(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139282
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】エクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物の組換えアデノ随伴ウイルスによる送達
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20230926BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230926BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20230926BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230926BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230926BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61K31/7105
A61K47/59
A61K48/00
A61P21/04
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125933
(22)【出願日】2023-08-02
(62)【分割の表示】P 2021114275の分割
【原出願日】2014-04-18
(31)【優先権主張番号】61/814,256
(32)【優先日】2013-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ケビン フラニガン
(72)【発明者】
【氏名】アデリン ブリン-シャフィオール
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス ウェイン
(57)【要約】
【課題】エクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物の組換えアデノ随伴ウイルスによる送達の提供。
【解決手段】本発明は、DMDエクソン2の重複から生じるデュシェンヌ筋ジストロフィーを治療するためのポリヌクレオチドを組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)によって送達することに関する。本発明は、rAAV生成物と、デュシェンヌ筋ジストロフィーの治療においてrAAVを用いる方法とを提供する。本発明は、DMD遺伝子のエクソン2の重複を包含しているDMDを防止するための、進行を遅延させるための、且つ/または治療するための方法及び生成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に完全に組み込まれる、2013年4月20日に出願された米国仮特許出願第61/814,256号の出願日の利益を主張する。
発明の分野
【0002】
本発明は、DMDエクソン2の重複から生じるデュシェンヌ筋ジストロフィーを治療するためのポリヌクレオチドを組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)によって送達することに関する。本発明は、rAAV生成物と、デュシェンヌ筋ジストロフィーの治療においてrAAVを用いる方法とを提供する。配列リストの参照による組み込み
【0003】
本出願は、開示の別の部分として、参照により本明細書に完全に組み込まれる、コンピュータで読取り可能な形態(ファイル名:47699PCT_SeqListing.txt;10,162バイト-ASCIIテキストファイル、2014年4月18日に作成)を含む。
【背景技術】
【0004】
筋ジストロフィー(MDs)は一群の遺伝子病である。前記群は、運動を制御する骨格筋の進行性の筋力低下及び変性を特徴とする。MDのいくつかの型は幼少期または小児期に発症し、他の型は、中年またはそれ以降まで発症しない場合がある。前記障害は、筋力低下の分布及び程度(MDのいくつかの型は心筋にも影響を及ぼす)、発病年齢、進行速度、及び遺伝パターンが様々である。
【0005】
MDの一つの型は、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)である。これは、新生児男性5000人に1人に発症する筋ジストロフィーの最も一般的で重篤な小児期型である。DMDは、骨格筋及び心筋、ならびに消化管及び網膜におけるジストロフィンタンパク質(427KDa)の欠損を導くDMD遺伝子における突然変異が原因である。ジストロフィンは、筋細胞膜を伸張性収縮から保護するだけでなく、筋細胞膜に近接しているいくつかのシグナリングタンパク質も固定する。DMDの多くの臨床例は、DMD遺伝子の欠失変異と関連がある。DMD遺伝子同定後の多くの一連の研究にもかかわらず、治療のオプションは限定されている。コルチコステロイドは、歩行運動の延長にも明らかに有益であるが、有益性は長期の副作用で相殺される。20年以上前に報告された最初の管理された無作為二重盲検試験は、プレドニゾンを使用して有益性を示した[Mendell et al., N. Engl. J. Med., 320: 1592-1597 (1989)]。以降の報告は、ナトリウム節約型ステロイドであるデフラザコートを用いて、等しい有効性を示した[Biggar et al., J. Pediatr., 138: 45-50 (2001)]。最近の研究でも、エクソンスキッピングによって、6分間歩行テスト(6MWT)での歩行距離の延長という有効性が示されている。これまでのところ、公開された臨床試験は、エクソン51をスキップすることによってリーディングフレームが回復される突然変異のみに関して有益性を報告してきた[Cirak et al., Lancet, 378: 595-605 (2011) 及びGoemans et al., New Engl. J. Med. 364: 1513-1522 (2011)]。二重盲検無作為治療試験の報告でのみ、有望な結果が、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)であるエテプリルセンで示された。これらのすべてのエクソンスキッピング試験において、所見の共通点は、最初に適度に改善した後に、歩行能力が横ばいになることである。
【0006】
2012年3月29日に公開された米国特許出願公開第2012/0077860号;2013年3月21日に公開された同第2013/0072541号;及び2013年2月21日に公開された同第2013/0045538号もまた参照されたい。
【0007】
欠失変異とは対照的に、DMDエクソン重複は、ジストロフィン異常症患者の不偏サンプルにおいて病原性突然変異の約5%を占めるが[Dent et al., Am. J. Med. Genet., 134(3): 295-298 (2005)]、突然変異のいくつかのカタログでは、重複数はもっと高い[Flanigan et al., Hum. Mutat., 30(12): 1657-1666 (2009)におけるUnited Dystrophinopathy Projectによって公開されたものを包含し、それは11%であった]。
