマウスは、ドナーキメリズムの確立に失敗した(移植前処置の必要性を確認した)が、WBMを受けた4種抗体移植前処置マウスの40%が、低レベルのキメリズムを達成した。WBMを移植した被照射CB6F
1 マウスの80%は、移植後9週までに死亡し(
図7c)、GvHDによる可能性が高く、これはLSK移植では観察されなかった。
【0152】
要約すると、ここで本発明者らは、精製HSCを含む、半(ハプロ一致)及び完全MHC不適合造血細胞組成物を、免疫応答性動物に移植する方法を開発した。重要なことに、これは化学療法及び/または放射線の使用を伴わずに、そして全てではないにしてもほとんどの他のタイプのHCT移植にて発生するGvHDを伴わずに、達成される。
【0153】
これらの知見は、例えば血液及び免疫系障害の処置のための、造血細胞移植の臨床使用に関連している。第一に、精製HSC移植と組み合わせた、この抗体移植前処置レジメンは、化学療法/放射線の使用を不要にすること及びGvHDを排除することにより、血液及び免疫系置換の安全性を改善する。第二に、ハプロ一致、HLA不適合HSCの移植を容易にすることにより、ドナープールが大いに増加し、たとえレシピエントの年齢または臨床状態が以前のプロトコル下でのHCTを防いでいた場合でも、大半のレシピエントが適合を見つけられるようになる。例えば、ファンコニー貧血の患者は、DNA損傷に対して高度に感受性であるため、それゆえ、従来の移植前処置レジメンは、このコホートに対して重大なリスクを有する。
【0154】
最後に、外来臓器に対する免疫学的寛容を誘発する能力は、救命臓器移植を必要とする全ての患者に機会を開く。特に、外来臓器移植を受ける患者の生涯にわたる免疫抑制を取り除く。具体的には、抗体移植前処置、ドナーHSC-移植動物における免疫系は、ドナー(しかし第三者ではない)心臓に対して寛容である。これらの部分的キメラ動物におけるドナー及び宿主T細胞の共存は、MHC制限T細胞を、ドナー及び宿主組織の両方に提供することができる。
【0155】
今日、臓器、組織またはHSC移植のドナーは、生存しているまたは最近亡くなった人である。再生医学の目標は、多能性(胚性または人工多能性)幹細胞株をHSC及び他の必要とされる組織幹細胞(例えば神経、骨及び軟骨、または肝臓のもの)へと、in vitroまたは大型動物宿主(例えば、ブタ)内にてin vivoでのいずれかで分化させることである。これは、人類が他のためにHSC及び臓器を諦める必要性を軽減する。抗体移植前処置、その後の多能性幹細胞由来HSC及び組織幹細胞の共移植は、長期免疫抑制に頼ることなく、患者に救命臓器を送達することができる。
【0156】
方法
動物。全ての実験は、Stanford University Administrative Panel on Laboratory Animal Careにより確立されたガイドラインに従って行った。AKR×C57BL/6F1ドナーを、交配し、室内飼育した。CB6F1及びDBA1/Jレシピエントは、Jackson Laboratoryから購入した。DBA1/J妊娠雌は、Taconic Biosciencesから耳心臓移植片のために購入した。
【0157】
抗体。抗CD47(mIAP410)、抗c-KIT(ACK2)、抗CD122(Tm-β1)、抗CD40L(MR1)、抗CD4(GK1.5)、及び抗CD8(YTS169.4)は、BioXCellから購入した。抗CD47を、100μg用量として-8日目に腹腔内投与し、次いで500μg用量を後続注射として、移植前処置プロセスを通して腹腔内注射した。後眼窩抗c-KIT及び腹腔内抗CD40Lは、両方とも単回500μgボーラスとして投与した。抗CD122は、腹腔内に250μg用量として投与し、一方で抗CD4及び抗CD8は、100μg腹腔内用量として投与した。抗c-KIT抗体を受けているマウスは、400μgのジフェンヒドラミンを腹腔内に注射の15分前に投与した。抗CD25(PC-61.5.3)は、BioXCellから購入し、単回100μg腹腔内注射として投与した。
【0158】
移植片調製及び移植。全骨髄を、ドナーマウス脛骨、大腿骨、臀部、及び脊椎から摘出した。骨を粉砕し、濾過し、続いて赤血球(RBC)溶解を施した。c-Kit富化移植に関しては、RBC溶解全骨髄を、Miltenyi社製CD117マイクロビーズに製造業者の指示に従って結合させ、磁気分離後に回収した。LSK細胞移植に関しては、RBC溶解全骨髄を、Miltenyi社製Lineage Cell Depletion Kitカクテルに、製造業者の指示に従って結合させた。磁気分離カラムからの流出液を回収し、CD3PE(17A2)、CD4PE(GK1.5)、CD5PE(53-7.3)、CD8aPE(53-6.7)、B220PE(RA3-6B2)、Gr-1PE(RB6-8C5)、Mac-1PE(M1/70)、Ter119PE(TER119)、SCA1Pe-Cy7(D7)、及びCD117APC(2B8)の最適濃度の抗体を用いて2%FBSを含むPBS中で染色した。BD Ariaで分類する直前に、ヨウ化プロピジウムを生存力染色として添加した。移植のための全ての細胞を、2%FBSを含むPBS中で所望の濃度にて再懸濁した。照射対照マウスは、移植の前に2回の線量の6.5Gyを用いて致死的に照射した。全てのマウスは、イソフルランを使用して麻酔し、次いで、後眼窩注射を介して100uLの細胞懸濁液を移植した。
【0159】
末梢血キメリズム。マウスは、EDTA採血管へと後眼窩採血を介して周期的に採血した。次いで、血液を、1%デキストラン中で5mM EDTAと37℃(C)で1時間インキュベートした。各管からの上清を抽出し、溶解し、次いで、CD3APC(17A2)、CD19PE-Cy7(ebio103)、Gr-1BV421(RB6-8C5)、Mac-1APC-Cy7(M1/70)、CD45.1FITC(A20)、及びCD45.2PE(104)の最適濃度の抗体で染色した。試料を、BD Fortessaで分析し、ドナー対宿主キメリズムをCD45アレル間差異に基づいて識別した。
【0160】
耳-心臓移植片。新生仔マウスを、生後1~2日で安楽死させ、その心臓を回収した。レシピエントマウスを、頭蓋骨近くの耳の背面に小さな切開を作成することにより調製した。その後、トロカールを使用して、切開部位から耳介の先端までトンネリングすることによりパウチを作製した。新生仔の心臓を、トロカールを用いてパウチの遠位端にて送達した。トンネルを、持ち上げた皮膚を真皮に優しく押し戻すことにより閉じた。心臓生存力を、解剖顕微鏡を通して移植片を可視化することにより鼓動に関してモニターした。
【0161】
参考文献
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【0177】
本明細書中で引用した各刊行物は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0178】
本発明が、記載された特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種または属、及び試薬に限定されず、変更してよいことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明することを目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図せず、これは添付の特許請求の範囲によってのみ限定され得ることも理解されたい。
【0179】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈に別段の明確な指定がない限り、複数形の指示物を含む。ゆえに、例えば、「細胞(a cell)」に対する言及は、係る細胞の複数形を含み、「培養物(the culture)」に対する言及は、1つまたは複数の培養物及び当業者に周知のその等価物に対する言及を含み、他も同様である。本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、別段の明確な指定がない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0180】
相互参照
本出願は、2017年1月30日に出願された米国仮特許出願第62/452,218号の優先権を主張し、この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。