【0008】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、長さ約4.7kbで、145ヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)を包含している。AAVの複数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV-1の完全なゲノムは、GenBank登録番号NC_002077で提供され;AAV-2の完全なゲノムは、GenBank登録番号NC_001401及びSrivastava et al.,J. Virol.,45: 555-564{1983)で提供され;AAV-3の完全なゲノムは、GenBank登録番号NC_1829で提供され;AAV-4の完全なゲノムは、GenBank登録番号NC_001829で提供され;AAV-5ゲノムは、GenBank登録番号AF085716で提供され;AAV-6の完全なゲノムは、GenBank登録番号NC_00 1862で提供され;AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部分は、それぞれ、GenBank登録番号AX753246及びAX753249で提供され(AAV-8に関する米国特許第7,282,199号及び同第7,790,449号を参照されたい);AAV-9ゲノムは、Gao et al., J. Virol., 78: 6381-6388 (2004)で提供され;AAV-10ゲノムは、Mol. Ther., 13(1): 67-76 (2006)で提供され;そしてAAV-11ゲノムは、Virology, 330(2): 375-383 (2004)Virology(330(2))で提供される。ここからウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組込みを指示するシス作用性配列が、AAV ITRs内に含有されている。3つのAAVプロモーター(p5、p19、及びp40、これらの相対的なマップ上の位置により命名された)は、repおよびcapの遺伝子をコードする2つのAAV内部のオープンリーディングフレームの発現を駆動する。1つのAAVイントロンのディファレンシャルスプライシング(ヌクレオチド2107及び2227における)と関連する2つのrepプロモーター(p5及びp19)により、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)が生成する。Repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムを複製する役割を果たす複数の酵素的特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するカプシドタンパク質の生成を担う。1つのコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ上の位置95に位置している。AAVの生活環および遺伝学は、Muzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158: 97-129 (1992)で検討されている。
【0009】
AAVは、例えば遺伝子療法において外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的な独特の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞障害性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、無変化であって無症候性である。更に、AAVは、多くの哺乳動物細胞に感染し、in vivoで多くの異なる組織を標的にする可能性がある。更に、AAVは、分裂及び非分裂の細胞にゆっくりと形質導入し、そして転写活性な核エピソーム(染色体外因子)として、それらの細胞の寿命の間、本質的に生き残ることができる。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミド中のクローン化DNAと同様に感染性であり、それにより、組換えゲノムの構築が実行可能となる。更に、AAV複製、ゲノムカプシド形成及びゲノム組込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITRs内に含有されているので、(複製タンパク質及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)ゲノムの内部の約4.3kbのいくらかまたはすべてを、外来DNAで置換することができる。rep及びcapタンパク質はトランスで提供することができる。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定で頑丈なウイルスである点にある。AAVは、アデノウイルスを不活性化するために用いられる条件(56℃~65℃で数時間)に耐えるので、AAVの冷却保存はそれ程重要ではない。AAVは凍結乾燥することさえもできる。最後に、AAV感染細胞は重複感染に耐性ではない。
【0010】
AAV8様AAVは、rh.74と呼ばれ、様々なタンパク質をコードするDNAを送達する。Xu et al.,Neuromuscular Disorders,17: 209-220(2007) 及びMartin et al.,Am. J. Physiol.Cell. Physiol., 296:476-488(2009)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関する細胞傷害性T細胞GalNAcトランスフェラーゼのrh.74発現に関するものである。Rodino-Klapac et al.,Mol. Ther.,18(1): 109-117 (2010)は、血管四肢灌流(vascular limb perfusion)によるAAV rh.74の送達後における、マイクロ・ジストロフィンFLAGタンパク質タグ融合のAAV rh.74発現を記載している。
筋ジストロフィーは、個人、家族、及び地域に深刻な影響を与える確立された治療の無い一群の疾患である。コストは計り知れない。個人は、精神的緊張、及び自尊心の喪失と関連のある生活の質の低下に苦しむ。四肢機能の損失から生じる極度の肉体的問題により、日常生活の活動において困難が生じる。家族力動は、経済的損失及び対人関係の問題によって損なわれる。影響を受ける同胞は疎遠になり、配偶者間の不和は、特に、筋ジストロフィーに対する負担が親のパートナーの1人に負わせられる場合は、しばしば離婚となる。治療を見つけ出そうと探し求める負担は、しばしば、生活のすべての面を損ない且つ要求する、生涯にわたって続く非常に集中した苦労となる。家族を越えて、地域は、特別な教育、特別な輸送、そして再発性の呼吸器感染及び心臓合併症を治療するために繰り返し起こる入院の費用における筋ジストロフィー集団のハンディキャップに対処する更なる施設へのニーズを介して、経済的負担を分担する。経済的な負担は、州及び納税地域にまで負担を広げている連邦政府機関によって分担される。
従って、DMDを包含する筋ジストロフィーの治療に関して当該技術分野においてニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0077860号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0072541号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0045538号明細書
【特許文献4】米国特許第7,282,199号明細書
【特許文献5】米国特許第7,790,449号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Mendell et al., N. Engl. J. Med., 320: 1592-1597 (1989)
【非特許文献2】Biggar et al., J. Pediatr., 138: 45-50 (2001)
【非特許文献3】Cirak et al., Lancet, 378: 595-605 (2011)
【非特許文献4】Goemans et al., New Engl. J. Med. 364: 1513-1522 (2011)
【非特許文献5】Dent et al., Am. J. Med. Genet., 134(3): 295-298 (2005)
【非特許文献6】Flanigan et al., Hum. Mutat., 30(12): 1657-1666 (2009)
【非特許文献7】Srivastava et al.,J. Virol.,45: 555-564{1983)
【非特許文献8】Gao et al., J. Virol., 78: 6381-6388 (2004)
【非特許文献9】Mol. Ther., 13(1): 67-76 (2006)
【非特許文献10】Virology, 330(2): 375-383 (2004)Virology(330(2))
【非特許文献11】Muzyczka, Current Topics in Microbiology and Immunology, 158: 97-129 (1992)
【非特許文献12】Xu et al.,Neuromuscular Disorders,17: 209-220(2007)
【非特許文献13】Martin et al.,Am. J. Physiol.Cell. Physiol., 296:476-488(2009)
【非特許文献14】Rodino-Klapac et al.,Mol. Ther.,18(1): 109-117 (2010)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
説明
本発明は、DMD遺伝子のエクソン2の重複を包含しているDMDを防止するための、進行を遅延させるための、且つ/または治療するための方法及び生成物を提供する。本方法は、U7核内低分子RNAと、エクソン2標的アンチセンス配列とをコードするポリヌクレオチド構築物、すなわち「エクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物」のための送達ベクターとしてAAVを用いることを包含している。例えば、ポリヌクレオチド構築物は、rAAV rh.74のゲノム、rAAV6のゲノム、またはrAAV9のゲノムに挿入される。AAV rh.74ゲノムのポリヌクレオチド配列は
図7に配列番号1で示してある。
【0014】
エクソン2標的アンチセンス配列としては、例えば、
U7B TCAAAAGAAAACATTCACAAAATGGGTA(配列番号3);
U7Along GTTTTCTTTTGAAGATCTTCTCTTTCATcta(配列番号4);
U7Ashort AGATCTTCTCTTTCATcta(配列番号5);及びU7C GCACAATTTTCTAAGGTAAGAAT(配列番号6)
が挙げられるが、それらに限定されない。
【0015】
一つの態様では、患者のDMDを改善する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、患者にrAAVを投与する工程を含み、ここで、rAAVのゲノムはエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む。
【0016】
更に別の態様では、本発明は、DMDと関連のあるジストロフィー症状の進行を阻害する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、患者にrAAVを投与する工程を含み、ここで、rAAVのゲノムはエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む。
【0017】
なお更に別の態様では、DMDに罹患している患者の筋肉機能を改善する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、患者にrAAVを投与する工程を含み、ここで、rAAVのゲノムはエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む。場合によっては、筋肉機能の改善は、筋力の改善である。筋力の改善は、当該技術分野で公知の技術によって、例えば最大自発的等尺性収縮テスト(MVICT)によって測定する。場合によっては、筋肉機能の改善は、立っている時と歩いている時の安定性の改善である。筋力の改善は、当該技術分野で公知の技術によって、例えば6分間歩行テスト(6MWT)または時限階段昇降テストによって測定する。
【0018】
別の態様では、本発明は、動物(ヒトが挙げられるが、それに限定されない)にエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を送達する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、患者に対するrAAVの工程を含み、ここで、rAAVのゲノムはエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む。
【0019】
上記下記の本発明の方法の細胞形質導入効率は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90または95%であり得る。
【0020】
本発明の前記方法のいくつかの実施形態では、ウイルスのゲノムは自己相補的ゲノムである。本方法のいくつかの実施形態では、rAAVのゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いている。本方法のいくつかの実施形態では、rAAVは、
図9に開示してある例示ゲノムを含むSC rAAV U7_ACCAである。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV rh.74である。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV6である。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV9である。
【0021】
更に別の態様では、本発明は、AAV rh.74カプシドを含むrAAVと、例示のエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物U7_ACCAを含むゲノムとを提供する。いくつかの実施形態では、rAAVのゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠いている。いくつかの実施形態では、rAAVは自己相補的ゲノムを含む。本方法のいくつかの実施形態では、rAAVは、
図9に開示してある例示ゲノムを含むSC
rAAV U7_ACCAである。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV rh.74である。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV6である。いくつかの実施形態では、rAAVはrAAV9である。
【0022】
本発明の組換えAAVゲノムは、少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物の側方に位置している1つ以上のAAV ITRsを含む。段落番号0012に記載されているエクソン2標的アンチセンス配列のそれぞれを含むエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を有するゲノムが、段落番号0012に記載されているエクソン2標的アンチセンス配列の2つ以上のそれぞれの可能な組み合わせを含むエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を有するゲノムと同様に、特に企図される。例示的実施形態を含むいくつかの実施形態では、U7snRNAポリヌクレオチドは、それ自身のプロモーターを包含している。rAAVゲノム中のAAV DNAは、任意のAAV血清型由来であってもよく、そのために、組換えウイルスは、例えばAAV血清型のAAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11(これらに限定されない)から誘導することができる。上記背景技術のセクションで言及したように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は当該技術分野で公知である。本発明のいくつかの実施形態では、プロモーターDNAは、筋肉に特異的な制御エレメントであり、例えば、アクチン及びミオシンの遺伝子ファミリー由来の制御エレメント、例えばmyoD遺伝子ファミリー[Weintraub et al., Science, 251: 761-766 (1991)を参照されたい]、筋細胞に特異的なエンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi and Olson, Mol. Cell. Biol., 11: 4854-4862 (1991)]、ヒト骨格アクチン遺伝子由来の制御エレメント[Muscat et al., Mol. Cell. Biol., 7: 4089-4099 (1987)]、心臓アクチン遺伝子、筋肉クレアチンキナーゼ配列エレメント[Johnson et al., Mol. Cell. Biol., 9:3393-3399 (1989)]及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(MCK)エレメント、デスミンプロモーター、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心臓トロポニンC遺伝子及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御エレメント:低酸素誘導核因子[Semenza et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 5680-5684 (1991)]、糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)を包含するステロイド誘導エレメント及びプロモーター[Mader and White, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5603-5607 (1993)を参照されたい]及び他の制御エレメントが挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
本発明のDNAプラスミドは、本発明のrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、感染性ウイルス粒子中にrAAVゲノムを構築するために、AAV(例えば、アデノウイルス、E1欠損アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)のヘルパーウイルスによる感染を許容し得る細胞へ導入される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、及びヘルパーウイルス機能が細胞に提供される、rAAV粒子を作製する技術は、当該技術分野では標準的である。rAAVの作製では、以下の成分:すなわちrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離している(すなわち、rAAVゲノム中には存在していない)AAV rep及びcap遺伝子、及びヘルパーウイルス機能が、単細胞(パッケージング細胞と本明細書では呼ぶ)内に存在していることが必要である。AAV rep遺伝子は、任意のAAV血清型由来であってもよく、それ故に、組換えウイルスは、AAV血清型のAAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11を包含するが、それらに限定されないrAAVゲノムITRsに比べて、異なるAAV血清型から誘導することができ、また、異なるAAV血清型由来であってもよい。同起源の成分を使用することが、特に企図される。偽型rAAVの作製は、例えば、参照により本明細書に完全に組み込まれるWO 01/83692で開示されている。
【0024】
パッケージング細胞を作製する方法は、AAV粒子作製のためにすべての必要な成分を安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcapを欠いているrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離しているAAV rep及びcap遺伝子、そして選択可能なマーカー、例えばネオマイシン抵抗性遺伝子を含むプラスミド(または複数のプラスミド)を細胞のゲノムに組み込む。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al., 1982, Proc. Natl. Acad. S6. USA, 79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlin et al., 1983, Gene, 23:65-73)のような手順によって、または直接平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter, 1984, J. Biol. Chem., 259:4661-4666)によって、細菌性プラスミド中に導入してきた。次いで、そのパッケージング細胞株を、アデノウイルスのようなヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、その細胞が、rAAVの大量作製用に選択可能であり且つ適している点にある。適当な方法の他の例は、rAAVゲノム及び/またはrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞中に導入するために、プラスミドではなく、アデノウイルスまたはバキュロウイルスを使用する。
【0025】
rAAV作製の一般的な原則は、例えばCarter, 1992, Current Opinions in Biotechnology, 1533-539;及びMuzyczka, 1992, Curr. Topics in Microbial. and Immunol., 158:97-129で検討されている。様々なアプローチは、Ratschin et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072 (1984); Hermonat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6466 (1984); Tratschin et al., Mo1. Cell. Biol. 5:3251 (1985); McLaughlin et al., J. Virol., 62:1963 (1988);及びLebkowski et al., 1988 Mol. Cell. Biol., 7:349 (1988). Samulski et al. (1989, J. Virol., 63:3822-3828); 米国特許No. 5,173,414; WO 95/13365及び対応する米国特許No. 5,658.776 ; WO 95/13392; WO 96/17947; PCT/US98/18600; WO 97/09441 (PCT/US96/14423); WO 97/08298 (PCT/US96/13872); WO 97/21825 (PCT/US96/20777); WO 97/06243 (PCT/FR96/01064); WO 99/11764; Perrin et al. (1995) Vaccine 13:1244-1250; Paul et al. (1993) Human Gene Therapy 4:609-615; Clark et al. (1996) Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許No. 5,786,211; 米国特許No. 5,871,982;及び米国特許No. 6,258,595に記載されている。前記文書は、参照により本明細書に完全に組み込まれるものであって、前記文書のそれらのセクションにおいて特に重点的に記載されていることはrAAVの作製である。
【0026】
従って、本発明は、感染性rAAVを作製するパッケージング細胞を提供する。一つの実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、及びPerC.6細胞(同族の293株)のような癌細胞を安定的に形質転換することができる。別の実施形態では、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎臓細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎培養細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎仔肺細胞)である。
【0027】
当該技術分野で標準の方法によって、例えばカラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって、rAAVを精製することができる。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製する方法は、当該技術分野で公知であり、例えばClark et al., Hum. Gene Ther., 10(6): 1031-1039 (1999); Schenpp and Clark, Methods Mol. Med., 69 427-443 (2002);米国特許No. 6,566,118及びWO 98/09657で開示されている方法が挙げられる。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を企図している。本発明の組成物は、薬学的に許容される担体にrAAVを含む。組成物は、希釈剤のような他の成分も含んでよい。許容可能な担体及び希釈剤は、レシピエントに非毒性であり、好ましくは使用される投与量及び濃度で不活性なものであって、例えば、緩衝剤、例えばホスフェート、シトレート、及び他の有機酸;抗酸化物質、例えばアスコルビン酸;低分子量ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、例えばブドウ糖、マンノース、またはデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;及び/または非イオン性界面活性剤、例えばTween、プルロニックまたはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0029】
無菌の注射可能な溶液は、適当な溶媒中において、必要量のrAAVを、上記した様々な他の成分と混合することによって調製し、必要であれば、その後、ろ過滅菌する。一般的には、分散液は、滅菌された活性成分を、塩基性分散媒と、上記した成分のうち必要な他の成分とを含有する滅菌ビヒクル中に配合することにより調製する。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分と任意の所望の追加成分との粉末を、予めろ過滅菌したそれらの溶液から得る真空乾燥法及び凍結乾燥法である。
【0030】
本発明の方法で投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与の方式、治療目的、個体、及び標的とされる細胞型(1種または複数種)に応じて変化し、当該技術分野で標準の方法によって測定することができる。rAAVの力価は、1mlあたり、約1x106,約1x107,約1x108,約1x109,約1x1010,約1x1011,約1x1012,約1x1013~約1x1014以上のデオキシリボヌクレアーゼ耐性粒子(DRP)であり得る。投与量は、ウイルスゲノム(vg)の単位(すなわち、それぞれ、1x107 vg、1x108 vg、1x109 vg、1x1010 vg、1x1011 vg、1x1012 vg、1x1013 vg、1x1014 vg)で表すこともできる。
【0031】
rAAVを用いて標的細胞(例えば骨格筋)にin vivoまたはin vitroで形質導入する方法が、本発明によって企図される。本方法は、本発明のrAAVを含む組成物の有効な用量または有効な複数用量を、それを必要とする動物(ヒトを包含している)に投与する工程を含む。前記用量を、DMDの発症前に投与する場合、投与は予防的である。前記用量を、DMDの発症後に投与する場合、投与は治療的である。本発明の実施形態では、有効用量は、治療されるDMDと関連のある少なくとも1つの症状を緩和し、DMDへの進行を遅らせるかまたは予防し、障害/疾患状態の進行を遅らせるかまたは予防し、疾患の広がりを縮小させ、結果として、疾患の(部分的または全体的な)緩解をもたらし、且つ/または生存を延ばす用量である。
【0032】
組成物の有効用量は、例えば、筋肉内、非経口、静脈内、経口、頬、鼻、肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、または膣が挙げられるが、それらに限定されない、当該技術分野で標準の経路によって投与することができる。投与の経路(1つまたは複数)及び本発明のrAAVのAAV成分(詳しくは、AAV ITRs及びカプシドタンパク質)の血清型は、治療される感染及び/または疾患状態、及び標的細胞/組織(1つまたは複数)を考慮して、当業者によって、選択且つ/または適合させることができる。いくつかの実施形態では、投与経路は筋肉内である。いくつかの実施形態では、投与経路は静脈内である。
【0033】
また、併用療法も本発明によって企図される。ここで使用される組み合わせは、同時治療または連続治療を包含している。標準内科療法(例えば、コルチコステロイド及び/または免疫抑制剤)による本発明方法の組み合わせは、上記した背景技術で記載した療法などの他の療法との組み合わせとして特に企図される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】Dup2マウスにおける筋肉の組織構造及び免疫蛍光検査分析を示している図である。
【
図2】Dup2マウスにおける筋肉のウェスタンブロットからの免疫ブロット法を示している図である。
【
図3】エクソンスプライスエンハンサーで指示されるAONによって誘導されたMyoD分化転換された筋芽細胞における重複エクソン2のスキッピングは、39%の野生型転写物をもたらすことを示している図である。1列あたりの投与量はnモルで示してある(25、50、100、200、300、400、500)。変動する転写物の量は、各列の下に最大の陰影をつけて示してある。TB=形質移入バッファー。NSM=正常な骨格筋。エクソン2重複、wt、及びエクソン2欠失のパーセンテージは、各列の下に示してある。
【
図4】エクソンスキッピングへのU7snRNAベクターによるアプローチを例示している図である。U7snRNAは、プレメッセンジャーRNAを標的にする担体として使用される。U7snRNAは、核細胞質輸送(nucleocytoplasmic export)のために使用されるループ、U7snRNAと標的pre-mRNAとの間の効率的な構築物のために使用されるSmタンパク質を結合するための認識配列、及びpre-mRNAを標的とするアンチセンス配列から構成されている。U7snRNAは、それ自身のプロモーター及び3’下流配列を有する。次いで、そのU7カセットは、AAVプラスミド中にクローンされてベクターを作製する。
【
図5】例示のエクソン2標的U7snRNA構築物をDup2不死化ヒト線維筋芽細胞に形質導入するためにSC rAAVベクターを使用するエクソンスキッピング実験に関するRT-PCRの結果を示している図である。
【
図6】Dup2マウスにおいて、U7_ACCA SC rAAVを、筋肉内注射によって送達するin vivoでのエクソンスキッピング実験の結果を示している。
【
図7A】rh74ゲノム配列(配列番号1)を示している図である。ここで、ヌクレオチド210~2147はRep78遺伝子オープンリーディングフレームであり、882~208はRep52オープンリーディングフレームであり、2079~2081はRep78停止であり、2145~2147はRep78停止であり、1797~1800はスプライスドナーサイトであり、2094~2097はスプライスアクセプターサイトであり、2121~2124はスプライスアクセプターサイトであり、174~181は予想されるp5プロモーター+1であり、145~151はp5 TATAボックスであり、758~761は予想されるp19プロモーター+1であり、732~738はp19TATAボックスであり、1711~1716はp40TATAボックスであり、2098~4314はVP1 Cap遺伝子オープンリーディングフレームであり、2509~2511はVP2開始であり、2707~2709はVP3開始であり、そして4328~4333はポリAシグナルである。
【
図8】例示エクソン2標的U7snRNAのAAVゲノム挿入物を有するプラスミドの地図を示している図である。
【
図9】
図8のプラスミドのAAVゲノム挿入物のDNA塩基配列(配列番号2)を示している図である。
【
図10】MLPAプローブのおおよその位置を示している縦棒を示している図である。
【
図11】mdx
dup2(Dup2)マウスの作製で使用されるベクターの概略図である。
【
図12abc】Dup2マウスへのAAV1 U7-ACCAの筋肉内送達の結果を示している図である。
【
図12de】Dup2マウスへのAAV1 U7-ACCAの筋肉内送達の結果を示している図である。
【
図13ab】Dup2マウスモデルにおけるAAV9 U7_ACCAの静脈内注射の結果を示している図である。
【
図13cd】Dup2マウスモデルにおけるAAV9 U7_ACCAの静脈内注射の結果を示している図である。
【
図13ef】Dup2マウスモデルにおけるAAV9 U7_ACCAの静脈内注射の結果を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
実施例
以下の実施例によって本発明の態様及び実施形態を例示する。
実施例1
AAV rh.74の単離
【0036】
ユニークなAAV血清型を、線形ローリングサークル増幅(Linear Rolling Circle Amplification)と呼ばれる新規な技術を使用して、アカゲザルリンパ節から単離した。LRCAプロセスを使用して、二本鎖で環状のAAVゲノムを、数匹のアカゲザルから増幅した。前記方法は、phi29ファージDNAポリメラーゼ及びAAV特異的プライマーを用いて、等温ローリングサークル増幅によって、環状AAVゲノムを増幅する能力に基づいている。LRCA生成物は、環状AAVゲノムの隣接頭-尾配列であり、それから、全長AAV Rep-Cap分子クローンが単離された。4つの単離物の配列を決定し、Rep及びCap ORFsに関して予想されるアミノ酸配列をアラインし、既に公開されている血清型(表)と比較した。VP1タンパク質配列を分析し、NHP AAV同源系統群D、E、及びAAV 4様ウイルス単離物に対する相同性を明らかにした。Rep78(表の上部)ORFの分析から、AAV1に対する強い相同性(98~99%)が認められた。
【表1】
【0037】
1つのマカク組織標本(rh426-M)は、AAV8と93%の配列同一性を共有するrh.74と称される分岐AAV8様単離物を作製した。rh.74ゲノムのヌクレオチド配列は
図7に配列番号1で示してある。
【0038】
rh.74カプシド遺伝子配列を、AAV2由来のRep遺伝子を含有するAAVヘルパープラスミド中にクローンして、組換えAAVベクター作製のためのベクター複製機能を提供した。
実施例2
DMDモデル
DMDエクソン2重複のモデルとしては、例えば、以下のようなin vivo及びin vitroモデルが挙げられる。
mdxdup2マウスモデル
【0039】
Dmd座の中にエクソン2の重複を有するマウスを開発した。エクソン2重複突然変異は、最も一般的なヒト重複突然変異であり、比較的重篤なDMDを発症させる。
【0040】
最初に、White et al., Hum. Mutat.,27(9): 938-945(2006)により、11の異なるヒトエクソン2重複の最大範囲を、MLPA及びロングレンジPCRによって調べた。結果は
図10に示してある。
図10では、各縦棒は、MLPAプローブのおおよその位置を示している。陰影のついたカラムは、同定された2つのホットスポット領域を示しており;それらを用いて、マウスにおけるエクソン2カセットの相同性によって挿入物の位置を決定した。
【0041】
挿入ベクターの地図は
図11に示してある。地図では、数は、クローニング部位及びエクソン及び制限酵素認識部位の相対位置を示している。neoカセットは、遺伝子と同じ方向に存在し、挿入ポイントは、正確に、イントロン2の32207/32208bpである。挿入されたエクソン2の両側には少なくとも150bpの追加のイントロン配列が維持され、E2領域は1775~2195bpである。エクソン2及びイントロン2のサイズは、それぞれ62bp及び209572bpである。
【0042】
エクソン2構築物を有するベクターで雄のC57BL/6ES細胞に形質移入し、次いでPCRによって挿入を確認した。1つの良好なクローンを、12のアルビノBL/6胚盤胞で見出し、増幅し、そして注射した。注射された胚盤胞は、レシピエントマウス中に移植された。キメラ雄由来のジストロフィン遺伝子を、PCRによってチェックし、次いでRT-PCRによってチェックした。コロニーを増殖させた。コロニーはホモ接合性に増殖されたいくつかの雌のマウスを包含している。
【0043】
図1及び
図2は、4週齢のヘミ接合mdxdup2マウス由来の筋肉にはジストロフィン発現が実質的に無いことを証明している。(
図2で見られるように、発現の痕跡は、エクソン1特異的Manex1A抗体ではなくC末端抗体を用いて、検出することができ、我々が既に記載したエクソン6交互翻訳開始部位からの極めて少量の翻訳と一致している)
不死化された条件誘導性のfibroMyoD細胞株
【0044】
哺乳動物線維芽細胞におけるMyoD遺伝子の発現は、筋系譜への細胞の分化転換をもたらす。そのような細胞は、筋管に更に分化することができ、それらは、筋肉遺伝子、例えばDMD遺伝子を発現する。
【0045】
テトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下でMyoDを条件的に発現する不死化細胞株が生成した。これは、テトラサイクリン誘導性MyoDを、レンチウイルスの原発性線維芽細胞株に安定的に形質移入し、そしてヒトテロメラーゼ遺伝子(TER)を含有させることによって達成される。得られた安定株は、ドキシサイクリンによる処置によってMyoD発現を開始させることができる。そのような細胞株は、エクソン2の重複を有するDMD患者から作製された。
【0046】
前記の株を使用して、Dr. Steve Wilton (パース、オーストラリア)により提供された2’-O-メチルアンチセンスオリゴマー(AONs)を用いる二重スキッピング(duplication skipping)を示した。複数の細胞株を試験した。例示の細胞株からの結果は、
図3に示してある。
一過性MyoD形質移入初代細胞株
【0047】
アデノウイルス-MyoDを一過性形質移入された初代線維芽細胞株を用いて原理の証明実験を行った。アデノウイルス構築物は細胞ゲノムで集積されなかった、それでも、MyoDは一過性に発現された。得られたDMD発現は、エクソンスキッピング実験を行うのに十分であった(しかし再現性は安定的に形質移入された株の方が有利である)。
実施例3
エクソン2重複突然変異に関するU7snRNA媒介スキッピングの効果
【0048】
複製エクソンのウイルス媒介エクソンスキッピングのための生成物及び方法を開発した。前記の生成物及び方法は、Goyenvalle et al., Science,
306(5702): 1796-1799 (2004) またはGoyenvalle et al., Mol. Ther., 20(6): 179601799 (2004)に記載されているU7snRNA系に比べて改良された。
【0049】
U7snRNAは、所定の標的エクソンでのスプライシングを干渉するための標的アンチセンス配列を包含するように改良された(
図4)。詳しくは、4つの新しいエクソン2標的配列は、実施例2で説明したAON研究の結果に基づいて設計した。
U7B TCAAAAGAAAACATTCACAAAATGGGTA(配列番号:3)
U7Along GTTTTCTTTTGAAGATCTTCTCTTTCATcta(配列番号:4)
U7Ashort AGATCTTCTCTTTCATcta(配列番号:5)
U7C GCACAATTTTCTAAGGTAAGAAT(配列番号:6)
エクソン2標的配列を包含するU7snRNA構築物を作製した。各U7snRNA構築物は標的配列のうちの1つを包含していた。選択された他のエクソンを標的にしたU7snRNA構築物も(上記したMyoD-転化分化された細胞株研究に基づいて)作製した。次いで、U7snRNA構築物のうちの1つ以上を包含しているゲノムを有する自己相補的(SC)AAVベクターを作製した。
【0050】
細胞培養での実験のために、またDup2マウスでの筋肉内注射のために、rAAV1ベクターを利用した。HEK293細胞において、アデノウイルスを用いないトリプルプラスミドDNA形質移入(CaPO4沈殿)方法による、所望のベクターゲノムを含むプラスミドを使用する改良クロスパッケージングアプローチによって、所望のAAV血清型の組換えSC AAVベクターを作製した[Rabinowitz et al., J. Virol., 76:791-801 (2002)]。ベクターは、既に記載したものと同様な方式で、AAVヘルパープラスミド及びアデノウイルスヘルパープラスミドで共同形質移入することによって、作製した[Wang et al., Gene. Ther., 10:1528-1534 (2003)]。アデノウイルスヘルパープラスミド(pAdhelper)は、高力価rAAVを作製するのに必要なアデノウイルス5型E2A、E4ORF6、及びVA I/II RNA遺伝子を発現する。
【0051】
ベクターは、既に記載した線形NaCl塩勾配を用いて、連続イオジキサノール勾配精製及び陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって、浄化された293細胞溶解物から精製した[Clark et al., Hum. Gene Ther, 10:1031-1039 (1999)]。ベクターゲノム(vg)の力価は、既に記載したように、Prism 7500 Taqman検出器システム(PE Applied Biosystems)を利用している特定のプライマー/プローブセットによってQPCRに基づく検出を使用して、測定した。ベクターストックの力価は1~10 x 1012vg/mLであった。
【0052】
最初のエクソンスキッピング分析は、Dup2不死化ヒト線維筋芽細胞に形質導入するためのSC rAAVベクターを使用してRT-PCRによって行った。ドキシサイクリンの制御下で筋系細胞へと転化分化することができたDup 2不死化ヒト線維芽細胞を、テロメラーゼ発現ベクター及びテトラサイクリン誘導性-MyoD発現ベクターの両方で形質導入することにより、作製した。次いで、変換させたヒト線維筋芽細胞(FM)を、エクソン2アンチセンス配列を組み込んでいる異なるU7構築物を有するSC rAAVで形質導入した。
【0053】
3つの異なるアンチセンス配列を有するSC rAAV.1U7構築物に関するRT-PCRの結果は
図5に示してある。
図5において、「(4C)」は、U7構築物の4つのコピーがベクターゲノム中に包含されたことを示しており、「+」は、より高用量を示しており、「U7_ACCA A=Along」は、4つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物、ちなわち第一U7Along構築物、第一U7C構築物、第二U7C構築物及び第二U7Along構築物を順番に含むベクターゲノム(
図8のプラスミドマップに示してあり、その配列、すなわち配列番号2は、
図9に提示してある)を示している。図に示されているように、あらゆる他のベクター構築物と比較して、U7_ACCA A-Along SC rAAV(本明細書の他のところではU7_ACCA SC rAAV1と省略してある)は、より高いパーセンテージのエクソン2スキップを達成した。
【0054】
次の実験では、エクソンスキッピング効率をin vivoで分析した。最も効果的なAAV-U7ベクターであるU7_ACCA SC rAAV1は、Dup2マウスで筋肉内注射用に選択した。結果は、
図6(A~D)に示してあり、ここで、(A)は、ジストロフィン染色を示しており、そこでは、タンパク質発現は、回復され、多くの筋線維の膜に適当に限局され;(B)タンパク質の回復は、ウェスタンブロットによって確認された。RT-PCRは、(C)Dup2マウスにおける用量依存性のシングルスキッピングまたはダブルスキッピング、ならびに(D)野生型マウスにおける効率的スキッピングを示している。
【0055】
従って、高効率のAAV媒介U7snRNAは、エクソン2をスキップし、筋線維鞘下のジストロフィンを回復させるように設計した。心機能;EDL及び横隔膜力評価;そして踏み車及び握力試験を、未処置及び処置されたマウス間で比較する。注射された筋肉内で検出可能なジストロフィン発現の程度に基づいて、U7_ACCA SC rAAVを、更なる実験のために選択し、1E11 vg/kgでの第1コホートに静脈内に送達し、次いで第2コホートにおいて1対数高く投薬した。注射は4週間行い、動物を、上記したように、10及び24週において、生理学的アセスメントによって、また組織病理学によって評価した(1コホート当たり動物n=8)。
実施例4
AAV1によるU7-ACCAの筋肉内送達は、Dup2マウスにおいて有意なN短縮型ジストロフィン発現をもたらす。
【0056】
図9のゲノム挿入物を含むrAAV1は、実施例3記載の方法によって作製した。次いで、AAV.1U7-ACCAを、筋肉内注射によってDup2マウスに投与した。
【0057】
5e11vg AAV.1U7-ACCAのTA筋肉内注射の4週間後にDMD mRNAについて行ったRT-PCRは、Dup2動物におけるエクソン2の両方のコピーのほとんど完全なスキッピングを示した[
図12(a)]。
【0058】
感染1ヵ月後に行ったC末端の抗体(PA1-21011、ThermoScientific)を用いる免疫ブロット法は、Dup2及び対照Bl6マウスの両方でN短縮型イソホルム(星印)の有意な発現を示した[
図12(b)]。U7-ACCAを注射されたBl6雄で誘導されるタンパク質は、Dup2で処置された動物で発現されたものと同じ大きさであり、このタンパク質と全長イソホルムとの間の大きさの差を確認した。
【0059】
ジストロフィン、β-ジストログリカン、及びニューロン一酸化窒素合成酵素の免疫蛍光染色は、ジストロフィン関連複合体のメンバーの回復を示した[
図12(c)]。
【0060】
未処置のDup2動物における強縮性収縮後の正規化された単位面積当たりの力(normalized specific force)は、Bl6マウスに比べて、有意に小さかった。AAV1.U7-ACCAの単独またはプレドニゾン併用の筋肉内注射は、Bl6マウスで認められたものと有意な差がないレベルまで有意に力を増大させた。未処置Dup2マウスと、プレドニゾンを併用して処置されたマウス(Dup2+PDN)との間に有意差は観察されなかった[
図12(d)]。このアッセイのために、正規化された単位面積当たりの力を、公開されているプロトコル[Hakim et al., Journal of Applied Physiology, 110: 1656-1663 (2011)]を用いて評価した。
【0061】
処置は、公開されているプロトコル(Hakim et al.、前掲書)によって評価されるように、反復伸張性収縮後の力の喪失からDup2の筋肉を有意に保護した。AAV1.U7-ACCA単独でのDup2マウスの処置は、未処置のDup2マウスと比較して、統計的に有意な改善をもたらした。AAV1.U7-ACCAとプレドニゾンとの組み合わせは、収縮#3~#10後に、力保持において、対照Bl6マウスと比較して有意差はなかった[
図12(e)]。
実施例5
Dup2マウスモデルにおけるAAV9-U7_ACCAの静脈内注射は、N短縮型イソホルムの有意な発現と、筋力不足の矯正をもたらす。
【0062】
注射された筋肉内で検出可能なジストロフィン発現の程度に基づいて、我々は、更なる実験のために、静脈内にU7_ACCA SC rAAVを送達するように選択し、また、公知の組織内分布特性に基づいて血清型rAAV9を選択した。
【0063】
図9のゲノム挿入物を含むrAAV9は実施例3記載の方法で作製した。次いで、AAV.9U7-ACCAをDup2マウスに投与した。第1コホートには、3.3E112
vg/kgで尾静脈を介して注射した。注射は4週齢で行った。
【0064】
AAV9.U7-ACCA(3.3E12 vg/kg)の尾静脈注射1ヵ月後に、5匹の異なるDup2マウスの筋肉についてRT-PCRを行った[
図13(a)]。複数の転写物(標識されたDup2、wt、及びDel2)の存在によって証明されるように、U7-ACCAによる処置は、試験されたすべての筋肉においてエクソン2の1つまたは両方のコピーを強制的にスキップすることができた。(TA:前脛骨筋;Gas:腓腹筋;ハートマーク:心臓;Tri:三頭筋;dia:横隔膜)
【0065】
注射1ヵ月後に5つの異なる筋肉について行ったC末端抗体(PA1-21011、ThermoScientific)を用いるウェスタンブロットは、すべての試験された筋肉でジストロフィンの存在を示した[
図13(b)]。
【0066】
同じサンプルに関してジストロフィンのC末端抗体(PA1-21011、ThermoScientific)を使用する免疫染色では、筋細胞膜において、ジストロフィンの発現及びその適切な限局化が確認された[
図13(c)]。
【0067】
前肢と後肢両方の握力を評価することにより、AAV9.U7-ACCAで処置されたDup2動物では、握力が完全に矯正されていることが分かった[
図13(d)]。このアッセイは、公開されているプロトコル[Spurney, et al., Muscle & Nerve, 39, 591-602 (2009)]を使用して行った。
【0068】
強縮性収縮後の正規化された単位面積当たりの力及び全体の力は、公開されているプロトコル[Hakim et al.、前掲書]を用いて、未処置のDup2動物[
図13(e)]と比較すると、筋力において、改善を示した。
【0069】
心臓乳頭筋は、公開されているプロトコルを用いると、処置された動物[
図13(f)]では、筋長依存的な力生成において改善を示した[Janssen et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol., 289(6):H2373-2378 (2005)]。
【0070】
本発明を、特定の実施形態によって説明してきたが、当業者は、変更及び改良を考えるだろうことが理解される。而して、特許請求の範囲で見られる限定のみを本発明に設定するべきである。
【0071】
本出願で引用されるすべての文書は、前記文書が引用される内容に対する特別な注意をもって参照により本明細書に完全に組み込まれる。
本発明の実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
必要に応じてDMDエクソン2重複を有する患者のデュシェンヌ筋ジストロフィーを改善する方法であって、前記患者に対して組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を投与する工程を含み、ここで前記rAAVのゲノムが少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む、前記方法。
(項目2)
必要に応じてDMDエクソン2重複を有する患者のデュシェンヌ筋ジストロフィーと関連のあるジストロフィー症状の進行を阻害する方法であって、前記患者に対してrAAVを投与する工程を含み、ここで前記rAAVのゲノムが少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む、前記方法。
(項目3)
DMDエクソン2重複と関連のあるデュシェンヌ筋ジストロフィーに罹患している患者の筋肉機能を改善する方法であって、前記患者に対してrAAVを投与する工程を含み、ここで前記rAAVのゲノムが少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む、前記方法。
(項目4)
前記筋肉機能の改善が、筋力の改善である項目3記載の方法。
(項目5)
前記筋肉機能の改善が、立っている時と歩いている時の安定性の改善である項目3記載の方法。
(項目6)
前記ウイルスゲノムが、自己相補的ゲノムである項目1~5のいずれかに記載の方法。(項目7)
前記エクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物が、U7Along、U7Ashort、U7B、U7C、またはそれらの2種以上の組み合わせである項目1~6のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記組換えアデノ随伴ウイルスが、SC rAAV U7_ACCAである項目1~7のいずれかに記載の方法。
(項目9)
DMDエクソン2重複を有する患者に対してエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を送達する方法であって、前記患者に対してrAAVを投与する工程を含み、ここで前記rAAVのゲノムが少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含む、前記方法。
(項目10)
前記rAAVのゲノムが、AAV rep及びcap DNAを欠いている項目8記載の方法。
(項目11)
前記ウイルスゲノムが、自己相補的ゲノムである項目9記載の方法。
(項目12)
前記組換えアデノ随伴ウイルスが、SC rAAV U7_ACCAである項目9、10または11記載の方法。
(項目13)
前記組換えアデノ随伴ウイルスが、組換えAAV rh74ウイルス、組換えAAV6ウイルスまたは組換えAAV9ウイルスである項目12の方法。
(項目14)
少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含むゲノムを含む組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)。
(項目15)
AAV rh.74カプシド、AAV6カプシドまたはAAV9カプシド;及び少なくとも1つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物を含むゲノムを含む組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)。
(項目16)
前記ゲノムが、順番に、4つのエクソン2標的U7snRNAポリヌクレオチド構築物:第一U7Along、第一U7C、第二U7C、及び第二U7Alongを含む項目14または項目15記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)。
(項目17)
前記rAAVのゲノムが、AAV rep及びcap DNAを欠いている項目14、15、または16記載のrAAV。
(項目18)
前記ゲノムが、自己相補的ゲノムである項目14、15、または16記載のrAAV。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】